JP6432717B1 - Al系めっき鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
特許文献1乃至4に開示の方法は、具体的には、ZnOの脱落抑制のために樹脂成分やシランカップリング剤等をバインダとして含む皮膜層を鋼板表面に付着させ、熱間プレス時にバインダの有機溶剤成分を揮発させてZnOのみを残存させる方法である。かかる方法により、有機溶剤が燃焼、蒸発して生成した空隙によりZnOと金型金属とが点接触となり、潤滑性が向上するとされている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、塗装後耐食性を十分に発現させることが可能である、熱間プレス用Al系めっき鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、Siが表面でなく、内部で濃化した場合であっても、熱間プレス時に第2層を形成することも判明した。
このめっき凝固後のSi濃化部を酸洗にて除去することで加工性や熱間プレス時の塗装後耐食性が著しく向上することを本発明者は明らかにした。
[2].前記Al系めっき層の表面粗さが算術平均粗さRaで0.1μm以下であることを特徴とする、[1]に記載のAl系めっき鋼板。
[3].前記Al系めっき層は、厚さ方向のSi濃度分布における最大値と、Fe濃度が4質量%以下でのSi濃度の最小値の比が1.0〜1.5であることを特徴とする、[1]または[2]に記載のAl系めっき鋼板。
[4].前記Al系めっき層の上に設けられ、ZnO粒子と、有機樹脂とを含有し、前記ZnO粒子の付着量が金属Zn換算で0.5g/m2以上、10.0g/m2以下である表面皮膜層を備えることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれか1項に記載のAl系めっき鋼板。
[5].Siを質量%で6%以上、15%以下含有するAlめっき浴に鋼板を浸漬してめっき層を形成するめっき工程と、
浸漬した前記鋼板を冷却する冷却工程と、
冷却した前記鋼板をpH1以下の酸性溶液中で浸漬して、めっき表面のSi面積率が12%以下、Al系めっき層の厚さ方向のSi濃度分布における最大値が、質量%で15%以下で、Al系めっき層の厚さ方向のSi濃度分布における最大値と、Fe濃度が4質量%以下でのSi濃度の最小値の比が1.0以上、2.0以下となる深さまで表層をエッチングするエッチング工程と、
を実施することを特徴とする、Al系めっき鋼板の製造方法。
図4に本発明のAl系めっき鋼板100の一例を示した。本発明のAl系めっき鋼板100は、母材101の表面にAl系めっき層103を形成して構成される。あるいは、図5に示したように、さらに、Al系めっき層103の表面に、有機樹脂111により接合したZnO粒子109からなる表面皮膜層107を形成して構成される。各層について、以下に詳細に説明する。なお、図4、5は、Al系めっき層103、表面皮膜層107をAl系めっき鋼板100の片面に形成した例であるが、各々両面に形成してもよい。
[母材101]
本実施形態のAl系めっき鋼板100に用いる母材101(Al系めっき層103を形成するための部材)としては、めっき層形成後に熱間プレスを行っても、優れた機械的強度(引張強さ、降伏点、伸び、絞り、硬さ、衝撃値、疲れ強さ、クリープ強さ等の機械的な変形及び破壊に関する諸性質を意味する)を有するような部材を使用する。例えば、C(炭素)や合金元素の添加によって焼入れ性を高めた部材を用いる。これにより、後述するような、Al系めっき層103及び表面皮膜層107を形成して得たAl系めっき鋼板100に対して、熱間プレスを施して得られた自動車部品においては、優れた機械的強度が発現される。
