JP6070035B2 - 水中油型乳化組成物 - Google Patents
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Description
(1)大豆タンパク質、油脂及び水を含有する水中油型乳化組成物であって、脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質が全固形分中に1重量%以上含まれ、かつ、15℃以上の融点を有する非硬化油脂の割合が全油脂中40重量%以上であり、全油脂含量が10〜50重量%であることを特徴とする水中油型乳化組成物、
(2)脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質が55%以上のLCI値を有する、前記(1)記載の水中油型乳化組成物、
(3)脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質が脂質を含む乳化物の形態で配合される、前記(1)又は(2)記載の水中油型乳化組成物、
(4)脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質の乳化物中の固形分あたりのタンパク質含量が25重量%以上である、前記(3)記載の水中油型乳化組成物、
(5)脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質の乳化物中におけるクロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物量としての脂質含量が、該乳化物中のタンパク質含量に対して100重量%以上である、前記(3)又は(4)記載の水中油型乳化組成物、
(6)脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質の乳化物中の固形分あたりの食物繊維含量が、10重量%以下である、前記(3)〜(5)何れか記載の水中油型乳化組成物、
(7)脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質の乳化物が、NSIが20〜77、固形分あたりの脂質含量が15重量%以上の含脂大豆に加水して懸濁液を調製する工程の後、該懸濁液を固液分離し、中性脂質及び極性脂質を不溶性画分に移行させて、タンパク質及び糖質を含む水溶性画分を除去し、不溶性画分を回収することを特徴として得られるものである、前記(3)〜(6)何れか記載の水中油型乳化組成物、
(8)15℃以上の融点を有する非硬化油脂の割合が全油脂中80重量%以上である、前記(1)〜(7)何れか記載の水中油型乳化組成物、
(9)15℃以上の融点を有する非硬化油脂が、ラウリン系油脂又はSUS型トリグリセリド含有油脂(S:飽和脂肪酸、U:不飽和脂肪酸)を含む、前記(1)〜(8)何れか記載の水中油型乳化組成物、
(10)乳由来の原料を含まない、前記(1)〜(9)何れか記載の水中油型乳化組成物、
である。
本発明において、水中油型乳化組成物とは油脂、タンパク質、水などの基礎原料を混合し、水中油型に乳化して得られるクリーム状の組成物をいう。その用途の一つとしては、起泡性水中油型乳化物が挙げられる。これは泡立器具や専用のミキサーを用いてホイップし、洋菓子や和菓子等の菓子、パン、デザートなどのトッピング(飾り付け)やナッペ(表面コーチング)、フィリング、練り込み等の用途に使用される。また他の用途としてはスープやスパゲッティソース等に使用される調理用水中油型乳化物や、コーヒークリーム等の飲料用水中油型乳化物が挙げられる。
本発明の水中油型乳化組成物には、タンパク質として大豆タンパク質を少なくとも含有し、該大豆タンパク質として脂質親和性タンパク質が濃縮された大豆タンパク質、すなわち「脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質」を少なくとも含有することが重要である。この大豆タンパク質は従来の脱脂大豆から通常の方法で調製される分離大豆タンパク質や濃縮大豆タンパク質と比べて脂質親和性タンパク質の含量が濃縮されている点において異なるため、これらは明確に区別される。
本発明に用いられるLP濃縮大豆タンパク質は、水中油型乳化組成物の全固形分中に1重量%以上、好ましくは2重量%以上、さらに好ましくは3重量%以上含まれることが適当である。
