ZnO系半導体層等の成長に用いられる結晶製造装置について説明する。本願においては、たとえば結晶製造方法として分子線エピタキシー(molecular beam epitaxy; MBE)法を用いる。ここでZnO系半導体は、少なくともZnとOを含む。
図1は、MBE装置を示す概略的な断面図である。真空チャンバ71内に、Znソースガン72、Oソースガン73、Mgソースガン74、Agソースガン75、及びGaソースガン76が備えられている。
Znソースガン72、Mgソースガン74、Agソースガン75、Gaソースガン76は、それぞれZn(7N)、Mg(6N)、Ag(6N)、及びGa(7N)の固体ソースを収容するクヌーセンセルを含み、セルを加熱することにより、Znビーム、Mgビーム、Agビーム、Gaビームを出射する。
Oソースガン73は、たとえば13.56MHzのラジオ周波数を用いる無電極放電管を含み、無電極放電管内でO2ガス(6N)をプラズマ化して、Oラジカルビームを出射する。放電管材料として、アルミナまたは高純度石英を使用することができる。
基板ヒータを備えるステージ77が基板78を保持する。ソースガン72〜76は、それぞれセルシャッタを含む。各セルシャッタの開閉により、基板78上に各ビームが照射される状態と照射されない状態とを切り替え可能である。基板78上に所望のタイミングで所望のビームを照射し、所望の組成のZnO系化合物半導体層を成長させることができる。
ZnOにMgを添加することにより、バンドギャップを広げることができる。しかしZnOはウルツ鉱構造(六方晶)であり、MgOは岩塩構造(立方晶)であることから、Mg組成が高すぎると相分離を起こす。MgZnOのMg組成をxと明示するMgxZn1−xOにおいて、Mg組成xはウルツ鉱構造を保つため0.6以下とするのが好ましい。なお、MgxZn1−xOという表記は、x=0の場合としてMgの添加されないZnOを含む。
ZnO系半導体のn型導電性は、不純物のドープを行わなくても得られる。Ga等の不純物をドープし、n型導電性を高めることができる。ZnO系半導体のp型導電性は、p型不純物のドープにより得られる。
真空チャンバ71内に、水晶振動子を用いた膜厚計79が備えられている。膜厚計79で測定される付着速度から、各ビームのフラックス強度が求められる。
真空チャンバ71に、反射高速電子回折(reflection high energy electron diffraction; RHEED)用のガン80、及び、RHEED像を映すスクリーン81が取り付けられている。RHEED像から、基板78上に形成された結晶層の表面平坦性や成長モードを評価することができる。
結晶が2次元成長し表面が平坦なエピタキシャル成長(単結晶成長)である場合、RHEED像はストリークパターンを示し、結晶が3次元成長し表面が平坦でないエピタキシャル成長(単結晶成長)の場合、RHEED像はスポットパターンを示す。多結晶成長の場合は、RHEED像がリングパターンとなる。
次に、MgxZn1−xO(0≦x≦0.6)結晶成長におけるVI/IIフラックス比について説明する。Znビームのフラックス強度をJZn、Mgビームのフラックス強度をJMg、Oラジカルビームのフラックス強度をJOと表す。金属材料であるZnあるいはMgのビームは、原子、または複数個の原子を含むクラスターのZnあるいはMgを含む。原子とクラスターのいずれも結晶成長に有効である。ガス材料であるOのビームは、原子ラジカルや中性分子を含むが、ここでは結晶成長に有効な原子ラジカルのフラックス強度を考える。
結晶へのZnの付着しやすさを示す付着係数をkZn、Mgの付着しやすさを示す付着係数をkMg、Oの付着しやすさを示す付着係数をkOと表す。Znの付着係数kZnとフラックス強度JZnの積kZnJZn、Mgの付着係数kMgとフラックス強度JMgの積kMgJMg、Oの付着係数kOとフラックス強度JOの積kOJOは、それぞれ基板の単位面積に単位時間当たりに付着するZn原子、Mg原子、及びO原子の個数に対応する。
kZnJZnとkMgJMgの和に対するkOJOの比であるkOJO/(kZnJZn+kMgJMg)を、VI/IIフラックス比と定義する。VI/IIフラックス比が1より小さい場合をII族リッチ条件(Mgを含まない場合は単にZnリッチ条件)、VI/IIフラックス比が1に等しい場合をストイキオメトリ条件、VI/IIフラックス比が1より大きい場合をVI族リッチ条件(あるいはOリッチ条件)と呼ぶ。
なお、Zn面(+c面)での結晶成長においては、基板表面温度850℃以下であれば、付着係数kZn、kMg及びkOを1とみなすことができ、VI/IIフラックス比をJO/(JZn+JMg)と表すことが可能である。
VI/IIフラックス比は、たとえばZnOの成長においては、以下の手順で算出することができる。Znフラックスは、水晶振動子を用いた膜厚モニタにより、室温でのZnの蒸着速度FZn(nm/s)として測定される。ZnフラックスはFZn(nm/s)からJZn(atoms/cm2s)に換算される。
一方、Oラジカルフラックスは、以下のように求められる。Oラジカルビーム照射条件一定(たとえばRFパワー300W、O2流量2.0sccm)のもとで、Znフラックスを変化させてZnOを成長させ、ZnO成長速度のZnフラックス依存性を実験的に求める。その結果を、ZnO成長速度GZnOの近似式:GZnO=[(kZnJZn)−1+(kOJO)−1]−1を用いてフィッティングすることにより、その条件におけるOラジカルフラックスJOが算出される。こうして得られたZnフラックスJZn及びOラジカルフラックスJOから、VI/IIフラックス比を算出することができる。
続いて、本願発明者らが行った第1実験及び第2実験について説明する。説明においては、アニール前の試料をアニール前試料、アニール終了後の試料をアニール後試料と記載する。
第1実験及び第2実験に用いるサンプルのアニール前試料の作製方法について説明する。アニール前試料は、図1に示すMBE装置(チャンバ)内で作製する。図2Aに、アニール前試料の概略的な断面図を示す。
