JP2004339165A - 医療用具用コート材およびこれを用いた白血球除去フィルター - Google Patents
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Abstract
【課題】白血球と血小板の双方を含有する血球浮遊液から白血球を選択的に除去し、且つ血小板を高い通過率で回収する、更に溶出物を低減させた白血球除去フィルターのコート材を提供する。
【解決手段】N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位からなるブロックと、ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位からなるブロックとからなるアミド系ブロック共重合体であることを特徴とする白血球除去フィルター用コート材。
【選択図】なし
【解決手段】N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位からなるブロックと、ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位からなるブロックとからなるアミド系ブロック共重合体であることを特徴とする白血球除去フィルター用コート材。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は医療用具用コート材およびそれを用いたフィルターの発明に関する。特に全血に代表される血球浮遊液から白血球を選択的に除去し、且つ血小板を高い通過率で回収する、更に溶出物を低減させた白血球除去フィルター用のコート材およびそれを用いたフィルターに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の輸血分野において、輸血療法が適応された患者の身体的な負担を軽減するために、輸血用血液製剤から白血球を除去することの重要性が注目されてきた。この理由のひとつに、輸血後の頭痛、悪寒、非溶血性発熱反応等の副作用や、移植片体宿主疾患(GVHD)、アロ抗原感作、ウィルス感染等の更に重篤な輸血副作用が、主として血液製剤中に混入している白血球に由来すると考えられ、こうした輸血に際しての副作用を防ぐためには、これら輸血副作用が惹き起こされないと考えられる十分に低い水準にまで、白血球を除去することが求められている。
【0003】
かかる状況下において、白血球を除去するための様々な除去技術の研究が行われてきた。白血球を除去するための方法としては、血液成分の比重差を利用した遠心分離法や、繊維状基材や多孔質体を濾材として血液を濾過するフィルター法などがある。この中でも、操作が簡便であること、コストが低いこと、および白血球に対する吸着除去性能が優れていること、などの利点を有するフィルター法が広く実施されている。
【0004】
白血球を除去する技術の研究が今後も重要性を増すであろう理由のもうひとつに、成分輸血に用いる血液製剤の保存安定性および安全性を向上させることにある。患者に必要な成分のみを輸血する成分輸血は現在の輸血療法として主流となりつつあり、赤血球濃厚液、濃厚血小板液、乏血小板血漿などを遠心分離法により分離分画して調製する。しかし、この調製工程によって得られた各種製剤中には通常、相当数の白血球が混入していることが知られている。このような白血球を含有した血液製剤の保存期間が長くなると、保存中に白血球が生産する発熱性のサイトカインがその製剤を投与された患者の体内に混入することとなり、輸血後の副作用の原因となる。更にはこうした白血球の中にはウィルスや細菌を保持したものもあり、保存期間中に白血球が死滅あるいは破砕されて病原媒体が拡散した血液製剤を患者に投与してしまうことも懸念される。そのため各種血液製剤を調製した後、保存する前に白血球を可能な限り除去する必要性が指摘されており、こうした観点からも白血球除去技術の開発が強く求められているが、この場合には白血球を除去する操作が各成分血に対して必要となる。操作の簡便さ、コスト、血液製剤の安全性の観点から考えても、まず初めに全血において白血球のみを除去した後、分離分画して各種血液製剤を得る、という方式が望ましい。
【0005】
これまで白血球除去フィルターの研究に関しては種々の報告がなされている。例えば、特許文献1には、血小板と白血球の両者を含有する細胞浮遊液から、血小板の損失が少なく白血球を効率よく除去する目的で、周囲表面部分に非イオン性親水基と塩基性含窒素官能基とを含有する白血球除去フィルター材が開示されている。しかしながらこのフィルター材は実施例に開示されていない全血を処理した場合には、血小板の通過率が満足するものではなく、さらなる改良が必要であった。
【0006】
また、特許文献2には、血小板の損失を少なく抑えつつ白血球を効率よく除去し、更に溶出物がほとんどない白血球選択除去フィルター材を提供することを目的として、フィルター基材の表面に疎水性部分とポリエチレンオキサイド鎖の両方を有する多量体をコーティングにより導入している白血球選択除去フィルター材が開示されている。この多量体は、抗血栓性を有する優れた材料であるポリエチレンオキサイド鎖を有する単量体に、フィルター素材との接着性を高めて溶出を抑制する目的で疎水性部を導入することにより構成されている。しかしながら、このフィルター材もまた、全血を処理した場合には血小板の通過率が満足するものではなく、さらなる改良が必要であった。
【0007】
また、特許文献3には、血小板の粘着が少なく、全血および白血球・血小板を含む血液成分から白血球のみを選択的に除去し、特に血小板を高い効率で回収する白血球除去フィルターを提供することを目的として、高分子鎖中に疎水性構造単位と親水性構造単位を含有する親水性ポリマー(A成分)と、多孔質基材(B成分)より構成される白血球除去フィルターが開示されている。しかしながら、この全体として親水性なるポリマーを含んだフィルターの中には、血液を濾過している間に白血球の除去性能および血小板の透過率が共に低下してしまう、という問題があった。従って、満足する性能を得るためには、さらなる改良が必要であった。
【0008】
一般に血小板等を粘着させない抗血栓性材料には、高濡れ性、すなわち、高エネルギー表面が適しているとされており、親水性ポリマーが存在する表面は高い表面自由エネルギーを有してはいるが、水への溶出性が高く、従って長期にわたり高い表面自由エネルギー状態を維持できる材料は現在までのところ知られていない。このように医療材料としての安全性を確保し、高い白血球除去性能と高い血小板回収性能を両立させる白血球除去フィルターは、現在までのところ開発できていない。
【0009】
【特許文献1】国際公開第87/05812号パンフレット
【特許文献2】特開平7−25776号公報
【特許文献3】国際公開第01/66171号パンフレット
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、白血球と血小板の双方を含有する血球浮遊液から白血球を選択的に除去して血小板を高い通過率で回収し、且つ、表面濡れ性を損なうことなくフィルターからのポリマー成分の溶出を低減させた医療用具用のコート材、特に白血球除去フィルターのコート材及び該コート材がコーティングされた白血球除去フィルターを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、以下に表す通りである。
(1) 下記一般式(1)
【化2】
で表されるアミド系ブロック共重合体からなることを特徴とする医療用具用コート材。
[ここで、式(1)は共重合体の組成式を表わす。(A)、(B)は高分子主鎖を構成する各繰返し単位を表わす。l、mは高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%を表わす。
(A):N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位(該繰返し単位は1種であっても2種以上であっても良い。)。
(B):ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位(該繰返し単位は1種であっても2種以上であっても良い。)。
ただし、l+m=100、且つ0.1≦l/m≦10、共重合体の数平均分子量は2000以上500000以下である。]
(2) ブロック共重合体がジブロック共重合体またはトリブロック共重合体であることを特徴とする上記(1)記載の医療用具用コート材。
(3) ブロック共重合体がトリブロック共重合体であって、且つ配列構造がA−B−Aであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の医療用具用コート材。
ここで、A、Bはそれぞれ以下を表す。
A:N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位(A)からなるブロック(該繰返し単位は1種であっても2種以上であっても良い。)。
B:ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位(B)からなるブロック(該繰返し単位は1種であっても2種以上であっても良い。)。
(4) 医療用具用コート材が、白血球除去フィルター用コート材であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の医療用具用コート材。
(5) 請求項4に記載のブロック共重合体からなる医療用具用コート材がコーティングされた白血球除去フィルター。
(6)コート材と水との接触角が60度未満であることを特徴とする上記(5)に記載の白血球除去フィルター。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は医療用具用コート材に関するものであるが、ここで医療用具用とは医療の分野で使用されることをいい、特に体内を循環する血液やリンパ液に代表される体液の処理に関し、本発明の特徴とする高濡れ性及び低溶出性を利用できるものを言う。例えば、白血球除去フィルター、血液透析・濾過を行う人工腎臓用モジュール、輸血用フィルター、血液浄化フィルター、体外循環用フィルター、カテーテル等に利用できる。
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体は、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位(A)からなるブロックAを少なくとも1つと、ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位(B)からなるブロックBを少なくとも1つ有するブロック共重合体である。
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体において、ブロックAを構成する繰返し単位であるN,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドのうち、入手の容易さ、重合のし易さ、取り扱い性の良さ、血液を濾過した際の性能の良さなどから、N,N−ジメチルアクリルアミド(以下、DMAAと略す)が特に好ましい。
【0013】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体において、ブロックBを構成する繰返し単位であるヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体とは、単量体中に一つ以上のヒドロキシル基を有するアクリル酸エステルであり、一般式CH2CHCOOR(Rは炭素数1以上、10以下のヒドロキシル基を有する置換基を表す。)で表される。ここで用いられる置換基は、一つ以上のヒドロキシル基を有していれば特に限定されないが、溶出量低減の観点から、ヒドロキシル基を1つまたは2つ有するアルキル基が好ましい。具体的なアクリル酸エステルとしては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2―ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシシクロヘキシルアクリレート、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアクリレート、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルアクリレートなどが挙げられる。
【0014】
ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体とは単量体中に一つ以上のヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステルであり、一般式CH2C(CH3)COOR(Rは炭素数1以上、10以下のヒドロキシル基を有する置換基を表す。)で表される。ここで用いられる置換基は、一つ以上のヒドロキシル基を有していれば特に限定されないが、溶出量低減の観点から、ヒドロキシル基を1つまたは2つ有するアルキル基が好ましい。具体的なメタアクリル酸エステルとしては、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート(以下、HEMAと略する)、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート(以下、HPMAと略する)、2−ヒドロキシブチルメタアクリレート(以下、HBMAと略す)、3−ヒドロキシブチルメタアクリレートなどが挙げられる。
【0015】
ヒドロキシル基を有するスチレン系単量体とは単量体中に1つ以上のヒドロキシル基を有するスチレンである。この中でも溶出量低減の観点から、ヒドロキシル基を1つまたは2つ有するものが好ましい。ヒドロキシル基を1つまたは2つ有するスチレンとして、例えば、2−ヒドロキシスチレン、3−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレン、3−メトキシ−4−ヒドロキシスチレン、3−ニトロ−4−ヒドロキシスチレン、3、5−ジブロモ−4−ヒドロキシスチレン、2、5−ジヒドロキシスチレン、2、4−ジヒドロキシスチレンなどが挙げられる。
【0016】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体において、該ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、メタアクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体の中でも、重合速度が速く重合が容易であるアクリル酸エステル系単量体およびメタアクリル酸エステル系単量体が好ましい。
また該ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体のなかでも特に共重合体の溶出量を低減する効果、基材との親和性、ガラス転移温度から鑑み、HEMA、HPMA、HBMAが好ましい。
【0017】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体において、高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%であるl、mはl+m=100且つ0.1≦l/m≦10であれば十分に溶出防止効果と表面濡れ性の向上が期待可能である。l/mが0.1未満の場合は、親水性であるアミド系単量体に由来する繰返し単位の割合が小さいため、十分に高濡れ性が発現しない。また、l/mが10をこえる場合は、アミド系単量体に由来する繰返し単位の割合が大きいため、低溶出性が発現しない。溶出防止性と濡れ性のバランス向上を発現させるには0.15≦l/m≦6であることが好ましく、更に好ましくは0.2≦l/m≦3である。
