図1は、本発明の一実施形態に係る操舵装置10を備えた車両の概略構成を示す。図1は、四輪の車両のうち前輪部分の模式図である。転舵輪である右前輪FRおよび左前輪FLを操舵することによって車両の進行方向が変更される。
操舵装置10は電動パワーステアリング装置(以下「EPS」と呼ぶ)を備える。EPSは、ドライバーにより操舵されるステアリングホイール12と、ステアリングホイールに連結されたステアリングシャフト14と、ステアリングシャフトの下端に設けられた減速機構44と、出力軸が減速機構44に接続された操舵アシスト用モータ24とを備える。操舵アシスト用モータ24は、ステアリングシャフト14を回転駆動することで、ステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する。
ステアリングシャフト14には、図示しないトーションバーと、トーションバーに生じるトルクを検出する操舵トルクセンサ16と、ステアリングホイール12の操舵角を検出する操舵角センサ18とが設置される。これらセンサの出力は、ステアリング電子制御ユニット(ECU)70およびブレーキECU100に送信される。
ステアリングシャフト14は、自在継手30、32を介して、インターミディエイトシャフト17、ピニオンシャフト19に連結される。ピニオンシャフト19は、車両の左右方向(車幅方向)に延設され軸長方向に摺動するラックバー22を含むステアリングギアボックス20と連結されている。インターミディエイトシャフト17は、ゴムカップリングをその一部として含む。
ステアリングギアボックス20は、ピニオンシャフト19の一端に形成されたピニオン歯とラック軸とを噛合させることにより構成される。また、ステアリングギアボックス20は、ゴムグロメット23を介して車両のボデーに支持される。
ドライバーがステアリングホイール12を操作すると、ステアリングシャフト14の回転がシャフト17、19を通してステアリングギアボックス20に伝達され、ステアリングギアボックス20によってラックバー22の左右方向への直線運動に変換される。ラックバー22の両端には、それぞれタイロッド(図示せず)の一端が接続される。タイロッドの他端は、右前輪FR、左前輪FLを支持するナックルアーム(図示せず)に連結されている。ラックバー22が直線運動をすると、右前輪FRおよび左前輪FLが転舵される。
車輪の近傍には、車輪の回転数を検出して車速を出力する車速センサ36が取り付けられる。車速センサ36の代わりに、図示しないGPS(Global Positioning System)のデータから車速を求めるようにしてもよい。車体の左右方向の加速度を検出する横加速度センサ42も車体に設けられる。これらのセンサによる検出値はブレーキECU100に送信される。
ステアリングECU70は、各センサから受け取った検出値に基づき操舵トルクのアシスト値を算出し、これに応じた制御信号を操舵アシスト用モータ24に出力する。なお、上記のようなEPSを含む操舵機構自体は周知であるため、本明細書ではこれ以上の詳細な説明を省略する。
ステアリングホイールから車輪に至る操舵伝達系の様々な部品は、ステアリングの振動低減、操舵フィーリングの調整、コンプライアンスステアの確保などの目的のため、部品と車体との間がゴムグロメット、ゴムカップリング、ゴムブシュなどの弾性部材を介して支持されているものが多い。これらの弾性部材の経年劣化により操舵伝達系にガタが生じるなどの伝達特性が変化すると、操舵角とタイヤ角との間の線形性が維持されなくなり、操舵フィーリングが変化したり、操舵角情報に基づく車両状態量の推定精度が低下したりするという問題がある。
そのため、詳細は後述するが、本実施形態では、車両の走行中の操舵角ゼロ点の検出に基づき、操舵伝達系の弾性部材の特性変化が生じていると判定された場合には、車両のドライバーにその事実を報知したり、または操舵角を利用した各種車両制御の実行の停止を指示したりするように構成されている。
上述のように、ステアリングギアボックスとボデーとの間がゴムグロメットで支持されている車両の場合、車両停止中に大きく操舵(いわゆる据え切り)をすると、ゴムグロメットが変形してステアリングギアボックスが中心位置から変位し、その後車両が直進走行を開始してもしばらくの間中心位置に戻らないという現象が生じる。この期間中に操舵角ゼロ点の検出に基づく操舵伝達系の特性変化が判定されると、実際には弾性部材の劣化による特性変化が発生していないにも関わらず、誤って特性変化ありと判定されてしまうおそれがある。
