JP6344040B2 - すぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
しかしながら、従来のTiAl系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性にすぐれるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
しかし、前述した特許文献1に記載される被覆工具は、(Ti1−XAlX)N層からなる硬質被覆層が物理蒸着法で成膜され、膜中のAl含有量Xを高めることができないため、例えば、合金鋼の高速断続切削に供した場合には、耐チッピング性が十分でないという課題があった。
また、硬質被覆層として、組成式:(Ti1−sAls)(CtN1−t)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合s、および、CのCとNの合量に占める平均含有割合t(但し、s、tはいずれも原子比)が、それぞれ、0.94≦s<0.98、0≦t≦0.005を満足する立方晶構造と六方晶構造の混合構造を有する複合窒化物または複合炭窒化物からなるB層を被覆した場合には、B層はすぐれた耐摩耗性を示す。
したがって、少なくとも、A層とB層の積層構造からなる硬質被覆層を備える被覆工具は、A層の備える靭性、耐チッピング性、耐欠損性と、B層が備える耐摩耗性が相まって、高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的・機械的な高負荷が作用する高速断続切削加工に供した場合でも、すぐれた切削性能を発揮することを見出したのである。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、前記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜された平均層厚1〜20μmのTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、組成の異なるA層とB層からなる2層の積層構造を有しており、
(a)前記A層は、立方晶構造のTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物結晶粒からなり、
組成式:(Ti1−xAlx)(CyN1−y)
で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合xおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合y(但し、x、yはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦x≦0.75、0≦y≦0.005を満足し、
(b)前記B層は、立方晶構造及び六方晶構造のTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物結晶粒からなり、
組成式:(Ti1−sAls)(CtN1−t)
で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合sおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合t(但し、s、tはいずれも原子比)が、それぞれ、0.94≦s<0.98、0≦t≦0.005を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記複合窒化物または複合炭窒化物層の各層において、前記A層の1層あたりの平均層厚が1〜4μm、前記B層の平均層厚が3〜7μmであり、かつA層とB層の合計積層数が2〜6層であり、B層において電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶構造を、上記TiとAlの複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、立方晶結晶格子の電子線後方散乱回折像が観察される立方晶結晶相と六方晶結晶格子の電子線後方散乱回折像が観察される六方晶結晶相が観察され、かつ、立方晶結晶相と六方晶結晶相との合計に占める立方晶結晶相の面積割合が60面積%以上であることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体と前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の間に、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層が存在することを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかにに記載の表面被覆切削工具。
(5) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具の製造方法。」
に特徴を有するものである。
本発明における硬質被覆層は、その平均合計層厚が1μm未満では、長期の使用に亘っての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均合計層厚が20μmを越えると、高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となる。したがって、その平均合計層厚は1〜20μmとすることが好ましく、より好ましくは3〜14μmとする。また、A層の平均層厚は靱性および耐チッピング性の観点より1〜4μmとすること、B層の平均層厚は耐摩耗性の観点より3〜7μmとすることが好ましく、積層回数に関しては6回以内とすることで、前記各層の層厚を担保することができるため、好ましい。
また、炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体とTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の間に形成するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層の平均合計層厚に関しては、0.1μm未満では層厚が薄いため、長期の使用に亘って耐摩耗性を向上させることができず、一方、平均層厚が20μmより大きくなると、工具基体およびTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層との付着強度が低下し、耐剥離性が低下するため、その平均層厚は0.1〜20μmとするのが望ましい。