【0018】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の数平均分子量は2000以上500000以下であれば特に限定はされない。2000未満では溶出防止効果が著しく低下する。また500000より大きい場合、攪拌が困難なほどに反応液粘度が著しく高く、反応系の均一性が確保できないので好ましくない。
溶出防止効果と生産性を鑑みた場合、望ましい数平均分子量の範囲は2000以上150000、特に好ましくは9000以上80000以下である。
【0019】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体は、ブロック構造であれば特に限定されない。例えば、ジブロック、トリブロック、テトラブロック、ペンタブロック、などがある。
ここで、ジブロック構造とは、ブロック構造のうち、2つのブロックからなる構造をいい、ブロックAとブロックBからなるABというブロック共重合体である。また、トリブロック構造とは、ブロック構造のうち、3つのブロックからなる構造をいい、例えば、ブロックA、ブロックB、ブロックAの順に配列したABAというブロック共重合体がある。他に、ABABというテトラブロック、ABABAというペンタブロックなどがある。
重合が容易であるという製造上の観点、および塗膜にした際に表面濡れ性および溶出防止効果を発現し得るという機能の観点から、その中でもジブロック構造、トリブロック構造がより好ましい。
【0020】
その中で(A)N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位からなるブロックAと、(B)ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位からなるブロックBとが相分離しやすい構造であるトリブロック構造がより好ましく、そのようなトリブロック構造の中でも、重合反応の安定性が高く、リビング性が維持しやすいA−B−Aの配列構造は、塗膜にした際に表面濡れ性が高く、且つ低溶出性で長期にわたり高い表面自由エネルギー状態の塗膜を維持し得る点で特に好ましい。
【0021】
更に、本発明に用いるアミド系ブロック共重合体は、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位からなるブロックAに、その他の非イオン性親水性単量体に由来する繰返し単位を、コート材としての特性に悪影響を及ぼさない範囲で含むことが可能である。
その他の非イオン性親水性単量体とは、アミド基以外の非イオン性親水基を有する単量体であり、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドと付加重合可能な単量体である。該非イオン性親水基の例としては、ヒドロキシル基、繰り返し単位数1〜4程度のポリオキシエチレン基などが挙げられる。該非イオン性親水基を有する単量体としては、ヒドロキシアルキルアクリレート類、ヒドロキシアルキルメタアクリレート類等のヒドロキシル基を有するアクリル酸誘導体およびメタアクリル酸誘導体;側鎖に繰り返し単位数1〜4程度のポリオキシエチレン基を有するアルコキシポリエチレングリコールアクリレート類、アルコキシポリエチレングリコールメタアクリレート類などが挙げられる。 これらの単量体の中でも、ヒドロキシル基を有する2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキルアクリレート類、および2−ヒドロキシエチルメタアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート等のヒドロキシアルキルメタアクリレート類が、血小板の通過の点でより好ましい。
【0022】
該その他の非イオン性親水性単量体とN,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドとが付加重合してなる構造形態としては、ランダム構造、グラフト構造、ブロック構造、テーパー構造などの構造形態をとることが可能である。また、該その他の非イオン性親水性単量体に由来する繰り返し単位の量としては、ブロックAに含まれる全ての単量体に由来する繰り返し単位を100mol%とした場合、60mol%以下である。60mol%以下であれば血液を濾過した際の性能に悪影響を示さない。
【0023】
更に、本発明のアミド系ブロック共重合体はヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位からなるブロックBに、その他の単量体に由来する繰返し単位を、コート材の特性に悪影響を及ぼさない範囲で含むことが可能である。
その他単量体とは、該ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体と付加重合可能な単量体であり、アクリル酸エステル系単量体、メタアクリル酸エステル系単量体、及びスチレン系単量体のうちヒドロキシル基を有していない単量体、及びビニル単量体である。具体的にはメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2―エチルへキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、グリシジルアクリレート、2―メトキシエチルアクリレート、2―メトキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールメチルエーテルアクリレート、メチルメタアクリレート(以下、MMAと略す)、エチルメタアクリレート、プロピルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート、2―エチルへキシルメタアクリレート、シクロヘキシルメタアクリレート、グリシジルメタアクリレート、2―メトキシエチルメタアクリレート、2―メトキシプロピルメタアクリレート、ジエチレングリコールメチルエーテルメタアクリレート、スチレン、パラメチルスチレン、パラメトキシスチレン、オルソメトキシスチレン、α−メチルスチレン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタアクリレートなどが挙げられる。
【0024】
該その他単量体とヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体とが付加重合してなる構造形態としては、ランダム構造、グラフト構造、ブロック構造、テーパー構造などの構造形態をとることが可能である。また、該その他単量体に由来する繰り返し単位の量としては、ブロックBに含まれる全ての単量体に由来する繰り返し単位を100mol%とした場合、50mol%以下である。50mol%以下であれば血液を濾過した際の性能に悪影響を示さない。
【0025】
以下に本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の製造方法を説明する。
該アミド系ブロック共重合体の製造方法としては、リビングラジカル重合が好ましく用いられる。
リビングラジカル重合は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の形態で適宜実施可能であるが、本発明に用いるアミド系ブロック共重合体をリビングラジカル重合により製造する場合、反応熱の制御と重合触媒除去の観点から、溶液重合が好ましい。
【0026】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の製造方法において、使用される重合溶媒としてはメタノール、エタノール、ノーマルプロパノール、イソプロパノール、ノーマルブタノールのような炭素数1以上、6以下のアルコール化合物、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのような炭素数2以上6以下のエーテル化合物、アセトン、メチルエチルケトンのような炭素数2以上6以下のケトン化合物、ノーマルペンタン、シクロペンタン、ノーマルヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンのような炭素数5以上10以下の飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリンのような炭素数6以上10以下の芳香族炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルのような炭素数3以上6以下のエステル化合物、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンのような炭素数2以上10以下の含窒素化合物、ジメチルスルホキシドのような含硫黄化合物、および水が挙げられる。これらは工業的な生産性、次反応への影響などを考慮して任意に選択可能であり、必要に応じて1種、あるいは2種以上の混合物であっても良い。特に好ましい溶媒としてはアルコール化合物が挙げられる。
【0027】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の製造方法において、リビングラジカル重合反応に使用する重合触媒は特に制限されないが、Ru、Fe、Cu、Ni、Pd、Rhなどの公知の金属錯体から適宜選択できる。該金属錯体として具体的には、RuCl2(PPh3)3(式中、PPh3はトリフェニルホスフィン基を表す。)、RuH2(PPh3)4、RuCl(PPh3)2Cp(式中、Cpはシクロペンタジエニル基を表す。)、FeCl2(PPh3)2、NiBr2(PPh3)2、Ni(PPh3)4、Pd(PPh3)4、RhCl(PPh3)3が挙げられる。この中でも入手の容易さからRuCl2(PPh3)3が好ましい。
また重合速度を向上させるために、重合速度調整剤を加えることが好ましく、アルミニウムトリイソプロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、すずテトライソプロポキシドなどが挙げられる。その中でも入手の容易さからアルミニウムトリイソプロポキシドが好ましい。
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の製造方法において、重合開始剤はハロゲン含有化合物であれば特に限定されない。これらの化合物には、2,2−ジクロロアセトフェノン、2−クロロアセトフェノン、2−ブロモイソ酪酸エチル、四塩化炭素、クロロホルム、ブロモトリクロロメタン、塩化ベンジル、臭化ベンジルなどが挙げられる。その中でも入手の容易さ、開始反応の容易さなどから、2,2−ジクロロアセトフェノン、2−クロロアセトフェノンが好ましい。
【0028】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の製造方法において、リビングラジカル重合の重合温度は21℃以上、120℃以下で実施される。21℃以上あれば重合が開始され、また120℃以下であれば重合触媒の失活が無い。好ましくは50℃以上、100℃以下、更に好ましくは60℃以上、80℃以下である。
重合反応に要する時間は、目的あるいは重合条件によって異なるが、通常は96時間以内であり、特に好適には30分から24時間の範囲で実施される。
重合触媒、重合速度調整剤の計量は、高純度窒素、または高純度アルゴン(純度99.9999%、酸素0.2ppm未満、二酸化炭素1.0ppm未満)等の不活性ガス下で実施する。使用する溶媒は蒸留後、高純度アルゴン等の不活性ガスを用いて1時間バブリングする等の十分な脱酸素処理を行った後に重合に用いる。特に、単量体の精製は減圧蒸留を行い、重合禁止剤を除去することが必要である。
【0029】
重合中は系内にリビングラジカル活性末端を不活性化させるような不純物(例えば酸素等)が数ppm混入しても重合速度が大きく低下するので好ましくない。従って重合中の不純物の混入には特に留意する必要があり、重合系は大気圧よりも常に高いことが望ましく、また上記重合温度範囲で原料の単量体及び重合溶媒を液相に維持するのに十分な圧力範囲で実施する。
【0030】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体を重合終了後に回収し精製する方法としては、重合反応溶液中の不溶解な重合触媒、重合速度調整剤を減圧濾過、加圧濾過などで除去する方法が挙げられる。また、濾別不可能な残留金属原子などを除去する方法として重合反応溶液を貧溶媒に加え析出させる、いわゆる再沈精製法を実施することが可能である。また良溶媒への再溶解と再沈精製を繰り返すことも可能であり、残留金属原子を必要十分な濃度に達するまで除去することができる。更に特別に高純度な重合高分子が必要な場合は二酸化炭素超臨界法による抽出法も可能である。重合体中の残量金属原子濃度は上記の精製法を用いて0.01wtppm以上、1500wtppm以下にすることができる。好ましくは0.01wtppm以上、300wtppm以下、更に好ましくは0.01wtppm以上、10wtppm以下である。
【0031】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の中で、好ましい構造であるA−B−Aの配列構造は、上記の製造方法であれば、特に限定されないが、その中でも特に下記の製造方法が好ましい。即ち、重合溶媒としては、ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体を溶解させ得る溶媒であれば、特に限定されないが、これらの単量体の良溶媒であるメタノール、エタノール、ノーマルプロパノール、イソプロパノール、ノーマルブタノールのような炭素数1以上、6以下のアルコール化合物が好適に用いられる。
重合触媒については、上記の重合触媒であれば特に限定されないが、入手の容易さからRuCl2(PPh3)3が好ましい。重合速度調整剤については、上記の重合速度調整剤であれば特に限定されないが、入手の容易さから、アルミニウムトリイソプロポキシドが好ましい。重合温度については、上記の重合温度であれば特に限定されないが、重合の失活が無く、且つ重合速度の観点から60℃以上、80℃以下が好ましい。重合時間については、30分から24時間の範囲で実施される。重合開始剤については、ハロゲンを2つ有する化合物であれば特に限定されないが、入手の容易さ、開始反応の容易さなどから2,2−ジクロロアセトフェノンが好ましい。重合順序については、最初にヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体を重合し、重合の終了を確認した後に、N,N−ジメチルアクリルアミド、あるいはN−メチルアクリルアミドを重合する。すなわち、2官能性の触媒を用いてブロックBを作り、次いで単量体(A)を添加してブロックBの両端にブロックAを作ることにより製造する。
また、ABA’(AとA’は異なるモノマーから成る)というトリブロックを作る場合は、まず、単官能性の触媒を用いてブロックAを作り、次いで単量体(B)を添加してジブロックABを作り、更に単量体(A’)を添加して製造する。
【0032】
<溶出性の評価>
本発明における溶出とは、フィルター基材にコーティングした本発明のコート材が、室温付近または室温以下の水との接触により水に溶け出すことを指す。
本発明における溶出性評価は次のように行った。
フィルター基材に溶出性評価を行おうとするアミド系ブロック共重合体(以下、単に評価ポリマーと称す)を後述する方法によりコーティングし、評価試料を作成する。該試料から任意に直径25mmの円形状に切り抜いたフィルターの重量を電子天秤で秤量する。秤量後のフィルターを15℃の純水約40mL中に16時間浸漬させる。浸漬処理後、取り出したフィルターは60℃の真空乾燥機中で2時間程度、恒量になるまで乾燥させる。(2)式に従い評価試料の重量変化率を算出して溶出率とする。
評価試料の溶出率(wt%)=(純水浸漬処理前フィルター重量−純水浸漬処理後乾燥済フィルター重量)/(純水浸漬処理前フィルター重量)・・・(2)
【0033】
