以下、本発明の一実施形態に係る合金構造体について説明する。なお、各図において共通する構成については、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
本実施形態に係る合金構造体は、鉄(Fe)と、Feと固溶化する少なくとも4種以上の他の元素(以下、非Fe主成分元素ということがある。)とを主成分とする高エントロピー合金からなり、積層造形によって所望の形状寸法に造形された金属造形物である。この合金構造体は、非Fe主成分元素及びFeの元素を、個々の各元素についてそれぞれ5at%以上30at%以下の範囲の原子濃度で含有し、これらの元素のうちの少なくとも4種の元素が実質的に等原子比率となる元素組成を有している。そして、非Fe主成分元素及びFeの原子は、これら複数種の元素が多元的に固溶した固溶相を形成している。そのため、この合金構造体は、高エントロピー合金としての一般的性質として、高い耐熱性、高温強度、耐摩耗性、耐腐食性を有している。また、後記するように、積層造形によって形成される特有の凝固組織を有しており、元素組成及び機械的強度の分布の均一性が高い特徴を有している。
本実施形態に係る合金構造体は、常温且つ常圧下において、主晶が実質的には柱状晶の集合からなる。柱状晶の存在割合は、凝固組織の任意断面における占有面積率で、少なくとも50%以上となっており、後記する製造方法における凝固組織の形成条件によって、90%以上としたり、95%以上とすることも可能である。また、柱状晶の平均結晶粒径は、100μm以下であり、さらに10μm以下にまで微細化させることも可能である。なお、平均結晶粒径は、JIS G 0551(2013)に規定される方法に準じて求めることができる。
合金材構造体の主晶は、常温且つ常圧下において、面心立方格子又は体心立方格子の結晶構造を有している。組成を選択設計することによって、面心立方格子の結晶構造の存在割合を、凝固組織の任意断面における占有面積率で、90%以上としたり、95%以上とすることも可能である。また、体心立方格子の結晶構造の存在割合を、凝固組織の任意断面における占有面積率で、90%以上としたり、95%以上とすることも可能である。
非Fe主成分元素としては、元素周期表の第3族から第16族(第3A族から第6B族)までに含まれる原子番号13から原子番号79の元素であって、Fe原子に対する原子半径の比率が0.83以上1.17以下であるFe以外の元素から少なくとも4種以上の元素が選択される。このような非Fe主成分元素としては、具体的には、Al、Si、P、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Auが挙げられる。合金構造体をこのような元素組成とすることによって、原子容積効果が奏され、高エントロピー合金としての作用を示す安定した固溶相を形成させることができる。
非Fe主成分元素としては、Fe原子に対する原子半径の比率が0.92以上1.08以下である元素を含有することがより好ましく、こうした元素のみをFeと共に含有することがさらに好ましい。Feと共に主成分元素となる非Fe主成分元素としては、具体的には、Si、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Mo、Tc、Ru、Rh、Re、Os、Irが挙げられる。これらの中でさらに好ましい非Fe主成分元素は、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Ge、Moであり、Co、Cr及びNiを含有することが特に好ましい。
合金構造体の元素組成としては、具体的には、CoCrFeNiAl、CoCrFeNiCu、CoCrFeNiCuAl、CoCrFeNiCuAlSi、MnCrFeNiCuAl、CoCrFeNiMnGe、CoCrFeNiMn、CoCrFeNiMnCu、TiCoCrFeNiCuAlV、TiCoCrFeNiAl、AlTiCoCrFeNiCuVMn、TiCrFeNiCuAl、TiCoCrFeNiCuAl、CoCrFeNiCuAlV、TiCoCrFeNiAl、TiCoCrFeNiCuAl、CoCrFeNiCuAl、CoFeNiCuV、CoCrFeNiCuAl、MnCrFeNiAl、MoCrFeNiCu、TiCoCrFeNi、TiCoCrFeNiMo、CoCrFeNiCuAlV、MnCrFeNiCu、TiCoCrFeNi、TiCoCrFeNiAl、CoCrFeNiMo、CoCrFeNiAlMo、TiCoCrFeNiCu、CoCrFeNiCuAlMn、TiCoCrFeNiMo、CoCrFeNiCuAlV、TiCoCrFeNiCuVMn、AlTiCoCrFeNiCuVMn、CoCrFeNiCuAlMn、CoCrFeNiAlMo、CoCrFeNiCuAlMo、TiCoCrFeNiCu等を例示することができる。なお、これらの元素組成において、各元素の原子濃度(原子のモル比)は、5at%以上30at%以下の範囲の原子濃度と、少なくとも4種の元素が実質的に等原子比率となる元素組成とが満たされる限りにおいて種々の値をとることができる。但し、成分元素としてTiを含有する場合は、Tiが成分元素中で最大原子濃度を持つ成分とならないようにし、好ましくは合金構造体あたりの原子濃度を5at%以上10at%未満とする。
合金構造体は、非Fe主成分元素及びFeのほか、他の不可避的不純物の元素を含有することが許容される。不可避的不純物の元素としては、例えば、P、Si、S、Sn、Sb、As、Mn、O、N等が挙げられる。但し、Pについては、好ましくは0.005wt%以下、より好ましくは0.002wt%以下に、Siについては、好ましくは0.040wt%以下、より好ましくは0.010wt%以下に、Sについては、好ましくは0.002wt%以下、より好ましくは0.001wt%以下に、Snについては、好ましくは0.005wt%以下、より好ましくは0.002wt%以下に、Sbについては、好ましくは0.002wt%以下、より好ましくは0.001wt%以下に、Asについては、好ましくは0.005wt%以下、より好ましくは0.001wt%以下に、Mnについては、好ましくは0.050wt%以下、より好ましくは0.020wt%以下に制限する。また、Oについては、好ましくは0.001wt%以下(10ppm以下)、より好ましくは0.0003wt%以下(3ppm以下)に、Nについては、好ましくは0.002wt%以下(20ppm以下)、より好ましくは0.001wt%以下(10ppm以下)に制限する。このように合金構造体に含まれる不可避的不純物の濃度を制限することによって、構造体の形状寸法に関わらず、元素組成及び機械的強度の分布の均一性をより高くすることができる。なお、P、Si、Sn、Sb、As又はMnの元素を非Fe主成分元素として合金構造体に含有させる場合には、元素の濃度をこのように制限する必要はない。
合金構造体は、非Fe主成分元素及びFeのうちの少なくとも4種の元素を、5at%以上23.75at%以下の原子濃度の範囲で実質的に等原子比率で含有する。このとき、他の元素を、5at%以上30at%以下の原子濃度の範囲で含有し、残部が不可避的不純物によって組成される。このように少なくとも4種の元素を等原子比率で含有すると、自由エネルギの混合エントロピー項が増大するため、固溶相が安定化されるようになる。なお、本明細書においては、実質的に等原子比率であるとは、原子濃度の差が3at%未満の範囲にあることを意味するものとする。
合金構造体を組成する元素種類及び原子比率は、例えば、生成エンタルピー、エントロピーないしギブスエネルギーを熱力学的計算で求めることによって、組成を選択設計することができる。例えば、等原子比率で含まれる少なくとも4種の元素と、他の元素との原子濃度の比率は、前記の原子濃度の範囲で適宜変えることができる。これら主成分元素の原子濃度の比率を変えることによって、合金構造体の結晶構造を変えることができ、機械的強度、展延性、硬度、密度等を調節することが可能である。熱力学的計算としては、第一原理計算法、Calphad(Calculation of phase diagrams)法、分子動力学法、Phase−Field法、有限要素法等を適宜組み合わせて用いることができる。
合金構造体は、例えば、Alを5at%以上30at%以下の原子濃度の範囲で含有すると共に、Co、Cr、Fe及びNiを15at%以上23.75at%以下の原子濃度の範囲で実質的に等原子比率で含有する元素組成とすることができる。合金構造体に含まれるAlの原子濃度を5at%以上30at%以下の範囲において低下させると、合金構造体の主相が面心立方格子の結晶構造で構成されるようにすることができる。その一方で、Alの原子濃度を5at%以上30at%以下の範囲において増大させると、合金構造体の主相が体心立方格子の結晶構造で構成されるようにすることができる。また、合金構造体に含まれるAlの原子濃度が5at%以上であると、合金構造体の機械的強度が過度に低下する恐れが低く、他方、合金構造体に含まれるAlの原子濃度が30at%以下であると、合金構造体の主相がAl系の金属間化合物になり難くなるため、合金材の延性が過度に低下する恐れが低い。
同様にして、Coを5at%以上30at%以下、Al、Cr、Fe及びNiを15at%以上23.75at%以下の原子濃度の範囲で実質的に等原子比率で含有させたり、Crを5at%以上30at%以下、Al、Co、Fe及びNiを15at%以上23.75at%以下の原子濃度の範囲で実質的に等原子比率で含有させたり、Feを5at%以上30at%以下、Al、Co、Cr及びNiを15at%以上23.75at%以下の原子濃度の範囲で実質的に等原子比率で含有させたり、Niを5at%以上30at%以下、Al、Co、Cr及びFeを15at%以上23.75at%以下の原子濃度の範囲で実質的に等原子比率で含有させたりすることも可能である。
