以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
<EVOH樹脂組成物>
本発明のEVOH樹脂組成物は、EVOH樹脂(A)、メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)、及び塩基性金属塩(C)を含有する樹脂組成物である。以下、各成分について、説明する。
まず、本発明において用いられるEVOH樹脂(A)について説明する。
[EVOH樹脂(A)]
本発明で用いるEVOH樹脂は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体(エチレン−ビニルエステル系共重合体)をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記ビニルエステル系モノマーとしては、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いて行うことができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン−ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
このようにして製造されるEVOH樹脂は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含む。
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。他のビニルエステル系モノマーとしては、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜10、特に好ましくは炭素数4〜7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
上記エチレン及び上記ビニルエステル系モノマーは、通常はナフサなどの石油由来の原料が用いられているが、シェールガスなど天然ガス由来の原料や、さとうきび、テンサイ、トウモロコシ、ジャガイモなどに含まれる糖、デンプンなどの成分、又はイネ、麦、キビ、草植物等などに含まれるセルロースなどの成分から精製した植物由来の原料からのモノマーを用いてもよい。
EVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定した値で、通常20〜60モル%、好ましくは25〜50モル%、特に好ましくは25〜35モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
EVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定した値で、通常90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、特に好ましくは99〜100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
また、該EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常0.5〜100g/10分であり、好ましくは1〜50g/10分、特に好ましくは3〜35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
本発明で用いられるEVOH樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば10モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
前記コモノマーとしては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、3−ブテン−1,2−ジオール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーが挙げられる。
さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH系樹脂を用いることもできる。
特に、ヒドロキシ基含有α−オレフィン類を共重合したEVOH樹脂は、二次成型性が良好になる点で好ましく、中でも1,2−ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。
かかる1,2−ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂は、側鎖に1,2−ジオール構造単位を含むものである。かかる1,2−ジオール構造単位とは、具体的には下記構造単位(1)で示される構造単位である。
(1)式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。
上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における有機基としては、特に限定されず、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。
R1〜R3は、通常炭素数1〜30、特には炭素数1〜15、さらには炭素数1〜4の飽和炭化水素基または水素原子が好ましく、水素原子が最も好ましい。R4〜R6は、通常炭素数1〜30、特には炭素数1〜15、さらには炭素数1〜4のアルキル基または水素原子が好ましく、水素原子が最も好ましい。特に、R1〜R6がすべて水素であるものが最も好ましい。
また、一般式(1)で表わされる構造単位中のXは、代表的には単結合である。
なお、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよい。かかる結合鎖としては特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2)m−、−(CH2O)mCH2−等のエーテル結合部位を含む構造;−CO−、−COCO−、−CO(CH2)mCO−、−CO(C6H4)CO−等のカルボニル基を含む構造;−S−、−CS−、−SO−、−SO2−等の硫黄原子を含む構造;−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−等の窒素原子を含む構造;−HPO4−等のリン原子を含む構造などのヘテロ原子を含む構造;−Si(OR)2−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−等の珪素原子を含む構造;−Ti(OR)2−、−OTi(OR)2−、−OTi(OR)2O−等のチタン原子を含む構造;−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等のアルミニウム原子を含む構造などの金属原子を含む構造等が挙げられる。
なお、Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数であり、通常1〜30、好ましくは1〜15、さらに好ましくは1〜10である。その中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で−CH2OCH2−、および炭素数1〜10の炭化水素鎖が好ましく、さらには炭素数1〜6の炭化水素鎖、特には炭素数1であることが好ましい。
上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における最も好ましい構造は、R1〜R6がすべて水素原子であり、Xが単結合のものである。すなわち、下記構造式(1a)で示される構造単位が最も好ましい。
上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を含有する場合、その含有量は通常0.1〜20モル%、さらには0.1〜15モル%、特には0.1〜10モル%のものが好ましい。
また、本発明で使用されるEVOH樹脂は、異なる他のEVOH樹脂との混合物であってもよく、かかる他のEVOH樹脂としては、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、他の共重合成分が異なるものなどを挙げることができる。
本発明で用いられるEVOH樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤などが含有されていてもよい。
上記熱安定剤としては、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩などの塩;または、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩などの塩等の添加剤を添加してもよい。これらのうち、特に、酢酸、ホウ酸およびその塩を含むホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加することが好ましい。
酢酸を添加する場合、その添加量は、EVOH樹脂100重量部に対して通常0.001〜1重量部、好ましくは0.005〜0.2重量部、特に好ましくは0.010〜0.1重量部である。酢酸の添加量が少なすぎると、酢酸の含有効果が十分に得られない傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムを得ることが難しくなる傾向がある。
また、ホウ素化合物を添加する場合、その添加量は、EVOH樹脂100重量部に対してホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.001〜1重量部であり、好ましくは0.002〜0.2重量部であり、特に好ましくは0.005〜0.1重量部である。ホウ素化合物の添加量が少なすぎると、ホウ素化合物の添加効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。
