本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の潜像印刷物(1)を示す図であり、潜像印刷物(1)は、基材(2)上に印刷画像(3)を備えて成る。基材(2)は、上質紙、コート紙、フィルム、金属等、表面に画像を形成できる材質であれば、如何なる材料を用いても良い。また、基材(2)の色彩についても制限はなく、透明や不透明であっても問題なく、加えて、大きさについても特に制限はない。また、印刷画像(3)は基材(2)と異なる色彩を有していれば、透明以外の如何なる色彩であってもよい。
図2に、印刷画像(3)の構成を示す。印刷画像(3)は、有色画線群(4)と凸画線群(5)とが積層されて成る。有色画線群(4)は、一様な階調で形成された背景画線群(6)と、第一の有意情報である「七宝」の画像を表した情報画線群(7)から成る。背景画線群(6)は、第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をポジで表したポジ画線群(8)と、第二の有意情報をネガで表したネガ画線群(9)に区分けされる。続いて、各画線群の構成について説明する。
図3に、有色画線群(4)の詳細な画線構成図を示す。図3(a)に示す有色画線群(4)は、背景画線群(6)と情報画線群(7)から成る。
図3(b)に示すように、背景画線群(6)は、画線幅(W1)の背景画線(10)が、第一の方向(図中上下方向)にピッチ(P1)で複数配置されて成る。背景画線群(6)の詳細については後述するが、背景画線群(6)は、同じ画線幅(W1)の背景画線(10)が同じピッチ(P1)で配置されることで、画線面積率が一定となることから、正対して観察した場合に、フラットな階調で見える。なお、本明細書中でいう画線面積率とは、基材(2)の一定の面積の中に画線の面積が占める割合を言う。
図3(c)に示すように、情報画線群(7)は、画線幅(W2)の情報画線(11)が、第一の方向にピッチ(P1)で複数配置されて、情報画線(11)の有無により第一の有意情報である「七宝」の画像を表して成る。なお、本実施の形態において、第一の有意情報は、「七宝」の画像の例で説明するが、本発明において第一の有意情報は、「七宝」の画像に限定されるものではなく、他の画像で形成されても良いし、数字、記号、図形、図柄、マーク及び模様のいずれか又はその組み合わせで形成されても良い。情報画線(11)を形成する形態としては、図3(a)の拡大図に示すように、背景画線群(6)を構成している複数の背景画線(10)に重ならない形態とする。このように、情報画線(11)と背景画線(10)が重ならないことで、正対して観察した場合には、背景画線(10)が作り出したフラットな階調の中に、情報画線(11)が配置されることで面積率の差が生じて第一の有意情報が観察できる。
図4に背景画線群(6)の詳細な画線構成図を示す。背景画線群(6)を構成する背景画線(10)は、図4(a)の拡大図に示すように、背景画線(10)の位相が部分的に異なることにより、ポジ画線(10P)とネガ画線(10N)に区分けされ、背景画線群(6)は、図4(b)に示す第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をポジで表現した複数のポジ画線(10P)から成るポジ画線群(8)と、図4(c)に示す第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をネガで表現した複数のネガ画線(10N)から成るネガ画線群(9)とを有する。なお、本実施の形態においては、図4(a)の拡大図に示すように、ポジ画線(10P)とネガ画線(10N)とは、第一の方向に(W1)だけ位相がずれた構成について説明する。また、本実施の形態において、第二の有意情報は、「JPN」の文字の例で説明するが、本発明において第二の有意情報は、「JPN」の文字に限定されるものではなく、他の文字で形成されても良いし、数字、記号、図形、図柄、マーク及び模様のいずれか又はその組み合わせで形成されても良い。
本発明でいうポジとは、図4(b)に示すように、有意情報自体が濃く、一方の有意情報の周囲は淡い状態とし、本発明でいうネガとは、図4(c)に示すように、有意情報自体が淡く、一方の有意情報の周囲は濃い状態を指す。
背景画線群(6)の画線面積率は、10%以上90%以下の範囲で形成されることが望ましい。背景画線群(6)の画線面積率が10%未満又は90%を超える場合、後述する印刷物を傾けた状態で視認される第二の有意情報のコントラストが低くなり、容易に視認できなくなる可能性が高くなるため望ましくない。
情報画線群(7)の画線面積率は、背景画線群(6)の面積率の10%以上90%以下であることが望ましい。10%未満の場合、後述する印刷物に正対した状態で視認される第一の有意情報のコントラトが低くなり、容易に視認できなくなるためであり、90%を超える場合、傾けた状態で第一の有意情報を消失させることが難しくなるためである。
以上のように、有色画線群(4)は、その中に第一の有意情報と、第二の有意情報を備える。第一の有意情報は、有色画線群(4)中の面積率の大小によって表され、第二の有意情報は画線の第一の方向の位相のずれによって表されて成る。この有色画線群(4)は、基材(2)と異なる色を有するインキを用いて形成する。このとき、有色画線群(4)を構成するポジ画線(10P)、ネガ画線(10N)及び情報画線(11)を形成するインキの色の関係は、ポジ画線(10P)とネガ画線(10N)を同じ色のインキを用いて形成すれば良く、ポジ画線(10P)とネガ画線(10N)に対して、情報画線(11)を形成するインキの色は同じであっても良いし、異なる色であっても良い。このような条件を満たしていれば、有色画線群(4)を形成するインキの色はいかなる色でも良く、通常の着色インキを用いるほかに、金や銀のようなメタリック系インキを用いたり、高光沢なグロス系インキを用いたりすることで、より高いチェンジングの効果を得ることができる。
有色画線群(4)を印刷する場合の印刷方式は、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷等、如何なる方式を用いても良い。またインキジェットプリンターやレーザプリンター等のデジタル印刷機器を用いて形成しても何ら問題はない。また、レーザーマーカーや各種切削機械等を用いて基材表面を焦がしたり、切削したりすることで濃淡を表現し、有色画線群(4)を形成してもよい。
なお、説明の便宜上、実施の形態や実施例の有色画線群(4)の説明図において、各画線を縦線や横線、あるいは斜め線等によって記載しているが、実際にはすべて塗りつぶしの画線である。
図5に、凸画線群(5)を示す。凸画線群(5)は、画線幅(W3)で盛り上がりのある凸画線(12)が、第二の方向(図中上下方向)にピッチ(P1)で複数配置されて成り、凸画線(12)がピッチ(P1)で配置されることで、凸画線(12)と凸画線(12)の間に谷領域(13)を有する。谷領域の幅(W4)は、図5(c)に示すように、凸画線(12)のピッチ(P1)と画線幅(W3)の差である。この凸画線(12)と谷領域(13)は、傾けた場合に第一の有意情報を隠蔽し、かつ、第二の有意情報を出現させるために機能するが、これらの具体的な機能については後述する。
