(第一の実施の形態)
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
図1に、本発明における色変化印刷物(1)を示す。図1(a)に示すのは、色変化印刷物(1)の正面図であり、図1(b)に示すのは、色変化印刷物(1)のA‐A´ラインにおける断面図である。色変化印刷物(1)は、基材(2)の上に、印刷画像(3)が形成されてなる。基材(2)は、印刷画像(3)を形成することができれば、紙、プラスティック及び金属等から選択することができ、その材質は問わない。印刷画像(3)は、透明、半透明又は着色されていても良く、色彩の制約はない。また、印刷画像(3)の大きさについては、基材(2)に印刷可能な大きさであれば、特に制限はない。
また、第二の画像(5)を形成する第二の画線(7)は、第一の画像(4)を形成する第一の画線(6)の少なくとも一部を露出させるように第一の画線(6)上に配置されていれば良い。なお、第一の画線(6)と第二の画線(7)のピッチが異なる場合、図1(b)に示すように、複数配置されている第二の画線(7)の中の一部の画線が、第一の画線(6)と基材(2)上に第二の画線(7)の一部が跨るように配置するか、又は一部の第二の画線(7)が基材(2)上にのみ配置されていることも有るが、本発明の効果を損なうものではないため特に問題とはならず、本発明の技術的範囲に含まれる。
また、後述する第三の画像を形成する第三の画線についても、第一の画線(6)及び第二の画線(7)の少なくとも一部を露出させるように配置されていれば良く、第三の画線のピッチが、第一の画線(6)と第二の画線(7)のピッチが異なる場合についても、第一の画線(6)、基材(2)及び第二の画線(7)の一部に第三の画線が跨るように配置するか、又は一部の第三の画線が、基材(2)上にのみ配置されていても良い。
次に、本発明の印刷画像(3)の構成の概要について図2を用いて説明する。印刷画像(3)は、第一の画像(4)の上に第二の画像(5)が重ねて形成される。本発明の色変化印刷物(1)の印刷画像(3)の領域は、第一の画像(4)と第二の画像(5)が重なり合った領域がそれに当たる。本発明において、第一の画像(4)と第二の画像(5)は、基本的に、同じ大きさである。仮に第一の画像(4)より第二の画像(5)の面積が小さい場合、あるいはその逆の場合、第一の画像(4)と第二の画像(5)が重なりあった領域のみが色変化を伴う印刷画像(3)となり、第一の画像(4)と第二の画像(5)が重なっていない領域は、本発明に必須の要素ではなく、デザイン上の付加的要素と見なすこととする。
図3に第一の画像(4)を示す。第一の画像(4)は、明暗フリップフロップ性及び/又はカラーフリップフロップ性を有し、蒲鉾状の盛り上がりを有する、画線幅W1の第一の画線(6)が特定のピッチP1で第一の方向(図中S1方向)に複数配されてなる。なお、本発明における蒲鉾状とは、蒲鉾形立体のみならず、半円形状又は半楕円形状等の半円立方体の形状も含まれる。
図4は、本実施の形態における第二の画像(5)を示すものであり、第二の画像(5)は、画線幅W2の着色インキから成る第二の画線(7)を特定のピッチP2で第二の方向(図中S1方向)に複数配されてなる。ピッチP1とピッチP2は、同じであっても異なっていても良く、第一の方向と第二の方向は、同じであっても異なっていても良い。ただし、第二のピッチは、第一のピッチの大きさの80%から120%の大きさであり、第一の方向と第二の方向の角度差は10°以内に留めることが、色彩変化を効果的に見せる上で望ましい。なお、第一の実施の形態では、ピッチP1とピッチP2とが異なる値であり、第一の方向と第二の方向が同じ方向である例について説明する。
なお、本発明における「明暗フリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の明度のみが変化する性質を指し、「カラーフリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の色相が変わる性質を指す。明暗フリップフロップ性を備えたインキとしては、金色や銀色等のメタリック系の金属インキやグロスタイプの着色インキがある。一般的に艶があると感じられる物質は、明暗フリップフロップ性を備える。例えば、銀インキは、光を強く反射しない拡散反射光下において暗い灰色にしか見えないが、光を強く反射する正反射光下では、より淡い灰色か、又は白色に見える。このように、「明暗フリップフロップ性」を有するインキは、正反射光下で明度のみが変化する。