n型導電性を有するZn面ZnO(0001)基板(以下、本明細書においてZnO基板)51に900℃で30分間のサーマルクリーニングを施した後、基板51温度を250℃まで下げた。その温度(成長温度250℃)で、ZnフラックスFZnを0.14nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccm(JO=8.1×1014atoms/cm2s)とし、ZnO基板51上に厚さ30nmのZnOバッファ層52を成長させた。成長時間は5分間である。ZnOバッファ層52の結晶性及び表面平坦性の改善のため、950℃で30分間のアニールを行った。
ZnOバッファ層52上に、成長温度を950℃、ZnフラックスFZnを0.14nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccmとして、厚さ100nmのアンドープZnO層53を成長させた。成長時間は15分間である。アンドープZnO層53はn型ZnO層である。
アンドープZnO層53上に、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54を成長する。成長温度250℃、ZnフラックスFZnを0.14nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccm、Agのセル温度TAgを900℃(AgフラックスFAgは0.02nm/s)、Gaのセル温度TGaを550℃(GaフラックスFGaは検出下限値未満)として、厚さ150nmのAg、Ga共ドープZnO単結晶層54を成長させる。
Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54にアニール処理を施す。アニールは、図1に示すMBE装置(チャンバ)内で、アニール前試料の作製に引き続いて実施する(in−situ annealing)。具体的には、MBE装置内において、900℃〜970℃の温度、第1実験においては、930℃及び950℃で、30分間のアニールを実施した。
MBE装置内では、無電極放電管内でO2ガスをプラズマ化し(活性酸素を発生させ)、Oセルシャッタを開状態として、Oラジカルビーム(発生させた活性酸素)を試料(Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54)に直接照射した。MBE装置内は真空に近い環境、たとえば圧力が10−2Pa未満の環境である。
なお、図2Bに、第1実験の温度プロファイルを示した。
図3Aは、二次イオン質量分析法(secondary ion mass spectrometry; SIMS)による、アニール前試料のAgの絶対濃度[Ag]、Gaの絶対濃度[Ga]、及び、Zn二次イオン強度のデプスプロファイルを示すグラフである。グラフの横軸は、アニール前試料の深さ方向の位置を、単位「nm」で表し、縦軸は、Ag濃度[Ag]、Ga濃度[Ga]、及び、Zn二次イオン強度を表す。Ag濃度[Ag]及びGa濃度[Ga]には、単位「cm−3」を用い、Zn二次イオン強度には、単位「cps(counts per second)」を用いた。グラフの横軸はリニアスケール、縦軸は対数スケールである。
グラフより、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54におけるAg濃度[Ag]は1.5×1021cm−3程度、Ga濃度[Ga]は7.5×1020cm−3程度であることがわかる。[Ga]<[Ag]であり、[Ag]/[Ga]は2.01程度である。Ag及びGaは、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54内に、ほぼ均一にドーピングされている。
図3B及び図3Cは、それぞれ930℃、950℃でアニールしたアニール後試料のAg濃度[Ag]、Ga濃度[Ga]、及び、Zn二次イオン強度のデプスプロファイルを示すグラフである。グラフの両軸の意味するところは、図3Aのグラフのそれに等しい。
図3Bのグラフを参照すると、930℃で30分間アニールしたアニール後試料のAg、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置におけるAg濃度[Ag]は5.1×1020cm−3程度、Ga濃度[Ga]は7.7×1020cm−3程度であることがわかる。[Ag]/[Ga]は0.66程度である。
図3Cのグラフを参照すると、950℃で30分間アニールしたアニール後試料のAg、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置におけるAg濃度[Ag]は3.3×1020cm−3程度、Ga濃度[Ga]は8.2×1020cm−3程度であることがわかる。[Ag]/[Ga]は0.41程度である。
アニール後試料においては、[Ag]<[Ga]である。また、たとえばAg濃度[Ag]は、サンプル最表面で減少が見られるものの、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置において、ほぼ均一である。
図4A及び図4Bは、それぞれ930℃、950℃でアニールしたアニール後試料の1/C2−V特性(上段)と不純物濃度のデプスプロファイル(下段)を示すグラフである。測定は、電解液をショットキー電極に用いたエレクトロケミカルCV測定法(ECV法)により行った。グラフは並列モデルで解析した結果を示す。1/C2−V特性を示すグラフの横軸は、電圧を単位「V」で表し、縦軸は、「1/C2」を単位「cm4/F2」で表す。両軸ともリニアスケールを用いている。不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフの横軸は、試料の深さ(厚さ)方向の位置を単位「nm」で表し、縦軸は、不純物濃度を単位「cm−3」で表す。横軸はリニアスケール、縦軸は対数スケールを用いている。
