本発明に係る一実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示す本実施形態のマスタシリンダ11は、図示略のブレーキペダルの操作量に応じた力が図示略のブレーキブースタの出力軸を介して導入されるもので、ブレーキペダルの操作量に応じたブレーキ液圧を発生させるものである。このマスタシリンダ11には、鉛直方向上側にブレーキ液を給排するリザーバ12(図1において一部のみ図示)が取り付けられている。なお、本実施形態においては、マスタシリンダ11に直接リザーバ12を取り付けているが、マスタシリンダ11から離間した位置にリザーバを配置し、リザーバとマスタシリンダ11とを配管で接続するようにしても良い。
マスタシリンダ11は、底部13と筒部14とを有する有底筒状に一つの素材から加工されて形成される金属製のシリンダ本体15を有している。このシリンダ本体15内の開口部16側には、シリンダ本体15から一部突出して金属製のプライマリピストン(ピストン)18が移動可能に配設されている。また、シリンダ本体15内のプライマリピストン18よりも底部13側には、同じく金属製のセカンダリピストン(ピストン)19が移動可能に配設されている。プライマリピストン18には底面を有する内周孔21が形成されている。セカンダリピストン19には底面を有する内周孔22が形成されている。マスタシリンダ11は、いわゆるプランジャ型のものとなっている。また、マスタシリンダ11は、上記したように2つのプライマリピストン18およびセカンダリピストン19を有するタンデムタイプのマスタシリンダとなっている。なお、本発明は、上記タンデムタイプのマスタシリンダへの適用に限られるものではなく、プランジャ型のマスタシリンダであれば、シリンダ本体に1つのピストンを配したシングルタイプのマスタシリンダや、3つ以上のピストンを有するマスタシリンダ等のいかなるプランジャ型のマスタシリンダにも適用できるものである。
シリンダ本体15には、その筒部14の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)の外側に突出する取付台部23が、その筒部14の円周方向(以下、シリンダ周方向と称す)における所定位置に一体に形成されている。この取付台部23には、リザーバ12を取り付けるための取付穴24および取付穴25が形成されている。なお、本実施形態においては、取付穴24および取付穴25は、互いにシリンダ周方向における位置を一致させた状態で、シリンダ本体15の筒部14の軸線(以下、シリンダ軸と称す)方向における位置をずらして鉛直方向上部に形成されている。シリンダ本体15は、シリンダ軸方向が車両前後方向に沿う姿勢で車両に配置される。
シリンダ本体15の筒部14の取付台部23側には、底部13の近傍にセカンダリ吐出路(吐出路)26が形成されている。また、セカンダリ吐出路26よりもシリンダ本体15の開口部16側にプライマリ吐出路(吐出路)27が形成されている。これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27は、図示は略すが、ブレーキ配管を介してディスクブレーキやドラムブレーキ等の制動用シリンダに連通しており、制動用シリンダに向けてブレーキ液を吐出する。なお、本実施形態においては、これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27が、互いにシリンダ周方向における位置を一致させた状態でシリンダ軸方向における位置をずらして形成されている。
シリンダ本体15の筒部14の底部13側の内周部には、シリンダ径方向内方に突出しシリンダ周方向に環状をなす摺動内径部28が形成されている。セカンダリピストン19は、この摺動内径部28の最小内径面28aに摺動可能に嵌合されており、この最小内径面28aで案内されてシリンダ軸方向に移動する。シリンダ本体15の筒部14の開口部16側の内周部には、シリンダ径方向内方に突出しシリンダ周方向に環状をなす摺動内径部29が形成されている。プライマリピストン18は、この摺動内径部29の最小内径面29aに摺動可能に嵌合されており、この最小内径面29aで案内されてシリンダ軸方向に移動する。
