本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
(第一の実施の形態)
図1に、本発明における潜像印刷物(1)を示す。図1(a)に示すのは、潜像印刷物(1)の正面図であり、図1(b)に示すのは、潜像印刷物(1)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に印刷画像領域(3)が形成されてなる。基材(2)は、印刷画像領域(3)を形成することができれば、紙、プラスティック及び金属等、その材質は問わない。印刷画像領域(3)は、基材と異なる色彩を有している必要があるが、基材と異なる色で、かつ、透明以外の色彩であれば何色でも良く、色彩の制約はない。また、基材(2)の大きさについても、特に制限はない。
本発明の印刷画像領域(3)の構成の概要を図2に示す。印刷画像領域(3)は、第一の画像(4)、第二の画像(5)及び第三の画像(6)が重ね合わさってなる。本発明の潜像印刷物(1)における印刷画像領域(3)の範囲とは、第二の画像(5)と第三の画像(6)が重なり合った範囲がそれにあたる。本発明において、第二の画像(5)と第三の画像(6)は、基本的に同じ大きさである。仮に、第二の画像(5)より第三の画像(6)の面積が小さいか、又はその逆の場合、第二の画像(5)と第三の画像(6)が重なりあった範囲のみが印刷画像領域(3)となり、第二の画像(5)と第三の画像(6)が重なっていない範囲は、本発明に必須の要素ではなく、デザイン上の付加的要素と見なすこととする。
図3に第一の画像(4)、第二の画像(5)及び第三の画像(6)の積層順序を示す。第三の画像(6)の上に第二の画像(5)が重なり、第二の画像(5)の上に第一の画像(4)が重なる層構造となっている。
まず、第一の画像(4)について図4を用いて具体的に説明する。第一の画像(4)は、第一の潜像要素(7P)が規則的に複数配置されることで形成された第一の潜像要素群を備えてなる。本明細書における規則的に配置されるとは、同じ画線幅、画線ピッチ及び画線方向に配置されることを指す。すなわち、第一の画像(4)は、画線幅W1の第一の潜像要素(7P)が特定のピッチP1で第一の方向(図中S1方向)に連続して複数配置されることで形成された第一の潜像要素群を備えてなる。第一の潜像要素群は、正反射光下で出現する画像である、いわゆる、潜像画像となる。なお、本実施の形態において第一の画像(4)の中には、第一の潜像要素群しかないことから、第一の画像(4)と第一の潜像要素群とが同じである。また、第一の画像(4)は、基材と異なる色で、かつ、透明でない第一の色相を有する。
次に、第二の画像(5)について、図5を用いて具体的に説明する。第二の画像(5)は、断面図AA’に示すような盛り上がりを有する蒲鉾形状の蒲鉾状要素(8)が規則的に複数配置されることで形成された蒲鉾状要素群を有する。すなわち、画線幅W2の蒲鉾状要素(8)が、特定のピッチP1で第一の方向(図中S1方向)に連続して複数配置されることで形成された蒲鉾状要素群である。また、蒲鉾状要素(8)は、拡散反射光下においては透明又は半透明であって、かつ、明暗フリップフロップ性及びカラーフリップフロップ性の少なくともどちらかの特性を有する必要があり、正反射光下では、第一の色相と異なる第二の色相の反射光を発する必要がある。なお、蒲鉾形状とは、蒲鉾形立体のみならず、半円形状又は半楕円形状等の半円立方体の形状も含まれる。
本発明における明暗フリップフロップ性とは、物質に光が入射した場合に、物質の明度のみが変化する性質を指し、カラーフリップフロップ性とは、物質に光が入射した場合に、物質の色相が変わる性質を指す。明暗フリップフロップ性を備えた、印刷で用いるインキとしては、金色や銀色等のメタリック系の金属インキや、グロスタイプの着色インキがある。一般的に艶があると感じられる物質は、明暗フリップフロップ性を備える。例えば、銀インキは、光を強く反射しない拡散反射光下では暗い灰色にしか見えないが、光を強く反射する正反射光下では、より淡い灰色か、又は白色に見える。このように、明暗フリップフロップ性を有するインキは、正反射光下で明度のみが変化する。
一方、印刷に用いるカラーフリップフロップ性を備えたインキとしては、パールインキ、液晶インキ、OVI及びCSI(Color Shifting Ink)等が存在する。多くのインキは物体色を有するが、虹彩色パールインキは無色透明である。例えば、赤色の虹彩色パールインキは、拡散反射光下では無色透明であるが、正反射光下では赤色の干渉色を発する。このように、カラーフリップフロップ性を備えたインキは、正反射光下で色相が変化する。
続いて、第三の画像(6)について、図6を用いて具体的に説明する。第三の画像(6)は、カモフラージュ要素(9)が規則的に複数配置されることで形成されたカモフラージュ要素群を有する。すなわち、画線幅W3のカモフラージュ要素(9)が、特定のピッチP1で第一の方向(図中S1方向)に連続して複数配置されることで形成されたカモフラージュ要素群を備えてなる。それぞれのカモフラージュ要素(9)は、第一の画像(4)のそれぞれの第一の潜像要素(7P)と対を成し、それぞれの第一の潜像要素(7P)の濃淡を反転させた第一の反転要素(7N)を備える。
また、第三の画像(6)は、第一の画像(4)と同じく、第一の色相を有する。なお、第一の反転要素(7N)は、白抜きに限定されることはなく、第一の潜像要素(7P)と濃淡が反転した関係である、すなわち、第一の反転要素(7N)と第一の潜像要素(7P)との面積率の合計が100%となる関係になれば良い。具体的には、第一の潜像要素(7P)の面積率が100%である場合、第一の反転要素(7N)は、面積率0%(白抜き)となり、第一の潜像要素(7P)の面積率が50%である場合、第一の反転要素(7N)は、面積率50%となり、第一の潜像要素(7P)の面積率が20%である場合、第一の反転要素(7N)は、面積率80%となる。
以上の構成の第一画像(4)、第二の画像(5)及び第三の画像(6)を図3に示す順序で重ね合わせる。このとき、必要となる三つの画像の重ね合わせの位置関係について説明する。まず、基材(2)に最初に形成される第三の画像(6)と二番目に形成される第二の画像(5)の重ね合わせの位置関係について説明する。第二の画像(5)と第三の画像(6)との重ね合わせの位置関係は、第二の画像(5)のそれぞれの蒲鉾状要素(8)が、第三の画像(6)の第一の反転要素(7N)の少なくとも一部を被覆する必要がある。本関係が成り立たない場合には、正反射光下で潜像画像が出現しないため避けなければならない。なお、潜像画像の視認性を高めるためには、蒲鉾状要素(8)が第一の反転要素(7N)全体を被覆していることが、より望ましい。
