以下、実施形態に係る移動物体観測システム、移動物体観測方法に関して、添付図面を参照して説明する。なお、添付図面において、同一又は類似の構成要素は、同一又は対応する参照番号で参照されることがある。
(座標系)
本明細書においては、説明のために、以下の3次元直交座標系を用いる。Z軸は、移動物体の推定軌道に沿う軸である。+Z方向は、移動物体の推定軌道に沿う方向であって、移動物体の進行方向を意味する。X軸およびY軸は、それぞれ、Z軸に垂直である。また、X軸は、Y軸に垂直である。なお、X軸は、Z軸に垂直な平面内において、どのような方向に配向されてもよい。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の移動物体観測システム10と、移動物体2との配置関係を模式的に示す概念図である。移動物体観測システム10は、移動物体2を観測(検出)するように構成されている。移動物体2は、地球周回軌道等の軌道1上を移動する移動物体である。移動物体2は、例えば、宇宙物体である。なお、宇宙物体は、宇宙空間に位置する物体と定義されてもよいし、大気圏外に存在する物体と定義されてもよい。なお、宇宙物体は、人工衛星であってもよいし、スペースデブリであってもよい。
図1から把握されるように、移動物体観測システム10は、レーザ光11aを出射する。より具体的には、移動物体観測システム10の本体10a内のレーザ装置が、レーザ光11aを出射する。移動物体観測システム10は、第1領域3がレーザ光11aによって走査されるように、レーザ光11aを第1領域3内の部分に向かって出射する。いくつかの実施形態および変形例では、第1領域3の抽出に特徴がある。第1領域3の抽出の詳細については、後述される。図1に記載の例では、レーザ光11aの照射範囲内、より具体的には、ビームスポット4内に、移動物体2が存在する。なお、ビームスポット4の径は、レーザ光11aの進行方向に垂直な断面におけるレーザ光の直径を意味してもよい。ビームスポット4の径は、例えば、当該断面におけるレーザ光の強度が、当該断面におけるレーザ光の最大強度の1/e2(eは自然対数の底)となる部分の直径であってもよい。
移動物体観測システム10(より具体的には、後述のレーザ光受光部24)は、移動物体2によるレーザ光の反射光である反射レーザ光11bを受光する。反射レーザ光11bを解析することにより、移動物体の位置が特定される。例えば、反射レーザ光11bの受光に基づいて、レーザ光11aの照射方向には、移動物体2が存在すると判断されてもよい。付加的に、レーザ光11aの出射時刻と反射レーザ光11bの受光時刻との差に基づいて、移動物体2と移動物体観測システム10(より具体的には、レーザ装置21)との間の距離が算出されてもよい。さらに反射光のドップラーシフトに基づいてレーザ出射方向の物体の速度が算出されてもよい。
なお、図1に記載の例では、移動物体観測システム10が地上に設置されている。代替的に、移動物体観測システム10の一部または全部が、地上以外の場所に設置されていてもよい。例えば、移動物体観測システム10の一部または全部が、海上に設置されてもよいし、車両、航空機、船舶等の移動体上に設置されてもよいし、宇宙空間(人工衛星、あるいは、スペースステーションを含む)に設置されてもよい。
図2Aは、移動物体観測システム10の構成の一例を示す機能ブロック図である。図2Aに記載の例では、移動物体観測システム10は、レーザ発振器21aと、照射光学系21bと、分離ミラー23と、レーザ光受光部24と、制御装置25とを備えている。
レーザ発振器21aと照射光学系21bとは、レーザ光11aを出射するためのレーザ装置21を構成している。詳細には、レーザ発振器21aは、移動物体2に照射すべきレーザ光11aを発生する。レーザ発振器21aによって発生されたレーザ光11aは、分離ミラー23を通過して照射光学系21bに入射される。図2Aに記載の例では、レーザ発振器21aとして、パルスレーザ光を発生し、パルスエネルギーとパルス繰り返し周波数が調節可能であるパルスレーザが用いられる。なお、パルス繰り返し周波数は、レーザ光11aの単位時間当たりの出射回数を示す出射周波数と等価である。
一方、照射光学系21bは、レーザ発振器21aから受け取ったレーザ光11aを第1領域3に向けて出射すると共に、移動物体2によるレーザ光11aの反射によって生成される反射レーザ光11bを受光して、受光した反射レーザ光11bを分離ミラー23に向けて出射する。照射光学系21bは、鏡筒及び該鏡筒を駆動する駆動部を備えていてもよい。該駆動部は、制御装置25によって制御され、これにより、鏡筒の向き、即ち、レーザ光11aの出射方向(レーザ装置21から出射されるレーザ光11aの光軸の方向)が制御される。図2Aに記載の例では、鏡筒を駆動する駆動部が、レーザ光11aの出射方向を調整する出射方向調整機構21cを構成している。換言すれば、鏡筒を駆動する駆動部(出射方向調整機構21c)によって、レーザ光11aの出射方向を変更可能である。代替的に、あるいは、付加的に、レーザ光11aを反射するミラーの角度を変更する駆動部が、出射方向調整機構21cを構成していてもよい。代替的に、あるいは、付加的に、移動物体観測システム10の本体10a自体を回動させる駆動部が出射方向調整機構21cであり、本体10a自体を回動させることにより、レーザ光11aの出射方向が変更されてもよい。代替的に、あるいは、付加的に、光フェイズドアレイによりレーザ光11aの出射方向が変更されてもよい。
また、第1の実施形態において、照射光学系21bは、駆動部を用いて照射光学系21b内のレンズの位置を調整する等により、照射光学系21bから出射されるレーザ光11aの広がり角が調節可能であるように構成されてもよい。すなわち、照射光学系21bは、広がり角調節機構(ビームスポット径調節機構21d)を備えていてもよい。なお、レーザ光の広がり角とは、レーザ光の光軸中心と、レーザ光の出力ピーク値の1/2の強度の光成分(半値幅)とのなす角度と定義されてもよい。
分離ミラー23は、レーザ光11aと反射レーザ光11bの分離のために用いられる。分離ミラー23は、レーザ光11aを通過させると共に、反射レーザ光11bを反射する。代替的に、分離ミラー23は、レーザ光11aを反射するとともに、反射レーザ光11bを通過させてもよい。分離ミラー23からの反射レーザ光11bは、レーザ光受光部24に入射する。
レーザ光受光部24は、反射レーザ光11bを受光して撮像する。本実施形態では、レーザ光11aの出射時刻と反射レーザ光11bの受光時刻との差を解析することで、移動物体2と移動物体観測システム10(より具体的には、レーザ装置21)との間の距離を算出できる。なお、移動物体観測システム10から移動物体までの距離とパルス繰返し周波数の関係によっては、レーザ光11aを出射してから反射レーザ光11bを受光するまでに複数のレーザ光11aが出射されることになり、受光した反射レーザ光11bがどのレーザ光11aに対応するものかが特定できないことがある。この場合は、事前情報から算出される移動物体観測システム10から移動物体までの概ねの距離に基づいて、レーザ光11aの出射時刻と反射レーザ光11bの受光時刻との差を推定し、推定した時刻の差と実際に計測した時刻の差がもっとも近い値となるレーザ光11aを、受光した反射レーザ光11bに対応するレーザ光11aとして特定してもよい。なお、前記事前情報は、移動物体観測システム10が過去における計測によって取得したデータ(移動物体の存在確率分布データそのものであってもよいし、移動物体の位置データ、軌道データ、速度データ等であってもよい。)であってもよいし、他の観測装置を用いて事前に取得されたデータ(移動物体の位置データ、軌道データ、速度データ等)であってもよいし、他の観測局から提供されたデータ(移動物体の存在確率分布データそのものであってもよいし、移動物体の位置データ、軌道データ、速度データ等であってもよい。)であってもよい。
制御装置25は、少なくともレーザ発振器21aおよび出射方向調整機構21cの制御を行う。制御装置25は、移動物体観測システム10の全体を制御してもよい。また、制御装置25は、移動物体観測システム10による観測に必要な様々な演算を行う演算手段として機能する。例えば、制御装置25は、第1領域3を抽出するための後述の領域抽出処理を実行するように構成される。また、制御装置25は、レーザ光受光部24によって撮像された反射レーザ光11bを変換することにより得られる撮像データを処理して、移動物体2の位置、移動物体2の画像等を導出してもよい。制御装置25は、1つのコンピュータによって構成されてもよいし、複数のコンピュータによって構成されてもよい。制御装置25(コンピュータ)は、CPUと記憶装置を備えていてもよい。記憶装置は、演算に必要なデータを一時的に記憶し、後述の領域抽出処理等の演算を実行する演算プログラムを記憶する。
制御装置25は、後述の領域抽出処理を実行することにより、第1領域3を抽出する。そして、制御装置25は、第1領域3がレーザ光11aによって走査されるように、出射方向調整機構21cに出射方向調整指令を送信する。付加的に、制御装置25は、ビームスポット径調節機構21dを制御して、照射光学系21bから出射されるレーザ光11aの広がり角を調整(変更)してもよい。付加的に、制御装置25は、第1領域3がレーザ光11aによって走査されるように、レーザ発振器21aの動作を制御してもよい。例えば、レーザ発振器21aの動作を制御することにより、パルスエネルギーとパルス繰り返し周波数が調整されてもよい。また、制御装置25は、レーザ発振器21aの動作タイミングを制御すると共に、第1領域3に対応するデータが取得されるように、アクティブレンジゲーティングにおいてレーザ光受光部24が反射レーザ光11bを受光するタイミングを決定してもよい。
