以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)は、タイヤのトレッド接地面の摩耗後の状態が、コンピュータを用いて計算される。図1は、タイヤのシミュレーション方法が実行されるコンピュータ(タイヤのシミュレーション装置)の一例を示すブロック図である。
本実施形態のコンピュータ1は、タイヤのシミュレーション装置(以下、単に「シミュレーション装置」ということがある)1Aとして構成されている。本実施形態のコンピュータ1は、入力デバイスとしての入力部2と、出力デバイスとしての出力部3と、タイヤの物理量等を計算する演算処理装置4とを含んで構成されている。
入力部2としては、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部3としては、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。演算処理装置4は、各種の演算を行う演算部(CPU)4A、データやプログラム等が記憶される記憶部4B、及び、作業用メモリ4Cを含んで構成されている。
記憶部4Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部4Bには、データ部5、及び、プログラム部6が設けられている。
データ部5は、評価対象のタイヤ及び路面に関する情報(例えば、CADデータ等)が記憶される初期データ部5A、タイヤモデル入力部5B、及び、路面モデルが入力される路面モデル入力部5Cが含まれる。さらに、データ部5には、シミュレーションの境界条件が入力される境界条件入力部5D、演算部4Aが計算した物理量等が入力される物理量入力部5E、及び、シミュレーションの終了条件等が入力される条件入力部5Fが含まれる。
プログラム部6は、演算部4Aによって実行されるプログラムである。プログラム部6には、タイヤモデルを取得するタイヤモデル取得部6A、路面モデルを取得する路面モデル取得部6B、及び、タイヤモデルの内圧充填後の形状を計算する内圧充填計算部6Cが含まれる。プログラム部6には、内圧充填後のタイヤモデルに荷重を定義する荷重負荷計算部6D、タイヤモデルの転動を計算する転動計算部6E、及び、タイヤモデルのトレッド接地面の摩耗に関連付けられた物理量を計算する物理量計算部6Fが含まれる。プログラム部6には、タイヤモデルの各トレッド節点の摩耗を表現するための移動量を決定する移動量決定部6G、各トレッド節点を移動させる移動部6H、及び、材料特性を更新する材料特性更新部6Jが含まれる。プログラム部6には、シミュレーションの終了条件やトレッド接地面の摩耗後の状態を評価する判断部6Kが含まれる。
図2は、タイヤのシミュレーション方法で(シミュレーション装置1A(図1に示す)を用いて)、摩耗量が予測されるタイヤ11の一例を示す断面図である。本実施形態では、乗用車用の空気入りタイヤが例示されるが、トラック・バスなどの重荷重用タイヤ、及び、エアレスタイヤ等、他のカテゴリーのタイヤであってもよい。
本実施形態のタイヤ11には、トレッド部12からサイドウォール部13を経てビード部14のビードコア15に至るカーカス16と、このカーカス16のタイヤ半径方向外側かつトレッド部12の内部に配されるベルト層17とが設けられている。
カーカス16は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ16Aで構成される。カーカスプライ16Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75~90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)を有している。
ベルト層17は、ベルトコード(図示省略)を、タイヤ周方向に対して例えば10~35度の角度で傾けて配列した内、外2枚のベルトプライ17A、17Bを含んで構成されている。これらのベルトプライ17A、17Bは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わされている。
タイヤ11には、トレッド部12においてベルト層17の外側に配されるトレッドゴム12Gと、サイドウォール部13においてカーカス16の外側に配されるサイドウォールゴム13Gとを含むゴム部材11Gが設けられている。
トレッド部12(トレッドゴム12G)には、タイヤ周方向に連続してのびる主溝18が設けられる。これにより、トレッド部12は、主溝18で区分された複数の陸部19が設けられる。各陸部19には、例えば、図示しない横溝等で区切られたブロックが、それぞれ設けられてもよい。
本実施形態の主溝18は、タイヤ赤道Cのタイヤ軸方向の両外側に配置される一対のセンター主溝18A、18A、及び、センター主溝18Aとトレッド接地端12tとの間に配置される一対のショルダー主溝18B、18Bを含んで構成されている。一方、本実施形態の陸部19は、一対のセンター主溝18A、18A間で区分されるセンター陸部19A、及び、センター主溝18Aとショルダー主溝18Bとで区分される一対のミドル陸部19B、19Bを含んで構成されている。さらに、陸部19には、ショルダー主溝18Bとトレッド接地端12tとで区分される一対のショルダー陸部19C、19Cが含まれる。
本明細書において、「トレッド接地端12t」とは、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した状態のタイヤ11に、正規荷重を負荷してキャンバー角0度にて平坦面に接地させたときのトレッド接地面20のタイヤ軸方向の最外端とする。
「正規リム」とは、タイヤ11が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" とする。
「正規内圧」とは、タイヤ11が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とするが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ11毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
本明細書において、タイヤ各部の寸法等は、特に断りがない場合、正規状態で測定された値として特定される。正規状態とは、タイヤ11が正規リム(図示省略)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。
