以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)では、回転するタイヤと、その周囲にある流体との様子がシミュレーションされる。
図1は、本発明のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。また、記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
図2は、タイヤの一例を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2は、乗用車用タイヤである場合が例示される。なお、タイヤ2は、乗用車用タイヤに限定されるわけではない。本実施形態のタイヤ2は、図2に示されるように、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7とが設けられている。さらに、タイヤ2には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム8が設けられている。
トレッド部2aは、路面(図示省略)に接地する踏面9と、踏面9から凹んだ少なくとも1本の溝10とを具えている。本実施形態の溝10は、タイヤ周方向に連続してのびる主溝10Aと、主溝10Aに交わる向きにのびる横溝10Bとを含んで構成されている。また、カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aを含んでいる。ベルト層7は、内、外2枚のベルトプライ7A、7Bを含んでいる。
図3は、シミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、タイヤモデルが入力される(工程S1)。図4は、タイヤモデル12及び路面モデル15の一例を示す概念図である。図5は、タイヤモデル12の一例を示す断面図である。
図5に示されるように、工程S1では、図2に示したタイヤ2に関する情報(例えば、タイヤ2の輪郭データ等)に基づいて、有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化している。本実施形態では、図2に示したトレッドゴムを含むゴム部材2G、カーカスプライ6A、及び、各ベルトプライ7A、7B等の各タイヤ構成部材が、要素F(i)で離散化されている。これにより、タイヤ2をモデル化したタイヤモデル12が設定される。
要素F(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法を適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用されている。また、要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。各要素F(i)は、複数個の節点13が設けられる。このような各要素F(i)には、要素番号、節点13の番号、節点13の座標値、及び、材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。
タイヤモデル12のトレッド部12aは、踏面19と、踏面から凹んだ少なくとも1本の溝20とを具えている。踏面19及び溝20は、図2に示したタイヤ2の輪郭に基づいて設定されている。溝20は、タイヤ2の主溝10A(図2に示す)に基づいて設定された主溝20Aと、横溝10B(図2に示す)に基づいて設定された横溝20B(図6に示す)とを含んでいる。タイヤモデル12は、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1に、路面モデル15(図4に示す)が入力される(工程S2)。本実施形態の路面モデル15は、平坦路(図示省略)をモデル化したものが例示されるが、円筒状に形成されたドラム試験機(図示省略)の外周面をモデル化したものでもよい。工程S2では、路面(本実施形態では、平坦路)に関する情報に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化する。これにより、工程S2では、路面モデル15が設定される。
本実施形態の路面モデル15の外面は、平滑なスムース路面として設定されているが、例えば、走行騒音試験に用いられる路面(ISO路面)や、アスファルト路面に基づいて、凹凸(図示省略)が設定されてもよい。また、要素G(i)としては、変形不能に設定された剛平面要素が採用される。要素G(i)には、複数の節点16が設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点16の座標値等の数値データが定義される。路面モデル15は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1に、タイヤ2(図2に示す)の周囲の流体(図示省略)を、有限個の要素に離散化した流体モデルが入力される(工程S3)。本実施形態の流体としては、空気である場合が例示される。このような空気をモデル化した流体モデルは、例えば、タイヤ2の空力性能やノイズ性能等の評価に用いることができる。また、路面付近の一部の領域に水(水膜)が配置されてもよい。このような水をモデル化した流体モデルは、タイヤ2の排水性能等の評価に用いることができる。図6は、タイヤモデル12、路面モデル15、及び、流体モデル25の一例を示す断面図である。図7は、図6の拡大図である。図8は、図7のA−A断面図である。