一方、カラーフリップフロップ性を備えた、印刷で用いるインキとしては、パールインキや液晶インキ、OVI、CSI(Color Shifting Ink)等が存在する。多くのインキは物体色を有するが、虹彩色パールインキは無色透明である。例えば、赤色の虹彩色パールインキは、拡散反射光下において無色透明として視認されるが、正反射光下では、赤色の干渉色を発する。このように、「カラーフリップフロップ性」を備えたインキは、正反射光下で色相が変化する。
第一の画線(6)は、正反射光下において第一の色彩として視認され、第二の画線(7)は、正反射光下において第一の色彩と異なる第二の色彩として視認される必要がある。第一の画像(6)及び第二の画線(7)ともに拡散反射光下の色彩については、特に問わない。なお、第二の画線(7)については、一般的な着色インキで形成することもでき、この場合、拡散反射光下の色彩と正反射光下の色彩が同じとなるが、重要なのは正反射光下で第一の色彩と異なる色彩を呈することであって、拡散反射光下の色彩は、本発明の色変化印刷物(1)における付加的要素である。
以上の構成で形成した色変化印刷物(1)の効果について、図5を用いて説明する。この効果の説明では、色変化印刷物(1)の第一の画線(6)を緑色の干渉色を発するパール顔料を含有したパールインキで形成し、第二の画線(7)を赤色の物体色の着色インキで形成したと仮定する。図5(a)に示すように、色変化印刷物(1)のA´辺側にある光源(8a)から光が入射し、色変化印刷物(1)から生じる正反射光を観察者(9a)が観察した場合、緑色から黄緑色に見える印刷画像(3)のややA端よりに、赤色からオレンジまでの美しいグラデーションを伴った大きな縞(10a)(以下、第1の実施の形態においては「赤色の縞」という。)を視認することができる。
また、図5(b)に示すように、色変化印刷物(1)の直上に光源(8b)が移動し、色変化印刷物(1)から生じる正反射光を観察者(9b)が観察した場合、緑色の印刷画像(3)の中に生じる赤色の縞(10b)が上端へと移動し、かつ、下端にも新しく赤色の縞(10b)が現れる。
続いて、図5(c)に示すように、色変化印刷物(1)のA辺側に光源(8c)が移動し、色変化印刷物(1)から生じる正反射光を観察者(9c)が観察した場合、緑色の印刷画像(3)の中の赤色の縞(10c)が下から上へと移動する。なお、本明細書において示す観察効果の図については、効果を把握しやすいように色変化印刷物(1)と光源(8)の角度をデフォルメして記載しているが、実際には、図5(a)から図5(c)の角度の差は、大きくとも10度以下であり、ある光源(8)から入射する光に対して、色変化印刷物(1)の角度をわずかに変えるだけで、図5(a)から図5(c)までの色変化効果が生じる。以上のように、わずかな観察角度の変化によって、緑色の印刷画像(3)の中に彩度の高い赤色が出現する美しいグラデーションを伴った縞(10a、10b、10c)がゆるやかに動いて見える。
以上のような効果が生じる原理について説明する。まず、印刷画像(3)中に生じる色彩である、すなわち、緑色の光の中にグラデーションを伴った赤色の縞(10a、10b、10c)が生じる原理について説明する。赤色の縞(10a、10b、10c)とは、第一の画線(6)と第二の画線(7)が干渉して生じる干渉縞(モアレ)である。また、干渉縞中に、赤色からオレンジ色までの繊細なグラデーションを伴う理由は、干渉縞中に、干渉が極めて強い部分からやや強い部分までの微妙な強弱の段階が存在するため、二つの画線の干渉が極めて強い部分は、第二の色彩が支配的な色彩である、すなわち、赤色となり、干渉がやや強い部分は、第二の色彩に第一の色彩が加わった合成色であるオレンジ色となり、その間に中間色も生じるためである。
また、赤色の縞(10a、10b、10c)がない領域が緑色から黄緑色となるのは、この領域に干渉がほとんど生じないか、又は極めて弱いため、パール効果によって生じる第一の色彩が支配的な色彩である、すなわち、緑色が主体となり、少しでも干渉が生じた領域は、第一の色彩に第二の色彩が加わった合成色である黄緑色となるためである。以上のように、印刷画像(3)中の干渉が強い領域は、第二の色彩が支配的な色彩となり、干渉が弱い部分は、第一の色彩が支配的な色彩となる。