次に、本実施形態に係る合金構造体の製造方法について説明する。
本実施形態に係る合金構造体は、合金粉末を用いた粉末積層造形によって製造することができる。合金粉末を溶融させた後に凝固させて凝固組織を形成し、多数の凝固組織を周囲と一体化させながら配列させることによって、所望の形状寸法の立体造形物として合金構造体を製造する方法である。本実施形態に係る合金構造体の製造方法は、積層造形に用いる合金粉末を調製する粉末調製工程と、調製された合金粉末を用いて合金構造体を造形する積層造形工程とを含んでなる。
粉末調製工程では、製造しようとする合金構造体と同じ主成分元素と添加元素とを含有し、主成分元素が実質的に等原子比率となる元素組成を有する合金粉末を調製する。合金粉末は、各粉末粒子が、製造しようとする合金構造体と略同じ元素組成となるような粒子集合とすることが好ましい。なお、凝固層造形工程において合金粉末を加熱する際に合金成分の一部が揮発して失われる場合があるため、こうした揮発による組成変化を考慮して原子濃度の範囲を高い範囲に設定してもよい。
合金粉末の調製方法としては、従来から一般的に利用されている金属粉末の製造方法を用いることができる。例えば、合金の溶湯に流体を吹き付けて飛散させて凝固させるアトマイズ法、合金の溶湯を凝固させた後に機械的に粉砕する粉砕法、金属粉末を混合し圧接及び粉砕を繰り返して合金化させるメカニカルアロイング法、合金の溶湯を回転しているロール上に流下させて凝固させるメルトスピニング法等の適宜の方法を利用することができる。
合金粉末の調製方法としては、アトマイズ法が好適であり、より好ましくはガスアトマイズ法、さらに好ましくは流体として不活性ガスを使用して不活性ガス雰囲気で行うガスアトマイズ法が用いられる。このような調製方法によると、真球度が高く、不純物の混入が少ない合金粉末を調製することが可能である。そして、合金粉末の真球度が高められると、積層造形において合金粉末を展延する際の抵抗が抑えられるため、合金粉末のむらを低減することができる。また、不活性ガスを使用することによって、酸化物不純物等の混入が抑制されるため、製造される合金材の金属組織をより均一なものとすることができる。
合金粉末は、積層造形において合金粉末を展延させる方式や、合金粉末を溶融させる熱源の出力等の溶融条件に応じて適宜の粒子径とすることができる。但し、通常は合金粉末の粒子径分布は、1μm以上500μm以下の範囲とすることが好ましい。合金粉末の粒子径が1μm以上であれば、合金粉末の巻き上がりや浮遊が抑制されたり、金属の酸化反応性が抑えられたりして、粉塵爆発等の恐れが低くなるためである。一方で、合金粉末の粒子径が500μm以下であれば、積層造形において形成される凝固層の表面が平滑になり易い点で有利である。また、合金粉末を溶融させるための加熱手段の出力を抑えることが可能になり、合金粉末の溶融速度や合金粉末を局所加熱する際の被加熱領域の範囲の制御が容易になるため、合金構造体の造形精度や凝固組織の均一性を確保し易くすることができる。
図1は、本実施形態に係る合金構造体の製造方法の工程の一例を示す概念図である。
本実施形態に係る合金構造体の製造方法では、図1(a)から(g)に順に示す積層造形工程を繰り返し行って合金構造体の立体造形を行う。積層造形工程は、従来から一般的に利用されている金属用の粉末積層造形装置を用いて行うことが可能であり、粉末調製工程で調製された合金粉末は、このような積層造形工程の原料粉末として用いられる。積層造形装置に備えられる加熱手段としては、例えば、電子線加熱、レーザー加熱、マイクロ波加熱、プラズマ加熱、集光加熱、高周波加熱等の適宜の加熱原理によるものが用いられる。これらの中では電子線加熱又はレーザー加熱による積層造形装置が特に好適である。電子線加熱又はレーザー加熱によると、熱源の出力や、合金粉末の被加熱領域の微小化や、合金構造体の造形精度等の制御を比較的容易に行えるためである。
積層造形工程は、詳細には、粉末展延工程、凝固層造形工程を含んでなる。積層造形工程では、図1(a)から(g)に順に示されるような工程を経て、層状の凝固組織(凝固層)を形成し、層状の凝固組織(凝固層)の形成を繰り返すことで、凝固組織の集合からなる合金構造体を造形する。
積層造形装置には、図1(a)に示すように、上端に基材載置台21を有する昇降可能なピストンが備えられている。この基材載置台21の周囲には、ピストンに連動しない加工テーブル22が備えられており、加工テーブル22上に原料粉末10を供給する不図示の粉末フィーダ、供給された原料粉末10を展延するリコータ23、原料粉末10を加熱する加熱手段24、加工テーブル22上の原料粉末10を除去する不図示のエアブラスト、不図示の調温器等が備えられている。加工テーブル22やこれらの機器類は、チャンバに収容されており、チャンバ内の雰囲気は、加熱手段24の種類に応じて真空雰囲気又はアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気とされ、雰囲気圧力や温度が管理されるようになっている。積層造形を行うに際しては、基材載置台21にあらかじめ基材15が載置され、基材15の被造形面(上面)と加工テーブル22の上面とが面一となるように位置合わせされる。
基材15としては、加熱手段24による加熱に対する耐熱性を備えていれば適宜の材料を用いることができる。この合金構造体の製造方法においては、基材15の被造形面上に対して合金構造体の積層造形が行われることで、基材15と合金構造体とが一体化した状態の造形物が得られることになる。そのため、基材15としては、切断加工等により合金構造体から分離することを想定して、平板状等の適宜の形状の基材15を用いることができる。或いは、基材15と合金構造体とを一体化した状態で機能させることを想定して、被造形面を有する任意形状の構造部材、機構部材等を基材15として用いることもできる。
粉末展延工程では、調製された合金粉末10を被造形面上に展延する。すなわち、積層造形における初回の粉末展延工程では、積層造形装置に載置された基材15に合金粉末10を展延する。合金粉末10の展延は、図1(b)に示すように、不図示の粉末フィーダによって加工テーブル22上に供給された合金粉末10(図1(a)参照)を、リコータ23を被造形面(基材15)上を通過するように掃引して、合金粉末10を薄層状に敷き詰めることによって行うことができる。展延されて形成される合金粉末10の薄層の厚さは、合金粉末10を溶融させる加熱手段の出力や、合金粉末10の平均粒子径等に応じて適宜調節することができるが、好ましくは10μm以上1000μm以下程度の範囲とする。
凝固層造形工程では、展延された合金粉末10を局所加熱して溶融させた後に凝固させ、局所加熱による被加熱領域を合金粉末10が展延された平面に対して走査することによって凝固層40を造形する。後記の凝固層40(図1(e)参照)の造形は、製造しようとする合金構造体の立体形状を表す3次元形状情報(3D−CADデータ等)から得られる2次元形状情報にしたがって、加熱手段24による被加熱領域を走査することで行われる。2次元形状情報は、製造しようとする合金構造体の3次元形状を、仮想上、所定厚さ間隔でスライスして、複数の薄層の集合に分割した場合の各薄層の形状を特定する情報である。このような2次元形状情報にしたがって、所定の2次元形状と厚さとを有する凝固層40が形成される。
合金粉末10の局所加熱は、図1(c)に示すように、加熱手段24によって、展延された合金粉末10上の被加熱領域を限定して行い、展延された合金粉末10の一部を微小な溶融池(溶融部20)が形成されるように選択的に溶融させることにより行う。合金粉末10を溶融させて形成する溶融部20の大きさは、好ましくは直径1mm以下とする。溶融部20をこのような微小な大きさに制限することで、合金構造体の造形精度や、凝固組織における元素組成の均一性が高められるようになる。
合金粉末10の局所加熱による被加熱領域は、図1(d)に示すように、被造形面に平行に移動するように走査させる。被加熱領域の走査は、加熱手段24の本体の走査のほか、ガルバノミラー等による熱源の照射スポットの走査により行うことも可能であり、ラスター走査のような適宜の方式で実施する。このとき、複数の線源によるオーバーラップ走査を行い、照射されるエネルギ密度を平坦化させてもよい。そして、被加熱領域の走査によって、合金粉末10が未だ溶融していない領域の局所加熱を新たに行うと共に、合金粉末10が既に溶融して溶融部20が形成された領域の加熱を止めて、溶融部20を雰囲気温度の下で冷却して凝固させる。溶融部20が凝固することで形成される凝固部30は、基材や既に形成されている凝固部30と一体化しつつ凝固部30の緻密な集合を形成することになる。
加熱手段24の走査速度、出力、エネルギ密度、走査幅は、合金粉末10の元素組成、粒度分布、基材15の材質、溶融部20と凝固部30との位置関係、チャンバ温度等から推定される熱伝導や熱放射に基いて適宜調整すればよい。また、溶融部20を冷却する冷却温度は、合金構造体の元素組成に応じて寸法変化、熱歪等を考慮して設定すればよい。溶融部20の大きさや、溶融速度や、冷却速度や、溶融及び冷却の時間間隔等を所定の範囲に維持して走査を行うことによって、造形される合金構造体の強度分布を均一化したり、残留応力や表面粗さを低減させたりすることが可能である。
