車両のステアリング機構にモータの回転力で操舵補助力(アシスト力)を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っている。
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を図1に示して説明すると、ハンドル(ステアリングホイール)1のコラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の舵角θrを検出する舵角センサ14及び操舵トルクThを検出するトルクセンサ10が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号IGが入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいてアシスト制御の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値Vrefによってモータ20に供給する電流を制御する。なお、舵角センサ14からは舵角θrが検出されるが、モータ20に連結されたレゾルバ等の回転センサから得ることもできる。
コントロールユニット30には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)40が接続されており、車速VsはCAN40から受信することも可能である。また、コントロールユニット30には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN41も接続可能である。
コントロールユニット30は主としてCPU(Central Processing Unit)(MPU(Micro Processor Unit)やMCU(Micro Controller Unit)も含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと図2のようになる。
図2を参照してコントロールユニット30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTh及び車速センサ12で検出された(若しくはCANからの)車速Vsは、電流指令値Iref1を演算する電流指令値演算部31に入力される。電流指令値演算部31は、入力された操舵トルクTh及び車速Vsに基づいてアシストマップ等を用いて、モータ20に供給する電流の制御目標値である電流指令値Iref1を演算する。電流指令値Iref1は加算部32Aを経て電流制限部33に入力され、過熱保護条件で最大電流を制限された電流指令値Iref3が減算部32Bに入力され、フィードバックされているモータ電流値Imとの偏差Iref4(=Iref3−Im)が演算され、その偏差Iref4が操舵動作の特性改善のためのPI制御部35に入力される。PI制御部35で特性改善された電圧制御指令値VrefがPWM制御部36に入力され、更に駆動部としてのインバータ37を介してモータ20がPWM駆動される。モータ20の電流値Imはモータ電流検出器38で検出され、減算部32Bにフィードバックされる。
また、モータ20にはレゾルバ等の回転センサ21が接続されており、実舵角θsが検出される。加算部32Aには補償部34からの補償信号CMが加算されており、補償信号CMの加算によってシステム系の補償を行い、収れん性や慣性特性等を改善するようになっている。補償部34は、セルフアライニングトルク(SAT)343と慣性342を加算部344で加算し、その加算結果に更に収れん性341を加算部345で加算し、加算部345の加算結果を補償信号CMとしている。
このような電動パワーステアリング装置において、近年舵角制御モード(駐車支援等)及びアシスト制御モードを有し、これら制御モードの切換機能を有する車両が出現して来ており、自動操舵を実現する場合、舵角制御とアシスト制御を独立して保有し、これらの出力を切り換える構成が一般的である。舵角制御には、応答性や外乱抑圧性で優れた性能を持つ位置速度制御が用いられており、位置制御はP(比例)制御、速度制御はPI(比例積分)制御等で構成される。
舵角制御モード及びアシスト制御モードの制御機能を具備し、操舵制御モードを切り換える機能を有する一般的な電動パワーステアリング装置を図3について説明すると、モータ150にはモータ回転角θsを検出するためのレゾルバ等の回転センサ151が接続されており、モータ150は車両側ECU130及びEPS側ECU140を介して駆動制御される。車両側ECU130は、運転者の意思を示すボタン、スイッチ等に基づいて、舵角制御モード又はアシスト制御モードの切換指令SWを出力する切換指令部131と、カメラ(画像)やレーザレーダなどの信号に基づいて目標舵角θtとなる舵角指令値θrefを生成する舵角指令値生成部132とを具備している。また、コラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)に設けられた舵角センサ14で検出された実舵角θrは、ECU130を経てEPS側ECU140内の舵角制御部200に入力される。
切換指令部131は、舵角制御モードに入ることを識別する信号、例えば運転者の意思をダッシュボードやハンドル周辺に設けたボタンやスイッチ、或いはシフトに設けた駐車モードなどによる車両状態の信号を基に切換指令SWを出力し、切換指令SWをEPS側ECU140内の切換部142に入力する。また、舵角指令値生成部132は、カメラ(画像)、レーザレーダなどのデータを基に公知の手法で舵角指令値θrefを生成し、生成された舵角指令値θrefを目標舵角θtとしてEPS側ECU140内の舵角制御部200に入力する。
EPS側ECU140は、操舵トルクTh及び車速Vsに基づいて演算されたアシスト制御指令値Itrefを出力するアシスト制御部141と、操舵トルクTh、目標舵角θt、実舵角θr及びモータ角速度ωrに基づいて舵角制御のための舵角制御指令値Imrefを演算して出力する舵角制御部200と、切換指令SWによってアシスト制御指令値Itref及び舵角制御指令値Imrefを切り換える切換部142と、切換部142からのモータ電流指令値Iref(=Itref又はImref)に基づいてモータ150を駆動制御する電流制御/駆動部143と、回転センサ151からのモータ回転角θsに基づいてモータ速度を求め、モータ速度とギア比を用いて実舵角速度(モータ角速度)ωrを演算するモータ角速度演算部144とを具備している。モータ角速度演算部144は、微分相当の演算の後段に高周波ノイズをカットするためのローパスフィルタ(LPF)を備えている。
