JPWO2010134246A1 - 核酸含有試料の調製方法 - Google Patents

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恭央 谷上
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Abstract

本発明は、糞便等の生体試料から核酸を効率よく回収することが可能な試料を、煩雑な操作を必要とせずに調製する方法を提供する。本発明の核酸含有試料の調製方法は、(A)生体試料と核酸安定化剤とを混合する工程と、(B)前記工程(A)により得られた混合物から固形成分を、核酸含有試料として回収する工程と、(C)前記工程(B)により回収された固形成分を、pHが2以上である酸性緩衝液を用いて洗浄する工程とを有することを特徴とする。

Description

本発明は、生体試料中の核酸を効率よく回収するための、生体試料から核酸含有試料を調製する方法、該調製方法により調製された核酸含有試料、及び該調製方法を用いて調製された核酸含有試料から核酸を回収する方法に関する。
本願は、2009年5月20日に日本国に出願された特願2009−122438号に基づき優先権を主張し、それらの内容をここに援用する。
近年の遺伝子解析技術の発展により、生体試料中の核酸を解析し、疾患の診断や治療等に役立てようとする試みがなされている。糞便や血液等の生体試料中の核酸を用いることにより、内視鏡検査等の他の臨床検査に比べて、より侵襲性が低く、患者への負担が小さい、という利点がある。また、核酸解析により、疾患に関連する遺伝子を直接検査するため、信頼性の高い結果が得られるという利点もある。例えば、糞便中や血液中のがん細胞の有無やがん細胞由来遺伝子の有無を調べることにより、がんの早期発見や進行の度合いを調べることができる。
一方で、糞便等の生体試料中のがん細胞等を精度よく検出するためには、生体試料中のがん細胞由来核酸を効率よく回収することが重要である。特にがん細胞由来核酸は微量であるため、生体試料からの核酸回収効率が悪いと、実際には生体試料中にがん細胞が含まれていたにも関わらず、がん細胞由来核酸が検出されず、擬陰性となる可能性が高い。また、糞便や血液等の生体試料には核酸以外にも多種多様な物質が含まれているため、核酸は非常に分解され易いという問題もある。そこで、がん細胞由来核酸等の生体試料中に比較的少量しか含まれていない核酸を効率よく回収するためには、生体試料から検査に供する核酸含有試料を調製する際に、生体試料中の核酸の分解を防止し、検査操作時まで安定して保存し得るようにすることが重要である。また、生体試料から核酸を回収した場合には、元々生体試料中に含まれていた夾雑物(核酸以外の物質)のキャリーオーバー(持込)が多くなり、十分な純度の核酸を回収することが困難である場合が多い。生体試料から回収された核酸の純度が不十分である場合には、この回収された核酸を用いて検査・解析を行ったとしても、回収効率が悪い場合と同様、得られた結果の信頼性が低いという問題がある。
例えば、生体試料を核酸抽出前に安定して保存するための方法としては、(1)採取した全血試料を直ぐに安定化添加剤に接触させて試料中の生体外遺伝子誘導を阻止し、それによって生体内転写プロフィールを保護する方法であって、前記安定化添加剤として、洗剤、カオトロピック塩、リボヌクレアーゼ抑制剤、キレート剤、またはこれらの混合物、有機溶媒、又は有機還元剤を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、(2)組織及び生物学的サンプルの保存のための固定液組成物であって、一以上のアルカノール、200〜600の分子量を有するポリエチレングリコール、固定液組成物1リットル当り0.01〜0.10モルの濃度で混合された一以上の弱有機酸、及び水を含有し、該固定液組成物がいずれの架橋結合剤をも本質的に含まないことを特徴とする固定液組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。当該固定液組成物を用いることにより、顕微鏡観察用切片等の組織サンプルの固定に一般的に用いられているホルムアルデヒド溶液等とは異なり、固定の際のDNA/RNAの変性を抑制することができる。
一方、糞便等の生体試料から核酸を抽出・精製する際に、生体試料中の阻害物質のキャリーオーバーを抑制するための方法も開示されている。例えば、(3)有機溶媒で被検試料を洗浄して核酸の酵素的増幅反応を阻害する物質を除去し、該被検試料中に含まれる細胞の核酸を酵素的に増幅させることを含む、核酸の酵素的増幅方法も開示されている(例えば特許文献3参照。)。また、(4)生体試料を酸溶液、好ましくは鉱酸溶液で処理することにより、生体試料中に含まれている核酸増幅妨害物質を除去する方法が開示されている(例えば特許文献4参照。)。また、反応溶液中のリン酸イオンは、核酸増幅反応において阻害的に作用するため、過剰のリン酸イオンを除去するべく、(5)核酸増幅反応に供される試料を、酸性化し、その後核酸増幅に適した緩衝液に置き換えたものを用いて核酸増幅反応を行う方法が開示されている(例えば特許文献5参照。)。さらに、(6)喀痰等の核酸を含有する検体を、塩酸、トリクロロ酢酸、酢酸、リン酸、硫酸又はクエン酸等の酸と混合して酸抽出物を選択的に除去する工程を好ましくは2度以上行う工程、検体中の細胞の細胞膜又は細胞壁を破壊する工程及び検体中の核酸を選択的に不溶化する工程を含む核酸抽出法が開示されている(例えば特許文献6参照。)。
その他、土壌等には様々な微生物が存在しており、これらの微生物から核酸を抽出する場合に、土壌中に含まれるフミン物質を除去する方法として、例えば、(7)無機塩、有機塩、または尿素からなる群から選ばれる化合物を含む弱酸性の水溶液で洗浄する第一の洗浄工程と、粉乳の水溶液で洗浄する第二の洗浄工程とを含む土壌中の微生物からのDNAの直接抽出方法が開示されている(例えば特許文献7参照。)。
特表2004−534731号公報 特表2008−502913号公報 国際公開第00/08136号パンフレット 特開2003−159056号公報 特表2000−516094号公報 特開2003−267989号公報 特開平10−23895号公報
上記特許文献1に記載の実施例では、安定化添加剤を添加して調製した血液試料を、遠心分離処理により上清を捨てた後、ペレットを水で1回洗浄後、このペレットを核酸抽出処理に用いている。また、上記特許文献2に記載の実施例でも、固定後の組織サンプルを洗浄した後、核酸抽出を行っている。しかしながら、いずれも洗浄操作において用いられる洗浄液の種類が、その後の核酸抽出における効果に影響を及ぼすことについては、一切記載も示唆もされていない。
一方、上記(3)の方法においては、糞便等の生体試料を有機溶媒で洗浄したものを、そのまま核酸増幅反応等の解析に用いている。つまり、上記(3)の方法では、洗浄に用いた有機溶媒が解析反応に持ち込まれてしまうため、持ち込まれた有機溶媒により核酸の抽出効率が低下してしまうという問題がある。
上記(4)、(5)、及び(7)の方法では、酸性溶液用いることにより、生体試料由来の阻害物質を除去しているものの、生体試料中の核酸は不安定であるため、洗浄工程中に核酸の分解等が生じてしまい、核酸抽出効率が不十分であるという問題がある。さらに、上記(4)〜(7)の方法では、阻害物質を除去することにより、核酸増幅反応の効率を高めることは記載されているものの、生体試料を酸処理することにより、核酸抽出効率を改善し得ることについては、一切記載も示唆もされていない。
本発明は、糞便等の生体試料から核酸を効率よく回収することが可能な試料を、煩雑な操作を必要とせずに調製する方法、及び該方法により調製された核酸含有試料を用いて生体試料中の核酸を回収する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、採取された生体試料を核酸安定化剤と混合することにより、生体試料中の核酸を安定化し、その後核酸抽出操作前に安定化した試料をpHが2以上である酸性緩衝液で洗浄することにより、核酸抽出効率が非常に優れた核酸含有試料を調製し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1)(A)生体試料と核酸安定化剤とを混合する工程と、(B)前記工程(A)により得られた混合物から、固形成分を、核酸含有試料として回収する工程と、(C)前記工程(B)により回収された固形成分を、pHが2以上である酸性緩衝液を用いて洗浄する工程と、を有することを特徴とする、核酸含有試料の調製方法、
(2) 前記酸性緩衝液のpHが3〜6であることを特徴とする前記(1)記載の核酸含有試料の調製方法、
(3) 前記核酸安定化剤が、水溶性有機溶媒、プロテアーゼ阻害剤、ポリカチオン、及び高塩濃度溶液からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の核酸含有試料の調製方法、
(4) 前記核酸安定化剤が、前記水溶性有機溶媒として、水溶性アルコール及び/又はケトン類を含むことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法、
(5) 前記水溶性有機溶媒が、前記水溶性アルコールとして、エタノール、プロパノール、及びメタノールからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする前記(4)記載の核酸含有試料の調製方法、
(6) 前記水溶性有機溶媒が、前記ケトン類として、アセトン及び/又はメチルエチルケトンを含むことを特徴とする前記(4)記載の核酸含有試料の調製方法、
(7) 前記核酸安定化剤が水溶性有機溶媒であり、前記混合物中の前記水溶性有機溶媒の濃度が30%以上であることを特徴とする前記(4)〜(6)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法、
(8) 前記核酸安定化剤が、前記水溶性有機溶媒として、アルデヒド類を含むことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法、
(9) 前記核酸安定化剤が水溶性有機溶媒であり、前記混合物中の前記水溶性有機溶媒の濃度が0.01〜30%であることを特徴とする前記(8)記載の核酸含有試料の調製方法、
(10) 前記核酸安定化剤が、前記プロテアーゼ阻害剤として、ペプチド系プロテアーゼ阻害剤、還元剤、タンパク質変性剤、及びキレート剤からなる群より選択される1種以上を含むことを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法、
(11) 前記核酸安定化剤が、前記プロテアーゼ阻害剤として、AEBSF、Aprotinin、Bestain、E−64、Leupeptin、PepstatinA、尿素、DTT(ジチオスレイトール)、及びEDTAからなる群より選択される1種以上を含むことを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法、
(12) 前記核酸安定化剤が、前記ポリカチオンとしてポリリジンを含むことを特徴とする前記(1)〜(11)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法、
(13) 前記酸性緩衝液が、酢酸/酢酸ナトリウム緩衝系、クエン酸/水酸化ナトリウム緩衝系、及び乳酸/乳酸ナトリウム緩衝系からなる群より選択される緩衝液であることを特徴とする前記(1)〜(12)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法、
(14) 前記酸性緩衝液のpHが3.5〜5.5であることを特徴とする前記(1)〜(13)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法、
(15) 前記酸性緩衝液のpHが4.0〜5.0であることを特徴とする前記(1)〜(13)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法、
(16) 前記混合物が、さらに界面活性剤を含むことを特徴とする前記(1)〜(15)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法、
(17) 前記混合物が、さらに着色剤を含むことを特徴とする前記(1)〜(16)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法、
