〔実施の形態1〕
本発明の実施の形態1について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
(ノズルプレート)
図1(a)は、微小ドット形成装置に用いられる、本発明のノズルプレートの一部の斜視図であり、図1(b)は、図1(a)のA−A’矢視断面図である。ノズルプレートには1個以上の液体(液状物質)吐出口9が形成されており、図1(a)においては2個の液体吐出口9が示されている。
図1(a)(b)に示すように、ノズルプレート8は、第1ノズル層1、第2ノズル層2、ストッパ層3(遮蔽層)、撥液膜4、ノズル穴11を備えている。第1ノズル層1の液体吐出面側には撥液膜4が形成され、その反対側には第2ノズル層2が形成されている。ストッパ層3は、第2ノズル層2内にて、第1ノズル層1と第2ノズル層2との界面に位置し、第1ノズル層1に接するとともに、上記液体吐出口9を開口部とする第1ノズル穴11aの形成位置に局所的に形成されている。すなわち、第1ノズル穴11aは、撥液膜4、第1ノズル層1を貫通し、さらに局所的に形成されたストッパ層3の中心部を貫通している。
より詳しくは、ストッパ層3は、第1ノズル穴11aからの液体吐出方向から見ると、その中心が、第1ノズル穴11aの円筒形状の穴の中心と略一致する形状であって、第1ノズル穴11aが延伸されることでその中心部が円形にくり抜かれた形状をしている。ストッパ層3の、液体吐出方向から見た面は、この例では、図1(a)に示すように四角形(ここでは正方形)である。そしてこの例では、ストッパ層3は、少なくとも、第1ノズル層1や第2ノズル層2の面全体には形成されておらず、図1(a)に示すように、隣り合ったノズル間にはストッパ層3が形成されず第1ノズル層1と第2ノズル層2とが直接接触している。また、ストッパ層3の厚みは、第1ノズル層1の厚みよりも薄く設定されている。
また、第2ノズル穴11bは、上記第1ノズル穴11aとともにノズル穴11を構成し、円筒形状の第1ノズル穴11aとの連通部から裾広がりに拡開するテーパ形状(円錐台形状)であり、第2ノズル層2を通って、撥液膜4の反対側の面2bにて開口している。
なお、円錐台形状の第2ノズル穴11bの上底11yは、第1ノズル穴11aを中心とする円環形状であり、ストッパ層3が当該上底11yを成して露出している。したがって、第1ノズル穴11aと第2ノズル穴11bの連通部11x(略円形)の口径は、第2ノズル穴11bの上底11yの外口径(上記連通部11xにおける第2ノズル穴11bの外形)より、ストッパ層3が第2ノズル穴11b内部に張り出している面積分だけ小さい。ここで、すでに説明したとおり、第1ノズル穴11aの略円形の開口部が液体吐出口9となっている。また、第2ノズル穴11bの略円形の開口部が液体供給口12となっている。
以下、各部のサイズや材質の具体例を説明するが、本発明がその具体例に限定されるものではない。
第1ノズル層1には厚さが約1μmのポリイミド膜が用いられ、第2ノズル層2には厚さが約20μmのポリイミド膜が用いられている。すなわち、この例では、第1ノズル層1と第2ノズル層2とでは材料が同じである。また、この例では、第2ノズル層2の厚みは第1ノズル層1の厚みより厚くなっている。
ストッパ層3はTiを主成分とする金属材料からなりノズルプレート8全体の応力による反りを低減するため、1辺約20μmの略正方形形状となっている。
第1ノズル穴11aの開口部(液体吐出口9)の口径は約3μmである。また、第2ノズル穴11bの上底11yの外口径は10μmであり、開口部(液体流入口12)の口径は30μmである。
また、第1ノズル層1上の撥液膜4は、フッ素重合もしくはシリコン系の高分子膜により形成されている。
本実施の形態によれば、上記ストッパ層3はノズル穴11の形成位置ごとに局所的に設けられているため、従来のように第1ノズル層と第2ノズル層との界面の全体にわたってストッパ層(図11のSiO2層26)を形成する構成と比較して、第1ノズル層1および第2ノズル層2とストッパ層3との線膨張率の差に起因する応力の発生を大幅に抑制することができ、ノズルプレート8に大きな反りが発生することを防止できる。
また、上記のような応力の発生を抑制できるため、第1ノズル層1および第2ノズル層2に要求される剛性が小さくてすむ。これにより、第1ノズル層1あるいは第2ノズル層2の層厚を、従来の構成(図11(a)(b)に示すSi層24が15μm、Si層25が100μm)に比較して、小さくすることができる(本実施の形態では、第1ノズル層1が1μm、第2ノズル層2が20μm)。これにより、第1ノズル穴11aおよび第2ノズル穴11bの後述するエッチングの際、第1ノズル層1および第2ノズル層2のエッチング量が少なくてすみ、形成誤差が小さくなる。したがって、形成精度の高いノズル穴11を備えることができる。
また、第2ノズル穴11bがテーパ形状であるため、第2ノズル穴11b内部において、液体の乱流が発生しにくくなり、液滴の吐出安定性を向上させることができる。
また、上記のように第2ノズル層2を従来の構成に比較して薄くすることができるため、第2ノズル穴11bをテーパ形状に形成しても、液体流入口12を従来の構成に比較して小さくすることができる。これにより、ノズル穴11の集積度を上げることができる。
また、撥液膜4によって、液滴が第1ノズル穴11a近傍の第1ノズル層1に付着することを防止することができる。
なお、第1ノズル層1に用いられる材料はポリイミドに限定されない。ポリイミド以外の高分子有機材料であっても良いし、SiO2、Si3N4といったSi化合物材料、あるいはSiであっても良い。
また、ストッパ層3に用いる材料もTiを主成分とする金属材料に限定されない。第1ノズル層1および第2ノズル層2のエッチング加工および後述する犠牲層5のエッチングの際、当該エッチングに対して高い耐性を有する材料、すなわち、エッチングガス(酸素を含有するプラズマ、フッ素を含有するプラズマ等)、または、エッチャント(硝酸、水酸化カリウム水溶液等)に対する耐性の高い材料であればよい。具体的には、Ti、Al、Cu、Au、Pt、Ta、W、Nb等を主成分とする金属材料、SiO2、Al2O3等を主成分とする無機酸化物材料、Si3N4等を主成分とする無機窒化物材料等が挙げられ、上記エッチング手法との組み合わせで上記材料の中から選定することができる。
また、第2ノズル層2に用いられる材料もポリイミドに限定されない。第1ノズル層1と同様に、ポリイミド以外の高分子有機材料であっても良いし、SiO2、Si3N4といったSi化合物材料、あるいはSiであっても良い。
