本発明に係る一実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示す本実施形態のマスタシリンダ11は、図示略のブレーキペダルの操作量に応じた力がブレーキブースタ1(図1において一部のみ図示)の出力軸10を介して導入され、ブレーキペダルの操作量に応じたブレーキ液圧を発生させる。このマスタシリンダ11には、鉛直方向上側にブレーキ液を給排するリザーバ12(図1において一部のみ図示)が取り付けられている。なお、本実施形態においては、マスタシリンダ11に直接リザーバ12を取り付けているが、マスタシリンダ11から離間した位置にリザーバを配置し、リザーバとマスタシリンダ11とを配管で接続するようにしても良い。
マスタシリンダ11は、底部13と筒部14とを有する有底筒状に一つの素材から加工されて形成される金属製のシリンダ本体15を有している。シリンダ本体15は、軸線方向が車両前後方向に沿う姿勢で車両に配置される。このシリンダ本体15の開口部16側には、金属製のプライマリピストン(ピストン)18が移動可能に配設されている。また、シリンダ本体15のプライマリピストン18よりも底部13側には、同じく金属製のセカンダリピストン(ピストン)19が移動可能に配設されている。プライマリピストン18には底面を有する内周孔21が形成されている。セカンダリピストン19には底面を有する内周孔22が形成されている。マスタシリンダ11は、いわゆるプランジャ型に形成されている。また、マスタシリンダ11は、上記したように2つのプライマリピストン18およびセカンダリピストン19を有するタンデムタイプのマスタシリンダである。なお、本実施形態は、上記タンデムタイプのマスタシリンダへの適用に限られず、プランジャ型のマスタシリンダであれば、シリンダ本体に1つのピストンを配したシングルタイプのマスタシリンダや、3つ以上のピストンを有するマスタシリンダ等のいかなるプランジャ型のマスタシリンダにも適用できる。
シリンダ本体15には、筒部14の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)の外側に突出する取付台部23が筒部14の円周方向(以下、シリンダ周方向と称す)における所定位置に一体に形成されている。この取付台部23には、リザーバ12を取り付けるための取付穴24および取付穴25が形成されている。なお、本実施形態においては、取付穴24および取付穴25は、互いにシリンダ周方向における位置を一致させた状態で、シリンダ本体15の筒部14の軸線(以下、シリンダ軸と称す)方向における位置をずらして鉛直方向上部に形成されている。
シリンダ本体15の筒部14の取付台部23側には、底部13の近傍にセカンダリ吐出路(吐出路)26が形成されている。また、セカンダリ吐出路26よりもシリンダ本体15の開口部16側にプライマリ吐出路(吐出路)27が形成されている。これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27は、図示は略すが、ブレーキ配管を介してディスクブレーキやドラムブレーキ等の制動用シリンダに連通しており、制動用シリンダに向けてブレーキ液を吐出する。なお、本実施形態においては、これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27は、互いにシリンダ周方向における位置を一致させた状態でシリンダ軸方向における位置をずらして形成されている。
セカンダリピストン19は、シリンダ本体15の筒部14の底部13側の内周部に形成された摺動内径部28に摺動可能に嵌合され、摺動内径部28で案内されてシリンダ軸方向に移動する。プライマリピストン18は、シリンダ本体15の筒部14の開口部16側の内周部に形成された摺動内径部29に摺動可能に嵌合され、摺動内径部29で案内されてシリンダ軸方向に移動する。
摺動内径部28には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数、具体的には2カ所の、いずれも円環状の形状を有する周溝30、周溝31が底部13側からこの順に形成されている。また、摺動内径部29にも、シリンダ軸方向における位置をずらして複数、具体的には2カ所の、いずれも円環状の形状を有する周溝32、周溝33が底部13側からこの順に形成されている。
これら周溝30〜33は、シリンダ周方向に環状の形状を有し、シリンダ径方向外側に凹む形状を有するように、いずれも全体が切削加工により形成されている。
周溝30〜33のうち最も底部13側にある周溝30は、取付穴24および取付穴25のうちの底部13側の取付穴24の近傍に形成されている。この周溝30内には、周溝30に保持されるように、円環状のピストンシール35が配置されている。
シリンダ本体15の摺動内径部28における周溝30よりも開口部16側には、底部13側の取付穴24から穿設される連通穴36を筒部14内に開口させるように、シリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝37が形成されている。ここで、この開口溝37と連通穴36とが、シリンダ本体15に設けられてリザーバ12に常時連通するセカンダリ補給路(補給路)38を構成している。
シリンダ本体15の摺動内径部28の周溝30よりも底部13側には、周溝30に開口するとともに周溝30からシリンダ軸方向に直線状に底部13側に向け延出する図示略の連通溝が、シリンダ径方向外側に凹むように形成されている。この連通溝は、底部13と周溝30との間であって底部13の近傍となる位置に形成されたセカンダリ吐出路26と周溝30とを後述のセカンダリ圧力室68を介して連通させる。
シリンダ本体15の摺動内径部28には、シリンダ軸線方向における上記開口溝37の周溝30とは反対側つまりシリンダ本体15の開口部16側に、上記周溝31が形成されている。この周溝31内には、周溝31に保持されるように、円環状の区画シール42が配置されている。
シリンダ本体15の摺動内径部29には、開口部16側の取付穴25の近傍に、上記した周溝32が形成されている。この周溝32内には、周溝32に保持されるように、円環状のピストンシール45が配置されている。
シリンダ本体15の摺動内径部29におけるこの周溝32の開口部16側には、開口部16側の取付穴25から穿設される連通穴46を筒部14内に開口させるように、シリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝47が形成されている。ここで、この開口溝47と連通穴46とが、シリンダ本体15に設けられてリザーバ12に常時連通するプライマリ補給路(補給路)48を主に構成している。
シリンダ本体15の摺動内径部29の周溝32よりも底部13側には、周溝32に開口するとともに周溝32からシリンダ軸方向に直線状に底部13側に向け延出する図示略の連通溝が、シリンダ径方向外側に凹むように形成されている。この連通溝は、セカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27のうち周溝31に近い側に配置されたプライマリ吐出路27と、周溝32とを後述するプライマリ圧力室85を介して連通させる。
シリンダ本体15の摺動内径部29における上記開口溝47の周溝32とは反対側つまりシリンダ本体15の開口部16側に周溝33が形成されている。この周溝33内には、周溝33に保持されるように、円環状の区画シール52が配置されている。
シリンダ本体15の底部13側に配置されるセカンダリピストン19は、第1円筒状部55と、第1円筒状部55の軸線方向における一側に形成された底部56と、底部56の第1円筒状部55とは反対側に形成された第2円筒状部57とを有する形状に形成されている。上記内周孔22は、これらのうちの第1円筒状部55と底部56とにより形成されている。セカンダリピストン19は、第1円筒状部55をシリンダ本体15の底部13側に配置した状態で、シリンダ本体15の摺動内径部28に設けられたピストンシール35および区画シール42のそれぞれの内周に摺動可能に嵌合される。
第1円筒状部55の底部56とは反対の端側外周部には、セカンダリピストン19において最も大径の最大外径面58よりも径方向内方に位置するように段差形状を有する環状の段部59が形成されている。この段部59には、その底部56側にシリンダ径方向に貫通するポート60が複数、シリンダ周方向の等間隔位置に、放射状に形成されている。
セカンダリピストン19とシリンダ本体15の底部13との間には、ブレーキブースタ1の出力軸10から押圧力の入力がない非制動状態でこれらの間隔を決めるセカンダリピストンスプリング62を含む間隔調整部63が設けられている。この間隔調整部63は、シリンダ本体15の底部13に当接する係止部材64と、この係止部材64に所定範囲内でのみ摺動するように連結されてセカンダリピストン19の底部56に当接する係止部材65とを有している。上記セカンダリピストンスプリング62は、係止部材64と係止部材65との間に介装されている。