第1の実施の形態において、凸画線(12)が配置される第二の方向は、図5(c)に示すように、ポジ画線(10P)、ネガ画線(10N)及び情報画線(11)が配置される第一の方向と同じ方向でも良いし、異なる方向でも良い。図6(a)では、第一の方向と異なる第二の方向に凸画線(12)が配置された状態の例を示している。第一の方向と第二の方向が異なる場合に視認される第二の有意情報については後述するが、第一の方向と第二の方向の傾斜角(α)が大きいとモアレが多く発生して第二の有意情報の視認性が低下する。ただし、モアレの発生は、潜像印刷物(1)に形成する第二の有意情報の図柄の大きさ、背景画線群(6)と凸画線群(5)の画線設計にもよるため、実際に潜像印刷物(1)を作製する場合には、第二の有意情報の視認性に応じて第一の方向と第二の方向の傾斜角(α)を適宜設定すれば良い。なお、前述した、銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のサイズの貴重印刷物において、本発明の潜像印刷物(1)を適用する場合、第二の有意情報の図柄を視認しやすくするために、第一の方向と第二の方向の傾斜角(α)は、±3度の範囲で形成するのが好ましく、より好ましい第一の方向と第二の方向の傾斜角(α)の範囲は、±0.1度から±1.5度である。
凸画線群(5)は盛り上がりを有し、かつ、透明あるいは半透明、もしくは基材(2)と同じ色彩である必要がある。形成方法は、凹版印刷やスクリーン印刷等の盛り上がりを形成できる印刷方式を用いて形成することができ、透明又は半透明な材料としては、ワニス、メジウム、透明凹版インキ、OPニスを用いることができる。また、すき入れ、エンボス加工やレーザー加工等の特殊な加工方法によって凸画線群(5)を形成してもよく、この場合、基材(2)自体を加工することで凸画線(12)が形成されるので、基材(2)と同じ色彩の状態で形成される。凸画線(12)の盛り上がり高さが低いと、傾けた場合の第一の有意情報の隠蔽性と第二の有意情報の視認性が低下し、盛り上がり高さが高いと、流通適性が悪く、凸画線(12)の作製上効率的でないことから、凸画線(12)の盛り上がり高さは、5μm以上1mm以下であることが好ましく、より好ましい範囲は、15μm以上100μm以下である。
図7に、第1の実施の形態の潜像印刷物(1)を形成するための、有色画線群(4)と、凸画線群(5)の重ね合わせ順を示す。図7(a)は、基材(2)に有色画線群(4)を形成し、その上に凸画線群(5)を重ね合わせて形成する例であり、図7(b)は、基材(2)に凸画線群(5)を形成し、その上に有色画線群(4)を重ね合わせて形成する例である。すき入れやレーザー加工で凸画線群(5)を形成する場合には図7(b)の重ね順で形成する必要があり、印刷で形成する場合には、図7(a)及び図7(b)のいずれの重ね順でも問題ない。エンボス加工で凸画線群(5)を形成する場合は、有色画線群(4)を形成したのちにエンボス加工を施しても、エンボス加工を施したのちに有色画線群(4)を形成してもよい。
図8に有色画線群(4)と、凸画線群(5)の重なり合いの詳細な位置関係を示す。なお、図8は、第一の方向と第二の方向が同じ場合の有色画線群(4)と凸画線群(5)の位置関係を示している。図8(b)に、印刷画像(3)の一部を正対して見た拡大図を示し、図8(c)及び図8(d)に、図8(b)で示した印刷画像(3)のA−A´線における断面図を示す。図8(c)は、凸画線群(5)の上に有色画線群(4)が重ねられた層構成の印刷画像(3)の例であり、図8(d)は、有色画線群(4)の上に凸画線群(5)が重ねられた層構成の印刷画像(3)の例である。
本発明の第1の実施の形態において、画線同士の重なり合いの位置関係は、図8(b)に示すような、凸画線(12)にポジ画線(10P)とネガ画線(10N)が重なり、情報画線(11)は凸画線(12)とは重ならずに谷領域(13)に形成されている関係である。また、図8(c)及び図8(d)に示すように、凸画線(12)の頂点を境として一方の面側に、ポジ画線(10P)とネガ画線(10N)のうちのいずれか一方が重なって形成され、凸画線(12)の頂点を境として他方の面側に他方の画線が重なって形成されていることが望ましい。
図9と図10に、図7(b)に示した重ね合わせ順で形成した潜像印刷物(1)に対して、観察角度を変えて観察した場合に視認される画像を示す。図9のように、潜像印刷物(1)に正対した視点(14a)から潜像印刷物(1)を観察した場合には、第一の有意情報を表した有色画線群(4)が観察される。一方、潜像印刷物(1)を傾けて観察した場合には、凸画線(12)の盛り上がりによって、凸画線(12)の頂点を境として観察者の視点と反対側に存在するポジ画線(10P)とネガ画線(10N)のうちのいずれか一方と情報画線(11)が隠蔽され、残りのポジ画線(10P)か、ネガ画線(10N)のいずれか一方のみが観察される。このため、ポジ画線(10P)の集合によって形成されているポジ画線群(8)が表すポジの状態の第二の有意情報か、ネガ画線(10N)の集合によって形成されているネガ画線群(9)が表すネガの状態の第二の有意情報の、ポジかネガかいずれか一方の状態の第二の有意情報が観察者には視認される。図10(b)に示す図は、凸画線(12)の頂点を境として観察者の視点(14b)側の表面にポジ画線(10P)が形成され、凸画線(12)の頂点を境として観察者の視点(14b)と反対側の表面にネガ画線(10N)が形成されている例であり、この場合には、図10(c)に示すように観察者にはポジ画線群(8)が表すポジの状態の第二の有意情報が視認される。
図11と図12に、図7(a)に示した重ね合わせ順で形成した潜像印刷物(1)に対して、観察角度を変えて観察した場合に視認される画像を示す。図11のように、潜像印刷物(1)に正対した視点(14a)から潜像印刷物(1)を観察した場合には、第一の有意情報を表した有色画線群(4)が観察される。一方、潜像印刷物(1)を傾けて観察した場合には、凸画線(12)の盛り上がりによって情報画線(11)が隠蔽されるとともに、凸画線(12)によって生じる光の屈折によって凸画線(12)の下に存在する画線のうち、凸画線(12)の頂点を境として観察者の視点と反対側に存在するポジ画線(10P)とネガ画線(10N)のうちのいずれか一方が不可視となり、残りのポジ画線(10P)か、ネガ画線(10N)のいずれか一方のみが観察される。このため、ポジ画線(10P)の集合によって形成されているポジ画線群(8)が表す第二の有意情報のみが観察者には視認されるか、ネガ画線(10N)の集合によって形成されているネガ画線群(9)が表すネガの状態の第二の有意情報の、ポジかネガかいずれか一方の状態の第二の有意情報が観察者には視認される。図12(b)に示す図は、凸画線(12)の下に存在する領域のうち、凸画線(12)の頂点を境として観察者の視点(14b)側にポジ画線(10P)が形成され、凸画線(12)の頂点を境として観察者の視点(14b)と反対側にネガ画線(10N)が形成されている例であり、この場合には、図12(c)に示すように観察者にはポジ画線群(8)が表すポジの状態の第二の有意情報が視認される。