炭素(C)は、鋼に不可避的に含まれ、また、母材101の目的とする機械的強度を確保するために含有させる。Cの含有量を過剰に低減させることは、製錬コストを増大させるため、0.01%以上含有させることが好ましい。さらに、Cの含有量が0.1%以上であると、機械的強度を向上するために多量に他の合金元素を添加する必要がなくなるため、Cを添加することによる強度向上の効果が大きい。一方、Cの含有量が0.5%超であると、母材101をさらに硬化させることができるものの、溶融割れが生じ易くなる。従って、Cは、0.01%以上、0.5%以下で含有させることが好ましく、強度向上と溶融割れ防止の観点からは、0.1%以上、0.4%以下の含有量で添加することがより好ましい。なお、Cの含有量は0.15%以上、0.35%以下とすることがさらに好ましい。
珪素(Si)は、脱酸剤として添加されるなど、鋼の精錬過程において不可避的に含まれる元素である。しかしながら、Siの過度な添加は鋼板製造時の熱延工程での延性低下やその結果として表面性状などを損ねるため、2.0%以下とすることが好ましい。
また、Siは、母材101の機械的強度を向上させる強化元素の一つであり、Cと同様に、目的とする機械的強度を確保するために添加してもよい。Siの含有量が0.01%未満であると、強度向上効果を発揮しにくく、十分な機械的強度の向上が得られにくい。一方、Siは、易酸化性元素でもあるため、Siの含有量が0.6%超であると、溶融Al系めっきを行う際に、濡れ性が低下し、不めっきが生じる可能性がある。従って、Siは、0.01%以上、0.6%以下の含有量で添加することがより好ましい。なお、Siの含有量は0.05%以上、0.5%以下とすることがさらに好ましい。
マンガン(Mn)は、脱酸剤として添加されるなど、鋼の精錬過程において不可避的に含まれる元素である。しかしながら、Mnの過度な添加は、鋳造時のMnの偏析による品質の均一性を損ない、鋼板が過剰に硬化し、熱間、冷間加工時の延性の低下を招くため、3.5%以下とすることが好ましい。一方、Mnの含有量を0.01%未満に低下させると、Mnを除去する工程やコストが増加するため、Mnの含有量は0.01%以上が好ましい。よって、Mnは、0.01%以上、3.5%以下とすることが好ましい。
加えて、Mnは、母材101の強化元素の1つであり、焼入れ性を高める元素の1つでもある。さらに、Mnは、不可避的不純物の1つであるS(硫黄)による熱間脆性を低く抑えるのにも有効である。そのため、Mnの含有量を0.5%以上とすることにより、焼入れ性向上や、熱間脆性抑制の効果を得ることができる。一方、Mnの含有量が3%超であると、残留γ相が多くなり過ぎて強度が低下するおそれがある。従って、Mnは、0.5%以上、3%以下の含有量で添加されることがより好ましい。なお、Mnの含有量は1%以上、2%以下とすることがさらに好ましい。
りん(P)は、不可避的に含有される元素である一方で固溶強化元素でもあり、比較的安価に母材101の強度を向上させる元素である。しかしながら、経済的な精錬限界から含有量の下限を0.001%とすることが好ましい。一方、Pの含有量が0.1%超であると、母材101の靭性が低下するおそれがある。従って、Pの含有量は、0.001%以上、0.1%以下であることが好ましい。なお、Pの含有量は0.01%以上、0.08%以下とすることがさらに好ましい。
硫黄(S)は、不可避的に含有される元素であり、MnSとして母材101中の介在物となって破壊の起点となり、延性や靭性を阻害して加工性劣化の要因となる。このため、Sの含有量は低いほど好ましく、含有量の上限を0.05%とすることが好ましい。一方、Sの含有量を低下させるためには製造コストの上昇が見込まれるため、含有量の下限は0.001%とすることが好ましい。なお、Sの含有量は0.01%以上、0.02%以下とすることがさらに好ましい。
アルミニウム(Al)は、脱酸剤として母材101中に含有される成分であるが、めっき性阻害元素でもある。このため、Alの含有量の上限は0.1%とすることが好ましい。一方、Alの含有量の下限は特に規定するものではないが、経済的な精錬限界から、例えば0.001%とすることが好ましい。なお、Alの含有量は0.01%以上、0.08%以下とすることがさらに好ましい。
窒素(N)は、不可避的に含有される元素であって、母材101の各種の特性を安定化させる観点からは、その含有量を固定することが好ましく、具体的には、Ti、Al等の元素の含有量に基づいて固定することが可能である。一方、Nの含有量が多過ぎると、Ti、Al等の含有量が多くなり、母材101の製造コストの増加が見込まれるため、Nの含有量の上限は0.01%とすることが好ましい。
