しかし、従来のハイブリッド車両では、電動機を利用した制動につき、以下に示す種々の課題があった。
第1に運転者が減速量を設定可能な範囲については何ら検討されていなかった。つまり、ハイブリッド車両がより安定して走行するために、いかなる範囲で減速量の設定を可能とすべきかという点については何ら検討されていなかった。
第2に電動機の回生負荷が変更可能な範囲で減速量を設定することができるに過ぎなかった。このため、使用者の意図する減速量を十分に得ることができない場合があった。特に車両が高速で走行中に減速量が不足する傾向にあった。
第3に電動機の回生制動を行うことができる運転状態は比較的限られていた。例えば、蓄電手段が満充電に近い状態にある場合には、それ以上の充電を行うことができないから、回生制動をすることができなかった。このため、かかる状況下では、ペダルの踏み換えをすることなく制動することができる等という動力源によるブレーキの利点を十分に活用できなかった。
不足する減速量を補うために、ホイールブレーキを利用すれば、ペダルの踏み換えなく制動を行うことができるという動力源ブレーキの利点を損ねることになる。また、ホイールブレーキを使用すれば、車両の運動エネルギは熱エネルギとして消費されるから、エネルギの有効利用というハイブリッド車両の利点を損ねることにもなる。
従来のハイブリッド車両でもシフトレバーを操作して変速機の変速比を変更すれば、大きな減速量を得ることが可能ではあった。しかしながら、かかる場合には、シフトレバーの操作に伴って減速量が大きく変化するため、乗り心地が悪くなるという課題があった。
第4に使用者が減速量を設定するための操作機構については何ら検討されていなかった。回生制動を有効に使うためには、使用者が容易に任意の減速量を設定できることが望ましい。所望の減速量は車両の走行状態に応じて頻繁に変わるものであるから、設定が容易に変更できることが望ましい。その一方で、使用者が意図しない減速量の変動は避けることが望ましい。使用者が減速量を設定するための操作機構につき、これらの条件を考慮した操作機構は提案されていなかった。
第5にシフトレバーの操作による変速比の切り替えと、減速量の指示の2つの操作に対応して、各変速比における減速量の設定をどのように変更すべきかという点については何ら検討されていなかった。アクセルペダルとブレーキペダルとの踏み換えを行うことなく制動することができるという動力源ブレーキの利点を十分に活かし、ハイブリッド車両の操作性を向上するためには、運転者の感覚に沿った減速量を実現する必要がある。かかる観点から、運転者による減速量の指示等に応じて各変速比での減速量の設定をいかに変更すべきかという点について検討された例はなかった。このため、従来のハイブリッド車両では、動力源ブレーキの有用性をさらに向上可能な余地が残されていた。
第6に運転者がシフトレバーを操作して変速比の使用範囲の切り替えを行った場合には、エネルギ回収量が低下するという課題があった。変速機を備えるハイブリッド車両では、運転者は、より大きな減速量を得るとともに、制動後に速やかに加速することを意図してシフトレバーを操作し、変速比が大きい側の変速段が使用されるシフトポジションを選択することがある。言い換えれば、変速比が小さい側の変速段の使用を禁止するシフトポジションを選択することがある。従来のハイブリッド車両では、かかる場合に電動機の回生量が低減し、車両の運動エネルギを電力として十分に回生できなくなるという課題があった。
一方、車両のエネルギ回収量を増大すべく、変速比が小さい側の変速段が使用可能なシフトポジションで制動を行えば、車軸にかけられる減速量と動力源の制動トルクとの比が小さくなるから、運転者が意図した大きな減速量で動力源ブレーキによる制動を行うことができなくなる。運転者は十分な減速量を得るために、ホイールブレーキを使うことになり、やはりエネルギ回収量が低下する。また、かかるシフトポジションで走行すれば、制動後に運転者が意図した速やかな加速を行うこともできなくなり、車両の操作性が大きく損なわれる。
以上で説明した種々の課題は、エンジンと電動機とを動力源とするハイブリッド車両のみならず、電動機のみを動力源とする車両にも共通の課題であった。また、エンジンと電動機とを搭載するものの、走行時にはエンジンのみを動力源として使用し、電動機は回生制動などの目的で備えられているタイプの車両にも共通の課題であった。
本発明は、車両の運転状態に応じて、電動機を利用して、より適切な減速を実現する車両およびその制御方法を提供することを目的とする。また、電動機を利用した制動による減速量を、使用者の指示に応じて幅広い範囲で滑らかに調整可能な車両およびかかる制動を実現するための制御方法を提供することを目的とする。
本発明の第1の車両は、電動機と、動力伝達時の変速比を複数選択可能な変速機と、駆動軸とを結合し、前記電動機のトルクによって制動可能な車両であって、
該車両の運転者が前記電動機による制動時の減速量を指示するための操作部と、
該操作部の操作に応じて目標減速量を設定する目標減速量設定手段と、
該設定された目標減速量を前記電動機のトルクで実現可能となる目標変速比を選択する選択手段と、
前記設定された目標減速量を実現する制動力を前記駆動軸に付与するための前記電動機の目標運転状態を設定する電動機運転状態設定手段と、
前記変速機を制御して前記変速比を実現するとともに、前記電動機を前記目標運転状態で運転する制御手段とを備えることを要旨とする。
電動機の目標運転状態は、目標トルク、電動機で回生される電力、電動機に流れる電流値など、運転状態に関与する種々のパラメータを用いて特定することができる。
かかる車両によれば、上記選択手段によって、運転者が指示した減速量および電動機のトルクの大きさ応じた適切な変速比を実現することができる。また、かかる変速比の下で電動機の運転状態を制御することにより、運転者が指示した減速量を実現することができる。本発明の第1の車両によれば、変速機と電動機の双方をこのように統合的に制御することにより、幅広い範囲で運転者の指示に応じた制動を行うことが可能となる。
電動機のトルクを利用した制動は、アクセルペダルの踏み込みを緩めたときに働くのが通常である。かかる場合に運転者の意図に沿った十分な減速量が得られない場合には、運転者はブレーキペダルを踏み込み、ホイールブレーキを効かせて減速量を増す必要が生じる。この際、アクセルペダルからブレーキペダルへの踏み換えが必要となる。また、減速した後、再び加速する際にもブレーキペダルからアクセルペダルへの再度の踏み換えが必要となる。かかる踏み換えは車両の操作性を損ねることになる。
これに対して、本発明の第1の車両では、上述の通り、電動機による制動を幅広い減速量で実現することができる。従って、アクセルペダルの踏み込みを緩めた場合に、運転者の意図にほぼ沿った減速量を得ることが可能となる。従って、運転者はアクセルペダルとブレーキペダルとの踏み換えをすることなく車両の制動および減速後の加速を行うことができる。従って、本発明の第1の車両によれば、車両の操作性を大きく向上することができる。
また、本発明の第1の車両はエネルギ効率の観点でも以下の利点がある。一般にホイールブレーキは、駆動軸とパッドとの摩擦によって車両の運動エネルギを熱エネルギとして外部に捨てることで制動を行うものであるから、エネルギ効率の観点から好ましくない。これに対し、電動機による回生制動は車両の運動エネルギを電力として回生することができるため、該エネルギを以後の走行に有効活用することができる。本発明の第1の車両によれば、電動機による回生制動を幅広く行うことが可能であるため、車両のエネルギ効率が向上するという利点がある。
ここで、本明細書における減速量の意味について説明する。減速量とは、車両の減速に関与するパラメータを意味する。例えば、減速度、即ち単位時間当たりの車速の減少量や制動力が含まれる。
ここで、本明細書にいう車両には、種々の型の車両が含まれる。第1に電動機のみを動力源とする車両、いわゆる純粋な電気自動車である。第2にエンジンと電動機の双方を動力源とするハイブリッド車両である。ハイブリッド車両には、エンジンからの動力を直接駆動軸に伝達可能ないパラレルハイブリッド車両と、エンジンからの動力は発電にのみ使用され駆動軸には直接伝達されないシリーズハイブリッド車両とがある。本発明は、双方のハイブリッド車両に適用可能である。また、電動機を含めて3つ以上の発動機を動力源とするものにも適用可能であることは言うまでもない。第3に走行時にはエンジンを動力源として使用するものの、回生制動用の電動機を搭載した車両である。
本発明の車両は、電動機以外にも制動トルクを付与し得る制動力源を備えるものであっても構わない。電動機のみを制動力源とする場合、前記電動機運転状態設定手段は、所望の減速量の全てを電動機で与えるようにそのトルクを設定する。一般には負のトルクとなり、電動機はいわゆる回生運転となる。電動機を含む複数の制動力源を備える場合、電動機運転状態設定手段は、電動機以外の制動力源による減速量を考慮した上で電動機によるトルクを設定する。かかる場合には、他の制動力源による減速量を所定の値として扱ってもよいし、全体の減速量が所定の値になるように電動機のトルクをいわゆるフィードバック制御するものとしてもよい。
本発明は種々の型の車両に適用可能であるが、特に、
前記駆動軸に制動トルクを付与可能な結合状態でエンジンを備え、
前記選択手段は、前記電動機およびエンジンのトルクに基づいて前記目標変速比を選択する手段であり、
前記電動機運転状態設定手段は、前記エンジンによる制動トルクを考慮して前記電動機の運転状態を設定する手段である車両に適用することが好ましい。電動機を走行時にも使用可能な車両、即ちハイブリッド車両として構成してもよいし、電動機を回生制動など走行以外の目的にのみ利用する車両として構成してもよい。
例えば、ハイブリッド車両では、エンジンの補助的な動力源として電動機が備えられることが通常である。電動機は、例えば、発進時および低速走行時に使用されたり、エンジンのトルクが不足する時にトルクを補助する目的で使用されたりする。パラレルハイブリッド車両では、かかる目的に適した出力定格が比較的低い小型の電動機が備えられることが多く、電動機のみでは、運転者の意図する回生制動を十分に行う能力を有していない場合が多い。
電動機を走行時には利用せず、回生制動などの目的に利用するタイプの車両でも、比較的小型の電動機が備えられることが多い点では、ハイブリッド車両と同様である。本発明は、変速機と電動機とを制御することにより幅広い範囲での制動を実現するものであるから、このように限られた定格の電動機を備えることが多いタイプの車両に対して特に有用性が高い。
本発明の第1の車両において、前記目標変速比は種々の方法により選択可能である。
例えば、
前記目標減速量と前記目標変速比との関係を記憶する記憶手段を備え、
前記選択手段は、該記憶手段を参照して前記目標変速比を選択する手段であるものとすることができる。
こうすれば、目標減速量と変速比との関係を車両の構成、変速機により実現可能な変速比の範囲、電動機の出力定格等を考慮して柔軟に設定可能となる。また、制動時に変速比を選択するための処理が容易になるため、処理の負担を軽減することができる。
目標減速量と変速比との関係は、予め実験または解析によって種々の態様で設定可能である。例えば、目標減速量に対して変速比が一義的に定まるように設定しておくこともできるし、複数の変速比を割り当てるように設定することもできる。後者の一例として、目標減速量に対して2つの変速比を割り当てる設定としておけば、車両の走行状態など減速量以外の種々の条件をも考慮してより適した変速比を選択することが可能となる利点がある。
前記変速比と減速量との関係のうち、前記車両のそれぞれの走行状態で使用される最小の変速比と減速量との関係を、運転者の指示に応じて変更するものとしてもよい。定常走行は、最も小さい変速比でなされることが多いから、運転者が減速量の設定の変更を行うときは、定常走行時における減速量の変更、即ち最も小さい変速比における減速量の変更を意図しているのが通常である。従って、最小の変速比における減速量の設定のみを変更するものとしておけば、運転者の操作に応じた減速量を実現するための制御処理を簡易な構成とすることができる。使用される変速比の範囲が走行状態に応じて変更される場合には、それぞれの走行状態で使用可能な変速比のうち最小の変速比における減速量の設定を変更すればよい。
最小の変速比における減速量の設定のみを変更するだけでなく、前記車両のそれぞれの走行状態で使用される全ての変速比における減速量を変更するものとしてもよい。走行状態に応じて使用される変速比の範囲が変更される場合、ある変速比における減速量の設定は該範囲の変更に応じて異なってもよい。例えば、第1速から第5速までを使用して走行する場合の第3速における減速量と、第1速から第3速までを使用して走行する場合の第3速における減速量とは異なっていても構わない。
最小の変速比における減速量のみを変更する態様と、全ての変速比における減速量を変更する態様とを組み合わせて適用するものとしても構わない。例えば、第1速から第5速までを使用して走行する場合には、最小の変速比である第5速における減速量の設定のみを変更し、第1速から第3速までを使用して走行する場合には、全ての変速比における減速量の設定を変更するものとしてもよい。
走行中に使用される変速比の範囲を運転者が変更可能なシフト機構を備えれば、シフト機構の選択に応じて運転者の感覚に沿った減速量を実現できる。さらに、運転者が手動で変速比を変更可能とするモードを備えてもよい。手動での変速比の切り替えを行う場合、車両の制動および加速も柔軟に行うことが望まれることが多いから、変速比が自動的に制御される場合よりも大きな減速量に変更するものとしてもよい。
本発明の第1の車両において、運転者が前記電動機による制動時の減速量を指示するための操作部は種々の構成が可能である。
例えば、
該車両が該車両の運転者が所定の操作によって、前記目標変速比として選択可能な変速比の範囲を切り替えるための切替部を有している場合には、前記操作部は、該切替部に対して前記切り替え時と異なる所定の操作を行うことで前記減速量を指示可能とした機構であるものとすることができる。
こうすることにより、車両のスイッチ等を不要に増やすことなく、目標減速量の設定が可能となる。また、前記切替部は運転者にとって比較的操作しやすい場所に設けられているのが通常であるから、上述の構成によれば、減速量を設定する際の操作性に優れた操作部を提供することができる。さらに、従来から備えられている切替部と共通の操作部とすることによって、運転者が違和感なく減速量を設定することができる利点もある。
選択可能な変速比の範囲を切り替える切替部と、減速量を設定する操作部とを共通にする構成には、次の利点もある。本発明の第1の車両は変速機の変速比と電動機の回生制動の双方を制御することにより幅広い減速量での制動を実現することを特徴とする。切替部と操作部とを別の機構として構成した場合、切替部の操作によって選択された変速比の範囲では設定された目標減速量を実現し得なくなる可能性もある。上記車両では、切替部と操作部とを共通の機構とすることによって、このように相容れない指示がなされることを容易に回避することができ、より適切な制動を実現することができる利点がある。
なお、上記切替部としては、例えば通常の自動変速装置を搭載した車両に用いられているシフトレバーを適用することができる。この場合、操作部としては、例えば、ギヤの範囲を切り替えるための可動範囲とは異なる可動範囲でシフトレバーを操作可能とした構成を採ることができる。より具体的には、所定の溝に沿って前後にスライドすることによってギヤの範囲を切り替え可能なシフトレバーを切替部として用いる場合に、この溝と平行に設けられた第2の溝に沿って前後にスライドすることによって減速量を設定する機構を操作部とすることができる。また、シフトレバーをスライドするための溝を後方に延長し、この延長部分でシフトレバーをスライドすることによって減速量を設定する機構を操作部とすることもできる。この他、減速量を設定する際には、シフトレバーに設けられた所定のスイッチを押した状態でスライドするものとしたり、シフトレバーを上に引き上げた状態または下に押し込んだ状態でスライドするものとしてもよい。
近年では、自動変速装置を搭載した車両において、切替部をステアリングに設けたものもある。一例としては、ステアリングに設けられた第1のスイッチを押すことにより自動変速装置で使用するギヤの範囲が広くなり、第2のスイッチを押すことにより範囲が狭くなるものがある。本発明の操作部としてかかる切替部を利用するものとしてもよい。例えば、第1のスイッチを押すことにより減速量が増し、第2のスイッチを押すことにより減速量が低減するものとすることができる。切替部をステアリングに設けた車両では、前述のシフトレバーをも備えているのが通常である。従って、第1および第2のスイッチは、シフトレバーが目標減速量の設定を行うための所定の位置にある場合には減速量を設定するためのスイッチとして機能し、その他の場合には自動変速装置で使用するギヤの範囲を切り替えるスイッチとして機能するようにすることもできる。このようにステアリングに設けられたスイッチを利用すれば、運転中にステアリングから手を離すことなく迅速かつ減速量を設定することができる利点がある。
上述の態様も含め、第1の車両における操作部は、予め設けられたスライド溝にそってレバーをスライドさせることによって前記減速量を指示可能な機構とすることができる。この際、操作部は、該レバーのスライドによって減速量の設定を連続的に変化させ得る機構であるものとすることができる。さらに、操作部は、前記車両の走行中に選択可能な変速比の範囲を表すシフトポジションを入力するための機構と共通の機構とすることができる。シフトポジションを入力するための機構とは別に減速量を設定するためのレバーを設けるものとしてもよい。
そして、操作部は、車両の走行中に前記レバーをスライドさせるためのスライド溝と、前記減速量を指示する際に前記レバーをスライドさせるためのスライド溝とを直列的に設けることもできる。この場合において、操作部は、車両の走行中における前記レバーの可動範囲から遠い程、前記減速量が大きくなる機構とすることができる。一方、操作部は、車両の走行中に前記レバーをスライドさせるためのスライド溝と、前記減速量を指示する際に前記レバーをスライドさせるためのスライド溝とが並列的に設けられた機構とすることもできる。
本発明の第1の車両において、目標減速量は種々の態様により設定可能である。
第1の態様として、
前記目標減速量設定手段は、
前記操作部の操作回数を検出する検出手段と、
該操作回数に応じて前記目標減速量を段階的に設定する手段とを備える手段であるものとすることができる。
かかる態様で目標減速量を設定するものとすれば、節度感のある設定が可能となる。また、目標減速量が段階的に変化するため、比較的短時間の操作で幅広く目標減速量を変更することができ、操作性に優れるという利点もある。
第2の態様として、
前記目標減速量設定手段は、
前記操作部の操作時間を検出する検出手段と、
該操作時間に応じて前記目標減速量を設定する手段とを備える手段であるものとすることができる。
第2の態様では、操作時間に応じて目標減速量が段階的に変化するものとしてもよいし、連続的に変化するものとしてもよい。後者の場合には、目標減速量が操作時間に比例して変化するものとしてもよいし、操作時間に対して非線形に変化するものとしてもよい。例えば、操作を始めた当初は比較的緩やかに目標減速量が変化し、所定時間経過後は速やかに目標減速量が変化するものとしてもよい。
第2の態様の目標減速量設定手段によれば、いずれの場合においても一の操作で目標減速量を設定することができるため、操作性に優れるという利点がある。また、目標減速量を操作時間に応じて連続的に変化させるものとすれば、運転者の意図に応じて目標減速量を緻密に設定可能となる利点もある。
第3の態様として、
前記目標減速量設定手段は、
前記操作部の操作量を検出する検出手段と、
該操作量に応じて前記目標減速量を設定する手段とを備える手段であるものとすることができる。
第3の態様においても操作量に対して目標減速量が段階的に変化するものとしてもよいし、連続的に変化するものとしてもよい。いずれの場合においても第3の態様の目標減速量設定手段によれば、操作と減速量との関係を直感的に認識し易いという利点がある。なお、上述の第1ないし第3の態様は、単独で適用する場合のみならず、組み合わせて適用するものとしてもよいことは言うまでもない。
本発明の第1の車両においては、
さらに、該車両の運転者が所定の操作により、前記指示された減速量での制動の実行を指示するためのスイッチと、
前記スイッチにより前記制動の実行が指示されている場合にのみ前記目標減速量設定手段、選択手段、電動機運転状態設定手段および制御手段の全ての動作を許可する許可手段とを備えるものとすることが望ましい。
かかる車両によれば、上記スイッチの操作により、指示された減速量、即ち設定された目標減速量での制動のオン・オフを切り替えることができる。スイッチがオンとなっている場合には、運転者が指示した減速量での制動が実行される。スイッチがオフとなっている場合には、減速量の指示に関わらず予め定められた減速量での制動が行われる。こうすることにより、運転者は自己の設定に応じた減速量での制動が行われることを明確に意識することができ、動力源による制動に違和感を感じることなく運転を行うことができる。
この場合、前記スイッチは種々の構成が可能であり、
例えば、該車両の運転者が所定の操作によって、前記目標変速比として選択可能な変速比の範囲を切り替えるための切替部を有している車両では、
前記スイッチは、該切替部に対し前記切り替え時とは異なる操作を行うことにより前記指示を可能とした機構であるものとすることができる。
こうすることにより、車両のスイッチ等を不要に増やすことなく、上記オン・オフの指示を行うことができる。また、前記切替部は運転者にとって比較的操作しやすい場所に設けられているのが通常であるから、上述の構成は、かかるスイッチのオン・オフの操作性に優れているという利点もある。さらに、従来から備えられている切替部と共通の操作部とすることによって、スイッチの操作に対する運転者の違和感を低減することができる利点もある。
なお、上記切替部としてシフトレバーを適用する場合、例えば、ギヤの範囲を切り替えるための可動範囲とは異なる可動範囲でシフトレバーを操作することにより上記スイッチのオン・オフを行うものとすることができる。より具体的には、所定の溝に沿って前後にスライドすることによってギヤの範囲を切り替え可能なシフトレバーを用いる場合に、この溝に交差する方向にシフトレバーを動かすことによってスイッチのオン・オフを行うものとすることができる。また、先に説明した減速量を設定する操作部と共通の構成とすることも可能である。つまり、シフトレバーを前述の操作部として機能する位置に移動させることにより上記スイッチがオンとなるものとしてもよい。こうすれば、目標減速量の設定とともに、より違和感の低い、操作性に優れたスイッチを実現することができる。
本発明の第1の車両において、
前記目標減速量設定手段は、
前記操作部の操作が有効か無効かを判定する判定手段と、
操作が無効と判定された場合には、前記目標減速量の設定の変更を禁止する禁止手段とを備える手段であるものとすることも望ましい。
かかる車両によれば、運転者の誤操作により目標減速量の設定が変更されることを回避できる。従って、運転者の意図に反した制動が行われることを回避でき、本発明の第1の車両の操作性および走行安定性をより向上することができる。なお、かかる禁止手段は、運転者が意図せずに触れる可能性が高い部分、例えばステアリングなどに減速量の設定を変更するための操作部が設けられている場合に特に有効性が高い。
かかる禁止手段は種々の構成が可能であり、
例えば、前記操作部が、前記減速量の増加の指示と、低減の指示とを同時に行い得る機構である場合には、
前記判定手段は、前記増加の指示と低減の指示とが同時に行われた場合には、操作部の操作を無効と判定する手段であるものとすることができる。
その他、前記指示された減速量での制動の実行を指示するためのスイッチを備える車両においては、該スイッチがオフとなっている場合には、操作部の操作を無効と判定する手段とすることも可能である。
本発明の第1の車両において、前記操作部は減速量を絶対値で与えるものとすることも可能であるが、
前記操作部は前記減速量の増減を指示する機構であり、
前記目標減速量設定手段は、所定の初期減速量を基準として前記操作部の操作に応じて減速量を増減することによって、前記目標減速量を設定する手段であるものとすることが望ましい。
かかる構成によれば、運転者が初期減速量からの過不足で減速量を調整することができ、適切な目標減速量を設定しやすい利点がある。絶対値で減速量を与える場合には、運転者が設定当初から適切な数値を選択するのは困難であり、減速量が極端に低くなったり高くなったりする可能性がある。これに対し、初期減速量からの過不足で減速量を調整する場合には、減速量が運転者の意図に反して極端に低くなったり高くなったりすることを回避することができる。
この場合において、前記初期値は種々の設定が可能であるが、
さらに、該車両の運転者が所定の操作により、前記指示された減速量での制動の実行を指示するためのスイッチと、
前記制動の実行が指示されている場合には、前記目標減速量設定手段、選択手段、電動機運転状態設定手段および制御手段の全ての動作を許可する許可手段と、
前記制動の実行が指示されていない場合には、操作部の操作に関わらず所定の減速量での制動を行う通常制動手段とを備える場合には、
前記初期減速量は、前記通常制動手段による減速量であるものとすることができる。