また、図8及び図12で説明した画線同士の配置は、凸画線の頂点を境として、一方の面側と他方の面側に、ポジ画線(10P)とネガ画線(10N)がそれぞれ重なる配置であるが、本発明の第1の実施の形態において画線同士の配置は、ポジ画線(10P)とネガ画線(10N)を、凸画線の頂点を境として同じ面側に重ねて形成しても良い。ただし、この場合、凸画線(12)の同じ面側に重なるポジ画線(10P)とネガ画線(10N)の面積率を異ならせる必要がある。このような構成について図面を用いて説明する。
図13は、一例として、凸画線(12)の頂点を境として、一方の面側と他方の面側のそれぞれに、異なる面積率でポジ画線(10P)とネガ画線(10N)が重なった状態を示している。なお、図13(c)及び図13(d)は、図13(b)におけるA−A´線の断面図であり、凸画線(12)の頂点を境として、A´側に重なるポジ画線(10P)の面積率が、ネガ画線(10N)の面積率より高い状態となっている。このとき、A´側から傾けて観察した場合には、ポジ画線(10P)とネガ画線(10N)が見えるが、凸画線(12)に重なる面積率の高いポジ画線(10P)は、ネガ画線(10N)よりも色が濃く見え、図13(e)に示す第二の有意情報が視認できる。
第一の方向と異なる第二の方向に凸画線(12)を配置した場合には、図14(a)及び図14(b)に示すように、凸画線(12)に重なるポジ画線(10P)とネガ画線(10N)が徐々に変化するため、潜像印刷物(1)を傾けて観察した場合に、図14(c)に示すように、第二の有意情報にグラデーションがかかって観察される。第一の方向と第二の方向が同じ場合の潜像印刷物(1)の構成では、凸画線群(5)とポジ画線(10P)及びネガ画線(10N)の重なり合いの位置関係によっては第二の有意情報全体のコントラストが低くなってしまう場合がある。そのような問題を回避するために、凸画線(12)に一定の傾きを設けることで、図14(c)に示すようにあえてモアレを発生させて、第二の有意情報の一部に必ずコントラストの強い領域を生じさせることを意図して第一の方向と第二の方向を異ならせている。
なお、図7(a)に示したような重ね合わせ順で形成した潜像印刷物(1)の凸画線(12)は光の屈折率が高いことが望ましい。その理由を以下に説明する。凸画線(12)の光の屈折率が高い場合、傾けて観察した場合に、画線表面で全反射される光の割合が多くなり、凸画線(12)の下に存在する画線には光が到達し難くなり、結果的に観察者の視点(14b)からは凸画線(12)の下に存在する画線を視認し難くなる。特に凸画線(12)の頂点を境として、傾けて観察する観察者の視点側の表面は、観察者に対して一定の角度を有して立ち上がっていることから、光が画線内部に入射できるものの、凸画線(12)の頂点を境として、傾けて観察する観察者の視点と反対側の表面は、観察者の視点とほぼ水平な位置関係となるために、ほとんどの光が画線表面で全反射され、画線内部に光が入射できなくなる。よって、凸画線(12)の下に存在する画線のうち、凸画線(12)の頂点を境として、観察者の視点(14b)側に形成された画線の視認性はほとんど変化しない一方、凸画線(12)の頂点を境として、観察者の視点(14b)と反対側に形成された画線は、極端に視認し難くなる。このために、2つの画線間のコントラストが大きくなり、光の屈折率が低い場合と比較して第二の有意情報の視認性が格段に向上する。以上が、凸画線(12)の光の屈折率が高いことが望ましい理由である。
このような特性を凸画線(12)に付与する方法の一例としては、光の屈折率の高い顔料をインキ中に分散させ、凸画線(12)をUV乾燥方式のスクリーン印刷によって形成する方法がある。UV乾燥方式のスクリーン印刷は、10μmを超える盛り上がりのある画線を容易に形成でき、かつ、粒径が大きな顔料も使用できることから、本発明の凸画線(12)の望ましい形成方法の一つであるといえる。光の屈折率の高い顔料は透明あるいは半透明である必要があり、このような特性を満たす顔料としては虹彩色パール顔料がある。前述したワニス、メジウム、透明凹版インキ等の材料の屈折率は1.5程度であるのに対して、パール顔料は2.5程度の屈折率を有しており、屈折率が高いパール顔料をインキ中に分散させて用いることで、屈折率の高い凸画線(12)を形成することができる。虹彩色パール顔料を用いてスクリーン印刷で凸画線(12)を形成する場合、前述のように、凸画線(12)の表面の光の屈折率を高くするために、盛り上がりのある画線内部ではなく、盛り上がりのある画線表面に虹彩色パール顔料が向きを揃えて配向きする、いわゆるリーフィングした状態であることが最も望ましい。このような効果を得る方法の一つとして、例えば特開2001−106937号公報に記載の撥水・撥油処理を施した顔料を用いる方法があり、このような処理を施した顔料を用いて凸画線(12)を形成した場合には、傾けた場合に視認される第二の有意情報の視認性を高めることができる。
図15に第1の実施の形態の潜像印刷物(1)の効果の概要について説明する。説明には図7(a)の重ね合わせ順で形成した潜像印刷物(1)を例にして説明するが、図7(b)の重ね合わせ順で形成した潜像印刷物(1)でも同様である。すなわち、潜像印刷物(1)において、有色画線群(4)と凸画線群(5)の上下の重なり合いの関係に関わらず、図15(a)に示すように、観察者の視点(14a)から潜像印刷物(1)に正対して観察した場合には、図15(b)に示す有色画線群(4)が表す第一の有意情報が視認され、一方、図15(c)に示すように潜像印刷物(1)を傾けて観察した場合には、第一の有意情報が消失して第二の有意情報が視認される。このとき、仮に、観察者の視点(14b)側にポジ画線群(8)がある場合には、ポジ画線群(8)のみが視認されるために、図15(d)に示す第二の有意情報がポジで視認され、観察者の視点(14c)側に、ネガ画線群(9)がある場合には、図15(e)に示すネガ画線群(9)のみが視認されるために、第二の有意情報はネガで視認される。以上のように、本発明の潜像印刷物(1)を傾けて観察した場合には、観察する方向に応じて第二の有意情報がネガポジ反転する効果を有している。
潜像印刷物(1)はこのような構成をとることで、正対した場合に第一の有意情報が視認され、傾けて観察した場合には第二の有意情報が観察され、極めて視認性の高い画像のチェンジ効果を有している。
なお、本明細書中でいう、「正対して観察する」とは、観察者の視点が印刷物の印刷面と直角(0°とする)か、それに近い角度を成して印刷物を観察する状態を指し、「傾けて観察する」とは印刷物の印刷面から少なくとも45°以上90°未満の角度を成して印刷物を観察する状態を指すこととする。
