以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
図1は、本実施の形態にかかる圧延設備1を含むH形鋼の製造ラインTについての説明図である。図1に示すように、製造ラインTには上流側から順に、加熱炉2、粗圧延機4、中間ユニバーサル圧延機5、仕上ユニバーサル圧延機8が配置されている。また、中間ユニバーサル圧延機5に近接してエッジャー圧延機9が設けられている。なお、以下では、説明のために製造ラインTにおける鋼材を、総称して「被圧延材A」と記載し、各図において適宜その形状を破線・斜線等を用いて図示する場合がある。
図1に示すように、製造ラインTでは、加熱炉2から抽出された例えばスラブ11等の被圧延材Aが粗圧延機4において粗圧延される。次いで、中間ユニバーサル圧延機5において中間圧延される。この中間圧延時には、必要に応じてエッジャー圧延機9によって被圧延材の端部等(後述するフランジ部80)に対して圧下が施される。通常の場合、粗圧延機4のロールには、複数の孔型が刻設されており、これらを経由して複数パス程度のリバース圧延でH形粗形材13が造形され、該H形粗形材13を前記中間ユニバーサル圧延機5−エッジャー圧延機9の2つの圧延機からなる圧延機列を用いて、複数パスの圧下が加えられ、中間材14が造形される。そして中間材14は、仕上ユニバーサル圧延機8において製品形状に仕上圧延され、H形鋼製品16が製造される。
次に、以下では図1に示した粗圧延機4に刻設される孔型構成や孔型形状について図面を参照して説明する。図2〜図7は粗圧延工程を行う粗圧延機4に刻設される孔型についての概略説明図である。ここで、説明する第1孔型〜第4孔型は、粗圧延機4の孔型ロールに刻設されるが、後述するように本願発明では2ヒート圧延を実施するため、以下に説明する第1孔型〜第5孔型の5つの孔型は、入れ替え可能な2つの孔型ロールに分けて刻設されても良い。なお、2ヒート圧延を実施する際の好適な孔型設計条件などに関しては、図面・表等を参照して後述する。
2ヒート圧延とは、粗圧延機4において第1の孔型ロールを用いて圧延造形を実施した後、粗圧延機4において孔型ロールの入れ替えを行い、被圧延材Aを加熱炉2において再度加熱した後、入れ替えた第2の孔型ロールを用いて圧延造形を実施する工程である。
通常のH形鋼の製造における粗圧延工程では、以下に説明する各孔型において1又は複数パスでの造形が行われる。
また、本実施の形態では刻設される孔型の基本的な構成が6孔型である場合を例示して説明するが、その孔型数は必ずしも6孔型である必要はない。即ち、H形粗形材13を造形するために好適な孔型構成であれば良い。なお、図2〜図7では、各孔型における造形時の被圧延材Aの概略最終パス形状を破線にて図示している。
図2は第1孔型K1の概略説明図である。第1孔型K1は、一対の水平ロールである上孔型ロール20と下孔型ロール21に刻設され、これら上孔型ロール20と下孔型ロール21のロール隙において被圧延材Aが圧下・造形される。また、上孔型ロール20の周面(即ち、第1孔型K1の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部25が形成されている。更に、下孔型ロール21の周面(即ち、第1孔型K1の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部26が形成されている。これら突起部25、26はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部25と突起部26とでそれぞれ等しく構成されている。突起部25、26の高さ(突出長さ)をh1とし、先端部角度をθ1aとする。
この第1孔型K1においては、突起部25、26が被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に押し当てられ、割り込み28、29が形成される。第1孔型K1は、スラブ端面に溝(割り込み28、29)を付与する孔型であることから「溝付け孔型」とも呼称される。ここで、突起部25、26の先端部角度(ウェッジ角度とも呼称される)θ1aは例えば25°以上40°以下であることが望ましい。
ここで、第1孔型K1の孔型幅は、被圧延材Aの厚み(即ち、スラブ厚)とほぼ等しいことが好ましい。具体的には、第1孔型K1に形成された突起部25、26の先端部における孔型の幅と、スラブ厚を同一にすることで、被圧延材Aの左右センタリング性が好適に確保される。また、このような孔型寸法の構成とすることで、図2に示すように、第1孔型K1での造形時において、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)においては、上記突起部25、26及び孔型側面(側壁)の一部が被圧延材Aと接していて、割り込み28、29により4つの要素(部位)に分割されたスラブ上下端部に対して、第1孔型K1の上面及び底面にて積極的な圧下が行われない方が好ましい。孔型の上面及び底面による圧下は、被圧延材Aの長手方向への伸びを生じさせてしまい、フランジ(後述するフランジ部80)の生成効率を低下させてしまうからである。即ち、第1孔型K1においては、突起部25、26が被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に押し当てられ、割り込み28、29が形成される際の突起部25、26における圧下量(ウェッジ先端圧下量)は、スラブ上下端部における圧下量(スラブ端面圧下量)よりも十分に大きなものとされ、これにより割り込み28、29が形成される。
