JP2004129941A - 白血球選択除去フィルター - Google Patents

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Yasuhiro Nakano
仲野 靖浩
Hirofumi Miura
三浦 裕文
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Abstract

【課題】全血に代表される血球浮遊液から、白血球を選択的に捕捉(除去)する性能を有し、しかも溶出物がほとんどない白血球選択除去フィルターを提供する。
【解決手段】フィルター基材の表面部分に、エポキシ基が関与する反応によって形成された架橋反応構造、および親水性官能基と白血球選択親和性官能基を有する白血球選択除去フィルター、および該フィルターの製造方法。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は白血球選択除去フィルターに関する。さらに詳しくは全血もしくは輸血用血液製剤に代表される血球浮遊液から、白血球を選択的に除去する性能を有し、しかもフィルターからの溶出物がほとんどない白血球選択除去フィルターに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の輸血分野においては、輸血療法が適応された患者の身体的な負担を軽減するために、輸血用血液製剤等から白血球を除去することの重要性がますます高まってきている。この背景には、輸血後の頭痛や非溶血性発熱反応等の副作用の発現、さらには移植片体宿主疾患(GVHD)、アロ抗原感作、ウィルス感染等の重篤な輸血副作用の発現が挙げられるのであるが、これらの副作用は主として血液製剤中に混入している白血球に由来すると考えられている。従って、こうした輸血に際しての副作用を防ぐためには、上記のような輸血副作用が発現しないと考えられる十分に低い水準にまで、全血もしくは輸血用血液製剤等から白血球を除去することが求められている。
【0003】
このような医療現場からの要請に答えるため、これまで白血球を除去するための様々な技術検討が行われてきている。それらのうち、代表的な方法として1)血液成分の比重差を利用する遠心分離法、および2)不織布等の繊維状基材や多孔質体を濾材として血液や血液製剤を濾過するフィルター法が挙げられるが、特に2)のフィルター法は、白血球除去効率の高いこと、操作が簡便であること、コストが低いこと、などの利点を有するため、現在医療現場において広く実施されており、この用途に使用されるフィルターは「白血球除去フィルター」として知られている。
【0004】
更に、白血球除去フィルター分野においては、白血球、赤血球、および血小板といった複数の血球成分が混在する全血もしくは各種血液製剤等から、血球成分のなかでも白血球のみをできるだけ高効率で選択的に除去し、一方で有用な他の血球成分はできる限り回収しうるような高度な濾過性能が強く求められるようになってきている。例えば濃厚赤血球製剤の濾過においては、混在する白血球のみを高度に捕捉するが赤血球はほぼ完全に通過させうるフィルターが、また全血からは同じく白血球のみを高度に捕捉しつつも、一方で赤血球のみならず粘着性の高い血小板までも高度に通過させるようなフィルターが求められているのが現状である。従って、「白血球選択除去フィルター」の設計においては、各血球成分と高分子材料との微妙な相互作用のバランスが重要となる。
【0005】
血球成分と高分子材料の相互作用に関しては、高分子医療材料分野における長きにわたる研究から、一般に血球成分は疎水性高分子材料に粘着しやすく、親水性高分子材料とは親和性が低い、すなわち親水性高分子材料は血液適合性に優れることが古くから知られている。従って、フィルター材料として一般的に用いられることの多い不織布や連通孔型多孔体材料の多くは疎水性高分子材料よりなるため、そのまま白血球除去フィルターとして用いた場合、白血球のみならず赤血球や血小板も非選択的に吸着してしまうため白血球選択除去性を発現させることは困難である。
【0006】
このような課題を解決するため、これまで疎水性高分子材料よりなるフィルター表面に対し、1)白血球との選択的な捕捉性(除去性)を発現しうる特殊な官能基、および一方で2)他の回収したい血球成分(赤血球や血小板)の粘着を抑制しうる種々の親水性官能基、といった2種類の官能基群をバランス良く導入する方法が検討され、現在実用化されている。
【0007】
ここでフィルター表面に種々の官能基を導入する方法としては、高分子反応、グラフト重合、およびコーティングといったいくつかの方法が挙げられるが、フィルター材料表面への官能基導入種および導入量を制御することの容易さ、プロセスの簡易性、および生産性の高さなどから、目的に応じた分子設計が施された高分子化合物をコーティング材として用い、これを不織布等の繊維状基材や多孔質体といった安価なフィルター基材の少なくとも表面部分にコーティング法によって導入する方法が好ましく、実用化もされているのが現状である。
【0008】
例えば、特許文献1には、血小板と白血球の両者を含有する細胞浮遊液から、血小板の損失を最大限に抑えつつ白血球を効率よく除去する目的で、不織布表面に非イオン性親水基と塩基性含窒素官能基からなるコーティング材(例えば2−ヒドロキエチルメタクリレートとN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートの共重合体)を配した白血球除去フィルターが開示されている。この場合、コーティング材における非イオン性親水基と塩基性含窒素官能基のバランスが重要であり、両者のある特異的な共重合組成において高い白血球の選択的捕捉性が発現することが示されている。
【0009】
ところが、このフィルターを全血処理に用いた場合、血小板の通過率は満足できるものではなく、白血球を選択的に捕捉しつつ血小板通過性をアップさせるためにはさらなる改良が必要である。このような場合、種々の官能基の組合せによってコーティング材の最適化を図って行く必要があるが、その場合の1つの方向として更に親水性の高い官能基をコーティング材に導入することで、血小板の通過性を高めようとするという考え方がある。ところがこのような親水基導入によってコーティング材自体の親水性を高めると、血小板の通過性は高くなる方向ではあるものの、コーティング材の水溶性(水系溶剤への溶解性)が当然高くなってしまう。すなわち、そのような親水性官能基を有するコーティング材を単にフィルターにコーティングしただけでは血液濾過時においてコーティング材が血液中に多量に溶出するという医療材料においては致命的な問題が発生してしまうため、何らかの根本的な解決策が必要となる。
【0010】
このような溶出性に関する課題に対して特許文献2には、フィルター素材に疎水性部分とポリエチレンオキサイド鎖の両方を有する多量体をコーティングすることによる、血小板の損失を少なく抑えつつ白血球を効率よく除去し、溶出物がほとんどない白血球選択除去フィルターが開示されている。しかしながら、ポリエチレンオキサイド鎖を有するポリマーはその組成によってLCST(下限臨界溶解温度)を有することもあるため、広い温度領域において常に溶出物がほとんどないと断定することはできない。
【0011】
また特許文献3には、濃厚赤血球製剤からの白血球除去において、N,N−ジエチルアミノ基のような既述の塩基性含窒素官能基よりも、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ基のような親水性塩基性基が白血球除去能において優れることが示されている。しかし、このような親水性塩基性基を有する白血球除去フィルターでは、白血球除去性は優れるものの溶出性がますます高くなることが懸念される。
【0012】
すなわち、コーティング材を用いた白血球選択除去フィルターの設計においては、コーティング材の官能基バランスによる白血球選択除去性に加え、コーティング材の血液中への溶出性(材料設計時においては水への溶出率で代用できる)を抑制する根本的な技術開発が必須となってくる。しかし両者の特性は相反するものであるため、その課題の解決には困難を極めていた。
【0013】