摺動内径部28には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のいずれも円環状をなす周溝30、周溝31が底部13側からこの順に形成されている。また、摺動内径部29にも、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のいずれも円環状をなす周溝32、周溝33が底部13側からこの順に形成されている。周溝30,31は、シリンダ周方向に環状をなして最小内径面28aよりもシリンダ径方向外側に凹む形状をなしており、周溝32,33は、シリンダ周方向に環状をなして最小内径面29aよりもシリンダ径方向外側に凹む形状をなしている。周溝30〜33は、いずれも全体が切削加工により形成されている。
周溝30〜33のうち最も底部13側にある周溝30は、取付穴24および取付穴25のうちの底部13側の取付穴24の近傍に形成されている。この周溝30内には、周溝30に保持されるように、円環状のピストンシール35が配置されている。
シリンダ本体15の摺動内径部28における周溝30よりも開口部16側には、シリンダ径方向外側に最小内径面28aよりも凹む環状の開口溝37が形成されている。この開口溝37は、底部13側の取付穴24から穿設される連通穴36を筒部14内に開口させる。ここで、この開口溝37と連通穴36とが、シリンダ本体15に設けられてリザーバ12に常時連通するセカンダリ補給路(補給路)38を構成している。
シリンダ本体15の摺動内径部28の周溝30よりも底部13側には、周溝30に開口するとともに周溝30からシリンダ軸方向に直線状に底部13側に向け延出する連通溝41が、シリンダ径方向外側に最小内径面28aよりも凹むように形成されている。この連通溝41は、底部13と周溝30との間であって底部13の近傍となる位置に形成されたセカンダリ吐出路26と周溝30とを後述のセカンダリ圧力室68を介して連通させるものである。
シリンダ本体15の摺動内径部28には、シリンダ軸線方向における上記開口溝37の周溝30とは反対側つまり開口部16側に、上記周溝31が形成されている。この周溝31内には、周溝31に保持されるように、円環状の区画シール42が配置されている。
シリンダ本体15の摺動内径部29には、開口部16側の取付穴25の近傍に、上記した周溝32が形成されている。この周溝32内には、周溝32に保持されるように、円環状のピストンシール45が配置されている。
シリンダ本体15の摺動内径部29におけるこの周溝32の開口部16側には、シリンダ径方向外側に最小内径面29aよりも凹む環状の開口溝47が形成されている。この開口溝47は、開口部16側の取付穴25から穿設される連通穴46を筒部14内に開口させる。ここで、この開口溝47と連通穴46とが、シリンダ本体15に設けられてリザーバ12に常時連通するプライマリ補給路(補給路)48を主に構成している。
シリンダ本体15の摺動内径部29の周溝32よりも底部13側には、周溝32に開口するとともに周溝32からシリンダ軸方向に直線状に底部13側に向け延出する連通溝51が、シリンダ径方向外側に最小内径面29aよりも凹むように形成されている。この連通溝51は、周溝31と周溝32との間であって周溝31の近傍となる位置に形成されたプライマリ吐出路27と、周溝32とを後述するプライマリ圧力室85を介して連通させるものである。
シリンダ本体15の摺動内径部29における上記開口溝47の周溝32とは反対側つまり開口部16に周溝33が形成されている。この周溝33内には、周溝33に保持されるように、円環状の区画シール52が配置されている。
シリンダ本体15の底部13側に配置されるセカンダリピストン19は、第1円筒状部55と、第1円筒状部55の軸線方向における一側に形成された底部56と、底部56の第1円筒状部55とは反対側に形成された第2円筒状部57とを有する形状をなしている。上記内周孔22は、これらのうちの第1円筒状部55と底部56とにより形成されている。セカンダリピストン19は、第1円筒状部55をシリンダ本体15の底部13側に配置した状態で、シリンダ本体15の摺動内径部28に設けられたピストンシール35および区画シール42のそれぞれの内周に摺動可能に嵌合される。
第1円筒状部55の底部56とは反対の端側外周部には、セカンダリピストン19の外周面19Aにおいて最も大径の最大外径面19aよりも径方向内方に凹む円環状の凹部59が形成されている。この凹部59には、その底部56側にシリンダ径方向に貫通するポート60が複数、シリンダ周方向の等間隔位置に放射状となるように形成されている。