図3は第2−1孔型K2−1の概略説明図である。第2−1孔型K2−1は、一対の水平ロールである上孔型ロール30と下孔型ロール31に刻設される。上孔型ロール30の周面(即ち、第2−1孔型K2−1の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部35が形成されている。更に、下孔型ロール31の周面(即ち、第2−1孔型K2−1の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部36が形成されている。これら突起部35、36はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部35と突起部36とでそれぞれ等しく構成されている。これら突起部35、36の先端部角度は25°以上40°以下のウェッジ角度θ1bであることが望ましい。
ここで、上記第1孔型K1のウェッジ角度θ1aは、フランジ相当部の先端部厚みを確保し、誘導性を高め、圧延の安定性を担保するために、後段の第2−1孔型K2−1のウェッジ角度θ1bと同じ角度であることが好ましい。
突起部35、36の高さ(突出長さ)h2aは、上記第1孔型K1の突起部25、26の高さh1より高く構成されており、h2a>h1となっている。また、突起部35、36の先端部角度は上記第1孔型K1の突起部25、26の先端部角度と同じであることが圧延寸法精度上、好ましい。これら上孔型ロール30と下孔型ロール31のロール隙において、上記第1孔型K1通材後の被圧延材Aが更に造形される。
ここで、第1孔型K1に形成される突起部25、26の高さh1より、第2−1孔型K2−1に形成される突起部35、36の高さh2aの方が高く、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)への侵入長さも同様に第2−1孔型K2−1の方が長くなる。第2−1孔型K2−1での突起部35、36の被圧延材Aへの侵入深さは、突起部35、36の高さh2aと同じである。即ち、第1孔型K1での突起部25、26の被圧延材Aへの侵入深さh1’と、第2−1孔型K2−1での突起部35、36の被圧延材Aへの侵入深さh2aはh1’<h2aとの関係になっている。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面30a、30b及び孔型底面31a、31bと、突起部35、36の傾斜面とのなす角度θfは、図3に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
図3に示すように、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)へ押し当てられた時の突起部の侵入長さが長いことから、第2−1孔型K2−1においては、第1孔型K1において形成された割り込み28、29が更に深くなるように造形が行われ、割り込み38、39が形成される。この第2−1孔型K2−1は、「割り込み孔型」とも呼称される。
また、第2−1孔型K2−1での造形は多パスにより行われるが、当該多パス造形においては、最終パスにて被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と、それに対向する孔型上面30a、30b及び孔型底面31a、31bとが接触するような造形が行われる。これは、第2−1孔型K2−1での全てのパスにおいて被圧延材Aの上下端部と孔型内部とを非接触とすると、フランジ相当部(後述するフランジ部80に対応する部位)が左右非対称に造形されるといった形状不良が生じる恐れがあり、通材性の面で問題があるからである。
図4は第2−2孔型K2−2の概略説明図である。第2−2孔型K2−2は、一対の水平ロールである上孔型ロール40と下孔型ロール41に刻設される。上孔型ロール40の周面(即ち、第2−2孔型K2−2の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部45が形成されている。更に、下孔型ロール41の周面(即ち、第2−2孔型K2−2の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部46が形成されている。これら突起部45、46はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部45と突起部46とでそれぞれ等しく構成されている。これら突起部45、46の先端部角度は25°以上40°以下のウェッジ角度θ1bであり、上記第2−1孔型K2−1のウェッジ角度と同じ角度に設計されることが望ましい。
突起部45、46の高さ(突出長さ)h2bは、上記第2−1孔型K2−1の突起部35、36の高さh2aより高く構成されており、h2b>h2aとなっている。これら上孔型ロール40と下孔型ロール41のロール隙において、上記第2−1孔型K2−1通材後の被圧延材Aが更に造形される。
ここで、第2−1孔型K2−1に形成される突起部35、36の高さh2aより、第2−2孔型K2−2に形成される突起部45、46の高さh2bの方が高く、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)への侵入長さも同様に第2−2孔型K2−2の方が長くなる。第2−2孔型K2−2での突起部45、46の被圧延材Aへの侵入深さは、突起部45、46の高さh2bと同じである。即ち、第2−1孔型K2−1での突起部35、36の被圧延材Aへの侵入深さh2aと、第2−2孔型K2−2での突起部45、46の被圧延材Aへの侵入深さh2bはh2a<h2bとの関係になっている。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面40a、40b及び孔型底面41a、41bと、突起部45、46の傾斜面とのなす角度θfは、図4に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