このような構成の移動物体観測システム10では、移動物体2までの距離を特定するレーザ測距を実行可能である。加えて、移動物体観測システム10では、レーザ光11aの出射方向(一例では、鏡筒の向きに一致する)および撮像画像に基づいて、移動物体2の方位(例えば、水平面内における角度を示す方位角及び鉛直面内における角度を示す仰角)を特定することが可能である。また、移動物体観測システム10では、移動物体2までの距離と移動物体2の方位とに基づいて、移動物体2の3次元位置を特定することが可能である。
なお、レーザ光11aを第1領域3にむけて出射するための光学系と、反射レーザ光11bを受光するための光学系とが分離されてもよい。図2Bは、このような構成の移動物体観測システム10を図示する機能ブロック図である。図2Bにおける移動物体観測システム10は、図2Aにおける移動物体観測システム10と同様に構成されているが、分離ミラー23ではなく受光光学系26を備えている。
図2Bにおける移動物体観測システム10では、照射光学系21bがレーザ発振器21aから受け取ったレーザ光11aを第1領域3に向けて出射する。また、受光光学系26が移動物体2によるレーザ光11aの反射によって生成される反射レーザ光11bを受光して、受光した反射レーザ光11bをレーザ光受光部24に入射する。照射光学系21bと受光光学系26のそれぞれは、鏡筒及び該鏡筒を駆動する駆動部を備えていてもよい。照射光学系21b及び受光光学系26それぞれの該駆動部は、制御装置25によって制御され、これにより、照射光学系21bと受光光学系26それぞれの鏡筒の向きが制御されてもよい。図2Bに記載の例では、鏡筒を駆動する駆動部が、レーザ光11aの出射方向を調整する出射方向調整機構21cを構成している。換言すれば、鏡筒を駆動する駆動部(出射方向調整機構21c)によって、レーザ光11aの出射方向を変更可能である。代替的に、あるいは、付加的に、レーザ光11aを反射するミラーの角度を変更する駆動部が、出射方向調整機構21cを構成していてもよい。代替的に、あるいは、付加的に、光フェイズドアレイによりレーザ光11aの出射方向が変更されてもよい。
図2Bにおける移動物体観測システム10のその他の構成及び動作は、図2Aにおける移動物体観測システム10の構成及び動作と同様である。
(第1領域の概要)
図3および図4を参照して第1領域の概要について説明する。図3は、移動物体の存在確率分布を模式的に示すグラフである。図4は、第1領域の例を模式的に示す図である。
移動物体2の存在確率分布は、他の観測装置を用いて事前に取得されたデータ(移動物体の位置データ、軌道データ、速度データ等)に基づいて算出されてもよいし、他の観測局から提供されたデータ(移動物体の存在確率分布データそのものであってもよいし、移動物体の位置データ、軌道データ、速度データ等であってもよい。)に基づいて算出されてもよい。図3から、Z軸に沿う方向(移動物体の推定軌道の方向)に対する存在確率分布は、X軸またはY軸に沿う方向に対する存在確率分布よりも、より分散していることが把握される。本願の発明者は、移動物体の速度の推定に誤差がある等の理由に起因して、Z軸に沿う方向に対する存在確率分布は、拡散し易いことを認識している。図3において、斜線によって特定される領域Aは、図4に示されるように、楕円球の形状を有する領域である。ある観測時刻において、領域Aに移動物体2が存在する確率は、領域A内の任意の微小領域に移動物体2が存在する確率の積分値(合計値)となる。第1の実施形態では、移動物体2の存在確率の積分値(合計値)が、第1閾値以上となるように、第1領域3(例えば、領域A)が抽出される。図4に記載の例では、第1領域3は、楕円球形状を有する領域である。
(ビームスポット径)
図4には、4つのビームスポット4が記載されている。図4に記載の例では、4つのビームスポット4に対応する4回のレーザ光照射により、第1領域3の全体が走査される。第1領域3におけるビームスポット4の大きさ(換言すれば、ビームスポット径)は、上述のビームスポット径調節機構21dによって調節されてもよい。制御装置25は、レーザ光受光部24によって受光される反射レーザ光11bの強度を検出可能な強度以上にするとの制約条件の下、レーザ光11aが第1領域3に到達する時のビームスポット径(換言すれば、レーザ光11aが、移動物体2の推定軌道に到達する時のビームスポット径)を算出するビームスポット径算出処理を実行してもよい。なお、第1領域3の走査を素早く行うとの観点からは、ビームスポット径は、より大きい方が好ましい。制御装置25は、ビームスポット径算出処理によって算出されたビームスポット径が実現されるように、ビームスポット径調節機構21dに調節指令を送信する。
(第1領域の第1例)
図5乃至図13を参照して、第1領域3の第1例について説明する。説明を複雑化させないために、レーザ光11aの進行方向が、Y軸に一致する場合を想定する。この場合、図5に示されるように、レーザ光11aは、領域Aを貫通してY軸方向に沿って進行するため、Y軸方向に対する移動物体の存在確率分布は無視することが可能となる。換言すれば、Y軸方向については、レーザ光の照射によって、実質的に漏れなく観測することが可能となる。
他方、XZ面においては、移動物体の存在確率分布を考える必要がある。図6を参照して、XZ面を分割するセル6内における移動物体2の存在確率の算出方法を説明する。なお、セル6のY軸方向の長さは、移動物体2の存在が想定される領域を十分にカバーする長さである。また、セル6の大きさ(例えば、セル6のXZ面における断面積)は、ビームスポット4の大きさに対応する。例えば、セル6の断面積の大きさは、ビームスポット4に内包される大きさのうち最大のものであってもよいし、ビームスポット4を数個に分割するものであってもよい。
例えば、図6の(a)に示されるように、XZ面において、細かく分割された複数の小領域5の各々について、各小領域5内における移動物体2の存在確率が与えられている場合(換言すれば、各小領域5に対応して、移動物体2の存在確率分布が与えられている場合)、各セル6内における移動物体2の存在確率は、対応するセル6に内包される複数の小領域5における移動物体2の存在確率の積分値(合計値)となる。他方、図6の(b)に示されるように、X軸に沿う方向に対する移動物体2の存在確率分布、および、Z軸に沿う方向に対する移動物体2の存在確率分布が与えられている場合、例えば、図6の(d)において斜線で示されるセル6内における移動物体2の存在確率は、図6の(c)における区分Eにおける移動物体2の存在確率(斜線で示される部分の面積に対応)と、図6の(c)における区分Fにおける移動物体2の存在確率(斜線で示される部分の面積に対応)との積によって近似的に算出することが可能である。なお、区分Eは、X軸方向に沿って分割された区分であって、存在確率算出対象のセル6に対応する区分であり、区分Fは、Z軸方向に沿って分割された区分であって、存在確率算出対象のセル6に対応する区分である。
以上のようにして、各セル6内における移動物体2の存在確率が算出される。一例として、各セル6内における移動物体2の存在確率の算出結果を、図7に示す。図7は、移動物体2の存在確率分布を模式的に示す図である。図7において、各セル6の下段には、セルのID(例えば、「6−1」、「6−2」)が記載され、各セル6の上段には、当該セル内における移動物体2の存在確率が記載され(例えば、IDが「6−13」であるセル内における移動物体2の存在確率は、「0.11(11%)」である。)、各セル6の中段には、存在確率の高さの順が記載されている。例えば、IDが「6−13」であるセル内における移動物体2の存在確率は、全てのセルの中で「1」番目に高く、IDが「6−12」であるセル内における移動物体2の存在確率は、全てのセルの中で「2」番目に高い。
本実施形態では、制御装置25は、移動物体2の存在確率分布に基づいて、移動物体の存在確率の積分値(合計値)が第1閾値TH1以上(または、第1閾値TH1以上第2閾値TH2以下)となるように第1領域3を抽出する領域抽出処理を実行する。制御装置25は、図7に示される第1関連付けデータ、すなわち、セルIDと、移動物体の存在確率と、移動物体の存在確率の高さの順を示すデータとを関連付ける第1関連付けデータに基づいて、移動物体の存在確率の積分値(合計値)が第1閾値TH1以上(または、第1閾値TH1以上第2閾値TH2以下)となるように第1領域3を抽出する領域抽出処理を実行してもよい。
例えば、第1閾値TH1が、「0.66」であり、第2閾値TH2が第1閾値より大きく「1.00」より小さい任意の値である場合を想定する。なお、第2閾値は、「0.67」であってもよいし、「0.70」であってもよいし、「0.95」であってもよいが、「1.00」ではない。なお、制御装置25が、移動物体の存在確率の積分値が第1閾値以上となった時点で、積分を終了するようにプログラムされていれば、第2閾値TH2の設定は不要である。