舵角制御部200は図4に示すように、目標舵角θtに実舵角θrを追従させるように舵角速度指令値ωcを出力する位置制御部210と、舵角速度指令値ωcに実舵角速度ωrを追従させるように舵角制御指令値Imrefを出力する速度制御部220とで構成されている。また、切換部142は、車両側ECU130の切換指令部131からの切換指令SWに基づいて、アシスト制御部141によるアシスト制御モード(手動操舵制御)と、舵角制御部200による舵角制御モード(位置/速度制御モード)とを切り換え、アシスト制御ではアシスト制御指令値Itrefを出力し、舵角制御では舵角制御指令値Imrefを出力する。
このような機能を備えた電動パワーステアリング装置において、操舵モードの切換時にスイッチなどにより急に切り換えてしまうとモータ電流指令値Irefが急変動し、ハンドル挙動が不自然になるため、運転者へ違和感を与える。
本発明は、舵角制御指令値を舵角制御出力徐変ゲインで徐変し、アシスト制御指令値をアシスト制御出力徐変ゲインで徐変し、舵角制御部内の位置制御部からの舵角速度指令値を速度指令徐変ゲインで徐変し、徐変後の舵角速度指令値の上下限値を、速度指令徐変ゲインに応じてリミッタで制限した目標舵角速度を舵角速度制御部に入力する。舵角速度制御部では更に、目標舵角速度及び実舵角速度に基づいた制御演算を行うと共に、速度制御徐変ゲインで徐変して速度制御電流値を出力し、ハンドル制振部からの制振信号を速度制御電流値に加算して舵角制御指令値を出力している。
また、本発明では操舵トルク及び切換指令を入力する切換判定/徐変ゲイン生成部を設けており、切換判定/徐変ゲイン生成部は操舵トルク及び切換指令に基づいて速度指令徐変ゲイン、速度制御徐変ゲイン、舵角制御出力徐変ゲイン及びアシスト制御出力徐変ゲインを生成している。速度指令徐変ゲイン及び速度制御徐変ゲインは舵角制御部にける位置速度制御で用いられ、舵角制御出力徐変ゲイン及びアシスト制御出力徐変ゲインは制御モードの切換時に用いられる。これら各徐変ゲインの生成では、操舵トルクに基づいて手入力の判定を行う手入力判定部を用いており、手入力判定部はLPFを経て操舵トルクの絶対値を求め、操舵方向に関連しない絶対値の全体を積分し、絶対値をトルク閾値と比較すると共に、絶対値がトルク閾値以上となったときに絶対値全体の積分演算を開始し、その積分値を積分閾値と比較してトルク判定信号を得ている。これにより、舵角制御モード中にハンドル操舵が開始された場合、外乱トルク(ノイズ)に影響を受けることなく確実にかつ円滑にアシスト制御モードに移行することができる。
更に、本発明では舵角制御部の前段(若しくは舵角制御部内)に、舵角指令値に対してリミット処理及びレートリミット処理を行うと共に、ハンドル振動を除去する前処理部を設けており、前処理された目標舵角に対して位置速度制御を実施しているので、急なハンドル操舵に対しても違和感を与えることはない。また、舵角制御部内の位置制御部にハンドル振動除去部及びフィードフォワード(FF)フィルタを設けている実施形態では、ハンドル振動(10Hz前後)を抑制した舵角制御指令値を生成できる。
舵角制御部からの舵角制御指令値に対しては、舵角制御出力徐変ゲインを乗じて徐変し、アシスト制御部からのアシスト制御指令値に対しては、アシスト制御出力徐変ゲインを乗じて徐変し、舵角制御出力徐変ゲインとアシスト制御出力徐変ゲインを逆の増加減特性としている。つまり、舵角制御出力徐変ゲインとアシスト制御出力徐変ゲインは制御モードの切換時に、各割合(舵角制御出力徐変ゲインは0.0(0%)〜1.0(100%)、アシスト制御出力徐変ゲインは1.0(100%)〜0.0(%))の合計値が原則的に1.0、つまり100%の関係で、かつ逆の関係で増加減(線形若しくは非線形)する特性となっている。モードの切換時には舵角制御出力徐変ゲインとアシスト制御出力徐変ゲインは逆の関係で増加減するが、舵角制御モード中においては、両者の合計値は1.0(100%)の関係でなくても良い。
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図5は本発明の構成例を図3に対応させて示しており、本発明では新たに、操舵トルクTh及び切換指令SWを入力して切換判定を行うと共に、舵角制御における速度徐変用の徐変ゲインSG(SG1,SG2)及び制御モード切換徐変用の徐変ゲインSWG(SWG1,SWG2)を出力して管理する切換判定/徐変ゲイン生成部400と、車両側ECU130内の舵角指令値生成部132からの舵角指令値θrefを処理して、目標舵角θtを出力する前処理部500とが設けられている。速度徐変用の徐変ゲインSG(SG1,SG2)は舵角制御部200に入力され、モード切換徐変用の徐変ゲインSWG(SWG1,SWG2)は切換部142に入力される。
切換判定/徐変ゲイン生成部400は例えば図6に示すような構成であり、操舵トルクThを入力して後述するトルク判定信号TDを出力する手入力判定部410と、操舵トルクTh、トルク判定信号TD及び切換指令SWに基づいて速度指令徐変ゲインSG1及び速度制御徐変ゲインSG2を生成して出力する徐変ゲイン生成部430と、トルク判定信号TD及び切換指令SWに基づいて舵角制御出力徐変ゲインSWG1及びアシスト制御出力徐変ゲインSWG2を演算して出力する徐変ゲイン切換生成部420とで構成されている。切換指令SWは舵角制御モードからアシスト制御モードへの切換、若しくはアシスト制御モードから舵角制御モードへの切換を指示し、トルク判定信号TDは舵角制御モード中にハンドルが操舵された時に、アシスト制御モードへの切換を指示する。
手入力判定部410は図7に示すような構成となっており、操舵トルクThの外乱トルク(ノイズ)を除去するためのLPF(ローパスフィルタ)411と、LPF411から出力される操舵トルクThaの絶対値|Tha|を求める絶対値部412と、操舵トルクThaの絶対値|Tha|を所定のトルク閾値Tthと比較して出力信号Ct又は過去値初期化信号Piを出力するトルク値比較部413と、出力信号Ctの上下限値を制限し、過大な信号を入力しないようにするリミッタ414と、リミッタ414からの積分入力値Ctaの全体を積分する積分演算部415と、積分演算部415で積分された積分出力値Ioutを所定の積分閾値Sthと比較して操舵トルク判定信号TDを出力する切換判定部416とで構成されている。積分演算部415は純積分でも、1次LPFで構成される擬似積分でも良い。積分演算部415はリミッタ414からの積分入力値Ctaの全体、つまり値0からの積分入力値Cta(=Cta−0)を時系列に沿って積分演算し、積分演算部415から出力される積分出力値Ioutを積分閾値Sthと比較することで、外乱トルクの影響を受け難くしている。
