JP7284367B2 - 無方向性電磁鋼板コイル及びその製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、エアコンのコンプレッサー、家電製品に使用される各種モータ、自動車においては駆動モータ、電動ターボ、電動コンプレッサー用途においてモータコアの素材となる電磁鋼板については、磁束密度が高く、鉄損が低いことが求められている。
一方、電磁鋼板の特性向上が進展するに伴い、磁気特性のばらつきが問題となっており、数1000mにも及ぶ電磁鋼板コイル内の長手位置における特性ばらつき(特性変動)の低減への要請が高まっている。
磁気特性の変動は、コイルの長手位置における磁束密度の面内平均値や鉄損の面内平均値の変動で評価されることが多い。しかし、面内の複数の方向(圧延方向および圧延直角方向、さらには圧延方向と45°の方向やその他の方向)について平均した特性値で変動を評価したのでは、全体での変動の大きさが目的に反して小さく見積もられることにもなる。このため、これまでに開発されたコイル内の特性ばらつきが小さい鋼板は、実用的に期待される効果を十分に発揮できていない。
特許文献14~18は熱延における長手位置での温度の変動を抑制することにより特性変動を小さくする技術である。一方、熱延における加工条件を制御する技術は上記の温度条件を制御する技術ほど多くはないが、対象を無方向性電磁鋼板以外のものまで広げると、特許文献19~21が挙げられる。特許文献19は方向性電磁鋼板のインヒビター形態の均一化を目的とし、長手位置の厚さを連続的に変化させたシートバーを最終的に一定板厚になるように圧延する、つまり仕上げ圧延の圧下率を長手位置で変化させる技術である。特許文献20は仕上熱延中の圧延速度、熱延仕上温度及び直送圧延の鋳造終了時間から粗圧延終了までの時間からなるパラメータ変動を一定以下に制御することで最終製品の特性変動を小さくする技術である。特許文献21は、コイル長手位置での加工条件と温度条件を含めた圧延条件の変動を抑制することにより特性変動を小さくする技術である。
前記無方向性電磁鋼板の長手方向の圧延位置0領域、圧延位置50領域及び圧延位置100領域の磁束密度B50の異方性指標B50xのばらつき指標ΔB50xが下記式(1)を満たすことを特徴とする。
ΔB50x≦0.3・・・・ 式(1)
ここで、前記無方向性電磁鋼板の圧延の際の進行方向の先端位置を0、後端位置100とし、前記無方向性電磁鋼板の全長における割合で、0~100の数値で無方向性電磁鋼板における圧延位置を規定すると、前記圧延位置0領域は圧延位置0~10の平均値、前記圧延位置50領域は圧延位置45~55の平均値、前記圧延位置100領域は圧延位置90~100の平均値である。
また、異方性指標B50x及びそのばらつきの指標ΔB50xは、圧延方向に対して、0°、22.5°、45°、67.5°、及び90°の角度の方向での、磁界強度5000A/mにおける磁束密度をそれぞれB50(0°)、B50(22.5°)、B50(45°)、B50(67.5°)、及びB50(90°)と表記した際に、下記式(2)、下記式(3)及び下記式(4)で規定される。
少なくとも1つの圧延パススケジュールにおいて、
Rv1=v50/v0、Ev1=E50/E0とすると、
下記式(7)、式(8)及び式(9)を同時に満たすことを特徴とする。
Rv1>1.0・・・式(7)
Ev1:1.0~1.3・・・式(8)
Rv1/Ev1>1.1・・・式(9)
ここで、
v0:圧延位置0領域におけるv、
E0:圧延位置0領域におけるE、
v50:圧延位置50領域におけるv、
E50:圧延位置50領域におけるE、
r:圧延ロールの直径(mm)、
tIN:無方向性電磁鋼板の入側板厚(mm)、
tOUT:無方向性電磁鋼板の出側板厚(mm)、
v:圧延ロールのロール速度(m/min)
E=(tIN-tOUT)×ln(tIN/tOUT)×v/cである。
少なくとも1つの圧延パススケジュールにおいて、
Rv2=v100/v50、Ev2=E100/E50とすると、
式(10)及び式(11)を同時に満たすことを特徴とする。
Ev2:1.0超~3.0・・・式(10)
Rv2/Ev2<1.0・・・式(11)
ここで、
v50:圧延位置50領域におけるv、
E50:圧延位置50領域におけるE、
v100:圧延位置100領域におけるv、
E100:圧延位置100領域におけるE、
r:圧延ロールの直径(mm)、
tIN:無方向性電磁鋼板の入側板厚(mm)、
tOUT:無方向性電磁鋼板の出側板厚(mm)、
v:圧延ロールのロール速度(m/min)
E=(tIN-tOUT)×ln(tIN/tOUT)×v/cである。
