以下、本発明の実施形態を図面に基いて詳細に説明する。
(1)全体構成
図1は、本実施形態に係るハイブリッド車(以下単に「車両」という)1のブロック構成図である。この車両1はシリーズ式のハイブリッド車である。車両1は、エンジン10と、モータジェネレータ20と、バッテリ30と、走行用モータ40とを備えている。
モータジェネレータ20は、回転軸がエンジン10の出力軸(図2に示すエキセントリックシャフト13)に連結されている。モータジェネレータ20は、エンジン10に駆動力を付与する機能と、エンジン10で駆動されて発電を行う機能とを有する。前者の機能により、モータジェネレータ20は、例えばエンジン10を駆動して始動することができる。後者の機能により、モータジェネレータ20は、始動後のエンジン10により駆動されて、例えば走行用モータ40を駆動するための電力を生成することができる。
バッテリ30は、モータジェネレータ20によって発電された電力を蓄電する(換言すれば前記電力で充電される)。本実施形態では、前記バッテリ30は、比較的、高電圧、大容量のバッテリである。バッテリ30は、車両1の外部の電源による外部充電が可能である。
走行用モータ40は、モータジェネレータ20の発電電力及びバッテリ30の蓄電電力の少なくとも一方の電力を用いて駆動される。この走行用モータ40の駆動力が、デファレンシャル装置60を介して、駆動輪としての左右の前輪61に伝達され、車両1が走行する。走行用モータ40は、車両1の減速時は、ジェネレータとして作動する。走行用モータ40で発電された電力はバッテリ30に蓄電される。
モータジェネレータ20、バッテリ30、及び走行用モータ40の間にインバータ50が介設されている。このインバータ50を介して、モータジェネレータ20の発電電力が、バッテリ30及び走行用モータ40の少なくとも一方に供給される。また、このインバータ50を介して、バッテリ30の蓄電電力が、モータジェネレータ20及び走行用モータ40の少なくとも一方に供給される。
モータジェネレータ20は、図示しないが、回転軸と連動して回転するロータと、ロータの周囲に配置されたステータとを備えている。ロータには、磁界を発生させるためのフィールドコイルが巻装され、ステータには、磁界を発生させるための三相コイルが巻装されている。前記フィールドコイル及び三相コイルはそれぞれ個別にインバータ50に接続されている。インバータ50から三相コイルに電流が印加されると、モータジェネレータ20は、トルクを発生するモータ(電動機)として働く。一方、ロータが回転軸(ひいてはエンジン10の出力軸)によって回転されると、モータジェネレータ20は、電力を発生するジェネレータ(発電機)として働く。
モータジェネレータ20による発電時には、インバータ50からフィールドコイルに電流が印加され、それによって発生された磁界の中をロータが回転することにより、ステータの三相コイルに誘導電流が発生する。モータジェネレータ20による発電量は、フィールドコイルへの印加電流の増減によって調節される。フィールドコイルへの印加電流が高く磁束密度が高いほどモータジェネレータ20による発電量が多くなる。
エンジン10は、モータジェネレータ20による発電のために運転される。つまり、エンジン10は、モータジェネレータ20を駆動するためだけに運転される。本実施形態では、前記エンジン10は、水素タンク70に貯留されている水素を燃料(気体燃料)として使用する水素エンジンである。
図2に示すように、エンジン10は、ツインロータ式(2気筒に相当する)のロータリピストンエンジンである。2つのロータハウジング11と図示しない3つのサイドハウジングとが交互に重ね合わされてエンジン本体が構成されている。
なお、図2において、2つのロータハウジング11は展開された状態で描かれている。また、図2において、2つのロータハウジング11の中央部にそれぞれ描かれているエキセントリックシャフト13は共通する単一のものである。また、図2において、吸気通路14及び排気通路15に描かれている矢印は吸気及び排気の流れを示している。
各ロータハウジング11とその両側のサイドハウジングとでそれぞれ繭状のロータ収容室(気筒に相当する)11aが形成されている。各ロータ収容室11aに概略三角形状のロータ12が収容されている。ロータ12は、その三角形の各頂部に図示しないアペックスシールを有する。前記アペックスシールがロータハウジング11のトロコイド内周面に摺接することにより、ロータ収容室11aに3つの作動室が画成されている。
ロータ12は、前記アペックスシールがロータハウジング11のトロコイド内周面に当接した状態で、エキセントリックシャフト13の周りで自転しつつ、エキセントリックシャフト13の周りを公転する。ロータ12が1回転する間に、3つの作動室がトロコイド内周面に沿って移動し、各作動室で、吸気、圧縮、燃焼(膨張)及び排気の各行程が行われる。これにより発生する回転力がロータ12を介してエンジン10の出力軸であるエキセントリックシャフト13から取り出される。
ロータ収容室11aに吸気通路14及び排気通路15が接続されている。吸気通路14は、上流側は1つの単路であるが、下流側は2つの分岐路に分岐し、各分岐路がそれぞれ吸気行程が行われる作動室に連通するように接続されている。排気通路15は、下流側は1つの単路であるが、上流側は2つの分岐路に分岐し、各分岐路がそれぞれ排気行程が行われる作動室に連通するように接続されている。
吸気通路14の上流側の単路にスロットル弁16が配設されている。スロットル弁16は、ステッピングモータ等のスロットル弁アクチュエータ90により駆動されて、開度が調節され、吸気通路14の流通面積、すなわちエンジン10の吸入空気量を調節する。
吸気通路14の下流側の分岐路にそれぞれ予混合用インジェクタ(ポート噴射用インジェクタに相当する)17が配設されている。予混合用インジェクタ17は、水素タンク70から供給される水素を吸気通路14の下流側の分岐路(吸気ポートに相当する)に噴射するものである。この予混合用インジェクタ17により噴射された水素は空気と混合された状態(予混合状態)で、吸気行程が行われる作動室に供給される。予混合用インジェクタ17は、1つのロータハウジング11当たり1つ備えられている。
排気通路15の下流側の単路に排気ガスを浄化するための排気ガス浄化触媒80が配設されている。本実施形態では、前記排気ガス浄化触媒80は、NOx吸蔵還元触媒である。
各ロータハウジング11にそれぞれ直噴用インジェクタ(筒内噴射用インジェクタに相当する)18が配設されている。直噴用インジェクタ18は、水素タンク70から供給される水素をロータ収容室11a内(すなわち筒内)に直接噴射するものである。直噴用インジェクタ18は、1つのロータハウジング11当たり2つ備えられている。なお、各ロータハウジング11において2つの直噴用インジェクタ18はエキセントリックシャフト13の軸方向に重ねて配設されているため図2では1つしか表れていない。