本発明における「脂質親和性タンパク質」(Lipophilic Proteins)なる用語は、大豆の主要な酸沈殿性大豆タンパク質の内、グリシニン(7Sグロブリン)とβ−コングリシニン(11Sグロブリン)以外のマイナーな酸沈殿性大豆タンパク質群をいい、レシチンや糖脂質などの極性脂質を多く随伴するものである。以下においてこの「脂質親和性タンパク質」を「LP」と略記することがある。
LPは雑多なタンパク質が混在したものであるが故、各々のタンパク質を全て特定し、LPの含量を厳密に測定することは困難であるが、下記LCI(Lipophilic Proteins Content Index)値を求めることにより、大豆タンパク質に占めるLPの割合を推定することができる。これによれば、本LP濃縮大豆タンパク質中のタンパク質のLCI値は通常55%以上であり、好ましくは58%以上、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは63%以上、最も好ましくは65%以上である。逆にLPが濃縮されていない通常の豆乳や粉末状大豆タンパク質はLCI値が55%未満である。
タンパク質中におけるLPの割合が高まることによって油脂の乳化状態が安定化されるばかりでなく、グロブリンタンパク質を主体とした通常の大豆タンパク質組成では得られない滑らかな物性の食感を得ることができ、また素材にコクのある風味が付与される。
(a) 各タンパク質中の主要なタンパク質として、7Sはαサブユニット及びα'サブユニット(α+α')、11Sは酸性サブユニット(AS)、LPは34kDaタンパク質及びリポキシゲナーゼタンパク質(P34+Lx)を選択し、SDS−PAGEにより選択された各タンパク質の染色比率を求める。電気泳動は表1の条件で行うことが出来る。
(b) X(%)=(P34+Lx)/{(P34+Lx)+(α+α’)+AS}×100(%)を求める。
(c) 低変性脱脂大豆から調製された分離大豆タンパクのLP含量を加熱殺菌前に上記方法1,2の分画法により測定すると凡そ38%となることから、X=38(%)となるよう(P34+Lx)に補正係数k*=6を掛ける。
(d) すなわち、以下の式によりLP推定含量(Lipophilic Proteins Content Index、以下「LCI」と略する。)を算出する。
本発明におけるタンパク質含量はケルダール法により窒素量として測定し、該窒素量に6.25の窒素換算係数を乗じて求めるものとする。
本発明におけるタンパク質の各成分組成はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分析することができる。
界面活性剤であるSDSと還元剤であるメルカプトエタノールの作用によってタンパク質分子間の疎水性相互作用、水素結合、分子間のジスルフィド結合が切断され、マイナスに帯電したタンパク質分子は固有の分子量に従った電気泳動距離を示ことにより、タンパク質に特徴的な泳動パターンを呈する。電気泳動後に色素であるクマシーブリリアントブルー(CBB)にてSDSゲルを染色した後に、デンシトメーターを用い、全タンパク質のバンドの濃さに対する各種タンパク質分子に相当するバンドの濃さが占める割合を算出する方法により求めることができる。
本発明に用いられるLP濃縮大豆タンパク質は、一般に大豆中のオイルボディにはほとんど含まれないリポキシゲナーゼタンパク質が特定量以上含まれることも大きな特徴であり、かかる指標は前記LCI値に代替することができる。本LP濃縮大豆タンパク質中の全タンパク質あたり少なくとも4%以上含有し、好ましくは5%以上含有するものである。
通常の未変性(NSI 90以上)の大豆を原料とした場合ではリポキシゲナーゼタンパク質は可溶性の状態で存在するため、水抽出すると水溶性画分側へ抽出される。一方、本発明ではリポキシゲナーゼタンパク質が原料大豆中において加熱処理によって失活され不溶化しているため、不溶性画分側に残る。
タンパク質中におけるリポキシゲナーゼタンパク質の割合が高まることによって油脂の乳化状態が安定化されるばかりでなく、グロブリンタンパク質を主体とした通常の大豆タンパク質組成では得られない滑らかな物性の食感を得ることができ、また素材にコクのある大豆風味が付与される。
