JPH09316775A - 嵩高性編織物およびその製造方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 実質的に無撚で、異方向の撚りが混在
しない先染め糸からなり、風合いがソフトで、嵩高性に
富み、しかも光沢良好な嵩高性編織物を得る。 【解決手段】 ドラフト装置の出口側に回転する中空
スピンドルを設置したカバースパン式精紡機のドラフト
装置に天然繊維または化学繊維のステープルからなる粗
糸を供給してドラフトし、得られたフリースと共に中空
スピンドルの中心孔に中空スピンドル上からアルカリ易
溶解性フィラメントを挿通してフリース上にアルカリ易
溶解性フィラメントを撚係数１．５〜３．０（ただし、
撚係数は糸のインチ間撚数および英式番手の平方根の比
で定義される）で巻付けて複合糸とし、この複合糸を染
色し、得られた先染め複合糸を用いて編織し、しかるの
ちアルカリ易溶解性フィラメントを溶解除去する。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】この発明は、先染め糸からな
り、かつソフトな風合いを備えた嵩高性の編織物および
その製造方法に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】ソフトな嵩高性の編織物を製造する方法
として、天然繊維や化学繊維のステープルを用いて甘撚
り糸を紡績し、染色して先染め糸とした後に編織する方
法や、上記のステープルからなる通常の紡績糸を染色し
た後、得られた先染め糸と水溶性フィラメント糸とを解
撚方向に交撚して先染め糸を実質的に無撚糸とし、この
実質無撚の先染め糸と水溶性フィラメント糸とからなる
交撚糸を用いて編織し、しかるのち水溶性フィラメント
糸を溶解除去する方法等が知られている。

【０００３】しかしながら、甘撚りの先染め糸を用いる
方法は、紡績工程および編織工程における糸切れが多く
なって生産性が低下し、この生産性を上げるためには撚
数を多くすることが必要になり、その場合はソフト性お
よび嵩高性が低下するという問題があった。また、先染
め紡績糸と水溶性フィラメント糸の交撚糸を用いる方法
は、交撚工程を必要とし、かつ高価な水溶性フィラメン
ト糸を用いるため、コストアップになり、しかも交撚の
際に紡績時と反対向きの撚りを加えるため、先染め糸中
に異方向の撚りが混在し、そのため編織物の表面光沢が
低下するという問題があった。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】この発明は、実質的に
無撚で、異方向の撚りが混在しない先染め糸からなり、
風合いがソフトで、嵩高性に富み、しかも光沢良好な嵩
高性編織物およびその製造方法を提供するものである。

【０００５】

【課題を解決するための手段】この発明の嵩高性編織物
は、天然繊維または化学繊維からなる先染め紡績糸で編
織された嵩高性編織物において、上記の先染め紡績糸が
撚数１０回／ｍ以下の実質的に無撚で、かつ異方向の撚
りが全く混在しない紡績糸であることを特徴とする。

【０００６】そして、上記の嵩高性編織物は、ドラフト
装置の出口側に回転する中空スピンドルを設置したカバ
ースパン式精紡機のドラフト装置に天然繊維または化学
繊維のステープルからなる粗糸を供給してドラフトし、
得られたフリースと共に上記中空スピンドルの中心孔に
中空スピンドル上からアルカリ易溶解性フィラメントを
挿通してフリース上にアルカリ易溶解性フィラメントを
撚係数１．５〜３．０（ただし、撚係数は糸のインチ間
撚数および英式番手の平方根の比で定義される）で巻付
けて複合糸とし、この複合糸を染色し、得られた先染め
複合糸を用いて編織し、しかるのち上記のアルカリ易溶
解性フィラメントを溶解除去することによって製造され
る。

【０００７】上記のカバースパン式精紡機は、ローラド
ラフト装置の出口側にモータ駆動で回転する中空スピン
ドルを上下方向に設け、この中空スピンドルに巻付け糸
用のボビンを同心状に取付け、このボビンから引出され
た巻付け糸を上記ドラフト装置のフロントローラから送
出されるフリースと共に上記中空スピンドルの中心孔に
上端から挿入してフリースに巻付け、中空スピンドルの
下端から送出されるカバースパン糸をワインダーでチー
ズボビンに巻き取るようにしたものである。そして、こ
の発明では、上記の巻付け糸としてアルカリ易溶解性フ
ィラメントが用いられる。

