[第1実施形態]
本発明に係る第1実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。図1に示す第1実施形態のマスタシリンダ11は、図示略のブレーキペダルの操作量に応じた力が図示略のブレーキブースタの出力軸を介して導入される。マスタシリンダ11は、ブレーキペダルの操作量に応じたブレーキ液圧を発生させる。このマスタシリンダ11には、マスタシリンダ11に対しブレーキ液を給排するリザーバ12(図1において一部のみ図示)が鉛直方向上側に取り付けられている。なお、本実施形態においては、マスタシリンダ11に直接リザーバ12を取り付けているが、マスタシリンダ11から離間した位置にリザーバを配置し、リザーバとマスタシリンダ11とを配管で接続するようにしても良い。
マスタシリンダ11は、底部13と筒部14とを有する有底筒状に一つの素材から加工されて形成される金属製のシリンダ本体15を有している。シリンダ本体15は、軸方向一側が開口部16とされ、軸方向他側が底部13とされている。このシリンダ本体15内の開口部16側には、シリンダ本体15から一部突出して金属製のプライマリピストン18(ピストン)が移動可能に配設されている。シリンダ本体15内のプライマリピストン18よりも底部13側には、同じく金属製のセカンダリピストン19が移動可能に配設されている。プライマリピストン18には底面を有する内周孔21が形成されている。セカンダリピストン19には底面を有する内周孔22が形成されている。マスタシリンダ11は、いわゆるプランジャ型である。また、マスタシリンダ11は、上記したように2つのプライマリピストン18およびセカンダリピストン19を有するタンデムタイプのマスタシリンダである。なお、本発明は、上記タンデムタイプのマスタシリンダへの適用に限られるものではなく、プランジャ型のマスタシリンダであれば、シリンダ本体に1つのピストンを配したシングルタイプのマスタシリンダや、3つ以上のピストンを有するマスタシリンダ等のいかなるプランジャ型のマスタシリンダにも適用できる。
シリンダ本体15には、その筒部14の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)の外側に突出する取付台部23が、その筒部14の円周方向(以下、シリンダ周方向と称す)における所定位置に一体に形成されている。この取付台部23には、リザーバ12を取り付けるための取付穴24および取付穴25が形成されている。なお、本実施形態においては、取付穴24および取付穴25は、互いにシリンダ周方向における位置を一致させた状態で、シリンダ本体15の筒部14の軸線(以下、シリンダ軸と称す)方向における位置をずらしてシリンダ本体15の鉛直方向の上部に形成されている。シリンダ本体15は、その筒部14の軸方向(以下、シリンダ軸方向と称す)が車両前後方向に沿う姿勢で車両に配置される。以下、シリンダ軸方向におけるシリンダ本体15の開口部16側を、シリンダ開口側と称し、シリンダ軸方向におけるシリンダ本体15の底部13側を、シリンダ底側と称す。
シリンダ本体15の筒部14の取付台部23側には、シリンダ軸方向における底部13の近傍に、ブレーキ液の吐出路であるセカンダリ吐出路26が形成されている。また、セカンダリ吐出路26よりもシリンダ本体15のシリンダ開口側に、ブレーキ液の吐出路であるプライマリ吐出路27(吐出路)が形成されている。言い換えれば、シリンダ本体15は、いずれもブレーキ液の吐出路であるセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27を有している。これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27は、図示は略すが、ブレーキ配管を介してディスクブレーキやドラムブレーキ等の制動用シリンダに連通しており、制動用シリンダに向けてブレーキ液を吐出する。なお、本実施形態においては、これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27が、互いにシリンダ周方向における位置を一致させた状態でシリンダ軸方向における位置をずらして形成されている。
シリンダ本体15の筒部14のシリンダ底側の内周部には、摺動内径部28が形成されている。摺動内径部28は、シリンダ軸方向のその両側の筒部14の内周部よりもシリンダ径方向内方に突出している。摺動内径部28は、シリンダ周方向に環状をなしている。セカンダリピストン19は、この摺動内径部28の最小内径面28aに摺動可能に嵌合されている。セカンダリピストン19は、この最小内径面28aで案内されてシリンダ軸方向に移動する。シリンダ本体15の筒部14のシリンダ開口側の内周部には、摺動内径部29が形成されている。摺動内径部29は、そのシリンダ底側の筒部14の内周部よりもシリンダ径方向内方に突出している。摺動内径部29は、シリンダ周方向に環状をなしている。プライマリピストン18は、この摺動内径部29の最小内径面29aに摺動可能に嵌合されている。プライマリピストン18は、この最小内径面29aで案内されてシリンダ軸方向に移動する。
摺動内径部28には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のいずれも円環状をなす周溝30、周溝31がシリンダ底側からこの順に形成されている。