評価ポリマーをフィルター基材へコーティングする方法は、具体的には下記のようにしてコーティングする。
評価ポリマーを、フィルター基材1g当たりの全表面積に対して200〜300mg(以下、コート量はmg/m2の単位で表記する)の範囲内にコーティングされるように、コート溶液の濃度を調製する。該コート溶液に平均繊維直径1〜3μm、目付量20〜100g/m2、厚さ0.15〜0.30mmのポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)繊維よりなる不織布を1分間浸漬させた後、余分なコート溶液を除去し、室温で一昼夜、あるいは40℃の真空乾燥機中で8時間程度、恒量になるまで乾燥する。
【0034】
本発明においてフィルター基材へコーティングされた評価ポリマーの重量(以下、単にコート量と称す)は、具体的には下記のようにして測定する。
前述した方法でコーティングされた不織布から任意に直径25mmの円形状に切り抜いたフィルターの重量を電子天秤で秤量する。次いで秤量後のフィルターを評価ポリマーの良溶媒約40mL中に浸漬させ、60℃の恒温槽中で1〜2時間振蕩する。浸漬処理後、取り出したフィルターは60℃の真空乾燥機中で2時間程度、恒量になるまで乾燥する。なお、この処理により基材に評価ポリマーが残っていないことをNMR測定等で確認する。乾燥後のフィルターを前述の電子天秤で秤量する。
次に、フィルター基材の全表面積測定を行う。測定方法はBET吸着法で、測定装置は、島津アキュソープ2100E、吸着ガスはクリプトンガス、吸着温度は液体窒素温度である。
これらの測定した値をもとに、(3)式に従い評価試料のコート量を算出する。
コート量(mg/m2)=(浸漬処理前フィルター重量(mg)−浸漬処理後乾燥済フィルター重量(mg))/〔(浸漬処理後乾燥済フィルターの重量(g))×(フィルター基材1g当たりの全表面積(m2/g))〕・・・(3)
【0035】
本発明のコート材を用いて白血球除去フィルターを製造する場合、フィルター基材としては、不織布などの繊維状素材や連通孔を有する多孔質体が好ましい。フィルター基材の物理的構造は白血球の捕捉への寄与が大きいことが知られており、更に白血球の捕捉性能を向上させるためには、該フィルター基材の選択も重要になる。すなわち、不織布などの繊維状素材をフィルター基材として用いる場合には、平均繊維径は0.3μm以上、3.0μm以下、より好ましくは1.0μm以上、2.0μm以下である。平均繊維径が0.3μm未満であると、血球の目詰まりや圧力損失の増大を惹き起こす恐れがあるため、好ましくない。また、平均繊維径が3.0μmを越えると、白血球の捕捉性能が低下する恐れがあるため、好ましくない。
連通孔を有する多孔質体をフィルター基材として用いる場合には、平均気孔径は1μm以上、30μm以下、好ましくは1μm以上、20μm以下、より好ましくは2μm以上、10μm以下である。平均気孔径が1μm未満では、全血などを濾過する場合に圧力損失が増大し、血球の目詰まりや濾過が長時間になるなど実用性に欠けると懸念される。また、平均気孔径が30μmを越えると、多孔質体と白血球との接触頻度が低下し、白血球の捕捉性能が低下する恐れがある。
【0036】
本発明のコート材を用いて白血球除去フィルターを製造する場合、本発明のコート材をフィルター基材へコーティングする方法としては、ディップコート、グラビアコート、ブレードコート、ロールコート等の公知の方法から適切な方法を選択できる。一例を挙げれば、該コート材を溶解させうる適当な良溶媒に溶解させ、該コート材溶液にフィルター基材を浸漬させた後、余分な溶液をフィルター基材から絞る等の操作で除去し、次いで室温または熱風で乾燥させる等の簡単な操作で実施できる。乾燥条件は高分子の組成、溶媒組成、用途により異なるが10℃以上であれば特に制限はされない。
【0037】
本発明のコート材を用いて白血球除去フィルターを製造する場合、該コート材を溶解させうる良溶媒としては、該コート材を溶解させうるものであれば特に限定されないが、入手の容易さ、取り扱い性の良さ、沸点が低いこと等から、アルコール類が好ましい。そのようなアルコール類として具体的には、メタノール、エタノール、ノーマルプロパノール、イソプロパノールなどが好ましく用いられる。コーティング材の溶媒として沸点が低い溶媒を用いれば、コート後の乾燥が容易となる。更にこれら溶媒には必要に応じて水を加えることができる。
【0038】
本発明のコート材を用いて白血球除去フィルターを製造する場合、該コート材のコート量は90mg/m2以上、300mg/m2以下であることが好ましい。コート量が90mg/m2未満であると、血小板の通過率が低下し、また一方でコート量が300mg/m2を越えると、白血球の捕捉性能が低下する。
本発明のコート材を用いて白血球除去フィルターを製造する場合、該コート材がコーティングされたフィルターを容器内に充填したときの充填密度は0.1g/cm3以上、0.3g/cm3以下であることが好ましい。充填密度が0.1g/cm3未満であると、白血球の捕捉性能が低下する恐れがあり、また一方で充填密度が0.3g/cm3を越えると、血球の目詰まりや圧力損失の増大を惹き起こす恐れがあるため、好ましくない。
【0039】
<濡れ性/表面自由エネルギー評価>
濡れ性は表面自由エネルギーで表すことができる。表面自由エネルギーとは、液体の内部から表面に分子を移して1m2の表面を新しく作るのに必要な仕事と定義されている。本発明においても、この表面自由エネルギーと数学的に等価な量である表面張力を指標とし、具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)平膜に塗布した高分子材料と水との接触角を測定することにより測定を行った。接触角の測定は、表面自由エネルギー測定装置(協和海面科学社製、CA−VE型)を用いて行い、2.1秒後の値を測定値とした。本発明では、接触角が60度未満である場合を、高表面自由エネルギーを持つという。
【0040】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体が何故、白血球と血小板の双方を含有する血球浮遊液から、白血球を選択的に除去し、且つ血小板を高い通過率で回収する白血球除去フィルターのコート材として極めて有用であるか、については明らかではない。しかし、一般的な親水性疎水性ブロック高分子の場合、PET平膜等にコーティングすると空気がPET平膜より疎水性であるため、塗膜表面は表面自由エネルギーの低い、即ち疎水性表面になることは広く公知である(「実用高分子表面分析」黒崎和夫、三木哲郎著、講談社サイエンティフィク出版)。これに対して、本発明のアミド系ブロック共重合体を白血球除去フィルターのコート材として用いた場合には、驚くべきことに該フィルター表面は濡れ性の高い、即ち高表面自由エネルギーを有し、かつ、フィルターからのコート材の溶出を低減させるという、有効な知見を得ることができた。そして、その溶出性が低いという性質から、長期にわたり塗布表面は高表面自由エネルギー状態を維持できるものとなり、特に血小板を高い通過率で回収する白血球除去フィルターとして極めて有用である、と本発明者らは推測している。
【0041】
【実施例】
以下、本発明をより詳細に説明するため実施例に基づいて説明するが、本発明の要旨を越えない限り、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<反応に使用する機器>
0.5L耐圧瓶を洗浄後、120℃で24時間乾燥させた。また耐圧瓶に蓋をするゴム栓(日本バルカー社製)はシクロヘキサン中で1ヶ月浸漬することにより、ゴム栓中に含まれるシクロヘキサン溶解成分を除去した。
【0042】
<重合溶媒の精製、重合触媒の計量、単量体の精製>
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体を製造するに際し、使用したエタノール(和光純薬工業社製)溶媒は蒸留精製後、脱酸素処理として上記の高純度アルゴンにて1時間バブリングしたものを使用した。
重合触媒に用いたRuCl2(PPh3)3(Merck社製)および重合速度調整剤アルミニウムトリイソプロポキシド(Aldrich社製)は特別な精製を実施せずに、高純度窒素雰囲気下のバキュームグローブボックス(SGV−65V型)(井内盛栄堂社製)中にて、試薬瓶から採取、計量し、その後反応容器である耐圧瓶に移した。次いで、耐圧瓶を上記ゴム栓で蓋をし、王冠を被せて打栓した。次いでゴム栓を通して減圧脱気、高純度アルゴン置換を都合5回繰り返し、耐圧瓶内部を高純度窒素から高純度アルゴンに置換した。
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体を製造するに際し、使用したHPMA(和光純薬工業社製、試薬一級)は、圧力133Paで減圧蒸留を行い、系中温度が69.5℃の留分を回収し、溶存酸素を除去する目的で、1時間上記高純度アルゴンにてバブリングしたものを用いた。DMAA(東京化成工業社製、試薬一級)については、HPMA同様に減圧蒸留を実施し、圧力667Pa、61.5℃の留分を回収後、1時間高純度アルゴンにてバブリングしたものを用いた。MMA(和光純薬工業社製、試薬特級)については、同様に減圧蒸留にて圧力10664Pa、40.5℃の留分を採取し、その後1時間高純度アルゴンにてバブリングしたものを用いた。1−ヘプタノール(和光純薬工業社製、試薬特級)については、減圧蒸留をおこない、圧力667Pa、68.0℃の留分を回収し、その後、1時間高純度アルゴンでバブリングしたものを用いた。
開始剤である2,2−ジクロロアセトフェノン(東京化成工業社製、試薬一級)については、同様に、圧力66.7Pa、93.0℃の留分を用い、同様に高純度アルゴンでバブリングした。次いで精製2,2−ジクロロアセトフェノンを上記精製エタノールで希釈し、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液を調整した。また、別な開始剤である2−クロロアセトフェノン(東京化成工業社製、試薬特級)は固体であり、特に精製をせず、高純度窒素雰囲気下のバキュームグローブボックス中にて試薬瓶を開栓後、耐圧瓶に移し、ゴム栓をし、王冠を打栓した。次いで、減圧、アルゴン置換を5回実施したあと、精製エタノールで溶解した。次いで高純度アルゴンで1時間バブリングをおこない、その後精製エタノールを加え、1mol/L濃度の2−クロロアセトフェノンエタノール溶液を調整した。
再沈精製に使用したノーマル−ヘキサン(和光純薬工業社製、試薬一級)は特に精製を実施せず使用した。
【0043】
<分子量測定>
本発明に用いる共重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略す)測定により、標準PMMA(AMERICAN POLYMER STANDARDS社製)換算分子量として測定した。GPC測定には、東ソー社製、HLC−8020を用いた。また展開溶媒として、N、N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を用い、測定前に0.01mol/Lの臭化リチウム一水和物(和光純薬工業社製、純度99.5%)を加えたものを使用した。
【0044】
<共重合体の組成比の測定>
本発明に用いる共重合体の組成比、即ち、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位(A)の組成割合lおよび低溶出性のヒドロキシル基を有する単量体に由来する繰返し単位(B)の組成割合mは、消費された単量体がすべて共重合体に転化したとの仮定のもとに、ガスクロマトグラム(以下GCと略す)測定より求めた単量体の転化率から算出した。GC測定はガスクロマトグラフ(島津製作所社製、GC−14A)により、内部標準液として1−ヘプタノールを用いた。
【0045】
<NMR測定>
本発明に用いる共重合体の組成比はまた、1H−NMR測定より求めた各単量体由来の積分値から算出した。NMR測定には、JEOL社製、JNM−GSX400を用いた。測定に用いた重溶媒は重ジメチルスルホキシド(Cambridge Isotope Laboratories社製、純度99.9wt%、内部標準0.05wt%テトラメチルシラン含有、以下、重DMSOと略す)であり、共重合体5.0×10−3gに対して重DMSO5.0×10−4Lの濃度で測定した。測定温度は30℃にて実施した。
【0046】
[製造例1]
RuCl2(PPh3)3(1.03×10−3mol)及びアルミニウムトリイソプロポキシド(4.12×10−3mol)を入れた耐圧瓶に、エタノール(47.1g)、1−ヘプタノール(1.74g)、HPMA(0.125mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(0.845×10−3mol)を入れ、80℃の湯浴で12時間重合した。この耐圧瓶を20℃まで冷却した後、DMAA(0.114mol)を入れ、70℃の湯浴で16時間重合した。この重合液を20℃まで冷却した後、エタノール(80.0g)を加え、90mmφの桐山ロート(桐山製作所社製)および5A、次いで5Cの濾紙を用いて濾過することにより、不溶解の重合触媒および重合速度調整剤を除去した。このエタノール溶液をノーマル−ヘキサン(2L)に注いでポリマーを析出させて回収した。引き続き回収したポリマーをエタノール(0.4L)に再溶解させ、ノーマル−ヘキサン(2L)に注いでポリマーを沈殿させることにより精製した。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を前述したGPC測定により求めたところ、Mn3.6×104、Mw11.3×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、DMAA/HPMA=40.5/59.5であった。また前述したNMR測定により共重合体の組成比(mol%)を求めたところ、DMAA/HPMA=40.2/59.8であった。
【0047】
[製造例2]
RuCl2(PPh3)3(1.03×10−3mol)、アルミニウムトリイソプロポキシド(4.13×10−3mol)、エタノール(44.9g)、1−ヘプタノール(1.78g)、HPMA(0.125mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(0.857×10−3mol)を入れ、80℃の湯浴で12時間重合した。この耐圧瓶を20℃まで冷却した後DMAA(0.116mol)を入れ、70℃の湯浴で1.25時間重合した。重合後の重合触媒等の除去、ポリマーの回収および精製については合成例1と同様の方法で行った。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を、前述したGPC測定により求めたところ、Mn3.2×104、Mw9.0×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、DMAA/HPMA=23.1/76.9であった。また前述したNMR測定により共重合体の組成比(mol%)を求めたところ、DMAA/HPMA=20.6/79.4であった。
【0048】
[製造例3]
RuCl2(PPh3)3(1.58×10−3mol)、アルミニウムトリイソプロポキシド(6.33×10−3mol)、エタノール(78.5g)、1−ヘプタノール(2.99g)、HPMA(0.226mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(1.50×10−3mol)、DMAA(0.213mol)を用いて、合成例1と同様の方法で重合、回収、精製を行った。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を、前述したGPC測定により求めたところ、Mn3.7×104、Mw9.9×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、DMAA/HPMA=33.2/66.8であった。また前述したNMR測定により共重合体の組成比(mol%)を求めたところ、DMAA/HPMA=37.9/62.1であった。