こうすれば、通常制動時の減速量を基準として運転者が減速量を設定することができる。従って、設定値と現実の減速量との関係を感覚的に把握しやすく、適切な減速量を設定しやすいという利点がある。また、上述のスイッチの操作により前記指示された減速量での制動がオンとなった時点では、初期値、即ち通常走行時と同じ減速量が得られているから、該スイッチのオン・オフに際してショック等が生じることを抑制できる。この結果、上述の車両によれば、前記指示された減速量での制動のオン・オフを、運転者および乗員の双方にとって違和感なく行うことができ、滑らかな運転を実現することができる。
さらに、上述の車両によれば、常に上記スイッチをオン、つまり設定された目標減速量での制動をオンにした状態で走行することも可能である。初期の減速量が通常制動時の減速量と同等であるため、スイッチをオンにしたままでも、違和感なく運転することができる。この結果、運転者が減速量を調整する必要を感じた場合には、前記スイッチをオンにする操作を介することなく迅速に減速量を調整可能となる利点もある。
一方、同様の構成を備える車両において、
前記初期減速量は、前記通常制動手段による減速量よりも有意に大きい減速量であるものとすることもできる。
一般に運転者は、通常制動時の減速量が不足している場合に、減速量を調整する必要を感じることが多い。従って、初期減速量を通常制動時の減速量よりも有意に大きい値に設定しておけば、運転者が望む減速量をより迅速に得ることができる。なお、どの程度大きい値に設定するかは、車種に応じて実験等に基づき適切な値を予め設定するものとしてもよいし、運転者が所定の操作により自己の感覚に適した値を設定可能としてもよい。
所定の初期値を基準として目標減速量を設定する場合には、
前記目標減速量設定手段は、
前記目標減速量を解除するか否かを判定する解除判定手段と、
前記解除を行うべきと判定された場合に前記目標減速量を前記初期値に戻す設定解除手段とを備える手段であるものとすることが好ましい。
かかる車両によれば、前記解除手段により、目標減速量の設定を容易に初期値に戻すことができる。例えば、運転者が目標減速量を設定するための操作を繰り返し実行し、現在の設定が不明になった場合には、初期値を基準として改めて目標減速量を設定し直すことができる。また、目標減速量が初期値から大きく離れた値に設定された場合に、迅速かつ容易に初期値に戻すことができるため、操作性に優れるという利点もある。
解除判定手段は種々の構成が可能である。
例えば、車両が所定の操作により前記指示された減速量での制動の実行を指示するためのスイッチを備える場合には、
前記解除判定手段は、前記スイッチが操作された場合に前記解除を行うべきと判定する手段であるものとすることができる。
スイッチがオンからオフに操作された場合に解除するものとしてもよいし、オフからオンに操作された場合に解除するものとしてもよい。
一旦目標減速量を設定した後、長時間経過した場合には、運転者が前回の設定結果を忘れている場合が多い。かかる状況下で前記スイッチがオンとなって設定された目標減速量での制動が実施されると運転者が予期しない減速量で制動される可能性がある。上述の解除手段を有するものとすれば、前記スイッチがオンになった瞬間には、必ず目標減速量が初期値に設定されている。従って、運転者の意図に反した制動がなされることを回避でき、違和感がなく走行安定性に優れた運転を実現することができる。
また、
該車両が前記操作部の故障を検出する故障検出手段を備える場合には、
前記解除判定手段は、該故障が検出された場合に前記解除を行うべきと判定する手段であるものとすることができる。
故障時に目標減速量の設定を有効にすれば、極端に高い減速量または低い減速量が目標減速量として設定される可能性がある。上述の車両によれば、かかる可能性を回避することができ、違和感がなく走行安定性に優れた運転を実現することができる。
本発明の第1の車両においては、
前記選択手段は、所定の初期値を優先して前記目標変速比を選択する手段であるものとしてもよい。
運転者の要求に見合う減速量を実現する変速比が多数存在することもある。上述の車両によれば、所定の初期値を優先して変速比を設定する。かかる初期値は種々の設定が可能である。例えば、制動後の加速に適した変速比を初期値としてもよい。また、幅広く実用的な減速量が得られる変速比を初期値としてもよい。上記構成によれば、それぞれの初期値の設定に応じた特性を車両に与えることができ、より操作性や乗り心地等に優れた車両を実現することができる。運転者が設定する目標減速量には幅があることが多いことに鑑み、最低限確保したい減速量を目標減速量として設定する態様を採っている場合には、目標減速量を実現する変速比が多数存在することが多いため、所定の初期値を優先して変速比を設定する態様が特に有効となる。
前記初期値の一例として、
該車両が、所定の操作により前記指示された減速量での制動のオン・オフを指示するためのスイッチを備える場合には、
前記初期値は、前記スイッチにより前記制動の実行が指示される直前の変速比であるものとすることができる。
こうすれば、前記スイッチにより前記制動の実行が指示される直前の変速比を初期値として制御が行われるため、スイッチのオンに伴う変速機の変速比の変更を回避することができる。この結果、設定された目標減速量での制動を違和感なく行うことができる。
本発明の第1の車両においては、
前記設定された目標減速量を報知する報知手段を備えるものとすることが望ましい。
かかる報知手段としては、目標減速量を視認可能に表示する手段を採用してもよいし、音声で知らせる手段を採用してもよい。また、目標減速量の絶対値を報知するものとしてもよいし、所定の初期値からの変動値を報知するものとしてもよい。
また、
該車両が、所定の操作により前記指示された減速量での制動の実行を指示するためのスイッチを備える場合には、
前記指示された減速量での制動を行うか否かの指示結果を報知する報知手段を備えるものとすることが望ましい。
こうすれば、運転者が前記スイッチのオン・オフを容易に確認することができるため、誤操作を抑制することができる。かかる報知手段は、表示による手段であっても音声で知らせる手段であってもよい。
本発明の第1の車両においては、
前記操作部の故障を検出する故障検出手段と、
該故障が検出されたことを報知する報知手段とを備えるものとすることもできる。
かかる車両によれば、運転者が容易に故障の確認をすることができる。従って、操作部が故障した場合でも違和感なく運転を行うことができる。報知手段は、表示や音声など種々の態様を採ることができる。例えば、設定された減速量を表示する手段を備えている車両においては、点滅させるなど、通常の態様とは異なる態様で表示を行うものとしてもよい。
本発明の第1の車両は、さらに次の態様で構成することもできる。
前記車両の走行中に選択可能な変速比の範囲を表すシフトポジションを入力するシフトポジション入力手段と、
前記シフトポジションに応じて車両の減速量を予め記憶する記憶手段と、
前記目標減速量設定手段は、該記憶手段を参照して、前記操作部の操作および前記指示に応じた目標減速量を設定するユニットであり、
前記選択手段は、該目標減速量を実現可能な変速比を、前記シフトポジションに関わらず、制動時におけるエネルギ回収量を優先して選択するユニットとする態様である。
かかる車両では、変速機の変速比のうち、制動時に使用する変速比は、運転者がシフト入力手段により指示した範囲に関わらずエネルギ回収量を優先して設定される。つまり、エネルギ回収量の観点から有利な変速比が、運転者が指示した範囲外に存在する場合、上記発明の車両では、その変速比を用いて制動を行うことができる。従って、制動時における車両のエネルギ回収量を増大することができる。なお、エネルギ回収量とは、車両の運動エネルギを前記電動機により回生する効率をいう。
しかも、本発明の車両によれば、変速比の範囲に応じて予め設定された減速量を実現することができる。つまり、運転者が変速比の範囲を指示することによって意図した減速量で制動が行われる。また、車両の走行中には変速機の変速比は運転者が指示した範囲に制限されるため、制動後は運転者が意図した加速度で速やかな加速が可能となる。
このように本発明の車両によれば、選択可能な変速比の範囲に関する指示を外して制動時の変速比を選択可能とすることにより、運転者の意図に合った加減速を実現しつつ、車両のエネルギ回収量を増大することができる。この結果、動力源ブレーキの有用性を向上し、車両の操作性を向上することができる。
エネルギ回収量を優先して変速比を選択する態様においては、
さらに蓄電手段と、
該蓄電手段の残容量を検出する検出手段を備え、
前記選択手段は、該蓄電手段の残容量に応じて前記変速比を選択するユニットとすることができる。
つまり、蓄電手段の残容量が比較的少ない場合には、車両の運動エネルギを電力として回生する量が多くなる変速比を選択し、蓄電手段の残容量が比較的多い場合には、回生量が少なくなる変速比を選択するものとすることができる。こうすれば、蓄電手段の残容量を適正な状態に維持しやすくなるという利点がある。このようにエネルギ回収量を優先した変速比の選択とは、必ずしも回生量が最も多くなる変速比を選択することを意味しない。車両の走行状態に応じて、適切な量のエネルギを回生可能な変速比を選択することを意味する。
また、前記選択手段は、制動からその他の走行状態への移行時において前記車両の動力源の運転状態の極端な変動を回避可能な範囲内で前記変速比を選択するユニットとすることもできる。
かかる車両では、エネルギ回収量を優先して変速比を選択するものの、選択可能な変速比の範囲は、無制限ではなく、所定の範囲に限られる。運転者が変速比の範囲を指示した場合、制動後はその範囲内の変速比で運転が行われる。従って、指示された変速比の範囲を大きく外れた変速比で制動が行われると、制動からその他の走行状態への移行時に変速機の変速比が大きく変更される。その変更に伴って動力源の運転状態も大きく変動する。かかる変動が極端に大きい場合には、車両に看過し得ない振動を生じたり、動力源の運転状態が不安定になるなどの弊害が生じる。上記車両では、かかる変動を考慮して設定された範囲内で変速比を選択することにより、制動からその他の走行状態への移行時における種々の弊害の発生を抑制することができる。
さらに、
前記変速機は、段階的に設定された複数の変速比を実現可能な変速機であり、
前記選択手段は、前記シフトポジションに対応した変速比の範囲を1段階外れる範囲まで許容して前記変速比を選択する手段であるものとすることもできる。
かかる車両によれば、制動からその他の走行状態に移行する際の変速機の制御が容易になる利点がある。先に説明した通り、運転者が変速比の範囲を指示した場合、制動後はその範囲内の変速比で運転が行われる。従って、指示された変速比の範囲から数段階離れた変速比で制動が行われると、制動からその他の走行状態への移行時に変速機の変速比を多段階に亘って変更する必要が生じる。かかる変更を実現する制御は複雑なものになりがちである。また、変速段の切り替えに長時間を要することもある。上記車両によれば、選択された変速比は指示された変速比の範囲から2段階以上外れることがないため、かかる複雑な制御を回避することができるとともに、変速段の速やかな切り替えを実現可能となる。
本発明の第2の車両は、
電動機のトルクを用いて制動可能な車両であって、
該車両の運転者が前記電動機を利用した制動時における減速量を指示するための操作部と、
該操作部の操作に応じて目標減速量を設定する目標減速量設定手段と、
前記設定された目標減速量を実現する制動力を前記駆動軸に付与するための前記電動機の目標運転状態を設定する電動機運転状態設定手段と、
前記電動機を前記目標運転状態で運転する制御手段とを備え、
さらに、該車両の運転状態に応じて前記目標減速量の設定可能範囲を変更する変更手段を備えることを要旨とする。
本発明の第2の車両は、車両の運転状態に応じて前記目標減速量の設定可能範囲を変更することができる。従って、運転状態に応じた適切な減速量を実現することができる。この結果、車両の操作性とともに走行安定性を大きく向上することができる。
車両がより安定して走行するために採り得る減速量の範囲は、車両の運転状態に応じて変化する。例えば、路面が非常に滑りやすい状態にある場合に必要以上に大きな減速量で制動を行えば、スリップが生じる可能性がある。また、道路が混雑しており前後の車両との間隔が比較的狭い状況にある場合に必要以上に低い減速量で制動を行えば、減速量を補うべく、ブレーキペダルへの踏み換えが必要になり、動力源ブレーキの利点を大きく損なう可能性もある。
本発明の第2の車両によれば、車両の運転状態に応じて目標減速量の設定可能範囲が変更されるため、それぞれの運転状態で適切な減速量での制動を実現することができる。従って、本発明の第2の車両は、走行時の走行安定性をより向上させることができる。
本発明の第2の車両も、第1の車両と同じく、電気自動車、ハイブリッド車両など種々の形態で構成することができる。
本発明の第2の車両においては、
さらに、動力伝達時の変速比を複数選択可能な変速機と、
前記設定された目標減速量を前記動力源のトルクで実現可能となる目標変速比を選択する選択手段と、
前記変速機を制御して前記変速比を実現する変速機制御手段を備えるものとすることが望ましい。
こうすれば、上記選択手段によって、運転者が指示した減速量および動力源のトルクの大きさ応じた適切な変速比を実現することができる。また、かかる変速比の下で電動機の目標トルクを制御することにより、運転者が指示した減速量を実現することができる。従って、上記構成の車両によれば、変速機と電動機の双方をこのように統合的に制御することにより、幅広い範囲で運転者の指示に応じた制動を行うことが可能となる。
なお、上記選択手段および変速機制御手段は、広義の選択および制御を行う手段を意味する。即ち、選択手段は唯一の目標変速比を選択する手段に限定されない。目標減速量を実現可能な変速比が複数存在する場合、これらの中から最適の唯一の変速比を選択するものとしてもよいし、複数の変速比全てを目標変速比として選択するものとしてもよい。また、変速機制御手段には、選択された目標変速比が既に実現されている場合には変速比の切替制御を省略するものも含まれる。
先に説明した通り、本発明は種々の型の車両に適用可能であるが、特に、 前記駆動軸に動力を出力可能な結合状態でエンジンを備え、
前記電動機運転状態設定手段は、前記エンジンによる制動トルクを考慮して前記電動機の目標トルクを設定する手段である車両に適用することが好ましい。
この場合には、前記エンジンから駆動軸への動力の伝達を断続する断続機構を備えることが望ましく、さらに、前記電動機のトルクによる制動時には、前記断続機構を制御して、前記エンジンと駆動軸との動力伝達を断つ断続機構制御手段を備えることが、より望ましい。
本発明の車両は、電動機により電力を回生することで制動することができる。エンジンを備える場合には、いわゆるエンジンブレーキにより制動力を付加することもできる。エンジンブレーキは、エンジンのポンピングおよび摩擦等によって駆動軸の回転動力を消費することにより制動が行われる。従って、エンジンブレーキによる制動を行えば、その制動力に応じて回生される電力量が低減する。
上記構成の車両によれば、エンジンから駆動軸への動力の伝達を断続することができる。制動を行う際に動力の伝達を断てば、回生される電力量を増大することができ、車両の運動エネルギをより有効に活用することが可能となる。また、動力の断続は、手動で行うものとしてもよいが、断続機構を制御する手段を備えるものとすれば、エネルギを更に適切に回生することができる点でより好ましい。
動力の断続機構には、電動機およびエンジンによるブレーキの制動力を調整することができるという利点もある。エンジンから駆動軸に制動力が付加されるよう断続機構を接続状態にすれば、駆動軸にはエンジンブレーキと電動機による回生制動の両者による制動力が付加される。従って、より大きな制動力を実現することが可能となる。一方、接続状態では、常にエンジンブレーキによる制動力が付加されるため、制動力の下限値も大きくなる。従って、逆に制動力の下限値を抑制したい場合には、断続機構を切断状態とすることが望ましい。
上記構成の車両によれば、断続機構を制御することによって、駆動軸に付加可能な制動力の上限値および下限値を調整することができる。従って、動力源ブレーキによる制動をより適切に実現することができる。なお、一般には、大きな制動力が要求される場合には、フットブレーキが併用されるのが通常であるため、エネルギ効率の観点および動力源ブレーキの下限値を調整する観点から、制動時に断続機構を切断状態に制御することの有効性が高い。特に、かかる制御は、後述するスリップを抑制する際に有効である。
動力の断続機構を有する車両は、先に示した変速機、選択手段、および変速機制御手段とを備えるものとして構成することも可能である。かかる場合には、断続機構を切断状態とすることにより、変速比が制動に何ら影響を与えなくなる構成も存在する。換言すれば、変速比はいずれの値に選択されても構わない構成が存在する。先に説明した通り、本発明における選択手段、変速機制御手段は広義の選択および制御を実行する手段である。従って、変速比が制動に何ら影響を与えなくなる構成においては、選択手段は全ての変速比を目標変速比として選択する手段となり、変速機制御手段は該目標変速比が既に実現されているため変速比の切替制御を常に省略する手段となる。
本発明の第2の車両において、目標減速量の設定可能範囲の変更は種々の態様を採ることができる。例えば、幅広い範囲で減速量を変更しても走行安定性を損なわないと判断される走行状態にある場合に、通常の走行状態に比較して設定可能範囲を広げる方向に変更するものとしてもよい。また、設定可能な減速量の範囲を全体にシフトするものとしてもよい。例えば、下り坂を走行中であると判定された場合に、設定範囲を全体的に減速量が大きい側にシフトする態様が挙げられる。
目標減速量の設定可能範囲の変更手段は、
該目標減速量を抑制すべき抑制条件が成立しているか否かを判定する判定手段と、
抑制条件が成立している場合には、前記目標減速量を抑制する抑制手段とを備える手段であるものとすることも望ましい。
これは目標減速量の設定範囲を狭める方向に変更する態様である。
かかる車両によれば、運転者が必要以上に大きな減速量や必要以上に小さな減速量を設定することを回避できるため、車両の走行安定性をより向上させることができる。車両の走行安定性を十分に確保することができる減速量の範囲は、車両の走行状態に応じて異なることが多い。上記構成の車両によれば、車両の走行状態に応じてより柔軟かつ適切に目標減速量の設定範囲を変更することが可能となる。なお、目標減速量の設定範囲は、その上限値を低減することにより狭めることも可能であるし、下限値を増大することにより狭めることも可能である。車両の走行状態に応じてより適切な方法を適用すればよい。
本発明の第2の車両において、目標減速量を抑制するか否かの判定は、種々の態様で行うことができる。
第1の態様として、
前記判定手段は、前記駆動軸に結合された駆動輪がスリップしている場合に前記抑制条件を満足するものとして前記判定を行う手段であるものとすることができる。
降雪および降雨時など、摩擦係数が比較的低い路面を走行中に、大きな減速量で制動を行うと、スリップを生じることがある。駆動輪がスリップしていることを抑制条件とすれば、スリップの発生を抑制することができ、車両の走行安定性を向上することができる。
ここで、スリップの発生は、種々の方法により判定可能である。例えば、複数の駆動輪の回転数を検出しておき、各駆動輪の回転数に所定以上のバラツキが生じた場合にスリップが発生したものと判定することができる。本発明の第2の車両では、駆動軸に結合された電動機を有しているため、該電動機のトルクおよび回転数の変動からスリップの発生を判定することもできる。加速度センサを搭載した車両では、該センサの出力に基づいてスリップの発生を判定するものとしてもよい。また、上記スリップの判定は、制動時のみならず、通常走行時に行うものとしてもよい。
第2の態様として、
前記判定手段は、目標減速量の設定可能範囲の抑制を指示するためのスイッチの操作に基づいて前記判定を行う手段であるものとしてもよい。
かかる態様によれば、運転者が自己の意思に基づいて上記スイッチを操作することにより、目標減速量の設定可能範囲を抑制することができる。例えば、路面の摩擦係数が比較的低い状態にあると運転者が判断した場合には、該スイッチを操作しておくことにより、スリップの発生を未然に防止することができる。従って、車両の走行安定性をより向上させることが可能となる。ここで示したスイッチとは、運転者が減速量の指示をするための操作部とは異なるスイッチを意味する。このスイッチを操作しておけば、運転者はスリップの発生等の懸念なく減速量の設定を変更することが可能となる。
なお、スイッチは、路面の摩擦係数が比較的低い状態にあると運転者が判断した場合に操作するものに限られない。その他、種々の目的に応じたスイッチを用意することが可能である。また、スイッチをオンにした場合に目標減速量が抑制されるものとしてもよいし、オフにした場合に目標減速量が抑制されるものとしてもよい。さらに、スイッチの操作によって目標減速量が段階的に抑制されるものとすることも可能である。
目標減速量の抑制は、この他、種々の条件に基づいて行うことができる。例えば、前後の車間との間隔を検出するセンサを搭載した車両では、該間隔が所定以下となったことを抑制条件として、目標減速量の抑制を行うものとすることができる。また、車両の位置と地形との照合を採ることができる装置を搭載した車両では、走行中の道路の起伏に応じて目標減速量の抑制を行うものとすることもできる。
目標減速量を抑制する方法も種々の態様が考えられる。減速量を指示するための操作部の操作量と目標減速量との関係を全体的に抑制するものとしてもよい。つまり、操作部の単位操作量当たりの目標減速量の変化を全体的に緩やかにするものとしてもよい。
これに対し、
前記抑制手段は、目標減速量を所定の上限値以下に抑制する手段であるものとしてもよい。
こうすれば、目標減速量を抑制する処理が非常に簡単となる利点がある。また、目標減速量を抑制するか否かに関わらず、操作部の単位操作量当たりの目標減速量の変化が一定であるため、運転者が減速量の設定を行いやすいという利点もある。
さらに、
前記抑制手段は、前記抑制条件が成立しなくなるまで、フィードバック制御により前記目標減速量を抑制する手段であるものとしてもよい。
こうすれば、抑制条件が成立しなくなる範囲に目標減速量を抑えることができるため、車両の走行安定性をより向上させることができる。しかも、不必要に減速量を低減させることがないという利点もある。例えば、駆動輪にスリップが生じていることを目標減速量の抑制条件としている場合を考える。かかる場合にスリップが生じなくなる減速量は、路面の摩擦係数に応じて変化する。フィードバック制御による抑制を行う車両では、スリップが生じなくなるまで徐々に目標減速量を低減することができる。従って、減速量を不必要に低減させることなく、確実にスリップの発生を抑制することが可能となる。
ここでは、目標減速量を抑制する場合について説明したが、上述の各手段は、目標減速量を広げる方向に変更する手段を備える車両に適用可能であることは言うまでもない。
本発明の第2の車両においては、
さらに、前記目標減速量の設定可能範囲の変更を報知する報知手段を備えるものとすることが好ましい。
こうすれば、運転者が違和感なく車両の運転を行うことができる。報知手段は、設定可能範囲が広がったことを報知する手段であってもよいし、抑制されたことを報知する手段であってもよい。前者の場合には、幅広い範囲で減速量の設定が可能となったことを運転者が認識することができ、自己の意思に適した減速量での運転を行うことができる。後者の場合には、指示した減速量が実現されない可能性を運転者に報知することができるため、制動時の違和感および故障への懸念を低減することができる。
かかる報知手段としては、視覚的に表示する手段を採用してもよいし、音声で知らせる手段を採用してもよい。運転者により設定された減速量を表示するための表示部を有している車両では、点滅表示するなど通常とは異なる態様で表示を行うことにより、上記報知を行うものとしてもよい。
上述した車両のうち変速機を備える構成については、次の態様で変速比の設定および制御を行うことができる。
第1に、前記電動機および変速機は、前記動力源のトルクと前記変速機の変速比との組み合わせのうち、所定の車速における所定の減速量を実現可能な組み合わせが複数存在するように設定された電動機および変速機とすることができる。こうすることにより、目標減速量を実現可能な組み合わせが、所定の車速における所定の減速量については複数存在するため、車両の運転状態に応じて、より適した組み合わせを用いて制動を行うことができる。従って、幅広い運転状態で電動機によるブレーキを使用することが可能となる。
ここで、電動機とエンジンとを制動に利用可能な場合には、変速比の複数の組み合わせには、電動機の回生運転に対応する組み合わせと、電動機の力行運転に対応する組み合わせの双方が含まれているものとすることが望ましい。
動力源としてエンジンを備えている場合には、電動機とエンジンのトルクによって制動をすることができる。変速比によって、所望の減速量に対しエンジンによる制動トルクでは不足する場合もあれば、過剰となる場合もある。前者の場合には、電動機を回生運転して不足分の減速量を補うことにより所望の制動をすることができる。後者の場合には、電動機を力行運転することにより所望の減速量での制動を行うことができる。電動機を回生運転して制動を行えば、走行中の変速比が比較的小さい場合でも、変速比の切り替えをすることなく所望の減速量を得ることができ、滑らかな走行を実現することができる。走行中の電動機を力行運転した状態で制動を行えば、減速後の加速を速やかに行うことができる利点がある。
