以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。
〈実施形態1〉
図1は、本発明に係る気体圧縮機の一実施形態であるベーンロータリ型の気体圧縮機(以下、「コンプレッサ」という)を示す縦断面図、図2は、図1におけるA−A線に沿った横断面を示す図である。なお、本実施形態のコンプレッサは、電動モータを内蔵している電動式である。
図示のコンプレッサ100は、例えば、冷却媒体の気化熱を利用して冷却を行なう空気調和システム(以下、「空調システム」という)の一部として構成され、この空調システムの他の構成要素である凝縮器、膨張弁、蒸発器等(いずれも図示を省略する)とともに冷却媒体の循環経路上に設けられている。なお、このような空調システムとしては、例えば、車両(自動車など)の車室内の温度調整を行うための空調装置が挙げられる。
コンプレッサ100は、空調システムの蒸発器から取り入れた気体状の冷却媒体としての冷媒ガスを圧縮し、この圧縮された冷媒ガスを空調システムの凝縮器に供給する。凝縮器は圧縮された冷媒ガスを液化させ、高圧で液状の冷媒として膨張弁に送出する。そして、高圧で液状の冷媒は、膨張弁で低圧化され、蒸発器に送出される。低圧の液状冷媒は、蒸発器において周囲の空気から吸熱して気化し、この気化熱との熱交換により蒸発器周囲の空気を冷却する。
図1に示すように、このコンプレッサ100は、本体ケース11とフロントカバー12とから主に構成されているハウジング10の内部に、モータ90と圧縮機本体60と油分離器70が収容された構成である。
本体ケース11は、略円筒形状であり、その円筒形状の一方の端部が塞がれたように形成され、他方の端部は開口して形成されている。
フロントカバー12は、この本体ケース11の開口側の端部に接した状態でこの開口を塞ぐように蓋状に形成されていて、この状態で締結部材により本体ケース11に締結されて本体ケース11と一体化され、内部に空間を有するハウジング10を形成する。
フロントカバー12には、ハウジング10の内部と外部とを通じさせて、空気調和システムの蒸発器から低圧の冷媒ガスG1をハウジング10の内部に導入する吸入ポート12aが形成されている。
一方、本体ケース11には、ハウジング10の内部と外部とを通じさせて、高圧の冷媒ガスG2をハウジング10の内部から空気調和システムの凝縮器に吐出する吐出ポート11aが形成されている。
本体ケース11の内部に設けられたモータ90は、永久磁石のロータ90aと電磁石のステータ90bとを備えた多相ブラシレス直流モータを構成している。
ステータ90bは本体ケース11の内周面に嵌め合わされて固定され、回転するロータ90aには回転軸51が固定されている。
そして、モータ90は、フロントカバー12に取付けられた電源コネクタ90cを介して供給された電力によってステータ90bの電磁石を励磁することにより、ロータ90aをその軸心回りに回転駆動させ、これにより、回転軸51を軸心回りに回転駆動させる。
なお、電源コネクタ90cとステータ90bとの間に、インバータ回路90dなどを備えた構成を採用することもできる。
本実施形態のコンプレッサ100は上述したとおり、モータ90を使った電動式のものであるが、本発明に係る気体圧縮機は電動式のものに限定されるものではなく、機械式のものであってもよい。
例えば、仮に本実施形態のコンプレッサ100を機械式のものとした場合は、モータ90を備える代わりに、回転軸51をフロントカバー12から外部へ突出するまで延長して、そのフロントカバー12から突出した回転軸51の先端部に、車両のエンジン等から動力の伝達を受けるプーリーや歯車等を備えた構成とすればよい。
モータ90とともにハウジング10の内部に収容された圧縮機本体60は、回転軸51の延びた方向に沿ってモータ90と並んで配置されており、ボルト等の複数の締結部材15により、本体ケース11に固定されている。
