JP6028960B2 - 肝疾患病態指標糖鎖マーカー - Google Patents
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Description
1−1.肝疾患の病態
B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルスに感染すると、急性期炎症から5−15年をかけて慢性期炎症へと進行する。特に慢性期に移行したC型肝炎が自然に治癒する事は稀で、肝機能の低下が進行し肝硬変に至る。慢性肝炎から肝硬変に至る病態を定義するため、肝臓のグリソン領域及び肝小葉に出現する線維性変化を病理形態学的に捉えて、軽度(F1)、中度(F2)、重度(F3)、肝硬変期(F4)に分類する。線維化の進展は肝細胞がん発がんのリスク上昇と相関しており、F1もしくは2である場合年率1%以下であるのに対し、F3である場合には年3−4%に上昇する。線維化の程度がより進展した組織像を確認して診断される肝硬変(F4)では、年率7%程度の確率で肝細胞がんが出現する。従って肝細胞がんを効率良く発見して治療するためには、特にF3およびF4の状態にある患者を簡便に選別して、精密検査対象者としてフォローすることが重要である。
C型慢性肝炎に対しては、PEG-IFN+RBV療法、C型肝硬変代償期に対してインターフェロン単独投与が適応されている。一方、B型肝炎(慢性肝炎、肝硬変)に対する治療としては核酸アナログが主体であり、炎症や線維化評価マーカーは必須と思われる。特に、血清バイオマーカーは診断・評価目的に幅広く臨床応用されることが期待される。
肝細胞発がんには、 B型肝炎ウイルスもしくはC型肝炎ウイルス感染による微生物学的因子と、環境因子が大きく交互に作用すると考えられている。わが国において、肝細胞がん患者の約9割は、B型あるいはC型肝炎ウイルスの感染既往があり、慢性肝炎・肝硬変患者に発生している事が知られている。肝細胞がんの発がん危険因子には、ウイルス以外にも、男性、高齢、アルコール多飲、タバコ、カビ毒の一つであるアフラトキシンなどが指摘されている(肝がん診療ガイドライン、財)国際医学情報センター)。
肝細胞がんの発見は、現在のところ、被験者からの血清サンプル中のAFPやPIVKA-IIなどの肝臓がんマーカーの測定、及び超音波検査(エコー検査)を中心とした画像診断が主として用いられている。画像診断としては、最初の検査として、超音波検査又はCTを用い、これらで何らかの異常が見いだされときには、更にMRIや血管造影をするのが通常である。
肝細胞がん患者の約9割が、B型肝炎ウイルスもしくはC型肝炎ウイルス感染による肝炎患者から発生する我が国においては、ウイルス感染と肝機能低下を指標として、精密検査の対象となる患者を囲い込む事は可能である。
2−1.肝細胞がん糖鎖マーカーを含む新規肝疾患病態指標糖鎖マーカー
本願発明の肝細胞がん糖鎖マーカーは、糖鎖関連腫瘍マーカー又は腫瘍特異的糖鎖マーカー、と記載されることもあるが、いずれも糖タンパク質における肝細胞がん特異的な糖鎖構造を意味し、そのような糖鎖を有する糖タンパク質を包含する。
2−2−1.糖タンパク質の大規模同定
糖ペプチドの大規模な選択的捕集、濃縮は、大きく分けて、(i)糖鎖との親和性を有するプローブを用いる方法、(ii)糖鎖との化学反応を利用する方法(Zhang H.et al.Nat Biotechnol 21、660-666 (2003))、(iii)糖鎖への親和性タグを導入する方法などいずれの方法を利用することもできる。好適にはプローブを用いることができる。以下プローブを用いる方法について詳述する。
捕集された糖タンパクは、例えば、特開2004-233303号公報(特許第4220257号)やKaji H,ほかMass spectrometric identification of N-linked glycopeptides using lectin-mediated affinity capture and glycosylation site-specific stable isotope tagging. Nature Protocols 1, 3019-3027 (2006)に記載のLec-IGOT-LC/MS法により候補(糖ペプチド)を分析することができる。
試料となる糖ペプチド群は、プローブで捕集された糖タンパク質群をプロテアーゼで消化して得られたペプチド群より同じプローブで再捕集する。あるいは、試料粗タンパク質混合物を分離することなくプロテアーゼ消化して得られた粗ペプチド群より、直接プローブで捕集することもできる。得られた糖ペプチド群は、同位体酸素でラベルされた水の中でグリコペプチダーゼ等の酵素で処理して糖鎖を解離する。すると、糖鎖結合部位のアスパラギンがアスパラギン酸となり、このときに水中の同位体酸素(18O)がペプチドに取り込まれる。このように同位体で糖鎖結合位置を標識することをisotope-coded glycosylation site-specific tagging(IGOT)という。
IGOTで標識されたペプチドをLCで分離し、MSに導入し、タンデム質量分析法により、ペプチドの配列を網羅的に同定する。
例えば、標準技術集(特許庁編)、質量分析の3−6−2−2 アミノ酸配列解析に示されるMS/MSイオンサーチ法により、得られたペプチド混合物のMS/MS ペプチド測定結果に対して、データベースに登録されたMS/MSスペクトルと比較して、検索することができる。検索においては、以下のアミノ酸の修飾を勘案する(メチオニン残基側鎖の酸化、アミノ末端グルタミンのピロ化(脱アミド化、環化)、アミノ末端の脱アミノ化(カルバミドメチルシステイン)、アスパラギン残基側鎖の脱アミド化(ただし、安定同位体酸素の取り込みが生じたもの))。
MS/MSイオンサーチ法によって同定されたペプチドのうち、アスパラギン残基側鎖に脱アミド化(安定同位体取り込み)が生じ、かつN結合型糖鎖付加のコンセンサス配列(Asn-Xaa-[Ser/Thr]、ただしXaaはProでない)を含むペプチドを候補糖ペプチドとし(XaaがLys/Argであり、同定されたペプチド配列がこの位置で切断されている場合、タンパク質全体のアミノ酸配列を参照し、Xaaの次の残基が[Ser/Thr]であることが確認できた場合はこのペプチドも含める)、該糖ペプチドのコンセンサス配列アスパラギン残基を糖鎖結合部位とする。コンセンサス配列が複数有り、かつ、コンセンサス配列よりも脱アミド化(標識)アスパラギン残基の数が少なく、かつMS/MSスペクトルより標識部位を特定できない場合は、それらの標識部位(糖鎖付加位置)を併記し、区別できない旨を表記する。