図3は、タイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、複数の節点を有し、かつ、予め定められた材料特性が定義されたする有限個の要素を用いて、タイヤ11(図2に示す)を離散化したタイヤモデルが、コンピュータ1(図1に示す)に入力される(工程S1)。
本実施形態の工程S1では、先ず、図1に示されるように、初期データ部5Aに入力されているタイヤ11(図2に示す)に関する情報(例えば、輪郭データ等)が、作業用メモリ4Cに入力される。さらに、タイヤモデル取得部6Aが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、タイヤモデル取得部6Aが、演算部4Aによって実行される。
図4は、タイヤモデル21及び路面モデル25の一例を示す斜視図である。図5は、タイヤモデル21の一例を示す断面図である。図6は、図5のトレッド部22の部分拡大図である。なお、図4では、図5及び図6に示したタイヤモデル21のメッシュ(要素F(i))が、省略されて示されている。
図5に示されるように、本実施形態の工程S1では、図2に示したタイヤ11に関する情報に基づいて、タイヤ11が、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。これにより、工程S1では、タイヤモデル21が設定される。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用される。
図5及び図6に示されるように、要素F(i)には、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられる。各要素F(i)は、複数の節点31を有している。さらに、各要素F(i)は、節点31、31間をつなぐ直線状の辺32が設けられている。このような各要素F(i)には、要素番号、節点31の番号、及び、節点31の座標値などの数値データが定義される。さらに、各要素F(i)には、図2に示したタイヤ部材(トレッドゴム12Gなど)の材料特性(例えば密度、ヤング率、減衰係数、損失正接(tanδ)、及び/又は、複素弾性率E*等)などの数値データが定義される。
タイヤモデル21のトレッド部22には、主溝18(図2に示す)が再現された主溝モデル28と、陸部19が(図2に示す)再現された陸部モデル29とが設定される。陸部モデル29には、例えば、図示しない横溝モデル等で区切られたブロックモデルが設定されてもよい。
本実施形態の主溝モデル28は、図2に示したタイヤ11の主溝18と同様に、一対のセンター主溝モデル28A、28A、及び、一対のショルダー主溝モデル28B、28Bが含まれる。一方、本実施形態の陸部モデル29は、図2に示したタイヤ11の陸部19と同様に、センター陸部モデル29A、一対のミドル陸部モデル29B、29B、及び、一対のショルダー陸部モデル29C、29Cが含まれる。
タイヤモデル21には、カーカスプライ16A(図2に示す)をモデル化したカーカスプライモデル41、及び、ベルトプライ17A、17B(図2に示す)をそれぞれモデル化したベルトプライモデル41A、41Bが設定される。さらに、タイヤモデル21には、トレッドゴム12G(図2に示す)をモデル化したトレッドゴムモデル22G、及び、サイドウォールゴム13G(図2に示す)をモデル化したサイドウォールゴムモデル23Gを含むゴムモデル21Gが設定される。タイヤモデル21は、図1に示したコンピュータ1(タイヤモデル入力部5B)に入力される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、路面(図示省略)をモデル化した路面モデル25(図4に示す)が、コンピュータ1(図1に示す)に入力される(工程S2)。本実施形態の工程S2では、先ず、図1に示した初期データ部5Aに入力されている路面(図示省略)に関する情報が、作業用メモリ4Cに入力される。さらに、路面モデル取得部6Bが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、路面モデル取得部6Bが、演算部4Aによって実行される。
図4に示されるように、工程S2では、図示しない路面に関する情報に基づいて、路面が、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。これにより、工程S2では、路面モデル25が設定される。
要素G(i)は、変形不能に設定された剛平面要素からなる。この要素G(i)には、複数の節点38が設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点38の座標値等の数値データが定義される。
本実施形態では、路面モデル25として、平滑な表面を有するものが例示されたが、必要に応じて、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は、轍等の実走行路面に近似した凹凸などが設けられても良い。路面モデル25は、図1に示したコンピュータ1(路面モデル入力部5C)に入力される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、転動中のタイヤモデル21を計算する(前処理工程S3)。図7は、前処理工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の前処理工程S3では、先ず、図4及び図5に示されるように、タイヤモデル21を路面モデル25に接地させるための境界条件が定義される(工程S31)。境界条件としては、例えば、タイヤモデル21の内圧条件、負荷荷重条件L、キャンバー角、及び、タイヤモデル21と路面モデル25との摩擦係数等が設定される。さらに、境界条件としては、走行速度(転動速度V3)に対応する角速度V1、並進速度V2、及び、旋回角度(図示省略)が設定される。なお、走行速度及び並進速度V2は、タイヤモデル21が路面モデル25に接地している面での速度である。これらの条件は、図1に示したコンピュータ1(境界条件入力部5D)に入力される。
次に、本実施形態の前処理工程S3では、内圧充填後のタイヤモデル21(図5に示す)が計算される(工程S32)。工程S32では、図1に示されるように、タイヤモデル入力部5Bに入力されているタイヤモデル21、及び、境界条件入力部5Dに入力されている内圧条件が作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、内圧充填計算部6Cが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、内圧充填計算部6Cが、演算部4Aによって実行される。
