本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
図1に、本発明における、潜像印刷物(1)を示す。図1(a)に示すのは、潜像印刷物(1)の正面図であり、図1(b)に示すのは、潜像印刷物(1)のAA´ラインにおける側面図である。
図1に示すように、潜像印刷物(1)は、基材(2)の上に光反射領域(3)を有し、その上に蒲鉾状要素群(4)が重なり、蒲鉾状要素群(4)の上に潜像要素群(5)が重ね合わさって成る。図1(b)は、光反射領域(3)が、基材(2)の上に形成した光反射層(3A)によって構成される例であるが、基材(2)自体が光反射性を備える場合は、基材(2)自体をそのまま光反射領域(3)として用いることもできる。本発明の技術の対象とする貴重印刷物は、凹版、地紋、微小文字、光学的変化インキ等の他の印刷が施される場合があり、その場合、他の印刷模様の視認性に影響しないように、基材(2)の一部に光反射層(3A)を形成することが好ましい。
本発明において、基材(2)は、後述する手段によって、光反射層(3A)、蒲鉾状要素群(4)及び潜像要素群(5)が形成可能な平面を備えていれば良く、紙、プラスティック、金属等であっても良く、色、材質及び大きさは自由に選択できる。
(光反射領域)
本発明において、光反射領域(3)は、正反射時に強く光を反射して明度が上がる、いわゆる明暗フリップフロップ性と金属反射特性を備える必要があり、その色相は自由に選択できる。本発明における光反射領域(3)の作用の詳細については、後述するが、光反射領域(3)が備える明暗フリップフロップ性によって、正反射時に明度が高くなることで、潜像画像の視認性を向上させている。具体的に光反射領域(3)の正反射時の明度(L*)は、入射角10°〜60°において、400以上であり、その理由は、特許文献1から特許文献5のような従来技術に対して、潜像画像の視認性が高くなるための条件であり、詳細については、実施例で説明する。なお、本発明において、「正反射の明度(L*)」とは、印刷領域に対して垂直方向を0°として、光源からの光の入射角が10°〜60°の範囲において、その角度と印刷領域に対して垂直方向を中心として逆方向の同じ角度に反射した光を観測した値を、CIE(1976)のL*a*b*表色系の明度(L*)で示した値である。
また、光反射領域(3)が備える金属反射特性とは、光源から入射する光の角度と逆の同じ角度に光を反射する、所謂、鏡面反射性と、光反射領域(3)が、後述する金属材料によって形成されることで、光反射領域(3)に入射する光に対して、反射する光の明度の変化が少ない特性を有しており、明度の変化の詳細については、実施例で説明する。また、上記特性に加えて、色相も変化するカラーフリップフロップ性を備えている場合には、潜像の視認性が高まるとともに、潜像に豊かな色彩を付与できる。
上記の光反射領域(3)の機能を備えた材料としては、例えば、金、銀、アルミ等の金属箔、金属フィルム、金属テープや、金属顔料塗料、金属顔料インキ等が挙げられる。また、塗料やインキ等に使用される金属顔料としては、金属自体を用いた顔料や、金属を基材とした顔料、金属を被覆した顔料も含まれる。
図2に、蒲鉾状要素群(4)の具体的な構成について示す。蒲鉾状要素群(4)は、一定の幅(W1)を有する蒲鉾状要素(6)が、第一の方向(図中S1方向)に特定のピッチ(P1)で万線状に配置されて成る。また、蒲鉾状要素(6)は、図2の断面図に示すように、断面が蒲鉾状の形状を有している。なお、本発明において、万線状とは、複数の直線状の要素が規則的に所定のピッチで配列されている状態をいう。
蒲鉾状要素群(4)を形成する材料は、光を透過する特性を有する必要があり、少なくとも光をすべて吸収又は反射する構造としてはならない。これは、蒲鉾状要素群(4)を透過した光が、光反射領域(3)によって反射されることで、潜像画像の視認性を向上させるために必要な特性である。このため、透明な印刷用インキや樹脂を用いるのが好ましいが、光を透過すれば、着色顔料が配合されたインキを用いて形成しても良い。