図4に示すように、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)へ押し当てられた時の突起部の侵入長さが長いことから、第2−2孔型K2−2においては、第2−1孔型K2−1において形成された割り込み38、39が更に深くなるように造形が行われ、割り込み48、49が形成される。この第2−2孔型K2−2は、「割り込み孔型」とも呼称される。
なお、ここで形成される割り込み48、49の寸法に基づき粗圧延工程でのフランジ造形工程終了時のフランジ片幅が決定される。
また、第2−2孔型K2−2での造形は多パスにより行われるが、当該多パス造形においては、最終パスにて被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と、それに対向する孔型上面40a、40b及び孔型底面41a、41bとが接触するような造形が行われる。これは、第2−2孔型K2−2での全てのパスにおいて被圧延材Aの上下端部と孔型内部とを非接触とすると、フランジ相当部(後述するフランジ部80に対応する部位)が左右非対称に造形されるといった形状不良が生じる恐れがあり、通材性の面で問題があるからである。
図5は第3孔型K3の概略説明図である。第3孔型K3は、一対の水平ロールである上孔型ロール50と下孔型ロール51に刻設される。上孔型ロール50の周面(即ち、第3孔型K3の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部55が形成されている。更に、下孔型ロール51の周面(即ち、第3孔型K3の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部56が形成されている。これら突起部55、56はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部55と突起部56とでそれぞれ等しく構成されている。
上記突起部55、56の先端部角度θ2は、上記角度θ1bに比べ広角に構成され、突起部55、56の被圧延材Aへの侵入深さh3は、上記突起部45、46の侵入深さh2bよりも短くなっている(即ち、h3<h2b)。この角度θ2は例えば70°以上110°以下が好ましい。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面50a、50b及び孔型底面51a、51bと、突起部55、56の傾斜面とのなす角度θfは、図5に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
図5に示すように、第3孔型K3では、第2−2孔型K2−2通材後の被圧延材Aに対し、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)において第2−2孔型K2−2において形成された割り込み48、49が、突起部55、56が押し当てられることにより、割り込み58、59となる。即ち、第3孔型K3での造形における最終パスでは、割り込み58、59の最深部角度(以下、割り込み角度とも呼称する)がθ2となる。換言すると、第2−2孔型K2−2において割り込み48、49の形成と共に造形された分割部位(後述するフランジ部80に対応する部位)が外側に折り曲げられるような造形が行われる。この第3孔型K3は「折り曲げ孔型」とも呼称される。
また、図5に示す第3孔型K3での造形は少なくとも1パス以上によって行われ、このうちの少なくとも1パス以上は、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と孔型内部(第3孔型K3の上面及び底面)が接触した状態で行われる。この被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と孔型内部が接触した状態においては、当該端部の軽圧下が行われることが好ましい。
図6は第4孔型K4の概略説明図である。第4孔型K4は、一対の水平ロールである上孔型ロール60と下孔型ロール61に刻設される。上孔型ロール60の周面(即ち、第4孔型K4の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部65が形成されている。更に、下孔型ロール61の周面(即ち、第4孔型K4の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部66が形成されている。これら突起部65、66はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部65と突起部66とでそれぞれ等しく構成されている。
上記突起部65、66の先端部角度θ3は、上記角度θ2に比べ広角に構成され、突起部65、66の被圧延材Aへの侵入深さh4は、上記突起部55、56の侵入深さh3よりも短くなっている(即ち、h4<h3)。この角度θ3は例えば130°以上170°以下が好ましい。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面60a、60b及び孔型底面61a、61bと、突起部65、66の傾斜面とのなす角度θfは、上記第3孔型K3と同様に、図6に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
