次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明による変速装置としての自動変速機25を含む動力伝達装置20を示す概略構成図である。同図に示す動力伝達装置20は、前輪駆動車両に搭載される図示しないエンジンのクランクシャフトに接続されると共にエンジンからの動力を図示しない左右の駆動輪(前輪)に伝達可能なものである。図示するように、動力伝達装置20は、例えばアルミニウム合金製のトランスミッションケース22や、当該トランスミッションケース22の内部に収容される発進装置(流体伝動装置)23、オイルポンプ24、自動変速機25、ギヤ機構(ギヤ列)40、デファレンシャルギヤ(差動機構)50、トランスミッションケース22に取り付けられる油圧制御装置60等を含む。
動力伝達装置20に含まれる発進装置23は、エンジンのクランクシャフトに接続される入力側のポンプインペラ23pや、自動変速機25の入力軸(入力部材)26に接続される出力側のタービンランナ23t、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23tの内側に配置されてタービンランナ23tからポンプインペラ23pへの作動油の流れを整流するステータ23s、ステータ23sの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ23o、ロックアップクラッチ23c、ダンパ機構23d等を有するトルクコンバータとして構成される。ただし、発進装置23は、ステータ23sを有さない流体継手として構成されてもよい。
オイルポンプ24は、ポンプボディとポンプカバーとを含むポンプアッセンブリ、ハブを介して発進装置23のポンプインペラ23pに接続された外歯ギヤ、当該外歯ギヤに噛合する内歯ギヤ等を有するギヤポンプとして構成されている。オイルポンプ24は、エンジンからの動力により駆動され、図示しないオイルパンに貯留されている作動油(ATF)を吸引して発進装置23や自動変速機25により要求される油圧を生成する油圧制御装置60へと圧送する。
自動変速機25は、8段変速式の変速機として構成されており、図1に示すように、入力軸26に加えて、ダブルピニオン式の第1遊星歯車機構30、ラビニヨ式の第2遊星歯車機構35、入力側から出力側までの動力伝達経路を変更するための4つのクラッチC1,C2,C3およびC4、2つのブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1を含む。
自動変速機25の第1遊星歯車機構30は、外歯歯車であるサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ32と、互いに噛合すると共に一方がサンギヤ31に、他方がリングギヤ32に噛合する2つのピニオンギヤ33a,33bの組を自転自在(回転自在)かつ公転自在に複数保持するプラネタリキャリヤ34とを有する。図示するように、第1遊星歯車機構30のサンギヤ31は、トランスミッションケース22に固定されており、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34は、入力軸26に一体回転可能に連結されている。第1遊星歯車機構30は、いわゆる減速ギヤとして構成されており、入力要素であるプラネタリキャリヤ34に伝達された動力を減速して出力要素であるリングギヤ32から出力する。
自動変速機25の第2遊星歯車機構35は、外歯歯車である第1サンギヤ36aおよび第2サンギヤ36bと、第1および第2サンギヤ36a,36bと同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ37と、第1サンギヤ36aに噛合する複数のショートピニオンギヤ38aと、第2サンギヤ36bおよび複数のショートピニオンギヤ38aに噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のロングピニオンギヤ38bと、複数のショートピニオンギヤ38aおよび複数のロングピニオンギヤ38bを自転自在(回転自在)かつ公転自在に保持するプラネタリキャリヤ39とを有する。第2遊星歯車機構35のリングギヤ37は、自動変速機25の出力部材として機能し、入力軸26からリングギヤ37に伝達された動力は、ギヤ機構40、デファレンシャルギヤ50およびドライブシャフト51を介して左右の駆動輪に伝達される。また、プラネタリキャリヤ39は、ワンウェイクラッチF1を介してトランスミッションケース22により支持され、当該プラネタリキャリヤ39の回転方向は、ワンウェイクラッチF1により一方向に制限される。
クラッチC1は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第1サンギヤ36aとを互いに接続すると共に両者の接続を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチ(摩擦係合要素)である。クラッチC2は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、入力軸26と第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39とを互いに接続すると共に両者の接続を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。
クラッチC3は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを互いに接続すると共に両者の接続を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。クラッチC4は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを互いに接続すると共に両者の接続を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。
