以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。まず図15に示す縦断面図を参照しつつインホイールモータ駆動装置11から説明すると、インホイールモータ駆動装置11は、モータ部11A、減速部11B、および車輪ハブ部11Cを備える。これらモータ部11A、減速部11B、および車輪ハブ部11Cは、インホイールモータ駆動装置11の軸線O方向に順次直列に配置され、かつ同軸に配置される。車輪ハブ部11Cは、軸線Oに沿って延びる回転部材であるハブ輪33と、ハブ輪33の外周面を包囲する外輪部材34と、外輪部材34の内周面とハブ輪33の外周面との環状隙間に配置された複数の転動体35を有し、複数の転動体35を含む転がり軸受を介してハブ輪33を回転自在に支持する。またハブ輪33にはボルト36によって図示しない車輪が取付固定される。この車輪は車両後輪であって非転舵輪であり、インホイールモータ駆動装置11に駆動されて回転する。インホイールモータ駆動装置11の車輪ハブ部11Cおよび減速部11Bは、車輪のロードホイール内空領域に設置される。これに対しモータ部11Aの一部又は全部は、当該車輪のロードホイール内空領域の外に設置される。
モータ部11Aは、モータ部ケーシング12の内部に回転電機のステータ13、ロータ14、およびモータ軸15を内蔵し、ハブ輪33を駆動し、あるいはハブ輪33の回転を利用して電力回生を行う。モータ軸15は、軸線Oに沿って延び、減速部11Bの入力軸24と結合する。この結合は、筒状に形成されたモータ軸15の一方端開口に、入力軸24の端部を嵌入固定することにより行われる。
図15の減速部11Bは、減速部ケーシング23の内部にサイクロイド減速機を内蔵し、モータ部11Aの回転を減速してハブ輪に伝達する。減速部11Bは図示したサイクロイド減速機の他に遊星歯車式減速機構を内蔵してもよいし、減速部11Bを有さない所謂ダイレクトモータタイプのインホイールモータ駆動装置であってもよい。減速部ケーシング23とモータ部ケーシング12は別部品であってもよいし、一体物であってもよい。
ここで減速部11Bにサイクロイド減速機を採用する場合につき簡単に説明すると、減速部11Bは、減速部ケーシング23と、入力軸24と、入力軸24に偏心して設けられた円板形状の偏心部材25と、かかる偏心部材25に同心円となるように取り付けられた曲線板26と、偏心部材25の外周と曲線板26の中央孔の内周面との間に設けられた転がり軸受29と、減速部ケーシング23に取り付けられた複数の外ピン27と、曲線板26の自転を取り出してハブ輪33に出力する運動変換機構とを有する。なお、この実施形態では180°異なる位相で2枚の偏心部材25および2枚の曲線板26が設けられる。
上述した曲線板26の外周縁は波状に形成されて、減速部ケーシング23に複数取り付けられた外ピン27と係合する。外ピン27は、軸線O回りに周方向等間隔に配置され、曲線板26の外周縁に形成された波状の山の数よりも1つ多い。そして公転部材である曲線板26が軸線O回りに1公転すると、曲線板26はわずかに自転する。
運動変換機構は、曲線板26の自転を取り出して、当該自転のみをハブ輪33に出力するものであって、曲線板26に周方向に間隔を空けて形成された複数の貫通孔と、該貫通孔の内径よりも小さな外径を有し各貫通孔に通される複数の内ピン31と、各内ピン31の一端を共通に支持するフランジ部32fと、フランジ部32fと一体形成された軸部32sを有する。フランジ部32fおよび軸部32sは減速部11Bの出力軸32を構成する。出力軸32の軸部32sは軸線Oに沿って延び、車輪ハブ部11Cのハブ輪33と同軸に結合する。モータ部11Aのモータ軸15と、減速部11Bの入力軸24および出力軸32と、車輪ハブ部11Cのハブ輪33は軸線Oに沿って延びるが、偏心部材25および曲線板26は軸線Oから偏心して配置される。
ステータ13のコイルに三相交流電流を通電するとロータ14がモータ軸15とともに回転して、モータ部11Aは回転を出力する。減速部11Bはモータ軸15から入力軸24に入力された回転を減速し、減速回転を出力軸32から車輪ハブ部11Cに伝達する。ステータ13への通電は、後述する3本の動力線61(図3)によって行う。
