以下、本発明の実施の形態を説明する。
[本発明の第一実施形態]
本発明の第一実施形態に係る塗装めっき鋼板1は、図1に示すように、鋼板11の第一面上に、第一めっき層12、第一化成処理皮膜20、第一プライマー層30及び第一トップ層40がこの順で積層されているとともに、鋼板11の第一面とは反対側の第二面上に、第二めっき層13、第二化成処理皮膜50、第二プライマー層60、及び第二トップ層70がこの順に積層されている。以下、第一めっき層12及び第二めっき層13を単にめっき層12,13と、第一化成処理皮膜20及び第二化成処理皮膜50を単に化成処理皮膜20,50と、第一プライマー層30及び第二プライマー層60を単にプライマー層30,60と、第一トップ層40及び第二トップ層70を単にトップ層40,70という場合がある。
第一めっき層12は鋼板11の第一面を覆っている。第一化成処理皮膜20は第一めっき層12を覆っている。第一プライマー層30は第一化成処理皮膜20を覆っている。すなわち、第一プライマー層30は第一めっき層12を覆っている。第一トップ層40は第一プライマー層30を覆っている。第二めっき層13は鋼板11の第二面を覆っている。第二化成処理皮膜50は第二めっき層13を覆っている。第二プライマー層60は第二化成処理皮膜50を覆っている。すなわち、第二プライマー層60は第二めっき層13を覆っている。第二トップ層70は第二プライマー層60を覆っている。塗装めっき鋼板1は、第一トップ層40側の面を表面として、第二トップ層70側の面を裏面として使用される。
第一実施形態では、めっき層12,13はマグネシウムを含有し、プライマー層30,60はバナジウム化合物を含有する。これにより、めっき層12,13がマグネシウムを含有しない場合と比べて、塗装めっき鋼板1の端面耐食性が著しく向上する。この端面耐食性の著しい向上は、マグネシウムのみによって発揮されるものではなく、めっき層12,13中のマグネシウムとプライマー層30,60中のバナジウム化合物との相乗効果によってはじめて発揮されるものである。このことは、イオン交換水中や塩水中(以下、水中という場合がある)における、端面からのバナジウムの溶出量から確認できる。めっき層12,13がマグネシウムを含有する。そのため、めっき層12,13がマグネシウムを含有しない場合に比べて、端面からのバナジウムの溶出量が著しく増大する。このことから、めっき層12,13中のマグネシウムが端面からのバナジウム化合物の溶出を促進することがわかる。溶出したバナジウムがインヒビター(腐食抑制物質)としてエッジクリープの進行を抑制する。これにより、塗装めっき鋼板1の端面耐食性が著しく向上する。
このようにめっき層12,13がマグネシウムを含有すると、めっき層12,13がマグネシウムを含有しない場合に比べ、バナジウムが水中に溶出しやすくなる傾向にある。塗膜中のバナジウムの溶出速度に対するめっき被膜中のマグネシウムの促進効果について、そのメカニズムの詳細については不明な点があるが、バナジウムがマグネシウムと非晶質の酸化物を形成する性質があることが関連していると考えられる。
塗装めっき鋼板1の端面におけるプライマー層30,60から水中への、端面の長さあたりのバナジウム、マグネシウムの溶出速度は、時間の経過とともに減少するが、めっきの種類と塗膜中のバナジウム化合物、防錆顔料の種類の組み合わせによって、その挙動が異なる。例えば、ガルバリウム鋼板(登録商標)などのめっき層がマグネシウムを含有しないめっき鋼板にクロメートフリー塗膜を施したものより、塗装めっき鋼板1は、マグネシウム及びバナジウムの溶出速度が大きくなる。そのことによって、アルミニウムや亜鉛の腐食の進行を抑制することができる。なお、端面には、塗装めっき鋼板1が切断されている場合の切断面が含まれる。端面の長さとは、この端面の、塗装めっき鋼板1の厚み方向と直交する方向に沿った長さである。
マグネシウム及びバナジウムの溶出速度は、塗装めっき鋼板1を切断して得られた平面視5mm×50mmの寸法の短冊状のサンプルの端面の長さあたりのマグネシウム及びバナジウムの溶出量の合計の経時変化から知ることができる。サンプルの端面の長さあたりのマグネシウム及びバナジウムの溶出量の合計は、建築物などに設置される前の塗装めっき鋼板1について測定される値である。このサンプルの端面の長さあたりのマグネシウム及びバナジウムの溶出量の合計の測定にあたっては、塗装めっき鋼板1を切断し、平面視5mm×50mmの寸法の短冊状のサンプルを得、得られた25個のサンプルを、温度20℃、体積100cm3のイオン交換水中に浸漬する。これにより、サンプルの端面においてプライマー層30,60からイオン交換水中へマグネシウム及びバナジウムを溶出させ、マグネシウム及びバナジウムを含有する溶解水を得る。続いて、この溶解水中のマグネシウム及びバナジウムの量の合計を測定する。マグネシウム及びバナジウムの量の合計を測定するにあたっては、例えば、ICP(誘導結合プラズマ)質量分析法に基づいて、検量線法により、溶解水中のマグネシウムの量、バナジウムの量のそれぞれを求め、マグネシウム及びバナジウムの量の合計を導出する。そして、導出したマグネシウム及びバナジウムの量の合計をサンプルの端面の長さで除算して、溶解水中のサンプルの端面の長さあたりのマグネシウム及びバナジウムの量の合計を導出する。これにより、得られた値がサンプルの端面の長さあたりのマグネシウム及びバナジウムの溶出量の合計に相当する。ここで、サンプルの端面の長さとは、サンプル1個あたりの端面の長さに、すなわちサンプルの平面視における外周の長さに、サンプルの個数を乗算した長さであり、第一実施形態では、2750mm(110mm×25)である。そして、サンプルをイオン交換水中に浸漬した時点からの経過時間に対するマグネシウム及びバナジウムの溶出量の合計の変化量を求めることで、マグネシウム及びバナジウムの溶出速度を求めることができる。
また、塗装めっき鋼板1の端面からイオン交換水中への、端面の長さあたりのマグネシウム及びバナジウムの溶出量の合計は、経過時間とともに上昇し、経過時間の平方根に比例する。これは、塗装めっき鋼板1の端面からイオン交換水中へ溶解する一連の反応が、塗装めっき鋼板1中から塗装めっき鋼板1とイオン交換水の固液界面への金属原子の拡散に律速されているためと推定される。
