図1に示す油圧機械の実施例としての掘削旋回作業機10の概略構成について説明する。掘削旋回作業機10は、左右一対のクローラ式走行装置11を備える。各クローラ走行装置11は、トラックフレーム11aに駆動スプロケット11b及び従動スプロケット11cを支持し、駆動スプロケット11bと従動スプロケット11cの間にクローラ11dを巻
回してなる。なお、走行装置をホイル式走行装置とすることも考えられる。
左右一対のクローラ式走行装置11の上部には、旋回台12が、両クローラ式走行装置11に対し鉛直の枢軸を中心に回動可能に搭載され、旋回台12に、エンジンE、ポンプユニットPU、制御弁ユニットV等を内装するボンネット13が搭載されている。旋回台12にはさらに、オペレータ用の座席14を配置しており、座席14の前方や側方には、後述の各油圧アクチュエータを操作するためのレバーやペダル等の手動操作具が配置されている。
旋回台12には、旋回台12に対し水平方向に回動可能にブームブラケット15が設けられており、ブームブラケット15にブーム16の基端部が上下回動自在に枢支され、ブーム16の先端部にアーム17の基端部が上下回動自在に枢支され、アーム17の先端部に、作業機としてのバケット18が上下回動自在に枢支されている。その他の作業機として、左右一対のクローラ式走行装置11に、排土用のブレード19が上下回動自在に取り付けられている。
以上に述べた掘削旋回作業機10の各駆動部の駆動のため、掘削旋回作業機10には、図2に示すように、複数の油圧アクチュエータが備えられる。図1には、代表的な油圧アクチュエータであるブームシリンダ20、アームシリンダ21、バケットシリンダ22が図示されている。ブームシリンダ20のピストンロッドの伸縮動によりブーム16がブームブラケット15に対し上下回動し、アームシリンダ21のピストンロッドの伸縮動によりアーム17がブーム16に対し上下回動し、バケットシリンダ22のピストンロッドの伸縮動によりバケット18がアーム17に対し上下回動する構成となっている。
これらの他、掘削旋回作業機10には、油圧シリンダよりなる伸縮型の油圧アクチュエータとして、図1では図外の、旋回台12に対しブームブラケット15を水平回動するためのスイングシリンダ、左右のクローラ式走行装置11に対してブレード19を上下回動するためのブレードシリンダ等が備えられている。
また、掘削旋回作業機10には、油圧モータよりなる回転型の油圧アクチュエータとして、図1では図外の、左右のクローラ式走行装置11のうち一方の駆動スプロケット11bを駆動するための第一走行モータ23(図2参照)、左右のクローラ式走行装置11のうち他方の駆動スプロケット11bを駆動するための第二走行モータ24(図2参照)、及び、旋回台12を左右のクローラ式走行装置11に対し旋回するための旋回モータ25(図2参照)が備えられている。
図2の油圧回路図により、掘削旋回作業機10に備えられる各油圧アクチュエータに対する油圧ポンプの吐出油の供給制御システムについて説明する。掘削旋回作業機10には、エンジンEにより駆動される油圧ポンプ1が備えられている。油圧ポンプ1は、ブームシリンダ20、アームシリンダ21、走行モータ23・24、及び旋回モータ25に圧油を供給する。図2の油圧回路図では、これらを代表的な油圧アクチュエータとして図示し、他の油圧アクチュエータについては図略している。
各油圧アクチュエータには、各別の方向制御弁が備えられており、これらの方向制御弁を合わせて前記制御弁ユニットVとしている。
それぞれの方向制御弁は、前述の各手動操作具の手動操作にて位置が切り換えられ、油の供給方向を切り換える。さらに、各方向制御弁にはメータイン絞りが備えられていて、各手動操作具の操作量に応じてメータイン絞りの開度が変化する。これにより、後述の負荷感知式ポンプ制御システム5による油圧ポンプ1の吐出流量制御と相まって、各油圧アクチュエータに対する作動油の供給流量を、各油圧アクチュエータの要求流量に合わせることができ、仕事をすることなくタンクに戻されて損失となる余剰流量を低減でき、油圧アクチュエータへの作動油供給システムの作動効率の向上を図っている。いいかえれば、各油圧アクチュエータについて、その方向制御弁の操作量に対応して設定されるメータイン絞りの開度により、その要求流量が確定される。
なお、図2では、方向制御弁30・31・33・34・35それぞれの手動操作具として、ブーム操作レバー30a・アーム操作レバー31a・第一走行操作レバー33a・第二走行操作レバー34a・旋回操作レバー35aが設けられているものとして描かれているが、これらの手動操作具は、レバー以外に、ペダルやスイッチ等としてもよく、また、適宜統合してもよい。例えば、一本のレバーの、一方向の回動によって、一つの方向制御弁を制御し、他方向の回動によって、別の方向制御弁を制御するという構成としてもよい。
また、手動操作具(レバー30a・31a・33a・34a・35a)をリモコン(パイロット)弁とし、手動操作具の操作で発生したパイロット圧によって各方向制御弁30・31・33・34・35を制御するものとしてもよい。
また、掘削旋回作業機10には、変速スイッチ26が備えられている。変速スイッチ26は、可変容量型油圧モータである第一走行モータ23の可動斜板23a及び第二走行モータ24の可動斜板24aに連係されており、変速スイッチ26の操作にて、可動斜板23a・24aが同時に傾動されるものとなっている。なお、ペダルやレバー等、スイッチ以外の手動操作具で、走行モータ23・24の可動斜板23a・24aを操作するものとしてもよい。
本実施例では、変速スイッチ26をON/OFF切換スイッチとしており、変速スイッチ26のON操作にて、可動斜板23a・24aを、路上走行に適した高速(通常速)設定用の小傾倒角度(小容量)位置に配し、変速スイッチ26のOFF操作にて、可動斜板23a・24aを、作業走行に適した低速(作業速)設定用の大傾倒角度(大容量)位置に配するものとしている。
より詳しくは、各可動斜板23a・24aは、油圧アクチュエータである斜板制御シリンダ23b・24bのピストンロッドに連係されていて、両斜板制御シリンダ23b・24bに作動油を供給するための開閉弁27が設けられている。変速スイッチ26を入れるとパイロット圧で開閉弁27が開いて斜板制御シリンダ23b・24bに作動油を供給し、斜板制御シリンダ23b・24bが可動斜板23a・24aを小傾倒角度位置へと押動する。一方、変速スイッチ26を切ると開閉弁27は斜板制御シリンダ23b・24bより作動油を戻し、ピストンロッドのバネ付勢により可動斜板23a・24aを大傾倒角度位置へと戻す。
