JP6301175B2 - 成形性と焼付け塗装硬化性とに優れたアルミニウム合金板 - Google Patents
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Description
先ず、本発明のAl−Mg−Si系(以下、6000系とも言う)アルミニウム合金板の化学成分組成について、以下に説明する。本発明が対象とする6000系アルミニウム合金板は、前記した自動車の外板用の板などとして、優れた成形性やBH性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性が要求されるので、組成の面からもこれらの要求を満たすようにする。その上で、本発明では、Snを含有させて、製造後の板の室温時効を抑制して、パネル成形時の0.2%耐力を110MPa以下に低くして、自動車のパネル構造体の、特に面歪が問題となるような自動車パネルなどへの成形性を向上させる。それとともに、焼付け塗装硬化後の0.2%耐力を195Mpa以上とすることを、組成の面から可能とする。
Siは、SiはMgとともに、塗装焼き付け処理などの人工時効処理時に、強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、自動車パネルとして必要な強度(耐力)を得るための必須の元素である。Si添加量が少なすぎると、人工時効後の析出量が少なくなりすぎ、焼付け塗装時の強度増加量が低くなりすぎてしまう。一方Si含有量が多すぎると、不純物のFeなどと粗大な晶出物を形成してしまい、曲げ加工性などの成形性を著しく低下させてしまう。また、Si含有量が多すぎると、板の製造直後の強度だけでなく、製造後の室温時効量も高くなり、成形前の強度が高くなりすぎて、自動車のパネル構造体の、特に面歪が問題となるような自動車パネルなどへの成形性が低下してしまう。したがって、Siの含有量は0.3〜2.0%の範囲とする。
Mgも、Siとともに本発明で規定する前記クラスタ形成の重要元素であり、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、Siとともに強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとしての必要耐力を得るための必須の元素である。Mg含有量が少なすぎると、人工時効後の析出量が少なくなりすぎ焼付け塗装後の強度が低くなりすぎてしまう。一方、Mg含有量が多くなりすぎると、不純物のFeなどと粗大な晶出物を形成してしまい、曲げ加工性などの成形性を著しく低下させてしまう。また、Mg含有量が高すぎると、板の製造直後の強度だけでなく、製造後の室温時効量も高くなり、成形前の強度が高くなりすぎて、自動車のパネル構造体の、特に面歪が問題となるような自動車パネルなどへの成形性が低下してしまう。したがって、Mgの含有量は0.2〜2.0%の範囲とする。
Snは、室温においては、原子空孔を捕獲(捕捉、トラップ)することで、室温でのMgやSiの拡散を抑制し、室温における強度増加を抑制し、板のパネルへの成形時に、ヘム加工性や絞り加工や張出加工などのプレス成形性(以下、このプレス成形性を代表してヘム加工性とも言う)を向上させる効果がある。そして、パネルの塗装焼き付け処理などの人工時効処理時には捕獲していた空孔を放出するため、逆にMgやSiの拡散を促進し、BH性を高くすることができる。Sn含有量が0.005%よりも少ないと、十分に空孔をトラップしきれずにその効果を発揮できない。一方、Sn含有量が0.3%よりも多いと、Snが粒界に偏析し、粒界割れの原因となりやすい。なお、Sn含有量の好ましい下限値は0.01%である。Sn含有量の好ましい上限値は0.2%、さらには0.1%、より好ましくは0.06%である。
以上のような組成とした上で、本発明では、6000系アルミニウム合金板の組織について、自動車パネルなどとしての高強度を保証するために、焼付け塗装硬化処理後において析出する析出物の量を保証する目安として、この板のDSCにおいて、焼付け塗装前の強度および焼付け塗装時の強度増加に特に関わる、特定の温度範囲における吸熱ピークおよび発熱ピークを制御する。言い換えると、Snを添加しても、強度に寄与するMg−Siクラスタの減少や、焼付け塗装硬化処理後において析出する析出物量が不足しないように、この板のDSCを用いて、焼付け塗装前の強度および焼付け塗装時の強度増加に特に関わる、特定の温度範囲における吸熱ピークおよび発熱ピークを制御する。
次ぎに、本発明アルミニウム合金板の製造方法について以下に説明する。本発明アルミニウム合金板は、製造工程自体は常法あるいは公知の方法であり、上記6000系成分組成のアルミニウム合金鋳塊を鋳造後に均質化熱処理し、熱間圧延、冷間圧延が施されて所定の板厚とされ、更に溶体化焼入れなどの調質処理が施されて製造される。
先ず、溶解、鋳造工程では、上記6000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。ここで、本発明で規定する、円相当直径が0.3μm以上の化合物の数密度とし、Snを含む化合物の個数(平均個数)の割合とするためには、鋳造時の平均冷却速度について、液相線温度から固相線温度までを30℃/分以上と、できるだけ大きく(速く)することが好ましい。
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立って、均質化熱処理を施す。この均質化熱処理(均熱処理)は、組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくすことを目的とする。この目的を達成する条件であれば、特に限定されるものではなく、通常の1回または1段の処理でも良い。
熱間圧延は、圧延する板厚に応じて、鋳塊 (スラブ) の粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とから構成される。これら粗圧延工程や仕上げ圧延工程では、リバース式あるいはタンデム式などの圧延機が適宜用いられる。