また、ストッパ層3の形状もノズル穴11の形成位置に局在する形状でありさえすればよく、略正方形形状に限定されない。例えば円形であっても良い。円形は形状の等方性が最も高いので応力の低減も等方的となり好ましい。また、図1(a)に示すように、本実施の形態では1個のストッパ層3に対して1個のノズル穴11が形成されているがこれに限定されない。従来の構成より応力を抑えることが可能であれば、1個のストッパ層3に複数個のノズル穴11を形成しても良い。
また、本実施の形態では、図1(b)に示すように、第1ノズル穴11aと第2ノズル穴11bの連通部11xの口径は、第2ノズル穴11bの上底11yの口径より小さいがこれに限定されない。上記連通部11xの口径が上記当接部11yの口径と同じであっても構わない。また、本実施の形態では、第2ノズル穴11bは、第1ノズル穴11aとの連通部11xが狭まった円錐台形状(テーパ形状)であるがこれに限定されない。例えば、図2に示すように、第2ノズル穴11bの側壁がストッパ層3と垂直の、いわゆるストレート形状(円筒形状)に形成することもできる。この場合、第2ノズル穴11bの液体流入口12をより小さくすることができ、ノズルの集積度をさらに高めることができる。さらに、第2ノズル穴11bを、図8(c)に示すような膨らみのあるテーパ形状としてもよい。
上記のように、ノズルプレートを第1ノズル層1、ストッパ層3、第2ノズル層2を備える構成にすることによって、
(1)液体吐出口9の形状を、厚さ1μmの第1ノズル層1の加工精度が支配するため、液体吐出口9の形状精度を向上することができる。
(2)ノズルプレート8の剛性は第2ノズル層2で維持できるため、ノズルプレート8全体の剛性が高くなり、取り扱いが容易になる。
(3)ストッパ層3の形状を必要最小限に設定することができるので、応力によるノズルプレート8の反りを低減することができる。
(4)ノズルプレート8の厚さを必要最小限にとどめることができるので、ノズルプレート8の液体流入口12を小さくすることができ、これによってノズル穴11の集積度を向上することができる。これに伴って解像度の高い画像を描画することができるようになる。
(5)膜厚の厚い第2ノズル層2によって補強されているためノズルプレート8全体の剛性が高く反りが発生しにくくなるとともに取り扱いが容易になる。
(6)膜厚の厚い第2ノズル層2に加工された第2ノズル穴11bの加工精度がたとえ悪くとも、第2ノズル穴11bの加工時にはストッパ層3でエッチングが止まるため、吐出される液滴の大きさを制御する第1ノズル穴11aに影響を及ぼすことがない。
(7)ノズルプレート8は、ストッパ層3が第1ノズル層1よりも薄く設定されているため、前記ストッパ層3をフォトリソグラフィ技術を用いてエッチング加工を行う際、ストッパ層3を用いることなく第1ノズル層1を直接フォトリソグラフィ技術を用いて加工する場合に比べ、加工の形状精度が高く、このストッパ層3をマスクとしてエッチング選択性の高い加工方法で第1ノズル層1を加工することができるので、吐出される液滴の大きさを制御する第1ノズル穴11aを高精度で形成することができる。
(8)第1ノズル層1にSiO2あるいはSi3N4を使用した場合、第1ノズル層1上に撥液膜4を形成する際、撥液膜4の付着力が向上するため、撥液膜4のはがれや欠けが防止されるため、吐出される液滴の吐出方向が安定し、描画画像の解像度が向上する。
(ノズルプレートの製造方法)
次に、本実施の形態にかかるノズルプレートの一製造方法を説明する。図3(a)〜(g)は本実施の形態にかかるノズルプレートの製造工程を説明する図である。また、図4は、図3(c)に示される工程の変形例である。
まず、任意の厚さの一時保持のための犠牲部材6を準備する。本実施の形態では上記犠牲部材6は、Siやガラスなどからなる基板51と犠牲層5からなる構成とし、犠牲層5は湿式鍍金によってNiを成膜することによって形成した(図3(a)参照)。犠牲層5の厚さは10μmとする。ここで、犠牲部材6の表面(本実施の形態では犠牲層5の表面)には後述するプロセスにおいて第1のノズル層が積層され、この第1のノズル層1と犠牲部材6の界面がノズルプレートの液体吐出面側となるため、上記犠牲部材6の表面はできるだけ凹凸が少ないことが望ましい。この観点から、本実施の形態では高い平坦性と平滑性を容易に実現できるSiやガラスなどの基板51上に、犠牲層5を基板の表面形状を反映しやすい湿式鍍金法によって形成することで犠牲部材6を構成した。ただし、高精度の表面加工によって表面の平坦性と平滑性を制御された、Niなどの金属ブロックを上記犠牲部材6として使用することもできる。
次に、上記犠牲層5の上に塗布型のポリイミド樹脂を厚さ1μmで成膜し、第1ノズル層1を形成する(第1の工程、図3(b))。ここで、上記塗布型ポリイミド樹脂は犠牲層5上にスピンコートによって塗布し、350℃で2時間焼成した。
次に、上記第1ノズル層1上に、ストッパ層3を形成する(第2の工程、図3(c))。まず、Tiを主成分とする材料を用い、スパッタ法にて厚さ0.5μm(5000Å)のストッパ層3を形成する。そして、このストッパ層3を、フォトリソグラフィにより所定の形状のレジストパターンを形成した後、イオンミリングのようなArイオンによるドライエッチングによって一辺20μmの略正方形形状に加工する。このドライエッチングの際に、上記略正方形の内部に口径3μmの開口部11a1を1個形成する。この開口部11a1は後述する第1ノズル穴11aの形成パターンであり、第1ノズル穴11aの一部となる。
次に、第2ノズル層2を、上記第1ノズル層1およびストッパ層3上に、20μmの厚さで形成する(第3の工程、図3(d))。第2ノズル層2は、第1ノズル層1と同様に塗布型ポリイミド樹脂をスピンコート法にて塗布し、350℃で2時間焼成し20μmの厚さとした。ここで、ストッパ層3の開口部11a1もポリイミド樹脂にて埋められることになる。
次に、上記第2ノズル層2上にフォトリソグラフィによってレジストパターン7を形成し、酸素を主成分とするガスを用いたドライエッチングを行い、第2ノズル層2にテーパ形状(円錐台形状)の第2ノズル穴11bを形成した(第4の工程、図3(e))。なお、上記ドライエッチングはストッパ層3で止めることができる。すなわち、ストッパ層3の上記開口部11a1を除いてストッパ層3が露出した部位では、ドライエッチングがそれ以上進行しない。
