以下、添付図面にしたがって本発明を実施するための形態について詳説する。
<インクジェット記録装置の構成例>
図1はインクジェット記録装置の構成例を示す外観斜視図である。インクジェット記録装置10は、シリアル式インクジェットプリンタの一例であり、紫外線硬化型インクを用いて記録媒体12にカラー画像を記録するワイドフォーマットプリンタである。ただし、発明の適用に際して、インクジェット記録装置の形態は本例に限定されない。
インクジェット記録装置10は、装置本体20と、装置本体20を支持する支持脚22とを備えている。装置本体20には、記録ヘッド24と、プラテン26と、ガイド機構28と、キャリッジ30とが設けられている。
記録ヘッド24は、記録媒体12に向けてインクを吐出するドロップオンデマンド型のインクジェットヘッドである。「記録ヘッド」という用語は、印刷ヘッド、印字ヘッド、プリントヘッド、描画ヘッド、インク吐出ヘッド、液体吐出ヘッド、液滴吐出ヘッド、又は、液滴噴射ヘッドなどの用語と同義である。また、「インクジェット記録装置」という用語は、インクジェット印刷装置、インクジェット印刷機、インクジェットプリンタ、又は、インクジェット式画像形成装置などの用語と同義である。「記録」は、印刷、印字、プリント、描画、又は、画像形成の意味を包括する用語として用いる。
記録媒体12には、紙、不織布、塩化ビニル、合成化学繊維、ポリエチレン、ポリエステル、又はターポリンなど材質を問わず、様々な媒体を用いることができる。記録媒体12は、浸透性媒体であってもよいし、非浸透性媒体であってもよい。「記録媒体」という用語は、インクが付着される媒体の総称であり、印字媒体、被記録媒体、被画像形成媒体、受像媒体、被吐出媒体、プリントメディア、記録用紙、又は、印刷用紙など様々な用語で呼ばれるものが含まれる。なお、本明細書で「用紙」という用語は、「記録媒体」と同義の意味で用いる。
プラテン26は、記録媒体12を支持する部材である。ガイド機構28及びキャリッジ30は、記録ヘッド24を移動可能に支持するヘッド移動手段として機能する。ガイド機構28は、プラテン26の上方において、記録媒体12の搬送方向と交差する方向であって、かつプラテン26の媒体支持面と平行な方向であるヘッド走査方向に沿って延在して配置されている。プラテン26の上方とは、重力方向を「下方」として、プラテン26よりも上側の高い位置であることを意味する。記録媒体12の搬送方向を「用紙送り方向」と呼ぶ場合がある。また、用紙送り方向と直交する方向であって、かつ記録媒体12の記録面に平行な方向を「用紙幅方向」と呼ぶ場合がある。
キャリッジ30は、ガイド機構28に沿って用紙幅方向に往復移動可能に支持されている。キャリッジ30の往復移動方向と平行な方向が「主走査方向」に相当する。また、記録媒体12の搬送方向と平行な方向が「副走査方向」に相当する。つまり、用紙幅方向が主走査方向、用紙送り方向が副走査方向である。図1において、副走査方向をX方向と表記し、主走査方向をY方向と表記している。
キャリッジ30には、記録ヘッド24と、仮硬化光源32A,32Bと、本硬化光源34A,34Bとが搭載されている。記録ヘッド24と、仮硬化光源32A,32Bと、本硬化光源34A,34Bとは、ガイド機構28に沿ってキャリッジ30と共に一体的に移動する。キャリッジ30をガイド機構28に沿って主走査方向に往復移動させることにより、記録ヘッド24を記録媒体12に対して主走査方向に相対移動可能である。
仮硬化光源32A,32Bは、記録媒体12上に着弾したインクを仮硬化させるための紫外線を照射する。仮硬化とは、打滴直後のインク滴の移動や変形を阻止する程度に、インクを部分的に硬化させることをいう。仮硬化の工程は、「部分硬化」、「半硬化」、「ピニング(pinning)」或いは「セット(set)」などと呼ばれる場合がある。本明細書では「仮硬化」という用語を用いる。
一方、仮硬化後に、さらなる紫外線照射を行い、インクを十分に硬化させる工程は「本硬化」或いは「キュアリング(curing)」と呼ばれる。本明細書では、「本硬化」という用語を用いる。本硬化光源34A,34Bは、仮硬化後に追加露光を行い、最終的にインクを完全に硬化(すなわち、本硬化)させるための紫外線を照射する光源である。
装置本体20には、インクカートリッジ36を取り付けるための取り付け部38が設けられている。インクカートリッジ36は、紫外線硬化型インクを貯留する交換自在なインクタンクである。インクカートリッジ36は、インクジェット記録装置10で使用される各色のインクに対応して設けられている。本例のインクジェット記録装置10は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、及び黒(K)の4色のインクを用いる構成である。色別の各インクカートリッジ36は、それぞれ独立に形成された不図示のインク供給経路によって記録ヘッド24に接続される。各色のインク残量が少なくなった場合にインクカートリッジ36の交換が行われる。
なお、図示を省略するが、装置本体20の正面に向かって右側には、記録ヘッド24のメンテナンス部が設けられている。メンテナンス部は、非印字時における記録ヘッド24の保湿やノズル吸引のためのキャップと、記録ヘッド24のインク吐出面であるノズル面を清掃するための払拭部材が設けられている。払拭部材には、ブレード及び/又はウエブを用いることができる。
[記録媒体搬送路の構成]
図2はインクジェット記録装置10の記録媒体搬送路を模式的に示す模式図である。図2に示すように、プラテン26は、その上面が記録媒体12の支持面となる。プラテン26の位置に対して、用紙送り方向の上流側にニップローラ40が配設されている。
本例の記録媒体12は、ロール状に巻かれた連続用紙(巻取紙ともいう。)の形態で供給される。供給側のロール42から送り出された記録媒体12は、ニップローラ40によって搬送される。記録ヘッド24の直下に到達した記録媒体12に対して、記録ヘッド24により画像が記録される。記録ヘッド24の位置よりも用紙送り方向の下流側には、画像記録後の記録媒体12を巻き取る巻取ロール44が設けられている。また、プラテン26と巻取ロール44との間の記録媒体12の搬送路にはガイド46が設けられている。
本実施形態のインクジェット記録装置10では、供給側のロール42から送り出された記録媒体12がプラテン26を経由して巻取ロール44に巻き取られるロール・ツー・ロール方式の用紙搬送手段が採用されている。ただし、発明の実施に際して、用紙搬送手段の構成はこの例に限らない。例えば、巻取ロール44を省略した形態や、記録媒体12を所望のサイズに切断するカッターを備える形態なども可能である。また、記録媒体12は、連続用紙に限らず、1枚ずつ分離されたカット紙(つまり、枚葉紙)の形態であってもよい。
プラテン26の裏面側、すなわち、プラテン26における記録媒体12を支持する媒体支持面と反対側には、画像記録中の記録媒体12の温度を調整する温調部50が設けられている。この温調部50による温度調整により、記録媒体12に着弾したインクの粘度や、表面張力等の物性値が所望の値になり、所望のドット径を得ることが可能となる。また、温調部50の用紙送り方向の上流側にプレ温調部52が設けられ、温調部50の用紙送り方向の下流側にアフター温調部54が設けられている。なお、プレ温調部52及び/又はアフター温調部54を省略する構成も可能である。
[記録ヘッドの構成例]
図3はキャリッジ30上に配置される記録ヘッド24と仮硬化光源32A,32Bと本硬化光源34A,34Bとの配置形態の例を示す平面透視図である。図4は図3中の記録ヘッド24の拡大図である。
図3及び図4に示すように、記録ヘッド24には、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、黒(K)の各色のインクごとに、それぞれ色のインクを吐出するためのノズル62(図4参照)が副走査方向に配列されてなるノズル列61C,61M,61Y,61Kが設けられている。
図3ではノズル列を点線により示し、ノズルの個別の図示は省略している。図3及び図4に示した記録ヘッド24では、図の左からイエローのノズル列61Y、マゼンタのノズル列61M、シアンのノズル列61C、黒のノズル列61Kの順で各ノズル列が配置されている例を示しているが、インク色の種類(色数)や色の組み合わせについては本実施形態に限定されない。
例えば、CMYKの4色に加えて、ライトシアンやライトマゼンタなどの淡インクを用いる構成、或いは、淡インクに代えて又はこれと組み合わせて、さらに他の特別色のインクを用いる構成も可能である。使用されるインク色の種類に対応して、該当するインクを吐出するノズル列を追加する形態とすることが可能である。また、色別のノズル列の配置順序については、特に限定はない。ただし、複数のインク種のうち、紫外線に対する硬化感度が相対的に低いインクのノズル列を仮硬化光源32A又は32Bに近い側に配置する構成が好ましい。
本実施形態では、色別のノズル列61C,61M,61Y,61Kごとにヘッドモジュールを構成し、これらを並べることによって記録ヘッド24を構成している。具体的には、イエローインクを吐出するノズル列61Yを有するヘッドモジュール24Yと、マゼンタインクを吐出するノズル列61Mを有するヘッドモジュール24Mと、シアンインクを吐出するノズル列61Cを有するヘッドモジュール24Cと、黒インクを吐出するノズル列61Kを有するヘッドモジュール24Kと、をキャリッジ30の往復移動方向(つまり主走査方向)に沿って並ぶように等間隔に配置している。
色別のヘッドモジュール24Y,24M,24C,24Kのモジュール群の全体を「記録ヘッド」と解釈してもよいし、各ヘッドモジュールをそれぞれ「記録ヘッド」と解釈することも可能である。また、色別のヘッドモジュール24Y,24M,24C,24Kを組み合わせる構成に代えて、一つの記録ヘッドの内部で色別にインク流路を分けて形成し、1ヘッドで複数色のインクを吐出するノズル列を備える構成も可能である。
図4に示したように、ノズル列61C,61M,61Y,61Kのそれぞれは、複数個のノズル62が副走査方向に一定の間隔で並んで配列されたものとなっている。図4では、色別のノズル列61C,61M,61Y,61Kにそれぞれ30個のノズル62が配列されている例が示されている。各ノズル62にはノズル番号0〜29が付与されている。
本例のノズル番号は、ノズル列における副走査方向の一端側から他端側に向かって順番に連続番号により各ノズル62に付与されている。本例では、ノズル番号を0番から開始しているが、ノズル番号の先頭番号は1番でもよい。先頭番号は0以上の任意の整数とすることができる。ノズル番号は、各ノズル62の位置を表す識別番号として用いることができる。
また、本例では30個のノズル62が副走査方向に沿って一列に並んだノズル列を示したが、ノズル列を構成するノズル数並びにノズルの配置形態はこの例に限らない。例えば、複数列のノズル列を組み合わせた二次元ノズル配列により、副走査方向に等間隔でノズルが並ぶノズル列を形成することが可能である。
記録ヘッド24のインク吐出方式としては、圧電素子の変形によってインクを飛ばすピエゾジェット方式が採用されている。吐出エネルギー発生素子として、圧電素子に代えて、静電アクチュエータを用いる構成も可能である。また、ヒータなどの発熱体(加熱素子)を用いてインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式を採用することも可能である。ただし、紫外線硬化型インクは、一般に溶剤インクと比べて高粘度であるため、紫外線硬化型インクを使用する場合には、吐出力が比較的大きなピエゾジェット方式を採用することが好ましい。
記録ヘッド24は、主走査方向に移動しながら記録媒体12に対してインクを吐出して、記録媒体12の副走査方向に一定長さを有する領域に画像記録を行う。そして、この画像記録後に記録媒体12が副走査方向に一定量移動されると、記録ヘッド24は、次の領域に同様の画像記録を行い、以下、記録媒体12が副走査方向に一定量移動される毎に同様の画像記録を繰り返し行って記録媒体12の記録領域の全面にわたって画像記録を行うことができる。
このように、記録ヘッド24はシリアル方式の記録ヘッドである。本実施形態のインクジェット記録装置10(図1参照)は、複数回の主走査方向への記録ヘッド24の走査により、所定の記録解像度を実現するマルチパス方式を採用している。
[インクジェット記録装置の制御系の構成]
図5はインクジェット記録装置10の構成を示すブロック図である。図5に示すように、インクジェット記録装置10は制御装置102を備える。制御装置102として、例えば、中央演算処理装置(CPU;central processing unit)を備えたコンピュータを用いることができる。制御装置102は、情報記憶部124から読み出した各種プログラムを実行することにより、インクジェット記録装置10の全体を統括制御する。
制御装置102には、記録媒体搬送制御部104と、キャリッジ駆動制御部106と、光源制御部108と、画像処理部110と、吐出制御部112と、が含まれる。これらの各部は、ハードウエア又はソフトウエア、若しくはこれらの組み合わせによって実現することができる。「ソフトウエア」は、「プログラム」、又は「アプリケーション」と同義である。
