JP7162410B2 - シュー用改良材、及び、シュー用油脂組成物 - Google Patents
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Description
また、液状油を用いると、ソフトな食感で口溶けは良好であり、生地は伸びるが、保型性が劣るためつぶれて容積が出なくなり、融点の高い油脂、例えば牛脂を使用すると、容積は出るものの、ワキシーな食感となり口溶けが著しく悪化してしまうという問題があった(例えば非特許文献1参照)。
容積の大きなシューケースを安定して生産するためには、シュー生地を製造する際に小麦粉等のデンプン類を十分に糊化させ、その生地に十分な伸展性があることが必要である。このため、油脂、乳化剤、カゼインのナトリウム塩の3種成分を使用するのが有効であり、これらの3種成分を含むシュー用油脂が広く使用されている。
ここで、単に、乳化剤を使用しないでシューケースを製造するには、ラードやバター等の乳化剤を含有しない油脂組成物を使用すればよいが、上述のように、容積の大きなシューケースを安定して得ることはできない。
このように、乳化剤やカゼインのナトリウム塩の使用量を減じた場合、或いは使用しない場合であっても容積が大きく、保型性が良好で、ソフトで口溶けが良好であるシューケースを製造することができるシュー用油脂は存在しなかった。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品を含有するシュー用改良材、及び、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品を含有するシュー用油脂組成物を提供するものである。
まず本発明で使用する、乳原料の酸処理品について述べる。
本発明に用いられるのは、乳原料の酸処理品であるが、まず、酸処理前の、乳由来の固形分を含み、該固形分中のリン脂質の含有量が該固形分に対し2質量%以上である乳原料(以下、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料ともいう)について述べる。
上記乳原料は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、該固形分に対し2質量%以上、好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上、最も好ましくは5~40質量%である。乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分に対し2質量%未満である乳原料を用いると、シューケース製造時の糊化工程で、十分な糊化が行われず、容積の大きなシューケースが得られないことに加え、ソフトな食感のシューケースが得られない。
本明細書において、乳由来の固形分とは、無脂乳固形分(乳タンパクを主成分とする乳脂肪以外の固形分)と乳脂肪分との合計をいう。
上記の乳由来の固形分中のリン脂質とは、乳由来の固形分中に含まれる乳由来のリン脂質のことを示し、具体的には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジジン酸、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン等を示す。
まず、乳原料の脂質をFolch法を用いて抽出する。次いで、抽出した脂質溶液を湿式分解法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載の湿式分解法に準じる)にて分解した後、モリブデンブルー吸光度法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載のリンのモリブデン酸による定量に準じる)によりリン量を求める。求められたリン量から以下の計算式を用いて乳原料の乳由来の固形分100g中のリン脂質の含有量(g/100g)を求め、それに100を乗ずることにより、乳由来の固形分中のリン脂質の該固形分に対する含有量(質量%)を算出する。
リン脂質(g/100g)=〔リン量(μg)/(乳原料-乳原料の水分(g))〕×25.4×(0.1/1000)
本発明では、上記のような通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクそのものを用いることはできないが、バターミルクを乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮したものを用いることは可能である。
クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30~40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70~95質量%まで高める。次いで乳化破壊機で乳化を破壊し、再び遠心分離機で処理することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。