また、色変化印刷物(1)に対して、光源(8)から入射する光の角度の位置が変わることで、縞が上下に動いて見える原理について説明する。明暗フリップフロップ性及び/又はカラーフリップフロップ性を有する第一の画線(6)は、蒲鉾状の盛り上がりを有する画線であることから、入射する光の角度が変化することで、第一の画線(6)表面のうち、光を強く正反射する画線表面の位置が上下に変化する。例えば、A辺側から光が入射した場合、それぞれの第一の画線(6)表面のうち、画線の盛り上がりの頂点よりA辺側の画線表面が強く光を正反射し、A´辺側から光が入射した場合、それぞれの第一の画線(6)表面のうち、画線の盛り上がりの頂点よりA´辺側の画線表面が強く光を正反射する。入射する光がA辺側からA´辺側に移動することで、第一の画線(6)表面のうち、光を強く正反射する画線表面がA辺側からA´辺側に移動する。第一の画線(6)表面上には、第二の画線(7)が重ねられており、正反射した第一の画線(6)表面上にある第二の画線(7)は、第一の画線(6)と強く干渉してその色彩が強調されて可視化され、一方、正反射していない第一の画線(6)表面上にある第二の画線(7)は、第一の画線(6)と強く干渉せず、色彩は目立たずに可視化されない。第一の画線(6)の第一のピッチと第二の画線(7)の第二のピッチがわずかにずれている場合、入射する光が上下に移動することで、強く干渉して可視化される第一の画線(6)と第二の画線(7)の干渉によって生じる縞も、これに対応して上下に移動する。以上の原理によって、出現する縞が上下に動いて見える。
以上が、本発明の効果が生じる原理であり、すなわち、正反射光下で生じる動的な色彩変化は、第一の画線(6)と第二の画線(7)の干渉によって生じる。色彩を大きく変化させるために、第一の色彩と第二の色彩は、補色か、又はそれに近い関係であることが望ましい。印刷画像(3)中に現れる色彩は、第一の色彩と第二の色彩を合成した色彩に限定されるが、干渉の強弱によって、第一の色彩が強い部分、第二の色彩が強い部分及び完全な中間色となる部分等が存在することから、印刷画像(3)全体に繊細で鮮やかなグラデーションを生じさせることができる。
また、色変化印刷物(1)の傾きを変化させた場合の縞の動きを大きくするには、第一のピッチと第二のピッチを近い値とすれば良く、角度を変化させた場合の縞の動きを小さくするには、第一のピッチと第二のピッチを離れた値とすれば良い。ただし、第一のピッチと第二のピッチが離れすぎた値となると、縞がほとんど動いて見えなくなるため、第一のピッチの大きさを100%とすると、第二のピッチの大きさを80%から120%とすることが望ましい。
第一の実施の形態では、干渉によって生じた縞が印刷画像(3)の水平方向に生じているが、縞の方向とその動きの方向は、これに限定されるものではなく、任意に変えることができる。第一の画線(6)と第二の画線(7)のいずれか、又は両方の画線角度を傾けることで生じる縞の方向と動きの方向を変えることができる。仮に、縞の方向を90度回転させて垂直方向に伸びた縦方向の縞として、動きの方法を水平方向に変えたい場合には、第一の画線(6)と第二の画線(7)の両方を90度回転させれば良い。この場合、縦方向の伸びる縦縞は、色変化印刷物(1)を傾けた場合に左右方向に移動するため、縦縞に両眼視差を用いた遠近感を付与することができ、より多彩な表現が可能となる。この両眼視差を用いた縞の遠近感の制御については、WO2009/139396号公報に記載のモアレの構成を準用すれば良い。
第一の実施の形態では、正反射光下で緑から赤へ色彩が変化する例として、緑色の干渉色を発するパールインキと赤色の着色インキを用いた例で説明したが、同じ効果は、赤色の干渉色を発するパールインキと緑色の着色インキを用いても実現することができる。また、本発明の効果は、この色彩に限定されるものではなく、紫から黄又は青から橙等、様々な色彩変化を実現することができる。また、正反射光下で生じる色彩は、二つに限定されるものではなく、三つ以上の色彩を表現することもできる。三つの色彩を表現する例については、後述する第三の実施の形態で具体的に説明する。
本発明の色変化印刷物(1)で生じる色彩変化とは、正反射光下で生じる効果であり、正反射光下のある特定の角度で観察した場合と、正反射光下の異なる角度で観察した場合とで色彩が変わる効果である。従来の色変化を特徴とした印刷物の多くは、拡散反射光下で観察される色彩と、正反射光下で観察される色彩が異なることを特徴とするものが多いが、本発明の色変化印刷物(1)は、これらの従来の色変化を特徴とした印刷物とは、色の変化が生じる条件が大きく異なる。従来の技術のように、拡散反射光下で観察される色彩と、正反射光下で観察される色彩とを変えるのは容易であり、最も単純な方法としては、例えば、緑色で印刷したベタ画像に、赤色の干渉色を発する虹彩色パールインキで印刷したベタ画像を重ねれば良い。また、同じインキの中に緑色の着色顔料と赤色の干渉色を発する虹彩色パールインキを配合し、ベタで印刷しても同様の効果が得られる。以上のような手法で形成した印刷画像は、拡散反射光下において緑色で観察され、正反射光下において赤色で観察される。このように、拡散反射光下の色彩と正反射光下の色彩を変えることは容易であり、従来の技術によって、既に実現されてきた効果であることから、本発明の色変化印刷物(1)のように、正反射光下のわずかな角度の変化で生じる色彩変化とは大きく異なる。