タイヤが縁石や石等に衝突した場合、ハンドルの慣性トルクにより操舵トルクThが一時的に所定値を超えたり、或いは操舵トルクThが所定値に満たない場合に、自動操舵制御が切り換わってしまったり、切り換わり難くなるのを回避するために、操舵トルクThの外乱トルク(ノイズ)を除去するLPF411を設けている。LPF411は1次でも、2次以上でも良く、また、IIR(Infinite Impulse Response)型若しくはFIR(Finite Impulse Response)型の外乱トルク(ノイズ)を除去するフィルタで、実装可能なものであれば良い。LPF411の効果については、具体例をもって後述する。
トルク値比較部413は、操舵トルクThaの絶対値|Tha|をトルク閾値Tthと比較し、絶対値|Tha|がトルク閾値Tth以上となったときに、積分演算部415は、リミッタ414からの積分入力値Ctaの積分動作を開始して積分を継続し、絶対値|Tha|がトルク閾値Tthよりも小さくなったときに、積分演算部415はトルク値比較部413からの過去値初期化信号Piによって積分値を0に初期化される。即ち、トルク値比較部413は下記のような動作を行う。操舵トルクThaの絶対値|Tha|を用いて比較しているので、ハンドルの操舵方向を考慮することなく、大きさのみで判定を行うことができる。
(数1)
|Tha|≧Tthのとき、出力信号Ct=|Tha|
|Tha|<Tthのとき、出力信号Ct=0、過去値初期化信号Pi出力
トルク値比較部413から過去値初期化信号Piが出力されると、積分演算部415内の過去値保持部(Z−1)が0に初期化される。また、切換判定部416は、積分演算部415からの積分出力値Ioutを積分閾値Sthと比較し、積分出力値Ioutが積分閾値Sth以上のときに切換条件が成立し、舵角制御モードからアシスト制御モードに切り換え、積分出力値Ioutが積分閾値Sthよりも小さいときに切換条件不成立とし、舵角制御モードを継続する。即ち、切換判定部416は下記のような動作を行う。
(数2)
Iout≧Sthのとき、切換条件成立の操舵トルク判定信号TD
Iout<Sthのとき、切換条件不成立の操舵トルク判定信号TD
手入力判定部410からの操舵トルク判定信号TDは、操舵トルクTh及び切換指令SWと共に徐変ゲイン生成部430に入力され、徐変ゲイン生成部430は速度指令徐変ゲインSG1及び速度制御徐変ゲインSG2を生成する。速度指令徐変ゲインSG1は、 主にアシスト制御から舵角制御への切換時に、円滑な切換を実現するために用いられ、位置制御部(210)から出力される舵角速度指令値ωcに対して徐変と上下限値の設定に使用される。また、速度制御徐変ゲインSG2は、切換時の舵角速度制御部(220)内の積分値の蓄積の影響を緩和するために、舵角速度制御部(220)の中の積分関係の信号(例えば積分出力値(Iout))に乗算され、円滑な切換を実現するために用いられる。
また、操舵トルク判定信号TDは切換指令SWと共に徐変ゲイン切換生成部420に入力され、徐変ゲイン切換生成部420で舵角制御出力徐変ゲインSWG1及びアシスト制御出力徐変ゲインSWG2が生成され、舵角制御出力徐変ゲインSWG1及びアシスト制御出力徐変ゲインSWG2は切換部142に入力される。舵角制御出力徐変ゲインSWG1は、 舵角制御部200のリミッタ203から出力される舵角制御指令値(電流指令値)Imrefと乗算されて徐変され、 アシスト制御と舵角制御の切換動作を円滑に行い、運転者への違和感、安全性等を実現するために用いられる。アシスト制御出力徐変ゲインSWG2はアシスト制御部141から出力されるアシスト制御指令値(電流指令値)Itrefと乗算されて徐変され、舵角制御とアシスト制御の切換動作を円滑にするのと、自動運転中の運転者による操舵介入を実現するために用いられる。
一方、舵角制御部200、切換部142及び前処理部500の構成例は図8であり、前処理部500は、舵角指令値生成部132からの自動運転などのための舵角指令値θrefに対して、通信エラー等による異常な値、過剰な値が舵角制御部200に入力するのを防止するため上下限値を制限するリミッタ510と、リミッタ510からの舵角指令値θref1の急変によって舵角制御出力としての舵角制御電流指令値が急激に変動することを避けるため、舵角指令値θref1をレートリミット処理するレートリミッタ520と、レートリミット後の舵角指令値θref2に含まれるハンドル振動周波数成分を低減するためのハンドル振動除去部530とで構成されている。
レートリミッタ520は、急なハンドル挙動による巻き込み等の、運転者への安全性向上にも繋がる。また、アシスト制御モードから舵角制御モードへの切換時に、レートリミッタ過去値を実舵角θrに初期化する。これにより、切換時にハンドル振動除去部530から出力される目標舵角θtと実舵角θrとがほぼ一致することで、舵角制御電流指令値の急変の発生を抑え、結果的にハンドルの急変動を防止することができる。
レートリミッタ520は例えば図9に示すような構成となっており、舵角指令値θref1は減算部520−1に加算入力され、過去値との減算結果である舵角指令値θt1が変化分設定部520−2で変化分θt2の設定をされる。変化分設定部520−2は、保持部(Z-1)520−4からの過去値と入力(θref1)の差分θt1を設定し、加算部520−3での変化分θt2と過去値との加算結果を新たな舵角指令値θref2として出力する。変化分設定部520−2は、変化分が設定された上限及び下限を超えないようにするものであり、その特性は演算周期T毎に入力(舵角指令値)θref1との差分を求め、変化分設定部520−2の上限及び下限の範囲外の場合には、差分を過去値に加算することを繰返し行うことにより、図10に示すような階段状に出力θref2を変化させて、最終的に出力θref2を舵角指令値θref1に一致させる。また、入力(舵角指令値)θref1との差分が変化分設定部520−2の上限及び下限の範囲内の場合には、変化分θt2=差分θt1を出力し、過去値に加算するので、その結果出力θref2と入力(舵角指令値)θref1は一致する。これらの結果、舵角指令値θreftが急激に変化しても、急激に変化する舵角指令値θref2を滑らかに変化させることができ、急激な電流変化を防止し、運転者の自動運転の不安感を低減させる機能を果たしている。