工程S32では、先ず、図5に示されるように、タイヤ11のリム26(図2に示す)がモデル化されたリムモデル27によって、タイヤモデル21のビード部24、24が拘束される。さらに、タイヤモデル21は、内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて変形計算される。これにより、内圧充填後のタイヤモデル21が計算される。内圧は、例えば、タイヤ11(図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格が定めている空気圧が設定されるのが望ましい。
タイヤモデル21の変形計算は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、前記各種の条件を当てはめて運動方程式が作成され、これらが微小時間(単位時間T(x)(x=0、1、…))毎に計算される。これにより、タイヤモデル21の変形計算が行われる。このようなタイヤモデル21の変形計算(後述する転動計算を含む)は、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間T(x)については、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
次に、本実施形態の前処理工程S3では、荷重負荷後のタイヤモデル21が計算される(工程S33)。工程S33では、図1に示されるように、境界条件入力部5Dに入力されている負荷荷重条件L、キャンバー角(図示省略)及び摩擦係数が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、工程S33では、荷重負荷計算部6Dが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、荷重負荷計算部6Dが、演算部4Aによって実行される。
工程S33では、先ず、図4に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル21と、路面モデル25との接触が計算される。次に、工程S33では、負荷荷重条件L、キャンバー角(図示省略)及び摩擦係数に基づいて、タイヤモデル21の変形が計算される。これにより、工程S33では、路面モデル25に接地した荷重負荷後のタイヤモデル21が計算される。
次に、本実施形態の前処理工程S3では、転動中のタイヤモデル21が計算される(工程S34)。工程S34では、先ず、図1に示されるように、境界条件入力部5Dに入力されている角速度V1及び並進速度V2が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、工程S34では、転動計算部6Eが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、転動計算部6Eが、演算部4Aによって実行される。
工程S34では、先ず、図4に示されるように、角速度V1がタイヤモデル21に設定される。さらに、路面モデル25には、並進速度V2が設定される。これにより、路面モデル25の上を転動しているタイヤモデル21を計算することができる。
タイヤモデル21の転動条件としては、例えば、タイヤ11(図2に示す)の走行状態に応じて、自由転動、制動、駆動、及び、旋回など適宜設定することができる。これらの転動条件は、タイヤモデル21に角速度V1及びスリップ角(図示省略)が適宜定義されることで、容易に設定することができる。なお、転動条件の設定には、タイヤモデル21に前後力や横力が適宜定義されてもよい。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、トレッド接地面20(図2に示す)の摩耗に関連付けられた物理量を計算する(第1工程S4)。第1工程S4では、図5及び図6に示したタイヤモデル21の節点31のうち、タイヤモデル21のトレッド接地面33を構成する複数のトレッド節点35について、トレッド接地面20の摩耗に関連付けられた物理量(以下、単に「物理量」ということがある。)が計算される。
本実施形態の第1工程S4では、先ず、図1に示されるように、物理量計算部6Fが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、物理量計算部6Fが、演算部4Aによって実行される。
第1工程S4で計算される物理量は、各トレッド節点35(図6に示す)での摩耗エネルギーである。本実施形態の第1工程S4では、図4に示されるように、タイヤモデル21を路面モデル25に転動(本例では、1回転)させて、各トレッド節点35(図6に示す)の摩耗エネルギーEが計算される。なお、第1工程S4では、タイヤモデル21に作用する力が定常状態(安定した状態)まで転動させた後に、摩耗エネルギーEが計算されるのが望ましい。
本実施形態の第1工程S4では、路面モデル25に接地するトレッド節点35(図6に示す)において、せん断力P及びすべり量Q(図示省略)が、シミュレーションの単位時間T(x)毎に計算される。そして、第1工程S4では、せん断力P及びすべり量Qに基づいて、各トレッド節点35での摩耗エネルギーEが計算される。せん断力P、すべり量Q及び摩耗エネルギーEの計算方法等の詳細は、例えば、特開2019-91302号公報に記載のとおりである。各トレッド節点35の摩耗エネルギーEは、図1に示したコンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータ1が、各トレッド節点35の摩耗を表現するための移動量Mを決定する(第2工程S5)。第2工程S5では、先ず、図1に示されるように、物理量入力部5Eに入力されている各トレッド節点35(図6に示す)の摩耗エネルギーEが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、第2工程S5では、移動量決定部6Gが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、移動量決定部6Gが、演算部4Aによって実行される。図8(a)は、各トレッド節点35が移動する前の状態の一例を説明する図である。図8(b)は、各トレッド節点35が移動した後の状態の一例を説明する図である。