(18) 前記生体試料が、糞便、血液、又は尿であることを特徴とする前記(1)〜(17)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法、
(19) 前記(1)〜(18)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法により調製された核酸含有試料、
(20) 前記(1)〜(18)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法を用いて生体試料から調製された核酸含有試料から、前記生体試料中に含まれていた全生物種由来の核酸を同時に回収することを特徴とする核酸回収方法、
(21) 前記(1)〜(18)のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法を用いて糞便から調製された核酸含有試料中から、腸内常在菌由来の核酸と腸内常在菌以外の生物由来の核酸とを同時に回収することを特徴とする核酸回収方法、
(22) 前記腸内常在菌以外の生物が、哺乳細胞であることを特徴とする前記(21)記載の核酸回収方法、
(23) 核酸を回収する工程が、(a)前記核酸含有試料中のタンパク質を変性させ、前記核酸含有試料中に含まれていた全生物種由来の細胞から、核酸を溶出させる工程と、(b)前記工程(a)において溶出させた核酸を回収する工程と、を有することを特徴とする前記(20)〜(22)のいずれか記載の核酸回収方法、
(24) 前記工程(a)の後、前記工程(b)の前に、(c)前記工程(a)により変性させたタンパク質を除去する工程と、を有することを特徴とする前記(23)記載の核酸回収方法、
(25) 前記工程(a)におけるタンパク質の変性が、カオトロピック塩、有機溶媒、及び界面活性剤からなる群より選ばれる1以上を用いて行われることを特徴とする前記(23)又は(24)記載の核酸回収方法、
(26) 前記有機溶媒がフェノールであることを特徴とする前記(25)記載の核酸回収方法、
(27) 前記工程(c)における変性させたタンパク質の除去が、クロロホルムを用いて行われることを特徴とする前記(24)〜(26)のいずれか記載の核酸回収方法、
(28) 前記工程(b)における核酸の回収が、(b1)前記工程(a)において溶出させた核酸を無機支持体に吸着させる工程と、(b2)前記工程(b1)において吸着させた核酸を無機支持体から溶出させる工程と、を有することを特徴とする前記(23)〜(27)のいずれか記載の核酸回収方法、
(29) 前記工程(a)の前に、(d)前記核酸含有試料から固形成分を回収する工程と、を有することを特徴とする前記(23)〜(28)のいずれか記載の核酸回収方法、
(30) 前記(21)〜(29)のいずれか記載の核酸回収方法を用いて核酸含有試料から回収された核酸を用いて、哺乳細胞由来の核酸を解析することを特徴とする核酸解析方法、
(31) 前記哺乳細胞が消化管細胞であることを特徴とする前記(30)記載の核酸解析方法、
(32) 前記哺乳細胞が大腸剥離細胞であることを特徴とする前記(30)記載の核酸解析方法、
(33) 前記哺乳細胞由来の核酸が、新生物性転化を示すマーカーであることを特徴とする前記(30)〜(32)のいずれか記載の核酸解析方法、
(34) 前記哺乳細胞由来の核酸が、炎症性消化器疾患を示すマーカーであることを特徴とする前記(30)〜(32)のいずれか記載の核酸解析方法、
(35) 前記哺乳細胞由来の核酸が、Cox−2遺伝子由来核酸であることを特徴とする前記(30)〜(32)のいずれか記載の核酸解析方法、
(36) 前記解析が、mRNAの発現解析、K−ras遺伝子の変異解析、及びDNAのメチル化の解析からなる群より選択される1以上であることを特徴とする、前記(30)〜(35)のいずれか記載の核酸解析方法、
を提供するものである。
本発明の核酸含有試料の調製方法により、核酸を効率よく回収することが可能な核酸含有試料を、生体試料から簡便に調製することができる。また、本発明の核酸含有試料の調製方法は、生体試料中の核酸を安定させた後に回収することから、特に、糞便等のような比較的夾雑物が多く含有される核酸が損なわれ易い生体試料の調製に好適である。
実施例1において、糞便から調製された固形成分より回収されたRNAの定量結果を示した図である。 実施例1において、回収されたRNAを電気泳動して得られた染色像を示した図である。 実施例2において、糞便から調製された固形成分より回収されたRNAの定量結果を示した図である。 参考例1において、各糞便試料から回収されたRNA量を示した図である。 参考例3において、各濃度のエタノール溶液を用いて調製された糞便試料から回収されたRNA量を示した図である。
<核酸含有試料の調製方法>
本発明の核酸含有試料の調製方法(以下、「本発明の調製方法」ということがある。)は、生体試料から核酸含有試料を調製する方法であって、下記工程(A)〜(C)を有することを特徴とする。
(A)生体試料と核酸安定化剤とを混合する工程。
(B)前記工程(A)により得られた混合物から、固形成分を、核酸含有試料として回収する工程。
(C)前記工程(B)により回収された固形成分を、pHが2以上である酸性緩衝液を用いて洗浄する工程。
本発明の調製方法においては、核酸抽出処理前に生体試料を核酸安定化剤で処理することにより、予め生体試料中の核酸を安定化するため、生体試料中の核酸の分子学的プロファイリングに対する経時的な変化を最小限に抑えつつ、微生物や酵素等の夾雑物の多い生体試料から、核酸を効率よく回収することができる。
以下工程ごとに説明する。
まず、工程(A)として、生体試料と核酸安定化剤とを混合し、混合物を調製する。生体試料が尿等の液状試料である場合には、当該生体試料に核酸安定化剤を直接添加して混合することができる。一方、生体試料が糞便等の比較的固形成分の多い試料である場合には、核酸安定化剤を適当な溶媒に溶解又は希釈させた核酸安定化剤溶液を調製し、この核酸安定化剤溶液と生体試料とを混合することができる。なお、核酸安定化剤が十分量の液体である場合には、生体試料と核酸安定化剤とを直接混合してもよい。
本発明及び本願明細書において、「核酸安定化剤」とは、核酸の分解や核酸鎖合成を阻害する作用効果を有する化合物を意味する。つまり、生体試料を核酸安定化剤と混合させることにより、生体試料中の核酸の分解等による損失を最小限に抑えることができ、かつ、新たに核酸鎖が合成されることも抑制することができる。
本発明において用いられる核酸安定化剤としては、水溶性有機溶媒、プロテアーゼ阻害剤、ポリカチオン、及び高塩濃度溶液からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。例えば、プロテアーゼ阻害剤、ポリカチオン、又は塩類を、水溶性有機溶媒又はその希釈液に溶解させたものを、生体試料と混合させてもよい。
核酸安定化剤を適当な溶媒に溶解又は希釈させた核酸安定化剤溶液を、生体試料と混合させる場合には、核酸安定化剤を溶解又は希釈させる溶媒としては、本発明の核酸高回収効果、すなわち、生体試料中の核酸の分解等を防止し、核酸を安定して保持し、高回収し得る効果を損なわないものであれば、特に限定されるものではない。例えば、水であってもよく、PBS等の緩衝液であってもよい。
本発明及び本願明細書において、水溶性有機溶媒とは、水に対する溶解度が高い又は水と任意の割合で混合可能な有機溶媒を意味する。糞便等の生体試料は、通常多量の水分を含有しており、このため、水に対する溶解度が高い溶媒や水と任意の割合で混合可能である溶媒である水溶性有機溶媒を核酸安定化剤として用いることにより、生体試料と核酸安定化剤とを速やかに混合することができ、より高い核酸高回収効果を得ることができる。
水溶性有機溶媒が核酸安定化剤として機能し得る理由は明らかではないが、水溶性有機溶媒成分が有する脱水作用により、生体試料中に含まれている哺乳細胞や微生物等の細胞活性が顕著に低下するため、及び、水溶性有機溶媒成分が有するタンパク質変性作用により、生体試料中のプロテアーゼ、DNase、RNase等の各種分解酵素の活性が顕著に低下するために得られると推察される。
核酸安定化剤として用いられる水溶性有機溶媒としては、具体的には、アルコール類、ケトン類、又はアルデヒド類であって、直鎖構造を有し、室温付近、例えば15〜40℃において液状である溶媒を意味する。直鎖構造を有する水溶性有機溶媒を有効成分とすることにより、ベンゼン環等の環状構造を有する有機溶媒を有効成分とするよりも、生体試料との混合を素早く行うことができる。環状構造を有する有機溶媒は、一般的に水と分離しやすいため、例えば糞便等の生体試料と混合しにくく、高い核酸高回収効果を得ることは難しい。たとえ水にある程度溶解する溶媒であったとしても、糞便等の生体試料を均一に分散させるためには、激しく混合したり、加温する必要があることが多いためである。なお、核酸含有試料と環状構造を有する有機溶媒を混合しやすくするために、予め有機溶媒と水の混合溶液を作製した後、生体試料と該混合溶液を混合させることも考えられる。しかしながら、該混合溶液を作製するためには、環状構造を有する有機溶媒と水を激しく混合したり、加温する必要がある場合が多く好ましくない。
本発明の核酸安定化剤としては、水に対する溶解度が12重量%以上の水溶性有機溶媒であることが好ましく、水に対する溶解度が20重量%以上の水溶性有機溶媒であることがより好ましく、水に対する溶解度が90重量%以上の水溶性有機溶媒であることがさらに好ましく、水と任意の割合で混合可能である水溶性有機溶媒であることが特に好ましい。水と任意の割合で混合可能である水溶性有機溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、ホルムアルデヒド等がある。
本発明の核酸安定化剤として用いられる水溶性有機溶媒は、上記定義を充足するものであって、核酸高回収効果を奏することができる溶媒であれば特に限定されるものではない。該水溶性有機溶媒として、例えば、アルコール類としては、水溶性アルコールであるメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メルカプトエタノール等があり、ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(水に対する溶解度90重量%等があり、アルデヒド類としては、アセトアルデヒド(アセチルアルデヒド)、ホルムアルデヒド(ホルマリン)、グルタールアルデヒド、パラフォルムアルデヒド、グリオキサール(glyoxal)等がある。プロパノールは、n−プロパノールであってもよく、2−プロパノールであってもよい。また、ブタノールは、1−ブタノール(水に対する溶解度20重量%)であってもよく、2−ブタノール(水に対する溶解度12.5重量%)であってもよい。本発明において用いられる水溶性有機溶媒としては、水溶性アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ホルムアルデヒドであることが好ましい。水に対する溶解度が十分に高いためである。入手容易性、取り扱い性、安全性等の点から、水溶性アルコールであることがより好ましく、エタノール、プロパノール、メタノールであることがさらに好ましい。特にエタノールは、最も安全性が高く、家庭内でも容易に扱うことが可能であるため、定期健診等のスクリーニング検査において特に有用である。
水溶性有機溶媒と生体試料を直接混合しても良く、水溶性有機溶媒を適当な溶媒に希釈した水溶性有機溶媒希釈液と生体試料を混合しても良い。水溶性有機溶媒希釈液中の水溶性有機溶媒濃度は、核酸高回収効果を奏することができる濃度であれば、特に限定されるものではなく、水溶性有機溶媒の種類等を考慮して、適宜決定することができる。水溶性有機溶媒希釈液中の水溶性有機溶媒濃度が充分に高濃度であることにより、生体試料と水溶性有機溶媒希釈液を混合した場合に、生体試料全体に水溶性有機溶媒成分が迅速に浸透し、核酸高回収効果を速やかに奏することができる。
例えば、水溶性アルコールやケトン類を用いる場合には、水溶性有機溶媒希釈液中の水溶性有機溶媒濃度は30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、50〜80%であることがさらに好ましく、60〜70%であることが特に好ましい。水溶性有機溶媒濃度が高い程、水分含量の多い糞便に対しても少量の試料調製用溶液を用いることによって、充分な核酸高回収効果を得ることができる。