なお、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、特に断りの無い限り、「~」の前後に記載される数値を上限値及び下限値として含む範囲を意味する。
また、本実施の形態の製造方法に関する説明においては、「一つの圧延材」という表現を用いるが、これは、電磁鋼板の素材となる鋼材が「コイル」形状を有する以前の状態を記述するための表現である。つまり、例えば一般的な「コイル」の製造においては、長さ数mのスラブが圧延されて長さが数100m以上に形を変えた際に、コイル形状に巻き取られる。本発明では、このようなコイルの製造過程において、最終的に一つのコイルに巻き取られる鋼材の、コイルに巻き取られる前の状態を「一つの圧延材」と表現するものである。
本実施の形態の無方向性電磁鋼板コイルは、コイル長手方向(無方向性電磁鋼板(一つの圧延材)の長手方向)にわたって磁束密度の面内異方性の値が安定しており、式(1)を満たす。
ΔB50x≦0.3・・・・式(1)
B50xは、無方向性電磁鋼板(一つの圧延材)の磁束密度の面内異方性を表す指標である。
B50xは、圧延方向に対して、0°、22.5°、45°、67.5°、及び90°の角度の方向での、磁界強度5000A/mにおける磁束密度をそれぞれB50(0°)、B50(22.5°)、B50(45°)、B50(67.5°)、及びB50(90°)と表記した際に、下記式(2)及び下記式(3)で規定される。
ΔB50xは、前述のB50xのコイル内長手位置における変動の大きさを表す指標である。
ΔB50xは、コイル内長手位置におけるB50xの最大値と最小値から、以下の式(4)によって得られる。
B50xmax及びB50xminは、コイル幅(無方向性電磁鋼板の幅)の中央部において、コイル(無方向性電磁鋼板)長手方向の先端(0%の位置)から10%の位置のうちの任意の位置(一般的にはT部と呼ばれることが多い)、コイル長手方向の先端から45%の位置から55%の位置のうちの任意の位置(一般的にはM部と呼ばれることが多い)、コイル長手方向の先端から90%の位置から100%の位置(後端)のうちの任意の位置(一般的にはB部と呼ばれることが多い)の3か所で測定されたB50xのうちの、それぞれ最大値及び最小値である。
ΔB50xの値を上記範囲とするにより、コイル(無方向性電磁鋼板)全長での磁束密度の面内異方性の変動が小さくなる。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板コイルでは、コイル(無方向性電磁鋼板)長手全長にわたって、BB50(0°)及びBB50(90°)の算術平均である平均磁束密度B50(LC)が、高い方が好ましく、例えば1.64T以上が好ましい。平均磁束密度B50(LC)が1.64T以上であることにより、モータ等の回転機に適用した場合で小型高出力化が図れる。
平均磁束密度B50(LC)は、より好ましくは1.66T以上であり、さらに好ましくは1.68T以上である。また、平均磁束密度B50(LC)の上限値は、特に限定されるものではないが、製造安定性の観点では、1.90T以下が好ましく、1.80T以下がより好ましい。
本実施の形態の無方向性電磁鋼板コイルの鉄損は、低い方が好ましい。
例えば磁束密度1.5T、周波数50Hzで磁化した際の鉄損(W15/50)としては、例をあげれば、板厚0.20mm材においては、1.5W/kg以上7.5W/kg以下であることが好ましく、より好ましくは1.6W/kg以上6.5W/kg以下、さらに好ましくは1.7W/kg以上5.5W/kg以下が好ましく、板厚0.25mm材においては、1.6W/kg以上7.8W/kg以下であることが好ましく、より好ましくは1.7W/kg以上7.0W/kg以下、さらに好ましくは1.8W/kg以上6.0W/kg以下が好ましく、板厚0.30mm材においては、1.7W/kg以上7.9/kg以下であることが好ましく、より好ましくは1.8W/kg以上7.5W/kg以下、さらに好ましくは1.9W/kg以上6.5W/kg以下であることが好ましい。鉄損の下限は、製造安定性の観点から定まる。鉄損の上限は、近日高効率鉄心に求められる特性から定められる。
磁束密度及び鉄損は、JISのC2550-1に定められたエプスタイン法に従って求められる。
以下、本実施形態に係る、無方向性電磁鋼板コイルの製造方法について詳細に説明する。
本実施形態の製造方法では、まずスラブに熱間圧延(熱延)が施される。なお、本実施形態に用い得るスラブの化学組成等については、後に詳述する。