ハウジング10の内部に収容された圧縮機本体60は、軸心回りに回転自在の回転軸51と、回転軸51と一体的に回転する略円柱状のロータ50と、図2に示すように、このロータ50を、その外周面の外方から取り囲む輪郭形状の内周面を有するシリンダ40と、ロータ50に形成されたベーン溝59にそれぞれ挿入され、所定の油路からベーン溝59の底部(背圧室)59aに供給された冷凍機油Rによる背圧(ベーン背圧)を受けてロータ50の外周面からシリンダ40の内周面に向けて突出自在に設けられた5枚の板状のベーン58と、ロータ50およびシリンダ40の各両端面に接してこれら各両端面を覆う2つのサイドブロック(フロントサイドブロック20、リヤサイドブロック30)とを備えている。
ここで、回転軸51は、フロントカバー12に形成された軸受12b、圧縮機本体60の各サイドブロック20,30にそれぞれ形成された軸受27,37により、回転自在に支持されている。
また、圧縮機本体60は、ハウジング10の内部の空間を、圧縮機本体60を挟んだ左側の空間と右側の空間とに仕切っている。
これらハウジング10の内部に仕切られた2つの空間のうち圧縮機本体60に対して左側の空間は、吸入ポート12aを通じて蒸発器(不図示)から低圧の冷媒ガスG1が導入され、この低圧の冷媒ガスG1が圧縮機本体60の内部に吸入される前に通過する低圧雰囲気の吸入室13であり、モータ90は吸入室13に配置されている。
一方、圧縮機本体60に対して右側の空間は、圧縮機本体60から油分離器70を介して吐出された高圧の冷媒ガスG2が、吐出ポート11aから凝縮器(不図示)に吐出される前に通過する高圧雰囲気の吐出室14である。
圧縮機本体60の内部には、図2に示すように、シリンダ40の内周面とロータ50の外周面と両サイドブロック20,30とに囲まれた略三日月形状の単一のシリンダ室42が形成されている。
具体的には、シリンダ40の内周面とロータ50の外周面とが、回転軸51の軸心回りの1周(角度360[度])の範囲で1箇所だけ近接するように、シリンダ40の内周面の輪郭形状が設定されていて、これにより、シリンダ室42は単一の空間を形成している。
なお、シリンダ40の内周面の輪郭形状のうち、シリンダ40の内周面とロータ50の外周面とが最も近接した部分として形成された近接部48は、シリンダ40の内周面とロータ50の外周面とが最も離れた部分として形成された遠隔部49から、ロータ50の回転方向W(図2において時計回り方向)に沿って下流側に角度270[度]以上(360[度]未満)離れた位置に形成されている。
シリンダ40の内周面の輪郭形状は、回転軸51およびロータ50の回転方向Wに沿って遠隔部49から近接部48に至るまで、ロータ50の外周面とシリンダ40の内周面との間の距離が徐々に減少するような形状に設定されている。
ベーン58は、ロータ50に形成されたベーン溝59に摺動可能に収容されていて、後述する油路からベーン溝59の底部(背圧室)59aに供給される冷凍機油による背圧(ベーン背圧)により、ロータ50の外周面から外方に突出する。
また、ベーン58は単一のシリンダ室42を複数の圧縮室43に仕切るものであり、回転軸51(ロータ50)の回転方向Wに沿って相前後する2枚のベーン58によって1つの圧縮室43が形成される。
したがって、5枚のベーン58が回転軸51回りに角度72[度]の等角度間隔で設置された本実施形態においては、5つの圧縮室43が形成される。
なお、隣接する2枚のベーン58の間に近接部48が存在する圧縮室43については、近接部48と1枚のベーン58とによって1つの閉じた微小空間を構成するため、隣接する2枚のベーン58の間に近接部48が存在する圧縮室43は、近接部48によって2つの圧縮室43に分割されることになる。よって、全体として5つの圧縮室43と微小な1つの圧縮室が形成される。
ベーン58によりシリンダ室42を仕切って得られた圧縮室43の内部の容積は、回転方向Wに沿って圧縮室43が遠隔部49から近接部48に至るまで徐々に小さくなる。
このシリンダ室42の、回転方向Wの最上流側の部分(回転方向Wに沿って、近接部48に対する下流側の直近部分)には、フロントサイドブロック20に形成された、吸入室13に通じる吸入孔23(図2において、フロントサイドブロック20はこの断面位置よりも手前側に位置するため、このフロントサイドブロック20に形成された吸入孔23は二点鎖線(想像線)で記載している)が臨んでいる。
