JP6171805B2 - 炭素ナノ構造体の製造方法 - Google Patents
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たとえば、非特許文献1では炭素源としてメタンを用いたプラズマ/熱CVDの実験結果から、アセチレンが直接的なCNT前駆体として作用していることを主張している。また、非特許文献2では炭素源としてエチレンを用いた熱CVDの実験結果から、効率的なCNT合成メカニズムとして、アセチレンを含むアルキン類とエチレンの重合反応を提案している。また、非特許文献3では炭素源としてエタノールを用いた熱CVDの実験結果から、アセチレンが有効なCNT前駆体の1つであると主張している。
以上の先行研究から、従来からCNT合成に好適と知られていた原料ガス(メタン、エチレン、エタノール)は、直接CNT合成に寄与する前駆体ではない可能性が高く、アセチレン(アルキン類)がCNT前駆体である可能性が高いことが推察できる。
本発明は、
原料ガスを触媒に供給し、化学気相成長法によって炭素ナノ構造体を成長させる炭素ナノ構造体の製造方法であって、
前記原料ガスに由来し、前記触媒に接触するガスXが、ビニルアセチレン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素Aを含み、
前記炭化水素Aの合計体積濃度[A]が0.3%より高いことを特徴とする。
触媒基材に用いる基材は、例えば平板状の部材であり、500℃以上の高温でも形状を維持できるものが好ましい。具体的には、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、チタン、アルミニウム、マンガン、コバルト、銅、銀、金、白金、ニオブ、タンタル、鉛、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、及びアンチモンなどの金属、並びにこれらの金属を含む合金及び酸化物、又はシリコン、石英、ガラス、マイカ、グラファイト、及びダイヤモンドなどの非金属、並びにセラミックなどが挙げられる。金属材料はシリコン及びセラミックと比較して、低コスト且つ加工が容易であるから好ましく、特に、Fe−Cr(鉄−クロム)合金、Fe−Ni(鉄−ニッケル)合金、Fe−Cr−Ni(鉄−クロム−ニッケル)合金などは好適である。
触媒基材において、基材上(基材上に浸炭防止層を備える場合には当該浸炭防止層の上)には、触媒層が形成されている。触媒としては、CNTの製造が可能であればよく、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、並びに、これらの塩化物及び合金が挙げられる。これらが、さらにアルミニウム、アルミナ、チタニア、窒化チタン、酸化シリコンと複合化、あるいは層状になっていてもよい。例えば、鉄−モリブデン薄膜、アルミナ−鉄薄膜、アルミナ−コバルト薄膜、及びアルミナ−鉄−モリブデン薄膜、アルミニウム−鉄薄膜、アルミニウム−鉄−モリブデン薄膜などを例示することができる。触媒の存在量としては、CNTの製造が可能な範囲であればよく、例えば、鉄を用いる場合、製膜厚さは、0.1nm以上100nm以下が好ましく、0.5nm以上5nm以下がさらに好ましく、0.8nm以上2nm以下が特に好ましい。
触媒層を形成するウェットプロセスは、触媒となる元素を含んだ金属有機化合物および/または金属塩を有機溶剤に溶解したコーティング剤を基材上へ塗布する工程と、その後加熱する工程から成る。コーティング剤には金属有機化合物及び金属塩の過度な縮合重合反応を抑制するための安定剤を添加してもよい。
本発明の製造方法では、成長工程の前にフォーメーション工程を行なうことが好ましい。フォーメーション工程とは、触媒の周囲環境を還元ガス環境とすると共に、触媒及び還元ガスの少なくとも一方を加熱する工程である。この工程により、触媒の還元、CNTの成長に適合した状態としての触媒の微粒子化促進、触媒の活性向上の少なくとも一つの効果が現れる。例えば、触媒がアルミナ−鉄薄膜である場合、鉄触媒は還元されて微粒子化し、アルミナ層上にナノメートルサイズの鉄微粒子が多数形成される。これにより触媒はCNT配向集合体の製造に好適な状態となる。この工程を省略してもCNTを製造することは可能であるが、この工程を行なうことでCNT配向集合体の製造量及び品質を飛躍的に向上させることができる。