本実施形態の流体モデル25は、タイヤモデル12及び路面モデル15の各々の一部を囲む立方体26の領域から、タイヤモデル12の体積及び路面モデル15の体積を差し引くことによって決定される。なお、流体モデル25を定義する際に用いられるタイヤモデル12は、内圧が充填され、かつ、荷重Tが定義された後のタイヤモデル12が用いられてもよい。
流体モデル25は、図8に示されるように、立方体26(図6に示す)の領域が、三次元の要素H(i)(i=1、2、…)を用いて分割(離散化)されたオイラーメッシュ(オイラー要素)によって構成される。本実施形態では、タイヤ半径方向、タイヤ軸方向、及び、タイヤ周方向に重なる複数の要素H(i)によって構成される。そして、各要素H(i)の節点18では、流体の物理量が計算される。離散化する手法としては、例えば、有限体積法が用いられる。要素H(i)のサイズについては、適宜設定することができるが、例えば、評価される物理量が音(ノイズ)である場合、モデル化される流体は空気であるため、ノイズの周波数に応じた圧力変動を、十分に表現できる大きさに設定されるのが望ましい。
流体モデル25には、境界面が定義される。図6に示されるように、境界面は、前壁26f、後壁26r、前壁26fと後壁26rとの間をのびる側壁26s、タイヤモデル12の外面12t、及び、路面モデル15の外面を含んでいる。これらの境界面には、流体が通過不能に定義される。従って、本実施形態の流体モデル25は、シミュレーションの計算領域を限定できるため、計算時間を短縮するのに役立つ。
流体モデル25の各要素H(i)には、流体(空気)の流速や圧力といった物理量が割り当てられる。図6に示されるように、流体モデル25には、前壁26fから、タイヤ2の走行速度に近似する速度を持った空気の流入を定義するとともに、後壁26rから空気の自由流出が定義されてもよい。これにより、流体モデル25は、実車走行時の空気の流れを再現することができる。
本実施形態の流体モデル25は、タイヤモデル12の溝20の中に位置する溝内部モデル部27と、溝20の外部でかつ踏面19に接触している表層モデル部28とを含んでいる。
溝内部モデル部27は、タイヤモデル12の主溝20Aの中に位置する主溝モデル部27A(図7に示す)と、タイヤモデル12の横溝20Bの中に位置する横溝モデル部27B(図6に示す)とを含んで構成されている。本実施形態において、主溝モデル部27Aの要素H(i)と横溝モデル部27Bの要素H(i)とは、互いの節点18、18(図8に示す)が共有するように定義されており、主溝モデル部27A及び横溝モデル部27Bが一体としてモデル化される。なお、主溝モデル部27A及び横溝モデル部27Bは、互いの節点18、18を共有させなくても、主溝モデル部27Aの要素H(i)と、横溝モデル部27Bの要素H(i)との境界(図示省略)において、拘束条件が定義されてもよい。
図8に示されるように、溝内部モデル部27のタイヤ半径方向の要素H(i)の個数については、適宜設定することができる。なお、溝内部モデル部27のタイヤ半径方向の要素H(i)の個数が小さいと、タイヤモデル12の溝20の変形に応じて、十分に変形できないおそれがある。逆に、溝内部モデル部27のタイヤ半径方向の要素H(i)の個数が大きいと、計算時間が増大するおそれがある。このような観点より、溝内部モデル部27のタイヤ半径方向の要素H(i)の個数は、好ましくは2個以上であり、また、好ましくは10個以下である。
図6に示されるように、表層モデル部28は、タイヤ周方向に連続する筒状に定義されており、タイヤモデル12の踏面19に接触している。本実施形態では、タイヤモデル12と路面モデル15との間に隙間30を形成し、この隙間30を介して、表層モデル部28をタイヤ周方向に連続させている。このような表層モデル部28は、タイヤモデル12と路面モデル15とを接触させた上記特許文献1の音空間領域とは異なり、タイヤモデル12の接地面付近の要素H(i)が楔状に変形するのを防ぐことができる。従って、本実施形態の表層モデル部28は、上記特許文献1の音空間領域に比べて、流体モデル25の物理量の計算を簡素化することができる。
隙間30付近の表層モデル部28は、隙間30以外の表層モデル部28に比べて、タイヤ半径方向の厚さが薄くなるため、後述の流体シュミュレーションにおいて、流体の圧力が相対的に大きく計算される。このため、隙間30付近の表層モデル部28は、流体が実質的に流れ込むことができない領域として計算される。従って、本実施形態の流体モデル25は、タイヤモデル12を路面モデル15に接触させた従来のシミュレーション方法と同様に、流体モデル25の物理量を精度良く計算することができる。隙間30のタイヤ半径方向の最短距離Ls(図7に示す)は、0.01〜0.1mmに設定されるのが望ましい。