本発明の水中油型乳化組成物へのLP濃縮大豆タンパク質の含有は、タンパク質含量が50重量%以上に高純度化されたタンパク質素材を配合することにより可能である。また、タンパク質以外の成分を多く含み、タンパク質含量が50重量%未満である素材を配合することによっても可能である。
特にLP濃縮大豆タンパク質の他に油脂を含む乳化物の形態で配合されることが風味及び乳化安定性の点でより好ましい。このLP濃縮大豆タンパク質乳化物は、1つの態様として原料である大豆を水で抽出し、抽出液と残渣(オカラ)の分離工程を含むLPと油脂の濃縮工程を経ることにより、LP濃縮大豆タンパク質と大豆由来の油脂とが水と共に均質に乳化された乳化物が挙げられる。また別の態様として、大豆から調製したLP濃縮大豆タンパク質に別途に油脂を混合して乳化した乳化物でもよく、前者と後者の両方の態様に相当するものであってもよい。
一般に脂質はエーテル抽出法で測定されるが、LP濃縮大豆タンパク質乳化物中には中性脂質の他にエーテルで抽出されにくい極性脂質も含まれる場合があるため、該乳化物の脂質含量は、試料を凍結乾燥後、クロロホルム:メタノールが2:1(体積比)の混合溶媒を用い、常圧沸点において30分間抽出された抽出物量(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物量)を総脂質量として、脂質含量を算出した値とする。溶媒抽出装置としてはFOSS社製の「ソックステック」を用いることができる。なお上記の測定法は「クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出法」と称するものとする。
本発明に用いられるLP濃縮大豆タンパク質乳化物中の固形分あたりのタンパク質含量は25重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。またタンパク質含量の上限は限定されないが、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。
本発明に用いられるLP濃縮大豆タンパク質乳化物は、通常生クリーム様の性状であり、通常の固形分(dry matter)は20〜30重量%程度であるが、特に限定されるものではない。すなわち加水により低粘度の液状としたものや、濃縮加工されてより高粘度のクリーム状としたものであってもよく、また粉末加工されて粉末状としたものであってもよい。
本発明に用いられるLP濃縮大豆タンパク質は公知の方法により得ることができる。LP濃縮大豆タンパク質を脂質を含む乳化物の形態で配合する場合、一つの製造態様として、特開2012−16348号公報に記載されている方法を利用すればよく、これを援用する。具体的には水溶性窒素指数(Nitrogen Solubility Index、以下「NSI」と称する。)が20〜77、好ましくは20〜70、固形分あたりの脂質含量が15重量%以上の全脂大豆などの含脂大豆に対して、加水して懸濁液を調製する工程の後、該懸濁液を固液分離し、中性脂質及び極性脂質を不溶性画分に移行させて、タンパク質及び糖質を含む水溶性画分を除去し、不溶性画分を回収することにより得ることができる。該製造態様について示すが、本発明に用いられるLP濃縮大豆タンパク質乳化物は、本発明で特定する組成を有する限り、かかる製造態様で得られたもののみに限定されるものではない。例えば、大豆から常法により豆乳を調製してから加熱処理し、あるいは浸漬した大豆を加熱した後に豆乳を調製し、必要により解乳化剤等を使用し、遠心分離により脂質濃縮画分を回収することにより、LCI値が55%以上となる該乳化物を得てもよい。
本発明に使用されるLP濃縮大豆タンパク質乳化物の原料である大豆としては、全脂大豆あるいは部分脱脂大豆等の含脂大豆を用いる。部分脱脂大豆としては、全脂大豆を圧搾抽出等の物理的な抽出処理により部分的に脱脂したものが挙げられる。一般に全脂大豆中には脂質が固形分あたり約20〜30重量%程度含まれ、特殊な大豆品種については脂質が30重量%以上のものもあり、特に限定されないが、用いる含脂大豆としては、少なくとも脂質を15重量以上、好ましくは20重量%以上含むものが適当である。原料の形態は、半割れ大豆、グリッツ、粉末の形状でありうる。
過度に脱脂され脂質含量が少なすぎると本発明に用いられる脂質に富むLP濃縮大豆タンパク質乳化物を得ることが困難となる。ヘキサン等の有機溶媒で抽出され、中性脂質の含量が1重量%以下となった脱脂大豆は、大豆の良好な風味を感じにくくなる傾向にある。