なお、本明細書中でいう正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例とすると、拡散反射の状態では、無色透明として観察されるが、正反射した状態では、特定の干渉色を発する。正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
(第二の実施の形態)
第一の実施の形態では、正反射光下で印刷画像中の一部の領域の色彩が変化する、いわゆる、動的な色彩変化を実現するための構成について説明したが、第二の実施の形態では、正反射光下において観察角度の変化に応じて印刷画像(3´)中の一部の領域ではなく、印刷画像(3´)全体の色彩が変化する構成について説明する。
印刷画像(3´)画像全体の色彩が変化する構成について、第二の画像(5´)の構成以外は、第一の実施の形態の説明で述べた構成と同じであるため、説明を省略し、色変化印刷物(1´)の概観や構造、第一の画像の構成等は、第一の実施の形態で説明した図1から図3までの構成をとるものとする。
第二の実施の形態における第二の画像(5´)について図6を用いて説明する。第二の画像(5´)は、正反射光下で第二の色彩を有する、画線幅W2の第二の画線(7´)が第一の画像(4´)のピッチP1と同じピッチP1で第二の方向(S1方向)に複数配されてなる。すなわち、本例では、ピッチP1とピッチP2とが同じ値である。
以上の構成で形成した色変化印刷物(1´)の効果について図7を用いて説明する。第一の実施の形態と同様に、色変化印刷物(1´)の第一の画線を緑色の干渉色を発するパール顔料を含有したパールインキで形成し、第二の画線(7´)を赤色の物体色の着色インキで形成したと仮定する。図7(a)に示すように、色変化印刷物(1´)のA´辺側にある光源(8a´)から光が入射し、色変化印刷物(1´)から生じる正反射光を観察者(9a´)が観察した場合、印刷画像(3´)全体が緑色の色彩として観察される。
また、図7(b)に示すように、色変化印刷物(1´)の直上に光源(8b´)が移動し、色変化印刷物(1´)から生じる正反射光を観察者(9b´)が観察した場合、印刷画像(3´)全体は、黄色の色彩として観察される。さらに、図7(c)に示すように、色変化印刷物(1´)のA辺側に光源(8c´)が移動し、色変化印刷物(1´)から生じる正反射光を観察者(9c´)が観察した場合、印刷画像(3´)全体は、赤色の色彩として観察される。すなわち、正反射光下のわずかな観察角度の変化で、印刷画像(3´)全体の色彩が緑色から黄色を経て赤色まで、ゆるやかに変化する。
第二の実施の形態において、ピッチP2をピッチP1と同じ値とすることで、第一の実施の形態のように色彩豊かな干渉縞(10)が出現して動いて見える構成ではなく、印刷画像(3´)全体の色彩が入射する光の角度に応じて変化する効果が生じる。これは、第二の画線(7´)が第一の画線(6´)に重ねられた位置が、全ての第一の画線上において同じ位相に存在するため、画線同士の干渉が生じる角度と生じない角度が明確にわかれることから、印刷画像(3)中に干渉の強さが異なる領域が生じないためである。
(第三の実施の形態)
第三の実施の形態では、正反射光下で観察角度の変化に応じて印刷画像(3´´)中の特定の領域の色彩が特定の角度で変化する構成について説明する。
印刷画像(3´´)全体の色彩が変化する構成について、第二の画像(5´´)の構成以外は、第一の実施の形態や第二の実施の形態の説明で述べた構成と同じであるため、説明を省略し、色変化印刷物(1´´)の概観や構造、第一の画像(4´´)の構成等は、第一の実施の形態で説明した図1から図3までの構成をとるものとする。
第三の実施の形態における第二の画像(5´´)について図8を用いて説明する。第二の画像(5´´)は、正反射光下で第二の色彩を有する、画線幅W2の第二の画線(7a´´、7b´´)が第一の画像のピッチP1と同じピッチP1で第二の方向(S1方向)に複数配されてなる。すなわち、本例では、ピッチP1とピッチP2とが同じ値である。ただし、図8の拡大図に示すように、第二の画像(5´´)の第一の領域(5a´´)と第二の領域(5b´´)では、それぞれの第二の画線(7a´´、7b´´)の位相をピッチP1の半分だけ上下にずらした構成となっている。