スラブは、公知の方法、例えば公知の連続鋳造により得られる。スラブの厚さは特に限定されるものではなく、現在一般的である150~300mm程度の厚さで鋳造されたスラブでもよく、近年適用が拡大しつつある100mm以下の厚さで鋳造された、いわゆる薄スラブであっても構わない。
また、熱間圧延は、鋳造後の高温のスラブをそのまま圧延(鋳造後直接圧延)してもよいし、一旦低温まで冷却した後、再加熱したうえで圧延してもよい。直接圧延する場合の圧延開始温度、または再加熱する場合の加熱温度は特に限定されるものでなく、一般的な条件を設定すれば良い。直接圧延する場合の圧延開始温度、またはスラブを再加熱する場合の温度としては、例えば、1000℃以上1250℃以下の範囲が挙げられる。
本実施の形態の製造方法で圧延スタンドの圧下条件を制御するのは、この「仕上圧延」に相当する工程となる。一般的に仕上圧延は高速で実施されることから、加工発熱を利用する本実施の形態でのEの制御を実施するには好都合である。
(a)制御の対象となる圧延スタンド
該制御の対象となる仕上圧延工程は、複数の圧延スタンドを有するが、本実施の形態の製造方法で圧延条件の制御を行う対象となるのは、最終的な仕上げ板厚をtFとしたとき、入側での圧延材の厚さが、tF×2.0以上である圧延スタンドである。
当然ではあるが、圧延は板厚が減少するプロセスなので、この条件を満足する圧延スタンドは、複数の圧延スタンドのうちの前方(圧延開始側)に配置されているものとなる。以降、この条件を満足する圧延スタンドを「制御対象スタンド」と記述することがある。
一般的な6パス(圧延パススケジュール)程度の仕上圧延においては、最終の2~3パスは、仕上圧延を完了した鋼板の形状や板厚精度を良好にする必要性から、10~30%程度の比較的低い圧下率とされることが多い。このような状況においては、最終の2~3パスは、制御対象パスからは外れるものになる。
制御対象スタンドについて板厚の下限を設ける理由は、以下で説明する、本実施の形態の製造方法の特徴でもある圧下量の制御を行う場合、板厚は厚い方が圧下量を高める、つまり(tIN-tOUT)または(tIN/tOUT)を大きくする点で有利となるためである。
また、圧延ロールによる抜熱も考慮すると、板厚が厚い方が加工発熱による鋼板の温度上昇を維持する点でも有利となる。制御対象スタンドとして適合する入側板厚の下限の目途としては、5.0mmとする。好ましくは、10mm、さらに好ましくは15mmである。
本実施の形態の製造方法では、少なくとも1つの制御対象スタンド(圧延パススケジュール)において、1つの圧延材の全長わたり式(6)で規定されるパラメータEを制御する。
Eの計算に必要となる、r、tIN、tOUT、vは、仕上圧延の圧延パススケジュールを設定するためには必須のデータであり、これらを得ることは当業者であれば容易である。
本実施の形態の製造方法において、制御対象スタンドにおける圧延条件(前記パラメータEの値)は、1つの圧延材の長手位置により変化する。この変化の状況を記述するため、まず、1つの圧延材の長手位置を以下のように規定する。
該長手位置は仕上圧延を開始する直前の圧延材について規定する。本実施の形態の製造方法を規定する仕上圧延において圧延材は一定の方向に進行する。すなわち複数配置された圧延スタンドの一方から他方に向かって方向を変えることなく進行する。この状況において、進行方向の先端を圧延位置0、後端を圧延位置100とし、圧延材の全長における割合で、0~100の数値で圧延材における圧延位置を規定する。例えば、圧延位置50は、圧延材の圧延方向(長手方向)における中央の位置である。
なお、この「圧延位置」は、スラブ、仕上圧延開始直前の圧延材、熱延コイル及び製品コイルの厚さがそれぞれ一定であれば、それぞれの形状は異なるものの相対的には同一の位置を示すものとなる。すなわち、例えば、圧延位置50は、スラブ、仕上圧延開始直前の圧延材、熱延コイル及び製品コイルのどの時点においても、それぞれにおいて圧延方向における中央の位置となる。
このように規定した圧延位置0~100の数値により、1つの圧延材の特定の長手位置における圧延条件を標記する。添付の数値が長手位置を表す数値であり、例えばE0は1つの圧延材の先端部におけるEであり、E50は当該圧延材の中央部でのEを示す。また、例えばv0は1つの圧延材の先端部におけるvであり、v50は当該圧延材の中央部でのvを示す。
まず、v(圧延ロールのロール速度)については、圧延の初期段階は、圧延材の先端では当該圧延材が進行方向の一方(後方側)でのみ圧延ロール等で固定された状態で圧延が実施されるので、圧延が不安定になりやすく、圧延材のばたつきを防止するためロール速度を高めることができない。このような状況は、圧延材の先端が後段の圧延ロールまたは巻取りコイラーで固定される状態となり、圧延材に張力をかけられるようになるまで継続し、一般的には圧延位置20前後まで低速で通板される。その後、圧延材に張力をかけながらロール速度を高めていく。この制御は、一般的に「ズームアップ」として知られている。ズームアップは一般的には圧延位置50になるより前に終了する。それ以降は、生産性を考慮したほぼ一定のロール速度で通板される。