また、酢酸塩、リン酸塩(リン酸水素塩を含む)の添加量としては、EVOH樹脂100重量部に対して金属換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.0005〜0.1重量部、好ましくは0.001〜0.05重量部、特に好ましくは0.002〜0.03重量部である。かかる添加量が少なすぎるとその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。尚、EVOH樹脂に2種以上の塩を添加する場合は、その総量が上記の添加量の範囲にあることが好ましい。
EVOH樹脂に酢酸、ホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加する方法については、特に限定しない。例えば、i)含水率20〜80重量%のEVOH樹脂の多孔性析出物を、添加物の水溶液と接触させて、前記多孔性析出物に添加物を含有させた後、乾燥する方法;ii)EVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)に添加物を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法;iii)EVOH樹脂と添加物を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法;iv)EVOH樹脂の製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の有機酸類で中和して、残存する酢酸等の有機酸類や副生成する塩の量を水洗処理により調整したりする方法等を挙げることができる。
本発明の効果をより顕著に得るためには、添加物の分散性に優れるi)、ii)の方法、有機酸およびその塩を含有させる場合はiv)の方法が好ましい。
次に、本発明において用いられるメジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)について説明する。
[メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)]
本発明で用いられる水和物形成性のカルボン酸塩(B)とは、カルボン酸塩の水和物を乾燥脱水した化合物を意味する。つまり、水分子を結晶水として取り込む性質を有するカルボン酸塩であればよい。
また、水和物形成性のカルボン酸塩(B)は通常、常温常圧において固体である。
上記したように、水和物形成性のカルボン酸塩(B)は、カルボン酸塩水和物の飽和水和物として安定な状態となるまで、結晶水を取り込むことが出来る。したがって、かかる飽和水和物になるまで取り込める結晶水の量が多いほど、乾燥能力に優れる。
本発明で用いる水和物形成性のカルボン酸塩(B)は、安定水和物が、通常1〜20水和物となるカルボン酸塩であり、好ましくは3〜18水和物となるカルボン酸塩であり、特に好ましくは5〜15水和物となるカルボン酸塩である。安定水和物が含有する結晶水含有量が小さいと、進入した水分の捕捉能が小さくなる傾向にある。
このようなカルボン酸塩の最大水和物の無水物(結晶水が0の場合)又は部分水和物(安定水和物の水和数未満の結晶水を含有する金属塩)が、乾燥剤たるB成分として用いることができ、侵入した水分の補足能の点から、無水物(結晶水が0の場合)が特に好ましい。部分脱水物(又は部分水和物)の場合、一般に、結晶水量が最大水和量の50%未満(好ましくは30%以下、さらに好ましくは10%以下)である部分水和物であれば、上記吸水特性を充足できる傾向にある。
本発明においては、かかる水和物形成性のカルボン酸塩(B)のメジアン径が、0.5〜25μmであることを最大の特徴として、水和物形成性のカルボン酸塩と塩基性金属塩が共存することで発生する成形物の白濁模様発生による外観不良を抑制することが可能となる。
白濁模様発生に関する外観不良機構については判明していないが、成形物を高湿度下で長期間保管した際に、水和物形成性のカルボン酸塩の一部が潮解してEVOH樹脂組成物に溶解し、溶解した水和物形成性のカルボン酸塩がEVOH樹脂組成物層の界面側に移行して析出(ブリードアウト)することで白濁模様の外観不良現象が発生するものと推測され、塩基性金属塩を併用することにより白濁模様発生プロセスが促進されることが考えられる。本発明の特徴である0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩を用いることによって、何らかの形で塩基性金属塩併用における白濁模様発生プロセスの防止効果が働いたものと推測される。
メジアン径とは粒子状化合物をある粒子径から2つに分けたときに大きい側と小さい側が等量となる粒子径であり、粒子状化合物の累計体積全体量を100%とした時に累計体積が50%となる体積粒子径(d50)より定義される数値である。すなわち、メジアン径(d50)は粒子状化合物の平均粒子径を表す指標であり、この数値が大きいほど粗く大きな粒子サイズであり、数値が小さいほど微小な粒子サイズであることを意味する。
本発明の樹脂組成物において、水和物形成性のカルボン酸塩(B)のメジアン径(d50)の範囲は、体積基準粒子径で0.5〜25μm、好ましくは1〜20μm、特に好ましくは2〜10μmである。
かかるメジアン径(d50)が小さすぎると水和物形成性カルボン酸塩の流動性が悪く押出機で配合する際にフィード不良が発生し易くなる傾向があり、逆に大きすぎると成形物を高湿度下で長期間保管した際の白濁模様外観不良が発生し易くなり樹脂組成物の品質に悪影響を及ぼす傾向がある。
なお、メジアン径(d50)は、市販のレーザー散乱・回折粒度分布測定装置を用いて得られた累計体積分布を解析することで算出することができる。
また、本発明の樹脂組成物においては、水和物形成性のカルボン酸塩(B)の90%体積粒子径(d90)も重要である。d90は累計体積全体量を100%とした時に累計体積が90%となる体積粒子径(d90)より定義される数値であり、水和物形成性のカルボン酸塩(B)の粗粒子成分に関する粒子径指標である。
水和物形成性のカルボン酸塩(B)の90%体積粒子径(d90)の範囲は、体積基準粒子径で1〜100μm、好ましくは 2〜50μm、特に好ましくは 5〜25μmである。
かかる90%体積粒子径(d90)が小さすぎると水和物形成性カルボン酸塩の流動性が悪く押出機で配合する際にフィード不良が発生し易くなる傾向があり、逆に大きすぎると成形物を高湿度下で長期間保管した際の白濁模様外観不良や粗粒子成分に起因する異物が増加し易くなり樹脂組成物の品質に悪影響を及ぼす傾向がある。
なお、90%体積粒子径(d90)は、メジアン径(d50)と同様に、市販のレーザー散乱・回折粒度分布測定装置を用いて得られた累計体積分布を解析することで算出することができる。
また、本発明の樹脂組成物においては、水和物形成性のカルボン酸塩(B)のメジアン径(d50)に対する90%体積粒子径(d90)の比(d90/d50)も重要である。この数値は、水和物形成性のカルボン酸塩(B)の粒度均一性に関する粒子径指標である。
水和物形成性のカルボン酸塩(B)のd90/d50の範囲は、1.0〜4.0、好ましくは 1.1〜3.0 、特に好ましくは 1.2〜2.0である。
かかるd90/d50が小さすぎると水和物形成性カルボン酸塩の流動性が悪く押出機で配合する際にフィード不良が発生し易くなる傾向があり、逆に大きすぎると水和物形成性カルボン酸塩の押出機で配合する際のフィード安定性の低下を招き、成形物を高湿度下で長期間保管した際の白濁模様外観不良や粗粒子成分に起因する異物が増加し易くなり樹脂組成物の品質に悪影響を及ぼす傾向がある。
水和物形成性のカルボン酸塩(B)をメジアン径0.5〜25μmの粒径状態に調整する方法としては、特に制限されないが、水和物形成性のカルボン酸塩を圧縮、衝撃、剪断、摩擦及び冷凍からなる群から選ばれる少なくとも1種類の外力により粉砕して得られる。
より具体的には、例えば、ジェットミル等の気流式粉砕機;振動ボールミル、連続式回転ボールミル、バッチ式ボールミル等のボールミル;ACM粉砕機等のハンマーミル;湿式ポットミル、遊星ポットミル等のポットミル;ローラーミル等の粉砕機を用いることができる。これらの中でも、ジェットミル、ボールミル、ハンマーミル及びポットミルが好ましく、メジアン径0.5〜25μmの水和物形成性のカルボン酸塩を効率良く得る方法としてはジェットミルによる粉砕処理が最も好ましい。
ジェットミルは、ノズルから噴射する高速気流に樹脂を巻き込んで、樹脂相互あるいは衝撃板との衝突による衝撃力および摩擦力により、粒子状化合物を粉砕するものであり、装置内部の温度が上昇しにくいので、良好な粉砕を確保することができる。なお、ジェットミルとしては、例えば、気流吹込み型、ノスル通過型、衝突型、流動層ジェット吹込み型など、特に制限されることなく用いることができる。
メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)におけるカルボン酸塩の種類としては、通常、芳香族カルボン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、アミノ酸塩等が挙げられる。かかる脂肪族カルボン酸塩やアミノ酸塩は、熱可塑性樹脂とグラフト反応等を起こさないものが好ましいと考えられるため飽和脂肪族カルボン酸塩であることが好ましく、特に好ましくは飽和脂肪族多価カルボン酸塩,飽和脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩である。
上記カルボン酸塩は、通常金属塩またはアンモニウム塩であり、好ましくはナトリウムやカリウムのアルカリ金属塩およびマグネシウムやカルシウム等のアルカリ土類金属塩であり、特に好ましくはアルカリ土類金属塩であり、最も好ましくはマグネシウム塩である。