図7に記載の例では、丸印の付された複数のセル内における移動物体2の存在確率の合計値(積分値)が、「0.66」となる。このため、制御装置25は、丸印の付された複数のセルに対応する領域を第1領域として抽出してもよい。より具体的には、制御装置25は、移動物体2の存在確率の高いセルから順に、セル内における移動物体2の存在確率を加算する処理を繰り返してもよい。当該加算は、加算による合計値(積分値)が、第1閾値TH1以上となるまで継続される。そして、制御装置25は、存在確率の加算に使用された複数のセルに対応する領域を第1領域3として抽出する。例えば、図7に記載の例では、セル6−13における存在確率「0.11」、セル6−12における存在確率「0.10」、・・・、セル6−15における存在確率「0.02」、セル6−11における存在確率「0.01」が、この順番に加算される。1番目に存在確率が高いセル6−1から11番目に存在確率が高いセル6−11まで、存在確率が加算される結果、存在確率の合計値(積分値)が、第1閾値以上となる。このため、制御装置25は、1番目に存在確率の高いセルからN番目(ここでは11番目)に存在確率の高いセルまでによって構成される領域を第1領域3として抽出する。
換言すれば、制御装置25によって実行される領域抽出処理には、セル抽出処理が含まれる。セル抽出処理は、移動物体2の存在が想定される複数のセル6(例えば、図7に記載の例では、セル6−1乃至セル6−25からなる25個のセル)の中から、セルを順番に抽出する処理である。制御装置25は、セル抽出処理を、抽出された全てのセルによって構成される領域全体内における移動物体2の存在確率の合計値が第1閾値TH1以上となるまで、繰り返し実行する。制御装置25は、抽出された全てのセルによって構成される領域全体内における移動物体2の存在確率の合計値が第1閾値TH1以上になると、セル抽出処理を終了する。そして、制御装置は、セル抽出処理の終了後、セル抽出処理によって抽出された全てのセルによって構成される領域全体を、第1領域3として決定する。
なお、上記のセル抽出処理では、セル6の断面積の大きさがビームスポット4に内包される大きさのうち最大のものである場合を想定している。セル6の断面積の大きさがビームスポット4を分割する大きさである場合には、一度のセル抽出処理でビームスポットに内包される全てのセル6を抽出し、抽出されたセル6に対応して、存在確率を加算する。存在確率を加算する際には、各セルを通過するビームの強度を考慮して、存在確率に係数を乗じることにより得られる値(存在確率に重みづけを付加することにより得られる値)を、加算してもよい。なお、セル6の断面積の大きさがビームスポット4に内包される大きさのうち最大のものとなるように設定することは、計算機への負荷を小さくし、領域抽出処理をより高速に実行するうえで望ましい。一方でセル6の断面積の大きさがビームスポット4を分割する大きさとなるように設定することは、存在確率の合計値をより正確に算出するうえで望ましい。
なお、図6および図7に記載の例では、セル6の形状は正方形(または、正方形断面を有し、Y軸方向に伸びる直方体)であるが、セル6の形状は、正方形または直方体に限定されない。また、図5乃至図7に記載の例では、レーザ光11aの進行方向が、Y軸に一致する場合を想定したが、レーザ光11aの進行方向は、Y軸に一致しなくてもよい。なお、レーザ光11aの進行方向がY軸に一致しない場合には、Y軸に沿う方向に対する移動物体2の存在確率分布も考慮する必要がある。この場合、例えば、空間を、XY平面に平行な面、YZ平面に平行な面、および、ZX平面に平行な面を有するセル6(直方体形状を有するセル)によって分割し、各セル6内における移動物体2の存在確率を取得する。すなわち、移動物体2の存在確率分布を取得する。そして、制御装置25は、1番目に存在確率の高いセルからN番目に存在確率の高いセルまでによって構成される領域を第1領域3として抽出する。なお、「N」は、第1領域内における移動物体2の存在確率が、第1閾値TH1以上となるように選択される。
なお、図6および図7に記載の例では、移動物体2の存在確率分布は、ある観測時刻における移動物体2の存在確率分布である。代替的に、移動物体2の存在確率分布は、ある観測期間における移動物体の存在確率分布であってもよい。例えば、移動物体2の存在確率分布は、第1観測期間(例えば、1秒間)における移動物体の存在確率分布であってもよい。なお、観測時刻は、観測期間に包含される概念である。すなわち、観測期間を究極的に短くすれば、観測期間は観測時刻と等価になる。
図8は、制御装置25による領域抽出処理により得られる第1領域3の一例を示す。図8において、斜線が付された領域が、第1領域3に対応する。なお、セル6内に付された数字は、存在確率の高さの順番を示す数字である。図8に示されるように、第1領域3のレーザ光の進行方向に垂直な断面(例えば、Y軸に垂直な断面)の断面形状は、存在確率の高い領域に対応した細長形状である。図8に記載の例では、第1領域3は、Z軸方向の長さがX軸方向の長さよりも長い形状である。
制御装置25は、第1領域3がレーザ光によって走査されるように、上述の出射方向調整機構21cに出射方向調整指令を送信する。例えば、制御装置25は、第1領域3を構成する複数のセル6が、移動物体2の存在確率の高いセルから順番に、レーザ光11aによって走査されるように、出射方向調整機構21cに出射方向調整指令を送信する。その結果、図8に記載の例では、セル6内に付された数字が示す順番に従って、複数のセル6が、レーザ光11aによって走査されることとなる。より具体的には、制御装置25は、まず、「1」の数字が付されたセル6にレーザ光11aが照射されるように、出射方向調整機構21cに出射方向調整指令を送信する。その結果、レーザ光11aの光軸が、「1」の数字が付されたセル6に向かうように照射光学系21bが調整される。そして、レーザ発振器21aによって生成されたレーザ光11aが、「1」の数字が付されたセル6に照射される。次に、制御装置25は、「2」の数字が付されたセル6にレーザ光11aが照射されるように、出射方向調整機構21cに出射方向調整指令を送信する。その結果、レーザ光11aの光軸が、「2」の数字が付されたセル6に向かうように照射光学系21bが調整される。そして、レーザ発振器21aによって生成されたレーザ光11aが、「2」の数字が付されたセル6に照射される。同様にして、「K」を「3」以上「N」以下の自然数とするとき、制御装置25は、「K」の数字が付されたセル6にレーザ光11aが照射されるように、出射方向調整機構21cに出射方向調整指令を送信する。その結果、レーザ光11aの光軸が、「K」の数字が付されたセル6に向かうように照射光学系21bが調整される。そして、レーザ発振器21aによって生成されたレーザ光11aが、「K」の数字が付されたセル6に照射される。
なお、多くの場合、移動物体2の存在確率分布は時間の経過とともに変化するため、移動物体2の存在確率の高いセルから順番に、レーザ光11aによって走査されるようにすることは、移動物体2の観測確率(検出確率)の向上の観点から好ましいと言える。また、走査により得られた結果をすぐに解析できる場合には、移動物体2の存在確率の高いセルから順番に走査することが好適である。このような場合、反射レーザ光11bが得られたら、現在進行中の走査を打ち切って、次の走査を開始することが可能である。代替的に、あるいは、付加的に、反射レーザ光11bが得られた等の観測結果を、次の走査領域あるいは次の走査タイミング等の決定に反映することが可能である。
なお、セルが走査される順番は、必ずしも上記の順番に限定されない。例えば、制御装置25は、第1領域3のレーザ光11aによる走査に要する時間が出来る限り短くなるような順番で、第1領域3を構成する複数のセル6が走査されるように、出射方向調整機構21cに出射方向調整指令を送信してもよい。走査により得られた結果をすぐに解析できない場合には、第1領域3の走査に要する時間が出来る限り短くなるような順番で、複数のセル6を走査することが好適である。第1領域3の走査に要する時間を出来る限り短くすることにより、観測時間内での走査回数を増加させることが可能となる。その結果、移動物体2の観測確率(検出確率)が向上する。
なお、図8に記載の例では、第1観測期間(例えば、1秒間)において、第1領域3が移動しないことを想定している。換言すれば、第1領域3は、第1観測期間において、位置が固定されている領域である。レーザ光によって第1領域3を走査するのに要する時間が相対的に短い場合、第1領域3を、第1観測期間において、位置が固定されている領域とすることが有効である。例えば、図8に示される第1領域3の断面(レーザ光11aの進行方向に垂直な断面)の大きさが、レーザ光11aの出射周波数と、第1領域3内におけるレーザ光11aのビームスポット4の面積(換言すれば、レーザ光が移動物体の推定軌道に到達する時のレーザ光のビームスポットの面積)との積よりも小さい場合、第1領域3を、第1観測期間において、位置が固定されている領域とすることが有効である。
上述の例では、第1領域3は、レーザ光11aによって1回だけ走査されている。代替的に、第1領域3は、レーザ光11aによって繰り返し走査されてもよい。換言すれば、制御装置25は、第1領域3がレーザ光11aによって繰り返し走査されるように、出射方向調整機構21cに出射方向調整指令を送信してもよい。例えば、制御装置25は、第1領域3を構成する複数のセル6が、移動物体2の存在確率の高いセルから順番に、レーザ光11aによって走査されるように、出射方向調整機構21cに出射方向調整指令を送信する。その結果、図8に記載の例では、セル6内に付された数字が示す順番に従って、複数のセル6が、レーザ光11aによって走査されることとなる(1回目の走査)。次に、制御装置25は、再度、第1領域3を構成する複数のセル6が、移動物体2の存在確率の高いセルから順番に、レーザ光11aによって走査されるように、出射方向調整機構21cに出射方向調整指令を送信する。その結果、図8に記載の例では、セル6内に付された数字が示す順番に従って、複数のセル6が、再度レーザ光11aによって走査されることとなる(2回目の走査)。