レートリミッタ520の後段のハンドル振動除去部530は、ローパスフィルタ(LPF)、ノッチフィルタ、或いは位相遅れ補償により、操舵トルクThに含まれる振動周波数成分を低減させる。ハンドル振動除去部530からは、上述のように前処理された目標舵角θtが出力される。
前処理部500からの目標舵角θtは、図11に詳細構成を示す舵角制御部200の位置制御部210内の減算部210−1に加算入力される。減算部210−1には実舵角θrが減算入力されており、減算部210−1で目標舵角θt及び実舵角θrの角度偏差θeが求められ、角度偏差θeは比例部210−2で比例処理(ゲインKpp)され、位置制御部210から舵角速度指令値ωcが出力される。舵角速度指令値ωcは乗算部201に入力され、乗算部201で速度指令徐変ゲインSG1で徐変され、徐変された舵角速度指令値ωcaは上下限値を速度指令徐変ゲインSG1に応じて制限するリミッタ202に入力される。リミッタ202は例えば図12に示すように、速度指令徐変ゲインSG1に応じて正負の上下限値が制限される。即ち、速度指令徐変ゲインSG1が小さくなるに従って、リミッタ202の制限値も小さくなるように制限され、速度指令徐変ゲインSG1が大きくなればリミッタ202の制限値も大きく制限される。また、リミッタ202の動作に関しては、例を挙げて後述する。
リミッタ202で上下限値を制限された目標舵角速度ωcbは、実舵角速度ωr及び速度制御徐変ゲインSG2と共に舵角速度制御部220に入力される。舵角速度制御部220は図11に詳細を示すように、目標舵角速度ωcbから実舵角速度ωrを減算する減算部221と、減算部221の減算結果である速度偏差Dfを積分処理(Kvi/s)して補償する積分部222と、実舵角速度ωrを比例処理(Kvp)して補償する比例部225と、積分部222の積分結果である舵角制御電流値Ir1から比例部225の比例結果である舵角制御電流値Ir2を減算する減算部223と、減算部223の減算結果である速度制御電流値Imref0を速度制御徐変ゲインSG2により徐変し、速度制御電流値Imref1を出力する乗算部224とで構成されている。乗算部224からの速度制御電流値Imref1は加算部204に入力され、ハンドル制振部440からの制振処理された制振信号(電流値)Thdと加算され、加算結果である舵角制御指令値Imref2が、過出力防止のためのリミッタ203で上下限値を制限され、舵角制御指令値Imrefが出力される。
ハンドル制振部440は、コラム軸の トーションバーに基づく操舵トルクThを制振処理し、自動操舵中のハンドル振動の制振効果を一層向上するために設けられている。 ハンドル制振部440の構成は例えば図13であり、操舵トルクThをゲイン(Kv)するゲイン部441と、ゲイン部441からの操舵トルクKv・Thを位相補償する位相補償部442とで構成されている。位相補償部442は例えば1次フィルタで構成され、トーションバーの捩れを解消する方向に制振信号Thdが出力される。 また、1次フィルタ以外にも、ハンドルの制振効果が出るものであれば適用可能である。
切換部142は図8に示すように、舵角制御指令値Imrefに舵角制御出力徐変ゲインSWG1を乗算する乗算部142−1と、アシスト制御指令値Itrefにアシスト制御出力徐変ゲインSWG2を乗算する乗算部142−2と、乗算部142−1からの舵角制御指令値Imrefg及び乗算部142−2からのアシスト制御指令値Itrefgを加算してモータ電流指令値Irefを出力する加算部142−3とで構成されている。
このような構成において、先ず切換判定/徐変ゲイン生成部400の動作例を図14のフローチャートを参照して説明する。
先ず切換指令部131から切換指令SWが入力された否かが判定され(ステップS1)、切換指令SWが入力されていない場合には、舵角制御モードにおいて運転者によりハンドルが操舵(左右)されると、操舵トルクThが手入力判定部410に入力され(ステップS2)、手入力判定部410は前述の数2及び後述するような手入力の判定を行い(ステップS10)、判定の結果、制御モードの切換となるトルク判定信号TDが出力されない場合は(ステップS20)、切換判定/徐変ゲイン生成部400で速度指令徐変ゲインSG1及び速度制御徐変ゲインSG2、舵角制御出力徐変ゲインSWG1及びアシスト制御出力徐変ゲインSWG2を生成して舵角制御モードの値に遷移し(ステップS21)、速度指令徐変ゲインSG1及び速度制御徐変ゲインSG2は舵角制御部200に入力され(ステップS22)、舵角制御出力徐変ゲインSWG1及びアシスト制御出力徐変ゲインSWG2は切換部142に入力される(ステップS25)。これにより、舵角制御部200による舵角制御が継続される。
また、上記ステップS1において切換指令SWが入力されている場合、或いは上記ステップS20において操舵トルク判定信号TDにより制御モードの切換と判断された場合、切換判定/徐変ゲイン生成部400で速度指令徐変ゲインSG1及び速度制御徐変ゲインSG2、舵角制御出力徐変ゲインSWG1及びアシスト制御出力徐変ゲインSWG2を生成してアシスト制御モードの値に遷移し(ステップS24)、速度指令徐変ゲインSG1及び速度制御徐変ゲインSG2は舵角制御部200に入力され(ステップS22)、舵角制御出力徐変ゲインSWG1及びアシスト制御出力徐変ゲインSWG2は切換部142に入力される(ステップS25)。これにより、アシスト制御部141によるアシスト制御が実施される。