塗装めっき鋼板1の端面からイオン交換水中への、端面の長さあたりのマグネシウム及びバナジウムの溶出量の合計は、経過時間の平方根に比例して増加し、その比例係数A1が1.35(μg/m)/(時)0.5より大きいことが好ましく、15(μg/m)/(時)0.5より大きいことがより好ましく、18(μg/m)/(時)0.5より大きいことが更に好ましい。比例係数A1が大きいほど、測定範囲におけるマグネシウム及びバナジウムの合計の溶出速度が大きい。比例係数A1が上記範囲内であれば、塗装めっき鋼板1の端面耐食性がより優れる。
比例係数A1は、例えば、サンプルをイオン交換水中に浸漬した時点からの経過時間が0時間、2時間、7時間、13時間及び25時間である時点で、溶解水中のマグネシウム及びバナジウムの量の合計を測定し、これらの測定結果から、最小二乗法により、求めればよい。
また、塗装めっき鋼板1の端面からイオン交換水中への、端面の長さあたりのバナジウムの溶出量の合計も、経過時間とともに上昇し、経過時間の平方根に比例する。これも、塗装めっき鋼板1の端面からイオン交換水中へ溶解する一連の反応が、塗装めっき鋼板1中から塗装めっき鋼板1とイオン交換水の固液界面への金属原子の拡散に律速されているためと推定される。
塗装めっき鋼板1の端面からイオン交換水中への、端面の長さあたりのバナジウムの溶出量が、経過時間の平方根に比例して増加し、その比例係数A2が0.3(μg/m)/(時)0.5より大きいことが好ましく、0.5(μg/m)/(時)0.5より大きいことがより好ましく、1.0(μg/m)/(時)0.5より大きいことが更に好ましい。比例係数A2が上記範囲内であれば、塗装めっき鋼板1の端面耐食性がより優れる。
比例係数A2は、例えば、サンプルをイオン交換水中に浸漬した時点からの経過時間が0時間、2時間、7時間、13時間及び25時間である時点で、溶解水中のバナジウムの量を測定し、これらの測定結果から、最小二乗法により、求めればよい。
比例係数A1又はA2を上記範囲内にするには、例えば、めっき層12,13の付着量、めっき層12,13に対するマグネシウムの量、プライマー層30,60の付着量、プライマー層30,60に対するバナジウム化合物の量などを適宜調整すればよい。
塗装めっき鋼板1の板厚は、好ましくは0.25〜2.3mmの範囲内である。
以下、塗装めっき鋼板1を構成するめっき鋼板10、化成処理皮膜20,50、プライマー層30,60及びトップ層40,70について詳細に説明する。
(めっき鋼板10)
塗装めっき鋼板1はめっき鋼板10を備える。めっき鋼板10は、図1に示すように、鋼板11と、鋼板11の第一面を覆う第一めっき層12と、鋼板11の第二面を覆う第二めっき層13とを備える。めっき層12,13は、同一の構成であってもよいし、互いに異なる構成であってもよい。
鋼板11としては、例えば、低炭素鋼板、高炭素鋼板、高張力鋼板などを用いることができる。
めっき層12,13は、構成元素として、マグネシウムを含有し、例えば、マグネシウム、アルミニウム及び亜鉛を含有することが好ましく、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛及びケイ素を含有することがより好ましい。さらに、めっき層12,13は、構成元素として、さらに、ストロンチウム、鉄、アルカリ土類元素、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド元素、チタン、ホウ素などを含有してもよい。アルカリ土類元素としては、ベリリウム、カルシウム、バリウム、ラジウムを用いることができる。ランタノイド元素としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウムなどを用いることができる。また、めっき層12,13は、構成元素として、クロムをさらに含有してもよい。
めっき層12,13に対する、マグネシウムの量は、好ましくは0.5〜10質量%の範囲内、より好ましくは1〜3質量%の範囲内である。マグネシウムの量が上記範囲内であれば、塗装めっき鋼板1の端面耐食性がより優れる。
めっき層12,13に対する、アルミニウムの量は、好ましくは25〜75質量%の範囲内、より好ましくは45〜65質量%の範囲内である。アルミニウムに対する、ケイ素の量は、好ましくは0.5〜10質量%の範囲内、より好ましくは1.0〜5.0質量%の範囲内である。
めっき層12,13の両面付着量は、めっき層12,13に対するマグネシウムの量などに応じて適宜調整すればよく、好ましくは50〜300g/m2の範囲内、より好ましくは100〜200g/m2の範囲内である。めっき層12,13の両面付着量が上記範囲内であれば、水中において、端面からのバナジウムが水中により溶出しやすくなり、エッジクリープの進行をより抑制され、塗装めっき鋼板1の端面耐食性がより優れる。さらに、めっき層12,13の両面付着量が上記範囲内であれば、水中において、端面からの亜鉛の溶出量をより抑制し、白錆の発生がより抑制され、塗装めっき鋼板1の端面耐食性がより優れる。
めっき層12,13の形成方法は、特に限定されず、溶融めっき法が好ましい。
(化成処理皮膜20,50)
塗装めっき鋼板1は化成処理皮膜20,50を備える。化成処理皮膜20,50は、公知の化成処理によって形成される層である。化成処理皮膜20,50は、同一の構成であってもよいし、互いに異なる構成であってもよい。
化成処理層を形成するための処理剤(以下、化成処理剤)としては、例えば、リン酸亜鉛処理剤、リン酸鉄処理剤などのリン酸系の処理剤;コバルト、ニッケル、タングステン、ジルコニウムなどの金属酸化物を単独であるいは複合して含有する酸化物処理剤;腐食を防止するインヒビター成分を含有する処理剤;バインダー成分(有機、無機、有機―無機複合など)とインヒビター成分を複合した処理剤;インヒビター成分と金属酸化物とを複合した処理剤;バインダー成分とシリカやチタニア、ジルコニアなどのゾルとを複合した処理剤;前記例示した処理剤の成分をさらに複合した処理剤などを用いることができる。