次に図1〜図4を参照してサスペンション装置につき説明する。図1は、本発明の第1実施形態になる電力線保護構造を示す全体図であり、車幅方向内側からみた状態を表す。図2は、図1にX−Xで示す第1実施形態の電力線保護構造を示す横断面図である。図3および図4は第1実施形態から保護カバーを取り除いた状態を示し、図3が車幅方向内側からみた説明図であり、図4が車両前方かつ車幅方向内側からみた斜視図である。
この実施形態では、トレーリングアーム式サスペンション装置を介して、インホイールモータ駆動装置11を図示しない車体に取り付ける。トレーリングアーム式サスペンション装置は複数のサスペンション部材で構成され、インホイールモータ駆動装置11の上方へのバウンドおよび下方へのリバウンドを許容する。トレーリングアーム41は、車両前後方向に延びるサスペンション部材であって、前端が図示しない車体側メンバと連結し、後端53がインホイールモータ駆動装置11の前部と連結する。トレーリングアーム41の前端には、車幅方向に延びる枢軸42が設けられ、トレーリングアーム41は枢軸42を支点として上下方向に揺動可能である。枢軸42は、トレーリングアーム41の前端に形成された貫通穴に挿通されるシャフトであってよいし、あるいはトレーリングアーム41の前端に一体に形成されて車幅方向両側に突出する突起部分であってもよい。枢軸42の両端は、図示しない車体側メンバに取り付けられる。一般的に、ストローク時の変位許容やショック緩和のため、枢軸42にはブッシュが用いられる。
トレーリングアーム41の後端53は、ボルトなどの連結部材によってインホイールモータ駆動装置11に固定されてもよいし、あるいはモータ部ケーシング12および減速部ケーシング23の少なくとも一方と一体形成されていてもよい。
インホイールモータ駆動装置11の下部にはブラケット43,44,45が設けられる。インホイールモータ駆動装置11の上部にはブラケット46が設けられる。ブラケット43〜46も、ボルトなどの連結部材によってインホイールモータ駆動装置11に固定されてもよいし、あるいはモータ部ケーシング12または減速部ケーシング23と一体形成されていてもよい。ブラケット43はインホイールモータ駆動装置11の前部に位置し、枢軸43sを介してリンク部材47と回動可能に連結する。ブラケット44はインホイールモータ駆動装置11の後部に位置し、枢軸44s(図6)を介してリンク部材48と回動可能に連結する。ブラケット45はブラケット44よりも後方に位置し、枢軸45sを介してダンパ49の下端と回動可能に連結する。ブラケット46は軸線Oの略直上に位置し、枢軸46sを介してリンク部材50と回動可能に連結する。枢軸43s,44s,45s,46sは車両前後方向に延びる。
リンク部材47,48,50は車幅方向に延びるサスペンション部材であり、各リンク部材の車幅方向外側端が上述したようにインホイールモータ駆動装置11と回動可能に連結し、各リンク部材の車幅方向内側端が車両前後方向に延びる枢軸を介して図示しない車体側メンバに回動可能に連結する。これにより第1実施形態のインホイールモータ駆動装置11は上下方向にバウンドおよびリバウンド可能とされる。
リンク部材48の長手方向中央部には円板形状の座部48sが形成される。座部48sは、下向きに窪んだ皿状に形成され、上下方向に延びるコイルスプリング52の下端を支持する。コイルスプリング52の上端は図示しない車体側メンバと連結し、コイルスプリング52はバウンドおよびリバウンドの際の衝撃を緩和する。ダンパ49は、上下方向に延び、ダンパ49の上端が図示しない車体側メンバと連結する。そしてダンパ49は、バウンドおよびリバウンドを減衰させる。
次に図1〜図4を参照して動力線61につき説明する。動力線61は、U、V、W相の大電流がそれぞれ流れる3本の電力線であり、インホイールモータ駆動装置11のモータ部11Aから、トレーリングアーム41に沿って前方へ延び、次に上方へ向きを変えるよう屈曲して延び、車体に搭載された図示しないインバータと接続する。またインホイールモータ駆動装置11は1本の信号線62を介して、図示しない車体側のインバータと電気的に接続する。信号線62は小電流が流れる電力線である。