【0049】
[製造例4]
RuCl2(PPh3)3(1.18×10−3mol)、アルミニウムトリイソプロポキシド(4.73×10−3mol)、エタノール(45.4g)、1−ヘプタノール(2.06g)、HPMA(0.217mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(1.53×10−3mol)を入れ、80℃の湯浴で20時間重合した。この耐圧瓶を20℃まで冷却した後、DMAA(0.105mol)およびHPMA(0.105mol)を入れ、70℃の湯浴で23時間重合した。重合後の重合触媒等の除去、ポリマーの回収および精製については合成例1と同様の方法で行った。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を、前述したGPC測定により求めたところ、Mn5.9×104、Mw21.5×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、(DMAA/HPMA)/HPMA=(22.6/26.8)/50.6であった。
【0050】
[製造例5]
RuCl2(PPh3)3(0.944×10−3mol)、アルミニウムトリイソプロポキシド(3.78×10−3mol)、エタノール(37.2g)、1−ヘプタノール(0.59g)、HPMA(57.8×10−3mol)、MMA(56.7×10−3mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(1.57×10−3mol)を入れ、80℃の湯浴で12時間重合した。この耐圧瓶を20℃まで冷却した後、DMAA(0.104mol)を入れ、70℃の湯浴で6時間重合した。重合後の重合触媒等の除去、ポリマーの回収および精製については合成例1と同様の方法で行った。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を、前述したGPC測定により求めたところ、Mn1.8×104、Mw2.8×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、DMAA/(HPMA/MMA)=45.2/(27.7/27.1)であった。
【0051】
[製造例6]
RuCl2(PPh3)3(0.787×10−3mol)、アルミニウムトリイソプロポキシド(3.15×10−3mol)、エタノール(34.8g)、1−ヘプタノール(1.76g)、HPMA(0.112mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(2.04×10−3mol)を入れ、80℃の湯浴で12時間重合した。この耐圧瓶を20℃まで冷却した後DEAA(0.110mol)を入れ、70℃の湯浴で48時間重合した。重合後の重合触媒等の除去、ポリマーの回収および精製については合成例1と同様の方法で行った。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を、前述したGPC測定により求めたところ、Mn1.5×104、Mw2.7×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、DEAA/HPMA=41.3/58.7であった。
【0052】
[製造例7]
RuCl2(PPh3)3(0.835×10−3mol)、アルミニウムトリイソプロポキシド(3.34×10−3mol)、エタノール(36.4g)、1−ヘプタノール(1.63g)、HBMA(0.112mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(1.96×10−3mol)を入れ、80℃の湯浴で15時間重合した。この耐圧瓶を20℃まで冷却した後DEAA(0.105mol)を入れ、70℃の湯浴で72時間重合した。重合後の重合触媒等の除去、ポリマーの回収および精製については合成例1と同様の方法で行った。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を、前述したGPC測定により求めたところ、Mn1.5×104、Mw2.6×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、DEAA/HBMA=42.7/57.3であった。
【0053】
[製造例8]
撹拌器、上部に窒素導入管を連結させた還流冷却管、温度センサーおよび開始剤滴下用チューブを備えた1Lセパラブルフラスコに、DMAA(0.50mol)、およびHPMA(0.50mol)を入れ、エタノール(0.24L)を加えた混合溶液中に窒素気流下にてフラスコ内を100rpmで撹拌しながら系内温度を60℃に昇温した。開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製)(0.82g)をエタノール(45mL)に加えた開始剤溶液を調製し、シリンジ内に貯蔵した。該開始剤溶液を3時間かけてフラスコ内に滴下するようにシリンジポンプを調整し、フラスコ内に窒素を吹き込みながら連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、更に2時間重合させた後、重合液にエタノール(0.17L)を加え、過剰のn−ヘキサン(和光純薬工業社製)に注いでポリマーを析出させて回収した。得られたポリマーをエタノールに再溶解させ、n−ヘキサンにて沈殿、次いで水で洗浄することにより精製した。
得られたポリマーはランダム共重合体であり、分子量を前述したGPC測定により求めたところ、Mn13.9×104、Mw40.4×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したNMR測定により求めたところ、DMAA/HPMA=36.8/63.2であった。
【0054】
[実施例1]
製造例1の共重合体を以下に示す方法によってフィルター基材にコーティングした。該共重合体20gをエタノールと純水の混合溶媒(エタノール/水=80/20wt%)180gに溶解させ、10wt%コート溶液を調製した。該コート溶液に平均繊維直径1.2μmのポリエチレンテレフタレート繊維よりなる不織布(40g/m2目付、厚さ0.20mm、幅150mm)を連続的に浸漬させた後、ニップロールに挟んで通過させることにより、余分なコート溶液を除去した。このようにして共重合体をコーティングした不織布(以下、単にコート不織布と称す)は排気ダクトを備えた乾燥室内で室温にて一昼夜乾燥した後、回収した。前述した方法によりコート量を求めたところ、295mg/m2であった。
上記方法により製造したコート不織布を溶出性評価方法により評価したところ、溶出率は5.2wt%であった。
また、コートした膜と水との接触角は47.3degであった。
【0055】
(血液性能評価1)
上記方法により製造したコート不織布から任意に直径20mmの円形状に切り抜き、その32枚をフィルターホルダーに充填(充填密度0.2g/cm3)した。このカラムに後述する方法で調製したヒト新鮮全血を、シリンジポンプを用いて一定の流速0.74mL/分で流し、その13.3mLを回収した。
ヒト新鮮全血は、採血した血液100mLに対し、抗凝固剤として濾過済みCPD溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物26.3g、クエン酸一水和物3.27g、グルコース23.2g、およびリン酸二水素ナトリウム二水和物2.51gを注射用蒸留水1Lに溶解させ、孔径0.2μmのフィルターで濾過した溶液)を14mL加えて混和し、20℃で3時間保存することにより調製した。
濾過前の血液および血液を濾過した後の回収液について、その一定量の血液を採取し、白血球濃度は残存白血球測定用試薬システムLeucoCOUNTTMkit、フローサイトメーターFACSCalibur、および解析ソフトCELL Quest(以上、BD Bioscience、米国)を用いて測定した。また、血小板濃度は自動血球計数装置MAX A/L−Retic(BECKMAN COULTER、米国)を用いて測定した。
以上のようにして得られた濾過前後の白血球濃度および血小板濃度を用いて、次(5)式および(6)式により、白血球除去能(以下、白除能と略す)および血小板回収率をそれぞれ算出した。
白血球除去能(−Log)=−Log(濾過後回収液中の白血球濃度/濾過前血液中の白血球濃度)・・・・(5)
血小板回収率(%)=(濾過後回収液中の血小板濃度/濾過前血液中の血小板濃度)×100・・・・(6)
このフィルターを用いた血液濾過実験を2回行い、白血球除去能(−Log)と血小板回収率(%)について、それぞれの平均値を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
製造例2の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、268mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は2.4wt%であった。また、同様にコートした膜と水との接触角は55.6degであった。
該コート不織布から実施例1と同様にして製造したフィルターを用いて血液濾過実験を2回行った。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
製造例3の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、288mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は4.5wt%であった。また、コートした膜と水との接触角は51.4degであった。
該コート不織布から実施例1と同様にして製造したフィルターを用いて血液濾過実験を2回行った。結果を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
製造例4の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、259mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は2.4wt%であった。また、コートした膜と水との接触角は51.3degであった。
該コート不織布から実施例1と同様にして製造したフィルターを用いて血液濾過実験を2回行った。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
製造例5の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、291mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は2.4wt%であった。また、コートした膜と水との接触角は56.3degであった。
【0060】
(血液性能評価2)
上記方法により製造したコート不織布から任意に直径20mmの円形状に切り抜き、その16枚をフィルターホルダーに充填(充填密度0.2g/cm3)した。このカラムに実施例1と同様の方法で調製したヒト新鮮全血を、シリンジポンプを用いて一定の流速0.90mL/分で流し、その8.0mLを回収した。白血球除去能(−Log)と血小板回収率(%)は実施例1と同様にして算出した。
このフィルターを用いた血液濾過実験を2回行い、白血球除去能(−Log)と血小板回収率(%)について、それぞれの平均値を表2に示す。
【0061】
[比較例1]
製造例6の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、245mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は1.9wt%であった。また、コートした膜と水との接触角は53.8degであった。
該コート不織布から実施例5と同様にして製造したフィルターを用いて血液濾過実験を2回行った。結果を表2に示す。
【0062】
[比較例2]
製造例7の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、241mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は1.0wt%であった。また、コートした膜と水との接触角は64.3degであった。
該コート不織布から実施例5と同様にして製造したフィルターを用いて血液濾過実験を2回行った。結果を表2に示す。
【0063】
[比較例3]
製造例8の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、212mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は18.3wt%であった。また、コートした膜と水との接触角は68.9degであった。
該コート不織布から実施例1と同様にして製造したフィルターを用いて血液濾過実験を2回行った。結果を表1に示す。
【表1】
【表2】
【0064】
表1における実施例1〜4と比較例3の結果から、アミド系ブロック共重合体をコート材として用いると、フィルターからの溶出量はアミド系ランダム共重合体の溶出量と比較して大幅に低減されていることがわかる。また、接触角も47.3〜55.6度と小さく、表面エネルギーが高く、濡れ性も良いことがわかる。更に血液性能に関しても、白血球の除去性能を向上させ、血小板も高い通過率で回収できることがわかる。
また表2における実施例5と比較例1〜2の結果から、DEAAを繰返し単位として有するアミド系ブロック共重合体をコート材として用いた場合(比較例1,2)、白血球の除去性能は更に向上するが、血小板がほとんど通過せず、白血球を選択的に除去できていないことがわかる。本発明の、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位からなるブロックと低溶出性のヒドロキシル基を有する単量体に由来する繰返し単位からなるブロックとからなるブロック共重合体を白血球除去フィルターのコート材として用いると(実施例5)、白血球の除去性能は高く、血小板は高い通過率で回収でき、且つコート材のフィルターからの溶出も従来のコート材と比較して大幅に低減できることがわかる。
なお、本発明では主に医療用具用フィルターの例として白血球除去フィルターをあげたが、同様の性質を要求するものであれば、本願のコート材を利用できることはいうまでもない。すなわち、低溶出性および高濡れ性を要求するものである。
【0065】
【発明の効果】
白血球除去フィルターを製造するに際し、本発明のコート材を少なくとも基材表面にコーティングすると、全血に代表される白血球と血小板の双方を含有する血球浮遊液から、白血球を選択的に除去し、特に血小板を高い通過率で回収できる白血球除去フィルターを提供でき、本発明のコート材は血液製剤の製造において大いに有用である。
また本発明のコート材をコーティングした表面は、特に抗血栓性材料に適しているとされている高エネルギー表面を有しており、血球成分の中でも粘着しやすい血小板を粘着させずに通過させるため、血液に対して高い適合性を持つ材料として、例えば人工腎臓用モジュール、体外循環用フィルター、カテーテル等の用途にも有用である。
【発明の属する技術分野】