図6及び図8に示されるように、表層モデル部28は、タイヤモデル12の踏面19に接触する内周面28aと、内周面28aとはタイヤ半径方向で反対側の外周面28bとを含んでいる。図8に示されるように、内周面28aと外周面28bとの間には、タイヤ半径方向で重なる複数の要素H(i)で離散化されている。このような表層モデル部28は、タイヤモデル12の踏面19側の流体の流れと、路面モデル15側の流体の流れとを独立して計算できるため、流体の物理量の計算精度を向上させることができる。
表層モデル部28のタイヤ半径方向の要素H(i)の個数については、適宜設定することができる。なお、表層モデル部28のタイヤ半径方向の要素H(i)の個数が小さいと、流体の物理量の計算精度を十分に向上できないおそれがある。逆に、表層モデル部28のタイヤ半径方向の要素の個数が大きいと、計算時間が増大するおそれがある。このような観点より、表層モデル部28のタイヤ半径方向の要素H(i)の個数は、好ましくは2個以上であり、また、好ましくは10個以下である。
溝内部モデル部27の要素H(i)と、表層モデル部28の要素H(i)とは、溝内部モデル部27と表層モデル部28との境界33において、互いの節点18、18が共有するように定義されている。これにより、工程S3では、溝内部モデル部27及び表層モデル部28を一体として、要素H(i)で離散化(モデル化)できるため、モデル作成時間及び計算時間を短縮することができる。
図6に示されるように、本実施形態の流体モデル25は、表層モデル部28のタイヤ半径方向の外側で、タイヤ周方向に連続する外層モデル部29をさらに含んでいる。外層モデル部29は、表層モデル部28の外周面28bと、タイヤモデル12の外側面12o(図5及び図7に示す)と、流体モデル25の境界面(即ち、前壁26f、後壁26r、及び、側壁26s)と、路面モデル15の外面とで囲まれる空間が、図8に示した有限個の要素H(i)で離散化されることで定義される。これにより、外層モデル部29は、表層モデル部28のタイヤ半径方向の外側において、タイヤ周方向の一方側で路面モデル15に当接する一端29aと、タイヤ周方向の他方側で路面モデル15に当接する他端29bとの間で、タイヤ周方向に連続している。なお、タイヤモデル12の外側面12oは、図5に示されるように、踏面19のタイヤ軸方向の外端19tからサイドウォール部12bを経てビード部12cに連続する外表面として定義される。
図6に示されるように、外層モデル部29は、後述のシミュレーション工程S4において、表層モデル部28の外周面28bに対して相対移動可能に条件付けられている(例えば、スライディングサーフェース等の境界条件)。これにより、流体モデル25は、静止させた外層モデル部29に対して、表層モデル部28をタイヤモデル12ととともに回転させることができる。流体モデル25は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、タイヤモデル12を回転させ、タイヤモデル12又は流体モデル25の物理量を計算する(シミュレーション工程S4)。図9は、シミュレーション工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態のシミュレーション工程S4では、先ず、コンピュータ1が、タイヤモデル12の物理量を計算する(転動シミュレーション工程S41)。転動シミュレーション工程S41では、図4に示したタイヤモデル12を路面モデル15上で転動させて、タイヤモデル12の物理量が計算される。なお、本実施形態の転動シミュレーション工程S41では、工程S3で入力された流体モデル25(図6〜図8に示す)が用いられない。図10は、転動シミュレーション工程S41の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の転動シミュレーション工程S41では、先ず、コンピュータ1に、図4に示したタイヤモデル12を路面モデル15に転動させるための境界条件が入力される(工程S71)。
本実施形態の工程S71では、先ず、タイヤモデル12を路面モデル15に接触させるための境界条件が入力される。この境界条件としては、例えば、タイヤモデル12と路面モデル15との間の接触条件、タイヤモデル12の内圧条件、リム条件、荷重条件、キャンバー角、又は、タイヤモデル12と路面モデル15との間の摩擦係数等が含まれる。内圧条件及び荷重条件としては、適宜設定することができる。本実施形態の内圧条件及び荷重条件としては、タイヤ2(図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ2毎に定める空気圧及び荷重が設定される。
