JP7355989B2 - 方向性電磁鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、変圧器の鉄心材料として好適な方向性電磁鋼板に関し、とくに、張力絶縁被膜と母材鋼板との間にフォルステライト系被膜以外の中間被膜であって且つ張力絶縁被膜の密着性を高めることが可能な中間被膜を有する方向性電磁鋼板に関する。
変圧器の鉄心材料として好適な方向性電磁鋼板は、一般的に、7質量%以下のSiを含有し且つGoss方位と呼ばれる{110}<001>方位に各結晶粒の結晶方位が一致するように制御された集合組織を有する母材鋼板と、この母材鋼板に絶縁性を付与するための絶縁被膜とを有する。このような方向性電磁鋼板では、二次再結晶とよばれる粒成長現象を利用して、結晶方位がGoss方位に一致するように結晶粒の配向を制御することが一般的である。
方向性電磁鋼板は、磁気特性として、圧延方向の磁束密度が高く、且つ鉄損が低いことが要求される。近年では、省エネルギーの観点から、電力損失の低減、即ち、鉄損の低減に対する要求が一層高まっている。一般的に、磁束密度を評価する指標としてB値が用いられ、鉄損を評価する指標としてW17/50値が用いられる。
従来から、母材鋼板に張力を付与することが鉄損の低減に有効であることが知られている。母材鋼板に張力を付与するための方法として、母材鋼板より熱膨張係数の小さい被膜を、母材鋼板と絶縁被膜との間に高温下で形成する方法が知られている。例えば、母材鋼板の仕上げ焼鈍工程において、母材鋼板の表面に存在する酸化物が焼鈍分離剤と反応することで生成されるフォルステライト系被膜は、母材鋼板に張力を与えることができる。このフォルステライト系被膜と母材鋼板との界面には凹凸が存在するため、この凹凸によるアンカー効果により、フォルステライト系被膜は、絶縁被膜と母材鋼板との密着性を高める中間被膜としても機能する。
特許文献20で開示された、コロイド状シリカとリン酸塩とを主体とするコーティング液を焼き付けることによって絶縁被膜を形成する方法は、母材鋼板に対する張力付与の効果が大きく、鉄損低減に有効である。したがって、仕上げ焼鈍工程で生じたフォルステライト系被膜を残した上で、リン酸塩を主体とする絶縁コーティングを施すことが、一般的な方向性電磁鋼板の製造方法となっている。なお、本願明細書では、母材鋼板に絶縁性のみならず、張力を与えることが可能な絶縁被膜を張力絶縁被膜と呼称する。
一方、近年、フォルステライト系被膜により磁壁の移動が阻害され、鉄損に悪影響を及ぼすことが明らかになってきた。方向性電磁鋼板において、磁区は、交流磁場の下では磁壁の移動を伴って変化する。この磁壁の移動がスムーズに行われることが、鉄損改善に効果的であるが、フォルステライト系被膜と母材鋼板との界面に凹凸が存在することに起因して磁壁の移動が妨げられ、その結果、張力付与による鉄損改善効果がキャンセルされて十分な鉄損改善効果が得られないことが判明した。
磁壁の移動が阻害されることを防止するために、フォルステライト系被膜と母材鋼板との界面に存在する凹凸によるアンカー効果を低減することが有効である。当然ながら、フォルステライト系被膜を形成しなければ、アンカー効果を完全に消失させることができる。
アンカー効果を低減する方法として、例えば、特許文献1~19に、脱炭焼鈍雰囲気の露点を制御することにより、脱炭焼鈍時に母材鋼板の表面に生成される酸化層において、Fe系酸化物(Fe2SiO4、FeO等)を生成させないこと、及び、焼鈍分離剤として、シリカと反応しないアルミナ等の物質を用いて、仕上げ焼鈍後の母材鋼板の表面を平滑化することが開示されている。
張力絶縁被膜をフォルステライト系被膜の上に形成した場合、フォルステライト系被膜のアンカー効果により、張力絶縁被膜の密着性は向上する。フォルステライト系被膜を除去した場合、又は、仕上げ焼鈍工程で意図的にフォルステライト系被膜を形成しなかった場合などのように、母材鋼板の表面にフォルステライト系被膜が存在しない場合、磁壁の移動を阻害する凹凸が母材鋼板の表面から消失するため、鉄損を改善させることができる。しかしながら、この場合、張力絶縁被膜が母材鋼板の表面に直接形成されることから、張力絶縁被膜の密着性が低下するという問題がある。
フォルステライト系被膜は、それ自身でも、母材鋼板に張力を付与することができるが、フォルステライト系被膜が存在しない場合、張力絶縁被膜のみで、母材鋼板に付与する所要の張力を確保する必要がある。それ故、張力絶縁被膜を必然的に厚膜化しなければならないが、その結果、母材鋼板と張力絶縁被膜との界面に、より応力が集中することになるので、張力絶縁被膜の密着性を、より一層高める必要がある。
従来の絶縁被膜形成法では、母材鋼板の表面を鏡面化することの効果を十分に引き出し得る被膜張力を達成し、かつ、絶縁被膜の密着性を十分に確保することは困難であり、方向性電磁鋼板の鉄損を十分に低減することができていなかった。そこで、張力絶縁被膜の密着性を確保する技術として、張力絶縁被膜を母材鋼板の表面に形成する前に、仕上げ焼鈍後の母材鋼板の表面に、ごく薄い酸化膜を形成する方法が、例えば、特許文献20~29にて提案された。
例えば、特許文献22には、母材鋼板の表面を鏡面化する、又は、鏡面に近い状態に平滑化する工程を経て得られた仕上げ焼鈍後の母材鋼板に、温度毎に特定の雰囲気で焼鈍を施して、母材鋼板の表面に外部酸化型の酸化膜を形成し、この酸化膜により、張力絶縁被膜と母材鋼板との密着性を確保する技術が提案されている。
特許文献23には、張力絶縁被膜が結晶質である場合において、無機鉱物質被膜(フォルステライト系被膜)の存在しない仕上げ焼鈍後の母材鋼板の表面に、非晶質酸化物の下地被膜を形成して、結晶質の張力絶縁被膜を形成する際に起きる母材鋼板の酸化、即ち、鏡面度の減退を防止する技術が提案されている。
特許文献25には、母材鋼板の表面に外部酸化型の酸化膜を形成し、その内部に粒状酸化物を形成して、張力絶縁被膜の密着性を改善する技術が提案されている。特許文献26には、母材鋼板の表面に、Fe、Al、Mn、Ti、及びCrの酸化物を50%以下の断面面積率で含むシリカ外部酸化膜を形成し、張力絶縁被膜の密着性を改善する技術が提案されている。
変圧器の鉄心として、積鉄心及び巻鉄心があることは周知であるが、近年、特に、巻鉄心で製造した変圧器に、一層の高効率化が求められている。そのため、巻鉄心用の方向性電磁鋼板には、鉄損の低減に加え、巻鉄心製造時、方向性電磁鋼板を湾曲状に塑性加工する際の張力絶縁被膜の密着性の向上が強く求められており、フォルステライト系被膜を有しない方向性電磁鋼板においても、同様に、張力絶縁被膜の密着性の向上が強く求められている。
しかし、フォルステライト系被膜を有しない方向性電磁鋼板に従来技術を適用しても、巻鉄心製造時、張力絶縁被膜の密着性を十分に確保できないことが解った。これは、巻鉄心の製造方法が変化し、方向性電磁鋼板の塑性加工(鉄心加工)において曲げ径が小さくなり、方向性電磁鋼板に厳しい塑性加工が要求されることが原因で、張力絶縁被膜の剥離が生じることによるものである。
また、巻鉄心は、方向性電磁鋼板に一定の曲率半径で曲げ加工を施し、方向性電磁鋼板を、曲げ加工部の外側に順次巻き付けて製造するが、単に、曲げ加工のみでは被膜剥離が生じない場合でも、方向性電磁鋼板を巻き付けていく過程で生じる鋼板間の摩擦力が重畳することが原因で、被膜剥離が生じることが解った。上記摩擦力の重畳による被膜剥離は、従来の張力絶縁被膜の密着性評価では知見し得なかった剥離現象であり、上記被膜剥離を抑制する必要性が高まっている。本願明細書では、母材鋼板に対する張力絶縁被膜の密着性を被膜密着性と略称する。