本発明の潜像印刷物(1)は、第1の実施の形態で説明した潜像印刷物(1)とは異なる構成としても同様な効果を得ることができる。以下に第1の実施の形態の潜像印刷物(1)の異なる構成について説明する。
(第2の実施の形態)
図16は、本発明の第2の実施の形態の潜像印刷物(1´)を示す図であり、基材(2´)上に印刷画像(3´)を備えて成る。基材(2´)は、第1の実施の形態で説明したものと同様であり、如何なる材料を用いても良く、色彩についても制限はなく、大きさについても特に制限はない。また、印刷画像(3´)は基材(2´)と異なる色彩を有していれば、透明以外の如何なる色彩であってもよい。
図17に、印刷画像(3´)を構成する各画像画線の概念図を示す。印刷画像(3´)は、有色画線群(4´)と凸画線群(5´)とが積層されて成る。有色画線群(4´)は、一様な階調で形成された背景画線群(6´)と、第一の有意情報である「七宝」の画像を表した情報画線群(7´)から成る。また、情報画線群(7´)は、第一の有意情報の中に第二の有意情報をポジで表した情報ポジ画線群(18´)と第一の有意情報の中に第二の有意情報をネガで表した情報ネガ画線群(19´)から成る。一方の凸画線群(5´)は、第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をポジで表した凸ポジ画線群(15´)と、第二の有意情報をネガで表した凸ネガ画線群(16´)に区分けされる。本実施の形態では凸画線群(5´)の中にも第二の有意情報が含まれている。続いて、各画線群の構成について説明する。
図18に、凸画線群(5´)を示す。凸画線群(5´)は、画線幅(W3)で盛り上がりのある凸画線(12´)が第二の方向にピッチ(P1)で複数配置されて成り、図18(a)の拡大図に示すように、凸画線(12´)は、位相が部分的に異なることにより、凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(12N´)に区分けされる。そして、凸画線群(5´)は、図18(b)に示す第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をポジの状態で表した複数の凸ポジ画線(12P´)から成る凸ポジ画線群(15´)と、図18(c)に示す第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をネガの状態で表した複数の凸ネガ画線(12N´)から成る凸ネガ画線群(16´)を有する構成となっている。なお、本実施の形態においては、図18(a)の拡大図に示すように、凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(12N´)とは、第二の方向に(W3)だけ位相がずれた構成について説明する。
凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(12N´)がピッチ(P1)で配置されることで、複数の凸ポジ画線(12P´)同士の間と複数の凸ネガ画線(12N´)同士の間に谷領域(13´)を有する。谷領域の幅(W5)は、図18(a)に示すように、凸画線(12)のピッチ(P1)と画線幅(W3)の差である。この凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(12N´)と谷領域(13´)は、傾けた場合に第一の有意情報を隠蔽し、かつ、第二の有意情報を出現させるために機能するが、これらの具体的な機能については後記する。谷領域の幅(W5)の値は、後述する背景画線(10´)の画線幅の2分の1程度の値であることが第二の有意情報のコントラストを高める上で望ましい。以上の構成により、図19の拡大図に示すように、互いに位相が異なる凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(12N´)がピッチ(P1)で配置されて凸画線群(5´)が形成される。
第1の実施の形態と同様に、凸画線群(5´)は盛り上がりを有し、かつ、透明あるいは半透明、もしくは基材と同じ色彩である必要がある。形成方法は、凹版印刷やスクリーン印刷等の盛り上がりを形成できる印刷方式を用いて印刷で形成してもよいし、すき入れによって形成してもよい。また、エンボス加工やレーザー加工等の特殊な加工方法によって形成しても何ら問題ない。盛り上がり高さは、ピッチにもよるが5μm以上1mm以下であることが好ましく、また、15μm以上100μm以下であることが第一の有意情報及び第二の有意情報の視認性や流通適性を高く保つためにより望ましい。
図20に、有色画線群(4´)の詳細な画線構成図を示す。図20(a)に示す有色画線群(4´)は、背景画線群(6´)と情報画線群(7´)から成る。
図20(b)に示すように、背景画線群(6´)は、画線幅(W1)の背景画線(10´)が、第一の方向(図中上下方向)にピッチ(P1)で複数配置されて成る。この場合も、画線面積率が一定となることから背景画線群(6´)は、正対して観察した場合に、一様な階調で見える。
図20(c)に示すように、情報画線群(7´)は、画線幅(W2)の情報画線(11´)が第一の方向にピッチ(P1)で複数配置されて、情報画線(11´)の有無により第一の有意情報である「七宝」の画像を表して成る。第2の実施の形態においても、第一の有意情報は、「七宝」の画像の例で説明するが、第一の有意情報は、これに限定されるものではない。情報画線(11´)を形成する形態としては、図20(a)の拡大図に示すように、背景画線群(6´)を構成している複数の背景画線(10´)に重ならない形態とする。
第2の実施の形態においても第一の方向と第二の方向の関係は、第一の実施の形態と同様であって、背景画線(10´)及び情報画線(11´)が配置される第一の方向は、凸ポジ画線(12P´)及び凸ネガ画線(12N´)が配置される第二の方向と同じ方向でも良いし、異なる方向でも良い。第一の方向と第二の方向が異なる場合、第二の有意情報の図柄を視認しやすくするために、第一の方向と第二の方向の傾斜角(α)は、±3度の範囲で形成するのが好ましく、より好ましい第一の方向と第二の方向の傾斜角(α)の範囲は、±0.5度から±1.5度である。
図21に情報画線群(7´)の詳細な画線構成図を示す。情報画線群(7´)は、図21(a)に示すように、情報画線(11´)の位相が部分的に異なることにより、情報ポジ画線(11P´)と情報ネガ画線(11N´)に区分けされ、情報画線群(7´)は、第一の有意情報の中から、図21(b)に示す第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をポジで表現した複数の情報ポジ画線(11P´)から成る情報ポジ画線群(18´)と、第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をネガで表現した複数の情報ネガ画線(11N´)から成る情報ネガ画線群(19´)とを有する。なお、本実施の形態においては、図21(a)の拡大図に示すように、情報ポジ画線(11P´)と情報ネガ画線(11N´)とは、第一の方向にW5だけ位相がずれた構成について説明する。