第2ノズル穴11bのテーパ形状の加工に際しては、上記エッチングにおいて、レジストパターン7のエッチレートと第2ノズル層2のポリイミド樹脂のエッチレートを概ね等しくし、該レジストパターン7を150℃で60分ポストベークすることによってレジストパターン7をテーパ形状とし、エッチングによってこの形状を第2ノズル層2に転写する手法を用いた。
すなわち、図9に示すように、エッチレートがポリイミド樹脂(第2ノズル層2)と概ね等しくテーパ断面を有するレジストパターン7を形成し、ポリイミド樹脂のエッチングと同じスピードでレジストパターン7をエッチングし、レジストパターン7のエッジを広げる。このときポリイミド樹脂(第2ノズル層2)もエッチングされることになり、エッチングの壁面(第2ノズル穴11bの壁面)が当初レジストで形成したテーパを有する壁面(レジストパターン7)と同じ形状になる。
なお、レジストパターン7と第2ノズル層2のエッチレートとが概ね等しいことから、レジストパターン7の厚さは第2ノズル層2の厚さより厚く形成することが望ましい。
また、ここで上記レジストを用いて図示しないノズルプレートの外形形状パターンを作成することができる。この構成では、第2のノズル穴加工工程において、第2のノズル穴を加工すると同時にノズルプレートの外形形状を加工することができる。当該ノズルプレートの外形形状は以下に説明する第1のノズル穴加工時においても第1のノズル穴と同時に加工され、第1のノズル穴加工完了時に同時にノズルプレートの外形形状も加工完了する。このようにノズルプレートの外形形状を第1のノズル穴および第2のノズル穴と同時に加工することによって、以下のような効果が得られる。
すなわち、一つの基板上に複数のノズルプレートを配置し、同時に製造することができるので、ノズルプレート製造にかかるスループットを向上することができる。さらに、ノズル穴加工終了時にノズルプレートの外形形状も加工が完了するので、別工程において外形形状の加工を行う必要がなく、これによってノズルプレートの損傷の危険性をさらに低減でき、結果としてノズルプレートの生産安定性を向上することができる。
次に、第4の工程に連続して、第1ノズル層1に第1ノズル穴11aを加工するエッチングを行う(第5の工程、図3(e)参照)。このとき第1ノズル穴11aは、先の工程で加工したストッパ層3の開口部11a1によって決定される形状(略円形であり、口径が3μm)に加工される。このとき、ストッパ層3は本工程の酸素を主成分とするドライエッチングではほとんどエッチングされないので、ストッパ層3に形成されたパターンが変化することなく、第1ノズル穴11aは図3に示すようにほぼ垂直に加工され、これによって第1ノズル穴11aを高い精度で形成することができる。
次に、上記レジストパターン7を、レジスト剥離液を用いて除去し、硝酸と水が主成分である水溶液に浸漬し犠牲層5のみをエッチングすることで、ノズルプレート8を基板51からとりはずす(図3(f))。このとき、上記犠牲層5をエッチングによって完全に除去する必要はなく、第1のノズル層1が接している界面の犠牲層5のみをエッチング除去することによって、ノズルプレート8は犠牲部材6から離間することができる。また、先に述べたように、第1ノズル層1、第2ノズル層2を形成するポリイミド樹脂やストッパ層3を形成するTiは、上記犠牲層5のエッチング液によってほとんどエッチングされることがないので、犠牲層5のエッチングによって、形状の変化や構造的信頼性の低下を招来することがない。
次に、第1ノズル層1の表面に撥液膜4を形成する(図3(g))。ここでは、塗布の容易さを考慮する趣旨でフッ素重合体を用い、これをスタンプなどの方法により第1ノズル層1の表面に塗布し、高分子膜にて撥液膜4を形成した。なお、第1ノズル穴11a内に回り込んだ撥液膜については、撥液膜形成後に、酸素を含有するプラズマを用い、第2ノズル穴11b側からドライエッチングすることで、これを除去した。これにより、ノズルプレート8のダメージを最小限にすることができる。
本実施の形態によれば、第1ノズル穴11aをエッチングする際、ストッパ層3をマスク(遮蔽層)として第1ノズル穴11aをエッチングするため、第1ノズル穴11aを高精度に形成できる。
また、第2ノズル層2をエッチングする際、ストッパ層3で自動的にエッチングがとまり、第2ノズル穴11bのエッチング深さを規定することができる。
また、ストッパ層3の材料に、第1ノズル穴11aのエッチング時の遮蔽層として、あるいは、第1ノズル穴11aの側壁として最適な材料を選択することができる。これにより、第1ノズル穴11aをより高精度に形成することができる。また、第1ノズル層1あるいは第2ノズル層2は直接あるいは間接に犠牲部材6と接合されているので、犠牲部材6によりノズルプレートの剛性を保持でき、第1ノズル層1あるいは第2ノズル層2を薄く形成できるため、第1ノズル穴11aおよび第2ノズル穴11bのエッチングの際、第1ノズル層1および第2ノズル層2のエッチング量が少なくてすみ、形成誤差が小さくなる。したがって、ノズル穴11を高い精度で形成できる。
具体的には、本実施の形態の工程を用いて作成した200個の液体吐出口9を有するノズルプレート8の各液体吐出口9の形状を評価したところ、ばらつきは±0.2μmと非常に高精度に加工できた。また、ノズルプレート8の反りも10μm以下と非常に平坦であった。
さらに、第1ノズル穴11aおよび第2ノズル穴11bをエッチングする際、ストッパ層3に対して1方向からエッチングを行うため、従来の方法のように、向かい合うように2方向からエッチングを行う場合に比較して、第1ノズル穴11aと第2ノズル穴11bの位置あわせが容易である。
さらに、第1ノズル穴11aおよび第2ノズル穴11bの形成工程(第4工程および第5工程)において、第4工程におけるエッチング装置およびエッチング液またはエッチングガスをそのまま使って、第5工程のエッチングを行うことができる。これにより、製造プロセスを簡略化できる。
なお、本実施の形態では、犠牲層5としてNi、第1ノズル層1および第2ノズル層2としてとしてポリイミド樹脂、ストッパ層3としてTiを用いたが、この組み合わせに限定されない。
犠牲層5には、Niのほかに、第1ノズル層1、第2ノズル層2、ストッパ層3に用いる材料との組み合わせによって、Al、Cu、などの硝酸、あるいはKOH水溶液に可溶な材料、またはポリイミドのような酸素プラズマによってエッチングできる材料を用いることができる。また、犠牲層5の形成方法についても鍍金以外に蒸着法、スパッタ法、塗布法などを材料に応じて用いることができる。