3本の動力線61は、図3および図4に示すように、クランプ部材63によってトレーリングアーム41の前端側から後端側に沿って取り付け固定される。クランプ部材63は動力線61と交差するように上下方向に延び、トレーリングアーム41の長手方向に間隔をあけて複数配置される。クランプ部材63は例えばコの字形状の部材であり、樹脂製であってもよいし金属製であってもよい。クランプ部材63の上端および下端はボルト64で内側面41iに固定される(上端のボルトは図示省略)。クランプ部材63により把握された3本の動力線61は、内側面41i上で相対移動不能にされ、上下方向に整列して互いに平行に延びる。なお内側面41iは平坦であって、トレーリングアーム41の車幅方向内側面である。信号線62も、クランプ部材63により把握されて、動力線61と束にされるとよい。
3本の動力線61、クランプ部材63、および信号線62は、保護カバー65によって覆われる。保護カバー65はトレーリングアーム41の長手方向に沿って延びる長尺な部材であり、その断面形状は図2に示すようにトレーリングアーム41からみて溝状に窪んだ形状にされ、上縁65uと、膨出部分65cと、やや下方寄りの下寄り部分65eと、下縁65dを有する。下寄り部分65eと下縁65dは互いに直角に接続する。膨出部分65cは車幅方向外側のトレーリングアーム41からみて窪んだ形状であって、車幅方向内側へ向かって膨んだ形状であり、保護カバー65の長手方向に延びる通路空間を構成する。保護カバー65は例えば硬質の樹脂製であるが、金属製であってもよい。樹脂製の場合、保護カバー65は例えば耐久性ポリアミド(ナイロン)、ポリプロピレン、ポリウレタン、塩化ビニール(PVC)、あるいは繊維強化プラスチック(FRP)からなる。金属製の場合、保護カバー65は例えば冷間圧延鋼からなる。
保護カバー65の上縁65uは、トレーリングアーム41の上面41uに対応する形状に形成され、トレーリングアーム41の上面41uに重なるよう取り付けられる。また保護カバー65の下縁65dは、トレーリングアーム41の下面41dに対応する形状に形成され、トレーリングアーム41の下面41dに重なるよう取り付けられる。下面41dと下縁65dの隙間には樹脂製のシール材74が介在するとよい。シール材74は例えばゴムおよびポリエチレンの発泡体や、発泡ウレタン、EPDM(エチレンプロピレンジエンモノマー共重合体)ゴム発泡体、シリコンゴムからなる。
保護カバー65の膨出部分65cよりも下側にあり、下縁65dよりも上側の下寄り部分65eは、内側面41iの下部に重なるよう取り付けられる。これにより内側面41iは、図2に示すように保護カバー65に完全に覆われる。
下寄り部分65eは内側面41iに対応する形状、例えば平坦な板状、に形成される。下寄り部分65eから車幅方向内側へ膨らむ膨出部分65cの膨らみ寸法は、保護カバー65をトレーリングアーム41に取り付けた状態で、枢軸42の車幅方向内側端よりもさらに車幅方向内側となるようにされるとよい。これにより枢軸42で走行風が遮られないよう、膨出部分65cの前端側開口は前方からの走行風取入れを効率よく行う。あるいは膨出部分65cの前端側開口は、枢軸42を回避するように、車幅方向にオフセットして、あるいは車両上下方向にオフセットして、配置されてもよい。
保護カバー65の両端は、図2に示すようにボルト66および連結具68でトレーリングアーム41に取り付け固定される。ボルト66は保護カバー65の下寄り部分65eに形成された貫通孔65hを貫通し、ボルト66の軸部が内側面41iの下部に形成されたボルト孔に螺合する。下寄り部分65eに形成された貫通孔65hとボルト66外周との環状隙間には円筒形状のゴムブッシュ67が介在する。