特開昭64-062417号公報 特開平07-118750号公報 特開平07-278668号公報 特開平07-278669号公報 特開平07-278670号公報 特開平10-046252号公報 特開平11-106827号公報 特開平11-152517号公報 特開2002-060843号公報 特開2002-173715号公報 特開2002-348613号公報 特開2002-363646号公報 特開2003-055717号公報 特開2003-003213号公報 特開2003-041320号公報 特開2003-247021号公報 特開2003-247024号公報 特開2008-001980号公報 特表2011-518253号公報 特開昭48-039338号公報 特開昭60-131976号公報 特開平06-184762号公報 特開平07-278833号公報 特開平09-078252号公報 特開2002-322566号公報 特開2002-348643号公報 特開2002-363763号公報 特開2003-293149号公報 特開2003-313644号公報
鉄損低減のため、フォルステライト系被膜の生成を意図的に抑制したり、フォルステライト系被膜を研削や酸洗等の手段で除去したり、さらに、鏡面状態となるまで平滑化した母材鋼板の表面に張力絶縁被膜を形成した場合、張力絶縁被膜には、巻鉄心製造時に必要な、曲げ加工部における高度な被膜密着性、及び、曲げ加工後、摩擦力が重畳する環境における高度な被膜密着性が要求されるが、このように方向性電磁鋼板に要求される高度な被膜密着性を従来技術によって実現することは困難である。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、張力絶縁被膜と母材鋼板との間にフォルステライト系被膜以外の中間被膜であって且つ被膜密着性を高めることが可能な中間被膜を有する方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。すなわち、本発明は、優れた被膜密着性及び磁気特性を有する方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため、張力絶縁被膜と母材鋼板との間に挟まれる中間被膜として、フォルステライト系被膜以外の被膜であって且つ被膜密着性を高めることが可能な被膜という条件を満たす被膜の化学組成及び構造について鋭意研究した。
その結果、本発明者らは、先行技術文献(例えば、特許文献22、25等)に開示された酸化珪素主体の外部酸化膜が母材鋼板の表面に形成されたとき、その外部酸化膜が、張力絶縁被膜と同じ成分を含む領域を、特定の条件を満たすように内包している場合に限り、その外部酸化膜上に形成される張力絶縁被膜の密着性が顕著に向上することを見出した。具体的には、外部酸化膜内において、張力絶縁被膜と同じ成分を含有する領域が、母材鋼板と外部酸化膜との界面から離れた状態で、前記界面に平行な方向である界面方向に断続的に存在するという条件下において、張力絶縁被膜の密着性が顕著に向上する。
本発明者らは、上記のような特定の条件を満たす外部酸化膜を、母材鋼板と張力絶縁被膜との間の中間被膜として使用することで張力絶縁被膜の密着性が向上する理由を以下のように考察した。
すなわち、上記のように、張力絶縁被膜と同じ成分を含有し且つ母材鋼板と外部酸化膜との界面から離れた状態で、前記界面に平行な方向である界面方向に断続的に存在する領域(不連続領域)を内包する外部酸化膜(酸化珪素主体の酸化物被膜)を中間被膜として使った場合、不連続領域を介して外部酸化膜と張力絶縁被膜とが互いに嵌合する構造が発現することにより、外部酸化膜と張力絶縁被膜との間の機械的結合力が強化され、その結果、張力絶縁被膜の密着性が向上すると考えられる。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1)本発明の一態様に係る方向性電磁鋼板は、母材鋼板と、張力絶縁被膜と、前記母材鋼板と前記張力絶縁被膜との間に挟まれ且つ酸化珪素を含有する中間被膜と、を備える。前記母材鋼板は、化学組成として、質量%で、C:0.100%以下、Si:0.80~7.00%、Mn:1.00%以下、酸可溶性Al:0.010~0.070%、S:0.080%以下、N:0.012%以下、B:0~0.010%、Sn:0~0.20%、Cr:0~0.50%、Cu:0~0.50%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる。前記中間被膜は、フォルステライト系被膜以外の被膜であって、前記母材鋼板と前記中間被膜との界面から離れた状態で、前記界面に平行な方向である界面方向に断続的に存在する不連続領域を内包し、 前記不連続領域は、Fe系主体の酸化物還元Feとを含みかつ前記張力絶縁被膜の成分と同じ成分を含む不連続介挿層であり、前記母材鋼板の圧延方向に直交する方向に長さLを有する断面をみた場合に、前記断面内に現れる前記不連続領域の前記界面方向の長さの合計値をΣLkとしたとき、下記(1)式で定義される前記不連続領域の線分率Mが1~50%であり、前記中間被膜の平均膜厚が10~200nmであり、前記中間被膜の膜厚方向における前記不連続領域の平均厚さが2~50nmである。
M=(ΣLk/L)×100 …(1)
)上記(1)に記載の方向性電磁鋼板において、前記母材鋼板と前記不連続領域との間の平均距離T(nm)と、前記張力絶縁被膜と前記不連続領域との間の平均距離T(nm)とが、下記(2)式を満たしていてもよい。
≧ T …(2)
)上記(1)または(2)に記載の方向性電磁鋼板において、前記母材鋼板が、前記化学組成として、質量%で、B:0.001~0.010%、Sn:0.01~0.20%、Cr:0.01~0.50%、及び、Cu:0.01~0.50%の1種または2種以上を含有していてもよい。
本発明の上記態様によれば、張力絶縁被膜と母材鋼板との間にフォルステライト系被膜以外の中間被膜であって且つ被膜密着性を高めることが可能な中間被膜を有する方向性電磁鋼板を提供することができる。すなわち、本発明の上記態様によれば、優れた被膜密着性及び磁気特性を有する方向性電磁鋼板を提供することができる。
本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の要部断面を模式的に示す図である。 母材鋼板の表面に中間被膜を形成する方法の概要を示す図である。 母材鋼板の表面に中間被膜を形成するとともに、中間被膜内に不連続領域を形成する方法の概略を示す図である。 摩擦力を負荷した張力絶縁被膜の密着性を評価する態様を示す図である。
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板1の要部断面を模式的に示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板1は、母材鋼板10と、中間被膜20と、張力絶縁被膜30とを有する。なお、図1は、母材鋼板10の圧延方向に直交する方向に長さLを有する断面で方向性電磁鋼板1をみた図である。
〔母材鋼板10の説明〕