【０００８】このアルカリ易溶解性フィラメントは、例
えば特開平７−１４５５０９号公報に記載されたポリエ
ステル繊維、すなわち、全酸成分の５〜１５モル％がイ
ソフタル酸、９５〜８５モル％がテレフタル酸であっ
て、グリコール成分が低級アルキレングリコールからな
るポリエステル中に、該ポリエステルに対して実質的に
不活性のポリアルキレングリコールを４〜１５重量％混
合してなるポリエステル繊維のフィラメントのように、
通常のポリエステル繊維に比べてアルカリ減量速度が極
めて速いポリエステル繊維のフィラメントである。な
お、上記のポリアルキレングリコールとしては、分子量
１０，０００〜２０，０００のポリエチレングリコー
ル、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコー
ル等が例示される。

【０００９】この発明に用いるアルカリ易溶解性フィラ
メントの溶解速度は、アルカリ濃度３０ｇ／ｌ、温度９
０℃の苛性ソーダ水溶液中で１５〜３０分で完全に溶解
する程度が好ましく、この溶解速度が１５分未満では、
強力が不足し、糸切れが増大して紡績工程および編織工
程での生産性が低下し、反対に３０分を超えると、上記
フィラメントの溶解除去に長時間を要して生産性が低下
する。なお、上記の溶解速度は、主としてポリアルキレ
ングリコールの混合量とフィラメントの繊度で支配され
るが、混合量は、上記のとおり４〜１５重量％、特に６
〜１３重量％が好ましく、４重量％未満では溶解速度が
遅くなり、１５重量％超では強力が不十分となる。ま
た、繊度は３デニール以下が好ましく、３デニールを超
えると、溶解速度が遅くなる。ただし、細過ぎて０．３
デニール未満になると、切断し易くなり、生産性が低下
する。

【００１０】上記のアルカリ易溶解性フィラメントは、
その複数本からなるマルチフィラメント糸の形で上記の
カバースパン式精紡機の中空スピンドル用ボビンに巻か
れて該中空スピンドルに取付けられ、その糸端が中空ス
ピンドルの上端から中心孔に導入され、上記精紡機のド
ラフト装置を通過したフリースと合糸されて中空スピン
ドルの中心孔を通過し、その間に中空スピンドルの回転
によって上記無撚のフリース上に巻付けられて複合糸と
なる。この場合、中空スピンドルの回転速度は、アルカ
リ易溶解性フィラメントがフリース上に撚係数１．５〜
３．０、好ましくは２．０〜２．５で巻付けられるよう
に設定される。ただし、この撚係数は、複合糸のインチ
間撚数および英式番手の平方根の比で定義され、上記の
撚係数が１．５未満では複合糸の強力が低くなって可紡
性が悪くなり、反対に３．０を超えると複合糸のトルク
が過大になって編織が困難になり、かつアルカリ易溶解
性フィラメントの使用量が増大し、溶解の際の無駄が多
くなる。

【００１１】一方、上記カバースパン式精紡機のドラフ
ト装置に供給される粗糸は、綿、羊毛等の天然繊維およ
びレーヨン、ポリノジック等の再生繊維を含むポリエス
テル、アクリルなど化学繊維の巻縮を付与されたステー
プルであり、その平均繊維長は２５〜５１mm、特に３０
〜４０mmが好ましく、平均繊維長が２５mm未満では斑や
強力の点で糸品質が悪化し、かつ可紡性が低下し、反対
に５１mmを超えると糸の収束性が高くなってソフト性や
嵩高性が低下する。この粗糸は、ドラフトしてフリース
とされ、上記のアルカリ易溶解性フィラメントと複合さ
れるが、複合糸の芯を構成するフリースとシースを構成
するアルカリ易溶解性フィラメントの混合比率は、１０
／９０〜３０／７０、特に２０／８０〜２５／７５が好
ましい。この混合比率が１０／９０未満では斑や強力の
点で糸品質が悪化し、かつ可紡性が低下し、反対に３０
／７０を超えるとフィラメント溶解後の編織物のソフト
性および嵩高性が不十分となる。また、上記複合糸の太
さは英式番手で２０〜５０番手が好ましい。