(Ti:0.005%以上、0.1%以下)
チタン(Ti)は、母材101の強化元素の1つであり、母材101表面に形成されるAl系めっき層103の耐熱性を向上させる元素でもある。Tiの含有量が0.005%未満であると、強度向上効果や耐熱性を十分に得ることができない。一方、Tiは、添加し過ぎると、例えば炭化物や窒化物を形成して、母材101を軟質化させるおそれがある。特に、Tiの含有量が0.1%超であると、目的とする機械的強度を得られない可能性が高い。従って、Tiは、0.005%以上、0.1%以下の含有量で添加されることが好ましい。なお、Tiの含有量は0.03%以上、0.08%以下とすることがさらに好ましい。
ホウ素(B)は、焼入れ時に作用して母材101の強度を向上させる効果を有する元素である。
Bの含有量が0.0003%未満であると、このような強度向上効果が十分に得られない。一方、Bの含有量が0.01%超であると、母材101中に介在物(例えば、BN、炭硼化物、など)が形成されて脆化し、疲労強度を低下させるおそれがある。従って、Bは、0.0003%以上、0.01%以下の含有量で添加されることが好ましい。なお、Bの含有量は0.001%以上、0.008%以下とすることがさらに好ましい。
クロム(Cr)は、Al系めっき層103を合金化してAl−Fe合金層を形成する際に、Al系めっき層103を母材101との界面に生成することで、Al系めっき層103が剥離する原因となるAlNの生成を抑制する効果がある。また、Crは、耐摩耗性を向上させる元素の一つであり、焼入れ性を高める元素の一つでもある。Crの含有量が0.01%未満であると、上記の効果を十分に得ることができない。一方、Crの含有量が1.0%超であると、上記の効果が飽和するだけでなく鋼板の製造コストも上昇する。従って、Crは、0.01%以上、1.0%以下の含有量で添加されることが好ましい。なお、Crの含有量は0.5%以上、1.0%以下とすることがさらに好ましい。
ニッケル(Ni)は、熱間プレス時の焼き入れ性を向上させる効果がある。また、Niには母材101の耐食性を高める効果もある。ただし、Niの含有量が0.01%未満であると、上記の効果を十分に得ることができない。一方、Niの含有量が5.0%超であると、上記の効果が飽和するだけでなく鋼板の製造コストも上昇する。従って、Niは、0.01%以上、5.0%以下の含有量で添加されることが好ましい。
モリブデン(Mo)は、熱間プレス時の焼き入れ性を向上させる効果がある。また、Moには母材101の耐食性を高める効果もある。ただし、Moの含有量が0.005%未満であると、上記の効果を十分に得ることができない。一方、Moの含有量が2.0%超であると、上記の効果が飽和するだけでなく鋼板の製造コストも上昇する。従って、Moは、0.005%以上2.0%以下の含有量で添加されることが好ましい。
銅(Cu)は、熱間プレス時の焼き入れ性を向上させる効果がある。また、Cuには母材101の耐食性を高める効果もある。Cuの含有量が0.005%未満であると、上記の効果を十分に得ることができない。一方、Cuの含有量が1.0%超であると、上記の効果が飽和するだけでなく鋼板の製造コストも上昇する。従って、Cuは、0.005%以上、1.0%以下の含有量で添加されることが好ましい。
なお、本実施形態の母材101は、上記の複数の元素に加えて、タングステン(W)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、アンチモン(Sb)等の元素を選択的に添加してもよい。これらの元素についての添加量は、公知の範囲であれば、いずれの添加量についても採用することができる。
母材101の残部は、鉄(Fe)と不可避的不純物のみである。不可避的不純物とは、原材料に含まれる成分、或いは製造の過程で混入される成分であって、母材101に意図的に含有させた成分ではない成分をいう。
