以下、本発明のブレーキ装置を実現する形態を、図面に示す実施例に基づき説明する。
[実施例1]
[構成]
まず、構成を説明する。図1は、実施例1のブレーキ装置1(以下、単に装置1という。)の概略構成を示す。装置1は、車輪を駆動する原動機として、エンジンのほかモータジェネレータを備えたハイブリッド車や、モータジェネレータのみを備えた電気自動車等の、電動車両のブレーキシステムに好適な液圧式ブレーキ装置である。なお、エンジンのみを駆動力源とする車両に装置1を適用してもよい。装置1は、車両の各車輪FL〜RRに設けられたホイルシリンダ8にブレーキ液を供給してブレーキ液圧(ホイルシリンダ液圧Pw)を発生させることで、各車輪FL〜RRに液圧制動力を付与する。装置1は2系統すなわちP(プライマリ)系統及びS(セカンダリ)系統のブレーキ配管を有している。以下、P系統に対応して設けられた部材とS系統に対応する部材とを区別する場合は、それぞれの符号の末尾に添字P,Sを付す。
ブレーキペダル2は、運転者(ドライバ)のブレーキ操作の入力を受けるブレーキ操作部材である。ブレーキペダル2の根元側にはプッシュロッド2aの一端が回転自在に接続されている。ストロークセンサ90は、ブレーキペダル2の変位量(ペダルストロークSp)を検出する。なお、プッシュロッド2aや後述するプライマリピストン52Pにストロークセンサ90を設けてもよい。マスタシリンダ5は、プッシュロッド2aを介してブレーキペダル2に接続されると共に、リザーバタンク4からブレーキ液を補給される。マスタシリンダ5は、運転者によるブレーキペダル2の操作(ブレーキ操作)により作動して、ブレーキ液圧(マスタシリンダ液圧Pm)を発生する。なお、本実施例の装置1は、車両のエンジンが発生する吸気負圧を利用してブレーキ操作力(ブレーキペダル2の踏力Fp)を倍力ないし増幅する負圧式の倍力装置を備えていない。
マスタシリンダ5は、タンデム型であり、ブレーキ操作に応じて軸方向に移動するマスタシリンダピストン52として、プッシュロッド2aに接続されるプライマリピストン52Pと、フリーピストン型のセカンダリピストン52Sとを備えている。各ピストン52は、有底筒状のシリンダ50に、その内周面に沿って軸方向移動可能に設置されている。両ピストン52P,52Sの間にプライマリ液圧室51Pが画成され、ピストン52Sとシリンダ50の軸方向端部との間にセカンダリ液圧室51Sが画成されている。シリンダ50は、吐出ポート(供給ポート)501と補給ポート502とをP,S系統毎に備えている。吐出ポート501は、液圧室51に常時開口すると共に、液圧制御ユニット6を介してホイルシリンダ8と連通可能に設けられている。補給ポート502は、リザーバタンク4に接続すると共に、液圧室51に向けてブレーキ液を供給可能に設けられている。各液圧室51には、戻しばねとしてのコイルスプリング53が設置されている。液圧室51は、運転者によるブレーキペダル2の踏込み操作によってピストン52がストロークすると容積が縮小し、液圧(マスタシリンダ液圧Pm)を発生する。これにより、液圧室51から吐出ポート501を介してホイルシリンダ8に向けてブレーキ液が供給される。なお、両液圧室51P,51Sには略同じ液圧が発生する。すなわち、マスタシリンダ5は、ホイルシリンダ液圧Pwを加圧可能な第1の液圧源である。マスタシリンダ5は、プライマリ液圧室51Pに発生した液圧PmによりP系統の油路(第1油路11P)を介してホイルシリンダ8a,8dを加圧可能であると共に、セカンダリ液圧室51Sに発生した液圧PmによりS系統の油路(第1油路11S)を介してホイルシリンダ8b,8cを加圧可能である。すなわち、本実施例の装置1はX配管形式を採用している。なお、前後配管等、他の配管形式を採用してもよい。また、各系統を構成するホイルシリンダ8の振り分け方は任意である。
装置1は、液圧制御ユニット6と電子制御ユニット3を備えている。液圧制御ユニット6は、リザーバタンク4又はマスタシリンダ5からブレーキ液の供給を受け、運転者によるブレーキ操作とは独立にブレーキ液圧を発生可能な制動制御ユニットである。電子制御ユニット3(以下、ECU3という)は、液圧制御ユニット6の作動を制御するコントロールユニットである。液圧制御ユニット6は、ホイルシリンダ8とマスタシリンダ5との間に設けられており、各ホイルシリンダ8にマスタシリンダ液圧Pm又は制御液圧を個別に供給可能である。液圧制御ユニット6は、制御液圧を発生するための液圧機器として、ポンプ7及び複数の制御弁(電磁弁21等)を有している。ポンプ7は、リザーバタンク4からブレーキ液を吸入し、ホイルシリンダ8に向けて吐出する。ポンプ7として、本実施例では、音振性能等で優れたギヤポンプ、具体的には外接歯車式のポンプユニットを用いる。尚、ポンプ7は、ギヤポンプに限らず、プランジャポンプ等を用いることもできる。ポンプ7は両系統で共通に用いられ、同一のモータ7a(アクチュエータ)により回転駆動される。モータ7aとして、例えばブラシ付きモータを用いることができる。
電磁弁21等は、ソレノイド34(図2参照)と弁部を有するソレノイドバルブである。ソレノイド34は、コイルへの通電により発生する磁力を用いてプランジャを駆動するアクチュエータである。弁部は、ソレノイド34(プランジャ)により駆動され開閉動作する弁体を備えている。電磁弁21等は、制御信号に応じて弁体を開閉動作させることで、油路11等の連通状態を切り替え、これによりブレーキ液の流れを制御する。液圧制御ユニット6は、マスタシリンダ5とホイルシリンダ8との連通を遮断した状態で、ポンプ7が発生する液圧によりホイルシリンダ8を加圧可能に設けられている。液圧制御ユニット6は、ストロークシミュレータ22を備えている。ストロークシミュレータ22は、運転者のブレーキ操作に応じて作動し、マスタシリンダ5からブレーキ液が流入することでペダルストロークSpやペダル反力を発生させる。また、液圧制御ユニット6は、ポンプ7の吐出圧やマスタシリンダ液圧Pm等、各所の液圧を検出する液圧センサ91〜93を備えている。