第2の実施の形態において、情報ポジ画線(11P´)と情報ポジ画線(11N´)の位相は、凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(12N´)の位相のずれに対応して異なっている。詳細には、情報ポジ画線(11P´)と情報ポジ画線(11N´)の位相の差が、凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(12N´)の位相差と同じだけ異なり、かつ、情報ポジ画線(11P´)は、第一の有意情報の「七宝」の画像から第二の有意情報である「JPN」の文字をポジの状態で模り、情報ネガ画線(11N´)は、第一の有意情報の「七宝」の画像から第二の有意情報である「JPN」の文字をネガの状態で模って位相が異なる。情報画線群(7´)と凸画線群(5´)の詳細な積層と配置については、後述するが、実際に、情報ポジ画線(11P´)と情報ネガ画線(11N´)を形成する際には、図21(a)に示すように、第二の有意情報の「JPN」の文字を備える凸画線群(5´)と情報画線群(7´)が積層した状態を想定して、第二の有意情報の「JPN」をポジで表す領域と重複する部分を情報ポジ画線(11P´)とし、第二の有意情報の「JPN」をネガで表す領域と重複する部分を情報ネガ画線(11N´)として、位相を異ならせる。
第1の実施の形態と同様に、背景画線群(6´)の画線面積率は、10%以上90%以下の範囲で形成されることが望ましい。また、情報画線群(7´)の画線面積率は、背景画線群(6´)の画線面積率の10%以上90%以下であることが望ましい。
以上のように、有色画線群(4´)は、その中に第一の有意情報と、第二の有意情報を備える。第一の有意情報は、有色画線群(4´)中の面積率の大小によって表され、第二の有意情報は画線の第二の方向の位相のずれによって表されて成る。この有色画線群(4´)は、基材(2´)と異なる色を有するインキを用いて形成する。このとき、有色画線群(4´)を構成する情報ポジ画線(11P´)、情報ネガ画線(11N´)及び背景画線(10´)を形成するインキの色の関係は、情報ポジ画線(11P´)と情報ネガ画線(11N´)を同じ色のインキを用いて形成すれば良く、情報ポジ画線(11P´)と情報ネガ画線(11N´)に対して、背景画線(10´)を形成するインキの色は同じであっても良いし、異なる色であっても良い。このような条件を満たしていれば、有色画線群(4)を形成するインキの色はいかなる色でも良く、通常の着色インキを用いるほかに、金や銀のようなメタリック系インキを用いたり、高光沢なグロス系インキを用いたりすることで、より高いチェンジングの効果を得ることができる。
有色画線群(4´)を印刷する場合の印刷方式は、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷等、如何なる方式を用いても良い。またインキジェットプリンターやレーザプリンター等のデジタル印刷機器を用いて形成しても何ら問題はない。
第2の実施の形態の潜像印刷物(1´)を形成するための、有色画線群(4´)と、凸画線群(5´)の重ね合わせ順は第1の実施の形態で図7に示したものと同様であり、基材に有色画線群(4´)を形成し、その上に凸画線群(5´)を重ね合わせて形成してもよく、基材に凸画線群(5´)を形成し、その上に有色画線群(4´)を重ね合わせて形成してもよい。
図22に有色画線群(4´)と、凸画線群(5´)の重なり合いの詳細な位置関係を示す。なお、図22は、第一の方向と第二の方向が同じ場合の有色画線群(4´)と凸画線群(5´)の位置関係を示している。図22(b)には、印刷画像(3´)の一部を正対して見た拡大図を示し、図22(c)及び図22(d)は、図22(b)に示した印刷画像(3´)のA−A´線における断面図を示す。また、図22(e)及び図22(f)は、図22(b)に示した印刷画像(3´)のB−B´線における断面図を示す。なお、図22(c)及び図22(e)は、凸画線群(5´)の上に有色画線群(4´)が重ねられた層構成の印刷画像(3´)の例であり、図22(d)及び図22(f)は、有色画線群(4´)の上に凸画線群(5´)が重ねられた層構成の印刷画像(3´)の例である。
本発明の第2の実施の形態において、画線同士の重なり合いの位置関係とは、図22(b)に示すような、凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(12N´)が背景画線(10´)にそれぞれ重なる関係である。このとき、図22(b)に示すように、凸ポジ画線(12P´)の頂点を境とする一方の面側に背景画線(10´)が重なり、凸ネガ画線(12N´)においては、背景画線(10´)が凸ポジ画線(12N´)に重なる面側に対して反対側の面側に背景画線(10´)が重なって形成されていることが望ましい。
さらに、第2の実施の形態の画線同士の位置関係は、情報画線群(7´)を構成する情報ポジ画線(11P´)と情報ネガ画線(11N´)が、凸ポジ画線(12P´)及び凸ネガ画線(12N´)とは重ならず、谷領域(13´)に形成される関係である。このとき、図22(b)に示すように、情報ポジ画線(11P´)は、凸ポジ画線(12P´)間の谷領域(13´)に重なり、情報ネガ画線(11N´)は、凸ネガ画線(12N´)間の谷領域(13´)に重なる配置とする。前述したように、情報ポジ画線(11P´)と情報ネガ画線(11N´)は、凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(12N´)の位相のずれに対応して異なるため、凸ポジ画線(12P´)間の谷領域(13´)と凸ネガ画線(12N´)間の谷領域(13´)に、位相が異なる情報ポジ画線(11P´)と情報ネガ画線(11N´)がそのまま配置することができる。
なお、第1の実施の形態と同様に、情報ポジ画線(11P´)が凸ポジ画線(12P´)と谷領域(13´)に跨って重なる配置であっても、情報ポジ画線(11P´)が谷領域(13P´)に重なる面積の割合が大きければ、チェンジングの効果が得られるため問題はない。情報ネガ画線(12N´)についても、これと同様である。
図7(b)に示した重ね合わせ順で形成した潜像印刷物(1´)を例として、潜像印刷物(1´)を傾けて観察した場合に生じる効果を説明するために、図22(b)のA−A´線における断面図を図23(a)に示す。また、図22(b)のB−B´線における断面図を図23(b)に示し、そのときにA´及びB´側から観察している観察者に視認される画像を図23(c)に示す。
