JP6468451B2 - 往復動ピストンエンジン - Google Patents

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Description

本発明は、気筒内を往復動するピストンを備えた往復動ピストンエンジンに関する。
従来より、エンジンの燃費性能を高めるために機械損失を低減することが検討されている。
例えば、特許文献1には、気筒内を往復動するピストンを備えた往復動ピストンエンジンにおいて、ピストンの外周壁と気筒の内周壁との間に生じる摩擦抵抗を小さくし、これにより機械損失の低減を図ったものが開示されている。
具体的には、特許文献1のエンジンでは、前記摩擦抵抗を低減するためにピストンを気筒の内周壁から浮揚させるべく、微小な凹部が複数形成された被膜層をピストンの外周壁に設けてこれら凹部に動圧が生じるように構成されている。
特開2016−121597号公報
しかしながら、前記各凹部に生じる動圧だけでは、ピストンの往復動時、特に、ピストンに係る負荷が高い場合において、ピストンを気筒の内周壁から適切に浮揚させることが困難となる。このため、機械損失の低減には限界がある。
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、ピストンと気筒との間の摺動抵抗を低減させることができる往復動ピストンエンジンを提供することにある。
前記課題を解決するために、本発明は、内側に燃焼室が形成された気筒と、当該気筒内を往復動するピストンと、当該ピストンにピストンピンを介して当該ピストンピンの軸周りに搖動可能に連結されるコンロッドとを備えた往復動ピストンエンジンにおいて、前記ピストンは、前記気筒の内周面と隙間をおいて対峙する外周面を備え、前記気筒の内周面と前記ピストンの外周面との間には潤滑性流体が介在され、前記ピストンの外周面は、その往復動方向に沿った断面において前記気筒の内周面側に張り出す張出形状部を有し、前記張出形状部は、前記ピストンの摺動方向に離間して複数設けられ、且つ、前記ピストンの摺動方向について前記ピストンピンを挟む位置にそれぞれ設けられており、前記張出形状部は、最も張り出した部分となる頂部と、この頂部の前記ピストンの往復動方向の上流側と下流側それぞれ配置されて前記気筒の内周面に対して最も離間した位置となる底部とを含む弓形形状に形成されており、前記張出形状部において、前記頂部における前記隙間を最小隙間h1とし、前記底部における前記隙間を最大隙間h2とするとき、h2/h1=1.5〜5.0、の範囲に設定されており、前記張出形状部は、前記ピストンの外周面の全周にわたって設けられている、ことを特徴とする往復動ピストンエンジンを提供する(請求項1)。
このエンジンによれば、ピストンの外周面に前記張出形状部を設け、且つ、その寸法を前記のように設定することで、ピストンの往復動時において、その移動方向の下流側から張出形状部と気筒の内周面との間に流入した潤滑性流体を、張出形状部の頂部付近と気筒の内周面との間に閉じ込めることができる。そして、この潤滑性流体によって、張出形状部およびピストンの外周面を気筒の内周面に対して浮揚させることができる。特に、張出形状部がピストンの外周面の全周に設けられているため、潤滑性流体をより確実に張出形状部の頂部付近に閉じ込めることができる。従って、前記浮揚力を高めて、ピストンと気筒との間の摺動抵抗を低減できる。
しかも、この構成によれば、ピストンがその往復動時に首振り(ピストンがピストンピンの軸回りに揺動したときに)したときに、摺動方向の複数の位置で浮揚力を発生させることができ、効果的に気筒の内周面とピストンの外周面との接触を回避することができる。従って、摺動抵抗をより確実に低減できる。
特に、前記張出形状部が、前記ピストンの摺動方向について前記ピストンピンを挟む位置にそれぞれ設けられていることで、より効果的に、ピストンの首振り時における気筒の内周面とピストンの外周面との接触を回避することができる。
前記構成において、前記張出形状部は、前記ピストンの外周面の当該ピストンの摺動方向の両端部に設けられており、前記潤滑性流体は空気であるのが好ましい(請求項)。
この構成によれば、ピストンの首振り時に、気筒の内周面に最も近づきやすいピストンの摺動方向の両端部と気筒の内周面との接触を回避することができる。そのため、摺動抵抗をより確実に低減できる。しかも、この構成では、潤滑性流体が空気であるため、潤滑性流体が燃焼室に流入することに伴って排ガス性能が悪化するのを回避できる。従って、前記のように張出形状部をピストンの燃焼室側の端部に設けて摺動抵抗を低減しつつ、排ガス性能の悪化を回避できる。また、張出形状部がピストンの摺動方向について互いに離間して設けられていることで、張出形状部をピストンの外周面全体に設ける場合に比べてピストンを軽量化することができる。
前記構成において、前記ピストンのうち外周面に前記張出形状部が設けられた部分の材質と、前記気筒の内周面の材質とは、互いに同一であるのが好ましい(請求項)。
このようにすれば、熱膨張差に起因する前記最小隙間h1および前記最大隙間h2の変動を抑制することができ、これらの隙間をより確実に前記の適切な範囲に収めることができる。
前記構成において、前記張出形状部のスラスト側の部分は、前記ピストンの周方向に延びる複数の溝からなるミクロテクスチャ構造部を含み、前記ミクロテクスチャ構造部の前記溝の各々は、前記摺動方向について前記燃焼室と反対側が深く前記燃焼室側が浅くなる傾き面を有するのが好ましい(請求項)。
このようにすれば、ミクロテクスチャ構造部の作用によって、燃焼時において、ピストンのスラスト側の部分であって気筒の内周面に近づきやすい部分をより確実に気筒の内周壁に対して浮揚させることができる。そのため、ピストンと気筒との間の摺動抵抗をより一層低減できる。