一方、特定の圧延スタンドにおいては、rはもちろん、tIN、tOUTについては圧延中に変化させることなく、圧延位置0~100にわたり、基本的に一定値として制御されている。このため、パラメータEの値はvの変化のみに応じて図1と同様に変化し、模式的に図2のような変化となる。なお、図2において、縦軸はパラメータEを示し、横軸は圧延位置を示す。
また、上記の「圧延温度」の挙動は、特定の圧延スタンドを最終スタンドとし、温度をスタンド出側温度とする、いわゆる「仕上温度」の挙動として説明されることも多い。
本実施の形態の製造方法では、上記Eの値を、1つの圧延材の圧延中に適切に制御することを特徴とする。その制御は、上記のような従来製法において生じていた不可避的な圧延条件の変化の様相に対応して、圧延材の長手位置に関して、2つの領域に分けて行う。
なお、以下で説明する条件は、上記「制御対象スタンド(制御対象圧延パススケジュール)」の少なくとも一つで満足すれば本実施の形態の効果を得ることが可能である。また、以下の(d1)で説明する規定と(d2)で説明する規定については、どちらか一方を満足するだけでも本実施の形態において有効である。
さらに、(d1)で説明する規定と(d2)で説明する規定の両方を満足し、かつ制御対象スタンドが複数存在する場合、それらは同一の制御対象スタンド(制御対象圧延パススケジュール)で満足する必要はなく、別々の制御対象スタンド(制御対象圧延パススケジュール)でそれぞれ満足すれば本実施の形態の効果を得ることが可能である。
前述のように圧延位置の先端部を含む圧延材の前方部は、圧延位置の中央部に向けてロール速度が増加する(ズームアップ)。本実施の形態においては、この圧延位置領域について、ロール速度の変化の影響を緩和するようにEを変化させる。本実施の形態においては、この変化を、圧延位置0領域及び圧延位置50領域におけるロール速度vとパラメータEによって規定する。
ここで圧延位置について「領域」としたのは、圧延においては不可避的に圧延条件の局所的な変動が発生する、または必要となることがあるため、圧延位置を点で特定すると条件のばらつきが大きくなることを考慮したものである。本実施の形態では、圧延位置0領域の値として圧延位置0~10の平均値を採用する。また、圧延位置50領域の値として圧延位置45~55の平均値を採用する。
つまり、v0:圧延位置0領域におけるv、E0:圧延位置0領域におけるE、v50:圧延位置50領域におけるv、E50:圧延位置50領域におけるEを使用する。
つまり、
Rv1=v50/v0、Ev1=E50/E0として、
Rv1>1.0・・・式(7)かつ、
Ev1:1.0~1.3・・・式(8)かつ、
Rv1/Ev1>1.1・・・式(9)
を満足するように、ロール速度v及びパラメータEを制御する。
すなわち、ΔB50xが増大する一因は、Eの変動であるため、Eの変化量を特定範囲内に制限するものである。好ましくは、Ev1は、1.2以下、さらに好ましくは1.1以下である。この値が1.0未満になることは原理的には可能であるが、本実施の形態はズームアップの実施を前提としており、ロール速度の上昇の影響だけを考えればEv1は必然的に1.0超となるため、これをあえてEの変動が最小である1.0よりも小さくして、Eの変動を大きくするような状況は対象としない。
Rv1/Ev1は、好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.4以上である。上限は特に限定しないが、後述するようにRv1/Ev1を大きくするには、1パスでの圧下率を大きく変化させることにもなるため、圧延性等との兼ね合いで上限が決定されることとなる。
前述のように圧延材における圧延位置の後方部は、圧延位置の後端部に向けて圧延温度が低下する(サーマルランダウン)。本実施の形態においては、この圧延位置領域について、サーマルランダウンの影響を緩和するようにEを制御する。本実施の形態においては、この変化を、圧延位置50領域及び圧延位置100領域におけるロール速度vとパラメータEによって規定する。
圧延位置50領域については前述の通りで、さらに、圧延位置100領域の値として圧延位置90~100の平均値を採用する。つまり、v100:圧延位置100領域におけるv、E100:圧延位置100領域におけるEを使用する。