そこで、本実施形態では、車両停止中に大きな操舵が行われた場合には、操舵伝達系の特性変化判定を禁止する禁止手段を設けるようにした。
図2は、ステアリングECU70のうち、本実施形態に係る操舵伝達系の特性変化判定に関与する部分の構成を示す機能ブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や電気回路で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組み合わせによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
操舵角ゼロ点検出部102は、任意の既知の方法により操舵角センサ18のゼロ点(中立点)を検出する。検出したゼロ点に基づきステアリングホイール絶対操舵角が演算され、種々の車両制御に使用される。
ゼロ点履歴保持部104は、操舵角ゼロ点検出部102によって検出されたゼロ点の、前回更新時からの最大値および最小値を記録する。ゼロ点履歴保持部104の動作については、図5〜7のフローチャートを参照して詳述する。
ゼロ点履歴保持部104には、最大値保持タイマ106と最小値保持タイマ108が接続される。これらのタイマは、ゼロ点履歴保持部104にゼロ点最大値、ゼロ点最小値がそれぞれ記憶されてからの時間をカウントするためのカウントダウンタイマである。最大値保持タイマ106または最小値保持タイマ108におけるカウント値が所定値に達すると、ゼロ点履歴保持部104は、その時点で記憶しているゼロ点最大値またはゼロ点最小値を破棄する。この動作については、図3を参照して詳述する。
測定値保持部110は、車速センサ36、ヨーレートセンサ40および横加速度センサ42からそれぞれの検出値を受け取り、ゼロ点履歴保持部104におけるゼロ点最大値またはゼロ点最小値が更新されたときの車速、ヨーレートおよび横加速度を記録する。
判定しきい値設定部112は、測定値保持部110に記録された車速、ヨーレートおよび横加速度を使用して、操舵伝達系における特性変化、具体的にはゴムブシュなどの弾性部材の劣化によるガタの発生の有無を判定するための判定しきい値を演算する。
この判定しきい値は、車速センサ、ヨーレートセンサ、横加速度センサおよび操舵角センサそれぞれの誤差、部品の加工ばらつき、車両の組み付けばらつきを考慮して設定されるが、詳細は図5を参照して後述する。代替的に、正常車両におけるゼロ点検出の履歴を取得し、この結果を大きく上回る値(例えば二倍など)を判定しきい値として選択するようにしてもよい。
差分計算部114は、ゼロ点履歴保持部104に記録されているゼロ点最大値とゼロ点最小値の差分Dを計算する。
特性変化判定部116は、差分計算部114によって計算された差分Dが所定の判定しきい値Tを上回るか否かを判定する。差分Dが判定しきい値Tを上回る場合、操舵伝達系における特性変化が生じていると判定する。
通知部118は、特性変化判定部116によって特性変化が生じていると判定された場合、車両のドライバーにその事実を報知したり、または操舵角を利用した各種車両制御の実行の停止を図示しない車両制御ECUに指示したりする。
検出/更新禁止部120は、車両の停止中に操舵角センサ18で検出される操舵角の最大値と最小値の差分の絶対値(以下、「据え切り操舵量」とも呼ぶ)に基づいて、据え切りが行われたか否かを判定する。据え切りが行われた場合、ゼロ点履歴保持部104によるゼロ点最大値またはゼロ点最小値の更新を所定期間禁止する。検出/更新禁止部120の動作は図4を参照してさらに説明する。
続いて、図3を使用して、ステアリングECU70による操舵伝達系の特性変化判定方法を説明する。図3は、ゼロ点最大値およびゼロ点最小値の履歴の一例を示すグラフである。
図3の横軸は経過時間を、縦軸は検出された操舵角ゼロ点θを表す。時間0においてゼロ点最大値およびゼロ点最小値がリセットされているものとして説明する。