続いて、第一の画像(4)の重ね合わせの適正な位置について説明する。第一の画像は、第三の画像(6)との間に厳密な位置関係が求められる。具体的には、図7に示すように、第三の画像(6)のそれぞれのカモフラージュ要素(9)に配置された第一の反転要素(7N)に、それぞれ対を成す、第一の画像(4)中の第一の潜像要素(7P)が嵌め合わさる位置関係で重ね合わせる必要がある。この位置合わせがずれた場合には、本来不可視であるはずの潜像画像が拡散反射光下で可視化されるため、高い精度で画像を位置合わせする必要がある。以上のような位置関係で三つの画像が積層された場合、以下に説明する効果が生じる。
以上の構造を有する本発明の潜像印刷物(1)の効果について、図8を用いて説明する。図8(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を拡散反射光下で観察した場合、第一の潜像要素群が表す潜像画像である、アルファベットの「A」の文字は不可視であり、印刷画像領域(3)全体が第一の色相で視認される。図8(b)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を正反射光下で観察した場合、特定の観察角度において、第一の潜像要素群が表す潜像画像である、アルファベットの「A」の文字が出現する。この場合、アルファベットの「A」の文字は、第一の色相で視認され、その他の印刷画像領域(3)は、第二の色相で視認される。この潜像画像は、正反射光下にあれば、いずれの角度からでも視認することができるわけではなく、視認することができる角度範囲は、制限される。観察角度が特定の角度範囲から外れた場合には、潜像印刷物(1)から正反射光が生じる観察角度領域内で潜像印刷物(1)を観察したとしても印刷画像領域(3)中に潜像画像は出現しない。
以上の効果が生じる原理について説明する。まず、拡散反射光下で第一の潜像要素群が不可視となる効果が生じる原理について説明する。拡散反射光下において、第二の画像(5)は、直接入射する光がなく、強い正反射光を発することがないことから、透明又は半透明であり、完全に不可視か、ほぼ不可視である。一方の第一の画像(4)と第三の画像(6)は、第一の色相を有しているために、第一の潜像要素群とカモフラージュ要素群は可視化されている。ただし、第一の潜像要素(7P)とカモフラージュ要素(9)中に備えられた第一の反転要素(7N)とは、それぞれ対を成した要素同士が同じ形状で、かつ、濃淡が反転した関係にあるため、第一の反転要素(7N)に第一の潜像要素(7P)が嵌め合わさることで、第一の潜像要素(7P)はカモフラージュ要素(9)の中に隠蔽されて不可視となる。このため、拡散反射光下では、第一の潜像要素群が表す潜像画像である、アルファベットの「A」の文字は不可視であり、単に印刷画像領域(3)が第一の色相で視認される。
次に、正反射光下でアルファベットの「A」の文字が第一の色相で視認され、その他の印刷画像領域(3)が第二の色相で視認される原理について説明する。第二の画像(5)は、カラーフリップフロップ性及び明暗フリップフロップ性のどちらかの特性を有することから、正反射光下において、第二の色相を発する。明暗フリップフロップ性を有する場合には、明度が上昇して第二の色相の反射光を発し、カラーフリップフロップ性を有する場合には、色相が変化して第二の色相の反射光を発する。このような色彩変化を伴う強い反射光によって、第二の画像(5)の下に存在する第三の画像(6)は、目視上隠蔽され、不可視か、不可視に近くなる。
一方、第二の画像(5)上に存在する第一の画像(4)は、第一の色相のまま変化せず、第二の色相の反射光を発する第二の画像(5)との間に生じた色差により可視化される。このため、正反射光下で第一の潜像要素群が表す潜像画像である、アルファベットの「A」の文字が第一の色相で視認され、それ以外の印刷画像領域(3)が第二の色相で視認される。なお、潜像画像を視認することができる角度範囲が制限される原理については、後述する第三の実施の形態の中で説明する。
なお、本明細書中でいう正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例とすると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色を発する。正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
本発明の潜像印刷物(1)において、第一の画像(4)、第二の画像(5)及び第三の画像(6)のそれぞれの要素の配置ピッチと配置方向は、同じである必要がある。すなわち、いずれの要素も全て同じピッチP1で、かつ、全て同じ第一の方向(図中S1方向)に連続して配置される。なお、W1、W2及びW3は、同じであっても、異なっていても良いが、W3は、W1以上の値である必要がある。これは、W3がW1よりも小さい場合には、潜像要素群をカモフラージュ要素群で隠蔽することができなくなるためである。
また、第一の実施の形態のように、潜像要素群が一種類のみ(第一の潜像要素群のみ)の場合、W1は、W2を超えないことが望ましい。W1がW2を超える場合、第一の画像(4)と第二の画像(5)の重なり合いの位置関係によっては、蒲鉾状要素(8)の画線表面全体を第一の潜像要素(7P)が被覆してしまい、正反射光下であれば、いかなる角度で観察しても第一の潜像要素群を視認することができるという効果に変わり、本発明の効果のひとつである、正反射光下の特定の範囲でのみ第一の潜像要素群を視認することができるという効果が必ずしも担保できないためである。
また、W2は、少なくともピッチP1の2分の1以上の値をとることが望ましい。これ以上小さな画線幅の場合、生じる反射光量が小さくなって相対的に潜像画像のコントラストが低下することに加え、出現させられる潜像画像の数や、潜像画像の動きの大きさに制限が生じるため、望ましくない。
第二の画像(5)は、拡散反射光下で透明又は半透明である必要がある。ここでいう半透明とは、下地の画像が読み取れる程度、すなわち、画像が透けて見える程度の透過性を有することとする。下地を完全に隠蔽する場合には、本発明の潜像印刷物(1)は形成し得ない。
また、第一の画像(4)と第三の画像(6)は、同じ色相である必要があるが、完全に同じ色彩とする必要はない。仮に、第二の画像(5)が完全に透明である場合、第一の画像(4)と第三の画像(6)は、同じ色彩とすることができるが、第二の画像(5)が完全な透明ではなく、半透明である場合、基本的には、第一の画像(4)の色彩は、第三の画像(6)の色彩よりもわずかに彩度を低く色調整することが望ましい。