セカンダリピストン19とシリンダ本体15の底部13との間には、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がない非制動状態でこれらの間隔を決めるセカンダリピストンスプリング62を含む間隔調整部63が設けられている。この間隔調整部63は、シリンダ本体15の底部13に当接する係止部材64と、この係止部材64に所定範囲内でのみ摺動するように連結されてセカンダリピストン19の底部56に当接する係止部材65とを有している。上記セカンダリピストンスプリング62は、係止部材64と係止部材65との間に介装されている。
ここで、シリンダ本体15の底部13および筒部14の底部13側とセカンダリピストン19とで囲まれて形成される部分が、ブレーキ液圧を発生してセカンダリ吐出路26にブレーキ液圧を供給するセカンダリ圧力室(圧力室)68となっている。言い換えれば、セカンダリピストン19は、シリンダ本体15との間に、セカンダリ吐出路26に液圧を供給するセカンダリ圧力室68を形成している。このセカンダリ圧力室68は、セカンダリピストン19がポート60を開口溝37に開口させる位置にあるとき、セカンダリ補給路38つまりリザーバ12に連通するようになっている。
シリンダ本体15の周溝31に保持される区画シール42は、合成ゴムからなる一体成形品であり、その中心線を含む径方向断面の片側形状がC字状をなしている。区画シール42は、内周が、シリンダ軸方向に移動するセカンダリピストン19の外周面19Aに摺接するとともに、外周がシリンダ本体15の周溝31に当接する。これにより、区画シール42は、セカンダリピストン19およびシリンダ本体15の区画シール42の位置の隙間を常時密封する。
シリンダ本体15の周溝30に保持されるピストンシール35は、EPDM等の合成ゴムからなる一体成形品であり、その中心線を含む径方向断面の片側形状がE字状をなしている。ピストンシール35の内周は、シリンダ軸方向に移動するセカンダリピストン19の外周面19Aに摺接する。また、ピストンシール35の外周は、シリンダ本体15の周溝30に当接するようになっている。このピストンシール35は、セカンダリピストン19がポート60をピストンシール35よりも底部13側に位置させた状態では、セカンダリ補給路38とセカンダリ圧力室68との間を密封できるようになっている。つまり、ピストンシール35は、セカンダリ圧力室68と、セカンダリ補給路38およびリザーバ12との連通を遮断することが可能となっている。この密封状態で、セカンダリピストン19が、シリンダ本体15の摺動内径部28およびシリンダ本体15に保持されたピストンシール35および区画シール42の内周で摺動して底部13側に移動することによって、セカンダリ圧力室68内のブレーキ液が加圧される。セカンダリ圧力室68内で加圧されたブレーキ液は、セカンダリ吐出路26から車輪側の制動用シリンダに供給されることになる。
図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がなく上述のセカンダリピストン19が図1に示すようにポート60を開口溝37に開口させる基本位置(非制動位置)にあるときに、ピストンシール35は、上記セカンダリピストン19の凹部59内にあって、ポート60にその一部がシリンダ軸方向にラップするようになっている。そして、セカンダリピストン19がシリンダ本体15の底部13側へ移動してピストンシール35の内周部がポート60に全て重なると、セカンダリ圧力室68とリザーバ12との連通が遮断されるようになっている。
シリンダ本体15の開口部16側に配置されるプライマリピストン18は、第1円筒状部71と、第1円筒状部71の軸線方向における一側に形成された底部72と、底部72の第1円筒状部71とは反対側に形成された第2円筒状部73とを有する形状をなしている。上記内周孔21は、これらのうちの第1円筒状部71と底部72とにより形成されている。プライマリピストン18は、第1円筒状部71をシリンダ本体15内のセカンダリピストン19側に配置した状態で、シリンダ本体15の摺動内径部29に設けられたピストンシール45および区画シール52のそれぞれの内周に摺動可能に嵌合される。ここで、第2円筒状部73の内側には、図示略のブレーキブースタの出力軸が挿入され、この出力軸によって底部72が押圧されることになる。
第1円筒状部71の底部72とは反対の端側外周部には、プライマリピストン18の外周面18Aにおいて最も大径の最大外径面18aよりも径方向内方に凹む円環状の凹部75が形成されている。この凹部75には、その底部72側に径方向に貫通するポート76が複数、シリンダ周方向の等間隔位置に、放射状となるように形成されている。