図1(c)から(e)に示すように、基材載置台21に載置された基材15上で、合金粉末10の溶融と凝固とを繰り返し凝固部30の集合を形成することで、所定の2次元形状と厚さとを有する凝固層40が形成される。形成された凝固層40の周囲や上面に残存している未溶融の合金粉末10をエアーブラストによって除去した後、図1(f)に示すように、基材載置台21を、形成された凝固層40の厚さに相当する高さ下降させて、凝固層40の上面の新たな被造形面と加工テーブル22の上面とが面一となるように位置合わせする。
位置合わせを行った後、図1(a)から(b)と同様にして粉末展延工程を行い、図1(g)に示すように、既に形成されている凝固層40の上面に新たに供給された合金粉末10を展延する。その後、図1(c)から(e)と同様にして凝固層造形工程を行い、次層の凝固層40の積層を行う。積層される凝固部30は下層の凝固層40の一部と一体化して緻密に焼結することになる。以降、同様にして、形成された凝固層40の上面を被造形面とした粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返すことで、所望の形状寸法の合金構造体を積層造形することができる。
凝固層造形工程においては、合金粉末10が溶融した後、凝固部30が形成されるまでの高温の状態において、凝固部30乃至凝固層40の形状成形加工処理や表面加工処理を行うことができる。このような加工処理は、溶融部30乃至凝固部40の表面温度が500℃程度以上の状態、好ましくは合金の融点(Tm)の50%から75%の温度域で、例えば、金属製若しくは合金製の工具、又は、ダイヤモンド粉末、金属間化合物粉末、タングステンカーバイド等の圧粉体等による無機製若しくは無機複合材料製の工具を用いた加工を施すことによって行うことができる。このような加工処理によって、難加工性である合金構造体を、より高精度な形状寸法に成形したり、装飾したりすることが可能である。
粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返すことで積層造形された合金構造体には、熱間等方圧加圧(Hot Isostatic Pressing;HIP)処理を別途実施してもよい。合金構造体を熱間等方圧加圧処理することによって、合金構造体の凝固組織をより緻密にしたり、凝固組織の欠陥を除去することができる場合があるためである。
このような積層造形工程を繰り返し行って立体造形を行う合金構造体の製造方法によれば、柱状晶を主晶とする合金構造体を微小な凝固組織の集合によって所望の形状寸法で製造することができる。また、微小な凝固組織(凝固部30)のそれぞれの元素組成は、用いた合金粉末の元素組成を良好に反映しているため、元素組成分布の均一性及び機械的強度の分布の均一性が高い固溶相を形成することができる。さらには、一方向からの加熱によって凝固組織(凝固部30)を形成し、結晶成長方向が略一方向に配向した凝固組織(凝固層40)を積層することができるため、異方性が高い合金構造体を形成することができる。
次に、積層造形によって形成される合金構造体の金属組織について説明する。
図2は、合金構造体が有する金属組織の概略を示した断面図である。(a)は、本実施形態に係る合金構造体の断面図、(b)は、(a)におけるA部の拡大断面図、(c)は、比較例に係る合金材が有する金属組織の概略を示した断面図である。
図2(a)に示すように、本実施形態に係る合金構造体1は、前記の積層造形による製造方法に由来する金属組織を有し溶融した合金が凝固して形成される凝固組織(凝固部30)の集合からなる。なお、図2(a)では、積層造形によって製造された合金構造体の一部分を抜き出して断面を示している。個々の凝固組織(凝固部30)は、局所加熱による溶融池(溶融部20)の輪郭形状に由来する略半球状の原形を有しており、周囲にある他の凝固部30と一体化して緻密な金属組織を形成する。また、各凝固部30は、円弧側を同じ方向に向けて2次元状に配列し、凝固部30の集合からなる層状の凝固層40を形成するようになる。そして、このようにして形成された凝固層40が多数積層されることで、凝固部30が3次元状に配列した金属組織が形成される。但し、積層造形における走査速度、走査幅等の造形条件によっては、凝固層40を形成する凝固部30が、同じ層の周囲の他の凝固部30と一体化したり、各凝固部30の弦側が、積層された他の凝固層40と一体化したりすることもあるため、凝固部の略半球状の原形や凝固部30同士の間の溶融境界100は、凝固組織中では観察されない場合があり得る。
合金構造体1は、図2(b)に示すように、非Fe主成分元素及びFeが固溶した柱状晶を主晶としている。なお、図2(b)では、合金構造体の金属組織の断面を数百μmから数mmの視野角に拡大して示している。合金構造体の金属組織中に含まれる各結晶粒50は、結晶方位が凝固層40の積層方向に略沿うようにしてエピタキシャルに成長し、粒界110(大傾角粒界)が積層方向に向けて配向しながら、凝固部30同士の間の溶融境界100を超えて延びる構造が生じる。
また、各結晶粒50は、平均結晶粒径が10μm以下にまで微細化していることがある。微細化した結晶粒50同士は結晶方位を維持しており、大傾角粒界110に区画される内側に小傾角粒界120が認められることがある。なお、小傾角粒界120は、傾角15°以下の粒界、大傾角粒界110は、傾角15°を超える粒界として定義される。微細化した結晶粒50は、傾角と共にねじれ角も小さい結晶粒の集合となる傾向がある。
これに対して、従来の高エントロピー合金材(比較例に係る合金材)は、鋳造による製造方法に由来する金属組織を有している。比較例に係る合金材では、図2(c)に示すように、等方的に延びる粒界110が認められ、平均結晶粒径が100μmを超える粗大な等軸晶の結晶粒が形成される傾向がある。なお、図2(c)では、合金材の金属組織の断面を数百μmから数mmの視野角に拡大して示している。比較例に係る合金材では、核成長に伴い偏析を生じ易く、組成分布の均一性は低くなったり、結晶粒が粗大であるために応力が分散され難く、劈開やすべりを生じる面が長尺となるため、機械的強度が十分なものとはならない。特に、固溶相が良好に成長することができないため、寸法が小さく複雑形状を形成することもできないという難がある。
これに対して、本実施形態に係る合金構造体は、結晶方位が比較的揃った結晶がエピタキシャルに成長し、同等の環境で良好に成長した結晶粒50の集合からなるため、合金粉末について調整された元素組成が合金構造体の形状寸法に依らず維持され易く、組成分布の均一性が高くなる。また、結晶粒50が微細化され、応力による歪が局所的に集中し難く、機械的強度の均一性が高くなる利点がある。また、劈開やすべりを生じる面が短尺となるため、機械的強度が向上する点で有利である。さらには、結晶の成長方向が配向して、異方性が高くなるため、方向強度や磁気特性を利用する場合にも有効である。
次に、本実施形態に係る合金構造体原料として用いられる合金粉末の製造方法の一例について説明する。
図3は、合金構造体の原料として用いられる合金粉末の製造方法の一例を示す概略流れ図である。
前記のとおり本実施形態に係る合金構造体の諸特性は、積層造形において用いる合金粉末の元素組成の影響が反映され易い。したがって、原料として用いる合金粉末は、不可避的不純物の濃度が低減された元素組成とすることが好ましく、合金粉末の製造方法としては、清浄度が高い合金を製造することが可能な真空炭素脱酸法を利用した複合精錬による製造方法を利用するのが好適な形態となる。図3に示す合金粉末の製造方法は、取鍋を使用して炉外精錬を行い、粗金属を原料の地金として、真空炭素脱酸法を利用した複合製錬を行うことで清浄度が高い合金を精錬し、その合金を用いて合金粉末の調製を行う方法となっており、前記の合金粉末の調製工程として適用することができる方法となっている。
この製造方法では、図3(a)に示すように、はじめに、電気炉301によって、合金粉末の原料となる粗金属の金属塊302を溶融させる溶融処理を行う。なお、図3では、電気炉301が、炉内でアーク放電を発生させる炭素電極等の電極304と、炉内に酸素ガスを吹き込む酸素バーナ305とを備えた三相交流アーク炉とされているが、同等の構成を有する直流アーク炉や転炉等を使用することも可能である。
金属塊302としては、金属スクラップ、鉄屑等を利用することができる。金属塊302の種類は、製造しようとする合金粉末に適合する元素組成となるように配合し、あらかじめ不純物元素が少ない種類を選定することが好ましい。非Fe主成分元素として含有させない場合には、Snについては0.005wt%以下、Sbについては0.002wt%以下、Asについては0.005wt%以下の範囲となるような種類を選定することが好ましい。
溶融処理では、図3(a)に示すように、金属塊302を電気炉301の炉内に投入し、電極304と金属塊302との間でアーク放電303を発生させることによって、金属塊302を溶融させ、溶湯310とする。そして、図3(b)に示すように、溶湯310に、酸素バーナ305によって酸素ガス306を吹き込むことで、スラグを形成させる過酸化処理を行う。このように溶湯310に酸素を吹き込む過酸化処理を行うことによって、溶湯310に含まれているSi、Mn、P等の不純物元素を酸化物としてスラグ中に移行させることができる。また、酸素による燃焼熱で溶湯310を加熱するための電力量を削減することができるという利点もある。