第1ノズル層1、第2ノズル層2には、犠牲層5のエッチングによるダメージが軽微な材料を用いることができる。また、ストッパ層3には、犠牲層5のエッチングおよび第1ノズル穴11aおよび第2ノズル穴11bのエッチングに対して耐性の高い材料を用いることができる。
ここで、表1に、使用材料(犠牲層、第1ノズル層、ストッパ層、第2ノズル層)および加工方法(ストッパ層、第1ノズル穴、第2ノズル穴、犠牲層除去)について好ましい組み合わせを示す。
表1に示すように、第1ノズル層1、第2ノズル層2はポリイミド樹脂のような高分子有機材料に限定されず、SiまたはSiO
2などの無機シリコン化合物を選択することができる。ただし、SiO
2やSiをドライエッチングするためには、Fを含有する反応ガスを使用する必要があり、このエッチングに対して本実施の形態で用いたTiは耐性が低いため、Auなどのエッチング耐性を有する材料をストッパ層3として利用することが望ましい。
また、ストッパ層3にも、Ti以外に、表1に示す組み合わせに応じて、同表に記載の材料を使用することができる。なお、ストッパ層3の材料であるTiはCF4と酸素の混合ガスを用いたプラズマでもエッチングすることができる。しかし、Tiの下に形成された第1ノズル層1(ポリイミド)が、上記ガスのプラズマによってTiよりも高速にエッチングされ、大きなダメージを受ける。したがって、本実施の形態ではストッパ層3のパターニングにはArイオンによるドライエッチング法を採用している。このように、ストッパ層3のエッチレートと第1ノズル層1のエッチレートとの差が少ないArイオンによるドライエッチング法を採用することで、第1ノズル層1のダメージを最小限に抑えつつストッパ層3をパターニングすることができる。
また工程2において、上記ストッパ層3は正方形形状に形成したがこれに限定されない。第2ノズル穴11bを形成する際、該第2ノズル穴11bがストッパ層3に到達し、エッチングの進行が止まるような形状および大きさであれば何でもよい。ただし、ストッパ層3の応力によるノズルプレート8の反りをより低減できるような形状および大きさ(必要最小限の大きさ)であることが望ましい。
さらに、工程2においては、ストッパ層3の形状と第1ノズル穴11aの形成パターンとなる開口部11a1を同時に作成したが、2回のエッチング工程によって作成することも可能である。さらに、工程2では、図4に示すように、ノズル穴加工パターン(開口部11a1を有するストッパ層3)の作成時に、第1ノズル穴11aを加工することもできる。ただしこの場合は、第2ノズル層2を形成する際に(工程3)、先に加工した開口部11a1が埋められてしまうため、工程5において、再度当該部位を加工する。
また、工程4においては、第2ノズル穴11bを加工する際のマスク材とエッチング条件を適正化し、図8(a)〜(c)に示すように、側壁に膨らみ(曲面)をもった第2ノズル穴11bを形成することもできる。
すなわち、図8(a)〜(c)に示すように第2ノズル層2上に酸素のプラズマエッチに対する耐性の高いSiO2などをマスク13として形成し(図8(a)参照)、酸素のプラズマエッチを高いガス圧たとえば500mTorrでエッチングする(図8(b)参照)。これにより、マスク13の下にも、アンダーカットが生じ、ふくらみのあるテーパを形成することができる(図8(c)参照)。
ただし、上記エッチングがオーバーエッチングになると、第2ノズル穴11bとストッパ層3の接触部において第2ノズル穴11bの口径dが広がり、大面積のストッパ層3が必要となるため、上記エッチングを適性に制御することが好ましい。
また、撥液膜4としては、フッ素重合体に限定されず、シリコン系の高分子膜、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などを用いることもできる。
以上の加工工程を用いることによって、
(1)第1ノズル穴11aを、ストッパ層3の開口部11a1をマスクとして選択性の高い加工手段で加工するため、加工中の開口部11a1形状の変化が少なく、オーバーエッチや第1ノズル層1の厚さのばらつきなどによる、第1ノズル穴11aの加工形状の変動が少なく、形状精度が高く再現性のよい加工を行うことができる。
(2)上記第2ノズル穴11bを上記ストッパ層3に対して選択性の高い加工手段によって加工するため、第2ノズル穴11bの加工を再現性よくストッパ層3で止めることができる。このため、第2ノズル穴11bの加工精度が第1ノズル穴11aの加工精度に及ぼす影響が軽微であり、液体吐出口9の形状精度が高く、層厚の厚いノズルプレート8を安定して製造することができる。
(3)ノズルプレートの液滴吐出面となる第1のノズル層と犠牲層の界面は、プロセスの最終段階まで犠牲層によって保護されているため、ノズルプレート製造プロセスにおいて、液滴吐出面が損傷を受けることがなく、形状精度の高いノズル穴を多数有するノズルプレートを安定して製造することができる。
〔実施の形態2〕
本発明の実施の形態2について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
(ノズルプレート)
図5(a)は、微小ドット形成装置に用いられる、本発明のノズルプレートの一部の斜視図であり、図5(b)は、図5(a)のB−B’矢視断面図である。ノズルプレートには1個以上の液体(液状物質)吐出口90が形成されており、図5(a)においては2個の液体吐出口90が示されている。
図5(a)に示すように、ノズルプレート80は、ノズル層10、ストッパ層30(遮蔽層)、補強板20、ノズル穴110を備えている。ノズル層10の液体吐出面側には撥液膜40が形成され、その反対側には補強板20が接合されている。この例では、補強板20の厚みはノズル層10の厚みより厚くなっている。ストッパ層30は、ノズル層10と補強板20の界面に位置し、上記液体吐出口90を開口部とする第1ノズル穴110aの形成位置に局所的に形成されている。すなわち、第1ノズル穴110aは、撥液膜40、ノズル層10を貫通し、局所的に形成されたストッパ層30の中心部を貫通している。