ブレーキB1は、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bをトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共に第2サンギヤ36bのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる多板摩擦式油圧ブレーキである。ブレーキB2は、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39をトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共にプラネタリキャリヤ39のトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる多板摩擦式油圧ブレーキである。
また、ワンウェイクラッチF1は、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39に連結(固定)されるインナーレースや、アウターレース、複数のスプラグ、複数のスプリング(板バネ)、保持器等を含み、インナーレースに対してアウターレースが一方向に回転した際に各スプラグを介してトルクを伝達すると共に、インナーレースに対してアウターレースが他方向に回転した際に両者を相対回転させるものである。ただし、ワンウェイクラッチF1は、ローラ式といったようなスプラグ式以外の構成を有するものであってもよい。
これらのクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2は、上記油圧制御装置60による作動油の給排を受けて動作する。図2に自動変速機25の各変速段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1の作動状態との関係を表した作動表を示す。自動変速機25は、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2を図2の作動表に示す状態とすることで前進1〜8速の変速段と後進1速および2速の変速段とを提供する。なお、ブレーキB1を除くクラッチC1〜C4、およびブレーキB2の少なくとも何れかは、ドグクラッチといった噛み合い係合要素とされてもよい。
ギヤ機構40は、自動変速機25の第2遊星歯車機構35のリングギヤ37に連結されるカウンタドライブギヤ41と、自動変速機25の入力軸26と平行に延在するカウンタシャフト42に固定されると共にカウンタドライブギヤ41に噛合するカウンタドリブンギヤ43と、当該カウンタドリブンギヤ43から軸方向に離間するようにカウンタシャフト42に一体に成形(あるいは固定)されたドライブピニオンギヤ(ファイナルドライブギヤ)44と、ドライブピニオンギヤ44に噛合すると共にデファレンシャルギヤ50に連結されるデフリングギヤ(ファイナルドリブンギヤ)45とを有する。
図3および図4は、動力伝達装置20の自動変速機25を示す要部拡大断面図である。これらの図面は、自動変速機25に含まれるクラッチC1(第3摩擦係合要素),クラッチC3(第1摩擦係合要素),クラッチC4(第4摩擦係合要素)およびブレーキB1(第2摩擦係合要素)の周辺の構成を示すものである。図示するように、第1遊星歯車機構30やクラッチC1,C3およびC4の主な構成部材は、互いに接合されたクラッチC3のクラッチドラム300(第1ドラム部材)およびクラッチC4のクラッチドラム400(第4ドラム部材)と、ブレーキB1のブレーキハブ500(第2ドラム部材)との内部に配置される。
クラッチC1は、ブレーキハブ500の内部に配置されると共に、第2遊星歯車機構35の第1サンギヤ36aに連結されるクラッチドラム(第3ドラム部材)100と、複数の摩擦プレート(第3摩擦プレート)110と、摩擦プレート110と交互に配設される複数のセパレータプレート(第3セパレータプレート)120およびバッキングプレートと、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と一体化されたクラッチハブ130とを含む。更に、クラッチC1は、摩擦プレート110およびセパレータプレート120を押圧して摩擦係合させるピストン140と、環状のキャンセルプレート(キャンセル油室画成部材)170と、ピストン140を摩擦プレート110およびセパレータプレート120から離間するように付勢するリターンスプリングSP1とを含む。
クラッチC1のクラッチドラム100は、概ね円筒状の筒状部(第3筒状部)101と、当該筒状部101の一端に設けられた開口端部(第3開口端部)101aと、筒状部101の開口端部101aとは反対側の端部から径方向内側に延出された環状の側壁部102とを有する。クラッチドラム100の筒状部101の内周面には、スプラインが形成されており、当該スプラインには、複数のセパレータプレート120およびバッキングプレートの外周部が嵌合される。セパレータプレート120は、両面が平滑に形成された環状部材である。なお、本実施形態において、筒状部101の外周面は、円柱面状に形成されている。
また、クラッチドラム100の側壁部102の内周部は、連結部材90を介して第2遊星歯車機構35の第1サンギヤ36aに連結される。クラッチC1のクラッチハブ130は、リングギヤ32と一体に成形された小径筒状部131と、当該小径筒状部131よりも大径の大径筒状部132とを有する。小径筒状部131の外周面には、スプラインが形成されており、当該スプラインには、複数の摩擦プレート110の内周部が嵌合される。摩擦プレート110は、両面に摩擦材が貼着された環状部材である。また、クラッチハブ130は、接続対象を共通にするクラッチC1およびC3によって共用され、図示するように、大径筒状部132の外周面にもスプラインが形成されている。なお、本実施形態において、大径筒状部132の内周面は、凹円柱面状に形成されている。