記録媒体搬送制御部104は、記録媒体12の搬送を行う搬送駆動部114を制御する。搬送駆動部114は、ニップローラ40(図2参照)を駆動する駆動用モータ、及びその駆動回路が含まれる。プラテン26上に搬送された記録媒体12は、記録ヘッド24による主走査方向の走査(印刷パスの動き)に合わせて、スワス幅単位で副走査方向へ間欠送りされる。なお、スワス幅とは、キャリッジ30の往復移動によるスキャンの繰り返し周期によって決められる副走査方向の長さであり、ノズル列の副走査方向における長さであるノズル列長を、スキャンの繰り返し回数であるパス数で除算して求められる。スキャンの繰り返し回数であるパス数は、設定された記録解像度の描画を完成させるために必要な走査回数であり、作画モードによって定まる。作画モードの詳細は後述する。
キャリッジ駆動制御部106は、キャリッジ30を主走査方向に移動させる主走査駆動部116を制御する。主走査駆動部116は、キャリッジ30の移動機構に連結される駆動用モータ、及びその制御回路が含まれる。
前述の主走査駆動部116の駆動用モータ及び搬送駆動部114の駆動用モータには、エンコーダ130が取り付けられている。エンコーダ130は、各駆動モータの回転量及び回転速度に応じたパルス信号を制御装置102に入力する。これにより、制御装置102は、エンコーダ130から入力されるパルス信号に基づいて、キャリッジ30の位置及び記録媒体12の位置を把握することができる。
光源制御部108は、光源駆動回路118を介して仮硬化光源32A,32Bの発光を制御するとともに、光源駆動回路119を介して本硬化光源34A,34Bの発光を制御する。
画像処理部110は、画像入力インターフェース126を介して入力された画像データに画像処理を施して、印刷用のドットデータに変換する。図5では表記の簡略化のために、インターフェースという記載に代わる代替表記として、「IF」という簡易表記を用いている。IFは、「interface」の略語表記である。
画像処理部110は、ディザ法によるハーフトーン処理を実施するハーフトーン処理部として機能する。すなわち、画像処理部110は、入力された画像データである連続調画像に対して、ディザマスクを用いて画素値の量子化処理を行い、印刷用のドットデータに対応するハーフトーン画像を生成する。画像処理部110のハーフトーン処理に用いられるディザマスクは、本発明を適用して生成されるものである。ディザマスクの生成方法については後述する。
吐出制御部112は、画像処理部110において生成されたドットデータに基づいて、記録ヘッド24を駆動するヘッド駆動回路128を制御することにより、記録ヘッド24の各ノズル62からのインクの吐出を制御する。
情報記憶部124は、例えば不揮発性メモリが用いられており、制御装置102の制御に必要な各種プログラムや各種データを格納している。例えば、情報記憶部124は、プログラムとして、制御装置102の各部が実行する制御プログラム、及び走査パターンプログラムなどを格納している。走査パターンプログラムは、マルチパス方式の画像記録用のプログラムであり、副走査方向に間欠搬送される記録媒体12に対する記録ヘッド24の主走査方向の往復走査(印刷パスの動き)やパス数(スキャンの繰り返し回数)を規定する。主走査方向への記録ヘッド24の移動を伴う印刷パスの動きには、ドット形成時の記録ヘッド24の移動方向、インクを吐出させるノズルの選択、及び、吐出タイミングの少なくとも一つが含まれる。印刷パスの動きとパス数の組み合わせによって定まる走査のパターンを「走査パターン」と呼ぶ。
制御装置102には、入力装置122及び表示装置120が接続されている。入力装置122には、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、又は操作ボタンなど、各種の手段を採用することができ、これらの適宜の組み合わせであってもよい。入力装置122は、ユーザであるオペレータの手動による外部操作信号を制御装置102へ入力する。
表示装置120には、液晶ディスプレイなどが用いられる。オペレータは、入力装置122を使って各種情報の入力を行うことができる。また、オペレータは、入力内容その他の各種情報やシステムの状態等を表示装置120における表示を通じて確認することができる。
センサ132は、キャリッジ30に取り付けられている。制御装置102は、センサ132から入力されるセンサ信号に基づいて記録媒体12の幅を把握することができる。
[マルチパス方式の画像記録方法の説明]
図6はマルチパス方式の画像記録方法の一例を説明するための説明図である。ここでは、説明を簡単にするために、記録ヘッド24の構成を単純化し、記録ヘッド24のノズル列は一列のみとし、一列のノズル列61で記録する場合を例に説明する。ノズル列61は、図4で説明したノズル列61C,61M,61Y,61Kのいずれか一列を代表して表したものと理解することができる。
また、記録媒体を副走査方向へ間欠送りする構成について、図示の便宜上、図6では記録媒体を停止させ、記録ヘッド24を副走査方向に間欠移動させるように図示している。なお、図6では記録媒体の図示を省略し、記録ヘッド24の動きのみを示した。
図6に示すように、記録ヘッド24が主走査方向(図6における左右方向)に移動している時にノズル62からインクの吐出が行われる。主走査方向に沿った記録ヘッド24の往復移動と、副走査方向(図6の縦方向)への記録媒体の間欠送りとの組み合わせによって、記録媒体上に二次元の画像記録が行われる。「画像記録」という用語は、描画、作画、印刷、又は画像形成という用語に置き換えてもよい。
記録ヘッド24が主走査方向に移動しつつ、ノズル62からインクの吐出を行ってドットの記録を行う動作を「スキャン」又は「走査」という。スキャンには、主走査方向の往路パスで行うスキャンと、復路パスで行うスキャンとがありうる。往路及び復路の両方向のスキャンによって画像を記録してもよいし、往路又は復路のいずれか一方向のみのスキャンによって画像を記録してもよい。なお、往路及び復路の両方向のスキャンを行う場合、1往復のスキャンは、往路スキャンと復路スキャンの2回のスキャンが実施されると数える。
Nを自然数として、N回のスキャンで所望の記録解像度の画像を完成させる場合、(N+1)走査目の記録媒体と記録ヘッド24との相対的な位置関係(ここでは、副走査方向の位置関係)は、図6に示すような関係になる。つまり、N回書きで所望の記録解像度の画像記録を行うために、1回目、2回目、3回目、・・・と副走査方向に記録媒体を間欠送りし、ちょうど(N+1)回目にノズル列の長さ分に対応した位置に繋がるような位置関係とされる。N回書きの動作がシームレスに繋がるためには、1走査目の副走査方向位置から「ノズル列長+1ノズルピッチ」分だけ副走査方向に移動して(N+1)走査目が行われる。「ノズル列長さ」とは、ノズル62が副走査方向に並んで配列されたノズル列61の副走査方向の長さであり、ノズル列の両端に位置するノズルのノズル間距離に相当する。「ノズルピッチ」とはノズル列における副走査方向のノズル間隔である。
一例として、ノズル配列密度100npiでノズル62が並んだノズル列61を有する記録ヘッド24を用いて、主走査方向2パス、副走査方向4パス(主2×副4)の8パス(8回書き)で主走査600dpi×副走査400dpiの記録解像度を実現する場合を考える。npi(nozzle per inch)は、1インチ当りのノズル数を表す単位である。dpi(dot per inch)は、1インチ当りのドット数を表す単位である。1インチは約25.4ミリメートルである。
ここで、記録解像度から定まる打滴点の間隔を「打滴点間隔」と呼び、記録可能な打滴点の位置を表す格子を「打滴点格子」と呼ぶ。「打滴点」は、ドットの記録又は非記録を制御できる「画素」と同義である。「打滴点間隔」は「画素間隔」と同義であり、記録解像度における最小のドット間隔に相当する。「打滴点格子」は「画素格子」と同義である。「格子」は、行と列で表されるマトリクスのセルと同義である。
主走査600dpi×副走査400dpiの記録解像度の場合、主走査方向の打滴点間隔は、25.4(ミリメートル)/600≒42.3マイクロメートル、副走査方向の打滴点間隔は、25.4(ミリメートル)/400=63.5マイクロメートルである。これは、打滴点格子の1セル(1画素相当)の大きさ「42.3マイクロメートル×63.5マイクロメートル」を表している。記録媒体12の送り制御や記録ヘッド24からの打滴位置(すなわち、打滴タイミング)の制御については、この記録解像度から定まる打滴点間隔を単位として送り量や位置が制御される。なお、記録解像度から定まる打滴点間隔を「解像度ピッチ」或いは「画素ピッチ」と呼ぶ場合がある。また、ノズルピッチは長さの単位で表すことができるが、これに代えて、副走査方向の打滴点間隔(画素ピッチ)を単位として表すことができる。例えば、副走査400dpiの記録解像度に対して、ノズル配列密度が100npiである場合、ノズルピッチは、副走査方向の画素ピッチの4倍であることから、副走査方向の画素ピッチを単位として、ノズルピッチを「4」と表現することができる。
主走査方向2パスと副走査方向4パスによるN=8の場合、主走査方向の打滴点ラインを2回の走査で埋め、副走査方向の打滴点ラインを4回の走査で埋めるように、8回の走査(つまり8パス)で2×4個の打滴点格子の記録が行われる。「打滴点ライン」とは、走査線を意味し、ラスタのラインと同義である。
図7はこのような8回書きの描画動作による各走査の番号(1から8)と、その走査によって記録される打滴位置の関係を模式的に示した模式図である。図7において、1から8の数字が付された各セルは、ノズル62によって記録される打滴位置(画素位置)を表し、1〜8の数字は、その画素位置が第何回目の走査時に記録されるかという走査の番号を表している。例えば、「1」の数字が付されたセル(画素)は、1走査目で記録する打滴位置を表している。
図7から明らかなように、各打滴位置を記録する走査順番を表す1から8の数字の配置分布は、主2×副4の「2×4」の格子が繰り返しの基本単位となっている。この2×4の格子を「基本単位格子」あるいは「2×4格子」と呼ぶ。2×4格子の埋め方(打滴順序)は、図7に示した例に限らず、種々想定することができる。
作画モードに応じて、記録解像度と走査パターンが定まり、基本単位格子のセル数、セルの配列形態、並びに、各セルの走査の番号(走査順番)が決定される。
[作画モードの例]
既に説明したように、インクジェット記録装置10は、マルチパス方式の描画制御が適用され、印刷パス数の変更によって記録解像度を変更することが可能である。例えば、高生産モード、標準モード、及び高画質モードの3種類のモードが用意され、各モードでそれぞれ記録解像度が異なる。記録解像度は「印字解像度」と同義である。印刷目的や用途に応じて作画モードを選択することができる。「作画モード」という用語は、「印刷モード」に置き換えてもよい。
簡単な数値例で具体的に説明する。記録ヘッド24におけるノズル列61の副走査方向のノズル配列密度が100npiであるとする。
高生産モードの場合、主走査600dpi×副走査400dpiの記録解像度で記録が行われ、主走査方向は2パス(2回の走査)によって600dpiの記録解像度による記録が実現される。すなわち、一回目の走査(キャリッジ30の往路)では300dpiの解像度でドットが形成される。2回目の走査(復路)では一回目の走査(往路)で形成されたドットの中間を300dpiで補完するようにドットが形成され、主走査方向について600dpiの解像度が得られる。
一方、副走査方向については、ノズルピッチが100npiであり、一回の主走査(1パス)により副走査方向に100dpiの解像度でドットが形成される。したがって、4パス印字(4回の走査)により補完印字を行うことで400dpiの記録解像度が実現される。
標準モードでは、600dpi×800dpiの記録解像度で記録が実行され、主走査方向は2パス印字、副走査は8パス印字により600dpi×800dpiの解像度が得られる。
高画質モードでは、1200×1200dpiの解像度で印字が実行され、主走査方向は4パス、副走査方向が12パスにより1200dpi×1200dpiの記録解像度が得られる。
[ノズル吐出率について]
ここで、ノズル吐出率について説明する。ノズル吐出率とは、記録ヘッド24における複数のノズル62のそれぞれが記録を担当する画素としてノズルごとに割り当てられる記録担当画素の内、ある階調の記録を行う際の記録画素に対して、それぞれのノズル62がインクを吐出してドットを記録する記録画素の割合を示す値である。
ノズル吐出率はノズルごとに定められる。ノズル吐出率は、ノズルごとに割り当てられた記録担当画素の数の内、ある階調の記録を行う際の記録画素の数を分母とし、各ノズルがインクを吐出してドットを記録する記録画素の数を分子とする割り算の商で表され、0以上1以下の数値で表すことができる。また、ノズル吐出率は百分率で表すことも可能である。
要するに、ノズル吐出率は、ノズル62ごとのインクを吐出する割合を示している。ノズル62ごとのインクを吐出する割合は、ノズル62ごとの記録画素の割合と同等である。ノズル吐出率は、ノズルを使用する割合と理解でき、ノズル使用率、或いはノズル稼働率と見做すことができる。
具体的には、ある一定濃度の均一階調画像であるベタパターンの記録を、ノズル吐出率を反映しないで行う際のノズル62ごとの使用率を基準値である「1.0」又は「100%」とした場合の、ノズル吐出率を反映して同ベタパターンの記録を行う際のノズル62ごとの使用率を表したものである。ノズル62ごとの使用率は、ノズル62ごとのインク吐出量と置き換えてもよいし、ノズル62ごとの記録画素の画素数と置き換えてもよい。