溶湯310にスラグを形成させた後、図3(c)に示すように、溶湯310を電気炉301の出湯口308から出湯して取鍋309に移す。このとき、溶湯310の液面に浮上した不純物元素を多量に含むスラグが、取鍋309に移行しないようにして溶湯310とスラグとを分離し、Si、Mn、P等の不純物元素の濃度が低下した溶湯310を得る。
続いて、図3(d)に示すように、溶湯310を取鍋309の底部から出湯して取鍋精錬炉311に移す。取鍋精錬炉311は、底部にポーラスプラグ313を備えており、アルゴンガス314が不図示のガス供給器からポーラスプラグ313を通じて炉内に送気されることでアルゴンバブリングが行われるようになっている。アルゴンバブリングが行われることによって、取鍋精錬炉311に移された溶湯310は、撹拌により均一化されると共に、O、N等の不純物元素が脱気されることになる。
取鍋精錬炉311では、図3(e)に示すように、はじめに、溶湯310の1次加熱処理を行う。取鍋精錬炉311に移された溶湯310を、電極304でアーク放電を発生させることによって加熱すると共に、ポーラスプラグ313を通じた底吹のアルゴンバブリングを継続して行うことで、元素成分や温度を均一化させることができる。
続いて、図3(f)に示すように、溶湯310を真空脱ガス装置316を使用して脱ガス処理する。真空脱ガス装置316は、不図示の真空ポンプが接続された排気孔317を介して装置内が減圧され、取鍋精錬炉311に対して上下に相対運動することで溶湯310を吸上して、溶湯310に含まれるガスを脱ガス処理する装置となっている。なお、図3においては、真空脱ガス装置316として、1本の浸漬管を有するDH真空脱ガス炉(Dortmund Hoerde式)を模式的に示しているが、浸漬管を備えないシュラウドで取鍋製錬炉311を覆う形態としてもよいし、RH真空脱ガス炉(Ruhrstahl Heraeus式)や、RHインジェクション炉の形態とすることも可能である。
脱ガス処理では、真空脱ガス装置316によって装置内の気相雰囲気が減圧された状態で、アルゴンバブリングを行うことによって、溶湯310から脱気された不純物元素のガスを効率的に排気させることができる。脱ガス処理の間には、溶湯310を不図示のヒータで加熱して温度の低下を防止し、溶湯310には、適宜脱硫用粉体を注入する。溶湯310をこのような脱ガス処理に供することによって、S、O、H等の不純物元素の濃度が低下した溶湯310が得られる。
続いて、取鍋精錬炉311では、図3(g)に示すように、溶湯310の2次加熱処理を行う。2次加熱処理では、溶湯310の元素組成と温度とを最終調整する。
続いて、図3(h)に示すように、取鍋精錬炉311の溶湯310を鋳込み処理する。溶湯310は、取鍋精錬炉311の底部から出湯してタンディッシュ318に移し、タンディッシュ318において不純物元素をスラグとして分離させる。そして、溶湯310をタンディッシュ318の底部から出湯し、真空容器319内に設置された鋳型321に注湯する。真空容器319には、排気孔320を介して不図示の真空ポンプが接続され、鋳型321が設置された容器内部が減圧雰囲気とされるようになっている。このようにして、鋳型321に注湯された溶湯310が冷却されると、任意の形状の合金塊322が鋳造される。溶湯310を減圧雰囲気で鋳込み処理することによって、N、O、H等の不純物元素の濃度が低下した合金が得られる。
以上のような方法によって精錬された合金は、粉末調製工程において用いられる合金粉末を調製するための地金として用いることができる。真空炭素脱酸法を利用した複合製錬によって、不純物元素の濃度が低下した清浄度が高い合金となっているため、元素組成分布の均一性が高い粒子で構成され、粒子間の元素組成の均一性も高い合金粉末を調製するのに好適である。このようにして精錬された合金の清浄度を維持させる観点からは、合金粉末を調製するにあたって、真空炭素脱酸法を利用した粉末化処理を行うのが好ましい形態となる。
真空炭素脱酸法を利用した粉末化処理は、図3(i)に示すようにガスアトマイザが直結した真空炉324を利用して行うことができる。真空炉324は、炉内でアーク放電を発生させる電極304と、炉内にアルゴンガスを吹き込む不図示のガス注入ランスと、真空ポンプが接続される不図示の排気孔とを備えた電気炉とされる。真空炉324の底部には、ノズル328が設けられており、ノズル328の下方には、アトマイズチャンバ330がノズル328の出口を気密に覆うようにして備えられている。また、ノズル328の出口脇には、ノズル328から流下する溶湯326にアルゴンガス等の不活性ガスを吹き付けるガス噴射孔329が設けられている。
真空炉324では、炉内に前記の複合精錬によって得られた合金が投入され、電極304と合金との間でアーク放電を発生させることによって、合金の溶湯326が形成される。なお、加熱される溶湯326の温度は、1600℃を超え2500℃以下の温度範囲である。溶湯326は、不図示の排気孔に接続される真空ポンプによって減圧雰囲気の下で、アルゴンバブリングが行われながら脱ガス処理されて、N、O、H等の不純物元素の濃度がさらに低減される。そして、脱ガス処理されて清浄度が維持された状態の溶湯326が、ノズル328から流下する。その後、流下した溶湯328は、ガス噴射孔329から噴射される不活性ガスが吹き付けられることによって微粒子化し、アトマイズチャンバ330内で凝固して粉末331となって底部に集積する。
真空炉324は、融点が比較的高い高エントロピー合金の溶融を行えるように耐熱且つ耐火性の加熱炉とすればよく、炉壁を水冷式等としてもよい。真空炉324の炉壁としては、例えば、黒鉛(グラファイト)、石英(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、マグネシア(MgO)、Al2O3・SiO2・Fe2O3・Na2O等の混合焼結体からなるアルミナ質セラミックス、Al2O3・SiO2・Fe2O3・TiO2等の混合焼結体からなるムライト質セラミックス、Al2O3・MgO・SiO2・CaO・Fe2O3等の混合焼結体からなるマグネシア質セラミックス、Al2O3・MgO・ZrO2・SiO2・CaO・Fe2O3・TiO2等の混合焼結体からなるジルコニア質セラミックス、Al2O3・MgO・SiO2・CaO・Fe2O3等の混合焼結体からなるスピネル質セラミックス、Al2O3・MgO・SiO2・CaO・Fe2O3等の混合焼結体からなるカルシア質セラミックス、Al2O3・SiO2・Fe2O3・TiO2等の混合焼結体からなるシリカ質セラミックス等を適用することが好ましい。特に1000℃程度以上の超高温域の溶融を行う場合には、TiC、ZrC、HfC、NbC、TaC等の炭化物によるコーティングを行うことが好ましい。
図4は、真空炭素脱酸法を利用して調製された合金粉末における不純物元素の濃度変化の経過の一例を示した図である。
図4では、前記の真空炭素脱酸法を利用して合金を精錬し、その合金を粉末化処理して合金粉末を調製する過程において、合金粉末の地金に含まれる不純物元素の濃度変化を経時的に測定して示している。なお、経過時間1.5h〜2.8hに相当するA期間は、電気炉301における過酸化処理(図3(b)参照)に相当し、経過時間2.8h〜6hに相当するB1期間は、取鍋精錬炉311における1次加熱処理(図3(e)参照)に相当し、経過時間6h〜6.5hに相当するB2期間は、取鍋精錬炉311における脱ガス処理(図3(f)参照)に相当し、経過時間6.5h〜8.2hに相当するB3期間は、取鍋精錬炉311における2次加熱処理(図3(g)参照)に相当し、経過時間8.2h以降に相当するC期間は、真空炉324における脱ガス処理(図3(i)参照)に相当している。
図4に示すように、真空炭素脱酸法を利用することによって、取鍋精錬炉311において2次加熱処理まで実施すると、Cについては、0.18wt%、Siについては0.01wt%、Mnについては0.019wt%、Pについては0.001wt%、Sについては0.001wt%まで濃度が低下し、真空炉324において脱ガス処理まで実施すると、Oについては0.0003wt%(3ppm)、Nについては0.001wt%(10ppm)まで濃度が低下し得ることが分かる。このように、真空炭素脱酸法を利用して合金粉末を調製する過程で、スラグ分離の回数、脱ガス処理の時間等を適宜調整することで、P、Si、S、Sn、Sb、As、Mn、O、N等の不純物元素の濃度を所望の範囲に制限することが可能である。なお、P、Si、Sn、Sb、As又はMnの元素を非Fe主成分元素として合金構造体に含有させる場合には、精錬の過程での濃度低下を見越して地金を選定したり、スラグ分離の回数等を適宜調整したりすればよい。
以上の本実施形態に係る合金構造体は、構造部材、機構部材等として適用することができる。積層造形可能な範囲で、任意の形状とすることができ、長さ寸法が70mmを超え、体積が5495mm3を超える任意の寸法とすることができる。常環境における用途の他、高温環境、高放射線量環境、高腐食性環境等の過酷環境における用途に用いることが可能である。また、高温下における原子拡散の速度が遅く、物性を安定して維持できることから、高温環境に長期間おかれる用途にも好適に用いることができる。より具体的には、例えば、ケーシング、配管、バルブ等を含めたプラント用構造材、発電機用構造材、原子炉用構造材、航空宇宙用構造材、油圧機器用部材、タービンブレード等を含むタービン用部材、ボイラ用部材、エンジン用部材、ノズル用部材、軸受やピストン等の各種機器の機構部材等の用途に利用することが可能である。また、本実施形態に係る合金構造体は、金属製又は合金製の構造部材、機構部材等の構造体の表面を被覆するように適用することによって、耐熱コーティング、耐腐食コーティング、耐摩耗コーティング、原子拡散の障壁となる拡散バリア層等として利用することも可能である。また、摩擦撹拌溶接(Friction Stir Welding;FSW)用加工具等の工具類にも適用することができ、高い高温強度や耐摩耗性が要求される鉄系材料の摩擦撹拌溶接を含む広い用途について好適に利用することができる。