ピストン140は、連結部材90と一体に回転すると共に軸方向に移動自在となるように当該連結部材90から延出された筒状支持部91により支持される。また、キャンセルプレート170は、ピストン140に対して連結部材90の径方向に延在する部分とは反対側に配置され、スナップリングを用いて筒状支持部91に固定される。そして、ピストン140は、連結部材90の径方向に延在する部分と共にクラッチC1の係合油室150を画成する。更に、キャンセルプレート170は、ピストン140と共に係合油室150内で発生する遠心油圧をキャンセルするための遠心油圧キャンセル室190を画成する。本実施形態において、リターンスプリングSP1は、板ばね(皿ばね)であり、ピストン140とキャンセルプレート170との間に位置するように遠心油圧キャンセル室190の内部に配置される。ただし、リターンスプリングSP1として、複数のコイルバネが用いられてもよい。
クラッチC3は、上述のクラッチハブ130に加えて、クラッチドラム300と、複数の摩擦プレート(第1摩擦プレート)310と、摩擦プレート310と交互に配設される複数のセパレータプレート(第1セパレータプレート)320およびバッキングプレート320bと、摩擦プレート310およびセパレータプレート320を押圧して摩擦係合させるピストン340と、ピストン340を摩擦プレート110およびセパレータプレート120から離間するように付勢する複数のリターンスプリング(コイルバネ)SP3とを含む。クラッチドラム300は、図示するように、ブレーキB1のブレーキハブ500を介して第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結され、当該第2サンギヤ36bと一体に回転する。
図3に示すように、クラッチC3のクラッチドラム300は、ブレーキハブ500に連結される略円筒状の外筒部301(第1筒状部)と、当該筒状部301の一端に設けられた開口端部(第1開口端部)301aと、外筒部301の基端部(図3における右端)から径方向内側に延出された略円環状の環状壁部302と、環状壁部302の内周部から外筒部301の内側に位置するように当該外筒部301と同方向(同軸)に延出されてクラッチドラム300の軸方向に延在する略円筒状の内筒部303とを含む。外筒部301、環状壁部302および内筒部303は、例えばアルミニウム合金等を鋳造することにより一体に成形され、環状壁部302は、外筒部301の基端部と内筒部303の基端部との間で径方向に延在する。
クラッチドラム300の外筒部301は、図3および図4に示すように、クラッチハブ130の大径筒状部132を包囲し、大径筒状部132のスプラインには、複数の摩擦プレート310の内周部が嵌合される。各摩擦プレート310は、両面に摩擦材が貼着された環状部材である。また、クラッチドラム300の外筒部301の内周面には、各セパレータプレート320の外周部に形成された凹凸部と係合可能な内歯状のスプライン(第1スプライン)301sが形成されている。外筒部301のスプライン301sには、クラッチハブ130の大径筒状部132に嵌合された複数の摩擦プレート310と交互に並ぶように複数のセパレータプレート320が嵌合される。セパレータプレート320は、両面が平滑に形成された環状部材である。
更に、外筒部301のスプライン301sには、最も第1および第2遊星歯車機構30,35側(図3における左側)に配置される摩擦プレート310と当接可能となるようにバッキングプレート320bが嵌合される。図4に示すように、バッキングプレート320bは、外筒部301に装着されたスナップリング325により開口端部301aの端面側から軸方向に支持される。これにより、摩擦プレート310およびセパレータプレート320の軸方向の移動がスナップリング325により規制される。なお、本実施形態において、外筒部301の外周面は、円柱面状に形成されている。
クラッチドラム300の内筒部303は、外筒部301よりも短尺に形成されており、それぞれクラッチドラム300の軸心を中心軸とする円柱面状の外周面および凹円柱面状の内周面を有する。そして、ピストン340は、内筒部303の外周面と当該内筒部303を囲む外筒部301の内周面とにより軸方向に移動自在に支持される。また、最もエンジン側(図3における右側)に位置するセパレータプレート320と当接するピストン340の押圧部は、外筒部301のスプライン301sと係合し、ピストン340は、スプライン301sによって回り止めされる。更に、ピストン340と内筒部303の外周面との間およびピストン340と外筒部301の内周面との間には、シール部材が配置される。これにより、クラッチドラム300の環状壁部302とピストン340の背面との間には、クラッチC3を係合させるための作動油(係合油圧)が供給される係合油室350が画成される。
クラッチC4は、クラッチハブ4と、第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結(固定)されて当該第2サンギヤ36bと一体に回転するクラッチドラム400と、複数の摩擦プレート(第4摩擦プレート)410と、複数のセパレータプレート(第4セパレータプレート)420およびバッキングプレートとを含む。更に、クラッチC4は、摩擦プレート410とセパレータプレート420とを押圧して摩擦係合させるピストン440と、環状のキャンセルプレート(キャンセル油室画成部材)470と、ピストン440を摩擦プレート410およびセパレータプレート420から離間するように付勢する複数のリターンスプリング(コイルバネ)SP4とを含む。