ジルコニウムの酸化物を含有する酸化物処理剤としては、例えば、水及び水分散性のポリエステル系ウレタン樹脂と、水分散性アクリル樹脂と、炭酸ジルコニウムナトリウムなどのジルコニウム化合物と、ヒンダードアミン類とを配合して調製される処理剤を用いることができる。水分散性のポリエステル系ウレタン樹脂は、例えばポリエステルポリオールと水添型イソシアネートとを反応させると共にジメチロールアルキル酸を共重合させることで自己乳化させることで合成される。このような水分散性のポリエステル系ウレタン樹脂によって、乳化剤を使用することなく化成処理層20,50に高い耐水性が付与され、めっき鋼板10の端面耐食性や耐アルカリ性の向上に繋がる。また、化成処理剤はクロム化合物を含有しないことが好ましい。クロム化合物を含有しないとは、意図的にクロム化合物を含有させないことを意味し、不可避的不純物としてクロム化合物を含有していてもよい。
化成処理層20,50と、めっき層12,13との間には、ニッケルめっき処理やコバルトめっき処理などが施されてもよい。
化成処理層20,50は、化成処理剤を用い、ロールコート法、スプレー法、浸漬法、電解処理法、エアーナイフ法など公知の方法で形成され得る。化成処理剤の塗布後、必要に応じ、更に常温放置や、熱風炉や電気炉、誘導加熱炉などの加熱装置による乾燥や焼付けなどの工程が追加されてもよい。赤外線類、紫外線類や電子線類などエネルギー線による硬化方法が適用されてもよい。乾燥時の温度や乾燥時間は、使用した化成処理剤の種類や、求められる生産性などに応じて適宜決定される。化成処理層20,50の厚みは、処理の種類、求められる性能などに応じて、適宜決定される。
(プライマー層30,60)
塗装めっき鋼板1はプライマー層30,60を備える。プライマー層30,60は、バナジウム化合物を含有し、バナジウム化合物を含有する下塗り塗料から形成される層である。バナジウム化合物は、溶出性のインヒビターとして塗装めっき鋼板1の端面耐食性に寄与する。プライマー層30,60は、同一の構成であってもよいし、互いに異なる構成であってもよい。
第一プライマー層30の付着量は、第二プライマー層60の付着量よりも多いことが好ましい。第一プライマー層30の付着量は、好ましくは3〜20g/m2の範囲内、より好ましくは5〜15g/m2の範囲内である。第二プライマー層60の付着量は、好ましくは1〜10g/m2の範囲内、より好ましくは2〜5g/m2の範囲内である。
下塗り塗料は、バナジウム化合物、樹脂類及び溶剤を含有し、防錆顔料、添加剤をさらに含有してもよい。
下塗り塗料はバナジウム化合物を含有する。バナジウム化合物としては、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、バナジン酸カルシウム、バナジン酸マグネシウム、メタバナジン酸アンモニウム、オキシ三塩化バナジウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、三塩化バナジウムなどを用いることができる。なかでも、端面から水中に溶出しやすいことから、バナジウム化合物は、バナジン酸カルシウム、五酸化バナジウム及びメタバナジン酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。また、下地処理及び下塗り塗料はクロム化合物を含有しないことが好ましい。
プライマー層30,60内のそれぞれの面積あたりのバナジウム化合物の含有量は、好ましく0.1〜20g/m2の範囲内、より好ましくは0.5〜10g/m2の範囲内である。バナジウム化合物の含有量が上記範囲内であれば、塗装めっき鋼板1の端面耐食性がより優れる。
下塗り塗料は、バナジウム化合物とは異なる防錆顔料を含有してもよい。防錆顔料としては、一般に公知のクロメートフリー系防錆顔料、例えば、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウムなどのリン酸系防錆顔料;モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウムなどのモリブデン酸系防衛顔料;水分散性シリカ、フュームドシリカなどの微粒シリカなどを用いることができる。
下塗り塗料は樹脂類を含有する。樹脂類としては、例えば、エポキシ樹脂系塗料、尿素樹脂系塗料、架橋剤を含有するポリエステル樹脂系塗料、ポリ塩化ビニル系樹脂、水性ポリマーなどを用いることができる。なかでも、後述する、ポリアミンとポリイソシアネートとの反応生成物からなる尿素樹脂、メラミン樹脂で架橋されているポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂で架橋されているポリエステル樹脂、メラミン樹脂及びイソシアネート樹脂で架橋しているポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び水性ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含有することが好ましい。
尿素樹脂系塗料は、ブロックイソシアネートとポリアミンとを含有することが好ましい。尿素樹脂系塗料はプライマー層30,60の厚膜化が容易であり、この塗料によって、ワキ(気泡)を発生させることなく厚みの大きいプライマー層30,60を形成することができる。ブロックイソシアネートを使用することで、塗料の一液化が可能となる。
尿素樹脂系塗料が加熱されると、ブロックイソシアネートからブロック剤が解離してイソシアネート基(−NCO)が再生する。このイソシアネート基と、ポリアミン中のアミノ基(−NH2)とが反応して尿素結合(−NHCONH−)を形成することにより重合する。このため、尿素樹脂系塗料から形成されるプライマー層30,60は、ポリアミンとポリイソシアネートとの反応生成物からなる尿素樹脂中に、バナジウム化合物が分散した構成を有する。
尿素樹脂系塗料は、尿素樹脂と、メラミン樹脂で架橋されているポリエステル樹脂とを含有することが好ましい。この場合、プライマー層30,60からバナジウムが特に溶出しやすくなる。