図23(a)に示した状態において、A´側の視点(14b´)から観察した場合には、情報ネガ画線(11N´)が盛り上がりを有する凸ネガ画線(12N´)によって隠蔽されるとともに、凸ネガ画線(12N´)は背景画線(10´)によって可視化される。一方、図23(b)に示した状態において、B´側の視点(14b´)から観察した場合には、情報ポジ画線(11P´)が盛り上がりを有する凸ポジ画線(12P´)によって隠蔽されるとともに、凸ポジ画線(12P´)の視点側の表面に背景画線(10´)が重なっていないことから不可視のままとなる。これは、第1の実施の形態で説明した原理と同じである。以上のことから、図23に示す状態で、潜像印刷物(1´)を傾けて観察した場合には、情報ポジ画線(11P´)と情報ネガ画線(11N´)が構成する第一の有意情報が消失して、可視化された凸ネガ画線(12N´)によって、第二の有意情報がネガで出現する。第1の実施の形態の構成と異なり、第2の実施の形態では、第二の方向に位相をずらして形成された凸ポジ画線(11P´)と凸ネガ画線(11N´)のいずれか一方が、背景画線(10´)によって可視化される構成となっている。なお、図23において視点の図示は省略するが、A及びB側から観察した場合には、凸ネガ画線(12N´)が不可視となり、凸ポジ画線(12P´)が可視化され、図23(d)に示すように、視点(14b´)で出現する第二の有意情報がネガポジ反転する効果を有する。
また、図22及び図23で説明した画線同士の配置は、凸ポジ画線(12P´)の一方の面側と、凸ネガ画線(12N´)の反対の面側に背景画線(10´)がそれぞれ重なる配置であるが、本発明の第2の実施の形態において画線同士の配置は、凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(12N´)の同じ面側に背景画線(10´)を重ねて形成しても良い。ただし、この場合、凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(12N´)の同じ面側に重なる背景画線(10´)の面積率を異ならせる必要がある。このような構成について図面を用いて説明する。
図24(b)は、一例として、凸ネガ画線(12N´)の頂点を境として、一方の面側(図中下方向)に背景画線(10´)が重なった状態を示している。また、凸ポジ画線(12P´)には、凸ネガ画線(12N´)に背景画線(10´)が重なる面側に対して反対側(図中上方向)に背景画線(10´)が重なり、更に、凸ネガ画線(12N´)に背景画線(10´)が重なる面側と同じ面側(図中下方向)にも重なった状態を示している。なお、図24(c)及び図24(d)は、図24(b)におけるA−A´線の断面図であり、図24(e)及び図24(f)は、図24(b)におけるB−B´線の断面図である。図24(c)乃至図24(f)に示す図では、凸ポジ画線(12P´)の頂点を境として、B´側に重なる背景画線(10´)の面積率が、凸ネガ画線(12N´)の頂点を境として、A´側に重なる背景画線(10´)の面積率よりも低い状態となっている。このとき、A´側から傾けて観察した場合には、凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(10N´)に重なる背景画線(10´)が見えるが、背景画線(10´)の重なる面積率が高い凸ネガ画線(12N´)は、凸ポジ画線(12P´)よりも色が濃く見え、図24(g)に示す第二の有意情報が視認できる。
第2の実施の形態においても、第一の方向と第二の方向が異なる場合には、凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(10N´)に重なる背景画線(10´)が徐々に変化するため、潜像印刷物(1´)を傾けて観察した場合に、第二の有意情報にグラデーションがかかって観察される(図示せず)。
以上のように、第1の実施の形態及び第2の実施の形態に示したいずれの構成としても、本発明の潜像印刷物の特徴である、正対して観察した場合に第一の有意情報が視認され、傾けて観察した場合には第二の有意情報が観察され、極めて視認性の高い画像のチェンジ効果を発現させることができる。以上の説明では、本発明の潜像印刷物(1)を傾けて観察した場合に、第二の有意情報がポジの状態又はネガの状態で視認できる構成について説明したが、続いて、本発明の潜像印刷物において、傾けた場合に視認できる第二の有意情報の意匠性や視認性を高めるための背景画線群と凸画線群の変形例について説明する。
はじめに、第1の実施の形態のように、凸画線群(5)が単なる盛り上がりを有する凸画線(12)の集合で形成されている場合の背景画線群(6)の変形例について説明する。
第1の実施の形態で説明した、ポジ画線(10P)とネガ画線(10N)を、特開2012−6169号公報に記載の第1の要素と第2の要素と同じ構成にすることで、傾けた場合に観察される第二の有意情報がポジとネガの部分がそれぞれ異なる色で視認できる。なお、この構成については、実施例2で説明する。
続いて、第2の実施の形態のように、背景画線群(6´)が直線で構成され、凸画線群(5´)に第二の有意情報を表した少なくとも2つの画線群で形成されている場合の凸画線群(5´)の構成の一例である。
第2の実施の形態で説明した凸ポジ画線(12P´)と凸ネガ画線(12N´)を、特願2009−179836号公報に記載されている潜像要素、背景要素及び輪郭要素と同じ構成にすることで、傾けた場合に、「JPN」の文字に輪郭線が付与されて意匠性と視認性に優れる第二の有意情報が視認できる。
また、第2の実施の形態で説明した背景画線群(6´)を、特開2002−19255号公報の第1の実施の形態に記載されている互いに色が異なる二本の直線と同じ構成にすることで、傾けた場合に観察される第二の有意情報がポジとネガの部分がそれぞれ異なる色で視認できる。
以上のように、本発明の背景画線群(6)と凸画線群(5)の変形例について説明したが、第一の有意情報を表した情報画線を凸画線が存在しない谷領域に構成するという構成を満たし、かつ、第二の有意情報を画線の位相の差によって表した凸画線群又は背景画線群が、位相が異なることなく万線状に形成された背景画線群又は凸画線群とが互いに重なりあうという構成を同時に満たすものであれば、背景画線群(6)と凸画線群(5)の構成は、如何なる構成であっても良い。
第一の有意情報を表した情報画線群(7)は、いかなる色彩で、いかなる濃度で形成したとしても、凸画線群(5)の谷領域(13)の中に納まっている限り、傾けた場合には凸画線群(5)によって物理的に隠蔽されて完全に消失することから、従来の技術であれば表現できなかったような高いコントラストで形成することができる。また、情報画線群(7)と背景画線群(6)は異なる色で形成しても何ら問題ないため、従来の技術と異なり、有色画線群を複数の色相の色を用いて表現することも可能である。
すべての画線群の構成に共通するピッチ(P1)は、狭く設計した場合には、第二の有意情報が可視化される傾け角度を小さくできるが、刷り合わせの難易度が上がり、かつ各画線の再現性が低下する傾向にあり、大きく設計した場合には、第二の有意情報が可視化される傾け角度が大きくなってしまう反面、刷り合わせの難易度が下がり、かつ各画線の再現性も安定する。これらを考慮すると、ピッチ(P1)は0.1mmから2mm程度の範囲で構成することが望ましい。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作成した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1について、図25から図30を用いて説明する。実施例1は、有色画線群(4−1)をオフセット印刷で形成し、凸画線群(5−1)をスクリーン印刷で印刷して潜像印刷物を形成した例である。