Al系めっき層103は、母材101の少なくとも片面に形成される。Al系めっき層103には、Siは、溶融めっき時のFe−Al合金層の生成を抑制する元素として添加されている。Al系めっき層103中のSiの含有量が4質量%未満では、溶融めっき時にFe−Al合金層が成長し過ぎるため、プレス加工時にめっき層割れを助長する。一方、当該Siの含有量が12質量%を超えると、表面のSi量を低減させてもAl系めっき層103の加工性や耐食性が低下する。従って、Al系めっき層103中のSiの含有量は、4質量%以上、12質量%以下とする。なお、Al系めっき層103中のSiの含有量は、4質量%以上、10質量%以下であることがさらに好ましい。Al系めっき層103は、Alを85質量%以上含んでいればよい。Al、Si以外の成分は、特に限定しないが、Znは、熱間プレス前の加熱により蒸発するので、10質量%以下、あるいは、不可避的不純物量を超える量は含まれないことが好ましい。また、母材中のFeとの合金化等により、Feも含有する。さらに、Al、Si以外は不可避的不純物である、JIS 4000系アルミニウム合金等のAl−Si系合金(Al及びSiからなるAl合金であって、Al、Si以外は不可避的不純物であるアルミニウム合金)組成が好ましい。
ここでいうSi含有量は平均組成である。
さらに、Al系めっき層の表面にはAl酸化物系の不動態皮膜が生成する。この不動態皮膜は熱間プレス時にZnOがAl系めっき層中の成分によって還元されて消失するのを防止する。
Al系めっき層103は、付着量が30g/m2以上である。30g/m2未満の場合、めっき厚が薄くなり過ぎて、熱間プレス時にスケールが生成してしまい、耐食性が悪化する。より好ましくは50g/m2以上である。
前述のように、非平衡凝固によって形成されたAl系めっき層103の場合、Siは表面に濃化しやすい。熱間プレス加熱前のめっき段階でめっき表面にSiが濃化し、Si面積率が高くなると熱間プレスの加熱段階ではSi濃度が高い第2層が生成しやすくなり、第2層が生成すると第1層との腐食回路を形成して塗装後耐食性が悪くなる。
また、熱間プレス加熱前のめっき段階でめっき表面にSiが濃化し、Si面積率が高くなると、Al酸化物系の不動態皮膜の生成が不十分となり、熱間プレス時にAl系めっき層中の成分によってZnOが還元され、消失する恐れがある。
従って、Al系めっき層103の表面のSi面積率を12%以下にすることが必要である。顕著な効果を得るために、より好ましくはSi面積率を8%以下、さらに好ましくは6%以下とする。Si面積率の下限は、特に限定されるものでなく、Si面積率が0%であることが理想であるが、実用上、1%が実質的な下限である。
例えば、凝固温度の近傍の冷却速度を10℃/秒とし、Siを濃化させて、pH1以下の酸性溶液中で表面のSi濃化共晶を溶解すると、表面のSi面積率を10%程度に低下させることができる。さらに、凝固時の冷却速度を20℃/秒にすると、共晶のSi濃度が20%以上になり、その部分を酸性溶液中で溶解させると、Si面積率を8%以下にまで低下させることができる。
めっき後に表面をエッチングして、Siが濃化した部分を除去する方法としては、硫酸等の酸でAlめっき層表面をエッチングする方法が挙げられる。
Al系めっき層103は、厚さ方向のSi濃度分布における最大値が、質量%で15%以下(好ましくは12質量%以下)であり、厚さ方向のSi濃度分布における最大値と、Fe濃度が4質量%以下でのSi濃度の最小値の比が1.0以上、2.0以下である理由は以下の通りである。
一方で、図7上段に示すように、表層ではなく、内部にSi濃度が高い部分があっても、その部分が、熱間プレスの加熱段階で、図7下段に示すように、Si濃度が高い第2層が生成しやすくなる。
そのため、図8中段に示すように、表面ではなく、内部もSi濃度が高い部分があってはならない。
これが厚さ方向のSi濃度分布を規定する理由である。なお、最小値として、Fe濃度が4質量%以下でのSi濃度を用いる理由は、めっき層と母材の界面が合金化している場合を考慮したためである。
好ましくは、厚さ方向のSi濃度分布における最大値と、Fe濃度が4質量%以下でのSi濃度の最小値の比が、1.0〜1.5である。