ECU3には、ペダルストロークセンサ90及び液圧センサ91〜93から送られる検出値、並びに車両側から送られる走行状態に関する情報が入力される。ECU3は、これら各種情報に基づき、内蔵されるプログラムに従って情報処理を行う。また、この処理結果に従って液圧制御ユニット6の各アクチュエータに制御指令を出力し、これらを制御する。具体的には、電磁弁21等の開閉動作や、モータ7aの回転数(すなわちポンプ7の吐出量)を制御する。これにより各車輪FL〜RRのホイルシリンダ液圧Pwを制御することで、各種ブレーキ制御を実現する。例えば、運転者のブレーキ操作量に応じたホイルシリンダ液圧(液圧制動力)をポンプ7により発生させて運転者のブレーキ操作力を補助ないし倍力する倍力制御や、制動による車輪FL〜RRのスリップ(ロック傾向)を抑制するためのアンチロックブレーキ制御(以下、ABS制御という。)や、車両の運動制御(横滑り防止等の車両挙動安定化制御。以下、ESCという。)のためのブレーキ制御等を実現する。
以下、液圧制御ユニット6のブレーキ液圧回路を図1に基づき説明する。各車輪FL〜RRに対応する部材には、その符号の末尾にそれぞれ添字a〜dを付して適宜区別する。第1油路11は、マスタシリンダ5の吐出ポート501(液圧室51)とホイルシリンダ8とを接続する。カット弁(遮断弁)21は、第1油路11に設けられた常開型の(非通電状態で開弁する)電磁弁である。第1油路11は、カット弁21によって、マスタシリンダ5側の油路11Aとホイルシリンダ8側の油路11Bとに分離される。ソレノイドイン弁(増圧弁)SOL/V IN25は、第1油路11におけるカット弁21よりもホイルシリンダ8側(油路11B)に、各車輪FL〜RRに対応して(油路11a〜11dに)設けられた常開型の電磁弁である。なお、SOL/V IN25をバイパスして第1油路11と並列にバイパス油路110が設けられている。バイパス油路110には、ホイルシリンダ8側からマスタシリンダ5側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁250が設けられている。
吸入油路15は、リザーバタンク4とポンプ7の吸入部70とを接続する。吐出油路16は、ポンプ7の吐出部71と、第1油路11(油路11B)におけるカット弁21とSOL/V IN25との間とを接続する。チェック弁160は、吐出油路16に設けられ、吐出部71の側(上流側)から第1油路11の側(下流側)へのブレーキ液の流れのみを許容する。吐出油路16は、チェック弁160の下流側でP系統の吐出油路16PとS系統の吐出油路16Sとに分岐している。各油路16P,16SはそれぞれP系統の第1油路11PとS系統の第1油路11Sに接続している。吐出油路16P,16Sは、第1油路11P,11Sを互いに接続する連通路を構成している。連通弁26Pは、吐出油路16Pに設けられた常閉型の(非通電状態で閉弁する)電磁弁である。連通弁26Sは、吐出油路16Sに設けられた常閉型の電磁弁である。ポンプ7は、リザーバタンク4から供給されたブレーキ液により第1油路11に液圧を発生可能な第2の液圧源である。ポンプ7は、上記連通路(吐出油路16P,16S)及び第1油路11P,11Sを介してホイルシリンダ8a〜8dと接続しており、上記連通路(吐出油路16P,16S)にブレーキ液を吐出することでホイルシリンダ液圧Pwを加圧可能である。
第1減圧油路17は、吐出油路16におけるチェック弁160と連通弁26との間と吸入油路15とを接続する。調圧弁27は、第1減圧油路17に設けられた常開型の電磁弁である。なお、調圧弁27は常閉型でもよい。第2減圧油路18は、第1油路11(油路11B)におけるSOL/V IN25よりもホイルシリンダ8側と吸入油路15とを接続する。ソレノイドアウト弁(減圧弁)SOL/V OUT28は、第2減圧油路18に設けられた常閉型の電磁弁である。
ストロークシミュレータ22は、ピストン220とスプリング221を有している。ピストン220は、ストロークシミュレータ22のシリンダ22a内を2室(正圧室R1と背圧室R2)に分離(液密に画成)する隔壁であり、シリンダ22a内を軸方向に移動可能に設けられている。スプリング221は、背圧室R2内に設置されたコイルスプリングであり、ピストン220を正圧室R1の側に常時付勢する。スプリング221は、ピストン220の変位量(ストローク量)に応じて反力を発生可能に設けられている。第2油路12は、第1油路11Pにおけるマスタシリンダ5の吐出ポート501P(プライマリ液圧室51P)とカット弁21Pとの間(油路11A)から分岐して、ストロークシミュレータ22の正圧室R1に接続する。第3油路13は、ストロークシミュレータ22の背圧室R2と第1油路11とを接続する。具体的には、第3油路13は、第1油路11P(油路11B)におけるカット弁21PとSOL/V IN25との間から分岐して背圧室R2に接続する。チェック弁230は、第3油路13に設けられ、背圧室R2側から第1油路11側へ向うブレーキ液の流れを許容し、逆方向へのブレーキ液の流れを抑制する。第3油路13は、チェック弁230によって、背圧室R2側の油路13Aと第1油路11側の油路13Bとに分離される。
