モノクローナル抗体には神経疾患又は中枢神経系(CNS)疾患を治療するための非常に大きな治療的な可能性があるが、それらの脳内への移動は血液脳関門(BBB)によって制限される。過去の試験により、血流内を循環しているIgGのうちBBBを越えてCNS内に入るものの百分率は非常に小さい(およそ0.1%)ことが示されており(Felgenhauer, Klin. Wschr. 52: 1158-1164 (1974))、その場合、ロバストな効果を可能にするためには抗体のCNSへの濃縮が不十分であり得る。CNS内に分配される抗体の百分率は、BBB受容体(すなわち、トランスフェリン受容体、インスリン受容体、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8、グルコーストランスポーター1(Glut1)など)(例えば、国際公開第9502421号を参照されたい)を利用することによって改善することができることが以前に見いだされた。例えば、抗BBB受容体抗体を多特異性にしてCNS内の1種又は複数種の所望の抗原を標的とすることもでき、1種又は複数種の異種分子と抗BBB受容体抗体とをカップリングすることもでき、いずれの場合も、抗BBB受容体抗体は、治療用分子をCNS内にBBBを通して送達することに役立ち得る。
しかし、従来の特異的な高親和性抗体を用いたBBB受容体の標的化では、一般に、もたらされるBBB輸送の増加は限られたものであった。後に、出願人らは、試験した抗BBB抗体の中で、CNS内に取り込まれ分配される抗体の規模がBBB受容体に対するその結合親和性と反比例することを見いだした。例えば、治療量レベルで投薬された、トランスフェリン受容体(TfR)に対する親和性が低い抗体により、親和性が高い抗TfR抗体と比較して抗TfR抗体のBBB輸送及びCNSへの保持が著しく改善され、及びCNS内への治療的濃縮をより容易に実現することが可能になる(Atwalら、Sci. Transl. Med. 3、84ra43 (2011))。そのようなBBB輸送の証明を、TfRとアミロイド前駆体タンパク質(APP)切断酵素、β−セクレターゼ(BACE1)の両方に結合する二重特異性抗体を使用して実現した。本発明の方法体系を使用して操作した二重特異性抗TfR/BACE1抗体の単回全身投薬により、抗体が脳内に有意に取り込まれただけでなく、脳内Aβ1−40のレベルが単一特異性抗BACE1単独と比較して劇的に低下し、これにより、BBBへの浸透度が抗BACE1の効力に影響を及ぼすことが示唆された。(Atwalら、Sci. Transl. Med. 3、84ra43 (2011);Yuら、Sci. Transl. Med. 3、84ra44 (2011))。
これらのデータ及び実験により、低親和性抗体による手法を使用してCNS内への抗体の取り込みを増加させることの背景にある、いくつかの原因となる機構が強調された。第1に、高親和性抗BBB受容体(BBB−R)抗体(例えば、抗TfRA)により、脳脈管構造内のBBB−Rが直ちに飽和することによって脳への取り込みが限定され、したがって脳内に取り込まれる抗体の総量が減少し、及び脈管構造へのその分配も制限される。著しく、BBB−Rに対する親和性を低下させることにより、脳への取り込み及び分配が改善され、脈管構造からCNS内に分配されたニューロン及び関連するニューロピルへの局在化のロバストなシフトが観察された。第2に、BBB−Rに対する抗体の全体的な親和性が低く、及び抗体がCNS区画内に急速に分散されることに起因してBBBのCNS側への抗体の局所的な濃度は飽和しないことから、抗体が膜のCNS側からBBB−Rを介してBBBの血管側に戻ることを減損させるために、BBB−Rに対する抗体の親和性をより低くすることが提唱される。第3に、in vivoにおいて、及びTfR系について観察された通り、BBB−Rに対する親和性が低い抗体は、BBB−Rに対する親和性が高い抗体ほど効率的には系から取り除かれず、したがって、それらの高親和性対応物よりも循環濃度が高いままである。これは、低親和性抗体の循環している抗体のレベルが、高親和性抗体よりも長い期間にわたって治療レベルで持続し、したがって、脳内への抗体の取り込みがより長い期間にわたって改善されるので、有利である。さらに、血漿曝露及び脳曝露の両方におけるこの改善により、診療所における投薬の頻度を減らすことができ、これには、患者のコンプライアンス及び利便性に関してだけでなく、抗体及び/又はそれとカップリングした治療用化合物のいかなる潜在的な副作用又はオフターゲットの作用を減らすことにおいても利益がある可能性がある。
トランスフェリンとTfRの間の天然の結合への干渉を回避するために、したがって、潜在的な鉄輸送に関連する副作用を回避するために、上で参照されている研究に記載されている低親和性BBB−R抗体を選択/操作した。それにもかかわらず、ある特定のこれらの抗体をマウスに投与した際にいくつかの顕著な副作用が観察された。マウスは、実施例に記載の通り、急性臨床症状の急速な発症を伴う網状赤血球集団のロバストな枯渇という一次応答を示した。抗ヒトTfR抗体を用いて処理したヒト赤芽球細胞株及び初代骨髄細胞を使用した別のin vitro試験により、TfR陽性赤血球系細胞のロバストな枯渇がヒト細胞系においても観察可能であることが実証された(例えば、実施例7を参照されたい)。マウスはやがて急性臨床症状及び網状赤血球レベルの低下のどちらからも回復したが、抗TfR抗体を治療用分子として安全に使用することができるようにするためには、網状赤血球に対するこの影響を回避すること又はそうでなければ軽減することが明白に望ましい。
したがって、本発明は、抗TfRを投与した際の網状赤血球集団の望ましくない低下を著しく減少させる又は排除する一方で、それでも、治療濃度で投与した低親和性抗TfR抗体によってBBB輸送の増強、CNSへの分配の増加及びCNSへの保持がもたらされることを可能にする組成物及び方法を提供する。本明細書に記載されている結果は、抗TfR投与に対する一次応答(ロバストな網状赤血球枯渇及び急性臨床徴候)は主に抗体の抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)活性によって駆動され、一方、残りの網状赤血球の枯渇作用は補体経路によって媒介されることを示している。一次的な網状赤血球枯渇と残りの網状赤血球の枯渇の両方に対して観察された抗TfR抗体の作用を軽減するためのいくつかの一般的な手法が本明細書において提供され、それは単独で又は組み合わせて使用することができる。
1つの手法では、ADCC活性を低下させる又は排除するために、抗BBB−R抗体のエフェクター機能を低下させる又は排除する。別の手法では、抗体と網状赤血球集団の相互作用のその集団に対する有害性が低くなるように、抗BBB−R抗体のBBB−Rに対する親和性をさらに低下させる。第3の手法は、血漿中に存在する抗BBB−R抗体の量を減少させて、網状赤血球集団の、潜在的に有害な濃度の抗体への曝露を減らすことを対象とする。第4の手法では、網状赤血球集団を保護、安定化及び/又は補給し、その結果、抗BBB−R抗体を投与することによるいかなる潜在的な網状赤血球集団の枯渇も回避、減少又は軽減することが試みられる。
本明細書に記載のエフェクター機能の低下又は排除は、(i)抗体の野生型哺乳動物グリコシル化を低下させること若しくは排除することによって(例えば、そのようなグリコシル化が起こり得ない環境で抗体を作製することによって、抗体がグリコシル化され得ないように1つ若しくは複数の炭水化物結合点を変異させることによって、又は抗体がグリコシル化された後に1つ若しくは複数の炭水化物を抗体から化学的又は酵素的に除去することによって);(ii)抗BBB−R抗体のFc受容体結合能を低下させること若しくは排除することによって(例えば、Fc領域の変異によって、Fc領域内の欠失によって、又はFc領域の排除によって);又は(iii)エフェクター機能が最小である又はエフェクター機能がないことが公知の抗体のアイソタイプ(すなわち、これだけに限定されないがIgG4を含めたもの)を利用することによって実現することができる。
本明細書に記載の抗体による補体活性化の低下は、抗BBB−R抗体のC1q結合能を低下させること若しくは排除することによって(例えば、Fc領域の変異によって、Fc領域内の欠失によって、Fc領域の排除によって、又は抗BBB−R抗体の非Fc部分の改変によって)、又は補体系の活性化又は活性を他のやり方で抑制すること(例えば、1種又は複数種の補体経路活性化阻害剤又は補体経路活性阻害剤を同時投与すること)によって実現することができる。
網状赤血球又は他の細胞型上のBBB−Rと抗BBB−R抗体の結合が網状赤血球又は他の細胞型の枯渇を誘発すると、本明細書において例示されている抗TfR抗体と同様に、網状赤血球又は他の細胞型上のBBB−Rへの抗体の結合が減少することにより、今度は、抗体を投与した際に観察される網状赤血球又は他の細胞型の枯渇の量が減少する。実際にこれは本発明において実証された(例えば、図6Bを参照されたい)。抗BBB−R抗体のBBB−Rに対する親和性は、本明細書に記載され、実施例において示されている任意の方法を使用して改変することができる。
網状赤血球集団の、潜在的に有害な濃度の抗体への曝露を減少させるために、血漿中に存在する抗BBB−R抗体の量の減少をいくつかのやり方で実現することができる。1つの方法は、単に投薬する抗体の量を減らし、潜在的にそれと同時に投薬の頻度も増加させ、血漿中の最大濃度は低下させるが有効性のために十分な血清中レベルは維持する一方で、それでも細胞が枯渇する副作用の閾値を下回るようにすることである。投薬の改変と組み合わせることができる別の方法は、TfRに対するpH感受性結合性を有し、その結果pH7.4で血漿中の細胞表面TfRに結合し、本明細書に記載の通り親和性が望ましく低いが、エンドソーム区画内に内部移行すると、その区画の比較的低いpH(pH5.5−6.0)においてそのようなTfRとの結合が急速及び著しく低下するように抗TfR抗体を選択又は操作することである。そのような解離により、抗体を抗原媒介性クリアランスから保護する、又はCNSに送達されるか又はBBBを戻って再利用される抗体の量を増加させることができ、いずれの場合も、抗体の投与用量を増加させずに、そのようなpH感受性を有さない抗TfR抗体と比較して抗体の有効濃度が増加する。
網状赤血球集団の保護、安定化及び/又は補給は、薬学的方法又は物理的方法を使用して実現することができる。抗BBB−R抗体に加えて、網状赤血球集団に対する抗体の負の副作用を軽減する少なくとも1種の別の治療剤を同時投与(同時に又は逐次的に)することができる。そのような治療剤の例としては、これだけに限定されないが、エリスロポエチン(EPO)、鉄補給剤、ビタミンC、葉酸、及びビタミンB12が挙げられる。赤血球(すなわち、網状赤血球)を物理的に交換することも、例えば、同様の血液型の別の個体由来であってもよく、抗BBB−R抗体を投与する対象から予め抽出したものであってもよい同様の細胞を用いて輸血することによって可能である。
前述の方法の任意の組合せを使用して、(i)抗体及び任意のコンジュゲート化合物のCNS内への輸送が最大になるような、BBB−Rに対する望ましく低い親和性、(ii)治療効果を有するためにCNS内に存在する必要がある化合物の量に関連するので、コンジュゲート化合物(非限定的な例として、抗TfR抗体における第2の又は別の抗原結合特異性を含む)のCNS抗原に対する親和性、(iii)抗BBB−R抗体のクリアランス速度、及び(iv)網状赤血球集団に対する影響の間の平衡が最適である抗体(及び/又はその投薬レジメン)を操作することができることが当業者には理解されよう。
抗TfR抗体を投与することの、本発明で理解される網状赤血球の枯渇作用は、網状赤血球の過度の増殖が問題である任意の疾患又は障害の治療において有用であり得ることも理解されよう。例えば、先天性赤血球増加症又は新生物性真性赤血球増加症では、例えば網状赤血球の過剰増殖に起因する赤血球数の上昇により、血液が濃くなり、同時に生理的症状が生じる。本発明の抗TfR抗体を、抗体の少なくとも部分的なエフェクター機能を保存して投与することにより、CNSへの正常なトランスフェリン輸送に影響を及ぼすことなく、未成熟の網状赤血球集団を選択的に除去することが可能になる。そのような抗体の投薬は、当技術分野において十分に理解されている通り、急性臨床症状が最小限になり得るように調節することができる(すなわち、非常に低用量で又は間隔を広く空けて投薬することによって)。
抗TfR/BACE1及び抗TfR/Abetaはそれぞれアルツハイマー病を治療するための有望及び新規の治療薬候補である。さらに、受容体媒介性輸送(RMT)に基づく二重特異性標的化技術により、CNS疾患に対する広範囲の潜在的な治療薬に対する扉が開かれた。本発明は、治療薬のBBBを通した輸送及びCNSへの分配が、網状赤血球を枯渇させることなく著しく改善される、BBB浸透性治療薬を操作する方法を提供する。
したがって、第1の実施態様では、本発明は、対象において化合物を血液脳関門を通して輸送する方法であって、化合物とカップリングした、血液脳関門受容体(BBB−R)と低親和性で結合する抗体を血液脳関門に曝露し、その結果、抗体により、抗体とカップリングした化合物が血液脳関門を通って輸送されることを含み、対象に抗体を投与した際の対象における赤血球レベルの低下が減少する又は排除される方法を提供する。一態様では、BBB−Rは、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF受容体)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)、グルコーストランスポーター1(Glut1)及びヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF)からなる群から選択される。別のそのような態様では、BBB−RはヒトBBB−Rである。そのような態様の1つでは、BBB−RはTfRである。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfR活性は阻害されない。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfRとトランスフェリンの結合は阻害されない。
別の態様では、赤血球は未成熟の赤血球である。別のそのような態様では、未成熟の赤血球は網状赤血球である。別の態様では、網状赤血球レベルの低下に急性臨床症状が伴う。別の態様では、方法は、対象を赤血球の枯渇についてモニタリングする工程をさらに含む。
別の態様では、抗体の1つ又は複数の性質は、網状赤血球レベルに対する抗体の影響が低下し、及び/又は対象における急性臨床症状の重症度若しくは存在が低下するように改変されている。そのような態様の1つでは、抗体のBBB−Rに対する親和性を改変する、すなわち、低下させる。別のそのような態様では、抗体Fc領域のエフェクター機能を改変する。そのような態様の1つでは、エフェクター機能が同じアイソタイプの野生型抗体のエフェクター機能と比較して低下している又は排除されている。別のそのような態様では、抗体のグリコシル化を減少させることによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が可能にならない環境で作製することによって抗体のグリコシル化を減少させる。そのような態様の1つでは、抗体を非哺乳動物細胞産生系で産生させる。別のそのような態様では、抗体を合成的に作製する。別のそのような態様では、抗体上にすでに存在する炭水化物基を除去することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が起こらないように改変することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体のFc領域の297位に、その位置の野生型アスパラギン残基がその位置におけるグリコシル化に干渉する別のアミノ酸で置き換えられるような変異が含まれる。別の態様では、抗体のアイソタイプをエフェクター機能が天然に低下している又は排除されているアイソタイプに改変することによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。
別の態様では、Fc領域を改変してエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、Fc領域の少なくとも1つの改変によってエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、238位、239位、248位、249位、252位、254位、265位、268位、269位、270位、272位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、437位、438位、及び439位から選択される、1つ又は複数のFc受容体との結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体をエフェクター機能に適格なFc領域を含まないように操作することによってエフェクター機能を低下させる若しくは排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。
別の態様では、抗体のFc領域及び/又は非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、270位、322位、329位、及び321位から選択される、C1qとの結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体を補体経路に関与するFc領域を含まないように操作することによって補体誘発機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。別のそのような態様では、抗体の非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、C3との結合が損なわれるCH1領域の点変異である。そのような態様の1つでは、点変異は132位におけるものである(例えば、Vidarteら、(2001) J . Biol. Chem. 276 (41): 38217-38223を参照されたい)。
別の態様では、抗体の投薬量及び/又は投与の頻度を、赤血球が曝露される抗体の濃度が低下するように調節する。別の態様では、抗体をBBB−Rに対するpH感受性結合性を有するように改変する。
別の態様では、抗体及びカップリングした化合物に加えて、別の化合物を投与する。そのような態様の1つでは、別の化合物は、網状赤血球レベルが低下しないことに関与又は寄与する。別のそのような態様では、別の化合物により、補体経路の活性化又は活性が阻害又は防止される(例えば、Mollnes及びKirschfink (2006) Molec. Immunol. 43: 107-121を参照されたい)。別のそのような態様では、別の化合物により、網状赤血球が抗体関連枯渇から保護される。別のそのような態様では、別の化合物により、網状赤血球の成長、発生、又は再建が支持される。別の態様では、別の化合物は、エリスロポエチン(EPO)、鉄補給剤、ビタミンC、葉酸及びビタミンB12から選択される。別の態様では、別の化合物は同じ対象由来の赤血球又は網状赤血球である。別の態様では、別の化合物は別の対象由来の赤血球又は網状赤血球である。
別の態様では、化合物は神経性障害薬である。別の態様では、化合物はイメージング剤である。別の態様では、化合物を標識する。別の態様では、抗体を標識する。別の態様では、抗体によってBBB−Rとそのネイティブなリガンドの1つ又は複数との結合は損なわれない。別のそのような態様では、抗体は、TfRとトランスフェリンの結合が阻害されないようにTfRに特異的に結合する。別の態様では、BBBは哺乳動物におけるものである。別のそのような態様では、哺乳動物はヒトである。別のそのような態様では、哺乳動物は神経性障害を有する。別のそのような態様では、神経性障害は、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、癌、及び外傷性脳損傷からなる群から選択される。別の態様では、BBBはヒトにおけるものである。
別の態様では、抗体のBBB−Rに対するIC50は約1nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約5nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約50nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約100nMから約100μMまでである。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約5nMから約50μMまでの親和性を有する。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約30nMから約30μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約30nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約50nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。一態様では、スキャッチャード解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、競合ELISAを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。
別の態様では、抗体の、それが特異的に結合するBBB−Rからの解離半減期は約30秒から約30分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約20分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約10分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約5分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約3分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約2分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約2分である。別のそのような態様では、解離半減期は約1分以下である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。別の態様では、競合ELISAなどの競合結合アッセイを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。別の態様では、化合物とカップリングした抗体を治療量で投与する。そのような態様の1つでは、治療量は、抗体が特異的に結合するBBB−Rを飽和させる用量である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体を、化合物とカップリングした抗体と赤血球の相互作用が最小限になる一方で、それでも化合物をBBBを通してCNS内に治療レベルで送達することが容易になる用量及び投薬頻度で投与する。
別の態様では、化合物と抗体を共有結合によってカップリングする。そのような態様の1つでは、化合物と抗体をリンカーによってつなげる。そのような態様の1つでは、リンカーは切断可能である。別のそのような態様では、リンカーは切断可能でない。別のそのような態様では、化合物と抗体を直接連結する。そのような態様の1つでは、抗体は多重特異性抗体であり、化合物は多重特異性抗体の一部分を形成する。別のそのような態様では、多重特異性抗体は、BBB−Rに結合する第1の抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2の抗原結合部位とを含む。別のそのような態様では、脳抗原は、ベータ−セクレターゼ1(BACE1)、Abeta、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ−シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、細胞死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、インターロイキン6受容体(IL6R)、TNF受容体1(TNFR1)、インターロイキン1ベータ(IL1β)、及びカスパーゼ6からなる群から選択される。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとBACE1の両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとAbetaの両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体を標識する。別の態様では、BBB輸送と同時に又はその後に化合物が抗体から遊離するように化合物と抗体と可逆的にカップリングする。
前述の態様はいずれも単独で又は前述の実施態様と組み合わせて適用することができることが理解されよう。
別の実施態様では、本発明は、対象のCNSの化合物への曝露を増加させる方法であって、化合物をBBB−Rと低親和性で結合する抗体とをカップリングし、それにより、CNSの化合物への曝露が増加し、及び対象に化合物とカップリングした抗体を投与した際の対象における赤血球レベルの低下が減少する又は排除される方法を提供する。一態様では、BBB−Rは、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF受容体)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)、グルコーストランスポーター1(Glut1)及びヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF)からなる群から選択される。別のそのような態様では、BBB−RはヒトBBB−Rである。そのような態様の1つでは、BBB−RはTfRである。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfR活性は阻害されない。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfRとトランスフェリンの結合は阻害されない。
別の態様では、赤血球は未成熟の赤血球である。別のそのような態様では、未成熟の赤血球は網状赤血球である。別の態様では、網状赤血球レベルの低下に急性臨床症状が伴う。別の態様では、方法は、対象を赤血球の枯渇についてモニタリングする工程をさらに含む。
別の態様では、抗体の1つ又は複数の性質は、網状赤血球レベルに対する抗体の影響が低下し、及び/又は対象における急性臨床症状の重症度若しくは存在が低下するように改変されている。そのような態様の1つでは、抗体のBBB−Rに対する親和性を改変する、すなわち、低下させる。別のそのような態様では、抗体Fc領域のエフェクター機能を改変する。そのような態様の1つでは、エフェクター機能が同じアイソタイプの野生型抗体のエフェクター機能と比較して低下している又は排除されている。別のそのような態様では、抗体のグリコシル化を減少させることによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が可能にならない環境で作製することによって抗体のグリコシル化を減少させる。そのような態様の1つでは、抗体を非哺乳動物細胞の産生系で産生させる。別のそのような態様では、抗体を合成的に作製する。別のそのような態様では、抗体上にすでに存在する炭水化物基を除去することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が起こらないように改変することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体のFc領域の297位に、その位置の野生型アスパラギン残基がその位置におけるグリコシル化に干渉する別のアミノ酸で置き換えられるような変異が含まれる。別の態様では、抗体のアイソタイプをエフェクター機能が天然に低下している又は排除されているアイソタイプに改変することによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。
別の態様では、Fc領域を改変してエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、Fc領域の少なくとも1つの改変によってエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、238位、239位、248位、249位、252位、254位、265位、268位、269位、270位、272位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、437位、438位、及び439位から選択される、1つ又は複数のFc受容体との結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体をエフェクター機能に適格なFc領域を含まないように操作することによってエフェクター機能を低下させる若しくは排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。
別の態様では、抗体のFc領域及び/又は非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、270位、322位、329位、及び321位から選択される、C1qとの結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体を補体経路に関与するFc領域を含まないように操作することによって補体誘発機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。別のそのような態様では、抗体の非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、C3との結合が損なわれるCH1領域の点変異である。そのような態様の1つでは、点変異は132位におけるものである(例えば、Vidarteら、(2001) J. Biol. Chem. 276 (41): 38217-38223を参照されたい)。
別の態様では、抗体の投薬量及び/又は投与の頻度を、赤血球が曝露される抗体の濃度が低下するように調節する。別の態様では、抗体をBBB−Rに対するpH感受性結合性を有するように改変する。
別の態様では、抗体及びカップリングした化合物に加えて、別の化合物を投与する。そのような態様の1つでは、別の化合物は、網状赤血球レベルが低下しないことに関与又は寄与する。別のそのような態様では、別の化合物により、補体経路の活性化又は活性が阻害又は防止される(例えば、Mollnes及びKirschfink (2006) Molec. Immunol. 43: 107-121を参照されたい)。別のそのような態様では、別の化合物により、網状赤血球が抗体関連枯渇から保護される。別のそのような態様では、別の化合物により、網状赤血球の成長、発生、又は再建が支持される。別の態様では、別の化合物は、エリスロポエチン(EPO)、鉄補給剤、ビタミンC、葉酸及びビタミンB12から選択される。別の態様では、別の化合物は同じ対象由来の赤血球又は網状赤血球である。別の態様では、別の化合物は別の対象由来の赤血球又は網状赤血球である。
別の態様では、化合物は神経性障害薬である。別の態様では、化合物はイメージング剤である。別の態様では、化合物を標識する。別の態様では、抗体を標識する。別の態様では、抗体によってBBB−Rとそのネイティブなリガンドの1つ又は複数との結合は損なわれない。別のそのような態様では、抗体は、TfRとトランスフェリンの結合が阻害されないようにTfRに特異的に結合する。別の態様では、抗体とカップリングした化合物を哺乳動物に投与する。別のそのような態様では、哺乳動物はヒトである。別のそのような態様では、哺乳動物は神経性障害を有する。別のそのような態様では、神経性障害は、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、癌、及び外傷性脳損傷からなる群から選択される。
別の態様では、CNSの化合物への曝露の増加を、BBB−Rに対する親和性が低下していない典型的な抗体とカップリングした化合物へのCNSの曝露と比較して測定する。別の態様では、CNSの化合物への曝露の増加を、CNSにおいて見いだされる化合物の量を投与後に血清中に見いだされる量と比較した比として測定する。別のそのような態様では、CNS曝露の増加は、0.1%超の比になる。別の態様では、CNSの化合物への曝露の増加を抗体とカップリングしていない状態の化合物のCNS曝露と比較して測定する。別の態様では、CNSの化合物への曝露の増加をイメージングによって測定する。別の態様では、CNSの化合物への曝露の増加を、1つ又は複数の生理的症状の変化などの間接的な読み取りによって測定する。
別の態様では、抗体のBBB−Rに対するIC50は約1nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約5nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約50nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約100nMから約100μMまでである。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約5nMから約50μMまでの親和性を有する。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約30nMから約30μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約30nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約50nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。一態様では、スキャッチャード解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、競合ELISAを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。
別の態様では、抗体の、それが特異的に結合するBBB−Rからの解離半減期は約30秒から約30分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約20分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約10分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約5分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約3分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約2分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約2分である。別のそのような態様では、解離半減期は約1分以下である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。別の態様では、競合ELISAなどの競合結合アッセイを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。
別の態様では、化合物とカップリングした抗体を治療量で投与する。そのような態様の1つでは、治療量は、抗体が特異的に結合するBBB−Rを飽和させる用量である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体を、化合物とカップリングした抗体と赤血球の相互作用が最小限になる一方で、それでも化合物をBBBを通してCNS内に治療レベルで送達することが容易になる用量及び投薬頻度で投与する。
別の態様では、化合物と抗体を共有結合によってカップリングする。そのような態様の1つでは、化合物と抗体をリンカーによってつなげる。そのような態様の1つでは、リンカーは切断可能である。別のそのような態様では、リンカーは切断可能でない。別のそのような態様では、化合物と抗体を直接連結する。そのような態様の1つでは、抗体は多重特異性抗体であり、化合物は多重特異性抗体の一部分を形成する。別のそのような態様では、多重特異性抗体は、BBB−Rに結合する第1の抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2の抗原結合部位とを含む。別のそのような態様では、脳抗原は、ベータ−セクレターゼ1(BACE1)、Abeta、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ−シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、細胞死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、インターロイキン6受容体(IL6R)、TNF受容体1(TNFR1)、インターロイキン1ベータ(IL1β)、及びカスパーゼ6からなる群から選択される。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとBACE1の両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとAbetaの両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体を標識する。別の態様では、BBB輸送と同時に又はその後に化合物が抗体から遊離するように化合物と抗体と可逆的にカップリングする。
前述の態様はいずれも単独で又は前述の実施態様と組み合わせて適用することができることが理解されよう。
別の実施態様では、本発明は、対象に投与した化合物のクリアランスを低下させる方法であって、化合物とBBB−Rと低親和性で結合する抗体とをカップリングし、その結果、化合物のクリアランスが低下し、及び対象に化合物とカップリングした抗体を投与した際の対象における赤血球レベルの低下が減少する又は排除される方法を提供する。一態様では、BBB−Rは、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF受容体)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)、グルコーストランスポーター1(Glut1)及びヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF)からなる群から選択される。別のそのような態様では、BBB−RはヒトBBB−Rである。そのような態様の1つでは、BBB−RはTfRである。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfR活性は阻害されない。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfRとトランスフェリンの結合は阻害されない。