以上の構成で形成した色変化印刷物(1´´)の効果について図9を用いて説明する。第三の実施の形態では、色変化印刷物(1´´)の第一の画線を緑色の干渉色を発するパール顔料を含有したパールインキで形成し、第二の画線(7´´)を銀色のメタリックインキで形成したと仮定する。図9(a)に示すように、色変化印刷物(1´´)のA´辺側にある光源(8a´´)から光が入射し、色変化印刷物(1´´)から生じる正反射光を観察者(9a´´)が観察した場合、印刷画像(3´´)の第一の領域(5a´´)は、緑色の色彩として観察され、第二の領域(5b´´)は、銀色の色彩として観察される。
また、図9(b)に示すように、色変化印刷物(1´´)の直上に光源(8b´´)が移動し、色変化印刷物(1´´)から生じる正反射光を観察者(9b´´)が観察した場合、印刷画像(3´´)全体が、淡い緑色として観察される。さらに、図9(c)に示すように、色変化印刷物(1´´)のA辺側に光源(8c´´)が移動し、色変化印刷物(1´´)から生じる正反射光を観察者(9c´´)が観察した場合、印刷画像(3´´)の第一の領域(5a´´)は、銀色の色彩として観察され、第二の領域(5b´´)は、緑色の色彩として観察される。このように、観察角度のわずかな変化であっても、印刷画像(3´´)の第一の領域(5a´´)と第二の領域(5b´´)の色彩が反転する効果を有する。
第二の実施の形態において部分的に第二の画線(7a´´、7b´´)の位相を第一の方向(S1方向)にずらすことによって、印刷画像(3´´)の色彩を部分的に変えることができる。
(第四の実施の形態)
第四の実施の形態では、正反射光下において観察角度の変化に応じて印刷画像(3´´´)中に三種類の異なる色彩が生じる構成について説明する。この構成では、図10に示すように、第一の画像(4´´´)の上に画線構成の異なる二つの画像として、第二の画像(5a´´´)と第三の画像(5b´´´)を重ね合わせて形成する。
印刷画像(3´´´)の構成について、第二の画像(5´´´)の構成以外は、第一の実施の形態から第三の実施の形態までに述べた構成と同じであるため、説明を省略し、色変化印刷物(1´´´)の概観、第一の画像(4´´´)の構成等は、図1と図3で説明した構成をとるものとする。
図11(a)に示す第三の実施の形態における第二の画像(5a´´´)は、正反射光下で第二の色彩を有する、画線幅W2の第二の画線(7a´´´)がピッチP2で第二の方向(S1方向)に複数配されてなる。図11(b)に示すもう一つの画像である第三の画像(5b´´´)は、正反射光下で第三の色彩を有する、画線幅W3の第三の画線(7b´´´)がピッチP3で第三の方向(S1方向)に複数配されてなる。第一のピッチであるP1及び第二のピッチであるP2並びに第三のピッチであるP3は、それぞれ同じでも良いし、異なっていても良く、第一の方向、第二の方向及び第三の方向も同様にそれぞれ同じでも良いし、異なっていても良い。なお、第三の実施の形態において、ピッチP1とピッチP2は異なっており、ピッチP1とピッチP3は同じ値であって、第一の方向、第二の方向及び第三の方向は、同じ方向である。
以上の構成で形成した色変化印刷物(1´´´)の効果について図12を用いて説明する。第四の実施の形態では、色変化印刷物(1´´´)の第一の画線(6´´´)を緑色の干渉色を発するパール顔料を含有したパールインキで形成し、第二の画線(7a´´´)を銀色のメタリックインキで形成し、第三の画線(7b´´´)を赤色の着色インキで形成したと仮定する。第二の画像(5a´´´)と第三の画像、5b´´´)の積層順は、特に限定するものではないが、画線同士が重なりあった場合には、上に重ねられた画像の色彩のほうがやや強く干渉縞に反映される。第四の実施の形態においては、第一の画線(6´´´)の上に赤色の着色インキで印刷した第三の画線(7b´´´)を重ねた後、銀色の着色インキで印刷した第二の画線(7a´´´)を重ねて色変化印刷物(1´´´)を形成した。
図12(a)に示すように、色変化印刷物(1´´´)のA´辺側にある光源(8a´´´)から光が入射し、色変化印刷物(1´´´)から生じる正反射光を観察者(9a´´´)が観察した場合、緑色として観察される印刷画像(3´´´)のややA端よりに、白(銀)から淡い緑色までの美しいグラデーションを伴った大きな白い縞(10a´´´)を視認することができる。