具体的には、燃焼に伴うピストンの下降時、前記潤滑性流体は、ピストンの外周面と気筒の内周面との間を反燃焼室側から燃焼室側に相対的に流れる。これに対して、前記ミクロテクスチャ構造部が備えるミクロサイズの溝の各々は、反燃焼室側が深く燃焼室側が浅くなる傾き面を有している。そのため、潤滑性流体は、前記傾き面によって比較的広い空間から比較的狭い空間に閉じ込められる動作を繰り返しながら燃焼室側に流れることになり、この閉じ込めの作用により、気筒の内周壁に対してピストンの外周面に大きな浮揚力を生じさせることができる。
ここで、燃焼に伴うピストンの下降時、ピストンには、スラスト側の部分に最も強い横方向の力(気筒の内周壁に近づく方向の力)が加えられるため、スラスト側の部分と気筒との摺動抵抗が高くなりやすい。これに対して、この構成では、ピストンのスラスト側の部分にミクロテクスチャ構造部が設けられている。従って、効果的に気筒とピストンとの摺動抵抗を低減できる。
以上のように、本発明によれば、気筒の内周面に対してピストンをより確実に浮揚させてピストンと気筒との間の摺動抵抗を可及的に低減できる。
往復動ピストンエンジンの、クランク軸と直交する断面における概略断面図である。 図1の要部拡大図であって、シリンダブロック及びピストンの断面図である。 図2のIII−III線断面図である。 ピストンの概略斜視図である。 上側摺動部の周辺を拡大して示した概略断面図である。 張出形状部のプロファイルを説明するための模式図である。 第1摺動面と第2摺動面との間の最小隙間と最大隙間との比である隙間比と、負荷容量係数との関係を示すグラフである。 図2の一部を拡大して示した図である。 図8のIX−IX線における断面を周方向に展開した図である。 ミクロテクスチャ構造部における潤滑性流体の流れを模式的に示した断面図である。 比較例に係るピストンの一部を示した概略斜視図である。 ピストンの首振り運動を説明するための図である。 変形例1に係るミクロテクスチャ構造部を示した断面図である。 変形例2に係るミクロテクスチャ構造部を示した断面図である。
(1)エンジンの全体構造
以下、図面に基づいて本発明の実施形態に係る往復動ピストンエンジンについて説明する。往復動ピストンエンジン100は、気筒2内を往復動するピストン5と、コンロッド8を介してピストン5に連結されたクランク軸7とを備えたエンジンである。気筒2は、円筒面状の内周面を有している。図1は、往復動ピストンエンジン100の、気筒軸X1(気筒2の中心軸)に沿い且つクランク軸7の中心軸(回転中心線)X2と直交する断面における概略断面図である。往復動ピストンエンジン100は、例えば、図1の紙面と直交する方向に複数の気筒2が設けられた直列4気筒の4サイクルエンジンである。図2は、図1の一部を拡大して示した図である。
往復動ピストンエンジン100は、気筒2が形成されたシリンダブロック3、シリンダブロック3に取付けられるシリンダヘッド4を備える。以下では、図1の上下方向であって気筒軸X1に沿う方向、つまり、気筒2に対するピストン5の往復動方向を上下方向といい、シリンダヘッド4側を上、シリンダブロック3側を下として説明する。また、適宜、図1の左右方向を左右方向として説明する。
気筒2内には、ピストン5の冠面5Aと気筒2の内周壁(内周面、以下、適宜、気筒内周壁という)2Aと、シリンダヘッド4の下面とによって燃焼室6が区画されている。シリンダヘッド4には、燃焼室6と連通する吸気ポート9及び排気ポート10が形成されている。なお、図1では、これらポート9、10開口部分を開閉する吸気バルブおよび排気バルブの図示は省略している。また、図1では、シリンダヘッド4に設けられる点火プラグ等の図示も省略している。
ピストン5には、コンロッド8の上端部81が連結されている。具体的には、コンロッド8の上端部81とピストン5とは、クランク軸7の中心軸X2と平行な方向に延びる円筒状のピストンピン59によって連結されており、コンロッド8はピストン5に対してピストンピン59の中心軸(軸)X3回りに搖動可能となっている。
コンロッド8の下端部82には、気筒軸X1と直交する方向に延びるクランク軸7が連結されている(エンジン100が直列多気筒エンジンの場合は、クランク軸7は気筒の配列方向に延びている)。燃焼室6内で燃料と空気の混合気が燃焼すると、ピストン5とコンロッド8とが上下方向に往復動し、これに伴ってクランク軸7がその中心軸X2回りに回転する。
(2)ピストンの詳細構造
図3は、図2のIII−III線に沿う断面の概略図である。図4は、ピストン5の概略斜視図である。
ピストン5は、その上端部を含む上側部分と下端部を含む下側部分とをそれぞれ構成する摺動部51、52と、これらの間に位置する連結部53とを含む。本実施形態では、摺動部51、52と連結部53とは、それぞれピストン5の上下方向のおよそ1/3の部分を構成するようになっている。
連結部53には、ピストンピン59が挿通されるピン孔53aが形成されており、上側の摺動部51と下側の摺動部52とは、ピストンピン59を挟んで上下方向に離間するように配置されている。上側の摺動部51(以下、適宜、上側摺動部51という)は、燃焼室6の底面として機能するピストン冠面5Aを有している。
(2−1)張出形状部
各摺動部51、52は、それぞれ、気筒内周壁2Aと対峙する外周面51S、52Sであってピストン5の往復動に伴って気筒内周壁2Aに沿って上下方向に摺動する外周面51S、52Sを有している。
各摺動部51、52の外周面51S、52Sと気筒内周壁2Aとの間には、それぞれ隙間Gが形成されている。隙間Gを含むピストン5の外周面と気筒内周壁2Aとの間には、潤滑性流体Fが介在している。本実施形態では、潤滑性流体Fは、空気(粘度=1.8×10−5[Pa・s])である。