ここで、本発明で使用する各徐変ゲインに関して、自動運転状態(舵角制御とアシスト制御の両方が介在している状態)中に、運転者による手入力の検知後の各徐変ゲインについて、アシスト制御モードに移行する実施例を図15に示して説明する。図15(A)は舵角制御出力徐変ゲインSWG1、速度指令徐変ゲインSG1及び速度制御徐変ゲインSG2の徐変動作を示しており、図15(B)はアシスト制御出力徐変ゲインSWG2の徐変動作を示している。時点t10において手入力判定が完了し、舵角制御モードからアシスト制御モードへ移行する状態を示し、時点t11に移行が完了してアシスト制御モードに切り換わる様子である。徐変ゲインSG1,SG2及びSWG1については、手入力判定後、図15(A)に示すように100%から徐々に減少していき、0%に遷移する。本実施形態では直線的に変化させているが、切換動作を円滑にするために、クロソイド曲線などによるS字曲線で遷移させても良いし、1次のLPF(カットオフ周波2[Hz])を通した値を各徐変ゲインとしても良い。ただし、徐変ゲインSG1,SG2,SWG1は同じ特性で連動させる必要はなく、アシスト制御出力徐変ゲインSWG2も含めてそれぞれ独立させた特性にしても良い。また、アシスト制御出力徐変ゲインSWG2については、自動運転状態においては常に0%である必要はなく、0%より大きい値、例えば図15(B)に示すように50%としても良い。アシスト制御出力徐変ゲインSWG2を調整要素として、例えば50%に設定することで、舵角制御モードにおける操舵介入時の引っ掛かり感を抑えることが可能となる。手入力判定後は、50%から100%へ遷移する。
次に、図7に示す手入力判定部410の動作例(図14のステップS10)を図16のフローチャートを参照して説明する。
操舵トルクThが入力されると(ステップS10−1)、LPF411で外乱トルク(ノイズ)の除去を行い(ステップS10−2)、絶対値部412でLPF411からの操舵トルクThaの絶対値|Tha|を求める(ステップS10−3)。トルク値比較部413にはトルク閾値Tthが予め入力されており、トルク値比較部413は絶対値|Tha|がトルク閾値Tth以上であるか否かを判定し(ステップS10−4)、絶対値|Tha|がトルク閾値Tth以上である場合には、出力信号Ctを絶対値|Tha|として積分演算部415に入力し、積分演算部415で積分動作を行う(ステップS10−5)。また、絶対値|Tha|がトルク閾値Tthよりも小さい場合には、出力信号Ctを0にして積分しないようにすると共に、過去値初期化信号Piを出力して積分演算部415を初期化して0にする(ステップS10−6)。初期化は積分演算部415内の過去値保持部(Z−1)を0にリセットすることにより行われる。
積分演算部415からの積分出力値Ioutは切換判定部416に入力され、切換判定部416において積分出力値Ioutが積分閾値Sth以上であるか否かが判定される(ステップS10−7)。積分出力値Ioutが積分閾値Sth以上である場合には数2の切換条件が成立し(ステップS10−8)、操舵トルク判定信号TDにより各徐変ゲインSG1,SG2,SWG1,SWG2を更新し(ステップS10−9)、舵角制御モードからアシスト制御モードに切り換える(ステップS10−10)。また、積分出力値Ioutが積分閾値Sthよりも小さい場合には数2の切換条件が不成立であり、制御モードの切換は行われない(ステップS10−11)。
図17は、LPF411で外乱トルク(ノイズ)を除去された操舵トルクTh(Tha)のトルク閾値Tthに対する時間変化の一例を積分動作の関連で示しており、スタートから時点t1までは操舵トルクThがトルク閾値Tthよりも小さいので積分は行われない。時点t1から時点t2までの間は、操舵トルクThがトルク閾値Tth以上であるので入力信号全体の積分が行われるが、全体の積分値が積分閾値Sthよりも小さいので切換条件は不成立となっている。積分出力値Ioutは図17における斜線部の面積に相当しており、操舵トルクTh(絶対値)の総計となっている。そして、時点t2から時点t3までは操舵トルクThがトルク閾値Tthよりも小さいので積分は行われず、時点t3以降は操舵トルクThがトルク閾値Tth以上であるので積分が行われる。時点t4において積分値が所定値(積分閾値Sth)以上となり、切換条件が成立する様子を示している。つまり、図17の斜線部の面積が積分値相当となっているが、時点t2においては積分値が積分閾値Sthよりも小さくて切換条件は不成立、時点t4において積分値が積分閾値Sth以上となり、切換条件が成立する例を示している。
次に、図8及び図11に示す舵角制御部200の動作例を、図18のフローチャートを参照して説明する。本例では舵角指令値θrefは前処理部500で前処理され、前処理された目標舵角θtが舵角制御部200に入力されているが、前処理部500を舵角制御部200に含めた構成でも良い。
目標舵角θt、実舵角θr、実舵角速度ωr、操舵トルクTh、速度指令徐変ゲインSG1、速度制御徐変ゲインSG2が入力され(ステップS30)、位置制御部210で位置制御される(ステップS31)。即ち、目標舵角θtと実舵角θrの角度偏差θeが減算部211で求められ、角度偏差θeが比例部212で比例処理される。位置制御部210で位置制御された舵角速度指令値ωcは乗算部201において速度指令徐変ゲインSG1で徐変され(ステップS32)、徐変された舵角速度指令値ωcaはリミッタ202において、速度指令徐変ゲインSG1に応じてリミット処理される(ステップS33)。リミット処理された目標舵角速度ωcbは舵角速度制御部220内の減算部221に入力され、実舵角速度ωrとの速度偏差Dfが演算される(ステップS34)。速度偏差Dfは積分部222に入力されて積分処理され(ステップS35)、実舵角速度ωrは比例部225で比例処理され(ステップS36)、積分処理された舵角制御電流値Ir1から比例処理された舵角制御電流値Ir2が減算部223で減算され(ステップS37)、減算で求められた速度制御電流値Imref0が乗算部224に入力され、速度制御徐変ゲインSG2で徐変される(ステップS40)。徐変された速度制御電流値Imref1は加算部204に入力される。
また、操舵トルクThはハンドル制振部440に入力されて制振処理され(ステップS41)、制振処理された制振信号Thdは加算部204に入力されて速度制御電流値Imref1と加算される(ステップS42)。加算された舵角制御指令値Imref2はリミッタ203で上下限値を制限され(ステップS43)、舵角制御指令値Imrefが出力される(ステップS44)。
なお、目標舵角θt、実舵角θr、実舵角速度ωr、操舵トルクTh、速度指令徐変ゲインSG1、速度制御徐変ゲインSG2の入力順番は適宜変更可能である。
上述の実施形態では前処理部500内にハンドル振動除去部530を設けているが、図19に示すようにハンドル振動除去部530を削除した前処理部500Aとし、図20に示すような位置制御部200Aの構成としても良い。即ち、前処理部500Aは、リミッタ410及びレートリミッタ420で構成されており、位置制御部200Aは、ハンドル振動除去部211、減算部212、フィードフォワード(FF)フィルタ213、ゲイン(Kpp)部214及び加算部215で構成されている。