第4油路14は、ストロークシミュレータ22の背圧室R2とリザーバタンク4とを接続する。具体的には、第4油路14は、第3油路13における背圧室R2とSS/V IN23との間(油路13A)と、吸入油路15(ないし、調圧弁27よりも吸入油路15側の第1減圧油路17や、SOL/V OUT28よりも吸入油路15側の第2減圧油路18)とを接続する。ストロークシミュレータアウト弁SS/V OUT24は、第4油路14に設けられた常閉型の電磁弁である。第4油路14には、SS/V OUT24と直列であってSS/V OUT24よりもリザーバタンク4(吸入油路15)側に、絞り(オリフィス)24Aが設けられている。また、絞り24AとSS/V OUT24をバイパスして、第4油路14と並列にバイパス油路140が設けられている。バイパス油路140には、リザーバタンク4(吸入油路15)側から第3油路13(油路13A)側すなわち背圧室R2側へ向うブレーキ液の流れを許容し、逆方向へのブレーキ液の流れを抑制するチェック弁240が設けられている。絞り24Aの流路抵抗は、開弁した状態におけるチェック弁230の流路抵抗よりも大きく設定されている(絞り24Aのほうがチェック弁230よりも絞り量が大きく設定されている)。
カット弁21、SOL/V IN25、及び調圧弁27は、ソレノイド34に供給される電流に応じて弁の開度が調整される比例制御弁である。他の弁、すなわちSS/V OUT24、連通弁26、及びSOL/V OUT28は、弁の開閉が二値的に切り替え制御される2位置弁(オン・オフ弁)である。なお、上記他の弁に比例制御弁を用いることも可能である。第1油路11Pにおけるカット弁21Pとマスタシリンダ5との間(油路11A)には、この箇所の液圧(マスタシリンダ液圧Pm)を検出する液圧センサ91が設けられている。なお、第2油路12やS系統の油路11Aに液圧センサ91を設けることとしてもよい。第1油路11におけるカット弁21とSOL/V IN25との間には、この箇所の液圧(P系統圧、S系統圧、ないしホイルシリンダ液圧Pw)を検出する液圧センサ92が設けられている。吐出油路16におけるポンプ7の吐出部71(チェック弁160)と連通弁26との間には、この箇所の液圧(ポンプ吐出圧)を検出する液圧センサ93が設けられている。
液圧制御ユニット6は、第1ユニット61と第2ユニット62からなる。第1ユニット61は、ポンプ7とモータ7aを備えるポンプモータユニットである。第2ユニット62は、各弁21等を収容するバルブユニットである。これらのユニット61,62は互いに配管を介して接続されている。第2ユニット62は、ストロークシミュレータ22及び各センサ90〜93を備えるほか、マスタシリンダ5が一体に設けられている。また、第2ユニット62には、リザーバタンク4が一体的に設置されている。ECU3は、これらのユニット61,62を制御する。なお、液圧制御ユニット6の各アクチュエータやセンサ等をどのようにユニット化するかは任意である。吸入油路15上には、所定容積の液溜まり15Aが設けられている。液溜まり15Aは、液圧制御ユニット6(第1ユニット63)の内部のリザーバである。ポンプ7は、リザーバタンク4から液溜まり15Aを介してブレーキ液を吸入する。第1,第2減圧油路17,18や第4油路14は液溜まり15Aに接続する。第1,第2減圧油路17,18や第4油路14のブレーキ液は、液溜まり15Aを介してリザーバタンク4へ戻される。
カット弁21が開弁方向に制御された状態で、マスタシリンダ5の液圧室51とホイルシリンダ8とを接続するブレーキ系統(第1油路11)は、第1の系統を構成する。この第1の系統は、踏力Fpを用いて発生させたマスタシリンダ液圧Pmによりホイルシリンダ液圧Pwを創生し、踏力ブレーキ(非倍力制御)を実現する。一方、カット弁21が閉弁方向に制御された状態で、ポンプ7を含み、リザーバタンク4(液溜まり15A)とホイルシリンダ8を接続するブレーキ系統(吸入油路15、吐出油路16等)は、第2の系統を構成する。この第2の系統は、ポンプ7を用いて発生させた液圧によりホイルシリンダ液圧Pwを創生する、所謂ブレーキバイワイヤ装置を構成し、ブレーキバイワイヤ制御としての倍力制御等を実現する。
ECU3は、ブレーキ操作状態検出部3aと、目標ホイルシリンダ液圧算出部3bと、踏力ブレーキ創生部3cと、ホイルシリンダ液圧制御部3dと、フェールセーフ制御部3eとを備えている。ブレーキ操作状態検出部3aは、ストロークセンサ90の検出値の入力を受けて、運転者によるブレーキ操作量としてのペダルストロークSpを検出する。なお、踏力Fpを検出する踏力センサを設け、その検出値に基づきブレーキ操作量を検出又は推定することとしてもよい。また、液圧センサ91の検出値に基づきブレーキ操作量を検出又は推定することとしてもよい。すなわち、制御に用いるブレーキ操作量として、Spに限らず、他の適当な変数を用いてもよい。
目標ホイルシリンダ液圧算出部3bは、目標ホイルシリンダ液圧Pw*を算出する。例えば、倍力制御時には、検出されたSp(ブレーキ操作量)に基づき、所定の倍力比に応じてSpと運転者の要求ブレーキ液圧(運転者が要求する車両減速度)との間の理想の関係特性を実現するPw*を算出する。本実施例では、例えば、通常サイズの負圧式倍力装置を備えたブレーキ装置において、負圧式倍力装置の作動時に実現されるSpとPw(制動力)との間の所定の関係特性を、Pw*を算出するための上記理想の関係特性とする。また、ABS制御時には、各車輪FL〜RRのスリップ量(擬似車体速に対する当該車輪の速度の乖離量)が適切なものとなるよう、各車輪FL〜RRのPw*を算出する。ESC時には、例えば検出された車両運動状態量(横加速度等)に基づき、所望の車両運動状態を実現するよう、各車輪FL〜RRのPw*を算出する。
踏力ブレーキ創生部3cは、カット弁21を開弁方向に制御する(非作動とする)ことで、液圧制御ユニット6の状態を、マスタシリンダ液圧Pm(第1の系統)によりホイルシリンダ液圧Pwを創生可能な状態とし、踏力ブレーキを実現する。このとき、SS/V OUT24を閉弁方向に制御する(非作動とする)ことで、運転者のブレーキ操作に対してストロークシミュレータ22を非作動とする。