このような血液(水)への溶剤溶出性を解決する手段として、コーティング材に架橋性官能基を導入し架橋反応を利用するコーティング法が考えられる。例えば特許文献4には、疎水性構造単位と親水性構造単位とを含有するポリマー、および多孔質材よりなることを特徴とし、全血等から選択的に白血球を除去出来る上、一方で赤血球、血小板及び血漿を透過し回収しうる白血球除去フィルターが開示されており、この発明においては疎水性構造単位としてエポキシ基、イソシアネート基、アルコキシシラン基等の架橋性官能基、およびそれらが架橋反応を形成して得られる化学構造が特に好ましいと述べられている。
【0014】
しかしながら、この発明では架橋性官能基、およびそれらが架橋反応を形成して得られる化学構造が耐滅菌処理性、耐オートクレーブ性(耐熱性)、長期安定性に対して優れた効果を発揮することを述べるに留まっており、溶出性およびその抑制に関する示唆も教示もなされていない。また一般に架橋性官能基を有する高分子の架橋反応では、架橋性官能基の全てが架橋反応に関与する訳ではなく未反応の架橋性官能基がかなりの量残存する事が知られているため、未反応架橋性官能基(例えばエポキシ基、イソシアネート基、アルコキシシラン基)が製品に残存したままになることは、使用時の安全性や製品の経時的な安定性に関しては好ましいとは言いがたい。さらにエポキシ基のような疎水的性質を有する架橋性官能基が未反応のまま残存している場合、血球成分に対する非選択的親和性が白血球選択除去性を低下させることも危惧される。
【0015】
【特許文献1】
国際公開第87/05812号パンフレット
【特許文献2】
特開平7−25776号公報
【特許文献3】
国際公開第99/11304号パンフレット
【特許文献4】
国際公開第01/66171号パンフレット
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、全血もしくは輸血用血液製剤に代表される血球浮遊液から白血球を選択的に捕捉(除去)する性能を有すると共に、輸血や体外循環治療を安全に行い得る、溶出物がほとんどない白血球選択除去フィルターを提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、エポキシ基を有するポリマーに対するアミン系化合物の付加反応を様々な観点から鋭意検討している過程において、本来エタノールに溶解するが、これに熱処理を施すとエタノールに対して不溶性となりエタノール中では膨潤にしか至らなくなるエポキシ基を有するある種の親水性ポリマーが、熱処理後、エタノール中で膨潤した状態にて2級アミンを作用させると、ほぼ定量的に反応系中の2級アミンが消費されるという、驚くべき、かつ非常に興味深い現象を示すことを見出した。この現象は、エポキシ基を有する上記親水性ポリマーは熱処理によってエポキシ基を介した何らかの架橋反応を起こしてエタノールに対して不溶性となるものの、架橋に関与したエポキシ基はそれほど多くなく、エタノール不溶化反応に関与しなかった残存エポキシ基には2級アミンが依然付加する能力を有することを示唆する。そうであれば、エポキシ基に対する種々の化合物の付加反応性を活かすことで溶剤不溶化反応後に多様な白血球親和性官能基(例えば塩基性含窒素官能基)を付与することができ、様々な分子設計が可能であるということを意味するものである。このような現象を基礎とすることで、本発明者らは、エポキシ基を有する親水性ポリマーよりなるコーティング材を用いるのであれば、エポキシ基が有する不溶化反応性(架橋反応性)およびそれに対する種々の化合物の付加反応性を活かすことで、白血球選択除去性に加え、十分な表面親水性を有するにも関わらず極めて低い溶出性能を満たす白血球選択除去フィルターが設計できると考え、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、
(1)フィルター基材の少なくとも表面部分に、エポキシ基が関与する反応によって形成された架橋反応構造、および親水性官能基、白血球選択親和性官能基を有することを特徴とする白血球選択除去フィルター、
(2)白血球選択親和性官能基が、塩基性含窒素官能基であることを特徴とする上記(1)に記載の白血球選択除去フィルター、
(3)フィルター1g当たりの溶出物量が30mg以下であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の白血球選択除去フィルター、
(4)エポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーをフィルター基材の少なくとも表面部分に導入したのち、該親水性ポリマーをエポキシ基が関与する架橋反応により不溶化してフィルター基材へ固定化し、引き続いてフィルター基材へ固定化された該親水性ポリマーが有するエポキシ基に、エポキシ基と反応することで白血球選択親和性官能基を付与することが可能な化合物を付加させて得られることを特徴とする白血球選択除去フィルターの製造方法、
(5) 白血球選択親和性官能基が、塩基性含窒素官能基であることを特徴とする上記(4)に記載の白血球選択除去フィルターの製造方法、および
(6)上記(4)または(5)に記載の製造方法によって得られた白血球選択除去フィルター、
に関するものである。
【0019】
本発明によれば、フィルター基材の表面部分に導入したいポリマーが親水性であっても、エポキシ基の架橋性を利用してフィルター基材への固定化処理を予め行うため、医療材料において問題となる溶出性を全く気にすることなく幅広い領域の官能基との組み合わせにおいて、白血球選択除去性を達成するためにフィルター基材の表面部分に導入するポリマーの設計を行うことが可能である。しかも、本発明では親水性ポリマーの固定化処理(架橋化処理)後に、残存するエポキシ基に特定の化合物を付加させて白血球親和性官能基を導入するので、少なくともフィルターの表面部分には最終的にエポキシ基は殆ど存在しなくなる。従って、エポキシ基が本来有する疎水特性に基づく各種血球成分に対する非選択的吸着による白血球選択除去性の低下を危惧する必要も無いという利点も有する。
【0020】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明にいう親水性ポリマーとは、親水性官能基を1種もしくは2種以上含有する水との親和性を示すポリマーを意味する。具体的には、後述の溶出率測定法によってポリマーを評価した場合、水に対する溶出率が1wt%以上100wt%以下のものを本発明では親水性ポリマーと称する。
本発明におけるエポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーとは、ポリマー分子鎖中にエポキシ基と、水と親和性を示す親水性官能基を1種もしくは2種以上有するものであり、その結果、溶出率測定法に従う水に対する溶出率が1wt%以上100wt%以下のものを言う。その中でも、本発明において好ましく用いられる親水性ポリマーは、溶出率が5wt%以上100wt%以下のものである。該親水性ポリマーは、直鎖型、分岐型、星型、あるいはデンドリマー型といったどのようなポリマー骨格構造を有していても構わない。また該親水性ポリマー分子中におけるエポキシ基と親水性官能基の存在する位置も特に限定されず、主鎖中であろうと、側鎖中であろうと、分子鎖末端であろうと構わない。
【0021】
エポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーが有するエポキシ基の導入方法であるが、これは特に限定されず従来公知の方法を用いることが出来るが、代表的な方法として例えばエピクロルヒドリンをポリマーが有する水酸基と反応させたり、ポリマー中の不飽和結合(C=C等)にエポキシ化剤を作用させてエポキシ基を導入するような高分子反応法、あるいはエポキシ基を有する1種もしくは2種以上のモノマーを、親水性官能基を有する1種もしくは2種以上のモノマー、および必要に応じてその他のモノマーと共に共重合して導入する重合反応法、およびそのような重合反応法と高分子反応法を組み合わせる方法が挙げられる。なかでもエポキシ基を有するモノマーを用いる重合反応法は、含有させたいエポキシ基の量や種類を制御することが容易であり、ポリマー合成も簡単であるため特に好ましく用いられる。
【0022】