また、アセトン、メチルエチルケトンを用いる場合には、水溶性有機溶媒希釈液中の水溶性有機溶媒濃度は30%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。その他、有効成分として、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、グルタールアルデヒド、パラフォルムアルデヒド、グリオキサールを用いる場合には、水溶性有機溶媒希釈液中の水溶性有機溶媒濃度は0.01〜30%であることが好ましく、0.03〜10%であることがより好ましく、3〜5%であることがさらに好ましい。アルデヒド類は、アルコール類やケトン類よりも低濃度においても、核酸高回収効果を奏することができる。
その他、本発明において用いられる水溶性有機溶媒は、1種類の水溶性有機溶媒のみを含有していてもよく、2種類以上の水溶性有機溶媒の混合溶液であってもよい。例えば、2種類以上のアルコールの混合溶液であってもよく、アルコールと他種類の水溶性有機溶媒との混合溶液であってもよい。核酸高回収効果がより改善されるため、アルコールとアセトンの混合溶液であることも好ましい。
また、本発明においては、核酸安定化剤として、核酸分解に対する阻害剤ではなく、プロテアーゼ阻害剤を有効成分として用いることが好ましい。通常、生体試料中の核酸は、細胞内に含まれた状態で存在している。その後、生体試料中に含まれているプロテアーゼにより細胞膜のタンパク質等が分解される結果、細胞膜に生じた孔等から細胞外へと流出し、この細胞外へ流出した核酸等の細胞由来成分は、やはり生体試料中に多量に存在する核酸分解酵素等の働きにより分解されてしまう。そこで、本発明においては、核酸安定化剤としてプロテアーゼ阻害剤を用いることにより、生体試料中の細胞膜タンパク質の分解を効果的に抑制し、核酸等の細胞由来成分を、分解酵素等が比較的少量な細胞内に維持することにより、細胞由来成分の保存性を向上させることができる。
本発明において、核酸安定化剤として用いられるプロテアーゼ阻害剤は、プロテアーゼ(protease、ペプチド結合の加水分解を触媒し得る酵素)の酵素活性を阻害し得るものであれば、特に限定されるものではなく、プロテイナーゼ(proteinase)阻害剤であってもよく、ペプチダーゼ(peptidase)阻害剤であってもよい。また、セリンプロテアーゼを阻害し得るものであってもよく、システインプロテアーゼを阻害し得るものであってもよく、アスパラギン酸プロテアーゼ(酸性プロテアーゼ)(aspatric protease)を阻害し得るものであってもよく、金属プロテアーゼ(metallo protease)を阻害し得るものであってもよい。
本発明において用いられるプロテアーゼ阻害剤としては、公知のプロテアーゼ阻害剤の中から適宜選択して用いることができる。本発明において用いられるプロテアーゼ阻害剤としては、例えば、AEBSF、Aprotinin、Bestain、Calpain Inhibitor I、Calpain Inhibitor II、Chymostatin、3,4−Dichloroisocoumain、E−64、Lactacystin、Leupeptin、MG−115、MG−132、PepstatinA、PMSF、Proteasome Inhibitor、TLCK、TPCK、Trypsin Inhibitor等が挙げられる。その他、一般に「プロテアーゼ阻害剤カクテル」と呼ばれる、複数種類のプロテアーゼ阻害剤を組合せたものを使用することもできる。
また、生体試料に添加される前述のプロテアーゼ阻害剤の濃度は、生体試料中のプロテアーゼを阻害するために十分な濃度であれば、特に限定されるものではなく、添加されるプロテアーゼ阻害剤の種類や、生体試料との混合比、生体試料と混合して調製された混合物のpHや温度等を考慮して適宜決定することができる。表1に、生体試料と混合して調製された混合物中における各プロテアーゼ阻害剤の好ましい濃度を記載する。
本発明において用いられるプロテアーゼ阻害剤としては、上記のようなペプチド系プロテアーゼ阻害剤であってもよく、還元剤であってもよく、タンパク質変性剤であってもよく、キレート剤であってもよい。なお、本発明において、「ペプチド系プロテアーゼ阻害剤」とは、プロテアーゼと相互作用をすることにより、プロテアーゼ活性を阻害し得るペプチド、又はその修飾体を意味する。
キレート剤としてはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、O,O’−ビス(2−アミノフェニルエチレングリコール)エチレンジアミン四酢酸(BAPTA)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、トランスー1,2−ジアミノシクロヘキサンーエチレンジアミン四酢酸(CyDTA)、1,3−ジアミノー2−ヒドロキシブロパンーエチレンジアミン四酢酸(DPTA−OH)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン二プロバン酸塩酸塩(EDDP)、エチレンジアミン二メチレンホスホン酸1水和物(EDDPO)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(EDTA−OH)、エチレンジアミン四メチレンホスホン酸(EDTPO)、O,O’−ビス(2−アミノエチル)エチレングリコール四酢酸(EGTA)、N,N−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン二酢酸(HBED)、1,6−ヘキサメチレンジアミン四酢酸(HDTA)、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)、イミノ二酢酸(IDA)、1,2−ジアミノプロパン四酢酸(Methyl−EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ニトリロ三プロパン酸(NTP)、ニトリロ三メチレンホスホン酸三ナトリウム塩(NTPO)、エチレンジアミン四(2−ピリジルメチル)(TPEN)、及びトリエチレンテトラアミン六酢酸(TTHA)等が挙げられる。
プロテアーゼ阻害剤として生体試料に添加されるキレート剤の濃度は、生体試料中のプロテアーゼを阻害するために十分な濃度であれば、特に限定されるものではなく、キレート剤の種類等を考慮して適宜決定することができる。好ましくは、生体試料と混合して調製された混合物中における最終濃度が0.1mM〜1Mとなるように、各キレート剤を添加する。
還元剤としては、DTT(ジチオスレイトール)、βメルカプトエタノール等が挙げられる。
プロテアーゼ阻害剤として生体試料に添加される還元剤の濃度は、生体試料中のプロテアーゼを阻害するために十分な濃度であれば、特に限定されるものではなく、還元剤の種類等を考慮して適宜決定することができる。好ましくは、生体試料と混合して調製された混合物中における最終濃度が0.1mM〜1Mとなるように、各還元剤を添加する。
タンパク質変性剤としては、尿素、グアニン、グアニジン塩等が挙げられる。
プロテアーゼ阻害剤として生体試料に添加されるタンパク質変性剤の濃度は、生体試料中のプロテアーゼを阻害するために十分な濃度であれば、特に限定されるものではなく、タンパク質変性剤の種類等を考慮して適宜決定することができる。好ましくは、生体試料と混合して調製された混合物中における最終濃度が0.1mM〜10Mとなるように、各タンパク質変性剤を添加する。
なお、核酸安定化剤としては、1種類のプロテアーゼ阻害剤のみを用いてもよく、2種類以上のプロテアーゼ阻害剤を用いてもよい。また、AEBSF等のペプチド系のプロテアーゼ阻害剤を複数種類組み合わせて用いてもよく、ペプチド系プロテアーゼ阻害剤とキレート剤、ペプチド系プロテアーゼ阻害剤と還元剤のように、異なる種類のプロテアーゼ阻害剤を用いてもよい。
本発明においては、核酸安定化剤として、ポリカチオンを用いることも好ましい。生体試料をポリカチオンと混合させることにより、生体試料中に含まれている夾雑物による核酸分解・合成反応を効率よく低減させることができる。また、生体試料中には、核酸鎖慎重反応等の核酸解析に用いられる反応を阻害する物質も多く含まれているが、生体試料をポリカチオンと混合させることにより、阻害物質による阻害作用を低減させることもできる。
なお、本願明細書において、阻害物質とは、核酸を基質とする酵素反応に対して阻害的に作用する物質を意味する。当該酵素反応としては、核酸を基質とする酵素反応であれば特に限定されるものではなく、例えば、逆転写反応や塩基鎖伸長反応等の核酸解析において一般的に用いられる酵素反応等が挙げられる。ここで、塩基鎖伸長反応とは、ポリメラーゼ又はリガーゼによる塩基鎖の伸長反応を意味する。ポリメラーゼによる塩基鎖伸長反応としては、PCR(polymerase chain reaction)、リアルタイムPCR、SDA(Standard Displacement Amplification)等が挙げられる。リガーゼによる塩基鎖伸長反応としては、LCR(ligase chain reaction)等が挙げられる。
該阻害物質としては、具体的には、胆汁酸、胆汁酸塩等が挙げられる。
本発明及び本願明細書において、ポリカチオンとは、陽イオン性官能基を含有した繰り返し構造を持つ高分子化合物およびその塩を意味する。陽イオンとしては、例えば、アミノ基等がある。具体的には、下記式(1)に示されるポリリジン等の側鎖に陽イオン性官能基を有するポリペプチドや、ポリアクリルアミド等の陽イオン性官能基を側鎖に含むモノマーを重合して得られるポリマー等が挙げられる。なお、これらのポリペプチドやポリマーは、分子全体として電気的に陽性であればよく、全ての繰り返し単位(アミノ酸やモノマー)の側鎖に陽イオン性官能基を有している必要はないが、全ての繰り返し単位の側鎖に陽イオン性官能基を有していることが好ましい。このようなポリカチオンとして、具体的には、ポリリジンやポリアクリルアミドに加えて、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリエチルアミン、ポリメタリルアミン、ポリビニルメチルイミダゾール、ポリビニルピリジン、ポリアルギニン、キトサン、1,5−ジメチル−1,5−ジアザウンデカメチレン−ポリメトブロマイド、ポリ(2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(2−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレート)、ポリジメチルアミノメチルスチレン、ポリトリメチルアンモニウムメチルスチレン、ポリオルニチン、及びポリヒスチジン等が挙げられる。本発明においては、ポリカチオンとして、ポリリジン又はポリアクリルアミドであることが好ましく、ポリリジンであることがより好ましい。なお、本発明において用いられる核酸安定化剤としては、1種類のポリカチオンのみを用いてもよく、2種類以上のポリカチオンを用いてもよい。
核酸安定化剤として生体試料に添加されるポリカチオンの濃度は、生体試料中に含まれている阻害物質による阻害作用を低減させる効果(阻害作用低減効果)が得られるために十分な濃度であれば、特に限定されるものではなく、ポリカチオンの種類や、核酸含有試料の種類、試料調製用溶液のpH、試料調製用溶液と核酸含有試料との混合比等を考慮して適宜決定することができる。例えば、ポリカチオンとしてポリリジンを含有する場合には、試料調製用溶液のポリリジン濃度は、0.01〜1.0m重量%であることが好ましく、0.0125〜0.8m重量%であることがより好ましく、0.05〜0.4m重量%であることがさらに好ましい。なお、本願明細書中、「m重量%」は「×10−3重量%」を意味する。
さらに、核酸安定化剤としては、高塩濃度溶液を用いてもよい。高塩濃度溶液が核酸安定化剤として機能する理由は明らかではないが、塩析により各種分解酵素が析出してしまうため、高濃度の塩成分が有する脱水作用により、哺乳細胞や腸内常在菌等のバクテリアの細胞活性が顕著に低下して経時的な変化が抑制されるため、及び、最適塩濃度から外れたため、糞便中のプロテアーゼ、DNase、RNase等の各種分解酵素の活性が顕著に低下するために得られると推察される。