以上のような構成の蒲鉾状要素群(4)を、盛り上がりのある印刷画線が作製できる印刷方式によって形成する。正反射光下で出現する潜像に一定の視認性を確保するためには、蒲鉾状要素(6)の高さは、少なくとも1μm以上必要であり、3μm以上あることが望ましい。盛り上がりのある印刷画線を作製できるという観点から、スクリーン印刷や凹版印刷等で形成することが望ましいが、グラビア印刷やフレキソ印刷、凸版印刷、IJP等であっても、潜像画像が視認できる程度の高さを有する画線を形成することは可能である。また、盛り上がりの高さの上限に関しては、特に制限はないが、大量に積載した場合の安定性や耐摩擦性、流通適性等を考慮して1mm以下が望ましい。
図3に潜像要素群(5)を示す。図3に示す潜像要素群(5)は、特許第5200284号公報記載の方法により作成される例について説明するが、本発明における潜像要素群(5)の構成は、図3に示す例に限定されるものではなく、他の潜像要素群(5)の構成については、後述する。
図3に示す潜像要素群(5)は、特定の有意情報を表す基画像(7)に特定の高さ(H)と幅(W2)の大きさのフレーム(8)を当てはめることで基画像(7)を分割し、分割された基画像(7)をそれぞれ取り出して、第一の方向(図中S1方向)に、特定の圧縮率で特定の幅(W3)に圧縮した潜像要素(9)の集合から成る。また、図3の拡大図に示すように、隣り合う潜像要素(9a)と潜像要素(9b)とは、基画像(7)に対して、当てはめたフレーム(8)を、互いに1ピッチ(P1)だけ第一の方向(S1)にずらして取り出したものを圧縮するため、わずかながら画像が異なる。各潜像要素(9、9a、9b)は、蒲鉾状要素を配置したピッチ(P1)と等しいピッチ(P2)で第一の方向(図中S1方向)に連続して配置することで、潜像要素群(5)が形成されて成る。
また、蒲鉾状要素群(4)と潜像要素群(5)の重ね合わせの位置関係は、各潜像要素(9)の少なくとも一部が蒲鉾状要素(6)と重なり合っている必要がある。
それぞれの潜像要素(9)は、盛り上がりが必須ではなく、如何なる印刷方式で形成しても良い。生産性を考えれば、オフセットインキを使用して、オフセット印刷で形成することが最も好ましい。正反射光下で潜像要素群(5)中の情報の一部を可視化するために、潜像要素(9)は、蒲鉾状要素(6)の正反射時の色彩と異なっている必要がある。また、潜像要素(9)に高い光遮断性を付与した場合、潜像要素(9)が、蒲鉾状要素(6)の下にある光反射領域(3)から反射する光を抑制する効果が高くなるため、正反射光下で生じる蒲鉾状要素(6)と潜像要素(9)の明度差が大きくなり、潜像画像が現す有意情報の視認性がより高くなる。そのため、潜像画像の視認性をより高めたい場合には、潜像要素群(5)を印刷する印刷インキに二酸化チタンや酸化アルミのような光遮断性の高い機能性材料を配合すれば良い。
また、潜像要素群(5)を拡散反射光下では不可視としたい場合には、潜像要素(9)を蒲鉾状要素群(4)の色彩と同じ色彩とするか、無色透明または半透明に形成すれば良い。
また、潜像要素(9)は、インキによって形成するだけでなく、蒲鉾状要素(6)を切削することにより形成することもできる。このような切削は、レーザー加工機を用いることで容易に実施することができる。レーザーが照射された蒲鉾状要素(6)は、表面の平滑性が失われ、光反射領域(3)から反射される光の多くが、蒲鉾状要素(6)の表面で散乱されるため、多くの場合、蒲鉾状要素(6)の明暗フリップフロップ性が失われるか、大きく低下する。そのため、本発明で潜像要素(9)を構成するのに必要とする特性を付与することができる。このように、レーザー加工機を用いる場合は、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与できるという特徴がある。また、潜像要素(9)を可変情報として付与する別の方法としては、プリンタを用いる方法がある。
以上の構造を有する本発明の潜像印刷物(1)の効果について、図4及び図5を用いて説明する。図4に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を拡散反射光下で観察した場合、潜像要素群(5)は、特定の色彩で視認されるか、あるいは不可視である。図5(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を正反射光下で観察した場合、ある特定の観察角度において、潜像印刷物(1)の中に構成された潜像画像(10)が出現する。図5(b)及び図5(c)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を正反射光下で観察し、その観察角度を変化させることで、出現した潜像画像(10)の位相が第一の方向(図中S1方向)に変化して見える、いわゆる動画効果が生じる。