エポキシ基を有するモノマーとは、エポキシ基を1個もしくは2個以上含有し、しかも同一分子中に存在するエポキシ基を除く他の官能基(例えばC=C)で重合することによってポリマーを形成しうるモノマーであればどのような化学構造であっても構わないが、後述する、親水性官能基を有するモノマーとして本発明において好ましいモノマー類、例えば(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、N−1置換(メタ)アクリルアミド類、およびN,N−2置換(メタ)アクリルアミド類等とラジカル重合法にて容易に共重合体を形成するものが生産コストあるいはプロセス上好ましく、例えばグリシジルメタクリレートやグリシジルアクリレートが挙げられ、特にグリシジルメタクリレートが入手の容易さやラジカル共重合性の高さから好ましい。
【0023】
本発明においてエポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーにおけるエポキシ基の平均含有率(REP)は、0.05wt%以上70wt%以下であり、好ましくは0.1wt%以上50wt%以下であり、さらに好ましくは0.3wt%以上30wt%以下である。本発明においては、エポキシ基の一部は該親水性ポリマーのフィルター基材への固定化処理において固定化反応に使用され、残りの未反応エポキシ基が、エポキシ基と反応することで白血球選択親和性官能基を付与することが可能な化合物と反応することで、白血球選択親和性官能基に変換される。従って、エポキシ基の平均含有率が0.05wt%未満であると固定化処理による低溶出率化効果が発現しなくなる上、フィルター性能として白血球選択除去性も発現しなくなるため好ましくない。一方、エポキシ基の平均含有率が70wt%を越えると、最終フィルター性能としてフィルター表面部分の親水性官能基と白血球選択親和性官能基のバランスが悪くなり、白血球選択除去性が低下するため好ましくない。ここでエポキシ基の平均含有率とは、該親水性ポリマーの所定重量あたりに含まれるエポキシ基骨格を構成する3つの原子(C−O−C)の重量分率(wt%)である。この値は、公知のチオ硫酸ナトリウム試験法(J.Chem.Soc.,1950,2857.)に従って所定量のポリマー中のエポキシ基を定量することで算出することが出来る。具体的には評価したい、エポキシ基を含有する親水性ポリマーの所定量を、フェノールフタレインを含む良溶媒(例えばジメチルスルホキシド)に溶解し、これに過剰のチオ硫酸ナトリウムを加えて約20分間、50℃にて反応させる。エポキシ基とチオ硫酸ナトリウムが反応して当量の水酸基が発生するので溶液は赤色となる。これを赤色が消えるまで濃度既知の塩酸水溶液で滴定することでポリマー中のエポキシ基を定量することができる。
【0024】
本発明においてエポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、0.1×10以上200×10以下であることが好ましい。さらに0.5×10以上150×10以下であることが好ましく、1×10以上100×10以下であることが特に好ましい。重量平均分子量が0.1×10未満であると、フィルター表面部分への固定化において分子鎖の絡み合い効果が小さくなるため固定化が不十分となり好ましくない。一方、200×10を越えると、溶媒への溶解性が低下するため、コーティング法の場合においてはコーティング溶液の調製が難しくなり、フィルター基材表面への均一なコーティングができなくなるため好ましくない。なお重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC,標準ポリスチレン換算)にて得られる値である。
【0025】
本発明のエポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーに含まれる親水性官能基とは、その種類、量ともに特に限定されるものではなく、それらを含有することでポリマー自体が既に定義した親水性ポリマーになるのであればどのようなものでも構わない。例えばアルコール性水酸基、フェノール性水酸基、カルボキシル基、スルホン基、カルボニル基、エステル基、エーテル基、アミド基、N−1置換アミド基、N,N−2置換アミド基といった官能基が挙げられるが、特にここでの親水性官能基の導入は血球成分の吸着抑制効果(血液適合性)を目的に行うのであるからアルコール性水酸基、カルボニル基、エステル基、エーテル基、アミド基、N−1置換アミド基、N,N−2置換アミド基といった非イオン性親水性官能基が好ましい。
【0026】
親水性官能基の導入方法も特に限定されるものではなく、いかなる方法を用いても良いが、代表的な方法としてはある構造のポリマーに対する高分子反応によって親水性官能基を付与する方法、あるいは親水性官能基を有する1種もしくは2種以上のモノマーを、エポキシ基を有するモノマー、および必要に応じて他のモノマーと共に重合(共重合)することで導入する方法が挙げられる。そのうち、後者の重合反応法(共重合反応法)は、導入したい親水性官能基の種類や量の制御が容易であるため、特に好ましく用いられる。その際に用いられる親水性官能基を有するモノマーも特に限定されないが、先に述べたように親水性官能基の導入は血球成分の吸着抑制効果(血液適合性)を主な目的として行うのであるから特に非イオン性親水性官能基を有するモノマーが好ましい。そのような非イオン性親水性官能基を有するモノマーとしては、例えば2−ヒドロキシエチルメタクリレートや2−ヒドロキシプロピルメタクリレートのようなアルコール性水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、N−1置換(メタ)アクリルアミド、N,N−2置換(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、−CHCHO−の繰り返し単位数1〜100のポリオキシエチレン基を有するアルコキシポリエチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。
【0027】
ところで本発明においては、エポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーをフィルター基材の少なくとも表面部分に導入した後、後述する加熱等の固定化処理によって該親水性ポリマーを固定化することが行われ、その結果溶出率が大きく抑えられる。この固定化(低溶出率化)のメカニズムは現段階では明確になっていないが、Prog.Polym.Sci.,18(5),963−995(1993)には、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基、カルボキシル基、エステル基、チオエステル基等が、アミン系官能基ほどの反応性はないもののエポキシ基に付加することが述べられていることから、エポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマー中の、エポキシ基と親水性官能基が関与したポリマー間の架橋反応が固定化メカニズムの1つではないかと推察している。
【0028】
以上の推察も含め、既述の非イオン性親水性官能基を有するモノマーとしては、まず親水性ポリマーの固定化(架橋化)の観点から、特に2−ヒドロキシエチルメタクリレートやヒドロキシプロピルメタクリレート類、ヒドロキシブチルメタクリレート類などのアルコール性水酸基とエステル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類が好ましい。
【0029】
一方、水溶性が良好であって血球成分吸着抑制効果が高いという観点からは、アミド基を有する(メタ)アクリルアミド、N−1置換(メタ)アクリルアミド、N,N−2置換(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類が好ましく、N−1置換(メタ)アクリルアミド、N,N−2置換(メタ)アクリルアミド類がより好ましく、中でも入手の容易さ、取り扱い性の良さ、血液を濾過したときの性能の良さなどから、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドなどのN,N−2置換(メタ)アクリルアミド類がさらに好ましい。
【0030】
従って本発明のエポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーには、(メタ)アクリル酸エステル類とN,N−2置換(メタ)アクリルアミド類が両方含有されることが特に好ましい。
【0031】