透明と銘打って販売されている顔料や樹脂であっても、一定の盛り上がりを有する蒲鉾状要素(8)を形成した場合には、画線の立体構造から様々な拡散反射光が生じるため、実際にはわずかに可視化され、半透明となる。その場合、第二の画像(5)下に存在する第三の画像(6)の色彩はわずかに濁る傾向となり、結果として彩度が低下する。そのため、第一の画像(4)を不可視とするためには、第一の画像(4)の色彩を、第三の画像(6)自体の色彩と同じ色彩とするのではなく、第三の画像(6)の上に第二の画像(5)が重なった場合の色彩と同じ色彩にする必要がある。よって、第二の画像(5)が完全な透明ではない場合には、第一の画像(4)の色彩は、第三の画像(6)の色彩よりも彩度を低く設計することで、第1の画像を不可視とすることができる。なお、第1の画像(4)の彩度をどの程度下げるかは、第二の画像(5)を構成する樹脂、顔料及び画線構成等の条件に影響を受けるため、適宜調整する必要がある。
(第二の実施の形態)
第二の実施の形態では、正反射光下で印刷画像領域(3´)中に潜像画像が出現するだけでなく、拡散反射光下で印刷画像領域(3´)中に潜像画像とは別の有意情報を視認することができる構成について説明する。
図9に、本発明における潜像印刷物(1´)を示す。図9(a)は、潜像印刷物(1´)の正面図であり、図9(b)は、潜像印刷物(1´)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1´)は、基材(2´)上に印刷画像領域(3´)が形成されてなる。印刷画像領域(3´)は、潜像画像と異なる有意情報である、アルファベットの「B」の文字が形成されてなる。
本発明の印刷画像領域(3´)の構成の概要を図10に示す。印刷画像領域(3´)は、第一の画像(4´)、第二の画像(5´)及び第三の画像(6´)が重ね合わさってなる。本第二の実施の形態において、第三の画像(6´)は、更にカモフラージュ要素群(12´)と情報要素群(13´)の二つの要素群に分かれる。
図11は、第二の実施の形態における第三の画像(6´)を示すものであり、第三の画像(6´)は、カモフラージュ要素群(12´)と情報要素群(13´)とを備える。カモフラージュ要素群(12´)の構成は、第一の実施の形態と同様であり、カモフラージュ要素(9´)が規則的に複数配置されることで形成され、それぞれのカモフラージュ要素(9´)は、第一の画像(4´)のそれぞれの第一の潜像要素(7P´)と対を成し、それぞれの第一の潜像要素(7P´)の濃淡を反転させた第一の反転要素(7N´)を備える。
一方、情報要素群(13´)は、情報要素(14´)が規則的に複数配置されることで形成される。すなわち、画線幅W4の情報要素(14´)が特定のピッチP1で第一の方向(図中S1方向)に連続して複数配置されてなる。
情報要素(14´)とカモフラージュ要素(9´)は、第一の方向に位相がずれて配置され、お互いに重なり合うことはない。情報要素(14´)は、印刷画像領域(3´)中に面積率の差異を作り出して有意情報を表現することができれば良く、カモフラージュ要素(9´)と重ならない位置に配置される限り、画線、画素又は網点等を画線状に配列した形状や配置については特に制限はない。
また、情報要素(14´)は、第一の色相で表現しても良く、第一の色相以外の色相で表現しても良い。生産性を重視する場合、情報要素(14´)を第一の色相として第一の画像(4´)全体を第一の色相で表現することが望ましく、色彩表現を重視する場合、情報要素(14´)を第一の色相以外の色相として、第一の画像(4´)を二つの色材で別々に形成すれば良い。本説明では、情報要素(14´)もカモフラージュ要素(9´)と同様に第一の色相で表現した例とする。なお、第二の実施の形態における第一の画像(4´)及び第二の画像(5´)の構成、三つの画像の重ね合わせの位置関係についても第一の実施の形態と同様であるから、説明を省略する。
以上の構造を有する本発明の潜像印刷物(1´)の効果について、図12を用いて説明する。図12(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1´)を拡散反射光下で観察した場合、第一の潜像要素群が表す潜像画像である、アルファベットの「A」の文字は不可視であり、印刷画像領域(3´)中に有意情報のアルファベットの「B」の文字が第一の色相の濃淡によって視認される。
また、図12(b)に示すように、本発明の潜像印刷物(1´)を正反射光下で観察した場合、特定の観察角度において第一の潜像要素群が表す潜像画像である、アルファベットの「A」の文字が出現する。この場合、アルファベットの「A」の文字は、第一の色相として視認され、その他の印刷画像領域(3´)は、第二の色相として視認される。この潜像画像は、正反射光下であれば、いずれの角度からでも視認することができるわけではなく、潜像画像を視認することができる角度範囲は制限される。観察角度が特定の角度範囲から外れた場合には、潜像印刷物(1´)から正反射光が生じる観察角度領域内で観察したとしても潜像画像は不可視となる。
以上の効果が生じる原理について説明する。まず、拡散反射光下で第一の潜像要素群が不可視となる効果ついては、第一の実施の形態で説明した原理に基づく。すなわち、第一の反転要素(7N´)に第一の潜像要素(7P´)が嵌め合わさることで、第一の潜像要素(7P´)は、カモフラージュ要素(9´)の中に隠蔽されて不可視となる。このため、拡散反射光下では、第一の潜像要素群が表す潜像画像である、アルファベットの「A」の文字は不可視であり、印刷画像領域(3´)中には、情報要素(14´)によって形成された有意情報であるアルファベットの「B」の文字が視認される。
次に、正反射光下で情報要素群が表す有意情報であるアルファベットの「B」の文字が消失して、第一の潜像要素群が表す潜像画像であるアルファベットの「A」の文字が第一の色相で可視化される原理について説明する。アルファベットの「A」の文字が第一の色相で視認され、それ以外の印刷画像領域(3´)が第二の色相で視認される効果を生じる原理については、第一の実施の形態と同様である。本実施の形態においては、これに情報要素群(13´)の表すアルファベットの「B」の文字が消失する効果が追加されたものである。この効果が生じる原理について説明する。