上側摺動部51と下側の摺動部52(以下、適宜、下側摺動部52という)とは、同じ構造を有しており、以下では、代表して上側摺動部51について説明する。
図5は、図2の一部を拡大した図であって上側摺動部51周辺を示した断面図である。上側摺動部51の外周面である上側摺動面51Sは、上下方向に沿う断面において、気筒内周壁2A側に張り出す張出形状部Mを有している。ここでは、張出形状部Mが弓形形状を有する例を示している。また、本実施形態では、上側摺動面51S全体が気筒内周壁2A側に張り出しており、この全体が張出形状部Mとして機能している。
張出形状部Mは、上下方向の中央部に、最も気筒内周壁2A側に張り出したマクロ側頂部(頂部)P1を有し、上下方向の両端部に、最も気筒内周壁2A側への張り出しが小さいマクロ側底部(底部)Q1、Q2を有している。なお、図5等では理解を容易にするために、張出形状部Mの弓形形状を大きく誇張して描いており、実際には目視では判別困難なミクロンオーダーの張り出しを有する弓形形状である。
張出形状部Mにおいて、ピストン5が往復動すると、周辺に存在する潤滑性流体Fは上側摺動面51Sと気筒内周壁2Aとの間の隙間Gに引き込まれる。行き場を失った潤滑性流体Fは、上側摺動面51Sと気筒内周壁2Aとの間を拡大させる方向に抗力を生じさせる。この抗力が、上側摺動面51Sを気筒内周壁2Aから浮揚させるように作用する。
より具体的には、上側摺動面51Sに上方向の速度U1が与えられたときには、矢印Y2で示すように上側のマクロ側底部Q2からマクロ側頂部P1に向かって潤滑性流体Fが隙間Gに入り込み、上側摺動面51Sと気筒内周壁2Aとの間に摺動浮揚力が生じる。一方、上側摺動面51Sに下側の速度U2が与えられたときには、矢印Y1で示すように下側のマクロ側底部Q1からマクロ側頂部P1に向かって潤滑性流体Fが隙間Gに入り込み、これにより、上側摺動面51Sと気筒内周壁2Aとの間に摺動浮揚力が生じる。
このように、張出形状部Mは、摺動部51、52の上下方向の全長を利用して摺動浮揚力を発生させる。
<マクロプロファイル>
張出形状部Mによる摺動浮揚の作用を効果的に発現させるためには、そのプロファイルを適正化する必要がある。このプロファイルにおいて重要となるのが、マクロ側頂部P1と気筒内周壁2Aとの間の距離である最小隙間h1と、マクロ側底部Q1、Q2と気筒内周壁2Aとの間の距離である最大隙間h2との比である隙間比h2/h1である。また、最小隙間h1を、最適な範囲に設定することも肝要となる。この点を、図6の模式図を参照して説明する。
以下の説明では、所定の被摺動部材Aの被摺動面SAに沿って、傾き面からなる摺動面SBを有する摺動部材Bが摺動方向H1へ摺動するときについて説明する。摺動面SBは、被摺動面SAに最も近い部分となる頂部Pと、頂部Pの摺動方向H1の下流側に配置され被摺動面SAに対して最も遠い底部Qとを有し、摺動方向H1の上流側から下流側に向かって被摺動面SAから徐々に離間する形状を有している。
摺動部材Bが摺動方向H1へ速度Uで摺動しているとき、摺動面SBと被摺動面SAとの間に生じる摺動浮揚力Wは、次の式(1)により求めることができる。
式(1)において、ηは摺動面SBと被摺動面SAとの間に介在する潤滑性流体Fの粘度、Bは摺動面SBの摺動方向の長さ(図6における頂部Pから底部Qまでの長さ)、Cは摺動面SBの摺動方向H1と直交する方向の長さ(図6の紙面と直交する方向の長さ)、Uは摺動面SBの摺動速度である。h1は、最小隙間であって、頂部Pと被摺動面SAとの間の距離、つまり、摺動面SBと被摺動面SAとの間の隙間Gの最小値である。mは、前述の隙間比であって、底部Qと被摺動面SAとの間の距離、つまり、隙間Gの最大値を最大隙間h2としたときの、最小隙間h1と最大隙間h2との比率であり、m=h2/h1で表される。
式(1)において、第2項目を負荷容量係数Kwとすると(Kw=6/(m−1){lnm−2(m−1)/(m+1)})、摺動浮揚力Wはこの負荷容量係数Kwに比例することになる。
図7は、負荷容量係数Kwと隙間比mとの関係を示したグラフである。このグラフに示されるように、摺動浮揚力Wは、隙間比mが2.2のときに最大となり、隙間比mがこの値から離間するほど小さくなる。この知見より、隙間比mを2.2近傍に設定すれば高い摺動浮揚力Wを得ることができる。具体的には、隙間比mを1.5〜5.0の範囲とすることで、摺動浮揚力Wを、図7のラインC以上とすることができる。この場合、摺動浮揚力Wとして、その最大値(隙間比mが2.2のときの値)の60%以上となる高い値を得ることができる。
式(1)に基づくと、最小隙間h1が小さいほど摺動浮揚力Wは大きくなる。しかし、小さすぎる最小隙間h1は、被摺動面SAと摺動面SBとの間に生じる摩擦係数を大きくする。つまり、最小隙間h1について、前記摩擦係数を小さく抑えることのできる最適な範囲が存在する。前記摩擦係数の大小は、摺動面SBの摺動浮揚時における摩擦の大小に相当し、摩擦係数が小さいほど良好な摺動浮揚が実現できる。この観点から、望ましい最小隙間h1は、0.5μm〜2.0μmの範囲である。h1が2.0μmを超過すると、上掲の式(1)より、摺動浮揚力Wが小さくなる傾向が顕著となる。一方、h1が0.5μmを下回ると、前記摩擦係数が大きくなり、良好な摺動浮揚を阻害する傾向が顕著となる。
以上より、上側摺動部51、下側摺動部52に設けられた張出形状部Mのプロファイルとしては、
隙間比m=h2/h1=1.5〜5.0
の範囲に設定することが望ましい。さらには、
最小隙間h1=0.5μm〜2.0μm