本発明は医療用具用コート材およびそれを用いたフィルターの発明に関する。特に全血に代表される血球浮遊液から白血球を選択的に除去し、且つ血小板を高い通過率で回収する、更に溶出物を低減させた白血球除去フィルター用のコート材およびそれを用いたフィルターに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の輸血分野において、輸血療法が適応された患者の身体的な負担を軽減するために、輸血用血液製剤から白血球を除去することの重要性が注目されてきた。この理由のひとつに、輸血後の頭痛、悪寒、非溶血性発熱反応等の副作用や、移植片体宿主疾患(GVHD)、アロ抗原感作、ウィルス感染等の更に重篤な輸血副作用が、主として血液製剤中に混入している白血球に由来すると考えられ、こうした輸血に際しての副作用を防ぐためには、これら輸血副作用が惹き起こされないと考えられる十分に低い水準にまで、白血球を除去することが求められている。
【0003】
かかる状況下において、白血球を除去するための様々な除去技術の研究が行われてきた。白血球を除去するための方法としては、血液成分の比重差を利用した遠心分離法や、繊維状基材や多孔質体を濾材として血液を濾過するフィルター法などがある。この中でも、操作が簡便であること、コストが低いこと、および白血球に対する吸着除去性能が優れていること、などの利点を有するフィルター法が広く実施されている。
【0004】
白血球を除去する技術の研究が今後も重要性を増すであろう理由のもうひとつに、成分輸血に用いる血液製剤の保存安定性および安全性を向上させることにある。患者に必要な成分のみを輸血する成分輸血は現在の輸血療法として主流となりつつあり、赤血球濃厚液、濃厚血小板液、乏血小板血漿などを遠心分離法により分離分画して調製する。しかし、この調製工程によって得られた各種製剤中には通常、相当数の白血球が混入していることが知られている。このような白血球を含有した血液製剤の保存期間が長くなると、保存中に白血球が生産する発熱性のサイトカインがその製剤を投与された患者の体内に混入することとなり、輸血後の副作用の原因となる。更にはこうした白血球の中にはウィルスや細菌を保持したものもあり、保存期間中に白血球が死滅あるいは破砕されて病原媒体が拡散した血液製剤を患者に投与してしまうことも懸念される。そのため各種血液製剤を調製した後、保存する前に白血球を可能な限り除去する必要性が指摘されており、こうした観点からも白血球除去技術の開発が強く求められているが、この場合には白血球を除去する操作が各成分血に対して必要となる。操作の簡便さ、コスト、血液製剤の安全性の観点から考えても、まず初めに全血において白血球のみを除去した後、分離分画して各種血液製剤を得る、という方式が望ましい。
【0005】
これまで白血球除去フィルターの研究に関しては種々の報告がなされている。例えば、特許文献1には、血小板と白血球の両者を含有する細胞浮遊液から、血小板の損失が少なく白血球を効率よく除去する目的で、周囲表面部分に非イオン性親水基と塩基性含窒素官能基とを含有する白血球除去フィルター材が開示されている。しかしながらこのフィルター材は実施例に開示されていない全血を処理した場合には、血小板の通過率が満足するものではなく、さらなる改良が必要であった。
【0006】
また、特許文献2には、血小板の損失を少なく抑えつつ白血球を効率よく除去し、更に溶出物がほとんどない白血球選択除去フィルター材を提供することを目的として、フィルター基材の表面に疎水性部分とポリエチレンオキサイド鎖の両方を有する多量体をコーティングにより導入している白血球選択除去フィルター材が開示されている。この多量体は、抗血栓性を有する優れた材料であるポリエチレンオキサイド鎖を有する単量体に、フィルター素材との接着性を高めて溶出を抑制する目的で疎水性部を導入することにより構成されている。しかしながら、このフィルター材もまた、全血を処理した場合には血小板の通過率が満足するものではなく、さらなる改良が必要であった。
【0007】
また、特許文献3には、血小板の粘着が少なく、全血および白血球・血小板を含む血液成分から白血球のみを選択的に除去し、特に血小板を高い効率で回収する白血球除去フィルターを提供することを目的として、高分子鎖中に疎水性構造単位と親水性構造単位を含有する親水性ポリマー(A成分)と、多孔質基材(B成分)より構成される白血球除去フィルターが開示されている。しかしながら、この全体として親水性なるポリマーを含んだフィルターの中には、血液を濾過している間に白血球の除去性能および血小板の透過率が共に低下してしまう、という問題があった。従って、満足する性能を得るためには、さらなる改良が必要であった。
【0008】
一般に血小板等を粘着させない抗血栓性材料には、高濡れ性、すなわち、高エネルギー表面が適しているとされており、親水性ポリマーが存在する表面は高い表面自由エネルギーを有してはいるが、水への溶出性が高く、従って長期にわたり高い表面自由エネルギー状態を維持できる材料は現在までのところ知られていない。このように医療材料としての安全性を確保し、高い白血球除去性能と高い血小板回収性能を両立させる白血球除去フィルターは、現在までのところ開発できていない。
【0009】
【特許文献1】国際公開第87/05812号パンフレット
【特許文献2】特開平7−25776号公報
【特許文献3】国際公開第01/66171号パンフレット
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、白血球と血小板の双方を含有する血球浮遊液から白血球を選択的に除去して血小板を高い通過率で回収し、且つ、表面濡れ性を損なうことなくフィルターからのポリマー成分の溶出を低減させた医療用具用のコート材、特に白血球除去フィルターのコート材及び該コート材がコーティングされた白血球除去フィルターを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、以下に表す通りである。
(1) 下記一般式(1)
【化2】
で表されるアミド系ブロック共重合体からなることを特徴とする医療用具用コート材。
[ここで、式(1)は共重合体の組成式を表わす。(A)、(B)は高分子主鎖を構成する各繰返し単位を表わす。l、mは高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%を表わす。
(A):N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位(該繰返し単位は1種であっても2種以上であっても良い。)。
(B):ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位(該繰返し単位は1種であっても2種以上であっても良い。)。
ただし、l+m=100、且つ0.1≦l/m≦10、共重合体の数平均分子量は2000以上500000以下である。]
(2) ブロック共重合体がジブロック共重合体またはトリブロック共重合体であることを特徴とする上記(1)記載の医療用具用コート材。
(3) ブロック共重合体がトリブロック共重合体であって、且つ配列構造がA−B−Aであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の医療用具用コート材。
ここで、A、Bはそれぞれ以下を表す。
A:N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位(A)からなるブロック(該繰返し単位は1種であっても2種以上であっても良い。)。
B:ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位(B)からなるブロック(該繰返し単位は1種であっても2種以上であっても良い。)。
(4) 医療用具用コート材が、白血球除去フィルター用コート材であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の医療用具用コート材。
(5) 請求項4に記載のブロック共重合体からなる医療用具用コート材がコーティングされた白血球除去フィルター。
(6)コート材と水との接触角が60度未満であることを特徴とする上記(5)に記載の白血球除去フィルター。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は医療用具用コート材に関するものであるが、ここで医療用具用とは医療の分野で使用されることをいい、特に体内を循環する血液やリンパ液に代表される体液の処理に関し、本発明の特徴とする高濡れ性及び低溶出性を利用できるものを言う。例えば、白血球除去フィルター、血液透析・濾過を行う人工腎臓用モジュール、輸血用フィルター、血液浄化フィルター、体外循環用フィルター、カテーテル等に利用できる。
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体は、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位(A)からなるブロックAを少なくとも1つと、ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位(B)からなるブロックBを少なくとも1つ有するブロック共重合体である。
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体において、ブロックAを構成する繰返し単位であるN,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドのうち、入手の容易さ、重合のし易さ、取り扱い性の良さ、血液を濾過した際の性能の良さなどから、N,N−ジメチルアクリルアミド(以下、DMAAと略す)が特に好ましい。
【0013】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体において、ブロックBを構成する繰返し単位であるヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体とは、単量体中に一つ以上のヒドロキシル基を有するアクリル酸エステルであり、一般式CH2CHCOOR(Rは炭素数1以上、10以下のヒドロキシル基を有する置換基を表す。)で表される。ここで用いられる置換基は、一つ以上のヒドロキシル基を有していれば特に限定されないが、溶出量低減の観点から、ヒドロキシル基を1つまたは2つ有するアルキル基が好ましい。具体的なアクリル酸エステルとしては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2―ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシシクロヘキシルアクリレート、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアクリレート、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルアクリレートなどが挙げられる。
【0014】
ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体とは単量体中に一つ以上のヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステルであり、一般式CH2C(CH3)COOR(Rは炭素数1以上、10以下のヒドロキシル基を有する置換基を表す。)で表される。ここで用いられる置換基は、一つ以上のヒドロキシル基を有していれば特に限定されないが、溶出量低減の観点から、ヒドロキシル基を1つまたは2つ有するアルキル基が好ましい。具体的なメタアクリル酸エステルとしては、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート(以下、HEMAと略する)、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート(以下、HPMAと略する)、2−ヒドロキシブチルメタアクリレート(以下、HBMAと略す)、3−ヒドロキシブチルメタアクリレートなどが挙げられる。
【0015】
ヒドロキシル基を有するスチレン系単量体とは単量体中に1つ以上のヒドロキシル基を有するスチレンである。この中でも溶出量低減の観点から、ヒドロキシル基を1つまたは2つ有するものが好ましい。ヒドロキシル基を1つまたは2つ有するスチレンとして、例えば、2−ヒドロキシスチレン、3−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレン、3−メトキシ−4−ヒドロキシスチレン、3−ニトロ−4−ヒドロキシスチレン、3、5−ジブロモ−4−ヒドロキシスチレン、2、5−ジヒドロキシスチレン、2、4−ジヒドロキシスチレンなどが挙げられる。
【0016】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体において、該ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、メタアクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体の中でも、重合速度が速く重合が容易であるアクリル酸エステル系単量体およびメタアクリル酸エステル系単量体が好ましい。
また該ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体のなかでも特に共重合体の溶出量を低減する効果、基材との親和性、ガラス転移温度から鑑み、HEMA、HPMA、HBMAが好ましい。
【0017】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体において、高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%であるl、mはl+m=100且つ0.1≦l/m≦10であれば十分に溶出防止効果と表面濡れ性の向上が期待可能である。l/mが0.1未満の場合は、親水性であるアミド系単量体に由来する繰返し単位の割合が小さいため、十分に高濡れ性が発現しない。また、l/mが10をこえる場合は、アミド系単量体に由来する繰返し単位の割合が大きいため、低溶出性が発現しない。溶出防止性と濡れ性のバランス向上を発現させるには0.15≦l/m≦6であることが好ましく、更に好ましくは0.2≦l/m≦3である。
【0018】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の数平均分子量は2000以上500000以下であれば特に限定はされない。2000未満では溶出防止効果が著しく低下する。また500000より大きい場合、攪拌が困難なほどに反応液粘度が著しく高く、反応系の均一性が確保できないので好ましくない。
溶出防止効果と生産性を鑑みた場合、望ましい数平均分子量の範囲は2000以上150000、特に好ましくは9000以上80000以下である。
【0019】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体は、ブロック構造であれば特に限定されない。例えば、ジブロック、トリブロック、テトラブロック、ペンタブロック、などがある。
ここで、ジブロック構造とは、ブロック構造のうち、2つのブロックからなる構造をいい、ブロックAとブロックBからなるABというブロック共重合体である。また、トリブロック構造とは、ブロック構造のうち、3つのブロックからなる構造をいい、例えば、ブロックA、ブロックB、ブロックAの順に配列したABAというブロック共重合体がある。他に、ABABというテトラブロック、ABABAというペンタブロックなどがある。
重合が容易であるという製造上の観点、および塗膜にした際に表面濡れ性および溶出防止効果を発現し得るという機能の観点から、その中でもジブロック構造、トリブロック構造がより好ましい。
【0020】
その中で(A)N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位からなるブロックAと、(B)ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位からなるブロックBとが相分離しやすい構造であるトリブロック構造がより好ましく、そのようなトリブロック構造の中でも、重合反応の安定性が高く、リビング性が維持しやすいA−B−Aの配列構造は、塗膜にした際に表面濡れ性が高く、且つ低溶出性で長期にわたり高い表面自由エネルギー状態の塗膜を維持し得る点で特に好ましい。