なお、本実施形態では、階調に依らずノズル吐出率を一定に定めるが、階調に依ってノズル吐出率を変えてもよい。階調に依らずに各階調に共通のノズル吐出率を定める場合のノズルごとのノズル吐出率、若しくは、階調によって異なるノズル吐出率を定める場合のノズルごとのノズル吐出率の両方を包括する意味として、ノズルごとのノズル吐出率は、「インクを吐出する複数のノズルを有する記録ヘッドにおける複数のノズルのそれぞれが記録を担当する画素としてノズルごとに割り当てられる記録担当画素において、それぞれのノズルがインクを吐出してドットを記録する記録画素の割合を表す情報である」ということができる。
図8はノズルごとに定められるノズル吐出率のデータの一例を示す図である。図8において、横軸はノズル番号、縦軸は各ノズル番号に対応付けられたノズル吐出率を示している。図8において、ノズル列の中央部に配置されているノズルのノズル吐出率が基準値の「1.0」に設定されている。つまり、ノズル列の中央部に配置されているノズルの使用率(若しくは、このノズルによるインク吐出量又は記録画素の画素数)は、ノズル吐出率を反映しない場合の使用率(若しくは、このノズルによるインク吐出量又は記録画素の画素数)に一致することを意味している。
また、図8に示す例では、特許文献1と同様にバンディングの抑制を図るため、ノズル列の端部に配置されているノズルのノズル吐出率が、ノズル列の中央部に配置されているノズルのノズル吐出率よりも小さく設定される。例えば、図8中の実線で示すように、ノズル列の両端に位置するノズル番号0と、ノズル番号29の各両端のノズルから、それぞれノズル列の中央部に位置するノズル番号14とノズル番号15のノズルに向かって、ノズル吐出率を次第に大きく設定する。
或いは、図8中の一点鎖線で示すように、ノズル列の両端部に位置するノズル群(例えば、ノズル番号0から5のノズル群とノズル番号24から29のノズル群)のノズル吐出率を相対的に小さく設定し、両端部の間に位置するノズルのノズル吐出率を「1.0」に設定してもよく、ノズル吐出率の設定に関しては、図8に示した例に限らず、種々の設定形態を想定することができる。
ノズルごとのノズル吐出率は、予めプログラムされている構成の他、ユーザが任意に設定することができる。例えば、ユーザが、適宜のユーザーインターフェースを利用して、ノズルごとのノズル吐出率を入力したり、或いは予め用意されている複数種類のノズル吐出率データの候補パターンの中から所望のパターンを選択したりすることができる。
[ディザマスク生成方法の説明]
図9は本発明の第一実施形態に係るディザマスク生成方法の手順を示すフローチャートである。まず、記録ヘッドにおける各ノズル番号のノズル吐出率を決定する(ステップS12)。ステップS12の工程が「ノズル吐出率決定工程」の一形態に相当する。
ここでは、説明を簡単にするために、記録ヘッドにおけるノズル数を減らして、図10に示すようなノズル数が「9」の記録ヘッド24Aを例に説明する。記録ヘッド24Aは9個のノズル62が副走査方向に等間隔で一列に並んだノズル列61Aを有する。ノズル列61Aの一方の端である図10の上端のノズル62から、他方の端である図10の下端に向かって、各ノズル62に対して順番に、それぞれ固有のノズル番号0、1、2…8が付与されている。ノズル列61Aのノズル配列密度は、様々な設計が可能であるが、例えば、200npiであるとする。
図11はノズル吐出率の設定例を示すグラフである。横軸はノズル番号、縦軸はノズル吐出率を示している。図10に示した記録ヘッド24Aのノズル列61Aにおける各ノズル62のノズル吐出率を図11のように設定することができる。
次に、ディザマスクのマスクサイズと同等の画素数の画素配列を持つ画像領域(つまりマスク領域)について、インクジェット記録装置10による画像記録を行う際の走査パターンにしたがって、ディザマスクの各画素に対応するノズル番号を決定する(図9のステップS14)。ステップS14の工程が「対応ノズル特定工程」の一形態に相当する。
各画素に対応するノズル番号とは、各画素の記録を担当するノズルのノズル番号を意味する。ステップS14の工程は、ディザマスクの各画素について、それぞれ対応するノズル番号を決定することに相当する。
mとnがそれぞれ自然数であるとし、生成目標であるディザマスクがm行×n列のマトリクスである場合には、m行×n列の二次元の画素配列からなる画像領域の各画素に対して、それぞれ対応するノズル番号を決定する。ディザマスクの各画素について、対応するノズル番号を定めたノズル番号のパターンを「ノズルパターン」と呼ぶ。
図12はノズルパターンの一例を示すものである。図12では、18行×18列のマスクサイズの例が示されており、各画素に対して、それぞれ対応するノズル番号が書き込まれている。
図12に示したノズルパターンは、ノズルピッチが2画素であり、かつ、ノズル数が9であるノズル列61A(図10参照)を、副走査方向に9画素ずつ相対移動させる間欠送りを行い、かつ、主走査方向の一ラインの走査線を単一の(同じ一つの)ノズルで走査する場合の走査パターンにおける、ディザマスクの各画素に対応するノズル番号を示している。例えば、図12においてノズル番号0が記入された画素は、ノズル番号0のノズルが記録を担当する画素であり、ノズル番号0のノズルの記録担当画素を示している。つまり、ノズルパターンは、ノズル番号ごとの記録担当画素を示している。
ノズルピッチが2画素とは、印刷時の記録解像度から定まる1画素のサイズを単位として、ノズルピッチが副走査方向の2画素分の距離に相当することを意味する。例えば、図10で説明した記録ヘッド24Aのノズル配列密度200npiは、ドットの記録密度(解像度)でいうと200dpiに相当する。つまり、本例において、印刷時に想定している記録解像度が400dpiであり、200npiのノズル列61Aのノズルピッチは、400dpiの画素のサイズを単位として、2画素分に相当している。
ここで、ノズル列61Aを構成している各ノズル62の位置とディザマスクの各画素の位置の関係を分かり易く図示するために、ノズル列の記載に関して、図13に示すような、記載方法を導入する。図13では、ノズル列61Aが画素単位のセルに区分けされており、セル内にノズル番号を示す数字0〜8が記載してある。ノズル番号が付されたセルの位置がノズルの位置を表している。つまり、図13に示すノズル列61Aの記載は、図10に示した記録ヘッド24Aの記載に代わるものである。
図14は、主走査方向の印刷パスを1回実施するごとに、副走査方向に9画素ずつ相対移動させる間欠送りの様子を示している。図14では、図示の便宜上、図6と同様に、停止した記録媒体に対して、記録ヘッド24Aを副走査方向に移動させたものとして描いている。
図14に示す作画方法では、主走査方向の打滴点ラインである主走査ラインは1パスで400dpiの記録が完成し、副走査方向の打滴点ラインである副走査ラインは2パスで400dpiの記録が完成する。副走査方向の用紙送り量は9画素となっている。このような走査が繰り返される作画方法のノズルパターンが図12に示したものである。
図9のステップS14の後、次に、初期入力値の均一画像を入力画像として設定する(図9のステップS16)。この初期入力値の均一画像は、例えば、最大階調を100%とする場合の50%程度の階調値を初期入力値とする均一画像とすることができる。ここでは、説明を簡単にするために、階調値の値域を0から100とする。最大階調100に対する50%の階調値である初期入力値I0として「50」を設定する。ただし、階調値の値域や初期入力値の具体的数値はこの例に限らない。例えば、階調値の値域が0から255の8ビット階調の画像データである場合、初期入力値の一例として、「126」などとすることができる。
次いで、ステップS16で設定した入力画像の各画素の階調値を、各画素に対応するノズル番号のノズル吐出率をかけた値に変換した、吐出率反映入力画像を生成する(ステップS18)。ステップS18の工程が「階調変換工程」の一形態に相当する。ステップS18で生成される吐出率反映入力画像は「ノズル吐出率を反映した入力画像」の一形態に相当し、「第一画像」の一形態に相当する。
図15は吐出率反映入力画像の生成処理の内容を模式的に示した概念図である。図15におけるノズル吐出率データ140は、例えば、図11で説明した各ノズルのノズル吐出率を定めたデータに相当する。
図15におけるノズルパターン142は、図12で説明したノズルパターンに相当する。ノズルパターン142における各ノズル番号について、ノズル吐出率データ140を参照することにより、ディザマスクの各画素と、各画素に対応するノズル番号のノズル吐出率との関係を示す吐出率パターン144が求められる。
吐出率パターン144において数字が付された各セルは、ディザマスクの各画素を表し、セル内の数字は、該当する画素の記録を担うノズル番号のノズル吐出率を表している。吐出率パターン144に基づき、画素ごとのノズル吐出率が定められる。
図15に示した均一階調の入力画像146は、初期入力値が「50」の均一画像である。入力画像146における各画素の階調値ごとに、各画素に対応するノズル吐出率をかけて(乗算して)、入力画像146の画素値を変換することにより、吐出率反映入力画像148を生成する。
一例として、ノズル番号0のノズル吐出率が「0.2」であるので、ノズル番号0のノズルに対応する画素の階調値を「50」から、50×0.2の乗算により、「10」に変換する。全ての画素について、同様にして、画素値の変換が行われる。
こうして得られた吐出率反映入力画像148に第一ローパスフィルタを畳み込んでローパス吐出率反映入力画像を生成する(図9のステップS20)。ステップS20の工程が「第一ローパスフィルタ処理工程」の一形態に相当する。ローパス吐出率反映入力画像が「第二画像」の一形態に相当する。
第一ローパスフィルタは、いずれのローパスフィルタでもよいが、人の視覚特性に合ったローパスフィルタが好ましい。第一ローパスフィルタとして、人の視覚特性を表す関数である視覚伝達関数(VTF;visual transfer function)がよく知られている。また、第一ローパスフィルタとして、ガウシアン関数のフィルタを用いることもできる。
なお、視覚伝達関数は、横軸が周波数、縦軸が応答を示すグラフ関数が知られているが、この周波数特性(すなわち、周波数空間におけるフィルタ)は、実空間における空間フィルタに置き換えることができる。周波数空間で視覚伝達関数のf(fx,fy)をかけるという操作は、実空間上の空間フィルタF(x,y)を畳み込むことと、数学的に等価な処理である。ガウシアン関数についても同様であり、周波数空間又は実空間のどちらかで「かける」演算は、他方の空間で畳み込むことと等価であり、両者の意味を包括して「かける」という表現を用いる。
次いで、吐出率反映入力画像に対応する初期のドット配置を生成する(図9のステップS22)。初期のドット配置は吐出率反映入力画像に対して、公知のディザ法、誤差拡散法、又は、ダイレクトバイナリーサーチ(DBS;Direct Binary Search)法などのハーフトーン処理を実施して得られる。ここで、初期のドット配置は、後述するディザマスクと同じサイズで同じ並べ方で配置された場合に、各配置の境界において連続的である事が望ましい。このために、例えば初期のドット配置を生成するための、ディザ法におけるディザマスク又はDBS法におけるドット配置のサイズ及び並べ方は後述するディザマスクと同じである事が望ましい。
ステップS22の工程が「第一ドット配置生成工程」の一形態に相当する。また、ステップS22で生成されるドット配置は「第一ドット配置」の一形態に相当する。
次いで、初期のドット配置に第二ローパスフィルタを畳み込んでローパスドット配置画像を生成する(ステップS24)。ステップS24の工程が「第二ローパスフィルタ処理工程」の一形態に相当する。ローパスドット配置画像は「第三画像」の一形態に相当する。
第二ローパスフィルタは、いずれのローパスフィルタでもよいが、人の視覚特性に合ったローパスフィルタが好ましい。第二ローパスフィルタとして、第一ローパスフィルタと同様に、視覚伝達関数のフィルタ、又は、ガウシアン関数のフィルタを用いることができる。
第一ローパスフィルタと第二ローパスフィルタは、必ずしも一致しない。第一ローパスフィルタは、入力画像の階調値「1」に対応するローパスフィルタであるが、第二ローパスフィルタは、ドット1個に対応するローパスフィルタであって、ドットの濃度、ドットの径、及びドットの形状などのうち少なくとも一つの特性を反映したフィルタとなる。
次いで、ディザマスクを準備し、閾値未設定画素を設定する(ステップS30)。ディザマスクのマスクサイズは、走査パターンによるノズル番号の主走査方向及び副走査方向の繰り返し周期の整数倍にする。図12で説明した走査パターンの場合、主走査方向のノズル番号の繰り返し周期は1画素であり、副走査方向のノズル番号の繰り返し周期は「9画素」である。したがって、ディザマスクのマスクサイズは、主走査方向について1画素の整数倍、かつ、副走査方向について9画素の整数倍とする。本例では、かかる条件を満たすマスクサイズの一例として、18行×18列のディザマスクを例示する。閾値未設定画素は、閾値が未設定の画素を意味する。