セカンダリピストン19とプライマリピストン18との間には、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がない非制動状態でこれらの間隔を決めるプライマリピストンスプリング78を含む間隔調整部79が設けられている。この間隔調整部79は、プライマリピストン18の底部72に当接する係止部材81と、セカンダリピストン19の底部56に当接する係止部材82と、係止部材81に一端部が固定されるとともに係止部材82を所定範囲内でのみ摺動自在に支持する軸部材83とを有している。上記プライマリピストンスプリング78は、係止部材81と係止部材82との間に介装されている。
ここで、シリンダ本体15の筒部14とプライマリピストン18とセカンダリピストン19とで囲まれて形成される部分が、ブレーキ液圧を発生してプライマリ吐出路27にブレーキ液を供給するプライマリ圧力室(圧力室)85となっている。言い換えれば、プライマリピストン18は、セカンダリピストン19とシリンダ本体15との間に、プライマリ吐出路27に液圧を供給するプライマリ圧力室85を形成している。このプライマリ圧力室85は、プライマリピストン18がポート76を開口溝47に開口させる位置にあるとき、プライマリ補給路48つまりリザーバ12に連通するようになっている。
シリンダ本体15の周溝33に保持される区画シール52は、区画シール42と共通の部品であり、合成ゴムからなる一体成形品であって、その中心線を含む径方向断面の片側形状がC字状をなしている。区画シール52は、内周が、シリンダ軸方向に移動するプライマリピストン18の外周面18Aに摺接するとともに、外周がシリンダ本体15の周溝33に当接する。これにより、区画シール52は、プライマリピストン18およびシリンダ本体15の区画シール52の位置の隙間を常時密封する。
シリンダ本体15の周溝32に保持されるピストンシール45は、ピストンシール35と共通の部品であり、EPDM等の合成ゴムからなる一体成形品であって、その中心線を含む径方向断面の片側形状がE字状をなしている。ピストンシール45の内周は、シリンダ軸方向に移動するプライマリピストン18の外周面18Aに摺接する。ピストンシール45の外周は、シリンダ本体15の周溝32に当接するようになっている。このピストンシール45は、プライマリピストン18がポート76をピストンシール45よりも底部13側に位置させた状態では、プライマリ補給路48とプライマリ圧力室85との間を密封できるようになっている。つまり、ピストンシール45は、プライマリ圧力室85と、プライマリ補給路48およびリザーバ12との連通を遮断することが可能となっている。この密封状態で、プライマリピストン18が、シリンダ本体15の摺動内径部29およびシリンダ本体15に保持されたピストンシール45および区画シール52の内周で摺動して底部13側に移動することによって、プライマリ圧力室85内のブレーキ液が加圧される。プライマリ圧力室85内で加圧されたブレーキ液は、プライマリ吐出路27から車輪側の制動用シリンダに供給されることになる。
図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がなく、プライマリピストン18が図1に示すようにポート76を開口溝47に開口させる基本位置(非制動位置)にあるときに、ピストンシール45は、上記プライマリピストン18の凹部75内にあって、ポート76にその一部がシリンダ軸方向にラップするようになっている。そして、プライマリピストン18がシリンダ本体15の底部13側へ移動してピストンシール45の内周部がポート76に全て重なると、プライマリ圧力室85とリザーバ12との連通が遮断されるようになっている。
ここで、シリンダ本体15の周溝30およびその近傍部分と、ピストンシール35と、ピストンシール35の摺接部分であるセカンダリピストン19の第1円筒状部55の先端部分とからなる構造部をセカンダリ側のシール構造部SSと称する。また、シリンダ本体15の周溝32およびその近傍部分と、ピストンシール45と、ピストンシール45の摺接部分であるプライマリピストン18の第1円筒状部71の先端部分とからなる構造部をプライマリ側のシール構造部SPと称する。ピストンシール35とピストンシール45とは共通部品となっており、セカンダリ側のシール構造部SSとプライマリ側のシール構造部SPとは同様の構造となっている。したがって、以下においては、これらの詳細についてプライマリ側のシール構造部SPを例にとり、主に図2〜図5を参照して説明する。