上記構成において、変速比の選択は、例えば、該蓄電手段の残容量を条件として行うことができる。一例としては、該目標変速比が複数存在する場合において、前記残容量が所定値以上の場合には前記力行運転に対応する変速比を選択し、その他の場合には前記回生運転に対応する変速比を選択する態様である。こうすれば、蓄電手段が満充電に近い状態にある場合には、電動機を力行運転する組み合わせで制動することができる。従って、上記車両によれば、蓄電手段の充電状態に依らず電動機によるブレーキを使用することが可能となる。
本実施例は、各車両の運転を制御する方法として構成することも可能である。
実施例について以下の項目に分けて説明する。
A.第1実施例
A1.装置の構成:
A2.一般的動作:
A3.運転制御処理:
A4.第1実施例における第1の変形例
A5.第1実施例における第2の変形例
A6.第1実施例における第3の変形例
B.第2実施例:
B1.装置の構成:
B2.運転制御処理:
B3.第2実施例における第1の変形例:
B4.第2実施例における第2の変形例:
B5.第2実施例における第3の変形例:
B6.第2実施例における第4の変形例:
C.第3実施例:
D.第4実施例:
E.その他の変形例:
上記項目に沿って、実施例を以下に詳細に説明する。
A.第1実施例:
A1.装置の構成:
図1は、実施例としてのハイブリッド車両の概略構成図である。本実施例のハイブリッド車両の動力源は、エンジン10とモータ20である。図示する通り、本実施例のハイブリッド車両の動力系統は、以下に示す通り、上流側からエンジン10、モータ20、トルクコンバータ30、および変速機100を直列に結合した構成を有している。具体的には、モータ20は、エンジン10のクランクシャフト12に結合されている。モータ20の回転軸13は、トルクコンバータ30に結合されている。トルクコンバータの出力軸14は変速機100に結合されている。変速機100の出力軸15はディファレンシャルギヤ16を介して車軸17に結合されている。車軸17には、左の駆動輪18Lと右の駆動輪18Rが取り付けられている。
エンジン10は通常のガソリンエンジンである。但し、エンジン10は、ガソリンと空気の混合気をシリンダに吸い込むための吸気バルブ、および燃焼後の排気をシリンダから排出するための排気バルブの開閉タイミングを、ピストンの上下運動に対して相対的に調整可能な機構を有している(以下、この機構をVVT機構と呼ぶ)。VVT機構の構成については、周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。エンジン10は、ピストンの上下運動に対して各バルブが遅れて閉じるように開閉タイミングを調整することにより、いわゆるポンピングロスを低減することができる。この結果、いわゆるエンジンブレーキによる制動力を低減させることができる。また、エンジン10をモータリングする際にモータ20から出力すべきトルクを低減させることもできる。ガソリンを燃焼して動力を出力する際には、VVT機構は、エンジン10の回転数に応じて最も燃焼効率の良いタイミングで各バルブが開閉するように制御される。
モータ20は、三相の同期モータであり、外周面に複数個の永久磁石を有するロータ22と、回転磁界を形成するための三相コイルが巻回されたステータ24とを備える。モータ20はロータ22に備えられた永久磁石による磁界とステータ24の三相コイルによって形成される磁界との相互作用により回転駆動する。また、ロータ22が外力によって回転させられる場合には、これらの磁界の相互作用により三相コイルの両端に起電力を生じさせる。なお、モータ20には、ロータ22とステータ24との間の磁束密度が円周方向に正弦分布する正弦波着磁モータを適用することも可能であるが、本実施例では、比較的大きなトルクを出力可能な非正弦波着磁モータを適用した。
ステータ24は駆動回路40を介してバッテリ50に電気的に接続されている。駆動回路40はトランジスタインバータであり、モータ20の三相それぞれに対して、ソース側とシンク側の2つを一組としてトランジスタが複数備えられている。図示する通り、駆動回路40は、制御ユニット70と電気的に接続されている。制御ユニット70が駆動回路40の各トランジスタのオン・オフの時間をPWM制御するとバッテリ50を電源とする疑似三相交流がステータ24の三相コイルに流れ、回転磁界が形成される。モータ20は、かかる回転磁界によって先に説明した通り電動機または発電機として機能する。
トルクコンバータ30は、流体を利用した周知の動力伝達機構である。トルクコンバータ30の入力軸、即ちモータ20の出力軸13と、トルクコンバータ30の出力軸14とは機械的に結合されてはおらず、互いに滑りをもった状態で回転可能である。両者の末端には、それぞれ複数のブレードを有するタービンが備えられており、モータ20の出力軸13のタービンとトルクコンバータ30の出力軸14のタービンとが互いに対向する状態でトルクコンバータ内部に組み付けられている。トルクコンバータ30は密閉構造をなしており、中にはトランスミッション・オイルが封入されている。このオイルが前述のタービンにそれぞれ作用することで、一方の回転軸から他方の回転軸に動力を伝達することができる。しかも、両者はすべりをもった状態で回転可能であるから、一方の回転軸から入力された動力を、回転数およびトルクの異なる回転状態に変換して他方の回転軸に伝達することができる。
変速機100は、内部に複数のギヤ、クラッチ、ワンウェイクラッチ、ブレーキ等を備え、変速比を切り替えることによってトルクコンバータ30の出力軸14のトルクおよび回転数を変換して出力軸15に伝達可能な機構である。図2は、変速機100の内部構造を示す説明図である。本実施例の変速機100は、大きくは副変速部110(図中の破線より左側の部分)と主変速部120(図中の破線より右側の部分)とから構成されており、図示する構造により前進5段、後進1段の変速段を実現することができる。
変速機100の構成について回転軸14側から順に説明する。図示する通り、回転軸14から入力された動力は、オーバードライブ部として構成された副変速部110によって所定の変速比で変速されて回転軸119に伝達される。副変速部110は、シングルピニオン型の第1のプラネタリギヤ112を中心に、クラッチC0と、ワンウェイクラッチF0と、ブレーキB0により構成される。第1のプラネタリギヤ112は、遊星歯車とも呼ばれるギヤであり、中心で回転するサンギヤ114、サンギヤの周りで自転しながら公転するプラネタリピニオンギヤ115、更にプラネタリピニオンギヤの外周で回転するリングギヤ118の3種類のギヤから構成されている。プラネタリピニオンギヤ115は、プラネタリキャリア116と呼ばれる回転部に軸支されている。
一般にプラネタリギヤは、上述の3つのギヤのうち2つのギヤの回転状態が決定されると残余の一つのギヤの回転状態が決定される性質を有している。プラネタリギヤの各ギヤの回転状態は、機構学上周知の計算式(1)によって与えられる。
Ns=(1+ρ)/ρ×Nc−Nr/ρ;
Nc=ρ/(1+ρ)×Ns+Nr/(1+ρ);
Nr=(1+ρ)Nc−ρNs;
Ts=Tc×ρ/(1+ρ)=ρTr;
Tr=Tc/(1+ρ);
ρ=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数 ・・・(1);
ここで、
Nsはサンギヤの回転数;
Tsはサンギヤのトルク;
Ncはプラネタリキャリアの回転数;
Tcはプラネタリキャリアのトルク;
Nrはリングギヤの回転数;
Trはリングギヤのトルク;
である。
副変速部110では、変速機100の入力軸に相当する回転軸14がプラネタリキャリア116に結合されている。またこのプラネタリキャリア116とサンギヤ114との間にワンウェイクラッチF0とクラッチC0とが並列に配置されている。ワンウェイクラッチF0はサンギヤ114がプラネタリキャリア116に対して相対的に正回転、即ち変速機への入力軸14と同方向に回転する場合に係合する方向に設けられている。サンギヤ114には、その回転を制止可能な多板ブレーキB0が設けられている。副変速部110の出力に相当するリングギヤ118は回転軸119に結合されている。回転軸119は、主変速部120の入力軸に相当する。
かかる構成を有する副変速部110は、クラッチC0又はワンウェイクラッチF0が係合した状態ではプラネタリキャリア116とサンギヤ114とが一体的に回転する。先に示した式(1)に照らせば、サンギヤ114とプラネタリキャリア116の回転数が等しい場合には、リングギヤ118の回転数もこれらと等しくなるからである。このとき、回転軸119は入力軸14と同じ回転数となる。またブレーキB0を係合させてサンギヤ114の回転を止めた場合、先に示した式(1)においてサンギヤ114の回転数Nsに値0を代入すれば明らかな通り、リングギヤ118の回転数Nrはプラネタリキャリア116の回転数Ncよりも高くなる。即ち、回転軸14の回転は増速されて回転軸119に伝達される。このように副変速部110は、回転軸14から入力された動力を、そのままの状態で回転軸119に伝える役割と、増速して伝える役割とを選択的に果たすことができる。
次に、主変速部120の構成を説明する。主変速部120は三組のプラネタリギヤ130,140,150を備えている。また、クラッチC1,C2、ワンウェイクラッチF1,F2およびブレーキB1〜B4を備えている。各プラネタリギヤは、副変速部110に備えられた第1のプラネタリギヤ112と同様、サンギヤ、プラネタリキャリアおよびプラネタリピニオンギヤ、並びにリングギヤから構成されている。三組のプラネタリギヤ130,140,150は次の通り結合されている。
第2のプラネタリギヤ130のサンギヤ132と第3のプラネタリギヤ140のサンギヤ142とは互いに一体的に結合されており、これらはクラッチC2を介して入力軸119に結合可能となっている。これらのサンギヤ132,142が結合された回転軸には、その回転を制止するためのブレーキB1が設けられている。また、該回転軸が逆転する際に係合する方向にワンウェイクラッチF1が設けられている。さらにこのワンウェイクラッチF1の回転を制止するためのブレーキB2が設けられている。
第2のプラネタリギヤ130のプラネタリキャリア134には、その回転を制止可能なブレーキB3が設けられている。第2のプラネタリギヤ130のリングギヤ136は、第3のプラネタリギヤ140のプラネタリキャリア144および第4のプラネタリギヤ150のプラネタリキャリア154と一体的に結合されている。更に、これら三者は変速機100の出力軸15に結合されている。
第3のプラネタリギヤ140のリングギヤ146は、第4のプラネタリギヤ150のサンギヤ152に結合されるとともに、回転軸122に結合されている。回転軸122はクラッチC1を介して主変速部120の入力軸119に結合可能となっている。第4のプラネタリギヤ150のリングギヤ156には、その回転を制止するためのブレーキB4と、リングギヤ156が逆転する際に係合する方向にワンウェイクラッチF2とが設けられている。
変速機100に設けられた上述のクラッチC0〜C2およびブレーキB0〜B4は、それぞれ油圧によって係合および解放する。図示を省略したが、各クラッチおよびブレーキには、かかる作動を可能とする油圧配管および油圧を制御するためのソレノイドバルブ等が設けられている。本実施例のハイブリッド車両では、制御ユニット70がこれらのソレノイドバルブ等に制御信号を出力することによって、各クラッチおよびブレーキの作動を制御する。
本実施例の変速機100は、クラッチC0〜C2およびブレーキB0〜B4の係合および解放の組み合わせによって、前進5段・後進1段の変速段を設定することができる。また、いわゆるパーキングおよびニュートラルの状態も実現することができる。図3は、各クラッチ、ブレーキ、およびワンウェイクラッチの係合状態と変速段との関係を示す説明図である。この図において、○印はクラッチ等が係合した状態であることを意味し、◎は動力源ブレーキ時に係合することを意味し、△印は係合するものの動力伝達に閑係しないことを意味している。動力源ブレーキとは、エンジン10およびモータ20による制動をいう。なお、ワンウェイクラッチF0〜F2の係合状態は、制御ユニット70の制御信号に基づくものではなく、各ギヤの回転方向に基づくものである。
図3に示す通り、パーキング(P)およびニュートラル(N)の場合には、クラッチC0およびワンウェイクラッチF0が係合する。クラッチC2およびクラッチC1の双方が解放状態であるから、主変速部120の入力軸119から下流には動力の伝達がなされない。
第1速(1st)の場合には、クラッチC0,C1およびワンウェイクラッチF0,F2が係合する。また、エンジンブレーキをかける場合には、さらにブレーキB4が係合する。この状態では、変速機100の入力軸14は第4のプラネタリギヤ150のサンギヤ152に直結された状態に等しくなり、動力は第4のプラネタリギヤ150の変速比に応じた変速比で出力軸15に伝達される。リングギヤ156は、ワンウェイクラッチF2の作用により逆転しないように拘束され、事実上回転数は値0となる。かかる条件下で、先に示した式(1)に照らせば、入力軸14の回転数Nin、トルクTinと、出力軸15の回転数Nout、トルクToutとの関係は、次式(2)で与えられる。
Nout=Nin/k1;
Tout=k1×Tin
k1=(1+ρ4)/ρ4;
ρ4は第4のプラネタリギヤ150の変速比 ・・・(2);
第2速(2nd)の場合には、クラッチC1、ブレーキB3、ワンウェイクラッチF0が係合する。また、エンジンブレーキをかける場合には、さらにクラッチC0が係合する。この状態では、変速機100の入力軸14は第4のプラネタリギヤ150のサンギヤ152および第3のプラネタリギヤ140のリングギヤ146に直結された状態に等しい。一方、第2のプラネタリギヤ130のプラネタリキャリア134は固定された状態となる。第2のプラネタリギヤ130および第3のプラネタリギヤ140について見れば、両者のサンギヤ132、142の回転数は等しい。また、リングギヤ136とプラネタリキャリア144の回転数は等しい。これらの条件下で、先に説明した式(1)に照らせば、プラネタリギヤ130、140の回転状態は一義的に決定される。入力軸14の回転数Nin、トルクTinと、出力軸15の回転数Nout、トルクToutとの関係は、次式(3)で与えられる。出力軸15の回転数Noutは第1速(1st)の回転数よりも高くなり、トルクToutは第1速(1st)のトルクよりも低くなる。
Nout=Nin/k2;
Tout=k2×Tin
k2={ρ2(1+ρ3)+ρ3}/ρ2;
ρ2は第2のプラネタリギヤ130の変速比;
ρ3は第3のプラネタリギヤ140の変速比 ・・・(3);
第3速(3rd)の場合には、クラッチC0,C1、ブレーキB2、ワンウェイクラッチF0,F1が係合する。また、エンジンブレーキをかける場合には、さらにブレーキB1が係合する。この状態では、変速機100の入力軸14は第4のプラネタリギヤ150のサンギヤ152および第3のプラネタリギヤ140のリングギヤ146に直結された状態に等しい。一方、第2および第3のプラネタリギヤ130、140のサンギヤ132、142はブレーキB2およびワンウェイクラッチF1の作用により逆転が禁止された状態となり、事実上回転数は値0となる。かかる条件下で、第2速(2nd)の場合と同様、先に説明した式(1)に照らせば、プラネタリギヤ130、140の回転状態は一義的に決定され、出力軸15の回転数も一義的に決定される。入力軸14の回転数Nin、トルクTinと、出力軸15の回転数Nout、トルクToutとの関係は、次式(4)で与えられる。出力軸15の回転数Noutは第2速(2nd)の回転数よりも高くなり、トルクToutは第2速(2nd)のトルクよりも低くなる。
Nout=Nin/k3;
Tout=k3×Tin
k3=1+ρ3 ・・・(4);
第4速(4th)の場合には、クラッチC0〜C2およびワンウェイクラッチF0が係合する。ブレーキB2も同時に係合するが、動力の伝達には無関係である。この状態では、クラッチC1,C2が同時に係合するため、入力軸14は第2のプラネタリギヤ130のサンギヤ132、第3のプラネタリギヤ140のサンギヤ142およびリングギヤ146、第4のプラネタリギヤ150のサンギヤ152に直結された状態となる。この結果、第3のプラネタリギヤ140は入力軸14と同じ回転数で一体的に回転する。従って、出力軸15も入力軸14と同じ回転数で一体的に回転する。従って第4速(4th)では、出力軸15は第3速(3rd)よりも高い回転数で回転する。つまり、入力軸14の回転数Nin、トルクTinと、出力軸15の回転数Nout、トルクToutとの関係は、次式(5)で与えられる。出力軸15の回転数Noutは第3速(3rd)の回転数よりも高くなり、トルクToutは第3速(3rd)のトルクよりも低くなる。
Nout=Nin/k4;
Tout=k4×Tin
k4=1 ・・・(5);
第5速(5th)の場合には、クラッチC1、C2、ブレーキB0が係合する。ブレーキB2も係合するが、動力の伝達には無関係である。この状態では、クラッチC0が解放されるため、副変速部110で回転数が増速される。つまり、変速機100の入力軸14の回転数は、増速されて主変速部120の入力軸119に伝達される。一方、クラッチC1,C2が同時に係合するため、第4速(4th)の場合と同様、入力軸119と出力軸15とは同じ回転数で回転する。先に説明した式(1)に照らせば、副変速部110の入力軸14と出力軸119の回転数、トルクの関係を求めることができ、出力軸15の回転数、トルクを求めることができる。入力軸14の回転数Nin、トルクTinと、出力軸15の回転数Nout、トルクToutとの関係は、次式(6)で与えられる。出力軸15の回転数Noutは第4速(4th)の回転数よりも高くなり、トルクToutは第4速(4th)のトルクよりも低くなる。
Nout=Nin/k5;
Tout=k5×Tin
k5=1/(1+ρ1)
ρ1は第1のプラネタリギヤ112の変速比 ・・・(6);
リバース(R)の場合には、クラッチC2、ブレーキB0、B4が係合する。このとき、入力軸14の回転数は副変速部110で増速された上で、第2のプラネタリギヤ130のサンギヤ132、第3のプラネタリギヤ140のサンギヤ142に直結された状態となる。既に説明した通り、リングギヤ136、プラネタリキャリア144、154の回転数は等しくなる。リングギヤ146とサンギヤ152の回転数も等しくなる。また、第4のプラネタリギヤ150のリングギヤ156の回転数はブレーキB4の作用により値0となる。これらの条件下で先に説明した式(1)に照らせば、プラネタリギヤ130、140、150の回転状態は一義的に決定される。このとき出力軸15は負の方向に回転し、後進が可能となる。
以上で説明した通り、本実施例の変速機100は、前進5段、後進1段の変速を実現することができる。入力軸14から入力された動力は、回転数およびトルクの異なる動力として出力軸15から出力される。出力される動力は、第1速(1st)から第5速(5th)の順に回転数が上昇し、トルクが低減する。これは入力軸14に負のトルク、即ち制動力が付加されている場合も同様である。上で示した式(2)〜(6)中の変数k1〜k5は、それぞれ各変速段の変速比を表している。入力軸14にエンジン10およびモータ20により、一定の制動力が付加された場合、第1速(1st)から第5速(5th)の順に出力軸15に付加される制動力は低減する。なお、変速機100としては、本実施例で適用した構成の他、周知の種々の構成を適用可能である。変速段が前進5速よりも少ないものおよび多いもののいずれも適用可能である。
変速機100の変速段は、制御ユニット70が車速等に応じて設定する。運転者は、車内の操作部160に備えられたシフトレバーを手動で操作し、シフトポジションを選択することによって、使用される変速段の範囲を変更することが可能である。図4は本実施例のハイブリッド車両におけるシフトポジションの操作部160を示す説明図である。この操作部160は車内の運転席横のフロアに車両の前後方向に沿って備えられている。
図示する通り、操作部としてシフトレバー162が備えられている。運転者はシフトレバー162を前後方向にスライドすることにより種々のシフトポジションを選択することができる。シフトポジションは、前方からパーキング(P)、リバース(R)、ニュートラル(N)、ドライブポジション(D)、第4ポジション(4)、第3ポジション(3)、第2ポジション(2)およびローポジション(L)の順に配列されている。
パーキング(P)、リバース(R)、ニュートラル(N)は、それぞれ図3で示した係合状態に対応する。ドライブポジション(D)は、図3に示した第1速(1st)から第5速(5th)までを使用して走行するモードの選択を意味する。以下、第4ポジション(4)は第4速(4th)まで、第3ポジション(3)は第3速(3rd)まで、第2ポジション(2)は第2速(2nd)までおよびローポジション(L)は第1速(1st)のみを使用して走行するモードの選択を意味する。
本実施例のハイブリッド車両は、後述する通り、動力源ブレーキによる減速度を運転者が任意に設定可能となっている。シフトポジションを選択するための操作部160には、減速度を設定するための機構も設けられている。
図4に示す通り、本実施例のハイブリッド車両におけるシフトレバー162は、前後にスライドしてシフトポジションを選択することができる他、ドライブ(D)ポジションで横にスライドすることも可能である。このようにして選択されたポジションをEポジションと呼ぶものとする。シフトレバー162がEポジションにある場合には、以下の通りシフトレバー162を前後に操作することによって動力源ブレーキによる減速度の設定を変更することが可能となる。なお、操作部160には、内部にシフトポジションを検出するためのセンサ、およびシフトレバー162がEポジションにある場合にオンとなるEポジションスイッチが設けられている。これらのセンサ、スイッチの信号は後述する通り、制御ユニット70に伝達され、車両の種々の制御に用いられる。
シフトレバー162がEポジションにある場合の動作について説明する。シフトレバー162は運転者が手を離した状態ではEポジションの中立位置に保たれる。運転者は減速度を増したい場合、つまり急激な制動を行いたい場合には、シフトレバー162を後方(Decel側)に倒す。減速度を低減したい場合、つまり緩やかな制動を行いたい場合には、シフトレバー162を前方(Can−Decel側)に倒す。かかる場合、シフトレバー162は前後方向に連続的にスライドするのではなく、節度感を持って動く。つまり、シフトレバー162は、中立状態、前方に倒した状態、後方に倒した状態の3つのうちいずれかの状態を採る。運転者がシフトレバー162に加える力を緩めればシフトレバー162は直ちに中立位置に戻るようになっている。動力源ブレーキによる減速度は、シフトレバー162の前後方向の操作回数に応じて段階的に変化するようになっている。
本実施例のハイブリッド車両は、上述したシフトレバー162の操作の他、ステアリングにも動力源ブレーキによる減速度を変更するための操作部が設けられている。図5は、ステアリングに設けられた操作部を示す説明図である。図5(a)はステアリング164を運転者に対向する側、つまり前面から見た状態を示している。図示する通り、ステアリング164のスポーク部に減速度を増すためのDecelスイッチ166L,166Rが設けられている。これらのスイッチは、運転者がステアリングを操作する際に、右手または左手の親指で操作しやすい場所に設けられている。本実施例では、ステアリングを回転した場合でも混乱なく適切な操作を行うことができるように、前面に設けられた2つのスイッチは同じ機能を奏するものに統一してある。
図5(b)はステアリング164を裏面から見た状態を示している。図示する通り、Decelスイッチ166L,166Rのほぼ裏側に当たる場所に、減速度を低減するためのCan−Decelスイッチ168L,168Rが設けられている。これらのスイッチは、運転者がステアリングを操作する際に、右手または左手の人差し指で操作しやすい場所に設けられている。Decelスイッチ166L,166Rと同様の理由により、両スイッチは同じ機能を奏するものに統一してある。
運転者がDecelスイッチ166L,166Rを押すと、その回数に応じて減速度が増加する。Can−Decelスイッチ168L,168Rを押すと、その回数に応じて減速度が低減する。なお、これらのスイッチ166L,166R,168L,168Rは、シフトレバー162がEポジション(図4参照)にある場合にのみ有効となる。このように構成することにより、運転者がステアリング164を操作する際に意図せずこれらのスイッチを操作して、目標減速度の設定が変更されることを回避することができる。
操作部160には、この他、スノーモードスイッチ163が設けられている。スノーモードスイッチ163は、路面が雪道などの摩擦係数が低く、スリップしやすい状況にある場合に運転者により操作される。スノーモードスイッチ163がオンになっている場合には、後述する通り、目標減速度の上限値が所定値以下に抑制されるようになっている。摩擦係数が低い路面を走行中に、大きな減速度で減速が行われるとスリップが生じる可能性がある。スノーモードスイッチ163がオンになっている場合には、減速度が所定値以下に抑制されるため、スリップを回避することができる。もちろん、スノーモードスイッチ163がオンとなっている場合には、スリップが生じない程度の範囲で、減速度を変更することは可能である。
