JP7119475B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

方向性電磁鋼板の製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP7119475B2
JP7119475B2 JP2018054677A JP2018054677A JP7119475B2 JP 7119475 B2 JP7119475 B2 JP 7119475B2 JP 2018054677 A JP2018054677 A JP 2018054677A JP 2018054677 A JP2018054677 A JP 2018054677A JP 7119475 B2 JP7119475 B2 JP 7119475B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
steel sheet
annealing
temperature
grain
oriented electrical
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2018054677A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2019167568A (ja
Inventor
隆史 片岡
一郎 田中
春彦 渥美
和年 竹田
智也 末永
康弘 真弓
真光 久保田
雄樹 国田
裕俊 多田
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Steel Corp filed Critical Nippon Steel Corp
Priority to JP2018054677A priority Critical patent/JP7119475B2/ja
Publication of JP2019167568A publication Critical patent/JP2019167568A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7119475B2 publication Critical patent/JP7119475B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Classifications

    • YGENERAL TAGGING OF NEW TECHNOLOGICAL DEVELOPMENTS; GENERAL TAGGING OF CROSS-SECTIONAL TECHNOLOGIES SPANNING OVER SEVERAL SECTIONS OF THE IPC; TECHNICAL SUBJECTS COVERED BY FORMER USPC CROSS-REFERENCE ART COLLECTIONS [XRACs] AND DIGESTS
    • Y02TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE
    • Y02PCLIMATE CHANGE MITIGATION TECHNOLOGIES IN THE PRODUCTION OR PROCESSING OF GOODS
    • Y02P10/00Technologies related to metal processing
    • Y02P10/20Recycling

Landscapes

  • Manufacturing Of Steel Electrode Plates (AREA)
  • Soft Magnetic Materials (AREA)