一方、バターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まずバターを溶解機で溶解し熱交換機で加温する。これを遠心分離機で分離することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。該バターオイルの製造に用いられるバターとしては、通常のものが用いられる。
また、本発明では、上記の乳原料中のリン脂質の一部又は全部がリゾ化されたリゾ化物を使用することもできる。該リゾ化物は、乳原料をそのままリゾ化したものであっても良く、また乳原料を濃縮した後にリゾ化したものであっても良い。また、得られたリゾ化物に、更に濃縮或いは噴霧乾燥処理等を施しても良い。これらのリゾ化物は本発明におけるリン脂質の含有量に含めるものとする。
上記の乳原料中のリン脂質をリゾ化するには、ホスホリパーゼAで処理すれば良い。ホスホリパーゼAは、リン脂質分子のグリセロール部分と脂肪酸残基とを結びつけている結合を切断し、この脂肪酸残基を水酸基で置換する作用を有する酵素である。ホスホリパーゼAは、作用する部位の違いによってホスホリパーゼA1とホスホリパーゼA2とに分かれるが、ホスホリパーゼA2が好ましい。ホスホリパーゼA2の場合、リン脂質分子のグリセロール部分の2位の脂肪酸残基が選択的に切り離される。
上記酸処理を行うには、上記乳原料に酸を添加する方法であってもよく、また、上記乳原料に乳酸醗酵等の醗酵処理を行う方法であってもよいが、好ましくは上記乳原料に酸を添加する。上記乳原料に添加する酸としては、無機酸であっても有機酸であってもよいが、有機酸であることが好ましい。該有機酸としては、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フィチン酸、ソルビン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等が挙げられ、果汁、濃縮果汁、発酵乳、ヨーグルト等の有機酸を含有する飲食品も用いることができるが、本発明においてはより酸味が少なく、風味に影響しない点でフィチン酸及び/又はグルコン酸を使用することが好ましい。
上記酸の添加によるpHの調整は、上記酸を上記乳原料自体に添加することにより行ってもよいし、上記乳原料を有効成分とするシュー用改良材、或いは、シュー用油脂組成物の製造の際に、上記酸を添加することにより行ってもよい。
尚、上記乳原料が粉末状の場合や、液状であっても濃厚溶液やペースト状の場合は、加水して水溶液としてから酸処理を行うことが好ましい。
上記均質化処理に用いられる均質化機としては、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーの様な高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、バブル式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、ディスパーミル等があげられる。均質化圧力は特に制限はないが、好ましくは0~100MPaである。2段式ホモジナイザーを用いて均質化処理をする場合は、例えば、1段目3~100MPa、2段目0~5MPaの均質化圧力にて行っても良い。
更に上記乳原料の酸処理品は、UHT加熱処理を行っても良い。UHT加熱処理の条件としては特に制限はないが、処理温度は好ましくは120~150℃であり、処理時間は好ましくは1~6秒である。
尚、上記酸処理を行った後は、中和してもよく、そのままの酸性の溶液のままであってもシューの改良効果に差はない。
本発明のシュー用改良材は、上記のようにして得られた「乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品」を有効成分として含有するものである。
本発明のシュー用改良材における上記「乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品」の配合割合は、改良材の形態や、改良材のシュー生地への添加量に依存するため、特に限定されるものではなく、固形分として1質量%~100質量%の範囲から適宜選択可能であるが、好ましくは2~40質量%である。
ここで、本発明のシュー用改良材における上記「乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品」の配合割合が1質量%未満であると、少ない添加量で改良効果を付与するという改良材としての意義がなくなるおそれがある。
上記「乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品」由来のリン脂質含量が0.01質量%よりも少ないと少ない添加量で改良効果を付与するという改良材としての意義がなくなるおそれがある。また、10質量%よりも多いとシュー用改良材中での分散性が悪く、また、最終的に得られるシューケースの容積が小さくなってしまう場合があるため好ましくない。
本発明のシュー用改良材中の水の含有量が30質量%より少ないと、シュー生地製造時の糊化工程での熱水への分散性が悪い。また、水の含有量が99質量%よりも多いと、シューケースの内相が悪くなりやすい。尚、ここでいう水とは、水道水や天然水等の水の他、上記「乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品」に含まれる水分をはじめ、下記のその他の成分に含まれる水分も含めたものである。