厚さ方向のSi濃度分布は、Alめっき鋼板の垂直断面の組成分析を、EPMA等を用いて行えば求められる。
エッチング液としては、鉄系インヒビターを添加したpH1以下の酸性溶液であれば特に限定しないが、鉄系インヒビターを添加した2モル%濃度以上のH2SO4水溶液が挙げられる。pH1超の酸性溶液の場合、エッチングが進まないか、進んでもエッチングレートが遅すぎて生産性が悪化する恐れがある。
他のエッチング液としては2モル%濃度以上の水酸化ナトリウム水溶液のアルカリ溶液に浸漬してめっきの金属Al、Siを溶解し、次に残ったAl−Si−Fe合金層を上記酸性溶液にて溶解する方法が挙げられる。
Al系めっき層103の内部にSi濃度が高い部分を形成しないようにするためには、めっき浴浸漬後の冷却条件を15℃/sec以下にする方法もある。
Al系めっき層103は、表面粗さが算術平均粗さでRaで0.1μm以下であるのが好ましい。0.1μm超の場合、表面の凹凸が大きくなり過ぎて、部分的に薄い領域が生じ、熱間プレス時にスケールが生成する恐れがある。また、表面皮膜層107を設ける場合も、部分的に薄い領域が生じ、表面皮膜層107としての効果が充分に得られなくなる。
より好ましくは、表面粗さが算術平均粗さRaで0.1μm以下である。
熱間プレス時の熱間潤滑性をさらに向上させるために、Al系めっき鋼板100のAl系めっき層103表面には、ZnO粒子109を含む表面皮膜層107を形成する。
表面皮膜層107は、たとえば、平均粒径0.10μm以上、5.00μm以下のZnO粒子109と、有機樹脂111を含有するとともに、上記ZnO粒子109の付着量が金属Zn換算で0.5g/m2以上、10.0g/m2以下であることが好ましい。なお、母材101の両面にAl系めっき層103が形成されている場合には、少なくとも片側の当該めっき層上に表面皮膜層107を形成することができる。
熱間プレスで良好な熱間潤滑性を得るためには、Al系めっき層103上に、平均粒径0.10μm以上、5.00μm以下のZnO粒子109が金属Zn換算で0.5g/m2以上、10.0g/m2以下の付着量で形成されていることが好ましい。ZnO粒子109は金型と点接触し、動摩擦係数を低下させて熱間潤滑性を向上させる。しかしながら、ZnO粒子109の平均粒径が0.10μm未満では、プレス加工時にZnO粒子109と金型との接触点が多過ぎるため、熱間潤滑性が十分に向上しない。
なお、ここでいう付着量とは、熱間プレス時に、コンベアに載せて加熱する前の付着量である。
表面皮膜層107の構成要素である有機樹脂111は、ZnO粒子109を当該皮膜中に保持するバインダとして機能するものであれば、特に限定されない。有機樹脂111は、熱間プレス前の加熱時に燃焼して消失し、その後の処理であるプレス加工や溶接等に影響しないためである。有機樹脂111を水系の薬剤とする場合には、ZnOと同様に弱アルカリ性で安定なカチオン樹脂を用いることが好ましく、例えば、カチオン系ウレタン樹脂やカチオン系アクリル樹脂を用いることができる。なお、薬剤中の有機樹脂の濃度(g/kg)比率については、特に規定しない。また、有機樹脂111として使用できる樹脂は、カチオン系ウレタン樹脂(第一工業製薬社製、製品名スーパーフレックス650)などである。
ここで、本発明のAl系めっき鋼板100の製造方法について、簡単に説明する。
まず、Siを質量%で6%以上、15%以下含有するAlめっき浴に鋼板を浸漬してめっき層を形成する(めっき工程)。
母材の条件は[母材101]で説明した条件と同様である。
次に、浸漬した前記鋼板を冷却する(冷却工程)。冷却は空冷であることが好ましい。気水冷却の場合、表面粗さが大きくなり過ぎ、エッチングの際に除去するめっき量が増えてしまうためである。冷却速度は特に限定しないが、5〜15℃/secが好ましい。
次に、冷却した前記鋼板をpH1以下の酸性溶液中で浸漬して、めっき表面のSi面積率が12%以下、Al系めっき層の厚さ方向のSi濃度分布における最大値が、質量%で15%以下で、Al系めっき層の厚さ方向のSi濃度分布における最大値と、Fe濃度が4質量%以下でのSi濃度の最小値の比が1.0以上、2.0以下となるとなる深さまで表層をエッチングする(エッチング工程)。
