JP7176221B2 - 無方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
また、自動車に搭載する電池容量には制限があることから、モータにおけるエネルギー損失を低くする必要がある。そのため、無方向性電磁鋼板には、さらなる低鉄損化が求められている。
特許文献2~4には含有させたPを冷間圧延の前に粒界に偏析させておくことで、冷延および再結晶焼鈍後の結晶方位を制御し磁気特性を改善する技術が開示されている。
特に、特許文献11では、仕上げ焼鈍時の加熱速度を5℃/sec~40℃/secとすることが有効であることが示されている。また、特許文献12では、740℃までの加熱速度を100℃/sec以上に早めることでセミプロセス用の磁気特性を改善した技術が開示されている。
(1)質量%で、C:0.0030%以下、Si:0.01%~3.50%、Al:0.001%~2.500%、Mn:0.01%~3.00%、P:0.180%以下、S:0.0030%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、板厚をtとしたときに、鋼板表面~1/4tの位置の部分(1/4t部)における{210}<001>方位の集積度が6以上30以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
前記熱間圧延の仕上げ圧延を500~800℃の温度範囲で行い、かつ、最終圧延スタンドの圧延形状比を4以上8以下で仕上げ圧延を行い、
前記熱延板焼鈍を800℃以上1000℃以下で行い、熱延板焼鈍後の平均粒径を50~100μmとし、
前記冷間圧延の全圧下率を75~95%で冷間圧延を行い、
前記仕上げ焼鈍を均熱温度800~1200℃、均熱時間5~120secで行い、
前記仕上げ焼鈍後の板厚をtとしたときに、鋼板表面~1/4tの位置の部分(1/4t部)における{210}<001>方位の集積度が6以上30以下である
ことを特徴とする(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
なお、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
(化学成分)
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板における化学組成の限定理由について述べる。なお、鋼板の成分組成について、「%」は「質量%」である。
Cは、鉄損を高める成分であり、磁気時効の原因ともなるので、Cの含有量は少ないほどよい。そのため、Cの含有量は0.0030%以下とする。C量の好ましい上限は0.0025%以下であり、より好ましくは0.0020%以下である。Cの含有量の下限は特に限定されないが、工業的な純化技術を考慮すると実用的にはCの含有量は0.0001%以上であり、製造コストも考慮すると0.0005%以上が好ましい。
Siは含有量が増えると、磁束密度が低下する。また、硬度の上昇を招いて、打ち抜き加工性が劣化する。さらに、無方向性電磁鋼板の製造工程そのものにおいても、冷延等の作業性が低下し、コスト高となる。そのため、Siの含有量の上限は3.50%以下とする。好ましくは3.20%以下、より好ましくは3.00%以下である。一方、Siは鋼板の電気抵抗を増大させて渦電流損を減少させ、鉄損を低減する作用を有する。そのため、Si量の下限は0.01%以上とする。ましくは0.10%以上、より好ましくは0.50%以上、さらに好ましくは1.00%以上である。
Alは、鉱石、耐火物などから不可避的に含有され、また脱酸にも使用される。これを考慮して下限を0.001%以上とする。また、Alは、Siと同様に、電気抵抗を増大させて渦電流損を減少させることにより、鉄損を低減する作用のある成分である。そのため、Alは0.200%以上含有させてもよい。一方、Alの含有量が増加すると、飽和磁束密度が低下して磁束密度の低下を招くため、Al量の上限は2.500%以下とする。好ましくは2.000%以下である。
Mnは電気抵抗を増大させて渦電流損を減少させるとともに、結晶粒成長に有害なMnS等の微細硫化物の析出を抑制する。これらの目的のためにMnを0.01%以上含有させる。好ましくは0.15%以上である。しかし、Mnの含有量が増加すると、焼鈍時の結晶粒成長性が低下し、鉄損が増大する。そのため、Mnの含有量の上限は3.00%以下とする。好ましくは2.50%以下、より好ましくは2.00%以下である。