尿素樹脂系塗料を構成するブロックイソシアネートは、ポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック剤と反応させてブロックすることで得られる化合物である。
ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネートなどの芳香族系ポリイソシアネートを用いることができる。中でもトリレンジイソシアネートが性能と経済性から好ましい。ポリイソシアネートは単量体ではなく、プレポリマー、アダクト(トリメチロールプロパン等の付加体)、イソシアヌレート体、及びビウレット体といった誘導体であってもよい。また、2種以上のポリイソシアネートまたはその誘導体を組み合わせて使用してもよい。
ポリイソシアネートのブロック剤としては、プライマー層30,60の厚膜化が可能となるために、ブロックイソシアネートからブロック剤が解離する温度である解離温度が、150℃以上となるものが好ましい。解離温度が150℃より低いブロック剤(例えば、解離温度120℃のクレゾール、解離温度140℃のメチルエチルケトンオキシム)が使用される場合、塗装後の焼付け時にワキ(気泡)が発生し易くなり、そのため厚膜塗装が困難となることがある。一方、解離温度が高すぎると、焼付け温度を非常に高くしたり、或いは焼付け時間を長くする必要があるので、解離温度は200℃以下、特に180℃以下であるのがよい。特にブロック剤の解離温度は150〜200℃の範囲内であることが好ましく、160〜180℃の範囲内であれば更に好ましい。特に好ましいブロック剤として、解離温度が170℃であるε−カプロラクタムを用いることができる。
ポリイソシアネートとブロック剤とは公知の方法により反応させられ得る。一般には、溶媒中のポリイソシアネートと、化学量論量又はそれよりもやや過剰量のブロック剤とが、加熱下で反応させられ得る。ブロックイソシアネートの数平均分子量が1000〜4000の範囲内であることが好ましい。ブロックイソシアネートとしては、さまざまな製品が市販されているので、市販品から適当なものを選択して使用することができる。
尿素樹脂系塗料を構成するポリアミンとしては、脂肪族(脂環式を含む)系ポリアミン、芳香族系ポリアミンなどを用いることができ、なかでも、脂環式ポリアミンを用いることが好ましい。脂環式ポリアミンとしては、例えばエポキシ樹脂の硬化剤として使用されている脂環式ポリアミンを用いることができる。脂環式ポリアミンとしては、例えば、1−シクロヘキシルアミノ−3−アミノプロパン、ジアミノシクロヘキサン類、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)スルホン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミンなどを用いることができる。なかでも、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンを用いることが好ましい。ポリアミンも1種または2種以上を使用できる。
尿素樹脂系塗料において、ブロックイソシアネートとポリアミンの配合割合は、イソシアネート基/アミノ基のモル比が、好ましくは0.6〜2.0の範囲内、より好ましくは0.8〜1.2の範囲内である。
下塗り塗料が調製される際は、例えば適当な溶剤にブロックイソシアネートとポリアミンとが溶解させられることで得られる樹脂液に、更にバナジウム化合物が添加され、このバナジウム化合物が樹脂液中に均一に分散させられることで、下塗り塗料が得られる。
ポリエステル樹脂系塗料としては、バナジウム化合物が添加されることを除けば、後述する上塗り塗料として使用されるポリエステル樹脂系塗料と同じ塗料が使用され得る。なかでも、ポリエステル樹脂系塗料は、メラミン樹脂で架橋されているポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂で架橋されているポリエステル樹脂、メラミン樹脂及びイソシアネート樹脂で架橋しているポリエステル樹脂を含有することが好ましい。メラミン樹脂としては、メチル化メラミン、ブチル化メラミンなどを用いることができる。イソシアネート樹脂は、イソシアネート基を有する化合物からなる樹脂により形成された架橋剤である。
エポキシ樹脂系塗料としては、従来の塗装めっき鋼板に使用されている適宜のものが使用され得る。
水性ポリマー塗料を構成する水性ポリマーとしては、例えば、アクリル樹脂系樹脂、ウレタン樹脂系樹脂、ポリエステル樹脂系樹脂などを用いることができる。アクリル樹脂を含有する水性ポリマー塗料としては、三井化学株式会社製の商品名アルマテックス等が挙げられる。ウレタン樹脂を含有する水性ポリマー塗料としては、第一工業製薬株式会社製の商品名スーパーフレックス等が挙げられる。ポリエステル樹脂を含有する水性ポリマー塗料としては、東洋紡株式会社製の商品名ハードレン等が挙げられる。
このような水性ポリマー塗料がバナジウム化合物を含有する場合、バナジウム化合物の少なくとも一部が水性ポリマー塗料中の水に溶解する。この水性ポリマー塗料から塗膜が乾燥前の塗料の状態で防錆顔料の一部が水に溶解しており、この水性ポリマー塗料から形成される乾燥塗膜中でもバナジウム化合物が水溶性を有し、このためバナジウムの溶出速度が向上し得る。
下塗り塗料を構成する樹脂類として、例えば、尿素樹脂系塗料以外を用いる場合、一度の塗装でワキを発生させずに形成できる塗膜の厚みは20μm程度であり、尿素樹脂系塗料の場合と比べて塗膜の厚みが薄くなる。そのため、プライマー層30,60中のバナジウム化合物の量を所望の量に調整するためには、必要に応じて下塗り塗料を2回以上塗装してもよい。
下塗り塗料は溶剤を含有する。溶剤としては、例えば、水;トルエン、キシレンなどの炭化水素系;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;セロソルブ類などのエチル系溶剤;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤などを用いることができる。
下塗り塗料は添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、体質顔料、消泡剤、顔料分散剤、タレ防止剤、レベリング剤、シランカップリング剤などの各種添加剤、ポリイソシアネートとポリアミドとの反応に対する触媒(例、有機スズ化合物)などを用いることができる。体質顔料として、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタニアなどを用いることができる。
下塗り塗料を塗布する方法としては、ロールコート、カーテンフローコート、スプレー塗装などの適宜の塗布方法が採用され得る。コイル状の化成処理皮膜20,50を有するめっき鋼板10に連続塗装が施される場合には、一般的にロールコートが採用される。1回の塗装で塗膜の厚みが必要な厚みとならない場合には、下塗り塗料を2回以上塗装してもよい。下塗り塗料を2回以上塗装する場合には組成の異なる二種以上の下塗り塗料が使用されてもよい。
化成処理皮膜20,50上に下塗り塗料が塗布された後、下塗り塗料の塗膜が必要に応じて加熱されると、プライマー層30,60が形成される。塗膜の加熱温度は、最高到達温度が180〜240℃の範囲内であることが好ましく、塗膜の加熱時間は30〜70秒の範囲であることが好ましい。加熱温度が低すぎると下塗り塗料中の樹脂が十分に硬化しないことがあり、加熱温度が高すぎると下塗り塗料中の樹脂が分解して加工性などの膜特性が劣化するおそれがある。加熱時の最高到達温度は、200〜220℃の範囲内であることが特に好ましい。
(トップ層40,70)
塗装めっき鋼板1はトップ層40,70を備える。トップ層40,70は、上塗り塗料から形成される層である。トップ層40,70は、同一の構成であってもよいし、互いに異なる構成であってもよい。
第一トップ層40の付着量は、第二トップ層70の付着量よりも多いことが好ましい。第一トップ層40の付着量は、好ましくは20〜50g/m2の範囲内、より好ましくは25〜45g/m2の範囲内である。第二トップ層70の付着量は、好ましくは5〜20g/m2の範囲内、より好ましくは3〜15g/m2の範囲内である。トップ層40,70の付着量が上記範囲内であれば、トップ層40,70の色相が安定し、塗装めっき鋼板1は端面耐食性、耐候性及び加工性がより優れる。
上塗り塗料は、樹脂類及び溶剤を含有し、添加剤をさらに含有してもよい。上塗り塗料はクロム化合物を含有しないことが好ましい。
上塗り塗料は樹脂類を含有する。樹脂類としては、ポリウレタン系塗料、ポリエステル系塗料などを用いることができる。
ポリウレタン系塗料は、ポリイソシアネートとポリオールとを含有する塗料である。上塗り塗料として使用するポリウレタン系塗料も、ポリイソシアネートをブロック剤と反応させてブロックイソシアネートの形で含有させた1液型の塗料とすることが好ましい。
ポリウレタン系塗料を構成するポリイソシアネートとしては、例えば、脂環式も含めた脂肪族系ポリイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどを用いることができる。なかでも、加工性に優れた塗膜を形成できる点で、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートを用いることが好ましい。
脂環式も含めた脂肪族系ポリイソシアネートを用いると、耐候性に優れ、黄変しにくいトップ層40,70を形成できる。このような脂肪族系ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。ポリイソシアネートは、プレポリマー、アダクト、イソシアヌレート体、ビウレット体などを用いることができる。
ポリウレタン系塗料を構成するポリオールとしては、例えば、ポリエステル、ポリエーテル(例、多価アルコールを開始剤としてエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドを開環重合させたもの)などを用いることができる。これらの1種もしくは2種以上を使用できる。
なかでも、ポリオールとしてポリエステル樹脂を用いることが好ましい。このポリエステル樹脂としては、高分子量の飽和ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。このポリエステル樹脂は、それぞれ1種もしくは2種以上の飽和脂肪族(脂環式を含む。)または芳香族ジカルボン酸と、グリコールとを重縮合させて得られる線状ポリエステルでよい。飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などを用いることができる。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸などを用いることができる。グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキノンなどを用いることができる。飽和ポリエステル樹脂は、上記の反応成分に加えて3価以上のカルボン酸(例、トリメリット酸等)及び3価以上のアルコール(例、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等)からなる群より選ばれる少なくとも1種を共重合させた分枝状ポリエステルでもよい。
ポリウレタン系塗料を構成するポリオールとして用いるポリエステル樹脂は、好ましくは重量平均分子量が5000〜20000の範囲内、より好ましくは8000〜15000の範囲内で、水酸基含有量が1.0〜4.0質量%の範囲内、より好ましくは2.0〜3.0質量%の範囲内、ガラス転移温度が−30℃〜0℃の範囲内のものである。それにより、耐候性と加工性のいずれにも優れた上塗りポリウレタン塗膜が形成される。
好ましいポリウレタン系塗料は、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートを適当なブロック剤でブロックしたブロックイソシアネートを少なくとも20質量%以上含有するブロックイソシアネートと、ポリオール成分として上記の好ましい分子量、水酸基含有量及びガラス転移温度を有するポリエステル樹脂、とを含有するものである。ポリウレタン系塗料におけるイソシアネート基/水酸基のモル比は0.6〜2.0の範囲内、特に0.8〜1.2の範囲内とすることが好ましい。