母材鋼板10は、方向性電磁鋼板1の母材となる鋼板であり、Goss方位と呼ばれる{110}<001>方位に各結晶粒の結晶方位が一致するように制御された集合組織を有する。母材鋼板10は、化学組成として、質量%で、C:0.100%以下、Si:0.80~7.00%、Mn:1.00%以下、酸可溶性Al:0.010~0.070%、S:0.080%以下、N:0.012%以下、B:0~0.010%、Sn:0~0.20%、Cr:0~0.50%、Cu:0~0.50%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる。
以下、母材鋼板10の化学組成について詳細に説明する。以下の説明において、成分組成に係る%は、質量%を意味する。
<C:0.100%以下>
Cは、一次再結晶の制御に有効な元素であるが、磁気時効によって鉄損を増大させるので、仕上げ焼鈍前に脱炭焼鈍で除去される元素である。C含有量が0.100%を超えると、仕上げ焼鈍において鋼が相変態し、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と鉄損特性が得られないので、C含有量は0.100%以下とする。
C含有量は、少ないほど、鉄損低減の点で好ましいので、好ましくは0.045%以下、より好ましくは0.038%以下である。C含有量の下限は0%を含むが、C含有量の検出限界が0.0001%程度であり、また、C含有量が0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用上、0.0001%が実質的なC含有量の下限である。
<Si:0.80~7.00%>
Siは、母材鋼板10の電気抵抗を高めて、鉄損の低減に寄与する元素である。Si含有量が0.80%未満であると、仕上げ焼鈍において鋼が相変態して、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と鉄損特性が得られないので、Si含有量は0.80%以上とする。Si含有量の好ましい値は2.50%以上であり、Si含有量のより好ましい値は3.00%以上である。
一方、Si含有量が7.00%を超えると、母材鋼板10が脆化し、製造工程での通板性が顕著に劣化するので、Si含有量は7.00%以下とする。Si含有量の好ましい値は4.50%以下であり、Si含有量のより好ましい値は4.00%以下である。
<酸可溶性Al:0.010~0.070%>
酸可溶性Al(sol.Al)は、Nと結合して、インヒビターとして機能する(Al、Si)Nを生成し、仕上げ焼鈍での二次再結晶の進行に寄与する元素である。
酸可溶性Al含有量が0.010%未満であると、二次再結晶が十分に進行せず、鉄損特性が向上しないので、酸可溶性Al含有量は0.010%以上とする。酸可溶性Al含有量の好ましい値は0.015%以上であり、酸可溶性Al含有量のより好ましい値は0.020%以上である。
一方、酸可溶性Al含有量が0.070%を超えると、母材鋼板10が脆化し、特に、Si含有量が多い方向性電磁鋼板1では、脆化が顕著となるので、酸可溶性Al含有量は0.070%以下とする。酸可溶性Al含有量の好ましい値は0.050%以下であり、酸可溶性Al含有量のより好ましい値は0.040%以下である。
<N:0.012%以下>
Nは、Alと結合して、インヒビターとしての機能するAlNを形成する元素であるが、一方で、冷延時に、母材鋼板10の内部にブリスター(空孔)を形成する元素でもある。
N含有量が0.012%を超えると、冷延時に、母材鋼板10の内部にブリスター(空孔)が生じるうえに、母材鋼板10の強度が上昇し、製造時の通板性が悪化するので、N含有量は0.012%以下とする。N含有量の好ましい値は0.010%以下であり、N含有量のより好ましい値は0.009%以下である。
一方、NとAlとが結合して、インヒビターとして機能するAlNを形成するためには、N含有量は0.004%以上が好ましい。N含有量のより好ましい値は0.006%以上である。
<Mn:1.00%以下>
Mnは、オーステナイト形成元素であり、熱間圧延時の割れを防止するとともに、S及びSeの少なくとも一方と結合して、インヒビターとして機能するMnSを形成する元素である。
Mn含有量が1.00%を超えると、仕上げ焼鈍における二次再結晶において鋼が相変態し、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と鉄損特性が得られないので、Mn含有量は1.00%以下とする。Mn含有量の好ましい値は0.70%以下であり、Mn含有量のより好ましい値は0.40%以下である。
MnSを、二次再結晶時に、インヒビターとして活用することができるが、AlNをインヒビターとして活用する場合、MnSは必須でないので、Mn含有量の下限は0%を含む。MnSをインヒビターとして活用する場合、Mn含有量は0.02%以上とする。Mn含有量の好ましい値は0.05%以上であり、Mn含有量のより好ましい値は0.07%以上である。
<S:0.080%以下>
Sは、Mnと結合して、インヒビターとして機能するMnSを形成する元素である。S含有量が0.080%を超えると、熱間脆性の原因となり、熱延が著しく困難になるので、S含有量は0.080%以下とする。S含有量の好ましい値は0.050%以下であり、S含有量のより好ましい値は0.030%以下である。
AlNをインヒビターとして活用する場合、MnSは必須でないので、S含有量の下限は0%を含むが、MnSを、二次再結晶時のインヒビターとして活用する場合、S含有量は0.005%以上とする。S含有量の好ましい値は0.010%以上であり、S含有量のより好ましい値は0.020%以上である。
Sの一部を、Se又はSbで置き換えてもよく、その場合は、原子量比を考慮して規定した式、Seq=S+0.406・Se、又は、Seq=S+0.406・Sbで換算した値を用いる。
また、方向性電磁鋼板1の特性を向上させるために、母材鋼板10が、上記の元素に加えて、B:0.001~0.010%、Sn:0.01~0.20%、Cr:0.01~0.50%、及び、Cu:0.01~0.50%の1種又は2種以上を含有してもよい。これらのB、Sn、Cr、及びCuは、必須の元素ではないので、それぞれの含有量の下限は0%である。
<B:0.001~0.010%>
Bは、Sn、Cr、Cuとともに、被膜密着性の向上に寄与する元素である。B含有量が0.001%未満では、その向上効果が十分に得られないので、B含有量は0.001%以上とする。B含有量の好ましい値は0.002%以上であり、B含有量のより好ましい値は0.004%以上である。一方、B含有量が0.010%を超えると、母材鋼板10の強度が増加し、冷延時の通板性が低下するので、B含有量は0.010%以下とする。B含有量の好ましい値は0.008%以下であり、B含有量のより好ましい値は0.006%以下である。
<Sn:0.01~0.20%>
Snは、B、Cr、Cuとともに、被膜密着性の向上に寄与する元素である。Snの被膜密着性の向上機構は明らかでないが、Snの添加により母材鋼板10の表面の平滑度の向上が認められるので、Snは、母材鋼板10の表面の平滑化に寄与すると考えられる。
Sn含有量が0.01%未満では、平滑化の効果が十分に得られないので、Sn含有量は0.01%以上とする。Sn含有量の好ましい値は0.02%以上であり、Sn含有量のより好ましい値は0.03%以上である。一方、Sn含有量が0.20%を超えると、二次再結晶が不安定となり、磁気特性が低下するので、Sn含有量は0.20%以下とする。Sn含有量の好ましい値は0.15%以下であり、Sn含有量のより好ましい値は0.10%以下である。
<Cr:0.01~0.50%>