【0021】
更に、本発明に用いるアミド系ブロック共重合体は、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位からなるブロックAに、その他の非イオン性親水性単量体に由来する繰返し単位を、コート材としての特性に悪影響を及ぼさない範囲で含むことが可能である。
その他の非イオン性親水性単量体とは、アミド基以外の非イオン性親水基を有する単量体であり、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドと付加重合可能な単量体である。該非イオン性親水基の例としては、ヒドロキシル基、繰り返し単位数1〜4程度のポリオキシエチレン基などが挙げられる。該非イオン性親水基を有する単量体としては、ヒドロキシアルキルアクリレート類、ヒドロキシアルキルメタアクリレート類等のヒドロキシル基を有するアクリル酸誘導体およびメタアクリル酸誘導体;側鎖に繰り返し単位数1〜4程度のポリオキシエチレン基を有するアルコキシポリエチレングリコールアクリレート類、アルコキシポリエチレングリコールメタアクリレート類などが挙げられる。 これらの単量体の中でも、ヒドロキシル基を有する2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキルアクリレート類、および2−ヒドロキシエチルメタアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート等のヒドロキシアルキルメタアクリレート類が、血小板の通過の点でより好ましい。
【0022】
該その他の非イオン性親水性単量体とN,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドとが付加重合してなる構造形態としては、ランダム構造、グラフト構造、ブロック構造、テーパー構造などの構造形態をとることが可能である。また、該その他の非イオン性親水性単量体に由来する繰り返し単位の量としては、ブロックAに含まれる全ての単量体に由来する繰り返し単位を100mol%とした場合、60mol%以下である。60mol%以下であれば血液を濾過した際の性能に悪影響を示さない。
【0023】
更に、本発明のアミド系ブロック共重合体はヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位からなるブロックBに、その他の単量体に由来する繰返し単位を、コート材の特性に悪影響を及ぼさない範囲で含むことが可能である。
その他単量体とは、該ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体と付加重合可能な単量体であり、アクリル酸エステル系単量体、メタアクリル酸エステル系単量体、及びスチレン系単量体のうちヒドロキシル基を有していない単量体、及びビニル単量体である。具体的にはメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2―エチルへキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、グリシジルアクリレート、2―メトキシエチルアクリレート、2―メトキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールメチルエーテルアクリレート、メチルメタアクリレート(以下、MMAと略す)、エチルメタアクリレート、プロピルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート、2―エチルへキシルメタアクリレート、シクロヘキシルメタアクリレート、グリシジルメタアクリレート、2―メトキシエチルメタアクリレート、2―メトキシプロピルメタアクリレート、ジエチレングリコールメチルエーテルメタアクリレート、スチレン、パラメチルスチレン、パラメトキシスチレン、オルソメトキシスチレン、α−メチルスチレン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタアクリレートなどが挙げられる。
【0024】
該その他単量体とヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体とが付加重合してなる構造形態としては、ランダム構造、グラフト構造、ブロック構造、テーパー構造などの構造形態をとることが可能である。また、該その他単量体に由来する繰り返し単位の量としては、ブロックBに含まれる全ての単量体に由来する繰り返し単位を100mol%とした場合、50mol%以下である。50mol%以下であれば血液を濾過した際の性能に悪影響を示さない。
【0025】
以下に本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の製造方法を説明する。
該アミド系ブロック共重合体の製造方法としては、リビングラジカル重合が好ましく用いられる。
リビングラジカル重合は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の形態で適宜実施可能であるが、本発明に用いるアミド系ブロック共重合体をリビングラジカル重合により製造する場合、反応熱の制御と重合触媒除去の観点から、溶液重合が好ましい。
【0026】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の製造方法において、使用される重合溶媒としてはメタノール、エタノール、ノーマルプロパノール、イソプロパノール、ノーマルブタノールのような炭素数1以上、6以下のアルコール化合物、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのような炭素数2以上6以下のエーテル化合物、アセトン、メチルエチルケトンのような炭素数2以上6以下のケトン化合物、ノーマルペンタン、シクロペンタン、ノーマルヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンのような炭素数5以上10以下の飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリンのような炭素数6以上10以下の芳香族炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルのような炭素数3以上6以下のエステル化合物、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンのような炭素数2以上10以下の含窒素化合物、ジメチルスルホキシドのような含硫黄化合物、および水が挙げられる。これらは工業的な生産性、次反応への影響などを考慮して任意に選択可能であり、必要に応じて1種、あるいは2種以上の混合物であっても良い。特に好ましい溶媒としてはアルコール化合物が挙げられる。
【0027】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の製造方法において、リビングラジカル重合反応に使用する重合触媒は特に制限されないが、Ru、Fe、Cu、Ni、Pd、Rhなどの公知の金属錯体から適宜選択できる。該金属錯体として具体的には、RuCl2(PPh3)3(式中、PPh3はトリフェニルホスフィン基を表す。)、RuH2(PPh3)4、RuCl(PPh3)2Cp(式中、Cpはシクロペンタジエニル基を表す。)、FeCl2(PPh3)2、NiBr2(PPh3)2、Ni(PPh3)4、Pd(PPh3)4、RhCl(PPh3)3が挙げられる。この中でも入手の容易さからRuCl2(PPh3)3が好ましい。
また重合速度を向上させるために、重合速度調整剤を加えることが好ましく、アルミニウムトリイソプロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、すずテトライソプロポキシドなどが挙げられる。その中でも入手の容易さからアルミニウムトリイソプロポキシドが好ましい。
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の製造方法において、重合開始剤はハロゲン含有化合物であれば特に限定されない。これらの化合物には、2,2−ジクロロアセトフェノン、2−クロロアセトフェノン、2−ブロモイソ酪酸エチル、四塩化炭素、クロロホルム、ブロモトリクロロメタン、塩化ベンジル、臭化ベンジルなどが挙げられる。その中でも入手の容易さ、開始反応の容易さなどから、2,2−ジクロロアセトフェノン、2−クロロアセトフェノンが好ましい。
【0028】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の製造方法において、リビングラジカル重合の重合温度は21℃以上、120℃以下で実施される。21℃以上あれば重合が開始され、また120℃以下であれば重合触媒の失活が無い。好ましくは50℃以上、100℃以下、更に好ましくは60℃以上、80℃以下である。
重合反応に要する時間は、目的あるいは重合条件によって異なるが、通常は96時間以内であり、特に好適には30分から24時間の範囲で実施される。
重合触媒、重合速度調整剤の計量は、高純度窒素、または高純度アルゴン(純度99.9999%、酸素0.2ppm未満、二酸化炭素1.0ppm未満)等の不活性ガス下で実施する。使用する溶媒は蒸留後、高純度アルゴン等の不活性ガスを用いて1時間バブリングする等の十分な脱酸素処理を行った後に重合に用いる。特に、単量体の精製は減圧蒸留を行い、重合禁止剤を除去することが必要である。
【0029】
重合中は系内にリビングラジカル活性末端を不活性化させるような不純物(例えば酸素等)が数ppm混入しても重合速度が大きく低下するので好ましくない。従って重合中の不純物の混入には特に留意する必要があり、重合系は大気圧よりも常に高いことが望ましく、また上記重合温度範囲で原料の単量体及び重合溶媒を液相に維持するのに十分な圧力範囲で実施する。
【0030】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体を重合終了後に回収し精製する方法としては、重合反応溶液中の不溶解な重合触媒、重合速度調整剤を減圧濾過、加圧濾過などで除去する方法が挙げられる。また、濾別不可能な残留金属原子などを除去する方法として重合反応溶液を貧溶媒に加え析出させる、いわゆる再沈精製法を実施することが可能である。また良溶媒への再溶解と再沈精製を繰り返すことも可能であり、残留金属原子を必要十分な濃度に達するまで除去することができる。更に特別に高純度な重合高分子が必要な場合は二酸化炭素超臨界法による抽出法も可能である。重合体中の残量金属原子濃度は上記の精製法を用いて0.01wtppm以上、1500wtppm以下にすることができる。好ましくは0.01wtppm以上、300wtppm以下、更に好ましくは0.01wtppm以上、10wtppm以下である。
【0031】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体の中で、好ましい構造であるA−B−Aの配列構造は、上記の製造方法であれば、特に限定されないが、その中でも特に下記の製造方法が好ましい。即ち、重合溶媒としては、ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体を溶解させ得る溶媒であれば、特に限定されないが、これらの単量体の良溶媒であるメタノール、エタノール、ノーマルプロパノール、イソプロパノール、ノーマルブタノールのような炭素数1以上、6以下のアルコール化合物が好適に用いられる。
重合触媒については、上記の重合触媒であれば特に限定されないが、入手の容易さからRuCl2(PPh3)3が好ましい。重合速度調整剤については、上記の重合速度調整剤であれば特に限定されないが、入手の容易さから、アルミニウムトリイソプロポキシドが好ましい。重合温度については、上記の重合温度であれば特に限定されないが、重合の失活が無く、且つ重合速度の観点から60℃以上、80℃以下が好ましい。重合時間については、30分から24時間の範囲で実施される。重合開始剤については、ハロゲンを2つ有する化合物であれば特に限定されないが、入手の容易さ、開始反応の容易さなどから2,2−ジクロロアセトフェノンが好ましい。重合順序については、最初にヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体を重合し、重合の終了を確認した後に、N,N−ジメチルアクリルアミド、あるいはN−メチルアクリルアミドを重合する。すなわち、2官能性の触媒を用いてブロックBを作り、次いで単量体(A)を添加してブロックBの両端にブロックAを作ることにより製造する。
また、ABA’(AとA’は異なるモノマーから成る)というトリブロックを作る場合は、まず、単官能性の触媒を用いてブロックAを作り、次いで単量体(B)を添加してジブロックABを作り、更に単量体(A’)を添加して製造する。
【0032】
<溶出性の評価>
本発明における溶出とは、フィルター基材にコーティングした本発明のコート材が、室温付近または室温以下の水との接触により水に溶け出すことを指す。
本発明における溶出性評価は次のように行った。
フィルター基材に溶出性評価を行おうとするアミド系ブロック共重合体(以下、単に評価ポリマーと称す)を後述する方法によりコーティングし、評価試料を作成する。該試料から任意に直径25mmの円形状に切り抜いたフィルターの重量を電子天秤で秤量する。秤量後のフィルターを15℃の純水約40mL中に16時間浸漬させる。浸漬処理後、取り出したフィルターは60℃の真空乾燥機中で2時間程度、恒量になるまで乾燥させる。(2)式に従い評価試料の重量変化率を算出して溶出率とする。
評価試料の溶出率(wt%)=(純水浸漬処理前フィルター重量−純水浸漬処理後乾燥済フィルター重量)/(純水浸漬処理前フィルター重量)・・・(2)
【0033】
評価ポリマーをフィルター基材へコーティングする方法は、具体的には下記のようにしてコーティングする。
評価ポリマーを、フィルター基材1g当たりの全表面積に対して200〜300mg(以下、コート量はmg/m2の単位で表記する)の範囲内にコーティングされるように、コート溶液の濃度を調製する。該コート溶液に平均繊維直径1〜3μm、目付量20〜100g/m2、厚さ0.15〜0.30mmのポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)繊維よりなる不織布を1分間浸漬させた後、余分なコート溶液を除去し、室温で一昼夜、あるいは40℃の真空乾燥機中で8時間程度、恒量になるまで乾燥する。
【0034】
本発明においてフィルター基材へコーティングされた評価ポリマーの重量(以下、単にコート量と称す)は、具体的には下記のようにして測定する。
前述した方法でコーティングされた不織布から任意に直径25mmの円形状に切り抜いたフィルターの重量を電子天秤で秤量する。次いで秤量後のフィルターを評価ポリマーの良溶媒約40mL中に浸漬させ、60℃の恒温槽中で1〜2時間振蕩する。浸漬処理後、取り出したフィルターは60℃の真空乾燥機中で2時間程度、恒量になるまで乾燥する。なお、この処理により基材に評価ポリマーが残っていないことをNMR測定等で確認する。乾燥後のフィルターを前述の電子天秤で秤量する。
次に、フィルター基材の全表面積測定を行う。測定方法はBET吸着法で、測定装置は、島津アキュソープ2100E、吸着ガスはクリプトンガス、吸着温度は液体窒素温度である。
これらの測定した値をもとに、(3)式に従い評価試料のコート量を算出する。
コート量(mg/m2)=(浸漬処理前フィルター重量(mg)−浸漬処理後乾燥済フィルター重量(mg))/〔(浸漬処理後乾燥済フィルターの重量(g))×(フィルター基材1g当たりの全表面積(m2/g))〕・・・(3)