さらに、工程S71では、タイヤモデル12を路面モデル15に転動させるための境界条件が入力される。この境界条件としては、例えば、タイヤモデル12のスリップ角、走行速度V、走行速度Vに対応するタイヤモデル12の角速度Va、走行速度Vに対応する路面モデル15の並進速度Vb、又は、タイヤモデル12と路面モデル15との間の動摩擦係数等が含まれる。これらの境界情報は、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態の転動シミュレーション工程S41では、コンピュータ1が、内圧充填後のタイヤモデル12を計算する(工程S72)。工程S72では、先ず、図5に示されるように、タイヤ2のリム14(図2に示す)をモデル化したリムモデル32によって、タイヤモデル12のビード部12c、12cが拘束される。リムモデル32は、例えば、リム14に関する情報(輪郭データ等)に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素(図示省略)で離散化されることによって設定される。リムモデル32を構成する要素は、例えば、変形不能に設定された剛平面要素(図示省略)として定義されるのが望ましい。
さらに、工程S72では、境界条件として入力された内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル12の変形が計算される。これにより、工程S72では、内圧充填後のタイヤモデル12が計算される。
タイヤモデル12の変形計算は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス及び減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、前記各種の条件を当てはめて運動方程式が作成され、これらを微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとにタイヤモデル12の変形計算が行われる。このようなタイヤモデル12の変形計算は、例えば、Dassault Systems社製のAbaqus、LSTC社製のLS-DYNA、又は、MSC社製のNASTRANなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間Txについては、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
次に、本実施形態の転動シミュレーション工程S41では、コンピュータ1が、荷重条件が定義されたタイヤモデル12を計算する(工程S73)。工程S73では、先ず、図4に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル12と路面モデル15との接触が設定される。次に、工程S73では、タイヤモデル12の回転軸12sに、境界条件として入力された荷重条件(荷重T)が設定される。これにより、工程S73では、荷重条件が負荷されて変形したタイヤモデル12が計算される。
次に、本実施形態の転動シミュレーション工程S41では、コンピュータ1が、予め定められた走行速度Vに基づいて、路面モデル15上を転動するタイヤモデル12を計算する(工程S74)。工程S74では、境界条件として入力された角速度Vaが、タイヤモデル12の回転軸12sに定義される。さらに、境界条件として入力された並進速度Vbが、路面モデル15に定義される。これにより、工程S74では、路面モデル15上を、走行速度Vで転動するタイヤモデル12を、単位時間Tx毎に計算することができる。
工程S74では、タイヤモデル12の転動計算によって、タイヤモデル12の踏面19及び溝20の変形が計算される。さらに、工程S74では、単位時間Tx毎に、タイヤモデル12の物理量(例えば、摩耗エネルギー等)が計算される。このような物理量は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の転動シミュレーション工程S41では、コンピュータ1に、タイヤモデル12の外面12tの節点13の座標データが入力される(工程S75)。タイヤモデル12の外面12tとしては、タイヤモデル12のトレッド部12aからサイドウォール部12bを経てビード部12cに連続する外表面として設定される。このような節点13の座標データは、タイヤモデル12の踏面19及び溝20を含む転動中のタイヤモデル12の外面12tの形状を、単位時間Tx毎に特定するのに役立つ。座標データは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の転動シミュレーション工程S41では、コンピュータ1が、予め定められた終了時間が経過したか否かを判断する(工程S76)。終了時間としては、例えば、タイヤモデル12又は後述の流体モデル25の取得すべき物理量に応じて、適宜設定することができる。