ディザマスクの閾値未設定画素は、閾値設定が昇順の場合、ドット無しの画素となり、閾値設定が降順の場合、ドット有りの画素となる。「昇順」とは、閾値が小さい値のものから閾値を設定し、順次、大きな値の閾値を設定していく手順である。「降順」とは、閾値が大きい値のものから閾値を設定し、順次、小さな値の閾値を設定していく手順である。
本例の場合、初期入力値(例えば、50%階調)に対応した初期のドット配置からスタートして、ドットを次第に増加させながら、昇順で次第に大きな閾値を設定していく昇順の閾値決定処理(図9のステップS32)と、初期のドット配置から、次第にドットを取り除きながら、降順で次第に小さな閾値を設定していく降順の閾値決定処理(ステップS34)とを含む。
なお、昇順の閾値決定処理(ステップS32)と降順の閾値決定処理(ステップS34)の順番は前後入れ替え可能である。
図16は昇順の閾値決定処理のフローチャートである。はじめに、閾値未設定画素において着目画素を仮設定する(ステップS42)。そして、ドット配置における着目画素に対応する画素位置にドットを仮に置く(ステップS44)。ステップS44の工程を「ドットの仮置き」と呼ぶ。ドットの仮置きに伴い、ローパスドット配置画像を仮修正する(ステップS46)。ステップS46での仮修正は、ローパスドット配置画像における着目画素に対応する画素に第二ローパスフィルタを仮に付加する処理である。
なお、ここでドット配置及びローパスドット配置は、ディザマスクと同じサイズの配置がディザマスクと同じ並べ方で繰返し隣接して配置されているため、着目画素に対応する画素にローパスフィルタを付加するとは、これら隣接する全ての配置の着目画素に対応する画素にローパスフィルタを付加することを意味する。本実施形態において、ローパスドット配置画像にローパスフィルタを付加又は取り除く、またドット配置にローパスフィルタを畳み込むといった処理は、この様に、ドット配置及びローパスドット配置画像がディザマスクと同じサイズ、かつ同じ並べ方で繰返し隣接して配置されていることを前提とした処理を示す。
次に、ローパス吐出率反映入力画像と、仮修正後のローパスドット配置画像の誤差を算出する(ステップS48)。
ローパス吐出率反映入力画像とローパスドット配置画像の誤差の評価指標として、種々の指標があり得る。誤差の指標として、例えば、ローパス吐出率反映入力画像とローパスドット配置画像の差分の二乗和又は分散や、二乗和の平方根又は標準偏差とすることできる。
他の評価指標として、誤差の指標は、ローパスドット配置画像の各画素値をローパス吐出率反映入力画像の各画素値で割った値の二乗和又は分散や、二乗和の平方根又は標準偏差とすることができる。また、逆に、ローパス吐出率反映入力画像の各画素値をローパスドット配置画像の各画素値で割った値の二乗和又は分散や、二乗和の平方根又は標準偏差とすることができる。なお、誤差の指標として、ローパス吐出率反映入力画像、又はローパスドット配置画像の各画素値で割る演算を含む場合、分母「0」の割り算を防ぐため、割る数となる元の画像に微小値(例えば「1」)を付加することが望ましい。
誤差の指標のさらに他の例として、ローパスドット配置画像の各画素値とローパス吐出率反映入力画像の各画素値をかけて総和した値や、ローパスドット配置画像とローパス吐出率反映入力画像の相互相関値など、両画像の類似性を評価する指標を、誤差の指標としてもよい。
ノズル吐出率を反映した評価指標である誤差を算出するステップS48の工程及びステップS48の処理に必要な図9のステップS18〜S24の工程の組み合わせが「ノズル吐出率反映処理工程」の一形態に相当する。
次いで、閾値未設定画素の全画素について、ステップS42からステップS48の処理が完了したか否かの判定が行われる(ステップS50)。ステップS50で未完了であれば、着目画素を変更し(ステップS52)、ステップS42に戻る。
着目画素を順次変更してステップS42からステップS48の処理を繰り返し実行し、ステップS50でYes判定となると、ステップS54に進む。ステップS54では、ローパス吐出率反映入力画像とローパスドット配置画像の誤差が最小となる画素に閾値を設定する。誤差の指標として、差分や割った値の二乗和又は分散や、二乗和の平方根又は標準偏差を用いた場合には、指標とする評価値が最小の場合に誤差が最小であると判断する。
その一方で、誤差の指標として、ローパスドット配置画像の各画素値とローパス吐出率反映入力画像の各画素値をかけて総和した値や、ローパスドット配置画像とローパス吐出率反映入力画像の相互相関値など、両画像の類似性を評価する指標を用いた場合には、類似性を示す評価値が最大の場合、つまり、類似性最大の場合に、誤差が最小と判断する。ステップS54の工程が「閾値設定工程」の一形態に相当する。
そして、ステップS54で閾値を設定した画素に対応する位置にドットを置き、ドット配置及びローパスドット配置画像を更新する(ステップS56)。
ステップS58では、昇順側の全閾値の設定が完了したか否かの判定を行う。ステップS58でNo判定の場合には、ステップS60に進む。ステップS60では、次の入力値の均一画像を設定し、吐出率反映入力画像及びローパス吐出率反映入力画像を生成する。
ステップS16で設定する初期入力値や、ステップS60における「次の入力値」は、以下のようにして定める。すなわち、ステップS48では、ローパス吐出率反映入力画像と、これに対応するローパスドット配置画像とを比較して、両者の誤差(類似性)を評価しようとしているので、両画像の誤差を評価する上で、ローパス吐出率反映入力画像における画素値の平均値と、そのローパス吐出率反映入力画像に対応するローパスドット配置画像における画素値の平均値とが一致又は概ね一致していることが望ましい。「概ね一致」とは、画像間の誤差の評価にとって実質的に問題とならない程度に両者の差異が小さく、一致するものとして取り扱うことが許容できる範囲を含むものである。両画像の平均値がかけ離れていたのでは、両画像の誤差を適切に評価できないため、両者を平均値のレベルで一致又は概ね一致させておくことが望ましい。
したがって、ステップS60では、ステップS54における閾値の設定に伴うドットの増加に合わせて、次の閾値決定の際に対比されるローパス吐出率反映入力画像の入力値を増加させる。そのためには、ステップS56にてドットが1個増加することに対応する入力値の増分を予め求めておき、ステップS60において、その増分を単位として、入力値を変更する。
ドットが1個増加することに対応する入力値の増分をΔIとして、階調値がΔIの均一画像における各画素の階調値(ΔI)に、各画素に対応するノズル番号のノズル吐出率をかけた値に変換した吐出率反映入力画像を生成し、これに第一ローパスフィルタを畳み込んだローパス吐出率反映入力画像を生成する。そして、このローパス吐出率反映入力画像の平均値が、ドット1個に対応する第二ローパスフィルタの平均値と一致するように、ΔIを定めればよい。
また、別の方法として、ΔIの均一画像からローパス吐出率反映入力画像を生成せずに、吐出率反映入力画像の各画素の階調値に、階調値1に対応する第一ローパスフィルタの平均値をかけた値の全画素の総和をとった値が、ドット1個に対応する第二ローパスフィルタの平均値と一致するように、ΔIを定めてもよい。
ΔIの求め方について、図17の説明図を使って概説する。ここでは、階調値がΔIである均一画像の画素値をC(x,y)で表す。x,yは、画素の位置を表す。この均一画像に対して各画素に対応するノズル番号のノズル吐出率をかけた吐出率反映入力画像の画素値をA(x,y)で表す。第一ローパスフィルタ自体の各セルの成分である係数の総和をBで表す。なお、図17その他の図面においては、記載の簡略化のために、「ローパスフィルタ」という記載に代わる代替表記として、「LPF」という簡易表記を用いた。LPFは「low pass filter」の略語表記である。図17中の符号134で示した記号は、畳み込み演算を行うことを示す。
また、ディザマスクのマスクサイズをSで表す。BとSはそれぞれ正の整数を表している。m行×n列のディザマスクを想定する場合のマスクサイズはS=m×nである。mとnはそれぞれ正の整数を表している。さらに、階調値1に対応する第一ローパスフィルタ自体の1画素当りの平均値をα=B/Sとする。
吐出率反映入力画像A(x,y)のある画素(x,y)に第一ローパスフィルタをかけると、画像全体として画素値の合計がA(x,y)×Bだけ増えるため、吐出率反映入力画像A(x,y)の全画素に対して第一ローパスフィルタを畳み込んで得られるローパス吐出率反映入力画像の全体の総和は、次の式(1)で表される。
A(1,1)×B+A(1,2)×B+・・・+A(m,n)×B ・・・式(1)
したがって、この増分の1画素当りの平均値は、式(1)の値をマスクサイズのSで除算して、次の式(2)で表される。
{A(1,1)×B+A(1,2)×B+・・・+A(m,n)×B}/S ・・・式(2)
一方、α=B/Sであるから、式(2)で表される平均値は、次の式(3)のように表すことができる。
A(1,1)×α+A(1,2)×α+・・・+A(m,n)×α ・・・式(3)
式(3)で表される値が、ドット1個分に対応する第二ローパスフィルタの平均値と一致するようにΔIを定める。
こうして、ΔIが定まれば、任意のディザマスク閾値に対して、その閾値により発生するドット数にΔIをかけた値を入力値と定めればよい。
ステップS56において、ドットを追加してドット配置を更新したら、これに合わせて、次の入力値として、入力値にΔIを加えて均一画像を変更し(ステップS60)、吐出率反映入力画像及びローパス吐出率反映入力画像を生成する。こうすることで、対比されるローパス吐出率反映入力画像と、ローパスドット配置画像とを平均値のレベルで概ね一致させることができる。
図9のステップS18及び図16のステップS60において、各画素の階調値にノズル吐出率(図11参照)をかけることによって、ノズル吐出率をかけない場合の階調値よりも小さな値となる。ノズル番号の主走査方向及び副走査方向の繰り返し周期を単位面積として、その単位面積での平均の階調値が、ノズル吐出率をかける前と、かけた後で変化しないように、つまり、ノズル吐出率を反映させる前後で、単位面積あたりの平均の階調値が不変となるように、ノズル吐出率を補正してもよい。
単位面積での平均階調値がノズル吐出率をかける前後で変化しないようにすることで、既述したΔIの算出を一層簡単にすることができる。具体的には、図17の下段に示したように、ΔIに、階調値1に対応する第一ローパスフィルタの平均値αをかけた値に、さらに、マスクサイズSをかけた値が、又は、ΔIに、階調値1に対応する第一ローパスフィルタの総和Bをかけた値が、ドット1個に対応する第二ローパスフィルタの平均値と一致するようにΔIを定めればよい。
ΔIにノズル吐出率を反映させても、その前後で単位面積あたりのΔIの平均値が変化しないという条件の下では、次の式(4)を満たす。
ΔI×B=ΔI×α×S=A(1,1)×α+A(1,2)×α+…+A(m,n)×α・・・式(4)
したがって、この値がドット1個に対応する第二ローパスフィルタの平均値と一致するようにΔIを定めればよい。
以上、第一ローパスフィルタの各セルの成分である係数の1画素当りの平均値に基づいてΔIを定める方法を説明したが、第一ローパスフィルタの各セルの成分である係数の総和に基づいてΔIを定めてもよい。つまり、式(1)で表されるローパス吐出率反映入力画像の全体の総和が、ドット1個に対応する第二ローパスフィルタの総和と一致するようにΔIを定めてもよいし、単位面積での平均階調値がノズル吐出率をかける前後で変化しないようノズル吐出率を補正する場合には、次の式(5)で表される値が、ドット1個に対応する第二ローパスフィルタの総和と一致するようにΔIを定めてもよい。
ΔI×B×S=A(1,1)×B+A(1,2)×B+…+A(m,n)×B ・・・式(5)
ノズル吐出率をかける前後で単位面積での平均階調が変化しないということは、ノズル吐出率の補正によって、ノズル吐出率の値が1を超えるものがあることを意味している。
[ノズル吐出率の補正について]
ノズル吐出率の補正は、具体的には以下のようにして行う。
各ノズル62の主走査方向及び副走査方向の繰り返し周期を単位面積として、その単位面積中のノズル番号0に対応する画素の面積比率をr0、ノズル番号1に対応する画素の面積比率をr1とし、以下同様に、単位面積中のノズル番号kに対応する画素の面積比率をrkと表す。kはノズル番号を表すパラメータである。ノズル列を構成するノズル数をQとし、ノズル番号の先頭番号を0とすると、kは0からQ-1の整数を表す(k=0,1,2,・・・Q-1)。Qは2以上の整数を表す。
図12に示した例の場合、走査パターンの繰り返し周期の単位となる単位面積は、ノズル番号0、5、1、6、2、7、3、8、4の順に並んだ主走査方向に1画素×副走査方向に9画素の9画素から構成される。走査パターンの繰り返し周期の単位となる単位面積を「走査パターン単位面積」と呼び、走査パターン単位面積中のノズル番号kに対応する画素を「ノズル番号k対応画素」と呼ぶことにする。この場合、ノズル番号k対応画素の階調和は、rk×Iとなる(k=0,1,2,・・・Q-1)。
そして、ノズル番号kのノズル吐出率をLkとすると、結果として、ノズル吐出率をかけた後の走査パターン単位面積中の平均階調はI×(r0×L0+r1×L1+・・・)となる。
ノズル吐出率をかける前後で走査パターン単位面積での平均階調が変化しないためには、次の式(6)を満たすこと、