の範囲に設定することが望ましい。最大隙間h2、及び最大隙間h2と最小隙間h1との差分h2−h1である山高さDAは、h1及びmが設定されることにより、自ずと決定される。好ましい山高さDAは、(h1_min×m_min−h1_min)〜(h1_max×m_max−h1_max)より、0.25μm〜8.0μmの範囲である。
なお、望ましい最小隙間h1は、摺動部材Bつまり張出形状部Mおよびピストン5が現に摺動動作を実行している際に望まれる隙間である。そのため、ピストン5が摺動動作に伴って熱膨張した状態で上記の最小隙間h1が確保されるよう、常温設計値を定めることが望ましい。
また、張出形状部Mと気筒内周壁2Aとの間に生じる熱膨張差が大きいと、最小隙間h1および最大隙間h2の変動が大きくなってしまう。そこで、本実施形態では、張出形状部Mを備える各摺動部51、52の材質と、気筒内周壁2Aの材質とを、互いに同一としている。
また、気筒内周壁2Aは、平滑度が高い面であることが望ましい。換言すると、最小隙間h1は、気筒内周壁2Aの表面粗さよりも大きい値に設定されていることが望ましい。これは、摺動浮揚時において、摺動部51、52の外周面51S、52Sと気筒内周壁2Aとが接触しないようにするためである。例えば、気筒内周壁2Aの表面粗さ(算術平均粗さRa)が0.6μmである場合、最小隙間h1を0.5μmに設定すると、摺動部51、52の外周面51S、52Sが気筒内周壁2Aに接触し得る。この接触を回避できるよう、最小隙間h1は、気筒内周壁2Aの表面粗さの2倍程度以上に設定することが望ましい。
このようにプロファイルが設定された張出形状部Mは、各摺動部51、52の周方向全体(ピストン5の周方向の全体)にわたって設けられている。つまり、各摺動部51、52の上下方向の中央部分はその全周にわたって最も気筒内周壁2A側に張り出しており、各摺動部51、52の外周面51S、52Sは、その全周にわたってこの中央部分から上方および下方に向かって気筒内周壁2Aから徐々に離間している。
(2−2)ミクロテクスチャ構造部
各摺動部51、52の外周面51S、52Sのうちスラスト側の部分には、張出形状部Mに加え、ピストン5の往復動時、つまり、気筒内周壁2Aに対する各摺動部51、52の上下方向の摺動時に、これら外周面51S、52Sを気筒内周壁2Aに対して浮揚させるためのミクロテクスチャ構造部40が備えられている。つまり、各摺動部51、52の外周面51S,52Sのうちスラスト側の部分については、張出形状部Mのマクロプロファイルによって創出される浮揚をアシストするために、ミクロテクスチャ構造部40が重畳的に配置されている。
図1の例では、燃焼室6内での燃焼に伴って上死点付近に位置するピストン5に下向きの力が加えられると破線に示すようにコンロッド8の下端部82がピストンピン51の中心軸X3に対して右側に移動してクランク軸7が時計回りに回転するようになっている。従って、図1において、左側がクランク軸7の回転方向の上流側およびスラスト側であり、右側がクランク軸7の回転方向の下流側および反スラスト側である。つまり、上死点付近に位置するピストン5に下向きの力が加えられたとき、コンロッド8には、この力のうち右斜め下方に延びるコンロッド8の軸線に沿う右斜め下向きの成分が加えられ、ピストン5には左向きの力(いわゆる横方向に作用するスラスト力)が加えられることになる。従って、ピストン5は、爆発力を受けて下降するときに、前記スラスト力の作用によってスラスト側に変位しやすく、ピストン5のうちスラスト側の部分は特に気筒内周壁2Aと接触しやすい。そこで、本実施形態では、前記のように、各摺動部51、52の外周面51S、52Sのうちスラスト側の部分にミクロテクスチャ構造部40を設けて、摺動部51、52の外周面51S、52Sのスラスト側の部分により高い浮揚力を付与するようにしている。
ここで、本実施形態では、図2に示す断面において、ピストンピン51の中心軸X3は、ピストン5の中心線X4に対して右側つまり反スラスト側にずれており、燃焼の爆発力が効果的にクランク軸7に伝達されるようになっている。つまり、ピストン5が上死点付近において前記爆発力を受けて押し下げられるとき、図1および図2に示す断面において、コンロッド8の軸線はピストンピン51の中心軸X3上の点から右斜め下側に傾斜する。そのため、ピストンピン51の中心軸X3を前記のように配置すれば、ピストン5が前記のように押し下げられる際に、爆発力を受けるピストン5の冠面5Aとコンロッド8の軸線とのなす角度がより直角に近くなるように、ピストン5を傾けること(図1および図2において反時計回りであってクランク軸7の回転方向と反対方向に傾けること)ができ、コンロッド8およびクランク軸7に爆発力を効率よく伝達することができる。
ただし、このように構成すると、ピストン5がよりスラスト側に変位しやすくなる。従って、この観点からも本実施形態では摺動部51、52の外周面51S、52Sのスラスト側の部分により高い浮揚力を付与するようにしている。換言すれば、ミクロテクスチャ構造部40を摺動部51、52の外周面51S、52Sのスラスト側の部分に設けてこの部分の浮揚力を高めることで、クランク軸7に爆発力を効率よく伝達しながら、摺動部51、52の外周面51S、52Sと気筒内周壁2Aとの間の摺動抵抗を小さく抑えるようにしている。
本実施形態では、前記のように上側摺動部51と下側摺動部52とは互いに同じ構造を有しており、それぞれに形成されるミクロテクスチャ構造部40も同じ構造を有している。
ミクロテクスチャ構造部40は、図3に示すように、各摺動部51、52の外周面51S、52Sのうち左端部となる部分R1(クランク軸7の中心軸X2および上下方向と直交する方向において、上死点からピストン5が下降した際にコンロッド8の下端部82が移動する側と反対側の端部)からピストン5の周方向の両側に延びる領域に設けられている。例えば、前記部分R1から周方向一方側および他方側に向かって30度を超えるまでの領域にミクロテクスチャ構造部40が設けられている。なお、この角度θ10は30度に限らず例えば90度以下の所定の角度に設定される。
