上記特許文献1の構成では、コイルからの放熱性が確保されるが、バイメタルがステータコアにもコイルにも固着されていないために、モータの運転中にバイメタルが振動してしまう問題がある。振動したバイメタルは、コイルの絶縁被覆を摩耗させ、絶縁を破るおそれがある。
上記特許文献2の構成では、コイルと熱硬化性樹脂とが密着せず、コイルの安定性、及び、コイルからの熱硬化性樹脂を介した放熱性が十分とはならない懸念がある。
他方、上記特許文献3及び4のように、スロット内の全側面に発泡性の樹脂を設けた場合、コイルからの放熱が低下する。上記特許文献3では、ステータコアの一側面に発泡性のシートを設ける態様も記載されているが、他の側面ではコイルとステータコアとが離間していることから、コイルからステータコアへの熱伝導率は低くなると考えられる。
本発明の目的は、スロット内におけるコイルとステータコアとの密着性と熱伝導性を高めたステータを実現することにある。
本発明にかかるステータは、径方向に凹んだスロットが、周方向に複数設けられるステータコアと、前記スロットに設置されるコイルと、を備え、前記スロットにおける周方向側の2つの側面のうち、一方の側面には、前記ステータコアと前記コイルとの間に絶縁性の放熱部材が設けられ、他方の側面では、前記ステータコアと前記コイルとの間に絶縁性の発泡部材が設けられる、ことを特徴とする。
ステータは、回転電機(モータ及びジェネレータの一方または両方)において、ロータの周囲に配置される。ステータのステータコアの内周面には、径方向に凹んだ溝であるスロットが、周方向に複数設けられる。スロットには、コイルが設置される。通常、コイルは、複数のスロットをまたがって巻回されるように導線を設置することで形成される。
スロットにおける周方向側の2つの側面(凹みにおける両サイドの壁面)の一方の側面には絶縁性の放熱部材が設けられ、他方の側面には絶縁性の発泡部材が設けられる。放熱部材は、少なくとも発泡部材に比べて熱伝導性が高い部材であり、コイルの温度上昇を防ぐだけの熱伝導性を有するものが選択される。
発泡部材が固化してコイルをステータコアに固着させることにより、ステータコアはステータコア中で振動することなく、安定化する。また、発泡部材の膨張にともなって、コイルは、ステータコアの他方の側面の側に押し付けられる。このため、コイルから放熱部材を通じてステータコアに熱伝導する効率が高まることになる。
本発明の一態様においては、前記放熱部材は、絶縁シートに放熱性材料を付着させてなる部材であり、前記発泡部材は、絶縁シートに発泡性材料を付着させてなる部材である、ことを特徴とする。
本発明の一態様においては、前記スロットの内面には、前記コイルを囲む放熱性の絶縁シートが設けられており、前記放熱部材は、前記放熱性の絶縁シートであり、前記発泡部材は、前記放熱性の絶縁シートに発泡性材料を付着させてなる部材である、ことを特徴とする。
本発明によれば、スロット内において、コイルの安定性と、コイルからの放熱性とを両立させたステータが実現される。
以下に、図面を参照しながら、実施形態について説明する。説明においては、理解を容易にするため、具体的な態様について示すが、これらは実施形態を例示するものであり、他にも様々な実施形態をとることが可能である。
図1は、実施形態にかかるステータ10の部分的な断面図である。ステータ10は、略円筒形状に形成されており、その中心側には図示を省略したロータが設置される。図1の座標系におけるr軸は径方向(ロータの回転軸に垂直な方向)、θ軸は周方向(ロータの回転方向)、z軸は軸方向(回転軸の方向)を示している(以降の図でも同様)。図1では、軸方向の適当な位置における切断面でステータ10の断面構造を示している。
ステータ10は、円筒形状に打ち抜かれた薄い電磁鋼板を 軸方向に積層したステータコア12を備えている。電磁鋼板は、電磁気学的特性が高められた鋼板の両側を絶縁処理して形成されており、軸方向の各鋼板間は絶縁された状態にある。
ステータコア12には、内周面12aから径方向側に凹んだ溝形状をなす複数のスロット14が、周方向に規則的に設けられている。スロット14は、軸方向に全ての電磁鋼板を貫いて形成されている。