以下、本発明の実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
本発明の実施例として、実施例1−1〜実施例1−4及び実施例2−1〜実施例2−3に係る合金構造体を製造し、凝固組織の観察、元素組成分布、機械的特性の評価を行った。また、実施例の対照として、比較例1−1〜比較例1−4及び比較例2−1〜比較例2−4に係る合金構造体を製造し、併せて評価を行った。
[実施例1−1]
実施例1−1として、元素組成がAl0.3CoCrFeNiで表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%である。
はじめに、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%である合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を50μm以上100μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金構造体を造形した。基材としては、100mm×100mm×10mmの板状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源を電子ビームとした電子ビーム溶融積層造形装置「A2X」(Arcam社製)を使用した。積層造形装置では、真空雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、直径10mm、高さ50mmの円柱形状の合金構造体を製造した。このとき、合金粉末の溶融は、合金の融点(Tm)の50%から80%の温度の予備加熱を事前に行いながら実施し、展延された合金粉末の飛散を抑制した。その後、合金構造体を基材から切り離した。
[実施例1−2]
実施例1−2として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。
実施例1−2に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例1−1と同様にして製造した。
[比較例1−1]
比較例1−1として、元素組成がAl0.3CoCrFeNiで表わされる合金構造体を鋳造により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%である。
はじめに、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%である合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を50μm以上100μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
続いて、得られた合金粉末を、アルミナ製の坩堝に投入し、真空雰囲気下において、高周波誘導加熱によって溶解させた後、銅製の水冷鋳型に注湯し、冷却して凝固させることによって、直径10mm、高さ50mmの円柱形状の合金構造体を製造した。
[比較例1−2]
比較例1−2として、元素組成がAl0.2CoCrFeNiで表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約4.8at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.8at%である。
比較例1−2に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例1−1と同様にして製造した。
[実施例1−3]
実施例1−3として、元素組成がAl1.5CoCrFeNiで表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%である。
はじめに、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%である合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を20μm以上50μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約30μmとなるようにした。
続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金材を造形した。基材としては、直径10mm、高さ50mmの円柱形状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源をレーザー光としたレーザー溶融積層造形装置「EOSINT M270」(EOS社製)を使用した。積層造形装置では、窒素雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、200μmの多層膜状の合金材を製造した。
[比較例1−3]
比較例1−3として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされる合金構造体を溶射により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。
はじめに、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%となるように、Al、Co、Cr、Fe及びNiの各金属粉を混合した。なお、各金属粉は分級し、粒子径分布を50μm以上150μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
続いて、混合した金属粉末を、窒素雰囲気下において、基材上に、プラズマ溶射法によって溶射することによって、200μmの膜状の合金構造体を製造した。基材としては、直径100mm、高さ10mmの円柱形状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。
[比較例1−4]
比較例1−4として、元素組成がAl2.0CoCrFeNiで表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約33.3at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約16.7at%である。
比較例1−4に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例1−2と同様にして製造した。
[実施例1−4]
実施例1−4として、元素組成がAlCoCrFeNiMo0.5で表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%、Moの原子濃度が約9.1at%である。
はじめに、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%、Moの原子濃度が約9.1at%である合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を50μm以上100μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金構造体を造形した。基材としては、直径300mm、高さ10mmの円柱形状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源を電子ビームとした電子ビーム溶融積層造形装置「A2X」(Arcam社製)を使用した。積層造形装置では、真空雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、直径300mm、高さ100mmの略円柱の羽根車形状の合金構造体を製造した。このとき、合金粉末の溶融は、合金の融点(Tm)の50%から80%の温度の予備加熱を事前に行いながら実施し、展延された合金粉末の飛散を抑制した。その後、羽根車形状の合金構造体を基材から切り離した。
[実施例2−1]
実施例2−1として、元素組成がAl0.3CoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
実施例2−1に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例1−1と同様にして製造した。
[実施例2−2]
実施例2−2として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
実施例2−2に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例1−1と同様にして製造した。
[比較例2−1]
比較例2−1として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を鋳造により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