成長工程とは、触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に、触媒及び原料ガスの少なくとも一方を加熱することにより、触媒上にCNT配向集合体を成長させる工程である。高品質なCNTを成長させる観点からは、少なくとも触媒を加熱することが好ましい。加熱の温度は、400℃〜1100℃が好ましい。成長工程は、触媒基材を収容するCNT成長炉内に、不活性ガスと、随意に還元ガス及び/又は触媒賦活物質と、を含む原料ガスを導入して行う。
本発明は、成長工程で触媒に接触するガスXに1つの大きな特徴を有する。当該ガスXは、原料ガスが分解された各種炭化水素ガスと、分解されることなく触媒に到達した原料ガスと、不活性ガスと、随意に含まれる還元ガス及び/又は触媒賦活物質とからなる。
なお、本明細書において、ビニルアセチレン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素を「ビニルアセチレン類」という場合がある。
ガスXを上記のようにするために、原料ガスは、ビニルアセチレン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素A’を含むことが好ましい。
原料ガスは、通常、不活性ガスで希釈されることになる。不活性ガスとしては、CNTが成長する温度で不活性であり、且つ成長するCNTと反応しないガスであればよく、触媒の活性を低下させないものが好ましい。例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン及びクリプトンなどの希ガス;窒素;水素;並びにこれらの混合ガスを例示できる。
また、不活性ガスを用いずに、炉内全体を減圧し、各種ガス濃度の分圧を減らすことで、不活性ガス希釈と同等の効果を得ることも可能である。
CNTの成長工程において、触媒賦活物質を添加してもよい。触媒賦活物質の添加によって、CNTの生産効率や純度をより一層改善することができる。ここで用いる触媒賦活物質としては、一般には酸素を含む物質であり、成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質であることが好ましい。例えば、水、酸素、オゾン、酸性ガス、酸化窒素、一酸化炭素、及び二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物;エタノール、メタノールなどのアルコール類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトンなどのケトン類;アルデヒド類;エステル類;並びにこれらの混合物が有効である。この中でも、水、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、およびエーテル類が好ましく、特に水、一酸化炭素、二酸化炭素、並びにこれらの混合物が好適である。
成長工程における反応炉内の圧力、処理時間は、他の条件を考慮して適宜設定すればよいが、例えば、圧力は102〜107Pa、処理時間は0.1〜120分程度とすることができる。炉内に導入される原料ガスの流量については、例えば、後述する実施例を参照して適宜設定することができる。
冷却工程とは、成長工程後にCNT配向集合体、触媒、基材を冷却ガス下に冷却する工程である。成長工程後のCNT配向集合体、触媒、基材は高温状態にあるため、酸素存在環境下に置かれると酸化してしまうおそれがある。それを防ぐために冷却ガス環境下でCNT配向集合体、触媒、基材を例えば400℃以下、さらに好ましくは200℃以下に冷却する。冷却ガスとしては不活性ガスが好ましく、特に安全性、コストなどの点から窒素であることが好ましい。
本発明の実施に用いる製造装置は、触媒基材を受容する成長炉(反応チャンバ)を備え、CVD法によりCNTを成長させることができるものであれば、特に限定されず、熱CVD炉、MOCVD反応炉等の装置を使用できる。CNTの製造効率を高める観点からは、還元ガス及び原料ガスをガスシャワーによって触媒基材上の触媒に供給するのが好ましく、以下、触媒基材に対し概ね直交するようにガス流を噴出可能なシャワーヘッドを備えた装置の例も挙げて説明する。