Crは、B、Sn、Cuとともに、被膜密着性の向上に寄与する元素である。Cr含有量が0.01%未満では、被膜密着性の向上効果が十分に得られないので、Cr含有量は0.01%以上とする。Cr含有量の好ましい値は0.05%以上であり、Cr含有量のより好ましい値は0.10%以上である。一方、Cr含有量が0.50%を超えると、Crは易酸化性元素であるため、酸化珪素を含有する中間被膜20の形成を阻害することがあるので、Cr含有量は0.50%以下とする。Cr含有量の好ましい値は0.30%以下であり、Cr含有量のより好ましい値は0.20%以下である。
<Cu:0.01~0.50%>
Cuは、B、Sn、Crとともに、被膜密着性の向上に寄与する元素である。Cu含有量が0.01%未満では、被膜密着性の向上効果が十分に得られないので、Cu含有量は0.01%以上とする。Cu含有量の好ましい値は0.05%以上であり、Cu含有量のより好ましい値は0.10%以上である。一方、Cu含有量が0.50%を超えると、熱延中、母材鋼板10が脆化するので、Cu含有量は0.50%以下とする。Cu含有量の好ましい値は0.40%以下であり、Cu含有量のより好ましい値は0.30%以下である。
母材鋼板10において、上記元素を除く残部は、Fe及び不純物である。不純物は、鋼原料から不可避的に混入する元素及び製鋼過程で不可避的に混入する元素の少なくとも一方を含み、方向性電磁鋼板1の特性を阻害しない範囲で混入が許容される元素である。
さらに、磁気特性の向上、強度、耐食性、疲労特性などの構造部材に求められる特性の向上、鋳造性や通板性の向上、スクラップ等使用による生産性の向上を目的として、母材鋼板10が、Mo、W、In、Bi、Sb、Ag、Te、Ce、V、Co、Ni、Se、Ca、Re、Os、Nb、Zr、Hf、Ta、Y、及びLaの1種又は2種以上を、合計で5.00%以下、好ましくは3.00%以下、より好ましくは1.00%以下含有してもよい。
〔中間被膜20の説明〕
中間被膜20は、母材鋼板10の表面に設けられた酸化珪素(例えばSiO)主体の外部酸化膜である。この中間被膜20は、母材鋼板10と張力絶縁被膜30との間に挟まれている。中間被膜20は、フォルステライト系被膜以外の被膜であるので、母材鋼板10と中間被膜20との界面40に凹凸はほとんど存在しない。つまり、フォルステライト系被膜を中間被膜として使用する従来の方向性電磁鋼板と比較して、本実施形態の方向性電磁鋼板1では、上記界面40の平坦度が極めて高く、交流磁場下での磁壁の移動がスムーズに行われるため、鉄損低減に寄与する。また、以下で説明するように、中間被膜20は、特定の構造を有する外部酸化膜であるため、張力絶縁被膜30の密着性向上にも寄与する。
図1に示すように、中間被膜20は、母材鋼板10と中間被膜20との界面40から離れた状態で、界面40に平行な方向である界面方向に断続的に存在する不連続領域21を内包する。それぞれの不連続領域21は、後述の張力絶縁被膜30と同じ成分を含む。図1では、隣り合う不連続領域21の間隔が一定であるように示されているが、隣り合う不連続領域21の間隔が異なる場合もある。中間被膜20の内部において不連続領域21以外の領域は、酸化珪素(例えばSiO)を主体の酸化物として含む。
<中間被膜20の化学組成>
中間被膜20は酸化珪素を主体の酸化物として含有する。酸化珪素の化学組成はSiOαである。化学的安定性の観点から、α=1.0~2.0が好ましい。α=1.5~2.0が、より好ましく、α≒2.0が、化学的安定性に加え、被膜密着性の観点から、さらに好ましい。
中間被膜20の存在及び膜厚は、方向性電磁鋼板1の断面を物理的に研磨し、研磨面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して確認することができる。酸化珪素の確認は、EDS分析等の元素分析で行うことができる。酸化珪素の結晶化温度は約1500℃で、通常の製造工程では、そこまでの高温に達しないため、結晶性の酸化珪素は形成されない。この場合、結晶回折線で酸化珪素を同定することは困難であるので、EDS分析による元素分析値の比、即ち、SiとOの原子比で確認する。
<中間被膜20の平均膜厚T:10~200nm>
中間被膜20の膜厚は、母材鋼板の焼鈍条件に依存するので、その平均膜厚Tは、特定の値に限定されないが、高度な被膜密着性を確保する観点から、10~200nmが好ましい。
中間被膜20の平均膜厚Tが10nm未満であると、母材鋼板10と中間被膜20との界面40の密着性が不十分となり、巻鉄心製造時又は他の過度な塑性加工時、及び、鋼板間に摩擦力が重畳する環境にて、張力絶縁被膜30が剥離し易くなるので、中間被膜20の平均膜厚Tは10nm以上が好ましい。中間被膜20の平均膜厚Tのより好ましい値は15nm以上であり、さらに好ましい値は25nm以上である。
一方、中間被膜20の平均膜厚Tが200nmを超えると、中間被膜20自体の凝集力が大きくなり、巻鉄心製造時又は他の過度な塑性加工時、及び、鋼板間に摩擦力が重畳する環境にて、張力絶縁被膜30が、中間被膜20内を起点に剥離し易くなるので、中間被膜20の平均膜厚Tは200nm以下が好ましい。中間被膜20の平均膜厚Tのより好ましい値は150nm以下であり、さらに好ましい値は100nm以下である。
中間被膜20の平均膜厚Tの特定方法は以下の通りである。
まず、方向性電磁鋼板1から、母材鋼板10の圧延方向に直交する断面が露出するようにサンプルを採取する。そのサンプル断面を研磨することにより、母材鋼板10と中間被膜20との界面40の長さが約10μm程度含まれる断面を現出させた後、図1に示すように、母材鋼板10の表面と張力絶縁被膜30との間の中間被膜20の平均膜厚Tを、次のように測定する。
母材鋼板10と中間被膜20との界面40に、フォルステライト系被膜を使った場合のような凹凸は存在しないが、界面40の形状が、長周期で山部と谷部が現れる波形状となっている場合が多い。同じく、張力絶縁被膜30と中間被膜20との界面50の形状も、長周期で山部と谷部が現れる波形状となっている場合が多い。
そこで、波形状を有する界面40及び界面50のそれぞれについて波中心線を引く。ここで、波曲線の平均線に平行な直線を引いたとき、この直線と波曲線で囲まれる面積が、この直線の両側で等しくなる直線を波中心線とする。これら2本の波中心線間の距離を中間被膜20の膜厚と定義する。
そして、中間被膜20の内部において、第1領域21に重ならないように、界面40に垂直な線を、界面40に平行な方向に10本以上引き、その線上で、上記定義に従う膜厚を測定し、その平均を、中間被膜20の平均膜厚Tとする。
次に、中間被膜20に内包される不連続領域21について説明する。
<不連続領域21の化学組成>
不連続領域21は、図1に示すように、中間被膜20内に部分的に形成され、中間被膜20の内部において、不連続の形態で内包されて存在する。不連続領域21は、中間被膜20及び張力絶縁被膜30の形成と同時に形成されるので、張力絶縁被膜30と同じ成分を含有する。
例えば、不連続領域21は、張力絶縁被膜30と同じ成分として、りん酸マグネシウム又はりん酸アルミニウムとクロム酸、及び、コロイダルシリカからなる絶縁被膜の成分、又は、結晶質のほう酸とアルミナ酸化物からなる絶縁被膜の成分を含有する。その組成は、断面TEM像のEDS元素分析で確認できる。不連続領域21の形成方法は後述する。
<不連続領域21の線分率M:1~50%>