また、図12(b)に示すように、色変化印刷物(1´´´)の直上に光源(8b´´´)が移動し、色変化印刷物(1´´´)から生じる正反射光を観察者(9b´´´)が観察した場合、印刷画像(3´´´)の中に生じる白い縞(10b´´´)以外の領域が緑色から黄色へと変化し、また、白い縞(10b´´´)が上端へと移動し、かつ、下端にも新しく白い縞(10b´´´)が現れる。さらに、図12(c)に示すように、色変化印刷物(1´´´)のA辺側に光源(8c´´´)が移動し、色変化印刷物(1´´´)から生じる正反射光を観察者(9c´´´)が観察した場合、印刷画像(3´´´)の中の白い縞(10c´´´)以外の領域が黄色から赤色へと変化し、また白い縞(10c´´´)が下から上へと移動する。以上のように、印刷画像(3´´´)が正反射することで、緑色の中に白色から淡い緑色の美しいグラデーションを伴った縞(10a´´´、10b´´´、10c´´´)が現れ、角度変化に伴って縞(10a´´´、10b´´´、10c´´´)が上下に動き、印刷画像(3´´´)の縞(10a´´´、10b´´´、10c´´´)以外の領域の色彩が緑色から黄色を経て、赤色へと変化する。
以上のように、第二の画像を第二の色彩と第三の色彩の二種類の色で構成することによって、より複雑で動的な色彩変化を実現することができる。第二の画像(5a´´´)と第三の画像(5b´´´)の、それぞれの画線幅W2及びW3は、同じでも異なっていても良いが、色変化を大きく見せたい場合には、W2とW3の合計の画線幅が第一の画像(4´´´)のピッチP1の値を上回らないことが望ましい。W2とW3の合計の画線幅が第一の画像(4´´´)のピッチP1の値を上回ってしまう場合には、第一から第三までのいずれかの色彩が印刷画像(3´´´)中に出現しない場合があるためである。
また、第二の画像(5a´´´)を形成する第二の画線(7a´´´)のピッチと第三の画像(5b´´´)を形成する第三の画線(7b´´´)のピッチは、同じでも異なっていても良いが、第二の画線(7a´´´)と第三の画線(7b´´´)同士が完全に重なり合わないことが望ましい。第二の画線(7a´´´)と第三の画線(7b´´´)同士が完全に重なり合った場合には、出現する干渉縞(10´´´)の色彩が全て第二の色彩と第三の色彩の合成色の単色の色彩となり、第二の色彩と第三の色彩の原色に近い色彩や、その中間色にあたる微妙な色彩を出現させることができず、色表現域が狭くなるためである。仮に、第二の画像(5a´´´)と第三の画像(5b´´´)の刷り合わせが制御できない場合には、第二の画線(7a´´´)のピッチと第三の画線(7b´´´)のピッチを変えた画線構成とすることで、いずれかの部分で第二の画線(7a´´´)と第三の画線(7b´´´)が重なってしまったとしても、その他の部分で第二の画線(7a´´´)と第三の画線(7b´´´)が重なり合わない画線配置とすることができる。
なお、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青及び黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400〜700nm)の特定の波長の強弱の分布を示すものである。
本発明の第一の画像(4)を形成する第一の画線(6)は、盛り上がりを有する画線を形成することが必須であることから、印刷画線に盛り上がりを形成可能な印刷方式で印刷することが望ましい。すなわち、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷及びスクリ−ン印刷等、公知の印刷方式によって形成することができる。また、容易に視認することができる程度の視認性を確保するためには、第一の画線(6)の画線の盛り上がり高さを2μm以上とする必要がある。盛り上がり高さの上限は特にないが、堅ろう性や流通適性を考慮すると1mm以下に留めることが望ましい。
また、実施の形態のように、印刷で直接画線の盛り上がりを形成するのではなく、エンボス加工や透き入れによって基材上に凹凸構造を形成して、その上に印刷被膜を形成したり、フィルムを貼付して第一の画像(4)としても良い。
本発明における第二の画像(5)は、盛り上がりを有する画線を形成する必要はなく、平坦な構造で良い。すなわち、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷、スクリ−ン印刷等、公知の印刷方法で形成することができる。第二の画線(7)については、正反射光下で第二の色彩として視認される構成を必須とするが、この条件を満たすインキは、物体色を有する一般的な着色インキ及びメタリックインキ等のあらゆるインキが含まれるため、色彩選択の自由度は極めて高い。なお、第二の画線(7)には、第一の画線(6)のような明暗フリップフロップ性及び/又はカラーフリップフロップ性を有することは必須ではないが、これらの性質を備えた第二の画線(7)を形成した場合、生じさせる色彩変化の幅が広くなる。特に、第一の画線(6)及び第二の画線(7)に異なる干渉色の虹彩色パールインキを用いて色変化印刷物(1)を構成した場合、拡散反射光下では、透明として観察された印刷画像(3)が、正反射光下において複数の色相に彩られるため、観察者にとってインパクトが強く、真偽判別性や偽造抵抗力により優れた構成となる。