また、摺動内径部29にも、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のいずれも円環状をなす周溝32、周溝33がシリンダ底側からこの順に形成されている。周溝30,31は、シリンダ周方向に環状をなして、シリンダ本体15の内周面15aを構成する最小内径面28aよりもシリンダ径方向外側に凹む形状をなしている。周溝32,33は、シリンダ周方向に環状をなして、シリンダ本体15の内周面15aを構成する最小内径面29aよりもシリンダ径方向外側に凹む形状をなしている。周溝33よりもシリンダ開口側は、シリンダ本体15の内周面15aを構成する開口側内径面16aとなっている。周溝33は、この開口側内径面16aよりもシリンダ径方向外側に凹む形状をなしている。開口側内径面16aは最小内径面29aよりも若干大径となっている。周溝30〜33は、シリンダ本体15内に、シリンダ本体15の内周面15aに開口して形成されている。周溝30〜33は、いずれも全体が切削加工により形成されている。
周溝30〜33のうち最もシリンダ底側にある周溝30は、取付穴24および取付穴25のうちのシリンダ底側の取付穴24の近傍に形成されている。この周溝30内には、周溝30に保持されるように円環状のピストンシール35が配置されている。
シリンダ本体15の摺動内径部28における周溝30よりもシリンダ開口側には、最小内径面28aよりもシリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝37が形成されている。この開口溝37は、シリンダ底側の取付穴24から穿設される連通穴36を筒部14内に開口させる。ここで、この開口溝37と連通穴36とが、シリンダ本体15に設けられてリザーバ12に常時連通するセカンダリ補給路38を構成している。言い換えれば、シリンダ本体15は、リザーバ12に連通するセカンダリ補給路38を有している。
シリンダ本体15の摺動内径部28の周溝30よりもシリンダ底側には、周溝30に開口するとともに周溝30からシリンダ軸方向に直線状にシリンダ底側に向け延出する連通溝41が、最小内径面28aよりもシリンダ径方向外側に凹むように形成されている。この連通溝41は、底部13と周溝30との間であって底部13の近傍となる位置に形成されたセカンダリ吐出路26と周溝30とを後述のセカンダリ圧力室68を介して連通させる。
シリンダ本体15の摺動内径部28には、シリンダ軸線方向における上記開口溝37の周溝30とは反対側、つまりシリンダ開口側に、上記周溝31が形成されている。この周溝31内には、周溝31に保持されるように、円環状の区画シール42が配置されている。
シリンダ本体15の摺動内径部29には、シリンダ開口側の取付穴25の近傍に、上記した周溝32が形成されている。この周溝32内には、周溝32に保持されるように円環状のピストンシール45が配置されている。
シリンダ本体15の摺動内径部29におけるこの周溝32のシリンダ開口側には、最小内径面29aよりもシリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝47が形成されている。この開口溝47は、シリンダ開口側の取付穴25から穿設される連通穴46を筒部14内に開口させる。ここで、この開口溝47と連通穴46とが、シリンダ本体15に設けられてリザーバ12に常時連通するプライマリ補給路48(補給路)を主に構成している。言い換えれば、シリンダ本体15は、リザーバ12に連通するプライマリ補給路48を有している。
シリンダ本体15の摺動内径部29の周溝32よりもシリンダ底側には、周溝32に開口するとともに周溝32からシリンダ軸方向に直線状にシリンダ底側に向け延出する連通溝51が、最小内径面29aよりもシリンダ径方向外側に凹むように形成されている。この連通溝51は、周溝31と周溝32との間であって周溝31の近傍となる位置に形成されたプライマリ吐出路27と、周溝32とを後述するプライマリ圧力室85を介して連通させる。
シリンダ本体15の摺動内径部29における上記開口溝47の周溝32とは反対側、つまりシリンダ開口側に、周溝33が形成されている。この周溝33内には、周溝33に保持されるように、円環状の区画シール52(シール)が配置されている。
シリンダ本体15のシリンダ底側に配置されるセカンダリピストン19は、第1円筒状部55と、第1円筒状部55の軸線方向における一側に形成された底部56と、底部56の第1円筒状部55とは反対側に形成された第2円筒状部57とを有する形状をなしている。上記内周孔22は、これらのうちの第1円筒状部55と底部56とにより形成されている。セカンダリピストン19は、第1円筒状部55をシリンダ本体15のシリンダ底側に配置した状態で、シリンダ本体15の摺動内径部28に設けられたピストンシール35および区画シール42のそれぞれの内周に摺動可能に嵌合される。
第1円筒状部55の底部56とは反対の端側外周部には、セカンダリピストン19の外周面19zにおいて最も大径の最大外径面19aよりも径方向内方に凹む円環状の凹部59が形成されている。この凹部59には、その底部56側にシリンダ径方向に貫通するポート60が複数、シリンダ周方向の等間隔位置に放射状となるように形成されている。
セカンダリピストン19とシリンダ本体15の底部13との間には、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がない非制動状態でこれらの間隔を決めるセカンダリピストンスプリング62を含む間隔調整部63が設けられている。この間隔調整部63は、シリンダ本体15の底部13に当接する係止部材64と、この係止部材64に所定範囲内でのみ摺動するように連結されてセカンダリピストン19の底部56に当接する係止部材65とを有している。上記セカンダリピストンスプリング62は、係止部材64と係止部材65との間に介装されている。
シリンダ本体15の底部13および筒部14のシリンダ底側とセカンダリピストン19とで囲まれて形成される部分が、ブレーキ液圧を発生してセカンダリ吐出路26にブレーキ液圧を供給するセカンダリ圧力室68となっている。言い換えれば、セカンダリピストン19は、シリンダ本体15との間に、セカンダリ吐出路26へ液圧を供給するセカンダリ圧力室68を形成している。このセカンダリ圧力室68は、セカンダリピストン19がポート60をセカンダリ補給路38に開口させる位置にあるとき、セカンダリ補給路38つまりリザーバ12に連通する。