前処理部500Aからの目標舵角θtは、位置制御部210A内のハンドル振動除去部211及びFFフィルタ213に入力される。自動操舵中、舵角指令が変化しているときに、舵角指令値θrefに、トーションバーのバネ性やハンドルの慣性モーメントによる振動を励起する周波数(約10Hz前後)成分が発生する。 舵角指令値θrefの前処理部500A(リミッタ510、レートリミッタ520)の後の舵角指令値である目標舵角θtに含まれるハンドル振動周波数成分を低減するために、ハンドル振動除去部211が設けられている。ハンドル振動除去部211はLPF、ノッチフィルタ又は位相遅れ補償により、振動周波数成分を低減させる。ハンドル振動除去部211からの舵角信号θt1は減算部212に加算入力される。また、FFフィルタ213は、舵角制御の追従性を向上させる舵角速度指令値を演算するために用いられているが、擬似的な微分演算とゲイン部を直列に組み合わせて設定しても良い。この場合、微分演算によるノイズ除去のために、LPFを微分演算の後ろに配置する。更に後退差分やHPF(ハイパスフィルタ)によるものでも良く、ハンドル振動除去部211同様に、目標舵角θtに含まれる、ンドル振動の周波数成分(10Hz前後)を低減するフィルタを含ませても良い。例えば1次LPF(カットオフ周波数2Hz)、ノッチフィルタ(中心周波数10Hz)、位相遅れ補償フィルタなどを直列に接続した構成である。
このような構成において、前処理部500A及び位置制御部210Aの動作例を、図21のフローチャートを参照して説明する。
先ず舵角指令値θrefが入力され(ステップS30−1)、前処理部500Aはリミッタ510及びレートリミッタ520で前処理され(ステップS30−2)、前処理された目標舵角θtが出力される(ステップS30−3)。目標舵角θtは位置制御部210A内のハンドル振動除去部211に入力され、目標舵角θtのハンドル振動周波数成分がハンドル振動除去部211で除去され(ステップS31−1)、減算部212でハンドル振動除去部211からの舵角信号θt1と実舵角θtとの角度偏差θeが求められ(ステップS31−2)、角度偏差θeは比例部214で比例処理(ゲインKpp)される(ステップS31−3)。比例処理された角度偏差θegは加算部215に入力される。また、目標舵角θtはFFフィルタ213に入力されフィルタリング処理され(ステップS31−4)、フィルタリング処理された角度信号θt2が加算部215に入力されて角度偏差θegと加算され(ステップS31−5)、加算された舵角速度指令値ωcが出力される(ステップS31−6)。
以上では各部の詳細動作例を説明したが、本発明の全体動作を、図5の構成図及び図22のフローチャートを参照して説明する。
操舵系の動作がスタートすると、アシスト制御部141によるアシスト制御が実施され(ステップS100)、アシスト制御指令値Itrefを用いて電流制御/駆動部143によりモータ150が駆動される(ステップS101)。上記動作は切換指令部131より切換指令SWが出力されるまで繰り返される(ステップS102)。切換指令SWは、操舵トルクThと共に切換判定/徐変ゲイン生成部400に入力される。
舵角制御モードとなり、切換指令部131より切換指令SWが出力されると、舵角指令値生成部132から前処理部500(若しくは500A)に舵角指令値θrefが入力され(ステップS103)、前処理部500で前処理された目標舵角θtが舵角制御部200に入力され(ステップS104)、舵角センサ14から実舵角θrが、車両側ECU130を経由して舵角制御部200に入力され(ステップS105)、モータ角速度演算部144からの実舵角速度ωrが舵角制御部200に入力される(ステップS106)。また、操舵トルクThは切換判定/徐変ゲイン生成部400へ入力され(ステップS107)、切換判定/徐変ゲイン生成部400は上述した手法で速度指令徐変ゲインSG1、速度制御徐変ゲインSG2、舵角制御出力徐変ゲインSWG1及びアシスト制御出力徐変ゲインSWG2を生成し(ステップS108)、速度指令徐変ゲインSG1及び速度制御徐変ゲインSG2を舵角制御部200に入力し、舵角制御出力徐変ゲインSWG1及びアシスト制御出力徐変ゲインSWG2を切換部142に入力する。舵角制御部200は上述した演算処理で舵角制御指令値Imrefを生成し(ステップS110)、舵角制御指令値Imrefは切換部142に入力される。
切換部142には、アシスト制御部141からのアシスト制御指令値Itref及び舵角制御部200からの舵角制御指令値Imrefが入力されていると共に、舵角制御出力徐変ゲインSWG1及びアシスト制御出力徐変ゲインSWG2が入力されており、前述した関係で徐変されてアシスト制御から舵角制御に切り換えられる(ステップS111)。そして、舵角制御に切り換えられ、舵角制御の操舵が実施され(ステップS112)、前述した手入力の判定が行われ(ステップS113)、積分値が積分閾値Sthに達するまで上記動作が繰り返される(ステップS114)。積分値が積分閾値Sthに達すると、舵角制御出力徐変ゲインSWG1及びアシスト制御出力徐変ゲインSWG2による徐変により、舵角制御からアシスト制御に切り換えられる(ステップS120)。
上記動作の更に詳細な動作例、特にリミッタ202及び切換部142の動作例を図23のフローチャートを参照して説明する。ここでは、前処理部500(若しくは500A)及び切換判定/徐変ゲイン生成部400の動作は、上述の説明と重複しているので省略している。図15の例では、舵角制御状態でのアシスト制御出力徐変ゲインSWG2を50%として説明しているが、図23では0%として説明する。
