JP5946016B2 - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
ただ、上記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
ただ、上記特許文献1、2に示される被覆工具は、物理蒸着法により硬質被覆層を成膜するため、Alの含有割合Xを0.6以上にはできず、より一段と切削性能を向上させることが望まれている。
例えば、特許文献3には、TiCl4、AlCl3、NH3の混合反応ガス中で、650〜900℃の温度範囲において化学蒸着を行うことにより、Alの含有割合Xの値が0.65〜0.95である(Ti1−XAlX)N層及び/または、(Ti1−XAlX)C層及び/または、(Ti1−XAlX)CN層を成膜できることが記載されているが、この文献では、この(Ti1−XAlX)N層及び/または、(Ti1−XAlX)C層及び/または、(Ti1−XAlX)CN層の上にさらにAl2O3層を被覆し、これによって断熱効果を高めることを目的とするものであるから、Xの値を0.65〜0.95まで高めた(Ti1−XAlX)N層及び/または、(Ti1−XAlX)C層及び/または、(Ti1−XAlX)CN層の形成によって、切削性能へ如何なる影響があるかという点についてまでの開示はない。
しかし、上記特許文献1,2に記載される被覆工具は、(Ti1−XAlX)N層からなる硬質被覆層が物理蒸着法で成膜され、膜中のAl含有量Xを高めることができないため、例えば、合金鋼の高速断続切削に供した場合には、耐チッピング性が十分であるとは言えない。
一方、上記特許文献3,4に記載される化学蒸着法で被覆形成した(Ti1−XAlX)N層については、Al含有量Xを高めることができ、また、立方晶構造を形成させることができることから、所定の硬さを有し耐摩耗性にはすぐれた硬質被覆層が得られるものの、基体との密着強度は十分でなく、また、靭性に劣ることから、合金鋼の高速断続切削に供する被覆工具として用いた場合には、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生しやすく、満足できる切削性能を発揮するとは言えない。
本発明は、合金鋼の高速断続切削等に供した場合であっても、すぐれた耐チッピング性を発揮するとともに、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供することを目的とするものである。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット、または立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された基体の表面に、平均層厚1〜20μmの層厚で硬質被覆層が被覆された表面被覆切削工具であって、
(a)上記硬質被覆層は、立方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物層からなり、その平均組成を、
組成式:(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)
で表した場合、Al含有割合XおよびC含有割合Y(但し、X、Yは何れも原子比)は、それぞれ、0.55≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005を満足し、
(b)上記TiとAlの複合炭窒化物層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、上記TiとAlの複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、0〜10度の範囲内に存在する度数と25〜35度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の70%以上の割合を示すTiとAlの複合炭窒化物層であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記(1)に記載の表面被覆切削工具の硬質被覆層において、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、硬質被覆層の縦断面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、Al、炭素、窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係でNの上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が50%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示すTiとAlの複合炭窒化物層であることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具の製造方法において、上記硬質被覆層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具の製造方法。」
に特徴を有するものである。
上記(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層において、Alの含有割合X(原子比)の値が0.55未満になると、高温硬さが不足し耐摩耗性が低下するようになり、一方、X(原子比)の値が0.95を超えると、相対的なTi含有割合の減少により、(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層自体の靭性が低下し、チッピング、欠損を発生しやすくなることから、X(原子比)の値は、0.55以上0.95以下とすることが必要である。
また、上記(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層において、C成分には硬さを向上させ、一方、N成分には高温強度を向上させる作用があるが、C成分の含有割合Y(原子比)が0.0005未満となると高硬度が得られなくなり、一方、Y(原子比)が0.005を超えると、高温強度が低下してくることから、Y(原子比)の値は、0.0005以上0.005以下と定めた。
なお、PVD法によって上記組成の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層を成膜した場合には、結晶構造は六方晶であるが、本発明では、後記する化学蒸着法によって成膜していることから、立方晶構造を維持したままで上記組成の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層を得ることができるので、皮膜硬さの低下はない。
この発明の上記(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、その縦断面方向から解析した場合、基体表面の法線方向(断面研磨面における基体表面と垂直な方向)に対する前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角(図1(a)、(b)参照)を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、0〜10度の範囲内に存在する度数と25〜35度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の70%以上の割合となる傾斜角度数分布形態を示す場合に、上記TiとAlの複合炭窒化物層からなる硬質被覆層は、立方晶構造を維持したままで高硬度を有し、しかも、上記傾斜角度数分布形態によって靭性を向上させる。
したがって、このような被覆工具(請求項1の発明)は、例えば、合金鋼の高速断続切削等に用いた場合であっても、チッピング、欠損、剥離等の発生が抑えられ、しかも、すぐれた耐摩耗性を発揮する。
反応ガス組成(容量%):
TiCl4 0.5〜 2.5%、Al(CH3)3 0〜 5.0%、
AlCl3 0〜 10.0%、NH3 10〜 15%、
N2 6〜 10%、C2H4 0〜 1%、
Ar 0〜 10%、残りH2、
反応雰囲気温度: 700〜 900℃、
反応雰囲気圧力: 2〜 5kPa、
という条件下で蒸着することによって成膜することができる。
例えば、
反応ガス組成(容量%):
TiCl4 0.5〜 2.5%、Al(CH3)3 0〜 5.0%、
AlCl3 0〜 10.0%、NH3 10〜 12%、
N2 6〜 10%、C2H4 0〜 1%、
Ar 5〜 10%、残りH2、
反応雰囲気温度: 700〜 900℃、
反応雰囲気圧力: 2〜 3kPa、
とより限定した条件で成膜することが必要である。