工程S76において、終了時間が経過したと判断された場合(工程S76で、「Y」)、次の流体シミュレーション工程S42(図9及び図11に示す)が実施される。他方、終了時間が経過していないと判断された場合(工程S76で、「N」)、単位時間Txを一つ進めて(工程S77)、工程S74〜工程S76が再度実施される。これにより、転動シミュレーション工程S41では、転動開始から転動終了までのタイヤモデル12の前記座標データを、単位時間Tx毎の時系列データとして取得することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション工程S4では、コンピュータ1が、流体モデル25の物理量を計算する(流体シミュレーション工程S42)。流体シミュレーション工程S42では、図6〜図8に示したタイヤモデル12、路面モデル15、及び、流体モデル25を用いて、流体モデル25の物理量が計算される。流体シミュレーション工程S42の一連の処理は、例えば、CD-adapco社製のSTAR-CD、又は、ANSYS社のFLUNETなどの市販の流体解析用のアプリケーションソフトを用いて行うことができる。図11は、流体シミュレーション工程S42の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の流体シミュレーション工程S42では、先ず、タイヤモデル12の外面12tの形状が特定される(工程S81)。この工程S81では、先ず、コンピュータ1に入力された座標データに基づいて、単位時間Txにおけるタイヤモデル12の外面12tの形状が特定される。なお、流体シミュレーション工程S42の開始時は、転動シミュレーション工程S41でのタイヤモデル12の転動開始時の単位時間Txにおけるタイヤモデル12の外面12tの形状が特定される。
図4に示されるように、特定されたタイヤモデル12の外面12tの形状は、路面モデル15に接触している。このため、特定されたタイヤモデル12に基づいて、隙間30を介して連続する表層モデル部28(図6に示す)を定義することができない。従って、本実施形態の工程S81では、路面モデル15から隙間30を介して離間させたタイヤモデル12の外面12tの形状が特定される。タイヤモデル12の外面12tの形状は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の流体シミュレーション工程S42では、特定されたタイヤモデル12の外面12tの形状に基づいて、図6に示したタイヤモデル12、溝内部モデル部27、及び、表層モデル部28を回転させる(工程S82)。図12(a)、(b)は、タイヤモデル12、溝内部モデル部27、及び、表層モデル部28を回転させる工程を説明する図である。
工程S82では、特定されたタイヤモデル12の外面12tの形状に一致するように、図12(a)に示した回転前の状態から、図12(b)に示されるように、タイヤモデル12をタイヤ周方向に移動(回転)させる。これにより、工程S82では、路面モデル15から隙間30を介して離間させ、かつ、回転させた単位時間Txでのタイヤモデル12が計算される。
さらに、工程S82では、タイヤモデル12の横溝20Bのタイヤ周方向の位置と、その横溝20Bの中に位置する流体をモデル化した溝内部モデル部27(横溝モデル部27B)のタイヤ周方向の位置とが一致するように、図12(a)に示した回転前の状態から、図12(b)に示されるように、溝内部モデル部27及び表層モデル部28をタイヤ周方向に移動(回転)させる。これにより、工程S82では、タイヤモデル12とともに回転した溝内部モデル部27、及び、表層モデル部28が計算される。従って、溝内部モデル部27及び表層モデル部28は、タイヤ2(タイヤモデル12)と同じ速度(角速度Va)で回転するように条件付けられる。
次に、本実施形態の流体シミュレーション工程S42では、タイヤモデル12の溝20の変形に基づいて、溝内部モデル部27に含まれる要素H(i)を変形させる(工程S83)。図13は、溝内部モデル部27の要素を変形させる工程の一例を説明する図である。
工程S83では、タイヤモデル12の座標データから特定された溝20の形状に基づいて、溝内部モデル部27の要素H(i)の変形が計算される。さらに、工程S83では、タイヤモデル12の踏面19の変形に基づいて、表層モデル部28に含まれる要素H(i)を変形させている。これにより、流体シミュレーション工程S42では、転動シミュレーションの踏面19及び溝20の形状変化や振動を、溝内部モデル部27及び表層モデル部28に反映させることができる。
溝内部モデル部27及び表層モデル部28の要素H(i)の変形計算は、例えば、既存の要素H(i)の節点18の移動によって変形させる所謂モーフィングによって実施される。このようなモーフィングは、溝内部モデル部27及び表層モデル部28を、新たな要素H(i)で離散化(リメッシュ)することなく、要素H(i)の容積変化や歪みを抑えながら変形させることができる。従って、本実施形態の流体シミュレーション工程S42では、主領域に対して複数の溝内領域を移動させる上記特許文献1のシミュレーション方法と比較して、溝内部モデル部27の移動の設定時間を短縮することができる。なお、モーフィングは、上記した有限要素解析アプリケーションソフトを用いることで、容易に実施することができる。