より詳しくは、ストッパ層30は、第1ノズル穴110aからの液体吐出方向から見ると、その中心が、第1ノズル穴110aの円筒形状の穴の中心と略一致する形状であって、第1ノズル穴110aが延伸されることでその中心部が円形にくり抜かれた形状をしている。ストッパ層30の、液体吐出方向から見た面は、この例では、図5(a)に示すように四角形(ここでは正方形)である。そしてこの例では、ストッパ層30は、少なくとも、ノズル層10や補強板20の面全体には形成されておらず、図5(a)に示すように、隣り合ったノズル間にはストッパ層30が形成されずノズル層10と補強板20とが直接接触している。また、ストッパ層30の厚みは、ノズル層10の厚みよりも薄く設定されている。
また、直方体形状の第2ノズル穴110bは、補強板20を貫通しており、円筒形状の上記第1ノズル穴110aとともにノズル穴110を構成する。
ここで、上記ストッパ層30は、ノズル層10と補強板20との界面において第2ノズル穴110bの内部(開口範囲内)に位置している。したがって、上記第2ノズル穴110bの開口部にあたる底面(略正方形)が液体供給口120となっており、第2ノズル穴110bの奥壁にあたる底面110y(略正方形)の内側に、ノズル層10とストッパ層30との接触面(穴付略正方形)が位置している。なお、この接触面の内側(中心部)には、第1ノズル穴110aと第2ノズル穴110bとの連通部110x(略円形)が位置している。
ノズル層10は、本実施の形態では厚さが1μmのポリイミド膜で形成されている。
ストッパ層30は、Tiを主成分とする金属材料が用いられ、ノズルプレート80全体の応力による反りを低減するため、1辺10μmの略正方形形状に形成されている。
第1ノズル穴110aの開口部(液体吐出口90)の口径は3μmとなっている。
撥液膜40は、フッ素重合体を有する高分子材料から形成されている。
補強板20は厚さ50μmのSiからなり、上記した略正方形の第2ノズル穴110bの開口部(液体供給口120)は、一辺が30μmとなっている。
本実施の形態によれば、ストッパ層30は、後述する第1ノズル穴110aのエッチング時に遮蔽層となれば足りることから、第2ノズル穴110bの内部に位置するよう、小さい形状にて形成されている。
このように、ノズル層10とストッパ層30との接触面を最小限にすることができ、加えて、補強板20とストッパ層30との接触面をなくすことができるため、ノズル層10および補強板20とストッパ層30との線膨張率の差に起因する応力の発生を、従来や実施の形態1の構成に比較して大幅に抑制することができる。これにより、ノズルプレート80に大きな反りが発生することを防止できる。
なお、ノズル層10に用いられる材料はポリイミドに限定されない。ポリイミド以外の高分子有機材料であっても良いし、SiO2、Si3N4といったSi化合物材料、あるいはSiであっても良い。
また、ストッパ層30に用いる材料もTiを主成分とする金属材料に限定されない。ノズル層10のエッチングおよび後述する犠牲層50のエッチングの際、当該エッチングに対して高い耐性を有する材料、すなわち、酸素を含有するプラズマ、フッ素を含有するプラズマ、硝酸、水酸化カリウム水溶液等に耐性の高い材料であればよい。具体的には、Ti、Al、Cu、Au、Pt、Ta、W、Nb、SiO2、Al2O3、Si3N4等を主成分とする金属材料あるいは無機酸化物材料や無機窒化物材料等が挙げられる。
また、補強板20に用いられる材料もSiに限定されない。SiO2、Si3N4といったSi化合物材料であっても良い。
また、ストッパ層30の形状もノズル穴110の形成位置に局在する形状でありさえすればよく、略正方形形状に限定されない。例えば円形であっても良い。円形は形状の等方性が最も高いので応力の低減も等方的となり好ましい。また、図5(a)に示すように、本実施の形態では1個のストッパ層30に対して1個のノズル穴110が形成されているがこれに限定されない。従来の構成より応力を抑えることが可能であれば、1個のストッパ層30に複数個のノズル穴110を形成しても良い。
また、補強板20に設けられた第2ノズル穴110bも直方体形状(断面が正方形形状)に限定されない。円筒形状やテーパ形状(円錐台形状)であっても良い。
上記のように、ノズルプレートをノズル層10、ストッパ層30、補強板20を備える構成にすることによって、
(1)液体吐出口90の形状を、厚さ1μmのノズル層10の加工精度が支配するため、液体吐出口120の形状精度を向上することができる。
(2)ノズルプレート80の剛性は補強板20で維持できるため、ノズルプレート80全体の剛性が高くなり、取り扱いが容易になる。
(3)ストッパ層30の形状をさらに小さくすることができるので、応力によるノズルプレート80の反りを低減することができる。
(4)ノズルプレート80の厚さを必要最小限にとどめることができるので、ノズルプレート80の液体流入口120を小さくすることができ、これによってノズル穴110の集積度を向上することができる。これに伴って解像度の高い画像を描画することができるようになる。
(5)また、ストッパ層30は補強板20に形成された第2ノズル穴110bの形状に影響を受けることなく、必要最低限の所定の形状に加工できるため、線膨張率の差によるノズルプレート80の反りをさらに低減することができる。
(6)ノズルプレート80は、ストッパ層30がノズル層10よりも薄く設定されているため、前記ストッパ層30をフォトリソグラフィ技術を用いてエッチング加工を行う際、ストッパ層30を用いることなくノズル層10を直接フォトリソグラフィ技術を用いて加工する場合に比べ、加工の形状精度が高く、このストッパ層30をマスクとしてエッチング選択性の高い加工方法でノズル層10を加工することができるので、吐出される液滴の大きさを制御する第1ノズル穴110aを高精度で形成することができる。
(ノズルプレートの製造方法)
図6(a)〜(g)は、本実施の形態にかかるノズルプレートの製造工程を示している。以下に、同図を用いて本実施の形態にかかるノズルプレートの製造方法を説明する。
まず、任意の厚さの一時保持のための犠牲部材60を準備する。本実施の形態では上記犠牲部材60は、Siやガラスなどからなる基板510と犠牲層50からなる構成とし、犠牲層50は湿式鍍金によってNiを成膜することによって形成した(図6(a)参照)。犠牲層50の厚さは10μmとする。ここで、犠牲部材60の表面(本実施の形態では犠牲層50の表面)には後述するプロセスにおいてノズル層10が積層され、このノズル層10と犠牲部材60の界面がノズルプレートの液体吐出面側となるため、上記犠牲部材60の表面はできるだけ凹凸が少ないことが望ましい。この観点から、本実施の形態では高い平坦性と平滑性を容易に実現できるSiやガラスなどの基板510上に、犠牲層50を基板の表面形状を反映しやすい湿式鍍金法によって形成することで犠牲部材60を構成した。ただし、高精度の表面加工によって表面の平坦性と平滑性を制御された、Niなどの金属ブロックを上記犠牲部材60として使用することもできる。