各スロット14には、断面形状が長方形である平角導線16が巻回されたコイル20が設置されている。このコイル20は、略U字に形成された複数のセグメントコイルを、ステータコア12の軸方向の一方の面から挿入し、他方の面において溶接により接続することで、形成されたものである。ただし、コイル20は、他にも様々な態様でスロット14に設置することが可能である。例えば、長い導線を巻回する態様、あるいは、巻回したコイルが挿入された分割ステータコアを結合してステータ10を形成する態様が挙げられる。
コイル20の各平角導線16は、樹脂等の絶縁部材18によって被覆されている。これにより、隣接する平角導線16同士の絶縁性が確保されている。また、平角導線16とステータコア12との間の絶縁性も確保されている。
スロット14内では、ステータコア12とコイル20との間に、発泡シート22と放熱シート24が設置されている。具体的には、スロット14における周方向側の一方の側面14aと、径方向側の側面(凹みの底面)14bの半分程度の部位に、発泡シート22が設けられている。そして、径方向側の側面(凹みの底面)14bの残る半分と、周方向側の他方の側面14cの全体に、放熱シート24が設けられている。
発泡シート22は、絶縁性の発泡部材の例であり、基材となる絶縁シートに、絶縁性の発泡性材料の例である発泡性の熱硬化性樹脂を浸み込ませて形成されている。絶縁シートとしては、例えば、耐熱性が高いSiO2(シリコン)繊維を織り上げたシリコンシートが用いられる。発泡性の熱硬化性樹脂は、樹脂中に分散された気体の膨張により、多孔質に形成される樹脂である。熱硬化性樹脂としては、絶縁性の耐熱性の特徴をもつものが選択される。図1に示した状態では、発泡シート22は、スロット14内に配置され、加熱されたことで、発泡して膨張し、固化している。
放熱シート24は、絶縁性の放熱部材の例であり、基材となる絶縁シートに、絶縁性の放熱性材料の例である放熱性樹脂を浸み込ませて形成された部材である。絶縁シートとしては、例えば、発泡シート22と同様に、シリコンシートが用いられる。また、放熱性樹脂としては、例えば、熱伝導性が高い金属やセラミクスなどをフィラーとして含有させた熱硬化性樹脂が用いられる。図1に示した状態では、放熱シート24はスロット14内に配置され、加熱されたことで、固化している。放熱シート24内のフィラーは、一般に、樹脂の表面には現れない傾向にあり、樹脂の表面に現れた場合にもフィラーは小片であるため、放熱シート24は全体として絶縁性を有する。
次に、図2及び図3も参照して、ステータ10の製造方法について説明する。図2と図3は、図1のAA面における部分的な断面図である。図2は、ステータ10の製造過程における途中状態を示しており、図3は、ステータ10の製造過程の最終状態を示している。
ここでは、共通の絶縁シートを用いて、発泡シート22と放熱シート24が形成される態様について説明する。まず、絶縁シートの一部に対し、発泡性の熱硬化性樹脂が塗布される。樹脂を絶縁シートに浸み込ませることで、必要な量の樹脂が絶縁シートに保持される。これにより、途中状態における発泡シート22が形成される。次に、絶縁シートにおける発泡性樹脂を塗布した隣の領域に、放熱性の熱硬化性樹脂が塗布される。これにより、途中状態における放熱シート24が形成される。
図2に示すように、電磁鋼板が積層されたステータコア12には、形成されたスロット14内に、途中状態の発泡シート22及び放熱シート24が設置される。発泡シート22は、ステータコア12における周方向側の一方の側面14aに接触するように配置され、放熱シート24は他方の側面14cに接触するように配置されている。
スロット14には、図2に示したように、絶縁部材18で被覆された平角導線16をU字型に折り曲げたセグメントコイルが軸方向に挿入される。この段階では、発泡シート22は発泡していないため、絶縁部材18で被覆された平角導線16の周囲には若干の隙間26があり、スムーズに挿入することができる。そして、絶縁部材18が剥離されたセグメントコイルの先端同士が溶接され、巻回されたコイル20が形成される。
続いて、ステータ10が加熱される。加熱は、例えば、コイル20に通電をしてジュール熱を発生させることにより行われてもよいし、別途用意した熱源を利用して行われてもよい。加熱によって、発泡シート22では、内部に気泡が形成され、膨張する。