この熱延板の冷間圧延前の焼鈍 (荒鈍) は必ずしも必要ではないが、結晶粒の微細化や集合組織の適正化によって、成形性などの特性を更に向上させる為に実施しても良い。
冷間圧延では、上記熱延板を圧延して、所望の最終板厚の冷延板 (コイルも含む) に製作する。但し、結晶粒をより微細化させるためには、パス数に関わらず、合計の冷間圧延率は60%以上であることが望ましい。
冷間圧延後、溶体化処理と、これに続く、室温までの焼入れ処理を行う。この溶体化焼入れ処理については、通常の連続熱処理ラインによる加熱,冷却でよく、特に限定はされない。ただ、各元素の十分な固溶量を得ること、および前記した通り、結晶粒はより微細であることが望ましいことから、520℃以上、溶融温度以下の溶体化処理温度に、加熱速度5℃/秒以上で加熱して、0.1〜10秒保持する条件で行うことが望ましい。
このような溶体化処理後に焼入れ処理して室温まで冷却した後、1時間以内に冷延板を予備時効処理(再加熱処理)する。室温までの焼入れ処理終了後、予備時効処理開始(加熱開始)までの室温保持時間が長すぎると、室温時効により溶解しやすいクラスタとして、前記した強度に寄与しない小さなMg−Siクラスタが多く生成してしまい、150〜230℃の温度範囲の吸熱ピークのピーク高さを8μW/mg以下に抑制することが難しくなる。したがって、この室温保持時間は短いほど良く、溶体化および焼入れ処理と再加熱処理とが、時間差が殆ど無いように連続していても良く、下限の時間は特に設定しない。
前記供試板の板厚中央部の10箇所における組織の前記DSCを測定し、これら10箇所の平均値にて、この板のDSC(示差走査熱分析曲線)において、強度に寄与しないMg−Siクラスタの溶解に相当する吸熱ピークとして、150〜230℃の温度範囲の吸熱ピークのピーク高さ(W/mg)、強度に寄与するMg−Siクラスタの生成に相当する発熱ピークとして、240〜255℃の温度範囲の発熱ピークのピーク高さ(μW/mg)を各々求めた。
前記調質処理後30日間室温放置した後の各供試板の機械的特性として、0.2%耐力(As耐力)を引張試験により求めた。また、これらの各供試板を各々共通して、30日間の室温時効させた後に、170℃×20分の人工時効硬化処理した後(BH後)の、供試板の0.2%耐力(BH後耐力)を引張試験により求めた。そして、これら0.2%耐力同士の差(耐力の増加量)から各供試板のBH性を評価した。
ヘム加工性は、前記調質処理後30日間室温放置後の各供試板についてのみ行った。試験は、30mm幅の短冊状試験片を用い、ダウンフランジによる内曲げR1.0mmの90°曲げ加工後、1.0mm厚のインナを挟み、折り曲げ部を更に内側に、順に約130度に折り曲げるプリヘム加工、180度折り曲げて端部をインナに密着させるフラットヘム加工を行った。
0;割れ、肌荒れ無し、1;軽度の肌荒れ、2;深い肌荒れ、3;微小表面割れ、4;線状に連続した表面割れ
比較例26は表1の合金14であり、Siが多すぎる。
比較例276は表1の合金15であり、Snが少なすぎる。
比較例28は表1の合金16であり、Snが多すぎ、熱延時に割れが生じて板の製造ができなかった。
比較例29は表1の合金17であり、Feが多すぎる。
比較例30は表1の合金18であり、Mnが多すぎる。
比較例31は表1の合金19であり、CrおよびTiが多すぎる。
比較例32は表1の合金20であり、Cuが多すぎる。
比較例33は表1の合金21であり、Znが多すぎる。
比較例34は表1の合金22であり、ZrおよびVが多すぎる。
Claims (2)
- 質量%で、Mg:0.2〜2.0%、Si:0.3〜2.0%、Sn:0.005〜0.3%を各々含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、この板の示差走査熱分析曲線において、Mg−Siクラスタの溶解に相当する吸熱ピークとして、150〜230℃の温度範囲の吸熱ピークのピーク高さが8μW/mg以下(但し、0μW/mgを含む)である一方で、Mg−Siクラスタの生成に相当する発熱ピークとして、240〜255℃の温度範囲の発熱ピークのピーク高さが20μW/mg以上であることを特徴とする成形性と焼付け塗装硬化性とに優れたアルミニウム合金板。
但し、前記板の各測定箇所における示差熱分析においては、試験装置:セイコ−インスツルメンツ製DSC220G、標準物質:アルミ、試料容器:アルミ、昇温条件:15℃/min、雰囲気:アルゴン(50ml/min)、試料重量:24.5〜26.5mgの同一条件で各々行い、得られた示差熱分析のプロファイル(μW)を試料重量で割って規格化した(μW/mg)後に、前記示差熱分析プロファイルでの0〜100℃の区間において、示差熱分析のプロファイルが水平になる領域を0の基準レベルとし、この基準レベルからの発熱ピーク高さを測定する。 - 前記アルミニウム合金板が、更に、Fe:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Mn:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Zr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、V:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Ti:0.1%以下(但し、0%を含まず)、Cu:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Ag:0.2%以下(但し、0%を含まず)、Zn:1.0%以下(但し、0%を含まず)の1種または2種以上を含む請求項1に記載の成形性と焼付け塗装硬化性とに優れたアルミニウム合金板。
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