ホイルシリンダ液圧制御部3dは、カット弁21を閉弁方向に制御することで、液圧制御ユニット6の状態を、ポンプ7(第2の系統)によりホイルシリンダ液圧Pwを加圧制御可能な状態とする。この状態で、液圧制御ユニット6の各アクチュエータを制御してPw*を実現するホイルシリンダ液圧制御(例えば倍力制御)を実行する。具体的には、カット弁21を閉弁方向に制御し、連通弁26を開弁方向に制御し、調圧弁27を閉弁方向に制御すると共に、ポンプ7を作動させる。このように制御することで、所望のブレーキ液をリザーバタンク4から、吸入油路15、ポンプ7、吐出油路16、及び第1油路11を経由してホイルシリンダ8に送ることが可能である。連通弁26を開弁方向に制御し、ポンプ7の吐出側を第1油路11と連通させることで、ポンプ7が吐出するブレーキ液をホイルシリンダ8へ供給することが可能となる。このとき、液圧センサ92,93の検出値がPw*に近づくようにポンプ7の回転数や調圧弁27の開弁状態(開度等)をフィードバック制御することで、所望の制動力を得ることができる。すなわち、調圧弁27の開弁状態を制御し、吐出油路16ないし第1油路11から調圧弁27を介して吸入油路15へ余剰分のブレーキ液を適宜漏らすことで、Pwを調節することができる。本実施例では、基本的に、ポンプ7(モータ7a)の回転数ではなく調圧弁27の開弁状態を変化させることによりPwを制御する。例えば、モータ7aの回転数の指令値Nm*を、Pwの増圧中に所定の大きな一定値に設定するほかは、Pwの保持又は減圧中、必要最低限のポンプ吐出圧を発生(ポンプ吐出量を供給)するための所定の小さな一定値に保持する。本実施例では、調圧弁27を比例制御弁としているため、細かい制御が可能となり、Pwの滑らかな制御が実現可能となっている。カット弁21を閉弁方向に制御し、マスタシリンダ5側とホイルシリンダ8側とを遮断することで、運転者のブレーキ操作から独立してPwを制御することが容易となる。
ブレーキバイワイヤ制御時、運転者がブレーキ操作を行う(ブレーキペダル2を踏込み又は踏み戻す)と、ストロークシミュレータ22は、マスタシリンダ5からのブレーキ液を吸排することでペダルストロークSpを発生させる。SS/V OUT24が開弁方向に制御され背圧室R2とリザーバタンク4とが連通した状態では、背圧室R2から第4油路14を介してリザーバタンク4へブレーキ液が排出される。Spの増大(ピストン220のストローク量の増大)は、スプリング221の圧縮量を増大させ、これはペダル反力の増大として運転者のペダルフィールに反映される。このように、ストロークシミュレータ22は、マスタシリンダ5からのブレーキ液を吸入すると共に、ペダル反力を発生させることで、ホイルシリンダ8の液剛性を模擬して適切なペダル踏込み感を再現する。
ホイルシリンダ液圧制御部3cは、倍力制御部3fを有している。倍力制御部3fは、運転者のブレーキ操作量に応じた制動力を前後車輪FL〜RRに発生させる通常ブレーキ時に、倍力制御を行う。この倍力制御では、各車輪FL〜RRのSOL/V IN25を開弁方向に制御し(非作動とし)、SOL/V OUT28を閉弁方向に制御する(非作動とする)。カット弁21P,21Sを閉弁方向に制御した状態で、調圧弁27を閉弁方向に制御(開度等をフィードバック制御)し、連通弁26を開弁方向に制御し、モータ7aの回転数指令値Nm*を所定の一定値に設定してポンプ7を作動させる。また、SS/V OUT24を開弁方向に制御する。すなわち、図1において二点鎖線で囲ったように、カット弁21P,21S、SS/V OUT24、連通弁26、及び調圧弁27は、倍力制御時に通電されることで作動する、倍力制御用の(倍力制御の機能を実現する)電磁弁のグループである。以下、これらの電磁弁のソレノイド34を倍力系ソレノイド34Bという。
なお、第3油路13における油路13B(第1油路11)側の液圧(ホイルシリンダ液圧Pw)が、油路13A(ストロークシミュレータ22の背圧室R2)側の液圧(マスタシリンダ液圧Pmに相当)よりも低い間は、チェック弁230が開弁することで、油路13A側から油路13B側へブレーキ液が流出する。すなわち、背圧室R2からホイルシリンダ8へ向けてブレーキ液が供給される。油路13B側の液圧Pwが油路13A側の液圧以上になれば、チェック弁230が閉弁することで、背圧室R2へブレーキ液が逆流することが抑制される。このようにして補助増圧制御が自動的に実行・終了される。補助増圧制御は、運転者によるブレーキペダル2の踏込み操作(ペダルストロークSpの増大)に応じて各車輪FL〜RRのPwを上昇させる(ポンプ7によるホイルシリンダ増圧制御が行われる)際、運転者のブレーキ操作に伴い背圧室R2から流出するブレーキ液をホイルシリンダ8に供給することで、ポンプ7によるPwの発生を補助し、ホイルシリンダ8の増圧応答性を向上するための制御である。
ホイルシリンダ液圧制御部3dは、ABS制御部3gを有している。ABS制御部3gは、車両情報として各車輪FL〜RRの回転速度を取り込み、車輪FL〜RRのスリップ状態を検出・監視する。車輪FL〜RRに制動力を発生中(例えば運転者によるブレーキ操作中)、ある車輪のロック傾向を検出したとき、すなわちその車輪のスリップ量が過大となったと判断したとき、ブレーキ操作に伴う液圧制御(倍力制御)に介入する。カット弁21を閉弁方向に制御し、連通弁26を開弁方向に制御し、調圧弁27を閉弁方向に制御すると共に、ポンプ7を作動させた状態のまま、スリップ量が過大となった車輪のホイルシリンダ8の液圧の増減圧制御を行う。これにより、この車輪のスリップ量が適切な所定値となるようにする。具体的には、制御対象となるホイルシリンダ8の液圧指令が増圧方向であれば、当該ホイルシリンダ8に対応するSOL/V IN25を開弁方向に制御し、SOL/V OUT28を閉弁方向に制御し、当該ホイルシリンダ8にブレーキ液を導くことで、当該ホイルシリンダ8を増圧する。ホイルシリンダ8の液圧指令が減圧方向であれば、当該ホイルシリンダ8に対応するSOL/V IN25を閉弁方向に制御し、SOL/V OUT28を開弁方向に制御し、当該ホイルシリンダ8のブレーキ液を吸入油路15に導くことで、当該ホイルシリンダ8を減圧する。ホイルシリンダ8の液圧指令が保持であれば、当該ホイルシリンダ8に対応するSOL/V OUT28及びSOL/V IN25を閉弁方向に制御することで、当該ホイルシリンダ8の液圧を保持する。すなわち、図1において一点鎖線で囲ったように、SOL/V IN25及びSOL/V OUT28は、ABS制御時に通電されることで作動する、ABS制御用の(ABS制御の機能を実現する)電磁弁のグループである。以下、これらの電磁弁のソレノイド34をABS系ソレノイド34Aという。