930℃でアニールしたサンプル(図4A参照)においても、950℃でアニールしたサンプル(図4B参照)においても、電圧が増加すると1/C2が減少する関係が得られ、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置がp型化した(Ag、Ga共ドープp型ZnO単結晶層が形成された)ことが示されている。[Ag]<[Ga](図3B及び図3C参照)の状態でp型を示しているが、Agはアクセプタとして機能すると考えられるため、アニール後における濃度関係は、[Ga]<[Ag]であることが望ましいであろう。
また、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置(Ag、Ga共ドープp型ZnO単結晶層)の不純物濃度(アクセプタ濃度)Naは、930℃でアニールしたサンプル(図4A参照)においては、1.2×1019cm−3程度、950℃でアニールしたサンプル(図4B参照)においては、1.8×1018cm−3程度であることがわかる。
なお、アニール前試料はショットキー接合が形成されず(導電性が高い)、測定できなかったが、n型導電性を示すと思われる。
図5A、図5B、及び図5Cに、それぞれアニール前試料、930℃でアニールしたアニール後試料、950℃でアニールしたアニール後試料表面の原子間力顕微鏡(atomic force microscope; AFM)像(5μm×5μmの範囲)を示す。RMSは、それぞれ14.432nm、1.798nm、2.138nmであった。アニールにより、RMSが小さくなる。Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置の表面平坦性及び結晶性が向上していることがわかる。
第1実験においては、真空に近い環境、たとえば圧力が10−2Pa未満の環境で、Oラジカルビームを試料に直接照射しながら、アニール処理(in−situ annealing)を行った。アニール温度は900℃〜970℃、具体的には930℃及び950℃、アニール時間は30分とした。このようなアニールにより、表面平坦性及び結晶性の向上されたAg、Ga共ドープp型ZnO単結晶層が得られた。表面平坦性及び結晶性の向上は、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54の成長温度よりも高い温度、たとえば少なくとも100℃以上高い温度でアニールを実施することにより得られるであろう。
次に、第2実験について説明する。第2実験においても、MBE装置内で試料にアニールを施した(in−situ annealing)。具体的にはMBE装置内において、950℃、30分間のアニールを行った。第2実験では、Oラジカルビームを試料(Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54)に直接照射しながら行うアニールと、試料に直接照射しない状態で行うアニールとを比較した。
Oラジカルビームを試料に直接照射しながら行うアニールは、第1実験と同様のアニールである。無電極放電管内でO2ガスをプラズマ化し、かつ、Oセルシャッタを開状態として、Oラジカルビームが試料に直接照射される状態で、アニールを行った。一方、Oラジカルビームを試料に直接照射しない状態で行うアニールとして、第2実験においては、無電極放電管内でO2ガスをプラズマ化し、かつ、Oセルシャッタを閉状態としてアニールを実施した。
図6に、第2実験の温度プロファイルを示す。第2実験は、アニールに関してのみ、第1実験と相違する。アニール前試料の作製も、第1実験と同条件で行った。
図7A〜図7Cは、SIMSによる、Agの絶対濃度[Ag]、Gaの絶対濃度[Ga]、及び、Zn二次イオン強度のデプスプロファイルを示すグラフである。図7Aはアニール前試料、図7Bは、Oラジカルビームを直接照射しながらアニールした試料、図7Cは、Oラジカルビームを直接照射しない状態でアニールした試料について示す。グラフの両軸の意味するところは、図3A〜図3Cのグラフのそれと等しい。
図7Aを参照すると、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54におけるAg濃度[Ag]は9.7×1020cm−3程度、Ga濃度[Ga]は1.1×1020cm−3程度であることがわかる。[Ag]/[Ga]は8.67程度である。Ag及びGaは、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54内に、ほぼ均一にドーピングされている。
図7Bのグラフを参照すると、Oラジカルビームを直接照射しながら950℃で30分間アニールしたアニール後試料のAg、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置におけるAg濃度[Ag]は8.8×1020cm−3程度、Ga濃度[Ga]は2.0×1020cm−3程度であることがわかる。[Ag]/[Ga]は4.33程度である。
図7Cのグラフを参照すると、Oラジカルビームを直接照射しない状態で950℃で30分間アニールしたアニール後試料のAg、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置におけるAg濃度[Ag]は8.3×1020cm−3程度、Ga濃度[Ga]は9.6×1019cm−3程度であることがわかる。[Ag]/[Ga]は8.67程度である。