図中に示す期間aでは、操舵角ゼロ点検出値がゼロ点最小値を下回るため、ゼロ点履歴保持部204はゼロ点最小値を更新する。また、期間bでは、操舵角ゼロ点検出値がゼロ点最大値を上回るため、ゼロ点履歴保持部204はゼロ点最大値を更新する。以降、操舵角ゼロ点検出値が保持されているゼロ点最大値を上回るかゼロ点最小値を下回ると、それぞれの値が更新されていく。
差分計算部114は、ゼロ点最大値とゼロ点最小値との差分Dを計算する。特性変化判定部116は、判定しきい値設定部112で設定されるしきい値Tと差分Dとを比較し、差分Dがしきい値Tを上回ると、操舵伝達系の特性が変化(すなわち弾性部材の劣化)が発生したと判定する。これは、操舵伝達系の弾性部材の劣化によりガタが発生した場合に、ステアリングホイールの操作時に操舵角ゼロ点検出値が大きく変動すると考えられることを利用したものである。
最大値保持タイマ106および最小値保持タイマ108は、ゼロ点最大値およびゼロ点最小値がそれぞれ最後に更新されてからの経過時間をカウントする。所定の時間が経過すると、ゼロ点履歴保持部104は、ゼロ点最大値またはゼロ点最小値をその時点での操舵角ゼロ点検出値でリセットする。図3では、c点におけるゼロ点最大値の変化がこの処理に対応する。
図4は、検出/更新禁止部120の動作を説明する図である。図4(a)は、車速センサ36で検出される車速の時間変化を示す。図4(b)は、操舵角センサ18で検出される最大値と最小値の差分の絶対値(据え切り操舵量)を示す。図4(c)中の細実線は、操舵角ゼロ点検出部102で検出される操舵角ゼロ点の値の時間変化を表し、太実線Hは、ゼロ点履歴保持部204に記録されるゼロ点最大値を表し、太点線Lは、ゼロ点履歴保持部204に記録されるゼロ点最小値を表す。また、図4(d)は、検出/更新禁止部120が設定するタイマの値を示す。
検出/更新禁止部120は、据え切り操舵量が所定のしきい値Kを上回る(図中の時刻t2)と、更新禁止タイマに初期値Fを設定する。しきい値Kは、据え切りによりステアリングギアボックスの中心位置が大きく移動して伝達特性変化の判定に影響を及ぼしうるような角度であり、予め設定されている(例えば360°)。
更新禁止タイマの値がゼロになるまでの所定期間Eの間(図中の時刻t2〜t5)、検出/更新禁止部120は、ゼロ点履歴保持部204におけるゼロ点最大値およびゼロ点最小値の更新を禁止する。この結果、図4(c)に示す操舵角ゼロ点検出値の変化に関わらず、期間Eの間はゼロ点最大値Hとゼロ点最小値Lが一定値となる。したがって、例えば時刻t4において、ゼロ点最大値の更新を続けていると仮定した場合の差分D(図3参照)がしきい値Tを上回っても、特性変化判定部116によって操舵伝達系の特性変化が生じていると判定されることはない。言い換えると、所定期間Eの間は、操舵角ゼロ点検出値がどのように変化しようと、ゼロ点最大値Hとゼロ点最小値Lが一定なので、特性変化が生じていると判定されることはない。
なお、所定期間Eは、据え切り操舵量がしきい値Kを超えた後で車両が直進走行を開始したときに、ステアリングギアボックスの中心位置が元の位置に戻るまでに要する時間(通常は30秒前後)以上である必要がある。この条件を満たすように、更新禁止タイマの初期値Fが選択される。車両停止中の据え切り量が大きいほど、ステアリングギアボックスが中心位置に戻るまでに要する時間は長くなるので、検出/更新禁止部120は、据え切り操舵量が大きいほど更新禁止タイマの初期値を大きな値に設定してもよい。図4(d)にF2で示すように、更新禁止タイマの初期値を大きく設定することで、所定期間Eが時間t6まで延び、ステアリングボックスが中心位置に戻るまでの時間を確保することができる。更新禁止タイマの適切な初期値は、実験またはシミュレーションによって定めることができる。
図5ないし7は、本実施形態に係る操舵伝達系の特性変化検出を説明するフローチャートである。このフローは、車両の走行中に所定の間隔(例えば1秒)で繰り返し実行される。
まず図5を参照して、操舵角ゼロ点検出部102は、操舵角センサ18の検出値に基づきステアリングホイールの操舵角ゼロ点θを検出する(S10)。判定しきい値設定部112は、車両の始動直後であるか否かを判定する(S12)。車両の始動直後の場合(S12のY)、ヨーレートセンサ40の温度が安定していないと考えられるので、温度安定前のヨーレートゼロ点誤差を選択する(S14)。始動直後ではない場合(S12のN)、ヨーレートセンサ40の温度が安定していると考えられるので、温度安定後のヨーレートゼロ点誤差を選択する(S16)。