上記カルボン酸塩の炭素数は、通常1〜12であり、好ましくは2〜12であり、特に好ましくは4〜12である。
また、上記カルボン酸塩のカルボキシルイオンの価数は通常1価〜4価であり、好ましくは1価〜3価であり、特に好ましくは2価〜3価である。
メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)における、カルボン酸塩水和物の重量平均分子量は通常50〜1000であり、好ましくは50〜600であり、特に好ましくは50〜400である。
上記カルボン酸塩水和物は具体的には、例えば1価カルボン酸塩として酢酸ナトリウム(CH3COONa・3H2O)、酢酸カルシウム((CH3COO)2Ca・H2O)等の酢酸塩、乳酸カルシウム((CH3CH(OH)COO)2Ca・5H2O)等の乳酸塩、グルコン酸亜鉛((CH2(OH)CH(OH)CH(OH)CH(OH)CH(OH)COO)2Zn・3H2O)、グルコン酸カルシウム((CH2(OH)CH(OH)CH(OH)CH(OH)CH(OH)COO)2Ca・H2O)等のグルコン酸塩、安息香酸マグネシウム((C6H5COO)2Mg・4H2O)、安息香酸カルシウム((C6H5COO)2Ca・3H2O)等の安息香酸塩、リンゴ酸ナトリウム(NaOOCCH(OH)CH2COONa)・3H2O)、リンゴ酸カルシウム(OOCCH(OH)CH2COO)Ca・H2O)等のリンゴ酸塩;2価カルボン酸塩としてシュウ酸カリウム((COONa)2・H2O)、シュウ酸アンモニウム((COONH4)2・H2O)等のシュウ酸塩、コハク酸二ナトリウム((CH2COONa)2・6H2O)、コハク酸二カリウム((CH2COOK)2・3H2O)等のコハク酸塩、L-グルタミン酸水素カリウム(HOOCCH(NH2)CH2CH2COOK・H2O)、L-グルタミン酸水素ナトリウム(HOOCCH(NH2)CH2CH2COONa・H2O)、L-グルタミン酸マグネシウム((OOCCH(NH2)CH2CH2COO)Mg・4H2O)等のグルタミン酸塩、L−アスパラギン酸ナトリウム(HOOCCH2CH(COOH)NH2・H2O)等のアスパラギン酸塩、L−酒石酸水素ナトリウム(HOOCCH(OH)CH(OH)COONa・H2O),L−酒石酸二ナトリウム(NaOCOCH(OH)CH(OH)COONa・2H2O)等の酒石酸塩;3価カルボン酸塩としてクエン酸三カリウム(KOCOCH2C(OH)(COOK)CH2COOK・H2O)、クエン酸三ナトリウム((C3H5O(COO)3)Na3・2H2O)、ジクエン酸三マグネシウム((C3H5O(COO)3)2Mg3・14H2O)、ジクエン酸三カルシウム((C3H5O(COO)3)2Ca3・4H2O)等のクエン酸塩;4価カルボン酸塩としてエチレンジアミン四酢酸カルシウムニナトリウム(Ca(OOCCH2)2NCH2CH2N(CH2COONa)2・2H2O)、エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム((HOOCCH2)2NCH2CH2N(CH2COONa)2・2H2O)、等のEDTA四酢酸塩等のEDTAカルボン酸塩等が挙げられる。
なお、上記カッコ内で示した化学式は、最も多く水和水を有する水和物の化学式を表わす。
上記の中で、シュウ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、EDTAカルボン酸塩は脂肪族カルボン酸塩であり、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩はアミノ酸塩である。
生産性や安全性の点から、好ましくは1〜4価であり、重量平均分子量が50〜600の飽和脂肪族カルボン酸塩およびアミノ酸塩であり、特に好ましくは酢酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩である。熱水処理後のガスバリア性の観点から、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二カリウムなど飽和脂肪族多価カルボン酸塩、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、ジクエン酸三マグネシウム、酒石酸二ナトリウムなど飽和脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩が好ましく、中でも高温高湿度条件での保管時における形状安定性の観点からジクエン酸三マグネシウムが特に好ましい。
次に、本発明において用いられる塩基性金属塩(C)について説明する。
〔塩基性金属塩(C)〕
本発明における塩基性金属塩(C)とは、EVOH樹脂の溶融混錬を行う温度条件(通常300℃以下の温度)において溶融する性質を有し、かつ塩基性を示す化合物を意味し、塩基性金属塩(C)を配合することによって、溶融成形の際に塩基性金属塩(C)が融解してメジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)を中和する作用が働き、溶融成形安定性を向上させる効果が得られる。
本発明の塩基性金属塩(C)の種類としては、ブレンステッド・ローリーの定義よりプロトン受容体として作用する化合物であり、具体的には(1)アルカリ金属、またはアルカリ土類金属と25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3より大きい弱酸(炭素数12〜30の高級カルボン酸、炭酸など)からなる金属塩、(2)遷移金属と25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3より大きい弱酸(炭素数12〜30の高級カルボン酸、炭酸など)からなる金属塩であり、次に例示した化合物類が挙げられる。
(1)アルカリ金属、またはアルカリ土類金属と25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3より大きい弱酸からなる金属塩
・ ナトリウム塩(ステアリン酸ナトリウム、12-ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ベヘン酸ナトリウム、モンタン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなど)
・ カリウム塩(ステアリン酸カリウム、ラウリン酸カリウム、モンタン酸カリウム、炭酸カリウムなど)
・ マグネシウム塩(ステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、ベヘン酸マグネシウム、モンタン酸マグネシウム、炭酸マグネシウムなど)
・ カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ベヘン酸カルシウム、モンタン酸カルシウム、炭酸カルシウムなど)
(2)遷移金属と25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3より大きい弱酸(炭素数12〜30の高級カルボン酸、炭酸など)からなる金属塩
・亜鉛塩(ステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛、モンタン酸亜鉛など)
・バリウム塩(ステアリン酸バリウム、12-ヒドロキシステアリン酸バリウム、ラウリン酸バリウムなど)
・アルミニウム塩(ステアリン酸アルミニウム、12-ヒドロキシステアリン酸アルミニウムなど)
・リチウム塩(ステアリン酸リチウム、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、ラウリン酸リチウム、ベヘン酸リチウム、モンタン酸リチウム)
中でも、溶融成形安定性の観点から、(1)アルカリ金属、またはアルカリ土類金属と25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3より大きい弱酸からなる金属塩が好ましく、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属と25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3〜9である弱酸(炭素数12〜30の高級カルボン酸、炭酸)からなる金属塩が好ましく、ナトリウムと25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3〜6である弱酸(炭素数12〜30の高級モノカルボン酸)からなる金属塩、マグネシウムと25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3〜6である弱酸(炭素数12〜30の高級モノカルボン酸)からなる金属塩が特に好ましい。
これらの塩基性金属塩(C)は通常は単独で用いるが、2種以上を混合して使用することもできる。
なお、EVOH樹脂組成物に含まれる塩基性金属塩(C)の含有量は、アルカリ金属、アルカリ土類金属の場合には、EVOH樹脂組成物を硫酸灰化後、ICP発光分析法により金属量換算で定量することができる。
本発明においては、EVOH樹脂(A)中にメジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)が分散していることが好ましい。したがって、メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)の配合量は、特定化合物を選択したという本発明の技術思想によれば特に限定されず、配合量に応じた効果が発現できる。