Description

本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
方向性電磁鋼板(「一方向性電磁鋼板」ともいう。)は、{110}<001>方位(以下、「Goss方位」ともいう。)に高配向集積した結晶粒により構成された、Siを7質量%以下含有する鋼板である。方向性電磁鋼板は、主に、変圧器の鉄芯材料として用いられる。方向性電磁鋼板を変圧器の鉄芯材料として用いる場合(すなわち、方向性電磁鋼板を鉄心として積層した場合)、層間(積層する鋼板間)の絶縁性を確保することが必須である。従って、絶縁性確保の観点で、方向性電磁鋼板の表面には、一次被膜(グラス被膜)と、二次被膜(張力付与絶縁被膜)と、を形成させる必要がある。
一般的な、方向性電磁鋼板の製造方法、及び、グラス被膜と張力付与絶縁被膜の形成方法は、以下の通りである。まず、ケイ素(Si)を7質量%以下含有する鋼片を熱延した後、1回もしくは中間焼鈍をはさむ2回の冷間圧延により、鋼板を所定の冷延後の板厚に仕上げる。その後、湿潤水素雰囲気中の焼鈍(脱炭焼鈍)により、脱炭及び一次再結晶処理を施して、脱炭焼鈍板とする。かかる脱炭焼鈍において、鋼板表面では、酸化膜(FeSiO及びSiO)が形成される。続いて、MgOを主体とする焼鈍分離剤を、脱炭焼鈍板に対して塗布・乾燥させた上で、仕上げ焼鈍を行う。かかる仕上げ焼鈍により、二次再結晶が起こり、鋼板の結晶粒組織が{110}<001>方位に集積する。同時に、鋼板表面においては、焼鈍分離剤中のMgOと脱炭焼鈍時に鋼板表面に形成される酸化膜(FeSiO及びSiO)とが反応して、グラス被膜が形成される。仕上焼鈍板の表面(すなわち、グラス被膜の表面)に対して、リン酸塩を主体とする塗布液を塗布して焼付けることで、張力付与絶縁被膜が形成される。
グラス被膜は、絶縁性確保において重要な存在であるが、その密着性は、鋼板の構成元素及び鋼板板厚の影響を大きく受けてしまう。とりわけ、方向性電磁鋼板の板厚が薄くなる場合には、磁気特性の一つである鉄損は改善する一方で、グラス被膜の密着性が確保し難くなってしまう。このため、方向性電磁鋼板の製造課題の一つに、グラス被膜密着性の向上とその安定制御が挙げられる。グラス被膜は、脱炭焼鈍で生成される酸化膜に起因することから、従来、脱炭焼鈍の条件制御によるグラス被膜の改善技術が、各種開発されてきた。
例えば、以下の特許文献1では、冷間圧延された方向性電磁鋼板に対し、脱炭焼鈍を行う前に、その表面層を酸洗して表面付着物と地鉄表層部とを除去し、脱炭反応及び酸化物の形成反応をむらなく進行させて、密着性の優れたグラス被膜を形成する技術が開示されている。
また、以下の特許文献2~特許文献4では、脱炭焼鈍において微細な凹凸を鋼板表面に付与することで、グラス被膜を鋼板深部に到達させて、被膜密着性を改善する技術が開示されている。
さらに、以下の特許文献5~特許文献8に開示されているように、脱炭焼鈍雰囲気の酸素ポテンシャルを制御することでグラス被膜密着性を改善する技術が開発されてきた。これら技術は、脱炭焼鈍板の酸化を進め、グラス被膜の生成を促進させる技術である。
更に技術開発は進み、以下の特許文献9~特許文献11では、脱炭焼鈍の昇温工程に着目し、昇温中の雰囲気のみならず昇温速度制御により、グラス被膜密着性と磁性とを改善する技術が開示されている。また、以下の特許文献12~特許文献13では、脱炭焼鈍の昇温速度制御に先立ち、低温保持工程を含める技術が開示されている。
特開昭50-71526号公報 特開昭62-133021号公報 特開昭63-7333号公報 特開昭63-310917号公報 特開平2-240216号公報 特開平2-259017号公報 特開平6-33142号公報 特開平10-212526号公報 特開平11-61356号公報 特開2000-204450号公報 特開2003-27194号公報 国際公開第2014/017590号 国際公開第2014/017591号
しかしながら、上記特許文献1~特許文献4に開示されている方法は、何れもプロセスにおいて更なる工程を増やすことを必要とするため、操業負荷が大きいものであり、更なる工夫が望まれている。
また、上記特許文献5~特許文献8に開示されている技術を採用した場合、これら技術によりグラス被膜密着性は向上するものの、二次再結晶が不安定化して、磁気特性(磁性)は劣化してしまうという問題がある。
更に、上記特許文献9~特許文献13に開示されている技術を採用した場合、これら技術により磁性は改善するものの、被膜改善については、未だ不十分であることが明らかとなった。とりわけ、冷延後の板厚が0.22mmに満たない方向性電磁鋼板(以下、「薄手材」ともいう。)のグラス被膜密着性は十分でなく、被膜密着性の改善技術は、現在でも途上であると考えられる。また、グラス被膜密着性は、製品板厚が薄くなるほど不安定となるため、更なるグラス被膜密着性の改善技術が希求されている。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、方向性電磁鋼板の表面に、被膜密着性に優れたグラス被膜を磁気特性を損なうことなく形成することの可能な方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、脱炭焼鈍に際して、方向性電磁鋼板の表面に特定のMn系酸化物が存在することで、グラス被膜密着性が飛躍的に向上すること、及び、かかるMn系酸化物は、脱炭焼鈍工程の昇温条件を制御することにより好適に生成させることが可能であることを見出した。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]質量%で、C:0.01~0.20%、Si:2.5~4.0%、Sol.Al:0.01~0.07%、Mn:0.01~0.50%、N:0.02%以下、S:0.005~0.080%、Se:0~0.080%、Sb:0~0.50%、Bi:0~0.02%、Sn:0~0.50%、Cu:0~1.0%を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼片を加熱した後に熱間圧延し、熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、前記熱延鋼板を焼鈍して、熱延焼鈍鋼板を得る熱延板焼鈍工程と、前記熱延焼鈍鋼板に対し、一回の冷間圧延、又は、中間焼鈍をはさむ複数の冷間圧延を施して、冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を施して、脱炭焼鈍鋼板を得る脱炭焼鈍工程と、前記脱炭焼鈍鋼板に対して焼鈍分離剤を塗布した後に、仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、仕上げ焼鈍後の鋼板表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程と、を含み、前記脱炭焼鈍工程は、前記冷延鋼板を、室温から下記式(1)を満足する温度T1(℃)まで、下記式(2)を満足する昇温速度H1(℃/秒)で昇温する第一昇温工程と、前記温度T1(℃)に到達した前記冷延鋼板を、一旦、下記式(3)を満足する温度T2(℃)まで、下記式(4)を満足する冷却速度C1(℃/秒)で冷却する途中冷却工程と、前記冷延鋼板を、前記温度T2(℃)から昇温する第二昇温工程と、昇温後の前記冷延鋼板を焼鈍する均熱工程と、を有しており、前記第二昇温工程において、500℃から600℃までの温度域における昇温速度S1(℃/秒)が、下記式(5)を満足し、かつ、600℃から700℃までの温度域における昇温速度S2(℃/秒)が、下記式(6)を満足する、方向性電磁鋼板の製造方法。
200 ≦ T1 ≦ 500 ・・・式(1)
100 ≦ H1 ≦ 800 ・・・式(2)
T1-100 ≦ T2 ≦ T1-10 ・・・式(3)
-40 ≦ C1 < 0 ・・・式(4)
300 ≦ S1 ≦ 900 ・・・式(5)
1000 ≦ S2 ≦ 3000 ・・・式(6)
[2]前記脱炭焼鈍工程での前記第二昇温工程において、前記500℃から600℃までの温度域における酸素ポテンシャルP1が、下記式(7)を満足する、[1]に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
0.00001 ≦ P1 ≦ 0.5 ・・・式(7)
[3]前記脱炭焼鈍工程での前記均熱工程は、0.1以上1.0以下の酸素ポテンシャルP2の雰囲気中、700℃以上900℃以下の温度T3(℃)で10秒以上1000秒以下保持する第一均熱工程と、当該第一均熱工程に続いて実施され、下記式(8)を満足する酸素ポテンシャルP3の雰囲気中、下記式(9)を満足する温度T4(℃)で、5秒以上500秒以下保持する第二均熱工程と、を含む、[1]又は[2]に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
P3 < P2 ・・・式(8)
T3+50 ≦ T4 ≦ 1000 ・・・式(9)
[4]前記方向性電磁鋼板の板厚は、0.17mm以上0.22mm未満である、[1]~[3]の何れか1つに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
[5]前記鋼片は、Biを、0.001~0.020質量%含有する、[1]~[4]の何れか1つに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
[6]前記鋼片は、0.005~0.500質量%のSn、及び、0.01~1.00質量%のCuの少なくとも何れかを含有する、[1]~[5]の何れか1つに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
以上説明したように本発明によれば、より優れたグラス被膜密着性を有する方向性電磁鋼板を、磁気特性を損なうことなく製造することが可能となる。
本発明の実施形態に係る方向性電磁鋼板の構造を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る方向性電磁鋼板の構造を模式的に示した説明図である。 同実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。 同実施形態に係る脱炭焼鈍工程の流れの一例を示した流れ図である。 同実施形態に係る脱炭焼鈍工程の熱処理パターンの一例を示した説明図である。 同実施形態に係る脱炭焼鈍工程の熱処理パターンの一例を示した説明図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(本発明に至る経緯について)
以下では、まず、本発明の実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法について説明するに先立ち、本発明者らが鋭意検討することで得られた知見と、かかる知見に基づく本発明に至る経緯について、簡単に説明する。
本発明者らは、グラス被膜と方向性電磁鋼板(母材鋼板)との密着性を確保すべく、グラス被膜の形態に着目した。そもそも、グラス被膜と母材鋼板との密着性は、グラス被膜の形態に大きく依存する。すなわち、グラス被膜が地鉄に食い込む構造(以下、「嵌入構造」という。)を有する場合、グラス被膜密着性は、良好となる。
しかしながら、グラス被膜の被膜密着性確保は難しく、とりわけ板厚が薄くなるほど、グラス被膜密着性は確保し難くなっていく。かかる現象の原因は、完全に明らかではないものの、本発明者らは、薄手材においては、脱炭焼鈍における酸化膜の形成挙動が特異である可能性を考えている。
本発明者らは、上記のような問題に対し、特定のMn系酸化物(すなわち、MnSiO)を用いてグラス被膜を生成促進させ、グラス被膜密着性を確保する技術を着想し、MnSiOの析出制御として、脱炭焼鈍工程に注目し、鋭意検討を重ねた。その結果、脱炭焼鈍工程の昇温条件を適切に制御することで、より優れたグラス被膜密着性を発現する製造条件を見出すことができた。
本発明者らは、グラス被膜密着性が良好な方向性電磁鋼板を、X線回折(X‐Ray Diffraction:XRD)分析により観察した結果、MnSがグラス被膜内部に析出している可能性が明らかとなった。グラス被膜の生成及びMnS析出の機構について、本発明者らが更なる検討を行った結果、以下のような機構が明らかとなった。
第一に、脱炭焼鈍の昇温工程制御により、Mn系の酸化物(MnSiO)が方向性電磁鋼板の表層に生成される。
第二に、MnSiOが生成した方向性電磁鋼板に対して仕上げ焼鈍を施すと、MnSiO→(Mg,Mn)SiO→MgSiOの順でグラス被膜が生成することが明らかとなった。本発明者らにより見出された上記の反応は、低温で進行する、反応速度の速い反応であるため、従来採用されてきたMgO+SiO→MgSiOの反応経路を辿るよりも、MgSiOの形成が促進されることが判明した。本発明者らが見出した上記のような反応経路において、(Mg,Mn)SiOがMgSiOへと変化する場合、グラス被膜と母材鋼板との間に、Mnが濃化することが明らかとなった。以下、このような母材鋼板-グラス被膜界面におけるMnの濃化を、「界面濃化Mn」ともいう。
第三に、上記のような界面濃化Mnは、仕上げ焼鈍の冷却工程において、鋼中の残留Sと結合し、MnSを形成する。形成されたMnSにより、グラス被膜の母材鋼板への嵌入構造が発達し、優れたグラス被膜密着性が発現される。脱炭焼鈍工程で形成されたMnSiOは、最終的には、MnSとして検出されることとなる。
(方向性電磁鋼板について)
次に、本発明の実施形態に係る方向性電磁鋼板について、詳細に説明する。
<方向性電磁鋼板の主要な構成について>
まず、図1A及び図1Bを参照しながら、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の主要な構成について説明する。図1A及び図1Bは、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の構造を模式的に示した説明図である。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板10は、図1Aに模式的に示したように、母材鋼板11と、母材鋼板11の表面に形成されたグラス被膜13と、グラス被膜13の表面に形成された絶縁被膜の一例である張力付与性絶縁被膜15と、を有している。なお、グラス被膜13及び張力付与性絶縁被膜15は、母材鋼板11の少なくとも一方の面に形成されていればよいが、通常、図1Bに模式的に示したように、母材鋼板11の両面に形成される。
以下では、本実施形態に係る方向性電磁鋼板10について、特徴的な構成を中心に説明する。なお、以下の説明において、公知の構成や、当業者が実施可能な一部の構成については、詳細な説明を省略しているところがある。
[母材鋼板11について]
母材鋼板11は、以下で詳述するような化学成分を含有することで、優れた磁気特性を示す。かかる母材鋼板11の化学成分については、以下で改めて詳述する。
[グラス被膜13について]
グラス被膜13は、母材鋼板11の表面に位置している、ケイ酸マグネシウムを主成分とする無機質の被膜である。グラス被膜は、一般には、仕上げ焼鈍において、母材鋼板の表面に塗布されたマグネシア(MgO)を含む焼鈍分離剤と、母材鋼板11の表面の成分と、が反応することにより形成され、焼鈍分離剤及び母材鋼板の成分に由来する組成を有する。上述したように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板10においては、脱炭焼鈍時に特定のMn系酸化物(MnSiO)を形成させておき、仕上げ焼鈍時に(MnSiO)→(Mg,Mn)SiO→MgSiOの反応経路によりケイ酸マグネシウムを生じさせる。上記反応経路でケイ酸マグネシウムが生成されると、母材鋼板11とグラス被膜13との界面にMnが濃化し、かかる界面濃化Mnと、母材鋼板11中のSとが反応してMnSが生成する。これにより、本実施形態に係る方向性電磁鋼板10では、グラス被膜密着性が向上する。
[張力付与性絶縁被膜15について]
張力付与性絶縁被膜15は、グラス被膜13の表面に位置しており、方向性電磁鋼板10に電気絶縁性を付与することで渦電流損を低減して、方向性電磁鋼板10の鉄損を向上させる。また、張力付与性絶縁被膜15は、上記のような電気絶縁性以外にも、耐蝕性、耐熱性、すべり性といった種々の特性を実現する。
更に、張力付与性絶縁被膜15は、方向性電磁鋼板10に張力を付与するという機能を有する。方向性電磁鋼板10に張力を付与して、方向性電磁鋼板10における磁壁移動を容易にすることで、方向性電磁鋼板10の鉄損を向上させることができる。
かかる張力付与性絶縁被膜15は、例えば、金属リン酸塩とシリカを主成分とするコーティング液をグラス被膜13の表面に塗布し、焼き付けることによって形成される。
<方向性電磁鋼板10の板厚について>
本実施形態に係る方向性電磁鋼板10の製品板厚(図1A及び図1Bにおける厚みt)は、特に限定されるものではなく、例えば0.17mm以上0.35mm以下とすることができる。また、本実施形態においては、冷延後の板厚が0.22mm未満と薄い材料(すなわち、薄手材)である場合に効果が顕著となり、グラス被膜密着性がより一層優れたものとなる。冷延後の板厚は、例えば、0.17mm以上0.20mm以下であることがより好ましい。