そのような加工大豆は、加熱処理やアルコール処理等の加工処理を行って得られる。加工処理の手段は特に限定されないが、例えば乾熱処理、水蒸気処理、過熱水蒸気処理、マイクロ波処理等による加熱処理や、含水エタノール処理、高圧処理、およびこれらの組み合わせ等が利用できる。
例えば過熱水蒸気による加熱処理を行う場合、その処理条件は製造環境にも影響されるため一概に言えないが、おおよそ120〜250℃の過熱水蒸気を用いて5〜10分の間で加工大豆のNSIが上記範囲となるように処理条件を適宜選択すれば良く、加工処理に特段の困難は要しない。簡便には、NSIが上記範囲に加工された市販の大豆を用いることもできる。
すなわち、試料2.0gに100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分間遠心分離し、上清1を得る。残った沈殿に再度100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分遠心分離し、上清2を得る。上清1および上清2を合わせ、さらに水を加えて250mlとする。No.5Aろ紙にてろ過したのち、ろ液の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素含量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素(水溶性窒素)の試料中の全窒素に対する割合を重量%として表したものをNSIとする。
水抽出は含脂大豆に対して3〜20重量倍、好ましくは4〜15重量倍程度の加水をし、含脂大豆を懸濁させて行われる。加水倍率は高い方が水溶性成分の抽出率が高まり、分離を良くすることができるが、高すぎると濃縮が必要となりコストがかかる。また、抽出処理を2回以上繰り返すと水溶性成分の抽出率をより高めることができる。
水抽出後、含脂大豆の懸濁液を遠心分離、濾過等により固液分離する。この際、中性脂質のみならず極性脂質も含めた大部分の脂質を水抽出物中に溶出させず、不溶化したタンパク質や食物繊維質の方に移行させ沈殿側(不溶性画分)とすることが重要である。具体的には含脂大豆の脂質の70重量%以上を沈殿側に移行させる。また抽出の際に上清側にも少量の脂質が溶出するが、豆乳中の脂質のように微細にエマルション化されたものではなく、15,000×g以下、あるいは5,000×g程度以下の遠心分離によっても容易に浮上させ分離することができ、この点で遠心分離機を使用するのが好ましい。なお遠心分離機は使用する設備によっては10万×g以上の超遠心分離を使用することも可能であるし、本発明に用いられるLP濃縮大豆タンパク質乳化物の場合は超遠心分離機を用いなくとも実施が可能である。
また水抽出の際あるいは水抽出後に解乳化剤を添加して豆乳からの脂質の分離を促進させることも可能であり、解乳化剤は特に限定されないが例えば特開2012−16348号公報に記載の特許文献2などにも引用されている解乳化剤を使用すればよい。ただしLP濃縮大豆タンパク質乳化物を調製する場合は解乳化剤を用いなくとも実施が可能である。
固液分離として遠心分離を用いる場合、二層分離方式、三層分離方式のいずれも使用することができる。二層分離方式の場合は沈殿層である不溶性画分を回収する。また三層分離方式を用いる場合は、(1)浮上層(脂質を含む比重の最も小さいクリーム画分)、(2)中間層(脂質が少なくタンパク質、糖質を多く含む水溶性画分)、(3)沈殿層(脂質と食物繊維を多く含む不溶性画分)、の三層の画分に分けられる。この場合、脂質含量の少ない水溶性画分の中間層(2)を除去又は回収し、不溶性画分として浮上層(1)又は沈殿層(3)を回収するか、あるいは(1)と(3)を合わせて回収するとよい。
得られた不溶性画分が食物繊維を含む場合、例えば上記(3)の画分、又は(1)及び(3)の画分である場合、必要により加水し、高圧ホモゲナイザーあるいはジェットクッカー加熱機等による均質化した後、該均質化液をさらに固液分離して上清を回収する工程を経ることにより、食物繊維(オカラ)を除去することもでき、その除去率が高いほど大豆のコクのある風味がより濃縮されたLP濃縮大豆タンパク質乳化物を得ることができる。該均質化の前後いずれかにおいて必要により加熱処理工程、アルカリ処理工程等を付加することによりタンパク質をより抽出しやすくすることもできる。この場合、該乳化物中の固形分あたりの食物繊維含量は10重量%以下であり、5重量%以下がより好ましく、1重量%以下がさらに好ましい。なお、本発明において食物繊維含量は、「五訂増補日本食品標準成分表」(文部科学省、2005)に準じ、酵素−重量法(プロスキー変法)により測定することができる。