続いて、検出/更新禁止部120は、車速センサ36の検出値に基づき車両が停止中か否かを判定する(S17)。車両停止中の場合(S17のY)、操舵角最大値の前回値と操舵角センサ18の現在舵角のうち大きい方を、操舵角最大値として設定するとともに、操舵角最小値の前回値と操舵角センサ18の現在舵角のうち小さい方を、操舵角最小値として設定する(S18)。車両が停止していない場合(S17のN)、操舵角最大値および操舵角最小値をクリアする(S19)。
検出/更新禁止部120は、操舵角ゼロ点の収束が完了しているか否か、かつ操舵角最大値と操舵角最小値の差分の絶対値(据え切り操舵量)が所定のしきい値Kを上回っているか否かを判定する(S20)。操舵角ゼロ点の収束が完了し、据え切り操舵量がしきい値Kを上回る場合(S20のY)、ステアリングギアボックスが中心位置からずれていると考えられるため、検出/更新禁止部120は、更新禁止タイマに初期値Fをセットする(S21)。いずれかの条件が満たされない場合(S20のN)、検出/更新禁止部120は、操舵角センサ18の検出値に基づき車両が直進走行中であるか否かを判定する(S22)。直進走行中でない場合(S22のN)、据え切りした方向と車両の現在の旋回方向とが一致しているとステアリングギアボックスが中心位置に復帰しないため、S24をスキップする。直進走行中である場合(S22のY)、ステアリングギアボックスが中心位置に戻っている途中であると考えられ、検出/更新禁止部120は更新禁止タイマを1だけデクリメントする(S24)。
検出/更新禁止部120は、更新禁止タイマの値がゼロであるか否かを判定する(S26)。更新禁止タイマがゼロでない場合(S26のN)、ゼロ点履歴保持部104によるゼロ点最大値およびゼロ点最小値の更新を禁止する(S30)。S24の処理を繰り返して更新禁止タイマがゼロになると(S26のY)、ゼロ点履歴保持部104によるゼロ点最大値およびゼロ点最小値の更新を許可する(S28)。
続いて図6を参照し、ゼロ点履歴保持部104は、最大値保持タイマ106および最小値保持タイマ108をデクリメントする(S32、S34)。なお、これらのタイマは、後述するステップS44、S52にて初期値がセットされるが、動作直後では初期値がセットされていないため、下限ガード値をゼロに設定しておく。
判定しきい値設定部112は、操舵角ゼロ点の収束が完了し、車速が所定値以上であり、かつゼロ点最大値およびゼロ点最小値の更新が許可されているか否かを判定する(S36)。なお、車両が低速である場合は、高速である場合よりも部品のばらつきやセンサ公差などに起因する誤差が拡大する傾向にあるため、特性変化と誤判定される可能性が高い。そのため、低速時(例えば30km/h未満)には、操舵伝達系の特性変化を実行しない。
車速が所定値未満の場合(S36のN)、操舵角ゼロ点の収束が未完了であるか否かを判定する(S54)。初回の判定では操舵角ゼロ点の収束が完了していないので(S54のY)、S56に進み、ゼロ点履歴保持部104は、記憶しているゼロ点最大値とゼロ点最小値を、現時点の操舵角ゼロ点検出値でリセットする(S56)。これに応じて、測定値保持部110は、リセット時の車速、ヨーレートおよび横加速度を初期値として記憶する(S58)。ゼロ点履歴保持部104は、ゼロ点最大値保持タイマ106と最小値保持タイマ108とをリセットする(S60)。S54において、操舵角ゼロ点の収束が完了している場合(S54のN)、S56〜S60はスキップする。
S36において、操舵角ゼロ点の収束が完了し、車速が所定値以上であり、かつゼロ点最大値およびゼロ点最小値の更新が許可されている場合(S36のY)、ゼロ点履歴保持部104は、今回の操舵角ゼロ点検出値が、記憶されているゼロ点最大値よりも大きいか否か、すなわちゼロ点最大値を更新する必要があるか否かを判定する(S38)。操舵角ゼロ点検出値がゼロ点最大値以下の場合(S38のN)、S40〜S44をスキップする。操舵角ゼロ点検出値がゼロ点最大値より大きい場合(S38のY)、ゼロ点履歴保持部104はその値を新たなゼロ点最大値として記憶し(S40)、測定値保持部110は最大値更新時の車速、ヨーレートおよび横加速度を記憶する(S42)。最大値保持タイマ106には所定の初期値(例えば180秒)がセットされる(S44)。