シリンダ本体15の周溝31内に配置されて保持される区画シール42は、合成ゴムからなる一体成形品である。区画シール42は、その中心線を含む面での断面の片側形状が、シリンダ開口側に開口するC字状をなしている。区画シール42は、内周が、シリンダ軸方向に移動するセカンダリピストン19の外周面19zに摺接するとともに、外周がシリンダ本体15の周溝31に当接する。これにより、区画シール42は、セカンダリピストン19およびシリンダ本体15の区画シール42の位置の隙間を常時密封する。
シリンダ本体15の周溝30内に配置されて保持されるピストンシール35は、合成ゴムからなる一体成形品である。ピストンシール35は、その中心線を含む面での断面の片側形状が、シリンダ底側に開口するC字状をなしている。ピストンシール35の内周は、シリンダ軸方向に移動するセカンダリピストン19の外周面19zに摺接する。また、ピストンシール35の外周は、シリンダ本体15の周溝30に当接する。周溝30に設けられるこのピストンシール35は、セカンダリピストン19がポート60をピストンシール35よりもシリンダ底側に位置させた状態では、セカンダリ補給路38とセカンダリ圧力室68との間を密封可能となっている。つまり、ピストンシール35は、セカンダリ圧力室68と、セカンダリ補給路38およびリザーバ12との連通を遮断して密封することが可能である。この密封状態で、セカンダリピストン19が、シリンダ本体15の摺動内径部28およびシリンダ本体15に保持されたピストンシール35および区画シール42の内周で摺動してシリンダ底側に移動することによって、セカンダリ圧力室68内のブレーキ液が加圧される。セカンダリ圧力室68内で加圧されたブレーキ液は、セカンダリ吐出路26から車輪側の制動用シリンダに供給される。
図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がなく上述のセカンダリピストン19が図1に示すようにポート60をセカンダリ補給路38に開口させる基本位置(非制動位置)にあるときに、ピストンシール35は、上記セカンダリピストン19の凹部59内にあって、ポート60にその一部がシリンダ軸方向に重なる。そして、セカンダリピストン19がシリンダ本体15のシリンダ底側へ移動してピストンシール35の内周部がポート60に全て重なると、セカンダリ圧力室68とリザーバ12との連通が遮断される。
シリンダ本体15のシリンダ開口側に配置されるプライマリピストン18は、第1円筒状部71と、第1円筒状部71の軸線方向における一側に形成された底部72と、底部72の第1円筒状部71とは反対側に形成された第2円筒状部73とを有する形状をなしている。上記内周孔21は、これらのうちの第1円筒状部71と底部72とにより形成されている。プライマリピストン18は、第1円筒状部71をシリンダ本体15内のセカンダリピストン19側に配置した状態で、シリンダ本体15の摺動内径部29に設けられたピストンシール45および区画シール52のそれぞれの内周に摺動可能に嵌合される。ここで、第2円筒状部73の内側には、図示略のブレーキブースタの出力軸が挿入される。この出力軸によって底部72がシリンダ底側に向けて押圧される。
第1円筒状部71の底部72とは反対の端側外周部には、プライマリピストン18の外周面18zにおいて最も大径の最大外径面18aよりも径方向内方に凹む円環状の凹部75が形成されている。この凹部75には、その底部72側に径方向に貫通するポート76が複数、シリンダ周方向の等間隔位置に、放射状となるように形成されている。
セカンダリピストン19とプライマリピストン18との間には、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がない非制動状態でこれらの間隔を決めるプライマリピストンスプリング78を含む間隔調整部79が設けられている。この間隔調整部79は、プライマリピストン18の底部72に当接する係止部材81と、セカンダリピストン19の底部56に当接する係止部材82と、係止部材81に一端部が固定されるとともに係止部材82を所定範囲内でのみ摺動自在に支持する軸部材83とを有している。上記プライマリピストンスプリング78は、係止部材81と係止部材82との間に介装されている。
シリンダ本体15の筒部14とプライマリピストン18とセカンダリピストン19とで囲まれて形成される部分が、ブレーキ液圧を発生してプライマリ吐出路27にブレーキ液を供給するプライマリ圧力室85(圧力室)となっている。言い換えれば、プライマリピストン18は、セカンダリピストン19およびシリンダ本体15との間に、プライマリ吐出路27へ液圧を供給するプライマリ圧力室85を形成している。このプライマリ圧力室85は、プライマリピストン18がポート76をプライマリ補給路48に開口させる位置にあるとき、プライマリ補給路48つまりリザーバ12に連通する。
シリンダ本体15の周溝33内に配置されて保持される区画シール52は、合成ゴムからなる一体成形品である。区画シール52は、その中心線を含む面での断面の片側形状が、シリンダ底側に開口するC字状をなしている。区画シール52は、内周が、シリンダ軸方向に移動するプライマリピストン18の外周面18zに摺接するとともに、外周がシリンダ本体15の周溝33に当接する。これにより、区画シール52は、プライマリピストン18およびシリンダ本体15の区画シール52の位置の隙間を常時密封する。区画シール52は、プライマリ補給路48と、シリンダ本体15の外部すなわちマスタシリンダ11の外部とを画成する。