一方、シリンダ室42の、ロータ50の回転方向Wの最下流側の部分(回転方向Wに沿って、近接部48に対する上流側の直近部分)には、シリンダ40に形成された吐出部45の吐出孔45bが臨み、その上流側には、シリンダ40に形成された2つ目の吐出部46の吐出孔46bが臨んでいる。
シリンダ40の内周面の輪郭形状は、吸入室13からフロントサイドブロック20に形成された吸入孔23を通じた冷媒ガスの圧縮室43への吸入、圧縮室43内での冷媒ガスの圧縮および圧縮室43から吐出孔45bを通じた吐出部45への冷媒ガスの吐出を、ロータ50の1回転の期間に1サイクルだけ行うように設定されている。
すなわち、シリンダ40の内周面の断面輪郭形状は、ロータ50の外周面に略接する近接部48から、ロータ50の回転方向Wに沿った角度90[度]以内に設定された遠隔部49までの範囲で、シリンダ40の内周面とロータ50の外周面との間の距離が急激に大きくなるように形成されている。更に、回転方向Wに沿って遠隔部49から近接部48までの、角度270[度]以上の広い範囲で、シリンダ40の内周面とロータ50の外周面との間の距離が徐々に小さくなるように形成されている。
そして、圧縮室43の、回転方向Wの下流側に位置しているベーン58が、近接部48近くの吸入孔23を通過し始めてから、回転方向Wの上流側に位置しているベーン58が、吸入孔23を通過し終わるまでの範囲では、回転方向Wへの回転に伴って圧縮室43の容積が大きくなることによる負圧により、吸入孔23を通じて圧縮室43内に冷媒ガスが吸入される行程(吸入行程)となる。
そして、ロータ50の回転が進み、圧縮室43の上流側のベーン58が回転方向Wの下流に向かって、吸入孔23を通過し終わると、圧縮室43は閉じた空間となるとともに、遠隔部49から近接部48に向かう回転方向Wへの回転により、圧縮室43の容積が減少し、圧縮室43内に閉じこめられた冷媒ガスが圧縮される行程(圧縮行程)となる。
圧縮行程の終盤では、圧縮室43の内部の圧力が所定の吐出圧力に達し、そのとき圧縮室43が近接部48の手前に形成された吐出部45,46に到達しているときは、圧縮室43の内部の冷媒ガスが後述する吐出孔45b,46bを通じて吐出部45,46に吐出される行程(吐出行程)となる。
そして、ロータ50の1回転の間に、各圧縮室43が吸入行程、圧縮行程、吐出行程をこの順序で繰り返すことにより、吸入室13から吸入された低圧の冷媒ガスは高圧になり、吐出部45,46から油分離器70を介して吐出室14に吐出させる。
油分離器70は、冷凍機油が混ざった冷媒ガスから冷凍機油を分離するものである。
つまり、コンプレッサ100の内部には、ベーン58の背圧を供給するために冷凍機油が封入されているが、この冷凍機油は、ベーン58とベーン溝59との間の隙間や、ロータ50とサイドブロック20,30との間の隙間等から滲みだして、ロータ50と両サイドブロック20,30との間の接触部分や、ベーン58とシリンダ40や両サイドブロック20,30との間の接触部分などにおける潤滑や冷却等の機能も発揮し、その冷凍機油の一部が、圧縮室43内の冷媒ガスと混ざる。
大量の冷凍機油が混ざったままの冷媒ガスが凝縮器に吐出されると、空気調和システムの効率が低下する。このため、冷媒ガスから冷凍機油を分離する必要があり、油分離器70によって冷媒ガスに混じっている冷凍機油の分離が行われる。
各吐出部45,46は、シリンダ40の外周面、本体ケース11の内周面およびリヤサイドブロック30とによって囲まれた空間(以下、「吐出チャンバ45a,46a」という)と、吐出チャンバ45a,46aと圧縮室43とを通じさせる吐出孔45b,46bと、圧縮室43内の冷媒ガスの圧力が吐出チャンバ45a,46a内の圧力(以下、この圧力を「吐出圧力Pd」という)以上のとき、差圧により吐出チャンバ45a,46aの側に反るように弾性変形して吐出孔45b,46bを開き、冷媒ガスGの圧力が吐出チャンバ45a,46a内の吐出圧力Pd未満のとき弾性力により吐出孔45b,46bを閉じる吐出弁45c,46cと、吐出弁45c,46cが吐出チャンバ45a,46aの側に過度に反るのを防止する弁サポート45d,46dとを備えている。