Pは磁束密度を低下させることなく強度を高める作用がある。しかし、Pを過剰に含有させると鋼の靱性を損ない、鋼板に破断が生じやすくなる。そのため、P量の上限は0.180%とする。好ましくは0.150%以下、より好ましくは0.120%以下である。P量の下限は特に限定しないが、製造コストも考慮すると0.001%以上となる。
また前述のように、Pは表面層における{210}<001>方位の集積度を高めるために有効な元素である。モータコアとして積層した後、および歪取り焼鈍した後であっても、優れた磁気特性を有する効果(以下、「特定の磁気特性」と称する場合がある。)をより効果的に得る点で、P量の下限は0.021%以上が好ましく、より好ましくは0.041%以上、さらに好ましくは0.061%以上が。
Sは、MnS等の硫化物の微細析出により、仕上げ焼鈍時等における再結晶および結晶粒成長を阻害するので、0.0030%以下とする。S含有量の好ましい上限は0.0020%以下、より好ましくは0.0015%以下である。Sの含有量の下限は特に限定されないが、工業的な純化技術を考慮すると実用的にはSの含有量は0.0001%以上であり、製造コストも考慮すると0.0005%以上となる。
鋼板の残部は、Feおよび不可避的不純物元素である。ここで、不可避的不純物元素とは、原材料に含まれる成分、または、製造の過程で混入する成分であって、意図的に鋼板に含有させたものではない成分を指す。
無方向性電磁鋼板の絶縁皮膜等を除去する方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。
まず、絶縁皮膜等を有する無方向性電磁鋼板を、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH:10質量%+H2O:90質量%)に、80℃で15分間、浸漬する。次いで、硫酸水溶液(H2SO4:10質量%+H2O:90質量%)に、80℃で3分間、浸漬する。その後、硝酸水溶液(HNO3:10質量%+H2O:90質量%)によって、常温(25℃)で1分間弱、浸漬して洗浄する。最後に、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させる。これにより、後述の絶縁皮膜が除去された鋼板を得ることができる。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、表層における{210}<001>方位の集積度が6以上である。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、上記特性を有することで、歪取り焼鈍した後であっても、磁気特性に優れる。これについて以下に説明する。
本実施形態の無方向性電磁鋼板では、この{210}<001>方位について、表面層での集積度を6以上と規定している。好ましくは8以上、より好ましくは10以上である。ただし、{210}<001>方位は、上記のように、面内異方性を強くする方位であるため、過度に高めすぎないほうがよい。この点で、{210}<001>方位の上限は30以下であることがよく、25以下が好ましい。
しかし、仕上げ熱延の最終スタンドにおいて、特定範囲の温度、圧延形状比で圧下を施した場合において、冷延前粒径を粗大化させることなく、歪取り焼鈍した後であっても、優れた磁気特性を有することを知見した。
一般的に、鋼板の表面層は、熱延および冷延において剪断成分を含む変形が進行するため、加工時点での転位構造および再結晶後の結晶方位が、板厚中心領域と異なることが知られている。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、低い加熱速度で追加の熱処理(歪取り焼鈍)をした場合であっても、再結晶粒の成長の際に生じていた磁束密度の低下を抑制することができるものである。
追加の熱処理を実施する前の鋼板の平均磁束密度をBA、並びに加熱速度が100℃/hr、最高到達温度が800℃、及び800℃での保持時間が2時間の条件で熱処理を実施した後の鋼板の平均磁束密度をBBとしたとき、BBとBAとの比が、BB/BA≧0.970とする。BB/BAが0.970未満の材料の場合、歪取り焼鈍(SRA)において異常粒成長しやすい{111}方位が主方位となるため、SRA後に混粒組織となりやすい。混粒組織になると、モータコア内で特性バラつきが大きくなるため、BB/BAは0.970以上とする。好ましくはBB/BAが0.975以上、より好ましくは0.978以上である。