上部層として、酸化アルミニウム層を含む場合、酸化アルミニウム層の合計平均層厚が1μm未満であると、層厚が薄いため長期の使用に亘って耐摩耗性の向上を図ることができず、25μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなることから、酸化アルミニウム層を含む上部層の層厚は、1〜25μmとすることが望ましい。
本発明の硬質被覆層のA層を構成する(Ti1−xAlx)(CyN1−y)層は、立方晶構造を有する結晶粒から構成されるが、Alの平均含有割合x(原子比)の値が0.60未満になると、高温硬さが不足し耐摩耗性が低下するようになり、一方、x(原子比)の値が0.75を超えると、相対的なAl含有割合の増加によって(Ti1−xAlx)(CyN1−y)層自体の靱性が低下し、チッピング、欠損を発生しやすくなる。したがって、Alの平均含有割合x(原子比)の値は、0.60以上0.75以下とすることが必要である。
また、前記(Ti1−xAlx)(CyN1−y)層において、C成分には硬さを向上させ、一方、N成分には高温強度を向上させる作用があるが、C成分の平均含有割合y(原子比)が0.005を超えると、高温強度が低下する。したがって、C成分の平均含有割合y(原子比)は、0≦y≦0.005と定めた。
本発明の硬質被覆層のB層を構成する(Ti1−sAls)(CtN1−t)層は、立方晶構造を有する結晶粒と六方晶構造を有する結晶粒との混晶構造として構成されるが、Alの平均含有割合s(原子比)の値が0.94未満になると、A層との積層構造にした場合に、高温硬さが不足し耐摩耗性を十分に確保することができず、一方、s(原子比)の値が0.98以上になると、相対的なTi含有割合が硬さを担保するにあたって不十分となり、(Ti1−sAls)(CtN1−t)層自体の耐摩耗性が著しく低下する。したがって、Alの平均含有割合s(原子比)の値は、0.94以上0.98未満とすることが必要である。
また、前記(Ti1−sAls)(CtN1−t)層において、C成分には硬さを向上させ、一方、N成分には高温強度を向上させる作用があるが、C成分の平均含有割合t(原子比)が0.005を超えると、高温強度が低下する。したがって、C成分の平均含有割合t(原子比)は、0≦t≦0.005と定めた。
下部層、上部層を設ける場合、前述したような効果を十分に奏するためには、下部層に含まれるTi化合物層の合計平均層厚については、0.1μm以上とすることが好ましく、上部層に含まれる酸化アルミニウム層の平均層厚については1μm以上とすることが好ましい。一方、下部層に含まれるTi化合物層の合計平均層厚が20μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。また、上部層に含まれる酸化アルミニウム層の平均層厚が25μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。
したがって、下部層の平均層厚は、合計層厚で0.1〜20μmとすることが望ましく、また、上部層に含まれる酸化アルミニウム層の平均層厚は、1〜25μmとすることが望ましい。
反応ガス組成(容量%):
TiCl4 3〜4%、 Al(CH3)3 0〜0.5%、AlCl3 5〜7%、NH3 5〜10%、N2 0〜3%、残りH2、
反応雰囲気温度: 700〜900℃、
反応雰囲気圧力: 2〜3kPa、
という条件で、立方晶構造の(Ti1−xAlx)(CyN1−y)層からなるA層を蒸着形成することができる。
反応ガス組成(容量%):
TiCl4 1.0〜1.5%、 Al(CH3)3 0〜0.5%、AlCl3 4.5〜7.0%、NH3 5〜10%、N2 6〜10%、
残りH2、
反応雰囲気温度: 700〜900℃、
反応雰囲気圧力: 2〜3kPa、
という条件で、立方晶構造と六方晶構造の混晶の(Ti1−sAls)(CtN1−t)層からなるB層を蒸着形成することができる。
なお、本発明被覆工具6〜10については、表3に示される形成条件で、表6に示される下部層および上部層を形成した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、次のとおりである。
(a)前記工具基体Aおよびaを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のAl−Ti合金を配置し、
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつAl−Ti合金からなるカソード電極とアノード電極との間に200Aの電流を流してアーク放電を発生させ、装置内にAlおよびTiイオンを発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、前記Al−Ti合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表8に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Ti1−xAlx)(CyN1−y)層を蒸着形成し、参考例被覆工具9,10を製造した。
ついで、前述した本発明被覆工具1〜10の複合炭窒化物層の各層について、電子線マイクロアナライザ(EPMA,Electron−Probe−Micro−Analyser)を用い、試料断面を研磨し、加速電圧7kVの電子線を試料断面側から照射し、得られた特性X線の解析結果の10点平均から、A層の平均Al含有割合x、平均C含有割合y、また、B層の平均Al含有割合s、平均C含有割合tを測定した。
また、B層においては立方晶構造あるいは六方晶構造であるかを同定した後に、立方晶結晶相と六方晶結晶相との合計に占める立方晶結晶相の面積割合を求めた。立方晶結晶相の面積割合が60面積%以上であると硬さが向上し、より優れた耐摩耗性を有することができるため、60面積%以上であることが好ましい。
表7、表8に、その結果を示す。
被削材: JIS・SCM440幅100mm、長さ400mmのブロック材
回転速度: 968min−1、
切削速度: 380m/min、
切り込み: 1.2mm、
一刃送り量: 0.15mm/刃、
切削時間: 8分、
表9に、前記切削試験の結果を示す。
なお、本発明被覆工具14〜18については、表3に示される形成条件で、表12に示される下部層および上部層を形成した。