【0035】
本発明のコート材を用いて白血球除去フィルターを製造する場合、フィルター基材としては、不織布などの繊維状素材や連通孔を有する多孔質体が好ましい。フィルター基材の物理的構造は白血球の捕捉への寄与が大きいことが知られており、更に白血球の捕捉性能を向上させるためには、該フィルター基材の選択も重要になる。すなわち、不織布などの繊維状素材をフィルター基材として用いる場合には、平均繊維径は0.3μm以上、3.0μm以下、より好ましくは1.0μm以上、2.0μm以下である。平均繊維径が0.3μm未満であると、血球の目詰まりや圧力損失の増大を惹き起こす恐れがあるため、好ましくない。また、平均繊維径が3.0μmを越えると、白血球の捕捉性能が低下する恐れがあるため、好ましくない。
連通孔を有する多孔質体をフィルター基材として用いる場合には、平均気孔径は1μm以上、30μm以下、好ましくは1μm以上、20μm以下、より好ましくは2μm以上、10μm以下である。平均気孔径が1μm未満では、全血などを濾過する場合に圧力損失が増大し、血球の目詰まりや濾過が長時間になるなど実用性に欠けると懸念される。また、平均気孔径が30μmを越えると、多孔質体と白血球との接触頻度が低下し、白血球の捕捉性能が低下する恐れがある。
【0036】
本発明のコート材を用いて白血球除去フィルターを製造する場合、本発明のコート材をフィルター基材へコーティングする方法としては、ディップコート、グラビアコート、ブレードコート、ロールコート等の公知の方法から適切な方法を選択できる。一例を挙げれば、該コート材を溶解させうる適当な良溶媒に溶解させ、該コート材溶液にフィルター基材を浸漬させた後、余分な溶液をフィルター基材から絞る等の操作で除去し、次いで室温または熱風で乾燥させる等の簡単な操作で実施できる。乾燥条件は高分子の組成、溶媒組成、用途により異なるが10℃以上であれば特に制限はされない。
【0037】
本発明のコート材を用いて白血球除去フィルターを製造する場合、該コート材を溶解させうる良溶媒としては、該コート材を溶解させうるものであれば特に限定されないが、入手の容易さ、取り扱い性の良さ、沸点が低いこと等から、アルコール類が好ましい。そのようなアルコール類として具体的には、メタノール、エタノール、ノーマルプロパノール、イソプロパノールなどが好ましく用いられる。コーティング材の溶媒として沸点が低い溶媒を用いれば、コート後の乾燥が容易となる。更にこれら溶媒には必要に応じて水を加えることができる。
【0038】
本発明のコート材を用いて白血球除去フィルターを製造する場合、該コート材のコート量は90mg/m2以上、300mg/m2以下であることが好ましい。コート量が90mg/m2未満であると、血小板の通過率が低下し、また一方でコート量が300mg/m2を越えると、白血球の捕捉性能が低下する。
本発明のコート材を用いて白血球除去フィルターを製造する場合、該コート材がコーティングされたフィルターを容器内に充填したときの充填密度は0.1g/cm3以上、0.3g/cm3以下であることが好ましい。充填密度が0.1g/cm3未満であると、白血球の捕捉性能が低下する恐れがあり、また一方で充填密度が0.3g/cm3を越えると、血球の目詰まりや圧力損失の増大を惹き起こす恐れがあるため、好ましくない。
【0039】
<濡れ性/表面自由エネルギー評価>
濡れ性は表面自由エネルギーで表すことができる。表面自由エネルギーとは、液体の内部から表面に分子を移して1m2の表面を新しく作るのに必要な仕事と定義されている。本発明においても、この表面自由エネルギーと数学的に等価な量である表面張力を指標とし、具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)平膜に塗布した高分子材料と水との接触角を測定することにより測定を行った。接触角の測定は、表面自由エネルギー測定装置(協和海面科学社製、CA−VE型)を用いて行い、2.1秒後の値を測定値とした。本発明では、接触角が60度未満である場合を、高表面自由エネルギーを持つという。
【0040】
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体が何故、白血球と血小板の双方を含有する血球浮遊液から、白血球を選択的に除去し、且つ血小板を高い通過率で回収する白血球除去フィルターのコート材として極めて有用であるか、については明らかではない。しかし、一般的な親水性疎水性ブロック高分子の場合、PET平膜等にコーティングすると空気がPET平膜より疎水性であるため、塗膜表面は表面自由エネルギーの低い、即ち疎水性表面になることは広く公知である(「実用高分子表面分析」黒崎和夫、三木哲郎著、講談社サイエンティフィク出版)。これに対して、本発明のアミド系ブロック共重合体を白血球除去フィルターのコート材として用いた場合には、驚くべきことに該フィルター表面は濡れ性の高い、即ち高表面自由エネルギーを有し、かつ、フィルターからのコート材の溶出を低減させるという、有効な知見を得ることができた。そして、その溶出性が低いという性質から、長期にわたり塗布表面は高表面自由エネルギー状態を維持できるものとなり、特に血小板を高い通過率で回収する白血球除去フィルターとして極めて有用である、と本発明者らは推測している。
【0041】
【実施例】
以下、本発明をより詳細に説明するため実施例に基づいて説明するが、本発明の要旨を越えない限り、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<反応に使用する機器>
0.5L耐圧瓶を洗浄後、120℃で24時間乾燥させた。また耐圧瓶に蓋をするゴム栓(日本バルカー社製)はシクロヘキサン中で1ヶ月浸漬することにより、ゴム栓中に含まれるシクロヘキサン溶解成分を除去した。
【0042】
<重合溶媒の精製、重合触媒の計量、単量体の精製>
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体を製造するに際し、使用したエタノール(和光純薬工業社製)溶媒は蒸留精製後、脱酸素処理として上記の高純度アルゴンにて1時間バブリングしたものを使用した。
重合触媒に用いたRuCl2(PPh3)3(Merck社製)および重合速度調整剤アルミニウムトリイソプロポキシド(Aldrich社製)は特別な精製を実施せずに、高純度窒素雰囲気下のバキュームグローブボックス(SGV−65V型)(井内盛栄堂社製)中にて、試薬瓶から採取、計量し、その後反応容器である耐圧瓶に移した。次いで、耐圧瓶を上記ゴム栓で蓋をし、王冠を被せて打栓した。次いでゴム栓を通して減圧脱気、高純度アルゴン置換を都合5回繰り返し、耐圧瓶内部を高純度窒素から高純度アルゴンに置換した。
本発明に用いるアミド系ブロック共重合体を製造するに際し、使用したHPMA(和光純薬工業社製、試薬一級)は、圧力133Paで減圧蒸留を行い、系中温度が69.5℃の留分を回収し、溶存酸素を除去する目的で、1時間上記高純度アルゴンにてバブリングしたものを用いた。DMAA(東京化成工業社製、試薬一級)については、HPMA同様に減圧蒸留を実施し、圧力667Pa、61.5℃の留分を回収後、1時間高純度アルゴンにてバブリングしたものを用いた。MMA(和光純薬工業社製、試薬特級)については、同様に減圧蒸留にて圧力10664Pa、40.5℃の留分を採取し、その後1時間高純度アルゴンにてバブリングしたものを用いた。1−ヘプタノール(和光純薬工業社製、試薬特級)については、減圧蒸留をおこない、圧力667Pa、68.0℃の留分を回収し、その後、1時間高純度アルゴンでバブリングしたものを用いた。
開始剤である2,2−ジクロロアセトフェノン(東京化成工業社製、試薬一級)については、同様に、圧力66.7Pa、93.0℃の留分を用い、同様に高純度アルゴンでバブリングした。次いで精製2,2−ジクロロアセトフェノンを上記精製エタノールで希釈し、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液を調整した。また、別な開始剤である2−クロロアセトフェノン(東京化成工業社製、試薬特級)は固体であり、特に精製をせず、高純度窒素雰囲気下のバキュームグローブボックス中にて試薬瓶を開栓後、耐圧瓶に移し、ゴム栓をし、王冠を打栓した。次いで、減圧、アルゴン置換を5回実施したあと、精製エタノールで溶解した。次いで高純度アルゴンで1時間バブリングをおこない、その後精製エタノールを加え、1mol/L濃度の2−クロロアセトフェノンエタノール溶液を調整した。
再沈精製に使用したノーマル−ヘキサン(和光純薬工業社製、試薬一級)は特に精製を実施せず使用した。
【0043】
<分子量測定>
本発明に用いる共重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略す)測定により、標準PMMA(AMERICAN POLYMER STANDARDS社製)換算分子量として測定した。GPC測定には、東ソー社製、HLC−8020を用いた。また展開溶媒として、N、N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を用い、測定前に0.01mol/Lの臭化リチウム一水和物(和光純薬工業社製、純度99.5%)を加えたものを使用した。
【0044】
<共重合体の組成比の測定>
本発明に用いる共重合体の組成比、即ち、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位(A)の組成割合lおよび低溶出性のヒドロキシル基を有する単量体に由来する繰返し単位(B)の組成割合mは、消費された単量体がすべて共重合体に転化したとの仮定のもとに、ガスクロマトグラム(以下GCと略す)測定より求めた単量体の転化率から算出した。GC測定はガスクロマトグラフ(島津製作所社製、GC−14A)により、内部標準液として1−ヘプタノールを用いた。
【0045】
<NMR測定>
本発明に用いる共重合体の組成比はまた、1H−NMR測定より求めた各単量体由来の積分値から算出した。NMR測定には、JEOL社製、JNM−GSX400を用いた。測定に用いた重溶媒は重ジメチルスルホキシド(Cambridge Isotope Laboratories社製、純度99.9wt%、内部標準0.05wt%テトラメチルシラン含有、以下、重DMSOと略す)であり、共重合体5.0×10−3gに対して重DMSO5.0×10−4Lの濃度で測定した。測定温度は30℃にて実施した。
【0046】
[製造例1]
RuCl2(PPh3)3(1.03×10−3mol)及びアルミニウムトリイソプロポキシド(4.12×10−3mol)を入れた耐圧瓶に、エタノール(47.1g)、1−ヘプタノール(1.74g)、HPMA(0.125mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(0.845×10−3mol)を入れ、80℃の湯浴で12時間重合した。この耐圧瓶を20℃まで冷却した後、DMAA(0.114mol)を入れ、70℃の湯浴で16時間重合した。この重合液を20℃まで冷却した後、エタノール(80.0g)を加え、90mmφの桐山ロート(桐山製作所社製)および5A、次いで5Cの濾紙を用いて濾過することにより、不溶解の重合触媒および重合速度調整剤を除去した。このエタノール溶液をノーマル−ヘキサン(2L)に注いでポリマーを析出させて回収した。引き続き回収したポリマーをエタノール(0.4L)に再溶解させ、ノーマル−ヘキサン(2L)に注いでポリマーを沈殿させることにより精製した。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を前述したGPC測定により求めたところ、Mn3.6×104、Mw11.3×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、DMAA/HPMA=40.5/59.5であった。また前述したNMR測定により共重合体の組成比(mol%)を求めたところ、DMAA/HPMA=40.2/59.8であった。
【0047】
[製造例2]
RuCl2(PPh3)3(1.03×10−3mol)、アルミニウムトリイソプロポキシド(4.13×10−3mol)、エタノール(44.9g)、1−ヘプタノール(1.78g)、HPMA(0.125mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(0.857×10−3mol)を入れ、80℃の湯浴で12時間重合した。この耐圧瓶を20℃まで冷却した後DMAA(0.116mol)を入れ、70℃の湯浴で1.25時間重合した。重合後の重合触媒等の除去、ポリマーの回収および精製については合成例1と同様の方法で行った。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を、前述したGPC測定により求めたところ、Mn3.2×104、Mw9.0×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、DMAA/HPMA=23.1/76.9であった。また前述したNMR測定により共重合体の組成比(mol%)を求めたところ、DMAA/HPMA=20.6/79.4であった。
【0048】
[製造例3]
RuCl2(PPh3)3(1.58×10−3mol)、アルミニウムトリイソプロポキシド(6.33×10−3mol)、エタノール(78.5g)、1−ヘプタノール(2.99g)、HPMA(0.226mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(1.50×10−3mol)、DMAA(0.213mol)を用いて、合成例1と同様の方法で重合、回収、精製を行った。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を、前述したGPC測定により求めたところ、Mn3.7×104、Mw9.9×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、DMAA/HPMA=33.2/66.8であった。また前述したNMR測定により共重合体の組成比(mol%)を求めたところ、DMAA/HPMA=37.9/62.1であった。
【0049】
[製造例4]
RuCl2(PPh3)3(1.18×10−3mol)、アルミニウムトリイソプロポキシド(4.73×10−3mol)、エタノール(45.4g)、1−ヘプタノール(2.06g)、HPMA(0.217mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(1.53×10−3mol)を入れ、80℃の湯浴で20時間重合した。この耐圧瓶を20℃まで冷却した後、DMAA(0.105mol)およびHPMA(0.105mol)を入れ、70℃の湯浴で23時間重合した。重合後の重合触媒等の除去、ポリマーの回収および精製については合成例1と同様の方法で行った。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を、前述したGPC測定により求めたところ、Mn5.9×104、Mw21.5×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、(DMAA/HPMA)/HPMA=(22.6/26.8)/50.6であった。
【0050】
[製造例5]