先ず目標舵角θt、実舵角θr、実舵角速度ωrが入力され(ステップS200)、次いで速度指令徐変ゲインSG1、速度制御徐変ゲインSG2、舵角制御出力徐変ゲインSWG1、アシスト制御出力徐変ゲインSWG2が入力される(ステップS201)。これら入力の順序は適宜変更可能である。位置制御部210は目標舵角θtに実舵角θrを追従するように位置制御され、位置制御部210から舵角速度指令値ωcが出力される(ステップS202)。舵角速度指令値ωcは乗算部201に入力され、乗算部201からの舵角速度指令値ωcaがリミッタ202に入力される。舵角速度指令値ωcaはリミッタ202に入力され、以下のようにリミッタ202で上下限値を制限される。即ち、リミッタ202には速度指令徐変ゲインSG1が入力されており、速度指令徐変ゲインSG1を先ず前回値から加算(演算初回の前回値=0%)し(ステップS203)(後述する図24及び図25のように時系列に対して線形に速度指令徐変ゲインSG1を変化させる場合、加算値は一定値で良い。)、速度指令徐変ゲインSG1が100%以上の場合は、100%に制限する(ステップS204、S205)。速度指令徐変ゲインSG1が閾値以上であるか否かを判定し(ステップS206)、速度指令徐変ゲインSG1が閾値以上である場合には、リミッタ制限値を前回値から加算し(ステップS207)(後述する図24及び図25のように時系列に対して線形に速度指令徐変ゲインSG1を変化させる場合、加算値は一定値で良い。)、リミッタ制限値が制限値2以上であるか否かを判定する(ステップS208)。リミッタ制限値が制限値2以上である場合には、リミッタ制限値を制限値2とする(ステップS209)。
その後、乗算部201において速度指令徐変ゲインSG1で徐変する(ステップS210)。乗算部201からの徐変後の舵角速度指令値ωcaはリミッタ202に入力されて上下限値を制限される(ステップS211)。リミッタ202からの目標舵角速度ωcbは、実舵角速度ωrと共に舵角速度制御部220に入力され、実舵角速度ωrを目標舵角速度ωcbに追従させる速度制御が実施される。
舵角速度制御部220では速度偏差Dfが演算されると共に、前述のように積分補償された舵角制御電流値Ir1及び比例補償された舵角制御電流値Ir2が演算され、その偏差である速度制御電流値Imref0が演算される(ステップS212)。速度制御電流値Imref0は速度制御徐変ゲインSG2により乗算部224で徐変され、徐変された速度制御電流値Imref1が出力され、速度制御電流値Imref1は加算部204に入力される(ステップS213)。また、操舵トルクThに基づく制振処理が実施され、制振処理後の制振信号Thdが加算部204で速度制御電流値Imref1と加算され、加算された舵角制御指令値Imref2がリミッタ203でリミット処理され、舵角制御指令値Imrefが出力される(ステップS214)。舵角制御指令値Imrefは乗算部142−1において舵角制御出力徐変ゲインSWG1で徐変され(ステップS215)、徐変された舵角制御指令値Imrefgは加算部142−3に入力される。
切換部142にはアシスト制御出力徐変ゲインSWG2が入力されており、アシスト制御出力徐変ゲインSWG2を前回値から減算(演算初回の前回値=100%)し(ステップS220)、アシスト制御出力徐変ゲインSWG2が0%以下の場合は、0%に制限する(ステップS221、S222)。アシスト制御指令値Itrefを演算すると共に、乗算部142−2においてアシスト制御出力徐変ゲインSWG2で徐変し、アシスト制御指令値Itrefgを出力する(ステップS223)。
その後、徐変されたアシスト制御指令値Itrefgが加算部142−3に入力され、舵角制御指令値Imrefgと加算されてモータ電流指令値Irefが演算される(ステップS224)。モータ電流指令値Irefによりモータが駆動される。そして、舵角制御出力徐変ゲインSWG1の前回値を舵角制御出力徐変ゲインSWG1に更新し、アシスト制御出力徐変ゲインSWG2の前回値をアシスト制御出力徐変ゲインSWG2に更新すると共に、速度指令徐変ゲインSG1の前回値を速度指令徐変ゲインSG1に更新し、速度制御徐変ゲインSG2の前回値を速度指令徐変ゲインSG2に更新し、更にリミッタ202のリミッタ制限値の前回値をリミッタ制限値に更新する(ステップS225)。速度指令徐変ゲインSG1及び速度制御徐変ゲインSG2についても同様に、前回値を更新する。
図24及び図25は、リミッタ202後の目標舵角速度ωcb、舵角制御出力徐変ゲインSWG1、アシスト制御出力徐変ゲインSWG2及びリミッタ202の制限値1、制限値2の関係を示すタイムチャートである。図15の例では、舵角制御状態でのアシスト制御出力徐変ゲインSWG2を50%として説明しているが、図24及び図25では0%として説明する。図24の例では、時点t0でアシスト制御から舵角制御に移行し、時点t3に完全に舵角制御になる様子を示している。リミッタ202の制限値は、完全に舵角制御になる時点t3より少し前の時点t2(閾値により設定)から、時点t3以降の時点t4の間に制限値1から制限値2(>制限値1)に徐々に変わるようになっている。図25の例も、時点t10でアシスト制御から舵角制御に移行し、時点t12に完全に舵角制御になる様子を示している。本例では、リミッタ202の制限値は、完全に舵角制御になった時点12から以降時点t13の間に、制限値1から制限値2に変わるようになっている。
図24(B)及び(C)の時点t0〜t3に示すように、また、図25(B)及び(C)の時点t10〜t12に示すように、舵角制御出力徐変ゲインSWG1とアシスト制御出力徐変ゲインSWG2はその割合の合計値が原則的に1.0(100%)の関係で、かつ逆の関係で増加減するようになっている。増加減の波形(特性)は任意であり、線形であっても、非線形であっても良い。
舵角制御開始時(アシスト制御からの切換時)は、位置制御部210の出力の舵角速度指令値ωcに対して速度指令徐変ゲインSG1を乗じる。この徐変ゲインSG1は、舵角制御指令値Imrefに乗じる舵角制御出力徐変ゲインSWG1と同期している(完全に同期でなくても良い)。加えて、速度指令徐変ゲインSG1の乗算後の舵角速度指令値ωcaに対して上下限可変のリミッタ202を設けている。このリミッタ202は舵角速度指令値ωcaの制限値を逐次切換え可能で、この制限値を徐変ゲインSG1が設定閾値未満では小さい値で固定し、閾値以上で徐々に大きくすることにより、舵角速度指令値ωcaが制限され、目標舵角速度ωcbとして舵角速度制御部220に入力される。さらに、速度制御部220内の信号に速度制御徐変ゲインSG2(SG1と同期でも良い)を乗じる。結果的に、舵角速度制御部220内の積分値の過剰な蓄積を抑制し、運転者への違和感を生じる舵角制御出力としての電流指令値を低減する。また、徐変完了後は、速度指令徐変ゲインSG1と上下限可変リミッタ202により舵角速度指令値ωcaが制限されず、速度制御徐変ゲインSG2により舵角速度制御部220内の信号が制限されないため、通常の舵角制御にシフトすることができる。ただし、本実施形態では、速度制御徐変ゲインSG2、速度指令徐変ゲインSG1は図24及び図25には表示せず、舵角制御出力徐変ゲインSWG1と一致させている。また、舵角制御モードへの切換時の初回の演算で、舵角指令値のレートリミッタの過去値Z−1の値を検出した実操舵角で上書きする。これにより、切換時にハンドル振動除去部430の段後の目標舵角θtと実舵角θrがほぼ一致することで、舵角制御電流指令値の発生を抑え、結果的にハンドルの急変動を防止する。