別の態様では、赤血球は未成熟の赤血球である。別のそのような態様では、未成熟の赤血球は網状赤血球である。別の態様では、網状赤血球レベルの低下に急性臨床症状が伴う。別の態様では、方法は、対象を赤血球の枯渇についてモニタリングする工程をさらに含む。
別の態様では、抗体の1つ又は複数の性質は、網状赤血球レベルに対する抗体の影響が低下し、及び/又は対象における急性臨床症状の重症度若しくは存在が低下するように改変されている。そのような態様の1つでは、抗体のBBB−Rに対する親和性を改変する、すなわち、低下させる。別のそのような態様では、抗体Fc領域のエフェクター機能を改変する。そのような態様の1つでは、エフェクター機能が同じアイソタイプの野生型抗体のエフェクター機能と比較して低下している又は排除されている。別のそのような態様では、抗体のグリコシル化を減少させることによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が可能にならない環境で作製することによって抗体のグリコシル化を減少させる。そのような態様の1つでは、抗体を非哺乳動物細胞の産生系で産生させる。別のそのような態様では、抗体を合成的に作製する。別のそのような態様では、抗体上にすでに存在する炭水化物基を除去することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が起こらないように改変することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体のFc領域の297位に、その位置の野生型アスパラギン残基がその位置におけるグリコシル化に干渉する別のアミノ酸で置き換えられるような変異が含まれる。別の態様では、抗体のアイソタイプをエフェクター機能が天然に低下している又は排除されているアイソタイプに改変することによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。
別の態様では、Fc領域を改変してエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、Fc領域の少なくとも1つの改変によってエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、238位、239位、248位、249位、252位、254位、265位、268位、269位、270位、272位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、437位、438位、及び439位から選択される、1つ又は複数のFc受容体との結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体をエフェクター機能に適格なFc領域を含まないように操作することによってエフェクター機能を低下させる若しくは排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。
別の態様では、抗体のFc領域及び/又は非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、270位、322位、329位、及び321位から選択される、C1qとの結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体を補体経路に関与するFc領域を含まないように操作することによって補体誘発機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。別のそのような態様では、抗体の非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、C3との結合が損なわれるCH1領域の点変異である。そのような態様の1つでは、点変異は132位におけるものである(例えば、Vidarteら、(2001) J. Biol. Chem. 276 (41): 38217-38223を参照されたい)。
別の態様では、抗体の投薬量及び/又は投与の頻度を、赤血球が曝露される抗体の濃度が低下するように調節する。別の態様では、抗体をBBB−Rに対するpH感受性結合性を有するように改変する。
別の態様では、抗体及びカップリングした化合物に加えて、別の化合物を投与する。そのような態様の1つでは、別の化合物は、網状赤血球レベルが低下しないことに関与又は寄与する。別のそのような態様では、別の化合物により、補体経路の活性化又は活性が阻害又は防止される(Mollnes及びKirschfink (2006) Molec. Immunol. 43: 107-121を参照されたい)。別のそのような態様では、別の化合物により、網状赤血球が抗体関連枯渇から保護される。別のそのような態様では、別の化合物により、網状赤血球の成長、発生、又は再建が支持される。別の態様では、別の化合物は、エリスロポエチン(EPO)、鉄補給剤、ビタミンC、葉酸及びビタミンB12から選択される。別の態様では、別の化合物は同じ対象由来の赤血球又は網状赤血球である。別の態様では、別の化合物は別の対象由来の赤血球又は網状赤血球である。
別の態様では、化合物は神経性障害薬である。別の態様では、化合物はイメージング剤である。別の態様では、化合物を標識する。別の態様では、抗体を標識する。別の態様では、抗体によってBBB−Rとそのネイティブなリガンドの1つ又は複数との結合は損なわれない。別のそのような態様では、抗体は、TfRとトランスフェリンの結合が阻害されないようにTfRに特異的に結合する。別の態様では、対象は哺乳動物である。別のそのような態様では、哺乳動物はヒトである。別のそのような態様では、哺乳動物は神経性障害を有する。別のそのような態様では、神経性障害は、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、癌、及び外傷性脳損傷からなる群から選択される。
別の態様では、化合物のクリアランスの減少を、BBB−Rに対する親和性が低下していない典型的な抗体とカップリングした化合物のクリアランスと比較して測定する。別の態様では、化合物のクリアランスの減少を、抗体とカップリングしていない状態の化合物のクリアランスと比較して測定する。
別の態様では、抗体のBBB−Rに対するIC50は約1nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約5nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約50nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約100nMから約100μMまでである。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約5nMから約50μMまでの親和性を有する。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約30nMから約30μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約30nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約50nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。一態様では、スキャッチャード解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、競合ELISAを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。
別の態様では、抗体の、それが特異的に結合するBBB−Rからの解離半減期は約30秒から約30分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約20分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約10分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約5分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約3分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約2分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約2分である。別のそのような態様では、解離半減期は約1分以下である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。別の態様では、競合ELISAなどの競合結合アッセイを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。
別の態様では、化合物とカップリングした抗体を治療量で投与する。そのような態様の1つでは、治療量は、抗体が特異的に結合するBBB−Rを飽和させる用量である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体を、化合物とカップリングした抗体と赤血球の相互作用が最小限になる一方で、それでも化合物をBBBを通してCNS内に治療レベルで送達することが容易になる用量及び投薬頻度で投与する。
別の態様では、化合物と抗体を共有結合によってカップリングする。そのような態様の1つでは、化合物と抗体をリンカーによってつなげる。そのような態様の1つでは、リンカーは切断可能である。別のそのような態様では、リンカーは切断可能でない。別のそのような態様では、化合物と抗体を直接連結する。そのような態様の1つでは、抗体は多重特異性抗体であり、化合物は多重特異性抗体の一部分を形成する。別のそのような態様では、多重特異性抗体は、BBB−Rに結合する第1の抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2の抗原結合部位とを含む。別のそのような態様では、脳抗原は、ベータ−セクレターゼ1(BACE1)、Abeta、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ−シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、細胞死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、インターロイキン6受容体(IL6R)、TNF受容体1(TNFR1)、インターロイキン1ベータ(IL1β)、及びカスパーゼ6からなる群から選択される。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとBACE1の両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとAbetaの両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体を標識する。別の態様では、BBB輸送と同時に又はその後に化合物が抗体から遊離するように化合物と抗体と可逆的にカップリングする。
前述の態様はいずれも単独で又は前述の実施態様と組み合わせて適用することができることが理解されよう。
対象に投与した化合物のCNS内での保持を増加させる方法であって、化合物とBBB−Rと低親和性で結合する抗体とをカップリングし、その結果、化合物のCNS内での保持が増加し、及び対象に化合物とカップリングした抗体を投与した際の対象における赤血球レベルの低下が減少する又は排除される方法。一態様では、BBB−Rは、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF受容体)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)、グルコーストランスポーター1(Glut1)及びヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF)からなる群から選択される。別のそのような態様では、BBB−RはヒトBBB−Rである。そのような態様の1つでは、BBB−RはTfRである。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfR活性は阻害されない。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfRとトランスフェリンの結合は阻害されない。
別の態様では、赤血球は未成熟の赤血球である。別のそのような態様では、未成熟の赤血球は網状赤血球である。別の態様では、網状赤血球レベルの低下に急性臨床症状が伴う。別の態様では、方法は、対象を赤血球の枯渇についてモニタリングする工程をさらに含む。
別の態様では、抗体の1つ又は複数の性質は、網状赤血球レベルに対する抗体の影響が低下し、及び/又は対象における急性臨床症状の重症度若しくは存在が低下するように改変されている。そのような態様の1つでは、抗体のBBB−Rに対する親和性を改変する、すなわち、低下させる。別のそのような態様では、抗体Fc領域のエフェクター機能を改変する。そのような態様の1つでは、エフェクター機能が同じアイソタイプの野生型抗体のエフェクター機能と比較して低下している又は排除されている。別のそのような態様では、抗体のグリコシル化を減少させることによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が可能にならない環境で作製することによって抗体のグリコシル化を減少させる。そのような態様の1つでは、抗体を非哺乳動物細胞の産生系で産生させる。別のそのような態様では、抗体を合成的に作製する。別のそのような態様では、抗体上にすでに存在する炭水化物基を除去することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が起こらないように改変することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体のFc領域の297位に、その位置の野生型アスパラギン残基がその位置におけるグリコシル化に干渉する別のアミノ酸で置き換えられるような変異が含まれる。別の態様では、抗体のアイソタイプをエフェクター機能が天然に低下している又は排除されているアイソタイプに改変することによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。
別の態様では、Fc領域を改変してエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、Fc領域の少なくとも1つの改変によってエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、238位、239位、248位、249位、252位、254位、265位、268位、269位、270位、272位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、437位、438位、及び439位から選択される、1つ又は複数のFc受容体との結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体をエフェクター機能に適格なFc領域を含まないように操作することによってエフェクター機能を低下させる若しくは排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。
別の態様では、抗体のFc領域及び/又は非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、270位、322位、329位、及び321位から選択される、C1qとの結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体を補体経路に関与するFc領域を含まないように操作することによって補体誘発機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。別のそのような態様では、抗体の非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、C3との結合が損なわれるCH1領域の点変異である。そのような態様の1つでは、点変異は132位におけるものである(例えば、Vidarteら、(2001) J. Biol. Chem. 276 (41): 38217-38223を参照されたい)。
別の態様では、抗体の投薬量及び/又は投与の頻度を、赤血球が曝露される抗体の濃度が低下するように調節する。別の態様では、抗体をBBB−Rに対するpH感受性結合性を有するように改変する。
別の態様では、抗体及びカップリングした化合物に加えて、別の化合物を投与する。そのような態様の1つでは、別の化合物は、網状赤血球レベルが低下しないことに関与又は寄与する。別のそのような態様では、別の化合物により、補体経路の活性化又は活性が阻害又は防止される(例えば、Mollnes及びKirschfink (2006) Molec. Immunol. 43: 107-121を参照されたい)。別のそのような態様では、別の化合物により、網状赤血球が抗体関連枯渇から保護される。別のそのような態様では、別の化合物により、網状赤血球の成長、発生、又は再建が支持される。別の態様では、別の化合物は、エリスロポエチン(EPO)、鉄補給剤、ビタミンC、葉酸及びビタミンB12から選択される。別の態様では、別の化合物は同じ対象由来の赤血球又は網状赤血球である。別の態様では、別の化合物は別の対象由来の赤血球又は網状赤血球である。
別の態様では、化合物は神経性障害薬である。別の態様では、化合物はイメージング剤である。別の態様では、化合物を標識する。別の態様では、抗体を標識する。別の態様では、抗体によってBBB−Rとそのネイティブなリガンドの1つ又は複数との結合は損なわれない。別のそのような態様では、抗体は、TfRとトランスフェリンの結合が阻害されないようにTfRに特異的に結合する。別の態様では、化合物を哺乳動物に投与する。別のそのような態様では、哺乳動物はヒトである。別のそのような態様では、哺乳動物は神経性障害を有する。別のそのような態様では、神経性障害は、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、癌、及び外傷性脳損傷からなる群から選択される。
別の態様では、化合物のCNSへの保持の増加を、BBB−Rに対する親和性が低下していない典型的な抗体とカップリングした化合物のCNSへの保持と比較して測定する。別の態様では、化合物のCNSへの保持の増加を、CNSにおいて見いだされる化合物の量を投与後の1つ又は複数の時点で血清中に見いだされる量と比較した比として測定する。別のそのような態様では、CNSへの保持の増加により、投与後の1つ又は複数の時点で0.1%を超える比がもたらされる。別の態様では、化合物のCNSへの保持の増加を、抗体とカップリングしていない状態の化合物のCNSへの保持と比較して測定する。別の態様では、化合物のCNSへの保持の増加をイメージングによって測定する。別の態様では、化合物のCNSへの保持の増加を、1つ又は複数の生理的症状の変化などの間接的な読み取りによって測定する。
別の態様では、抗体のBBB−Rに対するIC50は約1nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約5nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約50nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約100nMから約100μMまでである。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約5nMから約50μMまでの親和性を有する。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約30nMから約30μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約30nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約50nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。一態様では、スキャッチャード解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、競合ELISAを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。
別の態様では、抗体の、それが特異的に結合するBBB−Rからの解離半減期は約30秒から約30分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約20分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約10分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約5分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約3分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約2分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約2分である。別のそのような態様では、解離半減期は約1分以下である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。別の態様では、競合ELISAなどの競合結合アッセイを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。
別の態様では、化合物とカップリングした抗体を治療量で投与する。そのような態様の1つでは、治療量は、抗体が特異的に結合するBBB−Rを飽和させる用量である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体を、化合物とカップリングした抗体と赤血球の相互作用が最小限になる一方で、それでも化合物をBBBを通してCNS内に治療レベルで送達することが容易になる用量及び投薬頻度で投与する。
別の態様では、化合物と抗体を共有結合によってカップリングする。そのような態様の1つでは、化合物と抗体をリンカーによってつなげる。そのような態様の1つでは、リンカーは切断可能である。別のそのような態様では、リンカーは切断可能でない。別のそのような態様では、化合物と抗体を直接連結する。そのような態様の1つでは、抗体は多重特異性抗体であり、化合物は多重特異性抗体の一部分を形成する。別のそのような態様では、多重特異性抗体は、BBB−Rに結合する第1の抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2の抗原結合部位とを含む。別のそのような態様では、脳抗原は、ベータ−セクレターゼ1(BACE1)、Abeta、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ−シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、細胞死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、インターロイキン6受容体(IL6R)、TNF受容体1(TNFR1)、インターロイキン1ベータ(IL1β)、及びカスパーゼ6からなる群から選択される。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとBACE1の両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとAbetaの両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体を標識する。別の態様では、BBB輸送と同時に又はその後に化合物が抗体から遊離するように化合物と抗体と可逆的にカップリングする。
前述の態様はいずれも単独で又は前述の実施態様と組み合わせて適用することができることが理解されよう。
別の実施態様では、本発明は、化合物の薬物動態及び/又は薬力学的性質を、対象のCNSにおいて効果的になるように最適化する方法であって、化合物とBBB−Rと低親和性で結合する抗体とをカップリングし、抗体は、化合物とカップリングした後のBBB−Rに対する抗体の親和性が、化合物とコンジュゲートした抗体のBBBを通した輸送量がCNSにおける化合物の薬物動態及び/又は薬力学的性質を最適化するように選択され、対象に化合物とカップリングした抗体を投与した際の対象における赤血球レベルの低下が減少する又は排除される方法を提供する。一態様では、BBB−Rは、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF受容体)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)、グルコーストランスポーター1(Glut1)及びヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF)からなる群から選択される。別のそのような態様では、BBB−RはヒトBBB−Rである。そのような態様の1つでは、BBB−RはTfRである。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfR活性は阻害されない。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfRとトランスフェリンの結合は阻害されない。
別の態様では、赤血球は未成熟の赤血球である。別のそのような態様では、未成熟の赤血球は網状赤血球である。別の態様では、網状赤血球レベルの低下に急性臨床症状が伴う。別の態様では、方法は、対象を赤血球の枯渇についてモニタリングする工程をさらに含む。
別の態様では、抗体の1つ又は複数の性質は、網状赤血球レベルに対する抗体の影響が低下し、及び/又は対象における急性臨床症状の重症度若しくは存在が低下するように改変されている。そのような態様の1つでは、抗体のBBB−Rに対する親和性を改変する、すなわち、低下させる。別のそのような態様では、抗体Fc領域のエフェクター機能を改変する。そのような態様の1つでは、エフェクター機能が同じアイソタイプの野生型抗体のエフェクター機能と比較して低下している又は排除されている。別のそのような態様では、抗体のグリコシル化を減少させることによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が可能にならない環境で作製することによって抗体のグリコシル化を減少させる。そのような態様の1つでは、抗体を非哺乳動物細胞の産生系で産生させる。別のそのような態様では、抗体を合成的に作製する。別のそのような態様では、抗体上にすでに存在する炭水化物基を除去することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が起こらないように改変することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体のFc領域の297位に、その位置の野生型アスパラギン残基がその位置におけるグリコシル化に干渉する別のアミノ酸で置き換えられるような変異が含まれる。別の態様では、抗体のアイソタイプをエフェクター機能が天然に低下している又は排除されているアイソタイプに改変することによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。
別の態様では、Fc領域を改変してエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、Fc領域の少なくとも1つの改変によってエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、238位、239位、248位、249位、252位、254位、265位、268位、269位、270位、272位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、437位、438位、及び439位から選択される、1つ又は複数のFc受容体との結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体をエフェクター機能に適格なFc領域を含まないように操作することによってエフェクター機能を低下させる若しくは排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。
別の態様では、抗体のFc領域及び/又は非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、270位、322位、329位、及び321位から選択される、C1qとの結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体を補体経路に関与するFc領域を含まないように操作することによって補体誘発機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。別のそのような態様では、抗体の非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、C3との結合が損なわれるCH1領域の点変異である。そのような態様の1つでは、点変異は132位におけるものである(例えば、Vidarteら、(2001) J. Biol. Chem. 276 (41): 38217-38223を参照されたい)。
別の態様では、抗体の投薬量及び/又は投与の頻度を、赤血球が曝露される抗体の濃度が低下するように調節する。別の態様では、抗体をBBB−Rに対するpH感受性結合性を有するように改変する。
別の態様では、抗体及びカップリングした化合物に加えて、別の化合物を投与する。そのような態様の1つでは、別の化合物は、網状赤血球レベルが低下しないことに関与又は寄与する。別のそのような態様では、別の化合物により、補体経路の活性化又は活性が阻害又は防止される(例えば、Mollnes及びKirschfink (2006) Molec. Immunol. 43: 107-121を参照されたい)。別のそのような態様では、別の化合物により、網状赤血球が抗体関連枯渇から保護される。別のそのような態様では、別の化合物により、網状赤血球の成長、発生、又は再建が支持される。別の態様では、別の化合物は、エリスロポエチン(EPO)、鉄補給剤、ビタミンC、葉酸及びビタミンB12から選択される。別の態様では、別の化合物は同じ対象由来の赤血球又は網状赤血球である。別の態様では、別の化合物は別の対象由来の赤血球又は網状赤血球である。
別の態様では、化合物は神経性障害薬である。別の態様では、化合物はイメージング剤である。別の態様では、化合物を標識する。別の態様では、抗体を標識する。別の態様では、抗体によってBBB−Rとそのネイティブなリガンドの1つ又は複数との結合は損なわれない。別のそのような態様では、抗体は、TfRとトランスフェリンの結合が阻害されないようにTfRに特異的に結合する。別の態様では、BBBは哺乳動物におけるものである。別のそのような態様では、哺乳動物はヒトである。別のそのような態様では、哺乳動物は神経性障害を有する。別のそのような態様では、神経性障害は、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、癌、及び外傷性脳損傷からなる群から選択される。別の態様では、BBBはヒトにおけるものである。
一態様では、最適化は、各抗体のBBB−Rに対する親和性が異なる一連の抗体−化合物複合体を生成すること、及びそれぞれのCNSにおける薬物動態及び/又は薬力学的性質を評価することを含んでよい。別の態様では、最適化は、例えば、これだけに限定されないが、CNSに直接導入した場合、又は抗BBB−R抗体とカップリングしていない状態で対象に導入した場合の化合物の薬物動態及び/又は薬力学的性質などの公知の標準と相対的であってよい。
別の態様では、抗体のBBB−Rに対するIC50は約1nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約5nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約50nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約100nMから約100μMまでである。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約5nMから約50μMまでの親和性を有する。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約30nMから約30μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約30nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約50nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。一態様では、スキャッチャード解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、競合ELISAを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。
別の態様では、抗体の、それが特異的に結合するBBB−Rからの解離半減期は約30秒から約30分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約20分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約10分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約5分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約3分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約2分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約2分である。別のそのような態様では、解離半減期は約1分以下である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。別の態様では、競合ELISAなどの競合結合アッセイを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。
別の態様では、化合物とカップリングした抗体を治療量で投与する。そのような態様の1つでは、治療量は、抗体が特異的に結合するBBB−Rを飽和させる用量である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体を、化合物とカップリングした抗体と赤血球の相互作用が最小限になる一方で、それでも化合物をBBBを通してCNS内に治療レベルで送達することが容易になる用量及び投薬頻度で投与する。
別の態様では、化合物と抗体を共有結合によってカップリングする。そのような態様の1つでは、化合物と抗体をリンカーによってつなげる。そのような態様の1つでは、リンカーは切断可能である。別のそのような態様では、リンカーは切断可能でない。別のそのような態様では、化合物と抗体を直接連結する。そのような態様の1つでは、抗体は多重特異性抗体であり、化合物は多重特異性抗体の一部分を形成する。別のそのような態様では、多重特異性抗体は、BBB−Rに結合する第1の抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2の抗原結合部位とを含む。別のそのような態様では、脳抗原は、ベータ−セクレターゼ1(BACE1)、Abeta、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ−シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、細胞死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、インターロイキン6受容体(IL6R)、TNF受容体1(TNFR1)、インターロイキン1ベータ(IL1β)、及びカスパーゼ6からなる群から選択される。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとBACE1の両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとAbetaの両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体を標識する。別の態様では、BBB輸送と同時に又はその後に化合物が抗体から遊離するように化合物と抗体と可逆的にカップリングする。
前述の態様はいずれも単独で又は前述の実施態様と組み合わせて適用することができることが理解されよう。
別の実施態様では、本発明は、哺乳動物における神経性障害を治療する方法であって、哺乳動物を、化合物とカップリングした、BBB−Rに結合する抗体を用いて治療することを含み、抗体が、BBB−Rに対する親和性が低く、したがって、抗体及びカップリングした化合物のCNSへの取り込みが改善されるように選択されたものであり、及び対象に化合物とカップリングした抗体を投与した際の対象における赤血球レベルの低下が減少する又は排除される方法を提供する。一態様では、BBB−Rは、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF受容体)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)、グルコーストランスポーター1(Glut1)及びヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF)からなる群から選択される。別のそのような態様では、BBB−RはヒトBBB−Rである。そのような態様の1つでは、BBB−RはTfRである。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfR活性は阻害されない。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfRとトランスフェリンの結合は阻害されない。
別の態様では、赤血球は未成熟の赤血球である。別のそのような態様では、未成熟の赤血球は網状赤血球である。別の態様では、網状赤血球レベルの低下に急性臨床症状が伴う。別の態様では、方法は、対象を赤血球の枯渇についてモニタリングする工程をさらに含む。