高塩濃度溶液に有効成分として含まれる塩としては、生体試料を調製又は解析する際に通常用いられている塩の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、塩酸塩であってもよく、硫酸塩であってもよく、酢酸塩であってもよい。また、有効成分としては、1種類の塩を用いてもよく、2種類以上の塩を組み合わせて用いてもよい。本発明において用いられる高塩濃度溶液としては、有効成分として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、重硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、硫酸セシウム、硫酸カドミウム、硫酸セシウム鉄(II)、硫酸クロム(III)、硫酸コバルト(II)、硫酸銅(II)、塩化リチウム、酢酸リチウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、及び硫酸亜鉛からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。中でも、入手容易性、取り扱い性、安全性等の点から、塩化ナトリウム及び/又は硫酸アンモニウムを含む溶液であることが好ましい。特に塩化ナトリウムは、最も安全性が高く、家庭内でも容易に扱うことが可能であるため、定期健診等のスクリーニング検査において特に有用である。
高塩濃度溶液中の有効成分として含まれる塩の濃度(以下、単に「塩濃度」ということがある。)は、核酸安定化剤として機能する濃度であれば特に限定されるものではなく、用いる塩や溶媒の種類等を考慮して、適宜決定することができる。なお、各塩において、塩濃度の上限値は飽和濃度である。一方、下限値は、用いる塩の種類により異なるものの、当業者であれば予め実験的に求めることが可能である。
例えば、下限値は以下のようにして求めることができる。まず、飽和濃度以下の複数の濃度の塩溶液を調製し、これらの塩溶液に所定期間浸漬させた糞便から核酸を回収する。この回収された核酸量が、塩溶液未処理の糞便から回収された核酸量よりも多くなる場合の最低塩濃度値を、有効成分として含まれる塩の塩濃度の下限値とすることができる。また、例えば、生体試料として糞便を用いる場合には、糞便に代えて模擬糞便試料として、バクテリアの培養液や、哺乳細胞培養株の培養液とバクテリアの培養液との混合溶液を用いることもできる。
本発明においては、より高い核酸安定化効果を得るためには、塩の種類に関わらず、高塩濃度溶液の塩濃度は、有効成分とする塩の飽和濃度の1/2以上の濃度であることが好ましく、飽和濃度の4/5以上の濃度であることがより好ましく、飽和濃度に近いことがさらに好ましく、実質的に飽和濃度であることが特に好ましい。塩濃度が充分に高濃度であることにより、糞便を高塩濃度溶液に混合した場合、糞便に成分が迅速に浸透し、核酸を速やかに安定化することができる。加えて、塩濃度が高い程、水分含量の多い糞便に対して少量の高塩濃度溶液を用いた場合であっても、充分な効果を奏することができる。なお、「飽和濃度の1/2倍以上の濃度の溶液」や「飽和濃度の4/5倍以上の濃度の溶液」は、例えば、常法により調製した飽和溶液を溶媒で適宜希釈することにより調製することができる。
例えば、有効成分として塩化ナトリウムを用いる場合には、塩濃度は13%(wt/wt)以上であることが好ましく、20%(wt/wt)以上であることがより好ましく、26%(wt/wt)以上であることがさらに好ましく、26%(wt/wt)から飽和濃度までの濃度であることが特に好ましい。硫酸アンモニウムを用いる場合には、塩濃度は20%(wt/wt)以上であることが好ましく、30%(wt/wt)以上であることがより好ましく、30〜46%(wt/wt)であることがさらに好ましい。
本発明の調製方法に供される生体試料としては、例えば、糞便、尿、血液、骨髄液、リンパ液、喀痰、唾液、***、胆汁、膵液、腹水、滲出液、羊膜液、腸管洗浄液、肺洗浄液、気管支洗浄液、又は膀胱洗浄液等が挙げられる。その他、培養細胞等の培養物であってもよい。本発明の調製方法に供される生体試料としては、特に、糞便、血液、又は尿であることが好ましい。また、生体試料は、生物から採取されたものであれば特に限定されるものではないが、哺乳動物由来のものであることが好ましく、ヒト由来のものであることがより好ましい。例えば、定期健診や診断等のためにヒトから採取された生体試料であることが好ましいが、家畜や野生動物等の生体試料であってもよい。また、採取後一定期間保存されたものであってもよいが、採取直後のものであることが好ましい。生体試料が糞便である場合には、本発明の調製方法に供される糞便は、***直後のものであることが好ましいが、***後時間を経たものであってもよい。
本発明の調製方法に供される生体試料の量は特に限定されるものではなく、生体試料の種類、当該生体試料から回収された核酸の解析方法等を考慮して、適宜決定することができる。例えば糞便の場合には、10mg〜1gであることが好ましい。糞便量があまりに多くなってしまうと、採取作業に手間がかかり、採便容器も大きくなってしまうため、取り扱い性等が低下するおそれがある。逆に糞便量があまりに少量である場合には、糞便中に含まれる大腸剥離細胞等の哺乳細胞数が少なくなりすぎるため、必要な核酸量を回収できず、目的の核酸解析の精度が低下するおそれがある。また、糞便はヘテロジニアスである、つまり、多種多様な成分が不均一に存在しているため、哺乳細胞の局在の影響を避けるために、採糞時には、糞便の広範囲から採取することが好ましい。
糞便等の固形成分の多い生体試料である場合には、採取された生体試料と混合させる核酸安定化剤溶液(又は核酸安定化剤)の容量は、特に限定されるものではないが、生体試料と核酸安定化剤溶液との混合比率は、生体試料容量1に対して核酸安定化剤溶液容量が1以上であることが好ましい。生体試料と等量以上の核酸安定化剤溶液を用いることにより、生体試料の全表面を核酸安定化剤溶液に浸らせることができ、生体試料に核酸安定化剤を十分に作用させることが可能となるためである。特に、生体試料に対して、5倍以上の容量の核酸安定化剤溶液を混合させることにより、核酸安定化剤溶液中への生体試料の分散を迅速かつ効果的に行うことができ、さらに、生体試料に含有されている水分による核酸安定化剤濃度の低下の影響を抑えることもできる。一方、生体試料と核酸安定化剤溶液との混合物の総量は比較的少量であるほうが、取り扱いが容易となって好ましい場合も多い。例えば、糞便を用いる場合には、予め核酸安定化剤溶液を備えた採便容器に糞便を採取し、当該容器内で混合物を調製することができるが、この場合に、例えば、糞便と核酸安定化剤溶液が等量である場合には、核酸安定化剤溶液入り採便容器の軽量化・小型化が可能となる。このように、生体試料及び得られる混合物の取り扱い性と、生体試料の核酸安定化剤溶液への分散性とを、バランス良く向上させることが可能となるため、生体試料が糞便である場合には、生体試料と核酸安定化剤溶液の混合比率が、1:1〜1:20であることがより好ましく、1:3〜1:10であることがさらに好ましく1:5程度であることがより好ましい。
工程(A)における生体試料と核酸安定化剤溶液(又は核酸安定化剤)との混合は、生体試料を核酸安定化剤溶液に浸漬させ、特段の攪拌操作を行わないものであってもよい。本発明で用いられる核酸安定化剤及びその溶液は、水分含有量の多い糞便等の生体試料に対しても非常に馴染みやすいため、混合する生体試料の量や状態によっては、単に核酸安定化剤溶液に浸漬させて特段の攪拌操作を行わない場合であっても、生体試料中に十分に浸透し、十分な核酸高回収効果が奏されるためである。
生体試料と核酸安定化剤溶液(又は核酸安定化剤)との混合は、生体試料を核酸安定化剤溶液に投入して浸漬させた後に攪拌してもよい。攪拌することにより、生体試料を十分に核酸安定化剤溶液に分散させ、懸濁させることができる。生体試料を投入した核酸安定化剤溶液を攪拌して懸濁液を調製する場合には、該攪拌は、速やかに行われることが好ましい。生体試料を速やかに核酸安定化剤溶液中に分散させることにより、迅速に、生体試料中の細胞に核酸安定化剤を浸透させたり、生体試料中の夾雑物に対し核酸安定化剤を作用させることができ、より優れた核酸高回収効果が得られるためである。
なお、生体試料と核酸安定化剤溶液を混合し懸濁液を調製する方法は、物理的手法により混合する方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、予め核酸安定化剤溶液を入れておいた密閉可能な容器に、採取された生体試料を投入して密閉した後、該容器を上下に転倒させることにより、混合してもよく、該容器をボルテックス等の振とう機にかけることにより混合してもよい。また、生体試料と核酸安定化剤溶液を、混合用粒子の存在下で混合してもよい。速やかに混合させることができるため、振とう機を用いる方法や、混合用粒子を用いる方法であることが好ましい。特に、予め混合用粒子を含有させた採取用容器を用いることにより、家庭等の特殊な装置のない環境においても迅速に混合することができる。
混合用粒子としては、核酸安定化剤溶液による核酸高回収効果を損なわない組成物であって、糞便等の生体試料にぶつかることにより、生体試料を迅速に核酸安定化剤溶液中に分散させ得る硬度や比重を有する粒子であれば、特に限定されるものではなく、1種類の材質からなる粒子であってもよく、2種類以上の材質からなる粒子であってもよい。このような混合用粒子として、例えば、ガラス、セラミックス、プラスチック、ラテックス、金属等からなる粒子がある。その他、混合用粒子は、磁性粒子であってもよく、非磁性粒子であってもよい。
また、工程(A)において調製する混合物には、核酸安定化剤による核酸高回収効果を損なわない限り、核酸安定化剤以外にも、任意の成分を添加してもよい。例えば、カオトロピック塩を添加してもよく、界面活性剤を添加しても良い。カオトロピック塩や界面活性剤を添加することにより、生体試料中の細胞活性や各種分解酵素の酵素活性をより効果的に阻害することができる。核酸安定化剤とともに生体試料と混合させ得るカオトロピック塩として、例えば、塩酸グアニジン、グアニジンイソチオシアネート、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びトリクロロ酢酸ナトリウム等がある。核酸安定化剤とともに生体試料と混合させる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤であることが好ましい。該非イオン性界面活性剤として、例えば、Tween80、CHAPS(3−[3−コラミドプロピルジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート)、Triton X−100、Tween20等がある。カオトロピック塩や界面活性剤の濃度は、核酸高回収効果が得られる濃度であれば、特に限定されるものではなく、生体試料量やその後の核酸回収・解析方法等を考慮して、適宜決定することができる。
その他、工程(A)において調製する混合物には、適宜着色剤を添加してもよい。混合物に着色剤を添加することにより、誤飲防止、生体試料の色が緩和される等の効果が得られる。該着色剤としては、食品添加物として使用される着色料であることが好ましく、青色や緑色等が好ましい。例えば、ファストグリーンFCF(緑色3号)、ブリリアントブルーFCF(青色1号)、インジゴカルミン(青色2号)等が挙げられる。また、複数の着色剤を混合して添加してもよく、単独で添加しても良い。
また、核酸安定化剤による核酸高回収効果は、混合物中に充分量の核酸安定化剤が存在する限り、特に温度条件に影響を受けるものではない。したがって、本発明の調製方法は、糞便等の生体試料の採取が通常行われる温度、すなわち、室温において行う場合であっても、生体試料中の核酸の損失を抑えることができる。また、工程(A)において調製された混合物は、続く工程(B)以降の処理を行うまでの間、室温で保存又は輸送した場合であっても、該混合物料中の核酸を安定して保持することができる。但し、核酸安定化剤として水溶性有機溶媒を用いる場合には、該混合物の保存は、50℃以下で行うことが好ましい。高温条件下で長期間保存することにより、揮発等により、該混合物中の水溶性有機溶媒の濃度が、核酸高回収効果を奏するに充分な濃度よりも低下するおそれがあるためである。
また、工程(A)において得られる混合物は、核酸安定化剤により、核酸、特に壊れやすいRNAの分解を抑制しつつ、比較的長期間室温で安定して保存することが可能である。このため、検診等のスクリーニング検査のように、生体試料を採取する場所や時間が、核酸抽出・解析操作を行う場所や時間から離れている場合や多量の試料を処理しなければならない場合には、生体試料の採取場所において工程(A)を行って混合物を調製した後、核酸抽出・解析操作がなされる時間又は場所まで、この混合物の状態で保存又輸送を行い、核酸抽出操作の直前に工程(B)及び(C)を行うことが好ましい。