なお、溝内部モデル部27及び表層モデル部28の要素H(i)の変形量が大きいと、要素潰れが生じてしまい、計算が異常終了するおそれがある。このため、工程S83では、要素H(i)の変形量が予め定められた値よりも大きい場合、溝内部モデル部27及び表層モデル部28が新たな要素H(i)で離散化(リメッシュ)されるのが望ましい。溝内部モデル部27及び表層モデル部28の離散化は、タイヤモデル12の座標データから特定された溝20の形状に基づいて実施される。これにより、工程S83では、要素潰れを確実に防ぎつつ、転動シミュレーションの溝20の形状変化を反映させた溝内部モデル部27及び表層モデル部28を設定することができる。
次に、本実施形態の流体シミュレーション工程S42では、図12(b)に示されるように、路面モデル15の並進速度Vbを定義する(工程S84)。工程S84では、タイヤモデル12の単位時間Txあたりの回転に基づいて、路面モデル15に並進速度Vbが定義される。これにより、流体シミュレーション工程S42では、工程S82〜工程S84を経て、路面モデル15を転動する単位時間Txでのタイヤモデル12を計算することができる。
次に、本実施形態の流体シミュレーション工程S42は、流体モデル25の物理量が計算される(工程S85)。本実施形態のように、流体が空気として定義される場合には、流体(空気)の運動が、例えばナビエ・ストークスの式によって表される。このナビエ・ストークスの式は、例えばコンピュータ1で計算可能な近似式に変換して計算されることにより、空気の運動、即ち流体モデル25の要素H(i)での圧力及び速度などが計算される。流体モデル25の物理量の計算は、上記の流体解析用のアプリケーションソフトを用いて計算できる。
工程S85では、図6に示されるように、溝内部モデル部27と表層モデル部28との間の境界33、及び、表層モデル部28と外層モデル部29との境界34において、流体の挙動を整合させるために、物理量の関連付け(データマッピング)が行われる。
本実施形態のシミュレーション方法では、流体モデル25の溝内部モデル部27及び表層モデル部28が、タイヤ(タイヤモデル12)と同じ速度で回転するように条件付けられているため、表層モデル部28に対して複数の溝内部モデル部27を移動させていた上記特許文献1のシミュレーション方法に比べて、溝内部モデル部27と表層モデル部28との間の物理量の関連付け(データマッピング)を単純化することができる。さらに、本実施形態のシミュレーション方法では、表層モデル部28に対して複数の溝内部モデル部27を移動させる必要がないため、流体モデル25の回転の定義を単純化することができる。従って、本実施形態のシミュレーション方法は、計算コストを低減することができる。
さらに、本実施形態では、図8に示されるように、溝内部モデル部27の要素H(i)の節点18と、表層モデル部28の要素H(i)の節点18とを共有させている。このため、本実施形態のシミュレーション方法は、溝内部モデル部27と表層モデル部28との間の物理量の関連付けを、さらに単純化することができる。本実施形態のシミュレーション方法では、溝内部モデル部27及び表層モデル部28を同じ速度で回転させているため、溝内部モデル部27の要素H(i)の節点18と、表層モデル部28の要素H(i)の節点18とを共有させていても、各要素H(i)が大きく変化するのを防ぐことができる。従って、本実施形態では、溝内部モデル部27及び表層モデル部28を新たな要素H(i)で離散化(リメッシュ)する頻度を小さくできるため、計算コストを効果的に低減することができる。
工程S85では、図7に示した主溝20Aに設けられた主溝モデル部27Aの要素H(i)の回転により、図2に示したタイヤ2の主溝10Aに形成される気柱管に起因するレゾナンスノイズを再現することができる。また、主溝20A及び横溝20Bに設けられた主溝モデル部27A及び横溝モデル部27Bの要素H(i)の流動及び圧力変動が計算されることにより、ポンピングノイズを再現することができる。