油圧ポンプ1、油圧ポンプ1の吐出圧力が過大となることを防止するリリーフ弁3、そして、負荷感知式ポンプ制御システム5が組み合わされて、ポンプユニットPUを構成している。負荷感知式ポンプ制御システム5は、ポンプアクチュエータ6、ロードセンシング弁7、ポンプ制御比例弁8を組み合わせてなる。
ポンプアクチュエータ6は、油圧シリンダよりなり、そのピストンロッド6aを、第一油圧ポンプ1の可動斜板1aに連係しており、ピストンロッド6aの伸縮により、可動斜板1aを同時に傾動し、これらの傾倒角度を変更する。これにより、油圧ポンプ1の吐出油量QPを変更する。
ロードセンシング弁7の給排ポートは、ポンプ斜板アクチュエータ6の、ピストンロッド伸長用の圧油室6bと連通している。ロードセンシング弁7は、バネ7aにより、ポンプ斜板アクチュエータ6の圧油室6bより油を抜く方向、すなわち、ピストンロッド6aを収縮する方向に付勢されている。このピストンロッド6aの収縮方向は、可動斜板1aの傾斜角度増大側、すなわち、油圧ポンプ1の吐出流量増大側となっている。
ロードセンシング弁7には、油圧ポンプ1からの吐出油の一部が、ポンプ斜板アクチュエータ6の圧油室6bに供給される作動油として導入される。その一部は、油圧ポンプ1の吐出圧PPに基づくパイロット圧として、バネ7aに抗してロードセンシング弁7に付加される。ロードセンシング弁7へのパイロット圧としての吐出圧PPは、ポンプ斜板アクチュエータ6の圧油室6bに油を供給する方向、すなわち、ピストンロッド6aを伸長する方向にロードセンシング弁7を切り換えるように作用する。
さらに、全方向制御弁についての、メータイン絞りを経ての二次側の油圧、すなわち、各方向制御弁から各油圧アクチュエータへの供給油の油圧の全てのうちから、最大の油圧、すなわち、最大負荷圧PLを抽出し、これを吐出圧PPに抗するパイロット圧としてロードセンシング弁7に付加している。
ここで、各方向制御弁のメータイン絞りを通過して該当の油圧アクチュエータへと供給される油の流量、すなわち、各油圧アクチュエータの要求流量QRは、以下の「数1」に表される数式により算出される。
したがって、後述の制御圧PCが0であるものと仮定すれば、ロードセンシング弁7の位置は、吐出圧PPと最大負荷圧PLとの間の差圧ΔP(未制御差圧ΔP0)がバネ7aのバネ力FSを上回るか下回るかによって切り換えられる。すなわち、差圧ΔPがバネ力FSを上回ると、ポンプアクチュエータ6のピストンロッド6aが伸長して、可動斜板1aの傾倒角度を減少させ、油圧ポンプ1の吐出流量QPを低減する。バネ力FSが差圧ΔPを上回ると、ポンプアクチュエータ6のピストンロッド6aが収縮して可動斜板1aの傾倒角度を増大させ、油圧ポンプ1の吐出流量QPを増大する。
上記の式より、差圧ΔPが一定であれば、要求流量QRは、メータイン絞りの断面積A(開度)に比例する。メータイン絞りの開度は、その方向制御弁の手動操作具の操作量にしたがって決まる。つまり、要求流量QRは、エンジン回転数の変化とは関係なく決まる量であり、操作量を一定に保持している限り、要求流量QRは一定に保持される。
油圧ポンプ1からの吐出油量QPの不足により、操作される油圧アクチュエータに対しての方向制御弁におけるメータイン絞りを介しての供給流量が、当該油圧アクチュエータの要求流量QRに足りないと、差圧ΔPが小さくなり、バネ力FSを下回ることにより、ロードセンシング弁7が、可動斜板1aの傾倒角度を増大する方向に作動し、油圧ポンプ1の吐出流量QPを増大させ、当該油圧アクチュエータへの供給流量を増大させる。これにより、当該油圧アクチュエータの駆動速度を、その手動操作具にて設定した速度にまで高めることができる。
一方、油圧ポンプ1からの吐出油量QPが過剰である場合、差圧ΔPが大きくなって、バネ力FSを上回ることにより、ロードセンシング弁7が、可動斜板1aの傾倒角度を減少させる方向に作動し、油圧ポンプ1の吐出流量QPを低減し、油圧アクチュエータへの供給流量を、その要求流量QRに見合う値にまで低減する。これにより、作動油の過剰供給量を低減することができる。
ここで、例えばそれぞれのレバー操作量(各方向制御弁のスプールストローク)が最大(すなわち、各方向制御弁のメータイン絞りの開度が最大)であっても、操作対象となる油圧アクチュエータによって、要求流量QRには差がある。例えば、ブーム16を回動するためのブームシリンダ20の要求流量は高いものとなっている一方、旋回台12を回動するための旋回モータ25の要求流量は、さほど高くない。
このように、個々のアクチュエータの要求流量が違っても、前述の如くロードセンシング弁7における前記差圧ΔPをバネ7aのバネ力FSにて規定される差圧(目標差圧)に
するよう可動斜板1aの傾倒角度が制御されることで、油圧ポンプ1は、それぞれの方向制御弁にて規定される要求流量に見合う流量の油を供給する。すなわち、全アクチュエータについて、要求流量QRに対する供給流量Qの比率(Q/QR)(以下、「供要流量比」と称する)が1となることを目標として(以下、この目標値を「目標供要流量比Rq」とする)、油圧ポンプ1の可動斜板1aの傾倒角度(ポンプ容量)が制御される。
一方、可動斜板1aの傾倒角度を一定にしている場合、油圧ポンプ1の吐出流量QPは、エンジン回転数Nの変化に伴って変化する。
ここで、エンジン回転数の変化とは関係なくロードセンシング弁7における目標差圧ΔPが前記のバネ力FSにて規定される規定差圧ΔP0である(すなわち、全エンジン回転数域において、全アクチュエータの駆動について、目標供要流量比Rqが1(Rq=1)となることを目標にポンプ1の可動斜板1aが制御される)ことを前提として、ブーム操作レバー30aの操作量を最大にしてのブーム16の回動と、旋回操作レバー35aの操作量を最大にしての旋回台12の回動とを交互に行う場合の供給流量特性について、図4を用いて考える。
図4は、油圧アクチュエータの操作のために設定されてあるエンジン回転数Nの領域全体にわたっての油圧アクチュエータの供給流量Qの特性(ここではブームシリンダ20への供給流量Qb及び旋回シリンダ25の供給流量Qsの特性)を示しており、このエンジン回転数Nの領域は、ローアイドル回転数NLを最低値とし、ハイアイドル回転数NHを最大値とするものとなっている。また、可動斜板1aの傾倒角度について、ハイアイドル回転数NHでのエンジン駆動時(以下、「ハイアイドル回転時」とする)に操作されるものをΘNHとし、ローアイドル回転数NLでのエンジン駆動時(以下、「ローアイドル回転時」とする)に操作される場合のものをΘNLとしている。
