以下、図面を参照しながら、本発明および本発明に関連する発明における実施の形態について詳細に説明する。
(実施の形態1)
はじめに、図1を参照しながら、本実施の形態の作業車両の構成および動作について説明する。
ここに、図1は、本発明における実施の形態1の作業車両の模式的な側面図である。
本実施の形態1の作業車両は、トラクターなどの農業用車両であって、ブレーキ520、クラッチ510およびコントローラー500などを備えている。
ブレーキ520は、エンジン5から伝達されてくる動力によって駆動される車輪の制動を、外部からの操作によって行う手段である。
クラッチ510は、エンジン5から伝達されてくる動力の伝達をオンオフする機構である。
コントローラー500は、クラッチ510をオンオフするコンピュータ等の機構である。
つぎに、図2を参照しながら、本実施の形態1の作業車両の制御機構の構成について具体的に説明する。
ここに、図2は、本発明における実施の形態1の作業車両の制御機構の模式的なブロック図である。
コントローラー500は、クラッチペダルセンサー501、車速センサー502、ブレーキスイッチ503、リニアシフトスイッチ504、エンジン回転センサー505、変速位置センサー506および前後スロープセンサー507などからの各種入力信号を読み込み、それら信号に応じて色々な処理をすることによって、クラッチ510およびブレーキ520の制御を行う手段である。
クラッチ510は、作業員の踏み込み操作に対応したクラッチペダルセンサー501の状態によって、および後述の制御機構による自動制御によって、制御される、クラッチ比例ソレノイド511、前進ソレノイド512および後進ソレノイド513を有する手段である。
ブレーキ520は、作業員の踏み込み操作に対応したブレーキスイッチ503の状態によって制御される、ブレーキ比例ソレノイド521、ブレーキ右ソレノイド522およびブレーキ左ソレノイド523を有する手段である。
クラッチペダルセンサー501は、前進用の前進ソレノイド512および後進用の後進ソレノイド513を双方ともオフすることができるクラッチ比例ソレノイド511を制御する手段である。
クラッチペダル531(図12参照)の踏み込み操作が行われ、前後進切替レバー532(図12参照)によって選択されている前進ソレノイド512または後進ソレノイド513がオフされると、動力は伝達されなくなる。
もちろん、クラッチペダル531の踏み込み操作が行われなくなると、前後進切替レバー532によって選択されている前進ソレノイド512または後進ソレノイド513がオンされ、動力は再び伝達されるようになる。
車速センサー502は、車速を計測する手段である。
ブレーキスイッチ503は、右用スイッチおよび左用スイッチを有する手段である。右用スイッチおよび左用スイッチが双方ともオンされると、ブレーキ比例ソレノイド521がオンされる。右用スイッチがオンされると、ブレーキ右ソレノイド522がオンされる。左用スイッチがオンされると、ブレーキ左ソレノイド523がオンされる。
すなわち、ブレーキスイッチ503は、ブレーキペダル533(図12参照)の状態の読み込みを行う手段である。
リニアシフトスイッチ504は、前進ソレノイド512および後進ソレノイド513のオンオフを選択する手段である。
すなわち、リニアシフトスイッチ504は、前後進切替レバー532によって前進側または前進後の何れが選択されているのかについての状態の読み込みを行う手段である。
エンジン回転センサー505は、エンジン回転数を計測する手段である。
変速位置センサー506は、車速が、たとえば、時速10kmから20km、20kmから30kmなど、車速を所定範囲毎に区切った車速帯のいずれに該当するかを計測する手段である。
もちろん、副変速部154(図12参照)を変速する副変速レバー、および主変速部150(図12参照)を変速する主変速レバーのレバー位置が検出されてもよい。
前後スロープセンサー507は、車両前後方向の傾斜量を計測する手段である。
もちろん、コントローラー500によるクラッチ510およびブレーキ520の制御には、ブレーキ連結スイッチおよびブレーキペダルセンサーといったその他の手段からの読み込み処理の結果が利用されてもよい。
つぎに、本実施の形態1の作業車両の制御機構の動作について具体的に説明する。
以下では、クラッチ510に対する種々の自動制御の実施例を挙げて、同制御機構の動作を説明する。
(1)ブレーキ520による車輪の制動操作があったとき、規定時間が経過してから、クラッチ510を自動的にオフする実施例について説明する。