第4孔型K4では、第3孔型K3通材後の被圧延材Aに対し、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)において第3孔型K3において形成された割り込み58、59が、突起部65、66が押し当てられることにより押し広げられ、割り込み68、69となる。即ち、第4孔型K4での造形における最終パスでは、割り込み68、69の最深部角度(以下、割り込み角度とも呼称する)がθ3となる。換言すると、第3孔型K3において割り込み58、59の形成と共に造形された分割部位(後述するフランジ部80に対応する部位)が更に外側に折り曲げられるような造形が行われる。この第4孔型K4は「折り曲げ孔型」とも呼称される。
このようにして造形された被圧延材Aの上下端部の部位は、後のH形鋼製品のフランジに相当する部位であり、ここではフランジ部80と呼称する。
図6に示す第4孔型K4での造形は少なくとも1パス以上によって行われ、このうちの少なくとも1パス以上は、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と孔型内部(第4孔型K4の上面及び底面)が接触した状態で行われる。この被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と孔型内部が接触した状態においては、当該端部の軽圧下が行われることが好ましい。
図7は第5孔型K5の概略説明図である。第5孔型K5は、一対の水平ロールである上孔型ロール85と下孔型ロール86から構成される。図7に示すように、第5孔型K5では、第4孔型K4までに造形された被圧延材Aが90°あるいは270°回転させられ、第4孔型K4までは被圧延材Aの上下端に位置していたフランジ部80が、圧延ピッチライン上に来るような配置となる。そして、第5孔型K5では、2か所のフランジ部80を繋ぐ接続部であるウェブ部82の圧下及びフランジ部80のフランジ先端部を圧下することでフランジ幅の寸法調整が行われる。このようにしていわゆるドッグボーン形状のH形粗形材(図1に示すH形粗形材13)が造形される。なお、この第5孔型K5はウェブ部82を圧下して減厚させることから、「ウェブ減厚孔型」あるいは「平造形孔型」とも呼称される。なお、この平造形孔型(第5孔型K5)における圧延造形は、1又は任意の複数パスで行われる。
このように造形されたH形粗形材13に対し、既知の圧延機である中間ユニバーサル圧延機5−エッジャー圧延機9の2つの圧延機からなる圧延機列を用いて、複数パスのリバース圧延が加えられ、中間材14が造形される。そして中間材14は、仕上ユニバーサル圧延機8において製品形状に仕上圧延され、H形鋼製品16が製造される(図1参照)。
上述したように、本実施の形態にかかる第1孔型K1〜第4孔型K4を用いて被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に割り込みを入れ、それら割り込みによって左右に分かれた各部分を左右に折り曲げる加工を行い、フランジ部80を形成するといった造形をすることで、従来行われていたスラブ端面を常に圧下する粗圧延方法に比べ、フランジ幅を広幅化させてH形粗形材13を造形することが可能となり、その結果、フランジ幅の大きな最終製品(H形鋼)を製造することができる。
ここで、上述した第1孔型K1〜第5孔型K5での孔型圧延造形によって実施される本実施の形態に係るH形鋼の製造方法においては、ロール設計上あるいは粗圧延機4の設備構成上の寸法制約により、第1孔型K1〜第5孔型K5の全ての孔型を1つの孔型ロールに刻設できないことが懸念される。特に、例えば400mm幅以上のフランジ幅を有するような大型のH形鋼製品を製造する場合には、孔型寸法が大型化し、寸法制約はより厳しいものとなる。
そこで本発明者らは、粗圧延機4において上記第1孔型K1〜第5孔型K5による粗圧延工程を行うにあたり、粗圧延機4において第1の孔型ロールを用いて圧延造形を実施した後、粗圧延機4において孔型ロールの入れ替えを行い、被圧延材Aを加熱炉2において再度加熱した後、入れ替えた第2の孔型ロールを用いて圧延造形を実施する、いわゆる2ヒート圧延を行うこととし、その際に求められる孔型設計条件やパススケジュール条件について鋭意検討を行った。以下、本検討について図面や表等を参照して説明する。
上記第1孔型K1〜第5孔型K5を用いて2ヒート圧延による粗圧延工程を実施する場合、2ヒート圧延の特性として被圧延材Aを加熱炉2において再加熱するために、被圧延材Aの表面にスケール(1次スケール)が付着し、孔型ロールによる噛み込み性の悪化やスケール巻き込みによる製品疵(スケール疵)の発生が懸念される。即ち、2ヒート圧延を実施するに際しては、このようなスケールの付着による噛み込み性の悪化や製品疵の発生を防止できるような条件で圧延を2ヒートプロセス化する必要がある。このような観点から、本発明者らは、2ヒート圧延時における2ヒート目の開始孔型を適正な孔型にすべく、2ヒート圧延時の2ヒート目開始孔型と、圧延可否、スケール剥離性、スケール疵の有無、圧延噛み込み性について検証を行った。
以下の表1は検証結果を示したものであり、ケース1〜9として2ヒート目の開始孔型を第2−1孔型K2−1、第2−2孔型K2−2、第3孔型K3、第4孔型K4、第5孔型K5とした場合の、スケール剥離性、スケール疵の有無、圧延噛み込み性に関する検証結果を示しており、これらの検証結果に伴う圧延可否も示している。
なお、表1に示す検証結果では、ウェブ厚20mm未満、又は、フランジ厚が40mm未満であるような通常H形鋼を製造する場合と、ウェブ厚20mm以上、又は、フランジ厚40mm以上の極厚H形鋼を製造する場合と、を示し、ケース1、3は通常H形鋼の製造、ケース2、4は極厚H形鋼の製造に関する検証結果である。また、ケース5〜9は通常H形鋼と極厚H形鋼の両方に関する検証結果である。