本実施形態の第2工程S5では、特開2019-91302号公報の手順と同様に、トレッド節点35の物理量の分散度V(図示省略)に基づいて、摩耗進展率A(図示省略)が決定される。そして、この摩耗進展率Aに、摩耗エネルギーEが乗じられることで、各トレッド節点35の移動量M(図8(a)に示す)が決定される。本実施形態において、移動量Mは、実際のタイヤ11(図2に示す)での摩耗量(mm)として取り扱われる。各トレッド節点35の移動量Mは、図1に示したコンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、各トレッド節点35の移動量M(図8(a)に示す)に基づいて、各トレッド節点35を移動させる(第3工程S6)。第3工程S6では、先ず、図1に示されるように、物理量入力部5Eに入力されている各トレッド節点35の移動量Mが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、第3工程S6では、移動部6Hが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、移動部6Hが、演算部4Aによって実行される。
各トレッド節点35の移動手順は、特に限定されない。本実施形態では、特開2019-91302号公報の記載に基づいて、図8(b)に示されるように、トレッド節点35と、トレッド節点35よりもタイヤ半径方向内側に位置する内側節点36とを結ぶ辺32に沿って、トレッド節点35が移動される。
図8(a)に示されるように、第3工程S6では、各トレッド節点35について、トレッド節点35から内側節点36に移動量Mの分だけ移動させたときの座標値40が計算される。そして、図8(b)に示されるように、移動後の座標値40(図8(a)に示す)が、トレッド節点35の座標値として更新される。これにより、第3工程S6では、移動量M(図8(a)に示す)に基づいて、各トレッド節点35を移動させることができる。
本実施形態の第3工程S6では、図8(b)に示されるように、移動後のトレッド節点35と内側節点36との距離L1が、予め定められた閾値以下である場合、トレッド節点35が削除されて、内側節点36が、新たなトレッド節点35として定義される。さらに、新たなトレッド節点35のタイヤ半径方向内側に位置する節点31が、新たな内側節点36として定義される。これにより、第3工程S6では、トレッド部22の摩耗をさらに進展させることができる。なお、距離L1の閾値については、例えば、求められるシミュレーション精度に応じて、適宜設定することができる。
次に、第3工程S6では、移動後のトレッド節点35、及び、新たに設定されたトレッド節点35を含む要素F(i)に基づいて、摩耗後のタイヤモデル21が構築される。本実施形態では、移動後のトレッド節点35、及び、新たに設定されたトレッド節点35に基づいて、要素F(i)の辺32が再設定される。これにより、第3工程S6では、摩耗後のタイヤモデル21(図8(b)に示す)が設定される。摩耗したタイヤモデル21は、図1に示したコンピュータ1(タイヤモデル入力部5B)に入力される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、移動量Mに基づいて、材料特性を更新する(第4工程S7)。第4工程S7では、先ず、図1に示されるように、物理量入力部5Eに入力されている各トレッド節点35の移動量M(図8(a)に示す)が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、第4工程S7では、タイヤモデル入力部5Bに入力されている摩耗したタイヤモデル21(図8(b)に示す)、及び、材料特性更新部6Jが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、材料特性更新部6Jが、演算部4Aによって実行される。図9は、第4工程S7の処理手順の一例を示すフローチャートである。
更新される材料特性は、特に限定されない。本実施形態において、更新される材料特性には、複素弾性率E*及び損失正接tanδが含まれる。
本実施形態の第4工程S7では、先ず、各トレッド節点35の移動量M(図8(a)に示す)に基づいて、タイヤ11(図2に示す)の走行距離及び走行期間の少なくとも一方が計算される(第1計算工程S21)。本実施形態において、走行距離及び走行期間は、図2に示した摩耗前のタイヤ11の形状が、現時点の摩耗したタイヤモデル21の形状(例えば、図8(b)に示す)になるまでに、タイヤ11が走行したと推定される距離又は期間である。本実施形態の第1計算工程S21では、走行距離が計算される。図10は、第1計算工程S21の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第1計算工程S21では、先ず、タイヤ11の単位走行距離あたりの摩耗量を規定する摩耗率が、コンピュータ1に入力される(工程S41)。摩耗率は、適宜設定されうる。本実施形態の工程S41では、先ず、タイヤ11(図2に示す)が装着された車両を、予め定められた走行距離(km)を走行させた後に、新品時からの摩耗量(mm)が測定される。そして、下記の式に示されるように、その摩耗量(mm)が、走行距離(km)で除されることにより、タイヤ11の単位走行距離あたりの摩耗量を規定する摩耗率(mm/km)が求められる。
摩耗率(mm/km)=摩耗量(mm)/走行距離(km)
タイヤ11の摩耗量は、適宜測定されうる。例えば、センター陸部19A(図2に示す)のタイヤ周方向の複数箇所(例えば、3~10箇所)において摩耗量がそれぞれ測定され、それらの摩耗量の平均値が求められることで、そのタイヤ11の摩耗量が求められうる。センター陸部19Aの摩耗量は、例えば、摩耗前のタイヤ11のセンター主溝18Aの溝深さから、摩耗後のタイヤ11のセンター主溝18Aの溝深さを減じることで、容易に求められうる。
本実施形態では、1つのタイヤ11の摩耗量の測定結果に基づいて、摩耗率が求められたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、同一の構成を有する複数本のタイヤ11(図2に示す)の摩耗量の測定結果に基づいて、摩耗率が求められてもよい。この場合、複数本のタイヤ11の摩耗率がそれぞれ求められた後に、それらの摩耗率の平均値が、摩耗率として特定されうる。このように、複数本のタイヤ11の摩耗量の測定結果から、摩耗率が求められることにより、各タイヤ11の実車走行の状態によってバラつきやすいタイヤ11の摩耗率を考慮することが可能となる。摩耗率は、図1に示したコンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