次いで、工程(B)として、工程(A)により得られた混合物から、固形成分を回収する。本発明においては、生体試料に含まれていた核酸は、核酸安定化剤により、細胞内に含有された状態で安定化されている。このため、当該細胞成分を含む固形成分が、生体試料由来の核酸含有試料となる。
混合物からの固形成分の回収方法は、特に限定されるものではなく、懸濁液から固形成分を回収する際に用いられる公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、混合物を遠心分離処理し、上清を除去し、沈殿物を回収してもよく、適当な孔径のフィルターを用いてフィルター濾過を行い、フィルター面上に残留した固形成分を回収してもよい。
フィルター濾過に用いられるフィルターの孔径は、液状成分のみを透過可能な大きさであれば特に限定されるものではなく、当該分野で汎用されている孔径のフィルターから適宜選択して用いることができる。例えば、尿等の比較的固形成分が微量な生体試料を用いた場合には、比較的孔径の小さいフィルターを用いることが好ましい。一方、糞便や血液等の固形成分が比較的多い生体試料を用いた場合には、あまりに孔径の小さいフィルターを用いた場合には目詰まりが生じ易いため、比較的孔径の大きいフィルターを用いることが好ましい。
その後、工程(C)において、工程(B)により回収された固形成分を、pHが2〜7.5である緩衝液を用いて洗浄する。過剰な核酸安定化剤が抽出・精製された核酸に持ち込まれると、核酸解析、特に核酸鎖伸長反応を利用した核酸解析において、阻害的に働き、正確な解析が困難となる。本発明においては、工程(C)の洗浄処理により、余剰の核酸安定化剤が固形成分から除去されるため、その後、この固形成分(核酸含有試料)から抽出された核酸に対する核酸安定化剤の持込を顕著に低減させることができる。特に、糞便のようにかさ高い生体試料を用いる場合には、核酸安定化剤が特に多く持ち込まれてしまうため、洗浄工程を行わずに抽出を行うと、抽出効率は著しく低くなってしまうが、工程(C)に示す洗浄を行うことにより、核酸抽出効率に優れた核酸含有試料を調製することができる。
本発明においては、固形成分の洗浄には緩衝液を用いることが好ましい。洗浄時に固形成分中のpHの変動を抑えることができるためである。中でも、工程(C)において用いられる緩衝液としては、pHが2以上の範囲内に維持されるような緩衝作用を有する酸性緩衝液であることが好ましい。洗浄液として酸性緩衝液を用いることにより、単なる水や中性緩衝液等を用いた場合よりも、核酸抽出効果の高い核酸含有試料を調製することができる。これは、固形成分を酸性条件下で保持することにより、核酸の加水分解をより効果的に抑制することができるためと推察される。なお、ここで、「核酸抽出効果の高い核酸含有試料」とは、当該核酸含有試料から核酸を抽出した場合に、高効率で核酸が抽出できることを意味する。
本発明においては、固形成分を洗浄する酸性緩衝液のpHは2〜6.5であることが好ましく、3〜6であることがより好ましく、3.5〜5.5であることがさらに好ましく、4.0〜5.0であることが特に好ましい。
工程(C)において用いられる酸性緩衝液としては、有機酸と当該有機酸の共役塩基とを含有する試料調製用溶液であって、当該有機酸とその共役塩基とにより緩衝作用を奏するものであることが好ましい。中でも、クエン酸/水酸化ナトリウム緩衝系、乳酸/乳酸ナトリウム緩衝系、及び酢酸/酢酸ナトリウム緩衝系からなる群より選択される緩衝液であることが好ましい。このような緩衝液は、例えば、水や適当な溶媒に、有機酸と当該有機酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩とを添加することにより、所望のpHに調整することにより調製できる。その他、水や適当な溶媒に有機酸を添加した後に、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物を用いてpHを調整してもよい。
その他、工程(C)において用いられる酸性緩衝液としては、有機酸と鉱酸の双方を含む溶液であって、適当な緩衝作用を有するものであってもよい。例えば、グリシン/HCl緩衝系、カコジル酸Na/HCl緩衝系、又はフタル酸HK/HCl緩衝系等の、酸性側で緩衝作用を有する緩衝系であってもよい。
なお、本発明において、酸性緩衝液のpHは、ガラス電極法を測定原理としたpHメーター(例えば東亜ディーケーケー社製)を、フタル酸塩標準液と中性リン酸塩標準液によって校正した後に、測定して得られた値である。
このように、本発明の調製方法により、生体試料中に含まれている核酸が安定化され、かつ核酸安定化剤の持ち込み量が顕著に低減され、核酸抽出効率(核酸回収効率)に優れた核酸含有試料を簡便に調製することができる。すなわち、本発明の調製方法により調製された核酸含有試料(以下、「本発明の核酸含有試料」ということがある。)を用いることにより、生体試料中の核酸を高感度かつ高精度に解析することができるため、本発明の調製方法は、様々な症状や疾患の早期発見、診断、治療経過の観察、及び他の異常な容態の病理学的研究等に資することが期待できる。
特に、本発明の核酸含有試料は、生体試料中に比較的少量しか含まれていない核酸を解析するために用いられる試料として非常に好適である。一般的に、解析対象である標的核酸が生体試料中に微量にしか含まれていない場合には、核酸解析の信頼性は、生体試料からの核酸抽出効率の影響を受け易いが、本発明の調製方法により調製された核酸含有試料は、核酸抽出効率に非常に優れているためである。具体的には、本発明の核酸含有試料は、がん細胞由来の核酸や感染症原因菌由来の核酸の解析や、糞便中の哺乳細胞由来核酸の解析等のための試料として非常に好適である。
本発明の核酸含有試料は、核酸を含有する他の試料と同様に、核酸を回収し、得られた核酸を解析することができる。本発明の核酸含有試料から核酸を回収し、解析する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の回収方法や解析方法の中から適宜選択して用いることができる。その他、本発明の核酸含有試料からの核酸の回収は、核酸抽出キット等の市販のキットを用いて行うこともできる。
なお、その後の核酸解析方法によっては、本発明の核酸含有試料から核酸を回収しなくてもよい。具体的には、本発明の核酸含有試料(固形成分)を、核酸解析方法に好適な緩衝液等に懸濁し、得られた懸濁液にプロテイナーゼK等のタンパク質分解酵素を含有するPBS等の溶出用薬剤を添加して混合することによって当該緩衝液中に核酸を抽出させ、得られた上清をそのまま解析反応に供することもできる。
<核酸回収方法>
本発明の核酸含有試料から核酸を回収する場合には、当該核酸含有試料中に含まれている全生物種由来の核酸、すなわち、生体試料中に含まれていた全生物種由来の核酸を、同時に回収することが好ましい。生体試料中に比較的少量しか含まれていない生物種由来の核酸を解析するために回収する場合であっても、全生物種由来の核酸を同時に回収することにより、他の生物種由来の核酸がキャリアーとして機能するため、目的の生物種由来の核酸のみを回収する場合よりも核酸回収効率を高めることができる。
例えば、糞便中に微量に含まれている大腸剥離細胞等の哺乳細胞由来の核酸を解析する場合には、糞便から調製された本発明の核酸含有試料から、哺乳細胞由来核酸と、糞便中に大量に含まれている腸内常在菌由来の核酸を同時に回収することにより、哺乳細胞由来核酸を効率よく抽出し回収することができる。
なお、腸内常在菌とは、糞便中に比較的大量に存在するバクテリア細胞であり、通常ヒト等の動物の腸内に生息する常在菌を意味する。該腸内常在菌として、例えば、Bacteroides属、Eubacterium属、Bifidobacterium属、Clostridium属等の偏性嫌気性菌や、Escherichia属、Enterobacter属、Klebsiella属、Citrobacter属、Enterococcus属等の通性嫌気性菌等がある。
このように回収された核酸を用いて核酸解析を行うことにより、大腸がん等の特定の疾患マーカーを非常に高感度かつ高精度に検出することがきる。なお、本発明の核酸含有試料から回収する核酸は、DNAであってもよく、RNAであってもよく、DNAとRNAの両方であってもよい。
例えば、工程(a)として、本発明の核酸含有試料中のタンパク質を変性させ、前記核酸含有試料中に含まれていた全生物種由来の細胞から核酸を溶出させた後、工程(b)として、溶出させた核酸を回収することにより、本発明の核酸含有試料から核酸を回収することができる。
工程(a)における核酸含有試料中のタンパク質の変性は、公知の手法で行うことができる。例えば、核酸含有試料にカオトロピック塩、有機溶媒、界面活性剤等の、通常タンパク質の変性剤として用いられている化合物を添加することにより、核酸含有試料中のタンパク質を変性させることができる。工程(a)において核酸含有試料に添加し得るカオトロピック塩や界面活性剤は、本発明の調製方法の工程(A)において生体試料に添加し得るカオトロピック塩及び界面活性剤として挙げたものと同様のものを用いることができる。有機溶媒としては、フェノールであることが好ましい。フェノールは中性であってもよく、酸性であってもよい。酸性のフェノールを用いた場合には、DNAよりもRNAを選択的に水層に抽出することができる。なお、工程(a)において、核酸含有試料にカオトロピック塩、有機溶媒、界面活性剤等を添加する場合には、1種類の化合物を添加してもよく、2種類以上の化合物を添加してもよい。
なお、本発明の核酸含有試料(洗浄後の固形成分)に、カオトロピック塩等のタンパク質変性剤を直接添加してもよいが、一度適当な溶出用薬剤に懸濁させた後にタンパク質変性剤を添加することが好ましい。DNAを回収する場合には、該溶出用薬剤として、例えば、リン酸バッファーやトリスバッファー等を用いることができる。高圧蒸気滅菌等により、DNaseを失活させた薬剤であることが好ましく、さらにプロテイナーゼK等のタンパク質分解酵素を含有させた薬剤であることがより好ましい。一方、RNAを回収する場合には、該溶出用薬剤として、例えば、クエン酸バッファー等を用いることができるが、RNAは非常に分解され易い物質であるため、チオシアン酸グアニジンや塩酸グアニジン等のRNase阻害剤を含有したバッファーを用いることが好ましい。
工程(a)の後工程(b)の前に、工程(c)として、工程(a)により変性させたタンパク質を除去してもよい。核酸を回収する前に、予め変性させたタンパク質を除去することにより、回収される核酸の品質を向上させることができる。工程(c)におけるタンパク質の除去は、公知の手法で行うことができる。例えば、遠心分離により、変性タンパク質を沈殿させて上清のみを回収することにより、変性タンパク質を除去することができる。また、クロロホルムを添加し、ボルテックス等により充分に攪拌混合させた後に遠心分離を行い、変性タンパク質を沈殿させて上清のみを回収することにより、単に遠心分離を行う場合よりも、より完全に変性タンパク質を除去することができる。
工程(b)における溶出させた核酸の回収は、エタノール沈殿法や塩化セシウム超遠心法等の公知の手法で行うことができる。また、工程(b1)として、工程(a)において溶出させた核酸を無機支持体に吸着させた後、工程(b2)として、工程(b1)において吸着させた核酸を無機支持体から溶出させることにより、核酸を回収することができる。工程(b1)において核酸を吸着させる無機支持体は、核酸を吸着することができる公知の無機支持体を用いることができる。また、該無機支持体の形状も特に限定されるものではなく、粒子状であってもよく、膜状であってもよい。該無機支持体として、例えば、シリカゲル、シリカ質オキシド、ガラス、珪藻土等のシリカ含有粒子(ビーズ)や、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ニトロセルロース等の多孔質膜等がある。工程(b2)において吸着させた核酸を無機支持体から溶出させる溶媒は、回収する核酸の種類やその後の核酸解析方法等を考慮して、これらの公知の無機支持体から核酸を溶出するために通常用いられている溶媒を適宜用いることができる。該溶出用溶媒として、特に精製水であることが好ましい。なお、工程(b1)の後、工程(b2)の前に、核酸を吸着させた無機支持体を適当な洗浄バッファーを用いて洗浄することが好ましい。