Oラジカルビームを直接照射しながらアニールしたアニール後試料(図7B参照)においては、たとえばAg濃度[Ag]は、サンプル最表面で減少が見られるものの、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置において、ほぼ均一である。一方、Oラジカルビームを直接照射しない状態でアニールしたアニール後試料(図7C参照)においては、たとえばAg濃度[Ag]は、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置において、サンプル表面方向に向かって徐々に減少している。Agは、アニール中に拡散し、サンプル表面(Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置表面)から蒸発していることが示唆されている。なお、第2実験においては、[Ga]<[Ag]であった。
図8A及び図8Bは、それぞれOラジカルビームを直接照射する状態、直接照射しない状態でアニールしたアニール後試料の1/C2−V特性(上段)と不純物濃度のデプスプロファイル(下段)を示すグラフである。グラフの両軸の意味するところは、図4A及び図4Bのそれと等しい。
図8Aを参照すると、Oラジカルビームを直接照射しながらアニールしたサンプルにおいては、電圧が増加すると1/C2が減少する関係が得られ、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置がp型化した(Ag、Ga共ドープp型ZnO単結晶層が形成された)ことが示されている。また、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置(Ag、Ga共ドープp型ZnO単結晶層)の不純物濃度(アクセプタ濃度)Naは、4.2×1017cm−3程度であることがわかる。
図8Bを参照すると、Oラジカルビームを直接照射しない状態でアニールしたサンプルにおいては、電圧が増加すると1/C2が増加する関係が得られ、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置がn型であることが示されている。また、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54形成位置の不純物濃度(ドナー濃度)Ndは、2.1×1018cm−3程度であることがわかる。
なお、アニール前試料はショットキー接合が形成されず、測定できなかったが、n型導電性を示すと思われる。
本願発明者らが、先の出願(特願2013−258806号)に記載した実験(Agの代わりにCuを用いた同種の実験)によれば、Oラジカルビームを試料に直接照射しながらアニールを行った場合、CuとGaを含むn型ZnO系半導体単結晶構造はp型化されなかった。SIMS分析の結果、アニールによってCuが表面まで拡散され、Oラジカルと反応して、試料表面に銅酸化物が形成されると考えられた。一方、活性酸素の存在下、Oラジカルビームを試料に直接照射しない状態でアニールを行うと、p型化された。
AgとCuを比較すると、たとえば以下の相違がある。
(1)Ag2Oの融点は280℃であり、それ以上の温度に加熱すると、銀と酸素に分解する。
(2)AgOの融点は100℃超であり、それ以上の温度に加熱すると、銀と酸素に分解する。
(3)Cu2O(酸化銅(I))の融点は1232℃であり、1800℃で分解する。
(4)CuO(酸化銅(II))の融点は1026℃であり、1050℃以上で分解してCu2O(酸化銅(I))になる。
(5)銀の蒸気圧は銅のそれに比べて高い。
なお、図9に、Zn、Ga、Ag、及びCuの蒸気圧曲線を示した。
本願発明者らは、AgとGaを含むn型ZnO系半導体単結晶構造(Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54)を、Oラジカルビームを直接照射しない状態でアニールすると、酸化銀が銀と酸素に分解する、銀の蒸気圧は、たとえばCuと比べて高く、分解した銀は、n型ZnO系半導体単結晶構造表面から蒸発しやすい、このためもあって、n型ZnO系半導体単結晶構造はp型化しないと考えた。また、Oラジカルビームを直接照射しながらアニールすると、酸化銀の分解、及び、表面からの過大なAg(アクセプタ不純物)抜けが抑制され、p型層が形成されると考えた。
本願発明者らが行った実験(第1実験及び第2実験)より、真空に近い環境、たとえば圧力が10−2Pa未満の環境で、AgとGaを含むn型ZnO系半導体単結晶構造に、活性酸素(Oラジカルビーム)を直接照射しながら、アニールを施すことにより、実験においては in−situ annealing を行うことにより、n型のZnO系半導体単結晶構造をp型化する(Ag、Ga共ドープp型ZnO系半導体単結晶層を形成する)ことが可能であることがわかった。アニール温度は、n型ZnO系半導体単結晶構造の成長温度よりも高い温度、たとえば少なくとも100℃以上高い温度、一例として、900℃〜970℃である。形成されるAg、Ga共ドープp型ZnO系半導体単結晶層は、良好な結晶性及び表面平坦性を有する。
なお、in−situ annealing を行うと、外部電気炉が不要で、かつ、p型ZnO系半導体単結晶層の製造時間を短縮することができる。
続いて、Ag、Ga共ドープZnO層等をp型半導体層に用い、ZnO系半導体発光素子を製造する実施例について説明する。
図10A及び図10Bは、実施例によるZnO系半導体発光素子の製造方法の概略を示すフローチャートである。なお、実施例においては半導体発光素子について説明するが、本発明は、発光素子に限らず広く半導体素子について適用することができる。
図10Aに示すように、実施例によるZnO系半導体発光素子の製造方法は、基板上方にn型ZnO系半導体層を形成する工程(ステップS101)、及び、ステップS101で形成されたn型ZnO系半導体層上方に、p型ZnO系半導体層を形成する工程(ステップS102)を含む。
また、ステップS102のp型ZnO系半導体層形成工程は、図10Bに示すように、ステップS102a及びステップS102bの2工程を含む。