別の態様では、抗体の1つ又は複数の性質は、網状赤血球レベルに対する抗体の影響が低下し、及び/又は対象における急性臨床症状の重症度若しくは存在が低下するように改変されている。そのような態様の1つでは、抗体のBBB−Rに対する親和性を改変する、すなわち、低下させる。別のそのような態様では、抗体Fc領域のエフェクター機能を改変する。そのような態様の1つでは、エフェクター機能が同じアイソタイプの野生型抗体のエフェクター機能と比較して低下している又は排除されている。別のそのような態様では、抗体のグリコシル化を減少させることによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が可能にならない環境で作製することによって抗体のグリコシル化を減少させる。そのような態様の1つでは、抗体を非哺乳動物細胞の産生系で産生させる。別のそのような態様では、抗体を合成的に作製する。別のそのような態様では、抗体上にすでに存在する炭水化物基を除去することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が起こらないように改変することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体のFc領域の297位に、その位置の野生型アスパラギン残基がその位置におけるグリコシル化に干渉する別のアミノ酸で置き換えられるような変異が含まれる。別の態様では、抗体のアイソタイプをエフェクター機能が天然に低下している又は排除されているアイソタイプに改変することによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。
別の態様では、Fc領域を改変してエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、Fc領域の少なくとも1つの改変によってエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、238位、239位、248位、249位、252位、254位、265位、268位、269位、270位、272位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、437位、438位、及び439位から選択される、1つ又は複数のFc受容体との結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体をエフェクター機能に適格なFc領域を含まないように操作することによってエフェクター機能を低下させる若しくは排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。
別の態様では、抗体の投薬量及び/又は投与の頻度を、赤血球が曝露される抗体の濃度が低下するように調節する。別の態様では、抗体をBBB−Rに対するpH感受性結合性を有するように改変する。
別の態様では、抗体及びカップリングした化合物に加えて、別の化合物を投与する。そのような態様の1つでは、別の化合物は、網状赤血球レベルが低下しないことに関与又は寄与する。別のそのような態様では、別の化合物により、補体経路の活性化又は活性が阻害又は防止される(例えば、Mollnes及びKirschfink (2006) Molec. Immunol. 43: 107-121を参照されたい)。別のそのような態様では、別の化合物により、網状赤血球が抗体関連枯渇から保護される。別のそのような態様では、別の化合物により、網状赤血球の成長、発生、又は再建が支持される。別の態様では、別の化合物は、エリスロポエチン(EPO)、鉄補給剤、ビタミンC、葉酸及びビタミンB12から選択される。別の態様では、別の化合物は同じ対象由来の赤血球又は網状赤血球である。別の態様では、別の化合物は別の対象由来の赤血球又は網状赤血球である。
別の態様では、化合物は神経性障害薬である。別の態様では、化合物はイメージング剤である。別の態様では、化合物を標識する。別の態様では、抗体を標識する。別の態様では、抗体によってBBB−Rとそのネイティブなリガンドの1つ又は複数との結合は損なわれない。別のそのような態様では、抗体は、TfRとトランスフェリンの結合が阻害されないようにTfRに特異的に結合する。一態様では、哺乳動物はヒトである。別のそのような態様では、哺乳動物は神経性障害を有する。別のそのような態様では、神経性障害は、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、癌、及び外傷性脳損傷からなる群から選択される。
一態様では、治療することにより、障害症状が緩和又は排除される。別の態様では、治療することにより、神経性障害が好転する。
別の態様では、抗体のBBB−Rに対するIC50は約1nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約5nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約50nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約100nMから約100μMまでである。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約5nMから約50μMまでの親和性を有する。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約30nMから約30μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約30nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約50nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。一態様では、スキャッチャード解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、競合ELISAを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。
別の態様では、抗体の、それが特異的に結合するBBB−Rからの解離半減期は約30秒から約30分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約20分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約10分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約5分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約3分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約2分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約2分である。別のそのような態様では、解離半減期は約1分以下である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。別の態様では、競合ELISAなどの競合結合アッセイを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。
別の態様では、化合物とカップリングした抗体を治療量で投与する。そのような態様の1つでは、治療量は、抗体が特異的に結合するBBB−Rを飽和させる用量である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体を、化合物とカップリングした抗体と赤血球の相互作用が最小限になる一方で、それでも化合物をBBBを通してCNS内に治療レベルで送達することが容易になる用量及び投薬頻度で投与する。
別の態様では、化合物と抗体を共有結合によってカップリングする。そのような態様の1つでは、化合物と抗体をリンカーによってつなげる。そのような態様の1つでは、リンカーは切断可能である。別のそのような態様では、リンカーは切断可能でない。別のそのような態様では、化合物と抗体を直接連結する。そのような態様の1つでは、抗体は多重特異性抗体であり、化合物は多重特異性抗体の一部分を形成する。別のそのような態様では、多重特異性抗体は、BBB−Rに結合する第1の抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2の抗原結合部位とを含む。別のそのような態様では、脳抗原は、ベータ−セクレターゼ1(BACE1)、Abeta、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ−シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、細胞死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、インターロイキン6受容体(IL6R)、TNF受容体1(TNFR1)、インターロイキン1ベータ(IL1β)、及びカスパーゼ6からなる群から選択される。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとBACE1の両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとAbetaの両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体を標識する。別の態様では、BBB輸送と同時に又はその後に化合物が抗体から遊離するように化合物と抗体と可逆的にカップリングする。
前述の態様はいずれも単独で又は前述の実施態様と組み合わせて適用することができることが理解されよう。
別の実施態様では、本発明は、BBB−Rに結合する抗体の対象における安全性を改善する方法であって、抗体を投与することにより、改変されていない抗体を投与した際に観察される対象の赤血球レベルの低下が減少する又は排除されるように、抗体の1つ又は複数の性質を改変することを含む方法を提供する。一態様では、BBB−Rは、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF受容体)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)、グルコーストランスポーター1(Glut1)及びヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF)からなる群から選択される。別のそのような態様では、BBB−RはヒトBBB−Rである。そのような態様の1つでは、BBB−RはTfRである。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfR活性は阻害されない。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfRとトランスフェリンの結合は阻害されない。
別の態様では、赤血球は未成熟の赤血球である。別のそのような態様では、未成熟の赤血球は網状赤血球である。別の態様では、網状赤血球レベルの低下に急性臨床症状が伴う。
別の態様では、抗体の1つ又は複数の性質は、網状赤血球レベルに対する抗体の影響が低下し、及び/又は対象における急性臨床症状の重症度若しくは存在が低下するように改変されている。そのような態様の1つでは、抗体のBBB−Rに対する親和性を改変する、すなわち、低下させる。別のそのような態様では、抗体の親和性の改変を、BBB−Rに対する親和性が改変されていない(すなわち、低下していない)同じアイソタイプの野生型抗体と比較して測定する。別のそのような態様では、抗体Fc領域のエフェクター機能を改変する。そのような態様の1つでは、エフェクター機能が同じアイソタイプの野生型抗体のエフェクター機能と比較して低下している又は排除されている。別のそのような態様では、抗体のグリコシル化を減少させることによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が可能にならない環境で作製することによって抗体のグリコシル化を減少させる。そのような態様の1つでは、抗体を非哺乳動物細胞の産生系で産生させる。別のそのような態様では、抗体を合成的に作製する。別のそのような態様では、抗体上にすでに存在する炭水化物基を除去することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が起こらないように改変することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体のFc領域の297位に、その位置の野生型アスパラギン残基がその位置におけるグリコシル化に干渉する別のアミノ酸で置き換えられるような変異が含まれる。別の態様では、抗体のアイソタイプをエフェクター機能が天然に低下している又は排除されているアイソタイプに改変することによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。
別の態様では、Fc領域を改変してエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、Fc領域の少なくとも1つの改変によってエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、238位、239位、248位、249位、252位、254位、265位、268位、269位、270位、272位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、437位、438位、及び439位から選択される、1つ又は複数のFc受容体との結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体をエフェクター機能に適格なFc領域を含まないように操作することによってエフェクター機能を低下させる若しくは排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。
別の態様では、抗体のFc領域及び/又は非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、270位、322位、329位、及び321位から選択される、C1qとの結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体を補体経路に関与するFc領域を含まないように操作することによって補体誘発機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。別のそのような態様では、抗体の非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、C3との結合が損なわれるCH1領域の点変異である。そのような態様の1つでは、点変異は132位におけるものである(例えば、Vidarteら、(2001) J. Biol. Chem. 276 (41): 38217-38223を参照されたい)。
別の態様では、抗体の投薬量及び/又は投与の頻度を、赤血球が曝露される抗体の濃度が低下するように調節する。別の態様では、抗体をBBB−Rに対するpH感受性結合性を有するように改変する。
別の態様では、抗体を治療用化合物とカップリングする。別のそのような態様では、化合物は神経性障害薬である。別の態様では、化合物はイメージング剤である。別の態様では、化合物を標識する。別の態様では、抗体を標識する。別の態様では、抗体によってBBB−Rとそのネイティブなリガンドの1つ又は複数との結合は損なわれない。別のそのような態様では、抗体は、TfRとトランスフェリンの結合が阻害されないようにTfRに特異的に結合する。別の態様では、BBBは哺乳動物におけるものである。別のそのような態様では、哺乳動物はヒトである。別のそのような態様では、哺乳動物は神経性障害を有する。別のそのような態様では、神経性障害は、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、癌、及び外傷性脳損傷からなる群から選択される。別の態様では、BBBはヒトにおけるものである。
別の態様では、抗体のBBB−Rに対するIC50は約1nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約5nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約50nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約100nMから約100μMまでである。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約5nMから約50μMまでの親和性を有する。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約30nMから約30μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約30nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約50nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。一態様では、スキャッチャード解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、競合ELISAを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。
別の態様では、抗体の、それが特異的に結合するBBB−Rからの解離半減期は約30秒から約30分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約20分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約10分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約5分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約3分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約2分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約2分である。別のそのような態様では、解離半減期は約1分以下である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。別の態様では、競合ELISAなどの競合結合アッセイを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。
別の態様では、抗体は、選択される抗体の親和性に基づいて抗体のパネルから選択される。別の態様では、抗体を、所望の親和性を有するように操作する。そのような態様の1つでは、抗体を、これだけに限定されないが、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、ランダム変異誘発、及び部位特異的変異誘発を含めた当技術分野で公知のタンパク質工学の方法体系のいずれかを使用して生成する。
別の態様では、化合物とカップリングした抗体を治療量で投与する。そのような態様の1つでは、治療量は、抗体が特異的に結合するBBB−Rを飽和させる用量である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体を、化合物とカップリングした抗体と赤血球の相互作用が最小限になる一方で、それでも化合物をBBBを通してCNS内に治療レベルで送達することが容易になる用量及び投薬頻度で投与する。
別の態様では、化合物と抗体を共有結合によってカップリングする。そのような態様の1つでは、化合物と抗体をリンカーによってつなげる。そのような態様の1つでは、リンカーは切断可能である。別のそのような態様では、リンカーは切断可能でない。別のそのような態様では、化合物と抗体を直接連結する。そのような態様の1つでは、抗体は多重特異性抗体であり、化合物は多重特異性抗体の一部分を形成する。別のそのような態様では、多重特異性抗体は、BBB−Rに結合する第1の抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2の抗原結合部位とを含む。別のそのような態様では、脳抗原は、ベータ−セクレターゼ1(BACE1)、Abeta、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ−シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、細胞死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、インターロイキン6受容体(IL6R)、TNF受容体1(TNFR1)、インターロイキン1ベータ(IL1β)、及びカスパーゼ6からなる群から選択される。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとBACE1の両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとAbetaの両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体を標識する。別の態様では、BBB輸送と同時に又はその後に化合物が抗体から遊離するように化合物と抗体と可逆的にカップリングする。
前述の態様はいずれも単独で又は前述の実施態様と組み合わせて適用することができることが理解されよう。
別の実施態様では、本発明は、安全性が改善された、化合物をBBBを通して輸送するために有用な抗体を作出する方法であって、血液脳関門受容体(BBB−R)に特異的であり、BBB−Rに対する親和性が望ましく低い抗体を選択すること、及び抗体を投与することにより、改変されていない抗体を投与した際に、観察される対象の赤血球レベルの低下が減少する又は排除されるように、抗体の1つ又は複数の性質を改変することを含む方法を提供する。一態様では、BBB−Rは、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF受容体)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)、グルコーストランスポーター1(Glut1)及びヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF)からなる群から選択される。別のそのような態様では、BBB−RはヒトBBB−Rである。そのような態様の1つでは、BBB−RはTfRである。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfR活性は阻害されない。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfRとトランスフェリンの結合は阻害されない。
別の態様では、赤血球は未成熟の赤血球である。別のそのような態様では、未成熟の赤血球は網状赤血球である。別の態様では、網状赤血球レベルの低下に急性臨床症状が伴う。
別の態様では、抗体の1つ又は複数の性質は、網状赤血球レベルに対する抗体の影響が低下し、及び/又は対象における急性臨床症状の重症度若しくは存在が低下するように改変されている。そのような態様の1つでは、抗体のBBB−Rに対する親和性を改変する、すなわち、低下させる。別のそのような態様では、抗体の親和性の改変を、BBB−Rに対する親和性が改変されていない(すなわち、低下していない)同じアイソタイプの野生型抗体と比較して測定する。別のそのような態様では、抗体Fc領域のエフェクター機能を改変する。そのような態様の1つでは、エフェクター機能が同じアイソタイプの野生型抗体のエフェクター機能と比較して低下している又は排除されている。別のそのような態様では、抗体のグリコシル化を減少させることによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が可能にならない環境で作製することによって抗体のグリコシル化を減少させる。そのような態様の1つでは、抗体を非哺乳動物細胞の産生系で産生させる。別のそのような態様では、抗体を合成的に作製する。別のそのような態様では、抗体上にすでに存在する炭水化物基を除去することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が起こらないように改変することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体のFc領域の297位に、その位置の野生型アスパラギン残基がその位置におけるグリコシル化に干渉する別のアミノ酸で置き換えられるような変異が含まれる。別の態様では、抗体のアイソタイプをエフェクター機能が天然に低下している又は排除されているアイソタイプに改変することによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。
別の態様では、Fc領域を改変してエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、Fc領域の少なくとも1つの改変によってエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、238位、239位、248位、249位、252位、254位、265位、268位、269位、270位、272位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、437位、438位、及び439位から選択される、1つ又は複数のFc受容体との結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体をエフェクター機能に適格なFc領域を含まないように操作することによってエフェクター機能を低下させる若しくは排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。
別の態様では、抗体のFc領域及び/又は非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、270位、322位、329位、及び321位から選択される、C1qとの結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体を補体経路に関与するFc領域を含まないように操作することによって補体誘発機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。別のそのような態様では、抗体の非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、C3との結合が損なわれるCH1領域の点変異である。そのような態様の1つでは、点変異は132位におけるものである(例えば、Vidarteら、(2001) J. Biol. Chem. 276 (41): 38217-38223を参照されたい)。
別の態様では、抗体の投薬量及び/又は投与の頻度を、赤血球が曝露される抗体の濃度が低下するように調節する。別の態様では、抗体をBBB−Rに対するpH感受性結合性を有するように改変する。
別の態様では、抗体を治療用化合物とカップリングする。別のそのような態様では、化合物は神経性障害薬である。別の態様では、化合物はイメージング剤である。別の態様では、化合物を標識する。別の態様では、抗体を標識する。別の態様では、抗体によってBBB−Rとそのネイティブなリガンドの1つ又は複数との結合は損なわれない。別のそのような態様では、抗体は、TfRとトランスフェリンの結合が阻害されないようにTfRに特異的に結合する。別の態様では、BBBは哺乳動物におけるものである。別のそのような態様では、哺乳動物はヒトである。別のそのような態様では、哺乳動物は神経性障害を有する。別のそのような態様では、神経性障害は、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、癌、及び外傷性脳損傷からなる群から選択される。別の態様では、BBBはヒトにおけるものである。
別の態様では、抗体のBBB−Rに対するIC50は約1nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約5nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約50nMから約100μMまでである。別のそのような態様では、IC50は約100nMから約100μMまでである。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約5nMから約50μMまでの親和性を有する。別の態様では、抗体は、BBB−Rに対して約30nMから約30μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約30nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約50nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。一態様では、スキャッチャード解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、競合ELISAを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。
別の態様では、抗体の、それが特異的に結合するBBB−Rからの解離半減期は約30秒から約30分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約20分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約10分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約5分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約3分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約2分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約2分である。別のそのような態様では、解離半減期は約1分以下である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。別の態様では、競合ELISAなどの競合結合アッセイを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。
別の態様では、抗体は、選択される抗体の親和性に基づいて抗体のパネルから選択される。別の態様では、抗体を、所望の親和性を有するように操作する。そのような態様の1つでは、抗体を、これだけに限定されないが、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、ランダム変異誘発、及び部位特異的変異誘発を含めた当技術分野で公知のタンパク質工学の方法体系のいずれかを使用して生成する。
別の態様では、化合物とカップリングした抗体を治療量で投与する。そのような態様の1つでは、治療量は、抗体が特異的に結合するBBB−Rを飽和させる用量である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体を、化合物とカップリングした抗体と赤血球の相互作用が最小限になる一方で、それでも化合物をBBBを通してCNS内に治療レベルで送達することが容易になる用量及び投薬頻度で投与する。
別の態様では、化合物と抗体を共有結合によってカップリングする。そのような態様の1つでは、化合物と抗体をリンカーによってつなげる。そのような態様の1つでは、リンカーは切断可能である。別のそのような態様では、リンカーは切断可能でない。別のそのような態様では、化合物と抗体を直接連結する。そのような態様の1つでは、抗体は多重特異性抗体であり、化合物は多重特異性抗体の一部分を形成する。別のそのような態様では、多重特異性抗体は、BBB−Rに結合する第1の抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2の抗原結合部位とを含む。別のそのような態様では、脳抗原は、ベータ−セクレターゼ1(BACE1)、Abeta、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ−シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、細胞死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、インターロイキン6受容体(IL6R)、TNF受容体1(TNFR1)、インターロイキン1ベータ(IL1β)、及びカスパーゼ6からなる群から選択される。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとBACE1の両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとAbetaの両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体を標識する。別の態様では、BBB輸送と同時に又はその後に化合物が抗体から遊離するように化合物と抗体と可逆的にカップリングする。
前述の態様はいずれも単独で又は前述の実施態様と組み合わせて適用することができることが理解されよう。
別の実施態様では、本発明は、血液脳関門受容体(BBB−R)に結合する抗体であって、BBB−Rに対する抗体の親和性が約5nMから約50μMまでであり、赤血球に対する少なくとも1つの望ましくない副作用が減少するように抗体の1つ又は複数の性質が改変されている抗体を提供する。一態様では、BBB−Rは、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF受容体)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)、グルコーストランスポーター1(Glut1)及びヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF)からなる群から選択される。別のそのような態様では、BBB−RはヒトBBB−Rである。そのような態様の1つでは、BBB−RはTfRである。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfR活性は阻害されない。別のそのような態様では、BBB−RはTfRであり、抗体によってTfRとトランスフェリンの結合は阻害されない。
別の態様では、赤血球は未成熟の赤血球である。別のそのような態様では、未成熟の赤血球は網状赤血球である。別の態様では、網状赤血球レベルの低下に急性臨床症状が伴う。
別の態様では、抗体の1つ又は複数の性質は、網状赤血球レベルに対する抗体の影響が低下し、及び/又は対象における急性臨床症状の重症度若しくは存在が低下するように改変されている。そのような態様の1つでは、抗体のBBB−Rに対する親和性を改変する、すなわち、低下させる。別のそのような態様では、抗体の親和性の改変を、BBB−Rに対する親和性が改変されていない(すなわち、低下していない)同じアイソタイプの野生型抗体と比較して測定する。別のそのような態様では、抗体Fc領域のエフェクター機能を改変する。そのような態様の1つでは、エフェクター機能が同じアイソタイプの野生型抗体のエフェクター機能と比較して低下している又は排除されている。別のそのような態様では、抗体のグリコシル化を減少させることによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が可能にならない環境で作製することによって抗体のグリコシル化を減少させる。そのような態様の1つでは、抗体を非哺乳動物細胞の産生系で産生させる。別のそのような態様では、抗体を合成的に作製する。別のそのような態様では、抗体上にすでに存在する炭水化物基を除去することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体を野生型グリコシル化が起こらないように改変することによって抗体のグリコシル化を減少させる。別のそのような態様では、抗体のFc領域の297位に、その位置の野生型アスパラギン残基がその位置におけるグリコシル化に干渉する別のアミノ酸で置き換えられるような変異が含まれる。別の態様では、抗体のアイソタイプをエフェクター機能が天然に低下している又は排除されているアイソタイプに改変することによってエフェクター機能を低下させる又は排除する。
別の態様では、Fc領域を改変してエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、Fc領域の少なくとも1つの改変によってエフェクター機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、238位、239位、248位、249位、252位、254位、265位、268位、269位、270位、272位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、437位、438位、及び439位から選択される、1つ又は複数のFc受容体との結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体をエフェクター機能に適格なFc領域を含まないように操作することによってエフェクター機能を低下させる若しくは排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。
別の態様では、抗体のFc領域及び/又は非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、270位、322位、329位、及び321位から選択される、C1qとの結合が損なわれるようなFc領域の点変異である。別のそのような態様では、改変は、Fc領域の一部又は全部を排除することである。別のそのような態様では、Fc領域の全部若しくは一部を欠失させることによって、又は抗体を補体経路に関与するFc領域を含まないように操作することによって補体誘発機能を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、抗体はFab又は単鎖抗体から選択される。別のそのような態様では、抗体の非Fc領域を改変して抗体による補体経路の活性化を低下させる又は排除する。そのような態様の1つでは、改変は、C3との結合が損なわれるCH1領域の点変異である。そのような態様の1つでは、点変異は132位におけるものである(例えば、Vidarteら、(2001) J. Biol. Chem. 276 (41): 38217-38223を参照されたい)。
別の態様では、抗体を治療用化合物とカップリングする。別のそのような態様では、化合物は神経性障害薬である。別の態様では、化合物はイメージング剤である。別の態様では、化合物を標識する。別の態様では、抗体を標識する。別の態様では、抗体によってBBB−Rとそのネイティブなリガンドの1つ又は複数との結合は損なわれない。別のそのような態様では、抗体は、TfRとトランスフェリンの結合が阻害されないようにTfRに特異的に結合する。別の態様では、BBBは哺乳動物におけるものである。別のそのような態様では、哺乳動物はヒトである。別のそのような態様では、哺乳動物は神経性障害を有する。別のそのような態様では、神経性障害は、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、癌、及び外傷性脳損傷からなる群から選択される。別の態様では、BBBはヒトにおけるものである。