情報要素群(13´)は、第二の画像(5´)下の第三の画像(6´)中に含まれる。そのため、光が潜像印刷物(1´)に入射した場合に第二の画像(5´)が発する強い反射光によって、目視上隠蔽され、不可視か、ほぼ不可視となる。以上の原理によって、アルファベットの「B」の文字が消失する効果が生じる。これによって、正反射光下において、アルファベットの「B」の文字が消失して、アルファベットの「A」の文字が出現する効果が生じる。
以上のように、第二の実施の形態は、正反射光下で色彩豊かな潜像画像が出現する効果に加え、拡散反射光下においても有意情報が視認され、かつ、正反射光下でその有意情報が消失する効果を実現することができる形態である。ここで説明した拡散反射光下と正反射光下で生じる画像のチェンジ効果は、極めて視認性の高い効果であり、また、模倣することも困難であることから、真偽判別をより容易にするとともに、偽造を抑止する効果を得ることができる。
(第三の実施の形態)
以下の第三の実施の形態では、正反射光下で観察角度を変化させることで、複数の潜像画像がチェンジする構成について説明する。
図13に、本発明における潜像印刷物(1´´)を示す。図13(a)は、潜像印刷物(1´´)の正面図であり、図13(b)は、潜像印刷物(1´´)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1´´)は、基材(2´´)上に印刷画像領域(3´´)が形成されてなる。
本発明の印刷画像領域(3´´)の構成の概要を図14に示す。印刷画像領域(3´´)は、第一の画像(4´´)、第二の画像(5´´)及び第三の画像(6´´)が重ね合わさってなる。本第三の実施の形態において、第一の画像(4´´)は、更に第一の潜像要素群(4−A´´)と第二の潜像要素群(4−B´´)の二つの要素群に分かれる。
図15に第一の画像(4´´)を示す。第三の実施の形態において、第一の画像(4´´)は、第一の潜像要素群(4−A´´)と第二の潜像要素群(4−B´´)とを備える。第一の潜像要素群(4−A´´)の構成は、第一の実施の形態及び第二の実施の形態で説明した構成と同様であり、複数の第一の潜像要素(7PA´´)が規則的に配置されてなる。
一方、第二の潜像要素群(4−B´´)の構成は、第一の潜像要素群(4−A´´)と同様であって、第二の潜像要素(7PB´´)が規則的に複数配置されてなる。すなわち、画線幅W4の第二の潜像要素(7PB´´)が特定のピッチP1で第一の方向(図中S1方向)に連続して複数配置されてなる。第一の潜像要素(7PA´´)と第二の潜像要素(7PB´´)とは、第一の方向に位相がずれ、お互いに重なり合うことはない。第一の潜像要素群(4−A´´)及び第二の潜像要素群(4−B´´)は、第一の色相で形成される。
次に、第三の画像(6´´)について、図16を用いて説明する。第三の画像(6´´)は、画線幅W3のカモフラージュ要素(9´´)が、特定のピッチP1で第一の方向(図中S1方向)に連続して複数配置されることで形成されたカモフラージュ要素群を備えてなる。加えて、それぞれのカモフラージュ要素(9´´)は、第一の画像(4´´)のそれぞれの第一の潜像要素(7PA´´)及び第二の潜像要素(7PB´´)と対を成し、それぞれの第一の潜像要素(7PA´´)の濃淡を反転させて成る第一の反転要素(7NA´´)と、それぞれの第二の潜像要素(7PB´´)の濃淡を反転させて成る第二の反転要素(7NB´´)とを備える。
また、第三の実施の形態において、W1とW4を足した値は、W3以下である必要がある。加えて、第三の画像(6´´)は、第一の画像(4´´)と同じく、第一の色相を有する。なお、第三の実施の形態における第二の画像(5´´)の構成については、第一の実施の形態及び第二の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。また、三つの画像の積層順についても第三の画像(6´´)の上に第二の画像(5´´)が重なり、その上に第一の画像(4´´)が重なる構成であるため、第一の実施の形態及び第二の実施の形態と同様である。
次に、第三の実施の形態における三つの画像の刷り合わせの適正な位置関係について説明する。まず、第三の画像(6´´)の第一の反転要素(7NA´´)には、第一の画像(4´´)の第一の潜像要素(7PA´´)が、第三の画像(6´´)の第二の反転要素(7NB´´)には、第一の画像(4´´)の第二の潜像要素(7PB´´)が、嵌り合う位置関係により重ね合わせる必要がある。また、第二の画像(5´´)の蒲鉾状要素(8´´)は、カモフラージュ要素(9´´)中の第一の反転要素(7NA´´)の少なくとも一部と、第二の反転要素(7NB´´)の少なくとも一部を被覆する必要があり、カモフラージュ要素(9´´)を完全に被覆する構造となることが望ましい。
また、蒲鉾状要素(8´´)がカモフラージュ要素(9´´)を完全に被覆し、かつ、蒲鉾状要素(8´´)とカモフラージュ要素(9´´)の画線の中心が一致する構造とすることが最も望ましい。以上のような構造となった場合、第二の画像(5´´)と第一の画像(4´´)の位置関係も自動的に決まる。すなわち、蒲鉾状要素(8´´)の盛り上がりの頂点を中心として、盛り上がりを頂点とした片側の斜面には、第一の潜像要素(7PA´´)が重なり、盛り上がりを頂点としたもう一方の片側には、第二の潜像要素(7PB´´)が重なる構造となる。
以上の構造を有する本発明の潜像印刷物(1´´)の効果について、図17を用いて説明する。図17(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1´´)を拡散反射光下で観察した場合、アルファベットの「A」の文字及びアルファベットの「B」の文字は不可視であり、印刷画像領域(3´´)全体が第一の色相で視認される。
また、図17(b)に示すように、本発明の潜像印刷物(1´´)を正反射光下で観察した場合、特定の観察角度において第一の潜像要素群(4−A´´)が表す潜像画像である、アルファベットの「A」の文字が出現する。この場合、アルファベットの「A」の文字は、第一の色相として視認され、その他の印刷画像領域(3´´)は、第二の色相として視認される。
また、図17(c)に示すように、前述した特定の観察角度から変化させて(本例では傾きを大きくする)潜像印刷物(1´´)を観察することで、第一の潜像要素群(4−A´´)が表す潜像画像である、アルファベットの「A」の文字が消失して、第二の潜像要素群(4−B´´)が表す潜像画像である、アルファベットの「B」の文字が出現する。この場合、アルファベットの「B」の文字は、第一の色相として視認され、その他の印刷画像領域(3´´)は、第二の色相として視認される。第3の実施の形態においては、正反射光下で角度をわずかに変化させることで印刷画像領域(3´´)中に視認することができる画像がチェンジする効果が生じる。