次に、上記犠牲層50の上に塗布型のポリイミド樹脂を厚さ1μmで成膜し、ノズル層10を形成する(図6(b))。ここで、上記塗布型ポリイミド樹脂は犠牲層50上にスピンコートによって塗布し、350℃で2時間焼成した。
次に、上記ノズル層10上に、ストッパ層30(遮蔽層)を形成する(図6(c))。まず、Tiを主成分とする材料を用い、スパッタ法にて厚さ5000Åのストッパ層30を形成する。そして、このストッパ層30を、フォトリソグラフィにより所定の形状のレジストパターンを形成した後、イオンミリングのようなArイオンによるドライエッチングによって一辺10μmの略正方形形状に加工する。このドライエッチングの際に、上記略正方形の内部に口径3μmの開口部110a1を1個形成する。この開口部110a1は後述する第1ノズル穴110aの形成パターンであり、第1ノズル穴110aの一部となる。
次に、上記ストッパ層30の開口部110a1に対応するパターンを有するレジストパターン70を形成する。すなわち、レジストパターン70の開口部70aにストッパ層30の開口部110a1が位置するように形成される。しかる後に、ストッパ層30をマスクとして、その開口部110a1からノズル層10をエッチングし、第1ノズル穴110aを形成する。このエッチングには、酸素を主成分とするガスを用いたドライエッチングによる(図6(d))。
続いて、レジスト70を剥離液などを用いて除去する。ここで、ストッパ層30は本工程の酸素を主成分とするドライエッチングではほとんどエッチングされないので、ストッパ層30に形成されたパターンが変化することなく、第1ノズル穴110aは図6(d)に示すようにほぼ垂直に加工される。
このため、オーバーエッチによる加工形状の変化がなく、フォトリソグラフィのパターン精度に近い±0.1μmの極めて高い加工精度で第1ノズル穴110aを形成することができる。また、上記レジスト70の厚さは、上記ノズル層10の厚さよりも大きいことが望ましく、本実施の形態では上記レジスト厚を2μmとした。
また、ここで上記レジストを用いて図示しないノズルプレートの外形形状パターンを作成することができる。この構成では、上記第1のノズル穴加工工程において、第1のノズル穴を加工すると同時にノズルプレートの外形形状を加工することができ、第1のノズル穴加工完了時に同時にノズルプレートの外形形状も加工完了する。このようにノズルプレートの外形形状を第1のノズル穴と同時に加工することによって、以下のような効果が得られる。
すなわち、一つの基板上に複数のノズルプレートを配置し、同時に製造することができるので、ノズルプレート製造にかかるスループットを向上することができる。さらに、ノズル穴加工終了時にノズルプレートの外形形状も加工が完了するので、別工程において外形形状の加工を行う必要がなく、これによってノズルプレートの損傷の危険性をさらに低減でき、結果としてノズルプレートの生産安定性を向上することができる。
次に、一辺15μmの直方体形状の第2ノズル穴110bを有する補強板20を、第2ノズル穴110b内に上記ストッパ層30が配置するように位置決めして接着する(図6(e)参照)。ここでは各部材(ノズル層10と補強板20)の接着面をカメラ等で観察し、観察位置から上記各部材を所定量移動し、機械的に接合する方法を用いた。
図10(a)はこの方法における、位置決め(アライメントフェイズ)を示し、同図(b)は接合(接合フェイズ)を示している。
まず、図10(a)に示すように、補強板位置測定エリア65において、カメラ61によって補強板20の接合面を観察し、第2ノズル穴110bの輪郭パターンを測定する。同様に、ノズル層位置測定エリア67において、カメラ62によってノズル層10の接合面を観察し、ストッパ層30の輪郭パターンを測定する。
次に、図10(b)に示すように、上記測定結果からノズル層10および補強板20の適正移動量を算出し、この適正移動量に従い上記ノズル層10と補強板20とを接合エリア66における適性位置に移動させる(アライメントフェイズ)。
そして、接合エリア66において、接合面をリアルタイムで観察することなく上下に圧着し、補強板20とノズル層10とを接合する。
なお、補強板20はSiからなり、接着剤には、耐薬品性の高いエポキシ系を用いる。接着の際には、接着剤とノズル層10あるいは補強板20の線膨張係数の差から、ノズルプレート80に反りが発生しないよう、常温にて硬化することが望ましい。
次に、硝酸と水が主成分である水溶液に浸漬し犠牲層50のみをエッチングすることで、ノズルプレート80を基板510からとりはずす(図6(f)参照)。このとき、上記犠牲層50をエッチングによって完全に除去する必要はなく、ノズル層10が接している界面の犠牲層50のみをエッチング除去することによって、ノズルプレート80は犠牲部材60から離間することができる。また、ノズル層10を形成するポリイミド樹脂やストッパ層30を形成するTiならびに補強板20を形成するSiは、上記犠牲層50のエッチング液によってほとんどエッチングされることがないので、犠牲層50のエッチングによって、形状の変化や構造的信頼性の低下を招来することがない。
次に、ノズル層10の表面に撥液膜40を形成する(図6(g))。ここでは、塗布の容易さを考慮する趣旨によりフッ素重合体を用い、これをスタンプなどの方法でノズル層10の表面に塗布することで、高分子膜にて撥液膜40を形成した。なお、第1ノズル穴110a内に回り込んだ撥液膜40については、撥液膜40形成後に、酸素を含有するプラズマを用い、第2ノズル穴110b側からドライエッチングすることで、これを除去した。これにより、ノズルプレート80のダメージを最小限にすることができる。
ここで補強板20の製造方法について図7を用いて簡単に説明する。
まず、図中矢印D方向の厚さ200μmのSi基板31に、第2ノズル穴110bとなる幅15μm、深さ15μmの溝をダイシング装置によって所定の間隔に形成する。次に、矢印D方向の厚さ100μmのSi基板32を上記溝を加工したSi基板31の溝を配設した面33にエポキシ系の接着剤を用いて接合する。次に、ダイシング装置によって溝に直交する方向(図中矢印D方向)に切断する。これにより、図中矢印E方向に沿った、第2ノズル穴110b(断面が一辺15μmの略正方形)の列を1列有する、矢印F方向の厚さ50μmの補強板20を複数枚切り出すことができる。