第一の実施の形態から第四の実施の形態までの四つの例における印刷画像(3)の形状は、いずれも単純な円で表したが、これに限定されるものではなく、文字、数字、記号及びマーク等の有意情報を表しても良い。
以下、前述の発明を実施するための最良の形態にしたがって、具体的に作製した色変化印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例1及び実施例2では、印刷画像(3)自体が特定の有意情報を表した構成としている。
図13に実施例1の色変化印刷物(1−1)を示す。図13(a)は、実施例1の色変化印刷物(1−1)における正面図であり、図13(b)に示すのは、色変化印刷物(1−1)のA‐A´ラインにおける断面図である。色変化印刷物(1−1)は、基材(2−1)上に、印刷画像(3−1)が形成されてなる。基材(2−1)は、白色コート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。
実施例1の色変化印刷物(1−1)における印刷画像(3−1)の構成の概要について図14を用いて説明する。印刷画像(3−1)は、第一の画像(4−1)の上に、第二の画像(5−1)を重ね合わせて形成した。実施例1において第一の画像(4−1)及び第二の画像(5−1)は、いずれも数字の「10」の文字を表してなる。
図15(a)に第一の画像(4−1)を示す。第一の画像(4−1)は、表1に示した着色パールインキを用いて盛り上がりのある蒲鉾状の画線幅0.3mmの第一の画線(6−1)が0.4mmピッチで第一の方向(S1方向)に複数配されてなる。表1のインキは、拡散反射光下では、黒色として観察されるが、正反射光下では、金色の干渉色を発する光学特性を有する。以上のような構成の第一の画像(4−1)をUV乾燥方式のスクリーン印刷で基材(2−1)上に印刷した。印刷した第一の画線(6−1)における盛り上がりの高さは、15μmであった。なお、表1に記載の着色パールインキ中の虹彩色パール顔料は、特開2001−106937号公報に記載の撥水撥油処理を施している。この処理を施すことで、蒲鉾状の第一の画線(6−1)の画線表面にパール顔料が向きを揃えて配向するため、より高いパール効果を得ることができる。また、黒色の着色顔料をパールインキ中に配合することで、入射した光中の虹彩色パール顔料の干渉色以外の色彩の光を吸収する効果が得られるため、パールの干渉色が強調される効果が生じる。
図15(b)に第二の画像(5−1)を示す。第二の画像(5−1)は、青色の着色インキを用いて印刷した、画線幅0.2mmの第二の画線(7−1)が0.412mmピッチで複数配されてなる。以上のような構成の第二の画像(5−1)をUV乾燥方式のオフセット印刷で第一の画像(4−1)上に印刷した。本実施例における第一の色彩は金色であり、第二の色彩は青色である。
以上の構成で形成した色変化印刷物(1−1)の効果について図16を用いて説明する。拡散反射光下では、黒色で「10」の数字が形成された印刷画像(3−1)として視認されたが、図16(a)に示すように、色変化印刷物(1−1)のA´辺側にある光源(8a−1)から光を入射させ、色変化印刷物(1−1)から生じる正反射光を観察したところ、やや青味を帯びた金色に見える印刷画像(3−1)のややA端よりに、青色から青緑色までの美しいグラデーションを伴った大きな縞(10a−1)(以下、実施例1において「青色の縞」という。)が視認された。
また、図16(b)に示すように、色変化印刷物(1−1)の直上の光源(8b−1)から光を入射させ、色変化印刷物(1−1)から生じる正反射光を観察したところ、青味を帯びた金色の印刷画像(3−1)の中に生じる青色の縞(10b−1)が上端へと移動し、かつ、下端にも新しく青色の縞(10b−1)が現れた。さらに、図16(c)に示すように、色変化印刷物(1−1)のA辺側の光源(8c−1)から光を入射させ、色変化印刷物(1−1)から生じる正反射光を観察したところ、青味を帯びた金色の印刷画像(3−1)の中に生じる青色の縞(10c−1)が下から上へと移動した。