上塗り塗料を構成するポリエステル系塗料は、例えば上記ポリウレタン系塗料を構成するポリオールとして例示したポリエステル樹脂と、架橋剤としてのメラミン樹脂とを含有することが好ましい。メラミン樹脂は、特にアルコール変性されていることが好ましい。ポリエステル系塗料は、ポリウレタン系塗料に比べて、若干の加工性の低下が見られるが、経済的にはポリウレタン塗料より有利である。
上塗り塗料は溶剤を含有する。溶剤としては、例えば、水;トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;セロソルブ類などのエチル系溶剤;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤などを用いることができる。
上塗り塗料は添加剤を含有してもよい。添加剤として、例えば、無機フィラー、有機フィラー、着色顔料、体質顔料などを用いることができる。無機フィラーとしては、例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維、窒化ホウ素などを用いることができる。有機フィラーとしては、熱可塑性樹脂ビーズ(例、アクリル樹脂やナイロンのビーズ、平均粒径は1〜50μmの範囲内が好ましい)などを用いることができる。有機フィラーを10質量%以下の量で含有させてもよい。それにより、塗膜表面に凹凸ができて塗膜の耐摩耗性が向上し、傷つきにくくなる。また、特に樹脂ビーズの場合には、外観が低光沢化して、意匠性が付与される。
第一プライマー層30上に上塗り塗料が塗布された後、上塗り塗料の塗膜が必要に応じて加熱されることで、第一トップ層40が形成され、第二プライマー層60上に上塗り塗料が塗布された後、上塗り塗料の塗膜が必要に応じて加熱されることで、第二トップ層70が形成される。塗膜の加熱温度は、最高到達温度が200〜240℃の範囲内であることが好ましく、塗膜の加熱時間は40〜90秒の範囲内であることが好ましい。加熱温度が低すぎると上塗り塗料中の樹脂が十分に硬化しないことがあり、加熱温度が高すぎると上塗り塗料中の樹脂が分解して加工性などの膜特性が劣化するおそれがある。加熱時の最高到達温度は、200〜220℃の範囲内であることが特に好ましい。
上塗り塗料も、下塗り塗料の場合と同様の方法で塗装できる。
[本発明の他の実施形態]
本発明の他の実施形態としては、第二化成処理皮膜50、第二プライマー層60及び第二トップ層70を有しない他は、塗装めっき鋼板1と同様の構成の塗装めっき鋼板;化成処理皮膜20,50を有さず、プライマー層30,60が化成処理皮膜20,50を介さずにめっき層12,13を覆っている他は塗装めっき鋼板1と同様の構成の塗装めっき鋼板;第一プライマー層30と第一化成処理皮膜20との間に第一の被覆層が形成されている他は塗装めっき鋼板1と同様の構成の塗装めっき鋼板;第一プライマー層30と第一トップ層40との間に第二の被覆層が形成されている他は塗装めっき鋼板1と同様の構成の塗装めっき鋼板;第二のプライマー層60と第二めっき層13との間に第三の被覆層(図示せず)が形成されている他は塗装めっき鋼板1と同様の構成の塗装めっき鋼板;第二プライマー層60と第二トップ層70との間に第四の被覆層が形成されている他は塗装めっき鋼板1と同様の構成の塗装めっき鋼板などが挙げられる。但し、トップ層40,70は塗装めっき鋼板1の最外層に配置される。第一から第四の被覆層は、エポキシ樹脂系塗料などの適宜の樹脂塗料から形成され得る。
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
[実施例1]
めっき鋼板10として、「エスジーエル(登録商標)」(日鉄住金鋼板株式会社製、板厚:0.8mm、両面付着量:150g/m2)(以下、SGL)を用意した。このめっき鋼板10は、鋼板11と、鋼板11の第一面を覆う第一めっき層12と、鋼板11の第二面を覆う第二めっき層13とを備える。めっき層12,13の組成は、ともに55質量%Al−2質量%Mg−1.6質量%Si−Znであった。
めっき層12,13上に、クロメートフリー処理剤をバーコーターにより塗布し、更に最高到達板温度が100℃となるように約10秒間加熱した。これにより、第一めっき層12を覆う第一化成処理皮膜20、及び第二めっき層13を覆う第二化成処理皮膜50をそれぞれ形成した。化成処理皮膜20,50の片面あたりの付着量は、100mg/m2であった。
第一化成処理皮膜20上に、第一プライマー層形成用下塗り塗料としてエポキシ系塗料(バナジウム化合物:バナジン酸カルシウム、防錆顔料:リン酸マグネシウム、バナジウム化合物の含有割合:エポキシ系塗料の総質量に対して30質量%、防錆顔料の含有割合:エポキシ系塗料の総質量に対して20質量%、樹脂成分の含有割合:エポキシ系塗料の総質量に対して50質量%)をバーコーターにより塗布し、更に最高到達板温が200℃となるように60秒間加熱した。これにより、第一化成処理皮膜20を覆う第一プライマー層30を形成した。第一プライマー層30の付着量は、7g/m2であった。
第二化成処理皮膜50上に、第二プライマー層形成用下塗り塗料としてエポキシ系塗料(バナジウム化合物:バナジン酸カルシウム、防錆顔料:リン酸マグネシウム、バナジウム化合物の含有割合:エポキシ系塗料の総質量に対して30質量%、防錆顔料の含有割合:エポキシ系塗料の総質量に対して20質量%、樹脂成分の含有割合:エポキシ系塗料の総質量に対して50質量%)をバーコーターにより塗布し、更に最高到達板温が200℃となるように60秒間加熱した。これにより、第二化成処理皮膜50を覆う第二プライマー層60を形成した。第二プライマー層60の付着量は、2g/m2であった。
第一トップ層形成用上塗り塗料として、この第一トップ層形成用上塗り塗料(ポリエステル系塗料、黒色、艶消し)をバーコーターにより第一プライマー層30上に塗布し、更に最高到達板温が220℃となるように60秒間加熱した。これにより、第一プライマー層30を覆う第一トップ層50を形成した。第一トップ層50の付着量は、24g/m2であった。