なお、シフトポジションの選択および目標減速度の設定を行うための操作部は、本実施例で示した構成(図4)以外にも種々の構成を適用することが可能である。図6は、変形例の操作部160Aを示す説明図である。この操作部160Aは、運転者の横に車両の前後方向に沿って設けられている。運転者がシフトレバー162を前後方向にスライドすることにより種々のシフトポジションを選択することができる。図6では、ドライブポジション(D)のみを示し、4ポジション等を省略したが、図4の操作部160と同様、種々のシフトポジションを設けることができる。変形例の操作部160Aでは、シフトポジションを選択するための通常の可動範囲の更に後方にEポジションを設けてある。運転者は、Eポジション内でシフトレバー162を前後方向にスライドすることにより減速度の設定を連続的に変更することができる。この例では、シフトレバー162を後方にスライドすることによって減速度が増加し、前方にスライドすることによって減速度が低減する。なお、この変形例は一例に過ぎず、減速度を設定するための機構は、この他にも種々の構成を適用することが可能である。
以上で説明した減速度の設定は、車内の計器板に表示される。図7は、本実施例におけるハイブリッド車両の計器板を示す説明図である。この計器板は、通常の車両と同様、運転者の正面に設置されている。計器板には、運転者から見て左側に燃料計202、速度計204が設けられており、右側にエンジン水温計208、エンジン回転計206が設けられている。中央部にはシフトポジションを表示するシフトポジションインジケータ220が設けられており、その左右に方向指示器インジケータ210L、210Rが設けられている。これらは、通常の車両と同等の表示部である。本実施例のハイブリッド車両では、これらの表示部に加えて、Eポジションインジケータ222がシフトポジションインジケータ220の上方に設けられている。また、設定された減速度の表示を行う減速度インジケータ224がEポジションインジケータ222の右側に設けられている。
Eポジションインジケータ222は、シフトレバーがEポジションにある際に点灯する。減速度インジケータ224は、運転者がDecelスイッチおよびCan−Decelスイッチを操作して減速度を設定すると、車両のシンボルに併せて設けられた後ろ向きの矢印(図7の右向きの矢印)の長さが増減して、設定結果を感覚的に表すようになっている。本実施例のハイブリッド車両は、後述する通り、種々の条件に基づいて設定された減速度を抑制することがある。Eポジションインジケータ222および減速度インジケータ224は、かかる抑制が行われた場合には、点滅表示など通常とは異なる態様での表示を行うことで、減速度の抑制を運転者に報知する役割も果たす。
本実施例のハイブリッド車両では、エンジン10、モータ20、トルクコンバータ30、変速機100等の運転を制御ユニット70が制御している(図1参照)。制御ユニット70は、内部にCPU、RAM,ROM等を備えるワンチップ・マイクロコンピュータであり、ROMに記録されたプログラムに従い、CPUが後述する種々の制御処理を行う。制御ユニット70には、かかる制御を実現するために種々の入出力信号が接続されている。図8は、制御ユニット70に対する入出力信号の結線を示す説明図である。図中の左側に制御ユニット70に入力される信号を示し、右側に制御ユニット70から出力される信号を示す。
制御ユニット70に入力される信号は、種々のスイッチおよびセンサからの信号である。かかる信号には、例えば、エンジン10のみを動力源とする運転を指示するハイブリッドキャンセルスイッチ、車両の加速度を検出する加速度センサ、エンジン10の回転数、エンジン10の水温、イグニッションスイッチ、バッテリ50の残容量SOC、エンジン10のクランク位置、デフォッガのオン・オフ、エアコンの運転状態、車速、トルクコンバータ30の油温、シフトポジション(図4参照)、サイドブレーキのオン・オフ、フットブレーキの踏み込み量、エンジン10の排気を浄化する触媒の温度、アクセル開度、オートクルーズスイッチのオン・オフ、Eポジションスイッチのオン・オフ(図4参照)、目標減速度の設定を変更するDecelスイッチおよびCan−Decelスイッチ、過給器のタービン回転数、雪道など低摩擦係数の路面の走行モードを指示するスノーモードスイッチ、燃料計からのフューエルリッド信号などがある。なお、本実施例では、車速は左右の駆動輪18L,18Rの回転数に基づいて算出するものとしている。
制御ユニット70から出力される信号は、エンジン10,モータ20,トルクコバータ30,変速機100等を制御するための信号である。かかる信号には、例えば、エンジン10の点火時期を制御する点火信号、燃料噴射を制御する燃料噴射信号、エンジン10の始動を行うためのスタータ信号、駆動回路40をスイッチングしてモータ20の運転を制御するMG制御信号、変速機100の変速段を切り替える変速機制御信号、変速機100の油圧を制御するためのATソレノイド信号およびATライン圧コントロールソレノイド信号、アンチロックブレーキシステム(ABS)のアクチュエータを制御する信号、駆動力源を表示する駆動力源インジケータ信号、エアコンの制御信号、種々の警報音を鳴らずための制御信号、エンジン10の電子スロットル弁の制御信号、スノーモードの選択を表示するスノーモードインジケータ信号、エンジン10の吸気バルブ、排気バルブの開閉タイミングを制御するVVT信号、車両の運転状態を表示するシステムインジケータ信号、および設定された減速度を表示する設定減速度インジケータ信号などがある。
A2.一般的動作:
次に、本実施例のハイブリッド車両の一般的動作について説明する。先に図1で説明した通り、本実施例のハイブリッド車両は動力源としてエンジン10とモータ20とを備える。制御ユニット70は、車両の走行状態、即ち車速およびトルクに応じて両者を使い分けて走行する。両者の使い分けは予めマップとして設定され、制御ユニット70内のROMに記憶されている。
図9は、車両の走行状態と動力源との関係を示す説明図である。図中の曲線LIMは、車両が走行可能な領域の限界を示している。図中の領域MGはモータ20を動力源として走行する領域であり、領域EGはエンジン10を動力源として走行する領域である。以下、前者をEV走行と呼び、後者を通常走行と呼ぶものとする。図1の構成によれば、エンジン10とモータ20の双方を動力源として走行することも可能ではあるが、本実施例では、かかる走行領域は設けていない。
図示する通り、本実施例のハイブリッド車両は、まずEV走行で発進する。先に説明した通り(図1参照)、本実施例のハイブリッド車両は、エンジン10とモータ20とが一体的に回転するように構成されている。従って、EV走行時にもエンジン10は回転している。但し、燃料噴射および点火を行わず、モータリングされている状態である。先に説明した通り、エンジン10にはVVT機構が備えられている。制御ユニット70は、EV走行時にはモータ20に与える負荷を減らし、モータ20から出力される動力が車両の走行に有効に使われるようにするため、VVT機構を制御して、吸気バルブおよび排気バルブの開閉タイミングを遅らせる。
EV走行により発進した車両が図9のマップにおける領域MGと領域EGの境界近傍の走行状態に達した時点で、制御ユニット70は、エンジン10を始動する。エンジン10はモータ20により既に所定の回転数で回転しているから、制御ユニット70は、所定のタイミングでエンジン10に燃料を噴射し、点火する。また、VVT機構を制御して、吸気バルブおよび排気バルブの開閉タイミングをエンジン10の運転に適したタイミングに変更する。
こうしてエンジン10が始動して以後、領域EG内ではエンジン10のみを動力源として走行する。かかる領域での走行が開始されると、制御ユニット70は駆動回路40のトランジスタを全てシャットダウンする。この結果、モータ20は単に空回りした状態となる。
制御ユニット70は、このように車両の走行状態に応じて動力源を切り替える制御を行うとともに、変速機100の変速段を切り替える処理も行う。変速段の切り替えは動力源の切り替えと同様、車両の走行状態に予め設定されたマップに基づいてなされる。図10は、変速機100の変速段と車両の走行状態との関係を示すマップである。このマップに示す通り、制御ユニット70は、車速が増すにつれて変速比が小さくなるように変速段の切り替えを実行する。
この切り替えはシフトポジションによる制限を受ける。ドライブポジション(D)では、図10に示す通り、第5速(5th)までの変速段を用いて走行する。4ポジションでは、第4速(4th)までの変速段を用いて走行する。この場合には、図10における5thの領域であっても第4速(4th)が使用される。変速段の切り替えはこのマップによる切り替えの他、運転者がアクセルペダルを急激に踏み込むことにより一段変速比が高い側に変速段を移す、いわゆるキックダウンと呼ばれる切り替えも行われる。これらの切り替え制御は、エンジンのみを動力源とし、自動変速装置を備えた周知の車両と同様である。本実施例では、EV走行をしている場合(領域MG)にも同様の切り替えを実行する。なお、変速段と車両の走行状態との関係は、図10に示した他、変速機100の変速比に応じて種々の設定が可能である。
なお、図9および図10には、車両の走行状態に応じてEV走行と通常走行とを使い分ける場合のマップを示した。本実施例の制御ユニット70は、全ての走行状態を通常走行で行う場合のマップも備えている。かかるマップは、図9および図10において、EV走行の領域(領域MG)を除いたものとなっている。EV走行を行うためには、バッテリ50にある程度の電力が蓄えられていることが必要である。従って、制御ユニット70は、バッテリ50の蓄電状態に応じてマップを切り替えて、車両の制御を実行する。即ち、バッテリ50の残容量SOCが所定値以上である場合には、図9および図10に基づき、EV走行と通常走行とを使い分けて運転を行う。バッテリ50の残容量SOCが所定値よりも小さい場合には、発進および微速走行時にもエンジン10のみを動力源とする通常走行で運転する。上記2つのマップの使い分けについては、所定の間隔で繰り返し判定される。従って、残容量SOCが所定値以上でありEV走行で発進を開始した場合でも、発進後に電力が消費された結果、残容量SOCが所定値よりも小さくなれば、車両の走行状態が領域MG内にあっても通常走行に切り替えられる。
次に、本実施例のハイブリッド車両の制動について説明する。本実施例のハイブリッド車両は、ブレーキペダルを踏み込むことによって付加されるホイールブレーキと、エンジン10およびモータ20からの負荷トルクによる動力源ブレーキの2種類のブレーキによる制動が可能である。動力源ブレーキによる制動は、アクセルペダルの踏み込みを緩めた場合に行われる。動力源ブレーキによる目標減速度は、車速の低下につれて小さくなるように設定されており、動力源ブレーキは車速の低下につれて小さくなるよう制御される。ブレーキペダルを踏み込めば、車両には動力源ブレーキとホイールブレーキの総和からなる制動力が付加される。
本実施例のハイブリッド車両は、先に説明したEポジションでの操作によって、動力源ブレーキによる減速度を運転者が設定することができる。即ち、EポジションにおいてDecelスイッチを操作すると、動力源ブレーキによる減速度段階的に強くなる。Can−Decelスイッチを操作すると、動力源ブレーキによる減速度は段階的に弱くなる。
本実施例のハイブリッド車両が、このように段階的に設定された動力源ブレーキを変速機100の変速段の切り替えおよびモータ20による制動力の双方を組み合わせて制御することにより実現する。図11は、本実施例のハイブリッド車両について、車速および減速度と、変速段との組み合わせのマップを示す説明図である。なお、図11では、減速度を絶対値で示している。DecelスイッチおよびCan−Decelスイッチの操作によって、車両の減速度は図11中の直線BL〜BUの範囲で段階的に変化する。
動力源ブレーキによる減速度は、モータ20のトルクを制御することにより、一定の範囲で変化させることができる。また、変速機100の変速段を切り替えれば、動力源のトルクと車軸17に出力されるトルクとの比を変更することができるから、変速段に応じて車両の減速度を変更することができる。この結果、変速段が第2速(2nd)にあるときは、モータ20のトルクを制御することにより、図11中の短破線で示した範囲の減速度を達成することができる。第3速(3rd)にあるときは、図11中の実線で示した範囲の減速度を達成することができる。第4速(4th)にあるときは、図11中の一点鎖線で示した範囲の減速度を達成することができる。第5速(5th)にあるときは、図11中の長破線で示した範囲の減速度を達成することができる。
制御ユニット70は、図11のマップに応じて設定された減速度を実現する変速段を選択して制動を行う。例えば、減速度が図11中の直線BLに設定されている場合、車速が値VCよりも高い領域では、第5速(5th)により制動を行い、車速が値VCよりも低い領域では、第4速(4th)に変速段を切り替えて制動を行う。かかる領域では、第5速(5th)では所望の減速度を実現できなくなるからである。本実施例では、各変速段で実現される減速度の範囲が重複して設定されている。車速が値VCよりも高い領域では、第4速(4th)と第5速(5th)の双方で直線BLに相当する減速度を実現可能である。従って、かかる領域では、制御ユニット70は、種々の条件に基づいて第4速(4th)または第5速(5th)のいずれか、より制動に適した変速段を選択して制動を行う。
本実施例における変速段の設定について更に詳細に説明する。図12は、ある車速Vsにおける減速度と変速段との関係を示した説明図である。図11中の直線Vsに沿った減速度と変速段との関係に相当する。図12に示す通り、減速度が比較的小さい区間D1では、第5速(5th)のみで減速度が実現される。それよりも減速度が大きい区間D2では、第5速(5th)および第4速(4th)で減速度が実現される。同様に減速度が順次大きくなるにつれて、区間D3では第4速(4th)のみ、区間D4では第3速(3rd)または第4速(4th)、区間D5では第3速(3rd)のみ、区間D6では第2速(2nd)または第3速(3rd)、区間D7では第2速(2nd)のみでそれぞれの減速度が実現される。なお、ここでは第2速(2nd)までを用いたマップを示したが、第1速(L)を用いた制動を行うものとしても構わない。
各変速段での減速度が重複している理由について説明する。図13は、第2速(2nd)における減速度を示す説明図である。図中の破線TLは第2速(2nd)で実現される減速度の下限を示し、破線TUは上限と示している。直線TEはエンジン10によるエンジンブレーキのみで実現される減速度を示している。本実施例のハイブリッド車両では、VVT機構を制御することにより、エンジンブレーキによる減速度を変更することも可能ではある。但し、かかる制御は、応答性および精度が低い。従って、本実施例では、制動時にはVVT機構を制御していない。この結果、図13に示す通り、エンジンブレーキによる減速度は車速に応じて一義的に決まった値となる。
本実施例ではモータ20によるトルクを制御することによって、減速度を変化させている。図13中のハッチングを示した領域Bgでは、モータ20をいわゆる回生運転し、モータ20でも制動力を付加することによってエンジンブレーキによる減速度よりも大きい減速度を実現している。その他の領域Bp、即ち直線TEと破線TLとの間の領域では、モータ20を力行運転し、モータ20からは駆動力を出力することによってエンジンブレーキよりも低い減速度を実現している。
図14は、モータ20を回生運転する場合の制動トルクと、モータ20を力行運転する場合の制動トルクとの関係を模式的に示した説明図である。図中の左側には、モータ20を力行運転する場合の制動トルク(領域Bpにおける状態)を示した。エンジンブレーキによる制動トルクは図中の帯BEで示される。領域Bpでは、エンジンブレーキによる制動トルクとは逆方向に、モータ20が帯BMで示された駆動力を出力する。車軸17には、両者の総和からなる制動トルクが出力されるから、図中にハッチングで示した通り、エンジンブレーキによる制動トルクBEよりも低い制動トルクが出力される。
図中の右側には、モータ20を回生運転する場合の制動トルク(領域Bgにおける状態)を示した。エンジンブレーキによる制動トルクは領域Bpにおける場合と同じ同じ大きさの帯BEで示される。領域Bpでは、エンジンブレーキによる制動トルクと同方向に、モータ20が帯BMで示された制動トルクを出力する。車軸17には、両者の総和からなる制動トルクが出力されるから、図中にハッチングで示した通り、エンジンブレーキによる制動トルクBEよりも大きい制動トルクが出力される。
このように本実施例のハイブリッド車両は、モータ20の運転状態を回生運転と力行運転とで切り替えることによって、エンジンブレーキによる減速度よりも大きい減速度および低い減速度を実現している。そして、例えば、変速比の大きい側の変速段において力行運転により実現される減速度の領域と、変速比の小さい側の変速段において回生運転により実現される減速度の領域とが重複するように図11のマップを設定している。例えば、第2速(2nd)での力行運転による制動の領域と第3速(3rd)での回生運転による制動の領域とを重複させている。
このように設定することにより、バッテリ50の残容量SOCに適した態様で制動を行うことができる。例えば、バッテリ50が更に充電可能な状態にある場合には、モータ20の回生運転により所望の減速度が得られるように変速比が小さい側の変速段を選択する。バッテリ50が満充電に近い状態にある場合には、モータ20の力行運転により所望の減速度が得られるように変速比が大きい側の変速段を選択する。本実施例では、上述した通り、2つの変速段による減速度の範囲を重複して設定することにより、このように、バッテリ50の残容量SOCに関わらず所望の減速度の実現を可能としている。
もちろん、これらの設定は、一例に過ぎず、各変速段により実現される減速度が重複しないように設定してもよい。また、図11のマップのように全ての変速段がそれぞれ他の変速段と重複する領域を有する設定とするのではなく、一部の変速段のみが重複する領域を有する設定としてもよい。
なお、設定された減速度は、車両にかかる動力源ブレーキの下限値に相当する。例えば、減速度が直線BLに設定されている場合を考える。速度VC以上の領域で変速段が第3速(3rd)になっている場合には、減速度は直線BLに相当する減速度よりも必ず大きい値となる。本実施例のハイブリッド車両では、減速度の下限値を設定するものとしているから、かかる場合には要求された減速度が実現されていることになる。つまり、上述の場合には、改めて変速段を第4速(4th)または第5速(5th)に切り替えた上で、直線BLに相当する比較的低い減速度を実現する制御は行わない。但し、運転者がCan−Decelスイッチを操作して、減速度の設定を弱めた場合には、運転者の意図に沿った減速を実現すべく、変速段の切り替えを行う。
以上で説明した通り、本実施例では、運転者の設定に応じた減速度での制動を実現する。但し、かかる制御は先に説明したEポジションにおいて行われる(以下、かかる制動をEポジション制動と呼ぶ)。シフトレバーがEポジションにない場合には、通常の制動が行われる。通常の制動では、Eポジション制動とは異なり、変速段の切り替えを行わない。従って、動力源ブレーキがかけられる時点で使用されていた変速段のままで制動を行う。ドライブポジション(D)にある場合には、第5速(5th)で走行しているのが通常であるから、該変速段で実現可能な比較的低い減速度での制動が行われる。4ポジション(4)にある場合には、第4速(4th)までを使用して走行しているから、ドライブポジション(D)よりも若干大きい減速度での制動が実現される。通常の制動時には、モータ20の制動力も一定の負荷を与える回生運転となる。従って、図11に示したマップのように各変速段で幅広い範囲の減速度を実現することはできず、各変速段につき1つの直線で示される減速度しか実現し得ない状態となる。
A3.運転制御処理:
本実施例のハイブリッド車両は、制御ユニット70が、エンジン10、モータ20等を制御することによって、上述した走行を可能としている。以下では、本実施例のハイブリッド車両に特徴的な制動時の運転に絞って、減速制御の内容を説明する。
図15は、減速制御処理ルーチンのフローチャートである。この処理は、制御ユニット70のCPUが所定の周期で実行する処理である。この処理が開始されると、CPUは、まず初期設定処理を行う(ステップS10)。初期設定処理とは、減速制御に必要となる目標減速度の初期設定および解除を行う処理である。この処理は、減速制御処理ルーチンが最初に実行された時のみならず、繰り返し実行される度に実行される。
図16は、初期設定処理ルーチンのフローチャートである。初期設定処理ルーチンでは、CPUはまずスイッチの信号を入力する(ステップS15)。ここで入力すべき信号は、図8に一覧で示した。もっとも、初期設定処理ルーチンに直接関係のある信号としては、シフトポジションを表す信号、Eポジションスイッチの信号である。従って、ステップS15では、これらの信号のみを入力するものとしても構わない。
次に、CPUは入力された信号に基づいて、DポジションからEポジションへのシフトポジションの切り替えが行われたか否かを判定する(ステップS20)。入力されたシフトポジションがEポジションであり、かつ、従前のシフトポジションがDポジションであれば、上述の切り替えが行われたものと判断される。Eポジションスイッチがオフの状態からオンの状態に変わったか否かに基づいて判断するものとしてもよい。
DポジションからEポジションへの切り替えが行われた場合には、Eポジションインジケータ(図7参照)をオンにする(ステップS40)。図8に示したシステムインジケータ信号として、Eポジションインジケータをオンにする信号を出力する。この信号に応じてEポジションインジケータが点灯される。Eポジションインジケータの点灯に併せて、CPUは目標減速度の初期化として、設定値をDポジション相当の値とする(ステップS45)。
Dポジション時において、第5速(5th)で動力源ブレーキがかけられている場合、ステップS45では、この変速段で実現される減速度に対応した目標減速度を初期値として設定するのである。なお、本実施例においては、図11に示した通り、車速の低い領域では、設定される減速度の最低値(図中の直線BL)が、第5速(5th)で実現される減速度よりも大きい場合がある。フローチャートでは明記していないが、ステップS45における目標減速度の設定は、あくまでもEポジションにおいて採りうる減速度の範囲で行われる。従って、Dポジションで実現される減速度がEポジションで採りうる最低限の減速度(直線BL)よりも低い場合には、減速度は直線BL相当の値に設定される。この結果、Dポジションで使用している変速段によって、減速度の初期設定値は、車速が比較的高い領域ではDポジションで実現される減速度相当の値となり、車速が比較的低い領域ではDポジションで実現される減速度よりも大きい減速度となる場合もある。
なお、ステップS45においては、目標減速度の設定値を敢えてDポジションよりも大きめに設定するものとすることも可能である。運転者がEポジションで減速度を変更したいと欲するのは、Dポジションでの減速度に不足を感じる場合が多い。従って、ステップS45において、Dポジションよりも大きい減速度を初期値として設定すれば、運転者の要求する減速度を速やかに得ることが可能となる。このようにステップS45の処理は、Dポジション時の減速度を基準として、Eポジションでの減速度の初期値を設定することを意図したものである。Dポジションでの減速度を基準として減速度の初期値を設定することにより、Eポジションへの切り替えを行った直後の減速度を運転者が比較的容易に推測可能となり、Eポジションでの減速度の設定を容易にするとともに、Eポジションへの切り替え時の違和感を低減することができる。
続いて、CPUは、変速段の初期値をDポジションで使用している変速段に設定する(ステップS50)。先に説明した通り、本実施例のハイブリッド車両は、Eポジションでは、変速段の切り替えとモータ20のトルクとを組み合わせて制御することにより、設定された減速度での制動を実現する。ここで、目標減速度の設定は、運転者が欲する最低限の減速度を設定するものとしている。従って、例えば、図11における直線BL相当の減速度が設定されている場合、車速Vsで該減速度を実現し得る変速段は、第2速(2nd)〜第5速(5th)まで選択し得る。ステップS50では、かかる場合に、Dポジションで使用していた変速段を初期値として設定する。こうすることにより、Eポジションへの切り替えが行われるとともに、変速段が切り替えられることを回避することができ、切り替え時のショック等を低減することができる。
ステップS20において、DポジションからEポジションへの切り替えではないと判定された場合には、CPUは、EポジションからDポジションへの切り替えが行われたか否かを判定する(ステップS25)。つまり、入力されたシフトポジションがDポジションであり、かつ、従前のシフトポジションがEポジションであれば、上述の切り替えが行われたことになる。Eポジションスイッチがオンの状態からオフの状態に変わったか否かに基づいて判断するものとしてもよい。
EポジションからDポジションへの切り替えが行われた場合には、Eポジションインジケータ(図7参照)をオフにする(ステップS30)。つまり、図8に示したシステムインジケータ信号に併せてEポジションインジケータをオフにする信号を出力する。この信号に応じてEポジションインジケータが消灯される。Eポジションインジケータの消灯に併せて、CPUは目標減速度の設定値を解除する(ステップS35)。Eポジションでの走行中には、後述する通り運転者がDecelスイッチおよびCan−Decelスイッチを操作して、所望の減速度を設定するが、ステップS35では、こうした一切の設定を解除するのである。