p型ZnO系半導体層形成工程(ステップS102)においては、まず、AgとGaを含むZnO系半導体単結晶層を形成する(ステップS102a)。たとえば、Zn、O、Ag、Ga、及び、必要に応じてMgを供給して、AgとGaがドープされたn型MgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層を形成する。そして真空に近い環境、たとえば圧力が10−2Pa未満の環境で、ステップS102aで形成されたZnO系半導体単結晶層に、活性酸素(Oラジカルビーム)を直接照射しながらアニール、たとえば in−situ annealing を行って、Ag、Ga共ドープp型ZnO系半導体単結晶層(Ag、Ga共ドープp型MgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層)を形成する。アニール温度は、ステップS102aにおけるZnO系半導体単結晶層の成長温度よりも高い温度、たとえば少なくとも100℃以上高い温度、一例として、900℃〜970℃とする。
図11を参照し、ホモ構造のZnO系半導体発光素子を製造する第1実施例について説明する。図11は、第1実施例による製造方法で製造されるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図である。
ZnO基板1上に、成長温度300℃で、ZnフラックスFZnを0.15nm/s(JZn=9.9×1014atoms/cm2s)とし、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccmとして、厚さ30nmのZnOバッファ層2を成長させた。ZnOバッファ層2の結晶性及び表面平坦性の改善のため、900℃で10分間のアニールを行った。
ZnOバッファ層2上に、成長温度900℃で、Zn、O及びGaを同時に供給し、厚さ150nmのn型ZnO層3を成長させた(たとえば図10AのステップS101)。ZnフラックスFZnは0.15nm/s(JZn=9.9×1014atoms/cm2s)、Oラジカルビーム照射条件はRFパワー250W、O2流量1.0sccm(JO=4.0×1014atoms/cm2s)、Gaのセル温度は460℃とした。n型ZnO層3のGa濃度は、たとえば1.5×1018cm−3である。
n型ZnO層3上に、成長温度900℃、ZnフラックスFZnを0.03nm/s(JZn=2.0×1014atoms/cm2s)、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccmとして、厚さ15nmのアンドープZnO活性層4を成長させた。
続いて、アンドープZnO活性層4上に、Ag、Ga共ドープp型ZnO層5を形成した(図10AのステップS102)。
成長温度250℃、ZnフラックスFZnを0.14nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccm、Agのセル温度TAgを900℃、Gaのセル温度TGaを550℃として、厚さ150nmのAg、Ga共ドープZnO単結晶層を成長させた(図10BのステップS102a)。
引き続き、MBE装置内で、Ag、Ga共ドープZnO単結晶層に、950℃、30分間のアニール(in−situ annealing)を施した(図10BのステップS102b)。アニールにおいては、無電極放電管内でO2ガスをプラズマ化し(活性酸素を発生させ)、Oセルシャッタを開状態として、Oラジカルビーム(発生させた活性酸素)をAg、Ga共ドープZnO単結晶層に直接照射した。MBE装置内は真空に近い環境、たとえば圧力が10−2Pa未満の環境である。こうしてAg、Ga共ドープp型ZnO層5が形成される。
Ag、Ga共ドープp型ZnO層5におけるAg濃度[Ag]は8.8×1020cm−3程度、Ga濃度[Ga]は2.0×1020cm−3程度、[Ag]/[Ga]は4.33程度である。
その後、ZnO基板1の裏面にn側電極6nを形成した。Ag、Ga共ドープp型ZnO層5上にはp側電極6pを形成し、p側電極6p上にボンディング電極7を形成した。n側電極6nは、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nmのAu層を積層して形成し、p側電極6pは、サイズ300μm□で厚さ1nmのNi層上に、厚さ10nmのAu層を積層して形成することができる。ボンディング電極7は、サイズ100μm□で厚さ500nmのAu層で形成した。このようにして、第1実施例による方法でZnO系半導体発光素子が作製された。
Ag、Ga共ドープp型ZnO層5は、良好な結晶性及び表面平坦性を有するp型ZnO系半導体単結晶層である。
なお、第1実施例による方法によれば、アニールを行う外部電気炉が不要で、かつ、Ag、Ga共ドープp型ZnO層5、ひいては半導体発光素子の製造時間を短縮することが可能である。
実験及び第1実施例では、ZnOにAgとGaをドープする場合を説明したが、ZnOとMgxZn1−xO(0<x≦0.6)はほぼ同様の結晶成長が可能である。従って、Ag、Ga共ドープp型MgxZn1−xO(0<x≦0.6)層の形成にも適用可能である。
Ag、Ga共ドープp型MgxZn1−xO(0<x≦0.6)単結晶層を備える、ダブルへテロ構造のZnO系半導体発光素子を製造する第2実施例及び第3実施例について説明する。
図12Aは、第2実施例による製造方法で製造されるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図である。
ZnO基板11上にZn及びOを同時に供給し、たとえば厚さ30nmのZnOバッファ層12を成長させた。一例として、成長温度を300℃、ZnフラックスFZnを0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccmとすることができる。ZnOバッファ層12の結晶性及び表面平坦性の改善のため、900℃で10分間のアニールを行った。