なお、上述の例では、1回目の走査の対象領域と、2回目の走査の対象領域とが同一の領域である。代替的に、1回目の走査の対象領域と2回目の走査の対象領域とが異なる領域であってもよい。図9には、2回目の走査に対応する第1領域3aが、1回目の走査に対応する第1領域3とは異なる例が示されている。図9に記載の例では、1回目の走査において、第1領域3がレーザ光11aによって走査され、2回目の走査において、第1領域3aがレーザ光11aによって走査される。なお、図9に記載の例では、1回目の走査に対応する第1領域3と、2回目の走査に対応する第1領域3aとは、形状および大きさが等しい。また、第1領域3aは、第1領域3から+Z方向に距離Lだけ移動した位置にある。距離Lは、例えば、1回目の走査の開始時刻と2回目の走査の開始時刻との間の時間に、移動物体2の推定速度を乗じることにより得られる。換言すれば、制御装置25は、第1領域3と、移動物体の推定速度に基づいて算出される距離Lとに基づいて、第1領域3aを注するようにしてもよい。第1領域3a内の複数のセルが走査される順番は、第1領域3内の複数のセルが走査される順番と、同じであってもよい。すなわち、制御装置25は、第1領域3内の複数のセルが走査される順番に基づいて、第1領域3a内の複数のセルが走査される順番を決定してもよい。
なお、本明細書において、走査間インターバルは、1回目の走査の終了時刻と、2回目の走査の開始時刻との間の時間を示す。例えば、図9に記載の例では、1回目の走査において、「11」の数字が付されたセル6に向かってレーザ光が出射された時刻と、2回目の走査において、「1」の数字が付されたセルに向かってレーザ光が出射された時刻との間の時間が、走査間インターバルである。走査間インターバルの時間は、典型的には、後述の観測インターバルの時間よりも短い。走査間インターバルは、例えば、0.1秒以上10秒以下の中から選択された期間であってもよい。走査間インターバルは、「ゼロ」であってもよい(すなわち、1回目の走査の直後に、2回目の走査が開始されてもよい。)。
(存在確率分布の時間的変動を考慮する場合)
レーザ光11aによって第1領域3を走査するのに要する時間が相対的に長い場合には、移動物体2の存在確率分布の時間的変動を考慮して、第1領域3を抽出することが有効である。例えば、図8に示される第1領域3の断面(レーザ光11aの進行方向に垂直な断面)の大きさが、レーザ光11aの出射周波数と、レーザ光11aの出射周波数と、第1領域3内におけるレーザ光11aのビームスポット4の面積(換言すれば、レーザ光が移動物体の推定軌道に到達する時のレーザ光のビームスポットの面積)との積よりも大きい場合、移動物体2の存在確率分布の時間的変動を考慮して、第1領域3を抽出することが有効である。
説明を複雑化させないために、図8に示される第1領域3が、レーザ光11aの照射間隔の間に、2つのセル6の長さ(Z方向長さ)に対応する長さだけ+Z方向に移動することを想定する。換言すれば、第1領域3が時間と共に(時間の経過に伴い)、移動することを想定する。この場合、図10Aに示されるように、第1領域3の中心のセル(「1」の数字が付されたセル)は、レーザ光11aの照射間隔の間に、2つのセル6の長さに対応する長さだけ+Z方向に移動する。1回目のレーザ光11aの照射では、レーザ光11aは、「1」の数字および斜線が付された1番目のセルを通過する。2回目のレーザ光11aの照射では、レーザ光は、「2」の数字が付された2番目のセルを通過する。同様に「K」回目のレーザ光11aの照射では、レーザ光は、「K」の数字が付されたK番目のセルを通過する。なお、「K」は3以上N以下の任意の自然数である。
各セルに照射されるレーザ光11aの出射のタイミングは、図10Bに示されるとおりである。図10Bから把握されるように、レーザ光の照射間隔毎(T秒毎)に、数字によって示される順番に従って、セルに、レーザ光が照射されることとなる。すなわち、固定座標系であるXYZ座標系において、レーザ光11aによって走査される第1領域3は、図10Aにおいて斜線で示される領域の全体となる。他方、第1領域とともに移動するX’Y’Z’座標系(なお、Z’軸は、移動物体の推定軌道に沿う軸である)において、レーザ光11aによって走査される第1領域3は、図11において斜線で示される領域の全体となる。なお、図10Aまたは図11において、第1領域3を構成するセルの個数および配置は、各セルにレーザ光が照射される時刻において、当該セルに移動物体2が存在する確率の合計値(積分値)が、第1閾値TH1以上となるように設定されている。換言すれば、N回のレーザ光11aの照射によって、移動物体2にレーザ光が当たる確率が、第1閾値TH1以上となるように、第1領域3を構成するセルの個数および配置が設定されている。具体的な設定の仕方は、各セルに移動物体2が存在する確率の算出が、時間に応じて変動する存在確率分布に基づいて行われる点を除いて、図6および図7を用いて説明した上述の例と同様である。
図10Aおよび図11に記載の例では、レーザ光11aの進行方向が、Y軸(またはY’軸)に一致する場合を想定したが、レーザ光11aの進行方向は、Y軸(またはY’軸)に一致しなくてもよい。なお、レーザ光11aの進行方向がY軸(またはY’軸)に一致しない場合には、Y軸(またはY’軸)に沿う方向に対する移動物体2の存在確率分布も考慮する必要がある。この場合、例えば、空間を、X’Y’平面に平行な面、Y’Z’平面に平行な面、および、Z’X’平面に平行な面を有するセル6(直方体形状を有するセル)によって分割し、各セル6内における移動物体2の存在確率を取得する。すなわち、移動物体2の存在確率分布を取得する。なお、存在確率および存在確率分布は、時間の関数である。そして、制御装置25は、1番目に存在確率の高いセルからN番目に存在確率の高いセルまでによって構成される領域を第1領域3として抽出する。なお、「N」は、第1領域内における移動物体2の存在確率が、第1閾値TH1以上となるように選択される。
なお、図10Aに対応する1回目の走査に加えて、時間と共に移動する第1領域3は、再度、レーザ光によって走査されてもよい。図12は、時間と共に移動する第1領域3が複数回(例えば、2回)走査される様子を模式的に示す図である。なお、図12において、距離Lは、1回目の走査の開始時刻と2回目の走査の開始時刻との間の時間に対応する距離である。距離Lは、例えば、1回目の走査の開始時刻と2回目の走査の開始時刻との間の時間と、移動物体2の推定速度とを乗じることにより得られる。
図9および図12に記載の例に関し、第1領域3が繰り返し照射される場合に、移動物体2がレーザ光11aによって照射される回数の期待値を数値計算によって求めた。図13は、数値計算によって得られた結果を示すグラフである。なお、数値計算における前提条件は下記のとおりである。
前提条件:
(1)X軸方向の軌道の広がり:第1パラメータ
(2)Z軸方向の軌道の広がり:X方向の軌道の広がりの2倍であると仮定する。
(3)X軸方向の軌道の広がり、および、Z方向の軌道の広がりは、観測可能時間の範囲内で変化しないものと仮定する。
(4)移動物体の存在確率分布:ガウス分布を仮定する。
(5)観測可能時間:100秒(高度700kmを想定)
(6)移動物体速度:7.5km/s(高度700kmを想定)
(7)レーザ光のパルス繰り返し周波数(出射周波数):1kHz
(8)ビームスポット径:第2パラメータ
(9)走査間インターバル:1秒
(10)移動物体の存在確率閾値(第1閾値):第3パラメータ
図13の(a)を参照すると、ビームスポット径が10mである場合、存在確率閾値が「1」である時(換言すれば、第1領域を設定しない時)に、移動物体2がレーザ光によって照射される回数の期待値は、「1」である。これに対し、存在確率閾値が「0.6」である時(換言すれば、移動物体の存在確率の合計値が60%である第1領域をレーザ光で走査する時)、移動物体2がレーザ光によって照射される回数の期待値は、最大約「22」である。よって、実施形態における移動物体観測システムでは、移動物体が観測される確率が大幅に向上することが把握される。
図13の(b)を参照すると、ビームスポット径が20mである場合、存在確率閾値が「1」である時(換言すれば、第1領域を設定しない時)に、移動物体2がレーザ光によって照射される回数の期待値は、「1」である。これに対し、存在確率閾値が「0.8」である時(換言すれば、移動物体の存在確率の合計値が80%である第1領域をレーザ光で走査する時)、移動物体2がレーザ光によって照射される回数の期待値は、最大約「42」である。よって、実施形態における移動物体観測システムでは、移動物体が観測される確率が大幅に向上することが把握される。