請求の範囲中の表1及び以下の表1に挙げるペプチドはIGOT-LC/MS法により同定された結果を基礎とし、同法における同定過程において、上述(3)に記載の修飾の有無が勘案されている。したがって、該マーカー糖ペプチドは単にアミノ酸配列によってのみ規定されるのではなく、ペプチド中に含まれる官能基の修飾の実態を含んでいる。修飾の実態は数列によって以下のように記載される。(1)ペプチド部分のアミノ酸配列はアミノ酸の一文字表記の列によって示す。(2)修飾位置及び修飾の種類は数列によって示す。数列の最初は、ペプチドの末端アミノ基、最後は末端カルボキシル基、その間の数字は構成する各アミノ酸残基側鎖の位置を表す。また数値は修飾の種類を表す。「0」は未修飾、「1」はアミノ末端グルタミン残基のピロ化(脱アミド化、環化)、「2」はメチオニン残基側鎖の酸化、「3」はアミノ末端カルバミドメチル化システイン残基のピロ化(脱アミド化、環化)、「4」はアスパラギン残基の脱アミド化(IGOT標識)、すなわち糖鎖付加位置、を表す。なお配列表は、以下の表1に基づき作成された。
肝疾患病態指標糖鎖マーカー候補糖ペプチドは、がんプローブ(レクチン)を用いて、(i)肝細胞がん由来細胞株培養液、および(ii)肝細胞がん患者血清(がん摘出手術前及び手術後に採集)より捕集し、上記2-2-1、2-2-2の糖ペプチドの大規模同定法により同定できる。同定された糖ペプチドは該糖鎖マーカーの初期候補とすることができる。
例えば、上記「2−2−4.肝疾患病態指標糖鎖マーカー候補糖ペプチド」に記載の種々の新規糖ペプチドについては、以下に挙げる複数の検証実験によって、肝疾患における各病態について、これを反映するマーカー候補ペプチドを個々に検証、選別することができる。すなわち、i)肝細胞がん患者術前の血清、術後の血清、および健常人血清よりプローブレクチンで捕集した糖ペプチドをIGOT標識し、LC/MS分析した際の各標識ペプチドのシグナル強度の比較、ii) 肝細胞がん患者術前の血清、術後の血清、および健常人血清よりプローブレクチンで捕集した糖タンパク質に対する、安定同位体を利用した公知の比較定量プロテオミクス、iii) 肝細胞がん患者術前の血清、術後の血清、および健常人血清よりプローブレクチンで捕集した糖タンパク質(2-2-4記載の糖ペプチドの配列を含む糖タンパク質)に対し、抗体を用いた定量検出、iv)(ウイルス性)肝炎患者、肝硬変患者、及び肝細胞がん患者の血清より捕集した糖タンパク質(2-2-4記載の糖ペプチドの配列を含む糖タンパク質)に対する抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ等による比較糖鎖プロファイリング。
i)肝細胞がん患者術前の血清、術後の血清、および健常人血清よりプローブレクチンで捕集した糖ペプチドをIGOT標識し、LC/MS分析した際の各標識ペプチドのシグナル強度の比較:上記試料(血清)タンパク質をそれぞれ還元アルキル化の後、トリプシン消化し、生じたペプチド混合物をプローブレクチンを用いたアフィニティークロマトグラフィーに供し、糖ペプチドを捕集する。これを上述のIGOT法により標識し、おおよその総量を合わせて個別にLC/MS分析する。同定された糖ペプチドの質量電荷比及び溶出位置を参考に、概標識ペプチドのスペクトルを取得し、それらのシグナル強度を比較する。術前のみで顕著なペプチド、術前術後の患者血清で顕著なペプチドなどを選別することができる。
3−1.質量分析法
肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖ペプチド及び糖タンパク質は、糖鎖マーカーに結合するプローブレクチン等で捕集した試料について、質量分析計を検出器として検出することができる。
3−2−1.レクチンマイクロアレイによる糖鎖プロファイリング
(1)レクチンマイクロアレイ(単にレクチンアレイとも呼ぶ)
レクチンアレイは、複数種の特異性の異なる判別子(プローブ)レクチンを1つの基板上に並列に固定(アレイ化)したもので、分析対象となる複合糖質にどのレクチンがどれだけ相互作用したかを一斉に解析できるものである。レクチンアレイを用いることで、糖鎖構造推定に必要な情報が一度の分析で取得でき、かつ、サンプル調製からスキャンまでの操作工程は迅速かつ簡便にできる。質量分析などの糖鎖プロファイリングシステムでは、糖タンパク質をそのまま分析することはできず、あらかじめ糖ペプチドや遊離糖鎖の状態にまで処理をしなければならない。一方、レクチンマイクロアレイでは、例えば、コアタンパク質部分へ直接蛍光体を導入するだけで、そのまま分析できるという利点がある。レクチンマイクロアレイ技術は、本発明者等が開発したもので、その原理・基礎は、例えば、Kuno A., et al. Nat. Methods 2,851-856(2005).に記載されている。
レクチンアレイは、現在では、精製標品だけでなく、血清や細胞ライセートなどの混合試料の定量比較糖鎖プロファイリングができる実用化技術にまで発展してきている。特に細胞表層糖鎖の比較糖鎖プロファイリングはその発展がめざましい(Ebe, Y. et al. J. Biochem. 139, 323-327(2006)、Pilobello, K.T. et al. Proc Natl Acad Sci USA.104,11534-11539(2007)、Tateno, H. et al. Glycobiology 17, 1138-1146(2007))。
レクチンマイクロアレイのプラットフォームは基本的に上記の通りとし、検出に際しては上記被検体を直接蛍光などで標識するのではなく、抗体を介して間接的に蛍光基などを被検体に導入することで、一斉に多検体に対する分析を簡便、高速化することができる応用法である(「Kuno A, Kato Y, Matsuda A, Kaneko MK, Ito H, Amano K, Chiba Y, Narimatsu H, Hirabayashi J. Mol Cell Proteomics. 8, 99-108(2009)」、「平林淳、久野敦、内山昇「レクチンマイクロアレイを用いた糖鎖プロファイリング応用技術の開発」、実験医学増刊「分子レベルから迫る癌診断研究〜臨床応用への挑戦〜」、羊土社、Vol25(17)164-171(2007)」、久野敦、平林淳「レクチンマイクロアレイによる糖鎖プロファイリングシステムの糖鎖バイオマーカー探索への活用」、遺伝子医学MOOK11号「臨床糖鎖バイオマーカーの開発と糖鎖機能の解明」、pp.34-39、メディカルドゥ(2008)参照)。
レクチンマイクロアレイの代わりにコアタンパク質に対する抗体をガラス基板などの基板上に並列に固定(アレイ化)した抗体マイクロアレイを用いる方法である。調べるマーカーに対するだけの数の抗体が必要である。糖鎖変化を検出するレクチンをあらかじめ確定することが必要である。
レクチンアレイの結果をもとに簡易で安価なサンドイッチ検出法をデザインできる。基本的には2種の抗体を用いたサンドイッチ検出法に用いられるプロトコルのうち、一方の抗体をレクチンに置き換えるだけで適用できる。したがって、この手法は既存の自動免疫検出装置を用いた自動化にも適用可能である。唯一考慮しなければならない点は、サンドイッチに用いる抗体とレクチン間の反応である。抗体は少なくとも2本のN結合型糖鎖を有する。したがって、使用するレクチンが抗体上の糖鎖を認識する場合は、サンドイッチ検出時にその結合反応に起因するバックグランドノイズを生じてしまう。このノイズシグナルの発生を抑制するのに抗体上の糖鎖部分に修飾を導入する方法や、糖鎖部分を含まないFabのみを用いる方法が考えられるが、これらは公知の手法を用いればよい。糖鎖部分への修飾方法としては、例えばChen SらNat Methods. 4, 437-44 (2007)やComunale MAらJ Proteome Res. 8, 595-602 (2009)などがあり、Fabを用いる方法としては例えばMatsumoto HらClin Chem Lab Med 48, 505-512 (2010)などがある。