ZnOバッファ層12上にZn、O及びGaを同時に供給し、たとえば成長温度900℃で、厚さ150nmのn型ZnO層13を成長させた。ZnフラックスFZnを0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー250W、O2流量1.0sccm、Gaのセル温度を460℃とした。n型ZnO層13のGa濃度は、たとえば1.5×1018cm−3である。
n型ZnO層13上にZn、Mg及びOを同時に供給し、たとえば厚さ30nmのn型MgZnO層14を成長させた。成長温度を900℃、ZnフラックスFZnを0.1nm/s、MgフラックスFMgを0.025nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccmとすることができる。n型MgZnO層14のMg組成は、たとえば0.3である。
n型MgZnO層14上にZn及びOを同時に供給し、たとえば成長温度900℃で、厚さ10nmのZnO活性層15を成長させた。ZnフラックスFZnを0.1nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccmとした。
なお、図12Bに示すように、活性層15として、単層のZnO層ではなく、MgZnO障壁層15bとZnO井戸層15wが交互に積層された量子井戸構造を採用することができる。
成長温度250℃、ZnフラックスFZnを0.14nm/s、MgフラックスFMgを0.04nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccm、Agのセル温度TAgを900℃、Gaのセル温度TGaを550℃として、ZnO活性層15上に、厚さ150nmのAg、Ga共ドープMgZnO単結晶層を成長させた。Ag、Ga共ドープMgZnO単結晶層は、n型導電性を示す。
引き続き、MBE装置内で、Ag、Ga共ドープMgZnO単結晶層に、900℃、30分間のアニール(in−situ annealing)を施した。アニールにおいては、無電極放電管内でO2ガスをプラズマ化し(活性酸素を発生させ)、Oセルシャッタを開状態として、Oラジカルビーム(発生させた活性酸素)をAg、Ga共ドープMgZnO単結晶層に直接照射した。MBE装置内は真空に近い環境、たとえば圧力が10−2Pa未満の環境である。アニールによって、Ag、Ga共ドープMgZnO単結晶層形成位置がp型化され、Ag、Ga共ドープp型MgZnO層16が形成される。
Ag、Ga共ドープp型MgZnO層16におけるAg濃度[Ag]は1.1×1021cm−3程度、Ga濃度[Ga]は8.8×1020cm−3程度、[Ag]/[Ga]は1.25程度である。
その後、ZnO基板11の裏面にn側電極17nを形成し、Ag、Ga共ドープp型MgZnO層16上にp側電極17pを形成する。また、p側電極17p上にボンディング電極18を形成する。たとえばn側電極17nは、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nmのAu層を積層して形成し、p側電極17pは、大きさ300μm□で厚さ1nmのNi層上に、厚さ10nmのAu層を積層して形成することができる。ボンディング電極18は、大きさ100μm□で厚さ500nmのAu層で形成する。このようにして、第2実施例による方法でZnO系半導体発光素子が作製される。
第2実施例においてはZnO基板11を用いたが、MgZnO基板、GaN基板、SiC基板、Ga2O3基板等の導電性基板を使用することが可能である。
Ag、Ga共ドープp型MgZnO層16は、良好な結晶性及び表面平坦性を有するp型ZnO系半導体単結晶層である。
なお、第2実施例による方法によれば、アニールを行う外部電気炉が不要で、かつ、Ag、Ga共ドープp型MgZnO層16、ひいては半導体発光素子の製造時間を短縮することが可能である。
図13は、第3実施例による製造方法で製造されるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図である。第1及び第2実施例においては導電性基板上に結晶成長し、層形成を行ったが、第3実施例では絶縁性基板上に結晶成長する。
絶縁性基板であるc面サファイア基板21上にMg及びOを同時に供給し、たとえば厚さ10nmのMgOバッファ層22を成長させる。一例として、成長温度を650℃、MgフラックスFMgを0.05nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccmとすることができる。MgOバッファ層22は、その上のZnO系半導体がZn面を表面として成長するように制御する極性制御層として機能する。
MgOバッファ層22上に、たとえば成長温度300℃、ZnフラックスFZnを0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccmとして、Zn及びOを同時に供給し、厚さ30nmのZnOバッファ層23を成長させる。ZnOバッファ層23はZn面で成長する。ZnOバッファ層23の結晶性及び表面平坦性の改善のため、900℃で30分間のアニールを行う。
ZnOバッファ層23上にZn、O及びGaを同時に供給し、たとえば厚さ1.5μmのn型ZnO層24を成長させる。一例として成長温度を900℃、ZnフラックスFZnを0.05nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccm、Gaのセル温度を480℃とする。
n型ZnO層24上に、Zn、Mg及びOを同時に供給し、たとえば厚さ30nmのn型MgZnO層25を成長させる。成長温度を900℃、ZnフラックスFZnを0.1nm/s、MgフラックスFMgを0.025nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccmとすることができる。n型MgZnO層25のMg組成は、たとえば0.3である。