第二トップ層形成用上塗り塗料として、この第二トップ層形成用上塗り塗料(ポリエステル系塗料、黄土色)をバーコーターにより第二プライマー層60上に塗布し、更に最高到達板温が220℃となるように60秒間加熱した。これにより、第二プライマー層60を覆う第二トップ層70を形成した。第二トップ層70の付着量は、6g/m2であった。
このようにして、塗装めっき鋼板1(以下、SGLバナジウム鋼板)を得た。
[比較例1]
めっき鋼板10として、「ガルバリウム鋼板(登録商標)」(日鉄住金鋼板株式会社製、板厚:0.8mm、両面付着量:150g/m2)(以下、GL)を用いた他は、実施例1と同様にして塗装めっき鋼板1(以下、GLバナジウム鋼板)を得た。このめっき鋼板10は、鋼板11と、鋼板11の第一面を覆う第一めっき層12と、鋼板11の第二面を覆う第二めっき層13とを備える。この鋼板11は、実施例1で用いた鋼板11と同じものであった。また、このめっき層12及びめっき層13の組成は、55質量%Al−1.6質量%Si−Znであった。
[比較例2]
めっき鋼板10として、「エスジーエル(登録商標)」(日鉄住金鋼板株式会社製、板厚:0.8mm、両面付着量:150g/m2)を用意した。
めっき鋼板10のめっき層12,13上にクロメート処理剤(日本パーカライジング株式会社製、品番「ZM1300AN」)をバーコーターにより塗布し、更に最高到達板温度が100℃となるように約10秒間加熱した。化成処理皮膜20,50の片面あたりのクロム付着量は、ともに40mg/m2であった。
第一化成処理皮膜20上に、第一プライマー層形成用下塗り塗料として、エポキシ系塗料(防錆顔料:ストロンチウムクロメート)をバーコーターにより塗布し、更に最高到達板温が200℃となるように60秒間加熱した。これにより、第一化成処理皮膜20を覆う第一プライマー層30を形成した。第一プライマー層30の付着量は、6g/m2であった。
第二化成処理皮膜50上に、第二プライマー層形成用下塗り塗料として、エポキシ系塗料(防錆顔料:ストロンチウムクロメート)をバーコーターにより塗布し、更に最高到達板温が200℃となるように60秒間加熱した。これにより、第二化成処理皮膜50を覆う第二プライマー層60を形成した。第二プライマー層60の付着量は、2g/m2であった。
実施例1と同様にして、第一プライマー層30上に第一トップ層40を、第二プライマー層60上に第二トップ層70を、それぞれ形成した。
このようにして、塗装めっき鋼板1(以下、SGLクロメート鋼板)を得た。
[比較例3]
めっき鋼板10として、「エスジーエル(登録商標)」に代えて、「ガルバリウム鋼板(登録商標)」(日鉄住金鋼板株式会社製、板厚:0.8mm、両面付着量:150g/m2)を用いた他は、比較例1と同様にして塗装めっき鋼板1(以下、GLクロメート鋼板)を得た。
[評価試験]
(溶出性評価)
各実施例及び比較例で得られた塗装めっき鋼板1をシャー切断機により切断し、平面視5mm×50mmの寸法の短冊状のサンプルを得た。切断のクリアランスは、塗装めっき鋼板1の厚みに対して、上(第一トップ層40側)からせん断面の塗装めっき鋼板1の厚み方向の長さが6割、破断面の塗装めっき鋼板1の厚み方向の長さが4割となるようになるように切断(半分に)した。残りは下(第二トップ層70側)から同じように切断した。25個のサンプルを、温度20℃、体積100cm3のイオン交換水中に2時間浸漬することで溶解水を得た。
続いて、溶解水から25個のサンプルを全て取り出し、更にこの溶解水中の各元素の量を分光光度計(アジレント・テクノロジー株式会社製、品番「7700X」)でICP(誘導結合プラズマ)質量分析法に基づいて測定した。同様にして、7時間浸漬した溶解水、13時間浸漬した溶解水、25時間浸漬した溶解水をそれぞれ得、各溶解水中の各元素の量を測定した。イオン交換水は、V、Mg、Cr等の不純物が1ppb未満であった。
実施例1、比較例1においては、溶解水中のバナジウムの量及びマグネシウムの量を測定した。各元素の量は、多元素同時定量した。いずれも予め準備した検量線によって、各元素の定量分析を行った。
比較例2,3において、溶解水中のクロムの量を測定した。このクロムの量は、分光光度計(島津製作所製、品番「UV3600」)に基づいて測定した。他の元素と同様に、予め準備した検量線を基準にしてクロムの量を定量した。
測定結果からサンプルの端面の長さあたりの元素の溶出量を導出した。その結果を表1に示す。さらに、溶出性評価において得られた、実施例1及び比較例1のサンプルの端面の長さあたりのバナジウムの溶出量と経過時間との関係を示すグラフを図2に示す。実施例1及び比較例1のサンプルの端面の長さあたりのマグネシウムの溶出量と経過時間との関係を示すグラフを図3に示す。比較例2及び比較例3のサンプルの端面の長さあたりのクロムの溶出量と経過時間との関係を示すグラフを図4に示す。実施例1及び比較例1のサンプルの端面の長さあたりのマグネシウム及びバナジウムの溶出量の合計と経過時間の平方根との関係を示すグラフを図5に示す。実施例1及び比較例1のサンプルの端面の長さあたりのバナジウムの溶出量と経過時間の平方根との関係を示すグラフを図6に示す。比較例2及び比較例3のサンプルの端面の長さあたりのクロムの溶出量と経過時間の平方根との関係を示すグラフを図7に示す。なお、図5〜図7中の直線は、経過時間の平方根に対する各サンプルの端面の長さあたりの元素の溶出量から最小二乗法により求めた相関直線である。
(端面耐食性評価)
各実施例及び比較例で得られた塗装めっき鋼板1をシャー切断機により、第一トップ層40(評価面)側からと第二トップ層70(評価面とは反対の面)側からの交互に切断し、平面視70mm×150mmの寸法のサンプルを切り出した。切断は、塗装めっき鋼板1の厚みに対して上からせん断部が6割、脆弱部が4割となるように切断した。このサンプルの一方の長辺(長さ150mmの辺)縁部(以下、下バリ部)には下バリが、他方の長辺縁部(以下、上バリ部)には上バリが形成されていた。なお、上バリとは、評価面である第一トップ層40側にバリ(カエリ)が発生していることをいい、下バリとは、評価面とは反対側である第二トップ層70側にバリ(カエリ)が発生していることをいう。そして、このサンプルの各短辺(長さ70mmの辺)における端面をシールし、端面耐食性評価用サンプルを得た。