上述したように、本実施形態においては、脱炭焼鈍時において、特定のMn系酸化物を鋼板上に生成させる。ここで、Mn系酸化物の形成は、鋼中Mnの板厚表面への拡散により律速される。薄手材では、表面積の占める割合が厚手材(すなわち、冷延後の板厚が0.22mm以上である方向性電磁鋼板)に比べて大きいため、鋼板内部から鋼板表面へ至るまでのMnの拡散距離は短くて済む。すなわち、薄手材ではMnの実質的な拡散速度が速い。これにより、薄手材では、以下で詳述するような500~600℃という低温域でありながらも、効率的にMn系酸化物を生成することが可能となると考えられる。
<母材鋼板11の化学成分について>
続いて、本実施形態に係る方向性電磁鋼板10の母材鋼板11の化学成分について、詳細に説明する。なお、以下では、特に断りのない限り、「%」との表記は「質量%」を表わすものとする。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板10が有する母材鋼板11の化学成分は、質量%で、質量%で、C:0.01~0.20%、Si:2.5~4.0%、Sol.Al:0.01~0.07%、Mn:0.01~0.50%、N:0.02%以下、S:0.005~0.080%、Se:0~0.080%、Sb:0~0.50%、Bi:0~0.02%、Sn:0~0.50%、Cu:0~1.0%を含有し、残部がFe及び不純物からなる。
[C:0.01%以上0.20%以下]
C(炭素)は、磁束密度の改善効果を示す元素であるが、その含有量が0.20%を超える場合には、二次再結晶焼鈍(すなわち、仕上げ焼鈍)において鋼が相変態し、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と鉄損特性が得られない。そのため、本実施形態に係る母材鋼板11では、Cの含有量を0.20%以下とする。Cの含有量が少ないほど鉄損低減にとって好ましいため、鉄損低減の観点から、Cの含有量は、好ましくは0.15%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。一方、Cの含有量が0.01%未満である場合には、磁束密度の改善効果を得ることはできない。従って、本実施形態に係る母材鋼板11では、Cの含有量は、0.01%以上とする。Cの含有量は、好ましくは0.04%以上であり、より好ましくは0.06%以上である。
[Si:2.5%以上4.0%以下]
Si(ケイ素)は、鋼の電気抵抗(比抵抗)を高めて鉄損の一部を構成する渦電流損失を低減するのに、極めて有効な元素である。Siの含有量が2.5%未満である場合には、二次再結晶焼鈍において鋼が相変態して、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と鉄損特性が得られな。そのため、本実施形態に係る母材鋼板11において、Siの含有量は2.5%以上とする。Siの含有量は、好ましくは3.0%以上であり、より好ましくは3.2%以上である。一方、Siの含有量が4.0%を超える場合には、鋼板が脆化し、製造工程での通板性が顕著に劣化する。そのため、本実施形態に係る母材鋼板11において、Siの含有量は4.0%以下とする。Siの含有量は、好ましくは3.8%以下であり、より好ましくは3.6%以下である。
[酸可溶性Al:0.01%以上0.07%以下]
酸可溶性アルミニウム(sol.Al)は、方向性電磁鋼板において二次再結晶を左右するインヒビターと呼ばれる化合物のうち、主要なインヒビターの構成元素であり、本実施形態に係る母材鋼板11において、二次再結晶発現の観点から必須の元素である。sol.Alの含有量が0.01%未満である場合には、インヒビターとして機能するAlNが十分に生成せず、二次再結晶が不充分となって、鉄損特性が向上しない。そのため、本実施形態に係る母材鋼板11において、sol.Alの含有量は、0.01%以上とする。sol.Alの含有量は、好ましくは、0.015%以上であり、より好ましくは0.020%である。一方、sol.Alの含有量が0.07%を超える場合には、鋼板の脆化が顕著となる。そのため、本実施形態に係る母材鋼板11において、sol.Alの含有量は、0.07%以下とする。sol.Alの含有量は、好ましくは0.05%以下であり、より好ましくは0.030%以下である。
[Mn:0.01%以上0.50%以下]
Mn(マンガン)は、主要なインヒビターの一つであるMnSを形成する、重要な元素である。Mnの含有量が0.01%未満である場合には、二次再結晶を生じさせるのに必要なMnSの絶対量が不足する。そのため、本実施形態に係る母材鋼板11において、Mnの含有量は、0.01%以上とする。Mnの含有量は、好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.06%以上である。一方、Mnの含有量が0.50%を超える場合には、二次再結晶焼鈍において鋼が相変態し、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と鉄損特性が得られない。そのため、本実施形態に係る母材鋼板11において、Mnの含有量は、0.50%以下とする。Mnの含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
[N:0.02%以下]
N(窒素)は、上記の酸可溶性Alと反応してAlNを形成する元素である。Nの含有量が0.02%を超える場合には、冷間圧延時、鋼板中にブリスター(空孔)が生じるうえに、鋼板の強度が上昇し、製造時の通板性が悪化する。そのため、本実施形態に係る母材鋼板11では、Nの含有量を0.02%以下とする。Nの含有量は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%である。一方、AlNをインヒビターとして活用しないのであれば、Nの含有量の下限値は0%を含みうる。しかしながら、化学分析の検出限界値が0.0001%であるため、実用鋼板において、実質的なNの含有量の下限値は、0.0001%である。一方、Alと結合して、インヒビターとして機能するAlNを形成するためには、Nの含有量は0.001%以上であることが好ましく、0.005%以上であることがより好ましい。
[S:0.005%以上0.080%以下]
S(硫黄)は、上記Mnと反応することで、インヒビターであるMnSを形成する重要な元素である。Sの含有量が0.005%未満である場合には、十分なインヒビター効果を得ることができない。そのため、本実施形態に係る母材鋼板11では、Sの含有量を、0.005%以上とする。Sの含有量は、好ましくは0.010%以上であり、より好ましくは0.020%以上である。一方、Sの含有量が0.080%を超える場合には、熱間脆性の原因となり、熱間圧延が著しく困難となる。そのため、本実施形態に係る母材鋼板11において、Sの含有量は、0.080%以下とする。Sの含有量は、好ましくは0.040%以下であり、より好ましくは0.030%以下である。
[Se:0%以上0.080%以下]
Se(セレン)は、磁性改善効果を有する元素であるため、選択的に含有させることができる。しかしながら、0.080%を越えてSeを含有させると、グラス被膜が著しく劣化する。従って、Seの含有量の上限を0.080%とする。Seの含有量は、好ましくは0.050%以下であり、より好ましくは0.020%以下である。磁性と皮膜密着性の両立を考慮すると、Seの含有量は、好ましくは0.003%以上であり、より好ましくは0.006%以上である。なお、Seは、本実施形態に係る母材鋼板11において任意元素であるため、その含有量の下限値は、0%となるが、選択的にSeを含有させる場合は、磁性改善効果を良好に発揮するべく、含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
[Sb:0%以上0.50%以下]
Sb(アンチモン)は、Seと同様、磁性改善効果を有する元素であるため、選択的に含有させることができる。しかしながら、0.50%を越えてSbを含有させると、グラス被膜が顕著に劣化する。従って、Sbの含有量の上限を0.50%とする。Sbの含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。磁性と皮膜密着性の両立を考慮すると、Sbの含有量は、好ましくは0.01%以上であり、より好ましくは0.02%以上である。なお、Sbは、本実施形態に係る母材鋼板11において任意元素であるため、その含有量の下限値は、0%となるが、選択的にSbを含有させる場合は、磁性改善効果を良好に発揮するべく、含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
[Bi:0%以上0.02%以下]
Bi(ビスマス)は、本実施形態に係る母材鋼板11において、任意元素であるため、その含有量の下限値は、0%となる。一方、残部のFeの一部に替えてBiを含有させることで、後述するSn及びCuと同様に、グラス被膜密着性の向上促進に寄与し、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の特性を向上させる。かかるグラス被膜密着性の向上促進効果を得るためには、Biの含有量を、0.001%以上とすることが好ましい。一方、Biの含有量が0.02%を超える場合には、冷間圧延時の通板性が劣化する。そのため、Biの含有量は、0.02%以下とする。Biの含有量は、好ましくは0.01%以下であり、より好ましくは0.007%以下である。
本実施形態に係る母材鋼板11では、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の特性を向上させるために、上述した各種元素の他に、残部のFeの一部に換えて、Sn及びCuの少なくとも何れか一方を更に含有してもよい。Sn及びCuは、本実施形態に係る母材鋼板11において、任意元素であるため、その含有量の下限値は、0%となる。
[Sn:0%以上0.50%以下]
Sn(スズ)は、一次再結晶組織制御を通じ、磁性改善に資する元素である。かかる磁性改善効果を得るためには、Snの含有量を0.005%以上とすることが好ましい。Snの含有量は、より好ましくは0.009%以上である。一方、Snの含有量が0.50%を超える場合には、二次再結晶が不安定となり、磁気特性が劣化する。そのため、本実施形態に係る母材鋼板11において、Snの含有量は0.50%以下とする。Snの含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.15%以下である。
[Cu:0%以上1.0%以下]
Cu(銅)は、Bi、Crと同様に、グラス被膜密着性の向上に寄与する元素である。Cuによるグラス被膜密着性の向上効果を得るためには、Cuの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。Cuの含有量は、より好ましくは0.03%以上である。一方、Cuの含有量が1.0%を超える場合には、熱間圧延中に鋼板が脆化する。そのため、本実施形態に係る母材鋼板11では、Cuの含有量を1.0%以下とする。Cuの含有量は、好ましくは0.50%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
本実施形態に係る母材鋼板11の化学成分の残部は、Fe及び不純物である。しかしながら、磁気特性の向上、強度、耐食性、疲労特性等といった構造部材に求められる特性の向上、鋳造性や通板性の向上、スクラップ等使用による生産性の向上を目的として、母材鋼板11は、残部のFeの一部に換えて、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、In(インジウム)、B(ホウ素)、Au(金)、Ag(銀)、Te(テルル)、Ce(セリウム)、V(バナジウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Ca(カルシウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Nb(ニオブ)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Cd(カドミウム)、Pb(鉛)、As(ヒ素)等から選択される1種又は2種以上を含有しても本発明の効果は失われるものではない。なお、これらの元素は、任意に含まれ得る元素であるため、これらの元素の合計含有量の下限値は、0%である。
また、不純物は、添加の意図に関係なく、母材鋼板11中に存在するものであり、得られる方向性電磁鋼板において、本来存在する必要のない成分である。「不純物」なる用語は、鋼材料を工業的に製造する際に原料としての鉱石、スクラップ又は製造環境などから混入する不純物を含む概念である。このような不純物は、本発明の効果に悪影響を与えない量で含まれ得る。
以上、本実施形態に係る母材鋼板11の化学成分について、詳細に説明した。
以上説明したような、グラス被膜密着性に優れる本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、グラス被膜中に所定量のMnSが含有されている。また、かかるグラス被膜を備える方向性電磁鋼板は、例えば後述する方法により、磁気特性を損なうことなく製造することが可能である。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の示す各種の磁気特性は、JIS C2550に規定されたエプスタイン法や、JIS C2556に規定された単板磁気特性測定法(Single Sheet Tester:SST)に則して、測定することが可能である。
(方向性電磁鋼板の製造方法について)
次に、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法について、図2~図5を参照しながら詳細に説明する。図2は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。図3は、本実施形態に係る脱炭焼鈍工程の流れの一例を示した流れ図である。図4及び図5は、本実施形態に係る脱炭焼鈍工程の熱処理パターンの一例を示した説明図である。
<方向性電磁鋼板の製造方法の全体的な流れ>
以下では、図2を参照しながら、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の全体的な流れを説明する。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の全体的な流れは、以下の通りである。
まず、上記のような化学成分を有する鋼片(スラブ)を熱間圧延した後、焼鈍を実施して、熱延焼鈍工程を得る。次に、得られた熱延焼鈍鋼板に対して、酸洗後、1回、又は、中間焼鈍をはさむ2回の冷間圧延を実施して、所定の冷延後の板厚まで冷延された冷延鋼板を得る。その後、得られた冷延鋼板について、湿潤水素雰囲気中の焼鈍(脱炭焼鈍)により、脱炭及び一次再結晶を行って、脱炭焼鈍鋼板とする。かかる脱炭焼鈍において、鋼板の表面には、所定のMn系酸化膜が形成される。続いて、MgOを主体とする焼鈍分離剤を脱炭焼鈍鋼板の表面に塗布した後乾燥させて、仕上げ焼鈍を行う。かかる仕上げ焼鈍により、二次再結晶が起こり、鋼板の結晶粒組織が{110}<001>方位に集積する。同時に、鋼板表面においては、焼鈍分離剤中のMgOと脱炭焼鈍時に鋼板表面に形成される酸化膜(FeSiO及びSiO)とが反応して、グラス被膜が形成される。仕上焼鈍板を水洗又は酸洗により除粉した後、リン酸塩を主体とする塗布液を塗布して焼付けることで、張力付与絶縁被膜が形成される。
すなわち、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、図2に示したように、上記のような化学成分を有する鋼片を所定の温度で熱間圧延して、熱延鋼板を得る熱間圧延工程(ステップS101)と、得られた熱延鋼板を焼鈍して熱延焼鈍鋼板を得る熱延板焼鈍工程(ステップS103)と、得られた熱延焼鈍鋼板に対し、一回の冷間圧延、又は、中間焼鈍をはさむ複数の冷間圧延を施して、冷延鋼板を得る冷間圧延工程(ステップS105)と、得られた冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を施して、脱炭焼鈍鋼板を得る脱炭焼鈍工程(ステップS107)と、得られた脱炭焼鈍鋼板に対して焼鈍分離剤を塗布した後に、仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程(ステップS109)と、仕上げ焼鈍後の鋼板表面に絶縁被膜(より詳細には、張力付与性絶縁被膜)を形成する絶縁被膜形成工程(ステップS111)と、を含む。
以下、これら工程について、詳細に説明する。なお、以下の説明において、各工程における何らかの条件が記載されていない場合には、公知の条件を適宜適応して各工程を行うことが可能である。
<熱間圧延工程>
熱間圧延工程(ステップS101)は、所定の化学成分を有する鋼片(例えば、スラブ等の鋼塊)を熱間圧延して、熱延鋼板とする工程である。鋼片の成分としては、上述したような母材鋼板11の成分と同様とする。かかる熱間圧延工程において、上述のような化学成分を有するケイ素鋼の鋼片は、まず、加熱処理される。ここで、加熱温度は、1100~1450℃の範囲内とすることが好ましい。加熱温度は、より好ましくは1300℃以上1400℃以下である。次いで、上記のような温度まで加熱された鋼片は、引き続く熱間圧延により、熱延鋼板へと加工される。加工された熱延鋼板の板厚は、例えば、2.0mm以上3.0mm以下の範囲内であることが好ましい。
<熱延板焼鈍工程>
熱延板焼鈍工程(ステップS103)は、熱間圧延工程を経て製造された熱延鋼板を焼鈍して、熱延焼鈍鋼板とする工程である。このような焼鈍処理を施すことで、鋼板組織に再結晶が生じ、良好な磁気特性を実現することが可能となる。