ここで、シリンダ本体15の底部13および筒部14の底部13側とセカンダリピストン19とで囲まれて形成される部分が、ブレーキ液圧を発生してセカンダリ吐出路26にブレーキ液圧を供給するセカンダリ圧力室(圧力室)68を構成している。言い換えれば、セカンダリピストン19は、シリンダ本体15との間に、セカンダリ吐出路26に液圧を供給するセカンダリ圧力室68を形成している。このセカンダリ圧力室68は、セカンダリピストン19がポート60を開口溝37に開口させる位置にあるとき、セカンダリ補給路38つまりリザーバ12に連通するように構成されている。
シリンダ本体15の周溝31に保持される区画シール42は、合成ゴムから形成される一体成形品であり、その中心線を含む径方向断面の片側形状がC字状に形成されている。区画シール42は、内周が、シリンダ軸方向に移動するセカンダリピストン19の外周に摺接するとともに、外周がシリンダ本体15の周溝31に当接する。これにより、区画シール42は、セカンダリピストン19およびシリンダ本体15の区画シール42の位置の隙間を常時密封する。
シリンダ本体15の周溝30に保持されるピストンシール35は、EPDM等の合成ゴムから形成される一体成形品であり、その中心線を含む径方向断面の片側形状がE字状に形成されている。ピストンシール35の内周は、シリンダ軸方向に移動するセカンダリピストン19の外周に摺接する。また、ピストンシール35の外周は、シリンダ本体15の周溝30に当接するように構成されている。このピストンシール35は、セカンダリピストン19がポート60をピストンシール35よりも底部13側に位置させた状態では、セカンダリ補給路38とセカンダリ圧力室68との間を密封できるように構成されている。つまり、ピストンシール35は、セカンダリ圧力室68と、セカンダリ補給路38およびリザーバ12との連通を遮断することが可能である。この密封状態で、セカンダリピストン19が、シリンダ本体15の摺動内径部28およびシリンダ本体15に保持されたピストンシール35および区画シール42の内周で摺動して底部13側に移動することによって、セカンダリ圧力室68内のブレーキ液が加圧される。セカンダリ圧力室68内で加圧されたブレーキ液は、セカンダリ吐出路26から車輪側の制動用シリンダに供給される。
ブレーキブースタ1の出力軸10から押圧力の入力がなく上述のセカンダリピストン19が図1に示すようにポート60を開口溝37に開口させる基本位置(非制動位置)にあるときに、ピストンシール35は、上記セカンダリピストン19の段部59内でポート60にその一部が重なるように構成されている。そして、セカンダリピストン19がシリンダ本体15の底部13側へ移動してピストンシール35の内周部がポート60に全て重なると、セカンダリ圧力室68とリザーバ12との連通が遮断されるように構成されている。
シリンダ本体15の開口部16側に配置されるプライマリピストン18は、第1円筒状部71と、第1円筒状部71の軸線方向における一側に形成された底部72と、底部72の第1円筒状部71とは反対側に形成された第2円筒状部73とを有する形状に形成されている。上記内周孔21は、これらのうちの第1円筒状部71と底部72とにより形成されている。プライマリピストン18は、第1円筒状部71をシリンダ本体15内のセカンダリピストン19側に配置した状態で、シリンダ本体15の摺動内径部29に設けられたピストンシール45および区画シール52のそれぞれの内周に摺動可能に嵌合される。ここで、第2円筒状部73の内側には、ブレーキブースタ1の出力軸10が挿入され、この出力軸10によって底部72が押圧される。
第1円筒状部71の底部72とは反対の端側外周部には、プライマリピストン18において最も大径の最大外径面74よりも径方向内方に位置するように段差状の形状を有する環状の凹部75が形成されている。この凹部75には、その底部72側に径方向に貫通するポート76が複数、シリンダ周方向の等間隔位置に、放射状に形成されている。
セカンダリピストン19とプライマリピストン18との間には、ブレーキブースタ1の出力軸10から押圧力の入力がない非制動状態でこれらの間隔を決めるプライマリピストンスプリング78を含む間隔調整部79が設けられている。この間隔調整部79は、セカンダリピストン19の底部56に当接する係止部材81と、プライマリピストン18の底部72に当接する係止部材82と、係止部材81に一端部が固定されるとともに係止部材82を所定範囲内でのみ摺動自在に支持する軸部材83とを有している。上記プライマリピストンスプリング78は、係止部材81と係止部材82との間に介装されている。
ここで、シリンダ本体15の筒部14とプライマリピストン18とセカンダリピストン19とで囲まれて形成される部分が、ブレーキ液圧を発生してプライマリ吐出路27にブレーキ液を供給するプライマリ圧力室(圧力室)85を構成している。言い換えれば、プライマリピストン18は、セカンダリピストン19とシリンダ本体15との間に、プライマリ吐出路27に液圧を供給するプライマリ圧力室85を形成している。このプライマリ圧力室85は、プライマリピストン18がポート76を開口溝47に開口させる位置にあるとき、プライマリ補給路48つまりリザーバ12に連通するように構成されている。
シリンダ本体15の周溝33に保持される区画シール52は、区画シール42と同じ部品であり、合成ゴムから形成される一体成形品であって、その中心線を含む径方向断面の片側形状がC字状に形成されている。区画シール52は、内周が、シリンダ軸方向に移動するプライマリピストン18の外周に摺接するとともに、外周がシリンダ本体15の周溝33に当接する。これにより、区画シール52は、プライマリピストン18およびシリンダ本体15の区画シール52の位置の隙間を常時密封する。
シリンダ本体15の周溝32に保持されるピストンシール45は、ピストンシール35と同じ部品であり、EPDM等の合成ゴムから形成される一体成形品であって、その中心線を含む径方向断面の片側形状がE字状に形成されている。ピストンシール45の内周は、シリンダ軸方向に移動するプライマリピストン18の外周に摺接する。ピストンシール45の外周は、シリンダ本体15の周溝32に当接するように構成されている。このピストンシール45は、プライマリピストン18がポート76をピストンシール45よりも底部13側に位置させた状態では、プライマリ補給路48とプライマリ圧力室85との間を密封できるように構成されている。つまり、ピストンシール45は、プライマリ圧力室85と、プライマリ補給路48およびリザーバ12との連通を遮断することが可能である。この密封状態で、プライマリピストン18が、シリンダ本体15の摺動内径部29およびシリンダ本体15に保持されたピストンシール45および区画シール52の内周で摺動して底部13側に移動することによって、プライマリ圧力室85内のブレーキ液が加圧される。プライマリ圧力室85内で加圧されたブレーキ液は、プライマリ吐出路27から車輪側の制動用シリンダに供給される。
ブレーキブースタ1の出力軸10から押圧力の入力がなく、プライマリピストン18が図1に示すようにポート76を開口溝47に開口させる基本位置(非制動位置)にあるときに、ピストンシール45は、上記プライマリピストン18の凹部75内でポート76にその一部が重なるように構成されている。そして、プライマリピストン18がシリンダ本体15の底部13側へ移動してピストンシール45の内周部がポート76に全て重なると、プライマリ圧力室85とリザーバ12との連通が遮断されるように構成されている。
ここで、シリンダ本体15の周溝30およびその近傍部分と、ピストンシール35と、セカンダリピストン19のピストンシール35の摺接部分とから構成される構造部をセカンダリ側のシール構造部SSと称する。また、シリンダ本体15の周溝32およびその近傍部分と、ピストンシール45と、プライマリピストン18のピストンシール45の摺接部分とから構成される構造部をプライマリ側のシール構造部SPと称する。ピストンシール35とピストンシール45とは共通部品であり、セカンダリ側のシール構造部SSとプライマリ側のシール構造部SPとは同様の構造である。したがって、以下においては、これらの詳細についてプライマリ側のシール構造部SPを例にとり、主に図2〜図5を参照して説明する。
図2に示すように、周溝32は、シリンダ径方向の外側(図2における上側)にある溝底部(周溝32の底部)88を有している。また、周溝32は、溝底部88におけるシリンダ本体15の開口部16側(図2における右側。以下、シリンダ開口側と称す)の端縁部からシリンダ径方向内方に延出する周壁89を有している。さらに、周溝32は、溝底部88におけるシリンダ本体15の底部13側(図2における左側。以下、シリンダ底側と称す)の端縁部からシリンダ径方向内方に延出する周壁90を有している。これら溝底部88、周壁89および周壁90は、シリンダ本体15に一体的に形成されており、シリンダ本体15に対する切削加工により形成される。
溝底部88は溝底面88aを有している。溝底面88aは、シリンダ軸を中心とする円筒面に形成されており、シリンダ軸方向の長さが一定に形成されている。
周壁89は、壁面89aを有している。壁面89aはシリンダ軸の直交面に平行な平坦面から構成されている。この壁面89aは、一定内径かつ一定外径でシリンダ径方向に一定幅に形成されており、シリンダ軸を中心とする円環状に形成されている。壁面89aの大径側の端縁部と溝底面88aのシリンダ開口側の端縁部とはR面取りで接続されている。壁面89aの小径側の端縁部と摺動内径部29とはR面取りで接続されている。