クラッチハブ4は、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34に一体化(連結)され、当該プラネタリキャリヤ34と一体に回転する。また、クラッチドラム400は、クラッチドラム300および500を介して第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結され、当該第2サンギヤ36bと一体に回転する。また、各摩擦プレート410の内周部は、クラッチハブ4の外周面に形成されたスプラインに嵌合される。摩擦プレート410は、両面に摩擦材が貼着された環状部材である。
図3に示すように、クラッチC4のクラッチドラム400は、当該クラッチドラム400(自動変速機25)の軸方向に延在する略円筒状の外筒部(第4筒状部)401と、外筒部401の一端から径方向内側に延出された略円環状の環状壁部402と、環状壁部402の内周部から外筒部401の内側に位置するように当該外筒部401と同方向(同軸)に延出されてクラッチドラム400の軸方向に延在する略円筒状の内筒部403とを含む。外筒部401、環状壁部402および内筒部403は、例えばアルミニウム合金等を鋳造することにより一体に成形され、環状壁部402は、外筒部401の基端部と内筒部403の基端部との間で径方向内側に延在する。
クラッチドラム400の内筒部403内には、鋼材(鉄)により円筒状に形成されたスリーブ250が当該クラッチドラム400と一体に回転するように例えば圧入等により嵌合(一体化)される。更に、スリーブ250内には、クラッチC3およびC4を収容するトランスミッションケース22に固定(一体化)されて当該トランスミッションケース22の一部を構成する例えばアルミニウム合金製のフロントサポートの筒状部220が嵌挿される。また、内筒部403の遊端部と筒状部220との間には、ラジアル軸受(またはブッシュ)が介設される。これにより、クラッチドラム400すなわち内筒部403は、スリーブ250等を介して、フロントサポートすなわちトランスミッションケース22により回転自在に支持される。
クラッチドラム400の外筒部401は、図4に示すように、クラッチドラム300の外筒部301や、クラッチC1およびC3により共用されるクラッチハブ130の大径筒状部132によって包囲される。なお、本実施形態において、外筒部401の外周面は、円柱面状に形成されている。また、クラッチドラム400の外筒部401の内周面には、各セパレータプレート420の外周部に形成された凹凸部と係合可能な内歯状のスプライン401s(図4参照)が形成されている。外筒部401のスプライン401sには、クラッチハブ4に嵌合された複数の摩擦プレート410と交互に並ぶように複数のセパレータプレート420が嵌合される。更に、外筒部401のスプライン401sには、最も第1および第2遊星歯車機構30,35側(図3における左側)に配置される摩擦プレート410と当接可能となるようにバッキングプレートが嵌合される。当該バッキングプレートは、外筒部401に装着されたスナップリングにより軸方向に支持される。
クラッチドラム400の環状壁部402は、外筒部401の基端部から径方向内側(内筒部403側)に延出された環状の外側壁部402aと、内筒部403から径方向外側に延出された環状の内側壁部402bと、外側壁部402aの内周部と内側壁部402bの外周部との間で軸方向に延在する縮径部402nとを含む。内側壁部402bは、外側壁部402aに対して外筒部401から離間する方向にオフセットされて当該外側壁部402aよりもエンジン側(クラッチドラム400の遊端部と反対側すなわち図3における右側)に位置する。また、縮径部402nは、外側壁部402aに対して外筒部401の反対側に位置し、外筒部401の外周面よりも縮径された円柱面状の外周面を有する。
クラッチC4のピストン440は、内筒部403の外周面により移動自在に支持される受圧部440aと、当該受圧部440aの外周部から延出されて最もエンジン側(図3における右側)に位置するセパレータプレート420と当接する押圧部440bと、受圧部440aの外周部から押圧部440bとは反対側に延出された円筒状の延出部440cとを有する。ピストン440の押圧部440bは、外筒部401のスプライン401sと係合し、ピストン440は、スプライン401sによって回り止めされる。
また、ピストン440の延出部440cは、クラッチドラム400の環状壁部402に形成された環状凹部に挿入(嵌合)され、延出部440cの内周面は、当該環状凹部を画成する中間筒状部の外周面に摺接する。そして、ピストン440の受圧部440aと内筒部403の外周面との間には、シール部材が配置され、ピストン440の延出部440cの内周面と中間筒状部の外周面との間にも、シール部材が配置される。これにより、クラッチドラム400の環状壁部402(内側壁部402b)とピストン440の受圧部440aの背面との間かつ延出部440cの外周面よりも径方向内側には、クラッチC4を係合させるための作動油(係合油圧)が供給される係合油室450が画成される。
更に、クラッチドラム400の内筒部403は、ピストン440よりも第1および第2遊星歯車機構30,35側(図3における左側)に位置するようにキャンセルプレート470を一体回転するように支持する。キャンセルプレート470の内周部は、内筒部403に装着されたスナップリングにより軸方向に支持される。また、キャンセルプレート470の外周部には、リップシール(シール部材)が装着され、当該シール部材は、ピストン440に形成された凹円柱面に摺接する。これにより、キャンセルプレート470は、係合油室450内で発生する遠心油圧をキャンセルするための遠心油圧キャンセル室490をピストン440と共に画成する。更に、ピストン440とキャンセルプレート470との間には、複数のリターンスプリングSP4が配置される。