図2に示すように、周溝32は、シリンダ径方向の外側(図2における上側)にある溝底部88を有している。また、周溝32は、溝底部88におけるシリンダ本体15の開口部16側(図2における右側。以下、シリンダ開口側と称す)の端縁部からシリンダ径方向内方に延出する周壁89を有している。さらに、周溝32は、溝底部88におけるシリンダ本体15の底部13側(図2における左側。以下、シリンダ底側と称す)の端縁部からシリンダ径方向内方に延出する周壁90を有している。これら溝底部88、周壁89および周壁90は、シリンダ本体15自体に形成されており、シリンダ本体15に対する切削加工により形成される。
溝底部88は溝底面88aを有している。溝底面88aは、シリンダ軸を中心とする円筒面をなしており、シリンダ軸方向の長さが一定となっている。
周溝32のシリンダ開口側の周壁89は、外側壁面89aと、内周面89bと、内側壁面89cとを有している。外側壁面89aは、溝底面88aのシリンダ開口側の端縁部からシリンダ径方向の内方に延びている。外側壁面89aは、シリンダ軸の直交面に平行な平坦面からなっている。外側壁面89aは、一定内径かつ一定外径でシリンダ径方向に一定幅となっており、シリンダ軸を中心とする円環状面となっている。
内周面89bは、外側壁面89aのシリンダ径方向の内端縁部からシリンダ開口側に延出している。内周面89bは、シリンダ軸を中心とする円筒面をなしており、全周に亘ってシリンダ軸方向の長さが一定となっている。内周面89bは、外側壁面89aに直交している。
内側壁面89cは、内周面89bのシリンダ開口側の端縁部からシリンダ径方向の内方に延びている。内側壁面89cは、シリンダ軸の直交面に平行な平坦面からなっている。内側壁面89cは、一定内径かつ一定外径でシリンダ径方向に一定幅となっており、シリンダ軸を中心とする円環状をなしている。内側壁面89cの小径側の端縁部と摺動内径部29の最小内径面29aとがR面取りで接続されている。
円筒状の内周面89bが内側壁面89cと外側壁面89aとの間に設けられることで、内側壁面89cは全体として外側壁面89aよりもシリンダ開口側にオフセットして設けられている。外側壁面89aの内周面89b側と、内周面89bと、内側壁面89cの内周面89b側とを含む部分が、シリンダ径方向の内側が外側よりもシリンダ開口側に位置するように段差状をなす段部91を構成している。外側壁面89aのシリンダ径方向の幅は、内側壁面89cのシリンダ径方向の幅よりも広くなっており、段部91の内周面89bは、周壁89におけるシリンダ径方向の内周側に位置している。言い換えれば、段部91の内周面89bは、溝底部88の溝底面88aとの距離が、摺動内径部29の最小内径面29aとの距離よりも大きくなっている。
周溝32のシリンダ底側の周壁90は、周壁89に対向しており、外側壁面90aと、湾曲面90bと、内側壁面90cとを有している。外側壁面90aは、溝底部88のシリンダ底側からシリンダ径方向の内方に延びている。外側壁面90aは、シリンダ軸の直交面に平行な平坦面からなっている。外側壁面90aは、一定内径かつ一定外径でシリンダ径方向に一定幅となっており、シリンダ軸を中心とする円環状をなしている。外側壁面90aの大径側の端縁部と溝底面88aのシリンダ底側の端縁部とはR面取りで接続されている。
湾曲面90bは、外側壁面90aのシリンダ径方向の内端縁部からシリンダ径方向の内方に、シリンダ径方向の内側ほどシリンダ底側に位置するように延出している。湾曲面90bは、シリンダ軸を含む面での断面が周溝32の内側に中心を有する円弧状をなしている。
内側壁面90cは、湾曲面90bのシリンダ径方向の内端縁部からシリンダ径方向の内方に延びている。内側壁面90cは、シリンダ軸の直交面に平行な平坦面からなっている。内側壁面90cは、連通溝51の開口部分を除いて一定内径かつ一定外径でシリンダ径方向に一定幅となっており、シリンダ軸を中心とする円環状をなしている。内側壁面90cの小径側の端縁部と摺動内径部29の最小内径面29aとはR面取りで接続されている。
湾曲面90bが内側壁面90cと外側壁面90aとの間に設けられることで、内側壁面90cは全体として外側壁面90aよりもシリンダ底側にオフセットして設けられている。これにより、互いに平行な外側壁面90aと周壁89の外側壁面89aとのシリンダ軸方向の幅が、互いに平行な内側壁面90cと周壁89の内側壁面89cとのシリンダ軸方向の幅よりも狭くなっている。湾曲面90bのシリンダ径方向の幅は、外側壁面90aのシリンダ径方向の幅よりも広く、内側壁面90cのシリンダ径方向の幅よりも狭くなっている。