本発明に用いられる、より好ましい態様のLP濃縮大豆タンパク質乳化物は、脂質(中性脂質及び極性脂質)及びタンパク質が特定の範囲で含まれ、タンパク質のうち特にLP含量が高く、食物繊維がより除去されたLP濃縮大豆タンパク質乳化物であり、大豆が本来有する自然な美味しさが濃縮されており、従来の問題とされていた青臭味や収斂味、渋味等の不快味がないか非常に少なく、非常にコクのある風味を有するものである。
通常の豆乳、大豆粉や分離大豆タンパクに水、油脂などを加えてLP濃縮大豆タンパク質乳化物と類似のタンパク質/油脂組成の乳化物にすることは可能であるが、LCI値あるいはリポキシゲナーゼタンパク質含量をLP濃縮大豆タンパク質乳化物と同等なレベルに調整することは困難である。そしてLP濃縮大豆タンパク質乳化物は、このような組み立て製品に比べて格段に風味が良好であり、食品素材としての利用適性が高いことに特徴を有する。
本発明の水中油型乳化組成物の油相に含まれうる油脂としては、大豆油、ナタネ油、コーン油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、綿実油、米油、オリーブ油、ヒマワリ油、サフラワー油等の植物油脂、乳脂、豚脂、牛脂等の動物脂肪、あるいはこれらの硬化油脂、分別油脂やエステル交換油脂などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を選択することができる。また本発明に前記のLP濃縮大豆タンパク質乳化物を用いる場合には、該乳化物由来の油脂も油相に含まれる。なお、本発明の水中油型乳化組成物を純植物性の原料のみで製造する場合には、乳由来の原料である乳脂をはじめとする動物脂肪を使用せず、植物油脂のみを使用すればよい。
そして水中油型乳化組成物中の全油脂含量は10〜50重量%、好ましくは20〜50重量%であることが重要である。本発明の水中油型乳化組成物中の油脂含量が少なすぎると油脂に由来する濃厚な口あたり、風味が得にくくなり、含量が多すぎると乳化物の安定性が悪くなる。なお、本発明の水中油型乳化組成物中における油脂含量は、定法であるソックスレー抽出器を用いたジエチルエーテル抽出法を用いて測定する。例えば「基準油脂分析試験法(II) 1996年版」(日本油化学会制定)のジエチルエーテル抽出法(参3.1.1-1996)に準じて測定できる。
水中油型乳化組成物に含まれる全油脂中の固体脂含量(SFC)は該乳化物で求める物性に合わせて適宜調製することができ、特に限定はされないが、例えば10℃で20〜23%、30℃で2〜3%、35℃で0〜1.5%であることがホイップ性および口どけの点で好ましい。
ただし、本発明の水中油型乳化組成物に含まれる全油脂中、15℃以上の融点を有する非硬化油脂の割合が40重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは80重量%以上、最も好ましくは100重量%であることが重要である。ここで本発明における「非硬化油脂」の概念は、部分硬化油脂や極度硬化油脂、あるいはこれらの硬化油脂を原料としてさらにエステル交換した油脂のような硬化油脂ではなく、硬化処理を経ていない油脂であって、水中油型乳化組成物において硬化油脂に代替しうる油脂を意味する。そのような代替物性としては融点が挙げられ、通常は上昇融点として15℃以上、好ましくは20℃以上である。融点の上限は特に限定されないが一般には50℃以下である。融点が15℃未満になると、水中油型乳化組成物において硬化油脂に代替しうる物性を付与することが困難となる。したがって、大豆油やナタネ油等の液体油はここで言う「非硬化油脂」の概念には含まれない。
かかる態様において、本発明の水中油型乳化組成物に含まれる油脂の全構成脂肪酸中におけるラウリン酸含量は、風味及び保形性の理由により20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましい。該ラウリン酸含量の上限は特に設定されないが、通常は50重量%以下であり、好ましくは40重量%以下である。