【００１２】上記の中空スピンドルを通過して製造され
た複合糸は、ワインダーによってチーズポビンに巻き取
られ、チーズ染色または綛染めにより所望の色に染色さ
れ、更に編織された後、得られた編織物をアルカリ溶液
に浸漬することにより、上記複合糸のシースを構成する
アルカリ易溶解性フィラメントが溶解除去され、無撚の
先染めフリースのみからなる編織物が得られる。上記ア
ルカリ溶液としては、アルカリ濃度３０〜３５ｇ／ｌ、
温度９０〜１００℃の苛性ソーダ水溶液が好ましく、濃
度が３０ｇ／ｌ未満であったり、温度が９０℃未満であ
ったりした場合は、アルカリ易溶解性フィラメントが完
全に溶解せず、反対に濃度が３５ｇ／ｌを超えたり、温
度が１００℃を超えたりした場合は、生産に無駄が多く
なり、コストが高くなる。

【００１３】上記のようにして得られた編織物は、該編
織物を構成する先染め糸が撚数１０回／ｍ以下の実質的
に無撚で、かつ異方向の撚りが全く混在しない紡績糸で
あるため、風合いがソフトで、嵩高性に富み、しかも光
沢が良好である。

【００１４】

【発明の実施の形態】カバースパン式精紡機のドラフト
装置に綿粗糸（５０〜１２５ゲレン）を供給し、２０〜
５０倍にドラフトして英式２２〜７０番手相当のフリー
スとし、中空スピンドルの上端に導入する。一方、イソ
フタル酸を１０モル％共重合した極限粘度０．６２のポ
リエチレンテレフタレートおよび平均分子量２０，００
０のポリエチレングリコールの１０／１混合物を紡糸、
延伸、熱固定して得られたアルカリ易溶解性のポリエス
テルマルチフィラメント糸（３０〜５０デニール）をボ
ビンに巻取り、このボビンを上記の中空スピンドルに取
付け、このボビンから引出した糸端を中空スピンドルの
上端に導入し、上記の精紡機の運転を開始し、上記のフ
リース上にポリエステルマルチフィラメント糸を撚係数
２．０〜２．５で巻付け、チーズボビンに巻取り、綿お
よびポリエステルの混合比率１０／９０〜３０／７０、
英式２０〜５０番手の複合糸とする。

【００１５】上記の複合糸を綛にとり、バット染料で染
色し、得られた複合先染め糸を編糸に用いて任意組織の
横編地を編成し、しかるのちアルカリ濃度３０〜３５ｇ
／ｌ、温度９０〜１００℃の苛性ソーダ水溶液に１５〜
３０分間浸漬して複合糸のシースを構成するポリエステ
ルマルチフィラメント糸を溶解除去し、洗浄、乾燥し、
更に仕上げセットを施し、異方向撚りが全く混在しない
無撚の綿糸からなるソフトな風合いで、かつ光沢に富む
嵩高性の横編地を得る。

【００１６】

【実施例】

実施例 実施形態１において、綿粗糸（７０ゲレン）をドラフト
して得られた英式３６番手相当のフリースと、アルカリ
易溶解性のポリエステルマルチフィラメント糸（３０デ
ニール２３フィラメント、熱水収縮率９．４％）とを中
空スピンドルに上端から導入して２０ｍ／分の速度で走
行させ、中空スピンドルを６０００ｒｐｍの速度で回転
させて上記のフリースにポリエステルマルチフィラメン
ト糸を撚係数２．０で巻付け、綿繊維およびアルカリ易
溶解性フィラメントの混合比率１７／８３、太さ３０番
手の複合糸を得た。この複合糸をスレン染料で２色に綛
染めし、ジャガード編み機（２６インチ、２８ゲージ）
で天竺ジャガード編地を編成し、しかるのちアルカリ濃
度３０ｇ／ｌ、温度９０℃の苛性ソーダ水溶液に３０分
間浸漬してポリエステルマルチフィラメント糸を溶解除
去し、洗浄、乾燥し、更に仕上げセットを施し、目付量
１２０ｇ／ｍ² の編地を得た。