不連続領域21の存在態様は、下記式(1)で定義する線分率Mで規定する。具体的には、図1に示すように、母材鋼板10の圧延方向に直交する方向に長さLを有する断面をみた場合に、その断面内に現れる不連続領域21の界面方向(界面40に平行な方向)の長さの合計値をΣLkとしたとき、下記(1)式で定義される不連続領域21の線分率Mが1~50%であることが好ましい。
M=(ΣLk/L)×100 …(1)
上記(1)式において、ΣLkは下記(1a)式で定義される。(1a)式において、Liは、長さLを有する断面内に現れるi番目の不連続領域21の界面方向の長さである(図1参照)。長さLは、少なくとも10μm程度必要である。
ΣLk=L1+L2+L3+・・+Li+・・+L …(1a)
線分率Mが1%未満であると、巻鉄心製造時又は他の過度な塑性加工時、及び、鋼板間に摩擦力が重畳する環境にて必要な被膜密着性を得ることが困難になるので、線分率Mは1%以上が好ましい。線分率Mのより好ましい値は3%以上であり、さらに好ましい値は5%以上である。
一方、線分率Mが50%を超えると、巻鉄心製造時又は他の過度な塑性加工時、及び、鋼板間に摩擦力が重畳する環境にて、不連続領域21の内部に応力が集中して、張力絶縁被膜30が剥離し易くなるので、線分率Mは50%以下が好ましい。線分率Mのより好ましい値は40%以下であり、さらに好ましい値は30%以下である。
次に、中間被膜20の膜厚方向における不連続領域21の平均厚さについて説明する。
<不連続領域21の平均厚さT:2~50nm>
中間被膜20の膜厚方向における不連続領域21の平均厚さTは、2~50nmであることが好ましい。
不連続領域21の平均厚さTを特定する方法は、中間被膜20の平均膜厚Tを特定する方法と同様である。ただし、不連続領域21は、中間被膜20内で不連続の形態で存在しているので、不連続領域21の平均厚さTを測定する間隔は、不連続領域21の厚さの凡そ2倍以上の間隔が好ましい。
不連続領域21の平均厚さTが2nm未満であると、巻鉄心製造時又は他の過度な塑性加工時、及び、鋼板間に摩擦力が重畳する環境にて必要な被膜密着性を得ることが困難になるので、不連続領域21の平均厚さTは2nm以上が好ましい。不連続領域21の平均厚さTのより好ましい値は5nm以上であり、さらに好ましい値は8nm以上である。
一方、不連続領域21の平均厚さTが50nmを超えると、巻鉄心製造時又は他の過度な塑性加工時、及び、鋼板間に摩擦力が重畳する環境にて、不連続領域21の内部に応力が集中して、同様に、張力絶縁被膜30が剥離し易くなるので、不連続領域21の平均厚さTは50nm以下が好ましい。不連続領域21の平均厚さTのより好ましい値は40nm以下であり、さらに好ましい値は35nm以下である。
次に、母材鋼板10と不連続領域21との間の平均距離T(nm)と、張力絶縁被膜30と不連続領域21との間の平均距離T(nm)との関係について説明する。
<TとTとの関係>
とTは、下記式(2)を満たすことが好ましい。
≧T ・・・(2)
図1に示すように、TとTの大小関係により、中間被膜20の膜厚方向における不連続領域21の存在位置が解かる。T≧Tであると、巻鉄心製造時又は他の過度な塑性加工時、及び、鋼板間に摩擦力が重畳する環境にて必要となる被膜密着性がより向上する。
即ち、不連続領域21が、中間被膜20内において、張力絶縁被膜30側に位置して存在することで、張力絶縁被膜30の密着性がより向上する。この理由については確認できていないが、T≧Tであると、張力絶縁被膜30が、不連続領域21を介して、中間被膜20と篏合する層構造となって、中間被膜20と張力絶縁被膜30との間の機械的結合力が強くなり、張力絶縁被膜30の密着力が向上すると考えられる。
〔張力絶縁被膜30の説明〕
次に、中間被膜20の表面に形成される張力絶縁被膜30について説明する。
<張力絶縁被膜30の化学組成>
張力絶縁被膜30として、りん酸マグネシウム又はりん酸アルミニウムと、クロム酸及びコロイダルシリカからなる絶縁被膜(特許文献20、参照)や、該絶縁被膜より高張力が得られる、結晶質のほう酸とアルミナ酸化物からなる絶縁被膜(特許文献23、参照)等を用いることができる。
<張力絶縁被膜30の平均膜厚T:0.5~10μm>
張力絶縁被膜30の膜厚は、磁気特性の改善に必要な張力、及び、鉄心における方向性電磁鋼板1の占積率等を勘案して設定するが、その平均膜厚Tは0.5~10μmが好ましい。
張力絶縁被膜30の平均膜厚Tが0.5μm未満であると、張力付与による鉄損低減効果が十分に得られないので、張力絶縁被膜30の平均膜厚Tは0.5μm以上が好ましい。張力絶縁被膜30の平均膜厚Tのより好ましい値は0.8μm以上であり、さらに好ましい値は1.5μm以上である。
一方、張力絶縁被膜30の平均膜厚Tが10μmを超えると、中間被膜20及び不連続領域21が適切に形成されていても、十分な被膜密着性が得られない場合があり、また、上記占積率が低下するので、張力絶縁被膜30の平均膜厚Tは10μm以下が好ましい。張力絶縁被膜30の平均膜厚Tのより好ましい値は8μm以下であり、さらに好ましい値は5μm以下である。
〔方向性電磁鋼板1の製造方法〕
次に、方向性電磁鋼板1の製造方法について説明する。
<製造方法>
(i)(a)仕上げ焼鈍で、鋼板表面に生成したフォルステライト等の無機鉱物質の被膜を、酸洗、研削等の手段で除去した鋼板、(b)仕上げ焼鈍で上記無機鉱物質の被膜の生成を意図的に抑制した鋼板、又は、(c)鋼板表面を鏡面光沢を呈するまで平滑化した鋼板、即ち、鋼板表面にフォルステライト系被膜が実質的に存在しない鋼板を基材(母材鋼板10)とし、
(ii)上記基材表面に、張力絶縁被膜30用の形成液を塗布して焼き付けて張力絶縁被膜30を形成する際、焼付け時の加熱及び雰囲気を適切に制御し、
(ii-1)鋼板表面を酸化して酸化珪素を主体の酸化物として含有する中間被膜20を形成するとともに、中間被膜20内に、張力絶縁被膜30と同じ成分を含む不連続領域21を形成し、さらに、
(ii-2)中間被膜20の上に張力絶縁被膜30を形成する。
フォルステライト等の無機鉱物質の被膜を酸洗、研削等の手段で除去した鋼板、及び、上記無機鉱物質の被膜の生成を意図的に抑制した鋼板は、例えば、次のように作製する。
Siを2.0~4.0質量%程度含有する珪素鋼片を熱間圧延に供して熱延鋼板とし、必要に応じ、熱延鋼板に焼鈍を施し、その後、熱延鋼板又は焼鈍熱延鋼板に、1回又は中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して、最終板厚の鋼板に仕上げ、次いで、該鋼板に脱炭焼鈍を施すとともに、一次再結晶を進行させる。脱炭焼鈍により、鋼板表面には、酸化層が形成される。
酸化層を有する鋼板の表面に、マグネシア(MgO)を主成分とする焼鈍分離剤を塗布して乾燥し、乾燥後、コイル状に巻き取って、仕上げ焼鈍(二次再結晶)に供する。仕上げ焼鈍で、鋼板表面に生成した、フォルステライト(Mg2SiO4)を主体とする無機鉱物質の被膜を、酸洗、研削等の手段で除去する。被膜除去後、好ましくは、化学研磨又は電解研磨で、鋼板表面を平滑に仕上げる。
マグネシア(MgO)を主成分とする焼鈍分離剤の代わりに、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して乾燥し、乾燥後、コイル状に巻き取って、仕上げ焼鈍(二次再結晶)に供する。仕上げ焼鈍により、フォルステライト等の無機鉱物質被膜の生成を意図的に抑制した鋼板を得ることができる。仕上げ焼鈍後、好ましくは、化学研磨又は電解研磨で、鋼板表面を平滑に仕上げる。