別の態様では、抗体のBBB−Rに対するIC50は約30nMから約30μMまでである。別のそのような態様では、抗体は、化合物とカップリングした場合、BBB−Rに対して約30nMから約1μMまでの親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察される親和性と抗TfRE/BACE1抗体について観察される親和性の間の親和性を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体について観察されるIC50と抗TfRE/BACE1抗体について観察されるIC50の間のIC50を有する。一態様では、スキャッチャード解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。別の態様では、競合ELISAを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する親和性を測定する。
別の態様では、抗体の、それが特異的に結合するBBB−Rからの解離半減期は約30秒から約30分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約20分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約10分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約5分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約3分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約30秒から約2分までである。別のそのような態様では、解離半減期は約2分である。別のそのような態様では、解離半減期は約1分以下である。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRA/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別のそのような態様では、化合物とカップリングした抗体はTfRに特異的に結合し、TfRに対して、抗TfRD/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期と抗TfRE/BACE1抗体のTfRとの結合について観察される解離半減期の間の解離半減期を有する。別の態様では、BIACORE解析を使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。別の態様では、競合ELISAなどの競合結合アッセイを使用して抗BBB−R又は抗BBB−R/化合物のBBB−Rに対する解離半減期を測定する。
別の態様では、抗体は、選択される抗体の親和性に基づいて抗体のパネルから選択される。別の態様では、抗体を、所望の親和性を有するように操作する。そのような態様の1つでは、抗体を、これだけに限定されないが、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、ランダム変異誘発、及び部位特異的変異誘発を含めた当技術分野で公知のタンパク質工学の方法体系のいずれかを使用して生成する。
別の態様では、化合物と抗体を共有結合によってカップリングする。そのような態様の1つでは、化合物と抗体をリンカーによってつなげる。そのような態様の1つでは、リンカーは切断可能である。別のそのような態様では、リンカーは切断可能でない。別のそのような態様では、化合物と抗体を直接連結する。そのような態様の1つでは、抗体は多重特異性抗体であり、化合物は多重特異性抗体の一部分を形成する。別のそのような態様では、多重特異性抗体は、BBB−Rに結合する第1の抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2の抗原結合部位とを含む。別のそのような態様では、脳抗原は、ベータ−セクレターゼ1(BACE1)、Abeta、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ−シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、細胞死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、インターロイキン6受容体(IL6R)、TNF受容体1(TNFR1)、インターロイキン1ベータ(IL1β)、及びカスパーゼ6からなる群から選択される。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとBACE1の両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体はTfRとAbetaの両方に結合する。別のそのような態様では、多重特異性抗体を標識する。別の態様では、BBB輸送と同時に又はその後に化合物が抗体から遊離するように化合物と抗体と可逆的にカップリングする。
前述の態様はいずれも単独で又は前述の実施態様と組み合わせて適用することができることが理解されよう。
別の実施態様では、本発明は、神経性障害を治療するための医薬を製造するための、BBB−Rに低親和性で結合し、及び赤血球レベルを低下させない抗体の使用を提供する。前述の任意の低親和性抗BBB−R抗体又は本明細書の他の箇所に記載の任意の低親和性抗BBB−R抗体を当該方法において使用することができる。
別の実施態様では、本発明は、神経性障害の治療において使用するための、BBB−Rに低親和性で結合し、及び赤血球レベルを低下させない抗体を提供する。前述の任意の低親和性抗BBB−R抗体又は本明細書の他の箇所に記載の任意の低親和性抗BBB−R抗体を当該方法において使用することができる。
別の実施態様では、本発明は、神経性障害薬などの治療用化合物を血液脳関門を通して輸送する方法であって、神経性障害薬とカップリングした抗BBB−R抗体を血液脳関門に曝露し、その結果、抗体により、抗体とカップリングした神経性障害薬が血液脳関門を通って輸送することを含み、抗体によって赤血球レベルが低下しない方法を提供する。
本発明は、さらに、哺乳動物における神経性障害を治療する方法であって、血液脳関門受容体(BBB−R)と脳抗原の両方に結合する多重特異性抗体を用いて哺乳動物を治療することを含み、抗BBB−R抗体が、BBB−Rに対する親和性が低く、それにより、抗脳抗原抗体の脳への取り込みが改善され、及び抗体を投与することによって赤血球レベルが低下しないように選択されたものである方法を提供する。
本発明は、さらに、対象における赤血球レベルの上昇に関連する又はそれによって引き起こされる疾患又は障害を治療する方法であって、少なくとも部分的なエフェクター機能を有する抗TfR抗体を対象に投与することを含む方法を提供する。一態様では、投与する工程は、抗体投与の急性臨床症状が最小限になるように調整した用量及び/又は投薬頻度で行われる。
本発明の前述の方法及び組成物はいずれも、互いと及び/又は本明細書に記載の本発明の別の態様と組み合わせることができることが理解されよう。
I.定義
「血液脳関門」又は「BBB」とは、脳毛細血管内皮原形質膜内の密着結合によって形成される、末梢循環と脳及び脊髄(すなわち、CNS)の間の生理的関門を指し、これにより、分子の脳への輸送を、尿素(60ダルトン)などの非常に小さい分子でさえも制限する関門が創出される。脳内の血液脳関門、脊髄内の血液−脊髄関門、及び網膜内の血液網膜関門はCNS内の連続した毛細血管関門であり、本明細書では、集合的に血液脳関門又はBBBと称される。BBBは、関門が毛細血管内皮細胞ではなく上衣細胞で構成される血液−CSF関門(脈絡嚢)も含む。
「中枢神経系」又は「CNS」とは、身体の機能を制御する神経組織の複合体を指し、脳及び脊髄を含む。
「血液脳関門受容体」(本明細書では「BBB−R」と略される)とは、分子を血液脳関門を通して輸送することができる、脳内皮細胞上で発現される膜貫通受容体タンパク質である。BBB−Rの例としては、これだけに限定されないが、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF−R)、これだけに限定することなく、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)及び低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)を含めた低密度リポタンパク質受容体、グルコーストランスポーター1(Glut1)並びにヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF)が挙げられる。本発明の例示的なBBB−Rはトランスフェリン受容体(TfR)である。
「トランスフェリン受容体」(「TfR」)とは、脊椎動物において鉄取り込みに関与する、2つのジスルフィド結合したサブユニット(それぞれの見かけの分子量が約90,000である)で構成される膜貫通糖タンパク質(分子量が約180,000である)である。一実施態様では、本発明のTfRは、例えば、Schneiderら Nature 311: 675 - 678 (1984)に記載されているアミノ酸配列を含むヒトTfRである。
「神経性障害」とは、本明細書で使用される場合、CNSに影響を及ぼし、及び/又は病因がCNSにある疾患又は障害を指す。例示的なCNS疾患又は障害としては、これだけに限定されないが、ニューロパチー、アミロイドーシス、癌、眼の疾患又は障害、ウイルス又は微生物感染症、炎症、虚血、神経変性疾患、発作、行動障害、及びリソソーム蓄積症が挙げられる。本出願の目的に関して、CNSは、通常は血液網膜関門によって体の残りの部分から隔離されている眼を包含するものと理解されよう。神経性障害の特定の例としては、これだけに限定されないが、神経変性疾患(これだけに限定されないが、レビー小体病、ポリオ後症候群、シャイドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン病、多系統萎縮症、線条体黒質変性を含む)、タウオパチー(これだけに限定されないが、アルツハイマー病及び核上性麻痺を含む)、プリオン病(これだけに限定されないが、牛海綿状脳症、スクレイピー、クロイツフェルトヤコブ病、クールー病、ゲルストマンシュトロイスラーシャインカー病、慢性消耗性疾患、及び致死性家族性不眠症を含む)、球麻痺、運動ニューロン疾患、及び神経系ヘテロ変性障害(heterodegenerative disorder)(これだけに限定されないが、カナバン病、ハンチントン病、神経セロイドリポフスチン症、アレキサンダー病、トゥレット症候群、メンケス症候群、コケイン症候群、ハレルフォルデンスパッツ症候群、ラフォラ病、レット症候群、肝レンズ核変性症、レッシュナイハン症候群、及びウンフェルリヒトルントボルク病を含む)、認知症(これだけに限定されないが、ピック病、及び脊髄小脳失調症を含む)、癌(例えば、体内の他の箇所の癌に由来する脳転移を含めたCNSの癌)が挙げられる。
「神経性障害薬」とは、1種又は複数種の神経性障害を治療する薬物又は治療剤である。本発明の神経性障害薬としては、これだけに限定されないが、抗体、ペプチド、タンパク質、CNS標的(一又は複数)の天然のリガンド、CNS標的(一又は複数)の天然のリガンドの改変型、アプタマー、阻害性核酸(すなわち、低分子阻害RNA(siRNA)及び低分子ヘアピン型RNA(shRNA))、リボザイム、及び小分子、又は前述のもののいずれかの活性断片が挙げられる。本発明の例示的な神経性障害薬は、本明細書に記載されており、それらとしては、これだけに限定されないが、例えば、これだけに限定されないが、アミロイド前駆体タンパク質若しくはその一部、アミロイドベータ、ベータ−セクレターゼ、ガンマ−セクレターゼ、tau、アルファ−シヌクレイン、パーキン、ハンチンチン、DR6、プレセニリン、ApoE、神経膠腫又は他のCNS癌マーカー、及びニューロトロフィンなどのCNS抗原又は標的分子それ自体である、又はそれを特異的に認識し、及び/又はそれに作用する(すなわち、それを阻害する、活性化する、又は検出する)抗体、アプタマー、タンパク質、ペプチド、阻害性核酸及び小分子、並びに、前述のもののいずれかの活性断片が挙げられる。神経性障害薬及びそれらを使用して治療することができる障害の非限定的な例が以下の表1において提供される。
「イメージング剤」とは、その存在及び/又は位置を直接的に又は間接的に検出することが可能になるような1つ又は複数の性質を有する化合物である。そのようなイメージング剤の例としては、検出を可能にする標識部分が組み入れられたタンパク質及び小分子化合物が挙げられる。
「CNS抗原」又は「脳抗原」とは、脳を含めたCNSにおいて発現される抗原であり、抗体又は小分子を用いて標的することができる。そのような抗原の例としては、限定することなく、ベータ−セクレターゼ1(BACE1)、アミロイドベータ(Abeta)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ−シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、細胞死受容体6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)、インターロイキン6受容体(IL6R)、TNF受容体1(TNFR1)、インターロイキン1ベータ(IL1β)、及びカスパーゼ6が挙げられる。一実施態様では、抗原はBACE1である。
「BACE1」という用語は、本明細書で使用される場合、別段の指定のない限り、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えばマウス及びラット)などの哺乳動物を含めた任意の脊椎動物を供給源とする任意のネイティブなベータ−セクレターゼ1(β−部位アミロイド前駆体タンパク質切断酵素1、膜関連アスパラギン酸プロテアーゼ2、メマプシン2、アスパルチルプロテアーゼ2又はAsp2とも称される)を指す。この用語は、「全長の」プロセシングを受けていないBACE1並びに細胞におけるプロセシングにより生じた任意の形態のBACE1を包含する。この用語は、BACE1の天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。例示的なBACE1ポリペプチドのアミノ酸配列は、全体が出典明示により本明細書に援用されるVassarら、Science 286: 735-741 (1999)において報告されているヒトBACE1、アイソフォームAの配列である。ヒトBACE1には、アイソフォームB、アイソフォームC及びアイソフォームDを含めたいくつかの他のアイソフォームが存在する。全体が出典明示により本明細書に援用されるUniProtKB/Swiss-Prot Entry P56817を参照されたい。
「抗ベータ−セクレターゼ抗体」、「抗BACE1抗体」、「ベータ−セクレターゼに結合する抗体」及び「BACE1に結合する抗体」という用語は、BACE1と十分な親和性で結合することができる抗体を指し、したがって、当該抗体は、BACE1の標的化における診断剤及び/又は治療剤として有用である。一実施態様では、抗BACE1抗体と無関係非BACE1タンパク質の結合の程度は、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定して、抗体とBACE1の結合の約10%未満である。ある特定の実施態様では、BACE1に結合する抗体の解離定数(Kd)は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば10−8M以下、例えば10−8Mから10−13Mまで、例えば、10−9Mから10−13Mまで)である。ある特定の実施態様では、抗BACE1抗体は、異なる種及びアイソフォーム由来のBACE1の間で保存されているBACE1のエピトープに結合する。一実施態様では、抗BACE1抗体YW412.8.31が結合したBACE1上のエピトープに結合する抗体が提供される。他の実施態様では、BACE1の触媒ドメインに位置するBACE1内のエキソサイトに結合する抗体が提供される。一実施態様では、全体が出典明示により本明細書に援用されるKornackerら、Biochem. 44: 11567-11573 (2005)において同定されているペプチド(すなわち、ペプチド1、2、3、1−11、1−10、1−9、1−8、1−7、1−6、2−12、3−12、4−12、5−12、6−12、7−12、8−12、9−12、10−12、4、5、6、5−10、5−9、スクランブル、Y5A、P6A、Y7A、F8A、I9A、P10A及びL11A)とBACE1との結合について競合する抗体が提供される。例示的なBACE1抗体の配列が図15A−B及び図16A−Bに示されている。本発明の例示的な抗体の1つは、抗体YW412.8.31の可変ドメインを含む(例えば図15A−Bの場合と同様に)。
「ネイティブな配列」タンパク質とは、本明細書では、タンパク質の天然に存在するバリアントを含めた、天然に見いだされるタンパク質のアミノ酸配列を含むタンパク質を指す。本明細書で使用される場合、この用語は、その天然の供給源から単離された又は組換えによって作製されたタンパク質を包含する。
「抗体」という用語は、本明細書では最も広範な意味で使用され、特にモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つのインタクトな抗体から形成される多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の生物活性を示す限りは抗体断片を包含する。
「抗体断片」とは、本明細書では、抗原と結合する能力を保持するインタクトな抗体の一部を含む。抗体断片の例は当技術分野で周知であり(例えば、Nelson、MAbs (2010) 2 (1): 77-83を参照されたい)、それらとしては、これだけに限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片;ダイアボディ(diabody);直鎖状抗体;これだけに限定されないが単鎖可変性断片(scFv)を含めた単鎖抗体分子、リンカーを伴う又は伴わない(及び任意選択的にタンデムな)軽鎖及び/又は重鎖抗原結合性ドメインの融合物、並びに抗体断片から形成される単一特異性又は多特異性の抗原結合性分子(これだけに限定されないが、Fc領域を欠く多数の可変ドメインから構築される多重特異性抗体を含む)が挙げられる。
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体、すなわち、その集団に含まれる個々の抗体が、モノクローナル抗体の作製の間に生じ得る可能性があるバリアント以外は同一であり、及び/又は同じエピトープに結合することを指し、そのようなバリアントは一般に微量で存在する。一般には異なる決定因子(エピトープ)を対象とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定因子を対象とする。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンが混入していないという点で有利である。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体の集団から得られたという抗体の特性を示し、任意の特定の方法によって抗体を作製する必要であると解釈されるものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohlerら、Nature、256: 495 (1975) に最初に記載されたハイブリドーマ方法によって作出されたものであっても、組換えDNA方法(例えば、米国特許4816567号を参照されたい)によって作出されたものであってもよい。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clacksonら、Nature、352: 624-628 (1991)及びMarksら、J. Mol. Biol.、222: 581-597 (1991)に記載されている技法を使用してファージ抗体ライブラリーから単離されたものであってもよい。本発明のモノクローナル抗体の特定の例としては、その抗原結合性断片を含め、キメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体が挙げられる。
本発明のモノクローナル抗体は、特に、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種に由来する又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同であるが、残りの鎖(一又は複数)は、別の種に由来する又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、並びに、所望の生物活性を示す限りはそのような抗体の断片を包含する(米国特許4816567号;Morrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、81: 6851-6855 (1984))。対象のキメラ抗体は、本明細書では、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、アカゲザルの又はカニクイザルなどの旧世界ザル)に由来する可変ドメイン抗原結合性配列とヒト定常領域の配列とを含む「霊長類化」抗体(“primatized” andibody)を包含する(米国特許5693780号)。
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する配列を最小限含有するキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域由来の残基が、所望の特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域由来の残基で置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基が対応する非ヒト残基で置き換えられている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体においては見いだされない残基を含んでよい。これらの改変は抗体の性能をさらに高めるために行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、一般には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、超可変領域の全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンの超可変領域に対応し、FRは、上記のFR置換(一又は複数)以外は全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFRである。ヒト化抗体は、任意選択的に、免疫グロブリン定常領域、一般にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分も含む。さらなる詳細に関しては、Jonesら、Nature 321: 522-525 (1986);Riechmannら、Nature 332: 323-329 (1988)、及びPresta、Curr. Op. Struct. Biol. 2: 593-596 (1992)を参照されたい。
「ヒト抗体」とは、本明細書では、ヒトB細胞から得られる抗体のアミノ酸配列構造に対応するアミノ酸配列構造を含む抗体であり、ヒト抗体の抗原結合性断片を包含する。そのような抗体は、これだけに限定されないが、免疫化すると内在性の免疫グロブリン産生の不在下でヒト抗体を産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)による産生(例えば、Jakobovitsら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90: 2551 (1993);Jakobovitsら、Nature、362: 255-258 (1993);Bruggermannら、Year in Immuno.、7: 33 (1993)、及び米国特許5591669号、同5589369号及び同5545807号を参照されたい);ヒト抗体又はヒト抗体断片を発現しているファージディスプレイライブラリーからの選択(例えば、McCaffertyら、Nature 348: 552-553 (1990);Johnsonら、Current Opinion in Structural Biology 3: 564-571 (1993);Clacksonら、Nature、352: 624-628 (1991);Marksら、J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1991);Griffithら、EMBO J.12: 725-734 (1993);米国特許5565332号及び同5573905号を参照されたい);in vitroで活性化されたB細胞による生成(米国特許5567610号及び同5229275号)、並びにヒト抗体産生ハイブリドーマからの単離を含めた種々の技法によって同定又は作出することができる。
「多重特異性抗体」とは、本明細書では、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体である。例示的な多重特異性抗体は、BBB−Rと脳抗原の両方に結合することができる。多重特異性抗体は、全長抗体又は抗体断片(例えばF(ab’)2二重特異性抗体)として調製することができる。2つ、3つ、又はそれ以上(例えば4つ)の機能的な抗原結合部位を有する、操作された抗体も意図されている(例えば、米国特許出願第2002/0004587A1号、Millerらを参照されたい)。多重特異性抗体は、全長抗体としても抗体断片としても調製することができる。
抗体とは、本明細書では、抗原結合性又は生物活性が変更された「アミノ酸配列バリアント」を包含する。そのようなアミノ酸の変更の例としては、抗原に対する親和性が増強された抗体(例えば「親和性成熟」抗体)、及び存在する場合にはFc領域が変更された、例えば、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)及び/若しくは補体依存性細胞傷害性(CDC)が変更された(増加又は減弱した)抗体(例えば、国際公開第00/42072号、Presta, L.及び国際公開第99/51642号、Iduosogieら);並びに/又は血清半減期が増加若しくは減弱した抗体(例えば、国際公開第00/42072号、Presta, L.を参照されたい)が挙げられる。
「親和性改変バリアント」は、親抗体(例えば親のキメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体)の1つ又は複数の超可変領域又は枠組み残基が、親和性が変更される(増加又は低下する)ように置換されている。そのような置換バリアントを生成するための好都合なやり方ではファージディスプレイを使用する。簡単に述べると、いくつかの超可変領域の部位(例えば6−7部位)を変異させて、各部位における全ての可能性のあるアミノ置換を生成する。このように生成された抗体バリアントが、繊維状ファージ粒子から、各粒子内にパッケージングされたM13の遺伝子III産物との融合物として一価で提示される。次いで、ファージ提示されたバリアントを、それらの生物活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングする。改変するための候補超可変領域部位を同定するために、アラニンスキャニング変異誘発を実施して、抗原結合に著しく寄与する超可変領域残基を同定することができる。その代わりに又はそれに加えて、抗原−抗体複合体の結晶構造を分析して、抗体とその標的の接触点を同定することが有益であり得る。そのような接触残基及び隣接する残基が、本明細書で詳述されている技法に従った置換の候補である。そのようなバリアントが生成されたら、さらなる開発のために、バリアントのパネルをスクリーニングに供し、親和性が変更された抗体を選択することができる。
「pH感受性抗体バリアント」とは、第1のpHにおける標的抗原に対する結合親和性が、異なるpHにおけるその標的抗原に対する結合親和性と異なる抗体バリアントである。非限定的な例として、本発明の抗TfR抗体は、TfRに対してpH感受性結合性を有し、したがって、pH7.4では血漿中の細胞表面TfRに望ましい低親和性(本明細書に記載の通り)で結合するが、エンドソーム区画内に内部移行すると、比較的低いpH(pH5.5−6.0)においてTfRから急速に解離するように選択又は操作することができる。そのような解離により、抗体を抗原媒介性クリアランスから保護すること、及びCNSに送達されるか又はBBBを通って再利用される抗体の量を増加させることができ、いずれの場合も、そのようなpH感受性を有さない抗TfR抗体と比較して抗体の有効濃度が増加する(例えば、Chaparro-Riggersら J. Biol. Chem. 287 (14): 11090-11097;Igawaら、Nature Biotechnol. 28 (11): 1203-1208を参照されたい)。血清pHにおける親和性とエンドソーム区画pHにおける親和性の所望の組合せは、特定のBBB−R及びコンジュゲート化合物について当業者が容易に決定することができる。
本発明の抗体は、例えば半減期若しくは安定性を増大させるため、又は他の点で抗体を改善するために、「異種分子」とコンジュゲートすることができる。例えば、抗体は、種々の非タンパク質ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体のうちの1つと連結することができる。1つ又は複数のPEG分子と連結したFab’などの抗体断片が本発明の例示的な実施態様である。別の例では、異種分子は治療用化合物又は可視化剤(すなわち、検出可能な標識)であり、抗体はそのような異種分子をBBBを通して輸送するために使用される。異種分子の例としては、これだけに限定されないが、化学化合物、ペプチド、ポリマー、脂質、核酸、及びタンパク質が挙げられる。
本発明の抗体は「グリコシル化バリアント」であってよく、したがって、Fc領域に結合した炭水化物が存在する場合に、そのいずれかが変更されており、存在するかしないかが改変されているか、又は種類が改変されている。例えば、抗体のFc領域にフコースが結合していない成熟炭水化物構造を有する抗体が米国特許出願第2003/0157108号(Presta, L.)に記載されている。米国特許出願第2004/0093621号(Kyowa Hakko Kogyo Co., Ltd)も参照されたい。抗体のFc領域に結合した炭水化物内に二分したN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する抗体が国際公開第2003/011878号、Jean-Mairetら及び米国特許6602684号、Umanaらにおいて参照されている。抗体のFc領域に結合したオリゴ糖内に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体が国際公開第1997/30087号、Patelらにおいて報告されている。Fc領域に結合する炭水化物が変更された抗体に関する国際公開第1998/58964号(Raju, S.)及び国際公開第1999/22764号(Raju, S.)も参照されたい。グリコシル化が改変されている抗体が記載されている米国特許出願第2005/0123546号(Umanaら)も参照されたい。Fc領域内のコンセンサスグリコシル化配列(297−299位のAsn−X−Ser/Thr、Xはプロリンではあり得ない)の変異を、例えば、298位にProを配置させることによって、又は299位をSer又はThr以外の任意のアミノ酸に改変することによってこの配列のAsnを任意の他のアミノ酸に変異させることにより、その位置におけるグリコシル化が抑止されるはずである(例えば、Fares Al-Ejehら、Clin. Cancer Res. (2007) 13: 5519s-5527s;Imperiali及びShannon、Biochemistry (1991) 30 (18): 4374-4380;Katsuri、Biochem J. (1997) 323 (Pt 2): 415-419;Shakin-Eshlemanら、J. Biol. Chem. (1996) 271: 6363-6366を参照されたい)。
「超可変領域」という用語は、本明細書で使用される場合、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」からのアミノ酸残基(例えば軽鎖可変ドメインの残基24−34(L1)、50−56(L2)及び89−97(L3)並びに重鎖可変ドメインの31−35(H1)、50−65(H2)及び95−102(H3);Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD. (1991))及び/又は「超可変ループ」由来の残基(例えば軽鎖可変ドメインの残基26−32(L1)、50−52(L2)及び91−96(L3)並びに重鎖可変ドメインの26−32(H1)、53−55(H2)及び96−101(H3);Chothia及びLesk J. Mol. Biol.196: 901-917 (1987))を含む。「フレームワーク」又は「FR」残基は本明細書において定義されている超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
「全長抗体」とは、抗原結合性可変領域並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメインCH1、CH2及びCH3を含む抗体である。定常ドメインは、ネイティブな配列の定常ドメイン(例えばヒトネイティブな配列の定常ドメイン)であってもそのアミノ酸配列バリアントであってもよい。
「ネイキッド抗体(naked antibody)」とは、細胞毒性部分、ポリマー、又は放射標識などの異種分子とコンジュゲートしていない抗体である(本明細書において定義されている)。
抗体の「エフェクター機能」とは、補体経路の活性化以外の免疫系の活性化をもたらす抗体の生物活性を指す。そのような活性は、主に抗体のFc領域(ネイティブな配列のFc領域又はアミノ酸配列バリアントのFc領域)において見いだされる。抗体のエフェクター機能の例としては、例えば、Fc受容体結合性及び抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)が挙げられる。一実施態様では、本発明の抗体は、基本的にエフェクター機能を欠く。別の実施態様では、本発明の抗体は最小限のエフェクター機能を保持する。エフェクター機能を改変又は排除する方法は当技術分野で周知であり、それらとしては、これだけに限定されないが、エフェクター機能に関与するFc領域の全部又は一部を排除すること(すなわち、抗体又は抗体断片を、例えば、これだけに限定されないが、本明細書に記載されており当技術分野で公知のFab断片、単鎖抗体などのFc領域の全部又は一部を欠く形式で使用すること);Fc領域を1つ又は複数のアミノ酸位で改変してエフェクター機能を排除すること(Fc結合に影響する:238位、239位、248位、249位、252位、254位、265位、268位、269位、270位、272位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、301位、303位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、437位、438位、及び439位)、並びに、抗体のグリコシル化を改変すること(これだけに限定されないが、抗体を野生型哺乳動物グリコシル化が可能にならない環境で作製すること、すでにグリコシル化された抗体から1つ又は複数の炭水化物基を除去すること、及び抗体を1つ又は複数のアミノ酸位で改変して抗体がその位置でグリコシル化される能力を排除すること(これだけに限定されないが、N297G及びN297Aを含む)を含む)が挙げられる。
抗体の「補体活性化」機能、又は「補体経路の活性化」を可能にする若しくは誘発する抗体の性質とは、互換的に使用され、対象における免疫系の補体経路を伴う又は刺激する抗体の生物活性を指す。そのような活性としては、例えば、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)が挙げられ、これは、抗体のFc部分と非Fc部分のどちらによっても媒介され得る。補体活性化機能を改変又は排除する方法は当技術分野で周知であり、それらとしては、これだけに限定されないが、補体活性化に関与するFc領域の全部又は一部を排除すること(すなわち、抗体又は抗体断片を、例えば、これだけに限定されないが、本明細書に記載され当技術分野で公知のFab断片、単鎖抗体などのFc領域の全部若しくは一部を欠く形式で使用すること、又はFc領域を、1つ若しくは複数のアミノ酸位、例えば、C1q結合に関与することが公知の270位、322位、329位及び321位などで改変して補体構成成分との相互作用若しくは補体構成成分を活性化する能力を排除する若しくは減らすこと)、及び補体活性化に関与する非Fc領域の一部を改変又は排除すること(すなわち、132位でCH1領域を改変することが挙げられる(例えば、Vidarteら、(2001) J. Biol. Chem. 276 (41): 38217-38223)を参照されたい)。
全長抗体は、それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて異なる「クラス」に割り当てることができる。全長抗体には5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、このうちのいくつかは「サブクラス」(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2にさらに分けることができる。異なるクラスの抗体に対応する重鎖定常ドメインは、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、及びミューと称される。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元の立体配置は周知である。