本発明の水中油型乳化組成物には、その用途に応じて必要により知の合成クリーム類に用いられるタンパク質、糖類、乳化剤、塩類、安定剤、香料、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤などを共存させることもできる。
本発明の水中油型乳化物に含まれるタンパク質としては、LP濃縮大豆タンパク質が全固形分中に1重量%以上含まれことを必須とする以外は特に限定されず、無脂乳固形分由来のタンパク質や、LPが濃縮されていない大豆タンパク質などを含むこともできる。無脂乳固形分としては、脱脂粉乳、全脂粉乳、生クリーム、牛乳、加糖練乳などが例示できる。LPが濃縮されていない大豆タンパク質としては、通常の製法で製造された豆乳や粉末状大豆タンパク質が挙げられる。その他のタンパク質として、α−ラクトアルブミンやβ−ラクトグロブリン、血清アルブミン等のホエイタンパク質、カゼインもしくはその塩、その他の乳タンパク質、低密度リポタンパク質、高密度リポタンパク質、ホスビチン、リベチン、リン糖タンパク質、オボアルブミン、コンアルブミン、オボムコイド等の卵タンパク質、グリアジン、グルテニン、プロラミン、グルテリン等の小麦タンパク質等なども併用することができる。
ただし良好な大豆の風味を重視する場合、本発明の水中油型乳化組成物においてはこれらのタンパク質は少ない方が好ましく、その含量は全固形分中タンパク質量として1.5重量%以下、特に1重量%以下、さらには0.5重量%以下が好ましい。純植物性の水中油型乳化組成物に調製する場合は動物由来のタンパク質を0重量%とする。
糖類としては、例えばブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム等の糖類が挙げられる。これらの糖類は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
乳化剤としては、例えばレシチンやその酵素処理品、モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリソルベートなどを使用することができる。
塩類としては、例えばリン酸やポリリン酸のアルカリ金属塩、クエン酸のアルカリ金属塩などを使用することができる。
安定剤としては、例えばキサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、CMC、微結晶セルロース、加工澱粉などを適量使用することができる。
本発明の水中油型乳化組成物の製造法としては、一般的なクリーム類を製造する方法で行うことができる。具体的には油脂、LP濃縮大豆タンパク質及び水を主要原料とし、必要によりその他の原料を添加し、これらの原料を混合して、予備乳化後、殺菌又は滅菌処理し均質化処理することなどにより得ることができる。その際の均質化圧は15MPa以下が好ましく、より好ましくは10MPa以下、さらに好ましくは5MPa以下で行うことができる。
水中油型乳化組成物の乳化物の油脂粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置による測定で0.8〜2.4μmの範囲であるのが好ましく、より好ましくは1.0〜2.0μmの範囲であり、更に好ましくは1.0〜1.8μmの範囲が適当である。油脂粒子の平均粒子径が小さすぎると起泡性水中油型乳化物の場合ホイップ後のオーバーランが過度に高くなる傾向にある。油脂粒子の平均粒子径が大きすぎると乳化安定性が低下する傾向にある。
以上のようにして得られた水中油型乳化組成物は、ホイップさせた後に、通常のデコレーションケーキなどのナッペ、造花用のクリームをはじめ、パン、菓子類のフィリング材として、またコーヒーへの上乗せ用として使用できる。また、スープやスパゲッティソース等の調理用の用途やコーヒークリーム等の飲料用途として使用することもできる。
湿熱加熱処理によりNSI 59.4とした大豆粉3.5kgに対して4.5倍量、50℃の水を加えて懸濁液とし、保温しながら30分間攪拌し、水抽出した。このときのpHは6.7であった。3層分離方式の遠心分離を6,000×gにて連続的に行い、(1)浮上層・(2)中間層・(3)沈殿層に分離させた。そして浮上層と沈殿層を合わせた画分6.3kgを回収し、乳化物Aを調製した。