各ロータハウジング11にそれぞれ2つの点火プラグ(リーディング側点火プラグ及びトレーリング側点火プラグ)19が配設されている。点火プラグ19は、予混合用インジェクタ17又は直噴用インジェクタ18により噴射された水素と空気との混合気に火花点火するものである。
予混合用インジェクタ17は、エンジン水温センサ106により検出されたエンジン冷却水の温度(エンジン水温)(エンジン10の温度に相当)が所定の閾値温度(例えば図5のステップS13,S17のTe1参照)未満であるときに用いられる。一方、直噴用インジェクタ18は、前記エンジン水温が前記閾値温度以上であるときに用いられる。
その理由は、前記エンジン水温が前記閾値温度未満であるときに直噴用インジェクタ18から水素をロータ収容室11a内に噴射すると、噴射の際の水素の断熱膨張に伴う急激な温度低下により、ロータ収容室11a内の水分(例えば水素の燃焼で生成した水分や空気中又は水素中に含まれていた水分等)が直噴用インジェクタ18の噴口に氷となって氷結し、直噴用インジェクタ18が作動不良を起こして燃料を噴射できなくなるからである。また、ロータ収容室11a内の水分がロータハウジング11のトロコイド内周面に氷となって氷結し、氷結した氷がロータ12のアペックスシールによって直噴用インジェクタ18の噴口に掻き込まれて、直噴用インジェクタ18からの燃料噴射に支障が生じるからである。
一方、前記エンジン水温が前記閾値温度以上になれば、氷結した氷が溶けるので、直噴用インジェクタ18からの燃料噴射が可能となる。また、前記エンジン水温が前記閾値温度以上であるときに直噴用インジェクタ18から水素をロータ収容室11a内に噴射しても、前記のような氷結が起きないので、直噴用インジェクタ18からの燃料噴射が許可される。直噴用インジェクタ18から水素をロータ収容室11a内に噴射することにより、空気充填量が多くなり、より大きな燃焼エネルギーないしエンジントルクを得ることができる。
そして、本実施形態では、エンジン10の始動時は、前記エンジン水温に拘りなく(換言すれば前記エンジン水温が前記閾値温度未満であっても)、直噴用インジェクタ18による燃料噴射でエンジン10を始動する。その理由は、前回のエンジン停止時は、通常は、エンジン温度が高く、ロータ収容室11a内の水分が蒸発しているので、エンジン10の始動時は、ロータ収容室11a内の水分が少なく、氷結が起き難いからである。直噴用インジェクタ18を用いることにより、空気充填量が多くなり、安定したエンジン10の始動性が確保される。
しかし、エンジン10の始動後に、燃料の燃焼が続くと、ロータ収容室11a内の水分が増え、その場合に、前記エンジン水温が前記閾値温度未満であるときは、氷結が起きる可能性がある。特に、本実施形態では、燃料が、燃焼により多量の水分を生成する水素であり、エンジン10が、燃焼行程が行われない部位に直噴用インジェクタ18が配設されているロータリエンジンであるため、エンジン10の始動後におけるロータ収容室11a内の水分が増え易く、また直噴用インジェクタ18の温度が上昇し難い。すなわち、本実施形態では、前記氷結の問題が起こり易いのである。
そこで、本実施形態では、エンジン10の始動後に、前記エンジン水温が前記閾値温度未満であるときは、直噴用インジェクタ18による燃料噴射から予混合用インジェクタ17による燃料噴射に切り替える。これについては後に詳しく述べる。
(2)制御系
図2に示すように、車両1は、コントロールユニット100を備えている。コントロールユニット100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラである。コントロールユニット100は、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROM等により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号を入出力する入出力(I/O)バスとを備えている。コントロールユニット100は、本発明のエンジン制御手段及びモータジェネレータ制御手段に相当する。
コントロールユニット100に、バッテリ電流・電圧センサ101、アクセル開度センサ102、車速センサ103、回転角センサ104、空燃比センサ105、エンジン水温センサ106、及びタンク圧力センサ107等からの検出信号が入力される。
バッテリ電流・電圧センサ101は、バッテリ30に出入りする電流及びバッテリ30の電圧を検出する。アクセル開度センサ102は、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(アクセル開度)を検出する。車速センサ103は、車両1の走行速度を検出する。回転角センサ104は、エキセントリックシャフト13に設けられ、エキセントリックシャフト13の回転角度位置を検出する。この回転角センサ104は、エンジン10の回転数を検出するエンジン回転数センサを兼ねる。空燃比センサ105は、エンジン10の排気ガスの空燃比を検出する。エンジン水温センサ106は、ロータハウジング11の内部に形成されたウォータジャケット(図示せず)に設けられ、ウォータジャケットを流れるエンジン冷却水の温度(エンジン水温)を検出する。タンク圧力センサ107は、水素タンク70内の圧力(つまり水素残量)を検出する。
コントロールユニット100は、前記検出信号に基いて、スロットル弁アクチュエータ90、予混合用インジェクタ17、直噴用インジェクタ18、及び点火プラグ19に制御信号を出力し、エンジン10を制御する(図1参照)。また、コントロールユニット100は、前記検出信号に基いて、インバータ50に制御信号を出力し、モータジェネレータ20及び走行用モータ40を制御する(図1参照)。
(3)制御動作
コントロールユニット100は、インバータ50を制御することにより、モータジェネレータ20の作動状態を、バッテリ30からの電力供給によりエンジン10を駆動する駆動状態(エンジン10に駆動力を付与する機能が発揮される状態)と、エンジン10による駆動により発電して発電電力をバッテリ30や走行用モータ40に供給する発電状態(エンジン10で駆動されて発電を行う機能が発揮される状態)とに切り替える。
具体的に、コントロールユニット100は、エンジン10の始動時は、モータジェネレータ20の作動状態を前記駆動状態としてエンジン10を始動する。コントロールユニット100は、エンジン10の始動後は、モータジェネレータ20の作動状態を前記発電状態として電力を生成する。コントロールユニット100は、図2に示すように、エンジン10が始動したか否かを判定するエンジン始動判定部100a(図2参照)を備えている。