上記のその他の成分としては例えば、食用油脂、ゲル化剤や安定剤、乳化剤、金属イオン封鎖剤、糖類・甘味料、澱粉類、蛋白質、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品以外の乳や乳製品、卵製品、穀類、無機塩、有機酸塩、キモシン等の蛋白質分解酵素、トランスグルタミナーゼ、ラクターゼ(β-ガラクトシダーゼ)、α―アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の糖質分解酵素、ジグリセライド、植物ステロール、植物ステロールエステル、果汁、濃縮果汁、果汁パウダー、乾燥果実、果肉、野菜、野菜汁、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、デキストリン類、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材、着香料、苦味料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤、強化剤等を配合してもよい。
例えば、本発明のシュー用改良材の形態が顆粒状、或いは粉末状の場合は、粉体混合用混合機を使用し、各原料を混合することによって得る方法や、各原料を含有する水溶液や懸濁液或いは水中油型乳化物を製造し、製造した水溶液等をスプレードライやフリーズドライ等により粉末化する方法を挙げることができる。
また、本発明のシュー用改良材の形態が液状、流動状、或いはペースト状の場合は、水や食用油脂等に各原料を溶解又は分散し、必要に応じ、更に均質化することによって得ることができる。水を使用する場合を例に挙げると、まず水に、「乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品」を溶解し、必要に応じ更にその他の水溶性の原料を溶解させた水相を用意する。本発明のシュー用改良材が油脂を含む場合は、水中油型乳化物とすることが好ましい。そしてこの水相(または水中油型乳化物)を殺菌することが好ましい。尚、本発明における殺菌には滅菌も含む。
該殺菌は、インジェクション式、インフュージョン式等の直接加熱方式、或いはプレート式・チューブラー式・掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌若しくは加熱殺菌処理、或いは直火等の加熱調理により行うことができる。そして前記水相を冷却することにより、本発明のシュー用改良材が得られる。
また、殺菌する前又は後で、ホモジナイザーにより均質化しても良い。均質化処理を行う場合の均質化圧力は、3MPa~30MPaとするのが好ましい。
本発明のシュー用油脂組成物は、上記のようにして得られた「乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品」を含有するものである。
本発明のシュー用油脂組成物における上記「乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品」の配合割合は、好ましくは固形分として0.1質量%~20質量%の範囲から適宜選択可能であるが、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%である。
本発明のシュー用油脂組成物における食用油脂含有量は、組成物中50~99質量%、好ましくは60~95質量%である。
水素添加は油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、これによって得られる水素添加油脂は、完全水素添加油脂を除いて、通常、構成脂肪酸中にトランス脂肪酸が10~50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス脂肪酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものが要求されている。すなわち、本発明のシュー用油脂組成物に含まれる食用油脂は、水素添加油脂(但し、完全水素添加油脂は除く)を含有しないことが好ましい。
また、上記乳蛋白質としては、乳蛋白質を含有する乳原料、例えば、生乳、牛乳、加糖練乳、加糖脱脂れん乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン(TMP)、脱脂粉乳、全粉乳、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白濃縮物(WPC)、ホエイ蛋白単離物(WPI)、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、酸カゼイン、クリーム、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等を使用することもでき、また、上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分も乳蛋白質を含有することから、これを使用することもできるが、本発明では、良好な風味とソフト性とを有するシューケースが得られるため、蛋白質として、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分のみを使用することが最も好ましい。