本発明に適用されるCNT製造装置100を図1に模式的に示す。この装置100は、石英からなる反応炉102と、反応炉102を外囲するように設けられた例えば抵抗発熱コイルなどからなる加熱器104と、還元ガス及び原料ガスを供給すべく反応炉102の一端に接続されたガス供給口106と、反応炉102の他端に接続された排気口108と、基材を固定する石英からなるホルダー110とを含み構成される。さらに図示していないが、還元ガス及び原料ガスの流量を制御するため、流量制御弁及び圧力制御弁などを含む制御装置を適所に付設してなる。
本発明に適用されるCNT製造装置200を図2に模式的に示す。この装置200は、還元ガス、原料ガス、触媒賦活物質等を噴射するシャワーヘッド112を用いる以外は、図1に示す装置と同じ構成である。
本発明に適用されるCNT製造装置300を図3に模式的に示す。
図3に示すように、製造装置300は、入口パージ部1、フォーメーションユニット2、成長ユニット3、冷却ユニット4、出口パージ部5、搬送ユニット6、接続部7,8,9、ガス混入防止手段11,12,13を有する。
入口パージ部1は、触媒基材10の入口から炉内へ外気が混入することを防止するための装置一式である。製造装置300内に搬送された触媒基材10の周囲環境を窒素などの不活性パージガスで置換する機能を有する。具体的には、パージガスを保持するためのチャンバ、パージガスを噴射するための噴射部などを有する。
フォーメーションユニット2は、フォーメーション工程を実現するための装置一式である。具体的には、還元ガスを保持するためのフォーメーション炉2A、還元ガスを噴射するための還元ガス噴射部2B、並びに触媒及び還元ガスの少なくとも一方を加熱するためのヒーター2Cなどを有する。
成長ユニット3は、成長工程を実現するための装置一式である。具体的には、成長炉3A、原料ガスを触媒基材10上に噴射するための原料ガス噴射部3B、並びに触媒及び原料ガスの少なくとも一方を加熱するためのヒーター3Cを含んでいる。成長ユニット3の上部には排気口3Dが設けられている。
冷却ユニット4は、CNT配向集合体が成長した触媒基材10を冷却する冷却工程を実現する装置一式である。具体的には、冷却ガスを保持するための冷却炉4A、水冷式の場合は冷却炉内空間を囲むように配置した水冷冷却管4C、空冷式の場合は冷却炉内に冷却ガスを噴射する冷却ガス噴射部4Bを有する。
出口パージ部5は、触媒基材10の出口から炉内へ外気が混入することを防止するための装置一式である。触媒基材10の周囲環境を窒素などの不活性パージガス環境にする機能を有する。具体的には、パージガスを保持するためのチャンバ、パージガスを噴射するための噴射部などを有する。
搬送ユニット6は、製造装置の炉内に触媒基材10を搬送するための装置一式である。具体的には、ベルトコンベア方式におけるメッシュベルト6A、減速機付き電動モータを用いたベルト駆動部6Bなどを有する。
接続部7、8、9は、各ユニットの炉内空間を空間的に接続する装置一式である。具体的には、触媒基材10の周囲環境と外気を遮断し、触媒基材10をユニットからユニットへ通過させることができる炉又はチャンバなどが挙げられる。
ガス混入防止手段11,12,13は、製造装置300内の隣接する炉(フォーメーション炉2A、成長炉3A、冷却炉4A)間でガス同士が相互に混入することを防止するための装置一式であり、接続部7,8,9に設置される。ガス混入防止手段11,12,13は、各炉における触媒基材10の入口及び出口の開口面に沿って窒素等のシールガスを噴出するシールガス噴射部11B,12B,13Bと、主に噴射されたシールガスを外部に排気する排気部11A,12A,13Aとを、それぞれ有する。
本発明の製造方法によれば、上述のようにして高品質なCNTを高効率に製造可能であるが、CNTに限られず、公知文献を参照して適宜製造条件を設定することにより、カーボンナノコイル等その他、CVD法により触媒表面上に成長させることが可能な、sp2混成軌道からなる炭素を含む、種々の炭素ナノ構造体を製造することができる。前記公知文献としては、例えば、特開2009−127059号公報(ダイヤモンドライクカーボン)、特開2013−86993号公報(グラフェン)、特開2001−192204号公報(コイル・ツイスト)、及び特開2003−277029号公報(フラーレン)などが挙げられる。