本発明の樹脂組成物において、EVOH樹脂(A)/メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)の含有比は、水和物形成性の金属塩完全脱水物としての重量比にて通常、50/50を超えて99/1以下、さらに好ましくは70/30〜97/3、特には80/20〜95/5、殊には85/15〜92/8である。ただし、かかる(B)においては完全脱水物の状態における重量を意味する。
かかる比率が大きすぎる場合にはEVOH樹脂(A)に入り込んだ水分を除去する効果が不足し、熱水処理(レトルト処理)後のガスバリア性が十分とならない傾向があり、また、小さすぎる場合にはEVOH樹脂(A)の層が形成されず、ガスバリア性が十分とならない傾向がある。
なお、本発明の樹脂組成物は、そのまま成形加工に供して各種成形物を得てもよいし、一旦、メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)の高濃度組成物(マスターバッチとも称される)を製造しておき、成形時にEVOH樹脂で希釈して、各種成形物を得てもよい。かかるマスターバッチにおけるEVOH樹脂(A)とメジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)の含有比は、EVOH樹脂(A)/メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)の重量比にて通常10/90〜50未満/50超である。
本発明の樹脂組成物において、EVOH樹脂(A)に対する塩基性金属塩(C)の含有量は、EVOH樹脂(A)100重量部に対して塩基性金属塩(C)に含まれる金属量に換算して、0.001〜1重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部、特に好ましくは0.02〜0.1重量部である。
かかる含有量が少なすぎると長時間加工した際に溶融粘度の増加、フィルムのフィッシュアイ増加が発生する傾向があり、逆に多すぎると着色や熱分解が発生し易くなり樹脂組成物の品質に悪影響を及ぼす傾向がある。
なお、EVOH樹脂(A)に2種以上の塩を含有させる場合は、その総量が上記の含有量の範囲にあることが好ましい。
本発明の樹脂組成物において、塩基性金属塩(C)/メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)の含有比(C/B)は、塩基性金属塩(C)に含まれる金属量と水和物形成性の金属塩完全脱水物の重量比にて、通常0.01/99.99〜10/90、さらに好ましくは0.1/99.9〜5/95、特には0.2/99.8〜1/99である。ただし、かかる(B)においては完全脱水物の状態における重量を意味する。
かかる比率が小さすぎる場合には長時間加工した際に溶融粘度の増加、フィルムのフィッシュアイ増加が発生する傾向があり、また、大きすぎる場合には着色や熱分解が発生し易くなり樹脂組成物の品質や溶融成形性に悪影響を及ぼす傾向がある。
本発明の樹脂組成物において、EVOH樹脂(A)/(メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)と塩基性金属塩(C)の和)の含有比(A/(B+C))は、通常50超/50未満〜99/1(50/50を超えて99/1以下)、さらに好ましくは70/30〜97/3、特には75/25〜95/5、殊には80/20〜92/8である。ただし、かかる(B)においては完全脱水物の状態における重量を意味する。
かかる比率が大きすぎる場合にはEVOH樹脂(A)に入り込んだ水分を除去する効果が不足し、熱水処理(レトルト処理)後のガスバリア性が十分とならない傾向があり、また、小さすぎる場合にはEVOH樹脂(A)の層が形成されず、ガスバリア性が十分とならない傾向がある。
〔他の熱可塑性樹脂(D)〕
本発明のEVOH樹脂組成物は、樹脂成分として、EVOH樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(「他の熱可塑性樹脂(D)」)を、EVOH樹脂(A)に対して、通常30重量%以下にて含有してもよい。
上記他の熱可塑性樹脂(D)の原料としては、例えば具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、ポリ環状オレフィン、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したもの等の広義のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、ポリアミド、共重合ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
上記の他の熱可塑性樹脂(D)は、通常はナフサなど石油由来の原料が用いられているが、シェールガスなど天然ガス由来の原料や、さとうきび、テンサイ、トウモロコシ、ジャガイモなどに含まれる糖、デンプンなどの成分、またはイネ、麦、キビ、草植物などに含まれるセルロースなどの成分から精製した植物由来の原料を用いてもよい。
特に、本発明の樹脂組成物を多層構造体として食品の包装材として用いた場合、該包装材の熱水処理後に、包装材端部にてEVOH樹脂の溶出を防止する点で、ポリアミド系樹脂を配合することが好ましい。ポリアミド系樹脂は、アミド結合がEVOH樹脂のOH基及び/又はエステル基との相互作用によりネットワーク構造を形成することが可能であり、これにより、熱水処理時のEVOH樹脂の溶出を防止することができる。よって、レトルト食品やボイル食品の包装材として用いられる樹脂組成物の場合には、ポリアミド系樹脂を添加することが好ましい。
該ポリアミド系樹脂としては、公知のものを用いることができる。
例えば具体的には、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ−ω−アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ−ω−アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーが挙げられる。また共重合ポリアミド系樹脂としては、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミドや、ポリ−p−フェニレン・3−4'ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド、非晶性ポリアミド、これらのポリアミド系樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等の芳香族アミンで変性したものやメタキシリレンジアンモニウムアジペート等が挙げられる。あるいはこれらの末端変性ポリアミド系樹脂であってもよく、好ましくは末端変性ポリアミド系樹脂である。
末端変性ポリアミド系樹脂とは、例えば具体的には、炭素数1〜22の炭化水素基で変性された末端変性ポリアミド系樹脂であり、市販のものを用いてもよい。より詳細には、例えば末端変性ポリアミド系樹脂の末端COOH基の数[a]と、末端CONR10R20基(但し、R10は炭素数1〜22の炭化水素基、R20は水素原子又は炭素数1〜22の炭化水素基)の数[b]が、
100×b/(a+b)≧5
を満足する末端変性ポリアミド系樹脂が好ましく用いられる。
末端変性ポリアミド系樹脂は、通常の未変性ポリアミド系樹脂のカルボキシル基を末端調整剤によりN−置換アミド変性したものであり、変性前のポリアミド系樹脂が含有していたカルボキシル基の総数に対して5%以上変性されたポリアミド系樹脂である。かかる変性量が少なすぎると、ポリアミド系樹脂中のカルボキシル基が多く存在することとなり、かかるカルボキシル基が溶融成形時にEVOH樹脂と反応してゲルなどを発生し、得られたフィルムの外観が不良となりやすい傾向がある。かかる末端変性ポリアミド系樹脂は、例えば特公平8−19302に記載の方法にて製造することができる。
上記末端調整剤としては、ポリアミド系樹脂中のカルボキシル基量を減少させるために、カルボキシル基と反応することが可能なアミンが用いられる。かかるアミンとは、HNR10R20で表わされるモノ置換アミン(R20が水素原子)またはジ置換アミンである。HNR10R20のR10および/またはR20が有機基の場合、カルボキシル基を有さない炭化水素基であればよく、本発明の趣旨を阻害しない範囲において水酸基、アミノ基、カルボニル基等、他の官能基を有していても構わないが、好ましくは脂肪族炭化水素基である。具体的には、R10及びR20は炭素数1〜22の炭化水素基であり、好ましくは炭素数5〜20の炭化水素基である。R10とR20とは同じであっても異なっていても良い。
末端変性ポリアミド系樹脂の変性されていない末端のカルボキシル基の含有量は、少ないことが好ましい。ポリアミド樹脂をベンジルアルコールに溶解し、0.1N水酸化ナトリウム水溶液にて滴定して算出した値(ポリマー1gに対するモル当量)で通常0〜50μeq/ポリマー1gであり、好ましくは0〜30μeq/ポリマー1gであり、特に好ましくは0〜25μeq/ポリマー1gである。かかる値が大きすぎた場合、製膜時にゲルなどを発生し外観不良となりやすく、レトルト性が低下する傾向にある。かかる値が小さすぎる場合、物性の面からは不都合はないが、生産性が低下する傾向があるので、ある程度は残存していても構わない。この場合、通常5〜50μeq/ポリマー1g、さらには10〜30μeq/ポリマー1g、特には15〜25μeq/ポリマー1gであることが望ましい。
また、未変性ポリアミド系樹脂の末端NH2基についても末端カルボキシル基の場合と同様に、炭素数1〜22の炭化水素基で変性されていることが好ましい。従って、このときに用いる末端調整剤としては、ポリアミド系樹脂中のアミノ基量を減少させるため、アミノ基と反応することが可能なカルボン酸、具体的には、RCOOHで表わされるモノカルボン酸(式中、Rは炭素数1〜22の炭化水素基)が用いられる。