抗体オーバーレイ・レクチンアレイは新規肝疾患病態指標糖鎖マーカー候補分子上の疾患特異的糖鎖変化が最も反映するレクチンを統計学的に見出す最善の手法である一方で、免疫沈降およびオーバーレイ検出が可能な抗体が必須である。しかしながら必ずしもそのような抗体が入手できるとは限らない。したがって、より多くの候補分子を肝疾患検出に利用するための手段として、プローブレクチンで捕集した糖タンパク質に対する、標的糖タンパク質の免疫学的定量検出を行うのが一般的である。具体的にはSDS-PAGEを行い、膜転写後にウエスタンブロットにより免疫学的な検出をする。得られたバンドのシグナル強度の比較より、各試料間での変動を定量的に見積もることができる。がん性糖鎖を持つタンパク質の量的変動から各マーカー候補の有意性を病態ごとに確証し、絞り込みができる。本課題では肝疾患の進展に伴いフコース修飾の増加が認められる糖鎖マーカー候補分子群の検証を行う。その場合、候補分子の同定工程において使用したAALレクチンを、検証時においてもプローブタンパク質として用いるのが一般的である。例えばその様な戦略で実施している例として、Liu YらJ Proteome Res. 9, 798-805 (2010)の報告などがあげられる。ところが血清中のタンパク質は、その種類によってN結合型糖鎖の構造(分岐の度合いなど)、フコース修飾(コアフコース、血液型抗原など)は異なることが知られている。たとえ同一分子であったとしても異なるフコース修飾を受ける場合があることも報じられている。例えばNakagawa TらJ. Biol. Chem. 281, 29797-29806 (2006)の中で、α1アンチトリプシンが異なるフコース修飾を受けていることを報じられている。これらは疾患の種類、進展度合いによる増加の有無、タイミングを異にするため、ほぼすべてのフコース修飾を認識し捕集できるAALをプローブとして用い、フコース含有糖タンパク質全体を捕集し、量的比較するのは理想的とはいえない。そこでわれわれは2つの異なるフコース認識レクチンを用いて連続クロマトグラフィーにより分離分画し、それぞれの画分を定量比較解析することを考えた。この手法のスキームを図10に示す。このときに使用するレクチンはLCAとAALである。これまでのレクチン特異性解析に
よりLCAはN結合型糖鎖のうち低分岐型のコアフコース修飾を受けたものを認識するレクチンであることが知られている。AALはN結合型糖鎖のどのような分岐のコアフコースでも認識することができ、かつABOやルイス抗原などに代表される非還元末端側のフコース修飾をも認識することができることも知られている。つまり、LCAは特異性が高く、AALは低い。そこで第一段階としてLCAカラムクロマトグラフィーを行い、LCAに結合するフコース含有糖タンパク質を捕獲する。これをLCA結合性フコース含有糖タンパク質とする。クロマトグラフィー時において、コアフコース修飾を受けている低分岐型N結合型糖鎖を有さないフコース含有糖タンパク質はLCAカラムには結合せず、非結合画分に分画される。このようなフコース含有糖タンパク質群をLCA非結合画分から捕獲するために、LCA非結合画分に対しAALカラムクロマトフラフィーを行う。この時にAALに捕獲された糖タンパク質群をLCA非結合/AAL結合性フコース含有糖タンパク質とする。この操作により、疾患に伴う同一タンパク質上のフコシル化の増減を修飾の種類ごとに評価することができると推測される。
上記工程により選択された肝疾患病態指標糖鎖マーカー候補のいくつかの例を、以下に示す。
上記で同定されたマーカー候補について、1)病気の進み具合に応じてどの程度の測定値変化が見られるのか、2)測定値の変化は、どの病期(初期か晩期か)にもっとも顕著となるのか、3)測定値変化の情報は、疾病のコントロールに資するかどうかを検討し、有用性を評価し、どの肝疾患病態に適したマーカーであるかを検証することができる。
また、本願発明は、上記表2に示される新規疾患病態指標糖鎖マーカー候補を検出及び/又は同定することを含む肝疾患の特異的検出方法を包含する(なお、以下では、ある新規肝疾患病態指標糖鎖マーカー候補に特異的に反応するレクチンをレクチン“A”と標記する)。
(1)(イ)レクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を検出する手段及び(ロ)肝疾患病態指標糖鎖マーカーの糖鎖以外の部分(コアタンパク質)を検出する手段によりコアタンパク質を検出する手段の組み合わせ、並びに(2)レクチン“A”と特異的に結合する糖鎖を有する肝疾患病態指標糖鎖マーカーに対する特異的な抗体であって、糖鎖結合部分付近をエピトープとする抗体を挙げることができる。ここで、レクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を検出する手段及びコアタンパク質を検出する手段は、それぞれ、レクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を測定する手段、及びコアタンパク質を測定する手段であっても良い。
1)被験者から体外に採取された試料中のレクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を有する肝疾患病態指標糖鎖マーカー又はその断片(糖鎖修飾部位を含むペプチド)を測定する工程、
2)健常者から体外に採取された試料中のレクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を有する肝疾患病態指標糖鎖マーカー又はその断片(糖鎖修飾部位を含むペプチド)を測定する工程、
3)肝疾患患者から体外に採取された試料中のレクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を有する肝疾患病態指標糖鎖マーカー又はその断片(糖鎖修飾部位を含むペプチド)を測定する工程、
及び
4)被験者から得られたレクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を有する肝疾患病態指標糖鎖マーカー又はその断片(糖鎖修飾部位を含むペプチド)の測定結果と健常者又は肝疾患患者からレクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を有する肝疾患病態指標糖鎖マーカー又はその断片(糖鎖修飾部位を含むペプチド)の測定結果を比較し、被験者の測定結果がより肝疾患患者の測定値に近い場合に肝疾患であると判別する工程を含む肝疾患の検出方法が挙げられる。