なお、2つの吐出部45,46のうち、回転方向Wの下流側に設けられている吐出部、すなわち近接部48に近い側の吐出部45は、主たる吐出部である(以下、この吐出部45を「主吐出部45」という)。
この主吐出部45は、圧縮室43が臨んでいる期間中に、その圧縮室43内の圧力は必ず吐出圧力Pdに達して、圧縮室43内で圧縮された冷媒ガスGを必ず吐出する部分である。
一方、2つの吐出部45,46のうち、回転方向Wの上流側に設けられている吐出部、すなわち近接部48から遠い側の吐出部46は、副次的な吐出部である(以下、この吐出部46を「副吐出部46」という)。
この副吐出部46は、圧縮室43が主吐出部45に臨む以前の段階で吐出圧力Pdに達したときに、圧縮室43内の過圧縮(吐出圧力Pdを超える圧力に圧縮されること)を防止するために設けられたものであり、圧縮室43が副吐出部46に臨んでいる期間中に圧縮室43内の圧力が吐出圧力Pdに達した場合に限って、圧縮室43の内部の冷媒ガスGを副吐出部46から吐出させるものであり、圧縮室43内の圧力が吐出圧力Pdに達しない場合は、圧縮室43の内部の冷媒ガスGは副吐出部46から吐出されず、主吐出部45に臨んでいる期間中に主吐出部45から吐出される。
主吐出部45の吐出チャンバ45aは、リヤサイドブロック30の外面(吐出室14に向いた面)まで貫通して形成された吐出路38を介して、リヤサイドブロック30の外面に取り付けられた油分離器70に通じている。
主吐出部45の吐出チャンバ45aと副吐出部46の吐出チャンバ46aとの間には、両吐出チャンバ45a,46aを通じさせる連通路39がシリンダ40の外周部に形成されていて、副吐出部46の吐出チャンバ46aは、この連通路39、吐出チャンバ45aおよび吐出路38を介して、リヤサイドブロック30の外面に取り付けられた油分離器70に通じている。
油分離器70は、前述したように、冷媒ガスに混ざった冷凍機油を冷媒ガスから分離するものであるが、本実施形態におけるものは、各吐出チャンバ45a,46aに吐出されて、吐出路38を通って導入された高温、高圧の冷媒ガスを、吐出室14に吐出する前に、油分離器70内の内周面に斜め下側に向けて噴出させて螺旋状に旋回させることで生じる遠心力により、冷媒ガス中から冷凍機油を遠心分離する構造となっている。
そして、図2に示すように、冷媒ガスから分離された冷凍機油Rは吐出室14の底部に溜まり、冷凍機油Rが分離された後の高圧の冷媒ガスG2は吐出室14に吐出された後、吐出ポート11aを通って凝縮器(不図示)に吐出される。
吐出室14の底部に溜められた冷凍機油Rは、吐出室14に吐出された高圧(略吐出圧力Pdに相当)の冷媒ガスG1による高圧雰囲気により、リヤサイドブロック30に形成された油路34aを通じて、図3に示すように、リヤサイドブロック30の、ロータ50の端面55bに対向する内面35に形成された背圧供給用の凹部であるサライ溝31に供給される。
なお、図3は、リヤサイドブロック30を示しているが、フロントサイドブロック20は、リヤサイドブロック30に対して略線対称に表すことができる。
更に、吐出室14の底部に溜められ冷凍機油Rは、リヤサイドブロック30に形成された油路34a,34b、シリンダ40に形成された油路44およびフロントサイドブロック20に形成された油路24を通じて、フロントサイドブロック20の、ロータ50の端面55aに対向する内面35に形成された背圧供給用の凹部であるサライ溝21にも供給される。
ここで、各サライ溝21,31はともに、ロータ50の軸心回りの所定の回転角度の範囲αに対応して形成されていて(図3参照)、各油路34a,34b,44,24の内面25,35における出口を、広い回転角度の範囲αに拡げるための開口ということができる。
サライ溝21,31が形成された回転角度の範囲αは、図2,3に示したように、圧縮室43が吸入行程にあるときから、圧縮行程の終盤に近づく(圧縮室43が副吐出部46に臨み始める)角度位置までの範囲に対応している。