図2は、ECU3に設けられた電磁弁21等の駆動回路30の概略構成を示す。駆動回路30は、電源線31と、リレー32と、リレー駆動回路33と、ソレノイド34と、ソレノイド駆動回路とを有している。ECU3(駆動回路30)はハーネス100を介して電源10に接続されている。電源線31は、駆動回路30に設けられると共に、コネクタ300を介してハーネス100(電源10)に接続されている。リレー32は、コイルへの通電により発生する磁力を用いて電源線31上のメカニカルスイッチを駆動するメカニカルリレーであり、電源線31を開閉する。リレー32には、配線を介してリレー駆動回路33が接続されている。リレー駆動回路33は、ECU3における図外のマイコンから指令信号(リレー32の制御信号)を受け、コイルへの通電によりリレー32を駆動するための電気信号を出力する。
ソレノイド34は駆動回路30に設けられている。各ソレノイド34(のコイル)は電源線31を介して電源10に接続されており、電源10から電力の供給を受けることが可能に設けられている。リレー32は、制御信号に応じて上記スイッチを開閉動作させることで電磁弁21等(ソレノイド34)への電力の供給・遮断を切替え可能に設けられた、フェールセーフ用リレーである。リレー32は上記スイッチを閉じることでソレノイド34へ電力を供給し、上記スイッチを開けることでソレノイド34への電力供給を遮断する。ソレノイド34には、配線を介して図外のソレノイド駆動回路が接続されている。ソレノイド駆動回路は、ECU3における図外のマイコン(ホイルシリンダ液圧制御部3d)から指令信号(電磁弁21等の制御信号)を入力され、コイルへの通電によりソレノイド34を駆動するための電気信号を出力する。
駆動回路30は、ABS制御用の電磁弁25等(ABS系ソレノイド34A)を駆動するための回路30Aと、倍力制御用の電磁弁21等(倍力系ソレノイド34B)を駆動するための回路30Bとを有している。すなわち駆動回路30(リレー32及びリレー駆動回路33)は、ABS制御用の電磁弁25等のグループ(ABS系ソレノイド34A)と、倍力制御用の電磁弁21等のグループ(倍力系ソレノイド34B)とに対応して、各別に設けられている。ABS系ソレノイド34Aは、駆動回路30A(のソレノイド駆動回路)を介して、ABS制御部3gにより作動を制御される。言換えると、駆動回路30Aは、ABS制御経路である。倍力系ソレノイド34Bは、駆動回路30B(のソレノイド駆動回路)を介して、倍力制御部3fにより作動を制御される。言換えると、駆動回路30Bは、倍力制御経路である。また、電源10も、ABS制御用の電磁弁25等のグループ(ABS系ソレノイド34A)と、倍力制御用の電磁弁21等のグループ(倍力系ソレノイド34B)とに対応して、各別に設けられている。電源10Aは、ABS制御経路用の電源部であり、ハーネス100A及びコネクタ300Aを介して駆動回路30Aに接続されている。電源10Bは、倍力制御経路用の電源部であり、ハーネス100B及びコネクタ300Bを介して駆動回路30Bに接続されている。
ECU3のフェールセーフ制御部3eは、電磁弁21等の機能が失陥しているか否かを診断すると共に、失陥が生じていると診断した場合、その失陥の態様に応じたフェールセーフ制御を行う。図3は、フェールセーフ制御部3eが行う制御処理の流れを示すフローチャートである。この処理は、例えば装置1の起動時(イグニションオン等によるシステム起動時)に実行される。ステップS1では、倍力系ソレノイド34Bが正常であるか否かを判定する。倍力系ソレノイド34Bが全て正常であると判定すればステップS2へ進み、倍力系ソレノイド34Bの少なくとも一部が異常であると判定すればステップS5へ進む。なお、ここで倍力系ソレノイド34Bの異常とは、倍力制御用の電磁弁21等の機能失陥を意味しており、倍力系ソレノイド34Bのコイルの短絡や断線等によるものほか、倍力系ソレノイド34Bのソレノイド駆動回路の異常によるものが含まれるものとする。ステップS2では、ABS系ソレノイド34Aが正常であるか否かを判定する。ABS系ソレノイド34Aが全て正常であると判定すればステップS3へ進み、ABS系ソレノイド34Aの少なくとも一部が異常であると判定すればステップS4へ進む。なお、ここでABS系ソレノイド34Aの異常とは、ABS制御用の電磁弁25等の機能失陥を意味しており、ABS系ソレノイド34Aのコイルの短絡や断線等によるものほか、ABS系ソレノイド34Aのソレノイド駆動回路の異常によるものが含まれるものとする。
ステップS3では、電源線31Aを介してABS系ソレノイド34Aへ電力を供給することで、ABS制御を許可する。また、電源線31Bを介して倍力系ソレノイド34Bへ電力を供給することで、倍力制御を許可する。その後、本制御フローを終了する。ステップS4では、リレー32AによりABS系ソレノイド34Aへの電力供給を遮断することで、ABS制御を禁止する。また、電源線31Bを介して倍力系ソレノイド34Bへ電力を供給することで、倍力制御を許可する。その後、本制御フローを終了する。ステップS5では、リレー32AによりABS系ソレノイド34Aへの電力供給を遮断することで、ABS制御を禁止する。また、リレー32Bにより倍力系ソレノイド34Bへの電力供給を遮断することで、倍力制御を禁止する。その後、本制御フローを終了する。