インバータ50は、モータジェネレータ20に流れる電流(駆動電流又は発電電流)に関する情報及びモータジェネレータ20に印加される電圧に関する情報をコントロールユニット100に送信する。コントロールユニット100は、前記電流情報及び電圧情報に基いて、モータジェネレータ20の回転軸に作用するトルクを検出する(これを検出トルクという)。図3に示すように、コントロールユニット100は、モータジェネレータ20がエンジン10を駆動する側のトルク(モータジェネレータ20が駆動状態にあるときのトルク)を正(+)の値として検出し、モータジェネレータ20がエンジン10によって駆動される側のトルク(モータジェネレータ20が発電状態にあるときのトルク)を負(−)の値として検出する。
また、コントロールユニット100は、インバータ50を制御することにより、走行用モータ40を、バッテリ30の蓄電電力のみを用いて駆動する態様と、モータジェネレータ20の発電電力のみを用いて駆動する態様と、バッテリ30及びモータジェネレータ20の双方の電力を用いて駆動する態様とに切り替える。
具体的に、コントロールユニット100は、バッテリ電流・電圧センサ101により検出されたバッテリ30に出入りする電流及びバッテリ30の電圧に基いて、バッテリ30の残存容量(SOC)を検出する。コントロールユニット100は、検出したバッテリ30の残存容量と、タンク圧力センサ107により検出された水素残量とに基いて、走行用モータ40を、バッテリ30の蓄電電力のみを用いて駆動するか、又は、モータジェネレータ20の発電電力のみを用いて駆動する。
前記バッテリ30の残存容量及び前記水素残量の双方が比較的多い場合は、走行用モータ40を、バッテリ30の蓄電電力のみで駆動しても、モータジェネレータ20の発電電力のみで駆動しても、いずれでもよい。本実施形態では、この場合、車両1の乗員が走行モード選択スイッチ(図示せず)を操作することにより、いずれの態様で走行用モータ40を駆動するかが選択される。
コントロールユニット100は、アクセル開度センサ102や車速センサ103等からの検出信号に基いて、乗員の加速要求レベルを検出する。コントロールユニット100は、いずれの態様で走行用モータ40を駆動してもよい場合で、走行用モータ40が、バッテリ30の蓄電電力のみで駆動されているとき(すなわちエンジン10が停止中のとき)に、乗員の加速要求レベルが所定の閾値レベルよりも高くなったと判定したときは、走行用モータ40を、バッテリ30及びモータジェネレータ20の双方の電力で駆動する態様に切り替える。コントロールユニット100は、その後、乗員の加速要求レベルが前記閾値レベルよりも低くなったと判定したときは、走行用モータ40を、バッテリ30の蓄電電力のみで駆動する態様に戻す。
走行用モータ40を、バッテリ30の蓄電電力のみで駆動する態様から、モータジェネレータ20の発電電力のみで駆動する態様、又は、バッテリ30及びモータジェネレータ20の双方の電力で駆動する態様に切り替えるときは、モータジェネレータ20による発電を行う必要がある(すなわちエンジン10の始動要求がある)ので、コントロールユニット100は、停止中のエンジン10を始動する。逆に、走行用モータ40を、モータジェネレータ20の発電電力のみで駆動する態様、又は、バッテリ30及びモータジェネレータ20の双方の電力で駆動する態様から、バッテリ30の蓄電電力のみで駆動する態様に切り替えるときは、モータジェネレータ20による発電を行う必要がない(すなわちエンジン10の停止要求がある)ので、コントロールユニット100は、運転中のエンジン10を停止する。
コントロールユニット100は、エンジン10の停止中に、エンジン10の始動要求があったときは、モータジェネレータ20を第1所定回転数N1(図3参照)で駆動することによりエンジン10を回転させながら(クランキングしながら)、エンジン10において燃料噴射及び点火を行うことによりエンジン10を始動する。
本実施形態では、エンジン10のエキセントリックシャフト13とモータジェネレータ20の回転軸とが直結されているので、エンジン回転数とモータジェネレータ20の回転数とが同じである。そのため、前記燃料噴射及び点火が開始される前のクランキング時、エンジン10は、モータジェネレータ20で駆動され、前記第1所定回転数N1で回転する。本実施形態では、前記第1所定回転数N1は、例えば600rpm〜1000rpmに設定される。
コントロールユニット100は、エンジン10のクランキング開始から所定時間が経過するまでの間(図3の時点t1までの間)、前記燃料噴射及び点火を行わないで、エンジン10のロータ収容室11a内(すなわち筒内)を掃気する。その理由は、エンジン10の始動時は、空燃比をリッチにするので、ロータ収容室11a内に、前回のエンジン停止前に噴射した燃料が残存していると、空燃比がリッチになりすぎるからである。
前記掃気の際、コントロールユニット100は、スロットル弁16を全開にして、多量の空気をロータ収容室11a内に導入する。これにより、ロータ収容室11a内の掃気が短時間にかつ円滑に行われる。前記所定時間は、前記第1所定回転数N1でロータ収容室11a内の残存燃料の掃気をほぼ完了できるような時間(例えば数秒程度)とすればよい。
図3に示すように、前記燃料噴射及び点火が開始される前のクランキング時(前記掃気時)、コントロールユニット100が検出するモータジェネレータ20の回転軸に作用するトルク、すなわち検出トルクは、モータジェネレータ20がエンジン10を駆動する側の正(+)の値であるT1である。コントロールユニット100は、エンジン10のクランキングを行いながら、前記所定時間が経過した後(図3の時点t1の後)、所定の燃料噴射タイミングで燃料を噴射し、所定の点火タイミングで点火を行う。ここで、前記燃料噴射タイミング及び点火タイミングは、回転角センサ104により検出されたエキセントリックシャフト13の回転角度位置に基いて決定される。
図3の時点t1から燃料噴射及び点火が開始される。これにより、エンジン10は自立的に回転しようとする。そのため、エンジン10のエキセントリックシャフト13がモータジェネレータ20の回転軸を駆動しようとする。換言すれば、モータジェネレータ20がエンジン10によって駆動され始める。この結果、前記検出トルクは、燃料噴射及び点火が開始される前のクランキング時(掃気時)のトルクT1から減少する。また、エンジン回転数が第1所定回転数N1から上昇する。
前記燃料噴射及び点火が続くことにより、前記検出トルクは、モータジェネレータ20がエンジン10を駆動する側の正(+)の値から、0を超えて、モータジェネレータ20がエンジン10によって駆動される側の負(−)の値になる。つまり、モータジェネレータ20がエンジン10を駆動するトルクよりも、モータジェネレータ20がエンジン10によって駆動されるトルクのほうが大きくなる。