以上の効果が生じる原理について説明する。まず、拡散反射光下で潜像要素群(5)がそのまま視認されるか、あるいは不可視となる効果が生じる原理について説明する。拡散反射光下において、光反射領域(3)が強い正反射光を発することがないことから、潜像要素群(5)が、実体色を有するインキで形成されていれば、インキの色彩でそのまま視認され、透明または半透明のインキで形成されていれば、不可視である。よって、拡散反射光下で潜像要素群(5)は、特定の色彩で視認されるか、あるいは不可視である。
次に、正反射光下のある特定の観察角度において、潜像画像(10)が出現し、観察角度を変化させることで動画効果が生じる原理について図6を用いて説明する。
図6(a)は、蒲鉾状要素(6)内部に入射した光(14)が光反射領域(3)で正反射され、蒲鉾状要素(6)を透過した状態を示し、図6(b)は、蒲鉾状要素(6)に入射した光(14)が光反射領域(3)で正反射され、蒲鉾状要素(6)及び潜像要素(9)を透過した状態を示す。図6(a)に示すように、光源(11)から照射された光のうち、蒲鉾状要素(6)の表面の角度と直角に近い入射角を成す光(13a)は、蒲鉾状要素(6)内部に入射し、それ以外の入射角の光(13b)は、蒲鉾状要素(6)の表面で反射して散乱光となり、蒲鉾状要素(6)内部に入射できない。このように光源(11)から照射された光のうち、蒲鉾状要素(6)内部に入射できる光は、特定の入射角の光に制限される。
図6(a)のように、蒲鉾状要素(6)内部に入射した光(14)が光反射領域(3)で反射した場合、入射した光の角度と逆の同じ角度に対して極めて強い正反射光(15)を生じ、蒲鉾状要素(6)からの透過光(16a)となる。一方、図6(b)のように、光反射領域(3)からの正反射光(15)が蒲鉾状要素(6)及び潜像要素(9)を透過した場合、蒲鉾状要素(6)及び潜像要素(9)からの透過光(16b)となる。図6(b)の透過光(16b)の光量は、潜像要素(9)によって光の減衰が生じるために、図6(a)の透過光(16a)よりも弱い光となる。以上のように、正反射光下では、潜像要素(9)の有無によって、透過光(16a及び16b)の光量が大きく変化するという現象が起こり、潜像要素(9)が可視化され、結果として潜像画像(10)として有意情報が可視化される。
また、光源(11)に対する潜像印刷物(1)の角度を変化させると、蒲鉾状要素(6)の内部に入射する光の入射角度も変化し、それに伴って光反射領域(3)上での光の反射角度が変化することから、蒲鉾状要素(6)から透過する光の位置も変化する。蒲鉾状要素(6)は、一定のピッチ(P1)で繰り返し配置されていることから、透過光は、一定のピッチ(P1)の周期をもって生じる。
蒲鉾状要素群(4)には、一定のピッチ(P1)の周期で光を強く透過する領域があるため、潜像要素群(5)も一定のピッチの周期で可視化される。潜像要素群(5)は、基画像(7)から一定のピッチずつ位相をずらして取り出した画像を、一定の割合で圧縮して一定のピッチ(P2)で規則的に配置して形成しているため、潜像要素(9)を一定のピッチの周期でサンプリングした場合には、いずれの位相でサンプリングしたとしても基画像と同じ潜像画像(10)が再現される。そのため、観察者の視点が動いたり、潜像印刷物(1)を傾けたりした場合には、光が入射する角度が変化するために、蒲鉾状要素(6)から光を透過する領域も移動し、それに伴って潜像要素(9)がサンプリングされる領域も移動することで、観察者には出現した潜像画像(10)が動いて見える。
なお、本発明における正反射とは、物質にある入射角で光が入射した場合に、入射した光の角度と逆方向の同じ角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