「組換え抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体をコードする核酸を含む組換え宿主細胞によって発現される抗体(例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体又はその抗原結合性断片)を指す。組換え抗体を産生させるための「宿主細胞」の例としては、(1)哺乳動物の細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、骨髄腫細胞(Y0細胞及びNS0細胞を含む)、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、Hela細胞及びVero細胞;(2)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21及びTn5;(3)植物細胞、例えばタバコ属(Nicotiana)に属する植物(例えばタバコ(Nicotiana tabacum));(4)酵母細胞、例えば、サッカロミセス属(Saccharomyces)に属する酵母細胞(例えば出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae))又はアスペルギルス属(Aspergillus)に属する酵母細胞(例えばクロコウジカビ(Aspergillus niger));(5)細菌細胞、例えば大腸菌(Escherichia coli)細胞又は枯草菌(Bacillus subtilis)細胞などが挙げられる。
本明細書で使用される場合、「特異的に結合すること(specifically binding)」又は「特異的に結合する(binds specifically to)」とは、抗体が抗原に選択的に又は優先的に結合することを指す。結合親和性は、一般に、スキャッチャード解析、又は表面プラズモン共鳴技法(例えばBIACORE(登録商標)を使用する)などの標準のアッセイを使用して決定される。
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」とは、参照抗体とその抗原の結合を競合アッセイにおいて50%以上遮断する抗体を指し、逆に、参照抗体はその抗体とその抗原の結合を競合アッセイにおいて50%以上遮断する。一実施態様では、抗BACE1抗体は、YW412.8.31が結合するBACE1エピトープに結合する。
「細胞傷害性薬剤」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞機能を阻害若しくは防止し、及び/又は細胞死若しくは細胞破壊を引き起こす物質を指す。細胞傷害性薬剤としては、これだけに限定されないが、放射性同位元素(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位元素);化学療法剤又は化学療法薬(例えば、メトトレキセート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他の挿入剤);成長阻害剤;核酸分解酵素などの酵素及びその断片;抗生物質;その断片及び/又はバリアントを含めた、細菌、真菌、植物又は動物起源の小分子毒素又は酵素的に活性な毒素などの毒素が挙げられる。
作用剤、例えば医薬製剤の「有効量」とは、所望の治療的又は予防的結果を実現するために必要な投与量で、所望の治療的又は予防的結果を実現するために必要な期間にわたって有効な量を指す。
「Fc領域」という用語は、本明細書では、定常領域の少なくとも一部分を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、ネイティブな配列のFc領域及びバリアントのFc領域を包含する。一実施態様では、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226から、又はPro230から、重鎖のカルボキシル末端までにわたる。しかし、Fc領域のC末端のリシン(Lys447)は存在していてもしていなくてもよい。別段の指定がない限り、本明細書では、Fc領域又は定常領域のアミノ酸残基の番号付けは、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD、1991に記載されている、EU指標とも称されるEU番号付け系に従う。
「フレームワーク」又は「FR」とは、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般には、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、及びFR4からなる。したがって、HVR及びFR配列は、一般に、VH(又はVL)内の以下の配列に現れる:FR1−H1(L1)−FR2−H2(L2)−FR3−H3(L3)−FR4。
「免疫コンジュゲート」とは、これだけに限定されないが、標識又は細胞傷害性薬剤を含めた1種又は複数種の異種分子(一又は複数)とコンジュゲートした抗体である。任意選択的に、そのようなコンジュゲーションはリンカーを介したものである。
「リンカー」とは、本明細書で使用される場合、抗BBB−R抗体と異種分子を共有結合によって、又は非共有結合によって接続する構造である。ある特定の実施態様では、リンカーはペプチドである。他の実施態様では、リンカーは化学的リンカーである。
「標識」とは、本発明の抗体とカップリングした、検出又はイメージングのために使用されるマーカーである。そのような標識の例としては、放射標識、フルオロフォア、発色団、又はアフィニティータグが挙げられる。一実施態様では、標識は、医用画像用に使用される放射標識、例えばtc99m若しくはI123、又は核磁気共鳴(NMR)画像法(磁気共鳴画像法、mriとしてもとしても公知である)用のスピンラベル、例えば、上記と同様にヨウ素−123、ヨウ素131、インジウム111、フッ素−19、炭素−13、窒素−15、酸素−17、ガドリニウム、マンガン、鉄などである。
「個体」又は「対象」とは、哺乳動物である。哺乳動物としては、これだけに限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及び非ヒト霊長類、例えば、サルなど)、ウサギ、及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)が挙げられる。ある特定の実施態様では、個体又は対象はヒトである。
「単離された」抗体とは、その天然の環境の構成成分から分離された抗体である。一部の実施態様では、抗体は、例えば、電気泳動的方法(例えば、SDS−PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィーによる方法(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)によって決定して95%又は99%を超える純度まで精製される。抗体の純度を評価するための方法についての総説に関しては、例えば、Flatmanら、J. Chromatogr. B 848: 79-87 (2007)を参照されたい。
「添付文書」という用語は、治療用製品の商用包装に習慣的に含まれ、そのような治療用製品の使用に関する適応症、使用法、投与量、投与、併用療法、禁忌及び/又は警告に関する情報を含有する説明書を指すために使用される。
「医薬製剤」という用語は、含有される活性成分の生物活性が有効になることが可能になるような形態であり、製剤を投与する対象に対して許容できないほど毒性である追加的な構成成分を含有しない調製物を指す。
「薬学的に許容される担体」とは、医薬製剤中の、対象に対して非毒性である、活性成分以外の成分を指す。薬学的に許容される担体としては、これだけに限定されないが、緩衝液、賦形剤、安定剤、又は防腐剤が挙げられる。
本明細書で使用される場合、「治療(treatment)」(及びその文法上の変形、例えば、「治療する(treat)」又は「治療すること(treating)」など)とは、治療されている個体の自然経過を改変する試みにおける臨床的介入を指し、これは予防のためにも臨床的病態の過程中にも実施することができる。治療の望ましい効果としては、これだけに限定されないが、疾患の出現又は再発の予防、症状の緩和、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的影響の減弱、転移の予防、疾患の進行の速度の低下、病態の好転又は一時的緩和、及び寛解又は予後の改善が挙げられる。一部の実施態様では、本発明の抗体を使用して、疾患の発生を遅延させる又は疾患の進行を遅くする。
II.組成物及び方法
A.抗BBB−R抗体及びそのコンジュゲートの作製
本発明の方法及び製造品では、BBB−Rに結合する抗体を使用する又は組み入れる。抗体の作製又はスクリーニングのために使用するBBB−R抗原は、例えば、所望のエピトープを含有するBBB−Rの可溶性の形態又はその一部(例えば細胞外ドメイン)であってよい。その代わりに又はそれに加えて、細胞表面においてBBB−Rを発現している細胞を使用して抗体を生成又はスクリーニングすることができる。抗体を生成するために有用なBBB−R他の形態及び提示は、当業者には明らかになるであろう。本発明のBBB−Rの例としては、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体(IGF−R)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)及びLRP8など、グルコーストランスポーター1(Glut1)及びヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF)が挙げられる。
本発明によると、「低親和性」の抗BBB−R(例えば抗TfR)抗体は、そのような抗体がCNS(例えば、脳)取り込みの改善を示すことが実証される本発明のデータに基づいて選択される。そのような低親和性抗体を同定するために、これだけに限定することなく、スキャッチャードアッセイ及び表面プラズモン共鳴技法(例えばBIACORE(登録商標)を使用する)を含めた、抗体の親和性を測定するための種々のアッセイが利用可能である。本発明の一実施態様によると、抗体は、BBB−R抗原(例えばTfR)に対して、約5nM、又は約20nM、又は約100nMから約、約50μM、又は約30μM、又は約10μM、又は約1μM、又は約500nMまでの親和性を有する。したがって、親和性は、例えばスキャッチャード解析又はBIACORE(登録商標)によって測定して、約5nM−約50μMの範囲、又は約20nM−約30μMの範囲、又は約30nM−約30μMの範囲、又は約50nM−約1μMの範囲、又は約100nM−約500nMの範囲であってよい。本発明の別の実施態様では、抗体のBBB−R抗原(例えばTfR)からの解離半減期は、競合結合分析又はBIACORE(登録商標)によって測定して、1分未満、2分未満、3分未満、4分未満、5分未満、又は10分未満から約20分まで、又は約30分までである。
したがって、本発明は、神経性障害薬を血液脳関門を通して輸送するために有用な抗体を作出する方法であって、抗体を、血液脳関門受容体(BBB−R)に対する抗体のパネルから、約5nMから約、又は約20nMから約、又は約100nMから、約50μMまで、又は約30μMまで、又は約10μMまで、又は約1μMまで、又は約500mMまでの範囲のBBB−Rに対する親和性を有することを理由に選択することを含む方法を提供する。したがって、親和性は、例えばスキャッチャード解析又はBIACORE(登録商標)によって測定して約5nM−約50μMの範囲、又は約20nM−約30μMの範囲、又は約30nM−約30μMの範囲、又は約50nM−約1μMの範囲、又は約100nM−約500nMの範囲であってよい。当業者には理解される通り、異種分子/化合物を抗体とコンジュゲートすることにより、多くの場合、抗体のその標的に対する親和性が、例えば、立体的な障害、さらには、抗体が抗体の元の標的とは異なる抗原に結合する1つ又は複数の腕を有して多特異性になっている場合には1つの結合性腕が排除されることに起因して低下する。一実施態様では、BACE1とコンジュゲートしたTfRに特異的な本発明の低親和性抗体のTfRに対するKdは、BIACOREによって測定して約30nMであった。別の実施態様では、BACE1とコンジュゲートしたTfRに特異的な本発明の低親和性抗体のTfRに対するKdは、BIACOREによって測定して約600nMであった。別の実施態様では、BACE1とコンジュゲートしたTfRに特異的な本発明の低親和性抗体のTfRに対するKdは、BIACOREによって測定して約20μMであった。別の実施態様では、BACE1とコンジュゲートしたTfRに特異的な本発明の低親和性抗体のTfRに対するKdは、BIACOREによって測定して約30μMであった。
抗体の親和性を評価するための1つの例示的なアッセイは、スキャッチャード解析によるものである。例えば、対象の抗BBB−R抗体を、ラクトペルオキシダーゼ法を使用してヨウ素化することができる(Bennett及びHoruk、Methods in Enzymology 288 p.134-148 (1997))。放射標識した抗BBB−R抗体を、NAP−5カラムを使用したゲル濾過によって遊離125I−Naから精製し、その特異的活性を測定する。固定濃度のヨウ素化抗体及び漸減濃度の段階的に希釈した標識されていない抗体を含有する競合反応混合物50μLを96ウェルプレートに入れる。BBB−Rを一過性に発現している細胞を、10%FBS、2mMのL−グルタミン及び1×ペニシリン−ストレプトマイシンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Genentech)からなる成長培地中、37℃、5%CO2で培養する。Sigma Cell Dissociation Solutionを使用して細胞をディッシュから分離し、結合緩衝液(1%ウシ血清アルブミン、50mMのHEPES、pH7.2、及び0.2%アジ化ナトリウムを伴うDMEM)で洗浄する。洗浄した細胞を、おおよその密度を結合緩衝液0.2mL中細胞200,000個として50μLの競合反応混合物を含有する96ウェルプレートに加える。細胞を伴う競合反応物中の標識されていない抗体の最終濃度は、変動させ、1000nMで開始し、次いで、1:2倍希釈によって低下させて、添加ゼロ、緩衝液のみの試料を含めて10種の濃度にする。各濃度の標識されていない抗体について、細胞を伴う競合反応物を3連でアッセイする。細胞を伴う競合反応物を室温で2時間インキュベートする。2時間インキュベートした後、競合反応物をフィルタープレートに移し、結合緩衝液を用いて4回洗浄して、結合したヨウ素化抗体を分離する。フィルターをガンマカウンターによって計数し、Munson及びRodbard (1980)のあてはめアルゴリズムを使用して結合データを評価し、結合抗体の親和性を決定する。
本発明の組成物を使用した例示的なスキャッチャード解析は以下の通り実施することができる。抗TFRAを、ラクトペルオキシダーゼ法を使用してヨウ素化した(Bennett及びHoruk、Methods in Enzymology 288 p.134-148 (1997))。放射標識した抗TFRAを、NAP−5カラムを使用したゲル濾過によって遊離125I−Naから精製し、精製された抗TFRAの特異的活性は19.82mCi/μgであった。固定濃度のヨウ素化抗体及び漸減濃度の段階的に希釈した標識されていない抗体を含有する競合反応混合物50μLを96ウェルプレートに入れた。マウスTfRを一過性に発現している293細胞を、10%FBS、2mMのL−グルタミン及び1×ペニシリン−ストレプトマイシンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Genentech)からなる成長培地中、37℃、5%CO2で培養した。Sigma Cell Dissociation Solutionを使用して細胞をディッシュから分離し、結合緩衝液(1%ウシ血清アルブミン、50mMのHEPES、pH7.2、及び0.2%アジ化ナトリウムを伴うDMEM)で洗浄した。洗浄した細胞を、おおよその密度を結合緩衝液0.2mL中細胞200,000個として50μLの競合反応混合物を含有する96ウェルプレートに加えた。細胞を伴う競合反応物それぞれのヨウ素化抗体の最終濃度は100pM(0.25mL当たり134,000cpm)であった。細胞を伴う競合反応物中の標識されていない抗体の最終濃度は、変動させ、1000nMで開始し、次いで、1:2倍希釈によって低下させて、添加ゼロ、緩衝液のみの試料を含めて10種の濃度にした。各濃度の標識されていない抗体について、細胞を伴う競合反応物を3連でアッセイした。細胞を伴う競合反応物を室温で2時間インキュベートした。2時間インキュベートした後、競合反応物をMillipore Multiscreenフィルタープレートに移し、結合緩衝液を用いて4回洗浄して、結合したヨウ素化抗体を分離した。フィルターをWallac Wizard1470ガンマカウンター(PerkinElmer Life and Analytical Sciences;Waltham、MA)で計数した。Munson及びRodbard(1980)のあてはめアルゴリズムを使用するNew Ligandソフトウェア(Genentech)を使用して結合データを評価して、結合抗体の親和性を決定した。
本発明の組成物を使用した例示的なBIACORE(登録商標)解析は以下の通り実施することができる。Kdを、25℃、抗ヒトFcキット(BiAcore Inc.、Piscataway、NJ)を使用し、BIACORE(登録商標)−2000(BIAcore、Inc.、Piscataway、NJ)を使用した表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定した。簡単に述べると、カルボキシメチル化されたデキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIACORE、Inc.)を、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を供給者の説明書に従って用いて活性化した。抗ヒトFc抗体を10mMの酢酸ナトリウム、pH4.0で50μg/mlに希釈した後に、毎分5μlの流速で注入して、およそ10000応答単位(RU)のカップリングしたタンパク質を得た。抗体を注入した後、1Mのエタノールアミンを注入して反応していない群を遮断した。カイネティクスを測定するために、単一特異性又は多特異性の抗TfR抗体バリアントをHBS−Pに注入して約220RUに到達させ、次いで、MuTfR−Hisの2倍段階希釈物(0.61nM−157nM)を25℃、毎分およそ30μlの流速でHBS−Pに注入した。会合速度(kon)及び解離速度(koff)を、単純一対一ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)Evaluation Softwareバージョン3.2)を使用して、会合及び解離センサーグラムを同時にあてはめることによって算出した。平衡解離定数(Kd)をkoff/kon比として算出した。例えば、Chenら、J. Mol. Biol. 293: 865-881 (1999)を参照されたい。
別の実施態様によると、Kdを、25℃で、抗ヒトFcキット(BiAcore Inc.、Piscataway、NJ)を使用し、BIACORE(登録商標)−2000デバイス(BIAcore、Inc.、Piscataway、NJ)を用いた表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定する。簡単に述べると、カルボキシメチル化されたデキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIACORE、Inc.)を、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を供給者の説明書に従って用いて活性化する。抗ヒトFc抗体を10mMの酢酸ナトリウム、pH4.0で50μg/mlに希釈した後、毎分5μlの流速で注入しておよそ10000応答単位(RU)のカップリングしたタンパク質を得る。抗体を注入した後、1Mのエタノールアミンを注入して、反応していない群を遮断する。カイネティクスを測定するために、抗BBB−R抗体バリアントをHBS−Pに注入して約220RUに到達させ、次いで、BBB−R−Hisの2倍段階希釈物(0.61nM−157nM)を25℃、毎分およそ30μlの流速でHBS−Pに注入する。会合速度(kon)及び解離速度(koff)を、単純一対一ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)Evaluation Softwareバージョン3.2)を使用し、会合及び解離センサーグラムを同時にあてはめることによって算出する。平衡解離定数(Kd)をkoff/kon比として算出する。例えば、Chenら、J. Mol. Biol. 293: 865-881 (1999)を参照されたい。
1つ又は複数の抗体のBBB−Rに対する親和性についての代替の測定値は、公知のBBB−RリガンドとBBB−Rの結合を50%阻害するために抗体がどのくらい必要であるかの尺度である半数阻害濃度(IC50)である。所与の化合物についてのIC50を決定するいくつかの方法は当技術分野で公知であり、一般的な手法は、本明細書の実施例、すなわち図1Aに関して記載されているものなどの競合結合アッセイを実施することである。一般に、IC50が高いことにより、公知のリガンドの結合を阻害するために必要な抗体がより多いこと、したがって、そのリガンドに対する抗体の親和性が比較的低いことが示される。逆に、IC50が低いことにより、公知のリガンドの結合を阻害するために必要な抗体がより少ないこと、したがって、そのリガンドに対する抗体の親和性が比較的高いことが示される。
IC50を測定するための例示的な競合ELISAアッセイは、漸増濃度の抗TfR又は抗TfR/脳抗原(すなわち、抗TfR/BACE1、抗TfR/Abetaなど)バリアント抗体を使用して、ビオチン化TfRAとTfRとの結合について競合させるものである。抗TfR競合ELISAを、2.5μg/mlのPBS中精製マウスTfR細胞外ドメインでコーティングしたMaxisorpプレート(Neptune、N.J.)において4℃で一晩実施した。プレートをPBS/0.05%のTween20で洗浄し、PBS中Superblockブロッキング緩衝液(Thermo Scientific、Hudson、NH)を使用してブロッキングした。各抗TfR又は抗TfR/脳抗原(すなわち、抗TfR/BACE1又は抗TfR/Abeta)の滴定物(1:3段階希釈物)をビオチン化抗TfRA(最終濃度0.5nM)と合わせ、プレートに加えて室温で1時間置いた。プレートをPBS/0.05%のTween20で洗浄し、HRP−ストレプトアビジン(Southern Biotech、Birmingham)をプレートに加え、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS/0.05%のTween20で洗浄し、TMB基質(BioFX Laboratories、Owings Mills)を使用してプレートに結合したビオチン化抗TfRAを検出した。
一実施態様では、標識及び/又は神経性障害薬若しくはイメージング剤をBBBを通してより効率的に輸送するために、本発明の低親和性抗BBB−R抗体を標識及び/又は薬物若しくはイメージング剤とカップリングする。そのようなカップリングは、化学的架橋剤によって、又は融合タンパク質を生成することによってなどで実現することができる。
共有結合性コンジュゲーションは、直接的なものであってもリンカーを介したものであってもよい。ある特定の実施態様では、直接コンジュゲーションはタンパク質融合物の構築によるもの(すなわち、BBB−R抗体及び神経性障害薬をコードする2つの遺伝子を遺伝子融合し、単一のタンパク質として発現させることによるもの)である。ある特定の実施態様では、直接コンジュゲーションは、抗BBB−R抗体の2つの部分のうちの一方の上の反応性基と神経薬上の対応する基又はアクセプターの間の共有結合の形成によるものである。ある特定の実施態様では、直接コンジュゲーションは、コンジュゲートする2つの分子のうちの一方を、コンジュゲートする他方の分子と適切な条件下で共有結合を形成する反応性基(非限定的な例として、スルフヒドリル基又はカルボキシル基)を含むように改変(すなわち、遺伝子改変)することによるものである。非限定的な一例として、所望の反応性基(すなわち、システイン残基)を有する分子(すなわち、アミノ酸)を、例えば、抗BBB−R抗体に導入し、神経薬とジスルフィド結合を形成させることができる。核酸とタンパク質の共有結合性コンジュゲーションの方法も当技術分野で公知である(すなわち、光架橋(photocrosslinking)、例えば、Zatsepinら Russ. Chem. Rev. 74: 77-95 (2005)を参照されたい)。非共有結合性コンジュゲーションは、当業者には容易に理解される疎水性結合、イオン結合、静電気的な相互作用などを含めた任意の非共有結合手段によるものであってよい。コンジュゲーションは種々のリンカーを使用して実施することもできる。例えば、抗BBB−R抗体と神経薬は、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えば、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸(SPDP)、4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸−スクシンイミジル(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、アジプイミド酸ジメチルHClなど)、活性エステル(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジルなど)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(例えば、ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミンなど)、ジイソシアン酸(例えば、トルエン2,6−ジイソシアン酸など)、及びビス−活性フッ素化合物(例えば、1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンなど)などを使用してコンジュゲートすることができる。ペプチド結合によってつながった1−20個のアミノ酸で構成されるペプチドリンカーも使用することができる。特定のそのような実施態様では、アミノ酸は、20種の天然に存在するアミノ酸から選択される。ある特定の他のそのような実施態様では、アミノ酸の1つ又は複数は、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン、グルタミン及びリシンから選択される。リンカーは、脳に送達された際の神経薬の遊離を容易にする「切断可能なリンカー」であってよい。例えば、酸に不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、感光性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chariら、Cancer Res. 52: 127-131 (1992);米国特許5208020号)を使用することができる。
本発明は、これだけに限定されないが、これだけに限定されないが、市販されている(例えば、Pierce Biotechnology、Inc.、Rockford、IL.、U.S.Aから)BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC−SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ−EMCS、スルホ−GMBS、スルホ−KMUS、スルホ−MBS、スルホ−SIAB、スルホ−SMCC、及びスルホ−SMPB、及びSVSB(スクシンイミジル−(4−ビニルスルホン)安息香酸塩)を含めた架橋試薬を用いて調製したコンジュゲートを明白に意図している。
ニューロパチー障害に対しては、これだけに限定されないが、麻薬/オピオイド鎮痛薬(すなわち、モルヒネ、フェンタニル、ヒドロコドン、メペリジン、メサドン、オキシモルフォン、ペンタゾシン、プロポキシフェン、トラマドール、コデイン及びオキシコドン)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(すなわち、イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ケトロラク、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、オキサプロジン、ピロキシカム、スリンダク、及びトルメチン)、コルチコステロイド(すなわち、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン及びトリアムシノロン)、抗片頭痛剤(すなわち、スマトリプチン、アルモトリプタン、フロバトリプタン、スマトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ゾルミトリプタン、ジヒドロエルゴタミン、エレトリプタン及びエルゴタミン)、アセトアミノフェン、サリチル酸塩(すなわち、アスピリン、サリチル酸コリン、サリチル酸マグネシウム、ジフルニサル、及びサルサレート)、抗痙攣薬(すなわち、カルバマゼピン、クロナゼパム、ガバペンチン、ラモトリジン、プレガバリン、チアガビン、及びトピラマート)、麻酔薬(すなわち、イソフルラン、トリクロロエチレン、ハロタン、セボフルラン、ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメトカイン、プロポキシカイン、プロカイン、ノボカイン、プロパラカイン、テトラカイン、アルチカイン、ブピバカイン、カルチカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、メピバカイン、ピペロカイン、プリロカイン、ロピバカイン、トリメカイン、サキシトキシン及びテトロドドキシン)、及びcox−2阻害剤(すなわち、セレコキシブ、ロフェコキシブ、及びバルデコキシブ)を含めた、鎮痛薬である神経薬を選択することができる。眩暈を伴うニューロパチー障害に対しては、これだけに限定されないが、メクリジン、ジフェンヒドラミン、プロメタジン及びジアゼパムを含めた、抗眩暈剤である神経薬を選択することができる。悪心を伴うニューロパチー障害に対しては、これだけに限定されないが、プロメタジン、クロルプロマジン、プロクロルペラジン、トリメトベンズアミド、及びメトクロプラミドを含めた、制吐剤である神経薬を選択することができる。神経変性疾患に対しては、成長ホルモン又は神経栄養因子である神経薬を選択することができ、例として、これだけに限定されないが、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経増殖因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、線維芽細胞増殖因子(FGF)−2及び他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮増殖因子(EGF)、形質転換増殖因子(TGF)−アルファ、TGF−ベータ、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、グリア由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来増殖因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、パーセフィン、インターロイキン、グリア細胞株由来神経栄養因子(GFR)、顆粒球−コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球−マクロファージ−CSF、ネトリン、カルジオトロフィン−1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリン、及び幹細胞因子(SCF)が挙げられる。
癌に対しては、化学療法剤である神経薬を選択することができる。化学療法剤の例としては、アルキル化剤、例えば、チオテパ及びCYTOXAN(登録商標)シクロホスファミドなど;スルホン酸アルキル、例えば、ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファンなど;アジリジン、例えば、ベンゾドパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドパ(meturedopa)、及びウレドパ(uredopa)など;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド及びトリメチルオロメラミン(trimethylolomelamine)を含めたエチレンイミン及びメチルアメラミン(methylamelamine);アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン);デルタ−9−テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標));ベータ−ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成類似体であるトポテカン(HYCAMTIN(登録商標)を含む)、CPT−11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレチン、及び9−アミノカンプトテシン);ブリオスタチン;カリスタチン;CC−1065(そのアドゼレシン合成類似体、カルゼレシン合成類似体及びビゼレシン合成類似体を含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸;テニポシド;クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体であるKW−2189及びCB1−TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩(mechlorethamine oxide hydrochloride)、メルファラン、ノベムビシン(novembichin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなど;ニトロソ尿素、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、及びラニムスチンなど;抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリチアマイシン、特にカリチアマイシンガンマII及びカリチアマイシンオメガIIなど(例えば、Agnew, Chem Intl. Engl.編、33: 183-186 (1994)を参照されたい);ジネミシンAを含めたジネミシン;エスペラミシン;並びにネオカルジノスタチン発色団及び関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カルビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ADRIAMYCIN(登録商標)ドキソルビシン(モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ(pyrrolino)−ドキソルビシン及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンCなどのマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗薬、例えば、メトトレキセート及び5−フルオロウラシル(5−FU)など;葉酸類似体、例えば、デノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキサートなど;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなど;ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジンなど;アンドロゲン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなど;抗副腎ホルモン(anti−adrenal)、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなど;葉酸補充物、例えば、フォリン酸など;アセグラトン;アルドホスファミド配糖体;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジクオン;エフロルニチン;エリプチニウム酢酸塩;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダイニン(lonidainine);マイタンシノイド、例えば、マイタンシン及びアンサマイトシンなど;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;2−エチルヒドラジン;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖複合体(JHS Natural Products、Eugene、OR);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2’’トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT−2毒素、ベラクリンA(verracurin A)、ロリジンA及びアングイジン);ウレタン;ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標));ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);チオテパ;タキソイド、例えば、TAXOL(登録商標)パクリタキセル(Bristol−Myers Squibb Oncology、Princeton、N.J.)、クレモホールを含まない、アルブミンで操作したパクリタキセルのナノ粒子製剤であるABRAXANE(商標)(American Pharmaceutical Partners、Schaumberg、Illinois)、及びTAXOTERE(登録商標)ドセタキセル(Rhone−Poulenc Rorer、Antony、France);クロラムブシル;ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標));6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;白金類似体、例えば、シスプラチン及びカルボプラチンなど;ビンブラスチン(VELBAN(登録商標));白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標));オキサリプラチン;ロイコボリン;ビノレルビン(NAVELBINE(登録商標));ノバントロン;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロネート;トポイソメラーゼ阻害剤であるRFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えば、レチノイン酸など;カペシタビン(XELODA(登録商標));薬学的に許容される塩、上記のいずれかの酸又は誘導体;並びに上記の2つ以上の組合せ、例えば、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びプレドニゾロンの併用療法の略語であるCHOP、及びオキサリプラチン(ELOXATIN(商標))を5−FU及びロイコボリンと組み合わせて用いる治療レジメンの略語であるFOLFOXなどが挙げられる。