そして、クラッチC4のクラッチドラム400の外周面には、クラッチC3のクラッチドラム300が固定される。すなわち、クラッチドラム300の内筒部303は、その先端がクラッチドラム400(環状壁部402)の外側壁部402aの背面と当接するようにクラッチドラム400の縮径部402nに嵌合され、内筒部303の内周面は、縮径部402nの外周面に電子ビーム溶接やレーザー溶接といった溶接により接合される。これにより、クラッチドラム300および400は、同軸に一体化されて1体のドラム部材を構成する。
また、本実施形態において、クラッチC4のクラッチドラム400(外筒部401)に環状のキャンセル室画成部407が一体成形されている。キャンセル室画成部407は、クラッチドラム300およびピストン340と共に外側のクラッチC3の係合油室350内で発生する遠心油圧をキャンセルするための遠心油圧キャンセル室390を画成する。本実施形態において、キャンセル室画成部407は、図3に示すように、外筒部401から外方すなわち上記環状凹部よりも径方向外側にクラッチドラム300の外筒部301の内周面に向けて延出される。更に、キャンセル室画成部407の背面とピストン340との間には、複数のリターンスプリングSP3が配置される。なお、クラッチドラム400にキャンセル室画成部407を一体成形する代わりに、別体のキャンセル室画成部材をクラッチドラム400に溶接あるいは締結してもよい。
ブレーキB1は、連結部材95(図3参照)を介して第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結されるブレーキハブ500と、複数の摩擦プレート(第2摩擦プレート)510と、摩擦プレート510と交互に配設される複数のセパレータプレート(第2セパレータプレート)420およびバッキングプレートとを含む。更に、ブレーキB1は、摩擦プレート510およびセパレータプレート520を押圧して摩擦係合させるピストンと、環状のキャンセルプレートと、当該ピストンを摩擦プレート510およびセパレータプレート520から離間するように付勢するリターンスプリングとを含む(何れも図示省略)。
ブレーキB1のブレーキハブ500は、概ね円筒状の筒状部(第2筒状部)501と、当該筒状部の一端に設けられた開口端部(第2開口端部)501aと、筒状部501の開口端部501aとは反対側の端部から径方向内側に延出された環状の側壁部502とを有する。ブレーキハブ500の筒状部501の外周面には、各摩擦プレート510の内周部に形成された凹凸部と係合可能な外歯状のスプライン(第2スプライン)501sが形成されている。筒状部501のスプライン501sには、複数の摩擦プレート510の内周部が嵌合される。摩擦プレート510は、両面に摩擦材が貼着された環状部材である。なお、本実施形態において、筒状部501の内周面は、凹円柱面状に形成されている。また、複数のセパレータプレート520およびバッキングプレートの外周部は、トランスミッションケース22に固定(一体化)されて当該トランスミッションケース22の一部を構成する例えばアルミニウム合金製のセンターサポート22c(図4参照)に形成されたスプラインに嵌合される。セパレータプレート520は、両面が平滑に形成された環状部材である。
図4に示すように、ブレーキハブ500のスプライン501sは、開口端部501aの端面まで達するように形成されている。また、ブレーキハブ500の連結対象であるクラッチドラム300のスプライン301sも、開口端部301aの端面まで達するように形成されている。更に、スプライン301sおよび501sは、歯面同士が噛合するように構成されている。そして、ブレーキハブ500(筒状部501)の開口端部501aは、スプライン501sがクラッチドラム300(外筒部301)のスプライン301sと噛合するように開口端部301a内に嵌合(スプライン嵌合)される。これにより、開口端部501aは、スプライン301sおよび501sにより構成される噛み合い係合部を介して開口端部301aと周方向に連結(結合)され、クラッチドラム300(およびクラッチドラム400)とブレーキハブ500とが一体回転可能になる。
ブレーキハブ500の開口端部501aは、クラッチドラム300の開口端部301aにより包囲され、外筒部301に装着されたスナップリング325とブレーキハブ500の開口端部501aの端面との間には、図示するように、予め定められた軸長を有する隙間Gが形成される。更に、ブレーキハブ500のスプライン501sを構成する各スプライン歯501tの歯先には、図5に示すように、油溝(凹部)501gが形成されている。各スプライン歯501tの油溝501gは、筒状部501の開口端部501aの端面から開口端部501a側とは反対側の端面まで延在するように形成され、それぞれ上記隙間Gと連通する。
また、図4および図6に示すように、ブレーキハブ500は、クラッチC1のクラッチドラム100を包囲する。これにより、ブレーキハブ500の筒状部501の内周面と、クラッチドラム100の筒状部101の外周面との間には、環状の隙間が画成される。更に、クラッチドラム100の筒状部101の開口端部101aの端面は、クラッチC3のスナップリング325およびバッキングプレート320bと間隔をおいて対向する。
上述のように構成された自動変速機25の作動中、第1遊星歯車機構30には、油圧制御装置60からの作動油(ドレン油)が入力軸26に形成された図示しない油路等を介して潤滑冷却媒体として供給される。第1遊星歯車機構30に供給された作動油は、サンギヤ31、ピニオンギヤ33a,33b、およびリングギヤ32等を潤滑・冷却し、図6に示すように、遠心力によってクラッチハブ130の小径筒状部131に形成された複数の油孔131hを介してクラッチC1の摩擦プレート110およびセパレータプレート120の周辺に流入する。また、クラッチC1の摩擦プレート110およびセパレータプレート120の周辺には、クラッチC1のキャンセルプレート170と、リングギヤ32に固定されたリングギヤフランジ32fとの間からも潤滑冷却媒体としての作動油が供給される。