次に、本実施形態の第1計算工程S21では、下記の式に示されるように、移動量(mm)を摩耗率(mm/km)で除することにより、タイヤ11の走行距離(km)が計算される(工程S42)。
走行距離(km)=移動量(mm)/摩耗率(mm/km)
ところで、本実施形態において、第2工程S5で求められた移動量M(図8(a)に示す)は、タイヤモデル21が1回転したときの摩耗エネルギーに基づいて計算されている。一方、走行距離は、上述のとおり、図2に示した摩耗前のタイヤ11の形状が、現時点の摩耗したタイヤモデル21の形状(例えば、図8(b)に示す)になるまでに、タイヤ11が走行したと推定される距離である。このため、走行距離の計算に用いられる移動量は、図6に示した摩耗前のタイヤモデル21の各トレッド節点35について、現時点の摩耗したタイヤモデル21までに計算された移動量Mの合計値(以下、「総移動量N」ということがある)が採用される。なお、当初のトレッド節点35が削除されて場合には、削除されたトレッド節点35の移動量Mと、新たなトレッド節点35の移動量Mとの合計値が、総移動量Nとして採用される。
また、第2工程S5で決定された移動量M(図8(a)に示す)は、トレッド節点35毎に求められているため、各トレッド節点35の総移動量N(移動量Mの合計値)もそれぞれ異なる。例えば、これらの総移動量Nが摩耗率でそれぞれ除された場合、1つのタイヤ11に対して、複数の走行距離が計算されてしまう。このため、本実施形態の工程S42では、1つのタイヤ11に対して、1つの走行距離が計算されるように、各トレッド節点35の総移動量Nに基づいて、一つの移動量が決定される。この移動量には、例えば、各トレッド節点35の総移動量Nの平均値、中央値、最小値又は最大値等(本例では、平均値)で求めることができ、実際のタイヤ11(図2に示す)での摩耗量(代表摩耗量)として取り扱われる。また、移動量は、気温や雨天率を考慮して補正されてもよい。
工程S42では、移動量(本例では、各トレッド節点35の総移動量Nの平均値(mm))が、工程S41で決定された摩耗率(mm/km)で除される。これにより、工程S42では、図2に示した摩耗前のタイヤ11の形状が、現時点の摩耗したタイヤモデル21の形状(例えば、図8(b)に示す)になるまでに、タイヤ11が走行したと推定される距離(走行距離)が計算される。計算されたタイヤの走行距離は、図1に示したコンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
次に、本実施形態の第4工程S7では、タイヤ11の走行距離及び走行期間の少なくとも一方に基づいて、経年変化した材料特性が計算される(第2計算工程S22)。本実施形態の第2計算工程S22では、第1計算工程S21で計算された走行距離に基づいて、経年変化した材料特性が計算される。図11は、第2計算工程S22の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第2計算工程S22では、先ず、タイヤ11のトレッドゴム12Gの材料特性変化率が、コンピュータ1に入力される(工程S51)。材料特性変化率は、タイヤの実車走行距離及び実車走行期間の少なくとも一方(本例では、実車走行距離)と、材料特性との関係を規定したものである。図12は、材料特性変化率の一例を示すグラフである。図12では、複素弾性率E*の変化率が代表して示されている。
本実施形態の工程S51では、先ず、同一の構成を有するタイヤ11(図2に示す)が装着された複数の車両について、実車走行距離が互いに異なるように走行させる。そして、各車両が走行した後に、図2に示したトレッドゴム12Gの材料特性(本例では、複素弾性率E*及び損失正接tanδを含む)が測定される。なお、各タイヤ11は、同一条件(内圧、及び、荷重等)で、同一種類の車両に装着される。
各タイヤ11のトレッドゴム12G(図2に示す)の材料特性(本例では、複素弾性率E*及び損失正接tanδを含む)は、同一の測定条件に基づいて測定される。材料特性の測定には、JIS-K6394の規定に準拠して、例えば、公知の粘弾性試験装置(図示省略)が用いられる。本実施形態の粘弾性試験装置には、ネッチガボ社製の動的粘弾性測定装置「イプレクサー4000N」が用いられる。また、測定条件の一例は、次のとおりである。
初期歪:10%
動歪の振幅:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
そして、工程S51では、各タイヤ11のトレッドゴム12G(図2に示す)について、実車走行距離と、材料特性との関係(即ち、材料特性変化率)が取得される。本実施形態では、複素弾性率E*及び損失正接tanδを含む材料特性変化率が求められる。図12では、実車走行距離が大きくなるほど、材料特性(複素弾性率E*)が大きくなっている。材料特性変化率は、図1に示したコンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
次に、本実施形態の第2計算工程S22では、走行距離及び走行期間の少なくとも一方と、材料特性変化率とに基づいて、経年変化した材料特性が計算される(工程S52)。本実施形態の工程S52では、図12に示した材料特性変化率のうち、第1計算工程S21で計算された走行距離と一致する実車走行距離において、材料特性(図12では、複素弾性率E*)が取得される。この取得された材料特性(本例では、複素弾性率E*及び損失正接tanδを含む)は、摩耗前のタイヤ11の形状(図2に示す)が、現時点の摩耗したタイヤモデル21の形状(例えば、図8(b)に示す)になるまでに、経年変化した材料特性として特定される。特定された材料特性は、図1に示したコンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
次に、本実施形態の第2計算工程S22では、タイヤモデル21の各要素F(i)の材料特性が更新される(工程S53)。工程S53では、現時点の摩耗したタイヤモデル21のトレッドゴムモデル22Gの各要素F(i)の材料特性(本例では、複素弾性率E*及び損失正接tanδを含む)が、工程S52で計算された材料特性に更新される。材料特性が更新されたタイヤモデル21は、図1に示したコンピュータ1(タイヤモデル入力部5B)に入力される。