周壁89に対向する周壁90は、外側壁面90aと、中間傾斜面90bと、内側壁面90cと、内側傾斜面90dとを有している。外側壁面90aは、溝底部88におけるシリンダ底側の端縁部からシリンダ径方向の内方に延びている。外側壁面90aは、シリンダ軸の直交面に平行な平坦面から構成されている。外側壁面90aは、一定内径かつ一定外径でシリンダ径方向に一定幅に形成されており、シリンダ軸を中心とする円環状に形成されている。
中間傾斜面90bは、外側壁面90aのシリンダ径方向の内端縁部からシリンダ径方向の内方に、シリンダ径方向の内側ほどシリンダ底側に位置するようにシリンダ軸に対し傾いて延出している。言い換えれば、中間傾斜面90bは、外側壁面90aのシリンダ径方向の内端縁部からシリンダ底側に、シリンダ底側ほど縮径するようにテーパ状に形成されて延出している。中間傾斜面90bは、シリンダ径方向の幅およびシリンダ軸方向の長さがそれぞれ一定に形成されている。
内側壁面90cは、中間傾斜面90bのシリンダ径方向の内端縁部からシリンダ径方向の内方に延びている。内側壁面90cは、シリンダ軸の直交面に平行な平坦面から構成されている。内側壁面90cは、一定内径かつ一定外径でシリンダ径方向に一定幅に形成されており、シリンダ軸を中心とする円環状に形成されている。
内側傾斜面90dは、内側壁面90cのシリンダ径方向の内端縁部からシリンダ径方向の内方に、シリンダ径方向の内側ほどシリンダ底側に位置するようにシリンダ軸に対し傾いて延出している。言い換えれば、内側傾斜面90dは、内側壁面90cのシリンダ径方向の内端縁部からシリンダ底側に、シリンダ底側ほど縮径するようにテーパ状に形成されて延出している。内側傾斜面90dは、シリンダ径方向の幅およびシリンダ軸方向の長さがそれぞれ一定に形成されている。
外側壁面90aの大径側の端縁部と溝底面88aのシリンダ開口側の端縁部とはR面取りで接続されている。内側傾斜面90dの小径側の端縁部と摺動内径部29とはR面取りで接続されている。
以上により、周壁90には、その径方向の中間部に、径方向内側が径方向外側よりもシリンダ底側に位置する段部91が形成されている。この段部91は、外側壁面90aの中間傾斜面90b側の一部と、中間傾斜面90bと、内側壁面90cの中間傾斜面90b側の一部とを含んでいる。テーパ状の中間傾斜面90bが内側壁面90cと外側壁面90aとの間に設けられることで、内側壁面90cは全体として外側壁面90aよりもシリンダ底側にオフセットして設けられている。これにより、相互に平行な外側壁面90aと周壁89の壁面89aとのシリンダ軸方向の幅の方が、相互に平行な内側壁面90cと周壁89の壁面89aとのシリンダ軸方向の幅よりも狭く形成されている。中間傾斜面90bのシリンダ径方向の幅は、外側壁面90aのシリンダ径方向の幅よりも狭く、内側壁面90cのシリンダ径方向の幅よりも狭く形成されている。中間傾斜面90bは、内側壁面90cとの間に鈍角の角度を有する。
プライマリピストン18に形成された凹部75は、円筒面75aとテーパ面75bとテーパ面75cとを有している。円筒面75aは、プライマリピストン18において最も大径である円筒面状の最大外径面74よりも小径であり、軸方向に一定幅に形成されている。テーパ面75bは、円筒面75aのシリンダ開口側の端縁部からシリンダ開口側ほど大径に形成されるように傾斜して延出して最大外径面74の凹部75よりもシリンダ開口側の部分に繋がっている。テーパ面75cは、円筒面75aのシリンダ底側の端縁部からシリンダ底側ほど大径に形成されるように傾斜して延出して最大外径面74の凹部75よりもシリンダ底側の部分に繋がっている。
これら円筒面75a、テーパ面75bおよびテーパ面75cは、最大外径面74と同様にプライマリピストン18の中心軸を中心に形成されている。プライマリ圧力室85に常時連通するポート76は、円筒面75aおよびテーパ面75bの両方に架かる位置に形成されており、言い換えれば、そのシリンダ底側の端部が円筒面75aに、そのシリンダ開口側の端部がテーパ面75bに、それぞれ位置している。
周溝32に配置されるピストンシール45は、基部101と内周リップ部102と外周リップ部103と中間突出部104とを有している。基部101は、ピストンシール45におけるシリンダ開口側(図2における右側)に配置されており、ピストンシール45の軸直交面に平行な円環板状に形成されている。内周リップ部102は、基部101の内周端縁部からシリンダ軸方向に沿ってシリンダ底側(図2における左側)に向け突出する円環筒状に形成されている。外周リップ部103は、基部101の外周端縁部からシリンダ軸方向に沿ってシリンダ底側に向けて突出する円環筒状に形成されている。中間突出部104は、外周リップ部103と内周リップ部102との間にあって基部101からシリンダ軸方向に沿ってシリンダ底側に向けて突出する円環筒状に形成されている。中間突出部104は、基部101からの突出量が、内周リップ部102および外周リップ部103の基部101からの突出量よりも大きく形成されている。
ピストンシール45は、内周リップ部102が、シリンダ軸方向に移動するプライマリピストン18の、上記した円筒面75a、テーパ面75b、テーパ面75cおよび最大外径面74を含む外周面18aに摺接し、外周リップ部103が、シリンダ本体15の周溝32の溝底部88の溝底面88aに当接する。
図3A,図3Bおよび図4を参照して、マスタシリンダ11に組み込まれる前の自然状態にあるピストンシール45について説明する。基部101、内周リップ部102、外周リップ部103および中間突出部104は、中心軸を一致させており、この中心軸がピストンシール45の中心軸である。以下では、ピストンシール45の中心軸線方向をシール軸方向、ピストンシール45の円周方向をシール周方向、ピストンシール45の径方向をシール径方向とそれぞれ称す。また、軸方向の基部101側を裏側とし、軸方向の内周リップ部102、外周リップ部103および中間突出部104の基部101からの突出側を表側として説明する。
ピストンシール45には、中間突出部104の延出先端側に、図3Aに示すように、中間溝106がシール周方向に等間隔で複数(具体的には本実施形態においては8カ所)形成されている。また、ピストンシール45には、内周リップ部102の延出先端側に、内側リップ溝107がシール周方向に等間隔で複数(具体的に本実施形態においては中間溝106と同数の8カ所)形成されている。内側リップ溝107はシール周方向の幅が中間溝106のシール周方向の幅よりも狭く形成されている。また、ピストンシール45には、外周リップ部103の延出先端側に、外側リップ溝110がシール周方向に等間隔で複数(具体的には本実施形態においては中間溝106と同数の8カ所)形成されている。
一つの中間溝106と一つの内側リップ溝107とが、それぞれのシール周方向の中央位置を、シール周方向において合わせており、このようにしてシール径方向に並んだ中間溝106および内側リップ溝107の組が、シール周方向に等間隔で複数組(具体的に本実施形態においては8組)形成されている。また、外側リップ溝110は、そのシール周方向の中央位置を、シール周方向に隣り合う中間溝106と中間溝106との間の中央位置に、シール周方向において合わせている。その結果、中間溝106および内側リップ溝107の組と、外側リップ溝110とがシール周方向に交互に配置されている。
図4に示すように、中間溝106は、中間突出部104をシール径方向に貫通している。内側リップ溝107は内周リップ部102をシール径方向に貫通している。外側リップ溝110は外周リップ部103をシール径方向に貫通している。
基部101は、背面101aと湾曲面101bとを有している。背面101aは、ピストンシール45においてシール軸方向の最も裏側の端部に位置しており、ピストンシール45の軸直交面に平行な平坦面から構成されている。背面101aは、一定内径かつ一定外径で径方向に一定幅に形成されており、ピストンシール45の中心軸を中心とする円環状に形成されている。
湾曲面101bは、径方向外側ほど表側に位置するように傾斜している。湾曲面101bは、ピストンシール45の中心軸を含む断面の形状が基部101の内部側に中心を有する円弧状に形成されている。湾曲面101bは、一定内径かつ一定外径でシール径方向に一定幅に形成されており、シール軸方向に一定長さに形成されている。湾曲面101bは、ピストンシール45の中心軸を中心とする円環状に形成されている。
内周リップ部102は、基部101からシール軸方向に離れるほど全体として若干小径となるテーパ筒状に形成されている。基部101および内周リップ部102の内周側には、軸方向の裏側から順に、縮径内周面102aと拡径内周面102bと円筒内周面102cとが形成されている。縮径内周面102aは、基部101と内周リップ部102とに跨って形成されており、背面101aのシール径方向の内側から、表側に位置するほど小径となる(つまり縮径する)ように、ピストンシール45の中心軸を中心とするテーパ状に形成されて延出している。縮径内周面102aは、シール軸方向に一定長さに形成されている。
拡径内周面102bは、内周リップ部102に形成されており、縮径内周面102aのシール軸方向の表側の端縁部から、表側に位置するほど大径となる(つまり拡径する)ように、ピストンシール45の中心軸を中心とするテーパ状に形成されて延出している。拡径内周面102bはシール軸方向に一定長さに形成されている。