1)線維化の進展測定方法
肝炎ウイルス感染による肝炎の進展に於いて、線維化の程度は、肝機能低下及び肝細胞発がんのリスクと相関する事が知られている。したがって線維化の測定は、肝機能低下および発がんリスクを評価することを意味する。また肝炎患者の全体の4割程度は、インターフェロン治療に反応せずウイルス感染が持続する。これらの病態が活動性に進行するか否かは、線維化の進展で判断されるべきであると考えられている。これらの観点から、線維化の進展を測定する事は、肝炎の診断治療に於いて重要な意味を持つ。
肝硬変は、肝小葉構造の消失した再生結節とこれを取り囲む緻密な線維性結合組織が肝全体に瀰漫性に出現する病態と定義される。これは、肝細胞障害と線維化が持続する進行性慢性肝疾患の終末状態でもある。肝硬変における肝生検は成因診断を探るために行なわれるもので、早期の肝硬変や大結節型の肝硬変では診断困難な症例が多い(外科病理学第4版、文光堂より)。したがって、肝硬変を定性的、定量的に診断できる検査技術が必要とされている。この目的に対し、1)の線維化の進展測定方法、の項で見出された線維化の進展をモニタリングできる候補分子抗体およびレクチンセットのうち、線維化ステージF3とF4を見分けることができる場合、肝硬変検出に使用できる。
早期肝細胞がんは、病理学的に間質浸潤を伴う1.5cm前後の高分化型肝細胞と定義され、通常型肝細胞がんや再生結節、境界病変(異型腺腫瘍過形成)とは鑑別される病変である。特に、境界病変と高分化型肝細胞がんは発がん過程で同一線上にあると考えられており、臨床経過のうちに、通常型肝細胞がんへ進展することが知られている。また、高分化型肝細胞がんは通常型肝細胞がんの前段階病変の一つであると考えられ、この病変を発見して処置する事で、がんの根治が期待できる。
試料としては、生検試料、体液試料、好適には、血液(血清、血漿等)が挙げられる。
新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーを利用する肝細胞がんの検出方法において、肝疾患病態指標糖鎖マーカー特異的ポリクローナル抗体及び/又はモノクローナル抗体が容易に入手できる場合は、それらを用いることができるが、容易に入手できない場合は、例えば、以下のように調製できる。
本願発明の新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーは、肝疾患検出用のポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の調製に用いることができる。
グライコプロテオミクス(IGOT-LC/MS法)による糖ペプチドバイオマーカーの選択
1.培養上清の調製法(HepG2、HuH-7: -Lot. 071213)
高グルコース含有90%DMEM、10%FBS,PS+,(HuH-7のみITS+)の培地を用いて、直径14cmのディッシュで3日間、HepG2及びHuH-7細胞を培養し、80〜90%コンフルエントとした。前記FBS血清入り培養上清を吸引して廃棄し、無血清培地10ml / dish(100%DMEM-high glucose, 添加物など無し)で洗浄し、無血清培地 30ml / dish 添加して、48時間培養した。(HepG2、HuH-7の場合これ以上無血清を続けると細胞が壊れる)
培養後、4500G x 30minで遠心し、上清を回収し、−80℃凍結保存した。
1)ペプチド試料の調製
血清(希釈、変性処理済み)、細胞培養液に、終濃度10%となるようトリクロロ酢酸(TCA、100%飽和水溶液)を加え、氷上で10-60分冷却し、タンパク質を沈殿させた。4℃で高速遠心分離し、沈殿を回収した。沈殿は氷冷したアセトンに懸濁し、TCAを洗浄、除去した。洗浄は2回行った。
試料ペプチドを、プローブレクチンを固定化したカラムに供し、洗浄後、レクチンの特異性に応じた方法で糖ペプチドを溶出した。得られた糖ペプチド溶液にエタノール(等容)および1-ブタノール(4倍容)を加え、水-エタノール-1-ブタノール(1:1:4, v/v)で平衡化したSepharoseカラムに供した。洗浄後、50%エタノール(v/v)で糖ペプチドを溶出した。糖ペプチド画分を、少量(2マイクロリットル)のグリセロールの入ったマイクロチューブに少量ずつ移し、減圧遠心濃縮した(水の除去、この操作を繰り返し、全糖ペプチド画分を濃縮した)。
精製した糖ペプチド(グリセロール溶液)に必要量の緩衝液を加え、再度減圧遠心濃縮した後、安定同位体酸素-18で標識した水(H2 18O)を加え、溶解した(グリセロール濃度は10%以下とする)。これに標識水で調製したペプチド-N-グリカナーゼ(グリコペプチダーゼF、PNGase)を加え、37℃で終夜反応させた。
反応液を0.1%ギ酸で希釈し、LC/MSショットガン分析した。このとき高分離能、高再現性、高感度に検出するため、ダイレクトナノフローポンプを基礎とするナノLCシステムを利用した。インジェクトしたペプチドは脱塩を目的としたトラップカラム(逆相C18シリカゲル系の担体)上に一旦捕集し、洗浄後、同じ樹脂を詰めたスプレーチップの形状をしたフリットレス微小カラム(内径150micrometer x 50 mm L)を用い、有機溶媒(アセトニトリル)の濃度グラジェント法で分離した。溶出液はエレクトロスプレーインターフェースを介してイオン化して、直接質量分析機に導入した。質量分析はデータ依存モードで最大2つのイオンを選択しながら、衝突誘起解離(CID)によるタンデム質量分析を行った。
得られた数千のMS/MSスペクトルについて、個々にスムージング、中心化処理を行ってピークリストを作成し、このデータを元にタンパク質アミノ酸配列データベースを用いてMS/MSイオンサーチ法で、ペプチドを同定した。検索エンジンにはマトリックスサイエンス社のMascotを用いた。検索条件のパラメータとして、使用した断片化法(トリプシン消化)、ミスクリーベージ許容数:2、固定する修飾:システインのカルバミドメチル化、変動的な修飾:N末端アミノ基の脱アミノ化(末端グルタミン)、酸化(メチオニン)、18Oを取り込んだ脱アミド化(アスパラギン:糖鎖付加部位)、MSスペクトルの許容誤差:500ppm、MS/MSスペクトルの許容誤差:0.5Daを用いた。
上述の条件で検索し、得られた結果より、下記の同定確認処理を行った。
1)肝炎ウィルスの感染を基礎とする原発性肝細胞がん患者の血清(がん組織を切除する手術前、及び施術後に採取した2種の血清を用意した)および、がん細胞培養上清より調製したタンパク質のトリプシン消化物より、プローブレクチンで糖ペプチドを捕集し、上述のIGOT-LC/MS法で同定した。同定された糖ペプチドを初期肝疾患病態マーカー糖ペプチドとした。たとえば表5中のC. HCC関連試料(培地2+血清10(手術前の試料が5、術後の試料が5))よりプローブ(AAL)で検出された回数として、プローブレクチンにより検出された頻度を表すことができる。