このように、本実施形態のシミュレーション方法(シミュレーション装置1A)は、移動量M(本例では、各トレッド節点35の総移動量Nの平均値(mm))に基づいて、材料特性(本例では、複素弾性率E*及び損失正接tanδを含む)を更新しうる。したがって、本実施形態のシミュレーション方法(シミュレーション装置1A)では、更新された材料特性が用いられることにより、次に実施される第1工程S4~第4工程S7において、摩耗エネルギー及び移動量Mを高い精度で計算できる。これにより、本実施形態では、トレッド接地面33の摩耗後の状態を、精度よく計算することが可能となる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータ1が、予め定められた条件を満たすか否かを判断する(工程S8)。本実施形態の工程S8では、先ず、図1に示されるように、条件入力部5Fに記憶されているシミュレーションを終了させるための条件が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、工程S8では、判断部6Kが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、判断部6Kが、演算部4Aによって実行される。
条件については、例えば、計算終了時間や、図8(b)に示したトレッド部22の摩耗量(例えば、図示しない総移動量N)など、適宜設定することができる。本実施形態の条件は、シミュレーション方法が実施される前に、条件入力部5F(図1に示す)に入力されている。
工程S8において、条件を満たすと判断された場合(工程S8で、「Y」)、次の工程S9が実施される。他方、条件を満たしていないと判断された場合(工程S8で、「N」)、摩耗したタイヤモデル21、及び、更新された材料特性に基づいて、タイヤモデル21が再定義される(工程S1)。そして、コンピュータ1によって、工程S2~工程S8(第1工程S4ないし第4工程S7を含む)が再度実施される。これにより、本実施形態では、上記の条件を満たすまで、第1工程S4ないし第4工程S7が繰り返し実施されることにより、材料特性を更新しながら、転動したトレッド接地面33の摩耗後の状態を擬似的に計算することができる。なお、第3工程S6で構築され、かつ、第4工程S7で材料物性が更新された摩耗後のタイヤモデル21がそのまま用いられる場合には、工程S1~前処理工程S3を省略して、第1工程S4~工程S8が繰り返し実施されてもよい。
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータ1が、トレッド接地面33の摩耗後の状態が良好か否かを評価する(工程S9)。本実施形態の工程S9では、図1に示されるように、タイヤモデル入力部5Bに記憶されている摩耗したタイヤモデル21(例えば、図8(b)に示す)が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、工程S9では、判断部6Kが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、判断部6Kが、演算部4Aによって実行される。
摩耗後の状態が良好か否かの評価基準については、例えば、トレッド部22の摩耗量の大きさや、所定の摩耗量に達するまでの計算ステップ数(摩耗の進展ステップ数)等に基づいて、適宜設定されうる。本実施形態では、例えば、特開2019-91302号公報の記載に基づいて、例えば、図5に示す陸部モデル29に形成されたブロックモデル(図示省略)の偏摩耗(ヒールアンドトゥ摩耗)等の大きさに基づいて、摩耗後の状態が、良好か否かが評価されている。
工程S9において、トレッド接地面33の摩耗後の状態が良好であると判断された場合(工程S9において、「Y」)、図2に示したタイヤ11の設計図(CADデータ)に基づいて、タイヤ11が製造される(工程S10)。他方、工程S9において、トレッド接地面33の摩耗後の状態が良好でないと判断された場合(工程S9において、「N」)、タイヤ11(図2に示す)が再設計され(工程S11)、工程S1~工程S9が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法(シミュレーション装置1A(図1に示す))では、経年変化する材料特性を考慮することができるため、図2に示したトレッド接地面20の摩耗後の状態が良好なタイヤ11を確実に設計することができる。
なお、トレッド接地面33の摩耗後の状態が計算されたタイヤモデル21は、例えば、路面モデル25に接地又は転動させることにより、転がり抵抗の計算や、接地面の形状、制動性能及び排水性能等の評価に用いられてもよい。これらの結果に基づいて、タイヤ11が設計(改良)されることにより、新品時から長期間に亘って、良好な性能を維持しうるタイヤ11を製造することが可能となる。
これまでの実施形態では、図10に示したの第1計算工程S21において、移動量(本例では、本例では、各トレッド節点35の総移動量Nの平均値)を、摩耗率で除することによって、タイヤの走行距離が計算されたが、このような態様に限定されない。例えば、タイヤ11の総回転数(回)と、タイヤモデル21の周長(mm)とを乗じることにより、走行距離(km)が計算されてもよい。図13は、本発明の他の実施形態の第1計算工程S21の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の第1計算工程S21では、各トレッド節点35の移動量に基づいて、タイヤ11の総回転数が計算される(回転数計算工程S43)。図14は、回転数計算工程S43の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この実施形態の回転数計算工程S43では、先ず、図2に示したタイヤ11のトレッドゴム12Gについて、単位摩耗エネルギーあたりの摩耗量を規定する単位摩耗進展率(mm/(J/m2))が、コンピュータ1に入力される(工程S61)。単位摩耗進展率は、適宜求められうる。本実施形態の工程S61では、公知の摩耗試験機を用いて、予め定められた距離を転動したタイヤ11のトレッドゴム12Gの摩耗量、及び、摩耗エネルギーが測定される。そして、下記の式に示されるように、トレッドゴム12Gの摩耗量(mm)が、摩耗エネルギー(J/m2)で除されることにより、単位摩耗進展率(mm/(J/m2))が求められる。単位摩耗進展率は、コンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