プライマリピストン18に形成された凹部75は、円筒面75aとテーパ面75bとテーパ面75cとを有している。円筒面75aは、プライマリピストン18において最も大径である円筒面状の最大外径面18aよりも小径となっており、軸方向に一定幅となっている。テーパ面75bは、円筒面75aのシリンダ開口側の端縁部からシリンダ開口側ほど大径となるように傾斜し延出して最大外径面18aの凹部75よりもシリンダ開口側の部分に繋がっている。テーパ面75cは、円筒面75aのシリンダ底側の端縁部からシリンダ底側ほど大径となるように傾斜し延出して最大外径面18aの凹部75よりもシリンダ底側の部分に繋がっている。
これら円筒面75a、テーパ面75bおよびテーパ面75cは、最大外径面18aと同様にプライマリピストン18の中心軸を中心に形成されている。プライマリ圧力室85に常時連通するポート76は、円筒面75aのテーパ面75b側の端部位置に形成されている。
周溝32に配置されるピストンシール45は、基部101と内周リップ部102と外周リップ部103と中間リップ部104とを有している。基部101は、ピストンシール45におけるシリンダ開口側に配置されており、ピストンシール45の軸直交面に平行な円環板状をなしている。内周リップ部102は、基部101の内周端縁部からシリンダ軸方向に沿ってシリンダ底側に向け突出する円環筒状をなしている。外周リップ部103は、基部101の外周端縁部からシリンダ軸方向に沿ってシリンダ底側に向けて突出する円環筒状をなしている。中間リップ部104は、外周リップ部103と内周リップ部102との間にあって基部101からシリンダ軸方向に沿ってシリンダ底側に向けて突出する円環筒状をなしている。中間リップ部104は、基部101からのシリンダ軸方向の突出量が、内周リップ部102および外周リップ部103の基部101からの突出量よりも大きくなっている。
ピストンシール45は、内周リップ部102が、シリンダ軸方向に移動するプライマリピストン18の、上記した円筒面75a、テーパ面75b、テーパ面75cおよび最大外径面18aを含む外周面18Aに摺接することになり、外周リップ部103が、シリンダ本体15の周溝32の溝底部88の溝底面88aに当接する。言い換えれば、ピストンシール45は、プライマリピストン18の外周面18Aに摺接する内周リップ部102とシリンダ本体15の周溝32に当接する外周リップ部103とが突出して設けられる円環状の基部101を有しており、内周リップ部102と外周リップ部103との間には、これらよりもシリンダ本体15の軸方向に突出して中間リップ部104が設けられている。
図3〜図5を参照して、マスタシリンダ11に組み込まれる前の自然状態にあるピストンシール45について説明する。図3(a)に示すように、基部101、内周リップ部102、外周リップ部103および中間リップ部104は、中心軸を一致させており、この中心軸がピストンシール45の中心軸となっている。以下では、ピストンシール45の中心軸線方向をシール軸方向、ピストンシール45の円周方向をシール周方向、ピストンシール45の径方向をシール径方向とそれぞれ称す。
図4(a)に示すように、内周リップ部102および中間リップ部104は、略円筒状をなしており、外周リップ部103は、基部101から離れるほど大径となるテーパ筒状をなしている。
図3に示すように、ピストンシール45には、中間リップ部104の延出先端側に、中間リップ部104をシール径方向に貫通する中間溝106がシール周方向に等間隔で複数(具体的には8カ所)形成されている。また、ピストンシール45には、内周リップ部102の延出先端側に、内周リップ部102をシール径方向に貫通する内側リップ溝107がシール周方向に等間隔で複数(具体的には8カ所)形成されている。
外周リップ部103は、基部101から離れるほど大径となるテーパ筒状をなして延出する本体部111と、本体部111の先端部の内周側から基部101とは反対方向に突出する、本体部111よりも薄肉の複数(具体的には8カ所)の突片部112とを有している。複数の突片部112はシール周方向に等間隔で形成されており、シール周方向に隣り合う突片部112と突片部112との間が、外周リップ部103をシール径方向に貫通する外側リップ溝113となっている。よって、外側リップ溝113は突片部112と同数設けられている。