クラッチC1に供給された潤滑冷却媒体としての作動油は、摩擦プレート110およびセパレータプレート120を潤滑・冷却し、図6に示すように、遠心力によってクラッチドラム100の筒状部101に形成された複数の油孔101hから流出する。複数の油孔101hから流出した作動油の一部は、遠心力によってブレーキハブ500の筒状部501に形成された複数の油孔501hを介してブレーキB1の摩擦プレート510およびセパレータプレート520の周辺に流入する。また、複数の油孔101hから流出した作動油の一部は、クラッチドラム100の筒状部101とブレーキハブ500の筒状部501との隙間に流れ込み、開口端部501aの端面とスナップリング325との隙間Gに向けて流れる。
一方、自動変速機25の作動中、クラッチC4のクラッチハブ4の内側には、油圧制御装置60からの作動油(ドレン油)が図示しないフロントサポートに形成された油路やクラッチドラム400の内筒部403に形成された図示しない油孔等を介して供給される。また、クラッチハブ4の内側には、フロントサポートの油路や内筒部403の他の油孔を介してクラッチドラム400(およびクラッチドラム300)を支持する軸受に供給されて当該軸受を潤滑・冷却した作動油の一部も流入する。クラッチハブ4の内側に供給された作動油は、摩擦プレート410およびセパレータプレート420を潤滑・冷却し、図6に示すように、遠心力によってクラッチドラム400の外筒部401に形成された複数の油孔401hから流出する。
複数の油孔401hから流出した作動油は、遠心力によってクラッチハブ130の大径筒状部132に形成された複数の油孔132h等を介してクラッチC3の摩擦プレート310およびセパレータプレート320の周辺に流入する。クラッチC3に供給された潤滑冷却媒体としての作動油は、摩擦プレート310およびセパレータプレート320を潤滑・冷却し、図6に示すように、遠心力によってクラッチドラム300の外筒部301に形成された複数の油孔301hから流出する。
ここで、自動変速機25では、上述のように、ブレーキB1の摩擦プレート510やセパレータプレート520に供給されるべき作動油の一部が、ブレーキハブ500の筒状部501とクラッチドラム100の筒状部101との隙間から、開口端部501aの端面とスナップリング325との隙間Gに向けて流入する。また、隙間Gには、クラッチC3の摩擦プレート310およびセパレータプレート320の周辺に供給された作動油の一部も流入する。
従って、何ら対策を施さなければ、隙間Gに滞留した油によってクラッチC3のバッキングプレート320bが押圧され、それにより摩擦プレート510およびセパレータプレート520のクリアランスが詰まってしまうおそれがある。そして、自動変速機25では、ブレーキB1が係合されると、クラッチドラム300(および400)とブレーキハブ500との回転が停止し、外筒部301等の周辺の作動油に遠心力が作用しなくなる。このため、特に、ブレーキB1が係合される前進第2速段および第8速段の形成時には、隙間Gに滞留する作動油の量が増加してしまうおそれがある。
これを踏まえて、自動変速機25では、図4および図6に示すように、クラッチドラム300に外筒部301を径方向に貫通する複数の貫通孔305が形成されている。複数の貫通孔305は、クラッチドラム300の径方向からみて、隙間Gと少なくとも部分的に重なるようにクラッチドラム300の周方向に間隔をおいて(例えば等間隔に)外筒部301に形成される。すなわち、各貫通孔305は、クラッチドラム300およびブレーキハブ500の軸方向における開口端部501aの端面とスナップリング325との間で隙間Gと連通し、当該隙間Gと外筒部301の周囲の空間とを連通する。また、本実施形態において、複数の貫通孔305は、クラッチドラム300の径方向からみて、スナップリング325とクラッチドラム100の筒状部101の開口端部101aの端面との間に位置するように外筒部301に形成される。
これにより、クラッチC3の摩擦プレート310およびセパレータプレート320の周辺に供給された潤滑・冷却用の作動油や、ブレーキB1の摩擦プレート510およびセパレータプレート520に供給されるべき潤滑・冷却用の作動油の一部が隙間Gに流れ込んだとしても、図6において実線矢印で示すように、各貫通孔305から作動油を外筒部301の周囲に流出させて隙間Gで作動油が滞留するのを良好に抑制することが可能となる。更に、自動変速機25では、ブレーキハブ500のスプライン501sを構成する各スプライン歯501tの歯先に隙間Gと連通するように油溝501gが形成されている。これにより、図6において実線矢印で示すように、各油溝501gを介して隙間Gから摩擦プレート510およびセパレータプレート520へと作動油を流出させ、当該隙間Gで作動油が滞留するのをより良好に抑制することができる。
この結果、隙間Gに滞留した油によってクラッチC3の摩擦プレート310およびセパレータプレート320が押圧されることで当該摩擦プレート310およびセパレータプレート320のクリアランスが詰まってしまうのを抑制することができる。従って、クラッチC3における伝達トルクの損失や攪拌抵抗が増加するのを極めて良好に抑制し、クラッチC3のクラッチドラム300とブレーキB1のブレーキハブ500とが一体化される自動変速機25の効率をより向上させることが可能となる。そして、自動変速機25では、互いに一体化されるクラッチドラム300,400およびブレーキハブ500の内部にクラッチC3,C4およびブレーキB1の構成部材、更には第1遊星歯車機構30が配置されることから、図3に示すように、クラッチドラム300,400およびブレーキハブ500内における構成部材間の隙間が小さくなって油が滞留しやすくなる。従って、このような自動変速機25において、クラッチC3のクラッチドラム300に上述のような貫通孔305を設けることは極めて有効である。