比較例2−1に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、比較例1−1と同様にして製造した。
[比較例2−2]
比較例2−2として、元素組成がAl0.2CoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を鋳造により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約4.8at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.8at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
比較例2−2に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例1−1と同様にして製造した。
[実施例2−3]
実施例2−3として、元素組成がAl1.5CoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%である。また、Pの濃度を0.005wt%以下、Siの濃度を0.040wt%以下、Sの濃度を0.002wt%以下、Snの濃度を0.005wt%以下、Sbの濃度を0.002wt%以下、Asの濃度を0.005wt%以下、Mnの濃度を0.050wt%以下、Oの濃度を0.001wt%以下、Nの濃度を0.002wt%以下に制限した。
はじめに、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%であり、Pの濃度を0.005wt%以下、Siの濃度を0.040wt%以下、Sの濃度を0.002wt%以下、Snの濃度を0.005wt%以下、Sbの濃度を0.002wt%以下、Asの濃度を0.005wt%以下、Mnの濃度を0.050wt%以下、Oの濃度を0.001wt%以下、Nの濃度を0.002wt%以下に制限した合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を20μm以上50μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約30μmとなるようにした。
続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金材を造形した。基材としては、直径100mm、高さ10mmの円柱形状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源をレーザー光としたレーザー溶融積層造形装置「EOSINT M270」(EOS社製)を使用した。積層造形装置では、窒素雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、200μmの多層膜状の合金材を製造した。
[比較例2−3]
比較例2−3として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を溶射により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
はじめに、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%となり、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した、Al、Co、Cr、Fe及びNiの各金属粉を混合した。なお、各金属粉は分級し、粒子径分布を50μm以上150μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
続いて、混合した金属粉末を、窒素雰囲気下において、基材上に、プラズマ溶射法によって溶射することによって、200μmの膜状の合金構造体を製造した。基材としては、直径100mm、高さ10mmの円柱形状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。
[比較例2−4]
比較例2−4として、元素組成がAl2.0CoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約33.3at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約16.7at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
比較例2−4に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例2−2と同様にして製造した。
次に、製造した実施例1−1〜実施例1−4及び実施例2−1〜実施例2−3に係る合金構造体、及び、比較例1−1〜比較例1−4及び比較例2−1〜比較例2−4に係る合金構造体について、凝固組織の観察、ニッケル濃度分布の解析、硬度測定を行った。なお、凝固組織の観察は、高分解能の透過型電子顕微鏡によって、結晶構造と平均結晶粒径を確認することによって行った。また、ニッケル濃度分布の解析は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光(Scanning Electron Microscope - Energy Dispersive X-ray Detector;SEM−EDX)によって、任意に抽出した10箇所の領域についてニッケル濃度を計測することによって行った。また、硬度測定は、合金材の任意に抽出した10点についてビッカース硬度(Hv)を計測することによって行った。試験荷重は100gfとし、保持時間は10秒とした。
凝固組織の観察、ニッケル濃度分布の解析、硬度測定の結果を表1に示す。表1において元素組成の欄は、主成分元素と添加元素の原子濃度比を示している。また、不純物の欄は、「±」が不可避的不純物を制限していない例、「−」が不可避的不純物をやや制限した例、「−−」が不可避的不純物をより制限した例を示している。また、「結晶構造」の欄は、主晶の結晶構造を示している。「硬度」の欄における「*」は、割れが生じたことを示している。
表1に示されるように、実施例1−1〜実施例1−4及び実施例2−1〜実施例2−3に係る合金構造体は、面心立方格子の結晶構造又は体心立方格子の結晶構造のいずれかを有していることが確認された。また、ニッケル濃度分布及び硬度の値からは、標準偏差が小さく、元素組成及び機械的強度の分布の均一性が高いことが分かる。また、凝固組織の観察からは、図2(a)及び(b)に示されるような凝固組織と結晶構造とが確認された。羽根車形状とした実施例1−4に係る合金構造体については、塩水(人工海水)腐食試験時における腐食減肉量が、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)よりも抑制されることが別途確認され、耐腐食用構造部材、耐腐食用機構部材等として好適であることも確認された。
これに対して、比較例1−1〜比較例1−4及び比較例2−1〜比較例2−4に係る合金構造体は、ニッケル濃度分布及び硬度の値は、標準偏差が大きく、元素組成及び機械的強度の分布の均一性は低いことが分かる。また、結晶構造は、元素組成の均一性の低さが反映されて、複相組織が形成されていることが認められた。特に、Alの原子濃度を低下させると、硬度が軟鋼よりも低い値に留まり、構造部材、機構部材等として不適であることが判明した。また、Alの原子濃度を増大させると、B2型金属間化合物が生じ、試験時において割れが生じてしまい、構造部材、機構部材等として不適であることが判明した。
一般に、構造部材、機構部材等においては、熱劣化、摩耗、腐食等が、耐性が低い領域を起点として進展するため、圧延等を考慮すると構造部材、機構部材等においては硬度と延性を両立することが望まれるといえる。また、これらの性質の偏差も極小化されることが求められるといえる。このような観点からは、実施例1−1〜実施例1−4及び実施例2−1〜実施例2−3に係る合金構造体と比較例1−1〜比較例1−4及び比較例2−1〜比較例2−4に係る合金構造体との結果から、本発明が有する元素組成及び機械的強度の分布の均一性が、構造部材、機構部材等の特性を向上させる場合において極めて有利に働くことが確認できたといえる。
次に、本発明の実施例として、実施例3−1及び実施例3−2に係る合金構造体を製造し、応力−歪特性の評価を行った。
図5は、実施例3に係る合金構造体の形状寸法を示す図である。
[実施例3−1]
実施例3−1として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した図5に示す合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