次に、本発明の潜像印刷物(1)の、潜像画像の視認性に対する環境依存性について、光反射領域(3)の効果を、図7を用いて説明する。図7(a)は、本発明の光反射領域(3)を有さない従来の潜像印刷物(100)を示している。光反射領域(3)を有さない基材(1)の光の反射の強度は、一般的に光の入射角に依存する。そのため、印刷物に対して、大きな角度で入射する光(11a)と小さな角度で入射する光(11b)では、基材が反射する光の強度は異なり、印刷物に対して小さな角度の位置(12b)で観察すると、大きな角度の位置(12a)で観察するよりも、弱い反射光しか得ることができない。
それに対して、図7(b)の本発明の光反射領域(3)を有する潜像印刷物(1)では、光反射領域(3)が金属反射特性を有することで、入射する光(11a、11b)の角度に依存することなく、蒲鉾状要素(6)内部に入射した光を反射する。そのため、印刷物に対して大きな角度の位置(12a)と小さな角度の位置(12b)のいずれで観察しても強い反射光を得ることができる。したがって、光反射領域(3)を有した潜像印刷物(1)は、光反射領域を有していない潜像印刷物よりも、潜像画像の視認性が環境に依存しなくなる。これに加えて、光反射領域(3)が正反射光下で高い明度を有することで、潜像画像(10)の視認性を向上させる効果も得ることができる。
以上に説明した潜像印刷物(1)において、潜像要素(9)及び蒲鉾状要素(6)のいずれもが、直線状に配置されて動画効果が生じる形態について説明したが、曲線状や同心円状等の様々な曲線を使用して形成しても良く、具体的には、本出願人が出願した特願2013−023228号に記載されている同心円状、又は全て画線方向が連続的に変化し、様々な画線角度を成す曲万線による構成を用いても良く、直線状に限定されることはない。また、画線状ではなく、画素状を使用して各要素を形成しても良く、画素状においても、直線状のみならず、曲線状や同心円状等の様々な曲線を使用しても良い。具体的な構成としては、特許第5200284号公報に記載の構成を用いても良い。よって、本発明の効果は、蒲鉾状要素(6)及び潜像要素(9)のいずれの形状にもこだわることなく、光反射領域(3)、蒲鉾状要素群(4)及び潜像要素群(5)の層構成により実現される。
続いて、潜像要素群(5)の他の構成について図8を用いて説明する。図8に示す潜像要素群(5)は、特許第4682283号公報に記載の方法により作製される例であり、潜像要素群(5)は、第1の潜像要素群(20)及び第2の潜像要素群(30)を備える。
第1の潜像要素群(20)は、一定の画線幅(W21)の第1の潜像要素(21)が第1の方向(図中S1方向)に、蒲鉾状要素を配置したピッチ(P1)と等しいピッチ(P21)で複数配置されることでアルファベットの「A」の文字を表して成る。すなわち、図8において、第1の潜像要素(21)の各々は、潜像画像の基となる基画像「A」(図示せず)を分割した画線に対応したものとなっている。また、第2の潜像要素群(30)は、一定の画線幅(W31)の第2の潜像要素(31)が第1の方向(図中S1方向)に、第1の潜像要素(21)の配置と同じピッチ(P31)で複数配置されることでアルファベットの「B」の文字を表して成る。すなわち、図8において、第2の潜像要素(31)の各々は、潜像画像の基となる基画像「B」(図示せず)を分割した画線に対応したものとなっている。なお、第1の潜像要素の画線幅(W21)と第2の潜像要素の画線幅(W31)は、同じであっても良いし、異なっても良い。
第1の潜像要素群(20)と第2の潜像要素群(30)とは、第1の方向(図中S1方向)に位相をずらして配置されることで、それぞれの潜像要素(21、31)が重なり合うことなく配置される。
図9は、第1の潜像要素(21)、第2の潜像要素(31)及び蒲鉾状要素(6)の重なり合いの位置関係を示す図であり、図9(a)は、潜像印刷物(1)の正面図であり、図9(b)は、潜像印刷物(1)の斜視図である。図9に示す配置は、二つの潜像要素(21、31)が、蒲鉾状要素(6)に完全に重なった状態を示している。これは、最も望ましい形態であるが、それぞれの潜像要素(21、31)と蒲鉾状要素(6)とが、少なくとも一部で重なり合っていれば、本発明の効果は、発揮される。