(収量)=(CNT製造前後での基材重量差)/(基材の触媒担持面積)
縦500mm×横500mm、厚さ0.6mmのFe−Cr合金SUS430(JFEスチール株式会社製、Cr:18質量%)の平板を用意した。レーザ顕微鏡を用いて複数個所の表面粗さを測定したところ、算術平均粗さRa≒0.063μmであった。
上記の基材上に以下のような方法で触媒を形成した。まず、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド1.9gを2−プロパノール100mL(78g)に溶解させ、安定剤としてトリイソプロパノールアミン0.9gを加えて溶解させて、アルミナ膜形成用コーティング剤を作製した。ディップコーティングにより、室温25℃、相対湿度50%の環境下で基材上に上述のアルミナ膜形成用コーティング剤を塗布した。塗布条件としては、基材を浸漬後、20秒間保持して、10mm/秒の引き上げ速度で基板を引き上げた後、5分間風乾した。次に、300℃の空気環境下で30分間加熱した後、室温まで冷却した。これにより、基材上に膜厚40nmのアルミナ膜を形成した。
図1に示すようなバッチ式成長炉内でフォーメーション工程と成長工程とを順次行うことでCNTを製造した。前述の触媒基材を縦40mm×横40mmの大きさに切り出したものを触媒基材として用い、フォーメーション工程、成長工程を順次行なって基材表面にCNTを製造した。各工程におけるガス流量、ガスの組成、加熱器の設定温度、および処理時間を表1に示す。
なお、「原料ガス加熱時間」とは、原料ガスが炉内加熱領域に入ってから触媒基材に到達するまでの概算平均時間であり、以下の式により求められる:
(原料ガス加熱時間[分])=(基材より上流側の加熱領域体積[cc])/{(ガス流量[sccm])×(炉温度[K])×1/(273[K])}
実験例1と同様の製造装置を用い、成長工程における原料ガスの組成を表4のように変更してCNTを製造した。表4に記載しない諸条件は実験例1と同様とした。
102 反応炉
104 加熱器
106 ガス供給口
108 排気口
110 ホルダー
112 シャワーヘッド
300 CNT製造装置
1 入口パージ部
2 フォーメーションユニット
3 成長ユニット
4 冷却ユニット
5 出口パージ部
6 搬送ユニット
7,8,9 接続部
10 触媒基材
11,12,13 ガス混入防止手段
Claims (6)
- 原料ガスを触媒に供給し、化学気相成長法によって炭素ナノ構造体を成長させる炭素ナノ構造体の製造方法であって、
前記原料ガスに由来し、前記触媒に接触するガスXが、ビニルアセチレン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素Aを含み、
前記炭化水素Aの合計体積濃度[A]が0.3%より高いことを特徴とする炭素ナノ構造体の製造方法。 - 前記ガスXが、触媒賦活物質及び/又は水素分子をさらに含む請求項1に記載の炭素ナノ構造体の製造方法。
- 前記原料ガスが、ビニルアセチレン骨格を少なくとも1つ有する炭化水素A’を含む請求項1または2に記載の炭素ナノ構造体の製造方法。
- 前記炭化水素A’が、ビニルアセチレン、メチルビニルアセチレン、プロペニルアセチレン、及びイソプロペニルアセチレンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項3に記載の炭素ナノ構造体の製造方法。
- 前記触媒が基材表面に担持されており、前記原料ガスをガスシャワーによって前記触媒に供給する請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素ナノ構造体の製造方法。
- 前記炭素ナノ構造体がカーボンナノチューブである請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素ナノ構造体の製造方法。
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