本実施の形態においては、少なくとも1つの圧延パススケジュールにおいて、v100とv50の比をRv2としたとき、E100とE50の比をEv2として、Rv2<Ev2となるように制御する。
つまり、
Rv2=v100/v50、Ev2=E100/E50 として、
Ev2:1.0超~3.0・・・式(10) かつ、
Rv2/Ev2<1.0・・・式(11)
を満足するように、ロール速度v及びパラメータEを制御する。
Rv2/Ev2は、好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.85以下、さらに好ましくは0.8以下である。下限は特に限定しないが、Rv2/Ev2を小さくするには、1パスでの圧下率を大きく変化させることにもなるため、圧延性等との兼ね合いで下限が決定されることとなる。
本実施の形態の製造方法では、1つの圧延材の圧延中にロール速度vの影響を除外して、Eの値を変化させること、すなわち式(9)及び/または式(11)の充足が特徴であることは前述の通りである。以下では、その具体的な方法について説明する。
Eは式(6)で規定した通り、v、r、tIN、及びtOUTの関数として定義される。このため、vの影響を除外した変化を起こすためには、r、tIN、またはtOUTの変化が必要である。このうち、圧延ロール径rを圧延中に変化させることは現実的とは言えない。よって、本実施の形態の製造方法では、tIN、及び/またはtOUTを変化させる。その制御は単純であり、式(6)を考慮し、Eを変化させるようにtIN、及び/またはtOUTを変化させればよい。
これらのtIN、及び/またはtOUTは絶対値として限定することは適切ではない。しかし、圧延材料の種類、圧下量により影響される材質、ミル能力などを考慮し、Eが上記範囲内に入るように決定することは、現在、一つの圧延材で固定することが前提とは言え、その圧下配分を制御している当業者であれば困難なことではない。例えば、一般的な仕上圧延でのパススケジュールとして、ロール径750mmの場合、tIN=13mm、tOUT=8mm、圧延速度が、274mpmから347mpmに変化する際のEの変化を完全に補償するとして、tINを一定とするなら、tOUT=8.6mmとすれば、圧延速度が変化してもEは不変とできる。他の具体例は実施例にて提示する。
上記Eの変化について、従来製法(図2参照)との比較で模式的に図4に示す。この状況を簡単に説明する。なお、図4において、縦軸はパラメータEを示し、横軸は圧延位置を示す。
(f1)圧延位置0~50
この圧延位置領域では、基本的に圧延位置におけるEの変化に伴い、圧延位置におけるB50xの変動が発生する。B50xの変動を抑制するため、Eの変化(Ev1)を小さくする。この圧延位置領域はズームアップ(1つの圧延材においてロール速度vが増大する)領域であり、これを補償するよう、圧下量については一つの圧延材において徐々に減少するように制御することで、この圧延位置町域でのEの変化を小さくする。例えば圧延初期の圧下量を大きくし、圧延の進行に伴い圧下量を徐々に小さくしていく制御が挙げられる。
この圧延位置領域では、不可避的に発生するサーマルランダウン(圧延材の後端部に向けての温度降下)のため圧延位置におけるB50xの変動が発生する。本実施の形態ではロール速度及び/または圧下量を一つの圧延材において徐々に増大させて、この圧延位置町域でのEの変化を大きくする。例えば上記(f1)で説明した圧延材の前半部で圧延の進行に伴い徐々に小さくしていった圧下量を、後半部では、圧延の進行に伴い圧下量を徐々に大きくしていく制御が挙げられる。
上記Eの制御は、「制御対象スタンド」において実行され、それは基本的に圧延の前段に制限されることは前述の通りである。ところで仕上圧延は、基本的は圧延開始時の板厚(粗バー厚さ)と圧延終了時の板厚(目的とする熱延仕上板厚)が決められて実行される。このため、制御対象スタンドにおいて上記説明のように圧下量を変化させた場合、制御対象スタンド以外のスタンドにおいて最終板厚が目的とする板厚になるように調整することが必要である。注目する制御対象スタンドにおける圧下量がひとつの圧延材の長手位置において先端から後端に向かって徐々に増加する場合、それ以外のスタンドにおける圧下量はひとつの圧延材の長手位置において先端から後端に向かって徐々に低減するものとなる。
従来から圧延材の長手位置における材質変動を抑制するために温度制御が行われていることは前述の通りである。これらの温度制御は基本的に析出物の均質化、結晶粒径の均質化には有効であると考えられるが、結晶方位の制御に対しての効果は十分とは言えない。