以上のような末端変性ポリアミド系樹脂の融点は、通常200〜250℃、好ましくは200〜230℃である。
他の熱可塑性樹脂(D)としてポリアミド系樹脂を用いる場合、EVOH樹脂/ポリアミド系樹脂の含有重量比は、通常99/1〜70/30であり、好ましくは97/3〜75/25、特に好ましくは95/5〜85/15である。ポリアミド樹脂の比率が大きすぎる場合には、ロングラン成形性およびガスバリア性が不足する傾向がある。ポリアミド樹脂の含有量比率が小さすぎる場合には、熱水処理後のEVOH樹脂の溶出抑制効果が不十分となる傾向にある。
なお、メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)のポリアミド系樹脂に対する含有重量比としては、メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩としての含有重量比にて通常95/5〜5/95であり、好ましくは70/30〜30/70、特に好ましくは60/40〜40/60である。ポリアミド樹脂の比率が大きすぎる場合には、熱水処理後のガスバリア性が不十分となる傾向がある。ポリアミド樹脂の比率が小さすぎる場合には、熱水処理時にEVOH樹脂が溶出しやすくなる傾向がある。
〔分散剤(E)〕
さらに、本発明の樹脂組成物には、さらに分散剤を含有することが好ましい。
本発明で使用することができる分散剤としては、従来より樹脂組成物に用いられていた分散剤で、例えば、高級脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸金属塩(ステアリン酸などの高級脂肪酸のアルミニウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、バリウム塩等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のグリセリンエステル、メチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス脂肪酸アミド)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10,000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等、又はその酸変性品)、高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等が挙げられ、好適には高級脂肪酸および/またはその金属塩、エステル、アミドが、更に好適にはステアリン酸アルカリ土類金属塩および/または高級脂肪酸グリセリンエステルが用いられる。
メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)の配合により、樹脂組成物の混練時のトルク値が増大する傾向にある。また、EVOH樹脂の溶出防止に効果的なポリアミド樹脂の配合も、EVOH樹脂の混練時のトルク値を増大させる傾向がある。このような増粘傾向は、ペレット製造、さらにはフィルムの押出成形のようにロングラン性を要する観点からは好ましくない。この点、分散剤を配合することにより、増粘傾向を抑制することができるので、好ましい。高級脂肪酸の金属塩、特にステアリン酸の金属塩は、組成物内部において、水和物形成性の金属塩に対して、滑剤としても作用しているのではないかと考えられ、優れた増粘抑制を発揮することができる。
分散剤の配合によるEVOH樹脂組成物の増粘の抑制(優れたロングラン性)は、EVOH樹脂の溶出防止に効果的なポリアミド樹脂共存下でも損なわれずに発揮される。従って、ポリアミド樹脂を配合する場合、さらに分散剤を配合することにより、高温高湿度下の放置によっても水泡の発生がない外観に優れた多層構造体の生産性改善を図ることができる。
このような分散剤の配合量は特に限定しないが、樹脂組成物中、0.01〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜3重量%である。
〔その他の添加剤(F)〕
(F―1)板状無機フィラー
本発明のEVOH樹脂組成物には、ガスバリア性を向上させる目的で、さらに板状無機フィラーを含有してもよい。
上記板状無機フィラーとしては、例えば、含水ケイ酸アルミニウムを主成分とし、粒子が板状となっているカオリン、層状ケイ酸鉱物である雲母やスメクタイト、水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなるタルクなどが挙げられる。これらのうち、カオリンが好ましく用いられる。カオリンの種類としては、特に限定せず、焼成されていても、いなくてもよいが、好ましくは焼成カオリンである。
これらの板状無機フィラーの添加により、樹脂組成物のガスバリア性が一層向上する。板状無機フィラーは、多層構造をしていることから、混練時に、水和物形成性のアルカリ土類金属塩の完全脱水物又は部分脱水物がフィラー間に入り込むことによって、フィラー同士が接触衝突により破壊、細分化されることを防止する。さらにフィルム成形の場合に、板状フィラーの板状面がフィルムの面方向に配向されやすくなる。こうして、面方向に配向した板状無機フィラーが樹脂組成物層の酸素遮断に寄与したためではないかと思われる。
このような板状無機フィラーの配合量は、特に限定しないが、EVOH樹脂に対して、通常1〜20重量%であり、好ましくは3〜20重量%であり、より好ましくは5〜15重量%である。
(F−2)酸素吸収剤
本発明のEVOH樹脂組成物には、熱水処理(レトルト処理)後のガスバリア性を改善する目的で、さらに酸素吸収剤を含有してもよい。
酸素吸収剤とは、包装される内容物よりも素早く酸素を捕捉する化合物または化合物系である。具体的には、無機系の酸素吸収剤、有機系の酸素吸収剤、無機触媒と有機化合物を組み合わせて用いる複合型酸素吸収剤等が挙げられる。
無機系酸素吸収剤は、金属及び金属化合物が挙げられ、これらと酸素が反応することにより酸素を吸収するものである。上記金属としては、水素よりもイオン化傾向の大きい金属(Fe、Zn、Mg、Al、K、Ca、Ni、Snなど)が好ましく、代表的には鉄である。これらの金属は、粉末状で用いられることが好ましい。鉄粉としては、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、電解鉄粉等、その製法等に依らず、従来より公知のものを特に限定されることなく何れも使用可能である。また、使用する鉄は、一旦酸化された鉄を還元処理したものであってもよい。また、上記金属化合物としては酸素欠損型金属化合物が好ましい。ここで、酸素欠損型金属化合物としては、酸化セリウム(CeO2)や、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)等が挙げられ、これらの酸化物が還元処理により結晶格子中から酸素が引き抜かれて酸素欠損状態となり、雰囲気中の酸素と反応することにより酸素吸収能を発揮するものである。以上のような金属および金属化合物は、反応促進剤としてハロゲン化金属等を含有することも好ましい。
有機系酸素吸収剤としては、水酸基含有化合物、キノン系化合物、二重結合含有化合物、被酸化性樹脂が挙げられる。これらに含まれる水酸基や二重結合に酸素が反応することにより、酸素を吸収することができる。有機系酸素吸収剤としては、ポリオクテニレン等のシクロアルケン類の開環重合体や、ブタジエン等の共役ジエン重合体およびその環化物等が好ましい。
複合型酸素吸収剤とは、遷移金属触媒と有機化合物の組合せをいい、遷移金属触媒によって酸素を励起し、有機化合物と酸素が反応することにより酸素を吸収するものである。包装の内容物である食品等よりも早く、複合型酸素吸収剤中の有機化合物が酸素と反応することにより、酸素を捕捉、吸収する化合物系である。遷移金属系触媒を構成する遷移金属としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ルテニウム、パラジウムから選ばれる少なくとも一種であり、中でも樹脂との相溶性、触媒としての機能性、安全性の点でコバルトが好ましい。有機化合物としては、有機系酸素吸収剤であるポリオクテニレン等のシクロアルケン類の開環重合体や、ブタジエン等の共役ジエン重合体およびその環化物等が好ましく、その他の有機化合物としては、MXDナイロン等の窒素含有樹脂、ポリプロピレン等の三級水素含有樹脂、ポリアルキレンエーテルユニットを有するブロック共重合体等のポリアルキレンエーテル結合含有樹脂、アントラキノン重合体が好ましい。
このような酸素吸収剤の含有量は、特に限定しないが、EVOH樹脂に対して、通常1〜30重量%であり、好ましくは3〜25重量%であり、より好ましくは5〜20重量%である。
また、遷移金属系触媒と有機化合物との含有比率(質量比)は、特に限定しないが、有機化合物の質量を基準として、金属元素換算で0.0001〜5重量%、より好ましくは0.0005〜1重量%、より好ましくは0.001〜0.5重量%の範囲で含有される。
(F−3)その他の添加物
本発明のEVOH樹脂組成物には、上記成分のほか、必要に応じて、本発明の効果を損なわない限り(例えば、樹脂組成物全体の5重量%未満)、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等の可塑剤;飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン)等の滑剤;アンチブロッキング剤;酸化防止剤;着色剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;抗菌剤;不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等);充填材(例えば無機フィラー等);界面活性剤、ワックス;共役ポリエン化合物、エンジオール基含有物質(例えば、没食子酸プロピルなどのフェノール類など)、脂肪族カルボニル化合物(例えば、プロパナール等の飽和アルデヒド、クロトンアルデヒド等の不飽和アルデヒド、アセトン等の飽和ケトンなど)などの公知の添加剤を適宜配合することができる。