単位摩耗進展率=摩耗量/摩耗エネルギー
次に、この実施形態の回転数計算工程S43では、タイヤ1回転分の摩耗エネルギーを規定する摩耗エネルギー進展率((J/m2)/回)が、コンピュータ1に入力される(工程S62)。摩耗エネルギー進展率は、適宜求められうる。本実施形態では、上述の摩耗エネルギー測定装置を用いて、タイヤ11を少なくとも1回転させ、その1回転分の摩耗エネルギー(即ち、摩耗エネルギー進展率)が測定される。摩耗エネルギー進展率は、コンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
次に、この実施形態の回転数計算工程S43では、下記式に示されるように、移動量(mm)を、単位摩耗進展率(mm/(J/m2))、及び、摩耗エネルギー進展率((J/m2)/回)で除することで、タイヤの総回転数(回)が計算される(工程S63)。
総回転数=移動量/単位摩耗進展率/摩耗エネルギー進展率
移動量は、適宜求められうる。この実施形態の移動量は、これまでの実施形態と同様に、各トレッド節点35(図8(a)(b)に示す)の総移動量Nの平均値(mm)が用いられる。
工程S63では、先ず、上記の式のように、移動量(各トレッド節点35の総移動量Nの平均値(mm))が、単位摩耗進展率(mm/(J/m2))で除される。これにより、工程S63では、図2に示した摩耗前のタイヤ11の形状が、現時点の摩耗したタイヤモデル21の形状(例えば、図8(b)に示す)になるまでの総摩耗エネルギーが求められる。そして、上記の式のように、この総摩耗エネルギー(J/m2)が、摩耗エネルギー進展率((J/m2)/回)で除されることにより、タイヤ11の総回転数(回)が計算される。総回転数は、コンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
次に、この実施形態の第1計算工程S21では、タイヤ11の総回転数(回)と、タイヤモデル21の周長(km/回)とが乗じられることにより、走行距離(km)が計算される(走行距離計算工程S44)。周長は、タイヤモデルが1回転したときに進む距離として特定される。このような周長は、例えば、駆動時には小さくなる一方、制動時には大きくなる傾向があり、一定ではない。このような周長に基づいて、走行距離が求められることにより、駆動及び制動等を含むタイヤ11の転動条件を考慮した走行距離を求めることが可能となる。図15は、走行距離計算工程S44の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この実施形態の走行距離計算工程S44では、先ず、図4に示されるように、タイヤモデル21の転動速度V3及び角速度V1の少なくとも一方に基づいて、タイヤモデル21の周長が計算される(工程S71)。タイヤモデル21の転動速度V3(km/秒)は、単位時間(秒)あたりに走行した距離として定義される。本実施形態では、下記の式に示されるように、転動速度V3(km/秒)を、タイヤモデル21の角速度V1(rad/秒)で除し、さらに2π(rad/回)を乗じることによって、タイヤモデルの周長(km/回)が計算されうる。
タイヤモデルの周長=転動速度V3/角速度V1×2π
工程S71では、タイヤ11の走行中において、最も頻度が大きい転動速度及び角速度の少なくとも一方に基づいて、周長が計算されてもよい。これにより、工程S71では、時々刻々と変化する転動速度V3及び角速度V1のうち、最も頻度が大きい転動速度V3及び角速度V1が用いられるため、走行距離を精度よく計算することができる。また、この実施形態のシミュレーション方法において、駆動輪の摩耗後の状態が計算される場合には、駆動力が発生しているときの転動速度V3及び角速度V1の頻度が最も大きくなる。駆動力の発生時において、図2に示したタイヤ11が装着される車両(図示省略)には、空気抵抗及び転がり抵抗も作用する。したがって、このような転動速度V3及び角速度V1が用いられることにより、空気抵抗及び転がり抵抗が作用する駆動力発生時のタイヤの周長(km/回)が精度良く計算されうる。
次に、この実施形態の走行距離計算工程S44では、下記式に示されるように、回転数計算工程S43で求めたタイヤの総回転数と、工程S71で求めたタイヤモデル21の周長とが乗じられて、タイヤ11の走行距離が計算される(工程S72)。
走行距離(km)=総回転数(回)×タイヤモデルの周長(km/回)
これにより、走行距離計算工程S44では、図2に示した摩耗前のタイヤ11の形状が、現時点の摩耗したタイヤモデル21の形状(例えば、図8(b)に示す)になるまでの走行距離が計算される。計算されたタイヤの走行距離は、図1に示したコンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
そして、この実施形態の第2計算工程S22(図11に示す)では、工程S52において、図12に示した材料特性変化率のうち、工程S72(図15に示す)で計算された走行距離と一致する実車走行距離での材料特性(複素弾性率E*)が取得される。この実施形態の走行距離は、時々刻々と変化する転動速度V3及び角速度V1(図4に示す)のうち、最も頻度が大きい転動速度V3及び角速度V1に基づいて計算されるため、材料特性を精度良く計算することが可能となる。
これまでの実施形態の第2計算工程S22では、第1計算工程S21(図9に示す)で計算された走行距離に基づいて、経年変化した材料特性が計算されたが、このような態様に限定されない。例えば、第2計算工程S22(図9に示す)では、第1計算工程S21で計算される走行期間に基づいて、経年変化した材料特性が計算されてもよい。図16は、本発明のさらに他の実施形態の第1計算工程S21の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の第1計算工程S21では、タイヤ11の単位期間あたりの走行距離を規定する実車距離率(km/年)が、コンピュータ1に入力される(工程S45)。この実施形態の工程S45は、上述の工程S41及び工程S42の後に実施される。
実車距離率は、適宜設定されうる。本実施形態の工程S45では、先ず、タイヤ11(図2に示す)が装着された車両(図示省略)を、予め定められた走行期間(年)走行させたときの走行距離(km)が測定される。そして、下記の式に示されるように、走行距離(km)が走行期間(年)で除されることにより、タイヤ11の単位期間あたりの走行距離を規定する実車距離率(km/年)が求められる。