[作用]
次に、作用を説明する。フェールセーフ制御部3eは、倍力系ソレノイド34Bが異常であると判定すれば、倍力制御を禁止し、踏力ブレーキへ移行する(図3のステップS1→S5)。これにより、装置1の信頼性と安全性の向上を図ることができる。倍力系ソレノイド34Bが正常であり、ABS系ソレノイド34Aが異常であると判定すれば、ABS制御を禁止する(ステップS1→S2→S4)。これにより、装置1の信頼性と安全性の向上を図ることができる。また、倍力制御を許可する(ステップS1→S2→S4)。これにより、倍力制御が正常に機能できる状態が維持される。すなわち、ストロークシミュレータ22を作動させてペダルフィールを発生させつつ、ポンプ7を用いてブレーキ操作量に応じたホイルシリンダ液圧Pwを各車輪FL〜RRに発生させることができる。ABS系ソレノイド34A及び倍力系ソレノイド34Bが正常であると判定すれば、ABS制御及び倍力制御を許可する(ステップS1→S2→S3)。よって、装置1は、その機能を正常に動作させることができる。
すなわち、いずれかの電磁弁の機能が失陥した場合に、全ての電磁弁への電源供給を一律に遮断し、全ての電磁弁の機能を停止するようにすると、ブレーキ制御の機能を全て停止しなければならなくなる。特に、本実施例の装置1のように、負圧式の倍力装置を備えておらず、液圧制御ユニット6を用いた倍力制御により通常ブレーキ時の制動力を実現する構成にあっては、倍力制御とは関係のない(例えばABS制御用の)電磁弁25等の機能が失陥したときにも、倍力制御用の電磁弁21等への電源供給を遮断して倍力制御を停止してしまえば、通常ブレーキを担う基本的な機能を不必要に停止してしまうこととなる。これに対し、本実施例の装置1における電磁弁21等の駆動回路30は、電磁弁21等を、それらが用いられるブレーキ制御の所定の機能毎にグループ化し、電磁弁21等への電源供給を上記グループ毎に遮断することが可能なように設けた。よって、電磁弁21等のいずれかにおいてその機能が失陥した場合に、グループ毎に電源供給を遮断することで、ブレーキ制御の機能を段階的に停止可能である(段階的な機能デグラデーションを実現可能である)。このため、ブレーキ制御の不要な停止を抑制することができる。
具体的には、リレー32は、電磁弁21等の各グループに対してそれぞれ設けられている。よって、ある電磁弁21等の機能が失陥した場合、その電磁弁が属するグループへの電源供給を当該グループのリレー32によって遮断することで、フェールセーフを実現できる。一方、正常な他のグループの電磁弁21等への電源供給を継続することで、当該他のグループの電磁弁が担うブレーキ制御の機能を継続して実現できる。例えば、ABS制御用のいずれかの電磁弁25等の機能が失陥したときは、ABS制御用の電磁弁25等のグループへの電源供給を遮断してABS制御を禁止する一方、正常な倍力制御用の電磁弁21等のグループへの電源供給を継続することで、倍力制御を継続することができる。よって、通常ブレーキを担う基本的な機能が不必要に停止されてしまうことがない。
駆動回路30は、電磁弁21等の各グループに対してそれぞれ設けられている。よって、駆動回路30に流れる電流が上記グループ間で分散されるため、各グループのハーネス100やコネクタ300の端子やリレー32の電流容量(許容電流)を最適に設計できる。したがって、ハーネス100の線径を細くしたり、コネクタ300やリレー32を小型化したりすることができるため、コスト削減や部品サイズの小型化を図ることができる。なお、各電磁弁21等に電力を供給する電源10は1つでもよい。本実施例では、電源10は、電磁弁21等の各グループに対してそれぞれ設けられている。よって、ある電源10が失陥した場合でも、正常な他の電源10が属するグループの電磁弁21等への電源供給を継続することで、当該他のグループの電磁弁21等が担うブレーキ制御の機能を継続して実現可能である。なお、倍力系ソレノイド34Bが異常と判断されたとき、ABS制御を禁止するのではなく許可することとしてもよい。本実施例では、倍力系ソレノイド34Bが異常と判断されたとき、倍力制御だけでなくABS制御も禁止することとしている(図3のステップS1→S5)。これは、基本的な機能(倍力制御)が失陥したときに、付加価値的な機能(ABS制御)を実行可能とする必要性は少ないとの考えに基づく。
[実施例2]
図4は、実施例2の装置1の概略構成を示す、図1と同様の図である。本実施例の装置1は、倍力制御用の電磁弁21等のグループを更に細かく分類(サブグループ化)し、これらのグループ毎の失陥に応じたフェールセーフ制御を行う。倍力制御用の電磁弁21等のグループのうち、図4において太い二点鎖線で囲った、カット弁21P及び連通弁26Pは、倍力制御時にP系統のホイルシリンダ8a,8dへポンプ7からブレーキ液を供給する際、通電されることで作動する。調圧弁27は、倍力制御時に吐出油路16から余剰のブレーキ液を漏らしてホイルシリンダ液圧Pwを制御する際、通電されることで作動する。SS/V OUT24は、倍力制御時にストロークシミュレータ22を作動させてペダルフィールを発生する際、通電されることで作動する。以下、これらの電磁弁21P等のソレノイド34をプライマリ倍力系ソレノイド34Bという。倍力制御用の電磁弁21等のグループのうち、図4において細い二点鎖線で囲った、カット弁21S及び連通弁26Sは、倍力制御時にS系統のホイルシリンダ8b,8cへポンプ7からブレーキ液を供給する際、通電されることで作動する。以下、これらの電磁弁21S,26Sのソレノイド34をセカンダリ倍力系ソレノイド34Cという。