本実施形態に係る熱延板焼鈍工程では、公知の方法に従い、熱間圧延工程を経て製造された熱延鋼板を焼鈍して、熱延焼鈍鋼板とすればよい。焼鈍に際して熱延鋼板を加熱する手段については、特に限定されるものではなく、公知の加熱方式を採用することが可能である。また、焼鈍条件についても、特に限定されるものではないが、例えば、熱延鋼板に対して、900~1200℃の温度域で10秒~5分間の焼鈍を行うことができる。
なお、かかる熱延板焼鈍工程は、必要に応じて省略することが可能である。
また、かかる熱延板焼鈍工程後、以下で詳述する冷間圧延工程の前に、熱延鋼板の表面に対して酸洗を施してもよい。
<冷間圧延工程>
冷間圧延工程(ステップS105)は、熱延焼鈍鋼板に対して、一回又は中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延を実施して、冷延鋼板とする工程である。また、上記のような熱延板焼鈍を施した場合、鋼板形状が良好になるため、1回目の圧延における鋼板破断の可能性を軽減することができる。また、冷間圧延は、3回以上に分けて実施してもよいが、製造コストが増大するため、1回又は2回とすることが好ましい。
本実施形態に係る冷間圧延工程では、公知の方法に従い、熱延焼鈍鋼板を冷間圧延し、冷延鋼板とすればよい。例えば、最終冷延圧下率は、80%以上95%以下の範囲内とすることができる。最終圧下率が80%未満である場合には、{110}<001>方位が圧延方向に高い集積度をもつGoss核を得ることができない可能性が高くなり、好ましくない。一方、最終圧下率が95%を超える場合には、後段の仕上げ焼鈍工程において、二次再結晶が不安定となる可能性が高くなるため、好ましくない。最終冷延圧下率を上記範囲内とすることにより、{110}<001>方位が圧延方向に高い集積度をもつGoss核を得るとともに、二次再結晶の不安定化を抑制することができる。
また、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を実施する場合、一回目の冷間圧延は、圧下率を5~50%程度とし、950℃~1200℃の温度で30秒~30分程度の中間焼鈍を実施することが好ましい。
ここで、冷間圧延が施された冷延鋼板の板厚(冷延後の板厚)は、通常、最終的に製造される方向性電磁鋼板の板厚(張力付与性絶縁被膜の厚みを含めた製品板厚)と異なる。方向性電磁鋼板の製品板厚については、先だって言及した通りである。
上記のような冷間圧延工程に際して、磁気特性をより一層向上させるために、エージング処理を与えることも可能である。冷間圧延中に複数回のパスにより各板厚段階を経るが、少なくとも一回以上の途中板厚段階において、鋼板に対し100℃以上の温度範囲で1分以上の時間保持する熱効果を与えることが好ましい。かかる熱効果により、後段の脱炭焼鈍工程において、より優れた一次再結晶集合組織を形成させることが可能となり、ひいては、後段の仕上げ焼鈍工程において、{110}<001>方位が圧延方向に揃った良好な二次再結晶を十分に発達させることが可能となる。
<脱炭焼鈍工程>
脱炭焼鈍工程(ステップS107)は、得られた冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を行って、脱炭焼鈍鋼板とする工程である。本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、かかる脱炭焼鈍工程において鋼板中に特定のMn系酸化膜を形成させることで、後段の処理で生成されるグラス被膜の密着性の向上を図る。
本実施形態に係る脱炭焼鈍工程において、特定のMn系酸化物を有するMn系酸化膜を形成させるために、本実施形態に係る脱炭焼鈍工程は、図3に示したように、第一昇温工程(ステップS131)と、途中冷却工程(ステップS133)と、第二昇温工程(ステップS135)と、均熱工程(ステップS137)という、4つの工程で構成される。
第一昇温工程(ステップS131)は、冷間圧延工程にて得られた冷延鋼板を、室温から下記式(101)を満足する温度T1(℃)まで、下記式(102)を満足する昇温速度H1(℃/秒)で昇温する工程である。
途中冷却工程(ステップS133)は、第一昇温工程にて温度T1(℃)に到達した冷延鋼板を、一旦、下記式(103)を満足する温度T2(℃)まで、下記式(104)を満足する冷却速度C1(℃/秒)で冷却する工程である。
第二昇温工程(ステップS135)は、途中冷却工程を経た冷延鋼板を、温度T2(℃)から昇温する工程である。かかる第二昇温工程において、500℃から600℃までの温度域における昇温速度S1(℃/秒)は、下記式(105)を満足し、かつ、600℃から700℃までの温度域における昇温速度S2(℃/秒)は、下記式(106)を満足する。
均熱工程(ステップS137)は、第二昇温工程を経た冷延鋼板を、所定の条件で焼鈍する工程である。
200 ≦ T1 ≦ 500 ・・・式(101)
100 ≦ H1 ≦ 800 ・・・式(102)
T1-100 ≦ T2 ≦ T1-10 ・・・式(103)
-40 ≦ C1 < 0 ・・・式(104)
300 ≦ S1 ≦ 900 ・・・式(105)
1000 ≦ S2 ≦ 3000 ・・・式(106)
以下、これらの工程について、図4及び図5を参照しながら詳細に説明する。
なお、図4及び図5に示した熱処理パターンの説明図において、縦軸及び横軸の目盛間隔は正確なものとはなっておらず、図4及び図5に示した熱処理パターンは、あくまでも模式的なものである。
[第一昇温工程]
先だって言及しているように、方向性電磁鋼板の課題の一つに、グラス被膜密着性の改善が挙げられる。本発明者らは、脱炭焼鈍工程における昇温サイクルに着目し、条件変更などの各種の検証を行った。その結果、室温からの昇温において、200~500℃という低温領域での滞留時間の短縮化が、グラス被膜密着性改善に有効であることを見出した。200~500℃の低温領域での滞留時間が長い場合には、Fe系酸化膜が生成してしまい、グラス被膜密着性劣化の原因になると考えられる。従って、本実施形態では、第一昇温工程における低温領域での滞留時間を短縮化して、特定のMn系酸化膜が生成される温度域まで素早く到達させることで、グラス被膜密着性の改善を実現する。
そのため、本実施形態に係る第一昇温工程(ステップS131)では、上記式(101)で規定される温度T1(℃)の温度域に素早く到達させる。温度T1が200℃未満である場合、及び、500℃を超える場合には、上記のような特定のMn系酸化物を生成させることができない。
この際、図4に示したような、室温からT1(℃)に至るまでの昇温速度H1(℃/秒)を、上記式(102)を満足するように制御する。昇温速度H1が100℃/秒未満である場合には、Fe系酸化膜が生成しやすい温度域での滞留時間が長くなり、特定のMn系酸化物の生成量が減少するため、好ましくない。一方、昇温速度H1が800℃/秒を超える場合には、オーバーシュートしてしまう可能性があるため、好ましくない。
なお、温度T1(℃)は、好ましくは200~400℃であり、より好ましくは250~350℃である。また、昇温速度H1(℃/秒)は、好ましくは200~600℃/秒であり、より好ましくは300~500℃/秒である。
[途中冷却工程]
上記の温度T1(℃)から、上記式(103)で規定される温度T2(℃)までの温度域の滞留時間を確保することで、グラス被膜密着性にとって有利なMn系酸化物が生成する。具体的には、本実施形態に係る途中冷却工程(ステップS133)では、T1~T2℃の温度範囲の滞留時間を確保するために、T1℃からT2℃までを徐冷却する。ここで、図4に示したような、温度T1から温度T2までの徐冷却の冷却速度C1は、上記式(104)を満たすような冷却速度とする。冷却速度C1が-40℃/秒未満である場合(換言すれば、冷却速度C1の絶対値が、40よりも大きい場合)には、T1~T2℃の温度範囲の滞留時間を十分に確保することができず、グラス被膜密着性にとって有利なMn系酸化物(MnSiO)を十分に生成させることができない。冷却速度C1は、好ましくは、-40~-5℃/秒であり、より好ましくは-30~-5℃/秒であり、更に好ましくは-15~-5℃/秒である。また、温度T2は、(T1-75)℃以上(T1-10)℃以下であることが好ましく、(T1-50)℃以上(T1-10)℃以下であることがより好ましい。
なお、上記第一昇温工程及び途中冷却工程における酸素ポテンシャル(雰囲気中の水蒸気分圧PH2Oと水素分圧PH2との比、すなわちPH2O/PH2)は、特に限定するものではないが、例えば、0.0001~0.5程度とすることが好ましい。第一昇温工程及び途中冷却工程における酸素ポテンシャルを上記の範囲内することで、MnSiOを効率的に生成させることができる。
[第二昇温工程]
第二昇温工程(ステップS135)は、途中冷却工程を経た冷延鋼板を、温度T2(℃)から昇温する工程である。かかる第二昇温工程において、脱炭焼鈍温度に到達するまでにおける、500~600℃の温度域、及び、600~700℃の温度域における昇温速度を適切に制御することが重要である。500~600℃の温度域は、グラス被膜形成にとって有益な酸化物である、MnSiOが生成される温度域であり、500~600℃の温度域の滞留時間を600~700℃の温度域の滞留時間に比べ長く確保することが重要となる。そこで、本実施形態に係る第二昇温工程では、500~600℃の温度域における昇温速度S1(℃/秒)を、上記式(105)で規定される範囲内に制御する。昇温速度S1が、300℃/秒未満である場合には、方向性電磁鋼板の磁気特性が劣化する原因となるため、好ましくない。また、昇温速度S1が900℃/秒を超える場合には、500~600℃の温度域の滞留時間を長く確保することできず、MnSiOを十分に生成させることができない。昇温速度S1は、好ましくは300~750℃/秒であり、より好ましくは300~600℃/秒である。
また、600~700℃の温度域は、グラス被膜形成にとって有害な酸化膜である、アモルファスのSiOが生成される温度域である。そのため、かかる600~700℃の温度域の滞留時間を短縮化させて、脱炭焼鈍温度まで素早く到達させることが重要となる。そこで、本実施形態に係る第二昇温工程では、かかる600~700℃の温度域における昇温速度S2を、上記式(106)で規定される範囲内に制御する。昇温速度S2が1000℃/秒未満である場合には、600~700℃の温度域における滞留時間が長くなり、アモルファスのSiOの生成量が増加するため、好ましくない。一方、昇温速度S2が3000℃/秒を超える場合には、Fe炭化物の分解が遅れ、脱炭不良の原因となるため、好ましくない。昇温速度S2は、好ましくは1000~2000℃/秒であり、より好ましくは1000~1700℃/秒である。
なお、かかる第二昇温工程において、温度T2から500℃までの温度域の昇温速度、及び、700℃から脱炭焼鈍温度までの温度域の昇温速度については、特に限定されるものではなく、適宜、適切な値に制御することが可能である。例えば、温度T2から500℃までの温度域の昇温速度は、10~1000℃/秒とすることが好ましく、700℃から脱炭焼鈍温度までの温度域の昇温速度は、10~2000℃/秒とすることが好ましい。
第二昇温工程で生成される酸化膜の熱力学的安定性は、雰囲気中の水蒸気分圧PH2Oと水素分圧PH2との比(すなわち、PH2O/PH2)で定義される酸素ポテンシャルによっても、影響を受ける。そのため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、重要な酸化物であるMnSiOの生成される温度域(すなわち、500~600℃の温度域)における酸素ポテンシャルP1を、適切な値に制御することが好ましい。
500~600℃の温度域における酸素ポテンシャルP1が0.5を超える場合には、酸化物としてFeSiOが生成しやすくなり、Mn系酸化物の生成を阻害する可能性が高くなる。従って、500~600℃の温度域における酸素ポテンシャルP1は、0.5以下であることが好ましい。酸素ポテンシャルP1の値が小さいほど、Mn系酸化物は生成しやすくなるが、工業的には、酸素ポテンシャルP1の値は、0.00001とすることが限界であると考えられる。従って、500~600℃の温度域における酸素ポテンシャルP1は、以下の式(107)で規定される範囲内とすることが好ましい。500~600℃の温度域における酸素ポテンシャルP1は、より好ましくは0.0001以上0.3以下である。
0.00001 ≦ P1 ≦ 0.5 ・・・式(107)
なお、本実施形態に係る第二昇温工程において、温度T2から500℃までの温度域の酸素ポテンシャル、600~700℃の温度域の酸素ポテンシャル、及び、700℃から脱炭焼鈍温度までの温度域の酸素ポテンシャルの値については、特に限定するものではなく、適宜、適切な値に制御することが可能である。例えば、温度T2から500℃までの温度域の酸素ポテンシャルは、0.001~0.5とすることが好ましく、600~700℃の温度域の酸素ポテンシャルは、0.001~0.5とすることが好ましく、700℃から脱炭焼鈍温度までの温度域の酸素ポテンシャルは、0.001~0.5とすることが好ましい。
以上説明したような、脱炭焼鈍工程において特定のMn系酸化物(MnSiO)を生成させることによる、グラス被膜密着性の向上効果は、方向性電磁鋼板の冷延後の板厚が薄くなる(薄手になる)ほど大きい。具体的には、方向性電磁鋼板の冷延後の板厚が0.17~0.22mmの場合に、とりわけ良好な効果を得ることができる。なお、鋼板の選択元素として、Bi,Sn,Cuの少なくとも何れかを含有させることは、脱炭焼鈍工程における酸化膜の形成挙動に影響を及ぼすため、グラス被膜密着性の向上効果により好ましい。
[均熱工程]
本実施形態に係る均熱工程(ステップS137)は、上記のような第一昇温工程、途中冷却工程及び第二昇温工程における各条件を満足していれば、特に限定されるものではなく、例えば、700℃以上1000℃以下の温度域を、10秒以上600秒以下保持する工程である。
また、本実施形態に係る均熱工程は、複数の工程を有していてもよい。例えば、図5に示すように、均熱工程が二つの工程から構成されていてもよい。
すなわち、図5に熱処理パターンを示したように、本実施形態に係る均熱工程は、所定の酸素ポテンシャルP2の雰囲気中、700℃以上900℃以下の温度T3(℃)で10秒以上1000秒以下保持する第一均熱工程と、第一均熱工程に続いて実施され、下記式(108)を満足する酸素ポテンシャルP3の雰囲気中、下記式(109)を満足する温度T4(℃)で、5秒以上500秒以下保持する第二均熱工程と、を含んでもよい。以下、このような均熱工程を複数含む焼鈍処理を多段階焼鈍ともいう。
P3 < P2 ・・・式(108)
T3+50 ≦ T4 ≦ 1000 ・・・式(109)
このような二段階焼鈍を実施する際には、一段階目と二段階目の焼鈍温度及び保持時間の制御が重要となる。
脱炭改善の観点から、例えば、第一均熱工程では、焼鈍温度T3(板温)は、700℃以上900℃以下であることが好ましい。また、焼鈍温度T3の保持時間は、10秒以上1000秒以下であることが好ましい。焼鈍温度T3が700℃未満である場合には、脱炭が進行せず、脱炭不良となるため、好ましくない。一方、焼鈍温度T3が900℃を超える場合には、粒組織が粗大化し、二次再結晶不良(磁性不良)を引き起こすため、好ましくない。また、保持時間が10秒未満である場合でも、脱炭が進行せずに脱炭不良となるため、好ましくない。なお、保持時間が長時間化すること自体は、脱炭の観点からは問題ないが、生産性の観点から、保持時間は1000秒以下とすることが好ましい。焼鈍温度T3は、より好ましくは、780℃以上860℃以下である。また、保持時間は、実用鋼板の製造においては、より好ましくは、50秒以上300秒以下である。
Mn系酸化物の形成量を確保するという観点から、第一均熱工程における焼鈍時の酸素ポテンシャルP2は、第二昇温工程における500~600℃の温度域の酸素ポテンシャルP1と比較して、高くすることが好ましい。十分な酸素ポテンシャルが得られることで、焼鈍の進行に伴ってMn系酸化物(MnSiO)がSiOに置換されてしまうことを、防止することができる。更に、十分な酸素ポテンシャルが得られることで、脱炭反応を十分に進行させることができる。ただし、第一均熱工程における焼鈍時の酸素ポテンシャルP2が大きすぎると、Mn系酸化物(MnSiO)はFeSiOに置換されてしまう場合があり、FeSiOは、グラス被膜密着性を劣化させる。従って、第一均熱工程における焼鈍時の酸素ポテンシャルP2を、0.1以上1.0以下の範囲内に制御することが好ましい。第一均熱工程における焼鈍時の酸素ポテンシャルP2は、より好ましくは、0.2以上0.8以下である。
上記のような制御を行ったとしても、第一均熱工程においてFeSiOの生成を完全に抑制することはできない。そのため、第一均熱工程に続いて実施される第二均熱工程では、焼鈍温度T4(板温)を、上記式(109)で規定される範囲内とすることが好ましい。焼鈍温度T4を上記式(109)で規定される範囲内とすることで、第一均熱工程においてFeSiOが生成されたとしても、生成されたFeSiOがMn系酸化物(MnSiO)に還元されるからである。焼鈍温度T4は、より好ましくは、(T2+100)℃以上1000℃以下である。