この回転角度の範囲αは、圧縮室43の回転方向Wの上流側(後ろ側)のベーン58の、突出側の先端がシリンダ40の近接部48に接する位置を基準位置(回転角度0[度])としたときの、軸心回りの回転方向Wへの回転角度を表すものであり、回転角度の範囲αとしては、例えば、0〜220[度]に設定されている。
ただし、この回転角度の範囲αの具体的な範囲は、例示の範囲に限定されるものではなく、シリンダ40の内周面41の断面輪郭形状やベーン58の枚数、設定された吐出圧力Pdの値等によって適宜設定される。
本実施形態のコンプレッサ100においては、各油路34a,34b,44,24とサライ溝21,31とを含めて、ベーン溝59の底部59aに冷凍機油を供給する油路ということができる。
各ベーン溝59は、ロータ50の両端面55a,55bまで貫通して形成されており、これら両端面55a,55bにおいて開口している。
そして、ロータ50の端面55aに開口したベーン溝59が、サライ溝21,31が形成された回転角度の範囲αに位置している期間中は、サライ溝21とベーン溝59の底部59aとが通じて、サライ溝21からベーン溝59の底部59aに冷凍機油が供給される。
一方、ベーン溝59が、サライ溝21,31が形成された回転角度の範囲αを除いた回転角度の範囲βにあるときは、サライ溝21,31とベーン溝59の底部59aとが通じていないため、サライ溝21,31からベーン溝59の底部59aへの冷凍機油の供給は遮断されるとともに、ベーン溝59内は閉じた空間となる。
サライ溝21,31からベーン溝59の底部59aに供給された冷凍機油は、ベーン58をシリンダ40の内周面41に向けて突出させる背圧(ベーン背圧)となる。
ここで、リヤサイドブロック30のサライ溝31に供給される冷凍機油は、油路34aから、リヤサイドブロック30の軸受37とこの軸受37に支持された回転軸51の外周面との間の非常に狭い隙間を通過したものである。
なお、リヤサイドブロック30のサライ溝31に供給される冷凍機油は、油路34aにおいては吐出室14の高圧雰囲気に応じた吐出圧力Pdであったが、この狭い隙間を通過する間の圧力損失により、サライ溝31に到達したときは、吐出室14の内部の吐出圧力Pdよりも低い圧力である中圧Pmになっている。
ここで、中圧Pmとは、吸入室13における冷媒ガスの圧力である低圧Psよりも高く、吐出室14内における冷媒ガスの圧力である吐出圧Pdよりも低い圧力である。
同様に、フロントサイドブロック20の油路24とサライ溝21との間で冷凍機油Rが通過する通路は、フロントサイドブロック20の軸受27とこの軸受27に支持された回転軸51の外周面との間の非常に狭い隙間である。
なお、フロントサイドブロック20のサライ溝21に供給される冷凍機油Rは、油路24においては吐出室14の高圧雰囲気に応じた吐出圧力Pdであるが、この狭い隙間を通過する間の圧力損失により、サライ溝21に到達したときは、吐出室14の内部の吐出圧力Pdよりも低い圧力である中圧Pmになっている。
したがって、サライ溝21,31からベーン溝59に供給されてベーン58をシリンダ40の内周面に向けて突出させる背圧(ベーン背圧)は中圧Pmである。
サライ溝21,31は、前述したように、圧縮室43が吸入行程にあるときから圧縮行程の終盤に近づくまでの範囲(回転角度の範囲α)に対応して形成されているが、この範囲においては、圧縮室43内の圧力は最大でも中圧Pmであるため、サライ溝21,31からベーン溝59の底部59aに供給される中圧Pmの冷凍機油によって、ベーン58の背圧が不足することはない。
一方、ベーン溝59が、サライ溝21,31が形成された回転角度の範囲αを超えて回転角度の範囲βに移行すると、ベーン溝59の底部59aはサライ溝21,31に連通せずに、冷凍機油の供給が遮断され、供給された冷凍機油で満たされた(完全に冷凍機油のみで満たされた状態だけでなく、冷媒ガスが僅かに混入している状態も含む)閉じた空間となり、圧縮が進むにしたがってベーン58がベーン溝59内の底部59a側へ押し込まれてくると、この閉じた空間では略液圧縮状態となる。