但し、本発明では、まずエポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーをフィルター基材の少なくとも表面部分に、後述するようなコーティング法等で導入する必要があるため、該親水性ポリマーが化学的に非常に不安定であってはプロセス上において困難をきたし好ましくない。ここで化学的に不安定とは、ポリマーの固体状態での保存における本来の良溶媒への不溶化、もしくは溶液状態の保存におけるポリマー溶液のゲル化などを意味する。従ってこのような不安定な状態を避けるため、該親水性ポリマーにおける親水性官能基もしくはその他の官能基として、エポキシ基との高い反応性を有する官能基の導入は避けなければならず、具体的にそのような高い反応性を有する官能基としては1級もしくは2級アミノ基を含有する官能基が挙げられる。
【0032】
本発明におけるエポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーは、溶出率測定法による水に対する溶出率が1wt%以上100wt%以下、好ましくは5wt%以上100wt%以下であって、しかも最終製品において白血球選択除去性に大きな影響を与えない範囲内であれば、エポキシ基と親水性官能基以外に、必要に応じてその他の官能基を含有しても構わない。ここでその他の官能基とは特に限定されるものではなく、どのようなものでも構わないが、例えば炭化水素基に代表される疎水性官能基や、アルコキシシラン基、イソシアネート基、および酸無水物基等に代表されるエポキシ基以外の架橋性官能基等が挙げられる。これらの官能基は一般的に血球成分との非選択的吸着性を有するため、白血球選択除去性を低下させる可能性が高く多量に用いることは好ましくない。但し、エポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーにおける親疎水性バランスの調製剤(疎水性官能基のケース)、もしくはフィルター表面部分への固定化補助剤(架橋性官能基のケース)として使用することは有効である。
【0033】
本発明における白血球選択親和性官能基とは、親水性官能基とのバランスにおいて白血球を選択的に捕捉しうる性能を発揮する官能基であればどのような化学構造を有していても構わず、代表的には塩基性含窒素官能基や、脂肪族および芳香族の4級アンモニウム塩基を有する官能基等が挙げられ、特に塩基性含窒素官能基を有する官能基が好ましい。塩基性含窒素官能基としては脂肪族1級アミノ基、脂肪族2級アミノ基、脂肪族3級アミノ基、さらにピリジル基、ビピリジル基、イミダゾール基等の含窒素芳香族基が挙げられるが、特に脂肪族1級アミノ基(−NH)、脂肪族2級アミノ基、脂肪族3級アミノ基が好ましい。具体的に脂肪族2級アミノ基とは−NHRの構造を有し、Rは特に限定されずどのような構造であっても構わないが、例えばメチル基、エチル基、プロピル基といった直鎖状アルキル基、イソプロピル基のような分枝状アルキル基が挙げられ、それらアルキル基の炭素数は特に限定されない。さらにそのアルキル基は水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基のような官能基を1個もしくは2個以上有していても構わない。また脂肪族3級アミノ基とは−NRの構造を有するが、RとRも、Rと同様の種々の構造をとりうるし、RとRは同一構造でも異なっていてもよい。
【0034】
中でも脂肪族3級アミノ基が好ましい構造であり、脂肪族3級アミノ基を有する官能基が白血球選択親和性官能基として有効である。そのような官能基としては具体的に、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジエタノールアミノ基、2−ジメチルアミノエチル基、3−ジメチルアミノプロピル基、2−ジエチルアミノエチル基、3−ジエチルアミノプロピル基等が挙げられる。
【0035】
本発明で、エポキシ基と反応することで白血球選択親和性官能基を付与することが可能な化合物とは、触媒存在下もしくは無触媒下でエポキシ基へ付加反応しうる性質を有し、エポキシ基への付加反応後に既述の白血球選択親和性官能基を付与しうる化合物である。従って、そのような性能を満足するのであればどのような化合物であっても構わないが、エポキシ基への付加反応は速やかかつ十分に起こる必要があり、また最終的に白血球除去フィルターという医療材料として使用する目的上、付加反応のための触媒化合物を使用することは好ましいことではない。従って、エポキシ基の付加反応は一般に非常に迅速に起こりうることが知られる塩基性窒素による求核付加反応に基づくことが好ましく、エポキシ基と反応することで白血球選択親和性官能基を付与することが可能な化合物としては具体的に1級もしくは2級アミノ基を有するものであることが好ましい。そのような化合物は特に限定されるものではないが、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミンのようなアルキルアミンやジアルキルアミン、また水酸基を有するジエタノールアミンのようなモノアミン類が代表的な化合物として挙げられ、さらにN,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N−トリメチルエチレンジアミン、N,N,N−トリメチルプロピレンジアミン、4−アミノピリジン等に代表されるジアミン類を用いることで白血球除去フィルターに多様な機能を付与することも可能である。
【0036】
本発明ではエポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーを、フィルター基材の表面部分へ導入後に固定化処理を施すことで、例えば本来エタノールに容易に溶解するポリマーが固定化処理後にはフィルター表面からエタノールに殆ど溶出しなくなることから、なんらかの架橋反応が起こっていることは明らかである。しかも、例えばグリシジルメタクリレート/2−ヒドロキシプロピルメタクリレート/N,N−ジメチルアクリルアミド(GMA/HPMA/DMAA=23/56/22、モル比)系の3元共重合体では、130℃、3時間の固定化処理を施すことでエタノールへの溶出率は10wt%まで低下するが、これに対しエポキシ基を含まないN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート/2−ヒドロキシプロピルメタクリレート/N,N−ジメチルアクリルアミド(DM/HPMA/DMAA=3/56/41、モル比)系の3元共重合体では同様の実験における140℃の加熱処理でも約60wt%も溶出してしまうという実験結果が本発明者らによって得られている。すなわち、本発明におけるポリマー固定化(架橋反応)にはエポキシ基が主に関与し、フィルター基材の少なくとも表面部分にはエポキシ基が関与する架橋反応構造が存在することは確実である。
【0037】
このエポキシ基が関与する反応によって形成された架橋反応構造については、Prog.Polym.Sci.,18(5),963−995(1993)にも示されているようにエポキシ基に対して種々の官能基の付加反応が存在するため、一定の構造を規定して示すことは困難であるが、代表的な構造として、例えば下記の一般式(1)および(2)に示されるような付加反応の結果で得られる化学構造を例示することができる。
【化1】
Figure 2004129941
一般式(1)
【化2】
Figure 2004129941
一般式(2)
(ここで、一般式(1)と(2)におけるP1、P2はそれぞれ任意のポリマー分子鎖を、Rは任意の官能基を意味する。)
【0038】
本発明で用いるフィルター基材とは、血液を濾過しうる細孔を有するものであれば特に限定されるものではなく、どのような形態を有するものでも構わないが、具体的には天然繊維、合成高分子繊維、再生高分子繊維、ガラス繊維、有機/無機複合繊維などより得られる編布、不織布、織布等の繊維状媒体、また発泡法、相分離法、延伸開孔法、焼結法等によって得られ三次元網目状連続孔を有するスポンジ状多孔質体(多孔質膜)が挙げられる。この中でも不織布やスポンジ状多孔質体は特に好ましい例として挙げられる。
【0039】
なお本発明にいうフィルター基材の表面部分とは、微細孔表面をも含むものである。例えばフィルター基材が不織布であるならば、それを構成する繊維の全表面(繊維交絡部は除く)がフィルター基材の表面部分を意味するし、スポンジ状多孔質体であればスポンジ状物の内部に形成された連続孔の表面もフィルター基材の表面部分に含まれる。
【0040】