一方、本実施の形態におけるEの制御は熱間圧延の加工条件(圧下量)を圧延材の長手位置において能動的に変化させるため、結晶回転自体が圧延材の長手位置で変化する。このため、圧延材の長手位置における結晶方位の変化が顕著になり、結果としコイル長手位置における磁束密度の面内異方性の変動に強い影響を及ぼすと考えられる。このような効果は、圧延材の長手位置により圧下量を変化させるという本実施の形態(発明)の思想によらなければ発現しにくいものと考えられる。
熱間圧延の仕上温度をこれらの範囲に制御することで、熱間圧延後に巻き取ったコイルの析出物の粗大化と結晶組織の成長を効果的に行うことが可能となる。これにより成品(無方向性電磁鋼板コイル)のB50xを低減する効果が促進される。
保定を行う場合の保定時間の上限は、コイル保定により鋼板表面に酸化物が過度に形成されるのを防止する観点から定められる。保定時間の下限は、保定効果により鋼板の結晶組織の粒成長が得られる限度の時間として定められる。
熱間圧延を終了した熱延板は、必要に応じ、公知の範囲での熱延板焼鈍を施してもよい。
例えば熱延板焼鈍温度は、好ましくは800℃以上1150℃以下、より好ましくは825℃以上1100℃以下、さらに好ましくは850℃以上1050℃以下である。
例えば熱延板焼鈍時間は、好ましくは0秒(最高温度に到達後すぐに降温する)以上180秒、より好ましくは5秒以上150秒、さらに好ましくは10秒以上120秒以下である。
熱延板焼鈍温度と熱延板焼鈍時間が下限を満たさない場合、その効果が不十分であり、熱延板焼鈍温度と熱延板焼鈍時間が上限を超えると、焼鈍時に表面において酸化が進行し、酸洗性に課題が生じるので、上限を超えることは好ましくない。
熱間圧延を終了した熱延板は、または必要に応じて熱延板焼鈍を施した熱延板に冷間圧延を実施する。
冷間圧延工程としては、本実施形態の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではない。
なお、一般的に冷間圧延に先立って、酸洗が実施される。
仕上焼鈍工程においては、冷間圧延工程後の圧延板に仕上焼鈍を施す。
仕上焼鈍条件としては、本実施形態の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではない。ただし、焼鈍時の酸化を防止して鉄損増大を防ぐとともに結晶粒を制御して鉄損を低減する目的から、700℃以上1100℃以下の温度域に保持することが好ましく、中でも750℃以上1050℃以下の温度域に保持することがより好ましい。さらに770℃以上1020℃の温度域に保持することが好ましい。
また、その際の保持時間としては、0.1秒以上120秒以下保持することが好ましく、1秒以上90秒以下保持することがより好ましく、5秒以上60秒以下保持することがさらに好ましい。仕上焼鈍の保持時間の下限は、再結晶を進行させるために必要かつ、鉄損を低減させるために定まる。上限は、仕上焼鈍の効果が飽和するとともに鋼板表面に酸化物が生じ鉄損を増大させることを防止するために定まる。
本実施形態の無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記仕上焼鈍工程後に、上記仕上焼鈍工程により得られた鋼板表面にコーティング液を塗布し、焼き付けることによって、絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程を有していてもよい。絶縁被膜形成条件及びコーティング液は、通常用いられる材料により公知の方法によって行われる。
次いで、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法に用いられるスラブ、及び該製造方法によって得られる無方向性電磁鋼板、並びに本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の化学組成について説明する。
スラブの化学組成としては、本実施形態の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではなく、例えば、一般的な無方向性電磁鋼板における母鋼板の化学組成を用いることができる。また、本実施形態に係る製造方法によって得られる無方向性電磁鋼板や本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の化学組成についても、スラブと同様である
上記化学組成としては、質量%でSi:0.1%以上3.5%以下、Mn:0.2%以上1.3%以下、及びAl:0%以上1.5%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなるものが好ましい。