本実施例では、その規定時間が経過してからクラッチ510をオフする自動制御により、その規定時間が経過するまでは、エンジンブレーキを効かせることができ、その規定時間の経過後は、作業員によるクラッチペダル531の踏み込み操作がなくとも、エンジンストップを惹起することなく、スムーズに車両を停止させることが可能になる。
なお、作業員によるブレーキペダル533の踏み込み操作とほぼ同時にクラッチ510をオフしたときには、エンジンブレーキは利用できないので、車両走行が慣性で継続しやすく、作業員は車両が飛び出すが如くに感じてしまうことがあった。
ここで、かくの如き自動制御を、本発明における実施の形態1の作業車両の制御機構の動作を説明する流れ図(その1)である図3を主として参照しながら説明すると、つぎの通りである。
当該サブルーチンの呼び出しをスタートし、クラッチペダルセンサー501、車速センサー502、ブレーキスイッチ503およびリニアシフトスイッチ504などに対する読み込み処理を行い(ステップS11)、ブレーキ520による車輪の制動操作があったか否かを判断する(ステップS12)。
制動操作があったと判断したときにはクラッチ510がオンであるか否かを判断し(ステップS13)、制動操作がなかったと判断したときには当該サブルーチンの呼び出しにリターンする。
クラッチ510がオンであるか否かを判断した結果(ステップS13)、クラッチ510がオンであると判断したときには、規定時間が制動操作の後に経過したか否かを判断し(ステップS14)、クラッチ510がオンでないと判断したときには当該サブルーチンの呼び出しにリターンする。
なお、規定時間が制動操作の後に経過したか否かの判断は、クロックやタイマーなどを利用して行えばよい。
規定時間が制動操作の後に経過したか否かを判断した結果(ステップS14)、規定時間が経過したと判断したときにはクラッチ510をオフにし(ステップS15)ついで当該サブルーチンの呼び出しにリターンし、規定時間が経過していないと判断したときには規定時間が経過したか否かを再び判断する(ステップS14)。
なお、規定時間に関しては、小さすぎると、ステップS14の動作が実質的な意味を失ってしまうが、大きすぎると、以前のステップS11〜ステップS13の動作が時間経過にともない有効でなくなってしまったり、以後のステップS15の動作が実行されないで、走行速度がその前に停車状態における走行速度に近くなり、エンジンストップが生じたりするので、たとえば1秒と適切な大きさで設定されることが望ましい。
もちろん、作業員によるクラッチペダル531の踏み込み操作がステップS13の動作が実行された後にあったときには、ステップS15の動作は実質的な意味を失ってしまうが、作業員の指示が尊重されていることになるので、これには何らの弊害もない。
(2)ブレーキ520による車輪の制動操作があったとき、エンジン回転数が規定回転数以下になってから、クラッチ510をオフする実施例について説明する。
本実施例では、エンジン回転数が規定回転数以下になってからクラッチ510をオフする自動制御により、作業員によるクラッチペダル531の踏み込み操作がなくとも、エンジンストップを惹起することなくエンジンブレーキを利用でき、スムーズに車両を停止させることが可能になる。
なお、エンジン回転数が大きいときには、クラッチ510がオンのままであっても、エンジンストップが惹起されてしまうという恐れは小さい。
ここで、かくの如き自動制御を、本発明における実施の形態1の作業車両の制御機構の動作を説明する流れ図(その2)である図4を主として参照しながら説明すると、つぎの通りである。
当該サブルーチンの呼び出しをスタートし、クラッチペダルセンサー501、車速センサー502、ブレーキスイッチ503、リニアシフトスイッチ504およびエンジン回転センサー505などに対する読み込み処理を行い(ステップS21)、ブレーキ520による車輪の制動操作があったか否かを判断する(ステップS22)。
制動操作があったと判断したときにはクラッチ510がオンであるか否かを判断し(ステップS23)、制動操作がなかったと判断したときには当該サブルーチンの呼び出しにリターンする。
クラッチ510がオンであるか否かを判断した結果(ステップS23)、クラッチ510がオンであると判断したときにはエンジン回転数が規定回転数以下になったか否かを判断し(ステップS24)、クラッチ510がオンでないと判断したときには当該サブルーチンの呼び出しにリターンする。
エンジン回転数が規定回転数以下になったか否かを判断した結果(ステップS24)、エンジン回転数が規定回転数以下になったと判断したときにはクラッチ510をオフにし(ステップS25)ついで当該サブルーチンの呼び出しにリターンし、エンジン回転数が規定回転数以下になっていないと判断したときにはエンジン回転数が規定回転数以下になったか否かを再び判断する(ステップS24)。