不織布などの繊維状媒体をフィルター基材として用いる場合、平均繊維径は0.3μm以上3.0μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上2.0μm以下、特に好ましくは0.5μm以上1.5μm以下である。平均繊維径が0.3μm未満であるとフィルターを構成する個々の繊維における強度低下につながるため好ましくないし、3.0μmを越えるとフィルターの開孔率が低下するため血液濾過速度が低下したり、また白血球捕捉性が低下したりするため好ましくない。また平均孔径は2μm以上30μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以上20μm以下、特に好ましくは2μm以上10μm以下である。平均孔径が2μm未満であると血球の目詰まりや圧力損失の増大を引き起こすため好ましくないし、30μmを越えると白血球捕捉性が低下するため好ましくない。また白血球除去フィルター用の容器内(ハウジング内)に該繊維状媒体を充填するときの充填密度は0.1g/cm以上0.5g/cm以下が好ましく、より好ましくは0.1g/cm以上0.3g/cm以下、特に好ましくは0.15g/cm以上0.25g/cm以下である。充填密度が0.1g/cm未満であると白血球除去能が低下するため好ましくないし、0.5g/cmを越えると血球の目詰まりや圧力損失の増大を引き起こすため好ましくない。
【0041】
本発明のフィルター基材の素材としては、血球にダメージを与えにくいものであれば特に限定はなく各種素材を使用する事ができ、例えば有機高分子素材、無機高分子素材、有機無機複合素材、有機無機ハイブリッド素材、金属素材等が挙げられる。中でも有機高分子素材は、切断等の加工性に優れるため好ましい素材である。有機高分子素材としては、例えばポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリスルホン、セルロースおよびセルロース誘導体、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等、およびそれらの共重合体、アロイ、ブレンド等が挙げられるが、本発明のフィルター基材の素材は上記例に限定されるものではない。
【0042】
なお本発明で用いられるフィルター基材は、フィルター基材の表面部分への親水性ポリマーの固定化をより強固なものにするなどの目的で、フィルター基材の表面を酸、アルカリなどの適当な薬品で処理したり、プラズマや電子線などによる処理を予め行っても構わない。
【0043】
本発明の白血球選択除去フィルターの製造方法において、エポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーをフィルター基材の少なくとも表面部分に導入する方法としては、フィルター基材の細孔を著しく閉塞させることなく、かつフィルター基材表面が露出することなく均一に導入できるのであればどのような方法でも構わないが、均一な導入の達成、プロセスの簡易さ、低コストパフォーマンスを考慮すれば、コーティング法が好ましい例として挙げられる。コーティング法としては、例えば該親水性ポリマーを溶解した溶液を調製し、該溶液にフィルター基材を浸漬する方法、フィルター基材に該溶液を吹き付ける方法などが挙げられるが、均一性を考慮すれば前者の浸漬法が好ましい。コーティング法において該親水性ポリマーを溶解する溶媒としては、フィルター基材を著しく膨潤させたり溶解させるものでなく、しかも該親水性ポリマーを十分に溶解するものであれば特に限定されず様々な溶媒を使用することができる。
【0044】
そのような溶媒は、ポリマーの種類に対応して選択する必要があるため特に限定はされないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類などが挙げられるが、アルコール類は適度な乾燥速度、取り扱いの容易さ、親水性官能基との親和性が高いといった点から好ましく、中でも人体への毒性が少ないエタノールは実用上特に好ましい。また必要であれば、これら溶媒に親疎水性の微調整を行う目的で水を予め混合していても構わない。
【0045】
上記のコーティング溶液のポリマー濃度は、0.01wt%以上80wt%以下であり、好ましくは0.1wt%以上50wt%以下であり、特に0.5wt%以上30wt%以下が好ましい。溶液濃度が0.01wt%未満であるとコーティングが不十分となりフィルター基材表面が露出しやすくなるため好ましくない。また80wt%を越えると溶液粘度が高くなるため、均一なコーティングが困難になったりフィルター基材の孔が閉塞しやすくなるので好ましくない。なおフィルター基材1g当たりに対して該親水性ポリマーが10〜300mg(すなわちコーティング量は10〜300mg/gと表現する)の範囲内でコーティングされるように溶液濃度を調製することが好ましい。
【0046】
なおコーティング法のプロセスとしては、予め適切な濃度に調製したエポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーの溶液に、フィルター基材を一定時間浸漬した後取り出し、ニップロール等で絞ったりエアーや窒素ガス等を吹き付けたりして余分な親水性ポリマー溶液を除去するが、そのプロセスは連続プロセスであってもバッチプロセスであっても構わない。なおフィルター基材のコーティング溶液への浸漬時間は、0.5秒以上60秒以内であり、好ましくは1秒以上30秒以内であり、さらに好ましくは2秒以上10秒以内である。浸漬時間が0.5秒未満であるとコーティングが不均一かつ不十分になるため好ましくない。また60秒を越えてそれ以上の時間をかけてもコーティング量に差はなくなるためプロセス上意味がなく、またフィルター基材によっては基材の膨潤等が起こるケースも現れてくるので好ましくない。
【0047】
本発明の製造方法において、フィルター基材の少なくとも表面部分に導入された親水性ポリマーのフィルター基材への固定化処理方法としては、一般にエポキシ基への種々の官能基の付加反応を促進しうると考えられる従来既知の方法を利用することができ特に限定されるものではないが、具体的には単に熱を加える方法、触媒作用を有する化合物を作用させる方法、およびそれらを組み合わせる方法が代表的に例示される。
【0048】
まず単に熱を加える固定化処理の具体的な方法としては、例えばフィルター基材に該親水性ポリマーがコーティング法にて導入され引き続いて余分な該親水性ポリマー溶液が除去された後、未乾燥の該フィルター基材自体をそのまま加熱するという方法が挙げられる。なお加熱はエアー中、窒素気流中、真空中等どのような環境で行っても構わないが、加熱温度は30℃以上200℃以下が好ましく、さらに40℃以上170℃以下が好ましく、特に50℃以上150℃以下が好ましい。加熱温度が30℃未満であると、十分な固定化反応(架橋反応)を行うためには極めて長い時間を要するためプロセス上好ましくない。また加熱温度が200℃を超えると多くの素材のフィルターにおいて熱的な変形等が起こるので製品の外観を損なうことが多いし、またコーティング溶液の溶媒が加熱時にたちまち蒸発してしまうため固定化反応(架橋反応)に逆に時間が掛かってしまい好ましくない(一般に架橋反応は架橋するポリマーが溶媒を含有した状態の方が速く進行する)。また加熱処理時間は、低い乾燥温度では長く、高い乾燥温度では短くすることができ、また溶媒種による溶媒保持の程度にもよるため特に好ましい時間を限定することは困難であるが、好ましくは0.1時間以上50時間以内である。加熱処理時間が0.1時間未満であると固定化反応(架橋反応)が不十分となるし、50時間を越えると製造効率が著しく低下するため好ましくない。なお、既述の通り一般に架橋反応は架橋するポリマーが溶媒を含有した状態の方が速く進行するが、これに対し該加熱過程におけるフィルター基材からの溶媒(例えばエタノールの場合)の蒸発が速すぎる結果、固定化反応(架橋反応)が固相反応になってしまい十分な速度が得られない場合には、コーティング溶液を調製する溶媒をジメチルスルホキシドやN,N−ジメチルアセトアミドのような高沸点溶媒に変換し、フィルター基材加熱中の溶媒保持状態を持続させる工夫をすると良い結果が得られる。
【0049】