運転者の要求する減速度は車両の走行状態に応じて異なる場合が多い。従って、次にEポジションが選択された場合に備えて目標減速度の設定値を記憶しておく必要性は比較的低い。運転者が減速度につき、以前の設定値を記憶していることも稀である。従って、目標減速度の設定値を解除することなく、次にEポジションが選択された場合にも使用するものとすれば、Eポジションへの切り替えと同時に運転者の予想に反する減速度で制動が行われる可能性がある。本実施例では、このような事態を回避するために、EポジションからDポジションへの切り替えが行われる度に目標減速度の設定を解除するものとしているのである。
なお、目標減速度の設定の解除については、ここで示した以外にも種々の方法を採りうる。例えば、EポジションからDポジションへの切り替え時に解除するのではなく、DポジションからEポジションへの切り替え時に解除するものとしてもよい。本実施例では、Eポジションへの切り替え時に、従前の設定値に関わらず、減速度の初期値を設定するものとしているから、ステップS35における設定の解除処理を省略するものとしても構わない。また、目標減速度の設定を解除するための操作を別途設けるものとしてもよい。つまり、EポジションからDポジションへの切り替え時には目標減速度の設定を解除せず、設定解除スイッチの操作など特別な操作を行った場合にのみ目標減速度の設定を解除するものとしてもよい。
以上で説明した通り、Eポジションへの切り替え、又はDポジションへの切り替えが行われた場合には、それぞれの初期設定を実行して、CPUは初期設定処理ルーチンを終了する。また、ステップS25において、EポジションからDポジションへの切り替えが行われていないと判定された場合、つまり、EポジションまたはDポジションのまま変更がないと判定された場合には、初期設定処理としては減速度および変速段の設定を変更する必要がないため、CPUは何も処理することなく初期設定処理ルーチンを終了する。
図15に示した通り、CPUは初期設定処理ルーチンが終了すると、次に減速度設定処理を実行する(ステップS100)。この処理は、DecelスイッチおよびCan−Decelスイッチの操作に基づいて、Eポジションで実現すべき減速度の設定を行う処理である。減速度設定処理の内容を図17に基づいて説明する。
図17は、減速度設定処理ルーチンのフローチャートである。この処理が開始されると、CPUはスイッチの信号を入力する(ステップS105)。ここで入力する信号は、図8に示した種々の信号のうち、Decelスイッチ、Can−Decelスイッチ、Eポジションスイッチ、スノーモードスイッチの信号である。もちろん、その他の信号を併せて入力するものとしても構わない。
こうして入力された信号に基づき、CPUはEポジションが選択されているか否かを判定する(ステップS110)。この判定は、Eポジションスイッチのオン・オフによって行われる。Eポジションが選択されていない場合には、減速度の設定の変更は受け付けるべきではないと判断し、CPUは何も処理を行うことなく減速度設定処理ルーチンを終了する。
ステップS110において、Eポジションが選択されていると判断された場合、CPUは次にDecelスイッチおよびCan−Decelスイッチが故障しているか否かを判定する(ステップS115)。故障は、種々の方法により判断可能である。例えば、スイッチの接触不良時には、いわゆるチャタリングが生じ、スイッチのオン・オフが非常に頻繁に切り替わって検出される。所定時間に亘って、所定以上の周波数でオン・オフが検出された場合には、スイッチが故障しているものと判定することができる。また、逆に通常の操作では想定し得ない程の長時間に亘ってスイッチがオンとなっている場合にも故障と判定することができる。
スイッチの故障が検出された場合には、運転者の意図しない減速度が設定されることを回避すべく、CPUは目標減速度の設定を解除する(ステップS170)。目標減速度の設定を変更しない処理を行うものとしても構わない。本実施例では、運転者が自己の意図に沿わない値に設定された減速度を修正している途中にスイッチが故障した場合も想定し、目標減速度の設定を解除するものとした。こうして、目標減速度の設定を解除した後、CPUはスイッチの故障を運転者に報知するための故障表示を行う(ステップS175)。故障表示は種々の方法を採ることができる。本実施例では、警報音と鳴らすと共に、Eポジションインジケータ(図7参照)を点滅させるものとした。これらの報知は、図8に示した警報音の信号、システムインジケータの信号にそれぞれ該当する信号を出力することで実現される。
CPUは、更にEポジション制動を禁止するための処理を行う(ステップS180)。本実施例では、禁止のための処理として、CPUは、Eポジションの制動を禁止するために設けられた禁止フラグをオンにする。後述する通り、実際の制動の制御を行う際に、この禁止フラグのオン・オフによってEポジションでの制動が禁止または許可される。この結果、シフトレバーがEポジションの位置にあるか否かに関わらず、Dポジション相当の制動が行われることになる。スイッチが故障した場合には、CPUは以上の処理を実行して減速度設定処理ルーチンを終了する。
ステップS115において、スイッチが故障していないと判定された場合、CPUは目標減速度の設定を変更するための処理に移行する。かかる処理として、まずCPUは、DecelスイッチおよびCan−Decelスイッチが同時に操作されているか否かを判定する(ステップS120)。両スイッチが同時に操作された場合には、いずれのスイッチを優先すべきか不明であるため、以下に示す目標減速度の設定の変更のための処理をスキップし、現状の設定を維持する。
先に図4および図5に示した通り、本実施例のハイブリッド車両は、シフトレバーおよびステアリングに設けられたスイッチの双方で目標減速度の設定を行うことができる。従って、運転者の誤操作によって、シフトレバーのスイッチと、ステアリング部のスイッチが同時に操作される可能性がある。また、ステアリング部に設けられたDecelスイッチおよびCan−Decelスイッチの双方が同時に操作される可能性もある。本実施例で、DecelスイッチおよびCan−Decelスイッチの双方が同時に操作された場合に目標減速度の設定を維持するのは、運転者の意に添わない誤操作で目標減速度の設定が変更されることを回避する意図も含まれている。
DecelスイッチおよびCan−Decelスイッチの双方が同時に操作されてはいないと判定された場合には、各スイッチの操作に応じて目標減速度の設定を変更する。即ち、Decelスイッチがオンになっていると判定される場合には(ステップS125)、CPUは目標減速度の設定を増加する(ステップS130)。Can−Decelスイッチがオンになっていると判定される場合には(ステップS135)、CPUは目標減速度の設定を低減する(ステップS140)。本実施例では、それぞれのスイッチの操作回数に応じて目標減速度の設定を段階的に変更している。いずれのスイッチも操作されていない場合には、当然ながら目標減速度の設定は変更されない。
上記処理(ステップS120〜S140)によって、目標減速度の設定がなされると、CPUは減速度抑制処理を行う(ステップS145)。図18は、減速度抑制処理ルーチンのフローチャートである。この処理では、CPUは、まずスオーモードスイッチ(図4参照)の信号を入力する(ステップS146)。本実施例では、スノーモードスイッチのオン・オフに応じて減速度の上限値を変更するものとしている。スノーモードがオフの場合、即ちスノーモードでないと判定された場合には(ステップS148)、減速度の抑制を行う必要がないと判断して、減速度抑制処理ルーチンを終了する。
スノーモードスイッチがオンの場合、即ちスノーモードであると判定された場合には(ステップS148)、減速度設定処理ルーチンのステップS125〜S140の処理によって設定された減速度が所定の上限値DLIMを超えているか否かを判定する(ステップS150)。減速度が上限値DLIM以下である場合には、減速度の抑制を行う必要がないと判定し、減速度抑制処理ルーチンを終了する。減速度が上限値DLImよりも大きい場合には、設定された減速度を抑制する処理として、減速度に値DLIMを代入する(ステップS152)。スノーモードスイッチは、雪道のように低摩擦係数の路面を走行しているときに運転者が操作するスイッチである。低摩擦係数の路面を走行中に急激な制動を行えば、車両がスリップする可能性がある。運転者がスノーモードスイッチをオンにすると、減速度の上限値は車両のスリップを回避できる程度の値として予め設定された値に抑制されるのである。
なお、減速度抑制処理は所定の周期で繰り返し実行されるルーチンである。従って、制動を開始した後にスノーモードスイッチをオンにした場合は、該スイッチをオンにした後、減速度抑制処理ルーチンが実行された時点から、減速度の上限値が抑制されるようになる。逆に、制動を開始した後にスノーモードスイッチをオフにした場合は、該スイッチをオフにした後、減速度抑制処理ルーチンが実行された時点から、減速度の上限値の抑制が解除されるようになる。減速度抑制処理ルーチンは比較的短い間隔で繰り返し実行されているから、スイッチの操作後、減速度の抑制または解除が行われるまでのタイムラグは実際の使用では問題とならない。このように本実施例のハイブリッド車両では、スノーモードスイッチの操作は、制動開始前のみならず、制動開始後でも有効に行うことができる。
CPUは、上述の処理と併せて、減速度の設定が抑制されたことを運転者に報知するための処理を行う(ステップS154)。本実施例では、減速度インジケータ224を1秒程度の間、点滅させるものとしている。また、これに併せて警報音を発するものとしている。これらの報知は、図8に示した警報音、設定減速度インジケータの制御信号にそれぞれ適切な信号を出力することで実現される。CCPUは以上の処理により、スノーモードスイッチのオン・オフに応じて設定された減速度を所定の上限値DLIM以下に抑制すると減速度抑制処理ルーチンを終了して、減速度設定処理ルーチン(図17)に戻る。減速度設定処理ルーチンでは、CPUは設定された減速度を減速度インジケータ224(図7参照)に表示して(ステップS160)、減速度設定処理ルーチンを終了する。
上記処理(ステップS120〜S140)によって、目標減速度の設定が変更される様子を図19〜図22の具体例に基づいて説明する。図19は、第1の設定例を示すタイムチャートである。横軸に時間を取り、DecelスイッチおよびCan−Decelスイッチの操作の有無、目標目標減速度の設定値の変化、設定された減速度を実現するためのモータ20のトルクおよび変速段の変化の様子をそれぞれ図示した。なお、図19は車速が一定であるものとして図示した。
時刻a1において、Decelスイッチがオンにされたものとする。図17のフローチャートでは明記しなかったが、本実施例では、所定時間以上連続でオンとなった場合にのみ設定の変更を受け付けるものとしている。つまり、CPUは、減速度設定処理ルーチン(図17)のステップS105において、スイッチが所定時間以上連続でオンとなっているか否かの判断を踏まえて、スイッチの操作結果を入力しているのである。一般にスイッチにはチャタリングと呼ばれる現象によって、オン・オフの切り替え時に非常に短い周期でオン・オフの信号が交互に検出されるのが通常である。所定時間経過時に設定の変更を行うものとすれば、チャタリングによって運転者の意図に反して減速度が大きく変更することを回避できる。
また、所定時間操作されて初めてスイッチの入力を受け付けることによって、運転者が意図せずスイッチに触れただけで目標減速度の設定が変化することを回避できる。本実施例では、ステアリング部にDecelスイッチおよびCan−Decelスイッチを設けているため、偶発的な操作による目標減速度の設定の変更を回避する手段は特に有効性が高い。
上述の所定時間(以下、オン判定基準時間と呼ぶ)は、このように運転者がスイッチを意図的に操作したか否かを判断する基準として設定することができる。オン判定基準時間が短ければ、運転者の偶発的な操作で目標減速度の設定が変更される可能性が高くなる。逆に、オン判定基準時間が長ければ、DecelスイッチおよびCan−Decelスイッチの応答性が悪くなる。オン判定基準時間は、これらの条件を考慮した上で、適切な値を実験等によって設定することができる。もちろん、運転者が自己に適した値に設定可能としてもよい。
図19の例では、時刻a1〜a2までの時間は、上述したオン判定基準時間を超えている。従って、時刻a2で設定された減速度が一段階大きくなる。図11で説明した通り、本実施例では変速段とモータのトルクの双方を組み合わせて制御することにより、幅広い範囲で任意の減速度を実現することができる。図11から明らかな通り、減速度の範囲は、変速段を切り替えることで大きく変動し、モータのトルクを制御することで細かく変更することができる。本実施例では、設定された減速度は、比較的細かな範囲で段階的に変更される。図19の時刻a2の時点で変更されたステップは、図示する通り、変速段の変更を伴わず、モータのトルクを変更することによって変更可能な範囲のステップである。なお、変速段は、第5速(5th)が初期値となる場合を例にとって説明した。
次に、時刻a3〜a4の間、オン判定基準時間を超えてDecelスイッチがオンになると、図示する通り、設定された減速度は更に一段階増大する。本実施例では、図示する通り、減速度の2度目の変更も変速段の切り替えを伴うことなく、モータのトルクの変更で実現される。このように、本実施例では、減速度のステップが細かな刻みに設定されている。こうすることにより、変速段の切り替えを伴わずに、目標減速度の設定を変更できる選択範囲が広がるため、運転者は自己の要求に適合した減速度を容易に設定することができる。従って、図19に示す通り、モータのトルクは、時刻a4の時点で変化するが、変速段は第5速(5th)のまま維持される。
本実施例では、スイッチの操作を受け付けるための条件として、オン判定基準時間の他、スイッチを連続的に操作した場合の間隔に関する操作間隔基準時間が設定されている。つまり、スイッチが連続的に操作された場合、最初の操作の後、上述の操作間隔基準時間以上経過してから後の操作がなされた場合にのみ、後の操作は有効なものとして受け付けられる。CPUは、減速度設定処理ルーチン(図17)のステップS105において、前回の操作から操作間隔基準時間以上経過しているか否かの判定を行った上で、スイッチの操作を入力しているのである。
例えば、図19において、時刻a5〜a6の間で3回目の操作として、Decelスイッチが操作されている。操作時間は、オン判定基準時間を超えている。しかし、ここでの操作は前回の操作の後、時刻a4〜a5に相当するわずかの時間しか経過していない。本実施例では、この時間は、操作間隔基準時間よりも短い。従って、オン判定基準時間を超える時間操作されているにも関わらず、3回目の操作は有効な操作として受け付けられず、目標目標減速度の設定、モータのトルク、変速段のいずれも変化しない。
このように操作間隔基準時間を設けることによって、運転者の操作に基づき過度に急激に目標減速度の設定が変更されるのを回避することができる。運転者が減速度を変更した場合、実際に該減速度での減速が行われるまでには、所定の時間遅れが生じるのが通常である。ところが、操作間隔基準時間を設けることなく、目標減速度の設定の変更を受け付けた場合、該設定によって実現される減速度を確認することなく、目標減速度の設定を次々に変更する可能性がある。この結果、運転者の意図以上に急激に減速度が変更される可能性もある。本実施例では、操作間隔基準時間を設けることにより、かかる事態を回避しているのである。
操作間隔基準時間は、かかる意図を満たすよう、実験等によって設定することができる。操作間隔基準時間が短ければ、目標減速度の設定の変化を十分緩やかにすることができない。逆に、操作間隔基準時間が長ければ、目標減速度の設定の変化に長時間を要することになり、操作性が低下する。操作間隔基準時間は、これらの条件を考慮して、適切な値を実験等により設定することができる。もちろん、運転者が自己に適した値に設定可能としてもよい。
図19の例では、4回目の操作として時刻a7〜a8の間でDecelスイッチが操作されている。この操作時間は、オン判定基準時間を超えている。従って、4回目の操作に応じて設定された減速度は更に増す。Decelスイッチを操作する前の基準の減速度から3段階増したことになる。本実施例では、モータのトルクを制御するのみではかかる減速度は実現できない設定となっている。従って、4回目の操作時には、設定された減速度の増加に応じて、変速段が第5速(5th)から第4速(4th)に変更される。変速段の切り替えは、既に説明した通り図11のマップに基づいてなされる。変速段を第4速に切り替えることによって、実現可能な減速度の範囲が全体的に大きくなる。従って、4回目の操作では、基準の減速度から3段階増した減速度を実現するために、モータのトルクを減じている。モータのトルクは、図11のマップに従って、設定された設定された減速度および変速段に基づき設定される。
なお、減速度の増加に応じて変速段を切り替えることは、要求された減速度を実現する目的の他、速やかな加速を実現するという利点も有している。一般に大きな減速度で制動を行った後は、制動前の車速に戻すために速やかな加速が要求されることが多い。減速度の増加とともに変速比が大きい側に変速段を切り替えておけば、制動後にその変速段を用いて速やかな加速を行うことができる。従って、設定された減速度に応じて変速段を切り替えることによって加減速時の車両の応答性を向上することができる。
以上では、減速度を増す側の操作について説明したが、減速度を低減する側の操作についても同様である。図19に示す通り、時刻a9〜a10では、5回目の操作としてCan−Decelスイッチが操作されている。操作時間は、オン判定基準時間を超えている。従って、この操作に応じて設定された減速度は一段階低くなり、時刻a4で設定された減速度に等しくなる。また、この減速度を実現するために、変速段およびモータのトルクも同時に変更される。
次に、時刻a11〜a12において、6回目の操作としてCan−Decelスイッチが操作されている。この操作時間は、オン判定基準時間よりも短い。従って、この操作は無効と判定され、設定された減速度、モータのトルク、変速段のいずれも変化しない。図19では例示していないが、Can−Decelスイッチの操作間隔が操作間隔基準時間よりも短い場合も同様に、その操作は無効と判定され、設定された減速度等は変化しない。
次に、設定された減速度の第2の設定例について説明する。図20は、第2の設定例を示すタイムチャートである。図示する通り、時刻b1〜b2の間でDecelスイッチが操作されたものとする。操作時間は、先に説明したオン判定基準時間を超えているものとする。第1の設定例で説明した通り、かかる操作に応じて設定された減速度は一段階増加する。また、かかる減速度を実現するようにモータのトルクも増加する。
次に、時刻b3〜b6の間で2回目の操作としてDecelスイッチが操作されたものとする。先に説明したオン判定基準時間を超えているものとする。但し、この場合には、Decelスイッチの操作と併せて、時刻b4〜b6の間でCan−Decelスイッチも操作されている。Decelスイッチの操作が開始された時刻b3からCan−Decelスイッチの操作が開始される時刻b4までの時間は、オン判定基準時間よりも短いものとする。従って、Can−Decelスイッチの操作が開始された時刻b4の時点では、Decelスイッチの操作は有効なものとして受け付けられてはいない。
先に減速度設定処理ルーチンで説明した通り、制御ユニット70のCPUはDecelスイッチとCan−Decelスイッチとが同時に操作された場合には、目標減速度の設定を変更しない(図17のステップS120参照)。従って、図20に示す通り、時刻b3〜b5の間でオン判定基準時間を超えてDecelスイッチが操作されているにも関わらず、設定された減速度、モータのトルク、変速段のいずれも変化しない。なお、図20では、Decelスイッチのみが操作されている時間(時刻b3〜b4の間)、およびCan−Decelスイッチのみが操作されている時間(時刻b5〜b6の間)のいずれもがオン判定基準時間を超えていないからである。例えば、時刻b3〜b4の間がオン判定基準時間を超えている場合には、Decelスイッチの操作によって設定された減速度が一段階増大する。時刻b5〜b6の間がオン判定基準時間を超えている場合には、Can−Decelスイッチの操作によって設定された減速度が一段階低減する。
次に、操作間隔基準時間以上の間隔を経た後に、3回目の操作として時刻b7〜b8の間でオン判定基準時間を超えてDecelスイッチが操作されると、スイッチの操作が有効なものとして受け付けられ、目標目標減速度の設定が一段階増加する。これに併せてモータのトルクも増す。
2回目の操作では、Decelスイッチの操作が開始された後に、Can−Decelスイッチの操作が行われた場合について説明した。両スイッチが同時に操作された場合に目標減速度の設定が変化しないのは、Can−Decelスイッチが先に操作された場合も同様である。図20に示す通り、時刻b9〜b11の間で4回目の操作としてCan−Decelスイッチが操作されている。この操作と併せて時刻b10〜b12の間でDecelスイッチが操作されている。時刻b10〜b11の間では、双方のスイッチが同時に操作されていることになる。かかる場合にも、2回目の操作で説明したのと同様、設定された減速度、モータのトルクおよび変速段のいずれも変化しない。
DecelスイッチとCan−Decelスイッチとが同時に操作されている場合には、目標減速度の設定を維持するため、誤操作によって運転者の意図に反して減速度が変更されるのを回避することができる。また、こうすることにより、DecelスイッチとCan−Decelスイッチの操作タイミングによって、頻繁に目標目標減速度の設定が変動することを抑制することもできる。
第1および第2の設定例(図19および図20)では、設定された減速度がDecelスイッチおよびCan−Decelスイッチの操作回数に応じて段階的に変化する場合を示した。かかる態様で目標減速度を設定するものとすれば、節度感のある設定が可能となる。また、目標減速度が段階的に変化するため、比較的短時間の操作で幅広く目標減速度を変更することができ、操作性に優れるという利点もある。これに対し、目標目標減速度の設定がスイッチの操作時間に応じて連続的に変化するように構成してもよい。操作時間に応じて目標減速度の設定が変更する場合の例を、第3の設定例として図21に示す。
この例では、1回目の操作として、時刻c1〜c3の間でDecelスイッチが操作されている。第1および第2の設定例と同じく、スイッチの操作はオン判定基準時間を経過した時点で有効なものとして受け付けられる。図21の例では、時刻c1〜c2の間隔がオン判定基準時間に相当する。1回目の操作では時刻c2〜c3の間でDecelスイッチの操作時間に比例して設定された減速度が増大する。また、かかる設定された減速度を実現するため、モータのトルクも同時に変化する。
2回目の操作として、時刻c4〜c6の間でDecelスイッチが操作されると、操作の開始からオン判定基準時間だけ経過した時刻c5以降、Decelスイッチの操作時間に応じて設定された減速度が増大する。また、これに併せてモータのトルクも変化する。なお、第3の設定例では、1回目および2回目の操作による設定された減速度はモータのトルクを変化させることで実現可能であるため、変速段は変化していない。設定された減速度がモータのトルクの変化のみでは実現できない程度に変化した場合には、図11のマップに基づき、変速段が切り替えられる。
その後、3回目の操作として、時刻c7〜c8の間でDecelスイッチが操作されている。但し、2回目の操作が終了した時刻c6から3回目の操作が開始される時刻c7までの間隔は、操作間隔基準時間よりも短い。従って、第1および第2の設定例と同様、3回目の操作は有効なものとして受け付けられず、設定された減速度は変化しない。
4回目の操作として、時刻c9〜c10の間でDecelスイッチが操作されている。この操作時間は、オン判定基準時間よりも短い。従って、4回目の操作は有効なものとして受け付けられず、設定された減速度は変化しない。
第3の設定例では、設定された減速度を増大する側のみならず、低減する側もCan−Decelスイッチの操作時間に応じて設定が変化する。時刻c11〜c13の間で5回目の操作としてCan−Decelスイッチが操作されると、オン判定基準時間を経過した時刻c12以降で、スイッチの操作時間に比例して設定された減速度が低減する。
その後、6回目の操作として時刻c14〜c15の間でCan−Decelスイッチが操作されている。この操作時間は、オン判定基準時間よりも短い。従って、6回目の操作は有効なものとして受け付けられず、設定された減速度は変化しない。
第3の設定例のように、スイッチの操作時間に応じて連続的に設定された減速度が変化するものとすれば、スイッチを何度も操作することなく運転者が所望の減速度を得ることができる利点がある。また、目標減速度が連続的に変化するため、運転者の意図に応じて目標減速度を緻密に設定可能となる利点もある。なお、第3の設定例では、スイッチの操作時間に比例して設定された減速度が変化するものとしているが、操作時間に対して非線形に設定された減速度が変化するものとしてもよい。例えば、操作開始当初は比較的緩やかに設定された減速度が変化し、操作時間が長くなるにつれて速やかに設定された減速度が変化するようにしてもよい。
次に、第4の設定例として設定された減速度がリジェクト範囲に入る場合の例を図22に示す。第4の設定例では、1回目の操作として、時刻d1〜d3までの間にDecelスイッチが操作されている。操作開始からオン判定基準時間が経過した時刻d2において、Decelスイッチの操作は有効なものとして受け付けられ、設定された減速度は一段階増加する。これに併せてモータのトルクも増加する。