なお、規定回転数に関しては、大きすぎると、ステップS24の動作が実質的な意味を失ってしまう、つまり、ブレーキペダル533がアクセルペダルから離された足で踏まれてクラッチ510がすぐにオフになると、エンジンブレーキが効く余地が少なくなってしまうが、小さすぎると、なかなかクラッチ510がオフにならず、以後のステップS25の動作が実行されないで、走行速度がその前に停車状態における走行速度に近くなり、エンジンストップが発生する可能性が大きくなってしまうので、アイドリング回転数よりも少し高い回転数の大きさ程度の適切な大きさで設定されることが望ましい。
もちろん、作業員によるクラッチペダル531の踏み込み操作がステップS23の動作が実行された後にあったときには、ステップS25の動作は実質的な意味を失ってしまうが、作業員の指示が尊重されていることになるので、これには何らの弊害もない。
(3)ブレーキ520による車輪の制動操作があったとき、車速が規定速度以下になってから、クラッチ510をオフする実施例について説明する。
車速が規定速度以下になってからクラッチ510をオフする自動制御により、作業員によるクラッチペダル531の踏み込み操作がなくとも、エンジンストップを惹起することなくエンジンブレーキを利用でき、スムーズに車両を停止させることが可能になる。
なお、車速が大きいときには、クラッチ510がオンのままであっても、エンジンストップが惹起されてしまうという恐れは小さい。
ここで、かくの如き自動制御を、本発明における実施の形態1の作業車両の制御機構の動作を説明する流れ図(その3)である図5を主として参照しながら説明すると、つぎの通りである。
当該サブルーチンの呼び出しをスタートし、クラッチペダルセンサー501、車速センサー502、ブレーキスイッチ503、リニアシフトスイッチ504およびエンジン回転センサー505などに対する読み込み処理を行い(ステップS31)、ブレーキ520による車輪の制動操作があったか否かを判断する(ステップS32)。
制動操作があったと判断したときにはクラッチ510がオンであるか否かを判断し(ステップS33)、制動操作がなかったと判断したときには当該サブルーチンの呼び出しにリターンする。
クラッチ510がオンであるか否かを判断した結果(ステップS33)、クラッチ510がオンであると判断したときには、車速が規定速度以下になったか否かを判断し(ステップS34)、クラッチ510がオンでないと判断したときには当該サブルーチンの呼び出しにリターンする。
車速が規定速度以下になったか否かを判断した結果(ステップS34)、車速が規定速度以下になったと判断したときにはクラッチ510をオフにし(ステップS35)ついで当該サブルーチンの呼び出しにリターンし、車速が規定速度以下になっていないと判断したときには車速が規定速度以下になったか否かを再び判断する(ステップS34)。
なお、規定速度に関しては、大きすぎると、ステップS34の動作が実質的な意味を失ってしまう、つまり、エンジンブレーキが効く余地が少なくなってしまうが、小さすぎると、なかなかクラッチ510がオフにならず、以後のステップS35の動作が実行されないで、走行速度がその前に停車状態における走行速度に近くなり、エンジンストップが発生する可能性が多きくなってしまうので、適切な大きさで設定されることが望ましい。
もちろん、作業員によるクラッチペダル531の踏み込み操作がステップS33の動作が実行された後にあったときには、ステップS35の動作は実質的な意味を失ってしまうが、作業員の指示が尊重されていることになるので、これには何らの弊害もない。
(4)ブレーキ520による車輪の制動操作があってからクラッチ510が上述の如き自動制御によりオフされた後、同制動操作の解除がその後にあったとき(例えばブレーキスイッチ503がオフとなったとき)、所定の昇圧パターンに基づいてクラッチ油圧を調節しながら、クラッチ510をオンする実施例について説明する。
所定の昇圧パターンに基づいてクラッチ油圧を調節しながらクラッチ510をオンする自動制御により、クラッチショックやエンジンストップを惹起することなくクラッチ510を一気にではなく徐々に接続でき、スムーズに車両を発進させることが可能になる。本実施例では、さらに、その昇圧パターンの種類を複数用意している点に特徴がある。
なお、前進ソレノイド512または後進ソレノイド513の出力をオンにした後に、クラッチ比例ソレノイド511をゆっくりとした通電の上昇によって昇圧出力するときに利用される具体的な昇圧パターンについては、後に詳述する。