一方、触媒を作用させる固定化処理の方法も特に限定されないが、例えば該親水性ポリマーのコーティング溶液に予め触媒を加えておく方法、該親水性ポリマー溶液をコーティングしたあとの乾燥フィルター基材を再度触媒溶液に浸漬する方法、該親水性ポリマー溶液をコーティングしたあとの乾燥フィルター基材に触媒溶液を吹き付ける方法などが挙げられる。また触媒として用いる化合物としては、一般にエポキシ基への種々の化合物の付加反応を促進することが知られている化合物であればどのようなものを用いても構わないが、例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールのような3級アミン系化合物、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリドのような4級アンモニウム塩系化合物、18−クラウン−6/酢酸カリウム、18−クラウン−6/ふっ化カリウム、18−クラウン−6/臭化カリウムのようなクラウンエーテル錯体、その他金属塩化物類等が挙げられる。また上記触媒の使用量は、触媒の作用のさせ方によって様々であり特に限定することは難しいが、例えば該親水性ポリマー溶液をコーティングしたあとの乾燥フィルター基材を再度触媒溶液に浸漬する方法を採用する場合には、該触媒溶液の濃度は1wt%以上50wt%以下が好ましい。但し、白血球除去フィルターは医療用具であるので、ユーザーへの悪影響を避けるため触媒の選択は慎重に行うべきであるし、反応後の洗浄も十分に行う必要がある。
従って、固定化反応(架橋反応)が十分に進行するのであれば、触媒はできるだけ使用しないのが好ましく、前者の単に熱を加える固定化処理が特に好ましい。
【0050】
本発明の製造方法においては、エポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーのフィルター基材への固定化処理を施した後は、次の白血球選択親和性官能基の導入反応(エポキシ基への付加反応)を行う前に、該親水性ポリマーの良溶媒(例えばエタノール)でフィルター基材を洗浄することが好ましい。この過程を通して、固定化処理(架橋反応)が不完全な場合に依然残存する良溶媒への可溶性ポリマー成分を予め溶出除去することができ、最終的に得られる白血球選択除去フィルターの水への溶出率を0wt%に近づけることが極めて容易となる。
【0051】
また、この洗浄の際に得られた良溶媒(例えばエタノール)に対する溶出率を用い、[100−該溶出率](%)の値を架橋分率として定義することで架橋の程度を規定することができる。本発明の製造方法における固定化処理された親水性ポリマーの架橋分率は20%以上100%以下が好ましく、より好ましくは40%以上100%以下であり、特に好ましくは50%以上100wt%以下である。架橋分率が20%未満であると架橋反応が不十分であるため、洗浄の段階で多くのコーティング材が無駄になるし、フィルター基材の表面が露出してくる可能性もあるので好ましくない。
【0052】
本発明において、フィルター基材へ固定化された該親水性ポリマーが有するエポキシ基に、エポキシ基と反応することで白血球選択親和性官能基を付与することが可能な化合物を付加させる方法としては、該親水性ポリマーが固定化されたフィルター基材を、エポキシ基と反応することで白血球選択親和性官能基を付与することが可能な化合物を含む溶液に浸漬する方法、該化合物が気化しやすいものであれば該化合物の蒸気雰囲気中にフィルター基材を通過させるといった方法が例示されるが、特に前者の浸漬法が好ましく例示され、浸漬する方法は連続法でもバッチ法でも構わない。この際の該化合物の溶液濃度は、フィルター基材上に固定化されたエポキシ基に対して過剰量の該化合物が含まれていれば反応上問題なく特に限定されないが、1wt%以上100%以下が好ましい。溶液濃度が1wt%未満であると、付加反応速度が極めて小さくなり好ましくない。また該溶液を調製する溶媒としては、エポキシ基と反応することで白血球選択親和性官能基を付与することが可能な化合物を良好に溶解するものであればどのような溶媒であっても構わず、既述のコーティング法の説明において該親水性ポリマーを溶解する溶媒として例示したような種々の溶媒をここでも使用することが可能である。中でも、該化合物の溶解性と親水性ポリマーのとの親和性、取り扱いの容易さ等を考慮すれば、エタノール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミドなど、およびそれらに水を混合したものが好ましい例として挙げられる。
【0053】
該化合物をエポキシ基に付加する反応温度は、20℃以上200℃以下が好ましい。反応温度が20℃未満であると付加反応速度が非常に低くなるため100%の付加反応を得ることが困難になるため好ましくないし、また200℃を越えるとフィルター全体が軟化して微細孔閉塞を引き起こしたりする可能性があるため好ましくない。なお、付加反応時間はフィルター基材の重量変化を経時的に追跡するなどして、各付加反応に応じて決定する必要がある。
【0054】
本発明の白血球選択除去フィルターは、該フィルター1gあたりの水に対する溶出物量が30mg以下であり、さらに好ましくは20mg以下であり、特に好ましくは10mg以下である。水に対する溶出物量が30mgを越えると、実使用における濾過血液中への溶出物が多くなるため、医療材料上好ましくない。
また、水に対する溶出率は10wt%以下である。溶出率が10wt%を超えると、やはり実使用における濾過血液中への溶出物が多くなるため、医療材料上好ましくない。
【0055】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を実施例及び比較例に基づき詳細に説明する。ただし、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
1.エポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーの合成[グリシジルメタクリレート/2−ヒドロキシプロピルメタクリレート/N,N−ジメチルアクリルアミド系共重合体の合成]
1L容量のセパラブルフラスコに21.9g(0.154mol)のグリシジルメタクリレート(GMA)、55.5g(0.385mol)の2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、45.7g(0.461mol)のN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)、および460gのエタノールを入れ、窒素バブリングを行って脱酸素したのち容器内を窒素雰囲気下に保ったまま60℃に昇温した。これに同じく脱酸素した0.822g(5.01mmol)のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を含むエタノール溶液(エタノール40.0g)を約1時間かけて滴下した。そのまま60℃で撹拌を継続し、AIBNの滴下開始から225分後に停止剤(p−メトキシフェノール)を加えて重合反応を停止した。得られた反応液にn−ヘキサンを少しずつ加えてポリマーを析出させ、デカンテーションにてポリマーを取り出し、再度エタノールに溶解する操作を繰り返してポリマーの精製を行った。
精製後のポリマー収率(対モノマー仕込み量)は72wt%であった。GPC測定(標準ポリスチレン換算)より、得られたポリマーの数平均分子量はMn=1.1×10、重量平均分子量はMw=3.7×10、分子量分布はMw/Mn=3.4であった。
また重合終了後の反応液のガスクロマトグラフィー(GC)によるモノマー残存量の測定から算出されるポリマー中の共重合組成比はGMA/HPMA/DMAA=22/56/22(モル比)であり、エポキシ基定量法の結果から算出されたエポキシ基の平均含有率(REP)は6.6wt%であった。
【0056】
<得られたエポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーの水への溶出率測定>
溶出率測定用のフィルター基材として平均繊維直径1.2μm、目付量40g/m、厚み0.20mmの、ポリエチレンテレフタレート繊維よりなる不織布を選択し、これより任意の位置において直径25mmの円形サンプルを10枚切り出してそれぞれの重量を測定し、W(g)とした。次にこれら不織布サンプル1gに対して得られた該ポリマーが10〜300mg(すなわちコーティング量は10〜300mg/g)の範囲内でコーティングされるように、該ポリマーとその良溶媒であるエタノールを用いてコーティング溶液を調製した。ポリマー濃度は10wt%とした。
このコーティング溶液にそれぞれの不織布サンプルを5秒間浸漬した後、余分なコーティング溶液をニップロールで除去し、40℃の真空乾燥機中で3時間程度、恒量になるまで乾燥した。