シリンダ本体15の周溝32内に配置されて保持されるピストンシール45は、合成ゴムからなる一体成形品である。ピストンシール45は、その中心線を含む面での断面の片側形状が、シリンダ底側に開口するC字状をなしている。ピストンシール45の内周は、シリンダ軸方向に移動するプライマリピストン18の外周面18zに摺接する。ピストンシール45の外周は、シリンダ本体15の周溝32に当接する。周溝32に設けられるこのピストンシール45は、プライマリピストン18がポート76をピストンシール45よりもシリンダ底側に位置させた状態では、プライマリ補給路48とプライマリ圧力室85との間を密封可能である。つまり、ピストンシール45は、プライマリ圧力室85と、プライマリ補給路48およびリザーバ12との連通を遮断して密封することが可能である。この密封状態で、プライマリピストン18が、シリンダ本体15の摺動内径部29およびシリンダ本体15に保持されたピストンシール45および区画シール52の内周で摺動してシリンダ底側に移動することによって、プライマリ圧力室85内のブレーキ液が加圧される。プライマリ圧力室85内で加圧されたブレーキ液は、プライマリ吐出路27から車輪側の制動用シリンダに供給される。
図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がなく、プライマリピストン18が図1に示すようにポート76をプライマリ補給路48に開口させる基本位置(非制動位置)にあるときに、ピストンシール45は、上記プライマリピストン18の凹部75内にあって、ポート76にその一部がシリンダ軸方向に重なる。そして、プライマリピストン18がシリンダ本体15のシリンダ底側へ移動してピストンシール45の内周部がポート76に全て重なると、プライマリ圧力室85とリザーバ12との連通が遮断される。
図2に示すように、開口側内径面16aおよび最小内径面29aよりもシリンダ径方向外方に凹む周溝33は、開口側内径面16aおよび最小内径面29aの位置に溝開口87(開口)を有している。周溝33は、その凹み方向の奥側、すなわちシリンダ径方向外側に溝底88を有している。また、周溝33は、溝底88におけるシリンダ開口側の端縁部からシリンダ径方向内方に広がる壁部89を有している。さらに、周溝33は、溝底88におけるシリンダ底側の端縁部からシリンダ径方向内方に広がる壁部90を有している。これら溝底88、壁部89および壁部90は、シリンダ本体15自体に形成されている。溝底88、壁部89および壁部90は、シリンダ本体15に対する切削加工により形成されている。
溝底88は溝底面部88aを有している。溝底面部88aは、シリンダ軸を中心とする円筒面であり、シリンダ軸方向の長さがシリンダ周方向の全周に亘って一定となっている。
周溝33のシリンダ開口側の壁部89は、壁面部89aを有している。壁面部89aは、溝底88のシリンダ開口側からシリンダ径方向の内方に広がっている。壁面部89aは、シリンダ軸の直交面に平行な平坦面からなっている。壁面部89aは、シリンダ周方向の全周に亘って、一定内径かつ一定外径でシリンダ径方向に一定幅となっており、シリンダ軸を中心とする円環状をなしている。壁面部89aの大径側の端縁部と溝底面部88aのシリンダ開口側の端縁部とはR面取り89bで接続されている。
周溝33のシリンダ底側の壁部90は、シリンダ軸方向において壁部89に対向している。壁部90は、壁面部90aと、斜面部90bとを有している。壁面部90aは、溝底88のシリンダ底側からシリンダ径方向の内方に広がっている。壁面部90aは、シリンダ軸の直交面に平行な平坦面からなっている。壁面部90aは、シリンダ周方向の全周に亘って、一定内径かつ一定外径でシリンダ径方向に一定幅となっており、シリンダ軸を中心とする円環状をなしている。
斜面部90bは、壁面部90aのシリンダ径方向の内端縁部からシリンダ径方向の内方に、シリンダ径方向の内側ほどシリンダ底側に位置するようにシリンダ径方向に対し傾いて延出している。言い換えれば、斜面部90bは、壁面部90aのシリンダ径方向の内端縁部からシリンダ底側に、シリンダ底側ほど縮径するようにテーパ状をなして延出している。斜面部90bは、シリンダ周方向の全周に亘って、一定内径かつ一定外径でシリンダ径方向に一定幅となっており、シリンダ軸方向の長さも一定となっている。
壁面部90aの大径側の端縁部と溝底面部88aのシリンダ底側の端縁部とはR面取り90cで接続されている。斜面部90bの小径側の端縁部と摺動内径部29の最小内径面29aとはR面取り90dで接続されている。周溝33は、シリンダ底側の壁部90の溝開口87側の斜面部90bが、シリンダ軸方向のシリンダ開口側ほど拡径するようにシリンダ径方向に対して傾斜している。
周溝33に配置される区画シール52は、基部101と内周リップ部102と外周リップ部103とを有している。基部101は、区画シール52におけるシリンダ開口側に配置されている。基部101は、区画シール52の軸直交面に平行な円環板状をなしている。内周リップ部102は、基部101の内周端縁部からシリンダ軸方向に沿ってシリンダ底側に向け突出する円環筒状をなしている。外周リップ部103は、基部101の外周端縁部からシリンダ軸方向に沿ってシリンダ底側に向けて突出する円環筒状をなしている。
区画シール52は、マスタシリンダ11内に組み込まれる前の自然状態でその中心線を含む面での断面の片側形状が図3に示すようになっている。ここでは、まず、この自然状態にあるときの区画シール52について図3,図4を参照して説明する。
図3に示すように、基部101は、内周リップ部102および外周リップ部103とは反対側の端面101aが、ほぼ平坦な形状であり、一定内径かつ一定外径で径方向に一定幅となっており、円環状をなしている。基部101は、円筒面状の外周面101bと、端面101aの外周端縁部と外周面101bとを接続するR面取り101cと、円筒面状の内周面101dと、端面101aの内周端縁部と内周面101dとを接続するR面取り101eと、を有している。