円筒内周面102cは、内周リップ部102に形成されており、拡径内周面102bのシール軸方向の表側の端縁部から、表側に延出している。内周リップ部102に複数の内側リップ溝107が形成されていることにより、円筒内周面102cは、ピストンシール45の中心軸を中心とする同一円筒面上にこの円筒面の一部を断続的に構成するように形成されている。円筒内周面102cはシール軸方向に一定長さに形成されている。
内周リップ部102の外周側には、縮径外周面102dが形成されている。この縮径外周面102dは、シール軸方向の表側ほど小径となる(つまり縮径する)ようにピストンシール45の中心軸を中心とするテーパ筒状に形成されて延出している。縮径外周面102dは、内側リップ溝107が形成されている部分がシール軸方向に一定長さに形成されており、内側リップ溝107が形成されていない部分がシール軸方向に一定長さに形成されている。
内周リップ部102の最も表側の先端面102eは、ピストンシール45の軸直交面に平行に形成されている。先端面102eは、一定内径かつ一定外径でシール径方向に一定幅に形成されている。先端面102eは、複数の内側リップ溝107が形成されていることにより、ピストンシール45の軸直交面に平行な同一平面上にこの平面の一部を断続的に構成するように形成されている。先端面102eは、ピストンシール45の中心軸を中心とする同一円上の位置に配置されている。
背面101aのシール径方向内側の端縁部と縮径内周面102aの裏側の端縁部とはR面取りで接続されている。円筒内周面102cの表側の端縁部と先端面102eのシール径方向内側の端縁部とはR面取りで接続されている。縮径外周面102dの表側の端縁部と先端面102eのシール径方向外側の端縁部とはR面取りで接続されている。
内周リップ部102においては、縮径内周面102aと拡径内周面102bとの境界部分が、内径が最も小径の最小径部111である。この最小径部111はピストンシール45の中心軸を中心とする円形に形成されている。最小径部111は、ピストンシール45においても、内径が最も小径の部分である。
図3Aに示すように、複数の内側リップ溝107は、それぞれ、一対の対向面107aおよび対向面107aと、底面107bとを有している。一対の対向面107aおよび対向面107aは、それぞれがピストンシール45の半径線に沿い且つシール軸方向に沿っており、互いに平行に形成されている。複数の内側リップ溝107の複数の底面107bは、ピストンシール45の軸直交面に平行な同一平面にその一部を断続的に構成するように配置されている。複数の底面107bは、ピストンシール45の中心軸を中心とする同一円上の位置に配置されている。
図4に示すように、外周リップ部103は、シール軸方向の表側ほど全体として大径となるようにピストンシール45の中心軸を中心とするテーパ筒状に形成されて延出している。
外周リップ部103は、基部101から延出する本体部112と、本体部112の基部101とは反対側の端部にあって本体部112よりもシール径方向に薄い薄肉部113とから構成されている。薄肉部113は、本体部112の表側端部のシール径方向の内端位置に形成されている。この薄肉部113に上記した外側リップ溝110が形成されている。
外周リップ部103の内周側には、シール軸方向の裏側から順に、拡径内周面103aと円筒内周面103bとが形成されている。拡径内周面103aは、シール軸方向の表側ほど大径となる(つまり拡径する)ようにピストンシール45の中心軸を中心とするテーパ状に形成されて延出している。拡径内周面103aはシール軸方向に一定長さを有する。円筒内周面103bは、拡径内周面103aの表側の端縁部から、ピストンシール45の中心軸を中心とする円筒面状に形成されて延出している。円筒内周面103bは、外側リップ溝110が形成されている部分がシール軸方向に一定長さを有しており、外側リップ溝110が形成されていない部分がシール軸方向に一定長さを有している。
外周リップ部103の本体部112および基部101の外周側には、シール軸方向の裏側から順に、上記した湾曲面101bと拡径外周面112aと円筒外周面112bとが形成されている。拡径外周面112aは、基部101と本体部112とに跨って形成されており、湾曲面101bの表側の端縁部から、シール軸方向の表側ほど大径となる(つまり拡径する)ようにピストンシール45の中心軸を中心とするテーパ状に形成されて延出している。拡径外周面112aはシール軸方向に一定長さに形成されている。円筒外周面112bは、拡径外周面112aの表側の端縁部から、ピストンシール45の中心軸を中心とする円筒面状に形成されて延出している。円筒外周面112bはシール軸方向に一定長さに形成されている。本体部112の表側の先端面112cは、ピストンシール45の軸直交面に平行な平坦面に形成されており、この先端面112cから薄肉部113が突出している。
薄肉部113は円筒外周面113aを有している。薄肉部113に複数の外側リップ溝110が形成されていることによって、円筒外周面113aは、ピストンシール45の中心軸を中心とする円筒面の一部を断続的に構成するように形成されている。薄肉部113の先端面113bは、外周リップ部103の先端面を構成している。先端面113bは、一定内径かつ一定外径でシール径方向に一定幅に形成されている。薄肉部113に複数の外側リップ溝110が形成されていることにより、ピストンシール45の軸直交面に平行な同一平面上にこの平面の一部を断続的に構成するように形成されている。先端面113bは、ピストンシール45の中心軸を中心とする同一円上に形成されている。
図3Aに示すように、複数の外側リップ溝110は、それぞれ、一対の対向面110aおよび対向面110aと、底面110bとを有している。一対の対向面110aおよび対向面110aは、それぞれがピストンシール45の半径線に沿い且つシール軸方向に沿っており、互いに平行に形成されている。底面110bは、本体部112の先端面112cの一部から構成されている。複数の外側リップ溝110の複数の底面110bは、ピストンシール45の軸直交面に平行な同一平面にその一部を断続的に構成するように配置されている。複数の底面110bは、ピストンシール45の中心軸を中心とする同一円上の位置に配置されている。
図4に示すように、中間突出部104の内周側には、拡径内周面104aが形成されている。拡径内周面104aは、シール軸方向の表側ほど若干大径となるようにピストンシール45の中心軸を中心とするテーパ状に形成されて基部101から延出している。中間突出部104には、中間溝106および後述する内周側溝120がシール周方向の位置を合わせて形成されている。このため、拡径内周面104aは、中間溝106が形成されていない部分がシール軸方向に一定の長さを有している。拡径内周面104aは、中間溝106が形成され内周側溝120が形成されていない部分がシール軸方向に一定の長さを有している。拡径内周面104aは、内周側溝120が形成された部分がシール軸方向に一定の長さを有している。
中間突出部104の外周側には、縮径外周面104bが形成されている。縮径外周面104bは、シール軸方向の表側ほど若干小径となるようにピストンシール45の中心軸を中心とするテーパ状に形成されて基部101から延出している。中間突出部104には中間溝106が形成されている。このため、縮径外周面104bは、中間溝106が形成されていない部分がシール軸方向に一定の長さを有している。縮径外周面104bは、中間溝106が形成された部分がシール軸方向に一定の長さを有している。
中間突出部104の表側の先端面104cは、ピストンシール45の軸直交面に平行に形成されており、一定内径かつ一定外径でシール径方向に一定幅に形成されている。中間突出部104に複数の中間溝106が形成されていることにより、先端面104cは、ピストンシール45の軸直交面に平行な同一平面上にこの平面の一部を断続的に構成するように形成されている。先端面104cは、ピストンシール45の中心軸を中心とする同一円上の位置に配置されている。
拡径内周面104aの表側の端縁部と先端面104cのシール径方向内側の端縁部とはR面取りで接続されている。縮径外周面104bの表側の端縁部と先端面104cのシール径方向外側の端縁部とはR面取りで接続されている。拡径内周面104aの裏側の端縁部と内周リップ部102の縮径外周面102dの裏側の端縁部とはR面取りで接続されている。縮径外周面104bの裏側の端縁部と外周リップ部103の拡径内周面103aの裏側の端縁部とはR面取りで接続されている。
図3Aに示すように、複数の中間溝106は、それぞれ、一対の対向面106aおよび対向面106aと、底面106bとを有している。一対の対向面106aおよび対向面106aは、それぞれがピストンシール45の半径線に沿い且つシール軸方向に沿っており、互いに平行に形成されている。複数の底面106bは、ピストンシール45の軸直交面に平行な同一平面にその一部を断続的に構成するように配置されている。複数の底面106bは、ピストンシール45の中心軸を中心とする同一円上の位置に配置されている。