なお、BB/BAの上限は特に定めないが、追加熱処理により特性劣化がない(つまり、BB/BA=1.00)ことは、目標とする基準でもある。ただし、本実施形態の無方向性電磁鋼板において、結晶方位を板厚方向の変化を考慮して好ましく制御しているため、磁気特性にとって好ましい方位である{100}方位が優先的に成長し、BB/BAが1.00を超えることもある。
ここで、追加の熱処理を実施する前および後の全周方向の平均磁束密度BAおよびBBは、55mm×55mmの大きさのサンプルにおいて、圧延方向、圧延直角方向および45°方向の平均磁束密度B50を磁化力5000A/mで励磁した場合の磁束密度により求める。具体的には、圧延方向に沿う方向(0°)、圧延方向に沿う方向と垂直な方向(90°)および圧延方向に沿う方向と45°傾いた方向(45°)についてB50を測定し、その平均値である。
一方、例えば、仕上げ焼鈍において(急速加熱焼鈍において)、粒径が20μm未満、例えば未再結晶組織が残存したような鋼板を、そこからの再結晶の進行および粒成長、例えば50μm程度まで成長させる場合についても、好ましい方位選択性が失われるものではない。
上記絶縁皮膜の厚みは、特に限定されないが、片面当たりの膜厚として0.05μm~2μmであることが好ましい。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、前述のように熱延での仕上げ圧延の温度条件および圧下条件を制御することで得られる。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の好ましい製造方法の一例としては、下記の方法が挙げられる。
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の好ましい製造方法の一例について説明する。
そして、下記(a)、下記(b)、下記(c)の条件を満足する。
(a)仕上熱延工程圧延温度:500℃~800℃の温度域で仕上げ圧延を行う。
(b)仕上熱延工程圧下率:ロール径と圧延前後の板厚に依存する圧延形状比γが4以上8以下で仕上げ圧延を行う。
圧延形状比が4以上となることで{210}<001>方位の集積度が6以上となり、8より大きくなると熱延板の形状が不均一となるため、圧延形状比は4以上8以下が望ましい。
尚、圧延形状比は、以下の式で定義されるものである。
γ=Id/hm
γ:圧延形状比
Id:投影接触弧長
Id=(Dr(hin-hout)/2)(1/2)
Dr:ロール径
hin:入側板厚
hout:出側板厚
hm:平均板厚
hm=(hin+2hout)/3
(c)熱延板焼鈍条件:焼鈍を800℃以上1000℃以下で行い、冷延前の粒径を50~100μmとするように焼鈍する。
熱延前のスラブの加熱温度は、低すぎるとスラブが圧延するのに十分な硬度にならず、一方で高すぎるとMnS等の析出物が固溶し、磁気特性に影響を与えるため、1000℃~1300℃とすることがよい。
次に、熱延後の鋼板に熱延板焼鈍を施す。焼鈍温度は低すぎると熱延板が再結晶せず、高すぎると粒径が大きくなるため仕上げ焼鈍後に{210}<001>が集積しない。粒径が小さすぎると、特に50μmより小さい場合は{111}<112>の再結晶が促進され、また、粒径が大きくなりすぎると熱延剪断変形で生成された集合組織が減少してしまうため、結晶粒径は50μm以上100μm以下とすることが望ましい。従って、焼鈍温度は800~1000℃とすることがよい。
次に、熱延後の鋼板に冷延を施す。冷延の圧下率は特に限定されない。一般的な条件として、冷延は、熱延後の鋼板に対して、冷延工程における合計圧下率(冷延の全圧下率)で75%以上(好ましくは80%以上)となるように施すことがよい。特に薄手の電磁鋼板とするのであれば、全圧下率は90%以上とすることができる。冷延の全圧下率の上限は、圧延機の能力や板厚精度など製造管理を考慮すれば、95%以下であることが好ましい。
次に、冷延後の鋼板に仕上げ焼鈍を施す。仕上げ焼鈍工程における加熱条件は、特に限定されない。