以上の効果が生じる原理について説明する。まず、拡散反射光下で第一の潜像要素群(4−A´´)及び第二の潜像要素群(4−B´´)が不可視となる効果ついては、第一の実施の形態や第二の実施の形態で説明したものと同じ原理に基づく。すなわち、第一の反転要素(7NA´´)に第一の潜像要素(7PA´´)が嵌め合わさり、第二の反転要素(7NB´´)に第二の潜像要素(7PB´´)が嵌め合わさることで、第一の潜像要素(7PA´´)及び第二の潜像要素(7PB´´)は、カモフラージュ要素(9´´)の中に隠蔽されて不可視となる。このため、拡散反射光下では、第一の潜像要素群(4−A´´)が表す潜像画像である、アルファベットの「A」の文字と、第二の潜像要素群(4−B´´)が表す潜像画像である、アルファベットの「B」の文字とは不可視であり、印刷画像領域(3´´)中には、第一の色相の濃淡のないフラットな画像が視認される。
次に、正反射光下で第二の潜像要素群(4−B´´)が表す潜像画像であるアルファベットの「A」の文字が出現し、角度を変化させることで「A」の文字が消失して、第二の潜像要素群(4−B´´)が表す潜像画像であるアルファベットの「B」の文字が可視化される原理について説明する。第二の画像(5´´)は、カラーフリップフロップ性及び明暗フリップフロップ性のどちらかの特性を有することから、正反射光下において、第二の色相を発する。このような色彩変化を伴う強い反射光によって、第二の画像(5´´)の下に存在する第三の画像(6´´)は、不可視か、不可視に近くなる。
一方、第二の画像(5´´)の上に存在する第一の画像(4´´)は、第一の色相のまま変化せず、第二の色相の反射光を発する第二の画像(5´´)との間に生じた色差により可視化される。ここで、第二の画像(5´´)の蒲鉾状要素(8´´)は、盛り上がりを有しているため、三次元的な構造を有する。蒲鉾状要素(8´´)に特定の方向から光が入射した場合、光を強く正反射する部分は、蒲鉾状要素(8´´)の表面のうちの入射光と直交した表面のみであり、その他の表面の反射光は、相対的に小さくなる。
本発明の潜像印刷物(1´´)の三つの画像が最も望ましい位置関係で重なっている場合、図17の断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA側の斜面には、第一の潜像要素(7PA´´)が重なり、断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA´側の斜面には、第二の潜像要素(7PB´´)が重なっている。以上のような構造の潜像印刷物(1´´)における蒲鉾状要素(8´´)に対して、正反射光下の条件により固定された光源から図17の断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA側の斜面に光が入射するように潜像印刷物(1´´)の観察角度を変化させた場合、A側の斜面のみが光を強く正反射する。このとき、蒲鉾状要素(8´´)のA側の斜面の一部には、第一の潜像要素(7PA´´)が重なっており、第一の潜像要素(7PA´´)が存在する断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA側の斜面は、第一の色相として視認され、第一の潜像要素(7PA´´)が存在しない断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA側の斜面は、第二の色相に変化する。この変化によって、第一の潜像要素(7PA´´)が可視化される。
一方、入射する光に対して、逆側の斜面となる断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA´側の斜面は、影になったまま光を正反射する作用は生じない。この場合、断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA´側の斜面に形成された第二の潜像要素(7PB´´)は可視化されず、断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA´側の斜面全体が第一の色相のままで変化しない。
また、潜像印刷物(1´´)における蒲鉾状要素(8´´)に対して、図中の断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA´側の斜面に光が入射するように潜像印刷物(1´´)の観察角度を変化させた場合、蒲鉾状要素(8´´)の画線表面のうち、断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA´側の斜面が光を強く正反射する。このとき、蒲鉾状要素(8´´)のA´側の斜面の一部には、第二の潜像要素(7PB´´)が重なっており、第二の潜像要素(7PB´´)が存在する断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA´側の斜面は、第一の色相として視認され、第二の潜像要素(7PB´´)が存在しない断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA´側の斜面は、第二の色相に変化する。この変化によって、第二の潜像要素(7PB´´)が可視化される。
一方、入射する光に対して、逆側の斜面となる断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA側の斜面は、影になったまま光を正反射する作用は生じない。この場合には、断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA側の斜面に形成された第一の潜像要素(7PA´´)は可視化されず、断面図に示す蒲鉾状要素(8´´)のA側の斜面全体が第一の色相のまま変化しない。
以上の原理によって、入射する光の角度が変化することで印刷画像領域(3´´)中の潜像画像が第一の潜像要素群(4−A´´)が表す潜像画像から、第二の潜像要素群(4−B´´)が表す潜像画像へと変化する。これは、正反射光下の特定の角度範囲でのみ特定の潜像画像を出現させる原理であり、第一の実施の形態及び第二の実施の形態で述べた、正反射光下で第一の潜像要素群(4−A´´)を視認することができる角度範囲が制限される効果が生じる原理である。第一の潜像要素群(4−A´´)を視認することができる角度範囲が制限される効果は、W2よりもW1が小さく、蒲鉾状要素(8´´)の画線表面のうちの特定の角度範囲にのみ、第一の潜像要素(7P、7P´)が重なっていることから生じる効果であり、W2とW1が同じ場合や、W1がW2を超える大きさの場合で、蒲鉾状要素(8´´)の画線表面を第一の潜像要素(7P、7P´)が完全に覆う位置関係である場合には、この効果は生じない。