図4に示すように、中間突出部104には、内周リップ部102側の拡径内周面104aに、シール径方向の外方に向かって凹む内周側溝120が形成されている。内周側溝120は、中間突出部104の基部101側からシール軸方向に延びて中間突出部104の先端側に開口するスリット状に形成されている。内周側溝120は、基部101側の端部が基部101よりもシール軸方向の表側つまり中間溝106側に位置している。
図3Aに示すように、内周側溝120は、シール周方向に等間隔で複数(具体的に本実施形態においては中間溝106と同数の8カ所)設けられている。内周側溝120は、シール周方向における幅が中間溝106のシール周方向における幅よりも狭く形成されている。すべての内周側溝120は、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する中間溝106のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。よって、内周側溝120は、中間溝106の底面106bを貫通して中間溝106内に開口している。
内周側溝120の溝深さは、中間突出部104の先端側が内周リップ部102の先端側と接触した状態でも中間溝106に開口する状態を維持する深さに形成されている。
内周側溝120は、図4に示すように、一対の壁面120aおよび壁面120aと、底面120bとを有している。一対の壁面120aおよび壁面120aは、ピストンシール45の半径線に沿い且つシール軸方向に沿っており、互いに平行に形成されている。底面120bは、平坦面状に形成されている。図4に示すように、底面120bの基部101側の端部と拡径内周面104aとはR面取りで接続されている。ピストンシール45は、内周側溝120、中間溝106、内側リップ溝107および外側リップ溝110を含めて一体成形により形成されている。
図3Aに示すように、複数の内周側溝120が形成されることにより、シール周方向に隣り合う内周側溝120と内周側溝120との間が、シール径方向内方へ突出する内周側突出部121を構成している。内周側突出部121は中間突出部104の基部101側から先端側までシール軸方向に延びている。このような内周側突出部121が内周側溝120と同数だけシール周方向に等間隔で形成されている。内周側突出部121は、シール周方向両側が一対の壁面120aおよび壁面120aを構成しており、これらを結ぶ頂面121aを有している。頂面121aは拡径内周面104aの一部である。内周側突出部121はシール周方向の長さが内周側溝120のシール周方向の長さよりも長い。
次に、図2を参照して、マスタシリンダ11内に組み込まれてプライマリピストン18の凹部75の円筒面75aに適正に接触し且つ周壁90から離れた基本状態(ブレーキペダルが操作される前の非制動状態)のピストンシール45について説明する。
この基本状態にあるとき、ピストンシール45は、基部101が、シリンダ軸の直交面に平行な姿勢で最もシリンダ開口側(図2における右側)に位置している。よって、基部101は、周溝32の周壁89に対向配置され、この周壁89の壁面89aに当接している。また、最も内周側にある内周リップ部102が、その内周部においてプライマリピストン18の外周部の円筒面75aに接触する。この状態で、内周リップ部102は、シリンダ軸を中心とする円筒状の形状を有する。この内周リップ部102は、プライマリピストン18がシリンダ軸方向に移動することにより、その内周部がプライマリピストン18の外周面18aに摺接する。
基本状態にあるとき、ピストンシール45は、最も外周側にある外周リップ部103が、その外周部において周溝32の溝底部88の溝底面88aに当接している。また、中間突出部104は、自然状態と同様の姿勢を有しており、シリンダ軸を中心とする円筒状の形状を有し、その先端面104cがシリンダ軸の直交面に平行に形成されている。中間突出部104は、内周リップ部102および外周リップ部103よりもシリンダ底側(図2における左側)に延出して、その先端面104cが、周溝32の周壁90に当接可能に対向して配置されている。
より詳しくは、中間突出部104の先端面104cが、中間傾斜面90bおよび内側壁面90cとシリンダ径方向の位置を重ね合わせており、言い換えれば、中間傾斜面90bおよび内側壁面90cとシリンダ軸方向に対向している。
その結果、ピストンシール45は、上記基本状態から、シリンダ底側に移動すると、中間突出部104の先端面104cが、周壁90のうちの内側壁面90cに当接する。つまり、ピストンシール45は、シリンダ底側に移動すると、周壁90のうち外側壁面90aよりも先に内側壁面90cに当接する。言い換えれば、内側壁面90cは、ピストンシール45がシリンダ底側に移動した際に、中間突出部104が外側壁面90aよりも先に当接する位置に形成されている。
図1に示すブレーキブースタ1の出力軸10側から押圧力の入力がなく、図2に示すように、プライマリピストン18がポート76を開口溝47に開口させる位置が、プライマリピストン18の基本位置(非制動位置)である。プライマリピストン18がこの基本位置にあるときに、ピストンシール45は、内周リップ部102および基部101の内周部が、プライマリピストン18の凹部75の円筒面75aの位置にあって、基部101の内周部がポート76の一部にシリンダ軸方向の位置を重ね合わせるように構成されている。このとき、中間突出部104は周壁90から離間し、その先端面104cが周壁90の内側壁面90cとシリンダ径方向の位置を重ね合わせている。
そして、図1に示すブレーキブースタ1の出力軸10側から押圧力の入力があって、プライマリピストン18がシリンダ底側へ移動すると、ピストンシール45は、プライマリピストン18とともに周溝32内で周壁90側に移動する。その結果、ピストンシール45は、基部101が周壁89から離れる。これとともに、ピストンシール45は、中間突出部104の先端面104cが、周壁90の内側壁面90cに当接する。この状態では、ピストンシール45はシリンダ底側への移動が規制される。
プライマリピストン18が、さらにシリンダ本体15の底部13側へ移動すると、シリンダ底側への移動が規制されているピストンシール45は、その基部101が凹部75のテーパ面75bに乗り上げる。続いて、ピストンシール45は、ポート76を越えポート76を閉塞して、プライマリ圧力室85とプライマリ補給路48との連通を遮断する。この位置からプライマリピストン18がシリンダ底側に位置する範囲では、ピストンシール45がプライマリ圧力室85とプライマリ補給路48との間を遮断してプライマリ圧力室85を密封する。この状態では、基本的に、大気圧であるプライマリ補給路48の液圧よりもプライマリ圧力室85の液圧の方が高くなる。その結果、プライマリ圧力室85内のブレーキ液が図1に示すプライマリ吐出路27から車輪側の制動用シリンダに供給される。
上記ポート76の閉塞後、プライマリピストン18が、さらにシリンダ底側へ移動すると、ピストンシール45は、基部101がテーパ面75bを乗り越えて最大外径面74に乗り上げる。加えて、内周リップ部102がテーパ面75bに乗り上げ、その後、内周リップ部102が最大外径面74に乗り上げる。ピストンシール45は、上記したプライマリ圧力室85の液圧上昇によって周溝32内で周壁89側に移動する。これにより、中間突出部104が周壁90から離れるとともに基部101が周壁89に当接する。
ピストンシール45の基部101は、凹部75のテーパ面75bに当接し、このテーパ面75bでシリンダ底側に押圧されたときに、このテーパ面75bを円滑に摺動できないことがあると、プライマリピストン18の移動に連れられて、周溝32内でさらに周壁90側に移動しようとする。すると、ピストンシール45は、周溝32で移動範囲が制限されることから、内周側がシリンダ底側に、外周側がシリンダ開口側に移動する方向の回転モーメントがピストンシール45に生じる。しかしながら、このとき、上記したようにピストンシール45の中間突出部104が、周溝32の内側壁面90cに当接していることから、上記回転モーメントに対して、中間突出部104が内側壁面90cのシリンダ径方向外側にある中間傾斜面90bに当接して、中間突出部104を含むピストンシール45の上記回転を規制する。
プライマリピストン18がシリンダ底側へ移動した状態から、制動を解除するために図示略のブレーキペダルを戻し始めると、図1に示す間隔調整部79によってプライマリピストン18が図2に示す待機位置に戻ろうとする。このプライマリピストン18の移動によってプライマリ圧力室85の容積が拡大していく。その際に、ブレーキ配管を介してのブレーキ液の戻りがプライマリ圧力室85の容積拡大に追いつかなくなると、大気圧であるプライマリ補給路48の液圧とプライマリ圧力室85の液圧とが等しくなった後、プライマリ圧力室85内の液圧は負圧となり、大気圧であるプライマリ補給路48の液圧よりもプライマリ圧力室85の液圧の方が低くなる。すると、このプライマリ圧力室85内の負圧が、ピストンシール45の外周リップ部103を溝底部88から離間させるとともに基部101を周壁89から離間させる。その結果、プライマリ補給路48のブレーキ液が、周壁89と基部101との隙間、溝底部88と外周リップ部103との隙間、および周壁90と中間突出部104の中間溝106との隙間の流路を介して、プライマリ圧力室85に補給される。これにより、プライマリ圧力室85の液圧を負圧状態から大気圧に戻す速度を速める。