前記共役ポリエン化合物とは、炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造であって、炭素−炭素二重結合の数が2個以上である、いわゆる共役二重結合を有する化合物である。共役ポリエン化合物は、2個の炭素−炭素二重結合と1個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ジエン、3個の炭素−炭素二重結合と2個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役トリエン、あるいはそれ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ポリエン化合物であってもよい。ただし、共役する炭素−炭素二重結合の数が8個以上になると共役ポリエン化合物自身の色により成形物が着色する懸念があるので、共役する炭素−炭素二重結合の数が7個以下であるポリエンであることが好ましい。また、2個以上の炭素−炭素二重結合からなる上記共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も共役ポリエン化合物に含まれる。
共役ポリエン化合物の具体例としては、イソプレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素−炭素二重結合を2個有する共役ジエン化合物;1,3,5−ヘキサトリエン、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素−炭素二重結合を3個有する共役トリエン化合物;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素−炭素二重結合を4個以上有する共役ポリエン化合物などが挙げられる。これらの共役ポリエン化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
共役ポリエン化合物の含有量は、EVOH樹脂100重量部に対して通常0.000001〜1重量部であり、好ましくは0.00001〜1重量部、特に好ましくは0.0001〜0.01重量部であることがより好ましい。
なお、かかる共役ポリエン化合物は、EVOH樹脂に、あらかじめ含有されていることが好ましい。
前記脂肪族カルボニル化合物の具体例としては、飽和アルデヒド、不飽和アルデヒド及び飽和ケトンなどが挙げられる。これらの脂肪族カルボニル化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
前記飽和アルデヒドとしては、例えばプロパナール、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、シクロヘキサンカルボアルデヒド、シクロペンチルアルデヒド、ジメチルシクロヘキサンカルボアルデヒド、メチルシクロヘキサンカルボアルデヒド、メチルシクロペンチルアルデヒド等の飽和脂肪族アルデヒドが好ましく、プロパナール、ブタナール及びヘキサナールからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
前記不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、クロトンアルデヒド、メタクロレイン、2−メチルブテナール、2−ヘキセナール、2,6−ノナジエナール、2,4−ヘキサジエナール、2,4,6−オクタトリエナール、5−メチル−2−ヘキセナール、シクロペンテニルアルデヒド、シクロヘキセニルアルデヒド等の分子内に炭素−炭素二重結合を有するアルデヒド;プロピオルアルデヒド、2−ブチン−1−アール、2−ペンチン−1−アール等の分子内に炭素−炭素三重結合を有するアルデヒドなどの不飽和脂肪族アルデヒドが好ましく、クロトンアルデヒド、2,4−ヘキサジエナール及び2,4,6−オクタトリエナールからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
前記飽和ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、3−メチル−2−ブタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、4−メチル−2−ペンタノン、2−メチル−3−ペンタノン、3,3−ジメチル−2−ブタノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、4−メチル−2−ヘキサノン、5−メチル−2−ヘキサノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、2−オクタノン、3−メチル−2−ヘプタノン、5−メチル−3−ヘプタノン、3−オクタノン、6−メチル−2−ヘプタノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、メチルシクロペンチルケトン、メチルシクロヘキシルケトン、エチルシクロペンチルケトン、エチルシクロヘキシルケトン等の飽和脂肪族ケトン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン等の飽和環状ケトンが挙げられるが、飽和脂肪族ケトンが好ましく、アセトン、メチルエチルケトン及び2−ヘキサノンからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
当該樹脂組成物における脂肪族カルボニル化合物の含有量の下限としては、0.01ppmであり、0.05ppmが好ましく、0.1ppmがより好ましく、0.15ppmがさらに好ましく、0.2ppmが特に好ましい。脂肪族カルボニル化合物の含有量の上限としては、100ppmであり、95ppmが好ましく、50ppmがより好ましく、30ppmがさらに好ましく、20ppmが特に好ましい。
<EVOH樹脂組成物の調製方法>
上記のEVOH樹脂(A)と、メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)を混合するにあたっては、通常溶融混錬または機械的混合法(ペレットドライブレンド)を行ない、好ましくは溶融混錬法である。具体的には、各成分をドライブレンド後に溶融混合する方法や、溶融状態のEVOH樹脂(A)にメジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)を混合する方法が挙げられる。
混合順序は、例えば(1)(A)成分と(B)成分を同時にブレンドする方法;(2)まず(A)成分に(B)成分を過剰量配合してブレンドして(B)成分の高濃度組成物を製造した後、この高濃度組成物にEVOH樹脂を加えることで、(B)成分を希釈し、目的の組成とする方法がある。
通常は(1)の方法が用いられるが、流通時のコストの点からは、(2)の方法のように、一旦(B)の高濃度組成物を製造し、成形時に希釈して用いる方法も好ましく採用される。このとき、前記マスターバッチに対するEVOH樹脂(A)の含有重量比(A/マスターバッチ)は、マスターバッチの組成にもよるが、通常10/90〜99/1であり、好ましくは20/80〜95/5であり、特に好ましくは30/70〜90/10である。
混合方法は、例えばバンバリーミキサー等でドライブレンドする方法や単軸または二軸の押出機等で溶融混練し、ペレット化する方法等任意のブレンド方法が採用され得る。かかる溶融混錬温度は、通常150〜300℃、好ましくは170〜250℃である。
尚、メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)の水溶液に、EVOH樹脂(A)および/または他の熱可塑性樹脂(D)を浸漬することにより、これらの樹脂に前記(B)成分を含浸させ、その後、乾燥することによって製造する方法(含浸法)も採用可能である。しかしながら、この含浸法は、樹脂組成物を成形した成形物中において、メジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)の水和物形成能を低下させる傾向があるため採用し難い。
また、(B)成分となるカルボン酸塩の安定水和物を、EVOH樹脂(A)と混合し、溶融混練した後、カルボン酸塩水和物の水和水を蒸発させて本発明の樹脂組成物を得る方法も採用可能であるが、かかる方法では樹脂組成物中に発泡が起こる傾向があるため採用し難い。
本発明の樹脂組成物は、原料を溶融混練した後に直接溶融成形品を得ることも可能であるが、工業上の取り扱い性の点から、上記溶融混練後に樹脂組成物ペレットを得、これを溶融成形法に供し、溶融成形品を得ることが好ましい。経済性の点から、押出機を用いて溶融混練し、ストランド状に押出し、これをカットしてペレット化する方法が好ましい。
かかるペレットの形状は例えば、球形、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、球状(ラグビーボール状)または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、球状の場合は径が通常1〜6mm、好ましくは2〜5mmであり、高さは通常1〜6mm、好ましくは2〜5mmであり、円柱状の場合は底面の直径が通常1〜6mm、好ましくは2〜5mmであり、長さは通常1〜6mm、好ましくは2〜5mmである。