本発明のシュー用油脂組成物における蛋白質含有量は、組成物基準で1~10質量%、より好ましくは1~8質量%である。1質量%未満であると保型性の良好なシューケースが得られず、10質量%を超えると、硬い食感となりやすく、また焦げを生じたりするおそれがある。尚、上記蛋白質含有量には、下記のその他成分に含まれる蛋白質も含むものとする。
カゼインのナトリウム塩は、シューケースの容積・保型性の改良のために、シュー用油脂に一般的に3~6質量%配合されているが、焼成により風味が変化し、膠臭に似た洋菓子に相応しくない臭いを有するのが欠点であり、特にシュークリームを包装し密封した場合、消費者が袋を開けて食しようとするときに、カゼインのナトリウム塩による膠臭に似た臭いが口内に広がり、シュークリームのおいしさを損なっていた。
本発明のシュー用油脂組成物においては、カゼインのナトリウム塩を含まなくても、容積が大きく、保型性及び風味が良好なシューケースを得ることができる。
上記の乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄等の合成乳化剤でない乳化剤が挙げられる。
本発明のシュー用油脂組成物には、例えば、水、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β―カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー等の食品素材や食品添加物を含有させることができる。
本発明のシュー用油脂組成物におけるこれら食品素材や食品添加物の含有量は、一般的なシュー用油脂に準じたものであればよいが、通常は合計で45質量%以下とするのが好ましい。
本発明のシュー用油脂組成物における上記増粘安定剤の好ましい含有量は、0~5質量%、より好ましくは0~2質量%である。
まず、食用油脂を組成物基準で好ましくは50~99質量%となる量を含有する油相を溶解し、ここへ「乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品」を添加するか、或いは「乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品」を含有する水相を混合乳化する。そして、次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンピネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせも挙げられる。
また、本発明のシュー用油脂組成物を製造する際の何れかの工程で、窒素、空気等を含気させてもよい。
本発明のシュー生地は、本発明のシュー用改良材又はシュー用油脂組成物を使用して得られるものであり、シュー生地に含まれる穀粉類100質量部に対し、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品を固形分として好ましくは0.1質量部~12質量部、より好ましくは0.5~10質量部、更に好ましくは0.5~7質量部含有するものである。
尚、本発明のシュー生地におけるその他の原料の種類や配合量については、特に限定されるものではないが、好ましくは、小麦粉100質量部に対し、水100~250質量部、特に120~200質量部、全卵(正味)150~300質量部、特に200~280質量部、油脂(純分)70~150質量部、特に100~140質量部含有する。
本発明のシュー生地は、本発明のシュー用改良材又はシュー用油脂組成物を使用する以外は、一般のシュー生地の製造方法に準じて行えばよく、例えば以下のようにして製造することができる。
本発明のシュー用油脂組成物を、水とともに加熱煮沸して熱水と溶解した油脂との混合物を製造し、この混合物中に小麦粉を添加して捏和し、一般のシュー皮と同様にシュー皮を形成するに適した十分な糊化状態にした後、液卵をミキシングしながら数回に分けて加えて十分に乳化し、必要に応じ更に液卵で硬さを調整してシュー生地を得る。該液卵としては、膨張剤を溶解した液卵を使用してもよい。尚、必要に応じ、前述した乳化剤、糖類及び糖アルコール、澱粉類、無機塩、有機酸塩、ゲル化剤、乳や乳製品、卵製品、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材全般、着香料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、pH調整剤等を、加熱煮沸時或いは液卵の乳化時に添加、混合する。
また、本発明のシュー生地は、本発明のシュー用改良材を用いて製造する場合、シュー用油脂を別途用意し、そのシュー用油脂を上記本発明のシュー用油脂組成物の代わりに使用し、本発明のシュー用改良材を別途添加する以外は、本発明のシュー用油脂組成物を用いたシュー生地製造方法と同様にして製造することができる。