基部101は、図4(b)および図5に示すようにピストンシール45の中心軸を中心とする円環状の基部本体121と、図4(a)に示すように基部本体121から内周リップ部102、外周リップ部103および中間リップ部104とは反対方向に突出する突起122とを有している。突起122は、図4(b)に示すようにシール径方向の一定位置に、シール周方向に間隔をあけて複数(具体的には24カ所)形成されている。つまり、複数の突起122は、同一円上に配置されている。
基部本体121は、図4(a)に示すようにそのシール軸方向の最も内周リップ部102、外周リップ部103および中間リップ部104とは反対方向に位置するベース面121aが、ピストンシール45の軸直交面に平行な平坦面となっている。基部本体121には、ベース面121aからシール軸方向の内周リップ部102、外周リップ部103および中間リップ部104側に凹む背面溝125が形成されている。背面溝125は、ベース面121aをシール径方向に横断している。背面溝125は、図4(b)に示すようにシール周方向に等間隔で複数(具体的には8カ所)形成されている。
シール周方向に隣り合う背面溝125と背面溝125との各間位置に、三カ所ずつ突起122が等間隔で形成されている。すべての突起122はシール径方向外側の外面122aがピストンシール45の中心軸を中心とする同一円筒面上に配置されており、この円筒面の径は、シリンダ本体15の段部91の内周面89bの径よりも所定量小径となっている。複数の突起122は、基部本体121のベース面121aの内外径の範囲内に形成されている。より具体的に、複数の突起122は、ベース面121aの円形の外周縁部および円形の内周縁部のそれぞれから若干離間しており、ベース面121aの外周縁部よりも内端縁部側に寄って形成されている。複数の突起122は、ピストンシール45において内周側に寄って形成されており、基部101においても内周側に寄って形成されている。
次に、図2を参照して、マスタシリンダ11を状態別に説明する。図2(a)は、プライマリピストン18が大気圧を超える液圧を発生させる位置まで移動した液圧発生状態を示すものである。
この液圧発生状態にあるとき、プライマリピストン18の外周面18Aに内周面45aにおいて摺接するピストンシール45は、基部101がポート76よりもシリンダ開口側に位置してポート76を閉塞し、プライマリ圧力室85とプライマリ補給路48との連通を遮断してこれらの間を密封している。これにより、プライマリピストン18がシリンダ底側へ移動すると、プライマリ圧力室85内のブレーキ液が図1に示すプライマリ吐出路27から車輪側の制動用シリンダに供給されることになる。この液圧発生状態にあるとき、ピストンシール45は、プライマリ圧力室85の大気圧を超える液圧によって周溝32内でプライマリ補給路48側つまり周壁89側に位置し、基部本体121のベース面121aを周壁89の外側壁面89aに当接させる一方、中間リップ部104を周壁90から離間させている。
ここで、液圧発生状態にあるとき、プライマリ圧力室85の液圧によって、ピストンシール45の基部101が、プライマリピストン18の外周面18Aからシリンダ径方向に離れる方向の浮き上がり力を受けることがある。本実施形態では、ピストンシール45の基部101に形成された複数の突起122が、周溝32の段部91の内周面89bとシリンダ軸方向にラップしている。よって、段部91の内周面89bが、突起122を外面122aにおいて当接させることによって基部101の浮き上がりを抑制する。これにより、ピストンシール45の基部101とプライマリピストン18の外周面18Aとの面圧が下がってシール性が低下することを抑制する。
本実施形態においては、液圧発生状態にあるとき、液圧による浮き上がり発生時以外は、複数の突起122の外面122aが、段部91の内周面89bに対して摺動可能となる位置に配置されている。詳しくは、浮き上がり発生時以外の液圧発生状態では、突起122の外面122aと段部91の内周面89bとが締め代をもたずに接触する状態となる。言い換えれば、浮き上がり発生時以外の液圧発生状態で、図2(a)ように円筒状の内周面89bの径Aと、複数の突起122の外面122aを繋ぐ円筒の径Bとが同等になっている。
プライマリピストン18がシリンダ底側へ移動して液圧を発生させている状態から、制動を解除するために図示略のブレーキペダルを戻し始めると、図1に示す間隔調整部79によってプライマリピストン18が基本位置に戻ろうとする。このプライマリピストン18の移動によってプライマリ圧力室85の容積が拡大していくことになるが、その際に、ブレーキ配管を介してのブレーキ液の戻りがプライマリ圧力室85の容積拡大に追いつかなくなってしまうと、大気圧であるプライマリ補給路48の液圧とプライマリ圧力室85の液圧とが等しくなった後、プライマリ圧力室85内の液圧は負圧となり、大気圧であるプライマリ補給路48の液圧よりもプライマリ圧力室85の液圧の方が低くなる。