溶融成形時のフィード性を安定させる点では、得られた樹脂組成物ペレットの表面に滑剤を付着させることも好ましい。滑剤の種類としては、高級脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸金属塩(高級脂肪酸のアルミニウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、バリウム塩等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス脂肪酸アミド)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10,000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等、又はその酸変性品)、高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等が挙げられ、好適には高級脂肪酸および/またはその金属塩、エステル、アミドが、更に好適には高級脂肪酸金属塩および/または高級脂肪酸アミドが用いられる。
滑剤の性状としては、固体状(粉末、微粉末、フレーク等)、半固体状、液体状、ペースト状、溶液状、エマルジョン状(水分散液)等、任意の性状のものが使用可能であるが、本発明の目的とする樹脂組成物ペレットを効率よく得るためには、エマルジョン状のものが好ましい。
かかる滑剤を樹脂組成物ペレットの表面に付着させる方法としては、ブレンダー等で滑剤と樹脂組成物ペレットを混合させて付着させる方法、滑剤の溶液又は分散液に樹脂組成物ペレットを浸漬させて付着させる方法、樹脂組成物ペレットに滑剤の溶液又は分散液をスプレーして付着させる方法等を挙げることができ、好適には、ブレンダー等に樹脂組成物ペレットを仕込んで攪拌下にエマルジョン状の滑剤を、樹脂組成物ペレット100重量部に対して滑剤の固形分として0.001〜1重量部/hr、更には0.01〜0.1重量部/hrの速度で徐々に添加することが、滑剤の均一付着のためには好ましい。さらに、ペレット表面に付着させた滑剤が全てペレットに密着し、溶融成形機内で滑剤が遊離することがない樹脂組成物ペレットを得るためには、樹脂組成物ペレットの表面温度を、該滑剤の融点−50℃以上の高温とし、かつ該EVOH樹脂の融点未満にて滑剤と接触させる方法が最も好ましい方法である。
滑剤の添付量としては、樹脂組成物ペレットに対して10〜1000ppm、更には20〜500ppm、特には50〜250ppmであることが、溶融成形時のフィード性が安定する点で好ましい。
<溶融成形品>
本発明の樹脂組成物は、溶融成形法により例えばフィルム、シート、カップやボトルなどに成形することができる。かかる溶融成形方法としては、押出成形法(T−ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法等が挙げられる。溶融成形温度は、通常150〜300℃の範囲から選ぶことが多い。
本発明の樹脂組成物を含む溶融成形物はそのまま各種用途に用いてもよい。このとき、樹脂組成物の層の厚みは通常1〜5000μm、好ましくは5〜4000μm、特に好ましくは10〜3000μm以上である。
なお、樹脂組成物層は、本発明の樹脂組成物から形成される層であり、通常、上記のような溶融成形を行うことにより得られる。本発明の樹脂組成物を成形してなる溶融成形物は、通常、ベース樹脂である(A)成分に(B)成分が分散した状態となっている。
<多層構造体>
本発明の多層構造体は、上記本発明の樹脂組成物を含む層を少なくとも1層有するものである。本発明の樹脂組成物を含む層(以下、単に「樹脂組成物層」というと、本発明の樹脂組成物を含む層をいう)は、他の基材と積層することで、さらに強度を上げたり他の機能を付与することができる。
上記基材としては、EVOH樹脂以外の熱可塑性樹脂(以下「基材樹脂」という)が好ましく用いられる。
多層構造体の層構成は、本発明の樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品当等を再溶融成形して得られる、本発明の樹脂組成物と熱可塑性樹脂の混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2〜15、好ましくは3〜10層である。
上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂層を介層してもよい。
上記のような多層構造体のうち、特に、本発明の樹脂組成物層を中間層として含み、その中間層の両側層として、基材樹脂層を設けた多層構造体の単位(b/a/b、又はb/接着性樹脂層/a/接着性樹脂層/b)を、少なくとも含む多層構造体が好ましい。本発明の樹脂組成物層を挟んだサンドイッチ状の多層構造体においては、樹脂組成物層の両側に位置する少なくとも1つの層(基材樹脂層b又は接着性樹脂層)に、疎水性樹脂を用いることで、外部からの吸湿を防止できるので、(B)成分による乾燥効果がより有効に発揮することができると推測される。従って、熱水処理に供される用途に用いられる包装材料用多層構造体の場合、上記多層構造体の単位において、樹脂組成物層の両側に位置する少なくとも1つの層に疎水性樹脂を用いることで、熱水処理後の酸素透過度が良好となる。
上記「基材樹脂」としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および/または側鎖に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。
上記「基材樹脂」原料としては、上記例のように、通常はナフサなどの石油由来の原料が用いられているが、シェールガスなどの天然ガス由来の原料や、さとうきび、テンサイ、トウモロコシ、ジャガイモなどに含まれる糖、デンプンなどの成分、またはイネ、麦、キビ、草植物などに含まれるセルロースなどの成分から精製した植物由来の原料を用いてもよい。
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂であり、特にポリ環状オレフィン系樹脂は疎水性樹脂として好ましく用いられる。
また、接着剤樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体を挙げることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等であり、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることができる。
多層構造体において、本発明の樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層が樹脂組成物層の両側に位置する少なくとも1つの層となることから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
なお、上記ポリ環状オレフィン系樹脂としては、公知の樹脂(例えば、特開2003−103718号公報、特開平5−177776号公報、特表2003−504523号公報等参照)を用いることができる。ポリ環状オレフィン系樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の鎖状脂肪族ポリオレフィンと比べて、湿分透過度が低い。このため、本発明の樹脂組成物層を中間層とし、その両面に用いる他の熱可塑性樹脂層や接着性樹脂層を用いたサンドイッチ構造の多層構造体では、他の熱可塑性樹脂層や接着性樹脂層にポリ環状オレフィン系樹脂を用いることで、湿気や熱水処理等による外部からの水分混入量を少なくでき、結果として、樹脂組成物層における(B)成分の乾燥効果が有効に発揮され、熱水処理後の酸素透過度が良好となる。
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいても良い。
本発明の樹脂組成物を上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明の樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本発明の樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、樹脂組成物(層)と基材樹脂(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上に樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。これらの中でも、コストや環境の観点から考慮して共押出しする方法が好ましい。
上記の如き多層構造体は、次いで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体近傍の温度で、通常40〜170℃、好ましくは60〜160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎた場合は延伸性が不良となり、高すぎた場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、次いで熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態を保ちながら通常80〜180℃、好ましくは100〜165℃で通常2〜600秒間程度熱処理を行う。
また、本発明の樹脂組成物から得られた多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定するなどの処理を行えばよい。