図25は、実施例1の潜像印刷物(1−1)を示す図であり、基材(2−1)上に青色の印刷画像(3−1)を備えて成る。基材(2−1)は、一般的なコート紙(日本製紙製)を用いた。
図26に、印刷画像(3−1)を構成する各画像画線の概念図を示す。印刷画像(3−1)は、青色の有色画線群(4−1)の上に、透明な盛り上がりを有した凸画線から成る凸画線群(5−1)が積層されて成る。有色画線群(4−1)は、一様な階調で形成された背景画線群(6−1)と、第一の有意情報である「七宝」の画像を表した情報画線群(7−1)から成る。背景画線群(6−1)は、第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をポジで表したポジ画線群(8−1)と、第二の有意情報をネガで表したネガ画線群(9−1)に区分けされる。
図27に、有色画線群(4−1)の詳細な画線構成図を示す。図27(a)に示す有色画線群(4−1)は、背景画線群(6−1)と情報画線群(7−1)から成る。図27(b)に示すように、背景画線群(6−1)は、画線幅0.1mmの背景画線(10−1)が、第一の方向(図中上下方向)に0.3mmピッチで複数配置されて、一様な階調を表して成る。
図27(c)に示すように、情報画線群(7−1)は、画線幅0.05mmの情報画線(11−1)が、第一の方向に0.3mmピッチで複数配置されて第一の有意情報である「七宝」の画像を表して成る。図27(a)の拡大図に示すように、情報画線(11−1)は、背景画線(10−1)と重ならないように配置した。
図28に背景画線群(6−1)の詳細な画線構成図を示す。背景画線(10−1)は、図28(a)の拡大図に示すように、背景画線(10−1)の位相が部分的に異なることにより、ポジ画線(10P−1)とネガ画線(10N−1)に区分けされ、背景画線群(6−1)は、図28(b)に示す第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をポジで表現した複数のポジ画線(10P−1)から成るポジ画線群(8−1)と、図28(c)に示す第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をネガで表現した複数のネガ画線(10N−1)から成るネガ画線群(9−1)とを有する。実施例1においては、ポジ画線(10P−1)とネガ画線(10N−1)とは、第一の方向に0.1mmだけ位相がずれて配されて成る。
まず、以上のような構成の有色画線群(4−1)を、青色の着色インキ(DaiCure アビリオ プロセス 藍N)を用いて、オフセット印刷方式で基材(2−1)上に印刷した。
図29に、凸画線群(5−1)を示す。凸画線群(5−1)は、図29(c)に示すように、0.3mmピッチで第二の方向(図中上下方向)に複数配置される画線幅0.2mmの凸画線(12−1)を有し、かつ、複数の凸画線(12−1)同士の間に画線幅0.1mmの谷領域(13−1)を有する。以上の構成の凸画線群(5−1)を表1に示すUV乾燥方式のスクリーンインキを用いて有色画線群(4−1)に重ね合わせて印刷した。凸画線(12−1)の高さは20μmであった。
表1に示したスクリーンインキは、光が入射することで金色の干渉色を発する虹彩色パール顔料を含んでおり、このインキで形成した凸画線(12−1)は、正反射光が生じない状態では無色透明であって、正反射光が生じた状態では金色の干渉色を発する特性を有する。なお、表1に示したスクリーンインキに混合した虹彩色パール顔料は、顔料表面に撥水及び撥油性を付与することで、盛り上がりのある画線表面に配向する特性を有している。このような特別な顔料を配合する理由は、一般的に考えられる虹彩色パール顔料による正反射光下で美しいパールの干渉色を得るためではなく、凸画線(12−1)表面の光の屈折率を高め、正対した場合には無色透明であって凸画線(12−1)の下に存在する画線が容易に透けて見えるにも関わらず、傾けた場合には凸画線(12−1)直下に存在する画線のうち、観察者よりに位置する画線以外を不可視にする効果を高めるためである。
有色画線群(4−1)と、凸画線群(5−1)の重なり合いの詳細な位置関係は第1の実施の形態で説明したとおりであり、図8(b)に示したように、凸画線(12−1)にポジ画線(10P−1)とネガ画線(10N−1)が重なり、情報画線(11−1)は凸画線(12−1)とは重ならずに谷領域(13−1)に形成されるような位置関係で重ね合わせた。より具体的には、凸画線(12−1)の頂点を境として一方の面側と他方の面側に、ポジ画線(10P−1)とネガ画線(10N−1)をそれぞれ重ね合わせた。
図30に、潜像印刷物(1−1)に対して、観察角度を変えて観察した場合に視認される画像を示す。図30(a)のように、潜像印刷物(1−1)に正対した視点(14a−1)から潜像印刷物(1−1)を観察した場合には、図30(b)に示すように、第一の有意情報を表した有色画線群(4−1)が青色で観察された。一方、図30(c)に示すように、潜像印刷物(1−1)を傾けて視点(14b−1)から観察した場合には、凸画線(12−1)の盛り上がりによって、情報画線(11−1)が隠蔽され、かつ、凸画線(12−1)の高い屈折率によってネガ画線(10N−1)が不可視となることによって、ポジ画線(10P−1)のみが観察される。このため、図30(d)に示すように、ポジ画線(10P−1)の集合によって形成されているポジ画線群(8−1)が表す第二の有意情報のみが観察者には視認された。この場合、有色画線群(4−1)の色である青色で第二の有意情報は可視化された。また、潜像印刷物(1−1)を傾けて視点(14c−1)から観察した場合には、ネガ画線群のみが視認されるために、図30(e)に示すように、第二の有意情報はネガで視認され、傾けた場合には観察する方向に応じてネガポジ反転する効果を有していることも確認できた。
(実施例2)
実施例2について、図31から図36を用いて説明する。実施例2は、実施例1と同様に有色画線群(4−2)をオフセット印刷で形成し、凸画線群(5−2)をスクリーン印刷で印刷して潜像印刷物を形成した例である。また、ポジ画線とネガ画線を、特開2012−6169号公報に記載の第1の要素と第2の要素と同じ構成とし、更に、情報画線(11−2)を形成するインキは、ポジ画線とネガ画線を形成するインキと異なる色とした例であり、3種類のインキを用いて形成することで、多彩な色彩を印刷画像(3−2)に付与した例である。
図31は、実施例2の潜像印刷物(1−2)を示す図であり、基材(2−2)上に緑色と赤色で表現された印刷画像(3−2)を備えて成る。基材(2−2)は、実施例1と同様に一般的なコート紙(日本製紙製)を用いた。