図13の(c)を参照すると、ビームスポット径が80mである場合、存在確率閾値が「1」である時(換言すれば、第1領域を設定しない時)に、移動物体2がレーザ光によって照射される回数の期待値は、「1」である。これに対し、存在確率閾値が「0.9」である時(換言すれば、移動物体の存在確率の合計値が90%である第1領域をレーザ光で走査する時)、移動物体2がレーザ光によって照射される回数の期待値は、最大約「60」である。よって、実施形態における移動物体観測システムでは、移動物体が観測される確率が大幅に向上することが把握される。
図13の(a)乃至(c)に示されるグラフを参酌すると、移動物体2の存在確率の積分値(合計値)が、「0.1(第1閾値)」以上「0.98(第2閾値)」以下の範囲に属する値となるように、第1領域3を抽出した場合、好適な観測結果が得られることが期待される。
(第1領域の第2例)
図14乃至図22を参照して、第1領域3の第2例について説明する。
第2例では、第1領域3の形状は、推定軌道(推定軌道は、実際の軌道1に概ね一致する。)に垂直な方向に伸びる薄板形状(例えば、平板形状または曲面板形状)または線状形状(例えば、直線形状または曲線形状)の領域である。図14に記載の例では、時刻t=t2の時、薄板形状の第1領域3がレーザ光11aによって走査される。図14に記載の例では、第1領域3の形状は、Z軸方向に長い円柱状領域の断面形状、すなわち、円板形状である。
説明を複雑化させないために、レーザ光11aの進行方向が、Y軸に一致する場合を想定する。この場合、レーザ光11aは、第1領域3を貫通してY軸方向に沿って進行するため、Y軸方向に対する移動物体の存在確率分布は無視することが可能となる。換言すれば、Y軸方向については、レーザ光の照射によって、実質的に漏れなく観測することが可能となる。
他方、XZ面においては、移動物体の存在確率分布を考える必要がある。XZ面を分割するセル6内における移動物体2の存在確率は、例えば、図6に示されるような方法で算出される。なお、セル6のY軸方向の長さは、移動物体2の存在が想定される領域を十分にカバーする長さである。また、また、セル6の大きさ(例えば、セル6のXZ面における断面積)は、ビームスポット4の大きさに対応する。例えば、セル6の断面積の大きさは、ビームスポット4に内包される大きさのうち最大のものであってもよい。
各セル6内における移動物体2の存在確率の算出方法は、図6を参照して説明した上述の方法と同様であるため、繰り返しとなる説明は省略する。図15に、各セル6内における移動物体2の存在確率の算出結果の一例を示す。図15は、移動物体2の存在確率分布を示す。なお、例えば、存在確率分布は、時間の関数である(必要であれば、図16を参照。)。図15において、各セル6の下段には、セルのID(例えば、「6−1」、「6−2」)が記載され、各セル6の上段には、当該セル内における移動物体2の存在確率が記載され(例えば、IDが「6−7」であるセル内における移動物体2の存在確率は、「0.12(12%)」である。)、各セル6の中段には、存在確率の高さの順が記載されている。例えば、IDが「6−7」であるセル内における移動物体2の存在確率は、全てのセルの中で「1」番目に高く、IDが「6−11」であるセル内における移動物体2の存在確率は、全てのセルの中で「2」番目に高い。
本実施形態では、制御装置25は、移動物体2の存在確率分布に基づいて、移動物体の存在確率の積分値が第1閾値TH1以上(または、第1閾値TH1以上第2閾値TH2以下)となるように第1領域3を抽出する領域抽出処理を実行する。制御装置25は、図15に示される第1関連付けデータ、すなわち、セルIDと、移動物体の存在確率と、移動物体の存在確率の高さの順を示すデータとを関連付ける第1関連付けデータに基づいて、移動物体の存在確率の積分値が第1閾値TH1以上(または、第1閾値TH1以上第2閾値TH2以下)となるように第1領域3を抽出する領域抽出処理を実行してもよい。
例えば、第1閾値が、「0.27」であり、第2閾値が第1閾値より大きく「1.00」より小さい任意の値である場合を想定する。なお、第2閾値は、「0.28」であってもよいし、「0.30」であってもよいが、「1.00」ではない。なお、制御装置25が、移動物体の存在確率の積分値が第1閾値以上となった時点で、積分を終了するようにプログラムされていれば、第2閾値の設定は不要である。
図15に記載の例では、丸印の付された複数のセル内における移動物体2の存在確率の合計値(積分値)が、「0.27」となる。このため、制御装置25は、丸印の付された複数のセルに対応する領域を第1領域3として抽出してもよい。より具体的には、制御装置25は、移動物体2の存在確率の高いセルから順に、セル内における移動物体2の存在確率を加算する処理を繰り返してもよい。この時、制御装置25は、X軸方向(Z軸に垂直な方向)に沿った位置が同じである複数のセルの中からは、移動物体2の存在確率の最も高いセルを1つだけ抽出する。例えば、図15に記載の例では、制御装置25は、まず、移動物体2の存在確率の最も高いセル6−7を抽出する。また、存在確率の合計値(積分値)を、「0.12」に設定する。そして、制御装置25は、セル6−7とX軸方向に沿った位置が同じであるセル6−5、セル6−6、セル6−8は抽出しないことを決定する。セル6−5、セル6−6、セル6−8を抽出しないようにするためには、セル6−5、セル6−6、セル6−8のそれぞれに、抽出不可のフラグを付与するか、あるいは、セル6−5、セル6−6、セル6−8のそれぞれにおける移動物体の存在確率を、ゼロに書き換えればよい。次に、制御装置25は、抽出可能なセルの中から、移動物体2の存在確率の最も高いセル6−11を抽出する。また、制御装置25は、存在確率の合計値(積分値)に、「0.11」を加算する。その結果、存在確率の合計値(積分値)は、「0.23」になる。そして、制御装置25は、セル6−11とX軸方向に沿った位置が同じであるセル6−9、セル6−10、セル6−12は抽出しないことを決定する。次に、制御装置25は、抽出可能なセルの中から、移動物体2の存在確率の最も高いセル6−3を抽出する。また、制御装置25は、存在確率の合計値(積分値)に、「0.04」を加算する。その結果、存在確率の合計値(積分値)は、「0.27」になる。制御装置25は、存在確率の合計値(積分値)が、第1閾値以上になると、セルの抽出を終了する。このようにして、図15に記載の例では、制御装置25は、セル6−7、セル6−11、セル6−3からなる領域を第1領域3として抽出する。
図15に記載の例では、制御装置25は、X軸方向(Z軸に垂直な方向)に沿った位置が同じである複数のセルの中からは、1つのセルだけしか抽出しないとの制約条件の下、移動物体2の存在確率の高いセルから順に、セル内における移動物体2の存在確率を繰り返し加算していく。当該加算は、加算による合計値(積分値)が、第1閾値以上となるまで継続される。そして、制御装置25は、存在確率の加算に使用された複数のセルに対応する領域を第1領域3として抽出する。
なお、図15に記載の例では、移動物体2の存在確率分布は、ある観測時刻における移動物体2の存在確率分布である。代替的に、移動物体2の存在確率分布は、ある観測期間における移動物体の存在確率分布であってもよい。例えば、移動物体2の存在確率分布は、第1観測期間(例えば、1秒間)における移動物体の存在確率分布であってもよい。なお、観測時刻は、観測期間に包含される概念である。すなわち、観測期間を究極的に短くすれば、観測期間は観測時刻と等価である。
代替的に、K番目(「K」は1以上の自然数)に照射されることとなるセルを「第Kセル」と定義する時、制御装置25は、第1セルへのレーザ光の照射時刻における移動物体2の存在確率分布に基づいて、当該第1セルにおける移動物体の存在確率を算出し、算出された存在確率を存在確率の合計値(積分値)に加算し、第Kセルへのレーザ光の照射時刻における移動物体2の存在確率分布に基づいて、当該第Kセルにおける移動物体の存在確率を算出し、算出された存在確率を存在確率の合計値(積分値)に加算し、次に、第K+1セルへのレーザ光の照射時刻における移動物体2の存在確率分布に基づいて、当該第K+1セルにおける移動物体の存在確率を算出し、算出された存在確率を存在確率の合計値(積分値)に加算するという処理を、存在確率の合計値(積分値)が第1閾値を超えるまで繰り返し実行してもよい。そして、制御装置25は、存在確率の加算に使用された複数のセルに対応する領域を第1領域3として抽出する。なお、第1セルへのレーザ光の照射時刻をT1とする時、第Kセルへのレーザ光の照射時刻は、T1に、レーザ光の照射間隔(出射周波数の逆数)に「K−1」を乗じることにより得られる値を加算することにより取得されてもよい。この際、制御装置25は、第K+1セルを抽出する処理において、第1セル乃至第Kセルのいずれかと、X軸に沿った方向の位置が同じであるセルは除くとの制約条件の下、最も移動物体の存在確率の高いセルを第K+1セルとして抽出してもよい。代替的に、制御装置25は、第K+1セルを抽出する処理において、第1セル乃至第Kセルは除くとの制約条件、かつ、第1セルとZ軸に沿った方向の位置が同じであるセルのみを抽出候補にするとの制約条件の下、最も移動物体の存在確率の高いセルを第K+1セルとして抽出してもよい。この場合、第1領域3は、第1セルをとおり、Z軸に垂直な平板形状の領域、または、Z軸に垂直な直線形状の領域となる。