以上の構成で成る潜像要素群(5)が蒲鉾状要素群(4)の上に形成された潜像印刷物(1)の効果は、特許第4682283号公報と同様であり、図10に示すように、正反射光下の特定の観察角度によって第1の潜像要素群(20)が表すアルファベットの「A」の文字が潜像画像(10−1)として出現する。また、図10(b)に示すように、「A」の文字が視認できる角度とは異なる特定の観察角度では、第2の潜像要素群(30)が表すアルファベットの「B」の文字が潜像画像(10−2)として出現する。
図8に示す潜像要素群(5)は、二つの潜像要素群(20、30)によって、二つの潜像画像(10−1、10−2)が視認されるが、潜像画像の数は、二つに限定されるものではなく、二つより多いn個(nは3以上の整数)の潜像画像を付与することができる。すなわち、n個の潜像画像を付与するのであれば、第1の潜像要素群(20)を第1の潜像要素(21)で構成し、第2の潜像要素群(30)を第2の潜像要素(31)で構成し、第nの潜像要素群を第nの潜像要素で構成し、それぞれの潜像要素が重ならないようにして蒲鉾状要素(6)の上に配置すれば良い。また、蒲鉾状要素(6)や潜像要素は、画線に限定されるものではなく、画素であっても良い。これらの要素の具体的な構成については、特許第468283号公報や特許第4660775号公報等に記載の構成を用いることができる。
続いて、図3及び図8に示す潜像要素群(5)とは異なる他の構成について、図11を用いて説明する。図11に示す潜像要素群(5)は、特許第4844894号公報に記載の方法により作製される例であり、潜像要素群(5)は、一定の幅(W7)と一定の高さ(W8)を有した円形状の潜像要素(9)が第1の方向(図中S1方向)に特定のピッチ(P5)で、第2の方向(図中S2方向)に特定のピッチ(P6)で連続して配置されて成る。
図12は、図11に示す潜像要素群(5)に対応した蒲鉾状要素群(4)の構成を示す図である。蒲鉾状要素群(4)は、一定の幅(W5)と一定の高さ(W6)を有した円形状の蒲鉾状要素(6)が、第1の方向(図中S1方向)に特定のピッチ(P3)で、第2の方向(図中S2方向)に特定のピッチ(P4)で連続して配置されて成る。
この形態において、正反射光下で出現する模様は、モアレ模様であることから、第1の方向に配置される潜像要素(9)のピッチ(P5)と蒲鉾状要素(6)のピッチ(P3)及び第2の方向に配置される潜像要素(9)のピッチ(P6)と蒲鉾状要素(6)のピッチ(P4)のうち、少なくとも一方は、互いにピッチが異なる必要がある。すなわち、ピッチ(P5)とピッチ(P3)の値が異なるか、ピッチ(P6)とピッチ(P4)の値が異なるか、ピッチ(P5)とピッチ(P3)同士及びピッチ(P6)とピッチ(P4)同士の値が異なっている必要がある。また、その値は、一方の値が、もう一方の値で割り切れる数値であってはならない。一方の値が、もう一方の値の80%から120%(100%を除く)程度の数値である場合、視認性が高く、動画効果も高いモアレ模様が出現する。
また、潜像要素(9)と蒲鉾状要素(6)の重ね合わせの位置関係については、各潜像要素(9)の少なくとも一部が、蒲鉾状要素(6)と重なり合っている必要がある。
以上の構成で成る潜像要素群(5)が蒲鉾状要素群(4)の上に形成された潜像印刷物(1)の効果は、特許第4844894号公報と同様であり、図13に示すように、正反射光下で観察した場合、ある特定の観察角度において潜像要素(9)と蒲鉾状要素(6)の干渉によって生じたモアレ模様が潜像画像(10)として出現する。このとき、潜像要素(9)と蒲鉾状要素(6)の干渉によって出現する潜像画像(10)は、潜像要素(9)の図柄である「円形状」が拡大された状態で視認されることから、拡大された潜像模様(10)の図柄を基画像(図示せず)とすると、潜像要素(9)は基画像を圧縮した構成となっている。
また、図13(b)及び図13(c)に示すように、観察角度を変化させることで、出現したモアレ模様が第1の方向及び第2の方向に変化して見える、いわゆる動画効果が生じる。互いにピッチが異なる万線や画素の干渉によってモアレが生じる原理については公知であり、また、サンプリング位置が変化した場合に、モアレ模様が動いて見える原理については、特許第4844894号公報に記載の原理と同じであるため説明を省略する。