2回目の操作として、時刻d4〜d6の間にDecelスイッチが操作された場合も同様に、オン判定基準時間を経過した時刻d5において、Decelスイッチの操作は有効なものとして受け付けられ、設定された減速度は一段階増加する。これに併せてモータのトルクも増加する。
3回目の操作として、時刻d7〜d9までの間にDecelスイッチが操作された場合も同様に、オン判定基準時間を経過した時刻d8において、Decelスイッチの操作は有効なものとして受け付けられ、設定された減速度は増加する。設定された減速度の上限値が制限されていない場合には、図22中に一点鎖線で示す通り、設定された減速度が一段階増加する。この場合、第1の設定例(図19)と同様、モータのトルクおよび変速段も変化する。
第4の設定例では、減速度の上限値がDClimに制限されているものとする。3回目の操作で設定された減速度を一点鎖線で示す値に変更すると、設定された減速度はこの上限値DClimを超えることになる。かかる場合には、設定された減速度がリジェクト範囲にあることになるから、先に説明したとおり(図17のステップS150参照)、設定された減速度は上限値DClimに抑制され、図22中に実線で示した値となる。また、これに併せてモータのトルクおよび変速段もそれぞれ実線で示した設定値となる。図22では、抑制前に比べてモータのトルクが増し、変速段が第5速(5th)を維持する設定となっているが、これらは減速度DClimを実現するように図11のマップに従って設定された結果である。必ずしも変速段およびモータのトルクが抑制前とかかる関係にあるとは限らない。
以上の具体例で示した通り、本実施例のハイブリッド車両は、DecelスイッチおよびCan−Decelスイッチを操作することにより、運転者が種々の設定された減速度を設定することができる。また、誤操作や頻繁な操作などによって、運転者が意図せず、減速度が変更されることを抑制することができる。
減速度設定処理が終了すると、CPUは減速制御処理ルーチン(図15)に戻り、動力源ブレーキによる制動を行うか否かの基準として、アクセルペダルがオフとなっているか否かを判定する(ステップS200)。かかる判定は、アクセル開度の入力信号(図8参照)に基づいて行われる。アクセルペダルがオフとなっていない場合には、動力源ブレーキによる制動を行うべき状態ではないため、CPUは何ら処理を行うことなく減速制御処理ルーチンを終了する。
アクセルペダルがオフとなっている場合には、CPUは、Eポジション制動が許可されている状態か否かを判定する(ステップS205)。先に減速度設定処理ルーチン(図17)において説明した通り、スイッチが故障している場合には、Eポジション制動を禁止するための禁止フラグがオンになっている(図17のステップS180)。このフラグがオンになっている場合には、Eポジション制動が許可されない状態と判定される。その他、シフトレバーがEポジションにない場合にもEポジション制動が許可されない状態と判定される。
ステップS205において、Eポジション制動が許可されない状態であると判定された場合には、CPUは通常制動処理として、モータ20の目標トルクを所定の負の値Tm0に設定する(ステップS210)。所定値Tm0は、モータ20の定格の範囲内でいかなる値にも設定可能である。本実施例では、Dポジションにおいて、動力源ブレーキにより過不足ない減速度が得られる程度の値に設定してある。
一方、ステップS205において、Eポジション制動が許可される状態であると判定された場合には、CPUはEポジション制動処理を実行する。具体的には、まず変速段の選択を図23に示した処理に基づいて行う(ステップS215)。
図23は、変速段選択処理のフローチャートである。変速段選択処理では、CPUはまずEポジションが選択された直後であるか否かを判定する(ステップS220)。初期設定処理ルーチン(図16)のステップS20と同様、DポジションからEポジションへの切り替えが行われた直後であるか否かを判定するのである。直後とは、Eポジションへの切り替え後、目標目標減速度の設定が変更されるまでの期間を意味する。
Eポジションが選択された直後であると判定された場合には、CPUは次に設定された減速度がDポジションで使用していた変速段で実現可能であるか否かを判定する(ステップS222)。初期設定処理ルーチン(図16)で説明した通り、DポジションからEポジションへの切り替えが行われた場合には、使用すべき変速段の初期値としてDポジションで使用されていた変速段が設定されている。CPUは、ステップS222において、かかる変速段で設定された減速度が実現可能であるか否かを判定し、実現可能であると判定した場合には、変速段の設定を初期値、即ちDポジションで使用されていた変速段に決定する(ステップS224)。なお、設定された減速度は、先に説明した通り、最低限確保すべき減速度を意味している。従って、ステップS222では、Dポジションで使用されていた変速段で実現可能な最大減速度が設定された減速度以上であれば、設定された減速度を実現可能であると判定される。
ステップS220においてEポジションが選択された直後ではないと判定された場合、およびステップS224においてDポジションで使用していた変速段では設定された減速度が実現できないと判定された場合には、図11に示したマップに基づいて変速段の設定を行う。CPUは、設定された減速度に応じて該マップを参照し、設定された減速度を実現可能な変速段が2つ以上存在するか否かを判定する(ステップS226)。設定された減速度を実現する変速段が1つだけしか存在しない場合には、変速段の設定をマップから求められる変速段に決定する(ステップS228)。
設定された減速度を実現する変速段が2つあると判定された場合には、バッテリ50の残容量SOCを参照し、SOCが所定の値H以上であるか否かを判定する(ステップS230)。先に図13で説明した通り、各変速段において、モータ20を回生運転することによって実現される減速度と、モータ20を力行運転することによって実現される減速度とがある。設定された減速度に対して2つの変速段が対応している場合、一方の変速段ではモータ20の回生運転により設定された減速度が実現され、他方の変速段ではモータ20の力行運転により設定された減速度が実現される。従って、設定された減速度に対して2つの変速段が対応する場合には、バッテリ50の残容量SOCに応じて、適した変速段を選択することができる。
残容量SOCが所定値H以上である場合には、バッテリ50の過充電を回避するため、電力を消費することが望ましい。従って、CPUはモータ20を力行運転して設定された減速度を実現する側の変速段、即ち2つの変速段のうち変速比が大きい側の変速段を選択する(ステップS232)。残容量SOCが所定値Hよりも小さい場合には、バッテリ50を充電することが望ましい。従って、CPUはモータ20を回生運転して設定された減速度を実現する側の変速段、即ち2つの変速段のうち変速比が小さい側の変速段を選択する(ステップS234)。もちろん、2つの変速段の選択が残容量SOCに応じて頻繁に切り替わるのを防止するため、ステップS230の判定には所定のヒステリシスを設けることが好ましい。
以上の処理によって、使用すべき変速段が設定されると、CPUは減速制御処理ルーチンに戻り変速段の切り替え処理を実行する(ステップS240)。変速段の切り替えは、変速機制御信号(図8参照)に所定の信号を出力し、図3で示した通り設定された変速段に応じて変速機100のクラッチ、ブレーキのオン・オフを制御することで実現される。
こうして変速段の切り替えが完了すると、CPUはモータ20が出力すべきトルクの目標値を演算する(ステップS245)。変速段に応じて、先に式(2)〜(6)で示した変速比k1〜k5を用いれば、設定された減速度、即ち車軸17に出力されるトルクに基づいて、エンジン10とモータ20の動力源から出力すべき総トルクを算出することができる。エンジン10から出力される制動力、いわゆるエンジンブレーキは、クランクシャフト12の回転数に応じてほぼ一義的に決まる。従って、動力源から出力する総トルクからエンジンブレーキによるトルクを減ずることによりモータ20で出力すべきトルクを求めることができる。
本実施例では、このように演算によりモータ20の目標トルクを求めるものとしているが、図11のマップと併せて、モータ20の目標トルクを与えるマップを用意するものとしても構わない。また、車両の減速度を加速度センサで検出し、設定された減速度が実現されるようにモータ20のトルクをフィードバック制御するものとしてもよい。なお、図15のフローチャートでは、図示の都合上、変速段の切り替え処理が終了してからモータトルクを演算するものとしているが、切り替え処理と並行して演算するものとしても構わないことは当然である。
以上の処理により、通常制動処理、Eポジション制動処理のそれぞれに応じてfモータの目標トルクが設定された。CPUは、制動制御処理(ステップS250)として、モータ20の運転およびエンジン10の運転の制御を実行する。エンジン10の制御は、エンジンブレーキをかけるための制御として、CPUはエンジン10への燃料の噴射および点火を停止する。エンジン10に装備されているVVT機構の制御も同時に行うことも可能ではあるが、本実施例では動力源ブレーキの制動力はモータ20のトルクで制御可能であるため、VVT機構の制御は行っていない。
モータ20は、いわゆるPWM制御により運転される。CPUはステータ24のコイルに印可すべき電圧値を設定する。かかる電圧値は予め設定されたテーブルに基づいて、モータ20の回転数および目標トルクに応じて与えられる。モータ20が回生運転する場合には電圧値は負の値として設定され、力行運転する場合には電圧値は正の値として設定される。CPUは、かかる電圧がコイルに印可されるように駆動回路40の各トランジスタのオン・オフを制御する。PWM制御は周知の技術であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
以上で説明した減速制御処理ルーチンを繰り返し実行することにより、本実施例のハイブリッド車両は、動力源ブレーキによる制動を行うことができる。もちろん、かかる制動に併せてホイールブレーキによる制動を行うことも可能であることはいうまでもない。
以上で説明した本実施例のハイブリッド車両によれば、図11に示したマップに応じて変速機100の変速段を切り替えつつ、モータ20のトルクを制御することにより、幅広い範囲で運転者の指示に応じた減速度での制動を実現できる。この結果、アクセルペダルとブレーキペダルとの踏み換えを極力抑えて車両の制動および加速を行うことができ、車両の操作性を大きく向上することができる。
また、動力源ブレーキを幅広い範囲で適用可能とすることにより、車両の運動エネルギを効率的に回収可能となるから、車両のエネルギ効率が向上するという利点もある。
本実施例のハイブリッド車両は、スノーモードにおいて、運転者が設定した減速度を抑制する処理を実行するため、運転者が必要以上に大きな減速度を設定することを回避できる。従って、雪道など摩擦係数が比較的低い路面状況において、大きな減速度での制動を行ってスリップが発生することを回避することができる。この結果、車両の走行安定性を十分に確保することができる。また、運転者は、スリップの発生の懸念なく、減速度の設定を変更できるため、車両の操作性を向上することもできる。
なお、本実施例のハイブリッド車両では、スノーモードスイッチをシフトレバー近傍に配置した(図4参照)。シフトレバーは比較的操作しやすい場所に設けられているのが通常である。従って、スノーモードスイッチをシフトレバー近傍に設けることにより、運転者にとって操作性に優れたスイッチを提供することができる。スノーモードスイッチは、本実施例の形態の他、シフトレバー自体に設けるものとしてもよいし、ステアリング部に設けるものとしてもよい。その他、種々の形態のスイッチを設けることが可能である。
本実施例のハイブリッド車両は、減速度の上限値が抑制された場合、運転者が設定した減速度が実現されないことを表示することができる。この結果、運転者は、実現される減速度に違和感なく運転を継続することができる。また、運転者の故障に対する懸念を回避することもできる。
本実施例のハイブリッド車両は、設定された減速度に対して2つの変速段が対応するようにマップを設定している(図11)。しかも2つの変速段のうち一方はモータ20が回生運転する状態に対応し、他方はモータ20が力行運転する状態に対応している。このようにマップを設定することによって、本実施例のハイブリッド車両は、バッテリ50の残容量SOCに応じて適切な変速段を選択して動力源ブレーキによる制動を行うことができる。この結果、本実施例のハイブリッド車両は、バッテリ50の残容量SOCに関わらず動力源ブレーキを使用することができ、操作性に優れた走行を実現することができる。
A4.第1実施例における第1の変形例
本実施例では、スノーモードスイッチがオンとなった場合には、減速度を所定の上限値以下に抑制する形で減速度抑制処理を実行した(図18参照)。減速度の抑制はこの他にも種々の態様で実現可能である。図24は、変形例としての減速度抑制処理ルーチンのフローチャートである。変形例では運転者がスノーモードスイッチを操作するか否かに依らず、車両の走行状態をCPUが検知して減速度を抑制を実行する。
変形例としての減速度抑制処理が開始されると、CPUは駆動輪18Rの回転数NWR、および駆動輪18Lの回転数NWLを入力する(ステップS302)。先に図8で説明した通り、本実施例では車速を検出するために左右の駆動輪18L,18Rの回転数を入力している。ステップS302では、それぞれの回転数を個別に入力するのである。
次にCPUは、両回転数NWL,NWRの差分の絶対値を演算し、該絶対値が所定の基準値SLIPを超えているか否かを判定する(ステップS304)。基準値SLIPは、駆動輪18L,18Rにスリップが生じているか否かの判定基準となる値である。一般にスリップが生じていない場合には、駆動輪18L,18Rの回転数はほぼ一致する。車両が進路を変更している場合には、内輪差により両駆動輪18L,18Rの回転数に若干の差が生じる。スリップが生じた場合には、かかる差を超える程の大きな回転数差が生じる。基準値SLIPは、進路変更中に生じる回転数差よりは大きく、スリップ時に生じる回転数差よりは小さい範囲で設定された基準値である。
駆動輪18L,18Rの回転数差が基準値SLIP以下であると判定された場合には、スリップが生じていないと判定し、CPUは減速度抑制処理ルーチンを終了する。回転数差が基準値SLIPよりも大きいと判定された場合には、スリップが生じていると判定し、CPUは設定された減速度を所定の刻みΔDCだけ減じる処理を行う(ステップS306)。そして、減速度が抑制されたことを運転者に報知するための表示を行う(ステップS308)。この表示の方法は、実施例で説明した表示(図18のステップS154参照)と同様である。
こうして減速度を低減した後、CPUは再び駆動輪の回転数NWR,NWLを読み込み(ステップS302)、スリップが生じているか否かを判定する(ステップS304)。こうして、スリップが発生しなくなるまで、設定された減速度を所定の刻みΔDCずつ低減する。
減速度の抑制をこのようにフィードバック制御により実行するものとすれば、スリップの発生を確実に回避することができる。実施例(図18)ではスリップが生じる確率が非常に低いと考えられる上限値に減速度を抑制するため、わずかとはいえ、スリップが生じる可能性は残されている。これに対し、変形例の処理によれば確実にスリップを回避することができる点でより走行安定性を向上することができる。変形例の処理によれば、スリップが生じなくなるまで、徐々に減速度を減らすため、減速度の設定範囲を不要に狭めることを回避できるという利点もある。なお、図24では、一定の刻みΔDCずつ減速度の設定を低減しているが、かかる刻みは必ずしも一定値に限る必要はなく、フィードバック制御で用いられる種々の方法により設定することが可能である。
なお、変形例の減速度抑制処理ルーチンは、実施例の減速度抑制処理ルーチン(図18)に換えて用いるものとしてもよいし、実施例の処理と共に用いるものとしてもよい。実施例の処理と共に用いるものとしておけば、運転者の意思および車両の走行状態の検知の双方に基づいて、減速度を抑制することも可能となるため、車両の走行安定性をより向上させることができる。
減速度の抑制は、この他にも種々の態様で行うことができる。図25は、減速度の抑制の方法について示す説明図である。図25は、横軸にDecelスイッチの操作回数、縦軸に減速度をとって、Decelスイッチの操作に応じて減速度が段階的に増加していく様子を示している。減速度の抑制が行われない場合には、図中のグラフLL1で示される通り、減速度はDecelスイッチの1回目の操作でポイントP1相当のレベルまで増加し、2回目の操作でポイントP3、3回目の操作でポイントP4、4回目の操作でポイントP7まで増加する。
図中の直線LL2は、本実施例のように減速度の上限値を抑制した場合の様子を示した。スノーモードスイッチがオンになった場合の減速度の上限値をポイントP5相当とする。Decelスイッチの3回目以降の操作では、本来ならば減速度はポイントP4およびP7相当のレベルまで増加するはずであるが、減速度の抑制処理が行われると、その上限値がポイントP5相当にまで抑制される。従って、減速度は直線LL2で示すように変化することになる。
この他、Decelスイッチの操作に対する減速度の増加の割合を全体的に減らすことにより、減速度の上限値を抑制するものとすることもできる。かかる態様による抑制の結果を示したのが、図中のグラフLL3である。例えば、スノーモードスイッチがオンになった場合には、Decelスイッチの1回目の操作で通常の減速度よりも低い、ポイントP2相当のレベルまで減速度が増加し、2回目の操作ではポイントp1相当、3回目の操作ではポイントP6、4回目の操作ではポイントP7のレベルまで増加する。Decelスイッチを4回操作した結果、スノーモードスイッチがオフとなっている場合には、ポイントP7相当のレベルに減速度が設定されているのに対し、スノーモードスイッチがオンになっている場合には、それよりも低いポイントP3相当に減速度が抑制されることになる。なお、図25では、図の煩雑さを回避するため、直線LL2の上限値と、LL3の上限値とを異なる値として示した。
ここでは、減速度が段階的に変化する場合について抑制処理の内容を説明したが、減速度が連続的に変化する場合も同様の処理を適用することが可能である。つまり、減速度の上限値を単純に所定値以下に抑制するものとしてもよいし、操作部の操作量に対して減速度が変化する割合を緩やかにすることで減速度の上限値を抑制するものとしてもよい。また、これまでの説明では、減速度の上限値は、予め定めた一定値として扱ったが、運転者の操作または車両の走行状態などに応じて段階的に変化する値としてもよい。
以上の実施例及び変形例では、減速度の上限値を抑制する場合を例にとって説明した。これに対し、本発明は減速度の下限値を抑制する態様で適用することも可能である。例えば、車両の間隔が比較的狭い走行状態にある場合には、十分な車間距離を確保するために、ある程度の大きさ以上の減速度を確保することが望ましい。かかる場合に、例えば、運転者がスノーモードスイッチ(図4)と類似のスイッチを操作することによって減速度の下限値を所定値以上に制限する処理を行うものとすることができる。また、電波やレーザなどを利用して前後の車両との間隔を測定可能なセンサを搭載した車両では、車間が所定間隔以上になるようにフィードバック制御によって減速度の下限値を変更するものとしてもよい。
以上の実施例及び変形例では、スノーモードスイッチの操作等に応じて、減速度の設定可能範囲を狭める場合について説明した。これとは逆に、本発明は、所定の条件下で減速度の設定可能範囲を広げる方向に変更する態様で適用するものとしてもよい。例えば、図25において、直線LL2で示される範囲を通常の減速度の設定可能範囲としておき、運転者が所定のスイッチを操作した場合には、図25中のグラフLL1で示される範囲にまで減速度の設定可能範囲が広がるものとしてもよい。
A5.第1実施例における第2の変形例
本実施例では、ある車速に対応した減速度を実現する変速段が2つ存在する場合を例にとって説明した。しかも、一方はモータ20の回生運転に対応し、他方はモータ20の力行運転に対応する場合を例にとって説明した。本発明は、かかる態様のみならず、所定の減速度を実現する変速段が3つ以上存在する場合に適用することも可能である。また、変速段の全てがモータ20の回生運転または力行運転のいずれか一方にのみ対応する場合に適用することも可能である。
図26は、車速および減速度と、変速段との組み合わせのマップの変形例を示す説明図である。この変形例では、例えば、図中の領域Aに示す減速度については、第3速(3rd)〜第5速(5th)までの3種類の変速段で実現可能に設定されている。
図27は、領域Aに示す減速度を例にとって、この減速度を得るための変速段と、動力源の回転数、エンジンブレーキ、回生トルクとの関係を示す説明図である。車速、即ち車軸17の回転数が一定であっても、動力源としてのモータ20およびエンジン10の回転数は、変速段が第3速(3rd)から第5速(5th)に移行するにつれて低くなっていく。図27では、一定の割合で回転数が低減するように示したが、各変速段で実現されるギヤ比によって回転数の変化の割合は異なる。
エンジン10の回転数が変化すれば、エンジンブレーキによる制動力も変化する。図27の中段には各変速段におけるエンジンブレーキの制動力を示した。第3速(3rd)から第5速(5th)に移行し、回転数が低下するにつれて、エンジンブレーキによる制動力は低下する。
エンジンブレーキによる制動力の低下により、図26中の領域Aに示す減速度を実現するために必要となるモータ20の制動トルクは増加する。図27の下段には、かかる回生トルクの変化を示した。なお、変形例では、第3速(3rd)〜第5速(5th)まで全ての場合において、モータ20は回生運転されるものとして示した。第3速(3rd)では力行運転に対応するように設定しても構わない。このように所定の減速度を達成するための変速段が3つ以上存在する場合には、それぞれの変速段で電力の回生量が異なる状態を実現することができる。
図28は、変形例としての変速段選択処理ルーチンのフローチャートである。変形例では、先に示した変速段選択処理ルーチン(図23)のステップS226以降の処理が、この処理に置き換えられる。つまり、CPUは、図26のマップを参照した上で、目標減速度を実現する変速段が一つだけであるか否かを判定する(ステップS226’)。変速段が一つだけである場合には、変速段の設定を図26のマップから求められる変速段に決定する(ステップS228’)。
設定された減速度を実現する変速段が複数あると判定された場合には、次に変速段が2つであるか否かを判定する(ステップS227)。変速段が2つであると判定された場合には、バッテリ50の残容量SOCを参照し、SOCが所定の値H以上であるか否かを判定する(ステップS230)。残容量SOCが所定値H以上である場合には、バッテリ50の過充電を回避するため、電力の回生量が少ない側の変速段、即ち2つの変速段のうち変速比が大きい側の変速段を選択する(ステップS232)。残容量SOCが所定値Hよりも小さい場合には、バッテリ50の充電に適した変速段、即ち2つの変速段のうち変速比が小さい側の変速段を選択する(ステップS234)。この処理は、実施例で説明した処理(図23)と同様である。
変速段が2つでないと判定された場合、即ち変速段が3つある場合には、CPUは、バッテリ50の残容量SOCを2つの所定の閾値H1,H2と比較する(ステップS236)。これらの閾値はH1<H2なる関係がある。残容量SOCが閾値H2以上である場合には、最も充電に適した変速段、即ち変速比が最も大きい変速段を選択する(ステップS237)。残容量SOCが閾値H2よりも小さく、H1以上である場合には、3つの変速段のうち変速比が中間の変速段を選択する(ステップS238)。残容量SOCが閾値H1よりも小さい場合には、回生電力が最も少ない変速段、即ち変速比が最も小さい変速段を選択する(ステップS239)。
ステップS236で用いられる閾値H1,H2は、このように変速段を使い分ける基準となる値である。閾値H1,H2は、変速段ごとの回生電力に応じて、バッテリ50の充電状態に適した変速段が選択されるよう、適切な値を選択すればよい。閾値H1,H2は、ステップS230で用いる基準値HLと異なる値に設定するものとしてもよいし、いずれか一方を基準値HLと一致させてもよい。なお、変形例の変速段選択処理ルーチンにおいても、変速段の選択が残容量SOCに応じて頻繁に切り替わるのを防止するため、ステップS230およびステップS236の判定には所定のヒステリシスを設けることが好ましい。
このように3つ以上の変速段を選択可能にマップ(図26)を設定すれば、バッテリの充電状態をきめ細かく制御することが可能となる利点がある。この変形例では、第3速(3rd)から第5速(5th)まで回生制動が行われる場合を例に説明したが、全ての変速段で力行運転が行われるようにマップを設定してもよいし、回生運転と力行運転とが混在するように設定してもよいことはいうまでもない。
本実施例では、目標減速度を実現可能な変速段が複数存在する場合には、バッテリ50の残容量SOCに基づいていずれかを選択する場合を例にとって説明した。本発明は、その他の種々の条件に基づいて変速段を選択する場合に適用可能である。例えば、変速段選択処理ルーチンにおいて、従前の走行で使用していた変速段を優先して選択するものとしてもよい。こうすれば、動力源ブレーキによる制動に際し、変速段の切り替えに伴うショックを軽減することができる。また、車両の位置と地形との照合を取ることが可能な車両では、上り坂を走行中には大きい側の変速比を選択するものとすることもできる。こうすれば、制動後の加速を滑らかに行うことが可能となる。もちろん、これら種々の条件を複合した判断によって変速段を選択するものとしてもよい。