図17は、制御装置25による領域抽出処理により得られる第1領域3の一例を示す。図17に記載の例では、第1セルへのレーザ光の照射時刻と、最後にレーザ光が照射される第Nセル(図17に記載の例では第3セル)へのレーザ光の照射時刻との間に、移動物体がほとんど移動しないこと、換言すれば、レーザ光の照射間隔が究極的に短い場合の例を示している。図17において、斜線が付された領域が、第1領域3に対応する。なお、セル6内に付された数字は、存在確率の高いセルの順番に対応する数字である。図17に示されるように、第1領域3の形状は、Z軸に垂直な方向に広がる薄板形状(より具体的には、平板形状)である。
図18Aは、制御装置25による領域抽出処理により得られる第1領域3の一例を示す。図18Aに記載の例では、第1セルへのレーザ光の照射時刻と、最後にレーザ光が照射される第Nセル(図18Aに記載の例では第3セル)へのレーザ光の照射時刻との間に、移動物体が相対的に大きな距離を移動する場合を想定している。なお、図18Aでは、説明を複雑化させないために、図17に示される第1領域3が、レーザ光11aの照射間隔毎に、2つのセル6の長さ(Z方向長さ)に対応する長さだけ+Z方向に移動することを想定している。この場合、図18Aに示されるように、第1領域3の第1セルは、レーザ光11aの照射間隔毎に、2つのセル6の長さに対応する長さだけ+Z方向に移動する。1回目のレーザ光11aの照射では、レーザ光11aは、「1」の数字および斜線が付された1番目のセルを通過する。2回目のレーザ光11aの照射では、レーザ光は、「2」の数字が付された2番目のセルを通過する。同様に「K」回目のレーザ光11aの照射では、レーザ光は、「K」の数字が付されたK番目のセルを通過する。なお、「K」は3以上N以下の任意の自然数である。
各セルに照射されるレーザ光11aの出射のタイミングは、図18Bに示されるとおりである。図18Bから把握されるように、レーザ光の照射間隔毎(T秒毎)に、数字によって示される順番に従って、セルに、レーザ光が照射されることとなる。すなわち、固定座標系であるXYZ座標系において、レーザ光11aによって走査される第1領域3は、図18Aにおいて斜線で示される領域の全体となる。他方、第1領域とともに移動するX’Y’Z’座標系(なお、Z’軸は、移動物体の推定軌道に沿う軸である)において、レーザ光11aによって走査される第1領域3は、図19において斜線で示される領域の全体となる。第1領域とともに移動する座標系においては、第1領域3の形状は、Z’軸に垂直な方向に広がる薄板形状(より具体的には、平板形状)である。
図18Aまたは図19において、第1領域3を構成するセルの個数および配置は、各セルにレーザ光11aが照射される時刻において、当該セルに移動物体2が存在する確率の合計値(積分値)が、第1閾値TH1以上となるように設定されている。換言すれば、N回のレーザ光の照射によって、移動物体2にレーザ光が当たる確率が、第1閾値TH1以上となるように、第1領域3を構成するセルの個数および配置が設定されている。具体的な設定の仕方は、上述の例と同様である。
図18Aおよび図19に記載の例では、レーザ光11aの進行方向が、Y軸(またはY’軸)に一致する場合を想定したが、レーザ光11aの進行方向は、Y軸(またはY’軸)に一致しなくてもよい。なお、レーザ光11aの進行方向がY軸(またはY’軸)に一致しない場合には、Y軸に沿う方向に対する移動物体2の存在確率分布も考慮する必要がある。この場合、例えば、空間を、X’Y’平面に平行な面、Y’Z’平面に平行な面、および、Z’X’平面に平行な面を有するセル6(直方体形状を有するセル)によって分割し、各セル6内における移動物体2の存在確率を取得する。すなわち、移動物体2の存在確率分布を取得する。なお、存在確率および存在確率分布は、時間の関数である。そして、制御装置25は、1番目に存在確率の高いセルからN番目に存在確率の高いセルまでによって構成される領域を第1領域3として抽出する。なお、「N」は、第1領域内における移動物体2の存在確率が、第1閾値TH1以上となるように選択される。
なお、図18Aに対応する1回目の走査に加えて、時間と共に移動する第1領域3は、再度、レーザ光によって走査されてもよい。図20は、時間と共に移動する第1領域3が複数回(例えば、2回)走査される様子を模式的に示す図である。なお、図20において、距離Lは、1回目の走査の開始時刻と2回目の走査の開始時刻との間の時間に対応する距離である。距離Lは、例えば、1回目の走査の開始時刻と2回目の走査の開始時刻との間の時間と、移動物体2の推定速度とを乗じることにより得られる。
図20に記載の例に関し、第1領域3が繰り返し照射される場合に、移動物体2がレーザ光11aによって照射される回数の期待値を数値計算によって求めた。図21は、数値計算によって得られた結果を示すグラフである。なお、数値計算における前提条件は下記のとおりである。
前提条件:
(1)X軸方向の軌道の広がり:第1パラメータ
(2)Z軸方向の軌道の広がり:X方向の軌道の広がりの2倍であると仮定する。
(3)X軸方向の軌道の広がり、および、Z方向の軌道の広がりは、観測可能時間の範囲内で変化しないものと仮定する。
(4)移動物体の存在確率分布:ガウス分布を仮定する。
(5)観測可能時間:100秒(高度700kmを想定)
(6)移動物体速度:7.5km/s(高度700kmを想定)
(7)レーザ光のパルス繰り返し周波数(出射周波数):1kHz
(8)ビームスポット径:第2パラメータ
(9)走査間インターバル:1秒
(10)移動物体の存在確率閾値:第3パラメータ
なお、比較を容易にするために、図21において、存在確率閾値は、第1閾値を正規化することによって得られた閾値である。すなわち、図21における存在確率閾値は、第1閾値を、第1セルと同じZ方向位置を有する全てのセルからなる領域において移動物体が存在する確率で除して得られる正規化された閾値である。
図21の(a)を参照すると、ビームスポット径が10mである場合、正規化された存在確率閾値が「0.99」である時、移動物体2がレーザ光によって照射される回数の期待値は、最大約「1.5」である。よって、実施形態における移動物体観測システムでは、移動物体が観測される確率が向上することが把握される。
図21の(b)を参照すると、ビームスポット径が20mである場合、正規化された存在確率閾値が「0.99」である時、移動物体2がレーザ光によって照射される回数の期待値は、最大約「3.0」である。よって、実施形態における移動物体観測システムでは、移動物体が観測される確率が向上することが把握される。
図21の(c)を参照すると、ビームスポット径が30mである場合、正規化された存在確率閾値が「0.99」である時、移動物体2がレーザ光によって照射される回数の期待値は、最大約「4.5」である。よって、実施形態における移動物体観測システムでは、移動物体が観測される確率が向上することが把握される。
(比較例)
図21に対する比較例として、時間と共に移動しない第1領域3が繰り返し照射される場合に、移動物体2がレーザ光11aによって照射される回数を数値計算によって求めた。数値計算の結果を図22に示す。なお、数値計算における前提条件は、図21に対応する数値計算における前提条件と同じである。図21を参照すると、ビームスポット径が10mである場合、20mである場合、30mである場合のいずれの場合においても、移動物体2がレーザ光によって照射される回数の期待値は、最大約「1.1」であった。よって、比較例では、移動物体が観測される確率の向上があまり期待できないと言える。しかし、移動物体の観測確率の向上が少なくてもよい場合、あるいは、レーザ光11aによる第1領域3の走査が極めて高速で実行される場合等には、本比較例も本発明の一つの実施形態になり得る。
(移動物体の観測方法)
次に、上述の移動物体観測システムを利用した移動物体の観測方法を説明する。図23は、実施形態における移動物体観測方法を模式的に示すフローチャートである。
第1ステップS1において、第1観測期間における移動物体の存在確率分布が取得される。存在確率分布は、時間の関数であってもよい。代替的に、第1観測期間が短い期間である場合には、存在確率分布は、第1観測期間の間一定であると近似されてもよい(換言すれば、時間の関数でなくてもよい)。存在確率分布は、他の観測装置を用いて事前に取得されたデータに基づいて、制御装置25によって算出されてもよいし、他の観測局から提供されたデータに基づいて、制御装置25によって算出されてもよい。代替的に、既に他の装置によって算出された存在確率分布が、制御装置25に送信されることにより、制御装置25が存在確率分布を取得してもよい。
第2ステップS2において、取得された存在確率分布に基づいて、移動物体の存在確率の合計値が第1閾値TH1以上となるように第1領域3が抽出される。当該第1領域の抽出は、制御装置25によって行われる。第1領域の抽出方法としては、図6乃至図8、図10A乃至図11、図6および図15乃至図17、または、図18A乃至図19を用いて説明した上述の方法のうちのいずれかが採用されてもよい。
第3ステップS3において、第1領域3がレーザ光11aによって走査されるようにレーザ光11aが出射される。レーザ光11aは、上述のレーザ装置21を用いて出射される。なお、第1領域内の各セル6が順番に走査されるように、制御装置25は、上述の出射方向調整機構21cに、出射方向調整指令を送信する。出射方向調整機構21cは、出射方向調整指令を受信すると、レーザ光11aの光軸が照射されるべきセルに向かうように、照射光学系21bの駆動部を駆動させる。レーザ光11aが、移動物体2に照射されると、移動物体2により反射レーザ光11bが生成される。