上記(a)~(c)の、鋼板表面にフォルステライト系被膜が実質的に存在しない鋼板(基材)の表面に、張力絶縁被膜30用の形成液を塗布して焼き付けて張力絶縁被膜30を形成する際、焼付け時の加熱及び雰囲気を適切に制御し、
(ii-1)鋼板表面を酸化して酸化珪素を主体の酸化物として含有する中間被膜20を形成するとともに、中間被膜20内に、張力絶縁被膜30と同じ成分を含む不連続領域21を形成し、さらに、
(ii-2)中間被膜20の上に張力絶縁被膜30を形成する。
最初に、鋼板表面に中間被膜20を形成する方法について説明する。
<中間被膜20の形成>
図2に、鋼板表面に中間被膜20を形成する方法の概略を示す。鋼板表面にフォルステライト系被膜が実質的に存在しない基材鋼板(工程x1:基材作製)を、高露点雰囲気で焼鈍して鋼板表面を酸化し、鋼板表面に酸化物層(Fe系主体)を形成する(工程x2:高露点焼鈍)。
鋼板表面に酸化物層(Fe系主体)を有する鋼板を、低露点雰囲気で焼鈍し、酸化物層(Fe系主体)を還元し、酸素濃度の低い鋼板側に、酸化珪素層を形成し、表面側に、“酸化物層(Fe系主体)+還元Fe層”を形成する(工程x3:低露点焼鈍)。
高露点焼鈍(工程x2)、次いで、低露点焼鈍(工程x3)を施した鋼板の表面に、張力絶縁被膜30用の形成液を塗布して焼き付けて、酸化珪素層の上に張力絶縁被膜30を形成する(工程x4:絶縁被膜形成液塗布・焼付)。
工程x4において、工程x3で生成した“酸化物層(Fe系主体)+還元Fe層”は、張力絶縁被膜30に溶解して取り込まれるので、鋼板表面の層構造は、鋼板側から、酸化珪素層(つまり中間被膜20)と、その上の張力絶縁被膜30からなる。
次に、鋼板表面に中間被膜20を形成するとともに、中間被膜20内に不連続領域21を形成する方法について説明する。
<中間被膜20と不連続領域21の形成>
図3に、鋼板表面に中間被膜20を形成するとともに、酸化珪素層中間被膜20内に不連続領域21を形成する方法の概略を示す。
鋼板表面にフォルステライト系被膜が実質的に存在しない基材鋼板(工程y1:基材作製)を、高露点雰囲気で焼鈍し、鋼板表面を酸化し、鋼板表面に酸化物層(Fe系主体)を形成する(工程y2:高露点焼鈍)。ここまでは、図2に示す工程(x1とx2)と同じであるが、次の工程y3以降が、方向性電磁鋼板1の製造において特徴的な工程である。
鋼板表面に酸化物層(Fe系主体)を有する鋼板を、低露点雰囲気で、短時間、焼鈍する(工程y3:低露点焼鈍(短時間))。工程y3の低露点焼鈍(短時間)では、焼鈍時間が短時間であるが故、鋼板側の酸化物層(Fe系主体)に含まれる酸化物(Fe系主体)及び還元Feの拡散が不十分となり、酸化珪素層の内部に、“酸化物(Fe系主体)と還元Feを含む不連続介挿層”が形成される。
このとき、酸化物層(Fe系主体)の表層に含まれているFeが一部還元されて、図2に示す方法と同様に、酸化物層(Fe系主体)の最表層に、“酸化物層(Fe系主体)+還元Fe層”が形成される。
高露点焼鈍(工程y2)、次いで、低露点焼鈍(短時間)(工程y3)を施した鋼板の表面に、張力絶縁被膜30用の形成液を塗布して焼き付けて、酸化珪素層の上に、張力絶縁被膜30を形成する(工程y4:絶縁被膜形成液塗布・焼付)。
このとき、上記“酸化物層(Fe系主体)+還元Fe層”が、図2の工程x4と同様に、張力絶縁被膜30に溶解して取り込まれる。また、酸化珪素層の内部に形成された“酸化物(Fe系主体)と還元Feを含む不連続介挿層”に、張力絶縁被膜30用の形成液が浸透していき、酸化珪素層(つまり中間被膜20)の内部に、“絶縁被膜成分を含む不連続介挿層(つまり張力絶縁被膜30と同じ成分を含有する不連続領域21)”が形成される。
“酸化物(Fe系主体)+還元Feを含む不連続介挿層”は、酸化珪素層内において、独立して存在するが、“酸化物(Fe系主体)+還元Feを含む不連続介挿層”に張力絶縁被膜30用の形成液が浸透していく現象を鑑みると、“酸化物(Fe系主体)+還元Feを含む不連続介挿層”の一部は、表面の“酸化物層(Fe系主体)+還元Fe層”と微小領域にて連結している可能性もある。
酸化珪素層の内部における“絶縁被膜成分を含む不連続介挿層”の形成は、図3に示すように、鋼板表面に、“酸化物(Fe系主体)と+還元Feを含む不連続介挿層”を内包する酸化珪素層を形成した後、張力絶縁被膜30用の形成液を塗布して焼き付けて行ってもよいし、また、鋼板表面に、張力絶縁被膜30用の形成液を塗布し、その後、高露点焼鈍(工程y2)を施し、次いで、低露点焼鈍(短時間)(工程y3)を施して行ってもよい。
鋼板表面に、張力絶縁被膜30用の形成液を塗布し、その後、高露点焼鈍、次いで、低露点焼鈍(短時間)を施して、酸化珪素層の内部に“絶縁被膜成分を含む不連続介挿層”を形成する場合、各焼鈍は、張力絶縁被膜30用の形成液を乾燥し、焼き付ける工程を兼ねることとなる。上記焼付けの温度・時間は、絶縁被膜成分の熱分解を抑制するため、650~950℃、1~300秒が好ましい。
ここで、工程y2の高露点焼鈍(以下「1段目焼鈍」ということがある。)、及び、工程y3の低露点焼鈍(短時間)(以下「2段目焼鈍」ということがある。)について説明する。
<工程y2:高露点焼鈍(1段目焼鈍)>
加熱保持温度:650~950℃
加熱保持時間:1~300秒
焼鈍雰囲気:窒素、又は、窒素+水素
雰囲気露点(T1):30~50℃
鋼板表面にフォルステライト系被膜が実質的に存在しない基材鋼板を、高露点の窒素雰囲気、又は、窒素+水素混合雰囲気で、好ましくは650~950℃に加熱保持し、鋼板表面に、酸化物層(Fe系主体)を形成する。加熱保持時間は1~300秒が好ましいが、鋼板の幅方向の均熱を確保する点で、5秒以上が好ましい。加熱保持温度までの昇温速度は特に限定されないが、5℃/秒以上が好ましく、10℃/秒以上がより好ましい。
焼鈍雰囲気は、酸化物層(Fe系主体)の過度な形成を抑制するため、窒素雰囲気、又は、窒素+水素混合雰囲気を用いる。窒素+水素混合雰囲気は、25%窒素:75%水素の雰囲気が好ましい。
雰囲気露点は、焼鈍雰囲気および焼鈍温度にもよるが、30~50℃が好ましい。雰囲気露点が、この範囲を超えると、酸化物層(Fe系主体)の形成量又は層厚が増大して、酸化物層(Fe系主体)内を拡散し鋼板表面に到達する酸素の量が減少し、次の工程y3(低露点焼鈍(短時間)[2段目焼鈍])で、酸化珪素層の内部に、“酸化物(Fe系主体)と還元Fe”を含む不連続介挿層が形成され難くなり、また、形成されても、その線分率Mが50%を超えることがある。
雰囲気露点は、窒素+水素混合雰囲気は、25%窒素:75%水素の雰囲気、焼鈍温度が650~800℃であれば、30~50℃が好ましく、焼鈍温度が750~950℃であれば、40~50℃が好ましい。
<工程y3:低露点焼鈍(短時間)(2段目焼鈍)>
加熱保持温度:800~1100℃
加熱保持時間:1~60秒
昇温速度:10~400℃/秒
焼鈍雰囲気:窒素、又は、窒素+水素
雰囲気露点(T2):-20~30℃
工程y3では、工程y2を経た鋼板を、低露点の窒素雰囲気、又は、窒素+水素混合雰囲気で、好ましくは800~1100℃に加熱して短時間保持し、工程y2で形成した酸化珪素層の内部に、“酸化物(Fe系主体)と還元Fe”を含む不連続介挿層を形成し、鋼板表面に、該不連続介挿層を内包する酸化珪素層を形成する。
加熱保持時間は、1秒以上であるが、鋼板の幅方向の均熱を確保する点、及び、不連続介挿層の層厚を2nm以上確保する点から、5秒以上が好ましく、Feの拡散を抑制し、また、不連続介挿層の層厚を50nm以下にする点から、60秒以下が好ましく、30秒以下がより好ましい。