図4には、可動斜板1aが最大傾倒角度位置にある場合に得られるポンプ吐出流量QPの最大量QPMAX(以後、最大吐出流量QPMAXとする)の、前記エンジン回転数領域にわたっての変化を示している。一方、供給流量Qは実際に方向制御弁を介して各アクチュエータに供給される流量であって、各アクチュエータを単独で駆動する限りは、その駆動ごとに、負荷感知式ポンプ制御システム5により油圧ポンプ1の吐出流量QPがその要求流量QRに見合うように制御されるので、結果的には吐出流量QP=供給流量Qとなる。以下の説明は、このことを前提としているものとする。
まず、目標差圧ΔPが規定差圧ΔP0に定められている限り、各アクチュエータが操作されるごとに、その要求流量QRを満たすようにポンプ1からの吐出油を供給すべく、すなわち、目標供要流量比Rq=1として、可動斜板1aの傾倒角度が制御される。
ここで、ブーム操作レバー30aの操作量を最大にした場合のブームシリンダ20の要求流量QbRは、方向制御弁30のメータイン絞りの最大開口面積SMAX(図7参照)によって決定されるところ、この要求流量QbRは、ハイアイドル回転時におけるポンプ最大吐出流量QPHMAXよりも少ないため、ハイアイドル回転時におけるブーム16駆動時の斜板1aの傾倒角度Θb1は、最大傾倒角度ΘMAX以下である(本実施例では傾倒角度ΘMAXよりも小さい)。すなわち、ハイアイドル回転時において、ブームシリンダ20への供給流量Qbは要求流量と同じQbRとなる。すなわち、ハイアイドル回転時には、ブームシリンダ20への供給流量Qbが最大値となり、このときのブーム16の駆動速度が、その最大駆動速度となる。
しかし、ブーム操作レバー30aの操作量を最大値に維持している限り、ブームシリンダ20の要求流量QbRは一定である一方、その要求流量QbRが、全アクチュエータの中でも高いものなので、エンジン回転数Nがハイアイドル回転数NHより低下するにつれ、最大吐出流量QPMAXが低下すると、やがて(図5において、エンジン回転数NがN1となる時点)、最大吐出流量QPMAX自体がブームシリンダ20の要求流量QbRと同じになる。エンジン回転数NがNHからN1に低下する間に、負荷感知式ポンプ制御システム5は、ブームシリンダ20の目標供要流量比Rq(=1)を実現すべく、可動斜板1aの傾倒角度を増大し、エンジン回転数N=N1の時点で、この可動斜板1aの傾倒角度が、最大角度ΘMAXに達することとなる。
さらに、エンジン回転数NがN1を下回り、ローアイドル回転数NLまで低下する間は、最大吐出流量QPMAXがブームシリンダ20の要求流量QbRを下回り、結果的に、エンジン回転数の低下に伴って、ブームシリンダ20への供給流量Qbが最大吐出流量QPMAXと重なって低減する。この供給流量Qbの低下に伴って、ブームシリンダ20の作動速度、すなわち、ブーム16の駆動速度が低下することとなる。
一方、旋回操作レバー35aの操作量を最大にした場合の旋回モータ25の要求流量QsRは、方向制御弁35のメータイン絞りの最大開口面積SMAX(図7参照)によって決定され、その要求流量QsRを満たすべく、ハイアイドル回転時には、油圧ポンプ1の可動斜板1aが傾倒角度Θs1に配され、旋回シリンダ23をその最大速度で作動し、すなわち、旋回台12をその最大速度で旋回する。したがって、ハイアイドル回転時には、ブーム操作レバー30aの操作量を最大にしてのブームシリンダ20の駆動と、旋回操作レバー35aの操作量を最大にしての旋回モータ25の駆動とを交互に行うことで、ブーム16も旋回台12も、それぞれの最大駆動速度で回動する。
しかし、旋回操作レバー35aの操作量を最大にしての旋回シリンダの要求流量QsRがブーム操作レバー30aの操作量を最大にしてのブームシリンダ20の要求流量QbRよりもかなり低く、ハイアイドル回転時に、可動斜板1aの傾倒角度ΘHは、前記のブーム操作レバー30aを最大操作量としてのブームシリンダ20の操作時における傾倒角度Θb1よりもかなり小さいものとなっており、最大傾倒角度ΘMAXまでかなりの傾動許容幅を有している。
したがって、旋回操作レバー35aが最大操作量に保持されつつ、ハイアイドル回転数NHからエンジン回転数Nが低下する間、目標供要流量比Rq=1とした負荷感知式ポンプ制御システム5のポンプ制御により、供給流量Qsが前記要求流量QsRを満たすよう、可動斜板1aの傾倒角度Θが角度増大側に傾動されるが、この傾動許容幅が大きいため、エンジン回転数Nがローアイドル回転数NLまで低下して、可動斜板1aが最大限に角度増大側に傾動されて傾倒角度Θs2まで達した状態でも、なお最大傾倒角度ΘMAXまでに至ることはない。したがって、このローアイドル回転数NLまでエンジン回転数Nが低下する間、旋回モータ25への供給流量Qbは要求流量QbRを満たしており、旋回モータ25の作動速度は前記最大速度のままであり、旋回台12の旋回速度も前記最大速度のままである。
このように、ブーム16のローアイドル回転時の駆動速度がハイアイドル回転時のそれよりも低下している一方で、旋回台12のローアイドル回転時の駆動速度がハイアイドル回転時のままに保たれているという状況において、オペレータが、エンジンEをローアイドル回転数NLで駆動していることで想定されるゆっくりとした速度でブーム16を回動してから、つづけて旋回台12を回動作業に移行したときに、その回動速度が想定していたよりも速くて、作業がやりづらいものとなる。また、旋回台12を微小な速度で動作させたい場合であっても、エンジン回転数の低減では旋回台12の旋回速度が変化しないため、旋回操作レバー35aの調整によってしか速度を調整できず、旋回の微操作をしにくい機械となる。
そこで、エンジン回転数の低下量に見合うように全アクチュエータについての目標供要流量比Rqを一定の比率で低減させて、負荷感知式ポンプ制御システム5によるポンプ制御を行うことで、それぞれの操作時における各アクチュエータへの供給流量Qが、要求流量QRの大小と関係なく、当該エンジン回転数Nの低下量に見合うよう一律に低減され、したがって、各アクチュエータにて駆動される各駆動部の駆動速度を一律に低下させることができる。
例えば、前述の如くブーム16の回動と旋回台12の回動とを交互に行う場合には、ローアイドル回転時において、ブーム16の回動がハイアイドル回転時に比べて遅くなったのと同等の感覚で、旋回台12の回動を遅くすることができ、ブーム16の回動に対して相対的に旋回台12の回動が速く感じられるという不具合を解消することができる。
また、このようなポンプ制御により、エンジン回転数の低下とともに旋回モータ25の駆動速度が低下するので、目標供要流量比Rq=1が固定されてポンプ制御されるときは不可能であった、エンジン回転数を増減させての旋回モータ25の微速調整による旋回台12の微妙な位置調整も可能となる。