図3の時点t2で、前記検出トルクは、負(−)の値でかつその絶対値が所定値T2以上になる。換言すれば、モータジェネレータ20がエンジン10により駆動されるトルクが、モータジェネレータ20がエンジン10を駆動するトルクよりも、所定値T2以上大きくなる。この時点t2で、モータジェネレータ20によるエンジン10の駆動を停止しても、エンジン10が停止することなく自立的に回転を続ける可能性は高い。しかし、前記時点t2で、エンジン回転数が、クランキング時の回転数N1からまだほとんど上昇していない場合がある(図3はそのような場合を示している)。このような場合に、モータジェネレータ20によるエンジン10の駆動を停止すると、エンジン10が停止する可能性がある。
そこで、本実施形態では、エンジン始動判定部100a(図2参照)は、前記燃料噴射及び点火が開始された後において、前記検出トルクが負(−)の値でかつその絶対値が所定値T2以上となり、その後に、回転角センサ104により検出されたエンジン回転数(前述のように回転角センサ104はエンジン回転数センサを兼ねる)が第1所定回転数N1より大きい第2所定回転数N2以上となったとき(図3の時点t3)に、エンジン10が始動したと判定する。
前記第2所定回転数N2は、エンジン回転数の変動を考慮した上で前記第1所定回転数N1よりも確実に大きい回転数であり、前記第1所定回転数N1に出来る限り近い値である。本実施形態では、前記第2所定回転数N2は、例えば前記第1所定回転数N1よりも100rpm〜150rpm大きい値に設定される。
このように、本実施形態では、エンジン10が自立的回転を続ける可能性が高くなった後、さらに、エンジン回転数に基いてエンジン10が始動したか否かが判定されるので、エンジン10の始動判定が精度よく行われる。
エンジン始動判定部100aによりエンジン10が始動したと判定されたときは(図3の時点t3)、コントロールユニット100は、インバータ50を制御することにより、モータジェネレータ20の作動状態を、駆動状態から発電状態に切り替える。これにより、バッテリ30からモータジェネレータ20への電力供給が停止され(エンジン10の駆動が停止され)、モータジェネレータ20の発電電力がバッテリ30や走行用モータ40に供給される。このようにモータジェネレータ20の作動状態が発電状態に切り替えられても、エンジン10の自立的回転は続き、エンジン回転数が第2所定回転数N2より大きい第3所定回転数N3まで上昇する(図6参照)。
コントロールユニット100は、エンジン始動判定部100aによりエンジン10が始動したと判定されるまでは(図3及び図6の時点t3までは)、空燃比がリッチになるように燃料噴射を行い、エンジン10が始動したと判定された後は(図6の時点t3の後は)、空燃比がリーンになるように燃料噴射を行う。エンジン10が始動したと判定されるまで空燃比がリッチにされることにより、エンジン回転数が第2所定回転数N2より大きい回転数まで上昇し、エンジン10の始動性が向上する。そのため、エンジン回転数が第2所定回転数N2まで上昇した後に空燃比がリーンに切り替えられても、エンジン回転数は第3所定回転数N3まで良好に上昇する。
コントロールユニット100は、エンジン始動判定部100aによりエンジン10が始動したと判定された後は(図6の時点t3の後は)、エンジン10を制御して、エンジン回転数を第3所定回転数N3(図6参照)まで上昇させ、エンジン回転数が第3所定回転数まで上昇すると(図6の時点t4)、エンジン10を前記第3所定回転数N3で運転する。
前記第3所定回転数N3は、前記第2所定回転数N2よりも大きい値に設定される。前記第3所定回転数N3は、モータジェネレータ20に発電させる発電量(乗員の加速要求レベル等から設定される目標発電量)に応じて変化する。
コントロールユニット100は、エンジン水温センサ106により検出されたエンジン水温が所定の閾値温度未満のときは、前記閾値温度以上のときに比べて、モータジェネレータ20による発電量を少なくする。前記閾値温度は、エンジン水温が前記閾値温度よりも低くなるとエンジン10のエキセントリックシャフト13やモータジェネレータ20の回転軸の回転抵抗が非常に大きくなるような温度である。このように前記回転抵抗が非常に大きくなるような温度では、モータジェネレータ20による発電量を少なくすることにより、エンジン10の負荷が軽減されて、燃費やエミッションの悪化が防止される。
なお、エンジン水温が前記閾値温度よりも低いときは、前記閾値温度以上のときに比べて、空気過剰率λが小さくされるが、モータジェネレータ20による発電量を少なくすることにより、空気過剰率λはそれ程小さくされずに済む。
本実施形態では、前記閾値温度は、前述した直噴用インジェクタ18と予混合用インジェクタ17との使い分け(切り替え)を行うための前記閾値温度(例えば図5のステップS13,S17のTe1参照)と同じ値(例えば0℃付近)に設定されている。
前述したように、コントロールユニット100は、エンジン10の始動時は、エンジン始動判定部100aによりエンジン10が始動したと判定されるまでは(図3及び図6の時点t3までは)、直噴用インジェクタ18による燃料噴射を行う。一方、コントロールユニット100は、エンジン始動判定部100aによりエンジン10が始動したと判定された後は(図6の時点t3の後は)、エンジン水温センサ106により検出されたエンジン水温が前記閾値温度以上のときは、直噴用インジェクタ18による燃料噴射を継続し、前記エンジン水温が前記閾値温度未満のときは、直噴用インジェクタ18による燃料噴射から予混合用インジェクタ17による燃料噴射に切り替える。
なお、本実施形態では、コントロールユニット100は、エンジン10が始動したと判定されるまでは、1つのロータハウジング11当たり2つ備えられた直噴用インジェクタ18のうちの1つを用いて燃料噴射を行い、エンジン10が始動したと判定された後、前記エンジン水温が前記閾値温度以上のときは、1つのロータハウジング11当たり2つ備えられた直噴用インジェクタ18の2つを用いて燃料噴射を行う。ただし、エンジン10が始動したと判定されるまでの燃料噴射も、2つの直噴用インジェクタ18を用いて行ってもよい。
直噴用インジェクタ18から予混合用インジェクタ17への切り替え後、エンジン10の運転が続くと、エンジン10が暖機されて、エンジン水温が前記閾値温度以上になる。このとき、コントロールユニット100は、予混合用インジェクタ17による燃料噴射から直噴用インジェクタ18による燃料噴射に切り替える(図6の時点t5)。
ところで、水素は気体燃料であり、ガソリンや軽油のような液体燃料に比べて密度が小さいため、質量が同じでも体積が大きくなる。そのため、予混合用インジェクタ17を用いて空気と水素とを予混合すると、水素の体積分だけ空気の体積(量)が大幅に減少し、少量の空気しかロータ収容室11a内(すなわち筒内)に導入できない。つまり、空気充填量が少なくなる。これに対し、直噴用インジェクタ18を用いると、先に空気のみをロータ収容室11a内に導入し、その後、水素を高圧でロータ収容室11a内に噴射するので、多量の空気をロータ収容室11a内に導入できる。つまり、空気充填量が多くなる。