ここで、かくの如き自動制御を、本発明における実施の形態1の作業車両の制御機構の動作を説明する流れ図(その4)である図6を主として参照しながら説明すると、つぎの通りである。
当該サブルーチンの呼び出しをスタートし、クラッチペダルセンサー501、車速センサー502、ブレーキスイッチ503、リニアシフトスイッチ504、エンジン回転センサー505、変速位置センサー506および前後スロープセンサー507などに対する読み込み処理を行い(ステップS41)、クラッチ510が自動制御によりオフされているか否かを判断する(ステップS42)。
ステップS42における状態は、ブレーキペダル533が踏まれ、クラッチ510がオフしている状態である。
クラッチ510が自動制御によりオフされていると判断したときにはブレーキ520による車輪の制動操作の解除があるか否かを判断し(ステップS43)、クラッチ510が自動制御によりオフされていないと判断したときには当該サブルーチンの呼び出しにリターンする。
もちろん、作業員によるクラッチペダル531の踏み込み操作があったときには、ステップS42の動作ではクラッチ510が自動制御によりオフされていないと判断しても、クラッチ510はオフされているが、次に説明する昇圧パターンの利用をやめても、何らの弊害もない。
ブレーキ520による車輪の制動操作の解除があるか否かを判断した結果(ステップS43)、制動操作の解除があると判断したときには前進ソレノイド512または後進ソレノイド513の出力をオンにし(ステップS44)、所定の昇圧パターンに基づいてクラッチ油圧を調節しながらクラッチ510をオンし(ステップS45)、ついで当該サブルーチンの呼び出しにリターンし、制動操作の解除がないと判断したときにはそのまま当該サブルーチンの呼び出しにリターンする。
つぎに、クラッチ比例ソレノイド511を昇圧出力するときに利用される具体的な昇圧パターンについて詳述する。
(4a)本発明に関連する発明における実施の形態1の作業車両の制御機構の動作を説明するグラフ図(その1)である図7に示されているが如くに、エンジン回転数に対応して昇圧カーブを変更する。
ここに、以下同じであるが、グラフの横軸はブレーキ520への車輪制動操作が検出されなくなってから経過した時間(sec)を表し、グラフの縦軸は油圧を利用してエンジンから伝達されてくる動力の伝達をオンオフするクラッチ510の圧力(kgf/cm2)を表す。
エンジン回転数に対応して昇圧カーブを変更する自動制御により、クラッチショックやエンジンストップを惹起することなくクラッチ510を徐々に接続でき、スムーズに車両を発進させることが可能になる。
なお、エンジン回転数が小さいときには、エンジンストップが惹起されてしまうという恐れが大きいので、始めの間はクラッチ510の圧力をあまり大きくせずにクラッチ510を接続していき最終的にクラッチ510をフル接続することが望ましい。
(4b)本発明における実施の形態1の作業車両の制御機構の動作を説明するグラフ図(その1)である図8に示されているが如くに、車速に対応して昇圧カーブを変更する。
車速に対応して昇圧カーブを変更する自動制御により、クラッチショックやエンジンストップを惹起することなくクラッチ510を徐々に接続でき、スムーズに車両を発進させることが可能になる。
なお、車速が小さいときには、エンジンストップが惹起されてしまうという恐れが大きいので、始めの間はクラッチ510の圧力をあまり大きくせずに時間をかけてクラッチ510を接続していき最終的にクラッチ510をフル接続することが望ましい。
つまり、同じトルクを発生させることができるクラッチ510の圧力は車速によって異なるので、たとえば、あらかじめ設定された数種類の車速帯(たとえば、時速10kmから20km帯、20kmから30km帯など)にそれぞれ対応した昇圧パターンを利用すれば、同じトルクを発生させるまでに必要な時間についての大きなタイムラグが発生したり、エンジンストップが発生したりする不都合を解消することができる。
(4c)本発明における実施の形態1の作業車両の制御機構の動作を説明するグラフ図(その2)である図9に示されているが如くに、車両前後方向の傾斜量に対応して昇圧カーブを変更する。
車両前後方向の傾斜量に対応して昇圧カーブを変更する自動制御により、クラッチショックやエンジンストップを惹起することなくクラッチ510を徐々に接続でき、スムーズに車両を発進させることが可能になる。