加熱保持温度までの昇温速度は、不連続介挿層の線分率Mを1~50%に制御する点で、10℃/秒以上が好ましい。昇温速度が10℃/秒未満であると、FeとSiの相対的な拡散速度の差が小さくなって、不連続介挿層が形成され難くなり、上記線分率が1%に達しない。より好ましくは15℃/秒以上である。
昇温速度が速いと、酸化物層(Fe系主体)に含まれるFe及び酸化物の表面への拡散・酸化速度に対して、鋼板に含まれるSiの拡散・酸化速度が相対的に大きくなって、Feの拡散が遅れ、酸化物(Fe系主体)と還元Feを含む不連続介挿層が効率的に形成される。しかし、昇温速度が速すぎると、より密な酸化珪素層が形成され、その層厚は薄くなる。昇温速度は、鋼板の幅方向の均熱を確保する観点も踏まえ、400℃/秒以下が好ましい。
焼鈍雰囲気は、酸化物層(Fe系主体)+還元Fe層の過度な形成を抑制するため、窒素雰囲気、又は、窒素+水素混合雰囲気を用いる。窒素+水素混合雰囲気は、25%窒素:75%水素の雰囲気が好ましい。
雰囲気露点T2℃は、加熱温度にもよるが、-20~30℃が好ましい。工程y2の雰囲気露点T1℃との関係で、T2≦T1-20が好ましい。
“絶縁被膜成分を含む不連続介挿層”と鋼板に挟まれた酸化珪素層の平均層厚(母材鋼板10と不連続領域21との間の平均距離TA)と、張力絶縁被膜30と“絶縁被膜成分を含む不連続介挿層”に挟まれた酸化珪素層の平均層厚(張力絶縁被膜30と不連続領域21との間の平均距離TB)の関係において、TA≧TBを安定して確保する点で、雰囲気露点は低い方がよく、-20~+15℃が好ましい。
焼鈍後は、酸化珪素層、及び、“酸化物(Fe系主体)部+還元Fe”を含む不連続介挿層が変質しないように、雰囲気の酸化度(露点)を制御して、鋼板を冷却する。鋼板の酸化に影響を与える500℃までの冷却は、水素:窒素が75%:25%で、露点:-20~30℃(工程y3(2段目焼鈍)の雰囲気と同様の露点とすることで、酸化珪素層の変質を抑制することができる。)の雰囲気で行う。
冷却速度は速い方が、鋼板の酸化を抑制する点で好ましいが、冷却速度が過度に速いと、鋼板の歪み量が増大し、磁気特性が低下するので、冷却速度は5~100℃/秒が好ましい。
<工程y4:絶縁被膜形成液塗布・焼付>
液pH:0.5~4.0
塗布量:乾燥被膜厚で0.5~10μm
焼付雰囲気:水素:窒素が75%:25%
雰囲気露点:-20~40℃
焼付温度・時間:650~950℃・5~300秒、
工程y3で、鋼板表面に、“酸化物(Fe系主体)部+還元Fe”を含む不連続介挿層を内包する酸化珪素層を形成した鋼板に、張力絶縁被膜30用の形成液を塗布して焼き付けて、張力絶縁被膜30を形成する。
張力絶縁被膜30用の形成液としては、例えば、燐酸塩とコロイド状シリカを主体とする液が好ましい。張力絶縁被膜30用の形成液のpHは4.0以下が好ましい。該pHが4.0以下であると、酸化珪素層内の“酸化物(Fe系主体)部+還元Fe”を含む不連続介挿層と張力絶縁被膜30用の形成液との反応がより進行する。より好ましくは3.0以下である。
しかし、張力絶縁被膜30用の形成液のpHが低くなりすぎると、酸化珪素層及び素地鋼板が腐食されるので、張力絶縁被膜30用の形成液のpHは0.5以上が好ましい。張力絶縁被膜30用の形成液を、乾燥被膜厚で0.5~10μmとなるよう、鋼板表面に塗布して焼き付け、張力絶縁被膜30を形成する。
張力絶縁被膜30用の形成液を塗布した後の焼付けは、好ましくは、水素:窒素が75%:25%で、露点が-20~20℃の窒素-水素混合雰囲気で、650~950℃、5~300秒、加熱して行う。
1段目焼鈍(高露点焼鈍)及び2段目焼鈍(低露点焼鈍(短時間))で、酸化物(Fe系主体)部+還元Feを含む不連続介挿層の形成と張力絶縁被膜30の形成を同時に行う場合は、例えば、水素:窒素が75%:25%、露点が-20~40℃の雰囲気で、650~950℃、5~300秒、加熱する必要がある。加熱保持温度までの昇温速度は、特に限定されないが、5℃/秒以上が好ましく、10℃/秒以上がより好ましい。
昇温速度の上限は特に限定されないが、十分に被膜を硬化させる点、及び、鋼板の幅方向の均熱性を確保する点から、昇温速度は100℃/秒以下が好ましい。
塗布焼付が終了した鋼板の冷却は、同様に、鋼板の酸化に影響を与える500℃までの冷却は、水素:窒素が75%:25%、露点が-20~20℃の雰囲気で冷却するのが好ましい。冷却速度は速い方が、鋼板の表面酸化を抑制する点で好ましいが、冷却速度が過度に速いと、鋼板の歪み量が増大して、磁気特性が低下するので、5℃/秒以上が好ましい。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
<実施例1>
表1に示す成分組成の珪素鋼片を、1200℃で60分加熱して熱間圧延に供し、板厚2.30mmの熱延鋼板とし、該熱延鋼板に1080℃で180秒の熱延板焼鈍を施し、その後、冷間圧延を施して、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。該冷延鋼板に、脱炭焼鈍と窒化焼鈍を施した後、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、水素雰囲気で、1200℃の仕上げ焼鈍を施し、自然冷却して、平滑な表面の鋼板を得た。
上記鋼板に、水素:窒素が75%:25%、かつ、露点40℃の雰囲気で、700℃まで昇温し30秒保持し、1段目焼鈍(高露点焼鈍)を施した。その後、雰囲気露点を0℃に切替えて、15℃/秒で1000℃まで昇温し15秒保持し、2段目焼鈍(低露点・短時間焼鈍)を施した。次いで、2段目焼鈍と同じ雰囲気中、50℃/秒で室温まで冷却した。
その後、鋼板表面に、りん酸アルミニウムとコロイダルシリカからなる張力絶縁被膜用の形成液を、乾燥膜厚で3μmとなるよう塗布し、水素:窒素が75%:25%、かつ、露点が10℃の雰囲気で、10℃/秒の昇温速度で800℃まで昇温し30秒保持し、次いで、50℃/秒で室温まで冷却した。
<層構造>
張力絶縁被膜と同じ成分を含有する不連続領域を内包する中間被膜の化学組成及び層構造を次のように調査した。方向性電磁鋼板の圧延方向に直交する鋼板断面から、集束イオンビーム法で作製した微小試験片の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。観察は、界面方向(横幅)10μmにわたって行い、上記不連続領域の線分率Mを算出した。
また、TEMに付属のエネルギー分散型分光分析装置(EDS)で、酸化珪素由来の酸素(O)、シリコン(Si)、及び、鋼板由来の鉄(Fe)、さらに、張力絶縁被膜のりん(P)の元素分析及び定量分析を行い、化合物を同定した。また、シリコンと酸素の元素比から、酸化珪素を担うSiOαのαを求めた。αは、いずれの試料においても、凡そ2.0であった。
表2に、調査結果を示す。
<被膜密着性 曲げ>
張力絶縁被膜の被膜密着性は、評価用試料を、直径20mmの円筒に巻き付け、180°曲げた時の被膜残存面積率で評価した。
評価基準は、以下のとおりである。
◎:被膜残存面積率が95%以上(非常に優れる)
○:被膜残存面積率が90%以上95%未満(優れる)
△:被膜残存面積率が80%以上90%未満(効果がある)
×:被膜残存面積率が80%未満(効果がない)
表2に、評価結果を併せて示す。
<被膜密着性 摩擦>