この結果、図3に示すように、絶縁部材18で被覆された平角導線16は、発泡シート22に押されて、放熱シート24に押し付けられる。さらに、加熱を続けることで、発泡シート22と放熱シート24では熱硬化性樹脂が熱硬化する。詳細には、発泡シート22の熱硬化性樹脂は、膨張の結果として、スロット14の側面14a及び絶縁部材18と押し合った状態でこれらと接着する。また、放熱シート24の樹脂は、コイル20からの押圧力を受けることで、スロット14の側面14c及び絶縁部材18と押し合った状態で、これらと接着する。こうして、コイル20は、スロット14内に確実に固定されるとともに、放熱シート24との密着性も確保される。
回転電機が運転される状態では、コイル20は、平角導線16に流れる電流によって加熱され、温度を高める。この場合、発泡シート22は、断熱性が高いため、コイル20からの熱をあまり伝達することができない。しかし、放熱シート24では、フィラーの効果によって大きな熱伝導が起こる。このため、コイル20からの熱は、放熱シート24を通じて、速やかにステータコア12に伝導される。こうして、コイル20の温度上昇が抑制されることになる。
以上の説明では、発泡シート22と放熱シート24は、共通の絶縁シートにそれぞれの樹脂を塗布して形成するものとした。しかし、別々の絶縁シートを用いて形成するようにしてもよい。また、基材となる絶縁シートを用いることなく、例えば、ステータコア12の側面14aに発泡性の熱硬化性樹脂を塗布または充填する態様、あるいは、側面14cに放熱性の熱硬化性樹脂を塗布または充填する態様を採用することも可能である。
また、以上の説明では、スロット14における径方向側の側面14bには、発泡シート22と放熱シート24の境界が位置するものとした。しかし、側面14bには、特段部材を設けないようにしてもよいし、あるいは、樹脂が塗布されていない絶縁シートを設けるようにしてもよい。側面14bの全面に発泡シート22を設けて、発泡によるコイル20の圧縮力を高めることも可能である。また、側面14bの全面に放熱シート24を設けて、コイル20からの放熱性を向上させてもよい。
発泡シート22は、スロット14の側面14aの全面に設けられることで、コイル20の固着性向上と、コイル20を押圧する力の向上を図ることができる。しかし、十分な固着性と押圧力を確保できるのであれば、発泡シート22は側面14aの一部にのみ設けるようにしてもよい。また、放熱シート24は、スロット14の側面14cの全面に設けられることで、コイル20からの放熱性向上を図ることができる。しかし、十分な放熱性が確保できるのであれば、放熱シート24は側面14cの一部にのみ設けるようにしてもよい。
発泡シート22と放熱シート24(あるいは基材を用いない発泡部材と放熱部材)は、コイル20と一体化した形でコイル20と同時にスロット14内に設けるようにしてもよい。また、コイル20を設置した後に、発泡シート22に代えて基材を持たない発泡性の熱硬化性樹脂を充填し、放熱シート24に代えて基材を持たない放熱性の熱硬化性樹脂を充填するなど製造方法を変更することも可能である。
さらに、別の実施形態として、放熱性の絶縁シートを用いる態様が挙げられる。十分な放熱性を確保できる放熱性絶縁シートを利用できる場合、この放熱性絶縁シートを、直接、放熱シート24として利用することが可能である。また、この放熱性絶縁シートを、発泡シート22の基材として用いることも可能である。
したがって、放熱性絶縁シートの一部に発泡性の熱硬化性樹脂のみを塗布し、放熱性の熱硬化性樹脂を塗布する過程を省略した上で、図1~図3に示した実施態様を実現することが可能となる。放熱性絶縁シートの例としては、熱伝導率が高いシリコンシート、アクリル等の樹脂を用いたシートなどが挙げられる。前述のように、樹脂の中に熱伝導性が高いフィラーを含有したものであってもよい。一枚の放熱性絶縁シートを用いて、スロット14の側面14a、14b、14cを覆うためには、柔軟性を備えたシートである方が製造の容易化を図ることができる。しかし、放熱性絶縁シートに柔軟性がない場合であっても、切り込みを入れて折り曲げるなどすれば、利用可能になると考えられる。