本発明の核酸含有試料より回収された核酸は、公知の核酸解析方法を用いて解析することができる。該核酸解析方法として、例えば、核酸を定量する方法や、PCR等を用いて特定の塩基配列領域を検出する方法等がある。その他、RNAを回収した場合には、逆転写反応によりcDNAを合成した後、該cDNAを用いて、DNAと同様にして解析に用いることができる。核酸含有試料から回収されたDNAを用いた場合には、例えば、DNA上の変異解析やエピジェネティック変化解析を行うことができる。変異解析としては、例えば、塩基の挿入、欠失、置換、重複、又は逆位の解析等が挙げられる。また、エピジェネティック変化解析としては、例えば、メチル化や脱メチル化の解析等が挙げられる。また、マイクロサテライトを含む塩基配列領域等の遺伝的変異の有無を検出することにより、がんの発症の有無を調べることができる。一方、回収されたRNAを用いた場合には、例えば、RNA上の塩基の挿入、欠失、置換、重複、逆位、又はスプライシングバリアント(アイソフォーム)等の変異を検出することができる。その他、機能性RNA(ノンコーディングRNA)解析、例えば、転移RNA(transfer RNA、tRNA)、リボソームRNA(ribosomalRNA、rRNA)、microRNA(miRNA、マイクロRNA)等の解析を行うことができる。また、RNA発現量を検出し解析することもできる。特に、mRNAの発現解析、K−ras遺伝子の変異解析、及びDNAのメチル化の解析等を行うことが好ましい。なお、これらの解析は、当該分野において公知の方法により行うことができる。また、K−ras遺伝子変異解析キット、メチル化検出キット等の市販の解析キットを用いてもよい。
特に、新生物性転化を示すマーカーや炎症性消化器疾患を示すマーカーを検出するための解析に供されることが好ましい。該新生物性転化を示すマーカーとして、例えば、がん胎児性抗原(CEA)、シアリルTn抗原(STN)等の公知のがんマーカーや、APC遺伝子、p53遺伝子、K−ras遺伝子等の変異の有無等がある。また、p16、hMLHI、MGMT、p14、APC、E−cadherin、ESR1、SFRP2等の遺伝子のメチル化の検出も、大腸疾患の診断マーカーとして有用である(例えば、Lind et al.、「A CpG island hypermethylation profile of primary colorectal carcinomas and colon cancer cell lines」、Molecular Cancer、2004年、第3巻第28章参照。)。その他、糞便試料中のヘリコバクターピロリ菌由来のDNAが、胃がんマーカーとして用いられ得ることが既に報告されている(例えばNilsson et al.、Journal of Clinical Microbiology、2004年、第42巻第8号、第3781〜8ページ参照。)。一方、炎症性消化器疾患を示すマーカーとして、例えば、Cox−2遺伝子由来核酸等がある。なお、Cox−2遺伝子由来核酸は、新生物性転化を示すマーカーとしても用いられる。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に記載が無い場合には、「%」は「体積%」を意味する。また、培養細胞であるCaco−2細胞は、常法により培養した。
[実施例1]
核酸安定化剤として80%エタノール溶液を用いて、本発明の調製方法により糞便から核酸含有試料を調製した。
まず、健常人1名より採取された糞便を、6本の15mLのポリプロピレンチューブにそれぞれ1gずつ分取した。このうち3本のチューブに対して、80%エタノール溶液を各10mLずつ加えて糞便をよく分散させ、得られた混合物を25℃で3時間静置した(安定化処理)。静置後遠心分離処理を行って上清を除去し、固形成分を回収した(安定化処理済チューブ)。一方、残りの3本のチューブには何も処理を施さず、直ちに遠心分離処理を行って上清を除去し、固形成分を回収した(安定化未処理チューブ)。
これらの固形成分に対して、以下のように洗浄工程を行った。まず、3本の安定化処理済チューブのうち、1本には10mLのクエン酸/水酸化ナトリウム緩衝液(0.1M、pH5)を、もう1本にはPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7)を、それぞれ分注し、1分間よく混和した後、再度遠心処理を行って固形成分を回収した。残る1本は洗浄工程を行わなかった。3本の安定化未処理チューブに対しても、同様に、1本はクエン酸/水酸化ナトリウム緩衝液で、他の1本はPBSで、それぞれ洗浄工程を行い、残る1本には洗浄工程を行わなかった。
得られた固形成分から、それぞれRNAを回収した。
具体的には、得られた固形成分に対して、フェノール混合物「Trizol」(Invitorogen社製)を添加し、ボモジナイザーで十分に混合した後、クロロホルムを添加し、ボルテックスを用いて十分に混合した後、12,000×g、4℃で20分間遠心分離処理を行った。該遠心分離処理により得た上清(水層)を、RNeasy midi kit(Qiagen社製)のRNA回収用カラムに通し、添付のプロトコールに従って該RNA回収用カラムの洗浄操作及びRNA溶出操作を行うことにより、RNAを回収した。
回収されたRNAを、ナノドロップ(ナノドロップ社製)を用いて定量した。この結果を表2及び図1に示す。表2中、「クエン酸緩衝液」は、クエン酸/水酸化ナトリウム緩衝液(0.1M)を意味する。この結果、核酸安定化剤により安定化しなかった場合には、洗浄工程を行うことにより、洗浄工程なしの場合よりも回収されるRNA量が減少しており、洗浄工程により核酸の分解等の損失が促進されてしまうことが示唆された。また、核酸安定化剤により安定化した場合であっても、洗浄工程なしの場合には、安定化処理を行わなかった場合よりも回収されるRNA量が減少しており、糞便中の夾雑物により、核酸抽出が阻害されていることが示唆された。これに対して、核酸安定化剤により安定化した後、洗浄工程を行った場合には、洗浄工程なしの場合よりもRNA回収量が高かった。特に、pH5のクエン酸緩衝液で洗浄した場合には、pH7のPBSで洗浄した場合よりもはるかにRNA回収量が高く、核酸安定化剤で安定化した後に得られた固形成分を酸性緩衝液で洗浄することにより、非常に核酸回収効率の高い良好な核酸含有試料を調製できることが明らかである。
また、回収されたRNAをバイオアナライザ(アジレント社製)で電気泳動し、分解度を調べた。得られた染色像を図2に示す。図中、「Ladder」はマーカーを泳動したレーンを示す。さらに表3に、この染色像のうち、16S rRNA及び23S rRNAのバンドの染色強度の相対値を示す。なお、各バンド強度は、最もRNA回収量の多かった固形成分(安定化処理後クエン酸緩衝液で洗浄した固形成分)から回収されたRNAの16S rRNAのピークエリアを1とした時の相対値として算出した。また、表3中、「洗浄工程」の欄記載の(1)〜(3)は、表2と同様である。この結果、核酸安定化剤により安定化しなかった試料では、洗浄工程を行うことにより、特にPBSで洗浄することにより、RNAの分解が促進されてしまい、洗浄工程を行った場合でも十分な核酸量が回収できないことが確認された。一方、核酸安定化剤により安定化処理した試料では、クエン酸緩衝液で洗浄した場合にはほとんど核酸の分解が観察されなかったが、PBSで洗浄した場合には、核酸分解が促進されることが確認された。一方、洗浄工程を行わなかった場合には、ほとんどバンドが検出されず、糞便中の夾雑物により核酸抽出が阻害されていることが示唆された。
これらの結果から、本発明の調製方法のように、生体試料を核酸安定化剤で処理した後、得られた固形成分を緩衝液、特に酸性緩衝液で洗浄することにより、核酸の分解度が低く高品質の核酸を十分量回収できることが明らかである。
[実施例2]
核酸安定化剤として70%エタノール溶液を用いて、本発明の調製方法により糞便から核酸含有試料を調製する際に、洗浄工程で用いる緩衝液の種類による核酸回収量に対する影響を調べた。
まず、健常人1名より採取された糞便を、18本の15mLのポリプロピレンチューブにそれぞれ1gずつ分取した。分取後、各チューブに70%エタノール溶液を各10mLずつ加えて糞便をよく分散させ、得られた混合物を25℃で24時間静置した(安定化処理)。静置後、各チューブに対して遠心分離処理を行って上清を除去し、固形成分を回収した。この固形成分に対して、チューブごとに異なる種類の洗浄液を用いて洗浄した。具体的には、各固形成分に10mLの洗浄液を分注し、1分間よく混和した後、再度遠心処理を行って固形成分を回収した。用いた洗浄液は、pH3〜7のクエン酸/水酸化ナトリウム緩衝液(0.1M)、乳酸/乳酸ナトリウム緩衝液(0.1M)、又は酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液(0.1M)である。
得られた固形成分から、それぞれRNAを回収した。具体的には、各チューブに対してRNeasy(Qiagen社製)に付属のグアニジンチオシアネート溶液「buffer RLT」を3mL添加し混合した後、12,000×g、4℃で20分間遠心分離処理を行った。該遠心分離処理により得た上清を、同じくRNeasyのRNA回収用カラムに通し、添付のプロトコールに従って該RNA回収用カラムの洗浄操作及びRNA溶出操作を行うことにより、RNAを回収した。
回収されたRNAを、ナノドロップ(ナノドロップ社製)を用いて定量した結果を表4及び図3に示す。これらの結果から、いずれの種類の緩衝液を洗浄液として用いた場合であっても、pH4.0〜5.0付近で最もRNAの回収量が高いこと、特に酢酸/酢酸ナトリウム緩衝系を用いた場合が最もRNAの抽出効率が良いことが分かった。
[実施例3]
核酸安定化剤としてプロテアーゼ阻害剤を用いて、本発明の調製方法により糞便から核酸含有試料を調製した。
まず、健常人1名より採取された糞便を、6本の15mLのポリプロピレンチューブにそれぞれ1gずつ分取した。このうち3本のチューブに対して、プロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ社製)の100倍希釈溶液(原液を蒸留水で100倍希釈した溶液)を各10mLずつ加えて糞便をよく分散させ、得られた混合物を25℃で3時間静置した(安定化処理)。静置後遠心分離処理を行って上清を除去し、固形成分を回収した(安定化処理済チューブ)。一方、残りの3本のチューブには何も処理を施さず、直ちに遠心分離処理を行って上清を除去し、固形成分を回収した(安定化未処理チューブ)。
これらの固形成分に対して、以下のように洗浄工程を行った。まず、3本の安定化処理済チューブのうち、1本には10mLの酢酸/水酸化ナトリウム緩衝液(0.1M、pH5)を、もう1本にはPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7)を、それぞれ分注し、1分間よく混和した後、再度遠心処理を行って固形成分を回収した。残る1本は洗浄工程を行わなかった。3本の安定化未処理チューブに対しても、同様に、1本は酢酸/水酸化ナトリウム緩衝液で、他の1本はPBSで、それぞれ洗浄工程を行い、残る1本には洗浄工程を行わなかった。
得られた固形成分から、実施例1と同様にして、それぞれRNAを回収し、定量した。定量した結果を表5に示す。表5中、「酢酸緩衝液」は、酢酸/水酸化ナトリウム緩衝液(0.1M)を意味する。この結果、核酸安定化剤としてプロテアーゼ阻害剤を用いた場合であっても、実施例1と同様に、プロテアーゼ阻害剤により安定化した後、洗浄工程を行った場合には、洗浄工程なしの場合よりもRNA回収量が高かった。特に、pH5の酢酸緩衝液で洗浄した場合には、pH7のPBSで洗浄した場合よりもはるかにRNA回収量が高く、核酸安定化剤で安定化した後に得られた固形成分を酸性緩衝液で洗浄することにより、非常に核酸回収効率の高い良好な核酸含有試料を調製できることが明らかである。
[実施例4]
核酸安定化剤として飽和塩化ナトリウム水溶液(飽和食塩水)を用いて、本発明の調製方法により糞便から核酸含有試料を調製した。飽和食塩水は、50℃の水に塩化ナトリウムを過剰量溶解させた後、25℃まで徐々に冷却し、塩化ナトリウムの析出を確認した後の上清を用いた。
まず、健常人1名より採取された糞便を、6本の15mLのポリプロピレンチューブにそれぞれ1gずつ分取した。このうち3本のチューブに対して、上記のようにして調製した飽和食塩水を各10mLずつ加えて糞便をよく分散させ、得られた混合物を25℃で3時間静置した(安定化処理)。静置後遠心分離処理を行って上清を除去し、固形成分を回収した(安定化処理済チューブ)。一方、残りの3本のチューブには何も処理を施さず、直ちに遠心分離処理を行って上清を除去し、固形成分を回収した(安定化未処理チューブ)。