上記のブレーキペダルの戻し時に、プライマリ圧力室85内の液圧が負圧となってから、図5に示すように、内周リップ部102の先端部が中間突出部104の先端部に当接し、その後、プライマリ圧力室85の液圧が大気圧に向けて上昇することがある。この場合に、特許文献1に記載されたピストンシールを用いていると、負圧で密閉された状態となる内周リップ部と中間突出部と基部とで囲まれた空間内の圧力が周囲の圧力よりも低くなり、内周リップ部と中間突出部とが離れにくくなる。
これに対し、本実施形態では、ピストンシール45の中間突出部104の拡径内周面104aに、中間突出部104の基部101側からシール軸方向に延びて中間突出部104の先端側に開口する内周側溝120が形成されている。内周側溝120は、内周リップ部102および中間突出部104の当接位置よりも基部101側まで延びている。内周リップ部102と中間突出部104とが当接することによって、これらと基部101との間に空間122が形成されるが、この空間122の密閉を内周側溝120が抑制する。つまり、内周側溝120が、空間122をプライマリ圧力室85に連通させる。よって、空間122の圧力がプライマリ圧力室85の圧力よりも低い状態が生じることを抑制できる。つまり、内周リップ部102と中間突出部104とが離れにくい状態となることを抑制できる。その結果、ピストンシール45を変形状態から円滑に安定姿勢に戻すことが可能となる。つまり、ピストンシール45の姿勢を安定させることができる。この場合は、内周リップ部102を変形状態から戻すため、内周リップ部102のプライマリピストン18への面圧を高めてプライマリピストン18との間のシール性を確保することができる。
ピストンシール45の拡径内周面104aに内周側溝120を形成すれば良いことから、部品点数の増加や形状の複雑化を伴うことのない安価な構造で、ピストンシール45を変形状態から円滑に安定姿勢に戻すことが可能となる。しかも、中間突出部104に内周側溝120を形成することから、内周リップ部102についてはシール周方向位置による剛性の部分的変化を抑制できる。さらに、中間突出部104は、内側リップ部等のようにシール部でなく、また、積極的に変形させる部位でない。このため、中間突出部104に内周側溝120を設けることによる、剛性が低下や、部分的な剛性の違いが出ても、性能上問題が生じにくく、仮に亀裂が生じたとてもシール性に影響しないようになっている。
内周側溝120が、中間突出部104に、周方向に等間隔で複数設けられているため、空間122の圧力をプライマリ圧力室85の圧力に即座に追従させることができる。したがって、ピストンシール45を変形状態からより円滑に戻すことが可能となる。なお、内周側溝120は少なくとも一つ設けられていれば良いが、上記のようにピストンシール45を変形状態からより円滑に戻す効果を奏することから、複数設けられていることが好ましい。
以上の実施形態においては、ピストンシール45を含むプライマリ側のシール構造部SPを例にとり詳細に説明したが、ピストンシール45と共通部品であるピストンシール35を含むセカンダリ側のシール構造部SSも同様の構造である。よって、シール構造部SSもシール構造部SPと同様の効果を奏することができる。
ピストンシール45を、以下の第1変形例のピストンシール45A、第2変形例のピストンシール45B、第3変形例のピストンシール45Cおよび第4変形例のピストンシール45Dのように変更することも可能である。また、ピストンシール35についても同様の変更が可能である。以下の説明において、ピストンシール45,45A〜45Dの共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
「第1変形例」
第1変形例のピストンシール45Aには、図6Aおよび図6Bに示すように、ピストンシール45と同様の内周側溝120が形成されている。加えて、第1変形例のピストンシール45Aには、中間突出部104の外周リップ部103側の縮径外周面104bに、シール径方向の内方に凹む外周側溝130が形成されている。外周側溝130は、中間突出部104の基部101側からシール軸方向に延びて中間突出部104の先端側に開口するスリット状に形成されている。外周側溝130は、シール周方向に等間隔で複数(具体的には内周側溝120と同数の8カ所)設けられている。図6Aに示すように、外周側溝130は、シール周方向における幅が内周側溝120のシール周方向における幅と同等である。
すべての外周側溝130は、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する内周側溝120のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。つまり、複数の内周側溝120と複数の外周側溝130とがシール周方向に一致して配置されている。
図6Bに示すように、外周側溝130は、内周側溝120と同様に、中間溝106の底面106bを貫通して中間溝106内に開口している。外周側溝130は、基部101側の端部が基部101よりもシール軸方向の中間溝106側に位置しており、内周側溝120の基部101側の端部とシール軸方向の位置を合わせている。
外周側溝130は、図6Aに示すように、一対の壁面130aおよび壁面130aと、底面130bとを有している。一対の壁面130aおよび壁面130aは、それぞれがピストンシール45Aの半径線に沿い且つシール軸方向に沿っており、互いに平行に形成されている。底面130bは、平坦面状に形成されており、内周側溝120の底面120bと平行に形成されている。図6Bに示すように、底面130bの基部101側の端部は縮径外周面104bとR面取りで接続されている。ピストンシール45Aは、外周側溝130、内周側溝120、中間溝106、内側リップ溝107および外側リップ溝110を含めて一体成形により形成されている。
図6Aに示すように、複数の外周側溝130が形成されることにより、シール周方向に隣り合う外周側溝130と外周側溝130との間が、シール径方向外方へ突出する外周側突出部131を構成している。この外周側突出部131は、中間突出部104の基部101側から中間突出部104の先端側までシール軸方向に延びている。このような外周側突出部131が外周側溝130と同数だけシール周方向に等間隔で形成されている。外周側突出部131は、シール周方向両側が壁面130aおよび壁面130aを構成しており、これらを結ぶ頂面131aを有している。頂面131aは縮径外周面104bの一部である。外周側突出部131はシール周方向の長さが外周側溝130のシール周方向の長さよりも長い。すべての外周側突出部131は、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する内周側突出部121のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。つまり、複数の外周側突出部131と複数の内周側突出部121とがシール周方向に一致して配置されている。
ピストンシール45Aは、外周リップ部103の先端部が中間突出部104の先端部に当接する状態となっても、中間突出部104の外周側溝130が、外周リップ部103および中間突出部104の当接位置よりも基部101側まで延びている。このため、外周リップ部103および中間突出部104が当接することによって、これらと基部101とで形成される空間の密閉を、外周側溝130が抑制する。つまり、外周リップ部103、中間突出部104および基部101の間の空間を、外周側溝130がプライマリ圧力室85(図2等参照)に連通させる。よって、外周リップ部103、中間突出部104および基部101の間の空間の圧力がプライマリ圧力室85の圧力よりも低い状態が生じることを抑制できる。したがって、外周リップ部103と中間突出部104とが離れにくい状態となることを抑制できる。その結果、ピストンシール45Aを変形状態から円滑に安定姿勢に戻すことが可能となり、ピストンシール45Aの姿勢を安定させることができる。この場合は、外周リップ部103を変形状態から戻すため、外周リップ部103の溝底面88a(図2等参照)への面圧を高めて溝底面88aとの間のシール性を確保することができる。
また、ピストンシール45Aの中間突出部104の縮径外周面104bに外周側溝130を形成すれば良いため、部品点数の増加や形状の複雑化を伴うことのない安価な構造で、ピストンシール45Aを変形状態から円滑に安定姿勢に戻すことが可能となる。しかも、中間突出部104に外周側溝130を形成することから、外周リップ部103についてはシール周方向位置による剛性の部分的変化を抑制できる。
外周側溝130が、中間突出部104の縮径外周面104bに、周方向に等間隔で複数設けられているため、外周リップ部103、中間突出部104および基部101で形成される空間の圧力をプライマリ圧力室85の圧力に即座に追従させることができる。したがって、ピストンシール45Aを変形状態からより円滑に戻すことが可能となる。なお、外周側溝130は少なくとも一つ設けられていれば良いが、上記のようにピストンシール45Aを変形状態からより円滑に戻す効果を奏することから、複数設けられていることが好ましい。