仕上げ焼鈍の均熱温度は、仕上げ焼鈍ままで十分に低い鉄損とする場合には、800℃~1200℃の範囲とすることがよい。均熱の下限温度は、再結晶温度以上の温度であればよいが、800℃以上とすることで、十分な粒成長を起し、鉄損を低下させることができる。この粒成長の観点から、好ましくは850℃以上である。
また、最終的に歪取り焼鈍などの徐加熱による追加熱処理を行って結晶粒を成長させるのであれば、追加熱処理後の鉄損は低くできるので、仕上げ焼鈍の均熱温度を粒成長の観点では十分とは言えない800℃未満としていても問題はない。この場合は、追加熱処理により磁束密度が劣位となることを回避する効果が顕著に発揮される。この場合、一部に未再結晶組織が残存していても、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の特徴的な結晶方位を有することが可能であり、下限温度としては、例えば、640℃以上が挙げられる。仕上げ焼鈍温度を低くして、微細な結晶組織または一部未再結晶組織とした鋼板は、強度が高いので、高強度無方向性電磁鋼板としても有用である。
一方、均熱温度の上限は、焼鈍炉の負荷を考慮し1200℃以下とすることがよく、好ましくは1050℃以下である。
表1に示す化学組成のスラブを1150℃で加熱し、厚みが40mmになるように粗熱延を施し、その後、表3の符号C7に示す温度および圧延形状比で仕上げ熱延を施した。次いで、熱延板焼鈍を表3の符号C7に示す条件で施し、冷延後の鋼板の板厚がすべて0.35mmとなるように板厚冷間圧延を圧下率75%以上で施した。冷延後の鋼板に、表3の符号C7に示す均熱温度で均熱時間30secの仕上げ焼鈍を施して鋼板を得た。
得られた仕上げ焼鈍後の鋼板の表面について既述の方法にしたがって集合組織を観察し、その結果を表2に示した。また、歪取焼鈍前後おける圧延方向、圧延直角方向および45°方向の平均磁束密度B50について測定し、歪取焼鈍前後の平均磁束密度比BB/BAが0.970以上の場合を合格とした。
本実施形態で製造した無方向性電磁鋼板の発明例C1~C8は、本実施形態の範囲外である比較例c1~c5と比較して、圧延方向、圧延直角方向および45°方向の平均磁束密度B50について、BB/BAが0.970以上であることから、歪取り焼鈍した後であっても、優れた磁気特性を有することがわかる。
比較例c1については仕上熱延開始温度が高く、熱延剪断変形量が不十分となったため、BB/BAは0.970未満となった。
Claims (3)
- 質量%で、
C:0.0030%以下、
Si:0.01%~3.50%、
Al:0.001%~2.500%、
Mn:0.01%~3.00%、
P:0.180%以下、
S:0.0030%以下
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、板厚をtとしたときに、鋼板表面~1/4tの位置の部分(1/4t部)における{210}<001>方位の集積度が6以上30以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
- 磁化力5000A/mで励磁した場合の全周方向平均の平均磁束密度B50において、歪取焼鈍前の平均磁束密度をBA、歪取焼鈍後の平均磁束密度をBBとするとき、歪取焼鈍前後の前記平均磁束密度の比BB/BAが0.970以上であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
- 請求項1に記載の化学組成を有するスラブを熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、仕上げ焼鈍を施す無方向性電磁鋼板の製造方法において、
前記熱間圧延の仕上げ圧延を500~800℃の温度範囲で行い、かつ、最終圧延スタンドの圧延形状比を4以上8以下で仕上げ圧延を行い、
前記熱延板焼鈍を800℃以上1000℃以下で行い、熱延板焼鈍後の平均粒径を50~100μmとし、
前記冷間圧延の全圧下率を75~95%で冷間圧延を行い、
前記仕上げ焼鈍を均熱温度800~1200℃、均熱時間5~120secで行い、
前記仕上げ焼鈍後の板厚をtとしたときに、鋼板表面~1/4tの位置の部分(1/4t部)における{210}<001>方位の集積度が6以上30以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
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