液圧縮状態では、吐出室14内の吐出圧力Pdを超える高い圧力Phが得られるため、ベーン58に作用させる背圧(ベーン背圧)として、この高い圧力Phを供給することができる。
ところで、本実施形態のコンプレッサ100のように、ロータ50の1回転の間に冷媒ガスの吸入行程、圧縮行程、吐出行程を1サイクルしか行わない、いわゆる1ステージ方式のコンプレッサでは、ロータ50の1回転当たり、吸入行程、圧縮行程、吐出行程を2サイクル行うものよりも、圧縮行程の長さが長い。このため、先行する圧縮室43A(図2参照)が圧縮行程の終盤にあるとき、その圧縮室43Aに後続する圧縮室43B(図2参照)内も比較的高い圧力になる。
しかも、回転方向Wに沿った遠隔部49から近接部48までの角度が270[度]以上と広く設定されている本実施形態のコンプレッサ100では、圧縮行程の長さが一層長いため、圧縮行程の中盤から終盤付近では相前後する2つの圧縮室43A,43B(図2参照)内の圧力は、ともに略吐出圧力Pd程度の高圧となる。
この結果、両圧縮室43A,43Bを仕切っているベーン58(先行する圧縮室43Aの上流側のベーン58A(図2参照))の先端側(シリンダ40の内周面41と当接する側)には、ベーン背圧と反対向き(ベーン58をベーン溝59内に押下げる方向)の高い圧力が作用し易い。このため、このベーン58Aがチャタリングを起こして、圧縮効率が低下したり、異音などの問題を生じるおそれがある。
しかしながら、本実施形態のコンプレッサ100は、前述したように、回転角度の範囲βではベーン溝59が中圧Pmの冷凍機油で略満たされた閉じた空間となり、圧縮が進むにしたがってベーン溝59内へのベーン58の引っ込み量が増大し、ベーン58の引っ込み量が増大するにしたがって、略液圧縮状態のベーン溝59内の圧力は上昇する。
よって、両圧縮室43A,43B内の圧力がともに略吐出圧力Pd程度となる程度まで圧縮が進むと、ベーン58に作用する背圧(ベーン背圧)が昇圧されていき、圧縮行程の最後付近(吐出行程の直前から直後付近)では、両圧縮室43A,43B内の圧力(略吐出圧力Pd程度)を大幅に超える圧力Phまで昇圧される。
このように、本実施形態に係るコンプレッサ100によれば、圧縮行程の最後付近(吐出行程の直前から直後付近)において、両圧縮室43A,43B内の圧力がともに略吐出圧力Pdとなる程度まで圧縮が進むと、略液圧縮状態のベーン溝59内の圧力が上昇して、ベーン58に作用する背圧(ベーン背圧)を大幅に昇圧させることができる。よって、圧縮行程の終盤から吐出行程の直前においても、ベーン58の先端がシリンダ40の内周面に良好に摺動した状態に保持されるので、ベーン58のチャタリングを確実に防止することができる。
図4(a)は、上記したコンプレッサ100の吸入行程、圧縮行程、吐出行程におけるベーン58に作用するベーン背圧(図のa)の変化と、圧縮室43内の圧力(図のb)の変化を示した図である。なお、図4(a)において、Pdは前記吐出圧力(高圧)値であり、Psは圧縮室43内に吸入される冷媒ガスの圧力(低圧)値である。
また、図4(a)において、ロータ50の回転角度が0度(360度)付近は、ベーン58が圧縮室43の回転方向Wに沿って近接部48付近に位置しているときであり(吐出行程と吸入行程の間)、ロータ50が1回転(回転角度が0〜360度)することで、上記した1サイクルの吸入行程、圧縮行程、吐出行程が行われる。
図4(a)に示すように、圧縮行程の終盤付近(ロータ50の回転角度が270度付近)からベーン58に作用する背圧(ベーン背圧)が上昇し、吐出行程の直前付近(ロータ50の回転角度が350度付近)で圧力Phに達する。
ところで、上記したようベーン背圧を昇圧させることで、ベーン58の先端をシリンダ40の内周面に良好に当接させることができるが、圧縮行程の最後付近(吐出行程の直前から直後付近)では、圧縮室43内の圧力(略吐出圧力Pd程度)よりも大幅に高い圧力Phがベーン背圧として作用するので、ベーン58の先端がシリンダ40の内周面に必要以上に強く当接することがある。