加えて、複数の内周側溝120と複数の外周側溝130とが、周方向に一致して配置されているため、中間突出部104における内周側溝120および外周側溝130の位置の目視確認が容易となる。つまり、中間突出部104においては、内周側溝120の位置および外周側溝130の位置が薄肉となるため亀裂が発生し易く、成形時等に、これらの部分を目視確認する必要がある。内周側溝120および外周側溝130が周方向に一致して配置されていることで、一致していない場合と比べて確認位置の数が減る。
「第2変形例」
第2変形例のピストンシール45Bには、図7Aおよび図7Bに示すように、ピストンシール45Aと同様の内周側溝120が形成されている。加えて、第2変形例のピストンシール45Bには、中間突出部104の外周リップ部103側の縮径外周面104bに、シール径方向の内方に凹む外周側溝140が形成されている。外周側溝140は、中間突出部104の基部101側からシール軸方向に延びて中間突出部104の先端側に開口するスリット状に形成されている。外周側溝140は、シール周方向に等間隔で複数(具体的には内周側溝120と同数の8カ所)設けられている。図7Aに示すように、外周側溝140は、シール周方向における幅が内周側溝120のシール周方向における幅と同等である。
すべての外周側溝140は、それぞれのシール周方向の中央位置が、シール周方向に隣り合う内周側溝120および内周側溝120の間の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。つまり、複数の内周側溝120と複数の外周側溝140とがシール周方向にずれて配置されている。図7Bに破線で示すように、外周側溝140は、中間突出部104の先端面104c側に貫通して中間突出部104のシール軸方向外側に開口している。外周側溝140は、基部101側の端部が基部101よりもシール軸方向の先端面104c側に位置しており、内周側溝120の基部101側の端部とシール軸方向の位置を合わせている。
図7Aに示すように、外周側溝140は、一対の壁面140aおよび壁面140aと、底面140bとを有している。一対の壁面140aおよび壁面140aは、それぞれがピストンシール45Bの半径線に沿い且つシール軸方向に沿っており、互いに略平行に形成されている。底面140bは、平坦面状に形成されている。図7Bに破線で示すように、底面140bの基部101側の端部と縮径外周面104bとの間にはR面取りが施されている。ピストンシール45Bは、外周側溝140、内周側溝120、中間溝106、内側リップ溝107および外側リップ溝110を含めて一体成形により形成されている。
図7Aに示すように、複数の外周側溝140が形成されることにより、シール周方向の隣り合う外周側溝140および外周側溝140の間が、シール径方向外方へ突出する外周側突出部141を構成している。外周側突出部141は、中間突出部104の基部101側から中間突出部104の先端側まで延びている。このような外周側突出部141が外周側溝140と同数だけシール周方向に等間隔で形成されている。外周側突出部141は、シール周方向両側が壁面140aおよび壁面140aを構成しており、これらを結ぶ頂面141aを有している。頂面141aは縮径外周面104bの一部である。外周側突出部141はシール周方向の長さが外周側溝140のシール周方向の長さよりも長い。
すべての内周側溝120は、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する外周側突出部141のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。つまり、複数の内周側溝120と複数の外周側突出部141とがシール周方向に一致して配置されている。また、すべての外周側溝140は、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する内周側突出部121のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。つまり、複数の外周側溝140と複数の内周側突出部121とがシール周方向に一致して配置されている。複数の内周側突出部121と複数の外周側突出部141とは、シール周方向にずれて配置されている。
このピストンシール45Bは、外周リップ部103の先端部が中間突出部104の先端部に当接する状態となっても、中間突出部104の外周側溝140が、外周リップ部103および中間突出部104の当接位置よりも基部101側まで延びている。このため、外周リップ部103と中間突出部104とが当接することによって外周リップ部103、中間突出部104および基部101の間に形成される空間の密閉を、外周側溝140が抑制する。つまり、外周側溝140が外周リップ部103、中間突出部104および基部101で形成される空間をプライマリ圧力室85(図2等参照)に連通させる。
第2変形例のピストンシール45Bは、第1変形例のピストンシール45Aとほぼ同様の効果を奏することができる。加えて、複数の内周側溝120と複数の外周側溝140とが、周方向にずれて配置されているため、中間突出部104のシール周方向位置による剛性の部分的変化を抑制できる。
「第3変形例」
第3変形例のピストンシール45Cは、図8Aおよび図8Bに示すように、ピストンシール45Aと同様の外周側溝130が形成されている。加えて、ピストンシール45Cは、中間突出部104の内周リップ部102側の拡径内周面104aに、シール径方向内方へ突出する内周側突出部151が形成されている。内周側突出部151は、図8Bに示すように、基部101から中間突出部104の先端側まで延びている。内周側突出部151は、シール周方向に等間隔で複数(具体的には外周側溝130と同数の8カ所)設けられている。
図8Aに示すように、すべての内周側突出部151は、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する外周側溝130のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。つまり、複数の内周側突出部151と複数の外周側溝130とがシール周方向に一致して配置されている。すべての内周側突出部151は、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する中間溝106のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。
内周側突出部151は、シール周方向両側の一対の壁面151aおよび壁面151aと、シール径方向内側の頂面151bとを有している。一対の壁面151aおよび壁面151aは、ピストンシール45Cの半径線に沿い且つシール軸方向に沿っており、互いに平行に形成されている。頂面151bは、平坦面状に形成されている。壁面151aと壁面151aとの間のシール周方向の幅は、外周側溝130の壁面130aと壁面130aとの間のシール周方向の幅と同等に形成されている。ピストンシール45Cは、外周側溝130、内周側突出部151、中間溝106、内側リップ溝107および外側リップ溝110を含めて一体成形により形成されている。
複数の内周側突出部151が形成されることにより、シール周方向に隣り合う内周側突出部151および内周側突出部151の間が、シール径方向外方へ凹む内周側溝150を構成している。内周側溝150は、図8Bに示すように、基部101から中間突出部104の先端側までシール軸方向に延びている。図8Aに示すように、このような内周側溝150が、内周側突出部151と同数だけシール周方向に等間隔で形成されている。
内周側溝150は、シール周方向両側が壁面151aおよび壁面151aを構成しており、これらを結ぶ底面150aを有している。底面150aは拡径内周面104aの一部である。内周側溝150はシール周方向の長さが内周側突出部151のシール周方向の長さよりも長い。
すべての内周側溝150は、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する外周側突出部131のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。つまり、複数の内周側溝150と複数の外周側突出部131とがシール周方向に一致して配置されている。また、すべての外周側溝130は、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する内周側突出部151のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。つまり、複数の外周側溝130と複数の内周側突出部151とがシール周方向に一致して配置されている。複数の外周側突出部131と複数の内周側突出部151とは、シール周方向にずれて配置されている。
ピストンシール45Cは、内周リップ部102の先端部が中間突出部104の先端部に当接する状態となっても、中間突出部104の内周側溝150が、内周リップ部102および中間突出部104の当接位置よりも基部101側まで延びている。このため、内周リップ部102および中間突出部104が当接することによってこれらと基部101との間に形成される空間の密閉を、内周側溝150が抑制する。つまり、内周側溝150が、内周リップ部102、中間突出部104および基部101で形成される空間をプライマリ圧力室85(図2等参照)に連通させる。