n型MgZnO層25上に、たとえば厚さ10nmのZnO活性層26を成長させる。成長条件は、第2実施例における活性層15の場合と等しくすることができる。単層のZnO層のかわりに、量子井戸構造を採用してもよい。
活性層26上にAg、Ga共ドープp型MgZnO層27を形成する。形成方法は、たとえば第2実施例におけるAg、Ga共ドープp型MgZnO層16のそれと等しい。
第3実施例のc面サファイア基板21は絶縁性基板であるため、基板21裏面側にn側電極を取ることができない。そこでAg、Ga共ドープp型MgZnO層27の上面から、n型ZnO層24が露出するまでエッチングを行い、露出したn型ZnO層24上にn側電極28nを形成する。また、Ag、Ga共ドープp型MgZnO層27上にp側電極28pを形成し、p側電極28p上にボンディング電極29を形成する。
n側電極28nは、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nmのAu層を積層して形成し、p側電極28pは、厚さ0.5nmのNi層上に厚さ10nmのAu層を積層して形成することができる。ボンディング電極29は、厚さ500nmのAu層で形成する。このようにして、第3実施例による方法でZnO系半導体発光素子が作製される。
第3実施例による製造方法によっても、第2実施例による製造方法と同様の効果を奏することができる。
本願発明者らは鋭意研究を継続し、新たな成果を得た。次に、第3実験について説明する。
第1及び第2実験においては、アニール前試料のAg、Ga共ドープZnO単結晶層54を、Zn、O、Ag、Gaの同時照射(同時供給)により形成したが、第3実験においては、GaドープZnO単結晶層とAgO層の交互積層構造からなるn型Ag、Ga共ドープZnO単結晶層54を形成する。なおAgO(酸化銀(II))、Ag2O(酸化銀(I))等、AgOxと表すことのできる銀酸化物を「AgO」と表記する。
第3実験に係るアニール前試料は、MBE装置を用い、以下のように作製した。
ZnO基板51に900℃で30分間のサーマルクリーニングを施した後、基板51温度を250℃まで下げ、ZnフラックスFZnを0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccmとし、ZnO基板51上に厚さ40nmのZnOバッファ層52を成長させた。成長時間は5分間である。ZnOバッファ層52の結晶性及び表面平坦性の改善のため、950℃で30分間のアニールを行った。
ZnOバッファ層52上に、成長温度を950℃、ZnフラックスFZnを0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccmとして、厚さ100nmでn型のアンドープZnO層53を成長させた。成長時間は15分間である。アンドープZnO層53上に、厚さ130nmのAg、Ga共ドープZnO単結晶層(交互積層構造)54を形成した。交互積層構造54の形成温度は250℃とした。
図14は、交互積層構造54の概略的な断面図である。交互積層構造54は、GaドープZnO単結晶層54aとAgO層54bが交互に積層された構造を有する。
GaドープZnO単結晶層54aは、ZnフラックスFZnを0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccm、Gaのセル温度TGaを550℃として成長させる。VI/IIフラックス比は、0.82となる。1層当たりのGaドープZnO単結晶層54aの成長時間は10秒間である。
AgO層54bは、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O2流量2.0sccm、Agのセル温度TAgを825℃として成長させる。1層当たりのAgO層54bの成長時間は30秒間である。
GaドープZnO単結晶層54aとAgO層54bを、交互に60層ずつ成長させた。
続いて、交互積層構造54にアニール処理を施した。アニールはMBE装置内(たとえば圧力が10−2Pa未満の環境)で、アニール前試料の作製に引き続いて実施した(in−situ annealing)。具体的には、800℃で30分間のアニールを実施した。アニールに際しては、無電極放電管内でO2ガスをプラズマ化(RFパワー300W、O2流量2.0sccm)し、かつ、Oセルシャッタを閉状態とした。すなわちアニールを、活性酸素の存在する、圧力が10−2Pa未満の環境で実施した。
なお、図15に、第3実験の温度プロファイルを示した。
図16Aは、第3実験のアニール後試料の1/C2−V特性と不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフである。グラフの両軸の意味するところは、たとえば図4Aの対応するグラフのそれらに等しい。
1/C2−V特性を示すグラフを参照する。電圧が増加すると1/C2が減少する関係が得られ、アニールによって交互積層構造54形成位置がp型化した(Ag、Ga共ドープp型ZnO単結晶層が形成された)ことが示されている。交互積層構造54中のAgとGaが交互拡散することでp型化すると考えられる。
不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフを参照すると、交互積層構造54形成位置(Ag、Ga共ドープp型ZnO単結晶層)の不純物濃度(アクセプタ濃度)Naは、2.0×1010cm−3程度であることがわかる。これは第1実験及び第2実験で得られた不純物濃度(アクセプタ濃度)Naよりも高い。
図16Bは、アニールによって形成されたAg、Ga共ドープp型ZnO単結晶層の[11−20]方向から見たRHEED像である。RHEED像はストリークパターンを示している。表面が平坦で良好な結晶性を有する単結晶層が形成されていることがわかる。なお、第3実験で得られたp型層は、第1実験及び第2実験で得られたp型層より、結晶性及び表面平坦性が良好であった。