ここで、表1中に記載の「スケール剥離性」とは、スケール疵の有無に関係する検証結果であり、スケール剥離性が良好であると被圧延材表面にスケールが残存しないためスケール疵が発生しにくく、スケール剥離性が悪いと被圧延材表面にスケールが残存し、そのままの状態で圧延が進行してしまいスケール疵が発生してしまうことが分かっている。
また、表1中の「軽圧下圧延」との記載は、圧下量が110mm以下の圧延を示し、「通常圧延」とは、圧下量が110mm超の圧延を示している。但し、ここでの圧下量とは、エッジング圧延による圧下量のみを指し、平造形圧延による圧下量は含まれない。
表1に示すように、ケース1〜4では、圧延噛み込み性(以下、単に噛み込み性とも記載)は良好であるが、いずれのケースもスケール剥離性が悪い。これは、第1孔型K1の突起部形状と第2−1孔型K2−1や第2−2孔型K2−2の突起部形状とが相似形であることに起因し、被圧延材表面のスケールが圧延時に巻き込まれてしまう。
ケース1、3に示すように、通常H形鋼ではスケール剥離性が悪い場合でも、その後の圧下率が大きいためにスケールが圧延途中で剥離し、圧下痕も消去されるために圧延が可能であった。
一方、ケース2、4に示すように、極厚H形鋼では、スケールによって生じた圧下痕がスケール剥離後の圧下率が小さいために、消去されにくく、圧下痕が残るため圧延不可であった。
また、ケース5〜8では、スケール剥離性は良好であった。これは、折り曲げ孔型である第3孔型及び第4孔型では、折り曲げ造形による引張力が被圧延材Aに作用するためスケールが剥離しやすいからである。しかしながら、ケース5、7に示すように、通常圧延では噛み込み性が悪い。これは、折り曲げ造形開始前にはスケールが付着した状態であり、スケールにより摩擦係数が低くなり十分な噛み込みが図られないからである。
即ち、ケース5、7に示すように、通常圧延では噛み込み性が悪いことから、圧下量を変えて軽圧下圧延とすることで、スケール剥離を促進させて噛み込み性の改善を図り、圧延可能にすることができると推定される。表1に記載のケース6、8はこのような噛み込み性の改善を図った場合の検証結果である。なお、ケース6、8に関するより詳細な条件(パススケジュール等)については、表を参照し後述する。
また、ケース9では、噛み込み性は良好であるものの、通常H形鋼、極厚H形鋼のいずれの圧延造形においてもスケールの圧下痕が残り、製品疵が残存するため、圧延不可であった。なお、折り曲げ造形完了後(第4孔型K4での圧延造形完了後)には、被圧延材Aのフランジ相当部(被圧延材フランジ幅)が例えば600mm超といったように大きく広幅化されており、設備制約上、加熱炉2に挿入することが難しいといった事情も考えられることから、第5孔型K5を2ヒート圧延の2ヒート目の開始孔型に設定することは現実的ではない。
以上、表1を参照して説明した検証結果によれば、通常H形鋼の製造及び極厚H形鋼製造の両方において2ヒート圧延を実施する場合には、2ヒート目の開始孔型を第3孔型K3あるいは第4孔型K4とすることで圧延可能となることが分かった。加えて、2ヒート目の開始孔型を第3孔型K3あるいは第4孔型K4とする場合には、当該第3孔型K3あるいは第4孔型K4での圧延造形の例えば1パス目の圧下量を減ずることで噛み込み性の改善を図ることが望ましいことが分かった。
次に、本実施の形態に係る第1孔型K1〜第4孔型K4を用いる粗圧延工程を1ヒート圧延で行う場合と2ヒート圧延で行う場合のそれぞれのパススケジュールについて説明する。なお、以下に示す表2〜表4のパススケジュールはいずれも同じ寸法形状のH形鋼を製造する際の粗圧延工程(第1孔型K1〜第4孔型K4)を示すものである。
以下に示す表2は、本実施の形態に係る第1孔型K1〜第4孔型K4を用いる粗圧延工程を1ヒート圧延で圧延造形する場合のパススケジュールの1例であり、全部で14パスで第4孔型K4までの圧延造形を行う場合のスケジュールである。なお、ここでロール隙とは、ロール孔型のウェッジ先端部の上下間の距離を示す。表2に示すように、1ヒート圧延では、折り曲げ孔型である第3孔型K3と第4孔型K4での圧延造形の各第1パスでは、折り曲げを開始するために前パスのロール隙をプラスし、圧下量の値を前段パスよりマイナスの値としている。例えば表2に示す例では、第11パスで−200mmの圧下量を採り、第13パスで−120mmの圧下量を採っているが、被圧延材のフランジ先端部はロールと接触しており、部分的に折り曲げる加工が行われている。
表2に示すパススケジュールによって圧延造形を行う場合に、1ヒート圧延であれば、第11パスや第13パスでの折り曲げ造形開始時において被圧延材Aの表面にスケールは付着していないため、圧下量がそれぞれ−200mm、−120mmの設定でK3及びK4孔型共に2パスで圧延が可能であった。
しかしながら、同じ孔型構成でもって2ヒート圧延を行う場合には、上述したように、折り曲げ造形開始時にスケールが付着した状態であるために噛み込み性が悪い。そこで、本発明者らは、2ヒート圧延を行う場合には、2ヒート目の開始孔型での1パス目に軽圧下圧延を行うことで、噛み込み性の悪化を防止する技術を創案した。
以下に示す表3は、本実施の形態に係る第1孔型K1〜第4孔型K4を用いる粗圧延工程を2ヒート圧延で圧延造形する場合のパススケジュールの一例であり、第3孔型K3を2ヒート目の開始孔型とした場合のスケジュールである。
表3に示すパススケジュールでは、2ヒート圧延において2ヒート目の開始孔型を第3孔型K3とした場合において、当該第3孔型K3での1パス目(表3中の第11パス)の圧下量を−310mmとし、パス回数を1パス増やすことで軽圧下圧延が行われることになる。