A6.第1実施例における第3の変形例
本実施例では、エンジン10とモータ20とを直結し、変速機100を介して車軸17と結合する構成からなるパラレルハイブリッド車両を示した。本発明は、他にも種々の構成からなるパラレルハイブリッド車両、即ちエンジンからの出力を車軸に直接伝達可能なハイブリッド車両に適用可能である。また、エンジンからの動力は発電にのみ使用され駆動軸には直接伝達されないシリーズハイブリッド車両に適用することも可能である。
図29は、かかるシリーズハイブリッド車両の構成を示す説明図である。図示する通り、このハイブリッド車両には動力源としてのモータ20Aがトルクコンバータ30Aおよび変速機100Aを介して車軸17Aに結合されている。エンジン10Aと発電機Gとが結合されている。エンジン10Aは車軸17Aと結合してはいない。モータ20Aは、駆動回路40Aを介してバッテリ50Aと接続されている。発電機Gは駆動回路41を介してバッテリ50Aと接続されている。駆動回路40A、41は本実施例と同様のトランジスタインバータである。これらの運転は、制御ユニット70Aにより制御される。
かかる構成を有するシリーズハイブリッド車両では、エンジン10Aから出力された動力は発電機Gにより電力に変換される。この電力はバッテリ50Aに蓄電されるとともに、モータ20Aの駆動に用いられる。車両は、モータ20Aの動力で走行することができる。また、モータ20Aから制動力として負のトルクを出力すれば、動力源ブレーキをかけることもできる。このハイブリッド車両も、変速機100Aを備えているから、モータ20Aのトルクと変速段とを組み合わせて制御することによって、本実施例のハイブリッド車両と同様、幅広い範囲で運転者が設定した減速度を実現することができる。
本実施例のハイブリッド車両では、車軸17に出力すべき総トルクからエンジブレーキによる制動トルクを引いてモータ20の目標トルクを設定した。これに対し、変形例のハイブリッド車両では、エンジンブレーキによる制動力が値0となるから、車軸17Aに出力すべき制動トルクをモータ20Aの目標トルクとすればよい。
本実施例では、変速比を段階的に切り替え可能な変速機100を用いた場合を示した。変速機100は種々の構成を適用可能であり、連続的に変速比を変更可能な機構を適用しても構わない。
また、本発明は、電動機のみを動力源とする、純粋な車両にも適用可能である。かかる車両の構成は、図29のシリーズハイブリッド車両からエンジン10A、発電機Gおよび駆動回路41を除去した構成に相当する。純粋な車両であっても、車軸に結合されたモータ20Aのトルクと変速段とを制御することによって、シリーズハイブリッド車両および本実施例のハイブリッド車両と同様、幅広い範囲で運転者が設定した減速度を実現することができる。本実施例では、運転者が目標減速度を設定する態様を示したが、車輪に作用する制動力または制動量など、その他の減速量を設定するものとしても構わない。
B.第2実施例:
B1.装置構成:
次に、本発明の第2実施例について説明する。ハードウェア構成は、シフトレバー近傍の構成を除いて第1実施例と同様である。図30は本実施例のハイブリッド車両におけるシフトポジションの操作部160を示す説明図である。この操作部160は車内の運転席横のフロアに車両の前後方向に沿って備えられている。
図示する通り、操作部としてシフトレバー162が備えられている。運転者はシフトレバー162を前後方向にスライドすることにより種々のシフトポジションを選択することができる。シフトポジションは、前方からパーキング(P)、リバース(R)、ニュートラル(N)、ドライブポジション(D)、第4ポジション(4)、第3ポジション(3)、第2ポジション(2)およびローポジション(L)の順に配列されている。
シフトポジションを選択するための操作部160には、減速度を設定するための機構としてスライドノブ161が設けられている。運転者は、スライドノブ161を前後方向にスライドさせることによって減速度を設定することができる。運転者がスライドノブ161を前方に移動すると減速度が連続的に強くなる。後方に移動すると減速度は連続的に弱くなる。スライドノブ161による減速度の設定は、シフトレバー162がいかなるシフトポジションにあっても行うことができる。スライドノブ161を減速度が増す側に移動すると、動力源ブレーキは段階的に強くなる。低減する側に移動すると、動力源ブレーキは段階的に弱くなる。
また、本実施例では、運転者が変速段を手動で切り替えることも可能となっている。変速段を自動で制御するモードと、手動で切り替えるモードとの選択がシフトレバー162の操作によってなされる。図30に示す通り、本実施例のシフトレバー162は、前後にスライドしてシフトポジションを選択することができる他、ドライブ(D)ポジションで横にスライドすることも可能である。このようにして選択されたポジションをMポジションと呼ぶものとする。シフトレバー162がMポジションにある場合には、変速段を手動で切り替えるモードが選択される。その他のシフトポジションにある場合には、変速段を自動で切り替えるモードが選択される。手動での変速段の切り替えは、後述する通り、シフトレバー162ではなく、ステアリングに設けられたスイッチにより行われる。スイッチの構成は、第1実施例の図5に示した構成をシフトアップ、シフトダウン用のスイッチとして適用することができる。
なお、操作部160には、内部にシフトポジションを検出するためのセンサ、およびシフトレバー162がMポジションにある場合にオンとなるMポジションスイッチが設けられている。これらのセンサ、スイッチの信号は後述する通り、制御ユニット70に伝達され、車両の種々の制御に用いられる。
第2実施例のハイブリッド車両も、第1実施例と同様、モータ20のトルクを制御することによって、各変速段における減速度を変更可能である。図31は、本実施例のハイブリッド車両について、各変速段における減速度の変更可能範囲を示す説明図である。モータ20のトルクを制御することにより、各変速段で実現される減速度を変更することができる。即ち、第2速(2nd)では、図中の短破線で示した範囲内で減速度を変更でき、第3速(3rd)では図中の実線で示した範囲内、第4速(4th)では図中の一点鎖線で示した範囲内、第5速(5th)では図中の長破線で示した範囲内でそれぞれ減速度を変更することができる。
運転者は、スライドノブ163を操作することによって、車両の減速度を設定することができる。本実施例では、図中の直線BL〜BUの範囲で減速度を連続的に設定することができる。但し、運転者が設定可能な減速度の範囲は、シフトポジションと連動している。例えば、シフトポジションが3ポジションにある場合には、第3速(3rd)までを使用して実現可能な範囲、即ち図中の直線B3〜BUの範囲で減速度を設定可能となる。第2実施例では、後述する通り、図31のマップに従って、運転者が設定した減速度を実現する変速比を車速に応じて選択し、制動を行う。
B2.運転制御処理:
第2実施例のハイブリッド車両は、制御ユニット70が以下に示す運転制御処理を実行して、エンジン10、モータ20等を制御することによって、上述した走行を可能としている。図32は、運転制御処理ルーチンのフローチャートである。この処理は、制御ユニット70のCPUが所定の周期で実行する処理である。
この処理が開始されると、CPUは、まず変速段設定処理を行う(ステップS510)。図33は、変速段設定処理ルーチンのフローチャートである。変速段設定処理ルーチンでは、CPUはまずスイッチの信号および車速を入力する(ステップS515)。変速段設定処理ルーチンに直接関係のある信号としては、シフトポジションを表す信号、Mポジションスイッチの信号、UPスイッチおよびDOWNスイッチの信号である。
次に、CPUは入力された信号に基づいて、シフトポジションがMポジションであるか否かを判定する(ステップS520)。この判定は、Mポジションスイッチのオン・オフに基づいてなされる。
Mポジションでない場合には、シフトポジションおよび車速に応じて変速段が設定される(ステップS525)。Mポジションでない場合には、シフトポジションおよび車速に応じて変速段を設定すると、CPUは変速段設定処理ルーチンを終了する。
Mポジションにある場合には、CPUは、Mポジションインジケータをオンにする(ステップS530)。この処理と並行して、CPUはUPスイッチおよびDOWNスイッチの操作に応じて変速段を設定する処理を行う。まず、CPUはUPスイッチがオンになっているか否かを判定する(ステップS535)。UPスイッチがオンになっている場合、CPUは使用中の変速段よりも変速段の設定を1段増段する(ステップS540)。変速段の増段とは、各変速段につけられた番号が高い側、つまり変速比が小さくなる側に変速段の設定を変更することを意味する。第2実施例の変速機100は第5速(5th)以上の変速段を有していない。従って、ステップS35の増段は、第5速(5th)までの範囲で行われる。変速段が第5速(5th)に至った後は、UPスイッチがオンになっても変速段の設定は変更されない。
ステップS535において、UPスイッチがオンになっていない場合、CPUは次にDOWNスイッチがオンになっているか否かを判定する(ステップS545)。DOWNスイッチがオンになっている場合、CPUは使用中の変速段よりも変速段を1段低減する(ステップS550)。変速段の低減とは、各変速段につけられた番号が低い側、つまり変速比が大きくなる側に変速段の設定を変更することを意味する。但し、ステップS550の低減は、第1速(L)までの範囲で行われる。変速段が第1速(L)に至った後は、DOWNスイッチがオンになっても変速段の設定は変更されない。
ステップS545においてDOWNスイッチがオンになっていないと判定された場合、即ち、UPスイッチおよびDOWNスイッチのいずれも操作されていない場合には、変速段の設定は変更されない。以上の処理により、それぞれのシフトポジションで変速段の設定を完了するとCPUは変速段設定処理を終了し、運転制御処理ルーチンに戻る。なお、変速段設定処理では、使用すべき変速段の設定のみを行っており、変速段の切り替え処理は後述する通り、運転制御処理ルーチン内で行うものとしている。
図32に示した通り、CPUは変速段設定処理ルーチンが終了すると、次に減速度設定処理を実行する(ステップS600)。この処理は、スライドノブ161の操作に基づいて、実現すべき減速度の設定を行う処理である。減速度設定処理の内容を図34に基づいて説明する。
図34は、減速度設定処理ルーチンのフローチャートである。この処理が開始されると、CPUはスイッチの信号を入力する(ステップS605)。ここで入力する信号は、図7に示した種々の信号のうち、スライドノブ、スノーモードスイッチの信号である。もちろん、その他の信号を併せて入力するものとしても構わない。
こうして入力された信号に基づき、CPUはスライドノブ161のスイッチが故障しているか否かを判定する(ステップS610)。故障は、種々の方法により判断可能である。例えば、スイッチの接触不良時には、いわゆるチャタリングが生じ、スライドノブ161の操作量の検出結果が非常に頻繁に変動して検出される。所定以上の変動が検出された場合には、スイッチが故障しているものと判定することができる。スイッチの故障は、その他種々の方法により判定可能である。
スイッチの故障が検出された場合には、運転者の意図しない減速度が設定されることを回避すべく、CPUは目標減速度の設定を解除する(ステップS615)。目標減速度の設定を変更しない処理を行うものとしても構わない。第2実施例では、運転者が自己の意図に沿わない値に設定された減速度を修正している途中にスイッチが故障した場合も想定し、目標減速度の設定を解除するものとした。こうして、目標減速度の設定を解除した後、CPUはスイッチの故障を運転者に報知するための故障表示を行う(ステップS620)。故障表示は種々の方法を採ることができる。第2実施例では、警報音と鳴らすと共に、Mポジションインジケータを点滅させるものとした。スイッチが故障した場合には、CPUは以上の処理を実行して減速度設定処理ルーチンを終了する。
ステップS610において、スイッチが故障していないと判定された場合、CPUはスライドノブ161の操作量に応じて減速度を設定する(ステップS625)。先に図10で説明した通り、スライドノブ161の操作量に応じて直線BL〜BUの範囲で減速度が設定される。但し、それぞれのシフトポジションで実現可能な範囲で減速度が設定される。例えば、3ポジションにある場合には、第2速(2nd)および第3速(3rd)で実現可能な減速度、即ち図10中の直線B3〜BUの範囲で減速度が設定される。また、Mポジションにある場合は、運転者により選択された変速段で実現可能な範囲で減速度が設定される。
こうして、目標減速度の設定がなされると、CPUは設定された減速度がリジェクト範囲にあるか否かを判定する(ステップS630)。この処理は、第1実施例と同様である。減速度がリジェクト範囲にあると判定された場合、CPUは設定された設定された減速度を許容される上限値に抑制する(ステップS635)。また、目標減速度の設定が抑制されたことを運転者に報知するための処理を行う(ステップS640)。第2実施例では、減速度インジケータ224を1秒程度の間、点滅させるものとしている。また、これに併せて警報音を発するものとしている。ステップS630において、設定された減速度がリジェクト範囲にないと判定された場合には、これらの処理をスキップする。以上の処理により、減速度が設定されると、CPUは結果を減速度インジケータ224に表示して(ステップS645)、減速度設定処理ルーチンを終了する。
減速度設定処理が終了すると、CPUは運転制御処理ルーチン(図32)に戻り、制動を行うか、定常走行または加速を行うかの判定として、アクセルペダルがオフとなっているか否かを判定する(ステップS700)。アクセルペダルがオフとなっている場合には、CPUは、変速段切り替え処理を実行する(ステップS710)。図35は、変速段切り替え処理ルーチンのフローチャートである。このルーチンでは、CPUは、まず減速度と変速段との関係を示すマップ(図31)を参照する(ステップS722)。このマップに基づき、運転者が設定した目標減速度を実現可能な変速段を抽出するのである。
次に、目標減速度を実現可能な変速段が複数存在するか否かを判定する(ステップS722)。先に図31で示した通り、第2実施例のハイブリッド車両は、各変速段で実現可能な減速度の領域が重複している。従って、目標減速度によっては、該目標減速度を実現可能な変速段が複数あることがある。ステップS722では、かかる変速段が複数存在するか否かを判定するのである。
ステップS722において、目標減速度を実現可能な変速段が一つであると判断された場合には、CPUはマップに基づき設定された変速段を選択する(ステップS724)。ステップS722において、目標減速度を実現可能な変速段が複数あると判定された場合には、CPUはバッテリの残容量SOCに応じて使用する変速段の使い分けを行う。つまり、バッテリの残容量SOCが所定の値HL以上である場合には、複数の変速段の中で最も変速比の大きい変速段を選択する(ステップS728)。変速比の大きい変速段とは、第1速(L)に近い側の変速段という意味である。
一定の減速度で制動を行うために動力源が出力すべき制動力は、変速比が大きい変速段ほど小さくなる。従って、変速比が大きいほど電動機による回生電力も小さくなる。減速度によっては電動機を力行してエンジン10による制動力を緩和することで所望の制動を実現する場合もある。バッテリの残容量SOCが所定の値HL以上である場合には、制動中にバッテリが過充電となることを回避するため、回生電力が少なくなる変速段、即ち変速比が大きい側の変速段を選択するのである。所定の値HLは、バッテリの充電状態が過充電となるか否かの判断基準となる適切な値を設定すればよい。なお、バッテリの残容量に応じて変速段が頻繁に切り替えられるのを回避するため、ステップS726の判定には所定のヒステリシスを設けることが望ましい。
次にCPUは選択された変速段がシフトポジションで許容された変速段の最低段から1段下段側までに収まるように制限する処理を行う(ステップS730)。第2実施例では、Mポジション以外のシフトポジションにおいては、変速段の下段側は制限を設けておらず、第1速(L)まで使用可能である。従って、Mポジション以外のシフトポジションでは、ステップS730では実質何の処理も行われない。Mポジションでは、運転者が設定した変速段とステップS728で選択された変速段との関係を比較する。例えば、運転者が設定した変速段が第4速(4th)であり、ステップS728で選択された変速段が第3速(3rd)または第4速(4th)である場合には、両者の差は1段分であるため、ステップS730では何の処理も行われない。これに対し、ステップS728で選択された変速段が第2速(2nd)である場合には、運転者が設定した変速段との差違が2段分に相当する。従って、ステップS730では、変速段の選択を運転者が設定した変速段よりも一段下段側の変速段である第3速(3rd)に変更するのである。
一方、ステップS726において、バッテリの残容量SOCが所定の値HLよりも小さいと判定された場合には、CPUは変速比が最も小さい変速段を選択する(ステップS732)。かかる場合には、バッテリを速やかに充電する必要があるため、可能な限り回生量の大きくなる変速段を選択することが望ましい。変速比の小さい側の変速段では、所定の減速度を得るための電動機の回生負荷が大きくなる。従って、CPUはバッテリの充電を速やかに行うために、変速比の小さい側の変速段を選択するのである。
次に、CPUは選択された変速段がシフトポジションで許容された変速段の最高段から1段上段側までに収まるように制限する処理を行う(ステップS734)。ここでは、CPUは、運転者が設定した変速段とステップS728で選択された変速段との関係を比較する。例えば、運転者が3ポジションを選択している場合、またはMポジションで第3速(3rd)を設定した場合、使用可能な変速段の上限は第3速(3rd)である。これに対し、ステップS732で選択された変速段が第3速(3rd)または第4速(4th)である場合には、両者の差は1段分であるため、ステップS734では何の処理も行われない。一方、ステップS732で選択された変速段が第5速(5th)である場合には、上述の上限の変速段との差違が2段分に相当する。従って、ステップS734では、変速段の選択を運転者が設定した変速段よりも一段上段側の変速段である第4速(4th)に変更するのである。
例えば、3ポジションにおいて、図31のマップ中のポイントAで示した減速度を実現する場合が上述のケースに相当する。図から明らかな通り、ポイントAの減速度は第3速(3rd)〜第5速(5th)の3種類の変速段で実現可能である。3ポジションにある場合には、CPUはステップS234の処理によって、ポイントAの減速度を実現するための変速段として、第5速(5th)ではなく、第4速(4th)を選択するのである。
このように制動が行われる場合の変速段切り替え処理では、シフトポジションで指示された範囲を超えて変速段の選択および切り替えが行われる。第2実施例では、バッテリの充電に有利な変速段が優先して選択される。以上の処理により、それぞれ変速機100の変速段が設定されるとCPUは変速段の切り替え処理を実行する(ステップS750)。
こうして変速段の切り替えが完了すると、CPUは運転制御処理ルーチン(図32)に戻り、モータ20が出力すべきトルクの目標値を演算する(ステップS400)。変速段に応じて、先に式(2)〜(6)で示した変速比k1〜k5を用いれば、設定された減速度、即ち車軸17に出力されるトルクに基づいて、エンジン10とモータ20の動力源から出力すべき総トルクを算出することができる。エンジン10から出力される制動力、いわゆるエンジンブレーキは、クランクシャフト12の回転数に応じてほぼ一義的に決まる。従って、動力源から出力する総トルクからエンジンブレーキによるトルクを減ずることによりモータ20で出力すべきトルクを求めることができる。
ここで、変速段切り替え処理(図35)では、シフトポジションによる制限に関わらずエネルギ回収量の観点から変速段が選択された。但し、これは運転者が設定した目標減速度までも変更するものではない。変速段は目標減速度を実現可能な範囲で選択される。従って、上記処理で算出されるモータ20のトルクは、シフトポジションを前提として設定された目標減速度を実現するためのトルクとなる。
第2実施例では、このように演算によりモータ20の目標トルクを求めるものとしているが、モータ20の目標トルクを与えるマップを用意するものとしても構わない。また、車両の減速度を加速度センサで検出し、設定された減速度が実現されるようにモータ20のトルクをフィードバック制御するものとしてもよい。なお、図32のフローチャートでは、図示の都合上、変速段の切り替え処理が終了してからモータトルクを演算するものとしているが、切り替え処理と並行して演算するものとしても構わないことは当然である。
こうして設定されたモータの目標トルクに基づいて、CPUは、制動制御処理(ステップS905)として、モータ20の運転およびエンジン10の運転の制御を実行する。エンジン10の制御は、エンジンブレーキをかけるための制御として、CPUはエンジン10への燃料の噴射および点火を停止する。エンジン10に装備されているVVT機構の制御も同時に行うことも可能ではあるが、第2実施例では動力源ブレーキによる減速度はモータ20のトルクで制御可能であるため、VVT機構の制御は行っていない。
モータ20は、いわゆるPWM制御により運転される。CPUはステータ24のコイルに印可すべき電圧値を設定する。かかる電圧値は予め設定されたテーブルに基づいて、モータ20の回転数および目標トルクに応じて与えられる。モータ20が回生運転する場合には電圧値は負の値として設定され、力行運転する場合には電圧値は正の値として設定される。CPUは、かかる電圧がコイルに印可されるように駆動回路40の各トランジスタのオン・オフを制御する。PWM制御は周知の技術であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
一方、ステップS700においてアクセルがオフでない、即ちアクセルが踏み込まれた状態であると判定された場合には、CPUは定常走行または加速のための制御処理を実行する。かかる制御処理として、CPUはまず変速段の切り替え処理を行う(ステップS910)。定常走行または加速時の変速段の切り替えは、第1実施例における図10と同様のマップに従って行われる。つまり、変速段設定処理(図33)で設定された変速段への切り替えが行われる。従って、定常走行または加速時には運転者がシフトポジションで指示した範囲内で変速段が切り替えられる。
こうして変速段が設定されると、次にCPUはエンジン10およびモータ20の運転ポイントを設定する(ステップS915)。先に説明した通り、第2実施例のハイブリッド車両は、車速およびトルクに応じてモータ20のみを動力源とする領域とエンジン10のみを動力源とする領域とを分けている。双方を動力源とする領域は設けていない。従って、車両の走行状態に応じていずれの走行モードで走行すべきかを判定した上で、エンジン10およびモータ20について、アクセルの踏み込み量に応じた動力を出力可能な運転ポイントを設定するのである。こうしてそれぞれの運転ポイントを設定すると、CPUは巡行・加速制御として、エンジン10およびモータ20の運転の制御を実行する(ステップS920)。それぞれの制御方法は、ステップS905と同様である。
以上で説明した運転制御処理ルーチンを繰り返し実行することにより、第2実施例のハイブリッド車両は、動力源ブレーキによる制動を行うことができる。もちろん、かかる制動に併せてホイールブレーキによる制動を行うことも可能であることはいうまでもない。
第2実施例のハイブリッド車両において、減速度の設定を変更した場合の変速段の切り替えの一例を示す。図36は、減速度の設定と変速段の切り替えとの関係を示す説明図である。ここでは、4ポジションが選択されている場合の例を示した。
図中の区間e1〜e3の間に、運転者がスライドノブ161を操作して減速度を低減した場合を考える。図示する通り、スライドノブ161を前方から後方にスライドした場合を考える。かかる操作に応じて、車両の目標減速度は図36に示す通り連続的に緩くなる。
当初の減速度が第2速(2nd)でエンジンブレーキによってのみ実現されていたものとする。区間e1で目標減速度が緩められると、変速段は1段上段側の第3速(3rd)に切り替えられ、モータ20を回生運転することにより制動が行われる。第2速(2nd)のままで減速度を低減するためには、モータ20を力行運転する必要が生じ、エネルギ回収量の観点から不利なため、第3速(3rd)への切り替えを行うのである。区間e1では、モータ20の回生量を低減することによりスライドノブ161の操作に応じた減速度が実現される。
第3速(3rd)でモータ20の回生量が値0に達した後の区間e2では、エネルギ回収量を有利にするため、変速段が更に1段上段側の第4速(4th)に切り替えられ、モータ20を回生運転することにより制動が行われる。区間e2では、モータ20の回生量を低減することによりスライドノブ161の操作に応じた減速度が実現される。
同様に第4速(4th)でモータ20の回生量が値0に達した後の区間e3では、エネルギ回収量を有利にするため、変速段が更に1段上段側の第5速(5th)に切り替えられ、モータ20を回生運転することにより制動が行われる。4ポジションが選択されている場合には、本来、変速段の上限は第4速(4th)までに制限されるのが通常である。このように制限された場合には、図36中の一転鎖線で示した通り、第4速(4th)の変速段でモータ20を力行することにより制動が行われるため、エネルギ回収量が低下する。第2実施例のハイブリッド車両では、制動時にはシフトポジションによる制限に関わらず変速段を選択可能としているため、区間e3では第5速(5th)での制動が行われるのである。