3.で同定、選別されたマーカー糖ペプチドの配列から、この配列を含む糖タンパク質を規定することができる。より具体的には、表5で得られた糖ペプチドとその配列を含む糖タンパク質それぞれの番号を対応させた表(表6)を作成することで、容易にマーカー糖タンパク質のリストを作成することができる。これらの糖タンパク質を、前記表2に示した。
5.IGOT-LC/MS分析における各糖ペプチドの質量分析シグナル強度比較による実証
3.で同定された各糖ペプチド(IGOT-LC/MS分析においては、糖鎖付加部位に安定同位体標識が導入されたペプチドとして検出される)をマーカーとして用いた肝疾患病態検出例を以下にしめす。健常人血清、術前血清、および術後血清に含まれるタンパク質について上述の手法によりペプチド断片化し、IGOT-LC/MS分析を行った。得られた各糖ペプチドのシグナル強度を、健常人血清、術前血清、術後血清間で比較したところ、術前血清でのみ顕著であるマーカー糖ペプチドが見出された。その一部を図9に示す。これらは肝疾患病態指標マーカー糖ペプチドのうち、本願発明の早期肝細胞がん検出に使用できる「肝細胞がんマーカー糖ペプチド」となることが期待できる。
前記肝疾患病態指標糖鎖マーカー候補の検証および絞り込みにより、(ウイルス性)肝炎患者、肝硬変患者、及び肝細胞がん患者の血清より捕集した糖タンパク質(糖ペプチドの配列を含む糖タンパク質)に対する抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ等による比較糖鎖プロファイリング中にある手順で検証された糖タンパク質のうち、CPN2について、新規肝疾患病態指標糖鎖マーカー候補を利用する肝疾患の検出について抗体オーバーレイ・レクチンアレイを活用し実施した例を以下に示す。なお、本手法による(ウイルス性)肝炎患者(CH)、肝硬変患者(LC)、肝細胞がん患者(HCC)、および健常者(HV)血清に由来する該マーカー糖タンパク質上糖鎖の比較解析の戦略を図7に示す。
(ウイルス性)肝炎患者(CH)、肝硬変患者(LC)、肝細胞がん患者(HCC)、および健常者(HV)血清に由来する該マーカー糖タンパク質のエンリッチは、「Kuno A, Kato Y, Matsuda A, Kaneko MK, Ito H, Amano K, Chiba Y, Narimatsu H, Hirabayashi J.Mol Cell Proteomics. 8, 99-108 (2009) 」に従って行われた。なお、得られる結果が病態に依存していることを明らかにするため、各病態につき5例ずつを分析に用いることにした。各患者血清を0.2%SDS含有PBS緩衝液で10倍希釈し、10分間95℃で加熱処理したものを、CPN2においては25μL反応チューブに分注し、そこへ500 ngのCPN2に対する抗体(ビオチン化物)を添加した。各反応溶液は反応バッファー(1%Triton X-100入りTris-buffered saline (TBSTx))により、45μLに調整された後、4℃で2時間振盪反応された。抗原抗体反応後、速やかにストレプトアビジン固定化磁気ビーズ溶液(Dynabeads MyOne Streptavidin T1, DYNAL Biotech ASA製)をあらかじめ反応バッファーで3回洗浄し、かつ2倍濃縮状態で調整したもの5μL(元のビーズ溶液10μL分に相当)を上記反応溶液へ加え、1時間さらに反応した。この反応により、ビオチン化抗体を介して、該糖タンパク質は磁気ビーズと複合体を形成する。この複合体を磁気ビーズ回収用マグネットに吸着させた後に溶液を廃棄した。回収された複合体は500μLの反応バッファーにより3回洗浄された後に、10μLの溶出バッファー(0.2%SDS含有TBS)に懸濁された。この懸濁溶液を95℃で5分間熱処理することで、該糖タンパク質を磁気ビーズから解離溶出し、得られた溶液を溶出液とした。その際、熱変性されたビオチン抗体も混入するため、溶出液に上述の手法で2倍濃縮状態で調整された磁気ビーズ溶液を10μL(元のビーズ溶液20μl分に相当)加え、1時間反応することで、ビオチン化抗体を吸着除去した。これにより得られた溶液を血清由来該糖タンパク質溶液とし、以降の実験に用いた。
上述により得られた該糖タンパク質溶液適当量とり、レクチンアレイ反応バッファーである1%Triton X-100含有Phosphate-buffered saline (PBSTx)により、60μLに調整した。この溶液をレクチンマイクロアレイの各反応槽(ガラス1枚当たり8つの反応槽が形成されている)へ添加し、20℃で10時間以上反応した。この8つの反応槽からなるレクチンマイクロアレイ基盤の作製は内山ら(Proteomics 8, 3042-3050 (2008))の手法に従った。これにより該糖タンパク質上の糖鎖とアレイ基板上に固定されている43種のレクチンとの結合反応が平衡状態に達する。その後、未反応の基盤上レクチンへ検出用抗体上の糖鎖が結合し、ノイズとして生じてしまうことを避けるため、ヒト血清由来IgG溶液(シグマ社製)を2μL加え、30分反応させた。60μLのPBSTxで各反応槽を3回洗浄した後、再度ヒト血清由来IgG溶液を2μL加え、若干攪拌した後に、検出用の該糖タンパク質に対する抗体(ビオチン化物)を100 ng相当加え、20℃で1時間反応させた。抗原抗体反応後、60μLのPBSTxで各反応槽を3回洗浄し、次いでCy3標識ストレプトアビジン200 ng相当が含有しているPBSTx溶液を加え、さらに30分、20℃で反応した。反応後、60μLのPBSTxで各反応槽を3回洗浄した後、モリテックス社製アレイスキャナーGlycoStationによりアレイスキャンを行った。
図10に示す2つの異なるフコース認識レクチンを活用した連続クロマトグラフィーを用いたマーカー候補分子の検証方法について、その手順を具体的に記載する。
健常者プール血清(NHS)およびC型肝炎ウイルス陽性肝細胞がん患者血清(HCC)50 μLを0.2%SDS含有PBSバッファーにより10倍希釈し、95℃で20分加熱処理することでウイルスを不活化した。熱処理サンプルは、予め開始バッファー(0.1%SDS, 1%TritonX-100含有PBS)により平衡化したLCAレクチンカラム (生化学工業)(5 mL, φ7.0 mm, 高さ100.0 mm)にアプライした。クロマト時の流速は200μL/minに調整した。サンプルアプライ後、3カラム量の開始バッファー、次いで3カラム量の洗浄バッファー(0.02%SDS含有PBS)でカラムを洗浄した。LCAカラムへ吸着した糖タンパク質は溶出バッファーA(200 mMメチルαマンノシド含有0.02%SDS含有PBS)により溶出した。クロマト溶液はフラクションコレクターにより1.0 mLずつ回収した。LCA非結合画分および結合画分の分画位置はタンパク定量により確定した。次に、LCA非結合画分を、予め開始バッファー(0.1%SDS, 1%TritonX-100含有PBS)により平衡化したAALレクチンカラム (和光純薬工業)(0.5 mL, φ5.0 mm, 高さ20.0 mm)にアプライした。クロマト時の流速は40μL/minに調整した。サンプルアプライ後、3カラム量の開始バッファー、次いで6カラム量の洗浄バッファー(0.02%SDS含有PBS)でカラムを洗浄した。AALカラムへ吸着した糖タンパク質は溶出バッファーB(200 mMフコース含有0.02%SDS含有PBS)により溶出した。クロマト溶液はフラクションコレクターにより1.0 mLずつ回収した。AAL非結合画分および結合画分の分画位置はタンパク定量により確定した。各画分(LCA結合画分(LE)、LCA非結合/AAL結合画分(AE)、およびLCA/AAL非結合画分(LTAT))を確定後、SDS-PAGEにより分離状況を確認した。なお、NHSおよびHCCクロマト時の各画分の液量は、NHSの場合LEは7.7 mL, AEは1.34 mL, LTATは9.25 mLで、HCCの場合LEは12.48 mL, AEは1.79 mL, LTATは11.91 mLであった。