なお、車両前後方向の傾斜量が大きいときには、エンジンストップが惹起されてしまうという恐れが大きいので、始めの間はクラッチ510の圧力をあまり大きくせずにクラッチ510を接続していき最終的にクラッチ510をフル接続することが望ましい。
つまり、車両前後方向の傾斜量が大きいときには上り坂であるゆえに車速が小さくなりやすく、エンジンストップが上述の通り惹起されやすいので、たとえば、車輪制動操作が検出されなくなってから少しの間は急激な変化が抑えられる、時間あたりの圧力変化量が小さい昇圧カーブを利用すれば、エンジンストップが発生する不都合を解消することができる。
(4d)なお、上記の(4a)〜(4c)において、本発明に関連する発明における実施の形態1の作業車両の制御機構の動作を説明するグラフ図(その2)である図10に示されているが如くに、ブレーキペダル533に設けたポテンショメーターで測定したブレーキペダル533の踏み込み量に対応してクラッチ510の圧力を昇圧制御してもよい。
ここに、グラフの縦軸は前述の通りクラッチ510の圧力を表しているので、ブレーキ踏み込み量については縦軸の目盛りはなしに定性的な挙動がその理解を容易にするべく併せて記入されているにすぎない。
たとえば、ブレーキペダル533を完全に踏み込んだときには完全にクラッチ510をオフし、ブレーキペダル533のリリースに対応して徐々にクラッチ510の圧力を上昇させることで、スムーズに車両を発進させることが可能になる。
(4e)また、上記の(4d)において、本発明に関連する発明における実施の形態1の作業車両の制御機構の動作を説明するグラフ図(その3)である図11に示されているが如くに、ブレーキペダル533に設けたポテンショメーターで測定したブレーキペダル533の踏み込み量を考慮して後輪3(図12参照)の制動を行う左右にあるブレーキB(図12参照)のブレーキ圧力を制御してもよい。
ここに、グラフの縦軸は前述の通りクラッチ510の圧力を表しているので、ブレーキ踏み込み量およびブレーキ圧力については縦軸の目盛りはなしに定性的な挙動がその理解を容易にするべく併せて記入されているにすぎない。
たとえば、ブレーキペダル533のリリースに対応して徐々にクラッチ510を接続しながらブレーキBのブレーキ圧力を徐々に解除することで、坂道などにおいても車両が傾斜に沿って低い方に動いてしまうことなく、スムーズに車両を発進させることが可能になる。
以上において説明したことから、たとえば、電気的にオンオフ可能な油圧式のリバースクラッチのオンオフ状態、およびクラッチペダルの踏み込み量を検出するポテンショメーターと、各種のスイッチと、前後進の走行方向をレバー操作に対応して選択可能なリバースレバーと、を備え、各種のセンサーおよびスイッチの状態と前後進の選択状態とに対応してリバースクラッチを昇圧制御可能なトラクターにおいて、ブレーキペダルの踏み込みを検出するスイッチを装備し、ブレーキの踏み込みを検出したときに、所定時間経過後に、クラッチペダルの踏み込み操作がなくてもリバースクラッチを適切にオフする制御をオートマチックの自動車の如くに行うことで、エンジンブレーキを効かしながら、同時にエンジンストップを惹起することなくスムーズな発進停止制御を実現することができる。
つぎに、図12〜15を主として参照しながら、より具体的な、上記制御機構によって制御される、本実施の形態の作業車両の動力伝動機構の構成および動作について詳述する。
ここに、図12は本発明における実施の形態1の作業車両の動力伝動機構の伝動線図であり、図13は本発明における実施の形態1の作業車両の動力伝動機構の模式的な展開図であり、図14は本発明における実施の形態1の作業車両の動力伝動機構の模式的な正面図であり、図15は本発明における実施の形態1の作業車両の動力伝動機構の模式的な斜視図である。
以下では、フロントケースとリアケースとが一体に組み付けられたミッションケース8内の変速装置の動力伝動機構について、エンジン5から、(1)前輪2および後輪3、ならびに(2)ロータリ作業機(図示省略)に接続されるPTO出力軸111、への変速伝動機構を説明する。
はじめに、主変速部150について説明する。
エンジン5のエンジン出力軸20の回転は、入力軸21に伝動される。
すなわち、クラッチペダル531によっての動力断続は正逆クラッチ48で行われ、正逆クラッチ48がメインクラッチの役割を果たす。
そして、入力軸21に固着の第一入力ギヤ22は第一高・低クラッチ24の第一低速ギヤ26および第二高・低クラッチ25の第二低速ギヤ27に噛み合い、入力軸21に固着の第二入力ギヤ23は第一高・低クラッチ24の第一高速ギヤ30および第二高・低クラッチ25の第二高速ギヤ31に噛み合う。