図16は、ゴムブッシュ67を取り出して示す斜視図である。ゴムブッシュ67の材質は、天然ゴム(NR)、あるいはニトリルゴム(NBR)、あるいはクロロプレンゴム(CR)、あるいはCNR(Carboxyl-Nitroso Rubber)、あるいはシリコンゴム、あるいはこれらの組み合わせである。ゴムブッシュ67は、円筒形状であり、両端部の外径が中央部の外径よりも大きい。そして図2に示すように、下寄り部分65eに形成された貫通孔65hの内周縁が、ゴムブッシュ67の両端部間に嵌め込み固定される。またゴムブッシュ67の中心孔には金属管81が通され、この金属管81にボルト66の軸部が通される。トレーリングアーム41が例えばアルミニウム等の軽金属を主成分とする軽金属製であり、保護カバー65が例えば樹脂製の場合、高温に因る熱膨張(温度変形)が生じると両者の線膨張率の相違を原因として、トレーリングアーム41と保護カバー65との間で変形差が生じ、保護カバー65が正規の取り付け位置からずれる懸念がある。
本実施形態によれば、保護カバー65が正規の取り付け位置からずれるに従ってゴムブッシュ67が弾性変形することから、熱膨張に因る変形差が生じてもボルト66に無理な力が作用しない。またゴムブッシュ67は、保護カバー65に接触することによって、保護カバー65の微小振動を抑制する。これにより保護カバー65の微小振動を原因とする異音を防止することができる。また下寄り部分65eに形成された貫通孔65hの加工精度を高精度に仕上げる必要がない。すなわち下寄り部分65eに形成された貫通孔65hの内径を大きくしておき、ボルト66からみた貫通孔65hの加工ずれを、ゴムブッシュ67で吸収することができる。またゴムブッシュ67の内周とボルト66の外周との間には金属管81が介在し、ゴムブッシュ67の内周がボルト66の外周に接触しないことから、ゴムブッシュ67およびボルト66間で摩擦が生じない。したがってボルト66が不用意に緩むことがない。
連結具68はトレーリングアーム41に付設されて上面41uから上方へ突出する突起であり、弾性素材(ゴムなど)で先細に形成されて、保護カバー65の上縁65uに形成された貫通孔を貫通する。これにより保護カバー65は、連結具68に係合しているので、ボルト66を除去しない限り連結具68から外れることはない。ボルト66および連結具68の連結手段により、保護カバー65は車両前後方向に延びるようにトレーリングアーム41に取り付けられる。なお連結具68に代えて上述したボルト66、ゴムブッシュ67、および金属管81を用いてもよい。
かかる取り付け状態で、保護カバー65の前端は、内側面41i上で車両前方へ指向する前端側開口70を画成し、保護カバー65の後端は、内側面41i上で車両後方へ指向する後端側開口71を画成する。これらの開口70、71には動力線61および信号線62が通っている。
第1実施形態によれば、硬質の保護カバー65が動力線61および信号線62を覆うことから、車両の走行中に飛び石や異物が動力線61および信号線62に衝突することがなく、動力線61および信号線62を保護することができる。
なお膨出部分65cによって画成される通路空間の断面形状を、3本の動力線61および1本の信号線62の断面積合計よりも大きく確保しておくとよい。これにより、保護カバー65はその内部に、動力線61とは別に空間を確保する。かかる空間は、膨出部分65cと動力線61の隙間であって、車両走行中に走行風通路として機能する。また前端側開口70は車両前方へ指向し、後端側開口71はインホイールモータ駆動装置11へ指向する。そして図1に矢印で示すように車両走行中に、走行風が前端側開口70から保護カバー65内部に流入し、次に保護カバー65内部を後方へ向かって流れ、次に後端側開口71からインホイールモータ駆動装置へ導かれる。これによりインホイールモータ駆動装置11を冷却することができる。なお図示はしなかったが、前端側開口70を後端側開口71よりも広く形成することによって、多くの走行風を取り込み、上述の冷却機能を高めることができる。
また第1実施形態によれば、トレーリングアーム41が車幅方向内側へ指向する内側面41iを有し、動力線61および信号線62が内側面41iに取り付けられることから、車幅方向外側から飛来する飛び石や異物を回避することができる。