エッチングの条件を規定する理由は(厚さ方向のSi濃度分布)で説明した通りである。
試料番号26は気水冷却とし、TiO粒子懸濁液を用いて、粒子による凝固核生成と水溶液での急冷により凝固速度を速め、凝固を促進した。
試料番号27も気水冷却とし、VO粒子懸濁液を用いて、粒子による凝固核生成と水溶液での急冷により凝固速度を速め、凝固を促進した。
試料番号34は蒸留水を用いた気水冷却とした。
なお、Al系めっき層103表面のSi面積率はAESの面分析にて測定した。
株式会社東京精密社製三次元粗度計(製品名:サーフコム1900DX-3DF-12)を用いて算術平均粗さRaを測定した。測定距離は30mmとして、3箇所の測定点の平均値をめっき粗度とした。
JIS H 8672に準じて、めっき前後の各試験例の鋼板の質量を測定し、質量差を試料の面積で除した値をめっき付着量g/m2とした。
Al系めっき層103表面のSi面積率は、めっき後、日本電子製のJXA8500Fを使用し、5mm×5mmの視野で、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)の面分析を行った。その際、測定点は500点×500点、10μmステップでビーム径は10μmで測定した。
(4)Si濃度
幅50mm×長50mm切り出した各試験例の鋼板をインヒビター(ヒビロンスギムラ化学工業製 Y-30)を0.5質量%添加した10%硫酸水溶液に浸漬してめっきを溶解させ、当該溶解液をICPにて定量分析して検量線法によりSi濃度を測定した。
高周波GDSにてSi強度をSi濃度に換算した深さ方向プロファイルを採取し、最大値を、めっき中の厚さ方向のSi濃度分布における最大値とし、Fe濃度が4質量%以下の領域での最小値をめっき中のSi濃度分布における最小値とした。最大値と最小値の比を、最大値/最小値として求めた。
幅10mm×長30mm切り出した各試験例の鋼板を樹脂埋め込み、断面研磨して長方向の垂直断面を観察した。20mm幅において任意の20点を選び、合金層厚みを測定して20点の平均値を合金層厚みとした。
幅30mm×長300mmの各試験例の鋼板を、引張り試験にてL方向伸びが10%になるように加工後、L方向中央部より試料を幅10mm×長30mm切り出して樹脂に埋め込み、断面研磨してL方向の垂直断面を観察した。20mm幅において点在する合金層剥離部位の幅を合計し、以下の式に示す剥離率にて評価した。
合金層剥離率=(100×合金層剥離長さ<mm>合計)/20<mm>
合金剥離率は15%未満を合格とした。
各試験例の鋼板を30mmφに打ち抜き、70mm×70mmのSiC製炉内台座に重ね合わせて、900℃に加熱した50mm×50mm×70mmのSUS304ブロックを載せた状態で、900℃で在炉6分加熱し、取り出した後、直ちにステンレス製金型に挟んで急冷した。加熱前後でのZn付着量をXRFにより測定してZn換算のZn付着量を測定し、Zn換算のZnO残存率を算出した。
表4に示す評価では、Zn残存率で75%以上、Zn残存量で0.40g/m2以上を合格とした。
(8)スポット溶接性
スポット溶接性は、次のように評価した。
作製した各試験例の鋼板を加熱炉内に入れ、900℃で在炉6分加熱し、取り出した後直ちにステンレス製の金型で挟んで急冷した。このときの冷却速度は、約150℃/秒であった。次に、冷却後の各鋼板を30×50mmに剪断し、スポット溶接適正電流範囲(上限電流−下限電流)を測定した。測定条件は、以下に示す通りである。下限電流は、ナゲット径3×(t)0.5となったときの電流値とし、上限電流は、散り発生電流とした。
電流:直流
電極:クロム銅製、DR(先端6mmφが40R)
加圧:400kgf(1kgfは、9.8Nである。)
通電時間:240ミリ秒
上記の値は大きいほどスポット溶接性が優れていることを意味し、表4に示す評価では、1.0kA以上を合格とした。