ここで、上記方法は補強板20の製造方法の単なる一例に過ぎず、例えば、図中矢印E方向に沿った第2ノズル穴110b(断面が一辺15μmの略正方形)の列を図中矢印D方向に複数列有する補強板20を製造することもできる。この場合、溝を加工したSi基板31を複数枚用いればよい。なお、溝を加工した上記Si基板31を複数枚用い、溝の位置あるいは接合位置を調整すれば、千鳥配列された第2ノズル穴110bを形成することもできる。
本実施の形態によれば、ストッパ層30は第1ノズル穴110aのエッチング時に遮蔽層(マスク)となる大きさであればよい。よって、ストッパ層30を実施の形態1に比較して、より小さい形状にて形成することができる。
また、補強板20とノズル層10とを別個に形成できるため、ノズルプレート80を簡略に、また、安定して製造することができる。
以上のプロセスを用いて作成した200個の液体吐出口90を有するノズルプレート80の各吐出口の形状を評価したところ、ばらつきは±0.2μmと非常に高精度に加工できた。また、ノズルプレート80の反りも5μm以下と非常に平坦であった。
なお、本実施の形態では、犠牲層50にNi、ノズル層10にポリイミド樹脂、補強板20にSi、ストッパ層30にTiを用いたが、この組み合わせに限定されない。
犠牲層50には、Niのほかに、ノズル層10、補強板20、ストッパ層30に用いる材料との組み合わせによって、Al、Cu、などの硝酸、あるいはKOH水溶液に可溶な材料、またはポリイミドのような酸素プラズマによってエッチングできる材料を用いることができる。また、犠牲層50の形成方法についても鍍金以外に蒸着法、スパッタ法、塗布法などを材料に応じて用いることができる。
ノズル層10、補強板20には、犠牲層50のエッチングによるダメージが軽微な材料を用いることができる。また、ストッパ層30には、犠牲層50のエッチングおよび第1ノズル穴110aのエッチングに対して耐性の高い材料を用いることができる。
ここで、表2に使用材料(犠牲層、ノズル層、ストッパ層、補強板)および加工方法(ストッパ層、第1ノズル穴、犠牲層除去)について好ましい組み合わせを示す。
表2に示すように、ノズル層10はポリイミド樹脂のような高分子有機材料に限定されず、SiまたはSiO
2などの無機シリコン化合物を用いることができる。また、補強板20についても、Si以外にガラスやAl
2O
3などを主成分とするセラミックあるいはポリイミド樹脂といった材料を使用することができる。
なお、ストッパ層30の材料であるTiはCF4と酸素の混合ガスを用いたプラズマでもエッチングすることができる。しかし、Tiの下に形成されたノズル層10(ポリイミド)が、上記ガスのプラズマによってTiよりも高速にエッチングされ、大きなダメージを受ける。したがって、本実施の形態ではストッパ層30のパターニングにはArイオンによるドライエッチング法を採用している。このように、ストッパ層30およびノズル層10とのエッチレートの差が少ないArイオンによるドライエッチング法を採用することで、ノズル層10のダメージを最小限に抑えつつストッパ層30をパターニングすることができる。
また、撥液膜40としては、フッ素重合体に限定されず、シリコン系の高分子膜、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などを用いることもできる。
また、本実施の形態では補強板20は、Si板に第2ノズル穴110bを加工しただけであるが、補強板20の厚さを変更することによって、液滴吐出機構や液滴吐出信号伝達手段を配置することが可能である。
以上の加工工程を用いることによって、
(1)液体吐出口90の形状を、厚さ1μmのノズル層10の加工精度が支配するため、液体吐出口90の形状精度を向上することができる。
(2)ノズルプレート80の剛性は補強板20で維持できるため、ノズルプレート80全体の剛性が高くなり、取り扱いが容易になる。
(3)ストッパ層30の形状をさらに小さくすることができるので、応力によるノズルプレート80の反りを低減することができる。
(4)ノズルプレート80の厚さを必要最小限にとどめることができるので、ノズルプレート80の液体流入口120を小さくすることができ、これによってノズル穴110の集積度を向上することができる。これに伴って解像度の高い画像を描画することができるようになる。
(5)ノズルプレート80を簡便に、安定して製造することができる。
(6)ノズルプレートの液滴吐出面となるノズル層と犠牲層の界面は、プロセスの最終段階まで犠牲層によって保護されているため、ノズルプレート製造プロセスにおいて、液滴吐出面が損傷を受けることがなく、形状精度の高いノズル穴を多数有するノズルプレートを安定して製造することができる。
なお、上記実施の形態のノズルプレート8(80)は、上記ストッパ層3(30)の膜厚が第1ノズル層1(ノズル層10)よりも薄いことを特徴とすることもできる。
上記構成のノズルプレート8(80)は、ストッパ層3(30)が第1ノズル層1(ノズル層10)よりも薄く設定されているため、前記ストッパ層3(30)をフォトリソグラフィ技術を用いてエッチング加工を行う際、ストッパ層3(30)を用いることなく第1ノズル層1(ノズル層10)を直接フォトリソグラフィ技術を用いて加工する場合に比べ、加工の形状精度が高く、このストッパ層3(30)をマスクとしてエッチング選択性の高い加工方法で第1ノズル層1(ノズル層10)を加工することができるので、吐出される液滴の大きさを制御する第1ノズル穴11a(110a)を高精度で形成することができる。
なお、上記実施の形態のノズルプレート8は、第1ノズル層1または第2ノズル層2は、高分子有機材料またはSiあるいは無機シリコン化合物から選定される材料によってそれぞれ形成され、上記ストッパ層3は第1ノズル層1または第2ノズル層2の加工手段に対して、耐性の高い材料によって形成されることを特徴とすることもできる。
上記構成のノズルプレート8は、第1ノズル穴11aがストッパ層3を貫通する形状で第1ノズル層1に形成されているため、第1ノズル穴11aの形状精度が高い。また、第2ノズル層2に形成された第2ノズル穴11bがストッパ層3を貫通することがないので第1ノズル層1の厚さが一定で、流路抵抗のばらつきがない。