したがって、直噴用インジェクタ18による燃料噴射から予混合用インジェクタ17による燃料噴射に切り替えると、エンジントルクが低下するため、トルクショックが発生する。また、予混合用インジェクタ17による燃料噴射から直噴用インジェクタ18による燃料噴射に切り替えると、エンジントルクが増大するため、同じくトルクショックが発生する。
そこで、本実施形態では、燃料噴射を行うインジェクタの切り替えに伴うトルクショックを抑制するため、コントロールユニット100は、直噴用インジェクタ18による燃料噴射から予混合用インジェクタ17による燃料噴射への切り替え時(図6の時点t3)、その切り替えに伴うエンジン回転数の低下(空気充填量が少なくなってエンジントルクが低下するのでエンジン回転数が低下する)を抑制するようにモータジェネレータ20を制御する。つまり、エンジン10に駆動力を付与するようにモータジェネレータ20を制御する。具体的に、コントロールユニット100は、インバータ50を制御することにより、より詳しくは、インバータ50からモータジェネレータ20のステータの三相コイルに電流を印加することにより、モータジェネレータ20の作動状態を、バッテリ30からの電力供給によりエンジン10を駆動する駆動状態(エンジン10に駆動力を付与する機能が発揮される状態)とする。
また、本実施形態では、燃料噴射を行うインジェクタの切り替えに伴うトルクショックを抑制するため、コントロールユニット100は、予混合用インジェクタ17による燃料噴射から直噴用インジェクタ18による燃料噴射への切り替え時(図6の時点t5)、その切り替えに伴うエンジン回転数の上昇(空気充填量が多くなってエンジントルクが増大するのでエンジン回転数が上昇する)を抑制するようにモータジェネレータ20を制御する。つまり、エンジン10で駆動されて発電を行うようにモータジェネレータ20を制御する。具体的に、コントロールユニット100は、インバータ50を制御することにより、より詳しくは、インバータ50からモータジェネレータ20のロータのフィールドコイルに電流を印加することにより、モータジェネレータ20の作動状態を、エンジン10による駆動により発電して発電電力をバッテリ30や走行用モータ40に供給する発電状態(エンジン10で駆動されて発電を行う機能が発揮される状態)とする。より詳しくは、モータジェネレータ20が発電状態にあるときの負(−)のトルクを負(−)の側に大きくする。
さらに、前述したように、コントロールユニット100は、エンジン10が始動したと判定された後、エンジン水温が前記閾値温度以上のときは、直噴用インジェクタ18による燃料噴射を継続する。また、コントロールユニット100は、エンジン10が始動したと判定された後、エンジン水温が前記閾値温度未満のときは、燃料噴射を行うインジェクタを直噴用インジェクタ18から予混合用インジェクタ17に切り替え、その後、エンジン10が暖機されると、燃料噴射を行うインジェクタを予混合用インジェクタ17から直噴用インジェクタ18に切り替える。直噴用インジェクタ18による燃料噴射の実行時、コントロールユニット100は、負荷に応じて、燃料噴射を行う直噴用インジェクタ18の数を1から2又は2から1に変更する。具体的に、コントロールユニット100は、軽負荷時は、1つのロータハウジング11当たり2つ備えられた直噴用インジェクタ18のうちの1つを用いて燃料噴射を行い、高負荷時は、2つを用いて燃料噴射を行う。
燃料噴射を行う直噴用インジェクタ18の数を2から1に変更すると、エンジントルクが低下するため、トルクショックが発生する。また、燃料噴射を行う直噴用インジェクタ18の数を1から2に変更すると、エンジントルクが増大するため、同じくトルクショックが発生する。
そこで、本実施形態では、燃料噴射を行う直噴用インジェクタ18の数の変更に伴うトルクショックを抑制するため、コントロールユニット100は、燃料噴射を行う直噴用インジェクタ18の数の2から1への変更時、その数の変更に伴うエンジン回転数の低下(エンジントルクが低下するのでエンジン回転数が低下する)を抑制するようにモータジェネレータ20を制御する。つまり、エンジン10に駆動力を付与するようにモータジェネレータ20を制御する。具体的に、コントロールユニット100は、インバータ50を制御することにより、より詳しくは、インバータ50からモータジェネレータ20のステータの三相コイルに電流を印加することにより、モータジェネレータ20の作動状態を、バッテリ30からの電力供給によりエンジン10を駆動する駆動状態(エンジン10に駆動力を付与する機能が発揮される状態)とする。
また、本実施形態では、燃料噴射を行う直噴用インジェクタ18の数の変更に伴うトルクショックを抑制するため、コントロールユニット100は、燃料噴射を行う直噴用インジェクタ18の数の1から2への変更時、その数の変更に伴うエンジン回転数の上昇(エンジントルクが増大するのでエンジン回転数が上昇する)を抑制するようにモータジェネレータ20を制御する。つまり、エンジン10で駆動されて発電を行うようにモータジェネレータ20を制御する。具体的に、コントロールユニット100は、インバータ50を制御することにより、より詳しくは、インバータ50からモータジェネレータ20のロータのフィールドコイルに電流を印加することにより、モータジェネレータ20の作動状態を、エンジン10による駆動により発電して発電電力をバッテリ30や走行用モータ40に供給する発電状態(エンジン10で駆動されて発電を行う機能が発揮される状態)とする。
次に、前記コントロールユニット100によるエンジン10の始動に関する処理動作を、図4及び図5に示すフローチャートに基いて説明する。この処理動作は、エンジン10の停止中に、エンジン10の始動要求があったとき(換言すればモータジェネレータ20による発電要求があったとき)にスタートする。
すなわち、コントロールユニット100は、ステップS1で、モータジェネレータ20を駆動することによってエンジン10を第1所定回転数N1で回転させる(クランキングする)。コントロールユニット100は、このクランキングの開始からの時間をタイマーで計測する。コントロールユニット100は、このクランキング時に、燃料噴射及び点火を行わないで、スロットル弁16を全開にした状態で、エンジン10のロータ収容室11a内(筒内)に残存する燃料を掃気する。コントロールユニット100は、この掃気を所定時間(例えば数秒程度)行う。