特に、吐出行程の直前から直後の間では、圧縮室43内の高圧の冷媒ガスの一部が吐出孔45bから吐出されるために圧縮室43内の圧力が急激に低下して、ベーン58の先端がシリンダ40の内周面により強く当接することとなる。
このように、吐出行程の直前から直後でベーン58の先端がシリンダ40の内周面に必要以上に強く当接した状況では、ベーン58の先端とシリンダ40の内周面との間での接触抵抗が必要以上に大きくなるため、ロータ50の回転駆動時に無駄な動力が必要となり、運転効率が低下する。
そこで、本実施形態では、図2に示したように、各ベーン58の一方側の面(ロータ50の回転方向側の面)の略中央部から上部付近の間にベーン側スリット溝80を形成し、更に、ロータ50の各ベーン58が入っているベーン溝59の、前記ベーン側スリット溝80側の底部59aから中央部付近の間にベーン溝側スリット溝81を形成している。
図5に示すように、矩形状のベーン側スリット溝80は、例えばベーン58の幅方向に沿って所定間隔で3箇所形成されており、各ベーン側スリット溝80の位置に対応してベーン溝59の内壁面にベーン溝側スリット溝81が形成されている。
図2、図6(a)に示すように、ベーン側スリット溝80とベーン溝側スリット溝81は、吸入行程、圧縮行程の最後付近(主吐出部45での吐出行程の直前付近)までは、ベーン58がベーン溝59内で出し入れされても、両者が連通しないような位置関係にある。この状態では、ベーン溝59内の底部59aに供給されている冷凍機油Rはベーン側スリット溝80側に漏れることはない。
そして、図2、図6(b)に示すように、ベーン側スリット溝80とベーン溝側スリット溝81は、主吐出部45での吐出行程の直前から直後付近で、ベーン58がベーン溝59内に所定量だけ入り込むことによって、両者の溝が連通するような位置関係にある。図6(b)に示すように、主吐出部45での吐出行程の直前から直後付近で、ベーン側スリット溝80とベーン溝側スリット溝81が連通すると、ベーン溝59内の底部59aに供給されて液圧縮状態にある冷凍機油R(冷媒ガスが混入されている場合も含む)の一部がこの連通した通路を通して主吐出部45の吐出孔45bから排出される。
なお、吐出孔45bから排出されたこの冷凍機油は、吐出路38、油分離器70を通して吐出室14内の底部に戻される。
このように、液圧縮状態にある冷凍機油Rの一部がこの連通した通路を通して吐出孔45b側に排出されると、図4(b)に示すように、吐出行程の直前から直後付近で昇圧されているベーン背圧が減圧される。よって、吐出行程の直前から直後付近でベーン58の先端がシリンダ40の内周面に必要以上に強く当接することを抑制できるので、ロータ50の回転駆動時に無駄な動力ロスを低減することができる。
〈実施形態2〉
前記した実施形態1のコンプレッサ100は、所定の回転角度の範囲αを除いた他の回転角度の範囲βでは、ベーン溝59が閉じた空間とされているものであり、所定の回転角度の範囲αでは、中圧Pmの冷凍機油Rが供給されているため、ベーン溝59が閉じた空間とされた時点でのベーン溝の59の内部の圧力は中圧Pmである。したがって、冷凍機油の液圧縮による背圧の上昇の始点は中圧Pmとなる。
これに対して、本実施形態では、図7に示すように、リヤサイドブロック30(及びフロントサイドブロック20)において、ロータ50の回転方向Wに沿った、中圧Pmの冷凍機油が供給されるサライ溝21,31の回転角度の範囲αを超えた位置に、サライ溝21,31とは別の、圧縮室43から吐出された冷媒ガスGの吐出圧力Pdに対応した冷凍機油を供給する高圧油路22,32が追加して形成されている。
なお、フロントサイドブロック20は、リヤサイドブロック30に対して略線対称に表すことができる。他の構成は、図1、2に示した実施形態1のコンプレッサ100と同様である。