一方、本実施形態では、上下方向については、ミクロテクスチャ構造部40は各摺動部51、52の全体にわたって設けられている。
図8は、図2の一部を拡大した図であってミクロテクスチャ構造部40を拡大して示した断面図である。図9は、図8のIX−IX線における断面を周方向に展開した図である。
ミクロテクスチャ構造部40は、各摺動部51、52に形成されたピストン5の周方向(つまり上下方向と直交する方向)に延びる複数の溝41からなる。各溝41は、ミクロンオーダーの溝幅を有する微小な溝であり、上下方向に所定のピッチで配列されている。なお、溝41の延びる方向は、上下方向に対して完全に直交する方向でなくとも良く、後述する浮揚の効果が得られる限りにおいて前記直交方向から傾いていても良い。例えば、前記直交方向に対して10°〜20°程度傾いた方向に延びる溝41であっても良い。
<溝の構造及び作用>
この実施形態では、ミクロテクスチャ構造部40が備える複数の溝41は、上下方向に沿う断面において、鋸歯形状を形成している。
具体的には、気筒2の内周壁2Aは、上下方向に沿う断面において上下方向に延びる面であり、溝41の各々は、気筒内周壁2Aに最も近い部分であるミクロ側頂部42と、最も遠い部分であるミクロ側底部43と、ミクロ側頂部42とミクロ側底部43との間の傾き面44とを備える。傾き面44は、下側(反燃焼室側)が深く、上側(燃焼室側)が浅くなる傾き面である。なお、図8、図10における上流および下流は、ピストン5が下降しているときのピストン5の移動方向の上流および下流を表している。
一つの溝41の開口縁は、上側の開口縁である上側縁部41Uと下側の開口縁である下側縁部41Dとを含む。これら縁部41U、41Dは、上下方向に隣接する一対のミクロ側頂部42でもある。換言すると、一つの溝41のミクロ側頂部42が、この一つの溝41の上側に隣接する溝41の下側縁部41Dを兼ねている。つまり、隣接する溝41間にプラトー部のような平面部は存在せず、複数の溝41が上下方向に連設されている。従って、溝ピッチL1は、上側縁部41Uと下側縁部41Dとの間の上下方向の長さ(溝幅)と同じである。
溝41は、下側縁部41Dとミクロ側底部43との間の第1面45と、上側縁部41Uとミクロ側底部43との間の第2面46とを有している。第1面45は気筒内周壁2Aと直交して、ピストン5の周方向に延びる平面である。第2面46は、気筒2の内周壁2Aに対して傾きを持ちピストン5の周方向に延びる平面である。ただし、第2面46は、第1面45のような直交面ではなく、比較的緩い傾きを持つ平面である。本実施形態では、第2面46が前述の傾き面44である。また、第2面46(傾き面44)の上下方向の幅が溝幅(溝ピッチL1)と一致している。
複数の溝41は、微小な切削刃を用いた各種の切削加工によって形成することができる。例えば、ピストン5を旋盤で回転させながら切削刃を摺動部51、52の外周面51S、52Sに当接させることで、必要な溝41を形成することができる。なお、摺動部51、52の外周面51S、52Sの一部の領域にのみ溝41を設ける場合には、微小な切削刃を楕円又は円の軌跡を描きながら摺動部51、52の外周面51S、52Sに当接させる楕円振動切削加工によって、必要な溝41を形成することができる。
図10は、図8に対応する図であって、ピストン5の下降時の潤滑性流体Fの流れFAを模式的に示した断面図である。ピストン5が下方に移動すると、気筒内周壁2Aと摺動部51、52の外周面51S、52Sとの間の隙間Gには、それぞれ潤滑性流体Fがピストン5の移動方向の下流側である下側から上側へ向けて相対的に流れ込み、隙間Gには下側から上側へ流れる流れFAが形成される。この流れFAは層流である。
ここで、溝41の各々は、前記のように下側が深く上側が浅くなる傾き面44を有する。従って、ピストン5の下降時において、前記層流FAは、比較的広い空間から比較的狭い空間に閉じ込められる動作を繰り返しながら流れる。つまり、上側に向かうに連れて気筒内周壁2Aとの隙間Gを狭くする傾き面44によって、流れFAは徐々に狭い空間へ閉じ込められ、密度が高められる。このような閉じ込めの作用により、摺動部51、52の外周面51S、52Sには気筒内周壁2Aから離間する方向の力つまり気筒内周壁2Aに対して浮揚する大きな浮揚力が付与されることになる。そして、これにより、摺動部51、52の外周面51S、52Sと気筒内周壁2Aとの間の摺動抵抗が低減される。
特に、本実施液体では、前記のようにピストン5が下方に移動する際に潤滑性流体Fが気筒内周壁2Aと摺動部51、52の外周面51S、52Sとの間に閉じ込められるようになっており、燃焼に伴ってピストン5が下降した際の摺動抵抗をミクロテクスチャ構造部40により低減することができる。
<ミクロテクスチャ構造部のプロファイル>
このマクロプロファイルについても、図6、図7及び式(1)に示した技術思想を適用することができる。すなわち、ミクロ側頂部42と気筒内周壁2Aとの間の距離を最小隙間h3とし、ミクロ側底部43と気筒内周壁2Aとの間の距離を最大隙間h4とするとき、その隙間比m=h4/h3を、1.5〜5.0の範囲に設定することが望ましい。なお、最小隙間h3は、自ずと張出形状部Mについての最小隙間h1と同じく0.5μm〜2.0μmとなる。また、最大隙間h4及び溝深さD(h4−h3)は、最小隙間h3及び隙間比mが設定されることにより、自ずと決定される。
また、このミクロプロファイルに関しても、最小隙間h3は、気筒内周壁2Aの表面粗さよりも大きい値、例えば、気筒内周壁2Aの表面粗さの2倍程度以上に設定することが望ましい。