次いで、コントロールユニット100は、ステップS2で、エンジン10の前記クランキングを継続しながら、燃料噴射及び点火を開始する。このように燃料噴射及び点火を行いながらするクランキングを着火クランキングという。この着火クランキング時の燃料噴射は、直噴用インジェクタ18を用いて行われる。このエンジン始動時の燃料噴射量は、空燃比がリッチになる量に設定される。
次いで、コントロールユニット100(より詳しくはエンジン始動判定部100a)は、ステップS3で、前記検出トルクが負(−)の値でかつその絶対値が所定値T2以上になったか否かを判定する(図4のステップS3では検出トルクが負の値であるという要件は省略している)。コントロールユニット100は、このステップS3での判定がNOのときは、ステップS4に進み、YESのときは、ステップS9に進む。
コントロールユニット100は、ステップS4で、前記クランキング開始からのタイマーによる計測時間が、予め設定された基準時間ta(例えば10秒〜10数秒)よりも大きいか否かを判定する。コントロールユニット100は、このステップS4での判定がNOのときは、ステップS2に戻り、YESのときは、ステップS5に進む。
コントロールユニット100は、ステップS5で、エンジン10の出力トルクが上昇せずにエンジン10が停止したと判定し、ステップS6で、エンジン10が停止したとの判定を2回以上行ったか否かを判定する。
コントロールユニット100は、前記ステップS6での判定がNOのときは、ステップS7で、前記タイマーをリセットした後、ステップS1に戻る。一方、コントロールユニット100は、前記ステップS6での判定がYESのときは、ステップS8で、例えば車両1のインストルメントパネルに乗員(特に運転者)が視認可能に設けられた表示パネル等(図示せず)に、エンジン10が故障している旨の警報を表示した後、この処理動作を終了する。
コントロールユニット100は、ステップS9で、前記着火クランキングを継続する。コントロールユニット100(より詳しくはエンジン始動判定部100a)は、ステップS10で、回転角センサ104により検出されたエンジン回転数(図4のステップS10では検出回転数と記している)が第2所定回転数N2以上となったか否かを判定する。
コントロールユニット100は、前記ステップS10での判定がNOのときは、ステップS11で、前記クランキング開始からのタイマーによる計測時間が、予め設定された基準時間ta(例えば10秒〜10数秒)よりも大きいか否かを判定する。コントロールユニット100は、このステップS11での判定がNOのときは、ステップS9に戻り、YESのときは、ステップS5に進む。すなわち、コントロールユニット100は、前記検出トルクが負(−)の値でかつその絶対値が所定値T2以上になっていても、前記基準時間ta内にエンジン回転数(検出回転数)が第2所定回転数N2以上にならないときは、ステップS5で、エンジン回転数が低下してエンジン10が停止したと判定する。
これに対し、コントロールユニット100(より詳しくはエンジン始動判定部100a)は、前記ステップS10の判定がYESのときは、ステップS12で、エンジン10が始動したと判定する。
次いで、コントロールユニット100は、ステップS13で、エンジン水温センサ106により検出されたエンジン水温が、所定の閾値温度Te1(例えば0℃付近)未満か否かを判定する。コントロールユニット100は、このステップS13での判定がNOのとき、つまりエンジン10が暖機されているときは、インジェクタの切り替えを行う必要がないので、ステップS20に進み、YESのとき、つまりエンジン10が暖機されていないときは、インジェクタの切り替えを行う必要があるので、ステップS14に進む。
コントロールユニット100は、ステップS14で、燃料噴射を行うインジェクタを切り替える。具体的に、コントロールユニット100は、直噴用インジェクタ(図5のステップS14では直噴用INJと記している)18による燃料噴射から予混合用インジェクタ(図5のステップS14では予混用INJと記している)17による燃料噴射に切り替える。このエンジン始動後の燃料噴射量は、空燃比がリーンになる量に設定される。
次いで、コントロールユニット100は、ステップS15で、直噴用インジェクタ18から予混合用インジェクタ17への切り替えに伴うエンジン回転数の低下を抑制するようにモータジェネレータ20を制御する。つまり、図5のステップS15に記されるように、エンジン回転数が目標エンジン回転数となるようにモータジェネレータ(MG)20をフィードバック(F/B)制御し、エンジン10に駆動力を付与する。
具体的に、コントロールユニット100は、エンジン10の実回転数(回転角センサ104により検出されたエンジン回転数)と、エンジン10の目標回転数(図6の時点t3から時点t4の間に実線で示すエンジン回転数)との差が、予め設定された許容回転数差以内に収束するように、モータジェネレータ20をPI制御(比例フィードバック係数と積分フィードバック係数とを用いるフィードバック制御)により回転フィードバック制御する。これにより、インバータ50からモータジェネレータ20のステータの三相コイルに印加する電流が制御され、前記エンジン10の実回転数と目標回転数との差が収束するような正(+)の値のトルクがモータジェネレータ20からエンジン10に付与される。
次いで、コントロールユニット100は、ステップS16で、走行用モータ40を駆動する電力を確保するために、モータジェネレータ20を発電状態とする(インバータ50からモータジェネレータ20のロータのフィールドコイルに電流を印加する)。このステップS16での発電量は、後述するステップS20での発電量よりも少ない量に設定される。その理由は、前述したように、エンジン10の暖機前(次のステップS17でNOと判定される前)は、エンジン10のエキセントリックシャフト13やモータジェネレータ20の回転軸の回転抵抗が大きくなって、エンジン10の負荷が増大し、燃費やエミッションが低下するからである。
次いで、コントロールユニット100は、ステップS17で、エンジン水温センサ106により検出されたエンジン水温が、所定の閾値温度Te1(例えば0℃付近)未満か否かを判定する。コントロールユニット100は、このステップS17での判定がNOのとき、つまりエンジン10が暖機されたときは、ステップS18に進み、YESのとき、つまりエンジン10がまだ暖機されていないときは、ステップS16に戻る。
コントロールユニット100は、ステップS18で、燃料噴射を行うインジェクタを切り替える。具体的に、コントロールユニット100は、予混合用インジェクタ(図5のステップS18では予混用INJと記している)17による燃料噴射から直噴用インジェクタ(図5のステップS18では直噴用INJと記している)18による燃料噴射に切り替える。