工程S85では、上記特許文献1のシミュレーション方法と同様に、予め設定された少なくとも一つの観測点(図示省略)において、流体モデル25の物理量が計算される。流体モデル25の物理量としては、例えば、空気の圧力変動、流速、又は、任意の時刻における流体モデル25の各部の空気圧力分布などが含まれる。流体モデル25の物理量は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の流体シミュレーション工程S42では、転動シミュレーションの終了時間が経過したか判断される(工程S86)。この工程S86では、終了時間が経過したと判断された場合(工程S86で、「Y」)、流体シミュレーション工程S42、及び、シミュレーション工程S4の一連の処理が終了し、図3に示したタイヤモデル12又は流体モデル25の物理量が出力される(工程S5)。他方、工程S86において、終了時間が経過していないと判断された場合(工程S86で、「N」)、単位時間Txを一つ進めて(工程S87)、工程S81〜S86が再度実施される。これにより、流体シミュレーション工程S42では、タイヤモデル12を転動開始から終了まで単位時間Tx毎に回転させて、流体モデル25の物理量を計算することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、タイヤモデル12又は流体モデル25の物理量が許容範囲内であるか否かが判断される(工程S6)。タイヤモデル12の物理量の許容範囲、及び、流体モデル25の物理量の許容範囲については、タイヤ2に求められる性能に応じて適宜設定することができる。
工程S6において、タイヤモデル12又は流体モデル25の物理量が許容範囲内である場合(工程S6において、「Y」)、タイヤモデル12に基づいて、タイヤ2が製造される(工程S7)。他方、工程S6において、タイヤモデル12又は流体モデル25の物理量が許容範囲外である場合(工程S6において、「N」)、タイヤ2の設計因子を変更して(工程S8)、工程S1〜工程S6が再度実施される。従って、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル12又は流体モデル25の物理量が許容範囲内なるまで、タイヤ2の設計因子が変更されるため、高い性能を有するタイヤを効率良く設計することができる。
本実施形態のシミュレーション方法では、図8に示されるように、溝内部モデル部27の要素H(i)と、表層モデル部28の要素H(i)とは、互いの節点18、18が共有するように定義されたが、このような態様に限定されない。例えば、互いの節点18、18を共有させずに、溝内部モデル部27の要素H(i)と、表層モデル部28の要素H(i)との境界33において、拘束条件が定義されてもよい。このような流体モデル25も、溝内部モデル部27と表層モデル部28との間の物理量の関連付け(データマッピング)を単純化することができる。
本実施形態のシミュレーション工程S4では、流体(空気)の力によってタイヤが変形しないと仮定して、転動中のタイヤモデル12の外面12tの座標データを単位時間毎に取得した(転動シミュレーション工程S41)後に、座標データから特定されるタイヤモデルの外面の形状に基づいて、溝内部モデル部27の要素H(i)の変形が計算された(流体シミュレーション工程S42)が、このような態様に限定されない。
シミュレーション工程S4では、例えば、転動中のタイヤモデル12の外面12tの形状の計算と、溝内部モデル部27の要素H(i)の変形とが、単位時間毎に同時に計算されてもよい。このようなシミュレーション工程S4では、流体(例えば、水)などの力によって変形するタイヤモデル12を計算することが可能となるため、シミュレーション精度をさらに高めることができる。
また、シミュレーション工程S4では、タイヤモデル12の変形計算を行わずに、流体シミュレーション工程S42において、タイヤモデル12を単に回転させながら、流体モデルの物理量が計算されてもよい。このようなシミュレーション工程S4では、転動シミュレーション工程S41を省略することができるため、計算コストをさらに低減することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図3に示した処理手順に従って、回転するタイヤと、その周囲にある流体との様子がシミュレーションされた(実施例、比較例1、比較例2)。実施例では、図9〜図11に示した処理手順に従って、溝の中に位置する溝内部モデル部、及び、溝の外部でかつ踏面に接触している表層モデル部が、タイヤと同じ速度で回転するように条件付けられて、流体モデルの物理量が計算された。
比較例1では、上記特許文献1と同様に、表層モデル部に対して、溝内部モデル部を移動させながら、流体モデル25の物理量が計算された。比較例2では、モーフィングによる要素変形によって、表層モデル部に対して溝内部モデル部を移動させながら、流体モデルの物理量が計算された。
そして、実施例、比較例1、比較例2において、流体モデルの作成時間、流体モデルの回転の定義に要した時間、及び、流体モデルの物理量の計算時間が測定された。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:195/60R15
シミュレーションの単位時間Tx:5×10-5秒
合計転動時間:0.3秒
路面モデル:平坦路
荷重T:4kN
内圧:220kPa
走行速度V:80km/h
テストの結果を表1に示す。
テストの結果、実施例のシミュレーション方法では、比較例1及び比較例2のシミュレーション方法に比べて、流体モデルの物理量の計算時間を大幅に短縮することができた。従って、実施例のシミュレーション方法は、計算コストを低減できた。