内周リップ部102の径方向外側には、軸方向の基部101側にテーパ状の基端側外周面102aが、基端側外周面102aの基部101とは反対側に円筒面状の先端側外周面102bが、それぞれ形成されている。基端側外周面102aは、基部101から軸方向に離れるほど小径となっている。
内周リップ部102の径方向内側には、軸方向の基部101側に、基部101の内周面101dのR面取り101eとは反対側の端縁部から延出するテーパ状の基端側内周面102cが形成されている。内周リップ部102の径方向内側には、基端側内周面102cの基部101とは反対側にテーパ状の中間内周面102dが形成されており、中間内周面102dの基部101とは反対側に円筒面状の先端側内周面102eが形成されている。基端側内周面102cは、基部101から軸方向に離れるほど小径となっている。中間内周面102dは、基部101から軸方向に離れるほど大径となっている。
内周リップ部102の基部101とは反対側には、先端側外周面102bの基部101とは反対側の端縁部と先端側内周面102eの基部101とは反対側の端縁部とを結んで先端面102fが形成されている。先端面102fは、ほぼ平坦な形状であり、一定内径かつ一定外径で径方向に一定幅となっている。
内周リップ部102の先端面102f、先端側外周面102bおよび先端側内周面102eの全体を含む先端部111には、内周リップ部102の内周側と外周側とを連通する通路となる径方向溝112(通路)が、周方向に間隔をあけて複数形成されている。径方向溝112は、具体的には、図4に示すように内周リップ部102の周方向に等間隔で4カ所形成されている。図3に示すように、径方向溝112は、先端側外周面102b、先端面102fおよび先端側内周面102eに連続的に開口し、先端面102fを径方向に横断している。
外周リップ部103の径方向内側には、軸方向の基部101側にテーパ状の基端側内周面103aが形成されており、基端側内周面103aの基部101とは反対側に円筒面状の先端側内周面103bが形成されている。基端側内周面103aは、基部101から軸方向に離れるほど大径となっている。
外周リップ部103の径方向外側には、軸方向の基部101側に、基部101の外周面101bのR面取り101cとは反対側の端縁部から延出するテーパ状の基端側外周面103cが形成されている。また、外周リップ部103の径方向外側には、基端側外周面103cの基部101とは反対側にテーパ状の先端側外周面103dが形成されている。基端側外周面103cは、基部101から軸方向に離れるほど大径となっている。先端側外周面103dは、基端側外周面103cから軸方向に離れるほど小径となっている。
外周リップ部103の基部101とは反対側には、先端側内周面103bの基部101とは反対側の端縁部と先端側外周面103dの基部101とは反対側の端縁部とを結んで先端面103eが形成されている。先端面103eは、ほぼ平坦な形状であり、一定内径かつ一定外径で径方向に一定幅となっている。
外周リップ部103の先端面103e、先端側内周面103bおよび先端側外周面103dの全体を含む先端部121には、外周リップ部103の内周側と外周側とを連通する通路となる径方向溝122(通路)が、周方向に間隔をあけて複数形成されている。径方向溝122は、具体的には、図4に示すように外周リップ部103の周方向に等間隔で4カ所形成されている。すなわち、外周リップ部103の径方向溝122の数は、内周リップ部102の径方向溝112と同数となっている。図3に示すように、径方向溝122は、先端側内周面103b、先端面103eおよび先端側外周面103dに連続的に開口し、先端面103eを径方向に横断している。
図4に示すように、複数の径方向溝122は、それぞれが内周リップ部102の径方向溝112と一対一で区画シール52の周方向の位置、すなわち位相を合わせている。言い換えれば、区画シール52は、内周リップ部102の先端部111に形成された径方向溝112の周方向位置と、外周リップ部103の先端部121に形成された径方向溝122の周方向位置とが重なっている。
自然状態で上記形状となる区画シール52が、図2に示すように、周溝33内に配置され、この区画シール52の内側にプライマリピストン18が嵌合される。この状態で、区画シール52は、外周リップ部103が、溝底88の溝底面部88aに締め代をもって当接し、内周リップ部102が、プライマリピストン18の外周面18zの最大外径面18aに締め代をもって嵌合する。この状態で、区画シール52は、基部101の外周面101bと外周リップ部103の基端側外周面103cとで周溝33の溝底面部88aに当接し、外周リップ部103の先端側外周面103dが基部101とは反対側ほど周溝33の溝底面部88aから径方向に離れるように延出する。また、この状態で、区画シール52は、基本的に、内周リップ部102の基端側内周面102cと中間内周面102dとでプライマリピストン18の外周面18zに当接し、先端側内周面102eがプライマリピストン18の外周面18zから径方向に離間する。また、この状態で、区画シール52は、外周リップ部103の先端側内周面103bと内周リップ部102の先端側外周面102bとが径方向に離間する。
以上の構成の区画シール52は、内周リップ部102が、プライマリピストン18の外周面18zに摺接し、外周リップ部103が、シリンダ本体15の周溝33の溝底面部88aに当接する。
周溝33は、シリンダ底側の壁部90の溝開口87側の斜面部90bが、シリンダ軸方向において区画シール52に近づくにつれて拡径するように、シリンダ径方向、すなわちプライマリピストン18の径方向に対して傾斜している。また、周溝33は、壁部90の溝底88側の壁面部90aが、区画シール52の外周リップ部103と径方向の位置を重ね合わせて軸方向に対向し、溝開口87側の斜面部90bが、区画シール52の内周リップ部102と径方向の位置を重ね合わせて軸方向に対向する。