第4ステップS4において、レーザ光受光部24が反射レーザ光11bを受光する。反射レーザ光11bの受光により、移動物体2が検出される。より具体的には、レーザ光受光部24によって受光された反射レーザ光11bに対応するデータが制御装置25等の解析装置に送信され、当該解析装置によるデータの解析により、移動物体2の検出が確認される。なお、反射レーザ光11bの受光は、第3ステップS3の実行中に行われる場合もあるし、第3ステップS3の実行後に行われる場合もある。
実施形態における移動物体観測方法では、移動物体の存在確率の高い領域(第1領域)が優先して捜索される。このため、移動物体の観測確率を向上させることが可能である。
なお、上述の移動物体観測方法において、上述の第1領域3は、レーザ光11aによる走査期間中、固定された領域であってもよいし、移動物体2の移動と共に移動する領域であってもよい。また、上述の移動物体観測方法において、第1領域3は、レーザ光11aによって複数回走査されてもよい。2回目の走査で走査される第1領域3aの形状は、1回目の走査で走査された第1領域3の形状と同じであってもよいし、多少異なっていてもよい。2回目の走査期間における移動物体の存在確率分布の形状が、1回目の走査期間における移動物体の存在確率分布の形状と、相対的に大きく異なる場合には、2回目の走査で走査される第1領域3aの形状は、1回目の走査で走査された第1領域3の形状と異なる方がよい。
なお、第1領域3を複数回走査する場合には、図13、図21に示されるように、ビームスポット径または第1閾値TH1を変更することにより、照射回数期待値(移動物体がレーザ光によって照射される回数の期待値)が変わる。このため、制御装置25は、第1領域3の抽出に先立ち、ビームスポット径および/または第1閾値の決定処理を実行してもよい。すなわち、制御装置25は、移動物体2の存在確率分布に基づいて、照射回数期待値が最適(例えば最大)となるように、ビームスポット径および/または第1閾値TH1を決定する。例えば、制御装置25が、第1閾値TH1と、照射回数期待値と、ビームスポット径と、軌道の広がりとの関係を示す第2の関連付けデータを予め取得しておき、制御装置25は、移動物体2の存在確率分布にマッチする軌道の広がりと、第2の関連付けデータとに基づいて、照射回数期待値が最適化されるように、第1閾値TH1および/またはビームスポット径を決定するようにしてもよい。決定された第1閾値TH1は、第1領域3の算出のために使用される。また、決定されたビームスポット径が実現されるように、制御装置25は、ビームスポット径調節機構21dに調節指令を送信する。ビームスポット径調節機構21dは、調節指令を受信すると、第1領域3に到達するレーザ光のビームスポット径が決定されたビームスポット径となるように、照射光学系21bの駆動部を駆動させる。
例えば、移動物体の存在確率分布の広がりが大きい場合(移動物体の存在位置の推定精度が低い場合)には、移動物体の存在確率分布の広がりが小さい場合(移動物体の存在位置の推定精度が高い場合)と比較して、第1閾値の値が小さく設定された方が、移動物体の観測確率(検出確率)が向上する場合がある。このため、制御装置25は、移動物体の存在分布確率の広がりが大きくなるにつれて、第1閾値の値が小さくなるように第1閾値の値を変更する第1閾値変更処理を実行するように構成されてもよい。
(第2の実施形態)
図24は、第2の実施形態の移動物体観測システム10による観測の様子を模式的に示す図である。第2の実施形態の移動物体観測システム10は、第1の実施形態の移動物体観測システムと同じ構成要素を備える。移動物体観測システム10の各構成要素についての繰り返しとなる説明は省略する。第2の実施形態では、複数回の観測期間が設定されている。第1の観測は、時刻OT1から時刻OT2の間に実行される観測である。また、第2の観測は、時刻OT3から時刻OT4の間に実行される観測である。
第1の観測は、図23を参照して説明された移動物体観測方法を用いて実行される。簡単に説明すると、制御装置25は、第1観測期間における移動物体2の存在確率分布に基づいて、移動物体の存在確率の積分値(合計値)が第1閾値TH1以上となるように第1領域3を抽出する第1領域抽出処理を実行する。そして、制御装置25は、第1領域3がレーザ光によって走査されるように、出射方向調整機構21cに出射方向調整指令を送信する。
第2の観測は、図23を参照して説明された移動物体観測方法を用いて実行される。簡単に説明すると、制御装置25は、第1の観測が実行される第1観測期間とは異なる第2観測期間における移動物体の存在確率分布に基づいて、移動物体2の存在確率の積分値(合計値)が第2閾値TH2以上となるように第2領域103を抽出する第2領域抽出処理を実行する。なお、第2閾値TH2の設定は、上述の第1閾値TH1の設定と同様にして行われる。そして、制御装置25は、第2領域103がレーザ光によって走査されるように、出射方向調整機構21cに出射方向調整指令を送信する。
第1の観測と第2の観測との間には、観測インターバルが設定されてもよい。観測インターバルは、典型的には、上述の走査間インターバルよりも長い。例えば、観測インターバルは、3秒以上200秒以下の中から選択された期間であってもよい。観測インターバルは、第1の観測の終了時刻OT2(例えば、レーザ光11aの出射を終了した時刻)と、第2の観測の開始時刻OT3(例えば、レーザ光11aの出射を再開した時刻)との間の期間である。第2の実施形態では、複数回の観測期間が設定されることにより、移動物体の観測確率(検出確率)が向上する。なお、第1観測期間と第2観測期間とは、観測確率が高い時間領域となるように制御装置25によって決定されてもよい。例えば、制御装置25は、移動物体観測システム10の周囲の環境に応じて、第1観測期間と、第2観測期間と、第1の観測と第2の観測との間の観測インターバルを決定してもよい。周囲の環境は、例えば、上空における雲の分散状況、太陽の方位、航空機の運航状況、その他の障害物の分布等である。例えば、移動物体観測システム10のレーザ装置21と、ある第1時刻において移動物体の存在確率が高い領域との間に雲が存在する場合、制御装置25は、第1の観測の期間または第2観測期間(複数の観測期間)中に、当該第1時刻が含まれないように、第1観測期間および第2観測期間(複数の観測期間)を設定する。換言すれば、制御装置25は、第1の時刻が、第1観測期間の前になるか、第2観測期間の後になるか、あるいは、観測インターバル中になるように、第1観測期間および第2観測期間(複数の観測期間)を設定する。この場合、制御装置25は、移動物体2の存在確率分布の時間的変化に加え、他のシステムから気象データ(雲の分散状況の時間的変化)を取得するように構成されていればよい。
代替的に、あるいは、付加的に、移動物体観測システム10のレーザ装置21から、ある第1時刻において移動物体の存在確率が高い領域に向かう直線上あるいは当該直線の近傍に太陽が存在する場合、制御装置25は、第1観測期間または第2観測期間(複数の観測期間)中に、当該第1時刻が含まれないように、第1観測期間および第2観測期間(複数の観測期間)を設定してもよい。この場合、制御装置25は、移動物体2の存在確率分布の時間的変化に加え、太陽の方位の時間的変化のデータを取得するように構成されていればよい。
制御装置25が、移動物体観測システム10の周囲の環境に応じて、第1観測期間と、第2観測期間とを決定する場合、移動物体の観測確率(検出確率)が更に向上する。
なお、第2観測期間における移動物体の存在確率分布(第2確率分布)は、第1の観測の結果(第1観測期間における移動物体の観測結果)を反映して算出された確率分布であってもよい。例えば、第1の観測において、移動物体2が観測されなかった場合、制御装置25によって、第1領域3には、移動物体2が存在しない確率が高いと判断されてもよい。例えば、制御装置25は、存在確率分布(第2確率分布)の算出に際し、第1観測期間の第1領域3に対応する領域(例えば、時刻OT1と時刻OT3との間に、第1領域3が移動物体2の推定速度で移動すると仮定することにより得られる、移動後の第1領域)における移動物体の存在確率を下げる処理を実行してもよい。図25に、第1の観測結果を反映して存在確率分布を算出する上述の例を示す概念図を示す。図25に記載の例では、第2観測期間においてレーザ光11aによって走査される第2領域103(斜線で示される領域)は、移動後の第1領域(第1領域3に対応する領域)を除外した領域である。
代替的に、あるいは付加的に、第1の観測において、移動物体2が観測されなかった場合、制御装置25は、第2観測期間においてレーザ光11aによって走査される第2領域103が、第1観測期間においてレーザ光11aによって走査された第1領域3よりも広い領域となるように、第2領域103を設定してもよい。例えば、制御装置25は、上述の第2閾値TH2が、上述の第1閾値TH1よりも小さな値となるよう第2閾値TH2を設定する。その結果、第2領域103が第1領域3よりも広くなる。図26に、第1の観測結果を反映して第2領域の大きさを拡大する上述の例を示す概念図を示す。図26に記載の例では、第2観測期間においてレーザ光11aによって走査される第2領域103(斜線で示される領域)は、移動後の第1領域(第1領域3に対応する領域)を含み、移動後の第1領域よりも広い領域である。