これらの固形成分に対して、以下のように洗浄工程を行った。まず、3本の安定化処理済チューブのうち、1本には10mLのクエン酸/水酸化ナトリウム緩衝液(0.1M、pH5)を、もう1本にはPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7)を、それぞれ分注し、1分間よく混和した後、再度遠心処理を行って固形成分を回収した。残る1本は洗浄工程を行わなかった。3本の安定化未処理チューブに対しても、同様に、1本はクエン酸/水酸化ナトリウム緩衝液で、他の1本はPBSで、それぞれ洗浄工程を行い、残る1本には洗浄工程を行わなかった。
得られた固形成分から、実施例1と同様にして、それぞれRNAを回収し、定量した。定量した結果を表6に示す。表6中、「クエン酸緩衝液」は、クエン酸/水酸化ナトリウム緩衝液(0.1M)を意味する。この結果、核酸安定化剤として飽和食塩水等の高塩濃度溶液を用いた場合であっても、実施例1と同様に、高塩濃度溶液により安定化した後、洗浄工程を行った場合には、洗浄工程なしの場合よりもRNA回収量が高かった。特に、pH5のクエン酸緩衝液で洗浄した場合には、pH7のPBSで洗浄した場合よりもはるかにRNA回収量が高く、核酸安定化剤で安定化した後に得られた固形成分を酸性緩衝液で洗浄することにより、非常に核酸回収効率の高い良好な核酸含有試料を調製できることが明らかである。
[実施例5]
本発明の調製方法により糞便から核酸含有試料を調製した後、得られた核酸含有試料から回収したRNAの解析を行った。
具体的には、まず、新生物性転化や炎症性消化器疾患を示すマーカーであるCox−2遺伝子の発現が確認されている大腸癌患者一名より採取された糞便を、6本の15mLのポリプロピレンチューブにそれぞれ1gずつ分取した。このうち3本のチューブに対して、80%エタノール溶液を各10mLずつ加えて糞便をよく分散させ、得られた混合物を25℃で3時間静置し(安定化処理)、その後遠心分離処理を行って上清を除去し、固形成分を回収した(安定化処理済チューブ)。一方、残りの3本のチューブには何も処理を施さず、直ちに遠心分離処理を行って上清を除去し、固形成分を回収した(安定化未処理チューブ)。各3本の安定化処理済チューブ又は安定化未処理チューブに対して、実施例1と同様に、1本はクエン酸/水酸化ナトリウム緩衝液(0.1M、pH5)で洗浄し、もう1本はPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7)で洗浄し、残る1本には洗浄工程を行わなかった。得られた固形成分から、実施例1と同様にして、それぞれRNAを回収した。
次いで、回収されたRNAに対してRT−PCRを行い、ヒトCox−2遺伝子の検出を行った。PCRのプライマーとして、アプライドバイオシステム社製のCox−2プライマープローブMIXを用いた。具体的には、0.2mLの96ウェルPCRプレートに、得られたcDNAを1μLずつそれぞれ分取した。その後、各ウェルに8μLの超純水と10μLの核酸増幅試薬「TaqMan GeneExpression Master Mix」(アプライドバイオシステム社製)を添加し、さらに、1μLのCox−2プライマープローブMIX(アプライドバイオシステム社製)をそれぞれ添加して混合し、PCR反応溶液を調製した。該PCRプレートを、ABIリアルタイムPCR装置に設置し、95℃で10分間処理した後、95℃で1分間、56.5℃で1分間、72℃で1分間の熱サイクルを40サイクル行った後、さらに72℃で7分間処理することにより、経時的に蛍光強度を計測しながらPCRを行った。蛍光強度の計測結果を分析して、各糞便試料から回収されたRNA中のCox−2遺伝子の発現量の相対値(安定化あり、クエン酸緩衝液洗浄を1とする)を算出した結果を表7に示す。
表7に示すように、安定化処理を行った後に酸性緩衝液で洗浄した核酸含有試料中のCox−2遺伝子の発現量は、その他の条件で調製した核酸含有試料中の発現量よりも高かった。これらの結果は、実施例1の結果と相関していることから、核酸の回収効率が高いために、本発明の調製方法を用いることにより糞便中のCox−2遺伝子の発現量を効率よく定量できることは明らかである。
[参考例1]
健常人1名より採取された糞便を、3本の15mLのポリプロピレンチューブにそれぞれ1gずつ分取した。このうち1本に対して、分取直後、速やかに液体窒素を用いて凍結処理を行い、糞便試料(1A)とした。他の1本に対して、分取後、10mLの70%エタノール溶液を加えて糞便をよく分散させた後、室温で1時間静置し、糞便試料(1B)とした。残りの1本は、分取後、溶液等を添加せずに速やかに抽出工程に移行させ、これを糞便試料(1C)とした。
その後、各糞便試料からRNAを回収した。具体的には、各糞便試料に、3mLのフェノール混合物「Trizol」(Invitorogen社製)を添加し、30秒以上ボモジナイザーで十分に混合した後、3mLのクロロホルムを添加し、ボルテックスを用いて十分に混合した後、12,000×g、4℃で20分間遠心分離処理を行った。該遠心分離処理により得た上清(水層)を、RNeasy midi kit(Qiagen社製)のRNA回収用カラムに通し、添付のプロトコールに従って該RNA回収用カラムの洗浄操作及びRNA溶出操作を行うことにより、RNAを回収した。ナノドロップ(ナノドロップ社製)を用いて、回収したRNAの定量を行った。
図4は、各糞便試料から回収されたRNA量を示した図である。エタノール溶液を用いて調製された糞便試料(1B)からは、採取直後に凍結処理を行った糞便試料(1A)から回収されたRNA量には若干及ばないものの、採取直後速やかに核酸抽出を行った糞便試料(1C)に比べて、非常に多くのRNAを回収することができた。これらの結果から、本発明において核酸安定化剤として用いられる水溶性有機溶媒を用いて調製することにより、室温での調製であっても、非常に効率よく核酸を回収し得る糞便試料が得られることが明らかである。検診等の場合のように、患者が自宅で採便する場合には、糞便試料の調製を室温付近で行えることが望まれるが、水溶性有機溶媒による安定化処理は、このような要請に充分に応えることが可能である。
[参考例2]
健常人の糞便0.5gに対し、MDR1(multidrug resistance 1)遺伝子を高発現しているヒト大腸がん由来培養細胞Caco−2細胞を5.0×10cells混合させたものを、大腸がん患者擬似糞便とし、糞便試料を調製した。
具体的には、該大腸がん患者擬似糞便を、15mLのポリプロピレンチューブに0.5gずつ分取し、表8記載の糞便試料調製用溶液をそれぞれ添加して混合して、糞便試料を調製した。なお、表中、「普遍的収集培地」とは、特許文献4に記載の保存培地(500mLのPack食塩水G、400mgの重炭酸ナトリウム、10gのBSA、500units/Lのpenicillin G、500mg/Lの硫酸ストレプトマイシン、1.25mg/Lのamphortericin B、50mg/Lのgentamicin)である。調製した糞便試料を、室温(25℃)の恒温インキュベータにおいて、1、3、7、10日間、それぞれ保存した。
保存後、各糞便試料からRNAを回収し、回収されたRNAに対して、MDR1遺伝子の転写産物であるmRNAの検出を試みた。糞便試料調製用溶液(2C)を用いて調製した糞便試料(以下、糞便試料(2C)という。)に対しては、まず、Caco−2細胞を含む哺乳細胞を分離した後、RNAの回収を行った。糞便試料調製用溶液(2C)以外の糞便試料調製用溶液を用いて調製した糞便試料に対しては、哺乳細胞を分離せず、哺乳細胞由来の核酸とバクテリア由来の核酸を同時に回収した。糞便試料(2C)からの哺乳細胞の分離は、具体的には、糞便試料(2C)に5mLのヒストパック1077溶液(Sigma社製)を添加して混合した後、200×g、30分間室温で遠心分離処理を行い、懸濁液とヒストパック1077溶液の間の界面を回収することにより行った。分離した哺乳細胞は、PBSで3回洗浄した。
糞便試料からのRNAの回収は、具体的には、次のようにして行った。まず、糞便試料(糞便試料(2C)のみ分離した哺乳細胞)に、3mLのフェノール混合物「Trizol」(Invitorogen社製)を添加し、30秒以上ボモジナイザーで十分に混合した後、3mLのクロロホルムを添加し、12,000×gで10分間遠心分離処理を行った。該遠心分離処理により得た上清(水層)を新しいポリプロピレンチューブに回収した。その後、RNeasy midi kit(Qiagen社製)を用いて、回収された上清からRNAを回収した。
回収されたRNAに対してRT−PCRを行い、得られたcDNAをテンプレートとしてPCRを行った。プライマーとして、配列番号1の塩基配列を有するMDR1遺伝子増幅用のフォワードプライマーと、配列番号2の塩基配列を有するMDR1遺伝子増幅用のリバースプライマーを用いた。
具体的には、0.2mLのPCRチューブに、12μLの超純水と2μLの10×バッファーを添加し、さらにcDNA、該フォワードプライマー、該リバースプライマー、塩化マグネシウム、dNTP、及びDNAポリメラーゼをそれぞれ1μLずつ添加して混合し、PCR反応溶液を調製した。該PCRチューブを、95℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で1分間を30サイクル、からなる反応条件によりPCRを行った。この結果、得られたPCR産物を、Agilent DNA1000 LabChip(登録商標)キット(アジレント社製)を用いて泳動し、得られたバンドの強度を測定し、PCR産物の増幅程度を調べた。
表9は、各糞便試料由来のPCR産物の増幅程度を、保存期間ごとにまとめた表である。なお、表中「糞便試料(2A)」は、糞便試料調製用溶液(2A)を用いて調製した糞便試料を、「糞便試料(2B)」は、糞便試料調製用溶液(2B)を用いて調製した糞便試料を、「糞便試料(2D)」は、糞便試料調製用溶液(2D)を用いて調製した糞便試料を、それぞれ意味する。
この結果、糞便試料(2D)では、保存期間が1日の場合にはPCR産物の増幅が確認されたが、保存期間3日以降は、増幅が確認できなかった。これに対して、本発明の糞便試料調製用溶液である糞便試料調製用溶液(2A)や糞便試料調製用溶液(2B)を用いて調製された糞便試料(2A)及び(2B)では、保存期間10日においてもPCR産物の増幅を確認することができた。一方で、特許文献4記載の糞便試料調製用溶液(2C)を用いて調製された糞便試料(2C)では、保存期間1日であってもPCR産物の増幅は確認することができなかった。
以上の結果から、本発明において核酸安定化剤として用いられる水溶性有機溶媒を用いて糞便を処理することにより、糞便中に含まれている核酸を効率よく回収することができ、この結果、RNA解析の精度を向上し得ることも明らかである。これは、水溶性有機溶媒を用いることにより、糞便中に含まれる哺乳細胞由来の核酸、特に分解され易いRNAでさえも、室温で長期間保存可能なほど安定して保持し得るためと推察される。
一方で、糞便試料(2C)由来のPCR産物では増幅が確認されなかったことから、核酸安定化剤ではなく抗生物質を含有する溶液を用いて糞便を処理した場合には、該抗生物質により糞便中のバクテリア細胞は殺菌されるものの、死滅したバクテリア細胞からRNase等が放出される等により、却ってRNA分解が促進される可能性が示唆される。また、糞便に含まれる哺乳細胞数は少ないため、糞便から哺乳細胞を分離した場合には、バクテリア細胞由来の核酸がキャリアーとして機能し得る本発明の核酸の回収方法と比較して、充分量の核酸を回収することが困難である可能性も示唆される。
[参考例3]
超純水を用いて希釈することにより、0、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%のエタノール溶液をそれぞれ調製した。これらのエタノール溶液を、各5mLずつ15mLのポリプロピレンチューブにそれぞれ分注した。
これらのチューブに、健常人より採取した糞便0.5gをそれぞれ分取した後、37℃で48時間静置した。その後、各チューブを遠心分離処理し、上清を除去して得られた固形成分に、3mLのフェノール混合物「Trizol」(Invitorogen社製)を添加し、30秒以上ボモジナイザーで十分に混合した後、3mLのクロロホルムを添加し、12,000×gで10分間遠心分離処理を行った。該遠心分離処理により得た上清(水層)を新しいポリプロピレンチューブに回収した。その後、RNeasy midi kit(Qiagen社製)を用いて、回収された上清からRNAを回収した。