第3実験より、交互積層構造54を、活性酸素の存在する、圧力が10−2Pa未満の環境でアニールすることにより、実験においては in−situ annealing を行うことにより、高不純物濃度(アクセプタ濃度)NaのAg、Ga共ドープp型ZnO単結晶層を形成できることがわかった。p型化は、交互積層構造54(n型ZnO系半導体単結晶構造)の成長温度よりも高いアニール温度で可能である。形成されるAg、Ga共ドープp型ZnO単結晶層は、第1実験及び第2実験で得られるp型層より、良好な結晶性及び表面平坦性を有する。
RHEED像がストリークパターンを示した(第1実験及び第2実験で得られたp型層より結晶性等が良好であった)理由として、たとえば以下の(1)〜(3)が考えられるであろう。
(1)交互成長を行うことにより、II族サイトへの競合が減少した。
(2)Agを酸化させながらZnO層上に照射することにより、Agの凝集が抑止された。
(3)AgOを形成することにより、その上に成膜するZnOのマイグレーションが向上した。
また、不純物濃度(アクセプタ濃度)Naが高いp型層が得られた理由として、たとえば以下の(4)〜(6)が考えられるであろう。
(4)完全に室温まで戻さず、in−situ annealing を行うことで構成元素が動きやすくなり、AgのZn位置置換効率が上昇した。
(5)活性酸素の存在する、圧力が10−2Pa未満の環境でアニールすることにより、ドナー源として作用するO空孔の発生を抑制できた。
(6)上記(1)〜(3)等の理由で良好な結晶性が得られ、格子間ZnやO空孔等の欠陥が減少した。
本願発明者らは、更に、GaドープZnO単結晶層54aとAgO層54bとからなる交互積層構造54を備えるアニール前試料に、活性酸素の存在する、圧力が10−2Pa未満の環境下、異なるアニール温度でアニール(in−situ annealing)を施した。
図17は、アニール温度を750℃、800℃、850℃としたときのアニール後試料の1/C2−V特性と不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフである。グラフの両軸の意味するところは、たとえば図4Aの対応するグラフのそれらに等しい。また、本図800℃のときのグラフは、図16Aに示したグラフと同一である。
本図に示されるように、アニール温度が750℃〜850℃の範囲で、不純物濃度(アクセプタ濃度)Naが1020cm−3オーダーのp型層が得られた。
また、SIMS分析の結果、アニール後試料におけるp型層形成位置のAg濃度[Ag]は、アニール温度が750℃のとき、7.1×1020cm−3、800℃のとき、1.0×1021cm−3、850℃のとき、1.1×1021cm−3であった。なお、本実験のアニール条件においては、アニールの前後でAg濃度[Ag]にほぼ変化がないことがわかっている。
更に、同構造別個体の試料のアニール結果も含めると、Ag濃度[Ag]が7.1×1020cm−3〜1.0×1021cm−3のとき、700℃〜800℃のアニール温度範囲で、不純物濃度(アクセプタ濃度)Naが1020cm−3オーダーのp型層が得られること、及び、Ag濃度[Ag]が1.1×1021cm−3〜1.7×1021cm−3のとき、850℃のアニール温度で、不純物濃度(アクセプタ濃度)Naが1020cm−3オーダーのp型層が得られることがわかった。
Ag濃度[Ag]によって、最適なアニール温度またはアニール温度範囲が存在し、[Ag]が相対的に低い場合、アニール温度を相対的に低く、[Ag]が相対的に高い場合、アニール温度を相対的に高くすることが好ましいと考えられる。
たとえば交互積層構造54のAg濃度が[Ag]7.1×1020cm−3〜1.0×1021cm−3のときは、700℃〜800℃の温度で、Ag濃度[Ag]が1.1×1021cm−3〜1.7×1021cm−3のときは、800℃を超える温度で、アニールを行うことが望ましいであろう。p型化は、少なくとも700℃〜850℃の温度範囲でアニールを行うことにより実現可能である。
第3実験においては、GaドープZnO単結晶層54aとAgO層54bが交互に積層された積層構造54を用いたが、たとえばGaがドープされたMgxZn1−xO(0≦x≦0.6)で表されるZnO系半導体単結晶層と銀酸化物層とが交互に積層された積層構造(n型MgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層)を使用することができる。
また、第3実験に係る方法と同様の方法で積層構造にアニールを施してp型ZnO系半導体層を形成し、ZnO系半導体素子を製造することができる。
以上、実験及び実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されない。
たとえば、実験及び実施例では、AgとGaを含むZnO系半導体単結晶層(AgとGaがドープされたn型MgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層)にアニールを行い、Ag、Ga共ドープp型ZnO系半導体単結晶層(Ag、Ga共ドープp型MgxZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層)を形成(p型化)した。Ag(IB族元素)とGa(IIIB族元素)を含むZnO系半導体単結晶層がアニールされることで、AgがVIB族元素であるOと1価(Ag+)の状態で結合しやすくなり、アクセプタとして機能する1価のAg+が2価のAg2+や3価のAg3+より生じやすくなる結果、ZnO系半導体単結晶層がp型化すると考えられる。したがってGaに限らず、Gaと同じくIIIB族元素であるB、Al及びInを使用することができる。使用されるIIIB族元素は、B、Ga、Al及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素であればよい。
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。