次に本発明の変形例を説明する。図5〜図7は変形例を示す説明図であり、図5は車幅方向内側からみた様子を示し、図6は斜視図であり、図7は図5にVII−VIIで示す横断面図である。この変形例では、内側面41iに、前端側から後端側に沿って延びる凹部40が形成される。そして動力線61および信号線(図示せず)は、凹部40に設置され、クランプ部材によって凹部40から外れないように取り付け固定される。動力線61の後端は、トレーリングアーム41の後端に設置されたインホイールモータ駆動装置11の端子ボックス11Tに接続されるとよい。凹部40を覆う保護カバー65については図5〜図7では取外しているが第1実施形態と同様であるため、図1〜図4を参照されたい。
図5〜7に示す変形例によればトレーリングアーム41の表面に前端側から後端側に沿って延びる凹部40が形成され、動力線61は凹部40に設置されることから、保護カバー65は凹部40に蓋をするようにして電力線を覆えばよく、保護カバー65を略平坦な板材にする等、保護カバー65を小さくすることができる。あるいは保護カバー65の通路空間のうち電力線が占めない空間を確保して、走行風通路とすることができる。
次に本発明の別な変形例を説明する。図8は別な変形例を示す説明図であり、車幅方向内側からみた様子を示す。別な変形例では前端側開口70に蛇腹状の保護配管72を接続し、後端側開口71に第2保護カバー73を接続する。保護配管72は軟質な樹脂製であって、屈曲自在であり、3本の動力線61および1本の信号線62が通される。また保護配管72は前端側開口70から上方へ向きを変えて延びる。この場合において少なくとも保護配管72の一部が枢軸42の仮想軸線と交差するとよい。保護配管72の断面形状は前端側開口70の断面形状よりも小さいため、前端側開口70は保護配管72の外方空間とも接続する。
第2保護カバー73はトレーリングアーム41の後端部に取り付け固定され、動力線61とインホイールモータ駆動装置11の接続箇所を覆う。第2保護カバー73によって画成される通路空間の断面形状は後端側開口71の断面形状よりも小さいため、後端側開口71は第2保護カバー73の外方空間とも接続する。
図8に示す別な変形例によれば、保護カバー65の前端に延設された保護配管72を備えることにより、および/または保護カバー65の後端に延設された第2保護カバー73を備えることにより、動力線61の端部および信号線62の端部を保護することができる。また破線の矢印で示すように、走行風が前端側開口70から後端側開口71まで流れ、インホイールモータ駆動装置11に導かれる。
次に本発明の第2実施形態を説明する。図9は車幅方向内側かつ車両前方からみた斜視図であり、図10は車両下方からみた斜視図である。図11〜図14は第2実施形態の保護カバーを取り出して示し、図11は車幅方向内側からみた説明図であり、図12は車両下方からみた底面図であり、図13は車両下方かつ車両前方からみた斜視図であり、図14は保護カバーの内部空間を表す。第2実施形態につき、上述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。
第2実施形態のトレーリングアーム41は、車幅方向からみると略真っ直ぐに延びているが、車両上下方向からみると緩やかに屈曲して延び、図10に示すように前端が後端よりも車幅方向内側に位置する。トレーリングアーム41の後端53には、前方で内側面41iと接続し、車両後方に向かうにつれて車幅方向内側に向かい、後方でインホイールモータ駆動装置11の外周面と接続する傾斜面53iを有する。これによりトレーリングアーム41の後端53は、車両後方に向かうにつれて断面積が大きくなり、インホイールモータ駆動装置11との結合箇所における強度を確保される。