第一高・低クラッチ24が第一低速ギヤ26側に繋がれると、回転は第一低速ギヤ26から第一クラッチ軸28に伝動され、第一高・低クラッチ24が第一高速ギヤ30側に繋がれると、回転は第一高速ギヤ30から第一クラッチ軸28に伝動される。
第二高・低クラッチ25が第二低速ギヤ27側に繋がれると、回転は第二低速ギヤ27から第二クラッチ軸29に伝動され、第二高・低クラッチ25が第二高速ギヤ31側に繋がれると、回転は第二高速ギヤ31から第二クラッチ軸29に伝動される。
同一の油圧多板クラッチである第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25はそれぞれ、入力軸21の回転を同一減速比で高・低の二段に減速して第一クラッチ軸28および第二クラッチ軸29に伝動する。
第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25は潤滑オイルに浸かり、第一クラッチ軸28および第二クラッチ軸29は潤滑オイルの液面OLより若干上に位置している。
そして、第一クラッチ軸28および第二クラッチ軸29をミッションケース8に支持する前仕切壁181に形成された肉盛部181aにはケースの左右開口部側からドリルで加工した給油孔8bが設けられており、給油が給油孔8bから第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25の軸に行われている。
給油孔8bは、ケース内の配管に代えて、軸受け部を避けて上下方向および左右方向の油路として集中して設けられている。
オイルフィルター(図示省略)が給油孔8bの近くに取り付けられると、配管を簡略化出来る。
第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25は、ミッションケース8の下り傾斜部8cの下部で左右に配置されている。
第一クラッチ軸28に固着の第一ギヤ113が低速伝動軸34に固着の第二ギヤ35と噛み合って、回転は減速して伝動され、第二クラッチ軸29に固着の第三ギヤ149が高速伝動軸32に固着の第四ギヤ33と噛み合って、回転は増速して伝動される。
ここまでの変速伝動では、低速伝動軸34が低速で二段に変速され、高速伝動軸32が高速で二段に変速されることで、計四段に変速がされる。
低速伝動軸34および高速伝動軸32の回転はそれぞれ、第一シンクロチェンジ42および第二シンクロチェンジ36に伝動される。
第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ小ギヤ43および第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ小ギヤ37が第一伝動軸39の第五ギヤ40と噛み合い、第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ大ギヤ44および第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ大ギヤ38が第一伝動軸39の第六ギヤ41と噛み合い、回転が伝動される。
第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ小ギヤ43と、第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ小ギヤ37と、は全く同一のギヤであり、第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ大ギヤ44と、第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ大ギヤ38と、は全く同一のギヤである。
低速伝動軸34が低速回転し、高速伝動軸32が高速回転している。
したがって、第一シンクロチェンジ42を切換えると、低速でのさらなる二段の変速がされ、第二シンクロチェンジ36を切換えると、高速でのさらなる二段の変速がされる。
すなわち、第一入力軸21の回転は、第一伝動軸39で低速四段および高速四段に変速される。
第一シンクロチェンジ42および第二シンクロチェンジ36は、シフターステーとシフターとをサブ組付けしてミッションケース8内に収められている。
そして、その変速操作部のケース開口部は、ケースの左右側面に設けられ、ミッションケース8の潤滑オイルの液面OLよりも上側に設けられている。
かくして、主変速部150は、操縦者が操作する主変速レバー(図示省略)の変速位置を読み取って、走行系ECU(Engine Control Unit)で自動的に高・低油圧多板クラッチである第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25、ならびに第一シンクロチェンジ36および第二シンクロチェンジ42を制御し、低速四段および高速四段への変速を行う。