摩擦力を付与した際の張力絶縁被膜の被膜密着性を評価するため、直径30mmの円筒に巻き付け、180°で、一旦、内側に曲げ、曲げの後、曲げ伸ばした試料を作製した。この試料を、図4に示すように、定盤上に固定して、試料表面に、直径10mmの鋼球を1kgfで押し付け、1mm/秒の速度で30秒スライド(30mm)させて、鋼板表面に摩擦痕を付与した(上図、参照)。この摩擦痕において剥離した被膜の最大剥離幅を評価した(下図、参照)。
評価基準は、以下のとおりである。
◎:最大剥離幅が1mm以下(非常に優れる)
○:最大剥離幅が2mm以下(優れる)
△:最大剥離幅が4mm以下(効果がある)
×:最大剥離幅は4mmを超える(効果がない)
表2に、評価結果を併せて示す。
<磁気特性>
磁気特性は、JIS C 2550に準じて評価した。磁束密度は、B8を用いて評価した。B8は、磁界の強さ800A/mにおける磁束密度で、二次再結晶の良否の判断基準となる。B8=1.80T以上を、二次再結晶したものと判断した。
表2に、評価結果を併せて示す。
Figure 0007355989000001
Figure 0007355989000002
表2において、試料No.B1~B18の発明例は、いずれも良好な被膜密着性を示している。試料No.B12、及び、B17の発明例は、B、Cr、Cu、及び、Snの添加効果が十分に発現し、特に良好な被膜密着性を示している。
試料No.b3、b5、及び、b6の比較例は、それぞれ、Si、Al、及び、Nを多量に含有するため、室温での延性が悪く、冷延が不可能であった。試料No.b8の比較例は、S量が多く、熱間での延性が悪く、熱延が不可能であった。このため、試料No.b3、b5、b6、及び、b8の比較例は、被膜密着性の評価に至らなかった。
試料No.b1、b2、b4、及び、b7の比較例では、基材鋼板の元素量が本発明の範囲を外れているため、いずれも二次再結晶せず、磁束密度が非常に低かった。二次再結晶しなかった試料は、いずれも被膜密着性が低い。二次再結晶しなかった場合、鋼板の結晶粒径が微細で、酸化層(中間被膜)の形成が好適になされなかったと考えられる。
<実施例2>
表1に示す成分組成の珪素鋼片のうち、鋼No.A6の珪素鋼片を1200℃にて60分加熱して熱間圧延に供し、板厚2.30mmの熱延鋼板とし、該熱延鋼板に1080℃にて180秒の熱延板焼鈍を施し、その後、冷間圧延を施して、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。該冷延鋼板に、脱炭焼鈍と窒化焼鈍を施し後、マグネシアを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して、水素雰囲気で、1200℃の仕上げ焼鈍を施し、そのまま自然冷却した。
鋼板表面に生成した無機質被膜を10%の塩酸水溶液で溶解除去した後、鋼板を、10%のフッ化水素酸と10%過酸化水素からなる水溶液に浸漬して、鋼板表面を化学研磨し平滑化した。
表面を平滑化した鋼板に、水素:窒素が75%:25%、かつ、露点が-20~60℃の雰囲気で、800℃まで昇温し30秒保持して、1段目焼鈍(高露点焼鈍)を施し、次いで、雰囲気露点を0~40℃に切り替え、15℃/秒で1050℃まで昇温し20秒保持し、2段目焼鈍(低露点・短時間焼鈍)を施した。次いで、同じ雰囲気中で、50℃/秒で室温まで冷却し、試料を作製した。
その後、鋼板表面に、りん酸アルミニウムとコロイダルシリカからなる張力絶縁被膜用の形成液を、乾燥膜厚が3μmとなるように塗布し、水素:窒素が75%:25%、かつ、露点が10℃の雰囲気で、10℃/秒の昇温速度で820℃まで昇温し30秒保持し、次いで、10℃/秒で冷却した。張力絶縁被膜の密着性に関する評価は、実施例1と同様の方法で行った。
結果を表3に示す。
Figure 0007355989000003
試料No.C4~C9の発明例は、いずれも、良好な被膜密着性を示している。特に、試料No.C4~C8の発明例は、不連続介挿層(不連続領域)の形成が適切に制御されており、良好な被膜密着性を示している。
試料No.C1、C2、C3、c1、c2、及び、c3の比較例は、高露点焼鈍の露点が低すぎて、不連続介挿層が形成されず、被膜密着性が悪い。試料No.c4の比較例は、不連続介挿層の線分率Mが大きすぎて、摩擦力付与時の被膜密着性が悪い。試料No.c5の比較例は、不連続介挿層の線分率Mが大きすぎるとともに、不連続介挿層の層厚が厚くなりすぎて、被膜密着性が悪い。試料No.c6の比較例は、不連続介挿層の線分率M及び層厚が適切であるが、酸化珪素層(中間被膜)の層厚が厚すぎて、被膜密着性が悪い。
本発明によれば、張力絶縁被膜と母材鋼板との間にフォルステライト系被膜以外の中間被膜であって且つ被膜密着性を高めることが可能な中間被膜を有する方向性電磁鋼板、すなわち、優れた被膜密着性及び磁気特性を有する方向性電磁鋼板を提供することができる。よって、本発明は、電磁鋼板製造産業及び電磁鋼板利用産業において利用可能性が高いものである。
1…方向性電磁鋼板、10…母材鋼板、20…中間被膜、21…不連続領域、30…張力絶縁被膜、40…母材鋼板と中間被膜との界面、50…中間被膜と張力絶縁被膜との界面

Claims (3)

  1. 母材鋼板と、
    張力絶縁被膜と、
    前記母材鋼板と前記張力絶縁被膜との間に挟まれ且つ酸化珪素を含有する中間被膜と、
    を備え、
    前記母材鋼板が、化学組成として、質量%で、
    C:0.100%以下、
    Si:0.80~7.00%、
    Mn:1.00%以下、
    酸可溶性Al:0.010~0.070%、
    S:0.080%以下、
    N:0.012%以下、
    B:0~0.010%、
    Sn:0~0.20%、
    Cr:0~0.50%、
    Cu:0~0.50%、
    を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
    前記中間被膜は、フォルステライト系被膜以外の被膜であって、前記母材鋼板と前記中間被膜との界面から離れた状態で、前記界面に平行な方向である界面方向に断続的に存在する不連続領域を内包し、
    前記不連続領域は、Fe系主体の酸化物還元Feとを含みかつ前記張力絶縁被膜の成分と同じ成分を含む不連続介挿層であり、
    前記母材鋼板の圧延方向に直交する方向に長さLを有する断面をみた場合に、前記断面内に現れる前記不連続領域の前記界面方向の長さの合計値をΣLkとしたとき、下記(1)式で定義される前記不連続領域の線分率Mが1~50%であり、
    前記中間被膜の平均膜厚が10~200nmであり、
    前記中間被膜の膜厚方向における前記不連続領域の平均厚さが2~50nmである
    ことを特徴とする方向性電磁鋼板。
    M=(ΣLk/L)×100 …(1)
  2. 前記母材鋼板と前記不連続領域との間の平均距離TA(nm)と、前記張力絶縁被膜と前記不連続領域との間の平均距離TB(nm)とが、下記(2)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
    TA ≧ TB …(2)
  3. 前記母材鋼板が、前記化学組成として、質量%で、B:0.001~0.010%、Sn:0.01~0.20%、Cr:0.01~0.50%、及び、Cu:0.01~0.50%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板。
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