また、第二均熱工程における上記焼鈍温度T4の保持時間は、5秒以上500秒以下とする。保持時間が5秒未満である場合には、焼鈍温度を上記のような範囲内とした場合であっても、第一均熱工程において生成したFeSiOをMn系酸化物(MnSiO)へと還元できない可能性がある。一方、保持時間が500秒を超える場合には、生成したMn系酸化物(MnSiO)がSiOに還元されてしまう可能性がある。第二均熱工程における上記焼鈍温度T4の保持時間は、より好ましくは、10秒以上100秒以下である。
なお、第二均熱工程を還元雰囲気とするために、第二均熱工程の酸素ポテンシャルP3を、上記式(108)に示したように、第一均熱工程の酸素ポテンシャルP2よりも小さく設定することが好ましい。例えば、第二均熱工程の酸素ポテンシャルP3を0.00001以上0.1以下に制御することで、より良好なグラス被膜密着性及び磁気特性を得ることができる。
なお、第一均熱工程と第二均熱工程との間の時間間隔は、特に規定するものではないが、なるべく短くすることが好ましく、第一均熱工程と第二均熱工程を連続して実施することが好ましい。第一均熱工程と第二均熱工程とを連続して実施する場合には、各均熱工程の条件となるように制御された連続焼鈍炉を2つ連続させて設ければよい。
<仕上げ焼鈍工程>
再び図3に戻って、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法における仕上げ焼鈍工程について説明する。
仕上げ焼鈍工程(ステップS109)は、脱炭焼鈍工程で得られた脱炭焼鈍鋼板に対して所定の焼鈍分離剤を塗布した後に、仕上げ焼鈍を施す工程である。ここで、仕上げ焼鈍は、一般に、鋼板をコイル状に巻いた状態において、長時間行われる。従って、仕上焼鈍に先立ち、鋼板の巻きの内と外との焼付きの防止を目的として、焼鈍分離剤を脱炭焼鈍鋼板に塗布し、乾燥させる。焼鈍分離剤としては、例えば、マグネシア(MgO)を主成分として含有する焼鈍分離剤を用いることができる。
仕上げ焼鈍における熱処理条件は、特に限定されるものではなく、公知の条件を適宜採用することができる。例えば、1100℃以上1300℃以下の温度域で、10時間以上60時間以下保持することにより、仕上げ焼鈍を行うことができる。また、仕上げ焼鈍時の雰囲気は、例えば、窒素雰囲気又は窒素と水素の混合雰囲気とすることができる。また、窒素と水素の混合雰囲気とする場合には、雰囲気の酸素ポテンシャルを0.5以下とすることが好ましい。
上記のような仕上げ焼鈍中に、二次再結晶が{110}<001>方位に集積し、圧延方向に磁化容易軸の揃った粗大な結晶粒が生成する。その結果、優れた磁気特性が実現される。同時に、鋼板表面においては、焼鈍分離剤中のMgOと脱炭焼鈍で生成した酸化物とが反応して、グラス被膜が形成される。
<絶縁被膜形成工程>
絶縁被膜形成工程(ステップS111)は、仕上げ焼鈍工程後の冷延鋼板の両面に対し、張力付与性絶縁被膜を形成する工程である。ここで、絶縁被膜形成工程については、特に限定されるものではなく、下記のような公知の絶縁被膜処理液を用いて、公知の方法により処理液の塗布及び乾燥を行えばよい。鋼板表面に張力付与性絶縁被膜を更に形成することで、方向性電磁鋼板の磁気特性を更に向上させることが可能となる。
なお、絶縁被膜が形成される鋼板の表面は、処理液を塗布する前に、アルカリなどによる脱脂処理や、塩酸、硫酸、リン酸などによる酸洗処理など、任意の前処理を施してもよいし、これら前処理を施さずに仕上焼鈍後のままの表面であってもよい。
ここで、鋼板の表面に形成される絶縁被膜は、方向性電磁鋼板の絶縁被膜として用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、公知の絶縁被膜を用いることが可能である。このような絶縁被膜として、例えば、無機物を主体とし、更に有機物を含んだ複合絶縁被膜を挙げることができる。ここで、複合絶縁被膜とは、例えば、クロム酸金属塩、リン酸金属塩又はコロイダルシリカ、Zr化合物、Ti化合物等の無機物の少なくとも何れかを主体とし、微細な有機樹脂の粒子が分散している絶縁被膜である。特に、近年ニーズの高まっている製造時の環境負荷低減の観点からは、リン酸金属塩やZrあるいはTiのカップリング剤、又は、これらの炭酸塩やアンモニウム塩を出発物質として用いた絶縁被膜が好ましく用いられる。
また、上記のような絶縁被膜形成工程に続いて、形状矯正のための平坦化焼鈍を施しても良い。鋼板に対して平坦化焼鈍を行うことで、更に鉄損を低減させることが可能となる。
以上説明したような工程を経ることで、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を製造することができる。以上説明した製造方法によって製造された方向性電磁鋼板は、MnSがグラス被膜中に生成している。更に、上述した製造方法は、従来の製造方法と比較して、特段磁気特性を損なうものではない。すなわち、得られた方向性電磁鋼板は、十分に優れた磁気特性を有したものとなる。
以上、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法について、詳細に説明した。
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明の技術的内容について、更に説明する。なお、以下に示す実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。また、本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実験例1)
以下の表1に示した成分を含有する鋼片を作製し、1350℃に加熱して熱間圧延に供し、板厚2.3mmの熱延鋼板とした。その後、かかる熱延鋼板に対し、900~1200℃で熱延板焼鈍を施し、その後、冷間圧延を施して、板厚0.19~0.22mmの冷延鋼板とした。上記冷延鋼板に脱炭焼鈍を施し、その後、マグネシア(MgO)を主体とする焼鈍分離剤を塗布して、1200℃で仕上げ焼鈍を施し、仕上げ焼鈍板を製造した。なお、各鋼片について、表1中に記載される成分以外の残部は、Fe及び不純物である。
Figure 0007119475000001
ここで、本実験例の脱炭焼鈍工程における第一昇温工程及び途中冷却工程では、温度T1=320℃、昇温速度H1=350℃/秒、温度T2=280℃、及び、冷却速度C1=-30℃/秒とした。また、本実験例の脱炭焼鈍工程における第二昇温工程では、昇温速度S1=500℃/秒とし、昇温速度S2=1200℃/秒とした。これらの条件は、いずれも本発明の範囲内となるものである。
また、本実験例の脱炭焼鈍工程における均熱工程では、酸素ポテンシャルを0.4の湿潤水素雰囲気とし、830℃の焼鈍温度で150秒の保持を行った。
その後、得られた鋼板表面に、リン酸金属塩を主体とする絶縁被膜形成用塗布液を塗布して焼き付け、張力付与性絶縁被膜を形成して、方向性電磁鋼板とした。
それぞれの方向性電磁鋼板について、張力付与性絶縁被膜の被膜密着性を評価するとともに、磁気特性(磁束密度)を評価した。なお、方向性電磁鋼板においては、グラス被膜は、張力付与性絶縁被膜とともに剥離することが多く、張力付与性絶縁被膜の被膜密着性を評価することで、グラス被膜の被膜密着性を評価することが可能である。
<磁束密度>
磁束密度は、B8を用いて評価した。B8は、磁界の強さ800A/mにおける磁束密度であり、二次再結晶の良否の判断基準となる。B8=1.89T以上を、二次再結晶したものと判断して、合格とし、B8=1.89T未満を、二次再結晶しなかったものと判断して、不合格とした。なお、熱間圧延工程又は冷間圧延工程において破断が生じたものについては、磁気特性(磁束密度)は、未評価とした(以下に示す表2では、「-」と表記している。)。
<被膜密着性>
張力付与性絶縁被膜の被膜密着性は、評価用試料を、直径20mmの円筒に巻き付け、180°曲げた時の被膜残存面積率を算出することで評価した。評価は、以下の基準に則して行った。また、圧延中に破断したもの、及び、二次再結晶不良のものについては、被膜密着性は未評価とした(以下に示す表2では、「-」と表記している。)。
[評価基準]
EX(非常に優れる):鋼板から剥離せず、被膜残存面積率が95%以上
VG(優れる) :被膜残存面積率が90%以上95%未満
G(やや優れる) :被膜残存面積率が85%以上90%未満
F(効果がある) :被膜残存面積率が80%以上85%未満
B(効果がない) :被膜残存面積率が80%未満
得られた結果を、以下の表2にあわせて示した。
Figure 0007119475000002
上記表2から明らかなように、発明鋼B1~32は、何れも優れた被膜密着性及び磁気特性を示した。また、発明鋼B24~B32は、鋼片の化学成分として選択元素を含み、かつ、冷延後の板厚が0.19mmと被膜密着性にとって好ましい条件を有しているため、発明鋼B1~B23と比較して、より良好な被膜密着性を示した。一方で、いずれかの必須元素の含有量が本発明の範囲外である比較鋼b1~b11においては、十分な磁気特性が得られないか、又は、圧延中に破断が生じた。
(実験例2)
上記表1に示した化学組成を有する鋼片を、1350℃に加熱して熱間圧延に供し、板厚2.3mmの熱延鋼板とした。かかる熱延鋼板に対し、900~1200℃で熱延板焼鈍を施し、その後、一回の冷間圧延又は中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延を施して、板厚0.19~0.22mmの冷延鋼板とした。
上記冷延鋼板に対し、以下の表3に示す条件で脱炭焼鈍を施した。なお、脱炭焼鈍工程における均熱工程では、酸素ポテンシャルを0.4の湿潤水素雰囲気とし、830℃の焼鈍温度で150秒間の保持を行った。その後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布して、1200℃で仕上げ焼鈍を施し、仕上げ焼鈍板を製造した。次いで、仕上げ焼鈍板の表面に、リン酸金属塩を主体とする絶縁被膜形成用塗布液を塗布して焼き付け、張力付与性絶縁被膜を形成して、方向性電磁鋼板とした。
それぞれの方向性電磁鋼板について、張力付与性絶縁被膜の被膜密着性を評価するとともに、磁気特性(磁束密度)を評価した。評価内容及び評価方法は、実験例1と同様である。得られた結果を、以下の表3にまとめて示した。
Figure 0007119475000003
上記表3から明らかなように、発明鋼C1~17は、脱炭焼鈍工程における第一昇温工程、途中冷却工程及び第二昇温工程が、本発明の範囲内となる条件に制御されているため、比較的良好な被膜密着性「F」を示した。とりわけ、発明鋼C18、C20~C25は、H1、C1、S1、S2がいずれも被膜密着性にとって好ましい条件を満しているため、評価は「G」と比較的良好な被膜密着性を示した。
また、発明鋼C19は、H1、C1、S1、S2がいずれも被膜密着性にとって好ましい条件を満たすものの、冷延後の板厚が0.22mmと薄手ではなく、また、ケイ素鋼の化学成分に選択元素が含有されていないことが影響し、評価は「F」にとどまった。
一方、比較鋼c1~c10は、脱炭焼鈍工程における第一昇温工程、途中冷却工程及び第二昇温工程が本発明の範囲外となる条件であったため、被膜密着性はいずれも「B」であった。
(実験例3)
上記表1に示した化学組成を有する鋼片を、1350℃に加熱して熱間圧延に供し、板厚2.3mmの熱延鋼板とした。かかる熱延鋼板に対し、900~1200℃で熱延板焼鈍を施し、その後、一回の冷間圧延又は中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延を施して、板厚0.19~0.22mmの冷延鋼板とした。
上記冷延鋼板に対し、以下の表4に示す条件で脱炭焼鈍を施した。なお、脱炭焼鈍工程における第二昇温工程では、500℃から600℃までの温度域における酸素ポテンシャルP1を表4に示す値とした。また、均熱工程では、酸素ポテンシャルを0.5の湿潤水素雰囲気とし、810℃の焼鈍温度で160秒間の保持を行った。その後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布して、1200℃で仕上げ焼鈍を施し、仕上げ焼鈍板を製造した。次いで、仕上げ焼鈍板の表面に、リン酸金属塩を主体とする絶縁被膜形成用塗布液を塗布して焼き付け、張力付与性絶縁被膜を形成して、方向性電磁鋼板とした。
それぞれの方向性電磁鋼板について、張力付与性絶縁被膜の被膜密着性を評価するとともに、磁気特性(磁束密度)を評価した。評価内容及び評価方法は、実験例1と同様である。得られた結果を、以下の表4にまとめて示した。
Figure 0007119475000004
上記表4から明らかなように、発明鋼D11~35は、脱炭焼鈍工程における第一昇温工程、途中冷却工程及び第二昇温工程が好ましい条件に制御されており、かつ、500~600℃における酸素ポテンシャルP1が好ましい範囲に制御されているため、発明鋼D1~D10に比べて、比較的良好な被膜密着性評価である「G」を示した。
(実験例4)
上記表1に示した化学組成を有する鋼片を、1350℃に加熱して熱間圧延に供し、板厚2.3mmの熱延鋼板とした。かかる熱延鋼板に900~1200℃で熱延板焼鈍を施し、その後、一回の冷間圧延又は中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延を施して、板厚0.19~0.22mmの冷延鋼板とした。上記冷延鋼板に、脱炭焼鈍を施し、その後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布して、1200℃で仕上げ焼鈍を施し、仕上げ焼鈍板を製造した。
ここで、本実験例の脱炭焼鈍工程における第一昇温工程及び途中冷却工程では、温度T1=320℃、昇温速度H1=340℃/秒、温度T2=280℃、及び、冷却速度C1=-30℃/秒とした。また、本実験例の脱炭焼鈍工程における第二昇温工程では、昇温速度S1=550℃/秒とし、昇温速度S2=1300℃/秒とした。これらの条件は、いずれも本発明の範囲内となるものである。また、第二昇温工程における500~600℃の温度域の酸素ポテンシャルP1と、均熱工程における熱処理条件は、以下の表5に示した通りである。
次いで、仕上げ焼鈍板の表面に、リン酸金属塩を主体とする絶縁被膜形成用塗布液を塗布して焼き付け、張力付与性絶縁被膜を形成して、方向性電磁鋼板とした。
それぞれの方向性電磁鋼板について、張力付与性絶縁被膜の被膜密着性を評価するとともに、磁気特性(磁束密度)を評価した。評価内容及び評価方法は、実験例1と同様である。得られた結果を、以下の表5にまとめて示した。
Figure 0007119475000005
上記表5から明らかなように、発明鋼E13、E27~29は、脱炭焼鈍工程の第一昇温工程及び途中冷却工程における各種条件(H1、T2、C1)が好ましい範囲に制御されており、第二昇温工程における昇温速度S1、S2が好ましい範囲に制御されており、かつ、第二昇温工程における500~600℃の温度域での酸素ポテンシャルP1が好ましい範囲に制御されている。更に、脱炭焼鈍工程の均熱工程において二段階焼鈍を実施しているために、被膜密着性評価は、「VG」と良好な結果だった。
また、発明鋼E14、E17~26は、脱炭焼鈍工程の第一昇温工程及び途中冷却工程における各種条件(H1、T2、C1)が好ましい範囲に制御されており、第二昇温工程における昇温速度S1、S2が好ましい範囲に制御されており、かつ、第二昇温工程における500~600℃の温度域での酸素ポテンシャルP1が好ましい範囲に制御されている。更に、脱炭焼鈍工程の均熱工程において二段階焼鈍を実施しているだけでなく、鋼片の化学成分が好ましい範囲に制御されているか、又は、冷延後の板厚が0.19mmと薄手であるかのいずれかの条件を満たすため、被膜密着性評価は「EX」と、非常に良好な結果だった。
発明鋼E11、E12、E15~16は、脱炭焼鈍工程の均熱工程において、二段階焼鈍が好ましい発明範囲に制御されているものの、第二昇温工程における500~600℃の温度域での酸素ポテンシャルP1の観点から、被膜密着性評価は「G」にとどまった。
(実験例6)
上記表1に示した化学組成を有する鋼片を、1350℃に加熱して熱間圧延に供し、板厚2.3mmの熱延鋼板とした。かかる熱延鋼板に対し、900~1200℃で熱延板焼鈍を施し、その後、一回の冷間圧延又は中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延を施して、板厚0.19~0.22mmの冷延鋼板とした。上記冷延鋼板に、脱炭焼鈍を施し、その後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布して、1200℃で仕上げ焼鈍を施し、仕上げ焼鈍板を製造した。
ここで、本実験例の脱炭焼鈍工程における第一昇温工程及び途中冷却工程では、温度T1=320℃、昇温速度H1=360℃/秒、温度T2=280℃、及び、冷却速度C1=-10℃/秒とした。また、本実験例の脱炭焼鈍工程における第二昇温工程では、昇温速度S1=600℃/秒とし、昇温速度S2=1700℃/秒とした。これらの条件は、いずれも本発明の範囲内となるものである。また、第二昇温工程における500~600℃の温度域の酸素ポテンシャルP1と、均熱工程における熱処理条件は、以下の表6に示した通りである。
次いで、仕上げ焼鈍板の表面に、リン酸金属塩を主体とする絶縁被膜形成用塗布液を塗布して焼き付け、張力付与性絶縁被膜を形成して、方向性電磁鋼板とした。
それぞれの方向性電磁鋼板について、張力付与性絶縁被膜の被膜密着性を評価するとともに、磁気特性(磁束密度)を評価した。評価内容及び評価方法は、実験例1と同様である。得られた結果を、以下の表6にまとめて示した。
Figure 0007119475000006