得られた端面耐食性評価用サンプルを用いて複合サイクル試験(CCT)を実施し、下バリ部における端面耐食性を評価した。具体的には、複合サイクル試験(CCT)は、SST(5%NaCl塩水噴霧:35℃;2時間)、乾燥(60℃、4時間)及び湿潤(恒温湿潤:50℃、95%RH;2時間)を1サイクルとして、100サイクル実施した。
試験後のサンプルについて、下バリ部における「膨れ(mm)」を測定した。測定結果を表1に示す。
また、試験後のサンプルについて、下バリ部において、第一トップ層40の縁から上バリ部方向へ発生した「白錆長(mm)」を測定した。測定結果を表1に示す。
比較例1のGLバナジウム鋼板は、表1に示すように、プライマー層30,60はバナジウム化合物を含有するが、めっき層12,13にマグネシウムを含有しなかったので、膨れ及び白錆長がともに大きかった。
比較例2のSGLクロメート鋼板は、表1に示すように、プライマー層30,60はバナジウム化合物を含有しなかったが、めっき層12,13はマグネシウムを含有し、プライマー層30,60は防錆顔料としてストロンチウムクロメートを含有したので、膨れ及び白錆長がともに小さかった。
比較例3のGLクロメート鋼板は、表1に示すように、めっき層12,13はマグネシウムを含有せず、プライマー層30,60はバナジウム化合物を含有しなかったが、プライマー層30,60は防錆顔料としてストロンチウムクロメートを含有したので、膨れ及び白錆長がともに大きかった。
これに対し、実施例1のSGLバナジウム鋼板は、表1に示すように、めっき層12,13はマグネシウムを含有し、プライマー層30,60はバナジウム化合物としてバナジン酸カルシウムを含有したので、膨れ及び白錆長がともに小さかった。
以上より、実施例1のSGLバナジウム鋼板は、従来のクロメート処理を要しない塗装めっき鋼板に相当する比較例1のGLバナジウム鋼板よりも端面耐食性が優れることがわかった。さらに、実施例1のSGLバナジウム鋼板は、従来のクロメート処理を要する塗装めっき鋼板に相当する比較例3のGLクロメート鋼板よりも端面耐食性が優れ、クロメート処理を要する塗装めっき鋼板に相当する比較例2のSGLクロメート鋼板と同等の端面耐食性を有することがわかった。すなわち、実施例1のSGLバナジウム鋼板は、クロメート処理及びプライマー層中のクロメート系の顔料を要しなくとも、端面耐食性に優れることがわかった。
また、表1に示すように、サンプルの端面の長さあたりのバナジウムの溶出量は、比較例1では1.1〜1.2μg/mであったに対し、実施例1では5.6〜9.1μg/mであった。サンプルの端面の長さあたりのマグネシウムの溶出量は、比較例1では1.9〜4.9μg/mであったのに対し、実施例1では30.4〜90.9μg/mであった。これらの結果から、めっき層12,13にマグネシウムを含有させ、水中において、めっき層12,13中のマグネシウムが溶出することで、プライマー層30,60中のバナジウム化合物の溶出を大きく促進させることがわかった。
また、表1に示すように、サンプルの端面の長さあたりのクロムの溶出量は、比較例2では180〜480μg/mであったのに対し、比較例3では200〜510μg/mであった。これらの結果から、サンプルの端面の長さあたりのクロムの溶出量は、めっき層12,13のマグネシウムの含有量に依存しないことがわかった。
このようにめっき層12,13がマグネシウムを含有すると、めっき層12,13がマグネシウムを含有しない場合に比べ、バナジウムが水中に溶出しやすくなる傾向が見られた。また、比較例1のGLにクロメートフリー塗膜を施したGLバナジウム鋼板より、実施例1のSGLにクロメートフリー塗膜を施したSGLバナジウム鋼板は、明らかに、マグネシウム及びバナジウムの溶出速度が大きかった。そのことによって、アルミニウムや亜鉛の腐食の進行を抑制することができるがわかった。
図5から、サンプルの端面からイオン交換水中への、端面の長さあたりのマグネシウム及びバナジウムの溶出量の合計は、経過時間とともに上昇し、経過時間の平方根に比例することがわかった。また、サンプルの端面の長さあたりのマグネシウム及びバナジウムの量の合計について、図5に示す比較例1の相関直線の比例係数A1は1.35(μg/m)/(時)0.5であったのに対し、実施例1の相関直線の比例係数A1は20.6(μg/m)/(時)0.5であった。すなわち、実施例1の比例係数A1は比較例1の比例係数A1よりも約15倍大きかった。このことからも、めっき層12,13がマグネシウムを含有すると、めっき層12,13がマグネシウムを含有しない場合に比べて、マグネシウム及びバナジウムの元素量が多くなることがわかった。
図6から、サンプルの端面からイオン交換水中への、端面の長さあたりのバナジウムの溶出量は、経過時間とともに上昇し、経過時間の平方根に比例することがわかった。また、サンプルの端面の長さあたりのバナジウムの量について、図6に示す比較例1の相関直線の比例係数A2は0.3(μg/m)/(時)0.5であったのに対し、実施例1の相関直線の比例係数A2は2.0(μg/m)/(時)0.5であった。すなわち、実施例1の比例係数A2は比較例1の比例係数A2よりも約7倍大きかった。このことからも、めっき層12,13がマグネシウムを含有すると、めっき層12,13がマグネシウムを含有しない場合に比べて、バナジウムの元素量が多くなることがわかった。
また、めっき層12,13がマグネシウムを含有し、プライマー層30,60がバナジン酸カルシウム及びリン酸マグネシウムを含有する実施例1のSGLバナジウム鋼板は、めっき層12,13がマグネシウムを含有せず、プライマー層30,60がバナジン酸カルシウム及びリン酸マグネシウムを含有する比較例1のGLバナジウム鋼板に比べ、サンプルの端面の長さあたりのバナジウムの溶出量が大きかった。そのため、めっき層12,13中のマグネシウムがプライマー層30,60中のバナジウムの溶出に効果的に働いていると考えられる。