また、場合によっては、本発明の多層構造体からカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等が挙げられる。更に多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器を得る場合はブロー成形法が採用され、具体的には押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)などが挙げられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液又は溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、更には多層構造体を構成する樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性などにより一概に言えないが、多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10〜5000μm、好ましくは30〜3000μm、特に好ましくは50〜2000μmである。樹脂組成物層は通常1〜500μm、好ましくは3〜300μm、特に好ましくは5〜200μmであり、基材樹脂層は通常5〜30000μm、好ましくは10〜20000μm、特に好ましくは20〜10000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5〜250μm、好ましくは1〜150μm、特に好ましくは3〜100μmである。
さらに、多層構造体における樹脂組成物層と基材樹脂層との厚みの比(樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99〜50/50、好ましくは5/95〜45/55、特に好ましくは10/90〜40/60である。また、多層構造体における樹脂組成物層と接着性樹脂層の厚み比(樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90〜99/1、好ましくは20/80〜95/5、特に好ましくは50/50〜90/10である。
上記の如く得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
特に、本発明の樹脂組成物からなる層は、熱水処理後のガスバリア性が優れるため、熱水処理を行なう食品の包装材料として特に有用である。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
<実施例1>
〔EVOH樹脂(A)〕
・(A):エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.6モル%、ホウ酸含有量500ppm(ホウ素分析値より換算)のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(MFR4.3g/10分(210℃、荷重2160g)、揮発分0.2%)を用いた。
〔水和物形成性のカルボン酸塩(B)〕
・(B−1):Dr.Paul Lohmann製のジクエン酸三マグネシウム(無水物) micronized powderグレードを用いた。
・(B−2):JOST CHEMICAL製のジクエン酸三マグネシウム(無水物)USP Granularグレードを用いた。
〔塩基性金属塩(C)〕
・(C)ステアリン酸カルシウム(日油製 カルシウムステアレートS)を用いた。
〔他の熱可塑性樹脂(D)〕
・(D):末端変性6ナイロン[末端COOH基:22μeq/g、末端COOH基の数を[a]とし、末端CONR10R20基(但し、R10は炭素数1〜22の炭化水素基、R20は水素原子又は炭素数1〜22の炭化水素基)の数を[b]とした場合、100×b/(a+b)=31、融点225℃、MFR5g/10分(250℃、荷重2160g)]を用いた。
〔水和物形成性のカルボン酸塩(B)における累計体積分布の平均粒径評価〕
水和物形成性のカルボン酸塩(B)のメジアン径(d50)及びd90については、レーザー散乱・回折粒度分布測定装置(堀場製作所製 LA−950V2)を用いて、水和物形成性のカルボン酸塩(B)をイソプロパノール溶媒に0.01%の濃度にして撹拌分散させた状態で分析して得られた累計体積分布より平均粒径d50,d90を算出した。
得られた結果を表1に示す。
〔多層構造体の評価〕
(1)レトルト処理後の酸素透過性(cc/m2・day・atm)
多層構造体のサンプル片(10cm×10cm)を、熱水浸漬式レトルト装置(日阪製作所)を用いて123℃で33分間レトルト処理した後、取り出した。このレトルト処理の3日後に、酸素ガス透過量測定装置(モコン社製、OX−TRAN 2/20)を用いて、酸素透過速度(23℃、内部相対湿度:90%、外部相対湿度:50%)を測定した。
(2)40℃,90%RH保存での白濁模様発生状況
多層構造体を、40℃、90%相対湿度に設定した恒温恒湿槽中で40日間放置した後、目視により多層構造体の外観状態(白濁模様発生の状況)を観察した。
〔樹脂組成物の評価〕
(3)混練特性
調製した組成物を、溶融混練装置「プラストグラフ(ブラベンダー製)」を用いて、下記溶融混練条件で混練した場合の5分後(T5)及び60分後(T60)のトルク値(Nm)を、測定した。
「溶融混練条件」
・ローラーミキサー:W50E(試料投入量 55g)
・装置設定温度 :250℃
・ニーダー回転数 :50ppm
(4)ロングラン性
(3)で測定したトルク値(Nm)から、5分後のトルク値(T5)に対する60分後のトルク値(T60)の比(T60/T5)が1以上の場合は増粘傾向にあることを示している。当該値が0.001〜0.7であれば、ロングラン性に優れているといえる。
〔樹脂組成物の製造〕
EVOH樹脂(A)、水和物形成性のカルボン酸塩(B)、塩基性金属塩(C)、他の熱可塑性樹脂(D)を、表2に示す割合で配合し、ブレンドして樹脂組成物を調製した。
次いで、各樹脂組成物をフィーダーに仕込み、ミキシングゾーンを2箇所有する2軸押出機にて下記条件で溶融混練し、ストランド状に押出してドラム型ペレタイザーで切断して、円柱状ペレット(ペレット径:2mm、ペレット長さ:3.5mm、揮発分:0.3%)を得た。
・2軸押出機: 直径32mm、L/D=56(日本製鋼所製)
・押出機設定温度:
C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/C9/C10/C11/C12/C13/C14/C15/C16/D
=90/90/110/150/220/230/230/230/230/230/230/230/230/230/230/230
・スクリュー回転数: 150ppm
・吐出量: 12kg/時間
・ストランドの冷却: 空冷
・引取速度: 8.8m/分
〔多層構造体の製造〕
調製した組成物のペレットを、Tダイを備えた押出機に供給して、ダイを230℃とし、厚さ320μmの3種5層多層フィルムを製膜した。押出成形条件は下記のように設定した。
押出機を3台有し、3種5層型フィードブロック、多層フィルム成形用ダイおよび引取機を有する共押出多層フィルム成形装置を用いて下記条件で共押出を実施し、冷却水の循環するチルロールにより冷却して多層構造体(ポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社"ノバテックPP EA7AD")/接着性樹脂(三井化学株式会社"アドマー QF500")/本発明の樹脂組成物/接着性樹脂/ポリプロピレン(厚さ(μm):120/20/40/20/120))を得た。
・中間層押出機(EVOH):40mmφ単軸押出機(バレル温度:220℃)
・内外層押出機(PP):40mmφ単軸押出機(バレル温度:220℃)
・中内外層押出機(接着性樹脂):32mmφ単軸押出機(バレル温度:220℃)
・ダイ:3種5層型フィードブロックダイ(ダイ温度:220℃)
・冷却ロール温度:50℃
上記で得られた樹脂組成物ペレットを用いて、この樹脂組成物のロングラン性を評価した。また、上記で得られた多層構造体を用いて、レトルト処理後の酸素透過性、水泡発生状況、耐レトルト性を評価した。結果を表3にまとめて示す。
実施例1,実施例2の結果より、EVOH樹脂(A)とメジアン径0.5〜25μmである水和物形成性のカルボン酸塩(B)、塩基性金属塩(C)を配合した場合には、レトルト処理後の酸素透過度が参考例2に示した水和物形成性のカルボン酸塩(B)を配合しない場合と比較して小さく、40℃,90%RH保存におけるフィルム外観が良好であり、ロングラン性指標であるT60/T5が0.001〜0.7となり良好なロングラン加工性を確保できた。
一方で、比較例1の結果より、実施例1と同様の条件でメジアン径25μmより大きい水和物形成性のカルボン酸塩(B)に用いた場合は、40℃,90%RH保存において30日経過時点でフィルムに白濁模様が発生してフィルム外観が悪化した。
さらに、比較例2の結果より、実施例2と同様の条件でメジアン径25μmより大きい水和物形成性のカルボン酸塩(B)に用いた場合は、40℃,90%RH保存において27日経過時点でフィルムに白濁模様が発生してフィルム外観が悪化した。また、ロングラン性指標であるT60/T5が1以上となり増粘傾向を示しロングラン加工性が悪化した。
参考例1には、比較例1と同様の条件で塩基性金属塩(C)を配合しない実験例を示したが、塩基性金属塩(C)を配合しない場合には、40℃,90%RH保存におけるフィルム外観が良好であるもののロングラン性指標であるT60/T5が1以上となり増粘傾向を示しロングラン加工性が悪化した。
比較例1、比較例2、参考例1より、メジアン径25μmより大きい水和物形成性のカルボン酸塩(B)と塩基性金属塩(C)を併用した場合には、本願の課題である40℃,90%RH保存におけるフィルム外観、ロングラン加工性が不十分であることがわかる。
実施例1,2、比較例1,2、及び参考例1より、特定粒径の水和物形成性のカルボン酸塩と塩基性金属塩を併用することによって、レトルト処理後の酸素透過度が良好であり、かつ溶融混練時におけるロングラン加工性を抑制でき、さらに40℃,90%RH保存におけるフィルム外観を解消できる。