以上のように、第三の実施の形態では、正反射光下の特定の角度で色彩豊かな潜像画像が出現し、さらに、わずかに角度を変化させることで、異なる潜像画像にチェンジする効果を実現することができる形態である。ここで説明した正反射光下で生じる画像のチェンジ効果は、極めて視認性の高い効果であり、模倣することも困難であることから、真偽判別をより容易にするとともに、偽造を抑止する効果を得ることができる。また、当然のことながら、第二の実施の形態のように、第三の画像(6´´)中のカモフラージュ要素(9´´)のない領域に情報要素を付与して、拡散反射光下で視認できる有意情報を付与することも可能である。
また、第三の実施の形態では、潜像画像をアルファベットの「A」の文字と、アルファベットの「B」の文字の、合計2個としたが、潜像画像の数は2個に限定されるものではなく、ユーザーの希望に応じてn個の潜像画像を付与することができる。すなわちn個の潜像画像を付与するのであれば、第一の潜像要素群から第nの潜像要素群までを有する第一の画像を構成し、それぞれの潜像要素が重なりあわないように配置すれば良い。
図18は、n=5個の例であり、アルファベットの「A」から「E」までの5個の潜像画像を形成する構成として、第一の潜像要素群(4−A´´)から第五の潜像要素群(4−E´´)までを有する第1の画像(4´´)を形成し、それぞれの潜像要素が互いに重なり合わないように第一の画像(4´´)を構成した一例である。
(第四の実施の形態)
以下の第四の実施の形態では、正反射光下で観察角度を変化させることで色彩豊かな潜像画像が出現し、かつ、出現した潜像画像が動画的な視覚効果を有する構成について説明する。
図19に、本発明における潜像印刷物(1´´´)を示す。図19(a)は、潜像印刷物(1´´´)の正面図であり、図19(b)は、潜像印刷物(1´´´)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1´´´)は、基材(2´´´)上に印刷画像領域(3´´´)が形成されてなる。
本発明の印刷画像領域(3´´´)の構成の概要を図20に示す。印刷画像領域(3´´´)は、第一の画像(4´´´)、第二の画像(5´´´)及び第三の画像(6´´´)が重ね合わさってなる。第一の画像(4´´´)、第二の画像(5´´´)及び第三の画像(6´´´)の積層順序は、第三の画像(6´´´)の上に第二の画像(5´´´)が重なり、第二の画像(5´´´)の上に第一の画像(4´´´)が重なる層構造となっている。
まず、第一の画像(4´´´)について、図21を用いて具体的に説明する。第一の画像(4´´´)は、画線幅W1の第一の潜像要素(7P´´´)が特定のピッチP1で第一の方向(図中S1方向)に連続して複数配置されることで形成された第一の潜像要素群を備えてなる。
第四の実施の形態における第一の潜像要素(7P´´´)は、図21の拡大図に示すように、ある特定の基画像(15´´´)(本例では、桜の花びら)を基にして、特定の位置において基画像(15´´´)を、隣り合う領域の一部が重複するように、所定の間隔ずつずらして取り出すことで分割した画像を、第一の方向(図中S1方向)に圧縮して形成したものであり、隣り合う第一の潜像要素同士は、基画像(15´´´)を取り出した位置がピッチP1の分だけずれているため、隣り合った要素であってもそれぞれの形状はわずかに異なる。
この、第一の潜像要素の具体的な構造と作製方法については、特開2011−126028号公報に基づく。本構成を用いて形成した第一の潜像要素群は、正反射光下の動画効果に優れるという特徴を有する。また、第一の画像(4´´´)は、基材と異なる色で、かつ、透明でない第一の色相を有する。
次に、第三の画像(6´´´)について具体的に説明する。図22に示すのは、第三の画像(6´´´)であり、第三の画像(6´´´)は、画線幅W3のカモフラージュ要素(9´´´)が、特定のピッチP1で第一の方向(図中S1方向)に連続して複数配置されることで形成されたカモフラージュ要素群を備えてなる。それぞれのカモフラージュ要素(9´´´)は、第一の画像(4´´´)のそれぞれの第一の潜像要素(7P´´´)と対を成し、それぞれの第一の潜像要素(7P´´´)の濃淡を反転させてなる第一の反転要素(7N´´´)を備える。第三の画像(6´´´)は、第一の画像(4´´´)と同じく、第一の色相を有する。
第四の実施の形態における第二の画像(5´´´)の構成、三つの画像の積層順及び位置合わせの関係等については、第一の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
以上の構造を有する本発明の潜像印刷物(1´´´)の効果について、図23を用いて説明する。本発明の潜像印刷物(1´´´)を拡散反射光下で観察した場合、第一の潜像要素群は不可視であり、印刷画像領域(3)全体が第一の色相で視認できる(図示せず)。図23(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1´´´)を正反射光下で観察した場合、ある特定の観察角度において、第一の潜像要素群の基画像(15´´´)である「桜の花びら」が出現する。この場合、「桜の花びら」は、第一の色相として視認され、その他の印刷画像領域(3)は、第二の色相として視認される。
また、図23(b)に示すように、正反射光下において、本発明の潜像印刷物(1´´´)を、図23(a)の観察角度からわずかに異なる角度で観察した場合、角度の変化に伴って基画像(15´´´)である「桜の花びら」の位置が変化する。
また、図23(c)に示すように、正反射光下において、本発明の潜像印刷物(1´´´)を、図23(b)の観察角度からわずかに異なる角度で観察した場合、角度の変化に伴って基画像(15´´´)である「桜の花びら」の位置がさらに変化する。
拡散反射光下において、第一の潜像要素群が不可視となる原理については、第一の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。以下に、正反射光下で第一の潜像要素群の基画像(15´´´)である「桜の花びら」が、第一の色相で可視化される原理について説明する。