製造例1にて調製した乳化物Aに対して0.5重量倍の加水を行い、さらに13MPaにて高圧ホモゲナイザーで均質化した後、該均質化液を蒸気直接吹き込み方式で142℃7秒間加熱処理し、連続式遠心分離機にて6,000×gにて不溶性の繊維質を分離除去し、上清画分を得、これを乳化物Bとした。この組成物Bの固形分あたりの食物繊維の含量は0.5重量%であった。
これらの組成物A,Bの風味も既存の豆乳、大豆が本来有する自然な美味しさが濃縮されており、従来の問題とされていた大豆の青臭味や収斂味、渋味等の不快味がなく、非常にコクのある風味を有するものであった。一方、市販乳化物は乳化物A,Bに比べるとLCI値が大豆粉よりも低く、またリポキシゲナーゼタンパク質が低いためか、コク味が少なく、青草味や収斂味の強い風味であった。
原料として、SUS型トリグリセリド含有油脂であるパーム油(ヨウ素価;52)60部、ラウリン系油脂であるパーム核オレイン(ヨウ素価;25)40部を混合した後、減圧脱水により水分を100ppmに調整した。さらにノボザイムズ社製の固定化リパーゼ「Lipozymes TL-IM」を1重量%添加し、反応温度70℃で反応時間35時間、密閉容器中で撹拌によりランダムエステル交換反応を行った後、濾過によって固定化リパーゼを除去し、通常の精製を施して、エステル交換油脂を得た。
(油脂中のP2O含量及びPPO含量の測定方法)
油脂中のP2O含量は、下記に示す高速液体クロマトグラフ分析(1)にてPPO含量及びPOP含量の合計量として測定し求めることができる。さらに対照型、非対称型トリグリセリド組成の比を薄層クロマトグラフ分析(2)にて測定し、(1)の結果に乗ずることでPPO含量及びPOP含量を各々求めることができる。
(1)高速液体クロマトグラフ分析は、(カラム;ODS、溶離液;アセトン/アセトニトリル=80/20、液量;0.9ml/分、カラム温度;25℃、検出器;示差屈折計)にて実施した。
(2)薄層クロマトグラフ分析は、(プレート;硝酸銀薄層プレート、展開溶剤;ベンゼン/ヘキサン/ジエチルエーテル=75/25/2、検出器;デンシトメータ)にて実施した。
実施例、比較例で得られる水中油型乳化組成物の粘度、ボテテスト(水中油型乳化組成物の安定性)、平均粒子径は下記の通り評価した。
(1)粘度: 水中油型乳化組成物の粘度の測定は、B型粘度計(株式会社東京計器製)にて、2号ローター、60rpmの条件下で行った。
(2)ボテテスト: 水中油型乳化組成物を100ml容ビーカーに50ml採り、20℃ で2時間インキュベートし、その後攪拌開始後5分時点でのボテの発生の有無を確認した。
(3)平均粒子径: レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-2200」)を用いて、水中油型乳化組成物を蒸留水で測定可能範囲に希釈し測定後、データとして出力される平均値を平均粒子径とした。
(1)ホイップタイム:水中油型乳化組成物1kgをホバードミキサー(HOBARTCORPORATION製「MODEL N-5」)3速(300rpm)にてホイップし、最適起泡状態に達するまでの時間及び、同2速(130rpm)にて緩やかに混ぜた時間
(2)オーバーラン:[(一定容積の水中油型乳化組成物重量)−(一定容積の起泡後の起泡物重量)] ÷(一定容積の起泡後の起泡物重量)×100
(3)保形性:造花した起泡物を15℃で24時間放置した場合の美しさ
四段階評価 A;良好、B;やや良好、C;やや悪い、D;悪い(実用的でない)
(4)風味・口溶け:起泡後のクリームの大豆風味と口溶けを評価
製造例2で得られた乳化物Bを原料に用い、ホイップクリームを下記の通り調製した。
製造例3で得られたランダム酵素エステル交換油(上昇融点31℃)15.8部、パーム核油(上昇融点28℃)12.5部、パーム核分別ステアリン(上昇融点32℃)5.8部にレシチン0.3部、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル(HLB9) 0.03部を混合し、溶解して油相とした。
これとは別に水19.97部に、製造例2で得られた乳化物Bを30.0部、水あめを5.8部、クエン酸ナトリウムを0.25部、ショ糖飽和脂肪酸エステル(HLB5)0.15部、加工でんぷん0.13部を溶解し水相を調製した。