なお、本発明被覆工具14〜18と同様に、比較被覆工具14〜18については、表3に示される形成条件で、表12に示される下部層および上部層を形成した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用いた。
ついで、前記の本発明被覆工具11〜20の硬質被覆層について、実施例1の場合と同様にして、A層の平均Al含有割合x、平均C含有割合y、また、B層の平均Al含有割合s、平均C含有割合tを測定した。
さらに、A層、B層の結晶構造およびB層における立方晶面積割合についても、実施例1の場合と同様にして測定した。
表13、表14に、その結果を示す。
切削条件1:
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:370m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:5分、
(通常の切削速度は、220m/min)、
切削条件2:
被削材:JIS・FCD700の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:320m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.2mm/rev、
切削時間:5分、
(通常の切削速度は、200m/min)、
表15に、前記切削試験の結果を示す。
なお、本発明被覆工具24〜27については、表3に示される形成条件で、表17に示される下部層および上部層を形成した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用い、前記工具基体の表面に、(Ti1−xAlx)(CyN1−y)層、を蒸着形成し、参考例被覆工具28を製造した。
ついで、前記の本発明被覆工具21〜28の硬質被覆層について、実施例1の場合と同様にして、A層の平均Al含有割合x、平均C含有割合y、また、B層の平均Al含有割合s、平均C含有割合tを測定した。
さらに、A層、B層の結晶構造およびB層における立方晶面積割合についても、実施例1の場合と同様にして測定した。
表18、表19に、その結果を示す。
被削材: JIS・SCr420(硬さ:HRC62)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 250m/min、
切り込み: 0.1mm、
送り: 0.1mm/rev、
切削時間: 4分、
表20に、前記切削試験の結果を示す。
これに対して、比較例被覆工具1〜8,11〜18、21〜27、参考例被覆工具9,10,19、20、28については、いずれも、硬質被覆層にチッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生するばかりか、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (5)
- 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、前記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜された平均層厚1〜20μmのTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、組成の異なるA層とB層からなる2層の積層構造を有しており、
(a)前記A層は、立方晶構造のTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物結晶粒からなり、
組成式:(Ti1−xAlx)(CyN1−y)
で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合xおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合y(但し、x、yはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦x≦0.75、0≦y≦0.005を満足し、
(b)前記B層は、立方晶構造及び六方晶構造のTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物結晶粒からなり、
組成式:(Ti1−sAls)(CtN1−t)
で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合sおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合t(但し、s、tはいずれも原子比)が、それぞれ、0.94≦s<0.98、0≦t≦0.005を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の各層において、前記A層の平均層厚が1〜4μm、前記B層の平均層厚が3〜7μmであり、A層とB層の合計積層数が2〜6層であり、B層において電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶構造を、上記TiとAlの複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、立方晶結晶格子の電子線後方散乱回折像が観察される立方晶結晶相と六方晶結晶格子の電子線後方散乱回折像が観察される六方晶結晶相との混合組織からなり、かつ、立方晶結晶相と六方晶結晶相との合計に占める立方晶結晶相の面積割合は60面積%以上であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 前記炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体と前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の間に、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層が存在することを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
- 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
- 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具の製造方法。
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