第二の画像(5´´´)の盛り上がりを有する蒲鉾状要素(8´´´)の上には、第一の画像(4´´´)の第一の潜像要素群が重ね合わさってなる。潜像印刷物(1´´´)に光が入射した場合、入射する光の角度の変化に応じて、蒲鉾状要素(8´´´)の画線表面のうち、入射光と直交した画線表面のみが選択的に光を正反射する。そのため、第三の実施の形態で述べたように、本発明の潜像印刷物(1´´´)においては、蒲鉾状要素(8´´´)の画線表面に重ねられた第一の潜像要素(7P´´´)のうち、光を強く正反射した蒲鉾状要素(8´´´)の画線表面上に重なった潜像要素(7P´´´)のみが選択的にサンプリングされて可視化される。
第四の実施の形態における第一の潜像要素(7P´´´)は、基画像(15´´´)を、隣り合う領域の一部が重複するように、所定の間隔ずつずらして取り出すことで分割した画像を、特定の縮率でS1方向に圧縮して形成した画像がピッチP1で配置されているため、各蒲鉾状要素(8´´´)上のS1方向において、同じ位相にある第一の潜像要素(7P´´´)が選択的にサンプリングされるため、いずれの場所(各蒲鉾状要素の表面)からサンプリングしたとしても、基画像(15´´´)が再生される。また、観察角度を変えることで、画像のサンプリングされる場所が変化するため、基画像(15´´´)が動いているように見える効果が生じる。より具体的な原理については特開2011−126028号公報に記載の原理に基づく。
以上のように、第四の実施の形態は、正反射光下の特定の角度で色彩豊かな基画像(15´´´)が出現し、さらに、わずかに角度を変化させることで、出現した基画像(15´´´)の動画的な視覚効果を発揮することができる形態である。
第四の実施の形態において、正反射光下で出現する潜像画像が一種類である例を用いて説明したが、複数の異なる潜像画像を出現させても良く、印刷画像領域の中に、異なる基画像から形成した潜像画像や、異なる縮率で形成した潜像画像等の、別の潜像画像を配置しても良い。
図24は、二つの潜像画像(4−a´´´´、4−b´´´´)を第一の画像(4´´´´)の中に配置し、第三の画像(6´´´´)には、それに対応する反転要素を備えたカモフラージュ要素を配置した例である。この場合の潜像要素群の具体的な構成については、特開2011−126028号公報に記載の様々な構成を用いることができる。ここで説明した正反射光下で生じる画像の動画的な視覚効果は、極めて視認性の高い効果であり、また、模倣することも困難であることから、真偽判別をより容易にするとともに、偽造を抑止する効果を得ることができる。
また、当然のことながら、第二の実施の形態のように、第三の画像(6´´´)中のカモフラージュ要素(9´´´)のない領域に情報要素を付与して、拡散反射光下で視認される有意情報を付与することも可能である。
以上、本発明の実施の形態について、第一から第四の実施の形態を説明したが、これに限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
また、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青及び黄といった、色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400〜700nm)の特定の波長の強弱の分布を示すものである。
本発明における第二の画像(5)の蒲鉾状要素(8)は、盛り上がり高さが必須であることから、印刷画線に盛り上がりを形成可能な印刷方式で印刷することが望ましい。すなわち、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷及びスクリ−ン印刷等で形成しても良い。また、潜像画像を容易に視認することができる程度の視認性を確保するためには、画線の盛り上がり高さを2μm以上とする必要がある。盛り上がり高さの上限は特にないが、堅牢性や流通適性を考慮すると、1mm以下に留めることが望ましい。また、実施の形態のように、印刷で直接画線の盛り上がりを形成するのではなく、エンボス加工又は透き入れによって基材上に凹凸構造を形成し、その上に印刷被膜を形成する構成や、フィルムを貼付して第二の画像(5)を形成する構成としても良い。
本発明における第一の画像(4)及び第三の画像(6)は、盛り上がりは必須ではなく、平坦な構造で良い。すなわち、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷及びスクリ−ン印刷等で形成しても良く、インクジェットプリンタ又はレーザープリンタ等で形成しても良い。また、印刷やそれに準じる方法で形成する場合、第一の画像(4)及び第三の画像(6)は、物体色を有する一般的な着色インキ又はメタリックインキ等のあらゆるインキを用いることができるため、色彩選択の自由度は極めて高い。なお、正反射時に出現する潜像となる第一の画像(4)中の各潜像要素(7P)には、蒲鉾状要素(8)のような明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性は必須ではないが、これらの性質を備えていても良い。
また、本明細書において、第一の画像(4)の画線構成については、画像がチェンジする構成と動画的な視覚効果が生じる構成を説明したが、第一の画像(4)の画線構成については、これに限定されるものはない。例えば、特許第4844894号公報や特許第5131789号公報に記載のように、モアレを用いて潜像画像を出現させる画線構成を用いることもできる。モアレ画線を用いた場合でも、モアレ画線を潜像要素として着色し、潜像要素に対応した位置に反転要素が配置されて潜像要素をカモフラージュするという構成を用いれば良い。
本発明における全ての要素である、すなわち、潜像要素(7P)、反転要素(7N)、カモフラージュ要素(9)、蒲鉾状要素(8)及び情報要素(14)は、画線に限定されるものではなく、画線及び画素の少なくとも一つ又はそれぞれの組み合わせで形成しても良く、画素単独で形成する場合には、画素を一定方向に複数配列して画線状に形成する。例えば、図25の概要図の一例のように、全ての要素を画素で形成しても良い。この場合、各要素を画線で形成した例と同様に、図26(a)に示すようにそれぞれの情報要素(7P´´´´´)同士を重ならないように配置して第一の画像(4´´´´´)を形成し、それぞれの情報要素(7P´´´´´)と対を成す反転要素(7N´´´´´)をカモフラージュ要素(9´´´´´)上に構成し、図26(b)に示す第三の画像(6´´´´´)を形成して、図27に示すように、それぞれ対を成す反転要素(7N´´´´´)に情報要素(7P´´´´´)を重ね合わせる構成を用いれば良い。この場合、潜像要素(7P)を画素で形成し、蒲鉾状要素(8)を画線で形成する構成や、潜像要素(7P)において、それぞれの各要素同士で画線と画素を組み合わせて構成しても良い。