なお、上記実施の形態におけるノズルプレート8(80)の製造方法は、第1ノズル層1(ノズル層10)を添着する工程と、第1ノズル層1(ノズル層10)上にストッパ層3(30)を形成する工程と、ストッパ層3(30)に開口部を形成する工程と、ストッパ層3(30)に形成した開口部形状をマスクとして、第1ノズル穴11a(110a)を加工する工程と、第1ノズル層1(ノズル層10)と支持基板とを離間する工程を備えることもできる。
上記構成のノズルプレート8(80)の製造方法では、第1ノズル穴11a(110a)のマスクとなるストッパ層3(30)の開口部を作成する際、第1ノズル層1(ノズル層10)が支持基板によって支持されているため、上記開口部の加工を精度よく行うことができ、このためこの開口部をマスクとして加工する第1ノズル穴11a(110a)が高精度に形成される。
なお、上記実施の形態におけるノズルプレートの製造方法は、上記第1ノズル穴11aまたは第2ノズル穴11bの加工をドライエッチングを用いて行うことを特徴とすることもできる。
上記構成のノズルプレート8の製造方法では、高い異方性を有するエッチングで第1ノズル穴11a又は第2ノズル穴11bを加工するため、第1ノズル穴11aまたは第2ノズル穴11bを高い加工精度で加工することができる。
また、上述したすべての実施の形態において、ノズルプレートの応力による変形を低減するために、遮蔽層を所定の外形形状に加工したが、本発明の主旨においては、遮蔽層の外形形状を、ノズル穴ごとに加工を行うことなく、ノズルプレートのほぼ全面を覆うような形状とすることも可能である。
なお、本発明に係るノズルプレートの製造方法は、上記課題を解決するために、液状物質を吐出する少なくとも1つのノズル穴を有するノズルプレートの製造方法であって、犠牲部材を準備する工程と、前記犠牲部材上に第1のノズル層を形成する工程と、前記第1のノズル層にノズル穴を加工する工程と、前記ノズル穴加工後に犠牲部材をエッチングし前記第1のノズル層と犠牲部材とを離間する工程を備えるように構成することもできる。
本発明に係るノズルプレートの製造方法は、上記課題を解決するために、上記のずるプレートの製造方法において、前記犠牲部材が基板と当該基板上に形成された層状の部材を備えるように構成することもできる。
本発明に係るノズルプレートの製造方法は、上記課題を解決するために、上記のノズルプレートの製造方法において、前記第1のノズル層上にノズル穴のエッチング加工手段に対して第1のノズル層よりもエッチング耐性の高い遮蔽層を形成する工程と、前記遮蔽層に貫通穴を形成する工程と、遮蔽層に形成した貫通穴形状をマスクとして、第1のノズル穴をエッチング加工する工程と、前記犠牲部材をエッチングすることによって、前記第1のノズル層と基板とを離間する工程を備えるように構成することもできる。
本発明に係るノズルプレートの製造方法は、上記課題を解決するために、上記のノズルプレートの製造方法において、犠牲部材を準備する工程と、前記犠牲部材上に第1のノズル層を形成する工程と、前記第1のノズル層上に第1のノズル穴及び第2のノズル穴のエッチング加工手段に対して第1のノズル層および第2のノズル層よりもエッチング耐性の高い遮蔽層を形成する工程と、前記遮蔽層に貫通穴を形成する工程と、遮蔽層に形成した貫通穴形状をマスクとして、第1のノズル穴をエッチング加工する工程と、前記第1のノズル層あるいは前記遮蔽層上に第2のノズル層を形成する工程と、前記第2のノズル層に第2のノズル層表面から前記遮蔽層に達する第2のノズル穴をエッチングによって形成する工程と、前記犠牲部材をエッチングすることによって、前記第1のノズル層と基板とを離間する工程を備えるように構成することもできる。
本発明に係るノズルプレートの製造方法は、上記課題を解決するために、上記のノズルプレートの製造方法において、前記第2のノズル穴をエッチング加工する工程と、前記第1のノズル穴をエッチング加工する工程とを、この順番で同一のエッチング装置で連続して行うように構成することもできる。
本発明に係るノズルプレートの製造方法は、上記課題を解決するために、上記のノズルプレートの製造方法において、第1のノズル穴のマスクパターンとなる遮蔽層の貫通穴を形成する工程と、上記第1のノズル層あるいは遮蔽層に補強板を接合する工程と、前記補強板の接合後、犠牲部材をエッチングし、前記第1のノズル層と基板とを離間する工程とを備えるように構成することもできる。
本発明に係るノズルプレートの製造方法は、上記課題を解決するために、上記のノズルプレートの製造方法において、上記犠牲部材のエッチングを酸あるいはアルカリ性の溶液を用いて行うように構成することもできる。
本発明に係るノズルプレートの製造方法は、上記課題を解決するために、上記のノズルプレートの製造方法において、少なくとも一部がNiまたはCuまたはAlを主成分とする材料からなる犠牲部材を準備する工程と、ポリイミドまたはSi、SiO2、Si3N4のうちの少なくとも1つを主成分とする材料からなる、第1のノズル層あるいは第2のノズル層を形成する工程と、Ti、W、Nb、Au、Pt、SiO2、Si3N4、Al2O3のうちの1つ以上を主成分とする遮蔽層を形成する工程と、硝酸または水酸化カリウムを含有する水溶液によって上記犠牲部材をエッチングする工程とを備えるように構成することもできる。
本発明に係るノズルプレートの製造方法は、上記課題を解決するために、上記のノズルプレートの製造方法において、上記犠牲部材のエッチングを、酸素を含有するプラズマを用いて行うように構成することもできる。
本発明に係るノズルプレートの製造方法は、上記課題を解決するために、上記のノズルプレートの製造方法において、少なくとも一部にポリイミドを主成分とする材料からなる犠牲部材を準備する工程と、Si、SiO2、Si3N4のうちの少なくとも1つを主成分とする材料からなる、第1のノズル層あるいは第2のノズル層を形成する工程と、Al、Cu、Ni、Fe、Co、Au、Pt、Al2O3のうちの1つ以上を主成分とする遮蔽層を形成する工程と、酸素を含有するプラズマを用いて上記犠牲部材をエッチングする工程とを備えるように構成することもできる。
本発明に係るノズルプレートの製造方法は、上記課題を解決するために、上記のノズルプレートの製造方法において、上記第1のノズル穴加工あるいは第2のノズル穴加工の際に、同時にノズルプレートの外形形状加工を行うように構成することもできる。
最後に、本発明は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。