図1は、図示略のブレーキブースタの出力軸側から入力がないマスタシリンダ11の基本状態(ブレーキペダルが操作される前の非制動状態)を示している。この基本状態にあるとき、プライマリピストン18は、ポート76をプライマリ補給路48に連通させている。セカンダリピストン19は、ポート60をセカンダリ補給路38に連通させている。
そして、制動時に、図示略のブレーキブースタの出力軸側から入力があって、プライマリピストン18が基本状態からシリンダ底側へ移動すると、ポート76がピストンシール45で閉塞されて、プライマリ圧力室85とプライマリ補給路48との連通が遮断される。その結果、プライマリピストン18のシリンダ底側への移動にともなってプライマリ圧力室85内の液圧が上昇しプライマリ圧力室85内のブレーキ液がプライマリ吐出路27から車輪側の制動用シリンダに供給される。また、これと並行して、セカンダリピストン19が、間隔調整部79を介してプライマリピストン18で押圧されて、基本状態からシリンダ底側へ移動し、ポート60がピストンシール35で閉塞されて、セカンダリ圧力室68とセカンダリ補給路38との連通が遮断される。その結果、セカンダリピストン19のシリンダ底側への移動にともなってセカンダリ圧力室68内の液圧が上昇しセカンダリ圧力室68内のブレーキ液がセカンダリ吐出路26から車輪側の制動用シリンダに供給される。
上記した特許文献1に記載のマスタシリンダは、リザーバに連通する補給路とシリンダ本体の外部とを画成するためのシールをシリンダ本体の周溝に設けている。シールは、その中心線を含む面での断面の片側形状がC字状をなしており、内周リップ部においてプライマリピストンに摺接し外周リップ部においてシリンダ本体の周溝に当接する。
第1実施形態のマスタシリンダ11においては、組み上がった状態で各部の密封性の検査が行われるが、区画シール52の密封性も検査される。この場合、例えば、プライマリ補給路48およびプライマリ吐出路27のうちのいずれか一方を塞いだ状態で、いずれか他方から真空引きを行う。そして、プライマリ圧力室85内が所定の負圧状態、例えば、所定値以下の圧力を所定時間維持する状態になれば区画シール52の密封性が良好であると判断し、所定の負圧状態にならなければ区画シール52の密封性が不良であると判断する。
ここで、区画シール52の密封性を不良とする原因として、図5に示すように、周溝33の溝底88と区画シール52の外周リップ部103との間への異物Fの混入がある。異物Fは、例えばシリンダ本体15の切削加工時に生じた切り粉等である。このように混入された異物Fは、周溝33および区画シール52の周方向における少なくとも異物Fの両側に、区画シール52の外周リップ部103と溝底88とが密着しない隙間を形成する。よって、検査時には、この隙間を介してシリンダ本体15の開口部16側から、真空引きされたプライマリ圧力室85に空気が流れ、プライマリ圧力室85内が所定の負圧状態にならない。これを検出することによって区画シール52の密封性の不良を検出することができる。
真空引きの際には、区画シール52がプライマリ補給路48側に吸引されて、図5に示すように周溝33内で壁部90側に移動して外周リップ部103が壁部90の壁面部90aに当接することがある。このような状態になったとき、図6に示すように、外周リップ部103’の先端部121’に外周リップ部103’の内周側と外周側とを連通する通路が形成されていない従来の区画シール52’であると、外周リップ部103’の先端部121’が全周にわたって壁部90の壁面部90aに密着できる。このように密着した場合、異物Fによって区画シール52’の外周リップ部103’と溝底88との間に隙間が形成されても、これよりも上流側となるプライマリ補給路48側で外周リップ部103’の先端部121’が壁部90との間を全周にわたって密封してしまい、大気のプライマリ補給路48側への流入が生じない。その結果、プライマリ補給路48側が所定の負圧状態になって正常と判定されてしまう可能性がある。
これに対し、第1実施形態では、図5に示すように、区画シール52の外周リップ部103の先端部121に外周リップ部103の内周側と外周側とを連通する通路となる径方向溝122が形成されている。よって、区画シール52がプライマリ補給路48側に吸引されて、周溝33内で壁部90側に移動して外周リップ部103が壁部90の壁面部90aに当接することがあっても、径方向溝122が外周リップ部103の先端部121と壁部90との間が全周にわたって密封状態となることを抑制して、先端部121の溝底88側と溝開口87側とを連通させる。
また、第1実施形態では、区画シール52の内周リップ部102の先端部111にも内周リップ部102の内周側と外周側とを連通する通路となる径方向溝112が形成されている。よって、区画シール52がプライマリ補給路48側に吸引されて周溝33内で壁部90側に移動して内周リップ部102が壁部90の斜面部90bに当接することがあっても、径方向溝112が内周リップ部102の先端部111と壁部90との間が全周にわたって密封状態となることを抑制して、先端部111の溝底88側と溝開口87側とを連通させる。
以上により、周溝33の溝底88と区画シール52の外周リップ部103との間に異物Fの混入があった場合に、シリンダ本体15の開口部16から、基部101と壁部89との隙間、異物Fによる外周リップ部103と溝底88との隙間、壁部90と径方向溝122との隙間、および、壁部90と径方向溝112との隙間を介して、プライマリ補給路48側に空気が流れ、プライマリ補給路48側の負圧状態を大気圧に近づける。これにより、溝底88と外周リップ部103との間への異物Fの混入を良好に検出することができる。したがって、溝底88と外周リップ部103との間に異物Fが混入した製品を良好に排除することができる。このため、マスタシリンダ11の品質を向上することが可能となる。