癌の成長を促進し得るホルモンの影響を調節する、低下させる、遮断する、又は阻害するように作用する抗ホルモン剤も化学療法剤のこの定義に包含され、これらは、多くの場合、全身治療(systemic, or whole−body treatment)の形態である。抗ホルモン剤はホルモン自体であってよい。例として、例えば、タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標)タモキシフェンを含む)、EVISTA(登録商標)ラロキシフェン、ドロロキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、及びFARESTON(登録商標)トレミフェンを含めた抗エストロゲン剤及び選択的なエストロゲン受容体モジュレーター(SERM);抗プロゲステロン剤;エストロゲン受容体下方制御因子(ERD);卵巣を抑制する又は活動停止させるように機能する作用剤、例えば、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニスト、例えば、LUPRON(登録商標)及びELIGARD(登録商標)酢酸リュープロリド、酢酸ゴセレリン、酢酸ブセレリン及びトリプトレリンなど;他の抗アンドロゲン薬、例えば、フルタミド、ニルタミド及びビカルタミドなど、並びに副腎におけるエストロゲン産生を調節する、酵素アロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤、例えば、4(5)−イミダゾール、アミノグルテチミド、MEGASE(登録商標)酢酸メゲストロール、AROMASIN(登録商標)エキセメスタン、ホルメスタン、ファドロゾール、RIVISOR(登録商標)ボロゾール、FEMARA(登録商標)レトロゾール、及びARIMIDEX(登録商標)アナストロゾールなどが挙げられる。さらに、そのような化学療法剤の定義は、ビスホスホネート、例えば、クロドロネート(例えば、BONEFOS(登録商標)又はOSTAC(登録商標))、DIDROCAL(登録商標)エチドロネート、NE−58095、ZOMETA(登録商標)ゾレドロン酸/ゾレドロネート、FOSAMAX(登録商標)アレンドロネート、AREDIA(登録商標)パミドロネート、SKELID(登録商標)チルドロネート、又はACTONEL(登録商標)リセドロネートなど;並びにトロキサシタビン(1,3−ジオキソランヌクレオシドシトシン類似体);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に異常な細胞増殖に関係づけられるシグナル伝達経路内の遺伝子の発現を阻害するもの、例えば、PKC−アルファ、Raf、H−Ras、及び上皮増殖因子受容体(EGF−R)など;ワクチン、例えば、THERATOPE(登録商標)ワクチン及び遺伝子療法ワクチン、例えば、ALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、及びVAXID(登録商標)ワクチンなど;LURTOTECAN(登録商標)トポイソメラーゼ1阻害剤;ABARELIX(登録商標)rmRH;ジトシル酸ラパチニブ(GW572016としても公知のErbB−2及びEGFR二重チロシンキナーゼ小分子阻害剤)、及び薬学的に許容される塩、上記のいずれかの酸又は誘導体を包含する。
癌を治療又は予防するための神経薬として選択することができる化合物の別の群は、抗癌免疫グロブリン(これだけに限定されないが、トラスツズマブ、ペルツズマブ、ベバシズマブ、アレムツズマブ、セツキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、イブリツモマブチウキセタン、パニツムマブ及びリツキシマブを含む)である。いくつかの場合には、これだけに限定されないが、トシツモマブと131I放射標識、又はトラスツズマブエムタンシンを含めた、抗体と毒性標識の組み合わせ又はコンジュゲートを使用して、所望の細胞(すなわち、癌細胞)を標的化し、死滅させることができる。
眼の疾患又は障害に対しては、眼科抗血管新生薬(すなわち、ベバシズマブ、ラニビズマブ及びペガプタニブ)、眼科緑内障薬(すなわち、カルバコール、エピネフリン、臭化デメカリウム、アプラクロニジン、ブリモニジン、ブリンゾラミド、レボブノロール、チモロール、ベタキソロール、ドルゾラミド、ビマトプロスト、カルテオロール、メチプラノロール、ジピベフリン、トラボプロスト及びラタノプロスト)、炭酸脱水素酵素阻害剤(すなわち、メタゾラミド及びアセタゾラミド)、眼科抗ヒスタミン薬(すなわち、ナファゾリン、フェニレフリン及びテトラヒドロゾリン)、眼科潤滑剤、眼科ステロイド(すなわち、フルオロメトロン、プレドニゾロン、ロテプレドノール、デキサメタゾン、ジフルプレドナート、リメキソロン、フルオシノロン、メドリゾン及びトリアムシノロン)、眼科麻酔薬(すなわち、リドカイン、プロパラカイン及びテトラカイン)、眼科抗感染薬(すなわち、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、シプロフロキサシン、モキシフロキサシン、クロラムフェニコール、バシトラシン/ポリミキシンb、スルファセタミド、トブラマイシン、アジスロマイシン、ベシフロキサシン、ノルフロキサシン、スルフイソキサゾール、ゲンタマイシン、イドクスウリジン、エリスロマイシン、ナタマイシン、グラミシジン、ネオマイシン、オフロキサシン、トリフルリジン、ガンシクロビル、ビダラビン)、眼科抗炎症薬(すなわち、ネパフェナク、ケトロラク、フルルビプロフェン、スプロフェン、シクロスポリン、トリアムシノロン、ジクロフェナク及びブロムフェナク)、並びに眼科抗ヒスタミン薬又は充血除去薬(すなわち、ケトチフェン、オロパタジン、エピナスチン、ナファゾリン、クロモリン、テトラヒドロゾリン、ペミロラスト、ベポタスチン、ナファゾリン、フェニレフリン、ネドクロミル、ロドキサミド、フェニレフリン、エメダスチン及びアゼラスチン)である神経薬を選択することができる。
発作性障害に対しては、これだけに限定されないが、バルビツール酸系抗痙攣薬(すなわち、プリミドン、メタルビタール、メホバルビタール、アロバルビタール、アモバルビタール、アプロバルビタール、アルフェナール、バルビタール、ブラロバルビタール及びフェノバルビタール)、ベンゾジアゼピン系抗痙攣薬(すなわち、ジアゼパム、クロナゼパム、及びロラゼパム)、カルバミン酸抗痙攣薬(すなわち、フェルバメート)、炭酸脱水素酵素阻害剤である抗痙攣薬(すなわち、アセタゾラミド、トピラマート及びゾニサミド)、ジベンザゼピン抗痙攣薬(すなわち、ルフィナマイド、カルバマゼピン、及びオクスカルバゼピン)、脂肪酸誘導体である抗痙攣薬(すなわち、ジバルプロエクス及びバルプロ酸)、ガンマアミノ酪酸類似体(すなわち、プレガバリン、ガバペンチン及びビガバトリン)、ガンマアミノ酪酸再取り込み阻害薬(すなわち、チアガビン)、ガンマアミノ酪酸トランスアミナーゼ阻害剤(すなわち、ビガバトリン)、ヒダントイン抗痙攣薬(すなわち、フェニトイン、エトトイン、ホスフェニトイン及びメフェニトイン)、種々雑多な抗痙攣薬(すなわち、ラコサミド及び硫酸マグネシウム)、プロゲスチン(すなわち、プロゲステロン)、オキサゾリジンジオン抗痙攣薬(すなわち、パラメタジオン及びトリメタジオン)、ピロリジン抗痙攣薬(すなわち、レベチラセタム)、スクシンイミド 抗痙攣薬(すなわち、エトスクシミド及びメトスクシミド)、トリアジン抗痙攣薬(すなわち、ラモトリジン)、及び尿素抗痙攣薬(すなわち、フェナセミド及びフェネトライド)を含めた、抗痙攣薬又は抗てんかん薬である神経薬を選択することができる。
リソソーム蓄積症に対しては、それ自体が、当該疾患で損なわれる酵素である、又はそうでなければその酵素の活性を模倣する神経薬を選択することができる。リソソーム蓄積症を治療するための例示的な組換え酵素としては、これだけに限定されないが、例えば、米国特許出願公開第2005/0142141号に記載されているもの(すなわち、アルファ−L−イズロニダーゼ、イズロン酸−2−スルファターゼ、N−スルファターゼ、アルファ−N−アセチルグルコサミニダーゼ、N−アセチル−ガラクトサミン−6−スルファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、アリールスルファターゼB、ベータグルクロニダーゼ、酸性アルファ−グルコシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、アルファ−ガラクトシダーゼA、ヘキソサミニダーゼA、酸性スフィンゴミエリナーゼ、ベータ−ガラクトセレブロシダーゼ、ベータガラクトシダーゼ、アリールスルファターゼA、酸性セラミダーゼ、アスパルトアシラーゼ、パルミトイル−タンパク質チオエステラーゼ1及びトリペプチジルアミノペプチダーゼ1)が挙げられる。
アミロイドーシスに対しては、これだけに限定されないが、ベータセクレターゼ、tau、プレセニリン、アミロイド前駆体タンパク質又はその一部、アミロイドベータペプチド又はそのオリゴマー又は原線維、細胞死受容体6(DR6)、終末糖化産物(RAGE)の受容体、パーキン、及びハンチンチンから選択される標的に特異的に結合する抗体又は他の結合性分子(これだけに限定されないが、小分子、ペプチド、アプタマー、又は他の結合性タンパク質(protein binder)を含む);コリンエステラーゼ阻害剤(すなわち、ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン及びタクリン);NMDA受容体アンタゴニスト(すなわち、メマンチン)、モノアミン枯渇薬(すなわち、テトラベナジン);メシル酸エルゴロイド;抗コリン作用薬である抗パーキンソン薬(すなわち、プロシクリジン、ジフェンヒドラミン、トリヘキシルフェニジル(trihexylphenidyl)、ベンズトロピン、ビペリデン及びトリヘキシフェニジル);ドーパミン作動性抗パーキンソン薬(すなわち、エンタカポン、セレギリン、プラミペキソール、ブロモクリプチン、ロチゴチン、セレギリン、ロピニロール、ラサギリン、アポモルヒネ、カルビドパ、レボドパ、ペルゴリド、トルカポン及びアマンタジン);テトラベナジン;抗炎症薬(これだけに限定されないが、非ステロイド性抗炎症薬(すなわち、インドメタシン及び上に列挙されている他の化合物を含む);ホルモン(すなわち、エストロゲン、プロゲステロン及びロイプロリド);ビタミン(すなわち、葉酸及びニコチンアミド);ジメボリン(dimebolin);ホモタウリン(すなわち、3−アミノプロパンスルホン酸;3APS);セロトニン受容体の活性モジュレーター(すなわち、キサリプロデン);インターフェロン、並びにグルココルチコイドを含む神経薬を選択することができる。
ウイルス性疾患又は微生物性疾患に対しては、これだけに限定されないが、抗ウイルス化合物(これだけに限定されないが、アダマンタン抗ウイルス薬(すなわち、リマンタジン及びアマンタジンを含む)、抗ウイルスインターフェロン(すなわち、ペグインターフェロンアルファ−2b)、ケモカイン受容体アンタゴニスト(すなわち、マラビロク)、インテグラーゼ鎖転移阻害剤(integrase strand transfer inhibitor)(すなわち、ラルテグラビル)、ノイラミニダーゼ阻害剤(すなわち、オセルタミビル及びザナミビル)、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(すなわち、エファビレンツ、エトラビリン、デラビルジン及びネビラピン)、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(テノホビル、アバカビル、ラミブジン、ジドブジン、スタブジン、エンテカビル、エムトリシタビン、アデホビル、ザルシタビン、テルビブジン及びジダノシン)、プロテアーゼ阻害剤(すなわち、ダルナビル、アタザナビル、ホスアンプレナビル、チプラナビル、リトナビル、ネルフィナビル、アンプレナビル、インジナビル及びサクイナビル)、プリンヌクレオシド(すなわち、バラシクロビル、ファムシクロビル、アシクロビル、リバビリン、ガンシクロビル、バルガンシクロビル及びシドホビル)、及び種々雑多な抗ウイルス薬(すなわち、エンフビルチド、ホスカルネット、パリビズマブ及びホミビルセン))、抗生物質(これだけに限定されないが、アミノペニシリン系抗生物質(すなわち、アモキシシリン、アンピシリン、オキサシリン、ナフシリン、クロキサシリン、ジクロサキシリン、フルクロキサシリイン、テモシリン、アズロシリン、カルベニシリン、チカルシリン、メズロシリン、ピペラリシン及びバカンピシリン)、セファロスポリン系抗生物質(すなわち、セファゾリン、セファレキシン、セファロチン、セファマンドール、セフトリアキソン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セファドロキシル、セフラジン、ロラカルベフ、セフォテタン、セフロキシム、セフプロジル、セファクロル、及びセフォキシチン)、カルバペネム/ペネム系抗生物質(すなわち、イミペネム、メロペネム、エルタペネム、ファロペネム及びドリペネム)、モノバクタム系抗生物質(すなわち、アズトレオナム、チゲモナム、ノカルジシンA及びタブトキシニン−ベータ−ラクタム、ベータ−ラクタマーゼ阻害剤(すなわち、クラブラン酸、タゾバクタム及びスルバクタム)と別のベータ−ラクタム系抗生物質の組合せ、アミノグリコシド系抗生物質(すなわち、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、及びパロモマイシン)、アンサマイシン系抗生物質(すなわち、ゲルダナマイシン及びハービマイシン)、カルバセフェム系抗生物質(すなわち、ロラカルベフ)、グリコペプチド系抗生物質(すなわち、テイコプラニン及びバンコマイシン)、マクロライド系抗生物質(すなわち、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、テリスロマイシン及びスペクチノマイシン)、モノバクタム系抗生物質(すなわち、アズトレオナム)、キノロン系抗生物質(すなわち、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン及びテマフロキサシン)、スルホンアミド系抗生物質(すなわち、マフェニド、スルホンアミドクリソイジン(sulfonamidochrysoidine)、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファメチゾール、スルファニルアミド、スルファサラジン、スルフイソキサゾール、トリメトプリム及びスルファメトキサゾール)、テトラサイクリン系抗生物質(すなわち、テトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン及びオキシテトラサイクリン)、抗新生物性又は細胞傷害性抗生物質(すなわち、ドキソルビシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、エピルビシン、イダルビシン、プリカマイシン、マイトマイシン、ペントスタチン及びバルルビシン)、並びに種々雑多な抗細菌化合物(すなわち、バシトラシン、コリスチン及びポリミキシンB))、抗真菌薬(すなわち、メトロニダゾール、ニタゾキサニド、チニダゾール、クロロキン、ヨードキノール及びパロモマイシン)、並びに駆虫薬(これだけに限定されないが、キニーネ、クロロキン、アモジアキン、ピリメタミン、スルファドキシン、プログアニル、メフロキン、アトバコン、プリマキン、アーテミシニン、ハロファントリン、ドキシサイクリン、クリンダマイシン、メベンダゾール、パモ酸ピランテル、チアベンダゾール、ジエチルカルバマジン、イベルメクチン、リファンピン、アンホテリシンB、メラルソプロール、エフロルニチン及びアルベンダゾールを含む)を含む神経薬を選択することができる。
虚血に対しては、これだけに限定されないが、血栓溶解薬(すなわち、ウロキナーゼ、アルテプラーゼ、レテプラーゼ及びテネクテプラーゼ)、血小板凝集阻害剤(すなわち、アスピリン、シロスタゾール、クロピドグレル、プラスグレル及びジピリダモール)、スタチン(すなわち、ロバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン及びピタバスタチン)、並びに、例えば、血圧薬を含めた血流又は血管の柔軟性を改善するための化合物を含む神経薬を選択することができる。
行動障害に対しては、神経薬は、これだけに限定されないが、非定型抗精神病薬(すなわち、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピン、パリペリドン、アセナピン、クロザピン、イロペリドン及びジプラシドン)、フェノチアジン系抗精神病薬(すなわち、プロクロルペラジン、クロルプロマジン、フルフェナジン、ペルフェナジン、トリフロペラジン、チオリダジン及びメソリダジン)、チオキサンテン(すなわち、チオチキセン)、種々雑多な抗精神病薬(すなわち、ピモジド、リチウム、モリンドン、ハロペリドール及びロキサピン)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(すなわち、シタロプラム、エスシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン及びセルトラリン)、セロトニンノルエピネフリン再取り込み阻害薬(すなわち、デュロキセチン、ベンラファキシン、デスベンラファキシン、三環系抗うつ薬(すなわち、ドキセピン、クロミプラミン、アモキサピン、ノルトリプチリン、アミトリプチリン、トリミプラミン、イミプラミン、プロトリプチリン及びデシプラミン)、四環系抗うつ薬(すなわち、ミルタザピン及びマプロチリン)、フェニルピペラジン系抗うつ薬(すなわち、トラゾドン及びネファゾドン)、モノアミン酸化酵素阻害薬(すなわち、イソカルボキサジド、フェネルジン、セレギリン及びトラニルシプロミン)、ベンゾジアゼピン系薬(すなわち、アルプラゾラム、エスタゾラム、フルラゼパム、クロナゼパム、ロラゼパム及びジアゼパム)、ノルエピネフリン−ドーパミン再取り込み阻害薬(すなわち、ブプロピオン)、CNS刺激薬(すなわち、フェンテルミン、ジエチルプロピオン、メタンフェタミン、デキストロアンフェタミン、アンフェタミン、メチルフェニデート、デクスメチルフェニデート、リスデキサンフェタミン、モダフィニル、ペモリン、フェンジメトラジン、ベンズフェタミン、フェンジメトラジン、アルモダフィニル、ジエチルプロピオン、カフェイン、アトモキセチン、ドキサプラム、及びマジンドール)、抗不安薬/鎮静薬/睡眠薬(これだけに限定されないが、バルビツール酸系薬(すなわち、セコバルビタール、フェノバルビタール及びメホバルビタール)を含む)、ベンゾジアゼピン系薬(上記の通り)、及び種々雑多な抗不安薬/鎮静薬/睡眠薬(すなわち、ジフェンヒドラミン、ナトリウムオキシベート、ザレプロン、ヒドロキシジン、抱水クロラール、アルピデム、ブスピロン、ドキセピン、エスゾピクロン、ラメルテオン、メプロバメート及びエトクロルビノール))、セクレチン(例えば、Ratliff−SchaubらAutism 9: 256-265 (2005)を参照されたい)、オピオイドペプチド(例えば、Cowenら、J. Neurochem. 89: 273-285 (2004)を参照されたい)、並びに神経ペプチド(例えば、Hethwaら Am. J. Physiol. 289:E301-305 (2005)を参照されたい)を含めた、挙動改変化合物から選択することができる。
CNS炎症に対しては、炎症自体に対処する神経薬(すなわち、非ステロイド系抗炎症薬、例えば、イブプロフェン又はナプロキセンなど)、又は炎症の根本原因を治療する神経薬(すなわち、抗ウイルス薬又は抗癌薬)を選択することができる。
本発明の一実施態様によると、「カップリング」は、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)を生成することによって実現される。多重特異性抗体とは、少なくとも2つの異なる抗原又はエピトープに対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。一実施態様では、多重特異性抗体は、BBB−Rに結合する第1の抗原結合部位と、ベータ−セクレターゼ1(BACE1)又はAbeta、及び本明細書に開示されている他の脳抗原などの脳抗原に結合する第2の抗原結合部位とを含む。
そのような多特異性/二重特異性抗体が結合する例示的な脳抗原はBACE1であり、それに結合する例示的な抗体は本明細書の図9A−BのYW412.8.31抗体である。
別の実施態様では、脳抗原はAbetaであり、そのような抗体の例は、明白に出典明示により本明細書に援用される国際公開第2007068412号、同第2008011348号、同第20080156622号、及び同第2008156621号に記載されており、例示的なAbeta抗体は、それぞれ図11A及び図11Bの重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列を含むIgG4 MABT5102A抗体を含む。
多重特異性抗体を作出するための技法としては、これだけに限定されないが、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の組換え同時発現(Milstein及びCuello、Nature 305: 537 (1983)、国際公開第93/08829号、及びTrauneckerら、EMBO J.10: 3655 (1991)を参照されたい)、並びに「ノブ・イン・ホール(knob−in−hole)」操作(例えば、米国特許5731168号を参照されたい)が挙げられる。多重特異性抗体は、抗体Fc−ヘテロ二量体分子を作出するために静電気的なステアリング作用を操作すること(国際公開第2009/089004A1号);2つ以上の抗体又は断片を架橋させること(例えば、米国特許4676980号、及びBrennanら、Science、229: 81 (1985)を参照されたい);ロイシンジッパーを使用して二重特異性抗体を作製すること(例えば、Kostelnyら、J. Immunol.、148 (5): 1547-1553 (1992)を参照されたい);二重特異性抗体断片を作出するために「ダイアボディ」技術を使用すること(例えば、Hollingerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90: 6444-6448 (1993)を参照されたい);並びに単鎖Fv(sFv)二量体を使用すること(例えばGruberら、J. Immunol.、152: 5368 (1994)を参照されたい);並びに、例えば、Tuttら J. Immunol. 147: 60 (1991)に記載の通り三重特異性抗体を調製することによって作出することもできる。
「オクトパス抗体(Octopus antibody)」又は「二重可変ドメイン免疫グロブリン」(DVD)を含めた、機能的な抗原結合部位を3つ以上有する操作された抗体も本発明に包含される(例えば米国特許出願第2006/0025576A1号、及びWuら Nature Biotechnology (2007)を参照されたい)。
本発明の抗体又は断片は、BBB−R(例えばTfR)に結合する抗原結合部位並びに脳抗原(例えばBACE1)に結合する抗原結合部位を含む「二重作用FAb」又は「DAF」も包含する(例えば、米国特許出願第2008/0069820号を参照されたい)。
一実施態様では、抗体は抗体断片であり、種々のそのような断片は上に開示されている。別の実施態様では、抗体はインタクトな抗体又は全長抗体である。インタクトな抗体は、それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて異なるクラスに割り当てることができる。インタクトな抗体には、5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2にさらに分けることができる。異なるクラスの抗体に対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと称される。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元の立体配置は周知である。一実施態様では、インタクトな抗体はエフェクター機能を欠く。別の実施態様では、インタクトな抗体はエフェクター機能が低下している。
抗体を生成するための技法は公知であり、本明細書の上の定義の節において例が提供されている。一実施態様では、抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体又はその抗原結合性断片である。
抗体とBBB−Rの結合を決定するための種々の技法が利用可能である。そのようなアッセイの1つは、ヒトBBB−R(及び脳抗原)に結合する能力を確認するための酵素連結免疫吸着検定法(ELISA)である。このアッセイによると、抗原(例えば組換えBBB−R)でコーティングしたプレートを抗BBB−R抗体を含む試料と一緒にインキュベートし、抗体と対象の抗原の結合を決定する。
一態様では、本発明の抗体をその抗原結合活性について、例えば、公知の方法、例えば、ELISA、ウエスタンブロットなどによって試験する。
全身投与された抗体の取り込み及び抗体の他の生物活性を評価するためのアッセイを、実施例に開示されている通り、又は対象の抗CNS抗原抗体について公知の通り実施することができる。
ここで、多重特異性抗体をBACE1に結合させる例示的なアッセイについて記載する。
競合アッセイを使用して、本明細書に記載の抗BACE1抗体又はFabのいずれか、例えば、YW412.8、YW412.8.31、YW412.8.30、YW412.8.2、YW412.8.29、YW412.8.51、Fab12、LC6、LC9、LC10とBACE1との結合について競合する抗体を同定することができる。ある特定の実施態様では、そのような競合抗体は、本明細書に記載の抗BACE1抗体又はFab、例えば、YW412.8、YW412.8.31、YW412.8.30、YW412.8.2、YW412.8.29、YW412.8.51、Fab12、LC6、LC9、LC10のいずれかが結合するものと同じエピトープに結合する(例えば、直鎖エピトープ(linear epitope)又は立体構造エピトープ(conformational epitope))。抗体が結合するエピトープをマッピングするための詳細な方法の例はMorris (1996) "Epitope Mapping Protocols," in Method in Molecular Biology 66巻 (Humana Press、Totowa、NJ)において提供される。
例示的な競合アッセイでは、固定化したBACE1を、BACE1(例えば、YW412.8、YW412.8.31、YW412.8.30、YW412.8.2、YW412.8.29、YW412.8.51、Fab12、LC6、LC9、LC10)に結合する第1の標識された抗体、及び第1の抗体とBACE1との結合について競合する能力に関して試験される第2の標識されていない抗体を含む溶液中でインキュベートする。第2の抗体は、ハイブリドーマの上清中に存在してよい。コントロールとして、第1の標識された抗体を含むが第2の標識されていない抗体は含まない溶液中で固定化したBACE1をインキュベートする。第1の抗体がBACE1に結合することが許容される条件下でインキュベートした後、過剰な結合していない抗体を除去し、固定化したBACE1に結びついた標識の量を測定する。固定化したBACE1に結びついた標識の量が、試験試料においてコントロール試料と比較して実質的に低下した場合、これにより、第2の抗体が第1の抗体とBACE1との結合について競合することが示される。Harlow及びLane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual 14章(Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY)を参照されたい。
一態様では、生物活性を有する抗BACE1抗体を同定するアッセイが提供される。生物活性としては、例えば、BACE1アスパルチルプロテアーゼ活性の阻害を挙げることができる。例えば、合成基質ペプチドを使用した均一時間分解蛍光(homogeneous time−resolved fluorescence)HTRFアッセイ若しくはマイクロ流体キャピラリー電気泳動(microfluidic capillary electrophoretic)(MCE)アッセイによって、又はAPPなどのBACE1基質を発現する細胞株においてin vivoで評価される、in vivo及び/又はin vitroにおいてそのような生物活性を有する抗体も提供される。
本発明の抗体(多重特異性抗体を含む)は、任意選択的に、その重鎖及び/又は軽鎖をコードする核酸配列で形質転換した宿主細胞において組換えによって産生される(例えば宿主細胞(一又は複数)が核酸を伴う1つ又は複数のベクターによって形質転換されている)。宿主細胞(一又は複数)は、任意選択的に、哺乳動物の細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
B.医薬製剤
本発明に従って使用される抗体の治療用製剤は、所望の程度の純度を有する抗体を任意選択の薬学的に許容される担体、賦形剤又は安定剤(Remington's Pharmaceutical Sciences 16版、Osol, A.編 (1980))と混合して凍結乾燥製剤又は水溶液の形態にすることにより、保管用に調製される。許容できる担体、賦形剤、又は安定剤は、使用される投与量及び濃度でレシピエントに対して非毒性のものであり、それらとして、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含めた抗酸化剤;防腐剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム(octadecyldimethylbenzyl ammonium chloride)など);塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル若しくはベンジルアルコール;メチルパラベン若しくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール、及びm−クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、若しくはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、若しくはデキストリンを含めた単糖、二糖、及び他の炭水化物;EDTAなどのキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロース若しくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成性対イオン;金属錯体(例えばZn−タンパク質複合体);並びに/又はTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)若しくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性物質が挙げられる。
本発明の製剤は、必要に応じて、任意選択的に、互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有する2種以上の活性化合物も含有してよい。そのような医薬の種類及び有効量は、例えば、製剤中に存在する抗体の量、及び対象の臨床的パラメータに左右される。そのような医薬の例を以下に考察する。
活性成分は、例えば、コアセルベーション技法によって又は界面重合によって調製したマイクロカプセル、例えば、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン−マイクロカプセル及びポリ−(メタクリル酸メチル)マイクロカプセルに包み、それぞれ、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルションにすることもできる。そのような技法は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences 16版、Osol, A.編 (1980)に開示されている。1種又は複数種の治療剤を抗BBB−Rとカップリングしたリポソームに封入することができる(例えば、米国特許出願公開第20020025313号を参照されたい)。
持続放出調製物を調製することができる。適切な持続放出調製物の例としては、抗体を含有する固形疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、マトリックスは造形品、例えばフィルム、又はマイクロカプセルの形態である。持続放出マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリル酸)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(米国特許3773919号)、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタミン酸の共重合体、非分解性エチレン−酢酸ビニル、分解性乳酸−グリコール酸共重合体、例えば、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸共重合体及び酢酸リュープロリドで構成される注射可能なミクロスフェア)など、及びポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
in vivo投与のために使用する製剤は滅菌されていなければならない。これは、滅菌濾過膜を通して濾過することによって容易に実現される。
一実施態様では、製剤は等張性である。
C.抗BBB−R抗体の治療的使用
本発明の抗BBB−R抗体(それを含む多重特異性抗体を含む)は、種々のin vivo方法において利用することができる。例えば、本発明は、治療用化合物を、赤血球集団に対する影響を低下させる又は排除しながら血液脳関門を通して輸送する方法であって、治療用化合物(例えばBBB−Rと脳抗原の両方に結合する多重特異性抗体)とカップリングした抗BBB−R抗体をBBBに曝露し、その結果、抗体により、抗体とカップリングした治療用化合物がBBBを通って輸送されることを含む方法を提供する。別の例では、本発明は、神経性障害薬を血液脳関門を通して輸送する方法であって、脳障害薬(例えばBBB−Rと脳抗原の両方に結合する多重特異性抗体)とカップリングした本発明の抗BBB−R抗体をBBBに曝露し、その結果、抗体により、抗体とカップリングした神経性障害薬がBBBを通って輸送され、赤血球集団に対する影響は低下する又は排除されることを含む方法を提供する。一実施態様では、本発明のBBBは哺乳動物(例えばヒト)、例えば、これだけに限定することなく、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、認知症、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、癌、外傷性脳損傷などを含めた神経性障害を有する哺乳動物(例えばヒト)におけるものである。
一実施態様では、神経性障害は、ニューロパチー、アミロイドーシス、癌(例えばCNS又は脳に関与する)、眼の疾患又は障害、ウイルス又は微生物感染症、炎症(例えばCNS又は脳の炎症)、虚血、神経変性疾患、発作、行動障害、リソソーム蓄積症などから選択される。
ニューロパチー障害は、神経シグナル伝達が不適切である若しくは制御されていない、又はそれを欠くことを特徴とする神経系の疾患又は異常であり、それらとして、これだけに限定されないが、慢性疼痛(侵害受容性疼痛を含む)、癌に関連する疼痛を含めた体組織への傷害によって引き起こされる疼痛、神経因性疼痛(神経、脊髄、又は脳における異常によって引き起こされる疼痛)、及び心因性疼痛(完全に又は大部分が心理学的障害に関連する)、頭痛、片頭痛、ニューロパチー、並びに多くの場合そのようなニューロパチー障害に付随する症状及び症候群、例えば、眩暈又は悪心などが挙げられる。
アミロイドーシスは、これだけに限定されないが、続発性アミロイドーシス、加齢性アミロイドーシス、アルツハイマー病(AD)、軽度認知障害(MCI)、レビー小体型認知症、ダウン症候群、遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型);グアムパーキンソン認知症症候群(Guam Parkinson−Dementia complex)、脳アミロイド血管症、ハンチントン病、進行性核上性麻痺、多発性硬化症;クロイツフェルトヤコブ病、パーキンソン病、伝達性海綿状脳症、HIV関連認知症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、封入体筋炎(IBM)、及びベータ−アミロイド沈着に関する眼の疾患(すなわち、黄斑変性症、ドルーゼン−関連する視神経症、及び白内障)を含めた、CNSにおける細胞外へのタンパク質の沈着に関連する疾患及び障害の一群である。
CNSの癌は、1つ又は複数のCNS細胞(すなわち、神経系細胞)の異常な増殖を特徴とし、それらとして、これだけに限定されないが、神経膠腫、多形神経膠芽腫、髄膜腫、星状細胞腫、聴神経腫、軟骨腫、乏枝神経膠腫、髄芽腫、神経節膠腫、神経鞘腫、神経線維腫、神経芽細胞腫、及び硬膜外腫瘍、髄内腫瘍又は硬膜内腫瘍が挙げられる。
眼の疾患又は障害は、本発明の目的に関して、BBBによって隔離されたCNS臓器と考えられる眼の疾患又は障害である。眼の疾患又は障害としては、これだけに限定されないが、強膜、角膜、虹彩及び毛様体の障害(すなわち、強膜炎、角膜炎、角膜潰瘍、角膜剥離、雪眼炎、アーク眼、タイゲソン点状表層角膜症、角膜血管新生、フックスジストロフィー、円錐角膜、乾性角結膜炎、虹彩炎及びぶどう膜炎)、水晶体の障害(すなわち、白内障)、脈絡膜及び網膜の障害(すなわち、網膜剥離、網膜分離症、高血圧性網膜症、糖尿病性網膜症、網膜症、未熟児網膜症、加齢黄斑変性症、黄斑変性症(滲出型又は萎縮型)、網膜上膜、網膜色素変性症及び黄斑浮腫)、緑内障、飛蚊症、視神経及び視覚路の障害(すなわち、レーベル遺伝性視神経症及び視神経乳頭ドルーゼン)、眼筋/両眼運動/遠近調節/屈折の障害(すなわち、斜視、眼麻痺、進行性外眼筋麻痺、内斜視、外斜視、遠視、近視、乱視、不同視、老視及び眼筋麻痺)、視覚障害及び視覚消失(すなわち、弱視、レーバー先天性黒内障、暗点、色覚異常(color blindness)、色覚異常(achromatopsia)、夜盲症、視覚消失、河川盲目症及び小眼球症/コロボーマ)、赤目、アーガイル・ロバートソン瞳孔、角膜真菌症、眼球乾燥症及び無虹彩症が挙げられる。
CNSのウイルス又は微生物感染症としては、これだけに限定されないが、急性又は慢性であり得る髄膜炎、脳炎、脊髄炎、血管炎及び膿瘍を含めたCNS病態生理を生じる、ウイルス(すなわち、インフルエンザ、HIV、ポリオウイルス、風疹)、細菌(すなわち、ナイセリア属(Neisseria)の種、連鎖球菌属(Streptococcus)の種、シュードモナス属(Pseudomonas)の種、プロテウス属(Proteus)の種、大腸菌(E.coli)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、肺炎球菌(Pneumococcus)の種、髄膜炎菌(Meningococcus)の種、ヘモフィルス属(Haemophilus)の種、及び結核菌(Mycobacterium tuberculosis))、並びに真菌などの他の微生物(すなわち、酵母、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans))、寄生生物(すなわち、トキソプラズマ原虫)又はアメーバによる感染症が挙げられるが、これだけに限定されない。