I=I×(r0×L0+r1×L1+・・・) ・・・式(6)
つまり、式(7)を満たすように、各ノズル62のノズル吐出率L0,L1・・・を補正すればよい。
r0×L0+r1×L1+・・・=1 ・・・式(7)
各ノズル62の面積比率rkは、通常、次の式(8)を満たす。
r0=r1=r2=・・・=1/Q ・・・式(8)
式(8)においてQは、ノズル列を構成するノズル数を表す。
したがって、式(7)及び式(8)に基づき、各ノズルのノズル吐出率(L0,L1,L2・・・)の比率を変えずに、次の式(9)、
L0+L1+L2+・・・=Q ・・・式(9)
を満たすように、各ノズルのノズル吐出率Lk(k=0,1,2,・・・Q-1)にそれぞれ補正値β=Q/(L0+L1+L2+・・・)をかけてノズル吐出率の値を補正すればよい。
図18は図11で説明したノズル吐出率に補正値βをかけて補正したノズル吐出率の説明図である。補正値βは1よりも大きい値となるため、図18に示すように、補正後のノズル吐出率は1よりも大きくなる可能性がある。この場合、画像データの各画素の階調値に補正後のノズル吐出率をかけた値が最大階調値の100%(8ビットの画像データの場合は255)以上となる場合には、変換後の階調値を最大階調値の100%としてもよい。
図18に示したように補正値βを用いてノズル吐出率を補正する工程が「補正工程」の一形態に相当する。なお、ノズル吐出率を補正する工程は、図9のステップS18でノズル吐出率を用いる前に実施される。
図16のステップS60の後、ステップS42に戻り、上述したステップS42からステップS58の処理を繰り返す。こうして、昇順で各閾値を定めていき、最大の閾値まで設定を終えると、ステップS58でYes判定となり、図16のサブルーチンを終えて、図9のメインフローに復帰する。
図19は降順の閾値決定処理のフローチャートである。図19のフローチャートは図16で説明した昇順のフローチャートと類似する処理の流れとなっている。主な相違点は、図19におけるステップS74とS76の工程である。
図19に示す降順の閾値決定処理では、まず、閾値未設定画素において着目画素を仮設定する(ステップS72)。ディザマスクの閾値未設定画素は、閾値設定順が降順の場合、ドット有りの画素となる。つまり、ドット配置におけるドット有りの画素の中から着目画素を仮設定する。そして、閾値設定順が降順の場合、ドット配置における着目画素に対応する画素位置からドットを仮に除く処理を行う(ステップS74)。ステップS74の工程を「ドットの仮除去」と呼ぶ。
ドットの仮除去に伴い、ローパスドット配置画像を仮修正する(ステップS76)。ステップS76での仮修正は、ローパスドット配置画像から着目画素に対応する画素位置の第二ローパスフィルタを仮に取り除く処理である。
そして、ローパス吐出率反映入力画像と、仮修正後のローパスドット配置画像の誤差を算出する(ステップS78)。ここで算出する「誤差」の評価指標は、図16のステップS48と同様に、差分の二乗和又は分散や、差分の二乗和の平方根又は標準偏差とすることができる。
図19のステップS80、S82、S84、S86、S88、及びS90の各工程は、図16のステップS50、S52、S54、S56、S58、及びS60の各工程にそれぞれ対応しているため、説明は省略する。ただし、図16のステップS58に代わる図19のステップS88では、降順側の全閾値の設定が完了したか否かの判定が行われる。
ステップS90の後、ステップS72に戻り、上述したステップS72からステップS88の処理を繰り返す。
こうして、降順で各閾値を定めていき、最小の閾値まで設定を終えると、ステップS88でYes判定となり、図19のサブルーチンを終えて、図9のメインフローに復帰する。
こうして、ディザマスクにおけるすべての画素の閾値が設定され、ディザマスクが完成する。
[ディザマスク生成装置の構成]
図20は第一実施形態に係るディザマスク生成装置の構成を示すブロック図である。ディザマスク生成装置150は、ノズル吐出率決定部152と、対応ノズル特定部154と、ノズル吐出率反映処理部156と、閾値設定部158と、を備える。また、ディザマスク生成装置150は、走査パターン情報取得部160を有する。これらの各部は集積回路などのハードウエア回路、又は、コンピュータのハードウエア及びソフトウエア、若しくはこれらの適宜の組み合わせによって実現することができる。また、ディザマスク生成装置150の機能は、図5で説明した制御装置102に搭載してもよい。
図20に示したノズル吐出率決定部152は、記録ヘッド24(図4参照)におけるノズルごとのノズル吐出率を決定する処理を行う。ノズル吐出率決定部152は、ノズルごとのノズル吐出率を示すノズル吐出率データ162を決定する。ノズル吐出率データ162は、図15で説明したノズル吐出率データ140に相当しており、具体的には図8や図11で説明したようなものである。
図20に示した対応ノズル特定部154は、走査パターン情報取得部160から得られる走査パターンの情報に基づき、ディザマスク164の各画素に対応するノズルを特定する処理を行う。すなわち、対応ノズル特定部154は、ディザマスク164の各画素について、それぞれの画素位置の記録を担当する少なくとも一つのノズルを対応付ける処理を行う。
走査パターン情報取得部160は、走査パターンプログラムなどから作画モードに応じた走査パターンの情報を取得する。前述の通り、走査パターンプログラムは、副走査方向に間欠搬送される記録媒体12に対する記録ヘッド24の主走査方向の往復走査やパス数を規定しているため、走査パターンプログラムから記録ヘッド24の走査パターンを判別することが可能である。
対応ノズル特定部154は、記録媒体12に対して記録ヘッド24を主走査方向及び副走査方向に相対移動させる際の走査パターンを判別する。対応ノズル特定部154は、走査パターンに基づき、ディザマスク164の各画素を、記録ヘッド24のどのノズル62で記録するのかを決定する処理を行う。対応ノズル特定部154は、ディザマスク164の各画素と、それぞれの画素の記録を担うノズルとの対応関係を示すノズルパターンのデータであるノズルパターンデータ166を生成する。ノズルパターンデータ166は、図15で説明したノズルパターン142のデータに相当する。
ノズルパターンデータ166を生成する方法は、走査パターンプログラムに基づき決定する方法に限られず、各種方法を用いることができる。ノズルパターンデータ166は、作画モードとディザマスク164のサイズや並べ方によって決定できるため、予め複数種類の作画モードのそれぞれに対応したノズルパターンデータをメモリ等の情報記憶部に保持しておくことができる。
ノズル吐出率反映処理部156は、ディザマスク164の各閾値を設定する際の評価指標にノズル吐出率を反映させる処理を行う。
閾値設定部158は、閾値未設定の画素を含むディザマスク164を準備し、かつ、ノズル吐出率を反映させた評価指標を基にディザマスク164の閾値未設定画素に、閾値を設定する処理を行う。閾値設定部158によって、ディザマスク164の全画素の閾値が設定されることにより、生成目標であるディザマスク164が完成する。
ノズル吐出率決定部152の機能が「ノズル吐出率決定機能」の一形態に相当する。対応ノズル特定部154の機能が「対応ノズル特定機能」の一形態に相当する。ノズル吐出率反映処理部156の機能が「ノズル吐出率反映処理機能」の一形態に相当する。閾値設定部158の機能が「閾値設定機能」の一形態に相当する。
なお、図18で説明したノズル吐出率を補正する補正機能については、ノズル吐出率決定部152の中にノズル吐出率補正部(不図示)を備えてもよいし、ノズル吐出率反映処理部156の中にノズル吐出率補正部(不図示)を備えてもよい。
本実施形態によって得られるディザマスク164は、ノズル吐出率を反映した吐出率反映入力画像の再現にとって良好なドットの分散性となるドット配置が得られるディザマスクとなる。
本実施形態により生成されたディザマスクを用いて、印刷用の画像データのハーフトーン処理が行われる。こうして生成されたハーフトーン画像に基づき、記録ヘッド24の各ノズルの吐出制御が行われる。これにより、バンディング、スジ若しくはやムラなどの画像欠陥の発生が抑制され、高品質な印刷画像が得られる。
図21は第一実施形態のディザマスク生成装置150におけるノズル吐出率反映処理部156の詳細な構成を示したブロック図である。図21において図20で説明した構成と同一の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
ノズル吐出率反映処理部156は、入力値設定部170と、均一画像生成部172と、階調変換部174、第一ローパスフィルタ処理部176、第一ドット配置生成部180、第二ローパスフィルタ処理部182、着目画素仮設定部184、仮ドット配置生成部186、仮修正部188、評価指標算出部190、誤差最小画素特定部192、第一ドット配置更新処理部194、及び入力値変更部196を備える。
入力値設定部170は、入力画像の階調値を示す入力値Iを設定する。入力値設定部170は、はじめに、初期の入力画像146(図15参照)の階調値を示す初期入力値I0を設定する。
均一画像生成部172は、入力値設定部170で設定された入力値の均一画像200を生成する。初期入力値I0に対応する初期の均一画像200は、図15で説明した入力画像146に相当する。
図21に示した階調変換部174は、ノズル吐出率データ162とノズルパターンデータ166に基づき、均一画像200の各画素値に、対応するノズル吐出率を反映させる階調変換の処理を行う。階調変換部174によって生成される第一画像202は、図9のステップS18で説明した吐出率反映入力画像に相当する。第一画像202は、図15で説明した吐出率反映入力画像148に相当する。階調変換部174は第一画像生成部と呼ぶことができ、階調変換部174による変換処理は、第一画像生成処理と把握することができる。
図21に示した第一ローパスフィルタ処理部176は、第一画像202に第一ローパスフィルタを畳み込む演算を行うことにより、第二画像204を生成する。第二画像204は、図9のステップS20で説明したローパス吐出率反映入力画像に相当する。第一ローパスフィルタ処理部176は第二画像生成部と呼ぶことができ、第一ローパスフィルタ処理部176によるフィルタ処理は、第二画像生成処理と把握することができる。
図21に示した第一ドット配置生成部180は、第一画像202に対応するドット配置である第一ドット配置206を生成する。
第二ローパスフィルタ処理部182は、第一ドット配置に対して第二ローパスフィルタを畳み込む演算を行うことにより、第三画像208を生成する。第三画像208は、図9のステップS24で説明したローパスドット配置画像に相当する。第二ローパスフィルタ処理部182は第三画像生成部と呼ぶことができ、第二ローパスフィルタ処理部182によるフィルタ処理は、第三画像生成処理と把握することができる。
着目画素仮設定部184は、第一ドット配置206を基に、ディザマスクの閾値未設定画素に着目画素を仮設定する。着目画素仮設定部184は、図16のステップS42及び図19のステップS72に示した工程を行う。
仮ドット配置生成部186は、着目画素にドットの仮置きを行い、又は、着目画素からドットの仮除去を行い、仮のドット配置を生成する。仮ドット配置生成部186は、図16のステップS44及び図19のステップS74に示した工程を行う。
仮修正部188は、仮ドット配置生成部186によるドットの仮置き又は仮除去に伴い、第三画像208を仮修正する処理を行う。仮修正部188は、図16のステップS46及び図19のステップS76に示した工程を行う。
評価指標算出部190は、第二画像204と、仮修正後の第三画像208との誤差を評価する評価指標を算出する。評価指標算出部190は、図16のステップS48及び図19のステップS78に示した工程を行う。
誤差最小画素特定部192は、仮設定の着目画素の位置を変えて、評価指標算出部190により算出された評価指標の中から、誤差が最小となる画素の位置を特定する。誤差が最小となる画素である誤差最小画素の情報は閾値設定部158に提供される。
閾値設定部158は、ディザマスク164の閾値未設定画素のうち、評価指標算出部190によって求められた評価指標から、誤差が最小となる画素に閾値を設定する。誤差最小画素特定部192と閾値設定部158によって、図16のステップS54及び図19のステップS84に示した工程を行う。
第一ドット配置更新処理部194は、誤差最小画素の情報に基づき、誤差最小画素にドットを置き、又は、誤差最小画素からドットを取り除き、第一ドット配置206を更新する処理を行う。そして、第二ローパスフィルタ処理部182は、更新された第一ドット配置206に対して第二ローパスフィルタを畳み込む演算を行うことにより第三画像208を更新する。または、第二ローパスフィルタ処理部182は、初期の第三画像208に対して誤差最小画素に対応する画素位置に第二ローパスフィルタを付加、又は、誤差最小画素に対応する画素位置から第二ローパスフィルタを取り除くことにより第三画像208を更新する。第一ドット配置更新処理部194と第二ローパスフィルタ処理部182によって、図16のステップS56及び図19のステップS86に示した工程を行う。
第一ドット配置更新処理部194によって生成された最新のドット配置によって初期の第一ドット配置を書き換え更新してもよいし、初期の第一ドット配置を保持し、かつ、更新後のドット配置を保持してもよい。