このようにエンジン回転数の低下に応じて全アクチュエータの目標供要流量比Rqを低下するための手段として、負荷感知式ポンプ制御システム5においては、ポンプ制御比例弁8としての電磁比例弁が設けられており、ロードセンシング弁7にポンプ制御比例弁8からの油をパイロット圧油として供給する。この油の有するロードセンシング弁7の二次圧が、最大負荷圧PLに抗するようにロードセンシング弁7に付加される制御圧PCである。
制御圧PCを加えた分、バネ力FSと均衡するのに要する吐出圧PPと最大負荷圧PLとの差圧、すなわち目標差圧ΔPは減少する。したがって、制御圧PCを高めるほどロードセンシング弁7が可動斜板1aの傾倒角度減少側に働き、油圧ポンプ1の吐出流量を低減する。
前記制御圧PCは、電磁比例弁であるポンプ制御比例弁8のソレノイド8aに印加される電流値によって決まる。これを制御出力値Cとする。そこで、各油圧アクチュエータの方向制御弁について、その手動操作具の操作量に対する該油圧アクチュエータの要求流量の相関を、エンジン回転数ごとに想定し、こうして想定した相関を実現するように、エンジン回転数に対応しての制御出力値Cの相関マップを作成し、ポンプ制御比例弁8に対する制御出力値を制御するコントローラの記憶部にこのマップを記憶させておくことで、前述の如く、エンジン回転数の変化に対応しての全油圧アクチュエータの供要流量比の制御(すなわち、複数のアクチュエータの駆動速度がエンジン回転数に応じて同じ比率で低減する制御)が可能となる。このマップに基づき、本来は1であるべき全油圧アクチュエータの供要流量比の目標値を、エンジン回転数の低下に応じて低下させる制御を、「減速制御」と称するものとして、以下、説明する。
掘削旋回作業機10には、図3に示すような油圧アクチュエータの制御システムが構成されている。まず、コントローラ50の備える記憶部51に、全アクチュエータを対象とするエンジン回転数Nに対応する制御出力値Cの相関マップが記憶さ
れている。
なお、記憶部51に記憶されたエンジン回転数Nに対する制御出力値Cのマップは、掘削旋回作業機10においていくつか設定可能となっている作業モードごとに用意されている。本願では特に、図8(a)に示すように、通常モード設定時に選択される標準マップM1、及び、低速走行モード設定時に選択される低速走行マップM2のみを取り上げているが、この他にも、掘削旋回作業機10に、ハイアイドル回転数を通常の場合よりも低くする省燃費モード等も設定可能とすることが考えられ、これを設定した場合に用いられる制御出力値Cのマップも、前述のマップ群に含めることが考えられる。
コントローラ50には、エンジン回転数検出部52よりエンジン回転数の検出信号が、また、前記変速スイッチ26のON・OFF信号が、入力される。また、走行検出手段53より、実際に掘削旋回作業機10が走行しているのか否か(つまり、走行モータ23・24が駆動されているか否か)の判断を示す走行検出信号がコントローラ50に入力される。なお、走行検出手段53は、走行操作レバー33a・34の操作量を検出する構成としてもよい(例えば、両レバー33a・34の操作量が0のときには走行していないものと判断する)。
なお、変速スイッチ26のON・OFF信号及び走行検出手段53からの走行検出信号は、標準マップM1を選択するのか低速走行マップM2を選択するのかにかかわるものであり、これらの他、例えば前記の省燃費モード用のマップの選択にかかわって、省燃費モードを設定する際にON操作されるスイッチからの信号等がコントローラ50に入力されることが考えられる。
コントローラ50は、これらの入力信号に基づき、設定モードを判断し、記憶部51に記憶されているエンジン回転数Nに対する制御出力値Cの相関マップ群の中から、設定モードに対応するマップを選択し、選択したマップに、エンジン回転数検出部52からの入力信号に基づくエンジン回転数Nを当てはめることで、制御出力値Cの目標値を決定する。
前述の信号の入力に基づき標準マップM1及び低速走行マップM2のうちの一方がどのように選択されるのかについては、後に、図8〜10を用いて詳述する。
この決定に基づき、コントローラ50は、負荷感知式ポンプ制御システム5におけるポンプ制御比例弁8のソレノイド8aに、決定した制御出力値Cの電流を付加し、ポンプ制御比例弁8よりロードセンシング弁7に、当該制御出力値Cの付加にて生成された制御圧PCを有するパイロット圧油を供給し、これにより、ポンプアクチュエータ6を介して、油圧ポンプ1の可動斜板1aの傾倒角度、すなわち、油圧ポンプ1の吐出流量を制御するものである。
図5〜図7にて、「減速制御」に関しての、制御出力値Cのマップとそのマップに基づくポンプ制御の態様について説明する。
図5(a)は、エンジン回転数Nをハイアイドル回転数NHからローアイドル回転数NLまで低下させるに連れての制御出力値Cの変化を示すマップM1を示している。なお、ここでは、前述の如く掘削旋回作業機10において設定可能ないくつかのモードごとに用意されたマップ群の中の代表的な標準マップM1の構成について説明する。
マップM1は、ハイアイドル回転時の制御出力値Cを最小値C0(ポンプ制御比例弁8の二次圧(制御圧PC)を0とする値)とし、ローアイドル回転時の制御出力値Cを最大値CMAXとしており、ハイアイドル回転数NHからローアイドル回転数NLまでエンジン回転数Nを低下させるにつれ、制御出力値Cを増加するものとしている。
図5(b)及び図5(c)は、マップM1に基づきエンジン回転数Nの変化に対応してポンプ制御比例弁8の制御出力値C(ソレノイド8aへの印可電流値)を変化させた場合の、ロードセンシング弁7にかかる圧力の変化を示すものであって、図5(b)は、エンジン制御比例弁8の二次圧、すなわち、制御圧PCの変化を示し、図5(c)は、制御圧PPと最大負荷圧PLとの差圧ΔPの目標値、すなわち目標差圧ΔPを示す。
ハイアイドル回転時に、制御出力値Cが最小値C0であることにより、制御圧PCは0である。したがって、目標差圧ΔPは、ロードセンシング弁7のバネ力FSと等しい規定差圧ΔP0である。ハイアイドル回転数NHからローアイドル回転数NLにエンジン回転数Nを低下させるにつれ、制御出力値Cの増加により、制御圧PCが増加し、その分、目標差圧ΔPは減少する。ローアイドル回転時の目標差圧ΔPを最小目標差圧ΔPMINとする。