また、複数の溝41の溝ピッチL1は、1μm〜1mmの範囲、好ましくは5μm〜100μmの範囲に設定されていることが望ましい。短すぎる溝ピッチL1及び長すぎる溝ピッチL1を持つ溝41からなるミクロテクスチャ構造部40は、いずれも前述の閉じ込めの作用を良好に発揮することができない。上記の範囲に溝ピッチL1を設定することで、大きい浮揚力を発生させることが可能となる。
(3)作用等
以上のように、本実施形態では、摺動部51、52の外周面51S、52Sに前記張出形状部Mを設け、且つ、その最小隙間h1および隙間比mを前記のように設定することで、ピストン5の上方および下方への移動時において、その移動方向の下流側から張出形状部Mと気筒内周壁2Aとの間に流入した潤滑性流体Fを、張出形状部Mのマクロ側頂部P1付近と気筒内周壁2Aとの間に閉じ込めることができる。そして、これによって、張出形状部Mおよび摺動部51、52の外周面51S、52Sを気筒内周壁2Aに対して浮揚させることができる。そのため、ピストン5と気筒2との間の摺動抵抗を低減できる。
しかも、張出形状部Mが、摺動部51、52の外周面51S、52Sの全周にわたって設けられている。そのため、前記摺動抵抗をより確実に低減できる。
具体的には、前記のように、摺動部51、52の上下方向の移動に伴って移動方向の下流側のマクロ側底部Q1またはQ2からマクロ側頂部P1に向かって潤滑性流体Fが流入し、この潤滑性流体Fがマクロ側頂部P1付近において閉じ込められることで、前記浮揚力が発生するようになっている。そのため、仮に、図11に示すように、張出形状部Mがピストン5の外周面の周方向の一部にしか設けられていない場合には、マクロ側頂部P1に向かう潤滑性流体Fの一部がピストン5の周方向に逸れて張出形状部Mを有しない領域に逃げてしまい、十分な浮揚力が得られないおそれがある。なお、図11は、比較例に係るピストン105の概略斜視図であって、ピストン105が、従来のようにピストンヘッド101とスカート部102とを有し、このようなピストン105のスカート部102に張出形状部Mを設けたと仮定したときの図である。
また、比較例では、図11の破線で示すように、ピストン5の移動時に、張出形状部Mのうちマクロ側頂部P1よりも移動方向の上流側の部分と気筒内周壁2Aとの間の潤滑性流体Fが、張出形状部Mを有しない領域に逃げてしまう。そのため、この上流側の領域の圧力が非常に低く(例えば負圧に)なってしまう。その結果、ピストン5が反対側に移動を開始したときに、ピストン5のうち移動方向の下流側となった部分と気筒内周壁2Aとの間の部分の圧力が非常に低くなってこの部分が気筒内周壁2Aと接触しやすくなる。つまり、ピストン5のうち移動方向の下流側となった部分と気筒内周壁2Aとの間に潤滑性流体Fを十分に存在させることができなくなり、気筒2とピストン5との摺動抵抗がかえって増大してしまう。
これに対して、本実施形態では、張出形状部Mが摺動部51、52つまりピストン5の周方向の全周にわたって設けられている。そのため、潤滑性流体Fを張出形状部Mと気筒内周壁2Aとの間に確実に閉じ込めることができ、摺動抵抗をより一層低減することができる。
さらに、本実施形態では、張出形状部Mを有する摺動部51、52が、ピストン5の上下方向(往復動方向)について複数(2つ)設けられているとともに、ピストンピン59を挟んで上下にそれぞれ設けられている。特に、本実施形態では、張出形状部Mを有する摺動部51、52が、ピストン5の上下方向(往復動方向)の両端部を含む位置に設けられている。そのため、ピストン5の往復動時における首ふり運動を抑制することができる。具体的には、図12に示すように、ピストン5は、往復動時に、コンロッド8の揺動に伴い、ピストン5の中心軸X4が気筒軸X1に対して傾斜してピストン5の上端部と下端部とがそれぞれ気筒内周壁2Aに近づく方向に傾きやすい。
これに対して、本実施形態では、上下方向に離間した位置に2つの摺動部51、52が設けられているため、上下方向に離間した位置においてピストン5に気筒内周壁2Aに対する浮揚力を付与することができ、ピストン5が大きく傾いて気筒内周壁2Aに近づくこと、すなわち、ピストン5が首ふり運動すること、を抑制できる。特に、本実施形態では、ピストン5の上端部をと下端部とに、ピストンピン59を挟んで摺動部51、52とが設けられているため、ピストン5の上端部と下端部とが気筒内周壁2Aに近づくことを効果的に抑制できる。従って、ピストン5の首ふり運動に伴うピストン5と気筒2との接近を抑制して、これらの間の摺動抵抗をより確実に高めることができる。
また、本実施形態では、摺動部51、52のうちスラスト側の部分、つまり、燃焼に伴うピストン5の下降時に気筒内周壁2Aと最も接触しやすい部分に、ミクロテクスチャ構造部40が設けられて、ピストン5の周方向(摺動部51、52の気筒内周壁2Aに対する摺動方向と直交する方向)に延び且つ下側(反燃焼室側)が深く上側(燃焼室側)が浅くなる傾き面43を有する複数の溝41が形成されている。
そのため、ピストン5の下降時において、傾き面44によって潤滑性流体Fの流れFAを徐々に狭い空間へ閉じ込めてその密度を高め、これにより摺動部51、52の外周面51S、52Sに気筒内周壁2Aに対する大きな浮揚力を付与して摺動部51、52およびピストン5と気筒内周壁2Aとの間の摺動抵抗を低減することができる。
特に、本実施形態では、ミクロ側頂部42と気筒内周壁2Aとの隙間を最小隙間h3とし、ミクロ側底部43と気筒内周壁2Aとの間の隙間を最大隙間h4として、これらが、h4/h3=1.5〜5.0、の範囲に設定されている。また、ミクロ側頂部42と気筒内周壁2Aとの隙間である最小隙間h3が、h3=0.5μm〜2.0μmの範囲に設定されている。そのため、摺動部51、52を気筒内周壁2Aから一層良好に浮揚させることができ、前記摺動抵抗を格段に低減させることができる。