また、以下に示す表4は、本実施の形態に係る第1孔型K1〜第4孔型K4を用いる粗圧延工程を2ヒート圧延で圧延造形する場合のパススケジュールの一例であり、第4孔型K4を2ヒート目の開始孔型とした場合のスケジュールである。
表4に示すパススケジュールでは、2ヒート圧延において2ヒート目の開始孔型を第4孔型K4とした場合において、当該第4孔型K4での1パス目(表4中の第13パス)の圧下量を−220mmとし、パス回数を1パス増やすことで軽圧下圧延が行われることになる。
以上表3、表4に一例を挙げた2ヒート圧延のパススケジュールと、表2に挙げた1ヒート圧延のパススケジュールを比較すると、2ヒート圧延時に2ヒート目を開始する孔型の1パス目において軽圧下圧延を実施している。この2ヒート目開始時1パス目の軽圧下圧延により噛み込み性の悪化が防止され、通材不良等を発生させることなく1ヒート圧延時と同様の寸法精度で粗圧延工程を実施することが可能となる。
なお、表2〜表4に示したパススケジュールは具体的な一例であり、適宜変更が可能である。本実施の形態に係る第1孔型K1〜第4孔型K4を用いる粗圧延工程において重要なのは、表3、表4に示したように、2ヒート圧延時において2ヒート目の開始孔型において1パス目にロール隙を通常圧延よりも開放させた状態で軽圧下圧延を行うことである。その際の軽圧下圧延は、例えば圧下量が110mm以下、あるいは、被圧延材−ロール間のフランジ面接触幅が50%未満の圧延である。
2ヒート圧延では、折り曲げ造形開始時にスケール(1次スケール)が付着した状態であるために噛み込み性が悪いが、これは、スケールとロールとの間の摩擦係数が小さいことを意味している。スケールが剥離した状態で、地金とロールが接触した状態で圧延が実施されると、摩擦係数が大きくなり、噛み込み性の向上が図られる。即ち、噛み込み性の向上のためには、いかにして被圧延材表面から1次スケールを除去するかが重要となる。被圧延材表面からスケールを剥離させる技術としては、高圧水を利用したデスケーリング法等が知られているが、本実施の形態に係る粗圧延方法では、スケール剥離を必要とする対象部位は突起部内面(ウェッジ内面)であることから、高圧水を表面に垂直に噴射するといった事が困難である。そこで、本発明者らは、圧延時における圧下量の調整によりスケール除去を行うことができるような技術について試行を行った。
被圧延材表面に1次スケールが付着した状態で圧下量の大きな圧延を行った場合、被圧延材−ロール間の面圧が高くなり、1次スケールが剥離する前にスケールを被圧延材に押し込む状態となってしまう。従って、摩擦係数が小さい状態で圧延されるため、噛み込み性が低下する。
一方、被圧延材表面に1次スケールが付着した状態で圧下量の小さい圧延(軽圧下圧延)を行うと、被圧延材−ロール間の面圧が低く抑えられ、ロールと被圧延材の接触開始位置において、スケールを押し込むことなく、スケールの剥離が行われた後にロールと被圧延材の地金部分との接触が開始されるため、噛み込み性が良好となる。
図8は、2ヒート圧延の開始孔型を第3孔型K3とした場合の圧下量の違いによる被圧延材Aと孔型ロールとの位置関係に関する概略説明図であり、(a)が通常圧延、(b)が軽圧下圧延を示している。また、図9は、2ヒート圧延の開始孔型を第4孔型K4とした場合の圧下量の違いによる被圧延材Aと孔型ロールとの位置関係に関する概略説明図であり、(a)が通常圧延、(b)が軽圧下圧延を示している。なお、図8、9には説明のために被圧延材Aのフランジ相当部の一部を拡大して図示している。
図8、9の(a)と(b)を比較して分かるように、軽圧下圧延ではフランジ相当部の先端におけるロールとの接触面積(接触弧長)が小さく局所的になっている。これにより、孔型ロールとスケールの付着した被圧延材A(フランジ相当部の先端)との摩擦係数の低下が抑制され、噛み込み性の向上が見込まれる。
上述したように、被圧延材表面に1次スケールが付着した状態で圧下量の小さい圧延(軽圧下圧延)を行うと、被圧延材−ロール間の面圧が低く抑えられ、噛み込み性が向上するが、その際の好適な面圧の基準として、フランジ面(突起部内面)とロールとの接触幅を50%未満とすることが望ましい。図8、9の(a)と(b)を比較すると、通常圧延に比べ、軽圧下圧延時にはフランジ面とロールとの接触幅が小さくなっていることが分かる。なお、接触幅50%未満が望ましいのは、本実施の形態に係る第1孔型K1〜第4孔型K4を用いる粗圧延工程を1ヒート圧延で行う場合に、折り曲げ造形の1パス目では、フランジ面とロールの接触幅がほぼ50%となっており、スケールの剥離が実現できているからである。
以上表2〜4や図8、9を参照して説明したように、本実施の形態に係る第1孔型K1〜第4孔型K4を用いた粗圧延工程では、2ヒート圧延を採用し、2ヒート目の開始孔型を例えば第3孔型K3あるいは第4孔型K4とし、当該開始孔型の1パス目の圧延を軽圧下圧延としたパススケジュール設計を行うことが望ましい。このような工程を採ることにより、2ヒート圧延時に問題となる被圧延材表面へのスケールの付着に伴う噛み込み性の悪化を防止し、製品疵の発生を抑制させてH形鋼の製造を実施することが可能となる。
また、フランジの広幅化といったH形鋼の大型化を目指す場合、1つの孔型ロールに刻設できる孔型数には設備限界があるといった観点から、2ヒート圧延を採用することで従来に比べ操業設計条件を効率化することができる。