本発明では、手入力判定部410の入力部にLPF411(1次フィルタでカットオフ周波数2Hz)を用いると共に、操舵トルクThの絶対値|Tha|を求める絶対値部412を備え、操舵トルクThの絶対値|Tha|をトルク閾値Tthと比較し、更に積分値を積分閾値Sthと比較しており、これらの要素に基づく効果を以下に説明する。
図26は模式的に示したものであり、特許文献3で示されるように、絶対値とトルク閾値のみで手入力を判定する場合の問題を示しており、悪路などを走行中に過渡的な大きな路面外乱の影響により、コラム軸周りに図26(A)に示すような外乱トルクTdが発生する。路面外乱(外乱トルク)の影響により、操舵トルク(トーションバートルク)にその外乱成分が乗ってしまい、図26(B)に示すように、一瞬でもトルク閾値以上になると、手入力「有り」の判定になってしまう問題がある。つまり、路面外乱の影響を受け易く、誤判定し易い機能である。
また、絶対値を用いないで、特許文献4で示されるようにトルク閾値と積分閾値のみで手入力を判定する場合には、図27(A)に示すように操舵トルクThに対して正負のトルク閾値を設定する必要があると共に、図27(B)に示すように積分出力値Ioutに対して正負の積分閾値を設定する必要がある。本発明のように操舵トルクThの絶対値|Tha|を求め、絶対値|Tha|をトルク閾値Tthと比較し、更に積分出力値を積分閾値Sthと比較することにより、図28(A)に示すように路面外乱が発生し、トルク閾値Tthを超えた場合においても、トルクに対する積分出力値Ioutは積分閾値Sthに到達しない。つまり、本発明は路面外乱の影響を受け難く、誤判定を起こし難い利点がある。
図29は本発明が特許文献4に示される装置よりも優れていることを示しており、本発明では図29(A)に示すように操舵トルクThに対して1個のトルク閾値Tthを設定すれば良く、絶対値化しない場合と比べ、分岐処理を簡略化できる。また、積分演算部415の入力は絶対値であるため、操舵トルクThが負(細線)であっても、図29(B)に示すように積分出力値Ioutは必ず0以上の値となり、積分出力値Ioutに対して1個の積分閾値Sthを設定すれば良い。絶対値化しない場合と比べ、分岐処理を簡略化できる利点がある。本発明の絶対値化はトルク値比較部413の前段であることで、トルク閾値Tth及び積分閾値Sthはそれぞれ1個で良くなる。
シミュレーションの図30に示すように、舵角制御中に舵角指令値が発生した場合の操舵トルクThに対して外乱トルクTd(コラム軸のトルク換算)を入力した場合、トーションバー検出トルク(操舵トルクTh)は図31(シミュレーション)の太線に示すようになり、LPF411を経た操舵トルクThaは図31の細線のように振幅幅が減衰される。図31には、積分(積算)演算を実行する条件に使用されるトルク閾値Tthも示されている。そして、図31のLPF411の有無に対応する信号を積分演算部415で同一の時間軸で積分した結果を、シミュレーションの図29に示す。図32の細線はLPF無しの操舵トルクTh(絶対値)の積算値で、太線はLPF後(絶対値)の積算値である。積算演算は、演算周期0.001[s]と操舵トルクTh(絶対値)を乗算したものを前回値に加算しており、積分閾値Sthは3.5[Nm]と設定した。外乱トルクTdの影響で操舵トルクThが変動し、操舵トルクTh(Tha)の絶対値が、トルク閾値Tthを下回ることで積算値が0にリセットされ積算閾値Sthに到達するまでに遅れが発生している。結果的に、LPF411を介挿したものの方が、外乱トルクTdの影響を緩和し、積分閾値Sthに早く到達し、手入力判定が速くされている。
操舵トルクThの絶対値が一時的なメモリ異常などにより、異常な過大値となった場合に、異常な過大値の積分入力値Ioutを積分演算し、積分出力値Ioutが積分閾値Sthを超えて誤判定を起こす場合がある。そこで、本発明では積分入力値Cta前にリミッタ414を設けることによって、操舵トルクThの絶対値が異常な過大値となった場合でも、積分出力値Ioutが積分閾値Sthを超えず、手入力の誤判定を防ぐようにしている。リミッタ無しの場合、模式的に示す図33に示すように、操舵トルクThの絶対値|Tha|がトルク閾値Tthより小さい場合においては、積分値は0にリセット処理され続けるため、積分出力値Ioutは0である。当然、積分出力値Ioutは積分閾値Sthより小さいため、手入力「無し」の判定となる。しかし、メモリ異常などにより、図33(A)のように操舵トルクThの絶対値|Tha|が異常に過大な値となった場合にトルク閾値Tthを超え、異常に過大な値に対して積分演算を実施する。このため、図33(C)のように積分出力値Ioutが積分閾値Sthを超え、手入力「有り」の判定となってしまう。
これに対し、リミッタ有りの場合、模式的に示す図34に示すように操舵トルクThの絶対値|Tha|が異常に過大な値となった場合にトルク閾値を超え(図34(A))、異常に過大な値に対して積分演算を実施する。しかし、リミッタ414で図34(B)に示すように積分入力値Ctaを制限することにより、異常に過大な値に対して積分演算を行わなくて済む。このため、図34(C)に示すように積分出力値Ioutが過大な値とならなくなり、手入力の誤判定を防ぐことが可能となる。
また、上述では対象を速度制御としているが、要求舵角などの入力を蓄積し、電流指令値などの出力へ利用する構成を持つ制御方式に対しても有効であり、位置制御及び速度制御に前記機能が組み込まれていれば、その他の構成は適宜変更可能である。更に、実舵角速度はモータ速度と減速比から求めても良く、ハンドル舵角センサから求めても良い。
上述では前処理部と舵角制御部を分けた構成としているが、舵角制御部内に前処理部を含むようにしても良い。図10、図12、図15、図17、図24〜図29、図33、図34はいずれも模式図であり、分かり易く説明するための図である。