CNSの炎症としては、これだけに限定されないが、CNSへの傷害によって引き起こされる炎症が挙げられ、傷害は、肉体的傷害(すなわち、事故、外科手術、脳外傷、脊髄損傷、脳震盪に起因するもの)及び1つ又は複数の他のCNSの疾患又は障害(すなわち、膿瘍、癌、ウイルス又は微生物感染症)に起因する又はそれに関連する傷害であり得る。
CNSの虚血とは、本明細書で使用される場合、脳における異常な血流又は血管の挙動に関する障害の一群又はその原因を指し、それらとして、これだけに限定されないが、限局性脳虚血、広範囲の脳虚血、脳卒中(すなわち、くも膜下出血及び脳内出血)、及び動脈瘤が挙げられる。
神経変性疾患は、CNSにおける神経系細胞の機能喪失又は死に関連する疾患及び障害の一群であり、それらとして、これだけに限定されないが、副腎白質ジストロフィー、アレキサンダー病、アルパーズ病、筋萎縮性側索硬化症、毛細血管拡張性運動失調症、バッテン病、コケイン症候群、大脳皮質基底核変性症、アミロイドーシスによって引き起こされる又はそれに付随する変性、フリードライヒ失調症、前頭側頭葉変性症、ケネディ病、多系統萎縮症、多発性硬化症、原発性側索硬化症、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、横断性脊髄炎、レフサム病、及び脊髄小脳失調症が挙げられる。
CNSの発作疾患及び障害はCNSにおける電気伝導が不適切及び/又は異常であることに関連し、それらとしては、これだけに限定されないが、てんかん(すなわち、欠伸発作、脱力発作、良性ローランドてんかん、小児期欠伸てんかん、間代性発作、複雑部分発作、前頭葉てんかん、熱性痙攣、点頭てんかん、若年性ミオクローヌスてんかん、若年性欠伸てんかん、レンノックスガストー症候群、ランドウクレフナー症候群、ドラベ症候群、大田原症候群、ウエスト症候群、ミオクローヌス発作、ミトコンドリア障害、進行性ミオクローヌスてんかん、心因性発作、反射てんかん、ラスムッセン症候群、単純部分発作、二次性全般発作、側頭葉てんかん、強直間代発作、強直性発作、精神運動発作、辺縁系てんかん、部分発症発作、全般発症発作、てんかん重積状態、腹部てんかん、無動発作、自律神経発作、広範両側性ミオクローヌス、月経随伴性てんかん、失立発作、情動発作、焦点発作、笑い発作、ジャクソンマーチ、ラフォラ病、運動発作、多巣性発作、夜間発作、感光性発作、偽発作、感覚発作、微細発作、シルバン発作、離脱発作、及び視覚反射発作)が挙げられる。
行動障害は、患っている対象側の挙動が異常であることを特徴とするCNSの障害であり、それらとして、これだけに限定されないが、睡眠障害(すなわち、不眠症、睡眠時随伴症、夜驚症、概日リズム睡眠障害、及びナルコレプシー)、気分障害(すなわち、うつ病、自殺性うつ病、不安、慢性情動障害、恐怖症、パニック発作、強迫性障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、注意欠陥障害(ADD)、慢性疲労症候群、広場恐怖症、心的外傷後ストレス障害、双極性障害)、摂食障害(すなわち、食欲不振又は過食症)、慢性幻覚精神病、発達行動障害(すなわち、自閉症、レット症候群、アスベルガー症候群)、人格障害及び精神病性障害(すなわち、統合失調症、妄想性障害など)が挙げられる。
リソソーム蓄積症は、いくつかの場合にはCNSに関連する又はCNSに特異的な症状がある代謝障害であり、そのような障害としては、これだけに限定されないが、テイ・サックス病、ゴーシェ病、ファブリー病、ムコ多糖症(I型、II型、III型、IV型、V型、VI型及びVII型)、糖原病、GM1−ガングリオシドーシス、異染性白質ジストロフィー、ファーバー病、カナバン白質ジストロフィー、及び神経セロイドリポフスチン沈着症1型及び2型、ニーマンピック病、ポンペ病、及びクラッベ病が挙げられる。
別の実施態様では、赤血球の不適切な過剰産生に関連する又はそれによって引き起こされる疾患、又は赤血球の過剰産生が疾患の影響であるような疾患を、本発明で理解される、少なくとも部分的なエフェクター機能を保持する抗TfR抗体の網状赤血球枯渇作用によって予防又は治療することができる。例えば、先天性又は新生物性の真性赤血球増加症では、例えば、網状赤血球の過剰増殖に起因して赤血球数が上昇することにより、血液が濃くなり、同時に生理的症状が生じる(d'Onofrioら、Clin. Lab. Haematol. (1996) Suppl. 1:29-34)。少なくとも抗体の部分的なエフェクター機能が保存されている本発明の抗TfR抗体を投与することにより、CNSへの正常なトランスフェリン輸送に影響を及ぼすことなく、未成熟の網状赤血球集団を選択的に除去することが可能になる。そのような抗体の投薬は、当技術分野において十分に理解されている通り、急性臨床症状を最小限にすることができるように調節することができる(すなわち、非常に低用量で又は間隔を広く空けて投薬することによって)。
一態様では、神経性障害を症状が発症する前に検出するために、及び/又は疾患若しくは障害の重症度若しくは持続時間を評価するために本発明の抗体を使用する。一態様では、抗体により、X線撮影法、断層撮影法、又は磁気共鳴画像法(MRI)によるイメージングを含めた、神経性障害の検出及び/又はイメージングが可能になる。
一態様では、医薬として使用するための本発明の低親和性抗BBB−R抗体が提供される。別の態様では、神経性の疾患又は障害(例えば、アルツハイマー病)を、赤血球(すなわち、網状赤血球)を枯渇させることなく治療することにおいて使用するための低親和性抗BBB−R抗体が提供される。ある特定の実施態様では、本明細書に記載の治療方法において使用するための改変された低親和性抗BBB−R抗体が提供される。ある特定の実施態様では、本発明は、神経性の疾患又は障害を有する個体を治療する方法であって、個体に有効量の抗BBB−R抗体(任意選択的に、神経性障害薬とカップリングした)を投与することを含む方法において使用するための安全性が改善されるように改変された低親和性抗BBB−R抗体を提供する。そのような実施態様の1つでは、方法は、個体に少なくとも1種の追加的な治療剤を有効量で投与することをさらに含む。さらなる実施態様では、本発明は、神経性の疾患又は障害(例えば、アルツハイマー病)のリスクがある又はそれに罹患している患者におけるアミロイド斑の形成を減少させる又は阻害することにおいて使用するための安全性が改善されるように改変された抗BBB−R抗体を提供する。上記の実施態様のいずれかによる「個体」は、任意選択的にヒトである。ある特定の態様では、本発明の方法において使用するための本発明の抗BBB−R抗体により、抗体とカップリングした神経性障害薬の取り込みが改善される。
別の態様では、本発明は、医薬の製造又は調製における、本発明の低親和性抗BBB−R抗体の使用を提供する。一実施態様では、医薬は、神経性の疾患又は障害を治療するためのものである。さらなる実施態様では、医薬は、神経性の疾患又は障害を治療する方法であって、神経性の疾患又は障害を有する個体に有効量の医薬を投与することを含む方法において使用するためのものである。そのような実施態様の1つでは、方法は、個体に少なくとも1種の追加的な治療剤を有効量で投与することをさらに含む。
別の態様では、本発明は、アルツハイマー病を治療するための方法を提供する。一実施態様では、方法は、アルツハイマー病を有する個体に、BACE1とTfRの両方又はAbetaとTfRの両方に結合する本発明の多重特異性抗体を有効量で投与することを含む。そのような実施態様の1つでは、方法は、個体に少なくとも1種の追加的な治療剤を有効量で投与することをさらに含む。上記の実施態様のいずれかによる「個体」はヒトであってよい。
本発明の抗BBB−R抗体は、療法において、単独で、又は他の作用剤と組み合わせてのいずれかで使用することができる。例えば、本発明の抗BBB−R抗体は、少なくとも1種の追加的な治療剤と同時投与することができる。ある特定の実施態様では、追加的な治療剤は、治療のために使用される抗BBB−R抗体と同じ又は異なる神経性障害を治療するために有効な治療剤である。追加的な治療剤の例としては、これだけに限定されないが、上記の種々の神経薬、コリンエステラーゼ阻害剤(例えば、ドネペジル、ガランラミン、リバスチグミン、及びタクリンなど)、NMDA受容体アンタゴニスト(例えば、メマンチンなど)、アミロイドベータペプチド凝集阻害剤、抗酸化剤、γ−セクレターゼモジュレーター、神経増殖因子(NGF)模倣物又はNGF遺伝子療法薬、PPARγアゴニスト、HMS−CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン)、アンパキン、カルシウムチャネル遮断薬、GABA受容体アンタゴニスト、グリコーゲンシンターゼキナーゼ阻害剤、静脈内注射用免疫グロブリン、ムスカリン性受容体アゴニスト、ニコチン受容体モジュレーター、能動的又は受動的アミロイドベータペプチド免疫薬、ホスホジエステラーゼ阻害剤、セロトニン受容体アンタゴニスト及び抗アミロイドベータペプチド抗体が挙げられる。ある特定の実施態様では、少なくとも1種の追加的な治療剤を神経薬の1つ又は複数の副作用を軽減する能力に関して選択する。
本明細書において例示されている通り、ある特定の抗BBB−R抗体は、抗BBB−R抗体を用いて治療される対象における網状赤血球集団に負の影響を及ぼす副作用を有し得る。したがって、ある特定の実施態様では、そのような網状赤血球集団に対する負の副作用を軽減する能力に関して選択された少なくとも1種の別の治療剤を本発明の抗BBB−R抗体と同時投与する。そのような治療剤の例としては、これだけに限定されないが、赤血球(すなわち、網状赤血球)集団を増加させるための作用剤、赤血球(すなわち、網状赤血球)の成長及び発生を支持するための作用剤、及び赤血球集団を抗BBB−R抗体の影響から保護するための作用剤が挙げられ、そのような作用剤としては、これだけに限定されないが、エリスロポエチン(EPO)、鉄補給剤、ビタミンC、葉酸、及びビタミンB12、並びに、例えば、同様の血液型の別の個体由来であってもよく、抗BBB−R抗体を投与する対象から予め抽出したものであってもよい同様の細胞を用いて輸血することによる赤血球(すなわち、網状赤血球)の物理的交換が挙げられる。いくつかの場合には、現存する赤血球(すなわち、網状赤血球)を保護することが意図された作用剤は、抗BBB−R抗体療法の前に又はそれと同時に対象に投与されることが好ましいが、一方、赤血球又は血液細胞集団(すなわち、網状赤血球又は網状赤血球集団)の再成長/発生を支持する又は開始させることが意図された作用剤は、そのような血液細胞を抗BBB−R抗体による治療の後に補給することができるように、抗BBB−R抗体療法と同時に又はその後に投与されることが好ましいことが当業者には理解されよう。
ある特定の他のそのような実施態様では、少なくとも1種の別の治療剤を、抗BBB−R抗体を投与した際の補体経路の活性化を阻害又は防止する能力に関して選択する。そのような治療剤の例としては、これだけに限定されないが、抗BBB−R抗体の補体経路に結合する又はそれを活性化する能力に干渉する作用剤、及び補体経路内の1つ又は複数の分子相互作用を阻害する作用剤が挙げられ、一般に、その内容が出典明示により明白に本明細書に援用されるMollnes及びKirschfink (2006) Molec. Immunol. 43: 107-121に記載されている。
上記のそのような併用療法は、併用投与(同じ又は別々の製剤中に2種以上の治療剤が含まれる)及び個別投与を包含し、その場合、本発明の抗体の投与は、追加的な治療剤及び/又はアジュバントを投与する前に、それと同時に、及び/又はその後に行われてよい。本発明の抗体は、例えば、これだけに限定されないが、放射線療法、行動療法、又は当技術分野で公知であり、治療又は予防される神経性障害に適した他の療法などの他の介入的療法と組合せて使用することもできる。
本発明の抗BBB−R抗体(及び任意の追加的な治療剤)は、非経口投与、肺内投与、及び鼻腔内投与、並びに、局所的な治療のために望ましい場合には病巣内投与を含めた任意の適切な手段によって投与することができる。非経口注入としては、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、又は皮下投与が挙げられる。投薬は、ある程度は投与が短期であるか又は慢性的であるかに応じて、任意の適切な経路によるもの、例えば、静脈内注射又は皮下注射などの注射によるものであってよい。これだけに限定されないが、種々の時点にわたる単回投与又は多数回投与、ボーラス投与、及びパルス注入を含めた種々の投薬スケジュールが本発明において意図されている。
本発明の抗体は、適正医療規範に適合するように製剤化され、用量決定され、投与される。この場合の考察の因子としては、特定の治療されている障害、治療されている特定の哺乳動物、個々の患者の臨床的状態、障害の原因、作用剤の送達部位、投与方法、投与のスケジュール、及び医療実践者に公知の他の因子が挙げられる。抗体は、必ずしもではないが、任意選択的に、問題の障害を予防若しくは治療するために、又は抗体投与の1つ又は複数の副作用を予防する、軽減する若しくは好転させるために現在使用されている1つ又は複数の作用剤と一緒に製剤化される。そのような他の作用剤の有効量は、製剤中に存在する抗体の量、障害又は治療の種類、及び上記の他の因子に左右される。これらは、一般に、本明細書に記載のものと同じ投与量及び投与経路を用いて、又は本明細書に記載の投与量の約1%から99%までの投与量で、又は、適切であることが経験的/臨床的に決定される任意の投与量及び任意の経路によって使用される。
疾患を予防又は治療するために、本発明の抗体の適切な投与量(単独で、又は1種又は複数種の他の追加的な治療剤と組み合わせて使用する場合)は、治療される疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、抗体を予防目的で投与するのか治療目的で投与するのか、以前の療法、患者の臨床的病歴及び抗体に対する応答、並びに主治医の自由裁量に左右される。抗体は、1回で又は一連の治療にわたって患者に投与することが適切である。疾患の種類及び重症度に応じて、例えば、1回又は複数回の別々の投与によるものであっても継続的な注入によるものであっても、患者に投与するための最初の候補投与量は約1μg/kg−15mg/kg(例えば0.1mg/kg−10mg/kg)の抗体であってよい。1つの典型的な毎日の投与量は、上記の因子に応じて、約1μg/kg−100mg/kg以上にわたり得る。数日以上にわたる反復投与に関しては、状態に応じて、一般に、疾患の症状の所望の抑制が起こるまで治療を持続させる。抗体の投与量の一例は約0.05mg/kgから約10mg/kgまでの範囲になる。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg又は10mg/kgの1つ又は複数の用量(又はそれらの任意の組合せ)を患者に投与することができる。そのような用量は、断続的に、例えば1週間ごと又は3週間ごとに投与することができる(例えば、患者が約2用量−約20用量、又は例えば約6用量の抗体を受けることになるように)。最初に高負荷用量、続いて1つ又は複数のより低い用量を投与することができる。しかし、他の投薬レジメンが有用であり得る。抗TfR抗体を投与することによる網状赤血球集団に対する影響を減少させるための1つの方法は、投薬の量又はタイミングを、網状赤血球と相互作用する、血流中に存在する循環している抗体の分量が全体的に低くなるように改変することであることが理解されよう。非限定的な一例では、低用量の抗TfR抗体を、高用量の場合よりも高い頻度で投与することができる。使用される投与量は、CNSに送達することが必要な抗体の量(それ自体が抗体のCNS抗原特異的部分の親和性に関連する)、その抗体のTfRに対する親和性、並びに、赤血球(すなわち、網状赤血球)を保護する化合物(一又は複数)、成長及び発生を刺激する化合物(一又は複数)、又は補体経路を阻害する化合物(一又は複数)を抗体と一緒に又は段階的に投与するかどうかの間で平衡させることができる。この療法の進行は、本明細書に記載され当技術分野で公知の従来の技法及びアッセイによって容易にモニターされる。
上記の製剤又は治療方法はいずれも、抗BBB−R抗体の代わりに又はそれに加えて、本発明の免疫コンジュゲートを使用して行うことができることが理解される。
D.製造品
本発明の別の態様では、上記の障害を治療、予防及び/又は診断するために有用な材料を含有する製造品が提供される。製造品は、容器及び容器上の又は容器に付随するラベル又は添付文書を含む。適切な容器としては、例えば、ビン、バイアル、シリンジ、IV用溶液バッグなどが挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチックなどの種々の材料から形成されていてよい。容器には、組成物が単独で又は状態を治療、予防及び/又は診断するために有効な別の組成物と組み合わせて保持されており、及び滅菌アクセスポートがあってよい(例えば、容器は、皮下注射針で穴をあけることができる静脈内注射用溶液バッグ又は止め栓を有するバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも1種の活性薬剤は本発明の抗体である。ラベル又は添付文書には、組成物が選択された状態の治療に使用するためのものであることが示されている。さらに、製造品は、(a)本発明の抗体を含む組成物が含有される第1の容器と、(b)別の細胞傷害性剤又は他の点での治療剤を含む組成物が含有される第2の容器とを含んでよい。本発明のこの実施態様では、製造品は、組成物を、特定の状態の治療に使用することができることが示された添付文書をさらに含んでよい。その代わりに又はそれに加えて、製造品は、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンゲル液及びブドウ糖溶液などの薬学的に許容される緩衝液を含む第2の(又は第3の)容器をさらに含んでよい。製造品は、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジを含めた商業的観点及び使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含んでよい。
上記の製造品はいずれも、抗BBB−R抗体の代わりに又はそれに加えて、本発明の免疫コンジュゲートを含んでよいことが理解される。
製造品は、任意選択的に、対象における神経性障害を治療するための説明書を伴う添付文書をさらに含み、説明書には、本明細書に開示されている抗体を用いた治療により神経性障害が治療されることが示されており、及び任意選択的に、抗体のBBBを通る取り込みが、BBB−Rに対するその親和性が低いことに起因して改善されていることが示されている。
実施例1
低親和性抗TfR抗体の生成及び特徴付け
この分野では、トランスフェリン受容体(TfR)の、トランスフェリンを血液脳関門(BBB)を通して輸送する天然の能力を活用して、異種分子を血流から脳内に輸送することができることが理解されている(例えば、国際公開第9502421号を参照されたい)。出願人らは、この系に対する重要な改変、すなわち、抗トランスフェリン受容体抗体(抗TfR)とコンジュゲートした異種分子の脳内への輸送及び脳内での保持が、特定の範囲内で抗TfRのトランスフェリン受容体に対する親和性を低下させることによって実質的に増強されることを以前に開発した(Sci. Transl. Med. 3、84ra43 (2011))。
マウスTfRに対する親和性を次第に低下させた抗TfR抗体のパネルを生成し、そのうちの3つ(抗TfR
A、抗TfR
D、及び抗TfR
Eと称される)を、BACE1に特異的な他の抗体腕を用いて二重特異性形式にさらに改変した。単一特異性抗体及び二重特異性抗体をそれぞれ、競合ELISAアッセイにおいてマウスTfRに対するその親和性について評価した。簡単に述べると、アッセイを、PBS中2.5μg/mlの、ヘキサヒスチジンタグを用いてタグを付けた精製muTfR(muTfR−His)でコーティングしたmaxisorpプレート(Neptune、N. J)において、4℃で一晩実施した。プレートをPBS/0.05%のTween20で洗浄し、PBS中Superblockブロッキング緩衝液(Thermo Scientific、Hudson、NH)を使用してブロッキングした。1:3の段階的に力価を決定した二価IgG(抗TfR
A、抗TfR
D、抗TfR
E)又は二重特異性Ab(抗TfR
A/BACE1、抗TfR
D/BACE1、又は抗TfR
E/BACE1)を1nMのビオチン化抗TfR
Aと合わせ、プレートに加え、室温で1時間置いた。プレートをPBS/0.05%のTween20で洗浄し、HRP−ストレプトアビジン(SouthernBiotech、Birmingham)をプレートに加え、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS/0.05%のTween20で洗浄し、TMB基質(BioFX Laboratories、Owings Mills)を使用してプレートに結合したビオチン化抗TfR
Aを検出した(図1A)。アッセイにおいて単一特異性抗体又は二重特異性抗体それぞれとマウスTfRの結合について観察されたIC50値が表2に示されている。
マウスにおける単回投与後の抗体の分配を以下の通り実施した。全ての試験に6〜8週齢の野生型雌C57B/6マウスを使用した。動物の世話は施設のガイドラインに従った。マウスに、コントロールIgG、抗BACE1又は抗TfR/BACE1バリアントのいずれかを50mg/kgで静脈内注射した。総注射体積は250μLを越えず、必要な場合には抗体をD−PBS(Invitrogen)中に希釈した。示されている時間の後、マウスにおいてD−PBSを毎分2mLの速度で用いて8分間灌流を行った。脳を抽出し、皮質及び海馬を単離し、Complete Mini EDTA−free protease inhibitor cocktail tablet(Roche Diagnostics)を含有するPBS中1%NP−40(Cal−Biochem)中にホモジナイズした。ホモジナイズした脳試料を4℃で1時間回転させた後に、14,000rpmで20分高速回転させた。脳抗体を測定するために上清を単離した。全血を採取した後に、EDTA microtainer tube(BD Diagnostics)中に灌流し、室温で30分静置し、5000×gで10分、遠心沈澱を行った。抗体及びマウスAβ1−40を測定するために血漿の上層を新しいチューブに移した。
マウスの血漿試料中及び脳試料中の全抗体濃度を、抗huFc/抗huFc ELISAを使用して測定した。NUNC 384−well Maxisorp immunoplates(Neptune、NJ)を、Fc断片特異的ポリクローナル抗体であるロバ抗ヒトIgGのF(ab’)2断片(Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA)を用いて4℃で一晩コーティングした。プレートを、PBS、0.5%BSAを用いて25℃で1時間ブロッキングした。各抗体(コントロールIgG、抗BACE1、及び抗TfR/BACE1二重特異性バリアント)をそれぞれの抗体濃度を数量化するための標準物質として使用した。プレートを、マイクロプレートウォッシャー(Bio−Tek Instruments、Inc.、Winooski、VT)を使用してPBS、0.05%Tween−20で洗浄し、標準物質及び試料を、0.5%BSA、0.35MのNaCl、0.25%CHAPS、5mMのEDTA、0.05%Tween−20を含有するPBS中に希釈し、15ppmのProclin(登録商標)(Sigma−Aldrich)を加え、25℃で2時間置いた。結合した抗体を、Fc特異的ポリクローナル抗体である、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたF(ab’)2ヤギ抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch)を用いて検出した。3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)(KPL、Inc.、Gaithersburg、MD)を使用して試料を展開し、Multiskan Ascent reader(Thermo Scientific、Hudson、NH)で450nmにおける吸収を測定した。4パラメータ非線形回帰プログラムを使用して標準曲線から濃度を決定した。アッセイの数量化の下限(LLOQ)値は血清では3.12ng/mlであり、脳では12.81ng/gであった。実験群間の差異の統計解析を、対応のない両側t検定を使用して実施した。
結果が図1B及び図1Dに示されている。コントロールIgGと抗BACE1抗体のどちらも、10日間の測定期間にわたって持続した脳への取り込みは限定されたものであったが、それらの血漿中濃度は、経時的な段階的クリアランスにもかかわらず、全ての時点において、試験した分子のいずれよりも高かった。評価した3種の抗TfR/BACE1バリアントの中で、抗TfRA/BACE1及び抗TfRD/BACE1の両方で、投薬後1日目に脳において35nMから40nMまでの濃度が示された(コントロールIgGよりも7−8倍高い;図1D)。しかし、脳内の抗TfRA/BACE1の濃度は2日目の後に急速に低下し、6日目までにコントロールレベルに戻った。抗TfRD/BACE1は抗TfRA/BACE1よりも長く脳内に存続し、脳内濃度はよりゆるやかに低下したが、10日目までに、濃度はコントロールの濃度と一致した。抗TfRE/BACE1ははるかに穏やかに脳に進入したが(コントロールの2−3倍)、その後の数日にわたる低下は他の2種の抗体バリアントの低下よりもかなり低かった。3種の抗体バリアント全ての血漿中レベルが経時的に低下した(図1B)。抗TfRA/BACE1は4日目までに血漿から完全になくなったが、抗TfRD/BACE1は10日目までに十分になくなり、抗TfRE/BACE1は、血漿中にコントロールIgG又は抗BACE1のレベルに匹敵するレベルでなお存続した。
総合すると、これらの所見は、使用した抗体のうち親和性が最も高いもの(抗TfRA/BACE1)が最も急速に脳からなくなり、使用した抗体のうち親和性が最も低いもの(抗TfRE/BACE1)が最も長く脳内に存続したので、抗体のTFRに対する親和性を低下させることにより脳におけるその保持が実際に改善されるという以前の発見と一致した。しかし、脳内に経時的に輸送された抗TfRD/BACE1の総量は、脳内に経時的に輸送された抗TfRE/BACE1の総量をはるかに超え、これにより、BBBを通した輸送と脳内での存続の両方を最大にするためには抗TfRD/BACE1及び抗TfRE/BACE1の親和性が最適であることが示唆されることもデータから明らかであった。
脳内に及び血漿中に輸送された分子の存在及び存続は、潜在的な有効性の尺度の1つにすぎず、それらの区画内の分子の活性がさらに興味深い。したがって、両方の区画内のBACE1酵素活性を、Aβ1−40(アミロイド前駆体タンパク質(APP)に対するBACE1酵素活性による切断の副生成物)の量を測定することによって評価した。簡単に述べると、上記の通り野生型マウスにおいて抗体による処置及び灌流を実施した。Aβ1−40測定値については、半脳(hemi−brain)を5Mの塩酸グアニジン緩衝液中にホモジナイズし、試料を室温で3時間回転させた後に、新鮮に添加したアプロチニン(20mg/mL)及びロイペプチン(10mg/mL)を含有するPBS中0.25%カゼイン、5mMのEDTA(pH8.0)中に希釈した(1:10)。希釈したホモジネートを14,000rpmで20分高速回転させ、Aβ1−40を測定するために上清を単離した。血漿を上記の通り調製した。血漿中及び脳内の総マウスAβ1−40の濃度を、サンドイッチELISAを使用し、上記のものと同様の手順に従って決定した。Aβ1−40測定用の半脳を1%NP−40(Cal−Biochem)中にホモジナイズし、室温で1時間回転させた後に、14,000rpmで20分高速回転させた。Aβ1−40のC末端に特異的なウサギポリクローナル抗体(Millipore、Bedford、MA)をプレート上にコーティングし、ビオチン化抗マウスAβモノクローナル抗体M3.2(Covance、Dedham、MA)を検出のために使用した。アッセイのLLOQ値は、血漿では1.96pg/mlであり、脳では39.1pg/gであった。実験群間の差異の統計解析を、対応のない両側t検定を使用して実施した。
血漿及び脳についての結果がそれぞれ図1C及び図1Eに示されており、これは、示されている時間において各区画内に存在する抗体の量と一致する(図1B及び図1Dを参照されたい)。重要なことに、脳において経時的に観察されたAβ1−40の量は、抗TfRD/BACE1で処置したマウスにおいて最長の期間にわたって最低であった。
実施例2A
抗TfR投薬の網状赤血球に対する影響
予想外に、マウスを単一特異性の抗TfR
A又は抗TfR
Dで処置すると、1mg/kg以上の全ての用量レベルで、二重特異性の抗TfR
A/BACE1又は抗TfR
D/BACE1で処置したマウスでは観察されなかった普通でない急性の臨床徴候が観察された(表3参照)。
特に、単一特異性で処置したマウスでは、処置の5分以内に投薬後嗜眠が示され、マウスは動かなくなり、反応しなくなり(いくつかの動物では時々、痙攣性の動きがあった)、その後、投薬の20−25分後までにだらしなく、体を丸めた外観が生じた。そのような観察された影響は処置後数時間のうちに消滅した。ある特定の単一特異性抗体で処置したマウスでは、時々の血尿、並びに投与の1時間後に末端心臓血液採取が二重特異性で処置した動物からの採取と比較して難しかったことに基づいて、明らかな低血圧があると思われた。マウスの未成熟の赤血球では末梢血流中に存在するためにTfRが発現されることが公知であり(図2A参照)、マウスにおいて観察された影響は、そのような血液細胞が傷害を受けたとすると説明することができるので、マウスにおいて未成熟の赤血球(網状赤血球)に対する抗体による処置の影響を調査した。
マウスに、実施例1に記載のものと同じ手順を使用して、抗TfRD又は抗TfRD/BACE1を1mg/kg、5mg/kg、又は50mg/kgで単回静脈内注射した、又はコントロールIgGを50mg/kgで単回静脈内注射し、投与の1時間後に全血試料を取得し、カリウム−EDTAを含有する採取管に入れた。これらの血液試料に関して、Sysmex XT2000iV(Sysmex、Kobe、Japan)を製造者の説明書に従って使用して赤血球及び網状赤血球の数及び指標を決定した。簡単に述べると、Sysmexにより、総網状赤血球並びに未成熟の網状赤血球の画分(蛍光が高い及び中央/中間の網状赤血球の合計)を、蛍光ポリメチン色素を使用して細胞内RNAと結合させ、生じた細胞光散乱特性を測定するフローサイトメトリーによって検出し、分類する。
投薬1時間後に、抗TfRDにより、試験した全ての用量レベルで、未成熟の網状赤血球レベルが用量にかかわらずほぼ同じ程度に低下した。各抗TfRD投与量群で処置したマウスは、同様の重症度及び浸透度の急性臨床徴候も示した(図2参照B)。対照的に、1mg/kgの抗TfRD/BACE1で処置したマウス由来の血液試料と5mg/kgの抗TfRD/BACE1で処置したマウス由来の血液試料は、コントロールIgGで処置した試料のものと同様の未成熟の網状赤血球の画分を有した。50mg/kgの抗TfRD/BACE1で処置したマウスは、網状赤血球の顕著な低下を示したが(コントロール量の約50%)(図2B)、この低下にはいかなる急性臨床徴候も伴わなかった。したがって、二重特異性抗TfRDを含有する抗体の網状赤血球レベルに対する影響は、単一特異性抗TfRDの影響よりも小さく、急性の有害な臨床徴候は引き出されなかった。
TfRに対する親和性が異なる第2の二重特異性抗体を含めて実験を繰り返した。マウスに、実施例1に記載のものと同じ手順を使用して、抗TfRA/BACE1又は抗TfRD/BACE1を5mg/kg、25mg/kg又は50mg/kgで単回静脈内注射した、又はコントロールIgGを50mg/kgで単回静脈内注射し、投薬の24時間後及び7日後に血液試料を取得した。全血中の網状赤血球数を上記の通り測定した。図2Cに結果が示されている。投薬の24時間後に、抗TfRA/BACE1で処置したマウス試料の全てで、同様の総網状赤血球数の顕著な減少が示された。25mg/kgの抗TfRD/BACE1で処置した試料及び50mg/kgの抗TfRD/BACE1で処置した試料では、抗TfRA/BACE1で処置した試料と同様に少ない網状赤血球数が示された。しかし、5mg/kgの抗TfRD/BACE1で処置した試料で示された網状赤血球数の減少は、投薬の24時間後にIgGコントロール試料と比較してそれほど大きくなかった。投薬の7日後までに、全群で正常なレベルの網状赤血球が示され(図2C)、これにより、コントロール量と比較して網状赤血球レベルの持続的な低下が示された(およそ50%)50mg/kgの抗TfRD/BACE1試料を例外として、最初の網状赤血球枯渇から回復したことが示唆された。したがって、最も低い試験用量の抗TfRD/BACE1のみは網状赤血球に対して中程度の影響を有したが、他の試験用量の全てでは、投薬の24時間後に網状赤血球のほぼ完全な喪失が導かれ、これにより、抗体の親和性を低下させること(抗TfRAに対して抗TfRD)及び用量を低下させることにより、網状赤血球の喪失に関連する安全性に関する懸念が弱まることが示された。しかし、投薬の7日後までに、最も高い用量の抗TfRD/BACE1のみは網状赤血球レベルに対していかなる測定可能な影響も有さなかったが、試験した他の用量の全てでは、網状赤血球数がIgGコントロールマウスのレベルと同様のレベルまで回復した。特に、投薬の7日後における抗体のTfRに対する絶対的な親和性は、より長い時点についての血流内での抗体の存続ほど重要ではなかった。抗TfRA/BACE1のTfRに対する親和性がはるかに高いにもかかわらず(表A)、高用量の抗TfRA/BACE1で処置したマウスでは、7日目までに赤血球数の回復が示され、これは、この抗体の循環からのクリアランスが抗TfRD/BACE1と比較して速いことと対応した(実施例1、図1Bにおいて見られる通り)。
網状赤血球枯渇において用量反応が観察されたので、種々の用量レベルと、脳内のAbetaを低下させる関連する能力を相関させることが可能かどうかを決定するために実験を実施した。簡単に述べると、全ての試験に6−8週齢の野生型雌C57B/6マウスを使用した。マウスに、コントロールIgG、又は抗TfR/BACE1のいずれかを50mg/kgで静脈内注射した。総注射体積は250μLを越えず、必要な場合には抗体をD−PBS(Invitrogen)中に希釈した。示されている時間の後、マウスにおいてD−PBSを毎分2mLの速度で用いて8分間灌流を行った。脳を抽出し、皮質及び海馬を単離し、Complete Mini EDTA−free protease inhibitor cocktail tablet(Roche Doagnostics)を含有するPBS中1%NP−40(Cal−Biochem)中にホモジナイズした。ホモジナイズした脳試料を4℃で1時間回転させた後に、14,000rpmで20分高速回転させた。脳抗体を測定するために上清を単離した。全血を採取した後に、EDTA microtainer tube(BD Diagnostics)中に灌流し、室温で30分置き、5000×gで10分、遠心沈澱を行った。抗体及びマウスAbeta1−40を測定するために血漿の上層を新しいチューブに移した。
マウスの血漿試料中及び脳試料中の全抗体濃度を、抗Fc/抗huFc ELISAを使用して測定した。NUNC 384well Maxisorp immunoplates(Neptune、NJ)を、Fc断片特異的ポリクローナル抗体であるロバ抗ヒトIgGのF(ab’)2断片(Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA)を用いて4℃で一晩コーティングした。プレートを、PBS、0.5%BSAを用いて25℃で1時間ブロッキングした。各抗体をそれぞれの抗体濃度を数量化するための標準物質として使用した。プレートを、マイクロプレートウォッシャー(Bio−Tek Instruments Inc.、Winooski、VT)を使用してPBS、0.05%Tween−20で洗浄し、標準物質及び試料を、0.5%BSA、0.35MのNaCl、0.25%CHAPS、5mMのEDTA、0.05%Tween−20を含有するPBS中に希釈し、15ppmのProclinを加えて25℃で2時間置いた。結合した抗体を、Fc特異的ポリクローナル抗体である、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたF(ab’)2ヤギ抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch)を用いて検出し、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)(KPL、Inc.、Gaithersburg、MD)で展開し、Multiskan Ascent reader(Thermo Scientific、Hudson、NH)で450nmにおける吸収を測定した。4パラメータ非線形回帰プログラムを使用して標準曲線から濃度を決定した。アッセイの数量化の下限(LLOQ)値は血清では3.12ng/mlであり、脳では12.81ng/gであった。実験群間の差異の統計解析を、対応のない両側t検定を使用して実施した。
脳内及び血漿中のAbeta1−40も検出した。簡単に述べると、マウスを、抗体で処置し、上記の方法に従って灌流を行った。Abeta1−40を測定するために、半脳を5Mの塩酸グアニジン緩衝液中にホモジナイズし、試料を室温で3時間回転させた後に、新鮮に添加したアプロチニン(20mg/mL)及びロイペプチン(10mg/ml)を含有するPBS中0.25%カゼイン、5mMのEDTA(pH8.0)中に希釈した(1:10)。希釈したホモジネートを14,000rpmで20分高速回転させ、Abeta1−40を測定するために上清を単離した。血漿を上記の通り調製した。血漿中及び脳内の総マウスAbeta1−40濃度を、サンドイッチELISAを使用し、上記のものと同様の手順に従って決定した。Abeta1−40のC末端に特異的なウサギポリクローナル抗体(Millipore、Bedford、MA)をプレート上にコーティングし、ビオチン化抗マウスAbetaモノクローナル抗体M3.2(Covance、Dedham、MA)を検出のために使用した。アッセイのLLOQ値は血漿では1.96pg/mlであり、脳では39.1pg/gであった。実験群間の差異の統計解析を、対応のない両側t検定を使用して実施した。
抗TfRD/BACE1については、25mg/kgと50mg/kgのどちらの用量レベルにおいても脳内Abetaのロバスト及び持続的な減少が観察されたが(図2D)、抗TfRA/BACE1では、3つの用量レベル全てにおいて脳内Abetaのロバストであるが急性の減少が示された(図2E)。これらのデータは、末梢及び脳のどちらで観察された化合物の薬物動態とも一致した(図2F−2H)。これらのデータから、これらの試験では、25mg/kgの投与量レベルの抗TfRD/BACE1が、脳内Abetaレベルを有意に低下させるために十分であることが明らかになった。