上記表6から明らかなように、発明鋼F5、F10、F15、F20、F25、F30、F35、F40、F45は、脱炭焼鈍工程の第一昇温工程及び途中冷却工程における各種条件(H1、T2、C1)が好ましい範囲に制御されており、第二昇温工程における昇温速度S1、S2が好ましい範囲に制御されており、かつ、第二昇温工程における500~600℃の温度域での酸素ポテンシャルP1が好ましい範囲に制御されている。更に、脱炭焼鈍工程の均熱工程において二段階焼鈍を実施し、その制御範囲が好ましい発明範囲に含まれるため、被膜密着性評価は、「EX」と非常に良好な結果だった。
また、発明鋼F3、F8、F13、F18、F23、F28、F33、F38、F43は、脱炭焼鈍工程の第一昇温工程及び途中冷却工程における各種条件(H1、T2、C1)が好ましい範囲に制御されており、第二昇温工程における昇温速度S1、S2が好ましい範囲に制御されている。更に、脱炭焼鈍工程の均熱工程において二段階焼鈍を実施し、その制御範囲が好ましい発明範囲に含まれる。しかしながら、第二昇温工程における500~600℃の温度域での酸素ポテンシャルP1の観点から、被膜密着性評価は、「VG」にとどまった。
発明鋼F2、F7、F12、F17、F22、F27、F32、F37、F42は、脱炭焼鈍工程の第一昇温工程及び途中冷却工程における各種条件(H1、T2、C1)が好ましい範囲に制御されており、第二昇温工程における昇温速度S1、S2が好ましい範囲に制御されている。更に、脱炭焼鈍工程の均熱工程において二段階焼鈍を実施し、その制御範囲が好ましい発明範囲に含まれる。しかしながら、第二昇温工程における500~600℃の温度域での酸素ポテンシャルP1の観点から、被膜密着性評価は、「G」にとどまった。
発明鋼F4、F9、F14、F19、F24、F29、F34、F39、F44は、脱炭焼鈍工程の第一昇温工程及び途中冷却工程における各種条件(H1、T2、C1)が好ましい範囲に制御されており、第二昇温工程における昇温速度S1、S2が好ましい範囲に制御されており、第二昇温工程における500~600℃の温度域での酸素ポテンシャルP1が本発明の範囲内に制御されている。しかしながら、脱炭焼鈍工程の均熱工程において二段階焼鈍を実施しておらず、被膜密着性評価は、「G」にとどまった。
発明鋼F1、F6、F11、F16、F21、F26、F31、F36、F41に関して、発明鋼F1、F6、F16、F21、F31、F36は、脱炭焼鈍工程の第一昇温工程と途中冷却工程における各種条件(H1、T2、C1)が好ましい範囲に制御されており、第二昇温工程における昇温速度S1、S2が好ましい範囲に制御されているものの、第二昇温工程における500~600℃の温度域での酸素ポテンシャルP1、及び、脱炭焼鈍工程の均熱工程における二段階焼鈍の観点から、密着性評価は「F」となった。ただし、発明鋼F11、F26、F41は、冷延後の板厚が0.19mmであったため、発明鋼F1、F6、F16、F21、F31、F36の密着性評価「F」と比較して、良好な評価結果である「G」が得られた。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
10 方向性電磁鋼板
11 母材鋼板
13 グラス被膜
15 張力付与性絶縁被膜