保護カバー65には仕切り壁69が一体に形成される。仕切り壁69は保護カバー65の前端から後端まで延びて、保護カバー65の通路空間を第1通路Lおよび第2通路Mに仕切る。第1通路Lはトレーリングアーム41に取り付ける前の状態で、図14に示すように膨出部分65cによって画成された溝である。これに対し第2通路Mは全周を保護カバー65および仕切り壁69で仕切られたダクトにされ、第1通路Lよりも下方に配置される。また保護カバー65の前端側開口70は、図13に示すように、仕切り壁69によって上側開口70lと下側開口70mに仕切られる。保護カバー65の後端側開口71も、仕切り壁69によって上側開口と下側開口に仕切られる。上側開口70lは第1通路Lの前端側開口であり、下側開口70mは第2通路Mの前端側開口である。第1通路Lは3本の動力線61と、信号線62を収容するとよい。そして第2通路Mを走行風のための通路として空けておくとよい。
第2実施形態の保護カバー65の上縁65uおよび下縁65dは、ボルトやフック等の係合手段によって、トレーリングアーム41の上面41uおよび下面41dにそれぞれ取り付け固定される。
図9〜図14に示す第2実施形態によれば保護カバー65の通路空間を第1通路Lおよび第2通路Mに仕切る仕切り壁69を有し、動力線61は第1通路Lに収容されることから、破線の矢印で示すように第2通路Mに走行風のみを流すことができ、走行風を漏れなく効果的にインホイールモータ駆動装置11へ導くことができる。
また第2実施形態によれば第2通路Mが第1通路Lよりも下方に配設されたダクトであるから、下側開口70mを枢軸42よりも下方に設置して走行風を取り込み易くなり、多くの走行風を取り込むことができる。
また第2実施形態によればトレーリングアーム41の後端53に傾斜面53iを形成したことから、保護カバー65を通過して車両後方へ流れる走行風を車幅方向内側へ導き、モータ部11Aのモータ部ケーシング12を効果的に冷却することができる。
次に本発明の第3実施形態を説明する。図17は第3実施形態になる電力線保護構造を車幅方向内側からみた全体図であり、図18は図17にXVIII−XVIIIで示す第3実施形態の電力線保護構造を示す横断面図である。図19は、図17から保護カバーを取り除いた説明図である。図20は保護カバーの縦断面図であって車幅方向内側からみた状態を示す。図21は図20の丸囲み箇所を拡大して示す縦断面図である。第3実施形態につき、上述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。
まずインホイールモータ駆動装置11から説明すると、インホイールモータ駆動装置11の下部は、前後方向に延びるトレーリングアーム41の後端と結合する。そしてインホイールモータ駆動装置11の上部がトレーリングアーム41よりも上方に位置する。かかるインホイールモータ駆動装置11の上部には、車両前方に向かって突出する直方体の端子ボックス11Tが設けられる。端子ボックス11Tは隙間を介してトレーリングアーム41よりも上方に配置される。図19に示すように、端子ボックス11Tの前面から3本の動力線61および1本の信号線62が前方へ延びる。これら動力線61および信号線62の後端領域は、トレーリングアーム41のよりも上方に位置する。これに対し動力線61および信号線62の中間領域は、途中で下方へ湾曲して、トレーリングアーム41の内側面41iに沿って延び、クランプ部材82を介してトレーリングアーム41の内側面41iに取り付けられる。動力線61および信号線62の前端領域は、枢軸42を回避するよう上方へ湾曲し、図示しない車体に向かって延びる。
トレーリングアーム41の内側面41iに被さる保護カバー65は、図17に示すようにトレーリングアーム41に沿って延び、保護カバー65の後端側開口71はインホイールモータ駆動装置11の端子ボックス11Tと接続する。そして図17に示すようにトレーリングアーム41の後端側における上縁から下縁までの距離は、端子ボックス11Tの上下方向寸法と略一致する。