図6は、エンジン回転数の変化に対応しての油圧アクチュエータへの供給流量特性に現れる「減速制御」の効果を示す図であって、要求流量の異なる二つの油圧アクチュエータ(ここでは、ブームシリンダ20及び旋回モータ25とする)を交互に(すなわち、それぞれ単独で)操作する作業状態を想定したものであり、要求流量が高いブームシリンダ20を駆動する場合のポンプ供給流量Qbのグラフと、要求流量の低い旋回モータ25を駆動する場合の供給流量Qsのグラフとを示している。また、図4と同様に最大吐出流量QPMAXのグラフを描いている。なお、それぞれ、その操作レバー30a・35aの操作量を最大(各方向制御弁30・35のスプールストロークSを最大値SMAX)にしたときのもの、すなわち、それぞれの要求流量QbR・QsRを最大としたときのものとする。また、前述のとおり、可動斜板1aの傾倒角度について、ハイアイドル回転時のものをΘNH、ローアイドル回転時のものをΘNLとしている。
まず、ハイアイドル回転時(N=NH)には、ポンプ制御比例弁8の制御出力値Cを最小値C0とし、ロードセンシング弁7に制御圧PCをかけない(すなわち、規定差圧ΔP0を目標差圧ΔPとする)ので、各アクチュエータについて、目標供要流量比Rq=1として、可動斜板1aが制御される。したがって、図4で説明したハイアイドル回転時の場合と同様に、ブームシリンダ20の駆動時には可動斜板1aが傾倒角度Θb1に達して供給流量QbHが要求流量QbRを満たし(QbH=QbR)、ブーム16をその最大速度で駆動する一方、旋回モータ25の駆動時には可動斜板1aが傾倒角度Θs1に達して供給流量QsHが要求流量QsRを満たし(QsH=QsR)、旋回台12をその最大速度で旋回する。
一方、ローアイドル回転時(N=NL)には、ポンプ制御比例弁8の制御出力値Cが最小値C0よりも大きなCMAXとなり、ロードセンシング弁7に制御圧PCがかかり、目標差圧ΔPは、規定差圧ΔP0−制御圧ΔPCとなって、ハイアイドル回転時よりも減少する。これにより、各アクチュエータの目標供要流量比Rqを、ハイアイドル回転時の目標値1よりも小さい値とする。ここでは、ローアイドル回転時の目標供要流量比RqをRqLとする場合に、RqL=NL/NHとする。したがって、ブームシリンダ20の駆動時に、可動斜板1aの傾倒角度ΘNLはΘb2に抑えられ、回動の供給流量QbLはQbR×NL/NHに低減する一方、旋回モータ25の駆動時に、可動斜板1aの傾倒角度ΘNLは、減速制御がなければΘs2まで傾倒可能であるところを、それより小さなΘs3に抑えられ、供給流量QsLはQsR×NL/NHに低減する。このように、ブームシリンダ20も旋回モータ25も、ハイアイドル回転数からローアイドル回転数にエンジン回転数が低下するのに伴って、供給流量Qが同じ比率で低下し、それぞれの駆動速度も同じ比率で低下する。
さらには、ハイアイドル回転数NHとローアイドル回転数NLとの間の任意回転数NMでエンジンEが駆動されるときは、各アクチュエータ駆動時における目標供要流量比RqをNM/NHとする。任意回転数NMは、ローアイドル回転数NLに近いほど小さくなる数値であり、したがって、ローアイドル回転数NLに向かってエンジン回転数Nが下がるほど各アクチュエータ駆動時における目標供要流量比Rqが低下する。
なお、任意エンジン回転数NMに対応する目標供要流量比RqをNM/NHとするのは、目標エンジン回転数Nの低下に伴って各アクチュエータの駆動時の供給流量Qの低下態様を、エンジン回転数の低下なりに合わせるものとするための一実施例であり、これとは異なる数値としてもよい。重要なのは、ハイアイドル回転数NHからの目標エンジン回転数Nの低下とともに目標供要流量比Rqが低下するものであり、全アクチュエータについて、各アクチュエータの操作時ごとにそのエンジン回転数の低下に合わせての目標供要流量比Rqの低減効果が得られることである。
ここで、図4で説明したように、ブーム操作レバー30aの操作量を最大にした状態の要求流量QbRが大きいブームシリンダ20については、エンジン回転数の変化にかかわらず目標差圧ΔPを変えない(目標供要流量比Rq=1を保持する)場合、エンジン回転数Nの低下に伴う供給流量Qbの低下が、ほぼ、エンジン回転数Nの低下に伴う最大吐出流量QPMAXの低下によるものとなっている。そして、図6を見ると、ブーム操作レバー30aの操作量を最大にしてのブームシリンダ20についての供給流量Qbを、任意エンジン回転数NMに対応してQbR×NM/NHとする場合、エンジン回転数の低下に伴っての供給流量Qbの低下態様が、概ね最大吐出流量QPMAXの低下態様に沿ったものであることがわかる。
一方、旋回操作レバー35aの操作量を最大にした状態の要求流量QsRが小さい旋回モータ25については、図4で説明したように、エンジン回転数の変化にかかわらず目標差圧ΔPを変えない(目標供要流量比Rq=1を保持する)場合、ハイアイドル回転数NHからローアイドル回転数NLまでのエンジン回転数Nの全域にわたって、供給流量Qsが要求流量QsRを満たす量に保持されているところ、図6を見ると、旋回操作レバー35aの操作量を最大にしての旋回モータ25についての供給流量Qsを、任意エンジン回転数NMに対応してQsR×NM/NHとすることで、エンジン回転数の低下に伴って、そのエンジン回転数の低下なりに供給流量Qsが低下するものであることがわかる。
このように、エンジン回転数の低下に伴って図5(a)に示す制御出力値Cを増加させることによる目標供要流量比Rqの低減効果は、見た目には、要求流量の小さいアクチュエータについて、今までエンジンの低回転時でも要求流量を満たすように保持されていた供給流量が低減されるので、その効果が顕著に表れるものであり、要求流量の大きいアクチュエータについては、エンジン回転数の低下に伴っての供給流量の低減態様が、最大吐出流量QPMAXの低下によるものと似たものであるため、その効果が明らかには表れないが、図5(a)〜図5(c)に見られる制御出力値C、制御圧PC、及び目標差圧ΔPの、エンジン回転
数の変化に対応しての制御の効果が、ブームシリンダ20のように要求流量の大きい油圧アクチュエータにも得られているのにはかわりなく、すなわち、全アクチュエータについて、それぞれの駆動時に、エンジン回転数に対応しての目標供要流量比Rqの低減による駆動速度の低減効果を得られるものである。
この結果として、全アクチュエータについて、それぞれのレバー位置を変えない状況において、エンジンの回転数の低下に伴い、一律の態様で(例えばエンジン回転数の低下なりに)駆動速度が低下し、低エンジン回転数でのエンジン駆動下においていずれかのアクチュエータの駆動が他のアクチュエータに相対して速く感じられてしまうという事態を回避している。