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.01~0.20%
    Si:2.5~4.0%
    Sol.Al:0.01~0.07%
    Mn:0.01~0.50%
    N:0.02%以下
    S:0.005~0.080%
    Se:0~0.080%
    Sb:0~0.50%
    Bi:0~0.02%
    Sn:0~0.50%
    Cu:0~1.0%
    を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼片を加熱した後に熱間圧延し、熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、
    前記熱延鋼板を焼鈍して、熱延焼鈍鋼板を得る熱延板焼鈍工程と、
    前記熱延焼鈍鋼板に対し、一回の冷間圧延、又は、中間焼鈍をはさむ複数の冷間圧延を施して、冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、
    前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を施して、脱炭焼鈍鋼板を得る脱炭焼鈍工程と、
    前記脱炭焼鈍鋼板に対して焼鈍分離剤を塗布した後に、仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、
    仕上げ焼鈍後の鋼板表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程と、
    を含み、
    前記脱炭焼鈍工程は、
    前記冷延鋼板を、室温から下記式(1)を満足する温度T1(℃)まで、下記式(2)を満足する昇温速度H1(℃/秒)で昇温する第一昇温工程と、
    前記温度T1(℃)に到達した前記冷延鋼板を、一旦、下記式(3)を満足する温度T2(℃)まで、下記式(4)を満足する冷却速度C1(℃/秒)で冷却する途中冷却工程と、
    前記冷延鋼板を、前記温度T2(℃)から昇温する第二昇温工程と、
    昇温後の前記冷延鋼板を焼鈍する均熱工程と、
    を有しており、
    前記第二昇温工程において、500℃から600℃までの温度域における昇温速度S1(℃/秒)が、下記式(5)を満足し、かつ、600℃から700℃までの温度域における昇温速度S2(℃/秒)が、下記式(6)を満足する、方向性電磁鋼板の製造方法。
    200 ≦ T1 ≦ 500 ・・・式(1)
    100 ≦ H1 ≦ 800 ・・・式(2)
    T1-100 ≦ T2 ≦ T1-10 ・・・式(3)
    -40 ≦ C1 < 0 ・・・式(4)
    300 ≦ S1 ≦ 900 ・・・式(5)
    1000 ≦ S2 ≦ 3000 ・・・式(6)
  2. 前記脱炭焼鈍工程での前記第二昇温工程において、前記500℃から600℃までの温度域における酸素ポテンシャルP1が、下記式(7)を満足する、請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
    0.00001 ≦ P1 ≦ 0.5 ・・・式(7)
  3. 前記脱炭焼鈍工程での前記均熱工程は、
    0.1以上1.0以下の酸素ポテンシャルP2の雰囲気中、700℃以上900℃以下の温度T3(℃)で10秒以上1000秒以下保持する第一均熱工程と、
    当該第一均熱工程に続いて実施され、下記式(8)を満足する酸素ポテンシャルP3の雰囲気中、下記式(9)を満足する温度T4(℃)で、5秒以上500秒以下保持する第二均熱工程と、を含む、請求項1又は2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
    P3 < P2 ・・・式(8)
    T3+50 ≦ T4 ≦ 1000 ・・・式(9)
  4. 前記方向性電磁鋼板の板厚は、0.17mm以上0.22mm未満である、請求項1~3の何れか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  5. 前記鋼片は、Biを、0.001~0.020質量%含有する、請求項1~4の何れか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  6. 前記鋼片は、0.005~0.500質量%のSn、及び、0.01~1.00質量%のCuの少なくとも何れかを含有する、請求項1~5の何れか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
JP2018054677A 2018-03-22 2018-03-22 方向性電磁鋼板の製造方法 Active JP7119475B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2018054677A JP7119475B2 (ja) 2018-03-22 2018-03-22 方向性電磁鋼板の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2018054677A JP7119475B2 (ja) 2018-03-22 2018-03-22 方向性電磁鋼板の製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2019167568A JP2019167568A (ja) 2019-10-03
JP7119475B2 true JP7119475B2 (ja) 2022-08-17