図18は、図17にXVIII―XVIIIで示す箇所で第3実施形態を切断し矢印の方向から見た状態を示す横断面図である。第3実施形態の保護カバー65の前端領域は、断面コの字形状の板材であって、上縁65uと、下縁65dと、これら上縁65uの幅方向内側部分および下縁65dの幅方向内側部分を接続する膨出部分65cを有する。そして上縁65uから下縁65dまでの距離は、図20に示すように前端側から後端側に向かうにつれて徐々に大きくなる。これに対しトレーリングアーム41の上下方向寸法は図19に示すように前端から後端まで略同じである。図20に示す保護カバー65を図19に示すトレーリングアーム41に取り付けると、図17に示すように保護カバー65の後端領域65bがトレーリングアーム41から上方へ突出し、端子ボックス11Tと接続する動力線61および信号線62の後端領域を覆う。なお保護カバー65の後端領域65bは、図20に示すように車幅方向外側から略台形の第3保護カバー75が取り付けることによって形成される。つまり、保護カバー65は本体と後端領域65bを構成する保護カバー75の2部材を一体結合して形成している。これにより動力線61および信号線62の後端領域は、車幅方向両側から保護カバー65の後端領域65b(第3保護カバー75)に覆われる。
図20に示すように、下縁65dの長手方向中央領域は、下縁65dの長手方向両端よりも下方へ膨出するよう形成される。かかる保護カバー65の下部には、水抜き孔76が形成される。
水抜き孔76の理解を容易にするため、図20の丸囲み箇所を拡大して図21に示す。水抜き孔76は、上下方向に貫通する貫通孔76hと、貫通孔76hを下方から覆う底板部76pと、下側にある底板部76pと上側にある保護カバーの下縁65dとの隙間76sとを有する。底板部76pは保護カバー65と一体形成され、底板部76pの前縁は上方に立ち上がって下縁65dと接続する。つまり、底板部76pは保護カバー65の下縁65dから下方(車両下側)に突出している。これに対し底板部76pの後縁は、貫通孔76hの周縁を超えて後方へ延び、下縁65dと間隔を空けて対面する。かかる間隔が隙間76sを構成する。隙間76sの大きさは、泥やごみによる詰まりや、水分の粘性による排水不良が起こらないように設定する必要がある。少なくとも1mm以上の隙間を設定することが望ましい。
第3実施形態の水抜き孔76によれば、保護カバー65のカバー内側に万一水が進入しても、水は保護カバー65の下縁65dに流下し、底板部76pの上に集まった後、隙間76sから保護カバー65のカバー外側に自然排出される。しかも水抜き孔76は下方から底板部76pで覆われていることから、下方から異物や泥水が水抜き孔76を通過して保護カバー65のカバー内側に進入することを防止できる。さらに底板部76pの前縁が下縁65dと接続し、底板部76pの後縁と下縁65dとの間に隙間が形成されることから、前方から飛来する異物や泥水が水抜き孔76からカバー内側に進入することがなく、カバー内側の水を水抜き孔76(隙間76s)から排出することができる。
底板部76pの後縁は、図21に示すように保護カバー65の下縁65dと重なるが、変形例として図22の縦断面図に示すように底板部76pの後縁76rと保護カバー65の下縁65dは重ならなくてもよい。図22の変形例では、底板部76pの後端76rが貫通孔76hの周縁よりも距離Dだけ前方にある。図22の変形例によれば、隙間76sを大きく確保して、保護カバー65の内側に進入した水の速やかな排出が可能になる。
他の変形例として図23の縦断面図に示すように、底板部76pの前端と保護カバー65の下縁65dとの間にも隙間76tを形成するとよい。底板部76pの幅方向両端は下縁65dと接続している。図23の変形例によれば、2つの隙間76t,76sを確保して、保護カバー65の内側に進入した水の速やかな排出が可能になる。
さらに他の変形例として図24の縦断面図に示すように、水抜き孔76は、下縁65dを貫通する孔にすぎず、底板部で覆われていなくてもよい。
説明を図18の横断面図に戻すと、保護カバー65とトレーリングアーム41の隙間には、前後方向に延びるシール材77が介在する。シール材77は、保護カバー65とトレーリングアーム41の隙間を閉塞する。