また、画線を画素に変えた場合の基本的な構成方法としては、特許第4682283号公報、特許第5131789号公報及び特開2011−126028号公報に記載の構成を用いれば良い。基本的には、潜像要素に対応した位置に反転要素が配置されて潜像要素をカモフラージュするという構成を用いれば、各要素がいかなる形状であっても本発明の潜像印刷物は形成し得る。
なお、本発明における画線とは、印刷物の最小単位である網点を一定方向に一定の距離で隙間なく、連続して配置して構成した画像要素であって、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線のことであり、いかなる画線形状で構成しても本発明の技術思想に含まれる。また、画素とは、網点を複数集合させて形成した一塊の画像要素であって、形状に関しては、円、多角形及び星型等の任意の形状とすることができ、その他特殊な文字又は記号等も含まれる。
以下、前述した発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
図28に実施例1の潜像印刷物(1−1)を示す。図28(a)は、潜像印刷物(1−1)の正面図であり、図28(b)は、潜像印刷物(1−1)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1−1)は、基材(2−1)上に印刷画像領域(3−1)が形成されてなる。基材(2−1)は、一般的な白色コート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。
本発明の印刷画像領域(3−1)の構成の概要を図29に示す。印刷画像領域(3−1)は、第一の画像(4−1)、第二の画像(5−1)及び第三の画像(6−1)が重ね合わさってなる。第一の画像(4−1)、第二の画像(5−1)及び第三の画像(6−1)の積層順序は、第三の画像(6−1)の上に第二の画像(5−1)を重ね、第二の画像(5−1)の上に第一の画像(4−1)を重ねた層構造とした。
図30は、第一の画像(4−1)であり、第一の画像(4−1)は、画線幅0.3mmの第一の潜像要素(7P−1)をピッチ0.4mmでS1方向に連続して複数配置されることで形成された第一の潜像要素群を備えてなる。実施例1における第一の潜像要素(7P−1)とは、図30の拡大図に示すように、「桜の花びら」を基画像(15−1)にして、特定の位置において基画像(15−1)をS1方向に3cmの大きさで取り出し、この取り出した画像をS1方向に0.3mm幅に圧縮して形成したものである。この第一の潜像要素の具体的な構造と作製方法については、特開2011−126028号公報に基づく。
図31は、第二の画像(5−1)であり、画線幅0.3mmの蒲鉾状要素(8−1)をピッチ0.4mmでS1方向に連続して配置して構成した。図32に示すのは、第三の画像(6−1)であり、第三の画像(6−1)は、画線幅0.35mmのカモフラージュ要素(9−1)が、ピッチ0.4mmでS1方向に連続して複数配置されることで形成されたカモフラージュ要素群を備えてなる。それぞれのカモフラージュ要素(9−1)は、第一の画像(4−1)のそれぞれの第一の潜像要素(7P−1)と対を成し、それぞれの第一の潜像要素(7P−1)の濃淡を反転させて成る第一の反転要素(7N−1)を備える。
以上の構成の三つの画像の形成手順として、まず、基材(2−1)上に第三の画像(6−1)をUV乾燥方式のオフセット印刷方式で印刷した。第三の画像(6−1)の形成にあたっては、一般的なプロセス印刷用の赤色のオフセットインキを使用した。続いて、第三の画像(6−1)の上に第二の画像(5−1)をUV乾燥方式のスクリーン印刷方式で印刷した。第二の画像(5−1)は、表1に示すUVスクリーンインキを用いた。このインキは、拡散反射光下では半透明であり、正反射光下では緑色の干渉色を発する。最後に、第二の画像(5−1)の上に第一の画像(4−1)をUV乾燥方式のオフセット印刷方式で印刷した。第一の画像(4−1)の形成にあたっては、前述の赤色のオフセットインキに茶色の顔料を極微量添加してわずかに彩度を落とした赤色インキを使用した。本実施例において、第一の色相は赤であり、第二の色相は緑である。また、蒲鉾状要素(8−1)の盛り上がり高さは、約12μmであった。
三つの画像の重なり合いの位置関係については、第三の画像(6−1)のカモフラージュ要素(9−1)の中心に、第二の画像(5−1)の蒲鉾状要素(8−1)の中心が重なり、かつ、第三の画像(6−1)のそれぞれの第一の反転要素(7N−1)に第一の画像(4−1)の第一の潜像要素(7P−1)が嵌り合う位置関係で重ね合わせて形成した。
以上の構成で形成した本発明の潜像印刷物(1−1)の効果について、図33を用いて説明する。本発明の潜像印刷物(1−1)を拡散反射光下で観察した場合、第一の潜像要素群は不可視であり、印刷画像領域(3−1)全体が赤色で視認された(図示せず)。図33(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1−1)を正反射光下で観察した場合、ある特定の観察角度において、第一の潜像要素群の基となった基画像(15−1)である「桜の花びら」が赤色として視認され、その他の印刷画像領域(3−1)は、緑色で視認された。続いて、図33(b)に示すように、正反射光下において、本発明の潜像印刷物(1−1)を、図33(a)の観察角度からわずかに異なる角度で観察した場合、角度の変化に伴って基画像(15−1)である「桜の花びら」の位置が変化して観察された。また、図33(c)に示すように、正反射光下において、本発明の潜像印刷物(1−1)を、図33(b)の観察角度からわずかに異なる角度で観察した場合、角度の変化に伴って基画像(15−1)である「桜の花びら」の位置がさらに変化して観察された。
以上のように、拡散反射光下において潜像画像は不可視であり、正反射光下において第二の色相を有する印刷画像領域(3−1)の中に、第一の色相を有した「桜の花びら」の画像が出現した。また、「桜の花びら」の画像は、観察角度を変えることで、動画的な視覚効果を有する基画像(15−1)として観察することができた。