また、旋回モータ25のように要求流量の小さいアクチュエータの場合には、目標供要流量比Rq=1に固定されていた場合には不可能だったエンジン回転数を変化させてのアクチュエータの微速調整が可能となる。
エンジン回転数の変化に対応しての減速制御に関連して、図7では、ある油圧アクチュエータについてのレバー操作量、すなわち、その方向制御弁のスプールストロークSに対しての要求流量QRおよび供給流量Qの特性を示している。要求流量QRは、スプールストロークSが増大するにつれ増大し、最大ストロークSMAXで最大値QRMAXとなる。ハイアイドル回転時のように、減速制御による制御出力がない場合には、要求流量QRがポンプの最大吐出流量QPMAXを上回らない限り、供要流量比が1となり、供給流量QHは要求流量QRと一致する。一方、ローアイドル回転時の供給流量QLは、減速制御の効果によって、要求流量QRに、1未満の一定の比率(前述の実施例ではNL/NH)を乗じた量となる。すなわち、スプールストロークSが最大ストロークSMAXの場合は、QLMAX=QRMAX×NL/NHとなる。この対応関係は操作量(スプールストロークS)の状態に関わりなく保持され、減速制御が適用されている状態であっても、ローアイドル回転時のポンプの供給流量QLはレバー操作量の増大とともに増大し、アクチュエータの作動速度も増大する。
さらに掘削旋回作業機10では、減速制御に関連し、前述の如く、通常モードか低速走行モードかの選択に基づき、図8(a)に示す標準マップM1か低速走行マップM2かの選択がなされる。
ここで、図3を用いて説明すると、コントローラ50は、変速スイッチ26及び走行検出部S2からの信号に基づき、走行モータ23・24の可動斜板23a・24が小傾倒角度(小容量)位置(通常速位置)にあると判断するときは、走行モータ23・24が実際に駆動状態(走行状態)であるか否かにかかわらず、掘削旋回作業機10を通常モードに設定するものとし、記憶部51に記憶したマップ群の中から標準マップM1を選択する。
一方、走行モータ23・24の可動斜板23a・24aが大傾倒角度(大容量)位置(低速位置)にあると判断する場合、コントローラ50は、走行モータ23・24が駆動状態(走行状態)になければ、掘削旋回作業機10を通常モードに設定するものとして、標準マップM1を選択する。そして、走行モータ23・24が実際に駆動状態(走行状態)にあると判断した場合に、掘削旋回作業機10を低速走行モードに設定するものとし、記憶部51に記憶したマップ群の中から低速走行マップM2を選択する。すなわち、低速走行マップM2が選択されるのは、可動斜板23a・24aを低速位置にした状態の走行モータ23・24を実際に駆動する場合のみである。
標準マップM1では、ハイアイドル回転時の制御出力値Cを最小値C0(制御圧PCを0とする制御出力値)としており、エンジン回転数Nを低下させるにつれ制御出力値Cを増加させ、ローアイドル回転時での制御出力値CをCMAXとしている。一方、低速走行マップM2では、ハイアイドル回転時の制御出力値Cを最小値C0よりも大きな値CWとしており、エンジン回転数Nを低下させるにつれ制御出力値Cを増加させ、ローアイドル回転時での制御出力値Cは、通常モード設定時と同じCMAXとしている。
すなわち、標準マップM1は、エンジン回転数Nのハイアイドル回転数NHからローアイドル回転数NLへの低下に伴って、制御出力値Cを、最小値C0から最大値CMAXまで増加させるよう設定されたものである一方、低速走行マップM2は、エンジン回転数Nのハイアイドル回転数NHからローアイドル回転数NLへの低下に伴って、制御出力値Cを、最小値C0よりも大きなCWから最大値CMAXまで、標準マップM1の制御出力値Cよりも小さな増加率で増加させるよう設定されたものである。
図8(b)及び図8(c)は、マップM1・M2に基づきエンジン回転数Nの変化に対応してポンプ制御比例弁8の制御出力値C(ソレノイドへの印加電流値)を変化させた場合の、ロードセンシング弁7にかかる圧力の変化を示すものであって、図8(b)におけるグラフPC1は通常モード設定時の制御圧PCの変化、グラフPC2は低速走行モード設定時の制御圧PCの変化を示し、図8(c)におけるグラフΔP1は通常モード設定時の目標差圧ΔPの変化、グラフΔP2は低速走行モード設定時の目標差圧ΔPの変化を示す。
ハイアイドル回転時において、通常モード設定時は、制御出力値Cが最小値C0であることにより、制御圧PCは0である。したがって、目標差圧ΔPは、最大目標差圧ΔP0となる。一方、同じくハイアイドル回転時において、低速走行モード設定時は、制御出力値Cを最小値C0よりも大きなCWとすることにより、0よりも大きな値PCWの制御圧PCが発生する。この制御圧PCWがかかることにより、目標差圧ΔPは、最大目標差圧ΔP0よりも小さいΔPWとなる。
すなわち、ハイアイドル回転時では、通常モード設定時には制御圧PCを0として、減速制御を行わず、低速走行モード設定時に、制御圧PCWを付加し、全アクチュエータについての減速制御(すなわち、目標供要流量比Rqの低下)を行うものとしている。
一方、ローアイドル回転時では、前述の如く、通常モード設定時に、目標供給流量比RqをNL/NH(<1)に低減すべく、マップM1にて制御出力値Cの最大値CMAXを決定し、制御圧PCを最大値PCMAXとし、目標差圧ΔPを最小目標差圧ΔPMINとする減速制御を行っている。そこで、このローアイドル回転時においては、低速走行モード設定時も、目標供給流量比Rqを共通のものとし(すなわち、Rq=NL/NH)、マップM2上のローアイドル回転数NLに対応する制御出力値Cを同じくCMAXとし、制御圧PCを最大値PCMAXとし、目標差圧ΔPを最小目標差圧ΔPMINとして、通常モード設定時と共通の減速制御を行うものとしている。
なお、ローアイドル回転時において、標準マップM1上の制御出力値C(=CMAX)と、低速走行マップM2上の制御出力値Cとが異なる値であるものとしてもよく、この場合には、ローアイドル回転時にて両モード間でのモード切換により、制御圧PCが変化し、目標差圧ΔPが変化し、目標供要流量比Rqが変化することとなる。
図9は、走行モータ23・24の駆動について、通常モードと低速走行モードとの間でのモード切換により走行モータ23・24への供給流量Qに現れる効果を示す図である。なお、いずれのモードにおいても、走行操作レバー33a・34aの操作量を最大(方向制御弁33・34のスプールストロークSを最大値SMAX)にしたときのものとする。