はじめに、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%であり、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を45μm以上105μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金材を造形した。基材としては、200mm×200mm×10mmの板状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源を電子ビームとした電子ビーム溶融積層造形装置「A2X」(Arcam社製)を使用した。積層造形装置では、真空雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、図5に示すように、150mm×150mm×30mmの板状造形物(板状部)を形成し、その上に28mm×28mm×20mmの直方体造形物(直方体部)を縦横6mmの間隔を空けて計16個造形した。このとき、合金粉末の溶融は、合金粉末の融点(Tm)の50%から80%の温度の予備加熱を事前に行いながら実施し、展延された合金粉末の飛散を抑制した。なお、造形物全体の体積は、925880mm3であった。
[実施例3−2]
実施例3−2として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限していない図5に示す合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。
実施例3−2に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例3−1と同様にして製造した。なお、合金粉末における不可避的不純物の濃度は、Pの濃度が0.008wt%、Siの濃度が0.040wt%、Sの濃度が0.012wt%、Snの濃度が0.006wt%、Sbの濃度が0.002wt%、Asの濃度が0.006wt%、Mnの濃度が0.300wt%、Oの濃度が0.002wt%、Nの濃度が0.003wt%であった。
次に、製造した実施例3−1及び実施例3−2に係る合金構造体について、ニッケル濃度分布の解析を行った。ニッケル濃度分布の解析は、計16個の各直方体部について、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光(Scanning Electron Microscope - Energy Dispersive X-ray Detector;SEM−EDX)によって、任意に抽出した10箇所の領域についてニッケル濃度を計測することによって行った。計16個の各直方体部についての、Ni濃度分布の平均値と標準偏差の結果を表2に示す。
表2に示すように、不可避的不純物をより制限した実施例3−1に係る合金構造体では、各直方体部についてのニッケル濃度分布の偏差が、実施例3−2に係る合金構造体よりも小さい傾向が現れており、合金粉末の不可避的不純物をより制限することで、合金構造体の元素組成分布の均一性が高められていることが分かる。
次に、図5に示す合金構造体の計16個の各直方体部について積層方向に沿って試験片を採取し、単軸圧縮試験を行った。試験片は、合金構造体における積層方向を長軸とするダンベル状試験片を各直方体部から板状部にかけて切り出したものとし、平行部の寸法は、直径4mm×高さ30mmとしたものを用いた。室温における圧縮真応力―圧縮真歪線図の測定結果を、計16個の各直方体部についての平均として図6に示す。
図6は、実施例3に係る合金構造体における圧縮真応力―圧縮真歪線図である。
図6に示すように真応力―真歪線図のばらつきは、実施例3−1及び実施例3−2のいずれにおいてもほとんど認められず、図6に示す線幅の線図を描くことができた。すなわち、非特許文献2に示される合金材よりも約160倍以上大きな体積の合金構造体において、造形物の全域に亘り、機械的特性の均一性が高められることが確認できた。特に、実施例3−2では、引張強度は約2800MPa、全伸びは約38%であるのに対し、実施例3−1では、引張強度は約3850MPa、全伸びは約43%であり、引張強度が約1.37倍、全伸びが約1.1倍増加していることが分かる。よって、不可避的不純物の濃度を低減することにより、より機械的特性を向上させることが可能であることが認められる。
次に、本発明の実施例として、実施例4−1〜実施例4−3に係る合金構造体を製造し、引張特性の評価を行った。
[実施例4−1]
実施例4−1として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。また、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した。
はじめに、Alの原子濃度が約7at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約23.3at%であり、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を45μm以上105μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金構造体を造形した。基材としては、200mm×200mm×10mmの板状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源を電子ビームとした電子ビーム溶融積層造形装置「A2X」(Arcam社製)を使用した。積層造形装置では、真空雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、凝固層の積層方向を水平軸とするダンベル状試験片を合金構造体として造形した。このとき、合金粉末の溶融は、合金粉末の融点(Tm)の50%から80%の温度の予備加熱を事前に行いながら実施し、展延された合金粉末の飛散を抑制した。なお、ダンベル状試験片は、試験片本体を支持する支持部材と共に基材上に横置きの状態で造形し、平行部の寸法を直径4mm×高さ30mmとした。
[実施例4−2]
実施例4−2として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限した合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。また、Pの濃度を0.002wt%〜0.005wt%、Siの濃度を0.010wt%〜0.040wt%、Sの濃度を0.001wt%〜0.002wt%、Snの濃度を0.002wt%〜0.005wt%、Sbの濃度を0.001wt%〜0.002wt%、Asの濃度を0.001wt%〜0.005wt%、Mnの濃度を0.020wt%〜0.050wt%、Oの濃度を0.0003wt%〜0.001wt%、Nの濃度を0.001wt%〜0.002wt%とした。
実施例4−2に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例4−1と同様にして製造した。
[実施例4−3]
実施例4−3として、元素組成がAlCoCrFeNiで表わされ、不可避的不純物の濃度を制限していない合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約20.0at%である。
実施例4−3に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成を変えた点を除いて、実施例4−1と同様にして製造した。なお、合金粉末における不可避的不純物の濃度は、Pの濃度が0.008wt%、Siの濃度が0.040wt%、Sの濃度が0.012wt%、Snの濃度が0.006wt%、Sbの濃度が0.002wt%、Asの濃度が0.006wt%、Mnの濃度が0.300wt%、Oの濃度が0.002wt%、Nの濃度が0.003wt%であった。
次に、製造した実施例4−1〜実施例4−3に係る合金構造体について、引張試験を行った。引張試験は、0℃から900℃の温度にかけて行い、引張強度を計測した。引張試験の測定結果を図7に示す。
図7は、実施例4に係る合金構造体における引張強度の試験温度依存性を示す図である。
図7に示すように、不可避的不純物を制限した実施例4−1〜実施例4−2に係る合金構造体では、不可避的不純物を制限していない実施例4−3に係る合金構造体に対して、引張強度が向上していることが判る。また、不可避的不純物をより制限した実施例4−1に係る合金構造体では、広い温度域で引張強度が向上していることが判る。よって、不可避的不純物の濃度を低減することにより、さらに機械的特性を向上させることが有効であることが確認された。
次に、本発明の実施例として、主成分元素の元素種類を変えて実施例5、実施例6、実施例7及び実施例8に係る合金構造体を製造し、その評価を行った。
はじめに、鉄(Fe)とその他の複数元素とを主成分として、高エントロピー合金の固溶相を形成することが可能か否かを熱力学的計算によって推定した。なお、熱力学的計算は、Feを含めて5種類以上の元素を等原子比率となる元素組成で含有する場合を仮定して第一原理計算法を使用して行い、そのような元素組成において常温且つ常圧下で固溶相が形成され得るか否かを確認した。主成分の元素は、Feのほか、元素周期律表の第3族から第16族までに含まれる原子番号3から原子番号83の元素群から複数種づつ選択した。
図8は、合金構造体において固溶相を形成することができる主成分元素の範囲を示す図である。
図8において、縦軸は、元素の原子番号、横軸は、Fe原子に対する原子半径の比率(各元素の原子半径/Feの原子半径)を示している。また、各プロットの形状は、常温且つ常圧下での結晶構造を示している。二重四角は面心立方格子、二重丸は体心立方格子、六角は六方細密充填、四角はその他の結晶格子である。