また、第1の観測において、移動物体2が観測された場合、制御装置25は、第2観測期間においてレーザ光11aによって走査される第2領域103が、第1観測期間においてレーザ光11aによって走査された第1領域3よりも小さな領域となるように、第2領域103を設定してもよい。すなわち、第1観測期間における観測結果に基づいて、新たに移動物体2の存在位置データが算出された場合、第2観測期間においては、当該存在位置データに基づいて、より小さな領域が集中的に観測される。
なお、第1の観測で移動物体2が観測されたか否かについての分析に時間を要する場合、換言すれば、第1の観測で移動物体2が観測されたか否かが、第2観測期間の直前まで不明である場合、第2観測期間においてレーザ光11aによって走査される第2領域103(斜線で示される領域)は、移動後の第1領域(第1領域3に対応する領域)そのものであってもよい。
なお、第1観測期間と第2観測期間の両方において、移動物体2が観測された場合、制御装置25は、第1観測期間における移動物体の存在位置データと、第2観測期間における移動物体の存在位置データとに基づいて、移動物体2の速度を算出することが可能である。また、第1観測期間と第2観測期間の両方において、移動物体2が観測された場合、第1観測期間における移動物体の存在位置データと、第2観測期間における移動物体の存在位置データとに基づいて、制御装置25は、移動物体2の高度が増加中であるか、移動物体2の高度が低下中であるか、あるいは、移動物体2の高度が維持されているかを算出することが可能である。
なお、実施形態では、第1観測期間と第2観測期間に加え、他の観測期間(例えば、第3観測期間等)が設定されてもよい。また、第2観測期間と第3観測期間との間、換言すれば、第2の観測の終了時刻OT4と、第3の観測の開始時刻との間に、第2の観測インターバルが設けられてもよい。第2の観測インターバルは、上述の走査間インターバルよりも、長いインターバルであってもよい。また、第2の観測インターバルは、第1観測期間と第2観測期間との間の観測インターバルと同じ長さの期間であってもよいし、異なる長さの期間であってもよい。
(第3の実施形態)
図27を参照して、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態における移動物体観測システム10は、第1の実施形態における移動物体観測システムの構成要素をすべて含む。加えて、第3の実施形態における移動物体観測システム10は、電波観測装置60、および/または、光学観測装置70を備える。電波観測装置60、および/または、光学観測装置70は、移動物体2の存在確率分布を取得するために使用される。
電波観測装置60は、電波(典型的にはマイクロ波)を宇宙空間に向かって放射し、該電波が移動物体2によって反射されて発生した反射波を観測する。一方、光学観測装置70は、移動物体2からの太陽光の反射光を観測する。例えば、光学観測装置70は、地上に設置した天体望遠鏡と撮像装置と備えており、該撮像装置によって移動物体2の画像を取得することにより、移動物体2を観測することができる。
電波観測装置60、および/または、光学観測装置70は、移動物体観測システム10の制御装置25に事前観測情報90a、90bを送信する。事前観測情報は、電波観測装置60、および/または、光学観測装置70(これらは、いずれも事前観測局として機能する)による観測によって得られた情報である。事前観測情報は、移動物体2が観測された時刻と、当該時刻における移動物体2の位置とを含む情報であってもよい。代替的に、事前観測情報は、移動物体2が観測された時刻と、当該時刻における移動物体2の位置および速度を含む情報であってもよい。なお、移動物体の位置情報は、電波観測装置60、または、光学観測装置70から移動物体2に向かう方向の方位角情報および迎角情報を含んでいてもよい。また、移動物体の位置情報は、電波観測装置60または光学観測装置70から、移動物体2までの距離情報を含んでいてもよい。
電波観測装置60、および/または、光学観測装置70それぞれによる観測における観測領域は、例えば、他事業者から得た観測情報である外部事前観測情報によって決められてもよい。外部事前観測情報に移動物体2の推定軌道範囲80(即ち、移動物体2の軌道が存在すると推定される範囲)が示されている場合には、推定軌道範囲80から電波観測装置60および光学観測装置70それぞれによる観測の観測時刻において移動物体2が存在すると推定される位置の範囲が算出され、算出された当該範囲に合わせて電波観測装置60および光学観測装置70それぞれによる観測の観測領域が決定されてもよい。また、外部事前観測情報に直接に移動物体2の推定軌道範囲80が示されていない場合には、該外部事前観測情報から推定軌道範囲80が算出されてもよい。
続いて、電波観測装置60、および/または、光学観測装置70によって得られた事前観測情報90a、90bに基づいて、制御装置25は、移動物体2の移動物体2の存在確率分布を算出する。移動物体2の存在確率分布は、少なくとも第1観測期間(または、第1観測期間および第2観測期間)における移動物体2の存在確率分布を含む。移動物体2の存在確率分布は、時間の関数であってもよい。
なお、移動物体2の存在確率分布の算出においては、電波観測装置60、および/または、光学観測装置70によって得られた事前観測情報90a、90bに加え、他事業者から得られた観測情報である外部事前観測情報が用いられてもよい。また、移動物体2の存在確率分布の算出においては、電波観測装置60、および、光学観測装置70によって得られた事前観測情報90a、90bの一方の代わりに他事業者から得えられた外部事前観測情報が用いられてもよい。代替的に、移動物体2の存在確率分布の算出においては、電波観測装置60、および、光学観測装置70を用いずに、他事業者から得られた外部事前観測情報に基づいて、存在確率分布の算出が行われてもよい。
図27に記載の例では、レーザ装置21を用いた移動物体2の観測の直前(例えば、24時間以内)に、電波観測装置60、および/または、光学観測装置70を用いて、事前観測情報90a、90bを取得することが可能である。直前に取得された事前観測情報90a、90bを用いる場合、移動物体2の存在位置の推定精度を高くすることが可能である。よって、直前に取得された事前観測情報90a、90bを用いて、移動物体2の存在確率分布の算出する場合、算出された移動物体2の存在確率分布の広がりは小さくなる傾向がある。よって、図27に記載の例では、移動物体2の存在確率分布の広がりが小さくなるため、レーザ光11aによる走査対象範囲(第1領域3の大きさ)を絞ることが可能となる。その結果、移動物体2の観測確率(検出確率)が向上する。
(変形例)
変形例における移動物体観測システム10は、第1の実施形態における移動物体観測システムの構成要素をすべて含む。すなわち、移動物体観測システムは、図1、および、図2Aまたは図2Bに記載の構成要素を含む。上述の実施形態では、制御装置25が、移動物体の存在確率分布に基づいて、移動物体の存在確率の合計値が第1閾値TH1以上となるように第1領域3を抽出する領域抽出処理を実行する例について説明した。これに対し、変形例では、制御装置25は、移動物体の検出確率分布に基づいて、移動物体の検出確率の合計値が第1閾値TH1以上となるように第1領域3を抽出する領域抽出処理を実行する。換言すれば、上述の実施形態の説明において、「存在確率分布」および「存在確率」が、それぞれ、「検出確率分布」および「検出確率」に読み替えれば、変形例における移動物体観測システムの説明となる。
移動物体2の存在確率分布と、他の移動物体2の存在確率分布とが同じである場合であっても、移動物体2の大きさ、高度、形状、姿勢、材質等が、他の移動物体2の大きさ、高度、形状、姿勢、材質等と異なる時、移動物体2の検出確率分布と、他の移動物体2の検出確率分布とは異なる。このため、制御装置25が、移動物体2の検出確率分布に基づいて、移動物体の検出確率の合計値が第1閾値TH1以上となるように第1領域3を抽出する領域抽出処理を実行する場合、制御装置25は、移動物体の存在確率分布と、移動物体の物理パラメータ(例えば、大きさ、高度、形状、姿勢、材質等)とに基づいて、移動物体2の検出確率分布を算出するようにすればよい。例えば、移動物体2の大きさが小さい程、移動物体2の検出確率は小さくなる。また、移動物体2の高度が高い程、移動物体2の検出確率は小さくなる。また、移動物体2の形状、姿勢、材質等によって、RCS(Radar Cross Section)が小さくなればなる程、移動物体2の検出確率は小さくなる。
移動物体の物理パラメータは、上述の事前観測情報90a、90b(例えば、移動物体2の画像データ)に基づいて取得されてもよいし、複数の移動物体2の物理パラメータ情報(例えば、大きさ情報、高度情報、形状情報、姿勢情報、材質情報等)を記憶した記憶装置(図示せず)から、観測された移動物体に対応する物理パラメータを抽出することにより取得されてもよい。
変形例における移動物体観測システムでは、移動物体2のRCSが小さな場合であっても、移動物体の観測確率(検出確率)を向上させることが可能となる。
本発明は上記各実施形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施形態は適宜変形又は変更され得ることは明らかである。また、各実施形態又は変形例で用いられる種々の技術は、技術的矛盾が生じない限り、他の実施形態又は変形例にも適用可能である。