得られたそれぞれのコーティング不織布サンプルの重量を電子天秤で秤量し(W(g))、続いてこれらを18℃の純水約50mL中に20分間浸漬させた後(20分間という浸漬時間は、実際に白血球除去フィルターで血液を濾過する際に血液と接する時間を想定して決定した。)、取り出した不織布を60℃の真空乾燥機中で3時間程度、恒量になるまで乾燥させた。乾燥後のそれぞれの不織布サンプルを電子天秤で秤量し(W(g))、下記(3)式によってそれぞれの溶出率を算出し、10枚の平均値を該ポリマーの水への溶出率(wt%)とした。
溶出率(wt%)={(W−W)/(W−W)}×100  (3)
上記(3)式より求められた該ポリマーの水に対する溶出率は20wt%であったことから、該ポリマーは親水ポリマーであると言える。
なお既述のコーティング量とは、以下のように測定された。すなわち上記の方法で該ポリマーがコーティングされた不織布サンプルの重量を電子天秤で秤量した(W(g))。次いで、秤量後の不織布サンプルを評価ポリマーの良溶媒であるエタノールの約50mL中に浸漬し、60℃の恒温槽中で2時間振蕩した。浸漬処理後、取り出した不織布は60℃の真空乾燥機中で3時間程度、恒量になるまで乾燥し、乾燥後の不織布サンプルを電子天秤で秤量し(W(g))、下記(4)式に従い該ポリマーのコーティング量(mg/g)を算出した。
コーティング量(mg/g)={(W−W)/W}×1000  (4)
その結果、上記(4)式より求められたコーティング量は257mg/gであった。
【0057】
2.親水性ポリマーのフィルター基材表面への導入[GMA/HPMA/DMAA系共重合体(22/56/22、モル比)の不織布へのコーティング]
上記1で得られたGMA/HPMA/DMAA系共重合体の10.0wt%のエタノール溶液を調製し、これをコーティング溶液とした。このコーティング溶液に、浸漬時間が5秒になるように、平均繊維径が1.2μm、平均孔径が6.3μm、目付け量40g、厚み0.2mmのポリエチレンテレフタレート繊維製不織布を連続的に浸漬したのち、ニップロールに挟んで通過させることにより、余分なコーティング溶液を除去した。得られた不織布の一部を乾燥し、10枚の直径25mm円形サンプルを切りだして、それぞれのコーティング量を上記1に記載の方法で測定した値から平均コーティング量を算出したところ241mg/gであった。
【0058】
3.フィルター基材への固定化処理
上記2で得られたコーティング直後の不織布を乾燥機に入れ、エアー中、130℃で3時間加熱処理した。その結果、加熱処理後の不織布では、水の代わりにエタノールを用いる他は既述1に記した溶出率測定方法と同様にしてエタノールへの溶出率を測定したところ、僅か10wt%であった。すなわち架橋分率は90%である。さらに再度、このエタノール溶出(洗浄)した不織布のエタノールに対する溶出率を測定したところ0wt%であった。これにより溶出率が0wt%であり、GMA/HPMA/DMAA系親水性ポリマーが固定化された不織布が得られた。
【0059】
4.白血球選択親和性官能基の付与
上記3で得られた、GMA/HPMA/DMAA系親水性ポリマーが固定化された不織布(エタノールに対する溶出率は0wt%)の10.0gを、上記2の平均コーティング量(241mg/g)と上記3のエタノールへの溶出率から計算される該不織布上のエポキシ基(全てのエポキシ基が未反応で残存していると仮定して計算)の約40倍モル量に相当するジエタノールアミン(DEA)を含む溶液1L(溶媒はエタノール/水=70/30、重量比)に浸漬し、60℃で振とうしながら保った。30時間後、不織布の一部の経時的重量測定においてジエタノールアミン付加による不織布の重量増加がなくなったことを確認して全不織布を取りだし、エタノールで数回洗浄したのち、室温にて24時間乾燥して白血球選択除去フィルターを得た。
【0060】
<得られたフィルターからの水への溶出物量の測定方法>
得られた白血球選択除去フィルターの水への溶出物量は、5gのフィルターを500mlの18℃の純水中に20分間浸漬したのち、取り出して恒量になるまで乾燥し、重量測定を行って浸漬前後の重量差から算出した。その結果、該フィルターからの溶出物は検知されず、該フィルター1gあたりの溶出物量および溶出率は0mg/gおよび0wt%であった。
【0061】
5.全血濾過性能の評価
上記1〜4のプロセスにて製造したポリマー固定化不織布から、任意に直径20mmの円形状サンプルを切り抜き、その32枚をフィルターホルダーに充填(充填密度0.2g/cm)した。このカラムに後述する方法で調製したヒト新鮮全血を、シリンジポンプを用いて一定の流速0.74mL/分で流し、その13.3mLを回収した。
ヒト新鮮全血は、採血した血液100mLに対し、抗凝固剤として濾過済みCPD溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物26.3g、クエン酸一水和物3.27g、グルコース23.2g、およびリン酸二水素ナトリウム二水和物2.51gを注射用蒸留水1Lに溶解し、孔径0.2μmのフィルターで濾過した溶液)を14mL加えて混和し、20℃で3時間保存することにより調製した。
濾過前の血液、および濾過後の回収血液について、その一定量の血液を採取し、白血球濃度を残存白血球測定用試薬システムLeucoCOUNTTMkit、フローサイトメーターFACS Calibur、および解析ソフトCELLQuest(以上、BD Bioscience社製、米国)を用いて測定した。また、血小板濃度は自動血球計数装置MAX A/L−Retic(BECKMAN COULTER社製、米国)を用いて測定した。
以上のようにして得られた濾過前後の白血球濃度および血小板濃度を用いて、次式(5)および(6)により、白血球除去能(以下、白除能と略す)および血小板通過率をそれぞれ算出した。
Figure 2004129941
式(5)および(6)においては、白除能の値および血小板通過率が大きいほど、白血球選択除去フィルターとして好ましいと言える。
このフィルターを用いた血液濾過実験を3回行い、白除能と血小板通過率(%)について、それぞれの平均値を得た。また血液濾過後のフィルターを走査型電子顕微鏡で観察したところ、赤血球の付着は殆ど見られなかった。以上の結果を表1にまとめて示す。
以上の結果、水への溶出物量が0mg/gであり、しかも4.25という高い白血球除去値、88.8%という極めて高い血小板通過率、および赤血球の付着も見られない高性能な白血球選択除去フィルターを得ることができた。
【0062】
【実施例2】
実施例1の3(フィルター基材への固定化処理)に記した熱処理温度を100℃、熱処理時間を4時間にした以外は実施例1と同様にして白血球選択除去フィルターを製造した。
実施例1と同様にフィルターを構成し、血液濾過実験を3回行い、白除能および血小板通過率を測定し、結果の平均値を表1に示した。またこれも赤血球の付着は殆ど観測されなかった。
以上の結果、100℃、4時間での固定化処理においても親水性ポリマーのエタノールに対する溶出率は40wt%に低下した(架橋分率60%)。さらにこのエタノール溶出(洗浄)した不織布のエタノールに対する溶出率を再度測定したところ0wt%であった。これにより実施例1と同様の白血球選択除去フィルターを得ることができた。結果を表1に示す。
【0063】
【実施例3】
7.01g(0.0493mol)のグリシジルメタクリレート(GMA)、51.8g(0.359mol)の2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、58.7g(0.592mol)のN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)を用いる以外は、実施例1の1と同様に重合反応、ポリマー精製を行いGMA/HPMA/DMAA系親水性ポリマーを得た。
精製後のポリマー収率(対モノマー仕込み量)は68wt%であった。GPC測定(標準ポリスチレン換算)より、得られたポリマーの数平均分子量はMn=1.1×10、重量平均分子量はMw=4.2×10、分子量分布はMw/Mn=3.8であった。また重合終了後の反応液のガスクロマトグラフィー(GC)によるモノマー残存量の測定から算出されるポリマー中の共重合組成比はGMA/HPMA/DMAA=7/51/42(モル比)であり、エポキシ基定量法の結果から算出されたエポキシ基の平均含有率(REP)は2.2wt%であった。