主成分の元素の種々の組合せについて熱力学的計算を行ったところ、図8において鎖線で囲まれた領域の元素を等原子比率で含有する元素組成について、固溶相を形成することが可能であることが判明した。具体的には、Feと共に固溶化が可能であることが認められた元素(非Fe主成分元素)は、原子番号13のAlから原子番号79のAuまでのうち、Fe原子に対する原子半径の比率が0.83以上1.17以下である元素、すなわち、Al、Si、P、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Auである。また、その組合せによる成分組成としては、CoCrFeNiAl、CoCrFeNiCu、CoCrFeNiCuAl、CoCrFeNiCuAlSi、MnCrFeNiCuAl、CoCrFeNiMnGe、CoCrFeNiMn、CoCrFeNiMnCu、TiCoCrFeNiCuAlV、TiCoCrFeNiAl、AlTiCoCrFeNiCuVMn、TiCrFeNiCuAl、TiCoCrFeNiCuAl、CoCrFeNiCuAlV、TiCoCrFeNiAl、TiCoCrFeNiCuAl、CoCrFeNiCuAl、CoFeNiCuV、CoCrFeNiCuAl、MnCrFeNiAl、MoCrFeNiCu、TiCoCrFeNi、TiCoCrFeNiMo、CoCrFeNiCuAlV、MnCrFeNiCu、TiCoCrFeNi、TiCoCrFeNiAl、CoCrFeNiMo、CoCrFeNiAlMo、TiCoCrFeNiCu、CoCrFeNiCuAlMn、TiCoCrFeNiMo、CoCrFeNiCuAlV、TiCoCrFeNiCuVMn、AlTiCoCrFeNiCuVMn、CoCrFeNiCuAlMn、CoCrFeNiAlMo、CoCrFeNiCuAlMo、TiCoCrFeNiCu等が確認された。これらのうち、AlTiCoCrFeNiCuVMnの9元高エントロピー合金を、実施例5、実施例6、実施例7及び実施例8に係る合金構造体の造形に応用した。
[実施例5]
実施例5として、元素組成をAlTiCoCrFeNiCuVMnとし、不可避的不純物の濃度を制限した図5に示す合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Al、Ti、Co、Cr、Fe、Ni、Cu、V及びMnの原子濃度については、原子濃度の差を±3%以内の範囲に揃えて略等原子比率とした。また、Pの濃度を0.005wt%〜0.002wt%、Siの濃度を0.040wt%〜0.010wt%、Sの濃度を0.002wt%〜0.001wt%、Snの濃度を0.005wt%〜0.002wt%、Sbの濃度を0.002wt%〜0.001wt%、Asの濃度を0.005wt%〜0.001wt%、Mnの濃度を0.050wt%〜0.020wt%、Oの濃度を0.001wt%〜0.0003wt%、Nの濃度を0.002wt%〜0.001wt%の範囲に制限した。
はじめに、Al、Ti、Co、Cr、Fe、Ni、Cu、V及びMnの原子濃度が、略等原子比率であり、Pの濃度を0.002wt%以下、Siの濃度を0.010wt%以下、Sの濃度を0.001wt%以下、Snの濃度を0.002wt%以下、Sbの濃度を0.001wt%以下、Asの濃度を0.001wt%以下、Mnの濃度を0.020wt%以下、Oの濃度を0.0003wt%以下、Nの濃度を0.001wt%以下に制限した合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を45μm以上105μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約70μmとなるようにした。
続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金材を造形した。基材としては、200mm×200mm×10mmの板状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源を電子ビームとした電子ビーム溶融積層造形装置「A2X」(Arcam社製)を使用した。積層造形装置では、真空雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって造形した。このとき、合金粉末の溶融は、合金粉末の融点(Tm)の50%から80%の温度の予備加熱を事前に行いながら実施し、展延された合金粉末の飛散を抑制した。製造された実施例5に係る合金構造体は、図5に示す合金構造体と略同形状を有し、造形物全体の体積は、856700mm3であった。
次に、実施例5に係る合金構造体の計16個の各直方体部について積層方向に沿って試験片を採取し、単軸圧縮試験を行った。試験片は、合金構造体における積層方向を長軸とするダンベル状試験片を各直方体部から板状部にかけて切り出したものとし、平行部の寸法は、直径8mm×高さ12mmとしたものを用いた。また、製造された実施例5に係る合金構造体について、Fe濃度分布の解析を行った。Fe濃度分布の解析は、計16個の各直方体部について、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光によって、任意に抽出した10箇所の領域について鉄濃度を計測することによって行った。
その結果、各直方体部についての平均では、真応力―真歪線図のばらつきと、Fe濃度分布とが、いずれも1〜3%以内の差の範囲内にあることが確認された。また、標準偏差は、1.20%以下という結果が得られ、元素組成の分布の均一性が高められることが確認できた。また、実施例5に係る合金構造体の元素組成は、用いた合金粉末の元素組成と略同一で、成分濃度の誤差が凡そ±3%以内に収まっており、元素組成分布、溶融速度、冷却速度等に起因するむらが解消されると共に、元素組成及び機械的強度の分布の均一性も確保できることが確認された。
[実施例6]
実施例6として、元素組成をAlTiCoCrFeNiCuVMnとし、不可避的不純物の濃度を制限した円弧状の形状を有する合金構造体(図9参照)を積層造形により製造した。
図9は、実施例6に係る合金構造体の形状寸法を示す図である。
図9に示すように、実施例6に係る合金構造体1Aは、横断面が円弧状の形状を有する柱状体であり、タービンブレード等に適用できる形状となっている。このような形状の合金構造体1Aを、積層造形される立体形状を変えた点を除いて、実施例5と同様にして製造し、幅(W)149mm×奥行き(D)110mm×高さ(H)153mmの円弧状造形物として造形した。製造された実施例6に係る合金構造体は、造形物全体の体積が、184480mm3、表面積が、60470mm2であり、非特許文献2に示される合金材の約33倍の体積で形成することができた。
次に、実施例6に係る合金構造体について、Fe濃度分布の解析を行った。Fe濃度分布の解析は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光によって、任意に抽出した10箇所の領域について鉄濃度を計測することによって行った。
その結果、実施例6に係る合金構造体の元素組成は、用いた合金粉末の元素組成と略同一で、成分濃度の誤差が凡そ±3%以内に収まっており、元素組成分布、溶融速度、冷却速度等に起因するむらが解消されると共に、元素組成及び機械的強度の分布の均一性も確保できることが確認された。
[実施例7]
実施例7として、元素組成をAlTiCoCrFeNiCuVMnとし、不可避的不純物の濃度を制限したダンベル状の形状を有する合金構造体を積層造形により製造した。
実施例7に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成と、積層造形される立体形状とを変えた点を除いて、実施例4−1と同様にして製造し、凝固層の積層方向を水平軸とするダンベル状の造形物とした。
その結果、実施例7に係る合金構造体の元素組成は、用いた合金粉末の元素組成と略同一で、成分濃度の誤差が凡そ±3%以内に収まっており、元素組成分布、溶融速度、冷却速度等に起因するむらが解消されると共に、元素組成及び機械的強度の分布の均一性も確保できることが確認された。また、実施例4−1に係る合金構造体と比較して、表面が平滑になり、金属光沢が強く発現することが確認され、合金構造体の元素組成を多元化することによって、表面性状を改質する効果が得られることが分かった。
[実施例8]
実施例8として、元素組成をAlTiCoCrFeNiCuVMnとし、不可避的不純物の濃度を制限したロッド状の形状を有する合金構造体を積層造形により製造した。
実施例8に係る合金構造体は、合金粉末の調製に用いる地金の組成と、積層造形される立体形状とを変えた点を除いて、実施例4−1と同様にして造形した。
その結果、実施例8に係る合金構造体の元素組成は、用いた合金粉末の元素組成と略同一で、成分濃度の誤差が凡そ±3%以内に収まっており、元素組成分布、溶融速度、冷却速度等に起因するむらが解消されると共に、元素組成及び機械的強度の分布の均一性も確保できることが確認された。製造された実施例8に係る合金構造体を摩擦撹拌用ツールとして使用して、厚さ10mm以下の軟鉄製の板材について摩擦撹拌接合による接合を行った。その結果、接合部に欠陥を生じることなく接合することができ、反りがほとんど見られない良好な接合を行うことができた。すなわち、多元化された実施例8に係る合金構造体は、高温強度や耐摩耗性が要求され、従来困難であったFeを主体とした材料の摩擦撹拌接合に適用可能であることが確認された。また、凝固層造形工程で、凝固部が形成されるまでの高温の状態において、凝固部乃至凝固層の形状成形加工や表面加工を行うことによって、適切に加工が施された造形物を得ることができることも確認された。