図32に、印刷画像(3−2)を構成する各画像画線の概念図を示す。印刷画像(3−2)は、有色画線群(4−2)の上に透明な盛り上がりを有した凸画線から成る凸画線群(5−2)が積層されて成る。有色画線群(4−2)は、一様な階調で形成された緑色に視認される背景画線群(6−2)と、第一の有意情報である「七宝」の画像を表した、赤色の情報画線群(7−2)から成る。背景画線群(6−2)は、第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をポジで表現した青色のポジ画線群(8a−2)と黄色のポジ画線群(8b−2)及び第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をネガで表現した青色のネガ画線群(9a−2)と黄色のネガ画線群(9b−2)に区分けされる。
図33に、有色画線群(4−2)の詳細な画線構成図を示す。図33(a)に示す有色画線群(4−2)は、緑色に視認される背景画線群(6−2)と赤色に視認される情報画線群(7−2)から成る。図33(b)に示すように、背景画線群(6−2)は、画線幅0.1mmの青色の背景画線(10a−2)と黄色の背景画線(10b−2)が第一の方向(図中上下方向)に0.3mmピッチで連続して複数配置されて、一様な階調を表して成る。
図33(c)に示すように、情報画線群(7−2)は、画線幅0.05mmの赤色の情報画線(11−2)が、第一の方向に0.3mmピッチで複数配置されて第一の有意情報である「七宝」の画像を表して成る。図33(a)の拡大図に示すように、情報画線(11−2)は、背景画線(10a−2、10b−2)と重ならないように配置した。
図34に背景画線群(6−2)の詳細な画線構成図を示す。背景画線(10a−2)は、図34(a)の拡大図に示すように、背景画線(10a−2)の位相が部分的に異なることにより、ポジ画線(10Pa−2)とネガ画線(10Na−2)に区分けされ、背景画線(10b−2)の位相が部分的に異なることにより、ポジ画線(10Pb−2)とネガ画線(10Nb−2)に区分けされる構成となっている。これによって、背景画線群(6−2)は、図34(b)に示す第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字を青色のポジで表現した複数のポジ画線(10Pa−2)から成るポジ画線群(8a−2)と、図30(c)に示す第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字を青色のネガで表現した複数のネガ画線(10Na−2)から成るネガ画線群(9a−2)と、図30(d)に示す第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字を黄色のポジで表現した複数のポジ画線(10Pb−2)から成るポジ画線群(8b−2)と、図30(e)に示す第二の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字を黄色のネガで表現した複数のネガ画線(10Nb−2)から成るネガ画線群(9b−2)を有する。実施例1においては、図34(a)の拡大図に示すように、ポジ画線(10Pa−2)とネガ画線(10Na−2)とは、第一の方向に0.1mmだけ位相がずれて配されて成り、ポジ画線(10Pb−2)とネガ画線(10Nb−2)とは、第一の方向に0.1mmだけ位相がずれて配されて成る。また、実施例2においては、青色のポジ画線(10Pa−2)は、黄色のネガ画線(10Nb−2)と位相が一致し、青色のネガ画線(10Na−2)は、黄色のポジ画線(10Pb−2)と位相が一致するような構成とした。
以上のような構成の有色画線群(4−2)を形成するために、青色のポジ画線(10Pa−2)及び青色のネガ画線(10Na−2)は、青色の着色インキ(DaiCure アビリオ プロセス 藍N)を用いて、オフセット印刷方式で基材(2−2)上に印刷し、黄色のポジ画線(10Pb−2)及び黄色のネガ画線(10Nb−2)は、黄色の着色インキ(DaiCure アビリオ プロセス 透明黄N)を用いて、オフセット印刷方式で基材(2−2)上に印刷し、赤色の情報画線(11−2)は、赤色の着色インキ(DaiCure アビリオ プロセス 紅N)を用いてオフセット印刷方式で基材(2−2)上に印刷した。
図35に、凸画線群(5−2)を示す。凸画線群(5−2)は、図35(c)に示すように、0.3mmピッチで第二の方向(図中上下方向)に複数配置される画線幅0.2mmの凸画線(12−2)を有し、かつ、複数の凸画線(12−2)同士の間に画線幅0.1の谷領域(13−2)を有する。以上の構成の凸画線群(5−2)を表1に示したUV乾燥方式のスクリーンインキを用いて有色画線群(4−2)に重ね合わせて印刷した。凸画線(12−2)の高さは20μmであった。
有色画線群(4−2)と、凸画線群(5−2)の重なり合いの詳細な位置関係は第1の実施の形態で説明したと同様であり、凸画線(12−2)に青色のポジ画線(10Pa−2)とネガ画線(10Na−2)、黄色のネガ画線(10Nb−2)とポジ画線(10Pb−2)が重なり、赤色の情報画線(11−2)は凸画線(12−2)とは重ならずに谷領域(13−2)に形成されるような位置関係で重ね合わせた。より具体的には、凸画線(12−2)の頂点を境として一方の面側に青色のポジ画線(10Pa−2)と黄色のネガ画線(10Nb−2)を重ね合わせ、凸画線(12−2)の頂点を境として他方の面側に黄色のポジ画線(10Pb−2)と青色のネガ画線(10Na−2)を重ね合わせた。
図36に、潜像印刷物(1−2)に対して、観察角度を変えて観察した場合に視認される画像を示す。図36(a)のように、潜像印刷物(1−2)に正対した視点(14a−2)から潜像印刷物(1−2)を観察した場合には、図36(b)に示すように、第一の有意情報を表した有色画線群(4−2)において、背景画線群(6−2)が青色と黄色の合成色である緑色でフラットな階調として観察される中、情報画線群(7−2)は赤色で観察されることで、第一の有意情報が視認された。
一方、図36(c)に示すように、潜像印刷物(1−2)を傾けて視点(14b−2)から観察した場合には、凸画線(12−2)の盛り上がりによって、赤色の情報画線(11−2)が隠蔽され、かつ、凸画線(12−2)の高い屈折率によって青色のネガ画線(10Na−2)及び黄色のポジ画線(10Pb−2)が不可視となることによって、青色のポジ画線(10Pa−2)及び黄色のネガ画線(10Nb−2)のみが観察される。このため、図36(d)に示すように、第二の有意情報のうち、「JPN」の文字は青色で、そのほかの領域は黄色で観察者には視認された。また、潜像印刷物(1−2)を傾けて視点(14c−2)から観察した場合には、図36(e)に示すように、第二の有意情報のうち、「JPN」の文字は黄色で、そのほかの領域は青色で観察者には視認された。以上のように、傾けた場合には観察する方向に応じて色相が反転する効果を有していることも確認できた。