Family

ID=68107215

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2018054677A Active JP7119475B2 (ja) 2018-03-22 2018-03-22 方向性電磁鋼板の製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP7119475B2 (ja)

Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2002060843A (ja) 2000-08-09 2002-02-28 Nippon Steel Corp 磁束密度の高い鏡面一方向性電磁鋼板の製造方法
JP2011174138A (ja) 2010-02-24 2011-09-08 Jfe Steel Corp 方向性電磁鋼板の製造方法
JP2012126989A (ja) 2010-11-26 2012-07-05 Jfe Steel Corp 方向性電磁鋼板の製造方法
US20130306202A1 (en) 2011-12-16 2013-11-21 Posco Method for Manufacturing Grain-Oriented Electrical Steel Sheets Having Excellent Magnetic Properties
JP2017222898A (ja) 2016-06-14 2017-12-21 新日鐵住金株式会社 方向性電磁鋼板の製造方法

Family Cites Families (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP3456862B2 (ja) * 1997-04-25 2003-10-14 新日本製鐵株式会社 極めて低い鉄損をもつ一方向性電磁鋼板の製造方法
KR20150074892A (ko) * 2013-12-24 2015-07-02 주식회사 포스코 방향성 전기강판, 그 제조방법 및 1차 재결정 소둔 설비

Patent Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2002060843A (ja) 2000-08-09 2002-02-28 Nippon Steel Corp 磁束密度の高い鏡面一方向性電磁鋼板の製造方法
JP2011174138A (ja) 2010-02-24 2011-09-08 Jfe Steel Corp 方向性電磁鋼板の製造方法
JP2012126989A (ja) 2010-11-26 2012-07-05 Jfe Steel Corp 方向性電磁鋼板の製造方法
US20130306202A1 (en) 2011-12-16 2013-11-21 Posco Method for Manufacturing Grain-Oriented Electrical Steel Sheets Having Excellent Magnetic Properties
JP2017222898A (ja) 2016-06-14 2017-12-21 新日鐵住金株式会社 方向性電磁鋼板の製造方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP2019167568A (ja) 2019-10-03

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5610084B2 (ja) 方向性電磁鋼板およびその製造方法
JP5854233B2 (ja) 方向性電磁鋼板の製造方法
WO2019182154A1 (ja) 方向性電磁鋼板及び方向性電磁鋼板の製造方法
JP6132103B2 (ja) 方向性電磁鋼板の製造方法
CA2900111A1 (en) Method for producing grain-oriented electrical steel sheet
JP6119959B2 (ja) 方向性電磁鋼板の製造方法
JP6624180B2 (ja) 方向性電磁鋼板およびその製造方法
JP2009270129A (ja) 磁気特性および被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法
JP7235058B2 (ja) 方向性電磁鋼板の製造方法
JP7110642B2 (ja) 一方向性電磁鋼板の製造方法
JP6369626B2 (ja) 一方向性電磁鋼板の製造方法
JP2650817B2 (ja) 被膜特性及び磁気特性に優れた一方向性けい素鋼板の製造方法
JP6881581B2 (ja) 方向性電磁鋼板
JP7119475B2 (ja) 方向性電磁鋼板の製造方法
JP2004332071A (ja) 高磁束密度方向性電磁鋼板の製造方法
JP7231888B2 (ja) 方向性電磁鋼板の製造方法
JP7329049B2 (ja) 電磁鋼板およびその製造方法
JP7315857B2 (ja) 方向性電磁鋼板の製造方法
JP7119474B2 (ja) 方向性電磁鋼板の製造方法
JP7299512B2 (ja) 方向性電磁鋼板の製造方法
JP2019019359A (ja) 皮膜密着性に優れる一方向性珪素鋼板及びその製造方法
JP2002194445A (ja) 被膜特性に優れた高磁束密度方向性電磁鋼板の製造方法
JP2724094B2 (ja) 方向性けい素鋼板の製造方法
JP7110641B2 (ja) 一方向性電磁鋼板の製造方法
JPH02228425A (ja) 高磁束密度方向性電磁鋼板の製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
RD04 Notification of resignation of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7424

Effective date: 20190208

RD04 Notification of resignation of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7424

Effective date: 20190508

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20201106

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20211126

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20211214

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20220203

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20220705

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20220718

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 7119475

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151