抗TfR抗体種による網状赤血球枯渇は、エフェクター機能/抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)、補体依存性細胞毒性(CDC)、直接標的媒介性溶解/アポトーシス、及び/又はマクロファージによるオプソニン化網状赤血球の食作用を含めた種々の異なる天然のプロセスに起因し得る。抗TfR抗体を投与した後に観察された網状赤血球枯渇に関与する機構をよりよく理解するために、一連の実験を行った。
実施例2B
エフェクター機能を調節することの影響
TfRに対する親和性及び結合価が異なることに加えて、前述の実験で使用した単一特異性抗TfR抗体及び二重特異性抗TfR抗体は、それらのエフェクター機能の程度も異なった。単一特異性抗TfR抗体は、CHO細胞において産生させたものであり、哺乳動物型のグリコシル化及び野生型エフェクター機能を有した。二重特異性抗TfR/BACE1抗体は、当技術分野で周知の以下の方法の1つ又は複数を使用してFcγ受容体と相互作用する能力を著しく低下させた又は排除したものである:Fc領域に変異N297G又はN297Aが存在することに起因してグリコシル化を抑止すること(Atwalら、Sci. Transl. Med. 3、84ra43 (2011);Fares Al-Ejehら、Clin. Cancer Res. (2007) 13: 5519s-5527s)、抗体Fc領域を、エフェクター機能が完全に抑止されることが既知である、265位におけるアスパラギン酸からアラニンへの変異(D265A)を含有するように改変すること(例えば、米国特許7332581号を参照されたい)、又は抗体を、大腸菌に産生させることなどの、野生型哺乳動物グリコシル化が妨げられる様式で作製すること。
実施例2Aにおいて実施したマウス試験を、これらのFc改変抗体を用いて、及びFcγ受容体又は補体C3のいずれかを欠く異なるマウス系統においても繰り返して、それぞれエフェクターに駆動されるADCC又はCDCを含めた網状赤血球枯渇の潜在的な機構を評価した。全血試料を、抗体を静脈内注射した24時間後の総網状赤血球数について評価した。第1の実験では、エフェクター機能を欠く単一特異性抗TfRDを1mg/kg又は25mg/kgで野生型マウスに投与することには、完全なエフェクター機能を有する抗TfRD抗体と同じ網状赤血球数に対する枯渇作用があった(図3Aと図2Bを比較されたい)。しかし、エフェクターを欠く抗TfRD抗体で処置したマウスでは、エフェクター陽性抗TfRD抗体で処置したマウスとは著しく異なり、急性臨床徴候は観察されなかった(実施例2A)。同様に、Fcγ受容体を欠く(エフェクター機能によって誘発され得るADCC機構を排除するため)マウスにエフェクター陽性抗TfRDを投与した場合、25mg/kgを投薬した後に網状赤血球レベルはゼロ近くまで低下したが、急性臨床徴候は観察されなかった(図3B)。
Fcγノックアウトマウスにおいて、エフェクター機能を欠く二重特異性抗TfRD/BACE1 D265A抗体の網状赤血球レベルに対する影響も評価した(図3B)。マウスにおいて抗体のエフェクター機能が完全に抑止されており、及びFcγ受容体が存在しなくても、25mg/kgの用量レベルで投与した際の網状赤血球枯渇は軽減されなかった。野生型マウスにおいてエフェクターを欠く二重特異性抗TfR/BACE1抗体を使用した他の実験と一致して、処置したFcγノックアウトマウスにおいて有害な臨床徴候は観察されなかった。
エフェクター機能が存在することが急性臨床症状の駆動に十分であるかどうかを決定するために、及びエフェクター機能の網状赤血球枯渇に対する寄与をさらに特徴付けるために、野生型マウスにおいて実験を繰り返し、低用量(5mg/kg)のエフェクターを欠く抗TfRD/BACE1 D265Aと、相当する用量の完全なエフェクター陽性抗TfRD/BACE1を比較した(図3C)。エフェクター機能を二重特異性抗体に導入すると、急性臨床徴候が観察された。さらに、エフェクター陽性抗体を用いると、エフェクターを欠く型の抗体と比較して、低用量レベルでロバストな網状赤血球枯渇が観察された(図3C及び図2C)。この総合データから、エフェクター機能は網状赤血球枯渇の駆動に必要ではないが、この枯渇に、特に低用量レベルで明白に寄与する。重要なことに、マウスにおいて観察された急性臨床症状は抗体のエフェクターの状態と関連づけられ、したがって、エフェクターを欠く抗体又はFcγノックアウトマウスのどちらによってもこれらの症状が十分に軽減される。
補体カスケードが臨床症状又は網状赤血球の喪失のいずれかに関与したかどうかを決定するために、補体C3が欠損したマウス(すなわち、正常な補体カスケードを欠くマウス)において実験を再度実施した。図3Dに示されている通り、エフェクター陽性抗TfRAにより、これらのマウスにおいて重度な網状赤血球枯渇とロバストな急性臨床症状の両方が引き起こされ、これにより、補体C3及び関連する補体カスケードが、投与した抗体が完全なエフェクター機能を有する場合に観察される作用のいずれの駆動においても主要な役割を果たしてはいないことが示された。完全なエフェクター機能の不在下で同じ結果が得られるかどうかを試験するために、C3ノックアウトマウスにエフェクターを欠く抗TfRD/BACE1抗体を投薬して、補体によって残りの網状赤血球の枯渇が媒介されるかどうかを決定した。図3Eに結果が示されている。実際に、残りの網状赤血球の枯渇は、C3ノックアウトマウスにエフェクターを欠く抗TfR二重特異性抗体を高い治療量レベル(50mg/kg)で投薬することでエフェクター機能と補体カスケードの両方が排除されている場合、レスキューされる。したがって、補体は、マウスにおいて、エフェクターを欠く抗TfR抗体を投与した後の網状赤血球枯渇の機構としての機能を果たすと思われる。
in vitroにおける補体依存性細胞毒性(CDC)アッセイも実施した。簡単に述べると、標的細胞として初代マウス骨髄細胞又はマウス赤白血病リンパ芽球(HPA Cultures、UK)、及びウサギ血清に由来する補体(EMD Chemicals、Gibbstown NJ)を使用してCDCアッセイを実施した。Vi−Cell(商標)(Beckman Coulter、Fullerton、CA)によって細胞を計数し、生存能力を決定した。抗TfRA/BACE1抗体、抗TfRA抗体、陰性コントロール抗体又は陽性コントロール抗体(それぞれIgG又は抗H2Kb)をアッセイ培地(20mMのHEPES、pH7.2及び1%FBSを補充したRPMI−1640培地)中に1:4に段階的に希釈し、白色の平底96ウェル組織培養プレート(Costar;Corning、Acton MA)に分配した。アッセイ培地中に1:3に希釈した血清補体及び標的細胞(ウェル当たり細胞2×105個)を加えた後、プレートを5%CO2、37℃で2時間インキュベートした。次いでプレートを絶えず振盪しながら室温で10分間放置した。細胞溶解の程度を、SpectroMax(商標)M5プレートリーダーを用いて発光強度を測定することによって数量化した。試料希釈物の発光値を抗体濃度に対してプロットし、GraphPad(商標)(GraphPad Software Inc.)を使用して用量反応曲線を4パラメータモデルにあてはめた。
興味深いことに、マウス細胞を血清補体の存在下で単一特異性のエフェクター機能のために適格な抗TfRAによって処置することによっても、エフェクターを欠く二重特異性抗TfRA/BACE1によって処置することによっても、細胞の補体媒介性溶解は生じなかったが、抗H2Kb陽性コントロールでは有意な細胞溶解が示された(図4A)。特に、抗体のエフェクター活性が異なることは、CDC活性を引き出すそれらの能力に影響しないと思われた。1つの非限定的な説明は、抗TfRのF(ab’)2断片ではインタクトであるに違いない機構である、in vivoにおいて、補体により、脾臓マクロファージ及び肝臓マクロファージによる循環している網状赤血球のオプソニン化を介して網状赤血球枯渇が媒介され得ることである(Garratty (2008)、Transfusion Med. 18 (6): 321-334;Mantovaniら、(1972) J. Exp. Med. 135: 780-792;Molinaら、(2002) Blood 100 (13): 4544-4549)。
以前に記載されている、エフェクター機能に媒介される抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)、急性臨床症状、及び網状赤血球枯渇の間の関連を支持するin vivoにおける結果を確認するために、同様のin vitro実験も行った。エフェクター細胞として健康なドナーから新鮮に単離したPBMC、及び標的細胞として初代マウス骨髄細胞又はマウス赤白血病リンパ芽球(HPA Cultures、UK)を使用してADCCアッセイを行った。FcγRIIIAの残基158位におけるアロタイプの差異に由来するドナーの変動を最小限にするために、血液ドナーを、ヘテロ接合性FcγRIIIA遺伝子型(F/V158)を有するドナーに限定した。簡単に述べると、PBMCを、Uni−Sep blood separation tube(Accurate Chemical & Scientific;Westbury、NY)を使用して密度勾配遠心分離によって単離した。標的細胞を1.4mMのカルセインAM(Molecule Probes)の溶液で前標識し、96ウェルの丸底プレート(BD Biosciences;Mississauga、Ontario;Canada)にウェル当たり4×104個で播種した。抗TfR/BACE1抗体、抗TfR抗体及びコントロール抗体の段階希釈物を、標的細胞を含有するプレートに加え、その後、37℃、5%二酸化炭素で30分インキュベートしてオプソニン化させた。抗体の最終濃度は、4倍段階希釈後に1,000ng/mLから0.004ng/mLまでにわたった。インキュベートした後、アッセイ培地100μL中PBMCエフェクター細胞1×106個を各ウェルに加えてエフェクター細胞と標的細胞の比を25:1にし、プレートをさらに3時間インキュベートした。インキュベートの最後にプレートを遠心分離し、上清における蛍光シグナルを、SpectraMax(商標)M5マイクロプレートリーダーを使用し、励起485nm及び発光520nmで測定した。標的細胞のみを含有するウェルのシグナルにより、標識した細胞からのカルセインAMの自発性放出が示されたが(自発性放出)、トリトン(商標)X−100を用いて溶解させた標的細胞を含有するウェルでは、入手可能な最大のシグナルがもたらされた(最大の溶解)。抗体非依存性細胞傷害性(AICC)を、標的細胞及びエフェクター細胞を含有するウェルにおいて抗体を添加せずに測定した。特異的なADCCの程度を以下の通り算出した:
%ADCC=100×(試料シグナル−AICC)÷(最大の溶解−自発性放出)
試料希釈物のADCC値を抗体濃度に対してプロットし、GraphPad(商標)(GraphPad Software Inc.)を使用して用量反応曲線を4パラメータモデルにあてはめた。
このアッセイで使用した抗TfRAはエフェクター機能を有したが、このアッセイで使用した抗TfRA/BACE1はエフェクター機能を有さなかった。図4Bに示されている通り、エフェクター機能を有する抗体ではADCCが誘導されたが、エフェクター機能を欠く抗TfRA/BACE1抗体では誘導されず、前のマウス実験の結果と相関しなかった。これらのデータにより、処置したマウスにおける急性臨床徴候が、循環している網状赤血球と結合するエフェクター陽性抗体によって能動的に引き出されるADCCに起因すること、及びエフェクターに駆動されるADCCも抗体を投与した後の網状赤血球枯渇に寄与する可能性があるという観念がさらに支持される(図3C)。
実施例2C
Fc又はBACE1の結合の調節の影響
Fc腕及びBACE1腕の役割を、網状赤血球枯渇の媒介におけるそれらの潜在的な関与についてそれぞれ別々に調査した。完全なエフェクター機能及び正常なグリコシル化を有する野生型IgG1のFc領域を有する単一特異性抗TfR及び二重特異性抗TfRを生成した。簡単に述べると、記載されている通り、TfR(ホール)半抗体及びIgG(ノブ)半抗体をCHOにおいて別々に発現させ、in vitroでアニーリングさせた(Carter, P. (2001) J. Immunol. Methods 248、7-15;Ridgway, J. B.、Presta, L. G.、及びCarter, P. (1996) Protein Eng. 9、617-621;Merchant, A. M.、Zhu, Z.、Yuan, J. Q.、Goddard, A.、Adams, C. W.、Presta, L. G.、及びCarter, P. (1998) Nat. Biotechnol. 16、677-681;Atwell, S.、Ridgway, J. B.、Wells, J. A.、及びCarter, P. (1997) J. Mol. Biol. 270、26-35)。抗TfR IgG抗体、抗TfR/IgG抗体又は抗TfR/BACE1抗体から、固定化ペプシンで消化することによってF(ab’)2断片を生成した。抗体を100mMの酢酸ナトリウム、pH4.2中で再構成し、固定化ペプシン樹脂(IgG1mg当たり固定ゲル0.3mL)と一緒に37℃で一晩、回転させながらインキュベートした。インキュベートした後、試料を遠心分離して、固定化ペプシンをF(ab’)2消化混合物から分離した。次いで、強力な陽イオン交換樹脂であるSPセファロース(1mLのHiTrap(商標)カラム(Supelco))を使用してF(ab’)2断片を精製した。試料を50mMのNaOAc、pH5.0にローディングし、20カラム体積にわたって0−0.5MのNaCl勾配を用いて溶出し、 その後、試料をPBS、pH7.4に対して透析した。これらの抗体及びF(ab’)2を用い、上記と同じ手順で、静脈内25mg/kg用量の単一特異性F(ab’)2又は静脈内50mg/kg用量の二重特異性F(ab’)2若しくはコントロールF(ab’)2若しくは抗体を使用してマウス実験を実施した。全血試料を、抗体/F(ab’)2を静脈内注射した24時間後の総網状赤血球数について評価した。結果が図5A−5Cに示されている。
抗TfRD F(ab’)2を投与することには、抗TfRD抗体を投与することと非常に類似した網状赤血球枯渇作用があり(図5Aと図3A及び図3Bを比較されたい)、これにより、評価した用量レベルにおいて観察された網状赤血球枯渇に抗体のFc部分は必要ではないことが示された。二重特異性F(ab’)2分子では全長の二重特異性IgG抗体と比較して網状赤血球枯渇のわずかな減弱が示されたが(図5Bと図2Cを比較されたい)、これは、一般的にF(ab’)2のクリアランスがIgGと比較して速く、(Covellら、(1986) Cancer Res. 46: 3969-3978)、それにより、投薬後24時間の間隔にわたる抗体の曝露が全体的に減少することに起因する可能性が最も高いことに留意するべきである。それにでもなお、二重特異性F(ab’)2抗体を投与した後に観察された網状赤血球枯渇により、網状赤血球枯渇が生じることにFc領域は必要ではないという結論がさらに強調される。BACE1腕を欠く二重特異性抗体(抗TfRD/コントロールIgG)により、網状赤血球が抗TfRD/BACE1と同じ程度に枯渇し(図5C)、これにより、BACE1腕も網状赤血球排除に寄与しないことが実証された。
実施例3
結合親和性のさらなる操作
いくらかの上記の結果により、観察される網状赤血球枯渇の程度に対して親和性及び用量成分が存在することが示唆された(図2C)。親和性及び用量が網状赤血球枯渇にどのように影響を及ぼすかをよりよく理解するために、実施例2において実施したマウスへの投薬実験を、2つの異なる用量レベル(25mg/kg及び50mg/kg)の低親和性抗TfR抗体、具体的には抗TfRE/BACE1を追加して繰り返した。抗TfREでは、試験したいずれの用量においても網状赤血球への影響は基本的になかったが(図6A)、同様の用量の抗TfRA/BACE1又は抗TfRD/BACE1では、網状赤血球が枯渇した。実施例1において考察されている結果から、抗TfRE/BACE1は抗TfRD/BACE1よりも血漿曝露の持続及び脳内での存続は良好であるが、血液脳関門を通るロバストな輸送は劣ることが観察された。抗TfRD/BACE1投与により網状赤血球枯渇が生じるが、抗TfRE/BACE1投与では網状赤血球枯渇が生じないことを考慮して、TfRに対して抗TfRDの親和性と抗TfREの親和性の間の親和性を有するバリアント抗TfRを生成して、BBB輸送及び脳内での存続を犠牲にすることなく抗体の安全性プロファイルを改善することができるかどうかを確かめた。
簡単に述べると、標準の変異誘発技法を用い、部位特異的変異誘発を使用して、それぞれ抗TfRDバリアント及び抗TfRBバリアントを表す2つの点変異を組み合わせて抗TfRDbと称される単一の抗体にした。同様に、それぞれ抗TfRDバリアント及び抗TfRCバリアントを表す2つの点変異を導入して抗TfRDcと称される単一の抗体にした。どちらの抗体も、実施例2Cに記載のノブ・アンド・ホール(knob and hole)技術を使用して抗BACE1を有する二重特異性形式に作出した。どちらの抗体もTfRに対する親和性は抗TfRD抗体の親和性と抗TfRE抗体の親和性の間であり、抗TfRDb/BACE1抗体のTfRに対する親和性は抗TfRDc/BACE1抗体のTfRに対する親和性のおよそ3倍であった。これらの新しいバリアントを用いてマウス投与/網状赤血球枯渇実験を繰り返した。図6Bに結果が示されている。どちらのバリアントでも、網状赤血球枯渇が同じ用量レベルの抗TfRD/BACE1抗体で観察される網状赤血球枯渇よりも著しく改善され(すなわち、減少)、投薬の24時間後の網状赤血球レベルがコントロールで処置したマウスの網状赤血球レベルに近づいたことが実証された。予測通り、新しいバリアント抗体のどちらも、経時的な血漿中抗体濃度、脳内抗体濃度(最大値と経時的な低下の両方)、及びAβ1−40の減少は、同じ用量レベルで投与した場合の抗TfRD/BACE1及び抗TfRE/BACE1の経時的な血漿中抗体濃度、脳内抗体濃度(最大値と経時的な低下の両方)、及びAβ1−40の減少の間であった。
血液脳関門におけるTfRの発現に対する親和性及び用量の影響も調査した。マウスに対して抗TfRA/BACE1又は抗TfRD/BACE1を5mg/kg、25mg/kg又は50mg/kgで単回投与する処置を行い、投薬の4日後に脳におけるTfR発現をウエスタンブロットによって評価した。抗体で処置したマウス由来の脳にPBSを灌流した後に抽出し、単離した皮質及び海馬を、Complete Mini EDTA−free protease inhibitor tables(Roche Diagnostics)を含有するPBS中1%NP−40(Calbiochem)中にホモジナイズした。ホモジナイズした脳を4℃で1時間回転させた後に、14,000rpmで20分高速回転させた。上清を単離し、等濃度のタンパク質を4−12%Novex Bis−Tris gels(Invitrogen)によって分離した。膜を抗TfR抗体(Invitrogen)及び抗アクチン抗体(Abcam)と一緒に4℃で一晩インキュベートし、その後、IRDye(登録商標)(Li−Cor Biosciences)二次抗体と一緒に室温で2時間インキュベートした。免疫ブロットを画像化し、バンドを、Odyssey Infrared Imaging System(商標)software(Li−Cor Biosciences、Lincoln、NE)を使用してデンシトメトリーによって数量化した。投薬の4日後に、TfR発現は抗TfRD/BACE1で処理した試料3つ全てにおいて同様であったが、高用量レベルではコントロールレベルよりもわずかに低下した(図6C)。対照的に、漸増用量の抗TfRA/BACE1抗体により、投薬の4日後に血液脳関門におけるTfRの発現が顕著に減少した。したがって、抗TfR抗体の親和性を低下させることにより、観察される脳内TfR発現の用量依存的な低下も改善され、これは抗体の全体的な安全性プロファイルの改善にさらに寄与する可能性がある。
実施例4
BBB浸透性の評価
異種分子を脳内に輸送するために血液脳関門輸送受容体を利用することの懸念は、BBB自体が損なわれる可能性があることである。したがって、抗TfRを投薬した際のBBBの抗体に対する浸透性を調査した。野生型マウスに、コントロールIgGを50mg/kgで、又は示されている同時注射する抗体の組合せのそれぞれを25mg/kgで静脈内投与した。静脈内注射した24時間後の平均の脳内への抗体の取り込みを、一般的なヒト−Fc ELISAを実施例1に従って使用し、又は抗BACE1特異的ELISAを実施例1に記載のものと同様の手順に従って使用して評価した。BACE1細胞外ドメインをコートタンパク質として使用し、Fc特異的ポリクローナル抗体である、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたF(ab’)2ヤギ抗ヒトIgGを用いて検出を実施した。このアッセイのLLOQ値は抗BACE1についてはおよそ2.56ng/gであり、抗TfRD/BACE1については12.8ng/gであった。実施例1に記載のものと同じ手順を使用して投与後の脳内Aβ1−40レベルを測定した。
結果が図7A−7Cに示されている。脳抗体曝露はコントロールIgG+抗TfRD/BACE1で処置したマウスで最も高かったが、抗TfRDを含有する抗体の組合せで処置したマウスでも相当なものであった(図7A)。これは、低親和性の二重特異性形態の抗TfRDが脳内に取り込まれ、高親和性の単一特異性形態の抗TfRDよりも長く存続するという点で、実施例1の結果と相関する。抗TfR抗体と同時投与した抗体は脳内に相当量では取り込まれず、脳内で相当量が観察された抗BACE1は抗TfRDと直接コンジュゲートしたものだけであった(図7B)。同様に、脳において観察された抗BACE1活性は、抗TfRD/BACE1で処置したマウスにおけるものだけであった(図7C)。総合すると、これらのデータにより、抗体に対する血液脳関門浸透性は抗TfR処置の影響を受けないことが示される。
実施例5
網状赤血球レベルに対する多数回投薬の影響
前述の試験は、抗TfR抗体の単回投薬並びに網状赤血球レベルに対して生じる影響及び同時に生じる急性臨床症状に焦点を合わせた。より長い期間にわたって複数回投薬した後に異なる影響が観察されるかどうかを確認するために、さらなる試験を行った。単回の静脈内投薬の代わりに、マウスに、25mg/kgの抗TfRD/BACE1又はIgGコントロールを、1週間に1回、合計4週間にわたって静脈内投薬したこと以外は前述の実施例に記載のものと同じプロトコールを使用した。2回目の注射の1日後、4日後又は7日後及び4回目の注射の1日後、4日後又は7日後に組織/血液を採取し、上記のプロトコールを使用して処理した。さらに、血清試料について、直接ビリルビン、血清鉄、総鉄結合能及び不飽和鉄結合能を、Integra(商標)400(Roche、Indianapolis、IN)を製造者の説明書に従って使用して比色定量アッセイによって決定した。各時点及び各処置群についてマウス6匹を使用した。
抗TfRD/BACE1の血清中抗体濃度は、2回又は4回投薬した後、経時的に同様であり、これにより、投薬を繰り返した後のマウス血流におけるクリアランスは実質的に異ならないことが示唆された(図8A)。しかし、4回目の投薬の4日後に、2回目の投薬後の同じ時間と比較して全体的な抗体曝露のわずかな減少が明らかであり、これにより、投与したヒトIgG抗体に対するマウス抗薬物抗体(ADA)が出現したことが示唆された。血清中抗体濃度と同様に、脳内抗体濃度も4回目の投薬の4日後に低下したが、脳内での経時的な抗体の存続は2回目の投薬後に観察されたものが再現された(図8B)。Abeta1−40の血漿中レベル(図8C)及び脳内レベル(図8D)は、2回又は4回投薬した後に血清中及び脳内に存在することが観察された抗TfRD/BACE1の量とよく相関した。
重要なことに、複数回投薬の状況で網状赤血球毒性の増悪は観察されなかった。図8Eに示されている通り、絶対的な網状赤血球数は、2回目の投薬の1日後から4回目の投薬の7日後までに劇的に改善された(値がコントロールレベルに戻った又はそれを超えた)。4週間の時点で赤血球質量の減少又は血清鉄及び総鉄結合能(血清トランスフェリンの代替パラメータ)の変化の証拠はなかった。評価した組織のいずれにおいても病理組織的変化又は染色可能な鉄レベルの変更の証拠もなかった。理論に束縛されることなく、最初の投薬によって引き出され、投薬期間全体を通して持続する骨髄再生応答の増強が、4回目の投薬の後に観察された全体的な網状赤血球の減少の好転に関与する可能性があることが提唱される。さらに、ADAが存在する疑いがあることにより、投薬を繰り返すと全体的な循環している抗体のレベルがさらに低下し、これも4週目に観察された網状赤血球枯渇の緩和に寄与する。最後に、TfRの脳での発現は、4回目の投薬の1日後、4日後、又は7日後に、抗TfRD/BACE1で処置したマウスとコントロールIgGで処置したマウスで異ならなかった(図8F)。
実施例6
血液中及び骨髄中の赤血球前駆細胞に対するエフェクターを含有する二重特異性及びエフェクターを欠く二重特異性の影響
骨髄中の赤血球前駆細胞集団に対する抗体投薬の影響を解明するために追加的な実験を実施した。まず、抗TfR/BACE1を投薬した後の網状赤血球の喪失の時間経過を調査するために、野生型マウスに、コントロールIgG又はエフェクター機能を欠く抗TfRD/BACE1を50mg/kgで、滅菌PBS中200μLの単回のボーラスとして静脈内注射した(群当たりn=6)1時間後、4時間後、16時間後、及び24時間後に血液及び骨髄を単離した。示されている投薬後の時点で動物から血液及び骨髄を回収した。イソフルラン麻酔後に眼窩出血を血液抽出のために使用し、片側の大腿骨から骨髄を回収し、単一細胞懸濁液を調製した。次いで、細胞を70ミクロンの細胞濾過器で濾過した。細胞を洗浄し、設定した体積のPBSに再懸濁させた。固定体積の細胞懸濁液を固定濃度のFITC標識蛍光ビーズに加え、フローサイトメーターで分析し、試料当たり5000のビーズ事象を収集して細胞数を得た。赤血球集団の定量的分析をフローサイトメトリーによって決定した。血液及び骨髄のどちらにおいても、別個の赤血球系細胞の集団をそれらのTer119 マーカー(マウス成熟赤血球及び赤血球前駆体細胞でのみ発現されることが決定されているマーカー)の発現、TfR発現、及び側方散乱プロファイルによってゲーティングした(以前にPanigaら、"Expression of Prion Protein in Mouse Erythroid Progenitors and Differentiating Murine Erythroleukemia Cells." PLoS One 6、9 (2011);図9A及び9Bに記載されている通り)。簡単に述べると、試料を抗マウスTer119−PE(eBioscience)及びビオチン化抗マウスTfRと一緒に、その後ストレプトアビジン−eFluor450(eBioscience)と一緒に氷上で20分インキュベートした。試料を0.5%BSA、2mMのEDTAを含有するPBSで洗浄し、BD LSR Fortessa多色フローサイトメーターに流し、FlowJo software(Ashland、OR)を使用して解析した。
エフェクター機能を欠く抗TfRD/BACE1を用いた処置により、コントロールIgGと比較して血液中の赤血球の総数は変更されなかったが(図9C)、それにもかかわらず、血液中に循環しているTfR発現網状赤血球は急速及び著しく減少した(図9D)。血液での所見とは対照的に、エフェクターを欠く抗TfRD/BACE1は、骨髄中の、TfR高発現集団(EryA集団及びEryB集団)(図10B−C)、並びにTfR陰性成熟赤血球(EryC集団)(図10D)を含めた赤血球前駆細胞集団のいずれに対しても作用しなかった(図10A−C)。まとめると、これらの結果により、単回投薬後に、エフェクターを欠く抗TfRD/BACE1では、マウスの血液中のTfR発現網状赤血球のみが枯渇し、骨髄中の他の赤血球系細胞の亜集団は影響を受けないことが実証された。
血液中の赤血球亜集団及び骨髄中の赤血球亜集団に対する完全なエフェクター機能抗体の影響を調査するために、並びに親和性が赤血球系細胞の枯渇において役割を果たすかどうかを決定するために、野生型マウスに、上記のものと同じ注射及び試料採取プロセスに従って、25mg/kgの抗TfRA/BACE1(Fc−)、抗TfRD/BACE1(Fc−)、抗TfRD/BACE1(Fc+)、又はコントロールIgG(「Fc−」は変異D265A及びN297Gが存在すること又はグリコシル化されていないことに起因してエフェクターを欠く抗体を示し、「Fc+」は野生型エフェクター機能を有する抗体を示す)を単回IV投薬した。コントロールIgGと比較して、抗体投薬後の循環血液中の成熟赤血球の総数に対して、エフェクター機能が存在することによる影響も、TfRに対する親和性による影響もなかった(図11A)。以前の知見を確認すると、エフェクターを欠く抗TfR/BACE1抗体を投薬することにより、血液中のTfR発現網状赤血球が急速及び持続的に減少した(図11B、図9Dと比較されたい)。さらに、抗TfRA/BACE1(Fc−)を投薬した動物と抗TfRD/BACE1(Fc−)を投薬した動物の間で網状赤血球の減少の時間経過にもその大きさにも有意差はなかったので、TfRに対する親和性によって二重特異性抗体により網状赤血球の喪失が駆動される程度は変更されなかった(図11B)。しかし、エフェクター機能が完全な抗TfRD/BACE1(Fc+)を投薬することにより、エフェクターを欠く二重特異性抗体と比較して網状赤血球の喪失が有意に増悪し(図11B)、これにより、エフェクター機能が抗体投薬後の網状赤血球枯渇の重症度において重要な役割を果たすことが示唆された。
骨髄では、エフェクターを欠く(Fc−)抗TfR二重特異性抗体により、コントロールIgGと比較して赤血球系細胞の総数は変更されなかった(図11A)。しかし、エフェクター機能が完全な抗TfRD/BACE1(Fc+)では、投薬の24時間後に赤血球系細胞の総数が減少した(図12A)。具体的には、コントロールIgGと比較して、完全なエフェクター機能の存在下ではTfR陽性赤血球前駆体細胞(EryA集団及びEryB集団)が有意及びロバストに減少したが、エフェクターを欠く抗TfR/BACE1抗体によるTfR陽性赤血球系細胞亜集団に対する作用はなかった(図12B−C)。興味深いことに、エフェクター機能が完全な抗TfRD/BACE1(Fc+)を投薬した4時間後及び16時間後にエフェクターを欠く抗TfR/BACE1(Fc−)抗体及びコントロールIgGと比較すると成熟赤血球の数が一過性に増加した(図12D)。1つの非限定的な解釈では、この一過性の増加は、赤血球前駆体細胞の枯渇に応答して赤血球成熟化の加速を駆動する二次的な代償的機構に起因する可能性がある。まとめると、これらのデータにより、エフェクターを欠く抗TfR/BACE1抗体により、骨髄中のTfR陽性赤血球系細胞の喪失が軽減されることが示唆される。
実施例7
ヒト赤白血病細胞株及び初代骨髄単核細胞に対するエフェクターを含有する単一特異性抗体及び二重特異性抗体並びにエフェクターを欠く単一特異性抗体及び二重特異性抗体の影響
前述の実施例では、ヒトTfRを特異的に認識しない抗マウスTfR抗体を使用した。マウス試験において観察された網状赤血球枯渇がマウスの系に独特のものであるかを確認するために、ヒトTfRに結合する抗TfRを利用して別の実験を実施した。
健康なヒトドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)をエフェクター細胞として使用してADCCアッセイを行った。ヒト赤白血病細胞株(HEL、ATCC)及び初代ヒト骨髄単核細胞(AllCells、Inc.)を標的細胞として使用した。実験の第1のセットでは、FcγRIIIAの残基158位におけるアロタイプの差異から潜在的に生じる可能性があるドナー間の変動を最小限にするために、血液ドナーを、ヘテロ接合性RcγRIIIA遺伝子型(F/V158)を有するドナーに限定した(図13A−B)。実験の第2のセットでは(図14A−B)、HEL細胞のみを標的細胞として使用し、F/V158遺伝子型又はFcγRIIIA V/V158遺伝子型のいずれかを有する健康なヒトドナー由来のPBMCを一緒に使用した。NK細胞媒介性ADCC活性の増加並びにIgG4抗体に結合する能力に関連することが公知であるので(Bowles及びWeiner、2005; Bruhnsら 2008)、V/V158遺伝子型もこのアッセイに含めた。Vi−CELL(登録商標)(Beckman Coulter;Fullerton、CA)により、製造者の説明書に従って細胞を計数し、生存能力を決定した。
Uni−Sep(商標)blood separation tube(Accurate Chemical & Scientific Corp.;Westbury、NY)を使用してPBMCを密度勾配遠心分離によって単離した。アッセイ培地(1%BSA及び100単位/mLのペニシリン及びストレプトマイシンを伴うRPMI−1640)50μL中の標的細胞を96ウェルの丸底プレートにウェル当たり4×10
4個で播種した。試験抗体及びコントロール抗体の段階希釈物(ウェル当たり50μL)を、標的細胞を含有するプレートに加え、その後、37℃、5%CO
2で30分インキュベートしてオプソニン化させた。抗体の最終濃度は、5倍に段階希釈した後、合計10のデータ点で0.0051〜10,000ng/mLにわたった。インキュベート後、アッセイ培地100μL中PBMCエフェクター細胞1.0×10
6個を各ウェルに加えてエフェクター細胞:標的細胞の比を25:1にし、プレートをさらに4時間インキュベートした。インキュベートの最後にプレートを遠心分離し、上清を乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性についてCytotoxicity Detection Kit(商標)(Roche Applied Scinece;Indianapolis、IN)を使用して試験した。LDH反応混合物を上清に加え、プレートを室温で15分、絶えず振盪しながらインキュベートした。1MのH
3PO
4を用いて反応を終了させ、SpectraMaxプラスマイクロプレートリーダーを使用して490nmにおける吸収を測定した(各ウェルについて650nmにおいて測定されたバックグラウンドを引く)。標的細胞のみを含有するウェルの吸収がバックグラウンドについてのコントロールとしての機能を果たし(低コントロール)、トリトン−X100を用いて溶解させた標的細胞を含有するウェルにより入手可能な最大のシグナルがもたらされた(高コントロール)。抗体非依存性細胞傷害性(AICC)を、標的細胞及びエフェクター細胞を含有するウェルにおいて抗体を添加せずに測定した。特異的なADCCの程度を以下の通り算出した:
試料希釈物のADCC値を抗体濃度に対してプロットし、SoftMax Proを使用して用量反応曲線を4パラメータモデルにあてはめた。
実験の第1のセットでは、種々の抗ヒトTfR構築物のADCC活性を、ヒト赤白血病細胞株(HEL細胞)又は初代ヒト骨髄単核細胞のいずれかを標的細胞として使用して評価した。二価IgG1エフェクター機能のために適格な抗ヒトTfR1抗体15G11、及び前の実施例においてエフェクター機能を抑止するD265A変異及びN297G変異を有するヒトIgG1形式で使用した同じ抗BACE1腕を有するこの抗体の二重特異性形態(実施例6を参照されたい)を種々の濃度で、陰性コントロールとして抗gD WT IgG1を使用し、陽性コントロールをマウス抗ヒトHLA(クラスI)として使用したADCCアッセイにおいて試験した。結果が図13A及び図13Bに示されている。標的としてHEL細胞(図13A)又は標的として骨髄単核細胞(図13B)のいずれを用いても、単一特異性抗ヒトTfR抗体15G11により、有意なADCC活性が引き出された。この活性は、HEL細胞における陽性コントロール抗ヒトHLA抗体による活性と同様であり、骨髄単核細胞に対する陽性コントロールよりもロバストであるが低いレベルであった。骨髄単核細胞実験において観察されたレベルがいくらか低いことは、おそらくこの実験で使用した骨髄系列PBMC細胞及び赤血球系列PBMC細胞の不均一な混合物の一部では高レベルのTfRが発現されるが、HEL細胞ではクローン細胞集団全体を通して一貫してTfRが高発現されるという事実に起因する。著しく対照的に、エフェクターを欠く二重特異性抗ヒトTfR/BACE1抗体は、陰性コントロールと同様に、HEL細胞又は骨髄単核細胞のいずれにおいてもいかなるADCC活性も示さなかった。
実験の第2のセットでは、このアッセイ系で抗体のアイソタイプスイッチの影響を評価した。ADCCアッセイ手順は、標的細胞が全てHEL細胞であったこと、及びエフェクター細胞が、ヘテロ接合性FcγRIIIa−V/F158遺伝子型又はホモ接合性FcγRIIIa−V/V158遺伝子型のいずれかを有する健康なヒトドナー由来のPBMCであったこと以外は上記の手順と同一であった。試験した抗ヒトTfRは全て二重特異性であり、抗gDを有し、3つの異なるIg骨格:野生型ヒトIgG1、N297G変異を有するヒトIgG1、及びヒトIgG4を有した。ヒトIgG4骨格を有する抗Abeta抗体も試験し、マウス抗ヒトHLA(クラスI)が陽性コントロールとしての機能を果たした。結果が図14A及び図14Bに示されている。エフェクター細胞活性化とV/V158遺伝子型の公知の関連性に基づいて予測される通り(Bowles及びWeiner 2005)、ADCC活性は、V/V158ドナーPBMC(標的細胞の〜45%が影響を受けた)により、F/V158ドナー(標的細胞の〜25%が影響を受けた)と比較してよりロバストに引き出された(図14Aと図14Bを比較されたい)。野生型IgG1を有する抗TfR/gDではHEL細胞においてロバストなADCCが誘導されたが、エフェクターを欠くIgG1を有する抗TfR/gDではHEL細胞においていかなるADCC活性も示されず、これにより実験の第1のセットからの結果が再現された。特に、100ng/mL以上の濃度において、IgG4アイソタイプの抗TfR/gDが軽度のADCC活性を示した。この活性は抗Abeta IgG4の結果では観察されず、これにより、ADCC活性のためにはTfRの結合が必要であることが示された。この所見は、IgG4が最小であるが測定可能なエフェクター機能を有するという以前の報告と相関する(Adolffsonら、J. Neurosci. 32 (28): 9677-9689 (2012);van der Zeeら Clin Exp. Immunol. 64: 415-422 (1986));Taoら、J. Exp. Med. 173:1025-1028 (1991))。
したがって、マウスにおける赤血球系列細胞の枯渇がTfR依存性及びエフェクター機能依存性の様式で起こるという本発明の所見は、ヒトの系に直接置き換えることができる。前述の本発明は、理解を明確にするために図表及び実施例によって一部の詳細で記載されているが、説明及び実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書において引用されている全ての特許文献及び科学文献の開示は、それらの全体が出典明示により本明細書に明白に援用される。