以上のように、正反射光下において観察角度をわずかに変化させることで、青味がかった金色の中に、彩度の高い青色の美しいグラデーションを伴った縞(10a−1、10b−1、10c−1)がゆるやかに動いて見えることを確認することができた。
実施例2は、異なる色彩で印刷した第二の画像と第三の画像を有する例であり、正反射光下で異なる三つの色彩が発現する効果を有する色変化印刷物である。
図17に実施例2の色変化印刷物(1−2)を示す。図17(a)は、実施例2の色変化印刷物(1−2)の正面図であり、図17(b)は、色変化印刷物(1−2)のA‐A´ラインにおける断面図である。色変化印刷物(1−2)は、基材(2−2)の上に、印刷画像(3−2)が形成されてなる。基材(2−2)は、実施例1と同様に白色コート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。
本発明の印刷画像(3−2)の構成の概要について図18を用いて説明する。印刷画像(3−2)は、第一の画像(4−2)の上に、異なる色彩の第二の画像(5a−2)と第三の画像(5b−2)を重ね合わせて形成した。実施例2における第一の画像(4−2)、第二の画像(5a−2)及び第三の画像(5b−2)は、いずれも数字の「10」の文字を表してなる。
図19に第一の画像(4−2)を示す。第一の画像(4−2)は、表2に示した着色パールインキを用いて盛り上がりのある蒲鉾状の画線幅0.3mmの第一の画線(6−2)が、0.4mmピッチで第一の方向(S1方向)に複数配されてなる。表2のインキは、拡散反射光下では、黒色として観察されるが、正反射光下では、緑色の干渉色を発する光学特性を有する。
以上のような構成の第一の画像(4−2)を、UV乾燥方式のスクリーン印刷で基材(2−2)上に印刷した。印刷した第一の画線(6−2)における盛り上がりの高さは、15μmであった。なお、表2に記載の着色パールインキ中の虹彩色パール顔料は、表1の着色パールインキと同様に、特開2001−106937号公報に記載の撥水撥油処理を施したものを用いた。
図20(a)及び図20(b)に第二の画像(5a−2)と第三の画像(5b−2)を示す。第二の画像(5a−2)は、メタリックインキである銀インキ(ミラシーン ウォールステンホルム社製)を用いて、画線幅0.125mm、画線ピッチが0.412mmの複数の第二の画線(5a−2)が配列されてなる。また、第三の画像(5b−2)は、赤色の着色インキを用いて、画線幅0.2mm、画線ピッチが0.4mmの複数の第三の画線(7b−2)が配列されてなる。以上のような構成の第二の画像(5a−2)と第三の画像(5b−2)をUV乾燥方式のオフセット印刷で第一の画像(4−2)上に印刷した。
それぞれの画線を形成する順序については、第一の画線(6−2)の上に、赤色の着色インキで印刷した第三の画線(7b−2)を重ねた後に、銀色の着色インキで印刷した第二の画線(7a−2)を重ねて色変化印刷物(1−2)を形成した。実施例2における第一の色彩は、緑色であり、第二の色彩は、銀色であり、第三の色彩は、赤色である。
以上の構成で形成した色変化印刷物(1−2)の効果について図21を用いて説明する。拡散反射光下では、緑味を帯びた黒色により「10」の数字が形成された印刷画像(3−2)が観察されるだけであったが、図21(a)に示すように、色変化印刷物(1−2)のA´辺側にある光源(8a−2)から光を入射させ、色変化印刷物(1−2)から生じる正反射光を観察したところ、緑色に見える印刷画像(3−2)のややA端よりに、白色(銀色)から淡い緑色までの美しいグラデーションを伴った大きな白色の縞(10a−2)を視認することができた。
また、図21(b)に示すように、色変化印刷物(1−2)の直上の光源(8b−2)から光を入射させ、色変化印刷物(1−2)から生じる正反射光を観察したところ、白色の縞(10b−2)以外の印刷画像(3−2)が緑色から黄色へと変化し、白色の縞(10b−2)が上端へと移動し、かつ、下端にも新しく白色の縞(10b−2)が現れた。さらに、図21(c)に示すように、色変化印刷物(1−2)のA辺側の光源(8c−2)から光を入射させ、色変化印刷物(1−2)から生じる正反射光を観察したところ、白色の縞(10c−2)以外の印刷画像(3−2)は、黄色から赤色へと変化し、白色の縞(10c−2)が下から上へと移動した。
以上のように、正反射光下において観察角度をわずかに変化させることで、印刷画像(3−2)が発する緑色の中に、白色から淡い緑色の美しいグラデーションを伴った白い縞模様(10a−2、10b−2、10c−2)が出現し、色変化印刷物(1−2)の色がゆるやかに動いて見えるとともに、緑色の色彩も黄色を経て、赤色に変化することを確認することができた。