図11及び図12に示す、潜像要素(9)及び蒲鉾状要素(6)のいずれもが画素状に形成されて動画効果が生じる形態について説明したが、曲線状や同心円状等を使用し、さまざまな万線状に形成しても良い。また、単純な円形画素同士の干渉によって生じる単純なモアレ模様が出現する形態で説明したが、特許第4844894号公報や特許第5131789号公報に記載のモアレ拡大現象(Moire Magnification)と呼ばれる現象を利用して、記号や文字、数字等の有意情報自体をモアレ化しても良い。
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製した潜像印刷物(1)の実施例について、図1〜図5及び図14〜図16を用いて詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1について、図1〜図3及び図14を用いて説明する。図1に実施例1の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に光反射領域(3)が形成され、さらに蒲鉾状要素群(4)が形成され、その上に潜像画線群(5)が重ねて形成されて成る。
基材(2)には、白色コート紙(エスプリコートFM、日本製紙(株))を使用し、光反射領域(3)は、銀色アルミテープ(DAITAC、DIC(株))を使用し、基材(2)に貼付けた。
図2に蒲鉾状要素群(4)の具体的な構成を示す。蒲鉾状要素群(4)は、幅(W1)0.3mm、インキ皮膜の厚さ0.01mmの蒲鉾状要素(6)が、ピッチ(P1)0.4mmで連続して第一の方向(図中S1方向)に配置される構成とした。この蒲鉾状要素(6)は、UVスクリーン印刷方式により、透明UVスクリーンインキ(UVA9117、(株)セイコーアドバンス)を用いて、基材(2)上に貼付した光反射領域(3)上に形成した。
図14に実施例1における光反射領域(3)の正反射の明度(L*)を示す。光反射領域(3)の明度は、変角分光光度計(GCMS−4、(株)村上色彩技術研究所)を使用して測定した。測定条件は、D65光源、10度視野、入射角10°〜60°として、受光角10°〜60°の範囲で可視光領域の分光反射率を測定し、測定した分光反射率からL*a*b*表色系に基づき、正反射の明度(L*)を算出した。図14に示した通り、入射角10°〜60°の範囲において正反射の明度(L*)は750以上の高い値を示している。
図3に実施例1の潜像要素群(5)を示す。基画像(7)は、10mm×10mmの大きさであり、これを高さ(H)10mm×幅(W2)3mmのフレーム(8)によって、フレーム(8)の内部に含まれた基画像を取りだした後、幅方向に対して1/10に圧縮して画線幅(W3)0.3mm(情報が付与されていない空白部分も含む)の潜像要素(9)とし、ピッチ(P2)0.4mmで連続して第一の方向(図中S1方向)に配置することで潜像要素群(5)を作製した。この潜像要素群(5)は、灰色のUVオフセットインキ(BEST CURE UV L 特練マットグレー、T&K TOKA(株))を用いて、UVオフセット印刷で、蒲鉾状要素群(4)の上に重ねて形成し、実施例1の潜像印刷物(1)を得た。蒲鉾状要素群(4)と潜像要素群(5)は、蒲鉾状要素群(4)を形成している蒲鉾状要素(6)の中心と、潜像画線群(5)を形成している潜像要素(9)の中心が一致するように重ねた。
(実施例2〜実施例5)
実施例2から実施例5は、光反射領域(3)の光反射性を調整するために、実施例1の光反射領域上に、透明UVオフセットインキを、UVオフセット印刷方式を用いて塗布して使用した例である。
透明UVオフセットインキに使用するUVワニスは、55重量%の二官能エポキシアクリレート(ビスコート#540、大阪有機化学工業(株))、37重量%の多官能アクリレートモノマー(KAYARAD R−712、日本化薬(株))及び8重量%の光重合開始剤(Irugacure907、BASF社)を加熱かくはんすることにより作製した。75重量%の作製したUVワニス及び25重量%の硫酸バリウム顔料(沈降性硫酸バリウム、堺化学工業(株))を混合することによりインキ化し、実施例2では、インキに対して1重量%のPTFEワックス(SST−4、Shamrock Technologies Inc.)を分散することにより透明UVオフセットインキとした。