ハイアイドル回転時において、通常モードでは、標準マップM1に基づき、制御圧PCのかからない状態(すなわち、「減速制御」をしない状態)でのロードセンシング弁7における目標差圧ΔPMAXを達成するように、すなわち、目標供要流量比Rq=1として、可動斜板1aの傾倒角度が決定され、可動斜板23a・24aを通常速位置(小容量位置)にした状態の走行モータ23・24への供給流量Qnは、走行モータ23・24についての要求流量QtRを満たすものとなる(Qn=QtR)。
そして、同じくハイアイドル回転時において、低速走行モードでは、マップM2に基づき、制御出力値CをCWとして、ロードセンシング弁7に制御圧PCWをかけ、目標差圧ΔPは、制御圧PCのない状態での規定差圧ΔP0よりも低いΔPWとなり、目標供要流量比Rqの値を、通常モード時の値1より小さな値RqwH(<1)とし、この目標供要流量比RqwHを満たすように可動斜板1aが傾動され、走行モータ23・24への供給流量Qwは、通常モード設定時のQtRよりも小さなQwH(=QtR×RqwH)となる。
低速走行マップM2は、ハイアイドル回転数NHとローアイドル回転数NLとの間での任意のエンジン回転数NMに対応して制御出力値C(C0<C<CMAX)を決定するものとなっており、その制御出力値Cにて生成される制御圧PCにて得られる目標供要流量比Rqは、通常モード時の、そのときの目標エンジン回転数(任意エンジン回転数NM)に応じて得られる値NM/NHからさらに低下した値Rqw(<NM/NH)となる。この目標供要流量比Rqwを満たすように可動斜板1aが傾動され、走行モータ23・24への供給流量Qwは、通常モード設定時にそのエンジン回転数Nに対応して得られる供給流量Qn(=QtR×NM/NH)より、さらに低下して、Qn×Rqwとなる。
なお、ローアイドル回転時には目標供要流量比Rqw=NL/NHとなり、通常モードと低速走行モードとの切換(走行モータ23・24の容量の切換)によっては供給流量QLが変わらないものとしている。
このように、標準マップM1から作業走行マップM2への切換は、油圧アクチュエータ(特に走行モータ23・24)の供給流量特性上に現れる効果として、任意のエンジン回転数Nに対応して、元々は1である目標供要流量比Rqを、標準マップM1を用いて補正して(すなわち、減速制御して)得た値を、さらに、作業走行マップM2を用いて補正する(減速制御する)ことを意味する。なお、ハイアイドル回転時には、標準マップM1を用いた場合に目標供要流量比Rq=1なので、結果的に、作業走行マップM2を用いることで初めて「減速制御」がなされるように見えるものであり、ローアイドル回転時には、目標供要流量比Rqが共通の値(NL/NH)となるので、結果的に、標準マップM1から作業走行マップM2に切り換えた場合に、さらなる減速制御はなされないこととなる。
この低速走行モードへのモード切換に伴う減速制御(走行モータ23・24についての供要流量比の補正)は、走行操作レバー33a・34aの操作量、かつ、同じエン
ジン回転数で、走行モータ23・24の可動斜板23a・24aを通常速位置にしたときの走行速度の、同じく低速位置にしたときの走行速度に対する速度比(または両走行速度の速度差)を大きくするという効果をもたらす。また、この速度比の拡大は、エンジン回転数の高い領域にて顕著となり、ハイアイドル回転数で最大となる。
したがって、例えば掘削旋回作業機10の路上走行速度を高速化するために高回転のエンジンを備えた場合に、ハイアイドル回転数NH付近のエンジン高回転速度領域において、通常モード設定で可動斜板23a・24aを通常速位置(小容量設定)にした走行モータ23・24の駆動については、減速制御をしない(目標供要流量比Rq=1)か、目標供要流量比Rgの低下率を小さく抑えることで、この領域でのエンジン回転数が増加した分、駆動スプロケット11bの駆動速度を上げる(走行速度を上げる)ことができる一方、低速走行モードにすると、走行モータ23・24の低速位置(大容量設定)への切換による出力速度の低下に加えて、減速制御、すなわち、目標供要流量比Rqを、通常モード設定時のものよりもさらに低下するように補正することで、油圧ポンプ1の可動斜板1aの傾倒角度を減少側に切り換える制御がなされるので、エンジン回転数の増加分や油圧ポンプ容量の増加分が相殺され、従来どおりの作業のしやすい低速で掘削旋回作業機10を走行させることができる。
走行モータ23・24の可動斜板23a・24aを、通常速位置にしたときの走行速度と、低速位置にしたときの走行速度との差を大きくするには、走行モータ23・24として用いられる油圧モータの可動斜板23a・24aの低速位置と通常速位置との角度差を変更するということも考えられるが、油圧モータの可動斜板は、一定の規格で設計されており、両位置の角度差を変更しようと思えば、設定上の変更が必要となり、コストがかかる。この点、減速制御は、既存のポンプ制御比例弁8を用いて、その制御出力値Cに関するマップを変更するだけでよいので、高コスト化につながることもない。
なお、減速制御は、ロードセンシング弁7に制御圧PCを付加することにより油圧ポンプ1の可動斜板1aの傾倒角度を増大側に変更するものであって、前述の如く、全アクチュエータについて、その供要流量比を低下する効果をもたらす。
ここで、可動斜板23a・24aが通常速位置にあっても低速位置にあっても、前述の走行検出手段53からの走行検出信号に基づき、走行モータ23・24が駆動状態にないものと判断されれば、掘削旋回作業機10は通常モードに設定されるので、掘削旋回作業機10が走行停止している間での他の油圧アクチュエータの駆動、すなわち、ブームシリンダ20、アームシリンダ21、バケットシリンダ22等の駆動に関しては、エンジン回転数に対応して、標準マップM1に基づく制御出力値Cの制御による供給流量の制御を受けることとなる。
いいかえれば、可動斜板23a・24aを低速位置にして、実際に走行モータ23・24を駆動して掘削旋回作業機10を低速走行するときにのみ、走行モータ23・24への供給流量について低速走行マップM2による制御を受けるものであり、他のアクチュエータについては、当該低速走行中に走行モータ23・24が駆動されつつ他のアクチュエータが駆動されるということがない限り、全て、標準マップM1により供給流量の制御を受けるものであり、通常モードにて想定された作動速度で作動するものである。