図5は、各濃度のエタノール溶液を用いて調製された糞便試料から回収されたRNA量を示した図である。この結果、核酸安定化剤としてエタノール等のアルコールを用いる場合には、アルコール濃度は30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、50〜80%であることがさらに好ましく、60〜70%であることが特に好ましいことが明らかである。
[参考例4]
健常人5名から採取した糞便をよく混合し、0.2gずつ2本の15mLのポリプロピレンチューブにそれぞれ分取した。このうち1本に対して、1mLの18%イソプロパノール含有32%変性エタノール溶液(totalアルコール溶液として50%)を加えてよく混合した後、25℃で1日静置した。該糞便試料を糞便試料(4A)とした。残りの1本は対照試料とし、分取後速やかに−80℃ディープフリーザーに回収した。
両糞便試料から、糞便からのDNA抽出キット「QIAamp DNA Stool Mini Kit」(Qiagen社製)を用いてDANを回収した。回収されたDNAの濃度を吸光度法により定量した結果、両糞便試料から、ほぼ同等量のDNAを回収することができた。
回収されたDNAを100ng用いて、K−ras遺伝子の変異解析キット「K−rasコドン12変異検出試薬」(湧永製薬社製)を用いて、付属のプロトコールに従い変異解析を行った。その結果、糞便試料(4A)から回収されたDNAの解析結果は、対照試料から回収されたDNAを用いた場合と同様に、6種類の変異遺伝子は全て陰性となった。
以上の結果から、採取された糞便を水溶性有機溶媒等の核酸安定化剤で処理して得られた核酸含有試料から回収された核酸を用いることにより、遺伝子変異等の高い正確性を要求される核酸解析であっても精度よく行えることが明らかである。また今回はイソプロパノールとエタノールを混合した変性エタノールを核酸安定化剤として使用したが、アルコール濃度としては同じである、50%エタノール溶液を使用しても同等の結果が得られた。
[参考例5]
健常人1名より採取された糞便を、3本の15mLのポリプロピレンチューブにそれぞれ0.1gずつ分取し、このうち1本に対して、3mLの70%エタノールを加えて糞便をよく分散させ、得られた糞便試料を糞便試料(5A)とした。一方、残りの2本に対して、それぞれ2.4mLの「ISOGEN」(ニッポンジーン社製)を加えて糞便をよく分散させ、得られた糞便試料を、それぞれ比較試料(P1)、比較試料(P2)とした。なお、「ISOGEN」はフェノール(水に対する溶解度約10重量%)が40%含有されているフェノール含有物である。
このうち、比較試料(P1)に対して、糞便分散後、速やかにRNA回収を行った。具体的には、糞便試料を30秒以上ボモジナイザーで十分に混合した後、3mLのクロロホルムを添加し、12,000×gで10分間遠心分離処理を行った。該遠心分離処理により得た上清(水層)を新しいポリプロピレンチューブに回収した。その後、RNeasy midi kit(Qiagen社製)を用いて、回収された上清からRNAを回収した。
また、比較試料(P2)は、室温で5時間静置した後、比較試料(P1)と同様にして、RNA回収を行った。
一方、糞便試料(5A)は、比較試料(P2)と同様に室温で5時間静置した後、遠心分離処理を行って上清を除去した後、得られた沈殿(固形成分)に、2.4mLの「ISOGEN」を添加した後、比較試料(P1)と同様にして、RNA回収を行った。
回収されたRNAを、ナノドロップ(ナノドロップ社製)を用いて定量した。この結果、糞便試料調製直後にRNA回収を行った比較試料(P1)からは32μgのRNAを回収することができたが、5時間室温静置後に回収操作を行った比較試料(P2)からは14μgしか回収することができなかった。これに対して、糞便試料(5A)からは、5時間室温静置後に回収操作を行ったにもかかわらず、57μgという比較試料(P1)よりも大量のRNAを回収することができた。
これらの結果から、核酸安定化剤を用いることにより、従来のフェノール溶液を用いた場合よりも、非常に効率よくRNAを回収し得ることが明らかである。
本発明の核酸含有試料の調製方により、生体試料中の核酸を効率よく回収し得る核酸含有試料を簡便に調製することができるため、特に生体試料を用いた定期健診等の臨床検査等の分野において利用が可能である。

Claims (36)

  1. 生体試料から核酸含有試料を調製する方法であって、
    (A)生体試料と核酸安定化剤とを混合する工程と、
    (B)前記工程(A)により得られた混合物から、固形成分を、核酸含有試料として回収する工程と、
    (C)前記工程(B)により回収された固形成分を、pHが2以上である酸性緩衝液を用いて洗浄する工程と、
    を有することを特徴とする、核酸含有試料の調製方法。
  2. 前記酸性緩衝液のpHが3〜6であることを特徴とする請求項1記載の核酸含有試料の調製方法。
  3. 前記核酸安定化剤が、水溶性有機溶媒、プロテアーゼ阻害剤、ポリカチオン、及び高塩濃度溶液からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の核酸含有試料の調製方法。
  4. 前記核酸安定化剤が、前記水溶性有機溶媒として、水溶性アルコール及び/又はケトン類を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法。
  5. 前記水溶性有機溶媒が、前記水溶性アルコールとして、エタノール、プロパノール、及びメタノールからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項4記載の核酸含有試料の調製方法。
  6. 前記水溶性有機溶媒が、前記ケトン類として、アセトン及び/又はメチルエチルケトンを含むことを特徴とする請求項4記載の核酸含有試料の調製方法。
  7. 前記核酸安定化剤が水溶性有機溶媒であり、前記混合物中の前記水溶性有機溶媒の濃度が30%以上であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法。
  8. 前記核酸安定化剤が、前記水溶性有機溶媒として、アルデヒド類を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法。
  9. 前記核酸安定化剤が水溶性有機溶媒であり、前記混合物中の前記水溶性有機溶媒の濃度が0.01〜30%であることを特徴とする請求項8記載の核酸含有試料の調製方法。
  10. 前記核酸安定化剤が、前記プロテアーゼ阻害剤として、ペプチド系プロテアーゼ阻害剤、還元剤、タンパク質変性剤、及びキレート剤からなる群より選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法。
  11. 前記核酸安定化剤が、前記プロテアーゼ阻害剤として、AEBSF、Aprotinin、Bestain、E−64、Leupeptin、PepstatinA、尿素、DTT(ジチオスレイトール)、及びEDTAからなる群より選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法。
  12. 前記核酸安定化剤が、前記ポリカチオンとしてポリリジンを含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法。
  13. 前記酸性緩衝液が、酢酸/酢酸ナトリウム緩衝系、クエン酸/水酸化ナトリウム緩衝系、及び乳酸/乳酸ナトリウム緩衝系からなる群より選択される緩衝液であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法。
  14. 前記酸性緩衝液のpHが3.5〜5.5であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法。
  15. 前記酸性緩衝液のpHが4.0〜5.0であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法。
  16. 前記混合物が、さらに界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜15のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法。
  17. 前記混合物が、さらに着色剤を含むことを特徴とする請求項1〜16のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法。
  18. 前記生体試料が、糞便、血液、又は尿であることを特徴とする請求項1〜17のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法。
  19. 請求項1〜18のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法により調製された核酸含有試料。
  20. 請求項1〜18のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法を用いて生体試料から調製された核酸含有試料から、前記生体試料中に含まれていた全生物種由来の核酸を同時に回収することを特徴とする核酸回収方法。
  21. 請求項1〜18のいずれか記載の核酸含有試料の調製方法を用いて糞便から調製された核酸含有試料中から、腸内常在菌由来の核酸と腸内常在菌以外の生物由来の核酸とを同時に回収することを特徴とする核酸回収方法。
  22. 前記腸内常在菌以外の生物が、哺乳細胞であることを特徴とする請求項21記載の核酸回収方法。
  23. 核酸を回収する工程が、(a)前記核酸含有試料中のタンパク質を変性させ、前記核酸含有試料中に含まれていた全生物種由来の細胞から、核酸を溶出させる工程と、(b)前記工程(a)において溶出させた核酸を回収する工程と、を有することを特徴とする請求項20〜22のいずれか記載の核酸回収方法。
  24. 前記工程(a)の後、前記工程(b)の前に、(c)前記工程(a)により変性させたタンパク質を除去する工程と、を有することを特徴とする請求項23記載の核酸回収方法。
  25. 前記工程(a)におけるタンパク質の変性が、カオトロピック塩、有機溶媒、及び界面活性剤からなる群より選ばれる1以上を用いて行われることを特徴とする請求項23又は24記載の核酸回収方法。
  26. 前記有機溶媒がフェノールであることを特徴とする請求項25記載の核酸回収方法。
  27. 前記工程(c)における変性させたタンパク質の除去が、クロロホルムを用いて行われることを特徴とする請求項24〜26のいずれか記載の核酸回収方法。
  28. 前記工程(b)における核酸の回収が、(b1)前記工程(a)において溶出させた核酸を無機支持体に吸着させる工程と、(b2)前記工程(b1)において吸着させた核酸を無機支持体から溶出させる工程と、を有することを特徴とする請求項23〜27のいずれか記載の核酸回収方法。
  29. 前記工程(a)の前に、(d)前記核酸含有試料から固形成分を回収する工程と、を有することを特徴とする請求項23〜28のいずれか記載の核酸回収方法。
  30. 請求項21〜29のいずれか記載の核酸回収方法を用いて核酸含有試料から回収された核酸を用いて、哺乳細胞由来の核酸を解析することを特徴とする核酸解析方法。
  31. 前記哺乳細胞が消化管細胞であることを特徴とする請求項30記載の核酸解析方法。
  32. 前記哺乳細胞が大腸剥離細胞であることを特徴とする請求項30記載の核酸解析方法。
  33. 前記哺乳細胞由来の核酸が、新生物性転化を示すマーカーであることを特徴とする請求項30〜32のいずれか記載の核酸解析方法。
  34. 前記哺乳細胞由来の核酸が、炎症性消化器疾患を示すマーカーであることを特徴とする請求項30〜32のいずれか記載の核酸解析方法。
  35. 前記哺乳細胞由来の核酸が、Cox−2遺伝子由来核酸であることを特徴とする請求項30〜32のいずれか記載の核酸解析方法。
  36. 前記解析が、mRNAの発現解析、K−ras遺伝子の変異解析、及びDNAのメチル化の解析からなる群より選択される1以上であることを特徴とする、請求項30〜35のいずれか記載の核酸解析方法。
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