すると、このプライマリ圧力室85内の負圧が、図2(b)に示すようにピストンシール45の外周リップ部103を溝底部88から離間させるとともに基部本体121を周壁89から離間させることになる。このとき、プライマリ圧力室85内が負圧であることから、上記した浮き上がり力がピストンシール45に加わることがなく、よって、ピストンシール45の突起122の外面122aと段部91の内周面89bとが締め代をもたずに接触する状態となっている。このため、これらの間の摺動抵抗は小さく、基部本体121を周壁89から円滑に離間させることができる。
そして、プライマリ補給路48のブレーキ液が、図2(b)に一点鎖線矢印Fで示すように、ピストンシール45の複数の突起122間の隙間から、周壁89と基部本体121との隙間、溝底部88と外周リップ部103との隙間、周壁90と中間リップ部104の中間溝106との隙間、および連通溝51等の流路を介して、プライマリ圧力室85に補給されることになる。これにより、プライマリ圧力室85の液圧を負圧状態から大気圧に戻す速度を速めるようになっている。
上記した特許文献1に記載のマスタシリンダでは、周溝におけるシリンダ本体の開口部側の周壁に、この開口部側へ延びる内周面を有する段部が形成されており、この段部に、ピストンシールの基部から突出する環状突片が当接する構造になっている。そして、ピストンが液圧を発生させる位置まで移動するとピストンシールの環状突片が段部の内周面に径方向に締め代をもって押し付けられて密着することになる。すると、これらの間の摩擦抵抗が増大し、ピストンシールは周溝内で円滑に移動できなくなってしまう可能性がある。その結果、液圧発生状態からのブレーキペダルの戻し時に、ピストンシールと周溝の補給室側の周壁との隙間を円滑に拡げることができず、ピストンシールと周溝との隙間を介して補給室から圧力室にブレーキ液を十分に流すことができなくなってしまう可能性、つまり、ブレーキ液の圧力室への補給性能が低下してしまう可能性がある。
本実施形態のマスタシリンダ11も、液圧発生時のピストンシール45の浮き上がりを抑制するため、周溝32におけるシリンダ開口側の周壁89に、シリンダ開口側へ延びる内周面89bを有する段部91を形成し、ピストンシール45の基部101に、シリンダ開口側へ突出する突起122を形成している。そして、本実施形態の突起122は、プライマリピストン18が液圧を発生させる位置まで移動した状態で、段部91の内周面89bに対して摺動可能となる位置に径方向の外面122aが配置されている。よって、突起122と段部91との間の摩擦による摺動抵抗が抑制され、液圧発生状態からのブレーキペダルの戻し時にピストンシール45は周溝32内で円滑に移動して、基部本体121を周壁89から離間させることになる。したがって、ブレーキ液の補給性能低下を抑制可能となる。
なお、以上の実施形態においては、ピストンシール45を含むプライマリ側のシール構造部SPを例にとり詳細に説明したが、ピストンシール45と共通部品であるピストンシール35、周溝32と同形状の周溝30、第1円筒状部71と同形状の先端部を有する第1円筒状部55を含むセカンダリ側のシール構造部SSも同様の構造となっている。よって、シール構造部SSもシール構造部SPと同様の効果を奏することができる。
以上の実施形態は、ブレーキ液の吐出路とリザーバに連通する補給路とを有する有底筒状のシリンダ本体と、該シリンダ本体内に移動可能に配設され、該シリンダ本体との間に前記吐出路へ液圧を供給する圧力室を形成するピストンと、前記シリンダ本体に形成された周溝内に設けられ内周が前記ピストンに摺接して前記補給路と前記圧力室との間を密封するピストンシールとを備え、前記周溝における前記シリンダ本体の開口部側の周壁には、前記開口部側へ延びる内周面を有する段部が形成されており、前記ピストンシールは、前記ピストンの外周面に摺接する内周リップ部と前記シリンダ本体の前記周溝に当接する外周リップ部とが突出して設けられる円環状の基部を有し、該基部には、前記開口部側へ突出する突起が形成され、該突起は、前記ピストンが液圧を発生させる位置まで移動した状態で、前記段部の内周面に対して摺動可能となる位置に径方向の外面が配置されている。したがって、ブレーキ液の補給性能低下を抑制可能となる。