また、本実施形態では、各溝41の周方向の両端部分が閉鎖されているので、溝41に入り込んだ潤滑性流体Fが溝41内から周方向の外側に抜けてしまうのが抑制される。従って、潤滑性流体Fを効果的に気筒内周壁2Aと傾き面44との間に閉じ込めて、高い浮揚力を得ることができる。
また、本実施形態では、ミクロテクスチャ構造部40の溝41の下側縁部41Dとミクロ側底部43との間の第1面45と、溝41の上側縁部41Uとミクロ側底部43との間の第2面44とが、気筒内周壁2Aに対して傾きを持つ平面であり、且つ、第1面45が、気筒内周壁2Aに対して第2面44よりも大きい傾きを持つ面であり、第2面44が傾き面44として機能している。
そのため、比較的大きい傾きを持つ第1面45の領域において潤滑性流体Fの流れを拡がらせた後、比較的小さい傾きを持つ第2面44によって潤滑性流体Fの流れを徐々に閉じ込めてゆくことができ、ミクロテクスチャ構造部40および摺動部51、52の外周面51S、52Sに良好な浮揚力を付与することができる。
特に、第1面45が気筒内周壁2Aに対して直交する方向に延びるように、つまり、第1面45の気筒内周壁2Aに対する傾き角が90°に設定されており、溝41の上下方向の幅の大半を、傾き面44として機能する第2面44にて構成することができる。従って、潤滑性流体Fの閉じ込め効果を高めることができる。
また、複数の溝41が上下方向に並ぶピッチが、1μm〜1mmの範囲に設定されているので、一層大きい浮揚力を発生させることができる。
(4)変形例
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、張出形状部Mが全周にわたって設けられる摺動部の上下方向の位置は前記に限らない。例えば、前記実施形態において下側摺動部52を省略してもよい。また、ピストン5の上下方向の中央部分等に摺動部を設けてもよい。
ただし、ピストン5の外周面の上下方向の複数の位置に摺動部および張出形状部を設ければ、ピストン5の首ふりを効果的に抑制することができる。また、ピストンピン59の上下方向であって、ピストン5の揺動中心を挟んで上側および下側に摺動部および張出形状部を設ければ、ピストン5の揺動すなわち首ふりを効果的に抑制することができる。特に、前記のように、ピストン5の上端部および下端部にそれぞれ摺動部51、52を設ければ、ピストン5の首ふりを抑制して、これにより摺動抵抗を一層低減することができる。また、ピストン5の上端部と下端部とに離間した状態で摺動部51、52を設ければ、ピストン5の上下方向全体にわたって摺動部を設ける場合に比べて、ピストン5の軽量化を図ることができるとともに、ピストンピン59をこれら摺動部51、52の間に配置することができ構造を簡素化することができる。
また、潤滑性流体Fは空気に限らず、水やオイルであってもよい。ただし、前記実施形態のように、摺動部をピストン5の上端部に設け、かつ、潤滑性流体Fを水やオイルとすると、燃焼室6内に水やオイルが混入して燃焼状態が悪化したり排ガス性能が悪化するおそれがある。そのため、摺動部をピストン5の上端に設ける場合は、潤滑性流体Fは空気とするのが好ましい。換言すると、潤滑性流体Fを空気としつつ摺動部をピストン5の上端部に設けた前記実施形態によれば、燃焼状態や排ガス性能の悪化を回避しつつ摺動抵抗を低減することができる。
なお、潤滑性流体Fが空気であることから、前記実施形態では、オイルリングは不要である。また、前記実施形態では、前記のように、ピストン5の移動時において摺動部51、52の全周にわたってマクロ側頂部P1付近の領域に潤滑性流体Fが閉じ込められてこの領域の圧力が高められる。従って、コンプレッションリングも省略可能である。これに伴い、図2等に示した例ではピストン5にコンプレッションリングも設けられていないが、コンプレッションリングを連結部53等に設けるようにしてもよい。
また、前記実施形態では、溝41の摺動方向(上下方向)の断面形状が鋸歯型のものを例示したが、傾き面44が摺動方向の下流側(下側)が深く上流側(上側)が浅くなる傾向を具備している限りにおいて溝41の形状を変形して良い。例えば、ミクロ側底部43が鋭角的なものとせず、R面としてもよい。また、傾き面44が緩やかな凸面又は凹面であっても良い。
また、溝41(ミクロテクスチャ構造部40)の形成領域は、前記に限らず、摺動部51、52の全域等であってもよい。
ただし、摺動部51、52のうちスラスト側の部分にのみ設ければ、ミクロサイズの溝を有し比較的加工が難しいミクロテクスチャ構造部40の加工領域を小さく抑えて作業性およびコストを良好にしつつ、前記のように、燃焼に伴うピストン5の下降時における摺動抵抗を効果的に低減することができる。
また、前記実施形態では、張出形状部Mを備える各摺動部51、52の材質と、気筒内周壁2Aの材質とを、互いに同一とした場合について説明したが、これらの材質は異なってもよい。ただし、前記のように、これらの材質を同一とすれば、張出形状部Mと気筒内周壁2Aとの間に生じる熱膨張差ひいては最小隙間h1および最大隙間h2の変動を小さくして、これらをより確実に適切な範囲内とすることができる。
<変形例1>
図13は、変形例1に係るミクロテクスチャ構造部40aを備えた摺動部150の外周面150Sの断面図である。前記の実施形態では、溝41の第1面45が気筒内周壁2Aに対して直交する方向に延びる平面である例を示した。変形例1では、第1面45が前記直交する方向から傾いた面である例を示す。