走行モータ23・24の容量切換に対応しての減速制御に関連して、図10では、ハイアイドル回転時における走行モータ23・24のレバー操作量(走行操作レバー33a・34aの操作量)、すなわち、方向制御弁33・34のスプールストロークSに対しての要求流量QtRおよび供給流量Qの特性を示している。要求流量QtRは、スプールストロークSが増大するにつれ増大し、最大ストロークSMAXで最大値QRMAXとなる。可動斜板23a・24aを小傾倒角度(小容量)位置(通常速位置)にした通常モードにおいては、減速制御がないため、供要流量比が1となり、供給流量Qnは要求流量QtRと一致する。一方、可動斜板23a・24aを大傾倒角度(大容量)位置(低速位置)にした低速走行モードにおいては、減速制御の効果によって、要求流量QtRに、1未満の一定の比率(前述の実施例ではRqwH)を乗じた量となる。すなわち、スプールストロークSが最大ストロークSMAXの場合は、QwMAX=QRMAX×RqwHとなる。この対応関係は操作量(スプールストロークS)の状態に関わりなく保持され、減速制御が適用されている状態であっても、低速走行モードにおけるポンプの供給流量Qwはレバー操作量の増大とともに増大し、走行モータ23・24の作動速度、すなわち駆動スプロケット11bの回転速度も増大する。
以上の如く、本願に係る掘削旋回作業機10は、エンジンEにて駆動される可変容量型油圧ポンプ1からの吐出油にて駆動される複数の油圧アクチュエータを備えた油圧機械であって、その制御装置としてのポンプ制御システム5は、各油圧アクチュエータの駆動時に、その油圧アクチュエータの要求流量QRを満たすように油圧ポンプ1の吐出油の流量を制御し、かつ、エンジン回転数Nの変化に応じて、各油圧アクチュエータの要求流量QRに対する供給流量Qの比率(Q/QR)の目標値Rqを補正するよう構成されている。該複数の油圧アクチュエータには、掘削旋回作業機10の走行用の油圧モータであって、その容量を、少なくとも二段階の異なる容量に切換設定可能である走行モータ23・24を含んでいる。ポンプ制御システム5は、エンジン回転数Nの変化に加え、走行モータ23・24の容量の切換に応じて、各油圧アクチュエータの要求流量QRに対する供給流量Qの比率(Q/QR)の目標値Rqを補正するよう構成されている。
前記複数の油圧アクチュエータには、各別に設けられる方向制御弁のメータイン絞りを介して、油圧ポンプ1からの吐出油が供給されるものであり、前記各アクチュエータの要求流量QRは、各方向制御弁のメータイン絞りの開度にて画定されるものである。負荷感知(ロードセンシング)式のポンプ制御システム5は、油圧ポンプ1の吐出油が有する吐出圧PPと各油圧アクチュエータへの供給油が有する負荷圧PLとの間の差圧ΔPについて、全アクチュエータに共通の目標値を設定しており、全油圧アクチュエータについて、差圧ΔPの目標値を達成するように、該油圧ポンプの吐出油の流量を制御する構成である。この差圧ΔPの目標値を補正することにより、エンジン回転数Nの変化に応じての前記比率(Q/QR)の目標値Rqの補正、及び、走行モータ23・24の容量の切換に応じての前記比率(Q/QR)の目標値Rqの補正を行う。
負荷感知式ポンプ制御システム5は、前記差圧ΔPの目標値を変化させるための制御圧PCを、電磁比例弁であるポンプ制御比例弁8の二次圧にて生成するものとしており、また、エンジン回転数Nに対するポンプ制御比例弁8にかける電流値としての制御出力値Cの相関マップとして、複数のマップを記憶している。該複数のマップは、走行モータ23・24の前記少なくとも二段階の容量設定ごとにそれぞれ対応した二以上のマップM1・M2を含むものである。
前記二以上のマップM1・M2は、走行モータ23・24の小容量設定に対応する標準マップM1と、走行モータ23・24の大容量設定に対応する低速走行マップM2とを含む。走行モータ23・24の該大容量設定時において、実際に走行モータ23・24が駆動される状態であることが確認されたときにのみ低速走行マップM2を用いての油圧ポンプ1の吐出油の流量制御が行われ、それ以外は、標準マップM1を用いての油圧ポンプ1の吐出油の流量制御が行われるよう構成されている。
以上の如き掘削旋回作業機10のポンプ制御システム5により、走行モータ23・24の、大容量設定時の出力速度と小容量設定時の出力速度との比率(速度比)を変更できる。すなわち、一定のエンジン速度で走行モータ23・24用の方向制御弁33・34の操作量(スプールストロークS)を一定にしていると仮定しての、容量の切換に伴っての出力速度差を、走行モータ23・24としての油圧モータの規格により規定されている値とは異なる値にすることができる。
したがって、例えば掘削旋回作業機10の路上走行速度を高速化するために高回転のエンジンを備えるものとした場合に、ハイアイドル回転数(エンジン回転の最高速)が増加することで、走行モータ23・24の小容量設定時には高速のエンジン回転にて路上走行速度の高速化を実現できる一方で、大容量設定時には、エンジンの高回転化によるハイアイドル回転数の増加の影響を受けずに、作業のしやすい従来の走行速度となるように、該油圧モータの出力速度を低く抑えることができる。
前記速度比の変更は、走行モータ23・24の可動斜板23a・24aの設定位置を変更することによっても可能であるが、この場合、可動斜板23a・24aの位置決め用の複雑な機構についての設計変更を迫られ、高コストにつながる可能性がある。しかし、本願に係るポンプ制御システム5は、吐出圧PPと負荷圧PLとの間の差圧ΔPの目標値を補正するという、既存の負荷感知式ポンプ制御システムで採用されている構造を、走行モータ23・24の容量切換の際に採用するだけですむ。例えば、走行モータ23・24の容量設定ごとに対応したマップを二以上記憶しておくという構造ですむ。したがって、低コストで前述の如き効果を奏するポンプ制御システム5を提供できる。
また、前記の差圧ΔPの目標値の補正は、油圧ポンプ1の吐出油の流量を制御するものなので、走行モータ23・24のみならず、全アクチュエータについて、要求流量QRに対する供給流量Qの比率(Q/QR)の目標値Rqの補正が適用されることとなる。この場合、前述の如く大容量設定時の走行モータ23・24の出力速度を低く抑えるものとすると、走行速度が低く抑えられるのみならず、他のアクチュエータの駆動速度も、走行モータ23・24を大容量設定に切り換えるのに伴って、駆動速度が低くなってしまい、作業効率が落ちてしまう。
この点、走行モータ23・24の大容量設定時において、実際に走行モータ23・24が駆動される状態であることが確認されたときにのみ、大容量設定時用の低速走行マップM2を用いるものとすることで、他のアクチュエータについては、走行モータ23・24の容量切換とは関係なく、走行モータ23・24の小容量設定時に対応する駆動速度にて駆動することができ、走行速度のみ低く抑えながら、小容量設定時とかわらない効率のよい作業を行うことができる。