第3実施形態のシール材77はトレーリングアーム41の上面41uおよび下面41dにそれぞれ配置される。図17に破線で示すように、下側のシール材77の前端領域は、保護カバー65の下縁65dとトレーリングアーム41の下面41dの隙間に介在する。下側のシール材77の後端領域は、保護カバー65の膨出部分65cとトレーリングアーム41の内側面41iとの隙間に介在する。上側のシール材77の前端領域は、保護カバー65の上縁65uとトレーリングアーム41の上面41uの隙間に介在する。上側のシール材77の後端領域は、第3保護カバー75の下縁75d(図20)とトレーリングアーム41の上面41uとの隙間に介在する。シール材77は例えばゴムおよびポリエチレンの発泡体や、発泡ウレタン、EPDM(エチレンプロピレンジエンモノマー共重合体)ゴム発泡体、シリコンゴムからなる。
シール材77の断面形状は、図18に示すように矩形であるが、特に限定されない。変形例として図25の横断面図に示すように環状であってもよい。あるいは他の変形例として図26の横断面図に示すように、保護カバー65の縁に固定される断面コの字状のシール本体77cと、シール本体77cから突出してトレーリングアーム41に接触するリップ部77lとを有してもよい。第3実施形態あるいは変形例のシール材77によれば、保護カバー65の内側へ水が進入することを防止できる。なお、図25と図26は、保護カバー65とトレーリングアーム41の上面41uとの隙間にシール材77が介在している箇所を拡大した横断面図である。
説明を図19に戻すと、動力線61および信号線62を支持するクランプ部材82は、各電力線の外周を包囲する貫通孔を有する。図27はクランプ部材を車両前後方向からみた状態を示す正面図である。図28は図19にXVIIIX−XXVIIIで示す第3実施形態の電力線保護構造をクランプ部材で切断しその切断面を車両前後方向からみた状態を示す横断面図である。図29は、クランプ部材を図27にXXIXで示す仮想平面で切断し、切断面を矢印方向からみた断面図である。クランプ部材82は弾性素材からなるブロック83と、金属製のステー84を有する。
ブロック83は、図30に示す斜視図を参照して、略直方体であり、ブロック83の長手方向に間隔を空けて互いに平行に整列する3つの第1貫通孔85および第2貫通孔87と、ブロック83の長手方向両端面83e,83fおよび貫通孔が形成されていない外側面83gの三方向に亘って形成された幅広の溝89を有する。溝89の溝幅方向はブロック83の短手方向と同じであり、ブロック83の短手方向両側に1対の鍔部91,91が設けられる。
ブロック83には、外側面83gから各第1貫通孔85まで切断面95が形成される。ブロック83を弾性変形させて切断面95を広げることにより、動力線61を第1貫通孔85に通すことができる。第1貫通孔85は動力線61の外周を包囲する。同様にブロック83には、外側面83gから第2貫通孔87まで切り込む切断面97が形成される。ブロック83を弾性変形させて切断面97を広げることにより、信号線62を第2貫通孔87に通すことができる。第2貫通孔87は信号線62の外周を包囲する。切断面95,97はブロック83に設けられた切れ目であり、弾性変形しない自然状態で、切れ目の一方面と他方面は互いに接触する。
ステー84は、図28に示すように折曲形成された帯鋼であり、ブロック83の溝89に対応するようコの字状に延びる。そしてステー84の上端部84uはトレーリングアーム41の上面41uにボルト等の締結手段で取付固定され、ステー84の下端部84dはトレーリングアーム41の内側面41iにボルト64で取付固定される。
第3実施形態のクランプ部材82によれば、弾性素材からなるブロック83を含み、ブロックで動力線61および信号線62の外周を支持することから、ブロックの弾性変形によって動力線61および信号線62は若干の動きが可能になる。したがってトレーリングアーム41が枢軸42を中心として上下に揺動する際、クランプ部材82から動力線61および信号線62に作用する外力を軽減することができる。
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施
の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内に
おいて、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。