以下、各成分の好ましい含有量を説明する。以下において、各成分の含有量は質量%での値である。
Si含有量は、0.1%以上3.5%以下とすることが好ましい。
Mn含有量は、0.2%以上1.3%以下とすることが好ましい。
本実施形態におけるスラブ、及び本実施形態によって得られる成品(無方向性電磁鋼板コイル)は、Alを意図的に含有させていないものでもよいし、Alを意図的に含有させたものでもよい。Al含有量は、0%以上1.5%以下とすることが好ましい。
残部は、Fe及び不純物である。
本実施形態の製造方法におけるスラブ、及び本実施形態によって得られる成品、並びに本実施形態に係る無方向性電磁鋼板における各元素の含有量は、元素の種類に応じて、一般的な方法を用いて、一般的な測定条件により測定することができる。
・仕上熱延のコイル各位置の速度及び冷却パターンの組合せ
粗バーをそれぞれ所定の仕上板厚に仕上げるにあたり、実施例として、圧延位置0領域の圧延速度v0から圧延位置50領域までに圧延速度v50に増速し、サーマルランダウンを防止するため以降はさらに圧延位置100領域の圧延速度v100まで速度を上昇させて圧延を行った。
また、比較例として、圧延位置0領域から圧延位置50領域までに圧延速度v50に増速し、その後は一定速度の圧延速度v50で圧延位置100領域まで圧延を行った。
また、この仕上熱延条件に、
粗バーヒータ不使用及び仕上熱延機後面のROT(Run Out Table)での注水パターンを一定とする条件1、
粗バーヒータを使用し仕上熱延開始温度を圧延位置0領域と圧延位置100領域を圧延位置50領域よりも高め、かつ、ROTの注水パターンを一定とする条件2、
粗バーヒータを不使用とし、かつ、ROTではコイル巻取開始温度を圧延位置0領域を高めに、圧延位置50領域を低く、圧延位置100領域を高めになるように制御する注水パターンのUパターンを組み合わせた条件3、
粗バーヒータを上記と同様に使用し、かつ、ROTでは注水パターンのUパターンを組み合わせた条件4、
の4種類の条件を実施例の仕上熱延条件と比較例の仕上熱延条件に組み合わせた。
その組合せを鋼No.をXとした場合にコイル番号X-1からコイル番号X-8として下記表1に示す。
ここで、実施例及び比較例において評価に用いる各種の特性について説明する。
・試料採取位置について、
コイル全長の圧延位置0領域から圧延位置100領域を等分割し、両端を含む10カ所から等間隔の位置を選定し、磁気特性測定試料を得た。
無方向性電磁鋼板の鉄損としては、エプスタイン試料に切断し、磁束密度1.5T、周波数50Hzで磁化した際の鉄損W15/50(W/kg)を用いる。測定はJISのC2550-1に定められたエプスタイン法で行う。
磁界強度5000A/mにおける磁束密度B50の測定は、以下の方法によって行う。エプスタイン試料を切断し、JISのC2550-1に定められたエプスタイン法に従って、その試料を用いて磁気測定を行う。
下記表2に示した質量%の成分及び残部Feからなるスラブを1150℃で1時間加熱し、粗圧延で35mm厚のシートバーに仕上げた。
仕上熱延条件を表3と表4に示す。
なお、本実施例の条件を満たす欄を濃い網掛け、満たさない欄を点網掛けで示し、また、条件を変更した欄を薄い網掛けで示す。
また、表3において、F1~F7はそれぞれ圧延スタンドにおける圧延パススケジュール名を示し、F1~F7の順で順次圧延が行われる。
これに対し、比較例の仕上圧延条件では、同じ領域の範囲においてEv1及びRv1/Ev1についてそれぞれ式(8)及び式(9)を満たしていないことがわかる。
また、本実施例の仕上圧延条件では、圧延位置50領域から圧延位置100領域に至った場合のF1パスからF2パスの条件から求まるEv2及びRv2/Ev2について、それぞれ式(10)及び式(11)の条件を満たしていることがわかる。
ところが、
これに対し、比較例の仕上圧延条件では、同じ領域の範囲においてRv2/Ev2が式(11)を満たしていないことがわかる。
これに基づき、式(1)を満たすかどうかの判定を行った。結果を下記表5に示す。
下記表6に示した質量%の成分及び残部Feからなるスラブを1100℃で1時間加熱し、粗圧延で45mm厚のシートバーに仕上げた。
これに対し、比較例の仕上圧延条件では、同じ領域の範囲においてEv1よびRv1/Ev1についてそれぞれ式(8)及び式(9)を満たしていないことがわかる。
また、本実施例の仕上圧延条件では、圧延位置50領域から圧延位置100領域に至った場合のF1パスからF2パスの条件から求まるEv2及びRv2/Ev2について、それぞれ式(10)及び式(11)の条件を満たしていることがわかる。