また、自動変速機25では、図4および図6に示すように、クラッチC1およびC3により共用されるクラッチハブ130には、それぞれ大径筒状部132を径方向に貫通する複数のドレン孔135が形成されている。複数のドレン孔135は、クラッチハブ130に嵌合された複数の摩擦プレート310のうちのスナップリング325に最も近接する1枚よりも当該該スナップリング325側に位置するようにクラッチハブ130の周方向に間隔をおいて(例えば等間隔に)大径筒状部132に形成される。本実施形態において、複数のドレン孔135は、クラッチドラム300の径方向からみて、外筒部301に装着されたスナップリング325と少なくとも部分的に重なる。更に、複数のドレン孔135は、クラッチドラム300の径方向からみて、少なくとも一部がクラッチドラム400の外筒部401(第4開口端部)の端面よりもブレーキB1およびクラッチC1側に位置するように形成される。これにより、図6において実線矢印で示すように、主に第1遊星歯車機構30(リングギヤ32とピニオンギヤ33a,33bとの噛合部)から流出してクラッチドラム400の外筒部401の外周面と大径筒状部132の内周面との隙間(大径筒状部132の内側)に流入した油の少なくとも一部を各ドレン孔135から当該大径筒状部132の外側へと流出させることができる。
この結果、大径筒状部132の複数の油孔132hを介してクラッチC3の摩擦プレート310およびセパレータプレート320に供給される潤滑・冷却用の作動油の量を適正に調整することができる。そして、自動変速機25では、クラッチドラム300の外筒部301に上述のような複数の貫通孔305が設けられている。従って、各ドレン孔135から流出した作動油が開口端部101aとスナップリング325等との隙間を介して上記隙間Gに流入したとしても、当該隙間Gで作動油が滞留するのを良好に抑制することが可能となる。
なお、上記自動変速機25では、ブレーキハブ500のスプライン501sを構成する各スプライン歯501tの歯先に隙間Gと連通するように油溝501gが形成されるが、これに限られるものではない。すなわち、スプライン501sを構成する複数のスプライン歯501tの一部に隙間Gと連通するように油溝501gが形成されてもよく、油溝501gがスプライン501sから省略されてもよい。また、上述のような構成は、ブレーキハブ500の内周面に摩擦プレートまたはセパレータプレートの外周部が嵌合されるスプラインが形成され、当該ブレーキハブ500がクラッチハブとして兼用される変速機に適用されてもよい。
以上説明したように、本発明による変速装置は、第1摩擦プレート、第1セパレータプレート、および前記第1摩擦プレートまたは前記第1セパレータプレートが嵌合される第1ドラム部材を含む第1摩擦係合要素と、第2摩擦プレート、第2セパレータプレート、および前記第2摩擦プレートまたは前記第2セパレータプレートが嵌合されると共に前記第1ドラム部材と一体化される第2ドラム部材を含む第2摩擦係合要素とを備えた変速装置において、前記第1ドラム部材は、前記第1摩擦プレートまたは前記第1セパレータプレートの外周部が嵌合される第1筒状部と、前記第1筒状部の一端に設けられた第1開口端部とを有し、前記第2ドラム部材は、前記第2摩擦プレートまたは前記第2セパレータプレートが嵌合される第2筒状部と、該第2筒状部の一端に設けられた第2開口端部とを有し、前記第1摩擦係合要素は、前記第1摩擦プレートおよび前記第1セパレータプレートの軸方向の移動を規制するように前記第1筒状部に装着されるスナップリングを含み、前記第2ドラム部材の前記第2開口端部は、前記第1ドラム部材の前記第1開口端部の内周面にスプライン嵌合され、前記スナップリングと前記第2開口端部との間には隙間が形成され、前記第1筒状部には、前記第1ドラム部材の径方向からみて前記スナップリングと前記第2開口端部との前記隙間と少なくとも部分的に重なると共に該第1筒状部を径方向に貫通する貫通孔が形成されていることを特徴とする。
この変速装置では、第2ドラム部材の第2開口端部が、第1ドラム部材の第1開口端部の内周面にスプライン嵌合される。また、第1ドラムの第1筒状部には、第1摩擦プレートおよび第1セパレータプレートの軸方向の移動を規制するスナップリングが装着される。更に、スナップリングと第2開口端部との間には隙間が形成される。そして、第1筒状部には、第1ドラム部材の径方向からみてスナップリングと第2開口端部との隙間と少なくとも部分的に重なると共に当該第1筒状部を径方向に貫通する貫通孔が形成されている。これにより、第1摩擦係合要素の第1摩擦プレートおよび第1セパレータプレートや第2摩擦係合要素の第2摩擦プレートおよび第2セパレータプレートの周辺に供給された潤滑・冷却用の油がスナップリングと第2開口端部との隙間に流れ込んだとしても、油を貫通孔から第1筒状部の周囲に流出させて当該隙間で油が滞留するのを抑制することが可能となる。この結果、当該隙間に滞留した油によって第1摩擦係合要素の第1摩擦プレートおよび第1セパレータプレートが押圧されることで当該第1摩擦プレートおよび第1セパレータプレートのクリアランスが詰まってしまうのを抑制し、第1摩擦係合要素における伝達トルクの損失や攪拌抵抗が増加するのを良好に抑制することができる。従って、第1摩擦係合要素の第1ドラム部材と第2摩擦係合要素の第2ドラム部材とが一体化される変速装置の効率をより向上させることが可能となる。