さらに、好ましくは、該硬質被覆層は、構成原子共有格子点分布グラフにおいて、ΣN+1全体に占めるΣ3の分布割合は50%以上であることによって、より一段と耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性等が向上し、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することができるのである。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、次のとおりである。
(a)上記工具基体Aおよびaを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のAl−Ti合金を配置し、
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつAl−Ti合金からなるカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、上記Al−Ti合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表6に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Al,Ti)N層を蒸着形成し、
参考例被覆工具9、10を製造した。
ついで、上記の本発明被覆工具1〜10の硬質被覆層について、硬質被覆層の平均Al含有割合X、平均C含有割合Y、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線がなす傾斜角についての傾斜角度数分布における0〜10度の範囲内に存在する度数の割合(α),25〜35度の範囲内に存在する度数の割合(β),傾斜角度数分布全体に占めるその合計度数の割合(α+β),構成原子共有格子点分布グラフにおいて、ΣN+1全体に占めるΣ3の分布割合(γ)について測定した。
図3に、本発明被覆工具8について測定した構成原子共有格子点分布グラフを示す。
なお、具体的な測定は次のとおりである。
蛍光X線分析装置を用い、立方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物層からなる硬質被覆層表面にスポット径100μmのX線を照射し、得られた特性X線の解析結果から平均Al含有割合X、平均C含有割合Yを求めた。
ついで、立方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物層からなる硬質被覆層の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、基体表面の法線(断面研磨面における基体表面と垂直な方向)に対して、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより、0〜10度の範囲内に存在する度数の割合(α),25〜35度の範囲内に存在する度数の割合(β),傾斜角度数分布全体に占めるその合計度数の割合(α+β)を求めた。また、基体表面の法線(断面研磨面における基体表面と垂直な方向)に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28 とする) に占める分布割合を求めることにより構成原子共有格子点分布グラフ作成し、ΣN+1全体に占めるΣ3の分布割合(γ)を求めた。
さらに、硬質被覆層の結晶構造については、X線回折装置を用い、Cu−Kα線を線源としてX線回折を行った場合、JCPDS00−038−1420立方晶TiNとJCPDS00−046−1200立方晶AlN、各々に示される同一結晶面の回折角度の間(例えば、36.66〜38.53°、43.59〜44.77°、61.81〜65.18°)に回折ピークが現れることを確認することによって調査した。
表5に、その結果を示す。
また、硬質被覆層の結晶構造についても、本発明被覆工具1〜10と同様にして、調査した。
表6に、その結果を示す。
被削材: JIS・SCM440幅100mm、長さ400mmのブロック材
回転速度: 930min−1、
切削速度: 365m/min、
切り込み: 1.2mm、
一刃送り量: 0.1mm/刃、
切削時間: 8分、
表7に、上記切削試験の結果を示す。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用い、前記工具基体の表面に、表10に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Al,Ti)N層を蒸着形成し、
参考例被覆工具15を製造した。
ついで、上記の本発明被覆工具11〜15の硬質被覆層について、硬質被覆層の平均Al含有割合X、平均C含有割合Y、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線がなす傾斜角についての傾斜角度数分布における0〜10度の範囲内に存在する度数の割合(α),25〜35度の範囲内に存在する度数の割合(β),傾斜角度数分布全体に占めるその合計度数の割合(α+β),構成原子共有格子点分布グラフにおいて、ΣN+1全体に占めるΣ3の分布割合(γ)、結晶構造について、実施例1に示される方法と同様の方法を用い測定した。
表9に、その結果を示す。
また、硬質被覆層の結晶構造についても、本発明被覆工具11〜15と同様にして、調査した。
表10に、その結果を示す。
被削材: JIS・SCM415(硬さ:HRC62)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220 m/min、
切り込み: 0.15mm、
送り: 0.15mm/rev、
切削時間: 4分、
表11に、上記切削試験の結果を示す。
これに対して、比較例被覆工具1〜8,11〜14、参考例被覆工具9,10,15については、いずれも、硬質被覆層にチッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生するばかりか、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (3)
- 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット、または立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された基体の表面に、平均層厚1〜20μmの層厚で硬質被覆層が被覆された表面被覆切削工具であって、
(a)上記硬質被覆層は、立方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物層からなり、その平均組成を、
組成式:(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)
で表した場合、Al含有割合XおよびC含有割合Y(但し、X、Yは何れも原子比)は、それぞれ、0.55≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005を満足し、
(b)上記TiとAlの複合炭窒化物層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、上記TiとAlの複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、0〜10度の範囲内に存在する度数と25〜35度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の70%以上の割合を示すTiとAlの複合炭窒化物層であることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 請求項1に記載の表面被覆切削工具の硬質被覆層において、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、硬質被覆層の縦断面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、Al、炭素、窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係でNの上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が50%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示すTiとAlの複合炭窒化物層であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 請求項1または2に記載の表面被覆切削工具の製造方法において、上記硬質被覆層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜することを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具の製造方法。
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