また、実施例3から実施例5の潜像印刷物の光反射領域(3)の光反射性を調整するために、インキ化したインキに対して、PTFEワックスを実施例3では2重量%、実施例4では3重量%、実施例5では4重量%分散させた透明UVオフセットインキを用いた。その他の作製方法は実施例1と同様である。
(比較例1)
比較例1は、実施例1に対して、光反射領域(3)を有さない例であり、蒲鉾状要素群(5)は、基材(2)である白色コート紙(エスプリコートFM、日本製紙(株))の上に形成されており、その他の作製方法は実施例1と同様である。
(比較例2〜比較例5)
比較例2から比較例5は、実施例5に対して、PTFEワックスの配合量を増やしたものであり、比較例2では8重量%、比較例3では7重量%、比較例4では6重量%、比較例5では5重量%分散させた透明UVオフセットインキを用いた。その他の作製方法は実施例1と同様である。
以上の手順で作製した実施例1〜実施例5及び比較例1〜比較例5の潜像印刷物の効果について、図4及び図5を用いて説明する。観察者が潜像印刷物を拡散反射光下で観察した場合、基材上に図4に示す潜像要素群(5)が視認される。一方、観察者が潜像印刷物を正反射光下で観察した場合、図5(a)、図5(b)及び図5(c)に示すような潜像画像(10)が視認される。出現する潜像画像(10)は、基画像と同じ大きさの10mm×10mmであり、また、基画像を示す部分は黒色で、それ以外の部分は鮮やかに光って見える。
また、観察する視点をわずかに変えることで、図5(a)に示す視点では、蒲鉾状要素群(4)上の中央やや右よりに存在していた潜像画像(10)が、図5(b)に示す視点では中央よりに、図5(c)に示す視点ではやや左よりに位相が変化して観察される。この潜像画像(10)の動きは連続的であり、また右眼と左眼では、画像の位置が異なって見えるために、両眼視差に起因する立体感が生じる。本発明においては、右眼が図5(c)の画像を見ている場合、左眼は図5(b)の画像を見ている状態となることから、潜像画像(10)は基材表面より手前側に飛び出しているように観察される。
次に、図14、図15及び表1を用いて、各実施例及び各比較例の潜像画像の視認性について説明する。
表1は、各実施例及び各比較例の潜像画像の視認性を示した表である。画像の観察は一般的な白色蛍光灯を備えた室内において、目視により行った。評価は、比較例1の潜像画像の視認性を基準として、比較例1よりも劣るものを×、同等のものを△、優れるものを○、極めて優れるものを◎とした。
その結果、表1に示すように、実施例1は比較例1よりも視認性が極めて優れ、実施例2から実施例5は比較例1よりも視認性が優れるという結果が得られた。
表1に示した視認性の違いを、図15を用いて説明する。図15は、実施例5の光反射領域上における蒲鉾状要素(6)の正反射の明度(L*)及び比較例1の基材上における蒲鉾状要素(6)の正反射の明度(L*)を示した図である。図15に示すように、入射角10°〜60°の範囲において、正反射の明度(L*)は実施例5のほうが比較例1よりも高くなっている。これは、図14に示す実施例5と比較例1の正反射の明度(L*)の差が、蒲鉾状要素(6)の正反射の明度(L*)の差に反映されたものと考えられる。また、入射角10°〜60°の範囲において、正反射の明度の最高値と最低値の差は、実施例5は103であるのに対して、比較例1は218であった。
前述したように、潜像画像の視認性は、潜像要素群と蒲鉾状要素群の正反射の明度(L*)の差により決定されるため、蒲鉾状要素の正反射の明度(L*)が高いほうが、潜像画像の視認性が高くなる。また、蒲鉾状要素の正反射の明度(L*)が入射角に依存しないで一定のほうが、光源である蛍光灯の位置と潜像印刷物の位置関係等の観察環境に依存しなくなるため、潜像画像が観察し易くなる。すなわち、実施例1から実施例5の光反射領域(3)を備える潜像印刷物(1)は、紙基材の上に、蒲鉾状要素群と潜像要素群を形成した比較例1の潜像印刷物に対して、同じ光源に対して、正反射の明度(L*)が高いことから、潜像画像の視認性が向上しており、光源と潜像印刷物の位置関係に依存することなく、潜像画像が視認できるものとなった。