また、前記第1摩擦係合要素は、前記第1セパレータプレートまたは前記第1摩擦プレートの内周部が嵌合されるハブ部材を有してもよく、前記ハブ部材には、該ハブ部材に嵌合された前記第1摩擦プレートまたは前記第1セパレータプレートのうちの前記スナップリングに最も近接する1つよりも該スナップリング側に位置するように前記ハブ部材を径方向に貫通するドレン孔が形成されてもよい。これにより、ハブ部材の内側に流入した油の一部を当該ドレン孔から当該ハブ部材の外側へと流出させることができるので、ハブ部材を介して第1摩擦プレートおよび第1セパレータプレートに供給される潤滑・冷却用の油の量を適正に調整することが可能となる。そして、第1ドラム部材の第1筒状部に上述のような貫通孔が設けられているので、ドレン孔から流出した油がスナップリングと第2開口端部との隙間で滞留するのを良好に抑制することができる。
更に、前記第2摩擦係合要素は、前記第1および第2ドラム部材を静止部材に接続して回転不能に固定可能なブレーキであってもよく、前記第1ドラム部材は、前記第1筒状部の内周面に形成されると共に前記第1摩擦プレートまたは前記第1セパレータプレートの外周部が嵌合される第1スプラインを有してもよく、前記第2ドラム部材は、前記第2筒状部の外周面に形成されると共に前記第2摩擦プレートまたは前記第2セパレータプレートの内周部が嵌合される第2スプラインを有してもよく、前記第2開口端部は、前記第2スプラインを前記第1スプラインに嵌合することにより前記第1開口端部に結合されてもよい。このような変速装置において、第1ドラム部材の第1筒状部に上述のような貫通孔を設ければ、第2摩擦係合要素(ブレーキ)の第2摩擦プレートや第2セパレータプレートに供給されるべき油の一部がスナップリングと第2開口端部との隙間に流れ込んだとしても、当該隙間で油が滞留してしまうのを良好に抑制することが可能となる。
また、前記第2スプラインの歯先には、前記隙間と連通するように凹部が形成されてもよい。これにより、スナップリングと第2開口端部の端面との隙間から凹部を介して第2摩擦プレートおよび第2セパレータプレートへと油を流出させ、当該隙間で油が滞留するのをより良好に抑制することが可能となる。
更に、前記変速装置は、第3摩擦プレート、第3セパレータプレート、および前記第3摩擦プレートまたは前記第3セパレータプレートが嵌合される第3ドラム部材を含む第3摩擦係合要素を更に備えてもよく、前記第3ドラム部材は、前記第3摩擦プレートまたは前記第3セパレータプレートの外周部が嵌合される第3筒状部と、該第3筒状部の一端に設けられた第3開口端部とを有すると共に、前記第3開口端部の端面が前記スナップリングと間隔をおいて対向するように前記第2ドラム部材の内部に配置されてもよく、前記第1ドラム部材の前記貫通孔は、前記径方向からみて前記スナップリングと前記第3開口端部との間に位置してもよい。このような変速装置では、第3摩擦係合要素の第3摩擦プレートや第3セパレータプレートを潤滑・冷却した油の一部が第2筒状部と第3筒状部との隙間に流れ込み、当該隙間からスナップリングと第2開口端部の端面との隙間に流入する。このため、かかる変速装置では、スナップリングと第2開口端部の端面との隙間に滞留する油の量が多くなってしまうおそれがある。これに対して、第1ドラム部材の第1筒状部に上述のような貫通孔を設ければ、スナップリングと第2開口端部との隙間から油を良好に流出させ、当該油により第1摩擦プレートおよび第1セパレータプレートが押圧されてしまうのを良好に抑制することが可能となる。
また、前記第1摩擦係合要素は、前記第1セパレータプレートまたは前記第1摩擦プレートの内周部が嵌合されるハブ部材を有してもよく、前記第3摩擦係合要素の前記第3セパレータプレートまたは前記第3摩擦プレートの内周部は、前記ハブ部材に嵌合されてもよく、前記ハブ部材には、前記第1ドラム部材の径方向からみて前記第1摩擦係合要素の前記スナップリングと少なくとも部分的に重なると共に該ハブ部材を径方向に貫通するドレン孔が形成されてもよい。これにより、ハブ部材の内側に流入した油の一部を当該ドレン孔から当該ハブ部材の外側へと流出させることができるので、ハブ部材を介して第1摩擦プレートおよび第1セパレータプレートに供給される潤滑・冷却用の油の量を適正に調整することが可能となる。そして、第1ドラム部材の第1筒状部に上述のような貫通孔が設けられているので、ドレン孔から流出した油がスナップリングと第2開口端部との隙間で滞留するのを良好に抑制することができる。
更に、前記変速装置は、第4摩擦プレート、第4セパレータプレート、および前記第4摩擦プレートまたは前記第4セパレータプレートが嵌合される第4ドラム部材を含む第4摩擦係合要素を更に備えてもよく、前記第4ドラム部材は、前記第4摩擦プレートまたは前記第4セパレータプレートの外周部が嵌合される第4筒状部を含んでもよく、前記第1ドラム部材は、前記第4筒状部を包囲するように前記第4ドラム部材と一体化されてもよく、前記ハブ部材の前記ドレン孔は、前記径方向からみて、少なくとも一部が前記第4ドラム部材の一端に設けられた第4開口端部の端面よりも前記第2摩擦係合要素側に位置するように形成されてもよい。すなわち、この変速装置では、互いに一体化される第1、第2および第4ドラム部材の内部に第1、第3および第4摩擦係合装置の構成部材が配置されることから、第1、第2および第4ドラム部材内における構成部材間の隙間が小さくなって油が滞留しやすくなる。従って、かかる変速装置において、第1摩擦係合要素の第1ドラム部材に上述のような貫通孔を設けることは極めて有効である。
そして、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記発明を実施するための形態は、あくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。