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施の形態においては、第1孔型K1、第2−1孔型K2−1、第2−2孔型K2−2のウェッジ角度θ1a、θ1bを25°以上40°以下、第3孔型K3のウェッジ角度θ2を70°以上110°以下、第4孔型K4のウェッジ角度θ3を130°以上170°以下、として説明している。この点に関し、本発明において2ヒート圧延を適用するに際し、被圧延材表面に付着するスケールの剥離性が噛み込み性に影響を及ぼすことから、上記各ウェッジ角度には更なる好適な数値範囲が存在することが分かっている。特に、2ヒート圧延時における1ヒート目終了孔型のウェッジ角度と、2ヒート目開始孔型のウェッジ角度との関係がスケール剥離性に影響することが分かっている。
以下に示す表5は、上記実施の形態で説明した第1孔型K1〜第5孔型K5を用いた粗圧延工程において2ヒート圧延を適用した場合に、1ヒート目の終了孔型のウェッジ角度(ウェッジ先端角度)と2ヒート目の開始孔型ウェッジ角度をケース1〜11で変えた場合のスケール剥離性についての検証結果である。なお、上記実施の形態で説明したように、2ヒート目の開始孔型は第3孔型K3あるいは第4孔型K4が望ましいことから、表5に示す検証でも2ヒート目の開始孔型を第3孔型K3あるいは第4孔型K4としている。
表5に示すように、ケース1〜7、9はスケール剥離性が担保され、圧延可能となっている。一方、ケース8、10、11はスケール剥離性が悪く圧延できない条件である。
表5に示す検証結果によれば、2ヒート目開始孔型が第3孔型K3である場合(ケース1〜4)には、いずれの場合でもスケール剥離性が良好であり、圧延可能であることが分かる。
また、2ヒート目開始孔型が第4孔型K4である場合には、1ヒート目終了孔型とのウェッジ角度の差が40°以上である場合にはスケール剥離性が良好であり、1ヒート目終了孔型とのウェッジ角度の差が40°未満(30°以下)であるとスケール剥離性が悪化することが分かる。
1ヒート目終了孔型と2ヒート目開始孔型とのウェッジ角度の差(角度変化量)が大きいと、折り曲げ造形時にフランジ部に引張力が作用し、表面のスケールに引張ひずみが発生することでスケール剥離性が良好になると考えられる。
2ヒート目開始孔型が第3孔型K3である場合、第3孔型K3のウェッジ角度が第4孔型K4のウェッジ角度に比べ小さいため、スケールをロール軸方向に押し広げる作用が大きく、スケールを巻き込みにくく、1ヒート目終了孔型とのウェッジ角度の差が30°以上である場合にスケール剥離性が良好であると考えられる。
即ち、2ヒート目開始孔型が第3孔型K3である場合と、第4孔型K4である場合と、の両方を考えた場合に、ウェッジ角度変化量が30°超との条件を満たすことで、スケール剥離性は良好となる。
以上、表5を参照して説明したように、第1孔型K1〜第5孔型K5を用いた粗圧延工程において2ヒート圧延を適用した場合に、2ヒート目の開始孔型を第3孔型K3あるいは第4孔型K4とし、ウェッジ角度に関する設計を、2ヒート目開始孔型と、1ヒート目終了孔型とのウェッジ角度の差を30°超とすることが好ましいことが分かる。
また、上記実施の形態においては、第3孔型K3のウェッジ角度θ2を70°以上110°以下、第4孔型K4のウェッジ角度θ3を130°以上170°以下、として説明している。このように規定することで、被圧延材における形状不良の発生を抑制させ、従来に比べフランジ幅の大きなH形鋼製品を効率的且つ安定的に製造することが可能となる。以下では上記θ2及びθ3の好適な角度の範囲が規定される根拠について説明する。
先ず、本発明者らは、第3孔型K3で造形が完了した被圧延材Aに対し、第4孔型K4において実施される折り曲げ加工の加工限界(加工限界角度)について検討を行った。図10は、第4孔型K4での折り曲げ角度(即ち、θ3−θ2)とフランジ厚偏差(フランジ厚バラツキ)との関係を示すグラフである。ここで、図10のグラフの縦軸であるフランジ厚偏差は、割り広げて造形された4つのフランジ相当部の平均フランジ厚からのバラツキ3σを示している。
図10に示すように、第4孔型K4において、折り曲げ角度(即ち、θ3−θ2)が60°を超えると、フランジ厚偏差が5%を超えるため、粗圧延工程の後工程である中間圧延工程や仕上圧延工程において寸法を収束させることが困難となり、好適な寸法精度でもって造形を実施することができなくなる。
なお、左右のフランジ相当部の厚みバラツキは5%以下に抑えられることが好ましい理由は以下の通りである。大型サイズのH形鋼の形状寸法の許容差は、JIS規格(JIS G 3192)によると、フランジ厚が40mmを超える場合、当該フランジ厚の公差範囲は4mm(即ち、±2mm)であり、製品のフランジ厚の10%に相当する。製品のフランジ寸法が上記公差から外れた場合、加工修正は困難であり、所定品質の製品として認められないため、製造効率やコストの面で問題が大きい。従って、各造形工程の工程能力を十分とし、左右のフランジ相当部の厚みバラツキを抑えてH形鋼製品を製造する必要がある。通常、各造形工程の工程能力を十分とするためには、フランジ厚の公差範囲を6σに設定することが望ましい。上記JIS規格に基づき、H形鋼製品のフランジ厚の10%を6σに合わせるため、左右のフランジ相当部の厚みバラツキ3σの目標値は5%以下とすることが望ましい。
図10に示すように、第4孔型K4での加工角度は60°以下である必要がある。即ち、第3孔型K3の突起部55、56の先端部角度θ2と、第4孔型K4の突起部65、66の先端部角度θ3との差は60°以下とする必要があり、以下の式(1)を満たす条件に設計される必要がある。
θ3−θ2≦60° ・・・(1)
次に、本発明者らは、第3孔型K3の突起部55、56の先端部角度θ2の上限値について検討を行った。図11は、第3孔型K3における先端部角度θ2を変化させた場合のフランジ相当部の先端における幅変化量(フランジ先端つぶし量)を示すグラフである。