次いで、コントロールユニット100は、ステップS19で、予混合用インジェクタ17から直噴用インジェクタ18への切り替えに伴うエンジン回転数の上昇を抑制するようにモータジェネレータ20を制御する。つまり、図5のステップS19に記されるように、エンジン回転数が目標エンジン回転数となるようにモータジェネレータ(MG)20をフィードバック(F/B)制御し、モータジェネレータ20による発電を行う(換言すればエンジン10に制動力を付与する)。
具体的に、コントロールユニット100は、エンジン10の実回転数(回転角センサ104により検出されたエンジン回転数)と、エンジン10の目標回転数(図6の時点t5から時点t6の間に実線で示すエンジン回転数)との差が、予め設定された許容回転数差以内に収束するように、モータジェネレータ20をPI制御(比例フィードバック係数と積分フィードバック係数とを用いるフィードバック制御)により回転フィードバック制御する。これにより、インバータ50からモータジェネレータ20のロータのフィールドコイルに印加する電流が制御され、前記エンジン10の実回転数と目標回転数との差が収束するような負(−)の値のトルクがモータジェネレータ20からエンジン10に付与される。
次いで、コントロールユニット100は、ステップS20で、走行用モータ40を駆動する電力を確保するために、モータジェネレータ20を発電状態とする(インバータ50からモータジェネレータ20のロータのフィールドコイルに電流を印加する)。このステップS20での発電量は、前述したステップS16での発電量よりも多い量に設定される。その理由は、前述したように、エンジン10の暖機後(ステップS17でNOと判定された後)は、エンジン10のエキセントリックシャフト13やモータジェネレータ20の回転軸の回転抵抗が小さくなって、エンジン10の負荷が減少し、燃費やエミッションが改善するからである。
次いで、コントロールユニット100は、ステップS21で、エンジン停止条件が成立したか否かを判定する。つまり、図5のステップS21に記されるように、モータジェネレータ20による発電により、バッテリ電流・電圧センサ101により検出されたバッテリ30に出入りする電流及びバッテリ30の電圧に基いて検出されたバッテリ30の残存容量(SOC)が所定の閾値容量(図例は40%)より大きくなったか否かを判定する。コントロールユニット100は、このステップS21での判定がNOのときは、ステップS20に戻り、YESのときは、ステップS22に進む。
コントロールユニット100は、ステップS22で、エンジン10のロータ収容室11a内(筒内)に残存する燃料を掃気した後、エンジン10を停止する。具体的に、コントロールユニット100は、直噴用インジェクタ18による燃料噴射及び点火プラグ19による点火を終了し、この状態で、スロットル弁16を全開にし、所定時間(例えば数秒程度)、モータジェネレータ20を駆動状態として、エンジン10の回転を継続した後、モータジェネレータ20によるエンジン10の回転を停止する。その後、この処理動作を終了する。
(4)作用等
以上のように、本実施形態では、吸気通路14の下流側の分岐路に気体燃料である水素を噴射する予混合用インジェクタ17及びロータ収容室11a内に気体燃料である水素を直接噴射する直噴用インジェクタ18を備えたエンジン10と、エンジン10に駆動力を付与する機能及びエンジン10で駆動されて発電を行う機能を有するモータジェネレータ20とを含むハイブリッド車1において、次のような特徴的構成を採用した。
すなわち、コントロールユニット100は、エンジン10の始動時(図6の時点t1から時点t3の間)、直噴用インジェクタ18による燃料噴射でエンジン10を始動し、エンジン10の始動後(図6の時点t3の後)、エンジン水温が所定の閾値温度Te1未満のときは(ステップS13でYESのときは)、直噴用インジェクタ18による燃料噴射から予混合用インジェクタ17による燃料噴射に切り替え(ステップS14)、エンジン10が暖機した後(図6の時点t5の後)(ステップS17でNOのとき)、予混合用インジェクタ17による燃料噴射から直噴用インジェクタ18による燃料噴射に切り替える(ステップS18)。
その場合に、コントロールユニット100は、直噴用インジェクタ18による燃料噴射から予混合用インジェクタ17による燃料噴射への切り替え時(図6の時点t3から時点t4の間)、その切り替えに伴うエンジン回転数の低下(図6の鎖線(iii)参照)を抑制するようにモータジェネレータ20を制御する(ステップS15)(図6の実線(v)参照)。
この構成によれば、エンジン10とモータジェネレータ20とを含むハイブリッド車1において、エンジン10の始動時は、直噴用インジェクタ18による燃料噴射でエンジン10を始動するので、空気充填量が多くなり、安定したエンジン10の始動性が確保される。そして、エンジン10の始動後においてエンジン水温が所定の閾値温度Te1未満のときは、直噴用インジェクタ18による燃料噴射から予混合用インジェクタ17による燃料噴射に切り替える(すなわち第1の切り替えを行う)ので、たとえ直噴用インジェクタ18が氷結により作動不良を起こしても、予混合用インジェクタ17から安定して燃料が供給される。そして、エンジン10の暖機後は、再び予混合用インジェクタ17による燃料噴射から直噴用インジェクタ18による燃料噴射に切り替える(すなわち第2の切り替えを行う)ので、温度上昇により氷結の問題が解消した直噴用インジェクタ18を用いて安定した燃料供給が行われる。
その上で、第1の切り替え時、その切り替えに伴うエンジン10の回転低下(空気充填量が少なくなるのでエンジン10の回転が低下する)を抑制するようにモータジェネレータ20を制御するので、つまり、エンジン10に駆動力を付与するようにモータジェネレータ20を制御するので、直噴用インジェクタ18から予混合用インジェクタ17への切り替えに伴うエンジン10の回転低下が抑制されて、トルクショックが抑制される。
例えば、図6に鎖線(i)で示すように、エンジン10の始動後、すぐにステップS16の発電を行うように、モータジェネレータ20を発電状態とすると、直噴用インジェクタ18による燃料噴射から予混合用インジェクタ17による燃料噴射への切り替えに伴って、エンジン10のトルクが低下し、その結果、図6に鎖線(iii)で示すように、エンジン10の回転数が低下して、トルクショックが発生する。
これに対処するため、コントロールユニット100は、第1の切り替え時、その切り替えに伴うエンジン回転数の低下(鎖線(iii))を抑制するように、インバータ50からモータジェネレータ20のステータの三相コイルに電流を印加して、モータジェネレータ20の作動状態を、バッテリ30からの電力供給によりエンジン10を駆動する駆動状態(エンジン10に駆動力を付与する機能が発揮される状態)とするのである(図6の実線(v))。