レクチンアレイによる熱処理後血清および各画分中糖タンパク質の糖鎖プロファイリングは基本的に久野ら(文献1 Kuno et al., Nature Method 2005)、内山らの手法(文献2 Uchiyama et al. Proteomics 2008)に従った。熱処理後血清は、タンパク質量1μg相当を以下の手法により蛍光標識した。連続クロマトグラフィー後の各画分中糖タンパク質の蛍光標識は、分画後の溶液量比から血清タンパク質1μg相当を分画したものとして換算した液量を用いて行った。また、溶出画分は競合糖を含むため、それを除去するために0.1%SDS含有PBSによる希釈と、限外ろ過カラム[Millipore Amicon Ultra(商標)0.5 mL 3K cut]を用いた遠心濃縮を繰り返した。サンプルは1%Triton X-100含有PBSバッファーにより10μLに調製し、そこへ10μgの蛍光ラベル化試薬(Cy3-SE、GEヘルスケア社)を加え、1時間室温にて蛍光ラベル反応した。反応産物中に90μLのグリシン含有緩衝液を加え、2時間室温にて反応することで、余剰蛍光ラベル化試薬を不活化した。これを蛍光標識糖タンパク質溶液としてレクチンアレイに供じた。表4に示したレクチンアレイは43種類の異なるレクチンが固定化されているものを使用した。蛍光標識糖タンパク質溶液は終濃度で2.0μg/mLとなるようにレクチンアレイへアプライした。AE画分だけは終濃度で8.0μg/mLのサンプルでアプライした。レクチンと分析対象糖タンパク質との結合反応は20℃で12時間行った。反応後、アレイ上のサンプル溶液は除去し、専用バッファーで3回洗浄し、GPバイオサイエンス社製のレクチンアレイ用スキャナーGlycoStationTM Reader1200でスキャンした。スキャンにより得られたデータはjpegファイルおよびTIFFファイルとして保存した。シグナルの数値化はTIFFファイルを用い専用ソフトArrayPro Analyzerにより行った。
特定糖タンパク質を対象とし、LCA結合性フコース含有分子およびLCA非結合/AAL結合性フコース含有分子が、肝がんに伴いどれだけ増加するかを検討した。上述のように取得したNHSおよびHCCのLCA結合画分(LE)およびLCA非結合/AAL結合画分(AE)はLaemmli sample bufferと混合して加熱した後に5〜20%グラジェント・ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS/PAGEに供じた。電気泳動後、分離されたタンパク質は、PVDF膜に転写された。膜上のタンパク質の検出は定法に従った。その際、ブロッキング剤はBlock Ace (DS Pharma Biomedical, Osaka, Japan)を、一次抗体はビオチン化抗体を、検出試薬にはalkaline phospatase-conjugated streptavidin (1/5000 diluted with TBST; ProZyme, Inc., San Leandoro, CA)とWetern Blue(商標)stabilized substrate for alkaline phosphatase (Promega, Madison, WI)を用いた。
実施例3にある連続クロマトグラフィー処理を用いた肝がんマーカーのスクリーニングと同定方法について記す。具体的には洗浄バッファー(Triton X-100濃度の最適化: 1.0%から0.1%にする)や、溶出バッファー(SDS濃度の最適化: 0.02%から0.1%にする)などの最適化である。以下に具体的な血清の分画方法について記す。血清をPBS[pH7.4]で10倍に希釈後、0.2% SDS存在下で100℃、15分間熱処理した。この熱処理血清試料10μLを洗浄バッファー[0.1% SDS, 0.1% TritonX-100, in PBS]にて10倍に希釈し、全量を100μLとした(crude)。
前述の連続クロマトグラフィーの方法により健常人(14人分)のプール血清及び肝細胞がん患者(採取された血清中のAFP-L3値がそれぞれ1855.4、130.1、171420.0、1562.0 である患者4人分)のプール血清をサンプルセットとして使用し、表(表2)にあるもののうち、SHBG、SEPP1、pIgR、SPARCL1、CSF1R、SERPINA7、MANA2について、それぞれの血清分画(血清Crude、LCA結合分画、LCA非結合/AAL 結合分画、非結合分画)における発現量を比較した(図13A〜H)。その結果と実施例3にも記述した各レクチンのこれまでの特異性か軌跡の知見を併せて考えると、肝細胞がん患者が健常人よりもLCA画分に於ける発現量が高値になるものとしては、SHBG、pIgR、CSF1R、がある。このことはつまり、肝細胞がん患者血清では健常人に比較して、これらのタンパク質のうちの一部において、そのタンパク質に付加されたコアフコースを含有する低分岐型のN-結合型糖鎖の量が増えているという事を示している。一方、肝細胞がん患者が健常人よりもLCA非結合/AAL結合画分に於ける発現量が高値になるものとしては、SEPP1、pIgR、SPARCL1、CSF1R、SERPINA7、MANA2がある。これは、肝細胞がん患者血清では健常人に比較して、これらのタンパク質のうちの一部において、そのタンパク質に付加されたコアフコースを含有する3本鎖以上の高分岐型もしくは非還元末端側のフコース修飾を有したN-結合型糖鎖の量が増えている事を示している。肝がん患者では、これらのタンパク質のうちの一部において、そのタンパク質に付加されたコアフコースを含有する3本鎖以上の高分岐型もしくは非還元末端側のフコース修飾を有したN-結合型糖鎖という事を示している。
前述の連続クロマトグラフィーの方法により健常人(Healthy)、肝硬変患者(LC)、肝細胞がん患者(HCC)の血清各3例ずつをサンプルセットとして使用して比較解析した(図14)。その結果、pIgRのLCA結合画分、pIgRのLCA非結合/AAL結合画分、CPB2のLCA非結合/AAL結合画分、CSF1RのLCA分画、CSF1RのLCA非結合/AAL結合画分で、健常人に比較して、有意に肝硬変あるいは肝細胞がん患者で高いという結果であった。特に、pIgRのLCA分画、CSF1RのLCA分画、CSF1RのLCA非結合/AAL結合画分では肝硬変よりも肝細胞がん患者の方が高いという結果であり、肝細胞がん患者の特定に有用なマーカーであるということが示された。これらの各分子(分子複合体)の上記に示した分画が肝臓の疾患状態を見分けるのに非常に有効なことが示された。