フランジ先端つぶし量は、第3孔型K3において折り曲げられたフランジ相当部の先端幅方向に関する潰された距離Δi(i=1〜4:4箇所の先端に対応)の平均値によって定義される。なお、以下に説明する図11には、このフランジ先端つぶし量Δ1〜Δ4を図示している。
図11に示すように、上記角度θ2が100°以下であれば、フランジ相当部の先端幅変化量は5mm以下の小さなレベルで留まる。しかしながら、角度θ2が110°以上になると、フランジ相当部の先端幅変化量も大きくなり、4箇所のフランジ相当部の肉量アンバランスが生じてしまう(以下に説明する図12参照)。
図12は、本実施の形態に係る方法で第3孔型K3の突起部55、56の先端部角度θ2を110°超とした場合の、造形後の被圧延材の形状を示す概略図である。図12に示すように、角度θ2を110°超に設定して第3孔型K3での造形を実施すると、曲げ加工による変形よりもフランジ相当部の外側面が押し潰される変形の方が容易となり、フランジ相当部の外側のメタルが削がれる変形モードとなってしまうことが確認される。
以上、図11、12を参照して説明したことから、第3孔型K3の突起部55、56の先端部角度θ2は以下の式(2)を満たす条件に設計される必要がある。
θ2≦110° ・・・(2)
続いて、本発明者らは、ウェブ減厚孔型での造形に基づき、第4孔型K4の突起部65、66の先端部角度θ3の上限値ならびに下限値について検討を行った。図13は、第4孔型K4の突起部65、66の先端部角度θ3を変化させた場合の、ウェブ減厚孔型において実施される後段の工程での肉溜まりの発生に伴って生じる製品疵深さを示すグラフである。なお、ウェブ減厚孔型で生じる肉溜まりとは、フランジ相当部の外面において生じる突起状の形状不良であり、その詳細は図14を参照して後述する。
図13に示すように、上記角度θ3が130°未満である場合には、製品疵が生じてしまい、その製品疵深さは角度θ3が小さければ小さい程、増大してしまう。そして、最終製品のフランジ外面にこの製品疵が残ってしまう。
図14はウェブ減厚孔型におけるウェブ減厚に関する概略説明図であり、(a)は上記角度θ3が170°超である場合にフランジ部の外面に形状不良が生じている場合を示し、(b)は上記角度θ3が130°未満である場合にフランジ部の外面に形状不良が生じている場合を示し、(c)は製品疵を示している。
図14(a)に示すように、ウェブ減厚孔型においてウェブ減厚を行った場合、ウェブ部81の減厚に伴い、フランジ部80の外側(図中左右方向)へのメタルの拡がり量が大きくなる。全断面に対するウェブ部81の断面割合が大きい程、その拡がり量は大きくなる。これにより、図中の破線部に示す突起上の膨らみ部160が形成される。この膨らみ部160は形状不良の要因であるため、対応策として、フランジ部80の外面に拡がりを見込んで凹みを設けておくことが考えられる。その凹み量を調整するために、第4孔型K4の突起部65、66の先端部角度θ3を好適に定めることが有効である。実験上、角度θ3を170°超とした場合に、図14(a)に示すような形状不良が生じることが分かっており、角度θ3の上限値は170°となる。
また、上記式(1)及び式(2)から、角度θ2の上限値は110°であり、角度θ3と角度θ2の差は最大で60°であることからも、角度θ3の上限値は170°と定まる。
また、図14(b)に示すように、ウェブ減厚孔型では、ウェブ部81の減厚と同時にフランジ部80の幅圧下も行われ、フランジ部80の幅圧下により、当該フランジ部80の中央部に上下からの圧下歪が加わるが、角度θ3が130°未満になるとフランジ部80の外側面中央部(図中破線で囲んだ部分)に形成されている溝161が消えずに疵として残存し、それに伴う製品疵が発生し、最終製品であるH形鋼において当該製品疵が残存してしまう。実験上、角度θ3を130°未満とした場合に、図14(b)に示す溝161が疵の起点となり残存し、図14(c)のような製品疵163が生じてしまうことが分かっている。
以上、図13、14を参照して説明したことから、第4孔型K4の突起部65、66の先端部角度θ3は上限値を170°とすることが望ましく、下限値を130°とすることが望ましい。
特に、図13に基づき、角度θ3は以下の式(3)を満たす条件に設計される必要がある。
θ3≧130° ・・・(3)
以上説明した式(1)〜(3)を同時に満たすような設計条件を構成する場合、θ2の下限値は70°(=130°−60°)となり、θ3の上限値は170°(=110°+60°)となる。図15は、上記式(1)〜(3)に示した設計条件をまとめたグラフであり、θ2とθ3の好適な設計範囲を示すものである。図15中の各条件を示す線(図中破線)に囲まれた範囲が好適な設計範囲となる。即ち、角度θ2は以下の式(4)を満たす条件に設計される必要があり、角度θ3は以下の式(5)を満たす条件に設計される必要があり、且つ、上記式(1)を満たすことが必要となる。
70°≦θ2≦110° ・・・(4)
130°≦θ3≦170° ・・・(5)
上記式(1)、(4)、(5)を満たすような設計条件によって第3孔型K3の突起部55、56の先端部角度θ2、ならびに第4孔型K4の突起部65、66の先端部角度θ3が定められる。これにより、左右のフランジ部80の変形アンバランスが生じることなく造形が実施され、更に、フランジ相当部の外側面が押し潰される変形といった形状不良(図12参照)や、ウェブ減厚孔型においてフランジ部80の外側面中央部が肉溜まり形状となり製品疵が発生してしまうといった形状不良(図14参照)が生じることなく、各造形工程を実施することが可能となる。
なお、上記実施の形態等において、H形鋼を製造する際の素材としてはスラブを例示して説明したが、類似形状のその他素材についても本発明は当然適用可能である。