この高圧油路22,32が形成されている位置は、サライ溝21,31の下流側端縁から、ベーン溝59の幅分もしくはこの幅分よりわずかに大きい長さだけ離れた位置である。なお、高圧油路22,32を、サライ溝21,31の下流側端縁からベーン溝59の幅分もしくはこの幅分よりわずかに大きい長さだけ離れた位置に形成しているのは、ベーン溝59を介して、中圧Pmの冷凍機油が供給されるサライ溝21,31と、吐出圧力Pdの冷凍機油が供給される高圧油路22,32とが連通するのを防止するためである。
そして、回転方向Wに沿って回転するロータ50のベーン溝59が、回転角度の範囲αに位置しているとき(圧縮室43が吸入行程にあるときから、圧縮行程の終盤に近づく(圧縮室43が副吐出部46に臨み始める)角度位置までの範囲)は、上述した実施形態1と同様に、ベーン溝59に中圧Pmの冷凍機油が供給され、ベーン溝59が回転角度の範囲αを通り過ぎた時点で、ベーン溝59は瞬間的に閉じた空間とされるが、その直後、ベーン溝59は高圧油路22,32に通じるため、ベーン溝59と高圧油路22,32とが通じている回転角度の範囲γにおいては、ベーン溝59に吐出圧力(高圧)Pdの冷凍機油が供給される。
この高圧油路22,32は、例えば、油路24,34aから分岐して、サライ溝21,31に通じる油路(軸受け27,37と回転軸51の外周面との間の隙間)とは別の経路で、サイドブロック20,30の内面25,35に開口している。
したがって、高圧油路22,32は、軸受け27,37と回転軸51の外周面との間の隙間での圧力損失がないため、吐出室14の雰囲気圧力である吐出圧力Pdの冷凍機油をベーン溝59に供給することができる。
そして、ベーン溝59に吐出圧力Pdの冷凍機油が供給され、ベーン溝59が回転角度の範囲γを通り過ぎた時点から、次にベーン溝59がサライ溝21,31に通じるまでの回転角度の範囲βにあるときは、ベーン溝59は閉じた空間となる。
この結果、ベーン溝59が回転角度の範囲βにあるときは、ベーン溝59が液圧縮状態となり、図3に示したサイドブロック20,30を有する実施形態1のコンプレッサ100と同様に、昇圧された高い圧力Ph′(前記した実施形態1の圧力Phよりも少し高い)を背圧(ベーン背圧)としてベーン58に作用させることができるが、本実施形態では、ベーン溝59が閉じた空間とされた時点でのベーン溝の59の内部の圧力を、中圧Pmよりも高い吐出圧力Pdとすることができる。
したがって、ベーン58の背圧として供給される非常に高い圧力Ph′を、実施形態1でのベーン58の背圧として供給される高い圧力Phよりもさらに高い圧力とすることができる。
よって、実施形態1と同様に、圧縮行程の終盤から吐出行程の直前においても、ベーン58の先端がシリンダ40の内周面に良好に摺動した状態に保持されるので、ベーン58のチャタリングを確実に防止することができる。
そして、本実施形態においても実施形態1の図2のように、各ベーン58の一方側の面(ロータ50の回転方向側の面)の略中央部から上部付近の間にベーン側スリット溝80を形成し、更に、ロータ50の各ベーン58が入っているベーン溝59の、前記ベーン側スリット溝80側の底部59aから中央部付近の間にベーン溝側スリット溝81を形成している。よって、主吐出部45での吐出行程の直前から直後付近で、ベーン側スリット溝80とベーン溝側スリット溝81が連通すると、ベーン溝59内の底部59aに供給されて液圧縮状態にある冷凍機油Rの一部がこの連通した通路を通して主吐出部45の吐出孔45bから排出される(図6(b)参照)。
これにより、吐出行程の直前から直後付近で昇圧されているベーン背圧が減圧されるので、吐出行程の直前から直後付近でベーン58の先端がシリンダ40の内周面に必要以上に強く当接することが抑制され、ロータ50の回転駆動時に無駄な動力ロスを低減することができる。
10 ハウジング
13 吸入室
14 吐出室
20 フロントサイドブロック
21,31 サライ溝
30 リヤサイドブロック
40 シリンダ
42 シリンダ室
43,43A,43B 圧縮室
50 ロータ
58,58A ベーン
59 ベーン溝
70 油分離器
80 ベーン側スリット溝
81 ベーン溝側スリット溝
70 油分離器
90 モータ
100 ベーンロータリコンプレッサ(気体圧縮機)