以上により、本実施形態によれば、エンジン10の始動後に、エンジン10を停止することなく、インジェクタの切り替えに伴うトルクショックを抑制することができるハイブリッド車1の制御装置が提供される。
また、コントロールユニット100は、予混合用インジェクタ17による燃料噴射から直噴用インジェクタ18による燃料噴射への切り替え時(図6の時点t5から時点t6の間)、その切り替えに伴うエンジン回転数の上昇(図6の鎖線(iv)参照)を抑制するようにモータジェネレータ20を制御する(ステップS19)(図6の実線(vi)参照)。
この構成によれば、第2の切り替え時、その切り替えに伴うエンジン10の回転上昇(空気充填量が多くなるのでエンジン10の回転が上昇する)を抑制するようにモータジェネレータ20を制御するので、つまり、エンジン10で駆動されて発電を行うようにモータジェネレータ20を制御するので、予混合用インジェクタ17から直噴用インジェクタ18への切り替えに伴うエンジン10の回転上昇が抑制されて、トルクショックが抑制される。
例えば、図6に鎖線(ii)で示すように、エンジン10の暖機後(ステップS17でNO)、すぐにステップS20の発電を行うように、モータジェネレータ20を発電状態とすると、予混合用インジェクタ17による燃料噴射から直噴用インジェクタ18による燃料噴射への切り替えに伴って、エンジン10のトルクが増大し、その結果、図6に鎖線(iv)で示すように、エンジン10の回転数が上昇して、トルクショックが発生する。
これに対処するため、コントロールユニット100は、第2の切り替え時、その切り替えに伴うエンジン回転数の上昇(鎖線(iv))を抑制するように、インバータ50からモータジェネレータ20のロータのフィールドコイルに電流を印加して、モータジェネレータ20の作動状態を、エンジン10による駆動により発電して発電電力をバッテリ30や走行用モータ40に供給する発電状態(エンジン10で駆動されて発電を行う機能が発揮される状態)とするのである(図6の実線(vi))。より詳しくは、モータジェネレータ20が発電状態にあるときの負(−)のトルクを負(−)の側に大きくするのである。
また、コントロールユニット100は、直噴用インジェクタ18による燃料噴射の実行時、負荷に応じて、燃料噴射を行う直噴用インジェクタ18の数を1から2又は2から1に変更し、その直噴用インジェクタ18の数の変更時、その数の変更に伴うエンジン10の回転変動(すなわち回転低下や回転上昇)を抑制するようにモータジェネレータ20を制御する。
この構成によれば、直噴用インジェクタ18による燃料噴射の実行時に、負荷に応じて、燃料噴射を行う直噴用インジェクタ18の数を変更するとき、その数の変更に伴うエンジン10の回転変動を抑制するようにモータジェネレータ20を制御するので、つまり、エンジン10に駆動力を付与するように又はエンジン10で駆動されて発電を行うようにモータジェネレータ20を制御するので、直噴用インジェクタ18による燃料噴射の実行時における直噴用インジェクタ18の数の変更に伴うエンジン10の回転変動が抑制されて、トルクショックが抑制される。
また、コントロールユニット100は、いずれの場合においても、エンジン10の回転低下や回転上昇を抑制するときは、エンジン10の実回転数(回転角センサ104により検出されたエンジン回転数)とエンジン10の目標回転数(例えば図6の時点t3から時点t4の間に実線で示すエンジン回転数又は時点t5から時点t6の間に実線で示すエンジン回転数)との差が予め設定された許容回転数差以内に収束するようにモータジェネレータ20をフィードバック制御する(例えばステップS15,S19参照)。
この構成によれば、外乱に影響されることなく、エンジン10の実回転数が予め設定された許容回転数差以内で目標回転数に収束するので、乗員が違和感や不快感を覚えない許容可能な範囲にトルクショックが確実に抑制される。
また、コントロールユニット100は、エンジン10の停止時、エンジン10のロータ収容室11a内を掃気した後、エンジン10を停止する(ステップS22)。
この構成によれば、エンジン10の停止時にロータ収容室11a内(筒内)の水分が除去されるので、次回のエンジン10の始動時における氷結の問題が低減される。そのため、次回のエンジン10の始動時に、直噴用インジェクタ18による燃料噴射でエンジン10を安定して始動することが確実に行える。
なお、バッテリ30の温度が所定の閾値温度よりも低いときは、コントロールユニット100は、エンジン10の回転上昇を抑制するモータジェネレータ20の制御、つまり、例えば第2の切り替え時のように、モータジェネレータ20の作動状態を発電状態とする制御を行わないことが好ましい。バッテリ30の温度が所定の閾値温度よりも低いときは、バッテリ30の容量が低下するので、そのような低温時は、モータジェネレータ20による発電を抑制して、バッテリ30の無理な充電を回避し、バッテリ30の劣化を抑制することが望ましいからである。
また、前記実施形態では、エンジン10は、ロータリピストンエンジンであったが、レシプロエンジンであってもよい。また、水素以外の気体燃料(例えば天然ガスやプロパンガス等)を用いるエンジンであってもよい。
また、コントロールユニット100は、直噴用インジェクタ18による燃料噴射から予混合用インジェクタ17による燃料噴射に切り替える際(ステップS14)、両インジェクタ17,18から燃料を噴射するオーバーラップ期間を経て切り替えてもよい。例えば、時点t3(図6参照)で、エンジン10が始動したと判定されると、コントロールユニット100は、図7に示すように、第1気筒(2つのロータハウジング11のうちの一方)及び第2気筒(同じく他方)において、所定サイクル分(図7の例ではロータ12の3回転分)のオーバーラップ期間OLを経て直噴用インジェクタ18による燃料噴射から予混合用インジェクタ17による燃料噴射に切り替えてもよい。
図7では、直噴用インジェクタ18及び予混合用インジェクタ17に印加されるパルスが示されている。このパルス幅が大きいほど燃料噴射量が多くなる。オーバーラップ期間OL中の直噴用インジェクタ18からの燃料噴射量と予混合用インジェクタ17からの燃料噴射量との合計が、エンジン10が始動したと判定された後の目標燃料噴射量となるように、前記目標燃料噴射量が直噴用インジェクタ18と予混合用インジェクタ17とに振り分けられる。この振り分けの割合は、図7の例ではオーバーラップ期間OL中一定とされている。ただし、オーバーラップ期間OLが進むに伴い、直噴用インジェクタ18からの燃料噴射量が少なくなり、予混合用インジェクタ17からの燃料噴射量が多くなるようにしてもよい。
コントロールユニット100は、予混合用インジェクタ17による燃料噴射から直噴用インジェクタ18による燃料噴射に切り替える際(ステップS18)も、同様に、両インジェクタ17,18から燃料を噴射するオーバーラップ期間を経て切り替えることができる。