前述の連続クロマトグラフィーの方法により健常人(Healthy)、(ウイルス性)肝炎患者(CH)、肝硬変患者(LC)、肝細胞がん患者(HCC)の血清、各5例ずつをサンプルセットとして使用して比較解析した(図15)。pIgRのLCA非結合/AAL結合分画では健常人・肝炎患者に比較して、有意に肝硬変あるいは肝細胞がん患者で高いという結果であった。CSF1RのLCA分画では健常人・肝炎患者・肝硬変患者に比較して、有意に肝細胞がん患者で高いという結果であった。また、CSF1RのLCA非結合/AAL結合分画では健常人・肝炎患者が同程度で低く、それらに比較して肝硬変患者では有意に高くなり、肝硬変患者と比較して、肝細胞がん患者でさらに高いという結果であった。これらの分子(分子複合体)のそれぞれの分画を定量する事により、これらの肝疾患状態を見分けるのに非常に有効なことが示された。
線維化の進展との関連について検証するために、前述の連続クロマトグラフィーの方法により、慢性肝炎軽度(F1)、慢性肝炎中度(F2)、慢性肝炎重度(F3)、肝硬変(F4)患者の血清をサンプルセットとして使用して比較解析した。pIgRのLCA非結合/AAL結合分画ではF1・F2に比較して、F3あるいはF4患者血清で高くなるという結果であった(図16)。一方、CSF1RのLCA結合分画ではF1からF4へと進展するに従って高くなっていくという結果であった(図17)。また、CSF1RのAAL結合分画では、F1・F2に比較してF3で高くなり、F4患者血清ではさらに高くなるという結果であった(図17)。これらの分子(分子複合体)上の上の糖鎖変化、特にLCA結合性あるいはLCA非結合/AAL結合性糖鎖を定量・比較することによって、肝臓の疾患状態、特に肝臓の線維化の進展あるいは早期の肝細胞がんを予測することができると考えられる。
血清をPBS[pH7.4]で10倍に希釈後、0.2%SDS存在下で100℃、15分間熱処理した。
前述の方法により、健常人(NHS:14人分)のプール血清、及び肝細胞がん患者(HCC:4人分)のプール血清よりpIgRタンパク質を精製・濃縮した。これをレクチンマイクロアレイに供し、pIgRタンパク(抗pIgR抗体沈降物)の糖鎖プロファイルの解析を行った(図18)。その結果、19種のレクチンでシグナルを観察し、そのうちAOL、AAL、SNA、SSA、TJA-I、BPL、ABAのレクチンに於いて、健常人(NHS)と比較して肝細胞がん患者(HCC)由来でシグナルが亢進することが分かった。一方、MAL、DSA、EEL、WFA、HPAのレクチンに於いて、健常人(NHS)と比較して肝細胞がん患者(HCC)由来でシグナルが減少することが分かった。
血清をPBS[pH7.4]で10倍に希釈後、0.2%SDS存在下で100℃、15分間熱処理した。次いで、熱処理血清試料40μLとアフィニティー精製済みのビオチン化ヤギ抗ヒトCSF1R抗体[R&D Cat#BAF329, Lot#BXD03]を0.2μg分混合し、シェイカーにて1,400rpm, 20℃, 2時間抗原抗体反応を行った。反応後の溶液に洗浄バッファー[20mM Tris-HCl pH8.0, 1%TritonX100, 0.1%Na3N ]で平衡化した磁気ビーズ[invitrogen Dynabeads(商標)MyOneTM Streptavidin T1 Cat#656.02]20μLを加え、軽く混和し、シェイカーにて1,400rpm, 20℃, 1時間振盪した。振盪した後、マグネットスタンド[invitrogen Dynal MPCTM-S Cat#120.20D]を用いて磁気ビーズと上清を分離した。分離した上清を取り除いた後、磁気ビーズをPBS 1mLで3回洗浄した。洗浄済みの磁気ビーズへ溶出バッファー[0.2%SDS in PBS]を20μL加え、ボルテックスで軽く混合し、70℃, 5分間溶出反応を行った。その後エッペンチューブを5分間室温で放置し、6,400rpmで3秒程度遠心した。遠心した溶液に洗浄バッファー20μLを加えて溶液量を40μLとし、ボルテックスで軽く混合した。マグネットスタンドで上清とビーズを分離し、上清を分取してElute画分とした。溶出画分中のCSF1R量をウエスタンブロットによって定量した。
前述の方法により、健常人(NHS)、及び肝細胞がん患者(HCC)それぞれのプール血清よりCSF1Rタンパク質を精製・濃縮した。これをレクチンマイクロアレイに供し、CSF1Rタンパク(抗CSF1R抗体沈降物)の糖鎖プロファイルの解析を行った(図20)。その結果、20種のレクチンでシグナルを観察し、そのうちAOL、AAL、ECA、ABA、WFAのレクチンに於いて、健常人(NHS)由来のCSF1Rと比較して肝細胞がん患者(HCC)由来のCSF1Rでシグナルが亢進することが分かった。これらのレクチンのシグナルを定量・比較することによって、肝臓の疾患状態、特に肝細胞がんを予測することができると考えられる。
また、健常人(NHS:14人分)、比較的高齢な健常人(GP:5人分)、(ウイルス性)肝炎患者(CH:5人分)、肝硬変患者(LC:5人分)、肝細胞がん患者(HCC:5人分、K1:2人分,K2:6人分、K3:2人分)それぞれのプール血清を使用し、同様にしてCSF1Rタンパク質を精製・濃縮し、CSF1Rタンパク(抗CSF1R抗体沈降物)の糖鎖プロファイルの解析を行った(図21−1及び21−2)。その結果、前述図20の結果と同様のレクチンプロファイルの結果が得られた。しかしながら、疾患状態により、そのシグナル強度が異なるものが存在した。具体的にはWFAレクチンシグナルは健常人(NHS)、比較的高齢な健常人(GP)、(ウイルス性)肝炎患者(CH)、肝硬変患者(LC)由来のCSFR1ではほとんど検出されないのに対し、肝細胞がん患者(HCC)由来のもの(HCC、K1、K2、K3)では有意にシグナルが観察された。これらのレクチンのシグナルを定量・比較することによって、肝臓の疾患状態、特に肝細胞がんを予測することができると考えられる。
ここまでの解析でWFAレクチンのシグナルが肝細胞がん患者(HCC)由来のCSFR1などで有意に亢進するという事が明らかとなったので、これの検証を図22Aに従い行った。すなわち、血清よりレクチンアフィニティークロマトグラフィーなどによりWFAレクチン結合性タンパク質を捕獲し、その結合画分をインプット(未処理サンプル)とともに電気泳動後に抗CSF1R抗体を用いたウェスタンブロット解析することで、WFA結合性標的タンパク質の割合を算出する。最終的には血清中の、WFA結合性糖鎖を有するCSF1R存在量を図22Bのように検定するという手順である。