以上で説明した第2実施例のハイブリッド車両によれば、制動時にシフトポジションによる制限に関わらず、エネルギ回収量の観点から有利な変速段を選択して制動を行うことができる。従って、制動時における車両のエネルギ回収量を増大することができる。当然、シフトポジションを前提として設定された減速度で制動が行われるため、運転者は違和感なく動力源ブレーキを使用することができる。
また、通常走行または加速中にはシフトポジションに応じて変速段が使用される。例えば、4ポジションにおいて制動中に、実際には第5速(5th)が使用されている場合、制動後にアクセルが踏み込まれれば、変速段は直ちに第4速(4th)に切り替えられて走行される。従って、制動後は運転者が意図した加速度で速やかな加速が可能となる。
このように第2実施例のハイブリッド車両によれば、運転者の意図に合った加減速を実現しつつ、制動時のエネルギ回収量を増大することができる。この結果、動力源ブレーキの有用性を向上し、車両の操作性を向上することができる。
第2実施例では、エネルギ回収量を優先した変速段の選択の一例としてバッテリの充電に適した変速段を選択する例を示したが、その他の観点に基づいて変速段を選択するものとしてもよい。例えば、常に回生するエネルギが最も高い変速段を選択するものとしてもよい。
第2実施例のハイブリッド車両では、シフトポジションによる上限および下限から1段階外れた範囲までで変速段を選択するものとしている。従って、第2実施例のハイブリッド車両によれば、制動からその他の走行状態に移行する際の変速機の制御が容易になる利点もある。指示された変速段の範囲から数段階離れた変速段で制動が行われると、制動後に通常走行または加速に移行する際に変速段を多段階に亘って変更する必要が生じる。かかる変更を実現する制御は複雑になりがちである。また、切り替えに要する時間も長くなり、制動後の速やかな加速を損ねる可能性もある。第2実施例のハイブリッド車両は、シフトポジションによる上限および下限から1段階離れた範囲までで変速段を選択することにより、かかる弊害を回避することができる。
B3.第2実施例における第1の変形例:
なお、切り替えを実行するための制御および切り替えに要する時間の観点から、制動後の多段階に亘る切り替えが許容される場合には、シフトポジションによる制限から2段階以上外れた範囲での変速段の選択を許容するものとしても構わない。かかる場合の変速段切り替え処理の具体例を図37に示す。
図37は、変形例としての変速段切り替え処理のフローチャートである。図35に示したフローチャートのステップS722〜S734の処理を置換する処理である。第2実施例のハイブリッド車両では、図10に示した通り、一の減速度を実現可能な変速段が最大3種類存在する。図37には、かかる3種類の変速段をエネルギ回収量を優先して、使い分ける処理を示した。
この処理では、目標減速度を実現可能な変速段を選択した後、該変速段が1種類だけであるか否かを判定する(ステップS722’)。変速段が1種類に限定される場合には、マップに基づいて定まった該変速段を選択する(ステップS724’)。
ステップS722’において、変速段が複数存在すると判定される場合、CPUは変速段が2種類であるか否かを判定する(ステップS725)。変速段が2つであると判定された場合には、バッテリ50の残容量SOCを参照し、SOCが所定の値HL以上であるか否かを判定する(ステップS726)。残容量SOCが所定値HL以上である場合には、バッテリ50の過充電を回避するため、電力の回生量が少ない側の変速段、即ち2つの変速段のうち変速比が大きい側の変速段を選択する(ステップS728)。残容量SOCが所定値HLよりも小さい場合には、バッテリ50の充電に適した変速段、即ち2つの変速段のうち変速比が小さい側の変速段を選択する(ステップS732)。
変速段が2つでないと判定された場合、即ち変速段が3つある場合には、CPUは、バッテリ50の残容量SOCを2つの所定の閾値H1,H2と比較する(ステップS736)。これらの閾値はH1<H2なる関係がある。残容量SOCが閾値H2以上である場合には、最も充電に適した変速段、即ち変速比が最も大きい変速段を選択する(ステップS737)。残容量SOCが閾値H2よりも小さく、H1以上である場合には、3つの変速段のうち変速比が中間の変速段を選択する(ステップS738)。残容量SOCが閾値H1よりも小さい場合には、回生電力が最も少ない変速段、即ち変速比が最も小さい変速段を選択する(ステップS739)。
ステップS736で用いられる閾値H1,H2は、このように変速段を使い分ける基準となる値である。閾値H1,H2は、変速段ごとの回生電力に応じて、バッテリ50の充電状態に適した変速段が選択されるよう、適切な値を選択すればよい。閾値H1,H2は、ステップS726で用いる基準値HLと異なる値に設定するものとしてもよいし、いずれか一方を基準値HLと一致させてもよい。なお、変形例の変速段選択処理ルーチンにおいても、変速段の選択が残容量SOCに応じて頻繁に切り替わるのを防止するため、ステップS726およびステップS736の判定には所定のヒステリシスを設けることが好ましい。
このように3つ以上の変速段を選択するものとすれば、バッテリの充電状態をきめ細かく制御することが可能となる利点がある。ここでは、3つの変速段を使い分けるための処理を示したが、同様にして更に多くの変速段を選択可能にすることもできる。
但し、シフトポジションに基づく変速比の範囲と、制動時に実際に使用される変速比との差違が所定の範囲内に収まるように選択可能な変速段を制限しておくことが望ましい。先に説明した通り、第2実施例では制動後はシフトポジションに応じた範囲に変速段が切り替えられる。制動中に使用されている変速比と、制動後に使用される変速比との差違が大きい場合、制動後に変速段の切り替えに伴ってエンジン10およびモータ20の運転状態が大きく変動することになる。かかる変動が極端に大きい場合には、車両に看過し得ない振動を生じたり、エンジン10の運転状態が不安定になるなどの弊害が生じる。シフトポジションに基づく変速比の範囲と、制動時に実際に使用される変速比との差違を、かかる変動が生じない所定の範囲内に収めておけば、かかる弊害なく加減速を行うことができ、滑らかな走行を実現することができる。なお、変速比の所定の範囲は、エンジン10の制御の応答性や変速段の切り替えの速度などに応じて実験または解析により設定することができる。
B4.第2実施例における第2の変形例:
シフトポジションと減速度との関係は、第2実施例で例示した設定に限られない。図38は第2の変形例としての減速度の設定を示す説明図である。減速度は、それぞれのシフトポジションで使用される変速段のうち、最も変速比が低い変速段についてのみ変更されるものとしてもよい。ここでは、Dポジションにおける設定例を示した。Dポジションでは、第1速(L)から第5速(5th)までの変速段が使用される。最も変速比が低いのは、第5速(5th)である。Dポジションにおいてスライドノブ161が操作されると、第5速(5th)に対応する減速度が図38中の範囲で変更される。第4速(4th)以下の変速段における減速度は、スライドノブ161が操作されても、予め定められた値のまま変化しない。図38中には、それぞれの変速段において設定された減速度を示した。第1速(L)は減速度が強すぎるため、図示を省略した。
減速度がこのように設定されている場合でも、第2実施例において図32〜図35で示した制御処理を適用して減速制御を行うことができる。なお、第2実施例の運転制御処理(図32)における、ステップS410〜420の処理は省略することもできる。
図38から明らかな通り、スライドノブ161により設定される減速度は、車両にかかる動力源ブレーキの下限値に相当する。Dポジションにおいて、第5速(5th)で走行中にはスライドノブ161の操作によって減速度が変更されるが、第4速(4th)で走行中には、運転者が要求した最低限の減速度は確保されていることになるため、予め設定された減速度で制動が行われるのである。なお、Mポジションが選択されており、運転者が手動で変速段を切り替える場合には、それぞれ運転者により選択されている変速段における減速度のみがスライドノブ161の操作によって変更される。
B5.第2実施例における第3の変形例:
図39は、第3の変形例としての減速度の設定を示す説明図である。ここでは、3ポジションにある場合の設定例を示した。3ポジションでは、第1速(L)から第3速(3rd)までの変速段が使用される。最も変速比が低いのは、第3速(3rd)である。3ポジションにおいてスライドノブ161が操作されると、第3速(3rd)に対応する減速度が図39中の範囲で変更される。第2速以下の変速段における減速度は、スライドノブ161が操作されても、予め定められた値のまま変化しない。3ポジションでは、第4速(4th)および第5速(5th)は使用されないから、これらの変速段における減速度も変化しない。
減速度がこのように設定されている場合でも、第2実施例において図32〜図35で示した制御処理を適用して減速制御を行うことができる。なお、第2実施例の運転制御処理(図32)における、ステップS410〜420の処理は省略することもできる。また、かかる設定によれば、第2の変形例と同様、運転者が要求した最低限の減速度は確保されていることになるため、予め設定された減速度で制動が行われるのである。
B6.第2実施例における第4の変形例:
図40は第4の変形例において、スライドノブ161によりある減速度を設定した状態を示す説明図である。図41は減速度が大きくなる側にスライドノブ161を操作した結果、設定された減速度を示す説明図である。図41中の直線2nd〜5thがそれぞれ設定された減速度である。図41中の直線b2〜b5がそれぞれ、図40の2nd〜5thの直線に相当する。
変形例では、このように変速比が最小の変速段のみならず、全ての変速段における減速度がスライドノブ161の操作によって変化する。従って、全ての車速において図40の設定よりも大きな減速度で制動が行われる。こうすれば、最小の変速比以外で走行している場合にも減速度を変更することができるため、運転者の感覚に合った制動を実現することができる。
また、別の変形例として、Mポジションとその他のポジションとで減速度の設定を変更するものとしてもよい。図40は減速度がDポジションで設定された状態を示しているものとする。これに対し、スライドノブ161を操作することなく、Mポジションが選択された場合の状態が図41に相当するものとする。このようにMポジションにおいては、Dポジションよりも全体的に減速度を大きくするものとしてもよい。
Mポジションが選択されている場合には、高い操作性が要求されることが多い。制動に関しては、Dポジション等に比較して大きな減速度が要求されることが多い。従って、Mポジションでの減速度をDポジションでの減速度よりも高く設定しておけば、Mポジションが選択された場合に、再度減速度の設定を変更することなく、運転者の感覚に沿った制動を実現することができる。
スライドノブ161の操作と減速度との関係は、シフトポジションにおいて上述の種々の態様を組み合わせて適用するものとしてもよい。例えば、Dポジションにある場合には、本実施例のように第5速(5th)のみの減速度を変更し、4ポジションにある場合には、全ての変速段の減速度を変更可能にしてもよい。このように減速度の設定は、運転者の感覚に沿った制動を実現するのに適した態様で種々の設定を行うことができる。
C.第3実施例:
次に、本発明の第3実施例について説明する。図42は第3実施例のハイブリッド車両の概略構成図である。第3実施例のハイブリッド車両は動力源から車軸17までの動力の伝達経路の構成が第1実施例と相違する。第3実施例では、エンジン10、トルクコンバータ30、変速機100、モータ20の順に結合され、モータ20の出力軸15がディファレンシャルギヤ16を介して車軸17に結合される。また、エンジン10とトルクコンバータ30の間には、クラッチ170が設けられている。クラッチ170は油圧で作動し、エンジン10とトルクコンバータ30との間で動力の伝達を断続する。クラッチ170の動作は制御ユニット70により制御される。トルクコンバータ30,変速機100,モータ20などの各要素の構成は、第1実施例と同様である。
第3実施例においても、運転者がDecelスイッチおよびCan−Decelスイッチを操作することにより、減速度を調整することが可能となっている。また、SNOWスイッチ163を操作することにより、減速度の設定範囲の上限値が制限されるようになっている。
図43は第3実施例における減速制御処理ルーチンのフローチャートである。第1実施例と同様、制御ユニット70内のCPUが処理を実行する。この処理が開始されると、CPUは初期設定処理および減速度設定処理を実行する(ステップS10,S100)。これらの処理は、第1実施例における処理(図16〜図18)とほぼ同等である。
即ち、初期設定処理では、シフトポジションに応じて、減速度の初期設定をしたり、設定値の解除をしたりする。なお、第1実施例では、初期設定処理ルーチンにおいて、変速段の初期値を設定した(図16のステップS50)。これに対し、第3実施例では、後述する通り、Eポジション制動において変速段の制御が不要となるため、変速段の初期値の設定は省略することができる。
減速度設定処理では、第1実施例と同様、DecelスイッチおよびCan−Decelスイッチの操作に応じて目標減速度の設定を行う。また、スノーモードが選択されているか否かに応じて目標減速度の上限値を制限する減速度抑制処理を行う。これらの処理により、第3実施例でもハイブリッド車両の走行状態に応じた適切な目標減速度を設定することができる。なお、第1実施例においては変速段の切り替えも併用して幅広い範囲で目標減速度を設定可能なテーブルを用いた(図11)。これに対し、第3実施例では、Eポジション制動において変速比は制動力に何ら影響を与えないため、モータ20のみで実現可能な範囲で目標減速度が設定される。
次に、CPUはアクセル開度の入力信号に基づいて動力源ブレーキによる制動を行うか否かを判定し(ステップS200)、さらに、第1実施例と同様の基準に基づいて、Eポジション制動が許可されているか否かを判定する(ステップS205)。Eポジション制動が許可されていない場合には、CPUは通常制動処理として、モータの目標トルクを所定の値Tm0に設定するとともに、制動制御処理を実行する(ステップS210,S250)。これらの処理は、第1実施例と同様であるため、詳細な説明を省略する。
一方、Eポジション制動が許可されている場合には、そのための制御処理を実行する。Eポジション制動の制御処理は、第1実施例と相違する。Eポジション制動を行う場合には、まず、CPUはクラッチ切断処理を行う(ステップS844)。クラッチ170の油圧を制御して、エンジン10とトルクコンバータ30との間で動力の伝達が行われない状態にするのである。
次に、CPUはモータ20の目標トルクを演算する(ステップS845)。第1実施例においては、変速段に応じた変速比を用いてモータの目標トルクを演算した。第3実施例では、図42に示す通り、モータ20は変速機100を介することなく出力軸15に結合されている。また、第3実施例では、クラッチ170が切断されることにより、エンジンは制動に寄与し得ない状態となっている。つまり、動力源ブレーキによる制動力はモータ20のみで付加することになる。この結果、第3実施例では、設定された目標減速度に応じてモータ20の目標トルクが一義的に決まる。出力軸15の制動トルクをパラメータとして目標減速度が設定されている場合には、該制動トルクがそのままモータ20の目標トルクとなる。なお、目標トルクは目標減速度から所定の演算により求めるものとしてもよいし、予め設定されたテーブルに基づいて求めるものとしてもよい。
こうして、目標トルクが設定されると、CPUはEポジション制動制御を行う(ステップS851)。第3実施例においては、エンジンの運転状態は制動に寄与し得ないから、エンジンの運転については特別な制御は行わない。CPUはエンジンをアイドル運転または停止する。また、変速機100も制動に影響を与えないから、特別な制御は行わない。CPUは従前の変速比をそのまま維持する。モータ20については、設定された目標トルクで回生運転が行われる。その制御方法は第1実施例で説明した通りである。
以上の処理により、第3実施例のハイブリッド車両は、運転者が設定した減速度で動力源ブレーキによる制動を行うことができる。また、路面の摩擦係数が低い場合など、スノーモードが設定されている場合には、減速度の上限値を制限することにより、安定して走行可能な範囲で動力源ブレーキによる制動を行うことができる。
また、第3実施例のハイブリッド車両は、その他の利点もある。第1の利点として、第3実施例のハイブリッド車両では、制動制御が容易になる利点がある。即ち、第3実施例では、Eポジション制動時にクラッチ170を切断するため、変速機100およびエンジン10が制動に寄与しなくなる。この結果、目標減速度とモータ20の目標トルクの間には常に一義的な対応関係が成立する。従って、モータ20の目標トルクの設定が非常に容易になる。また、制動に応じて車速が変化した場合でも変速比を変更する必要がない。これらの利点により、第3実施例では制動の制御が非常に容易になる。
第2の利点として、第3実施例のハイブリッド車両は、エネルギ効率が向上する利点がある。第3実施例ではクラッチ170を切断するため、ハイブリッド車両の運動エネルギがエンジンブレーキで熱として消費されるのを回避できる。従って、第3実施例のハイブリッド車両は、車両の運動エネルギをモータ20で回生する際の損失を抑制することができるのである。
第3の利点として、第3実施例のハイブリッド車両は、スノーモードにおいてより適切な制御を効率的に実行できる利点がある。第1実施例のハイブリッド車両では、モータ30の目標トルクを値0にしてもエンジンブレーキによる制動力がかけられる。エンジンブレーキ以下の制動力を実現するためには、モータ30を力行する必要がある。これに対し、第3実施例のハイブリッド車両では、エンジン10が制動に寄与しない。従って、モータ30の目標トルクを制御することにより、エンジンブレーキによる制動力よりも更に小さな制動力での動力源ブレーキを回生制動により実行することができる。また、エンジンブレーキとのバランスを考慮する必要がないため、目標制動力を安定して付加することができる。この結果、路面の摩擦係数が非常に小さい場合でも、ハイブリッド車両の制動を効率よく安定して行うことが可能となる。
第3実施例のハイブリッド車両においても種々の変形例を構成することができる。上述の実施例では、Eポジション制動を行う場合には、クラッチ170を必ず切断する場合を例示した。これに対し、ハイブリッド車両の運転状態に応じてクラッチ170を切断するか否かを制御するものとしてもよい。例えば、バッテリ50が満充電に近く、回生制動を十分行うことができない場合には、クラッチ170を接続してEポジション制動を行うことができる。こうすれば、バッテリ50の充電状態に関わらず、動力源ブレーキによる制動を適切に行うことができ、動力源ブレーキの利便性を向上するとともに、ハイブリッド車両の操作性を向上することができる。クラッチ170の切断および接続については、その他種々の条件に応じて制御することが可能である。
また、ハードウェア構成についても種々の変形例を構成することが可能である。なお、以下では、エンジン10から車軸17まで動力が伝達される経路においてエンジン10側を上流側、車軸17側を下流側と定義して構成について説明する。図25では、エンジン10とトルクコンバータ30との間にクラッチ170を設けた場合を例示した。クラッチ170はモータ20の上流側のいかなる部位に設けるものとしてもよい。
第1実施例と同様、シリーズハイブリッド車両に適用することも可能である。即ち、図29に示した構成から、トルクコンバータ30Aおよび変速機100Aを省略した構成のハイブリッド車両として構成することも可能である。さらに、エンジン10Aおよび発電機Gを省略した、純粋な車両として構成することも可能である。
また、第1実施例と同様の構成、即ち、上流側から、エンジン10、モータ20、トルクコンバータ30、変速機100と結合し、エンジン10とモータ20との間にクラッチ170を設けるものとしてもよい。この場合は、Eポジション制動制御処理において、第1実施例と同様、変速段の制御処理(図23参照)を実行することになる。こうすれば、エンジンが制動に寄与しないことによる利点を活かしつつ、幅広い範囲で電動機による制動を行うことが可能となる。
D.第4実施例:
以上の実施例では、走行時のエネルギ出力源としてエンジンと電動機とを利用可能なハイブリッド車両についての適用例を例示した。本発明は、電動機により回生制動可能な構成を備える種々の車両に適用可能である。例えば、エンジン停止時における補機駆動、エンジンの始動、回生制動を主な役割とし、走行時の動力源としては原則的に使用しないタイプの車両に適用するものとしてもよい。かかる場合の適用例を第4実施例として以下に示す。
図44は第4実施例としての車両の概略構成を示す説明図である。この車両は、走行時の動力源としてエンジン310を備えており、エンジン310の動力をトルクコンバータ330、変速機335、駆動軸15、ディファレンシャルギヤ16、車軸17の順に伝達して走行する。トルクコンバータ330および変速機335の構成は、第1実施例におけるトルクコンバータ30,変速機100と同じ構成である。
第4実施例では、エンジン310のクランクシャフトにクラッチ314を介してプーリ316が結合されている。このプーリ316には、動力伝達ベルト318で相互に動力の伝達が可能な状態に補機312およびモータ320が結合されている。補機312には、エアコンのコンプレッサやパワーステアリング用のオイルポンプなどが含まれる。モータ320は同期モータであり、駆動回路としてのインバータ340のスイッチング操作によってバッテリ350を電源として駆動することができる。モータ320は、また外力によって回転させられることにより、発電機としても機能する。
第4実施例における車両の各ユニットの動作は、制御ユニット370によって制御されている。図示を省略したが、制御ユニット370には、第1実施例と同様、運転者が減速量を指示するための各種スイッチ、センサの信号が入力されている。
第4実施例の車両の一般的動作について説明する。この車両は、先に説明した通り、走行時にはエンジン310の動力によって走行する。また、走行中は、クラッチ314を結合し、エンジン310の動力によって補機312を駆動する。
クラッチ314の結合時は、動力伝達ベルト318を介してモータ320が回転させられているから、モータ320を回生運転することにより車両を制動することができる。
車両が停止すると、信号待ちなどの一時的な停止状態であっても制御ユニット370はエンジン310の運転を停止する。これと同時にクラッチ314を解放し、モータ320を力行して、モータ320の動力により補機312を駆動する。停止状態から走行を開始する際には、クラッチ314を結合し、モータ320の動力によってエンジン310をクランキングして、エンジン310を始動して走行する。走行時にモータ320の動力は、原則的にはエンジン310のクランキングに用いられるのみである。所定の車速に至るまで、モータ320の運転を継続し、走行開始時の動力をアシストする態様としてもよい。
第4実施例の車両によれば、停車時にエンジン310の運転を停止するため、燃費を抑制することができる利点がある。
第4実施例においても、モータ320による回生制動が可能であるから、第1実施例と同様、アクセルペダルの踏み込み量に応じた減速を容易に実現することができる。クラッチ314を結合した場合におけるモータ320、エンジン310、トルクコンバータ330、変速機335の結合状態は、制動力の付与という観点において第1実施例と等価な結合状態である。従って、制動時の制御処理については、第1実施例で例示した制御処理をそのまま適用することができる。モータ320の回生制動によるトルクは変速機335を介して駆動軸15に伝達されるから、変速機335とモータ320のトルクとを統合的に制御することによって第1実施例と同様、幅広い範囲で減速量を制御することが可能である。
このように、本発明は、走行時に用いられる電動機を必ずしも搭載した車両に限定されず適用可能である。第4実施例では、モータ320の制動トルクが変速機335を介して駆動軸15に伝達される場合を例示したが、例えば、駆動軸15に直接結合された回生制動用の電動機を備える構成を採用してもよい。
E.その他の変形例:
上述の各実施例では、運転者が目標減速度を設定する態様を示したが、車輪に作用する制動力または制動量など、その他の減速量を設定するものとしても構わない。目標トルクをパラメータとして電動機による回生制動を制御する場合を例示したが、制動力に関与した種々のパラメータを用いることができ、例えば、回生制動で得られる電力や電動機に流れる電流などをパラメータとして制御することも可能である。
上述の各実施例では、変速比を段階的に切り替え可能な変速機100を用いた場合を示した。変速機100は種々の構成を適用可能であり、連続的に変速比を変更可能な機構を適用しても構わない。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、更に種々なる形態で実施し得ることは勿論である。本実施例で説明した種々の制御処理は、ハードウェアにより実現するものとしても構わない。また、本実施例で説明した種々の制御処理のうち、一部のみを実施するものとしても構わない。