入力値変更部196は、閾値設定部158による閾値の設定に伴い、入力値の変更を行う。具体的には、ドット1個分の入力値の増分であるΔIを用いて、ドットの増減に対応して入力値を変更する。そして、均一画像生成部172は変更された入力値の均一画像200を生成し、階調変換部174は均一画像200の各画素値に、対応するノズル吐出率を反映させる階調変換の処理を行って第一画像202を生成し、第一ローパスフィルタ処理部176は、第一画像202に第一ローパスフィルタを畳み込む演算を行うことにより、第二画像204を生成する。
入力値変更部196、均一画像生成部172、階調変換部174及び第一ローパスフィルタ処理部176によって、図16のステップS60及び図19のステップS90に示した工程を行う。
<第二実施形態>
第一実施形態で説明したディザマスク生成方法は、図16及び図19で説明したとおり、各閾値を設定する度に、候補となる閾値未設定画素に着目画素を仮に設定し、昇順の閾値設定順である場合は、第一ドット配置にドットを仮に置き、かつ、ローパスドット配置画像に第二ローパスフィルタを付加し、降順の閾値設定順である場合は、第一ドット配置からドットを仮に除き、かつ、ローパスドット配置画像から第二ローパスフィルタを除去し、ローパス吐出率反映入力画像とローパスドット配置画像の誤差を算出する処理を繰り返し実施する必要があるため、多大な演算量が必要となる。
そこで、第二実施形態では、第一実施形態よりも少ない演算量でディザマスクを生成することができる手段を提供する。
図22は第二実施形態によるディザマスク生成方法のフローチャートである。図16で説明したフローチャートに代えて、図22のフローチャートを採用することができる。
ここでは、説明を簡単にするために、閾値設定順が昇順の場合のみを説明する。図22に示すフローチャートのように、図22の閾値設定処理では、まず、ローパスドット配置画像に、ローパス吐出率反映入力画像を反映し、入力反映ローパスドット配置画像を生成する(ステップS102)。ステップS102の工程が「第四画像生成工程」の一形態に相当する。入力反映ローパスドット配置画像は「第四画像」の一形態に相当する。
反映の仕方として、ローパスドット配置画像とローパス吐出率反映入力画像の差をとる場合、次の式(10)により入力反映ローパスドット配置画像を生成する。
RIN_F_HT(x,y) = F_HT(x,y) − F_IN(x,y) ・・・式(10)
ここで、x,yは画素の位置を表す。RIN_F_HT(x,y)はx,yにおける入力反映ローパスドット配置画像を表す。F_HT(x,y)はx,yにおけるローパスドット配置画像を意味する。F_IN(x,y)はx,yにおけるローパス吐出率反映入力画像を意味する。
また、反映の仕方として、ローパスドット配置画像とローパス吐出率反映入力画像の比(つまり、商)をとる場合、次の式(11)で入力反映ローパスドット配置画像を生成する。
RIN_F_HT(x,y) = F_HT(x,y) / F_IN(x,y) ・・・式(11)
商をとる場合、分母「0」による割り算を防ぐため、F_IN(x,y)に微小値(例えば、1など)を付加することが望ましい。
理解の助けとするために、具体的なイメージ図で説明する。
図23はローパス吐出率反映入力画像を生成する工程について、具体的な画像イメージを用いて示した説明図である。図23では、図示の便宜上、吐出率反映入力画像212の例として、図示のように、画像の上側が濃く、下側が薄い塗り分けパターンを示した。図23において、第一ローパスフィルタ214は、フィルタ係数の大小を濃淡で表したものとなっている。フィルタ中央部から外側周囲に向かって、フィルタ係数が次第に小さくなる傾向を示している。
吐出率反映入力画像212に第一ローパスフィルタ214を畳み込むことにより、ローパス吐出率反映入力画像216が生成される。ローパス吐出率反映入力画像216は、第二画像204(図21参照)に相当する。
図24はローパスドット配置画像を生成する工程について、具体的な画像イメージを用いて示した説明図である。図24に示したドット配置222は、図23で例示した吐出率反映入力画像212に対応した初期のドット配置である。図24において、第二ローパスフィルタ224は、フィルタ係数の大小を濃淡で表したものとなっている。フィルタ中央部から外側周囲に向かって、フィルタ係数が次第に小さくなる傾向を示している。
ドット配置222に第二ローパスフィルタ224を畳み込むことにより、ローパスドット配置画像226が生成される。ローパスドット配置画像226は、第三画像208(図21参照)に相当する。
図25は入力反映ローパスドット配置画像を生成する工程について、具体的な画像イメージを用いて示した説明図である。
図25に示したローパス吐出率反映入力画像216は、図23で説明した吐出率反映入力画像212に第一ローパスフィルタ214を畳み込んで得られた画像である。図25に示したローパスドット配置画像226は、図24で説明したドット配置222に第二ローパスフィルタ224を畳み込んで得られた画像である。ただし、図25では図面を分かり易く示すために、図25における各画像の濃淡のスケール(変化域)は適宜調整して描いており、画像間でスケールは統一されていない。
図25に示す入力反映ローパスドット配置画像230Aは、ローパス吐出率反映入力画像216とローパスドット配置画像226の対応する画素同士の画素値を引き算して得られる、両者の差分を表す画像である。
また、図25に示す入力反映ローパスドット配置画像230Bは、ローパス吐出率反映入力画像216とローパスドット配置画像226の対応する画素同士の画素値を割り算して得られる、両者の商を表す画像である。
ローパス吐出率反映入力画像216とローパスドット配置画像226の差異を、差分によって表すか、商によって表すかの違いはあるものの、いずれの場合も、入力反映ローパスドット配置画像230A、230Bは、ローパス吐出率反映入力画像216の各画素値をローパスドット配置画像226の対応する各画素値に反映した画像となっている。
ローパス吐出率反映入力画像216とローパスドット配置画像226の誤差が小さいほど、入力反映ローパスドット配置画像230A又は230Bの階調分布の均一性が高まる。つまり、ローパス吐出率反映入力画像216とローパスドット配置画像226の誤差が小さいほど、入力反映ローパスドット配置画像230A又は230Bは、より均一な画像に近づく。
したがって、入力反映ローパスドット配置画像230A又は230Bの階調分布の均一性を向上させるようにドットの追加設置位置又はドットの除去位置となる画素の位置を定めることにより、吐出率反映入力画像212の再現に適したドット配置を得ることができる。
「階調分布の均一性を向上させる」とは、入力反映ローパスドット配置画像230A、230Bが均一な画像に近づくことを意味している。入力反映ローパスドット配置画像230A又は230Bが均一な画像に近づくことは、ローパス吐出率反映入力画像216とローパスドット配置画像226の差異(つまり誤差)が小さくなることを意味する。
ローパス吐出率反映入力画像216との差異が小さいローパスドット配置画像226が得られるということは、すなわち、吐出率反映入力画像212の画像内容を良好に再現するドット配置(つまり、ハーフトーン画像)が得られることを意味する。「階調分布の均一性を向上させる」ことを、「均一化」と表現する場合がある。階調分布の均一性が向上することは、階調分布の均一性が良好になることを意味しており、階調分布の均一性が良化すること、と同義である。
図22のステップS102にて、入力反映ローパスドット配置画像を生成したら、続いて、この生成した入力反映ローパスドット配置画像内における最小の画素値の画素に閾値を設定する(ステップS104)。ステップS104では、入力反映ローパスドット配置画像の画像内における各画素の画素値同士を比較し、画素値が最小の画素を閾値設定画素に決定する。そして、決定した閾値設定画素に、閾値を設定する。
入力反映ローパスドット配置画像において画素値が最小の画素は、「第一ドット配置における各画素のうち、ドットの設置の実施に伴って第三画像及び第四画像を修正した場合に、第四画像の階調分布の均一性が良化する画素」の一形態に相当する。
ステップS104による閾値の設定に伴い、ドット配置及びローパスドット配置画像を更新する(ステップS106)。すなわち、ステップS104によって閾値を設定した画素の位置に、ドットを置き、ドット配置を更新する。また、更新したドット配置に対応したローパスドット配置画像を生成して、ローパスドット配置画像を更新する。
ステップS108では、昇順側の全閾値の設定が完了したか否かの判定を行う。ステップS108でNo判定の場合には、ステップS110に進む。ステップS110では、次の入力値の均一画像を設定し、吐出率反映入力画像及びローパス吐出率反映入力画像を生成する。ステップS108とステップS110の工程は、図16のステップS58とステップS60の工程と同様である。
ただし、入力反映ローパスドット配置画像が、式(11)で示したように商で定義される場合、図22のステップS110の工程は必要ない。
図22のステップS110の後、ステップS102に戻り、上述したステップS102からステップS108の処理を繰り返す。こうして、昇順で各閾値を定めていき、最大の閾値まで設定を終えると、ステップS108でYes判定となり、図22のサブルーチンを終えて、図9のメインフローに復帰する。
降順の閾値決定処理については、図22のフローチャートと類似している。降順の場合は、ステップS104で最小の画素値の画素に閾値を設定する工程に代えて、入力反映ローパスドット配置画像における最大の画素値の画素に閾値を設定し、閾値を設定した画素の位置からドットを取り除いて(除去して)、ドット配置とローパスドット配置画像を更新する。
第二実施形態のディザマスク生成方法によれば、入力反映ローパスドット配置画像を導入し、入力反映ローパスドット配置画像を均一化するように、ドットを置く位置、又は、ドットを取り除く位置を決定することにより、結果的に、ローパス吐出率反映入力画像とローパスドット配置画像との誤差を小さくするという演算手法を採用している。つまり、第二実施形態では、入力反映ローパスドット配置画像を均一化するように、入力反映ローパスドット配置画像内における画素値の比較に基づいて、閾値を設定する画素の位置を特定し、閾値の設定を行う。
本実施形態によれば、入力反映ローパスドット配置画像の画素値をそのまま評価指標として利用することができ、二乗誤差などの別途の評価値を計算することなく、入力反映ローパスドット配置画像の画像内における画素値同士の大小関係の比較に基づいて、閾値を設定する画素を簡単に特定することができる。
したがって、第一実施形態の方法に比べて、少ない演算量で適切なディザマスクを得ることができる。
図26は第二実施形態に係るディザマスク生成装置の要部構成を示すブロック図である。図26において図21で説明した構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。第二実施形態のディザマスク生成装置の基本的な構成は図20に示した第一実施形態と同様であるが、図21で説明したノズル吐出率反映処理部156に代えて、図26に示すノズル吐出率反映処理部256の構成を備える。
第二実施形態におけるノズル吐出率反映処理部256は、第四画像生成部260と、閾値設定画素決定部262と、第四画像更新処理部264とを備える。第四画像生成部260は、第二画像204と第三画像208から、両者の差異を表す第四画像266を生成する処理を行う。第四画像266は、図22のステップS102で説明した入力反映ローパスドット配置画像に相当する。第四画像266は、第二画像204の各画素値を第三画像208の各画素値に反映した画像である。
第二画像204と第三画像208の差異を表すように、第二画像の各画素値を第三画像208の各画素値に反映させる反映の仕方として、差をとる場合と、比をとる場合とがある。「差」は画素値同士の減算によって求められる。「比」は画素値同士の割り算(除算)によって求められる。「比」は「商」と同義である。
第四画像生成部260は、第二画像204と第三画像208のそれぞれ対応する画素位置同士の画素値の差(すなわち、減算)を計算して、その差を示す値を画素値とする第四画像266を生成する構成とすることができる。
また、差を計算する形態に限らず、対応する画素位置同士の画素値の比、すなわち、除算による商によって、第二画像204と第三画像208の差異を表す第四画像266を生成してもよい。つまり、第四画像生成部260は、第二画像204と第三画像208のそれぞれ対応する画素位置同士の画素値の比(除算による商)を計算して、その商を示す値を画素値とする第四画像266を生成する構成とすることができる。
閾値設定画素決定部262は、第四画像266を基に、閾値を設定する画素の場所である閾値設定画素を決定する処理を行う。具体的には、第四画像266の画像内の画素値を比較して、第四画像266の中から画素値が最小となる画素、又は、画素値が最大となる画素を決定する。
閾値設定画素決定部262で決定した閾値設定画素の情報は、閾値設定部158に送られる。閾値設定部158は、閾値設定画素に閾値を設定する。