続いて、ゼロ点履歴保持部104は、今回の操舵角ゼロ点検出値が、記憶されているゼロ点最小値よりも小さいか否か、すなわちゼロ点最小値を更新する必要があるか否かを判定する(S46)。操舵角ゼロ点検出値がゼロ点最小値以上の場合(S46のN)、S48〜S52をスキップする。操舵角ゼロ点検出値がゼロ点最小値より小さい場合(S46のY)、ゼロ点履歴保持部104はその値を新たなゼロ点最小値として記憶し(S48)、測定値保持部110は最小値更新時の車速、ヨーレートおよび横加速度を記憶する(S50)。最小値保持タイマ108には所定の初期値がセットされる(S52)。
続いて図7を参照して、ゼロ点最大値およびゼロ点最小値の更新が許可されているか否かを判定する(S54)。更新が禁止されている場合(S54のN)、S68に進む。更新が許可されている場合(S54のY)、ゼロ点履歴保持部104は、最大値保持タイマのカウントがゼロであるか否かを判定する(S56)。カウントがゼロの場合(S56のY)、ゼロ点履歴保持部104は、保持しているゼロ点最大値を、現時点の操舵角ゼロ点検出値でリセットし(S58)、測定値保持部110も保持している最大値更新時の車速、ヨーレートおよび横加速度を初期値でリセットする(S60)。
また、ゼロ点履歴保持部104は、最小値保持タイマのカウントがゼロであるか否かを判定する(S62)。カウントがゼロの場合(S62のY)、ゼロ点履歴保持部104は、保持しているゼロ点最小値を、現時点の操舵角ゼロ点検出値でリセットし(S64)、測定値保持部110も保持している最小値更新時の車速、ヨーレートおよび横加速度を初期値でリセットする(S66)。
S56〜S66の処理は、温度変化による操舵角センサのゼロ点の変動の影響を極力排除するために行われるゼロ点最大値および最小値のリセットに対応する。この処理を行う理由は、以下の通りである。ヨーレートセンサ40、横加速度センサ42などのアナログセンサのゼロ点は、温度変化により変動する場合がある。車室内の温度変化により各センサのゼロ点が変動すると、操舵角ゼロ点の検出値も変動するため、操舵角ゼロ点の差分Dが操舵伝達系の特性変化によるものか温度変化によるものかを区別することは困難である。そこで、通常の環境では、短時間での車室内の温度変化は非常に小さいことを考慮して、ゼロ点最大値とゼロ点最小値とを前回の更新から所定期間が経過する毎に破棄するようにした。
続いて、判定しきい値設定部112は、以下の式に基づき判定しきい値Tを演算する(S68)。
T={(θ・V)/(n・L)−Kh・Gy・V−YR}・n・L・(1/V)
=θ−Kh・Gy/n・L−YR・n・L・(1/V)・・・(1)
ここで、θは操舵角検出値、Vは車速、Gyは横加速度、YRはヨーレート、Khはスタビリティファクタ、nはステアリングオーバーオールギヤ比、Lはホイールベースを表す。
式(1)の一行目において、((θ・V)/(n・L)−Kh・Gy・Vは目標ヨーレートに対応する。したがって、{(θ・V)/(n・L)−Kh・Gy・V−YR}・n・L・(1/V)は、(目標ヨーレート−実ヨーレート)の操舵角換算値を求めることに対応している。
式(1)は、
・操舵角センサのゼロ点/ゲイン誤差と、横加速度センサのゼロ点誤差に起因する操舵角誤差
・横加速度センサのゲイン誤差と車両のばらつきによる操舵角誤差
・ヨーレートセンサのゼロ点誤差による操舵角誤差
・ヨーレートセンサと車速センサのゲイン誤差による操舵角誤差
の合計値に対応する。
なお、上記の式(1)に代入する車速、ヨーレートおよび横加速度は、測定値保持部110に記憶された値(すなわち、ゼロ点最大値更新時に記憶された値と、ゼロ点最小値更新時に記憶された値)のうち、車速については小さい方を、ヨーレートおよび加速度については大きい方を選択することが好ましい。この理由は、低速時の方が高速時よりも操舵角誤差が大きくなる傾向があるので、低速走行中に大きく計算された操舵角誤差と、高速走行中に小さく計算された判定しきい値とが比較された場合、特性変化を誤判定してしまうおそれがあり、これを避けるためである。