RuCl2(PPh3)3(0.944×10−3mol)、アルミニウムトリイソプロポキシド(3.78×10−3mol)、エタノール(37.2g)、1−ヘプタノール(0.59g)、HPMA(57.8×10−3mol)、MMA(56.7×10−3mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(1.57×10−3mol)を入れ、80℃の湯浴で12時間重合した。この耐圧瓶を20℃まで冷却した後、DMAA(0.104mol)を入れ、70℃の湯浴で6時間重合した。重合後の重合触媒等の除去、ポリマーの回収および精製については合成例1と同様の方法で行った。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を、前述したGPC測定により求めたところ、Mn1.8×104、Mw2.8×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、DMAA/(HPMA/MMA)=45.2/(27.7/27.1)であった。
【0051】
[製造例6]
RuCl2(PPh3)3(0.787×10−3mol)、アルミニウムトリイソプロポキシド(3.15×10−3mol)、エタノール(34.8g)、1−ヘプタノール(1.76g)、HPMA(0.112mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(2.04×10−3mol)を入れ、80℃の湯浴で12時間重合した。この耐圧瓶を20℃まで冷却した後DEAA(0.110mol)を入れ、70℃の湯浴で48時間重合した。重合後の重合触媒等の除去、ポリマーの回収および精製については合成例1と同様の方法で行った。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を、前述したGPC測定により求めたところ、Mn1.5×104、Mw2.7×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、DEAA/HPMA=41.3/58.7であった。
【0052】
[製造例7]
RuCl2(PPh3)3(0.835×10−3mol)、アルミニウムトリイソプロポキシド(3.34×10−3mol)、エタノール(36.4g)、1−ヘプタノール(1.63g)、HBMA(0.112mol)、1mol/L濃度2,2−ジクロロアセトフェノンエタノール溶液(1.96×10−3mol)を入れ、80℃の湯浴で15時間重合した。この耐圧瓶を20℃まで冷却した後DEAA(0.105mol)を入れ、70℃の湯浴で72時間重合した。重合後の重合触媒等の除去、ポリマーの回収および精製については合成例1と同様の方法で行った。
得られたポリマーはトリブロック共重合体であり、分子量を、前述したGPC測定により求めたところ、Mn1.5×104、Mw2.6×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したGC測定により求めたところ、DEAA/HBMA=42.7/57.3であった。
【0053】
[製造例8]
撹拌器、上部に窒素導入管を連結させた還流冷却管、温度センサーおよび開始剤滴下用チューブを備えた1Lセパラブルフラスコに、DMAA(0.50mol)、およびHPMA(0.50mol)を入れ、エタノール(0.24L)を加えた混合溶液中に窒素気流下にてフラスコ内を100rpmで撹拌しながら系内温度を60℃に昇温した。開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製)(0.82g)をエタノール(45mL)に加えた開始剤溶液を調製し、シリンジ内に貯蔵した。該開始剤溶液を3時間かけてフラスコ内に滴下するようにシリンジポンプを調整し、フラスコ内に窒素を吹き込みながら連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、更に2時間重合させた後、重合液にエタノール(0.17L)を加え、過剰のn−ヘキサン(和光純薬工業社製)に注いでポリマーを析出させて回収した。得られたポリマーをエタノールに再溶解させ、n−ヘキサンにて沈殿、次いで水で洗浄することにより精製した。
得られたポリマーはランダム共重合体であり、分子量を前述したGPC測定により求めたところ、Mn13.9×104、Mw40.4×104であった。共重合体の組成比(mol%)を前述したNMR測定により求めたところ、DMAA/HPMA=36.8/63.2であった。
【0054】
[実施例1]
製造例1の共重合体を以下に示す方法によってフィルター基材にコーティングした。該共重合体20gをエタノールと純水の混合溶媒(エタノール/水=80/20wt%)180gに溶解させ、10wt%コート溶液を調製した。該コート溶液に平均繊維直径1.2μmのポリエチレンテレフタレート繊維よりなる不織布(40g/m2目付、厚さ0.20mm、幅150mm)を連続的に浸漬させた後、ニップロールに挟んで通過させることにより、余分なコート溶液を除去した。このようにして共重合体をコーティングした不織布(以下、単にコート不織布と称す)は排気ダクトを備えた乾燥室内で室温にて一昼夜乾燥した後、回収した。前述した方法によりコート量を求めたところ、295mg/m2であった。
上記方法により製造したコート不織布を溶出性評価方法により評価したところ、溶出率は5.2wt%であった。
また、コートした膜と水との接触角は47.3degであった。
【0055】
(血液性能評価1)
上記方法により製造したコート不織布から任意に直径20mmの円形状に切り抜き、その32枚をフィルターホルダーに充填(充填密度0.2g/cm3)した。このカラムに後述する方法で調製したヒト新鮮全血を、シリンジポンプを用いて一定の流速0.74mL/分で流し、その13.3mLを回収した。
ヒト新鮮全血は、採血した血液100mLに対し、抗凝固剤として濾過済みCPD溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物26.3g、クエン酸一水和物3.27g、グルコース23.2g、およびリン酸二水素ナトリウム二水和物2.51gを注射用蒸留水1Lに溶解させ、孔径0.2μmのフィルターで濾過した溶液)を14mL加えて混和し、20℃で3時間保存することにより調製した。
濾過前の血液および血液を濾過した後の回収液について、その一定量の血液を採取し、白血球濃度は残存白血球測定用試薬システムLeucoCOUNTTMkit、フローサイトメーターFACSCalibur、および解析ソフトCELL Quest(以上、BD Bioscience、米国)を用いて測定した。また、血小板濃度は自動血球計数装置MAX A/L−Retic(BECKMAN COULTER、米国)を用いて測定した。
以上のようにして得られた濾過前後の白血球濃度および血小板濃度を用いて、次(5)式および(6)式により、白血球除去能(以下、白除能と略す)および血小板回収率をそれぞれ算出した。
白血球除去能(−Log)=−Log(濾過後回収液中の白血球濃度/濾過前血液中の白血球濃度)・・・・(5)
血小板回収率(%)=(濾過後回収液中の血小板濃度/濾過前血液中の血小板濃度)×100・・・・(6)
このフィルターを用いた血液濾過実験を2回行い、白血球除去能(−Log)と血小板回収率(%)について、それぞれの平均値を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
製造例2の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、268mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は2.4wt%であった。また、同様にコートした膜と水との接触角は55.6degであった。
該コート不織布から実施例1と同様にして製造したフィルターを用いて血液濾過実験を2回行った。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
製造例3の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、288mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は4.5wt%であった。また、コートした膜と水との接触角は51.4degであった。
該コート不織布から実施例1と同様にして製造したフィルターを用いて血液濾過実験を2回行った。結果を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
製造例4の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、259mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は2.4wt%であった。また、コートした膜と水との接触角は51.3degであった。
該コート不織布から実施例1と同様にして製造したフィルターを用いて血液濾過実験を2回行った。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
製造例5の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、291mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は2.4wt%であった。また、コートした膜と水との接触角は56.3degであった。
【0060】
(血液性能評価2)
上記方法により製造したコート不織布から任意に直径20mmの円形状に切り抜き、その16枚をフィルターホルダーに充填(充填密度0.2g/cm3)した。このカラムに実施例1と同様の方法で調製したヒト新鮮全血を、シリンジポンプを用いて一定の流速0.90mL/分で流し、その8.0mLを回収した。白血球除去能(−Log)と血小板回収率(%)は実施例1と同様にして算出した。
このフィルターを用いた血液濾過実験を2回行い、白血球除去能(−Log)と血小板回収率(%)について、それぞれの平均値を表2に示す。
【0061】
[比較例1]
製造例6の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、245mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は1.9wt%であった。また、コートした膜と水との接触角は53.8degであった。
該コート不織布から実施例5と同様にして製造したフィルターを用いて血液濾過実験を2回行った。結果を表2に示す。
【0062】
[比較例2]
製造例7の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、241mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は1.0wt%であった。また、コートした膜と水との接触角は64.3degであった。
該コート不織布から実施例5と同様にして製造したフィルターを用いて血液濾過実験を2回行った。結果を表2に示す。
【0063】
[比較例3]
製造例8の共重合体20gを用いる以外は実施例1と同様にしてコート不織布を製造した。前述した方法によりコート量を求めたところ、212mg/m2であった。該コート不織布の溶出性評価を、実施例1と同様にして実施したところ溶出率は18.3wt%であった。また、コートした膜と水との接触角は68.9degであった。
該コート不織布から実施例1と同様にして製造したフィルターを用いて血液濾過実験を2回行った。結果を表1に示す。
【表1】
【表2】
【0064】
表1における実施例1〜4と比較例3の結果から、アミド系ブロック共重合体をコート材として用いると、フィルターからの溶出量はアミド系ランダム共重合体の溶出量と比較して大幅に低減されていることがわかる。また、接触角も47.3〜55.6度と小さく、表面エネルギーが高く、濡れ性も良いことがわかる。更に血液性能に関しても、白血球の除去性能を向上させ、血小板も高い通過率で回収できることがわかる。
また表2における実施例5と比較例1〜2の結果から、DEAAを繰返し単位として有するアミド系ブロック共重合体をコート材として用いた場合(比較例1,2)、白血球の除去性能は更に向上するが、血小板がほとんど通過せず、白血球を選択的に除去できていないことがわかる。本発明の、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位からなるブロックと低溶出性のヒドロキシル基を有する単量体に由来する繰返し単位からなるブロックとからなるブロック共重合体を白血球除去フィルターのコート材として用いると(実施例5)、白血球の除去性能は高く、血小板は高い通過率で回収でき、且つコート材のフィルターからの溶出も従来のコート材と比較して大幅に低減できることがわかる。
なお、本発明では主に医療用具用フィルターの例として白血球除去フィルターをあげたが、同様の性質を要求するものであれば、本願のコート材を利用できることはいうまでもない。すなわち、低溶出性および高濡れ性を要求するものである。
【0065】
【発明の効果】
白血球除去フィルターを製造するに際し、本発明のコート材を少なくとも基材表面にコーティングすると、全血に代表される白血球と血小板の双方を含有する血球浮遊液から、白血球を選択的に除去し、特に血小板を高い通過率で回収できる白血球除去フィルターを提供でき、本発明のコート材は血液製剤の製造において大いに有用である。
また本発明のコート材をコーティングした表面は、特に抗血栓性材料に適しているとされている高エネルギー表面を有しており、血球成分の中でも粘着しやすい血小板を粘着させずに通過させるため、血液に対して高い適合性を持つ材料として、例えば人工腎臓用モジュール、体外循環用フィルター、カテーテル等の用途にも有用である。
Claims (6)
- 下記一般式(1)
[ここで、式(1)は共重合体の組成式を表わす。(A)、(B)は高分子主鎖を構成する各繰返し単位を表わす。l、mは高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%を表わす。
(A):N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位(該繰返し単位は1種であっても2種以上であっても良い。)。
(B):ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位(該繰返し単位は1種であっても2種以上であっても良い。)。
ただし、l+m=100、且つ0.1≦l/m≦10、共重合体の数平均分子量は2000以上500000以下である。] - ブロック共重合体がジブロック共重合体またはトリブロック共重合体であることを特徴とする請求項1記載の医療用具用コート材。
- ブロック共重合体がトリブロック共重合体であって、且つ配列構造がA−B−Aであることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用具用コート材。
ここで、A、Bはそれぞれ以下を表す。
A:N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミドに由来する繰返し単位(A)からなるブロック(該繰返し単位は1種であっても2種以上であっても良い。)。
B:ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル系単量体、ヒドロキシル基を有するメタアクリル酸エステル系単量体、及びヒドロキシル基を有するスチレン系単量体からなる群から選ばれる単量体に由来する繰返し単位(B)からなるブロック(該繰返し単位は1種であっても2種以上であっても良い。)。 - 医療用具用コート材が、白血球除去フィルター用コート材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の医療用具用コート材。
- 請求項4に記載のブロック共重合体からなる医療用具用コート材がコーティングされた白血球除去フィルター。
- コート材と水との接触角が60度未満であることを特徴とする請求項5に記載の白血球除去フィルター。
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