また、閾値設定画素決定部262で決定した閾値設定画素の情報は、第一ドット配置更新処理部194に送られる。第一ドット配置更新処理部194は、閾値設定画素にドットを追加し、又は、閾値設定画素からドットを除去し、第一ドット配置206を更新する処理を行う。第一ドット配置更新処理部194によって生成された最新のドット配置によって初期の第一ドット配置を書き換え更新してもよいし、初期の第一ドット配置を保持し、かつ、更新後のドット配置を保持してもよい。
さらに、閾値設定画素決定部262で決定した閾値設定画素の情報は、第四画像更新処理部264に送られる。
第四画像更新処理部264は、第一ドット配置更新処理部194による第一ドット配置206の更新処理に伴い、第四画像266を修正して更新する処理を行う。第四画像更新処理部264は、閾値設定画素に追加されるドットに相当する第二ローパスフィルタの寄与成分を第四画像266に付加する処理、又は、閾値設定画素から除去されるドットに相当する第二ローパスフィルタの寄与成分を第四画像266から除去する処理を行い、第四画像266を修正する。
第四画像更新処理部264による修正処理の結果、画素の値が更新された第四画像266が得られる。初期の第四画像266を、第四画像更新処理部264により生成された最新の第四画像266によって書き換え更新してもよいし、初期の第四画像を保持し、かつ、第四画像更新処理部264によって生成された更新後の第四画像を保持してもよい。
なお、ディザマスク生成装置150(図20参照)内で生成される第一画像202、第二画像204、第一ドット配置206、第三画像208、及び第四画像266の各データは、ディザマスク生成装置150内に備えるメモリ(不図示)その他の記憶部に保持される。
<第二実施形態の変形例1>
上述の第二実施形態において、第四画像生成部260により生成した第四画像266である入力反映ローパスドット配置画像をメモリ等に保持し、閾値の設定に伴い、第四画像266を更新して、更新後の第四画像266を保持する例を説明した。
しかし、本発明の実施に際しては、生成した第四画像266を保持していることは必ずしも必要ない。例えば、第二画像204と第三画像208のみを保持し、閾値設定画素を決定する際の画素値評価を行うときに、第四画像に相当する値を随時計算してもよい。
<第二実施形態の変形例2>
上述の第二実施形態では、第四画像266の最小値(昇順の閾値設定順の場合)に相当する画素に、閾値を設定することとしたが、閾値設定画素は、必ずしも第四画像266における最小値の画素でなくともよい。例えば、第四画像266における画素値の平均値よりも規定値以下の画素を、全て候補とし、それら候補のうち、さらに、乱数的に、又は、別途の指標や配置制約を加味して、一つの閾値設定画素を選択し、当該選択した閾値設定画素に閾値を設定してもよい。
候補を定める基準となる「規定値」は、予め設定された固定の値であってもよいし、閾値設定の度に変更してもよい。また、規定値を変更する場合には、負の値を含めてもよい。規定値として負の値を用いることは、すなわち、平均値よりも大きい画素値の画素を候補に含めることを意味する。規定値として負の値を許容する理由は、シミュレーテッドアニーリング法と同様に、部分局所最適解に陥ることを回避して、最適な解に到達するためである。そのような目的を達成できる範囲で、規定値の変更が行われる。
別途の指標には、例えば、粒状性、スジ状の画像欠陥、濃度ムラ、若しくは、バンディングなどの画質を評価する指標や、ドット被覆率などの指標、又は、これらの指標の適宜の組み合わせを採用することができる。
配置制約としては、例えば、隣接ドットが有る画素に限定する、若しくは、隣接ドットが無い画素に限定するなどの制約の他、特定ノズルや特定の走査パスに相当する画素に限定する、若しくは、特定ノズルや特定の走査パスに相当しない画素に限定するなどの制約を採用することができ、これらの制約を適宜組み合わせた配置制約としてもよい。
第一実施形態で説明した方法では、閾値未設定画素の全てを候補として、試行演算を繰り返しているのに対し、第二実施形態によれば、入力反映ローパスドット配置画像の画素値に基づいて、候補となる画素を絞り込んでいるため、閾値設定画素の決定が容易である。特に、第二実施形態によれば、入力反映ローパスドット配置画像における画素値の比較に基づき、簡単なルールにしたがって一つの閾値設定画素を特定することができる。簡単なルールとは、既に説明した最小値の画素とするルール、或いは、規定値による候補の絞り込みと乱数等による選択を組み合わせたルールなどのことである。本実施形態によれば、少ない演算量で、最適なディザマスクを得ることができる。なお、また、入力反映ローパスドット配置画像における画素値を比較するに際し、画素単位の1画素対1画素で画素値を比較する場合に限らず、複数の画素をグループにして、グループ単位で画素値を比較してもよい。
<第二実施形態の変形例3>
図22のステップS102で説明した入力反映ローパスドット配置画像の生成に関して、既述した式9の右辺の第1項と第2項を入れ替えた式11を用いることができる。
すなわち、ローパスドット配置画像にローパス吐出率反映入力画像を反映する方法として、両者の「差」をとる場合、式(10)に代えて、次の式(12)を用いることができる。
RIN_F_HT(x,y) =F_IN(x,y) − F_HT(x,y) ・・・式(12)
この場合、ステップS104の処理については、入力反映ローパスドット配置画像の最大値の画素の閾値を設定する、又は、平均値よりも規定値以上の画素に閾値を設定することになる。
<第二実施形態の変形例4>
図22のステップS102で説明した入力反映ローパスドット配置画像の生成に関して、既述した式(11)の右辺の分母と分子を入れ替えた式(13)を用いることができる。
すなわち、ローパスドット配置画像にローパス吐出率反映入力画像を反映する方法として、両者の「商」をとる場合、式(11)に代えて、次の式(13)を用いることができる。
RIN_F_HT(x,y) =F_IN(x,y) / F_HT(x,y) ・・・(式13)
なお、分母「0」による割り算を防ぐため、F_HT(x,y)に微小値(例えば、1など)を付加することが望ましい。
この場合、ステップS104の処理については、入力反映ローパスドット配置画像の最大値の画素に閾値を設定する、又は、平均値よりも規定値以上の画素に閾値を設定することになる。
<第二実施形態の変形例5>
入力反映ローパスドット配置画像の定義について、式9や式11のように、引き算(減算)による「差分」によって定義する場合と、式10や式12のように、割り算(除算)による「商」によって定義する場合を説明したが、引き算は、負の値の足し算(加算)として扱うことも可能であり、除算は、分数の掛け算(乗算)として扱うことができる。したがって、このような等価的な扱いのもとで、減算による差分は、加算による「和」として表記することが可能であるし、除算による商は、乗算による「積」として表記することも可能である。
<ディザマスクの各画素に対するノズル番号が複数存在する場合>
上述した第一実施形態及び第二実施形態では、ディザマスクの生成において反映するノズル吐出率が、ディザマスクの各画素につき、それぞれ一つのみである場合を説明した。しかしながら、ディザマスクの各画素に対し、ノズル吐出率が複数ある場合も想定される。ディザマスクのサイズがノズル番号の主走査方向及び副走査方向の繰り返し周期の倍数に一致すれば、ディザマスクの各画素に対応するノズル番号は、1画素につき一つであるため、ディザマスクの各画素に適用するノズル吐出率は、1画素につき一つのみである。しかし、ディザマスクのサイズがノズル番号の主走査方向及び副走査方向の繰り返し周期の倍数に不一致である場合、ディザマスクの各画素に対応するノズル番号は、1画素につき複数あり、その結果、ディザマスクの各画素に適用するノズル吐出率は、1画素につき複数存在する。
また、例えば、特開2000−101837号公報に開示されているように、連続調画像のハーフトーン処理に際して、ディザマスクを副走査方向にずらして配置する場合も、ディザマスクの各画素に対し、それぞれノズル吐出率は複数存在する。
ディザマスクの各画素に対するノズル番号が複数ある場合、つまり、ノズル吐出率が複数ある場合のディザマスク生成方法について説明する。ここでは、ハーフトーン処理に際してディザマスクを副走査方向にずらして配置する処理(本明細書では「マスクずらし処理」と呼ぶ。)を想定した例で説明する。
図27はマスクずらし処理の場合におけるディザマスクの各画素に対応するノズル番号の説明図である。図27では、ノズルピッチ2画素、ノズル数9のノズル列61Aを、9画素ずつ副走査方向に移動しつつ、主走査方向は1ノズルで走査する例が示されており、ディザマスクの適用に際して、主走査方向に位置を変えてディザマスクを配置する場合に、副走査方向に6画素ずつずらしてディザマスクを配置する場合の、ディザマスクの各画素に対応するノズル番号が示されている。図27において、横方向が主走査方向、縦方向が副走査方向である。
図27に示したように、ディザマスクの主走査方向の位置によって、ディザマスクの各画素に対応するノズル番号は3種類ある。
図27の左から、ディザマスクの主走査方向の第一位置におけるディザマスクの各画素に対応するノズル番号のパターンを「ノズルパターン1」とする。主走査方向の第二位置におけるディザマスクの各画素に対応するノズル番号のパターンを「ノズルパターン2」とし、主走査方向の第三位置におけるディザマスクの各画素に対応するノズル番号のパターンを「ノズルパターン3」とする。
また、ノズル列における各ノズルのノズル吐出率は図11のように設定したとする。この場合、ディザマスクの各画素に対応するノズル吐出率は、図28のグラフのようになる。図28の横軸は、ディザマスクの行番号を示している。縦軸はノズル吐出率を示している。主走査方向にはノズル吐出率が変わらないため(一定であるため)、図28のグラフは副走査方向の各位置の各ラインにおけるノズル吐出率を示している。各ラインの副走査方向の位置は行番号によって表されている。
図28におけるグラフ[1]は、ノズルパターン1におけるノズル吐出率のパターンを示している。ノズルパターン1におけるノズル吐出率のパターンを「吐出率パターン1」と呼ぶ。グラフ[2]は、ノズルパターン2におけるノズル吐出率のパターンを示している。ノズルパターン2におけるノズル吐出率のパターンを「吐出率パターン2」と呼ぶ。
グラフ[3]は、ノズルパターン3におけるノズル吐出率のパターンを示している。ノズルパターン3におけるノズル吐出率のパターンを「吐出率パターン3」と呼ぶ。
図29は吐出率パターン1、2、3におけるノズル吐出率の値を濃淡によって模式的に示した説明図である。濃い色ほどノズル吐出率の値が大きいことを示している。
図30は図28及び図29に示した3種類の吐出率パターンの平均の吐出率パターンのグラフを示している。
図31はノズルパターン1、2、3のそれぞれに平均の吐出率パターンを適用した場合のノズル吐出率の値を濃淡によって模式的に示した説明図である。濃い色ほどノズル吐出率の値が大きいことを示している。
図30に示した平均の吐出率パターンは、図28で説明した元の吐出率パターン1、2、3の各ラインにおいて、ディザマスクのずらし量だけずらした異なる三つのラインにおけるノズル吐出率を平均化したパターンである。そして、「異なる三つのライン」はディザマスクのずらし設定条件によって循環するため、図31のように、ディザマスクのずらし量だけ副走査方向にずらして配置しても、各ラインのノズル吐出率は一致することとなる。「ずらし設定条件」には、ずらし量の条件が含まれる。
そして、各ラインのノズル吐出率がディザマスクの主走査方向の位置によって変わらないことから、対応するノズルのノズル吐出率もディザマスクの主走査方向の位置によって変わらないこととなる。
図32は平均の吐出率パターンから導かれる各ノズルのノズル吐出率を示す。図32は、当初想定した図に示した各ノズルのノズル吐出率とは異なり、ノズル列の中央と両端以外の中間のノズルであるノズル番号2、3、5、6のノズル吐出率が低くなるものの、「中央ノズルのノズル吐出率を高く、両端ノズルのノズル吐出率を低く」することが可能であることが分かる。図32において中央ノズルはノズル番号4、両端ノズルはノズル番号0と8である。
図27から図32で説明したように、ディザマスクを副走査方向にずらしつつ、各ノズルのノズル吐出率を制御するためには、ディザマスクのずらし量に条件がある。
[ディザマスクのずらし量の条件について]
以下、ディザマスクのずらし量の条件について簡単に説明する。
ディザマスクを副走査方向にずらして配置する際に、ずらし量によっては、ディザマスクの各画素に対応するノズル番号が全てのノズル番号を循環してしまう。その結果、平均の吐出率パターンが全て同じ値となってノズル吐出率を制御することができない。
全てのノズル番号を循環してしまう条件は以下のとおりである。
<<全ノズル番号循環条件>>
「ディザマスクの副走査方向のサイズをm、ディザマスクの副走査方向のずらし量をpとして、p又はm−pが、ノズルピッチ又はノズルピッチの約数に等しい場合」に全ノズル番号を循環してしまう。
ただし、mとpは、副走査方向の記録解像度から定まる画素サイズを単位とする正の整数であり、mは2以上の整数、pは1以上m未満の整数である。また、ノズルピッチは副走査方向の記録解像度から定まる画素サイズを単位とする正の整数で表す。