これに対し、比較例の仕上圧延条件では、同じ領域の範囲においてRv2/Ev2が式(11)を満たしていないことがわかる。
これに基づき、式(1)を満たすかどうかの判定を行った。結果を表9に示す。
下記表10に示した質量%の成分及び残部Feからなるスラブを1100℃で1時間加熱し、粗圧延で45mm厚のシートバーに仕上げた。
これに対し、比較例の仕上圧延条件では、同じ領域の範囲においてF3パスとF4パスの条件から求まるEv1よびRv1/Ev1についてそれぞれ式(8)及び式(9)とも満たしていないことがわかる。
また、本実施例の仕上圧延条件では、圧延位置50領域から圧延位置100領域に至った場合のF3パスからF4パスの条件から求まるEv2及びRv2/Ev2について、それぞれ式(10)及び式(11)の条件を満たしていることがわかる。
これに対し、比較例の仕上圧延条件では、同じ領域の範囲においてF3パスとF4パスの条件から求まるRv2/Ev2が式(11)を満たしていないことがわかる。
これに基づき、式(1)を満たすかどうかの判定を行った。結果を下記表13に示す。
Claims (4)
- 質量%で、0.1%≦Si≦3.5%、0.2%≦Mn≦1.3%、0≦Al≦1.5%及び残部Feと不可避不純物からなる無方向性電磁鋼板を巻き取った無方向性電磁鋼板コイルにおいて、
前記無方向性電磁鋼板の長手方向の圧延位置0領域、圧延位置50領域及び圧延位置100領域の磁束密度の異方性指標B50xのばらつき指標ΔB50xが下記式(1)を満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板コイル。
ΔB50x≦0.30・・・・ 式(1)
ここで、前記無方向性電磁鋼板の圧延の際の進行方向の先端位置を0、後端位置100とし、前記無方向性電磁鋼板の全長における割合で、0~100の数値で無方向性電磁鋼板における圧延位置を規定すると、前記圧延位置0領域は圧延位置0~10の平均値、前記圧延位置50領域は圧延位置45~55の平均値、前記圧延位置100領域は圧延位置90~100の平均値である。
また、異方性指標B50x及びそのばらつきの指標ΔB50xは、圧延方向に対して、0°、22.5°、45°、67.5°、及び90°の角度の方向での、磁界強度5000A/mにおける磁束密度をそれぞれB50(0°)、B50(22.5°)、B50(45°)、B50(67.5°)、及びB50(90°)と表記した際に、下記式(2)、下記式(3)及び下記式(4)で規定される。
- 請求項1に記載の無方向性電磁鋼板コイルを製造する無方向性電磁鋼板コイルの製造方法であって、
少なくとも1つの熱間圧延の圧延パススケジュールにおいて、
Rv1=v50/v0、Ev1=E50/E0とすると、
下記式(7)、式(8)及び式(9)を同時に満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板コイルの製造方法。
Rv1>1.0・・・式(7)
Ev1:1.0~1.3・・・式(8)
Rv1/Ev1>1.1・・・式(9)
ここで、
v0:圧延位置0領域におけるv、
E0:圧延位置0領域におけるE、
v50:圧延位置50領域におけるv、
E50:圧延位置50領域におけるE、
r:圧延ロールの直径(mm)、
tIN:無方向性電磁鋼板の入側板厚(mm)、
tOUT:無方向性電磁鋼板の出側板厚(mm)、
v:圧延ロールのロール速度(m/min)
E=(tIN-tOUT)×ln(tIN/tOUT)×v/cである。
- 請求項1に記載の無方向性電磁鋼板コイルを製造する無方向性電磁鋼板コイルの製造方法であって、
少なくとも1つの熱間圧延の圧延パススケジュールにおいて、
Rv2=v100/v50、Ev2=E100/E50とすると、
式(10)及び式(11)を同時に満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板コイルの製造方法。
Ev2:1.0超~3.0・・・式(10)
Rv2/Ev2<1.0・・・式(11)
ここで、
v50:圧延位置50領域におけるv、
E50:圧延位置50領域におけるE、
v100:圧延位置100領域におけるv、
E100:圧延位置100領域におけるE、
r:圧延ロールの直径(mm)、
tIN:無方向性電磁鋼板の入側板厚(mm)、
tOUT:無方向性電磁鋼板の出側板厚(mm)、
v:圧延ロールのロール速度(m/min)
E=(tIN-tOUT)×ln(tIN/tOUT)×v/cである。
- 請求項2及び請求項3を備えたことを特徴とする無方向性電磁鋼板コイルの製造方法。
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