差分計算部114は、ゼロ点履歴保持部104に保持されているゼロ点最大値とゼロ点最小値の差分Dを計算し、特性変化判定部116は、この差分Dが判定しきい値Tよりも大きいか否かを判定する(S70)。差分Dが判定しきい値Tよりも大きければ(S70のY)、特性変化判定部116は操舵伝達系の特性変化が生じていると判定し(S72)、通知部118が所定のランプの点灯、ブザーなどによってドライバーにその旨を通知したり、車両制御ECUに対して操舵角ゼロ点の検出に基づく車両制御を一時的に停止するように指示する。
S70の処理は、操舵角ゼロ点の変動幅、すなわちゼロ点最大値とゼロ点最小値の差分Dが、操舵角センサ、車速センサ、横加速度センサおよびヨーレートセンサのゼロ点誤差、ゲイン誤差および車両ばらつきの積み上げである判定しきい値Tを越えているか否かを判定している。言い換えると、操舵角ゼロ点の変動幅が、各センサの想定しうる誤差の積み上げ分よりも大きいならば、操舵伝達系のガタに起因する操舵角ゼロ点のずれが生じていると判断するのである。
以上説明したように、本実施形態によると、操舵伝達系の各部品とボデーとを接続する弾性部材の経年劣化などによる操舵伝達系の特性変化を検出することができる。
また、車両停止中の据え切り操舵量が所定のしきい値よりも大きい場合、S30により、ゼロ点履歴保持部104におけるゼロ点最大値およびゼロ点最小値の更新が所定期間禁止される。この結果、S36のNおよびS54のNに進むことから、ゼロ点最大値およびゼロ点最小値の更新およびリセットが行われないため、ゼロ点最大値とゼロ点最大値の差分Dが判定しきい値Tを越えることはない。したがって、車両停止中の据え切りによってステアリングギアボックスが中心位置からずれている間に、操舵伝達系の特性が変化していると判定されるおそれがなくなり、誤判定を防止することができる。
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組み合わせ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組み合わせなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
ステアリングギアボックスが中心位置に復帰する速さは、車両が走行する路面の凹凸によっても異なる。つまり、路面に凹凸が多いとギアボックスが揺さぶられるため、中心位置に復帰しやすく、路面が平らであるほど中心位置に復帰しにくい。そこで、横加速度センサ42等で検出される車体加速度の変化に基づき路面外乱の大小を判定する手段を設け、外乱が大きいほど、検出/更新禁止部120は、図5のS24における更新禁止タイマのデクリメント量を大きくしてもよい。こうすることで、図4(d)内に点線で示すように、特性変化判定の禁止期間Eを短縮することができる。
電動パワーステアリング装置を備える車両を参照して、いくつかの実施形態について説明した。しかしながら、油圧パワーステアリング装置を備える車両に対しても本発明を適用することができる。この場合、車両はステアリングECUを備えていないので、車両横滑り抑制制御用のECUが、本発明に係る操舵伝達系の特性変化の検出を実施するように構成される。
実施の形態では、車両停止中に検出される操舵角の最大値と最小値の差分が所定のしきい値を超えた場合に、検出/更新禁止部120が、ゼロ点履歴保持部104によるゼロ点最大値およびゼロ点最小値の更新を所定期間禁止することを説明した。この代わりに、検出/更新禁止部120は、操舵角の最大値と最小値の差分が所定のしきい値を超えた場合に、操舵角ゼロ点検出部102による操舵角ゼロ点の検出を所定期間禁止するように動作してもよい。この構成であっても、所定期間Eの間はゼロ点最大値とゼロ点最小値が一定値となるので、特性変化判定部116により操舵伝達系の特性変化が生じていると判定されることはない。
実施の形態では、操舵伝達系における弾性部材の特性変化を判定する特性変化判定部を操舵装置が備えることを説明した。しかしながら、特性変化判定部を備えない操舵装置にも本発明を適用することができる。この構成では、横加速度が所定のしきい値を超えた場合に、操舵角ゼロ点検出部102による操舵角ゼロ点の検出が所定期間禁止される。