図33と図34は、全ノズル番号循環条件を満たす場合の例を示した説明図である。図33はディザマスクのずらし量が「2」の場合を示している。図34はディザマスクのずらし量が「16」の場合を示している。ずらし量については、図33における下方向にディザマスクをずらすものとして表記している。
なお、図33及び図34におけるノズルパターン3の右横に示した「・・・」は、ノズルパターン3の右側に、ノズルパターン4、ノズルパターン5・・・と続くことを示している。
例えば、図27で説明した走査パターンの場合に、図33に示すように、ずらし量がノズルピッチの「2」に等しいと、各ノズルパターンの各画素に対応するノズル番号が全ノズル(0から8)を循環してしまうことが分かる。
または、図34に示すように、ディザマスクの副走査方向のサイズ「18」から、ずらし量の「16」を引いた値がノズルピッチの「2」に等しい場合も、各ノズルパターンの各画素に対応するノズル番号が全ノズル(0から8)を循環してしまうことが分かる。
なお、図34の場合、ディザマスクのずらし量は、同図の下方向に「16」だけずらすことと等価であるが、図34の上方向に「2」のずらし量であると把握することもできる。いずれの解釈を採用しても、全ノズル番号循環条件に該当することは明らかである。
ディザマスクのずらし量をマスクずらし量と呼び、ディザマスクの副走査方向のサイズをマスクサイズと呼ぶことにすると、「マスクずらし量」又は「マスクサイズ−マスクずらし量」がノズルピッチと不一致であるとしても、ノズルピッチの約数に等しいと(本例の場合では、ノズルピッチの「2」の約数である1に等しいと)、同様に、各ノズルパターンの各画素に対応するノズル番号が全ノズル(0から8)を循環してしまうことは、図33及び図34のような配置図から容易に把握することができる。
また、本例は、主走査パス数、すなわち、主走査方向のオーバーラップ数が「1」の例であるが、主走査パス数によらず、上記の全ノズル循環条件は成り立つ。
以上の考察から、ディザマスクを副走査方向にずらしつつ、各ノズルのノズル吐出率を制御するための、ディザマスクのずらし量の条件は次のようになる。
<<ディザマスクのずらし量の条件>>
「ディザマスクの副走査方向のサイズをm、ディザマスクの副走査方向のずらし量をpとして、p及びm−pが、ノズルピッチ及びノズルピッチの約数とは異なる。」
ただし、mとpは、副走査方向の記録解像度から定まる画素サイズを単位とする正の整数であり、mは2以上の整数、pは1以上m未満の整数である。また、ノズルピッチは副走査方向の記録解像度から定まる画素サイズを単位とする正の整数で表す。
かかる条件を満たすような、ディザマスクのずらし量pであれば、各ノズルパターンに対応するノズル番号が一部のノズル番号を循環するのみであるため、ノズル吐出率を平均化しても、それら一部のノズル番号のノズル吐出率を平均的に制御することが可能である。
第一実施形態及び第二実施形態において使用する吐出率パターンに、上述した「平均の吐出率パターン」を使用することによって、ディザマスクをずらして配置する場合でも、ノズル吐出率を平均的に制御できるディザマスクを生成することができる。
以下、具体的なディザマスクの生成処理のフローについて簡単に説明する。
<第三実施形態>
第三実施形態は、第一実施形態で説明した例のマスクずらし処理への対応形態である。
図35は第三実施形態に係るディザマスク生成方法を示したフローチャートである。図35において図9で説明したフローチャートと同一又は類似する工程には同一のステップ番号を付し、その説明は省略する。
図35では、図9のステップS14に代えて、ステップS14Aの工程が採用され、さらにステップS15の工程が追加されている。また、図35では、図9のステップS18、S20及びS24の各工程に代えて、ステップS18A、S20A、及びS24Aの工程が採用されている。
図35のステップS14Aでは、走査パターンとディザマスクのずらし設定条件にしたがって、ディザマスクの各主走査位置において、ディザマスクの各画素に対応するノズル番号を算出する。ただし、ここでいう「各主走査位置」とは、各画素とノズル番号の関係が異なる主走査位置のみをいう。主走査位置が異なる場合であっても、各画素とノズル番号の関係が同一となる主走査位置に関して、重複してディザマスクの各画素に対応するノズル番号を算出する必要はない。「主走査位置」とは、主走査方向の位置を意味する。
次いで、ステップS15では、ディザマスクの各主走査位置において、ディザマスクの各画素に対応するノズル番号のノズル吐出率を算出してこれらを平均化し、平均吐出率を算出する。平均吐出率は、図30で説明した「平均の吐出率パターン」に相当する。
図35のステップS18Aでは、入力画像の各画素の階調値を、各画素に対応する平均吐出率をかけた値に変換した吐出率反映入力画像を生成する。
そして、ステップS20Aにて、吐出率反映入力画像をマスクずらし量だけずらして配置した状態で第一ローパスフィルタを畳み込んでローパス吐出率反映入力画像を生成する。
また、ステップS24Aでは、初期のドット配置をマスクずらし量だけずらして配置した状態で、第二ローパスフィルタを畳み込んでローパスドット配置画像を生成する。
なお、ステップS22における初期のドット配置については、既述のとおり、公知のディザ法や、誤差拡散法、DBS法などのハーフトーン処理を実施して得られる。このとき、ディザ法の場合は、使用するディザマスクとして、マスクずらし処理を考慮して生成されたディザマスクを用いることが好ましい。マスクずらし処理を考慮して、ディザマスクを生成するディザマスク生成方法については、例えば、特開2000−101837号公報に開示されている。また、初期のドット配置の生成にDBS法を用いる場合は、DBS法のハーフトーン処理を、マスクずらし処理を考慮して実施する。
図36は第三実施形態における昇順の閾値設定処理の手順を示したフローチャートである。図36において図16で説明したフローチャートと同一又は類似する工程には同一のステップ番号を付し、その説明は省略する。
図36では、図16のステップS46に代えて、ステップS46Aの工程が採用されている。
図36のステップS46Aでは、ドットの仮置きに伴い、ドット配置をマスクずらし量だけずらして配置した状態でローパスドット配置画像を仮修正する。
降順の閾値設定処理に関する説明は省略するが、図19のステップS76に代えて、ドットの仮除去に伴い、ドット配置をマスクずらし量だけずらして配置した状態でローパスドット配置画像を仮修正すればよい。その他の工程については、第一実施形態と同様である。
<第四実施形態>
第四実施形態は、第二実施形態で説明した例のマスクずらし処理への対応形態である。
第四実施形態に係るディザマスク生成方法は、図35に示したフローチャートと、図22で説明した第二実施形態のフローチャートの組み合わせによって実現される。
ただし、図22のステップS106において、ドット配置をマスクずらし量だけずらして配置した状態でローパスドット配置画像を更新する。他の工程の内容は、既に説明したとおりであるため、説明は省略する。
図27から図36を用いて説明したように、ディザマスクを副走査方向にずらして配置し、ディザマスクの各画素に対応するノズル番号が複数存在する場合でも、ノズル吐出率を平均的に制御できるディザマスクを生成することができる。
ディザマスクをずらして配置する場合に限らず、ディザマスクの各画素に対応するノズル番号が複数存在する場合には、同様にしてディザマスクを生成することができ、ノズル吐出率を平均的に制御することができる。
[他の変形例]
第一実施形態から第四実施形態では、インクジェット記録装置として、紫外線硬化型インクを用いるワイドフォーマットプリンタを例に挙げて説明を行ったが、紫外線硬化型インクを用いるものに限らず、様々な種類のインクを用いて記録媒体に画像を記録する各種のインクジェット記録装置に本発明を適用することができる。
第一実施形態から第四実施形態では、マルチパス方式(シリアル方式)の記録ヘッドによる画像記録時に発生するバンディングを抑制するため、ノズル列の両端部のノズルのノズル吐出率を、ノズル列の中央部のノズルのノズル吐出率よりも小さく設定しているが、記録ヘッドの種類や記録方式などに応じてノズルごとのノズル吐出率は適宜変更してもよい。
また、第一実施形態から第四実施形態では、シリアル方式の記録ヘッドを有するインクジェット記録装置を例に挙げて説明を行ったが、発明の適用に際して、対象となるインクジェット記録装置はシリアル方式に限らない。シングルパス方式の記録ヘッドを有するインクジェット記録装置にも本発明を適用することができる。
<第五実施形態>
図37(A)は、シングルパス方式の記録ヘッド300の概略図である。図37(B)は、記録ヘッド300の各ノズル62のノズル吐出率を示したグラフである。
シングルパス方式の記録ヘッド300は、主走査方向に複数のヘッドモジュールHA,HB,HCを繋ぎ合せた構造を有するラインヘッドである。図37(A),(B)では、各ヘッドモジュールHA,HB,HCについて、主走査方向のノズル列を構成するノズル62の数を「20」としたが、ノズル数やノズル62の配列形態についてはこの例に限定されない。
記録ヘッド300には、複数のヘッドモジュールHA,HB,HCの繋ぎ目を滑らかにするとともに各ヘッドモジュールHA,HB,HCの端部で生ずるドット形成位置や吐出量の誤差を目立たなくするためにノズル列の重畳領域が設けられている。
すなわち、図37(A)に示すように、記録ヘッド300には、ヘッドモジュールHAとヘッドモジュールHBとの重畳領域、ヘッドモジュールHBとヘッドモジュールHCとの重畳領域が設けられている。各重畳領域では副走査方向にヘッドモジュールHAとヘッドモジュールHB、ヘッドモジュールHBとヘッドモジュールHCのノズル62を交互に使用してドットが形成される。
しかしながら、ヘッドモジュールHAとヘッドモジュールHB、ヘッドモジュールHBとヘッドモジュールHCのノズル位置や吐出量の差異によって、重畳領域におけるスジやムラ、或いは、各ヘッドモジュール周期の濃度ムラなどの画像欠陥が発生してしまう。
この課題に対して、図37(B)に示すように、重畳領域において、ヘッドモジュール端部のノズル62に近いほどノズル吐出率を小さく設定する。そして、ディザマスクの生成に際して、図37(B)に示すノズル吐出率を反映させて、閾値を決定する。
具体的なディザマスクの生成方法については、第一実施形態から第四実施形態で説明した方法と同様の方法を用いることができる。
こうして得られたディザマスクを用いて、印刷用の画像データのハーフトーン処理が行われ、生成されたハーフトーン画像に基づき、記録ヘッド300の各ノズルの吐出制御が行われる。これにより、スジやムラなどの画像欠陥の発生を抑えることができる。
<コンピュータをディザマスク生成装置として機能させるプログラムについて>
上述の実施形態で説明したディザマスク生成装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムをCD−ROM(Compact Disc read-only memory)や磁気ディスクその他のコンピュータ可読媒体(有体物たる非一時的な情報記憶媒体)に記録し、情報記憶媒体を通じてプログラムを提供することが可能である。このような情報記憶媒体にプログラムを記憶させて提供する態様に代えて、インターネットなどの通信ネットワークを利用してプログラム信号をダウンロードサービスとして提供することも可能である。
また、ディザマスク生成装置の機能をアプリケーションサーバとして提供し、通信ネットワークを通じて処理機能を提供するサービスを行うことも可能である。
さらに、このプログラムをコンピュータに組み込むことにより、コンピュータにディザマスク生成装置の各機能を実現させることができ、上述の実施形態で説明したディザマスク生成機能を実現することができる。
また、本実施形態で説明したディザマスク生成機能を含む印刷制御を実現するためのプログラムの一部又は全部をホストコンピュータなどの上位制御装置に組み込む態様や、インクジェット記録装置側の中央演算処理装置(CPU)の動作プログラムとして適用することも可能である。
<実施形態の利点>
本発明の実施形態によれば、従来の方法よりも、ドット配置の粒状性を良好にすることができ、記録デューティによらず、目標のノズル吐出率となるドット配置のハーフトーン画像を得ることができるディザマスクを生成することが可能である。
本実施形態によって生成されるディザマスクを用いてハーフトーン処理を実施し、得られたハーフトーン画像に基づいてインクの吐出制御を行うことにより、バンディングが抑制された良好な画像を形成することが可能である。
[その他]
上記の実施形態では、濃度変化によるバンディング、スジ若しくはムラを抑制することを目的としたが、インクジェット記録装置においては光沢変化によるバンディング、スジ若しくはムラも同様に生じ、本課題に対しても本発明は有効である。また、同様にドットパターンの変化によるバンディング、スジ若しくはムラに対しても本発明は有効である。
以上説明した本発明の実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜構成要件を変更、追加、削除することが可能である。本発明は以上説明した実施形態に限定されるものでは無く、本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有するものにより、多くの変形が可能である。