尚、シュー用改良材の添加時期はシュー用油脂と同時に添加することが好ましい。
本発明のシューケースは、本発明のシュー生地を焼成してなるものである。
尚、シュー生地を焼成する際は、通常、天板或いはコンベア上に積置するが、焼型に入れて焼成してもよい。焼成する際の温度は、通常のシューケース同様、好ましくは160℃~250℃、より好ましくは170℃~220℃である。焼成温度が160℃未満であると火どおりが悪く、焼成時間が延びてしまうことに加え、窯落ちが発生するおそれがある。また焼成温度が250℃を超えると、シューケースが焦げついてしまい、外観が悪化することに加え容積も劣ったものとなってしまうおそれがある。尚、焼成時に蓋をかぶせる等の方法で蒸気圧を高めた状態で焼成することで、更に容積の大きなシューケースとすることも可能である。
<シュー用改良材の製造>
デキストリン4質量部、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含量11質量%、乳由来の固形分38質量%、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)10質量部に水85.97質量部を添加し、更にフィチン酸0.03質量部を添加して、pHを5.5に調整した。更にこれをホモジナイザーにて均質化圧力3MPaにて均質化後、UHT加熱処理(142℃、4秒)を行った。そして、再度、ホモジナイザーにて均質化圧力12MPaにて均質化を行った。これを5~10℃に冷却し本発明のシュー用改良材Aを得た。
水140質量部、シュー用マーガリン140質量部及びシュー用改良材A10質量部をミキサーボウルに計量し、ガスコンロにかけ、105℃になるまで加熱溶解した。これに小麦粉100質量部を一気に投入し、十分糊化・混合して糊化物を得た。ミキサーボウルをミキサーにセットし、中速2分ミキシングし、糊化物が55℃まで冷えたところで、全卵220質量部に重炭酸アンモニウム1質量部を溶解した卵液を、中速でミキシングしながら徐々に加え、均一なシュー生地とした。絞り袋にシュー生地を充填し、ベーキングシートを敷いた展板に25g絞り、210℃に設定した固定オーブンで25分(13分経過後は上火カット)焼成し、シューケースAを得た。
得られたシューケースAは、ソフトで口溶けが良好で、且つ、容積が大きく保型性が良好であった。
フィチン酸を無添加とし、水85.97質量部を86質量部に変更した以外は実施例1と同様の配合及び製法で比較例のシュー用改良材Bを得た。
そして、実施例1と同様の配合及び製法でシューケースBを得た。
得られたシューケースBは、容積が大きく保型性が良好であったが、シューケースAに比べてやや口溶けが劣るものであった。
<シュー用改良材の製造>
クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含量11質量%、乳由来の固形分38質量%、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)80質量部に水19.65質量部及びフィチン酸0.35質量部を添加し、これをホモゲナイザーにて均質化圧力3MPaにて均質化後、UHT加熱処理(142℃、4秒)を行った。そして、再度、ホモゲナイザーにて均質化圧力12MPaにて均質化を行った。これを5~10℃に冷却しpH5.2の本発明のシュー用改良材Cを得た。
<シュー生地及びシューケースの製造>
そして、シュー用改良材A10質量部に代えて、上記シュー用改良材C5質量部を使用した以外は実施例1と同様の配合及び製法でシューケースCを得た。
得られたシューケースCは、ソフトで口溶けが良好で、且つ、容積が大きく保型性が良好であった。
フィチン酸を無添加とし、水19.65質量部を20質量部に変更した以外は実施例2と同様の配合及び製法で比較例のシュー用改良材Dを得た。
そして、実施例2と同様の配合及び製法でシューケースDを得た。
得られたシューケースDは、容積が大きく保型性が良好であったが、シューケースCに比べてやや口溶けが劣るものであった。
<シュー用油脂組成物の製造>
ヨウ素価55のパーム分別軟部油のランダムエステル交換油脂A80質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解した後、下記の製法で得られた「酸処理品A」13質量部及び食塩1質量部からなる水相を混合、乳化し、-30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型のマーガリンである、本発明のシュー用油脂組成物Aを得た。得られたシュー用油脂組成物Aは、トランス脂肪酸含有量が2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有せず、また、乳化剤を含有せず、カゼインのナトリウム塩を含有するものでもなかった。
<乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料の酸処理品の製造>
クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量11質量%、乳由来の固形分38質量%、及び乳由来の固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)を55℃に加温し、50%フィチン酸水溶液を0.7質量%添加し、pH4.8に調整した後、3MPaの圧力で均質化し、酸処理品Aを得た。
<シュー生地及びシューケースの製造>
シュー用油脂組成物A140質量部と水140質量部とをミキサーボウルに計量し、ガスコンロにかけ、105℃になるまで加熱溶解した。これに小麦粉100質量部を一気に投入し、十分糊化・混合して糊化物を得た。ミキサーボウルをミキサーにセットし、中速2分ミキシングし、糊化物が55℃まで冷えたところで、全卵250質量部に重炭酸アンモニウム1質量部を溶解した卵液を、中速でミキシングしながら徐々に加え、均一なシュー生地とした。絞り袋にシュー生地を充填し、ベーキングシートを敷いた展板に25g絞り、210℃に設定した固定オーブンで25分(13分経過後は上火カット)焼成し、シューケースEを得た。
得られたシューケースEは、ソフトで口溶けが良好で、且つ、容積が大きく保型性が良好であった。
酸処理品Aをクリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量11質量%、乳由来の固形分38質量%、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)に等量置換した以外は実施例3と同様の配合及び製法で、油中水型のマーガリンである、比較例のシュー用油脂組成物Bを得た。
そして実施例3と同様の配合及び製法でシューケースFを得た。
得られたシューケースFは、容積が大きく保型性が良好でソフトであったが、シューケースEに比べて口溶けが劣るものであった。
ヨウ素価55のパーム分別軟部油のランダムエステル交換油脂A80質量部、グリセリンモノ脂肪酸エステル0.3質量部、レシチン0.1質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、カゼインナトリウム4質量部、50%フィチン酸水溶液0.2質量部、食塩1質量部及び水14.4質量部からなる水相(pH5.0)を混合、乳化し、-30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型のマーガリンである、比較例のシュー用油脂組成物Cを得た。得られたシュー用油脂組成物Cのトランス脂肪酸含有量は2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有せず、また、乳化剤を0.4質量%、カゼインのナトリウム塩を4質量%含有するものであった。
そして実施例3と同様の配合及び製法でシューケースGを得た。
得られたシューケースGは、容積が大きく保型性が良好であったが、シューケースEに比べて風味が悪く、ソフト性と口溶けが劣るものであった。
酸処理品A19質量部及び食塩1質量部からなる水相を、脱脂粉乳4質量部、50%フィチン酸水溶液0.2質量部、食塩1質量部及び水10.8質量部からなる水相(pH5.0)に変更した以外は実施例3と同様の配合及び製法で、油中水型のマーガリンである、比較例のシュー用油脂組成物Dを得た。得られたシュー用油脂組成物Dはややざらが感じられた。
そして実施例3と同様の配合及び製法でシューケースHを得た。
得られたシューケースHは、シューケースEに比べて容積が小さく・保型性も劣り、またソフト性と口溶けも劣るものであった。
酸処理品A19質量部及び食塩1質量部からなる水相を、酸処理品A10質量部、カゼインナトリウム2質量部、食塩1質量部及び水6質量部からなるからなる水相に変更した以外は実施例3と同様の配合及び製法で、油中水型のマーガリンである、実施例のシュー用油脂組成物Eを得た。
そして実施例3と同様の配合及び製法でシューケースIを得た。
得られたシューケースIは、ソフトで口溶けが良好で、シューケースEに比べて容積が大きく保型性が良好であったが、シューケースEに比べてやや風味が劣るものであった。
酸処理品A19質量部及び食塩1質量部からなる水相を、酸処理品A10質量部、脱脂粉乳3質量部、食塩1質量部及び水5質量部からなるからなる水相に変更した以外は実施例3と同様の配合及び製法で、油中水型のマーガリンである、実施例のシュー用油脂組成物Fを得た。
そして実施例3と同様の配合及び製法でシューケースJを得た。
得られたシューケースJは、シューケースEに比べてやや容積が大きく保型性もやや良好であったが、シューケースEに比べて若干ソフト性と口溶けが劣るものであった。
Claims (2)
- 乳原料の酸処理品及び水を含有し、
前記乳原料は、乳由来の固形分を含み、該固形分中のリン脂質の含有量が該固形分に対し2質量%以上であり、
液状又はペースト状であり且つ水の含有量が30~99質量%であり、
前記乳原料の酸処理品由来のリン脂質含量が0.01~10質量%であるシュー用改良材(但し油脂組成物からなるシュー用改良材を除く。)。 - 前記乳原料は、固形分中のリン脂質の含有量が該固形分に対し5~40質量%である、請求項1に記載のシュー用改良材。
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