前述の方法により健常人(Normal)、(ウイルス性)肝炎患者(CHC)、肝硬変患者(LC)、及び肝細胞がん患者(HCC)の血清5例ずつをサンプルセットとして使用し、実施例14の方法により、血清中に存在するWFA結合性CSF1Rの存在量についての検討を行った。その結果、図22Cに示すように、肝硬変患者(LC)では健常人(Normal)および(ウイルス性)肝炎患者(CHC)と比較してWFA結合性CSF1Rの存在量が亢進した。さらに、肝細胞がん患者(HCC)では、健常人(Normal)、(ウイルス性)肝炎患者(CHC)、そして肝硬変患者(LC)と比較しても有意にWFA結合性CSF1R量が亢進していた。肝硬変患者(LC)では例外として有意に高いものが見受けられるものがあった。肝硬変患者では肝臓がん(の芽)のリスクをはらんでおり、これらは肝細胞がんを反映している可能性があることが示唆された。このように、CSF1R上のWFAレクチンのシグナル(WFA結合性糖鎖)を定量・比較することによって、肝臓の疾患状態、特に肝細胞がんを予測することができると考えられる。
線維化の進展との関連について検証するために、前述の方法により、慢性肝炎軽度(F1)、慢性肝炎中度(F2)、慢性肝炎重度(F3)、肝硬変(F4)患者の血清をサンプルセットとして使用して実施例14と同様にしてWFA結合性CSF1R量の解析をした。WFA結合分画のCSF1Rでは、F1〜F3まではほぼ検出されず、一部のF4患者血清で検出された(2例中1例)(図22D)。また、分画無しにcrudeな血清を用いて、血清中のCSF1R量について検討を行った。その結果、血清中のCSF1Rタンパク量はF1からF4へと進展するに従って高くなっていくという結果であった。このことはタンパク量で線維化の進展を定量できる可能性を示唆するが、これに加えて実施例8に示したように、CSF1R上の糖鎖構造の変化(LCA結合性糖鎖あるいはLCA非結合/AAL結合性糖鎖)と組み合わせることによって鑑別の精度を上げることができると考えられる。加えて、2例のF4患者間の結果をみると、血清中のCSF1R量はともに比較的多く見受けられるが、WFA結合性糖鎖を有するCSF1Rの量には大きな差が見受けられる。このことは線維化よりも別の事象を反映しているものと考えられる。F4のステージではほとんどの場合、肝硬変を伴っており、肝臓がん(の芽)を既に有している可能性も高い。故に、これらは肝細胞がんを反映している可能性が十分にあると考えられる。CSF1R上のWFA結合性糖鎖を定量・比較することによって、肝臓の疾患状態、特に早期の肝細胞がんを予測することができると考えられる。
Claims (8)
- 被験者より採取された試料について、LCA及び/又はAALに認識される糖鎖変化により線維化の進展を判別することができるCSF1Rからなる肝疾患病態指標糖鎖マーカーを分析することによる線維化の進展を分析する方法であって、該分析が、慢性肝炎軽度(F1)患者、慢性肝炎中度(F2)患者、慢性肝重度(F3)患者、及び、肝硬変(F4)患者からなる群から選択される少なくとも1つの対象と被験者とから採取された試料について、LCA及び/又はAALへのCSF1Rの結合量を測定する工程と、
慢性肝炎軽度(F1)患者、慢性肝炎中度(F2)患者、慢性肝重度(F3)患者、及び、肝硬変(F4)患者からなる群から選択される少なくとも1つの対象と被験者との試料中のLCA及び/又はAALへ結合するCSF1Rの量を比較する工程とを含み、
ここで、被験者の試料中のLCA及び/又はAALへ結合するCSF1Rの量が、比較した対象の試料中のLCA及び/又はAALへ結合するCSF1Rの量と同じであるか、又は、その量よりも亢進していた時に、該比較した対象と同じ線維化状態を示すか、又は、該比較した対象よりも線維化が進展していることを示す、前記方法。 - 被験者より採取された試料について、WFAに認識される糖鎖変化により肝硬変を検出することができるCSF1Rからなる肝疾患病態指標糖鎖マーカーを分析することによる肝硬変を検出するための分析方法であって、該分析が、健常人又は肝炎患者と被験者とから採取された試料について、WFAへのCSF1Rの結合量を測定する工程と、
健常人又は肝炎患者と被験者との試料中のWFAへ結合するCSF1Rの量を比較する工程とを含み、
ここで、被験者の試料中のWFAへ結合するCSF1Rの量が健常人又は肝炎患者の試料中のWFAへ結合するCSF1Rの量よりも亢進していた時に肝硬変の存在を示す、前記方法。 - 被験者より採取された試料について、AOL、AAL、ECA、ABA、LCA、及びWFAからなる群より選ばれる少なくとも1つのレクチンに認識される糖鎖変化により肝細胞がんを検出することができるCSF1Rからなる肝疾患病態指標糖鎖マーカーを分析することによる肝細胞がんを検出するための分析方法であって、該分析が、健常人及び被験者から採取された試料について、AOL、AAL、ECA、ABA、LCA、及びWFAからなる群より選ばれる少なくとも1つのレクチンと結合する結合性CSF1R量を測定する工程と、
健常人及び被験者の試料中の前記結合性CSF1Rの量を比較する工程とを含み、
ここで、被験者の試料中の選ばれた少なくとも1つの前記レクチンへ結合するCSF1Rの量が健常人の試料中の選ばれた少なくとも1つの前記レクチンへ結合するCSF1Rの量よりも亢進していた時に肝細胞がんの存在を示す、前記方法。 - 健常人又は肝炎患者と被験者とより採取された試料について、WFAに認識される糖鎖変化により早期に肝細胞がんの発生又は再発を予測することができるCSF1Rからなる肝疾患病態指標糖鎖マーカーについて、WFAと結合する結合性CSF1R量を測定する工程と、
健常人又は肝炎患者と被験者との試料中の前記結合性CSF1Rの量を比較する工程とを含み、
ここで、被験者の試料中のWFAへ結合するCSF1Rの量が健常人又は肝炎患者の試料中のWFAへ結合するCSF1Rの量よりも亢進していた時に肝細胞がんの発生又は再発を示す、早期に肝細胞がんの発生又は再発の予測のために、前記結合性CSF1R量を測定する方法。 - タンパク質CSF1Rであって、LCA及び/又はAALが認識する糖鎖変化を有することを特徴とするCSF1Rに対する抗体、並びに、LCA及び/又はAALを含む、線維化の進展を判別するためのキット。
- タンパク質CSF1Rであって、WFAが認識する糖鎖変化を有することを特徴とするCSF1Rに対する抗体、及び、WFAを含む、肝硬変を検出するためのキット。
- タンパク質CSF1Rであって、AOL、AAL、ECA、ABA、LCA、及びWFAからなる群より選ばれる少なくとも1つのレクチンが認識する糖鎖変化を有することを特徴とするCSF1Rに対する抗体、並びに、AOL、AAL、ECA、ABA、LCA、及びWFAからなる群より選ばれる少なくとも1つのレクチンを含む、肝細胞がんを検出するためのキット。
- タンパク質CSF1Rであって、WFAが認識する糖鎖変化を有することを特徴とするCSF1Rに対する抗体、及び、WFAを含む、早期に肝細胞がんの発生又は再発を予測するためのキット。
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