区画シール52の外周リップ部103の内周側と外周側とを連通する通路として、外周リップ部103の先端部121に径方向溝122が形成される構造である。このため、区画シール52の一体成形時に径方向溝122を容易に形成することができ、区画シール52の製造が容易となる。
周溝33は、シリンダ底側の壁部90の溝開口87側が、区画シール52に近づくにつれて拡径するようにプライマリピストン18の径方向に対して傾斜している。このため、区画シール52がプライマリ補給路48側に吸引されて周溝33内で壁部90側に移動しても内周リップ部102が壁部90の斜面部90bに当接し難くできる。
区画シール52は、内周リップ部102の先端部111に形成された通路としての径方向溝112の周方向位置と、外周リップ部103の先端部121に形成された通路としての径方向溝122の周方向位置とが重なっている。このため、区画シール52がプライマリ補給路48側に吸引されて周溝33内で壁部90側に移動した際に、内周リップ部102の先端部111と外周リップ部103の先端部121とが当接することがあっても、径方向溝112および径方向溝122の連通が遮断されてしまうことを抑制できる。よって、区画シール52と壁部90との間が全周にわたって密封状態となることをさらに抑制することができる。
なお、径方向溝122は、外周リップ部103が周溝33内で最大に変形しても外周リップ部103の内周側と外周側とを連通可能な大きさに設定されている。同様に径方向溝112は、内周リップ部102が周溝33内で最大に変形しても内周リップ部102の内周側と外周側とを連通可能な大きさに設定されている。
[第2実施形態]
次に、本発明に係る第2実施形態を主に図7に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
第2実施形態は、第1実施形態の区画シール52とは一部異なる区画シール52Aを有している。区画シール52Aは、第1実施形態の径方向溝112が先端部111に形成された内周リップ部102とは異なり、径方向溝112が形成されていない先端部111Aを有する内周リップ部102Aを備えている。
また、第2実施形態は、第1実施形態のシリンダ本体15とは一部異なるシリンダ本体15Aを有している。第2実施形態のシリンダ本体15Aは、第1実施形態の摺動内径部29に対して、周溝33と開口溝47との間の部分に、最小内径面29aよりもシリンダ径方向の外方に凹むリセス151Aが形成された点が異なる摺動内径部29Aを有している。リセス151Aは、周溝33と開口溝47とをシリンダ軸方向に連通させており、周溝33の斜面部90bをシリンダ径方向に横断している。
第2実施形態では、区画シール52Aの外周リップ部103の先端部121に、第1実施形態と同様、外周リップ部103の内周側と外周側とを連通する通路となる径方向溝122が形成されている。よって、区画シール52Aがプライマリ補給路48側に吸引されて、周溝33内で壁部90側に移動して外周リップ部103が壁部90の壁面部90aに当接することがあっても、径方向溝122が外周リップ部103の先端部121と壁部90との間が全周にわたって密封状態となることを規制して、先端部121の溝底88側と溝開口87側とを連通させる。
また、第2実施形態では、区画シール52Aがプライマリ補給路48側に吸引されて周溝33内で壁部90側に移動して内周リップ部102Aが壁部90の斜面部90bに当接することがあっても、リセス151Aが、内周リップ部102Aの先端部111Aと壁部90との間が全周にわたって密封状態となることを規制して、先端部111Aの溝底88側と溝開口87側とを連通させる。
以上により、第2実施形態によっても、第1実施形態と同様、周溝33の溝底88と区画シール52Aの外周リップ部103との間に異物Fの混入があった場合に、シリンダ本体15の開口部16から、基部101と壁部89との隙間、異物Fによる外周リップ部103と溝底88との隙間、壁部90と径方向溝122との隙間、および、リセス151Aと先端部111Aとの隙間を介して、プライマリ補給路48側に空気が流れ、プライマリ補給路48側の負圧状態を大気圧に近づける。これにより、溝底88と外周リップ部103との間への異物Fの混入を良好に検出することができる。
なお、リセス151Aは、内周リップ部102Aが周溝33内で最大に変形しても内周リップ部102Aの内周側と外周側とを連通可能な大きさに設定されている。
[第3実施形態]
次に、本発明に係る第3実施形態を主に図8に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
第3実施形態は、第1実施形態の区画シール52とは一部異なる区画シール52Bを有している。区画シール52Bは、第1実施形態の先端部121に径方向溝122が形成された外周リップ部103とは異なり、径方向溝122が形成されていない。区画シール52Bは、先端部121Bに径方向孔122B(通路)が形成された外周リップ部103Bを備えている。径方向孔122Bは、外周リップ部103Bの周方向に間隔をあけて複数形成されている。径方向孔122Bは、先端側外周面103dおよび先端側内周面103bに開口しており、先端面103eには開口していない。径方向孔122Bが外周リップ部103Bの内周側と外周側とを連通する通路となる。
区画シール52Bは、第1実施形態の先端部111に径方向溝112が形成された内周リップ部102とは異なり、径方向溝112が形成されていない。区画シール52Bは、先端部111Bに径方向孔112B(通路)が形成された内周リップ部102Bを備えている。径方向孔112Bは、内周リップ部102Bの周方向に間隔をあけて複数形成されている。径方向孔112Bは、先端側外周面102bおよび先端側内周面102eに開口しており、先端面102fには開口していない。径方向孔112Bが内周リップ部102Bの内周側と外周側とを連通する通路となる。