上記油相と水相を65℃で30分間ホモミキサーで攪拌し予備乳化した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製) によって、144℃ において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、3MPaの均質化圧力で均質化して、直ちに5℃ に冷却した。冷却後約24時間エージングして、ホイップクリームを得た。
このホイップクリーム1kgに80gのグラニュー糖を加えて上記ホイップ方法にてホイップし、上記の方法に従い各種品質評価を行った。結果を表4に纏めた。
表4に示した配合により、実施例1と同様の方法で水中油型乳化組成物を調製し、これらの乳化物の品質評価を行った。実施例2は実施例1に対して、乳化物B 30.0部を40.0部に増量したものである。実施例3は実施例1に対して、乳化物B 30.0部を50.0部に増量したものである。結果を表4に纏めた。
実施例1において、ランダム酵素エステル交換油(融点31℃)15.8部、パーム核分別ステアリン(高融点部)5.8部を硬化パーム分別中融点部(融点31℃)15.8部、硬化パーム核オレイン(融点36℃)5.8部に代えた以外は実施例1と同様にして水中油型乳化組成物を調製し、保形性と風味・口溶けについて品質評価したところ、硬化油脂の風味により大豆の良好な風味が感じにくくなりバランスの悪い風味であった。結果を表5に纏めた。
実施例1において、乳化物B 30.0部を乳化物Bと固形分を合わせ水に溶かした大豆粉水溶液30.0部に代えた以外は実施例1と同様にして水中油型乳化組成物を調製し、保形性と風味・口溶けについて品質評価したところ、青臭味と渋味が強くバランスの悪い風味であった。結果を表5に纏めた。
実施例1において、乳化物B30.0部を豆乳30.0部に代えた以外は実施例1と同様にして水中油型乳化組成物を調製し、保形性と風味・口溶けについて品質評価したところ、豆乳の風味が非常に弱く水っぽく感じられ、また青臭さも感じられてバランスの悪い風味であった。結果を表5に纏めた。
Claims (9)
- 大豆タンパク質、油脂及び水を含有する水中油型乳化組成物であって、
脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質が全固形分中に1重量%以上含まれ、かつ、
15℃以上の融点を有する非硬化油脂の割合が全油脂中60重量%以上であり、全油脂含量が10〜50重量%であることを特徴とする水中油型乳化組成物。 - 脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質が55%以上のLCI値を有する、請求項1記載の水中油型乳化組成物。
- 脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質が脂質を含む乳化物の形態で配合される、請求項1又は2記載の水中油型乳化組成物。
- 脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質の乳化物中の固形分あたりのタンパク質含量が25重量%以上である、請求項3記載の水中油型乳化組成物。
- 脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質の乳化物中におけるクロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物量としての脂質含量が、該乳化物中のタンパク質含量に対して100重量%以上である、請求項3又は4記載の水中油型乳化組成物。
- 脂質親和性タンパク質濃縮大豆タンパク質の乳化物中の固形分あたりの食物繊維含量が、10重量%以下である、請求項3〜5の何れか1項記載の水中油型乳化組成物。
- 15℃以上の融点を有する非硬化油脂の割合が全油脂中80重量%以上である、請求項1〜6の何れか1項記載の水中油型乳化組成物。
- 15℃以上の融点を有する非硬化油脂が、ラウリン系油脂又はSUS型トリグリセリド含有油脂(S:飽和脂肪酸、U:不飽和脂肪酸)を含む、請求項1〜7の何れか1項記載の水中油型乳化組成物。
- 乳由来の原料を含まない、請求項1〜8の何れか1項記載の水中油型乳化組成物。
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