第3変形例のピストンシール45Cは、第2変形例のピストンシール45Bとほぼ同様の効果を奏することができる。
「第4変形例」
第4変形例のピストンシール45Dは、図9Aおよび図9Bに示すように、第3変形例と同様の内周側突出部151が形成されている。ピストンシール45Dでは、内周側突出部151がシール周方向に等間隔で複数(具体的には第3変形例の2倍の16カ所)設けられている。図9Aに示すように、複数の内周側突出部151のうちシール周方向に一つおきに配置される半数は、第3変形例と同様、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する中間溝106のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。複数の内周側突出部151のうちの残りの半数は、それぞれのシール周方向の中央位置が、シール周方向に隣り合う中間溝106および中間溝106の間のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。
よって、ピストンシール45Dは、シール周方向に隣り合う内周側突出部151および内周側突出部151の間に設けられる内周側溝150も、内周側突出部151と同数(具体的には第3変形例の2倍の16カ所)がシール周方向に等間隔で形成されている。ピストンシール45Dにおいても、内周側溝150はシール周方向の長さが内周側突出部151のシール周方向の長さよりも長い。
ピストンシール45Dは、中間突出部104の外周リップ部103側の縮径外周面104bに、シール径方向外方へ突出する外周側突出部161が形成されている。図9Bに示すように、外周側突出部161は、基部101から中間突出部104の先端側まで延びている。外周側突出部161は、シール周方向に等間隔で複数(具体的には内周側突出部151と同数の16カ所)設けられている。
図9Aに示すように、すべての外周側突出部161は、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する内周側突出部151のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。つまり、複数の内周側突出部151と複数の外周側突出部161とがシール周方向に一致して配置されている。複数の外周側突出部161のうちシール周方向に一つおきに配置される半数は、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する中間溝106のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。複数の外周側突出部161のうちの残りの半数は、それぞれのシール周方向の中央位置が、シール周方向に隣り合う中間溝106および中間溝106のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。
外周側突出部161は、シール周方向両側の一対の壁面161aおよび壁面161aと、シール径方向外側の頂面161bとを有している。一対の壁面161aおよび壁面161aは、ピストンシール45Dの半径線に沿い且つシール軸方向に沿っており、互いに略平行に形成されている。頂面161bは、平坦面状に形成されている。一対の壁面161aと壁面161aとの間のシール周方向の幅は、内周側突出部151の壁面151aおよび壁面151a間のシール周方向の幅と同等に形成されている。ピストンシール45Dは、外周側突出部161、内周側突出部151、中間溝106、内側リップ溝107および外側リップ溝110を含めて一体成形により形成されている。
複数の外周側突出部161が形成されることにより、シール周方向に隣り合う外周側突出部161および外周側突出部161の間が、シール径方向内方へ凹む外周側溝160を構成している。外周側溝160は、図9Bに示すように、基部101から中間突出部104の先端側までシール軸方向に延びている。図9Aに示すように、このような外周側溝160が、外周側突出部161と同数だけシール周方向に等間隔で形成されている。
外周側溝160は、シール周方向両側が壁面161aおよび壁面161aを構成しており、これらを結ぶ底面160aを有している。底面160aは縮径外周面104bの一部である。外周側溝160は、シール周方向の長さが外周側突出部161のシール周方向の長さよりも長い。
すべての外周側溝160は、それぞれのシール周方向の中央位置が、対応する内周側溝150のシール周方向の中央位置と、シール周方向の位置を合わせている。つまり、複数の内周側溝150と複数の外周側溝160とがシール周方向に一致して配置されている。
ピストンシール45Dは、外周リップ部103の先端部が中間突出部104の先端部に当接する状態となっても、中間突出部104の外周側溝160が、外周リップ部103および中間突出部104の当接位置よりも基部101側まで延びている。このため、外周リップ部103と中間突出部104とが当接することによってこれらと基部101とで形成される空間の密閉を、外周側溝160が抑制する。つまり、外周側溝160が、外周リップ部103、中間突出部104および基部101で形成される空間をプライマリ圧力室85(図2等参照)に連通させる。
この第4変形例のピストンシール45Dは、第1変形例のピストンシール45Aとほぼ同様の効果を奏することができる。
以上の実施形態に係るマスタシリンダは、ブレーキ液の吐出路とリザーバに連通する補給路とを有する有底筒状のシリンダ本体と、該シリンダ本体内に移動可能に配設され、該シリンダ本体との間に前記吐出路へ液圧を供給する圧力室を形成するピストンと、前記シリンダ本体に形成された周溝内に設けられ内周が前記ピストンに摺接して前記補給路と前記圧力室との間を密封するピストンシールとを有し、該ピストンシールが、円環状の基部と、該基部の内周側から突出して前記ピストンの外周面に摺接する内周リップ部と、前記基部の外周側から突出して前記シリンダ本体の前記周溝に当接する外周リップ部と、前記基部の前記内周リップ部と前記外周リップ部との間から該外周リップ部よりも先まで突出する中間突出部と、を備えている。前記中間突出部の前記内周リップ部側の面には、軸方向に延びて前記中間突出部の先端側に開口する少なくとも一つの内周側溝が形成されている。これにより、内周リップ部の先端部が中間突出部の先端部に当接する状態となっても、中間突出部の内周側溝が、内周リップ部と中間突出部と基部とで囲まれた空間の密閉を抑制する。したがって、内周リップ部と中間突出部とが離れにくい状態となることを抑制でき、その結果、ピストンシールを変形状態から円滑に安定姿勢に戻すことが可能となって、ピストンシールの姿勢を安定させることができる。また、ピストンシールの中間突出部の内周リップ部側の面に内周側溝を形成すれば良いため、部品点数の増加や形状の複雑化を伴うことのない安価な構造で、ピストンシールを変形状態から円滑に安定姿勢に戻すことが可能となる。しかも、中間突出部に内周側溝を形成することから、内周リップ部についてはシール周方向位置による剛性の部分的変化を抑制できる。
また、前記中間突出部の前記内周リップ部側の面には、前記内周側溝が周方向に複数設けられている。これにより、ピストンシールを変形状態からより円滑に戻すことが可能となる。
また、前記中間突出部の前記外周リップ部側の面には、軸方向に延びて前記中間突出部の先端側に開口する少なくとも一つの外周側溝が形成されている。これにより、外周リップ部の先端部が中間突出部の先端部に当接する状態となっても、中間突出部の外周側溝が、外周リップ部と中間突出部と基部とで囲まれた空間の密閉を抑制する。したがって、外周リップ部と中間突出部とが離れにくい状態となることを抑制できる。その結果、ピストンシールを変形状態から円滑に安定姿勢に戻すことが可能となり、ピストンシールの姿勢を安定させることができる。また、ピストンシールの中間突出部の外周リップ部側の面に外周側溝を形成すれば良いため、部品点数の増加や形状の複雑化を伴うことのない安価な構造で、ピストンシールを変形状態から円滑に安定姿勢に戻すことが可能となる。しかも、中間突出部に外周側溝を形成することから、外周リップ部についてはシール周方向位置による剛性の部分的変化を抑制できる。
また、前記中間突出部の前記外周リップ部側の面には、前記外周側溝が周方向に複数設けられている。これにより、ピストンシールを変形状態からより円滑に戻すことが可能となる。
また、複数の前記内周側溝と複数の前記外周側溝とが、周方向に一致して配置されている。これにより、中間突出部における内周側溝および外周側溝の位置の目視確認が容易となる。
また、複数の前記内周側溝と複数の前記外周側溝とが、周方向にずれて配置されている。これにより、中間突出部の周方向位置による剛性の部分的変化を抑制できる。
複数の前記内周側溝の間には、前記中間突出部の先端側まで延びて内方へ突出する突出部が形成され、該突出部は、複数の前記外周側溝と周方向に一致して配置されている。これにより、中間突出部の周方向位置による剛性の部分的変化を抑制できる。