複数の径方向孔122Bは、それぞれが内周リップ部102Bの径方向孔112Bと一対一で区画シール52Bの周方向の位置、すなわち位相を合わせている。言い換えれば、区画シール52Bは、内周リップ部102Bの先端部111Bに形成された径方向孔112Bの周方向位置と、外周リップ部103Bの先端部121Bに形成された径方向孔122Bの周方向位置とが重なっている。
第3実施形態では、区画シール52Bの外周リップ部103Bの先端部121Bに、外周リップ部103Bの内周側と外周側とを連通する通路となる径方向孔122Bが形成されている。よって、区画シール52Bがプライマリ補給路48側に吸引されて、図8に示すように周溝33内で壁部90側に移動して外周リップ部103Bが壁部90の壁面部90aに当接することがあっても、径方向孔122Bが、先端部121Bの溝底88側と溝開口87側とを連通させる。
また、第3実施形態では、区画シール52Bの内周リップ部102Bの先端部111Bにも、内周リップ部102Bの内周側と外周側とを連通する通路となる径方向孔112Bが形成されている。よって、区画シール52Bがプライマリ補給路48側に吸引されて周溝33内で壁部90側に移動して内周リップ部102Bが壁部90の斜面部90bに当接することがあっても、径方向孔112Bが、先端部111Bの溝底88側と溝開口87側とを連通させる。
以上により、第3実施形態によっても、第1実施形態と同様、周溝33の溝底88と区画シール52Bの外周リップ部103Bとの間に異物Fの混入があった場合に、シリンダ本体15の開口部16から、基部101と壁部89との隙間、異物Fによる外周リップ部103Bと溝底88との隙間、径方向孔122B、および、径方向孔112Bを介して、プライマリ補給路48側に空気が流れ、プライマリ補給路48側の負圧状態を大気圧に近づける。これにより、溝底88と外周リップ部103Bとの間への異物Fの混入を良好に検出することができる。
区画シール52Bの外周リップ部103Bの内周側と外周側とを連通する通路として、外周リップ部103Bの先端部121Bに径方向孔122Bが形成される構造である。このため、先端部121Bの耐久性低下を抑制することができる。
区画シール52Bの内周リップ部102Bの内周側と外周側とを連通する通路として、内周リップ部102Bの先端部111Bに径方向孔112Bが形成される構造である。このため、先端部111Bの耐久性低下を抑制することができる。
区画シール52Bは、内周リップ部102Bの先端部111Bに形成された通路としての径方向孔112Bの周方向位置と、外周リップ部103Bの先端部121Bに形成された通路としての径方向孔122Bの周方向位置とが重なっている。このため、区画シール52Bがプライマリ補給路48側に吸引されて周溝33内で壁部90側に移動した際に、内周リップ部102Bの先端部111Bと外周リップ部103Bの先端部121Bとが当接することがあっても、径方向孔112Bおよび径方向孔122Bの連通が遮断されてしまうことを抑制できる。
なお、径方向孔122Bは、外周リップ部103Bが周溝33内で最大に変形しても先端部121Bの内周側と外周側とを連通可能な大きさに設定されている。同様に径方向孔112Bは、内周リップ部102Bが周溝33内で最大に変形しても先端部111Bの内周側と外周側とを連通可能な大きさに設定されている。
ここで、第3実施形態の先端部121Bに径方向孔122Bを有する外周リップ部103Bと、第2実施形態の先端部111Aに通路がない内周リップ部102Aとを有する区画シールと、第2実施形態のリセス151Aを有するシリンダ本体15Aとを組み合わせても良い。また、第3実施形態の先端部121Bに径方向孔122Bを有する外周リップ部103Bと、第1実施形態の先端部111に径方向溝112を有する内周リップ部102とを有する区画シールとしても良い。さらに、第3実施形態の先端部111Bに径方向孔112Bを有する内周リップ部102Bと、第1実施形態の先端部121に径方向溝122を有する外周リップ部103とを有する区画シールとしても良い。
以上の実施形態の第1の態様によれば、マスタシリンダは、ブレーキ液の吐出路とリザーバに連通する補給路とを有する有底筒状のシリンダ本体と、該シリンダ本体内に移動可能に配設され、該シリンダ本体との間に前記吐出路へ液圧を供給する圧力室を形成するピストンと、前記シリンダ本体の内周面に開口して形成される周溝内に配置され、内周が前記ピストンに摺接して前記補給路と前記シリンダ本体の外部とを画成するシールと、を備える。前記シールは、円環状の基部から突出する、前記ピストンの外周面に摺接する内周リップ部および前記シリンダ本体の前記周溝に当接する外周リップ部を有する。前記外周リップ部には、先端部に該外周リップ部の内周側と外周側とを連通する通路が形成されている。これにより、周溝の溝底と外周リップ部との間への異物の混入を良好に検出することができ、品質を向上することが可能となる。
第2の態様は、上記第1の態様において、前記外周リップ部の前記通路は、先端部に形成された径方向溝である。
第3の態様は、上記第1の態様において、前記外周リップ部の前記通路は、径方向孔である。
第4の態様は、上記第1乃至第3のいずれか一態様において、前記周溝は、前記シリンダ本体の底部側の壁部の開口側が、前記シールに近づくにつれて拡径するように前記ピストンの径方向に対して傾斜している。
第5の態様は、上記第1乃至第3のいずれか一態様において、前記内周リップ部は、先端部に該内周リップ部の内周側と外周側とを連通する通路が形成されている。
第6の態様は、上記第5の態様において、前記シールは、前記内周リップ部の先端部に形成された前記通路の周方向位置と、前記外周リップ部の先端部に形成された前記通路の周方向位置とが重なっている。