図5は、本実施例の電磁弁21等の駆動回路30の概略構成を示す。駆動回路30は、ABS系ソレノイド34Aを駆動するための回路30Aと、プライマリ倍力系ソレノイド34Bを駆動するための回路30Bと、セカンダリ倍力系ソレノイド34Cを駆動するための回路30Cとを有している。すなわち倍力制御用の電磁弁21等の駆動回路30(リレー32及びリレー駆動回路33)は、P系統の電磁弁21P等のグループ(プライマリ倍力系ソレノイド34B)と、S系統の電磁弁21S等のグループ(セカンダリ倍力系ソレノイド34C)とに対応して、各別に設けられている。プライマリ倍力系ソレノイド34Bは、駆動回路30B(のソレノイド駆動回路)を介して、倍力制御部3fにより作動を制御される。言換えると、駆動回路30Bは、プライマリ倍力制御経路である。セカンダリ倍力系ソレノイド34Cは、駆動回路30C(のソレノイド駆動回路)を介して、倍力制御部3fにより作動を制御される。言換えると、駆動回路30Cは、セカンダリ倍力制御経路である。また、電源10も、ABS系ソレノイド34Aと、プライマリ倍力系ソレノイド34Bと、セカンダリ倍力系ソレノイド34Cとに対応して、各別に設けられている。電源10Bは、プライマリ倍力制御経路用の電源部であり、ハーネス100B及びコネクタ300Bを介して駆動回路30Bに接続されている。電源10Cは、セカンダリ倍力制御経路用の電源部であり、ハーネス100C及びコネクタ300Cを介して駆動回路30Cに接続されている。
フェールセーフ制御部3eは、ABS系ソレノイド34A、プライマリ倍力系ソレノイド34B、及びセカンダリ倍力系ソレノイド34Cが全て正常であると判定すれば、電源線31A〜31Cを介してそれぞれソレノイド34A〜34Cへ電力を供給することで、ABS制御及び倍力制御を許可する。プライマリ倍力系ソレノイド34B、及びセカンダリ倍力系ソレノイド34Cが全て正常であり、ABS系ソレノイド34Aの少なくとも一部が異常であると判定すれば、リレー32AによりABS系ソレノイド34Aへの電力供給を遮断することで、ABS制御を禁止する。また、電源線31A,31Bを介してそれぞれソレノイド34A,34Bへ電力を供給することで、倍力制御を許可する。プライマリ倍力系ソレノイド34Bが全て正常であり、セカンダリ倍力系ソレノイド34Cの少なくとも一部が異常であると判定すれば、(ABS系ソレノイド34Aが正常であるか否かにかかわらず、)リレー32AによりABS系ソレノイド34Aへの電力供給を遮断することで、ABS制御を禁止する。また、リレー32Cによりセカンダリ倍力系ソレノイド34Cへの電力供給を遮断することで、セカンダリ倍力系ソレノイド34Cの機能を無効とする一方、電源線31Bを介してプライマリ倍力系ソレノイド34Bへ電力を供給することで、プライマリ倍力系ソレノイド34Bの機能を有効とする。すなわち、ストロークシミュレータ22を作動させてペダルフィールを発生させつつ、S系統のホイルシリンダ8b,8cについて倍力制御を禁止すると共に、P系統のホイルシリンダ8a,8dについて倍力制御を許可する。プライマリ倍力系ソレノイド34Bの少なくとも一部が異常であると判定すれば、(ABS系ソレノイド34Aが正常であるか否かにかかわらず、)リレー32AによりABS系ソレノイド34Aへの電力供給を遮断することで、ABS制御を禁止する。また、リレー32Bによりプライマリ倍力系ソレノイド34Bへの電力供給を遮断することで、プライマリ倍力系ソレノイド34Bの機能を無効とすると共に、(セカンダリ倍力系ソレノイド34Cが正常であるか否かにかかわらず、)リレー32Cによりセカンダリ倍力系ソレノイド34Cへの電力供給を遮断することで、セカンダリ倍力系ソレノイド34Cの機能を無効とする。すなわち、倍力制御を禁止し、踏力ブレーキへ移行する。他の構成は実施例1と同様であるため、対応する構成について同一の符号を付して説明を省略する。
倍力制御用の電磁弁21等のグループのリレー32が、P,S系統毎にそれぞれ設けられている。よって、倍力制御用のある電磁弁21等の機能が失陥した場合、その電磁弁21等が属するグループ(ブレーキ系統)への電源供給を当該グループのリレー32によって遮断することで、当該ブレーキ系統における倍力制御を禁止し、フェールセーフを実現できる。一方、正常な他のグループ(ブレーキ系統)の電磁弁21等への電源供給を継続することで、当該ブレーキ系統における倍力制御を継続して実行できる。したがって、ブレーキ制御の不要な停止をより効果的に抑制でき、通常ブレーキを担う基本的な機能が不必要に停止されてしまうおそれをより低減することができる。
本実施例では、一方のブレーキ系統(P系統)の電磁弁21等のグループに調圧弁27を含めており、当該一方のブレーキ系統のいずれかの電磁弁21等の機能が失陥したときは、当該一方のブレーキ系統の電磁弁21等への電源供給を遮断するだけでなく、他方のブレーキ系統(S系統)の電磁弁21等への電源供給をも遮断する。これは、本実施例で調圧弁27は両ブレーキ系統で共通に用いられているため、調圧弁27を含む電磁弁のグループ(上記一方のブレーキ系統)に失陥が発生すれば、他のグループ(上記他方のブレーキ系統)の電磁弁を用いた倍力制御も実行不可能になるおそれがあるからである。よって、装置1の信頼性と安全性の向上を図ることができる。同様に、一方のブレーキ系統(P系統)の電磁弁21等のグループにSS/V OUT24を含めており、SS/V OUT24を含む電磁弁のグループ(上記一方のブレーキ系統)に失陥が生じたときは、他方のブレーキ系統(S系統)への電源供給をも遮断する。これは、本実施例でSS/V OUT24は両ブレーキ系統で共通に用いられているため、SS/V OUT24を含む電磁弁のグループ(上記一方のブレーキ系統)に失陥が発生すれば、他のグループ(上記他方のブレーキ系統)の電磁弁を用いた倍力制御においても、SS/V OUT24の作動によるペダルフィールの発生が不可能になるおそれがあるからである。よって、装置1の信頼性の向上を図ることができる。なお、倍力制御用の電磁弁21等をどのようにグループ化するかは、本実施例のものに限らず任意である。その他、実施例1と同様の構成により実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