【００１７】比較例１ 上記の実施例において、複合糸の撚係数を０．８に小さ
くする以外は、実施例と同様にして比較例１の編地を製
造した。

【００１８】比較例２ 実施例１の綿粗糸を通常の精紡機で紡績し、撚係数３．
７、英式３０番手の綿糸とし、これと水溶性ポリビニー
ルからなるマルチフィラメント糸（３０デニール）とを
上記綿糸の解撚方向に交撚して２５．７番手の複合糸と
し、以下は実施例１と同様にして上記のマルチフィラメ
ント糸を溶解して３０番手の綿糸からなる比較例２の編
地を製造した。

【００１９】比較例３ 通常の精紡機を用い、撚係数１．７で３０番手の甘撚り
綿糸を紡績し、この綿糸をそのまま染色し、実施例１と
同様にし編成した。

【００２０】上記の実施例、比較例１〜３の編糸、編地
の性能を比較し、３段階に評価した。その結果を下記の
表１に示す。ただし、良好を◎で、普通を〇で、また劣
るを×で示した。

【００２１】 表 １ 実施例 比較例１ 比較例２ 比較例３ 複合糸 番手（英式） 30 30 30 30 紡績性 ◎ × ◎ × 異方向撚りの混在 ◎ ◎ × ◎ 糸トルク ◎ ◎ 〇 ◎ 編地 編立性 ◎ × ◎ × フィラメントの溶解性 ◎ ◎ ◎ − ソフト性 ◎ ◎ ◎ ◎ 嵩高性 ◎ ◎ ◎ ◎ 風合い ◎ ◎ ◎ 〇 表面感 ◎ ◎ × 〇 光沢感 ◎ ◎ × 〇 生地強力 ◎ × ◎ ×

【００２２】表１に示すように、実施例はすべての点で
良好であったが、比較例１は、中空スピンドルによる複
合時の撚係数が小さいため、強力が低く、紡績性、編立
性および生地強力が劣っていた。また、比較例２は、複
合を解撚法で行ったため、異方向撚りか混在して糸トル
クが発生すると共に、表面感および光沢感が劣るものと
なった。また、比較例３は、撚りが甘い綿糸を単独で用
いたため、糸強力が低くなり、紡績性、編立性および生
地強力が劣り、かつ風合い、表面感および光沢感が低下
した。

【００２３】

【発明の効果】請求項１に記載された嵩高性編織物は、
天然繊維または化学繊維からなる先染め紡績糸で編織さ
れた嵩高性編織物において、上記の先染め紡績糸が撚数
１０回／ｍ以下の実質的に無撚で、かつ異方向の撚りが
全く混在しない紡績糸であるから、風合いがソフトで、
嵩高性に富み、かつ光沢が優れ、しかも請求項２に記載
された方法で容易に、かつ安価に製造することができ
る。

【００２４】請求項２に記載された発明は、中空スピン
ドルを備えたカバースパン式精紡機を用いて無撚のフリ
ースにアルカリ易溶解性フィラメントを巻付けて複合糸
とし、この複合糸を染色し、編織した後に上記のアルカ
リ易溶解性フィラメントを溶解除去する方法であるか
ら、請求項１に記載された嵩高性編織物を容易に、かつ
安価に製造することができる。

Claims (2)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 天然繊維または化学繊維からなる先染め
   紡績糸で編織された嵩高性編織物において、上記の先染
   め紡績糸が撚数１０回／ｍ以下の実質的に無撚で、かつ
   異方向の撚りが全く混在しない紡績糸であることを特徴
   とする嵩高性編織物。
2. 【請求項２】 ドラフト装置の出口側に回転する中空ス
   ピンドルを設置したカバースパン式精紡機のドラフト装
   置に天然繊維または化学繊維のステープルからなる粗糸
   を供給してドラフトし、得られたフリースと共に上記中
   空スピンドルの中心孔に中空スピンドル上からアルカリ
   易溶解性フィラメントを挿通してフリース上にアルカリ
   易溶解性フィラメントを撚係数１．５〜３．０（ただ
   し、撚係数は糸のインチ間撚数および英式番手の平方根
   の比で定義される）で巻付けて複合糸とし、この複合糸
   を染色し、得られた先染め複合糸を用いて編織し、しか
   るのち上記のアルカリ易溶解性フィラメントを溶解除去
   することを特徴とする嵩高性編織物の製造方法。