200mm×200mmの各試験例の鋼板を炉内に挿入して、SiC製の炉内台座上に評価面を接触させない向きで設置し、900℃で在炉6分加熱し、炉から取り出した後、直ちにステンレス製金型(ポンチ径50mm、肩R3mm、押え圧500kg)に挟んで絞り高さ50mmにカップ加工し、急冷した。このときのフランジ部冷却速度は、約150℃/秒であった。次に、冷却後のカップ状の各鋼板を日本パーカライジング(株)社製化成処理液(PB−SX35)で化成処理後、日本ペイント(株)社製電着塗料(パワーニクス110)を膜厚が20μmとなるように塗装し、170℃で焼き付けた。なお、900℃に設定した大気炉内に熱電対を溶接した70mm×150mmの各鋼板を挿入し、900℃になるまでの温度を計測し、平均昇温速度を算出したところ、5℃/秒であった。
塗装後耐食性評価は、自動車技術会制定のJASO M609に規定する方法で行った。即ち、塗膜に予めアクリルカッターでクロスカットを入れ、腐食試験180サイクル(60日)後のクロスカットからの塗膜膨れの幅(片側最大値)を計測した。
熱間加工後塗装後耐食性は7mm未満を合格とした。
以上の結果を表2に示す。
また、熱間プレス後にZnOが消失せず、溶接性も優れていた。
試料番号28、29、30はめっき層が酸洗で除去されたため、加熱時にスケールが生成し、溶接性と塗装後耐食性が悪化した。
試料番号32は厚さ方向のSi濃度分布における最大値が大きすぎて塗装後耐食性が不合格となった。
また、試料番号4乃至13、26、27、33、34は、めっき中の厚さ方向のSi濃度の最大値と、Fe濃度が4質量%以下の領域での最小値の比が2.0超であったため、熱間プレス後に熱間プレス時に第2層を形成してしまい、塗装後耐食性が悪化した。
なお、実施例1乃至3は、めっき中の厚さ方向のSi濃度の最大値と、Fe濃度が4質量%以下の領域での最小値の比が2.0超であったが、めっき中のSi濃度の平均値が低かったため、第2相は形成しなかった。ただし、合金層が剥離してしまった。
101…母材
103…Al系めっき層
107…表面皮膜層
109…ZnO粒子
111…有機樹脂
Claims (5)
- Al系めっき層に含まれるAlの平均組成が質量%で85%以上、Siが質量%で4%以上12%以下であり、めっき付着量が30g/m2以上、めっき表面のSi面積率が12%以下、Al系めっき層の厚さ方向のSi濃度分布における最大値が、質量%で15%以下で、Al系めっき層の厚さ方向のSi濃度分布における最大値と、Fe濃度が4質量%以下でのSi濃度の最小値の比が1.0以上、2.0以下であることを特徴とするAl系めっき鋼板。
- 前記Al系めっき層の表面粗さが算術平均粗さRaで0.1μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のAl系めっき鋼板。
- 前記Al系めっき層は、厚さ方向のSi濃度分布における最大値と、Fe濃度が4質量%以下でのSi濃度の最小値の比が1.0〜1.5であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のAl系めっき鋼板。
- 前記Al系めっき層の上に設けられ、ZnO粒子と、有機樹脂とを含有し、前記ZnO粒子の付着量が金属Zn換算で0.5g/m2以上、10.0g/m2以下である表面皮膜層を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のAl系めっき鋼板。
- Siを質量%で6%以上、15%以下含有するAlめっき浴に鋼板を浸漬してめっき層を形成するめっき工程と、
浸漬した前記鋼板を冷却する冷却工程と、
冷却した前記鋼板をpH1以下の酸性溶液中で浸漬して、めっき表面のSi面積率が12%以下、Al系めっき層の厚さ方向のSi濃度分布における最大値が、質量%で15%以下で、Al系めっき層の厚さ方向のSi濃度分布における最大値と、Fe濃度が4質量%以下でのSi濃度の最小値の比が1.0以上、2.0以下となる深さまで表層をエッチングするエッチング工程と、
を実施することを特徴とする、Al系めっき鋼板の製造方法。
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