[実施例3]
図6は、実施例3の装置1の概略構成を示す、図1と同様の図である。本実施例の装置1は、第3油路13に、チェック弁ではなく、常閉型のオン・オフ電磁弁であるストロークシミュレータイン弁SS/V IN23が設けられている。第3油路13は、SS/V IN23によって、背圧室R2側の油路13Aと第1油路11側の油路13Bとに分離される。SS/V IN23と直列に絞り23Aが設けられている。絞り23Aは、SS/V IN23に対して第1油路11側(油路13B)に設けられている。絞り23Aの絞り量は、絞り24Aの絞り量よりも小さく設定されている。ABS制御部3gは、ABS制御の作動に伴い、ホイルシリンダ液圧Pwを減圧するときは、SS/V OUT24を閉弁方向に制御し、SS/V IN23を開弁方向に制御する。Pwを増圧するときは、SS/V OUT24を開弁方向に制御し、SS/V IN23を閉弁方向に制御する。Pwを保持するときは、SS/V OUT24とSS/V IN23を閉弁方向に制御する。すなわち、図6において一点鎖線で囲った、SS/V IN23、SOL/V IN25及びSOL/V OUT28は、ABS制御時に通電されることで作動する、ABS制御用の電磁弁のグループである。以下、これらの電磁弁23等のソレノイド34をABS系ソレノイド34Aという。
ホイルシリンダ液圧制御部3dは、補助増圧制御部3hを有している。補助増圧制御部3hは、運転者のブレーキ操作状態に応じて、実施例1と同様の補助増圧制御を実行する。具体的には、急ブレーキ操作が行われていると判断した場合、SS/V IN23を開弁方向に制御し、SS/V OUT24を閉弁方向に制御する(非作動とする)。例えば、ブレーキ操作状態検出部3aが検出ないし推定したブレーキ操作速度(ペダルストローク速度ΔSp/Δt)が所定値以上である場合に、上記所定の急ブレーキ操作が行われていると判断する。ポンプ7を作動させる等、その他のアクチュエータの制御内容は通常の倍力制御時と同様である。ΔSp/Δtが所定値以下になったり、モータ7aの回転数が所定値より高くなったりする等、所定の終了条件が成立すると、補助増圧制御を終了し、通常の倍力制御へ移行する(SS/V IN23を閉弁方向に制御し(非作動とし)、SS/V OUT24を開弁方向に制御する)。他の構成は実施例1と同様であるため、対応する構成について同一の符号を付して説明を省略する。
ABS制御部3gが、ABS制御の作動状態に応じて(各ホイルシリンダ8の液圧制御状態に合わせて)SS/V OUT24とSS/V IN23の動作を適切に制御することで、ポンプ7により発生させた液圧をピストン220,52Pに作用させて、ペダルストロークSpとペダル反力Fpを制御することができる。例えば、ホイルシリンダ液圧Pwを減圧するときは、SS/V OUT24を閉弁方向に制御し、SS/V IN23を開弁方向に制御する。これにより、ストロークシミュレータ22の背圧室R2にポンプ7側からブレーキ液が流入するため、ブレーキペダル2の位置が戻し方向に変化する。このように、各弁24,23を制御することで、ピストン220,52Pにストロークを与える(ピストン52Pの位置を制御する)ことが可能である。例えば、ABS制御中、ブレーキペダル2が前後(戻し方向及び進み方向)に移動(振動)するように構成することもできる。よって、ブレーキ操作を伴うホイルシリンダ液圧制御(ブレーキバイワイヤ制御)中、ABS制御が作動したとき、ホイルシリンダの液圧変動がマスタシリンダ(ブレーキペダル)に伝わる従来の形式のブレーキ装置と同様の、ブレーキペダル2のリアクションを実現可能である。したがって、運転者にABS制御の作動を認識させることができると共に、違和感のより少ないペダルフィールを実現することができる。なお、SS/V IN23を比例制御弁としてもよく、この場合、ブレーキペダル2の位置等をより正確に制御できる。
フェールセーフ制御部3eは、倍力系ソレノイド34Bが正常であり、ABS系ソレノイド34Aが異常であると判定すれば、駆動回路30Aを介してABS系ソレノイド34Aへの電力供給を遮断することで、ABS制御と補助増圧制御を禁止する。また、駆動回路30Bを介して倍力系ソレノイド34Bへ電力を供給することで、倍力制御を許可する。このように補助増圧制御が禁止されても、通常ブレーキを担う基本的な機能である倍力制御を継続することができる。なお、倍力系ソレノイド34Bが異常と判断されたときも、駆動回路30Aを介してABS系ソレノイド34Aへの電力供給を遮断することで、補助増圧制御を禁止する。これは、補助増圧制御は倍力制御を前提とするものだからである。その他、実施例1と同様の構成により実施例1と同様の作用効果を得ることができる。なお、実施例2と同様、倍力制御用の電磁弁21等のグループを更にグループ化してフェールセーフ制御を行ってもよい。
[他の実施例]
以上、本発明を実現するための形態を、実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。例えば、本発明が適用されるブレーキ装置は、実施例のものに限らず、ブレーキ制御用の電磁弁への電源供給を遮断可能な駆動回路を有し、複数の電磁弁が、ブレーキ制御の機能を各々担う複数のグループに分類可能なものであればよい。ブレーキ装置の液圧回路の構成やブレーキ制御の構成は任意である。ブレーキペダルとマスタシリンダとの間に、踏力を増幅してマスタシリンダへ伝達する倍力装置を設けてもよい。