実車距離率=走行距離/走行期間
この実施形態では、1台の車両(図示省略)の走行距離に基づいて、実車距離率が求められたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、複数台の車両の走行距離に基づいて、実車距離率が求められてもよい。この場合、複数台の車両の実車距離率が求められた後に、それらの実車距離率の平均値が、実車距離率として特定されうる。実車距離率は、図1に示したコンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
次に、この実施形態の第1計算工程S21では、工程S42で計算された走行距離(km)に基づいて、タイヤ11(図2に示す)の走行期間が計算される(工程S46)。工程S46では、下記の式に示されるように、工程S42で計算された走行距離(km)が、工程S45で求められた実車距離率(km/年)で除されることにより、タイヤ11の走行期間が計算される。走行期間は、図1に示したコンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
走行期間(年)=走行距離(km)/実車距離率(km/年)
図17は、この実施形態の第2計算工程S22の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態の第2計算工程S22では、タイヤ11の実車走行期間と、材料特性との関係を規定した材料変化率が、コンピュータ1に入力される(工程S54)。図18は、本発明の他の実施形態の材料特性変化率の一例を示すグラフである。図18では、複素弾性率E*の変化率が代表して示されている。
この実施形態の工程S54では、先ず、同一の構成を有するタイヤ11(図2に示す)が装着された複数の車両について、走行期間が互いに異なるように走行させる。そして、図2に示したトレッドゴム12Gの材料特性(本例では、複素弾性率E*及び損失正接tanδを含む)がそれぞれ測定される。なお、各タイヤ11は、同一条件(内圧、及び、荷重等)で、同一種類の車両に装着される。
材料特性の測定は、これまでの実施形態と同一の手順で実施されうる。そして、工程S54では、これらのトレッドゴム12Gについて、実車走行期間と、材料特性との関係(即ち、材料特性変化率)が取得される。この実施形態では、複素弾性率E*及び損失正接tanδを含む材料特性変化率が求められる。図18では、実車走行期間が大きくなるほど、材料特性(複素弾性率E*)が大きくなっている。材料特性変化率は、図1に示したコンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。
次に、この実施形態の第2計算工程S22では、図18に示した材料特性変化率のうち、工程S46(図16に示す)で計算された走行期間と一致する実車走行期間での材料特性(図18では、複素弾性率E*)が計算される(工程S55)。この取得された材料特性が、新品時から経年変化した材料特性として特定される。特定された材料特性は、図1に示したコンピュータ1(物理量入力部5E)に入力される。そして、工程S53では、工程S55で特定された材料特性が、タイヤモデル21のトレッドゴムモデル22Gの各要素F(i)の材料特性として更新される。
このように、この実施形態では、図12に示した材料変化率(実車走行距離との関係を規定)が求められなくても、図18に示した材料変化率(実車走行期間との関係を規定)が用いられることにより、計算された走行期間から、経年変化した材料特性が求められる。
これまでの実施形態では、図8(b)に示したトレッドゴムモデル22Gの各要素F(i)の材料特性が更新されたが、このような態様に限定されない。例えば、サイドウォールゴムモデル23Gなどの他のゴムモデル21G、カーカスプライモデル41、及び、ベルトプライモデル41A、41B等の各要素F(i)の材料特性が更新されてもよい。この場合、材料特性が更新されるタイヤ11の構成部材ごと(図2に示す)に、例えば、図12及び図18に示したような材料特性変化率が求められる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図3に示した処理手順に基づいて、タイヤのトレッド接地面の摩耗後の状態が計算された(実施例1及び実施例2)。実施例1及び実施例2では、図9~図11に示した処理手順に基づいて、トレッド節点の移動量から、タイヤモデルの要素の材料特性が更新された。そして、実施例1及び実施例2では、予め定められた条件が満たされるまで、第1工程ないし第4工程が繰り返し実施された。
図19は、実車走行距離と材料特性との関係を示すグラフである。図19に示されるように、実施例1のタイヤモデルには、実施例2のタイヤモデルに比べて、材料特性変化率が小さいトレッドゴムが定義された。
比較のために、特開2019-91302号公報の記載に基づいて、タイヤのトレッド接地面の摩耗後の状態が計算された(比較例)。比較例では、実施例1及び実施例2と同様に、予め定められた条件が満たされるまで、第1工程ないし第4工程が繰り返し実施された。また、比較例では、図19に示されるように、材料特性の経時変化を考慮せずに(即ち、材料特性変化率がゼロ)、トレッド接地面の摩耗後の状態が計算された。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:215/55R17
リムサイズ:17×7J
内圧:230kPa
荷重:3.51kN
図20は、摩耗量と走行距離との関係を示すグラフである。図20に示されるように、実施例1及び実施例2は、材料物性の経時変化を考慮しない比較例に比べて、早期に摩耗した状態が計算された。このような実施例1及び実施例2の摩耗後の状態は、実際のタイヤと同様の傾向を示している。したがって、実施例1及び実施例2は、比較例に比べて、タイヤのトレッド接地面の摩耗後の状態を、精度よく計算することができた。
図19に示したように、実施例1のタイヤモデルには、実施例2のタイヤモデルに比べて、材料特性変化率が小さいトレッドゴムが定義されているため、図20に示されるように、実施例1は、実施例2に比べて、走行距離に対する摩耗量を小さく計算できた。このように、実施例1及び実施例2は、トレッドゴムの材料物性の経時変化の違いを適切に考慮することができるため、タイヤのトレッド接地面の摩耗後の状態を、精度よく計算することができた。