ミクロテクスチャ構造部40aの溝41は、その下側縁部41Dであるミクロ側頂部42とミクロ側底部43との間の第1面45と、上側縁部41Uであるミクロ側頂部42とミクロ側底部43との間の第2面46とを含む。第1面45及び第2面46のいずれも気筒内周壁2Aに対して傾きを持つ平面である。第1面45は、気筒内周壁2Aに対して傾き角θ1を持ち、第2面46は、気筒内周壁2Aに対して傾き角θ2を持つ。ここで、第1面45は、第2面46よりも大きい傾きを持つ面(θ1>θ2)である。第1面45の、気筒内周壁2Aに対する傾き角θ1の望ましい範囲は、70°〜90°である。なお、第2面46の傾き角θ2は、θ1に対して十分小さいことが望ましく、例えば10°〜55°程度の範囲から選択することができる。
第1面45は、気筒内周壁2Aに対して直交する平面であることが望ましいが、前記の制限の範囲で前記直交する方向に対して傾いた平面であってもよい。このような第1面45を持つ溝41であれば、潤滑性流体Fの層流(流れFA)が摺動部150の外周面150Sと気筒内周壁2Aとの間の隙間Gを流入方向H2に沿って流れる際、比較的大きい傾き角θ1を持つ第1面45の領域において急に前記層流の幅が拡がり、比較的小さい傾き角θ2を持つ第2面46(傾き面44)によって徐々に前記層流が閉じ込められてゆくという動作が繰り返される。このような層流の動作によって、良好な浮揚力が生成される。
<変形例2>
図14は、変形例2に係るミクロテクスチャ構造部40bを備えた摺動部150の外周面150Sの断面図である。前記の実施形態では、複数の溝41が摺動方向(上下方向)H1に密に連設されている例を示した。変形例2では、隣接する溝41間にプラトー(plateau)が設けられている例を示す。
ミクロテクスチャ構造部40bは、複数の溝41と、隣接する溝41の間に配置されたプラトー部49とを含む。プラトー部49は、気筒内周壁2Aと略平行な平面である。プラトー部49は、一の溝41の上側縁部41Uとなるミクロ側頂部42と、前記一の溝41の上側に隣接する溝41の下側縁部41Dとの間に延びる平面である。この場合、溝ピッチL1は、摺動方向H1における溝41の上側縁部41U〜下側縁部41Dの長さである溝幅L2と、プラトー部49の長さとが加算されたものとなる。このように、溝間にプラトー部49が存在している態様であっても、プラトー部49が溝幅L2に対して長すぎるものでない限り、浮揚力を発生させることができる。
プラトー部49は平滑度が高い面であることが望ましい。プラトー部49は、最小隙間h1を規定するミクロ側頂部42と同じ高さ位置にある面であり、その平滑度が低いと気筒内周壁2Aとの接触が問題になるからである。この場合、ミクロ側頂部42と気筒内周壁2Aとの間の最小隙間h1は、気筒内周壁2Aの表面粗さと、プラトー部49の表面粗さとを合算した合算表面粗さよりも大きい値に設定されることが望ましい。例えば、気筒内周壁2A及びプラトー部49の算術平均粗さRaがいずれも0.5μmである場合、最小隙間h1はこれらの合算表面粗さ1μmを越える値、好ましくは2倍以上の値に設定することが望ましい。
2 気筒
2A 気筒内周壁(気筒の内周面)
5 ピストン
8 コンロッド
51 上側摺動部(摺動部)
52 上側摺動部(摺動部)
40 ミクロテクスチャ構造部
41 溝
42 ミクロ側頂部
43 ミクロ側底部
F 潤滑性流体
M 張出形状部
P1 マクロ側頂部(頂部)
Q1 マクロ側底部(底部)

Claims (4)

  1. 内側に燃焼室が形成された気筒と、当該気筒内を往復動するピストンと、当該ピストンにピストンピンを介して当該ピストンピンの軸周りに搖動可能に連結されるコンロッドとを備えた往復動ピストンエンジンにおいて、
    前記ピストンは、前記気筒の内周面と隙間をおいて対峙する外周面を備え、
    前記気筒の内周面と前記ピストンの外周面との間には潤滑性流体が介在され、
    前記ピストンの外周面は、その往復動方向に沿った断面において前記気筒の内周面側に張り出す張出形状部を有し、
    前記張出形状部は、前記ピストンの摺動方向に離間して複数設けられ、且つ、前記ピストンの摺動方向について前記ピストンピンを挟む位置にそれぞれ設けられており、
    前記張出形状部は、最も張り出した部分となる頂部と、この頂部の前記ピストンの往復動方向の上流側と下流側それぞれ配置されて前記気筒の内周面に対して最も離間した位置となる底部とを含む弓形形状に形成されており
    前記張出形状部において、前記頂部における前記隙間を最小隙間h1とし、前記底部における前記隙間を最大隙間h2とするとき、
    h2/h1=1.5〜5.0、
    の範囲に設定されており、
    前記張出形状部は、前記ピストンの外周面の全周にわたって設けられている、ことを特徴とする往復動ピストンエンジン。
  2. 請求項に記載の往復動ピストンエンジンにおいて、
    前記張出形状部は、前記ピストンの外周面の当該ピストンの摺動方向の両端部に設けられており、
    前記潤滑性流体は空気である、ことを特徴とする往復動ピストンエンジン。
  3. 請求項1または2に記載の往復動ピストンエンジンにおいて、
    前記ピストンのうち外周面に前記張出形状部が設けられた部分の材質と、前記気筒の内周面の材質とは、互いに同一である、ことを特徴とする往復動ピストンエンジン。
  4. 請求項1〜のいずれか1項に記載の往復動ピストンエンジンにおいて、
    前記張出形状部のスラスト側の部分は、前記ピストンの周方向に延びる複数の溝からなるミクロテクスチャ構造部を含み、
    前記ミクロテクスチャ構造部の前記溝の各々は、前記摺動方向について前記燃焼室と反対側が深く前記燃焼室側が浅くなる傾き面を有する、ことを特徴とする往復動ピストンエンジン。
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