また得られたポリマーの水への溶出率を実施例1の1と同様に評価したところ65wt%であったことから、本ポリマーは親水性ポリマーであると言える。
次に上記ポリマーを実施例1の2と同様に不織布へコーティングし(平均コーティング量は、253mg/g)、引き続いてエアー中、140℃で4時間加熱処理した。実施例1の3と同様にして行った加熱処理後のエタノールに対する溶出率は、55wt%であった。すなわち架橋分率は45%である。さらにこのエタノール溶出(洗浄)した不織布のエタノールに対する溶出率は0wt%であった。これにより本実施例においても、溶出率が0wt%であるGMA/HPMA/DMAA系親水性ポリマーが固定化された不織布を得ることができた。
次に得られた不織布に対し、ジエタノールアミン(DEA)の代わりにジ−n−プロピルアミン(DPA)を用いる以外は実施例1の4と同様にしてアミン付加反応を行い、反応後エタノールで数回洗浄したのち、室温にて24時間乾燥した。
得られた白血球選択除去フィルターからの水への溶出物は検知されず、溶出物量は0mg/gであった。該フィルターを用いて、実施例1の5に従い全血濾過実験を3回行い、白除能と血小板通過率(%)について、それぞれの平均値を得た。また血液濾過後のフィルターを走査型電子顕微鏡で観察したところ、赤血球の付着は殆ど見られなかった。以上の結果も表1にまとめて示す。
以上の結果、水への溶出物量が0mg/gであり、しかも3.95という高い白血球除去値、90.8%という極めて高い血小板通過率、および赤血球の付着も見られない高性能な白血球選択除去フィルターを得ることができた。
【0064】
【比較例1】
実施例1の3(フィルター基材への固定化処理)に記した熱処理温度を20℃、熱処理時間を72時間にしたところ、固定化処理後の親水性ポリマーのエタノールへの溶出率は100wt%(架橋分率0%)であり、固定化反応(架橋反応)は殆ど起こっておらず、本発明の白血球選択除去フィルターを得ることはできなかった。
【0065】
【比較例2】
実施例1の1で得られたGMA/HPMA/DMAA=22/56/22(モル比)の共重合体の15wt%エタノール溶液を調製し、これに溶液中に含まれるエポキシ基の2倍モル量に相当するジエタノールアミン(DEA)を加え、60℃で5時間撹拌にてアミン付加反応を行った。実施例1と同様に反応液にn−ヘキサンを加える方法にて精製し、ポリマーを取り出した。得られたポリマーのH−NMR測定から、グリシジル基のプロトンに由来する4つの吸収(2.7、2.9、3.3、および4.3ppm付近、TMS基準)が反応後に完全に消失していたことから、GMAユニットのエポキシ基にジエタノールアミンが100%付加したポリマーが得られたことを確認した。得られたポリマーの重量平均分子量はMw=3.8×10であった。
次に該ポリマー(DE/HPMA/DMAAと略す)の10.0wt%のエタノール溶液を調製し、以下実施例1の2と同様に不織布へのコーティングを行った。この不織布を室温で24時間乾燥した後、10枚の直径25mm円形サンプルを切りだして、それぞれのコーティング量を測定した値から平均コーティング量を測定したところ230mg/gであった。
実施例1の1と同様に該ポリマーの水への溶出率を測定したところ、81%と非常に大きな値であり、医療材料としては実質上、使用できないことが分かった。
続いて該ポリマーを用い、実施例1の2と同様にしてコーティング不織布を得た。本比較例では熱処理を行わず、該不織布より任意に直径20mmの円形状サンプルを切り抜き、その32枚をフィルターホルダーに充填(充填密度0.2g/cm)し、実施例1の5に示した方法と同様にしてカラムを形成し、このカラムの血液濾過性能を評価した。結果を表1に示す。
ポリマー組成は基本的に実施例1および2と同じであるので、白徐能、血小板通過率、赤血球の付着に関しては同様な結果が得られているが、ここではエポキシ基の架橋性を全く利用していないので、溶出率が極めて大きいという従来からの欠点が如実に現れている。
【0066】
【比較例3】
実施例3で得られたGMA/HPMA/DMAA=7/51/42(モル比)の共重合体の15wt%エタノール溶液を調製し、これに溶液中に含まれるエポキシ基の2倍モル量に相当するジ−n−プロピルアミン(DPA)を加え、60℃で5時間撹拌した。比較例2と同様にH−NMR測定から、グリシジル基の消失を観測し、GMAユニットのエポキシ基にジ−n−プロピルアミンが100%付加したポリマーが得られたことを確認した。得られたポリマーの重量平均分子量はMw=4.1×10であった。
次に該ポリマー(DP/HPMA/DMAAと略す)の10.0wt%のエタノール溶液を調製し、実施例1の2と同様に不織布へのコーティングを行うことで、平均コーティング量が242mg/gのコーティング不織布を得た。
このコーティング不織布の水への溶出率も78%と非常に大きな値であり、医療材料としては実質上、使用できないことが分かった。
このコーティング不織布を用い、実施例1の5に示した方法と同様にしてカラムを構成し、血液濾過性能を評価した。結果を表1に示す。
ポリマー組成は基本的に実施例3と同じであるので、白徐能、血小板通過率、赤血球の付着に関しては同様な結果が得られているが、ここでもエポキシ基の架橋性を全く利用していないので、溶出率が極めて大きいという欠点が明らかとなっている。
エポキシ基へのアミン系化合物の付加反応は、古くから広く使用されている方法であり、本発明でも種々のアミンの付加が可能であるが、実施例1〜2では発明の効果を最大限に示すため、アミンのなかでも水溶性の高いジエタノールアミンを採用した。その結果、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ基、2−ヒドロキシプロピル基、およびN,N−ジメチルアミド基という極めて親水性の高い官能基を表面部分に有するフィルターであるにも関わらず、その水への溶出率および溶出物量がそれぞれ0wt%および0mg/gであって、しかも高い白血球除去値と血小板通過率を示し、さらに赤血球の付着も見られない高性能な白血球選択除去フィルターを得ることができた。さらに実施例3においては、汎用的なN,N−ジアルキルアミンであるN,N−ジ−n−プロピルアミンを用いても同様の特徴を有する白血球選択除去フィルターが得られることを示すことができた。
【0067】
【表1】
Figure 2004129941
【0068】
【発明の効果】
本発明によれば、フィルター基材の表面部分に導入したいポリマーが親水性であっても、エポキシ基の架橋性を利用してフィルター基材への固定化処理を予め行うため、医療材料において問題となる溶出性を気にすることなく幅広い官能基との組み合わせにおいて、白血球選択除去性を達成するためにフィルター基材の表面部分に導入するポリマーの設計を行うことが可能である。その結果、白血球選択除去性に優れ、しかも溶出物量が極めて少ない白血球選択除去フィルターを提供する事が可能である。

Claims (6)

  1. フィルター基材の少なくとも表面部分に、エポキシ基が関与する反応によって形成された架橋反応構造、および親水性官能基、白血球選択親和性官能基を有することを特徴とする白血球選択除去フィルター。
  2. 白血球選択親和性官能基が、塩基性含窒素官能基であることを特徴とする請求項1に記載の白血球選択除去フィルター。
  3. フィルター1g当たりの溶出物量が30mg以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の白血球選択除去フィルター。
  4. エポキシ基と親水性官能基を有する親水性ポリマーをフィルター基材の少なくとも表面部分に導入したのち、該親水性ポリマーをエポキシ基が関与する架橋反応により不溶化してフィルター基材へ固定化し、引き続いてフィルター基材へ固定化された該親水性ポリマーが有するエポキシ基に、エポキシ基と反応することで白血球選択親和性官能基を付与することが可能な化合物を付加させて得られることを特徴とする白血球選択除去フィルターの製造方法。
  5. 白血球選択親和性官能基が、塩基性含窒素官能基であることを特徴とする請求項4に記載の白血球選択除去フィルターの製造方法。
  6. 請求項4または5に記載の製造方法によって得られた白血球選択除去フィルター。
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