ミッションケース8内では、第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25が左右に配置されている。
そして、その下側には、第一シンクロチェンジ42が装着された低速伝動軸34、および第二シンクロチェンジ36が装着された高速伝動軸32が左右に配置されている。
かくして、ミッションケース8の左右幅が狭く高さの低いコンパクトな構成が、実現される。
さらに、第一伝動軸39は、第二伝動軸45に軸連結で連結されている。
第二伝動軸45には、第七ギヤ46および第八ギヤ47が固着されている。
第七ギヤ46は、油圧多板の正逆クラッチ48(これが前述のクラッチ510に対応する。以下同じ)の正転クラッチギヤ49に噛み合わされる。
第八ギヤ47は逆転軸52の逆転ギヤ51に噛み合わされ、逆転ギヤ51は正逆クラッチ48の逆転クラッチギヤ50に噛み合わされる。
したがって、正逆クラッチ48が正転クラッチ48aへの昇圧によって正転クラッチギヤ49に繋がれると、第七ギヤ46の回転は正転状態で正逆クラッチ48に連結された副変速軸53に伝動され、正逆クラッチ48が逆転クラッチ48bへの昇圧によって逆転クラッチギヤ50に繋がれると、第八ギヤ47の回転は逆転状態で副変速軸53に伝動される。
正転と逆転とでは減速比が異なり、逆転がより低速になる。また、正転伝動(前進)と逆転伝動(後進)の選択は、ハンドルが立設されているハンドルコラムの左側に設けられている前後進切替レバー532の操作で行われる。
つぎに、副変速部154について説明する。
副変速軸53に固着された第九ギヤ54および第十ギヤ55はそれぞれ、第三シンクロチェンジ58の第三シンクロ大ギヤ56および第三シンクロ小ギヤ59に噛み合っている。
したがって、第三シンクロチェンジ58が第三シンクロ大ギヤ56側に繋がれると、第五伝動軸60は第九ギヤ54から第三シンクロ大ギヤ56に伝動した回転で増速して高速で駆動され、第三シンクロチェンジ58が第三シンクロ小ギヤ59側に繋がれると、第五伝動軸60は第十ギヤ55から第三シンクロ小ギヤ59に伝動した回転で減速して中速で駆動される。
第三シンクロチェンジ58の第三シンクロ小ギヤ59側に固着された第十一ギヤ57は、第四シンクロチェンジ71の第四シンクロ小ギヤ69と噛み合っている。
第四シンクロ小ギヤ69側に固着された第十五ギヤ70は第二筒軸114の第十七ギヤ75と噛み合って、回転は第二筒軸114に固着された第十八ギヤ76から第四シンクロ大ギヤ72に伝動される。
第四シンクロチェンジ71が装着された第一筒軸73には、第十六ギヤ74が固着されている。
したがって、第三シンクロチェンジ58が中立にされると、第十ギヤ55の回転が第三シンクロ小ギヤ59に伝動され、回転は第三シンクロ小ギヤ59側に固着された第十一ギヤ57から第四シンクロ小ギヤ69に伝動される。
この状態で、第四シンクロチェンジ71が第四シンクロ小ギヤ69側に繋がれると、第四シンクロ小ギヤ69の回転が第十六ギヤ74の回転となって低速となり、第四シンクロチェンジ71が第四シンクロ大ギヤ72側に繋がれると、第四シンクロ小ギヤ69の回転が第十五ギヤ70から第十七ギヤ75、第十八ギヤ76および第四シンクロ大ギヤ72に伝動され、第十六ギヤ74が極低速となる。
第三シンクロチェンジ58が第三シンクロ大ギヤ56側または第三シンクロ小ギヤ59側に繋がれるときには、第四シンクロチェンジ71は中立にされる。
かくして、主変速部150変速された副変速軸53の低速四段および高速四段の回転については、副変速部154での四段の変速がされ、低速十六段および高速十六段への変速がされる。
第十六ギヤ74は、第五伝動軸60に固着された第十二ギヤ61と噛み合って第五伝動軸60を駆動する。
第五伝動軸60の軸端に固着された第一ベベルギヤ62は、リアベベルケース64の第二ベベルギヤ63と噛み合っていて、リアベベルケース64のベベル出力軸65から第十三ギヤ66および第十四ギヤ67を介して後輪出力軸68を回転し、後輪3を駆動する。
第五伝動軸60には第二十一ギヤ117が固着されており、回転は副変速軸53に軸支された第二筒軸119に固着された第二十二ギヤ118および第二十二ギヤ148を介して第一前輪駆動軸78の第十九ギヤ77に伝動され、第十六ギヤ74の低速十六段と高速十六段の回転が第一前輪駆動軸78に伝動されている。
この回転は、第一前輪駆動軸78から前輪増速クラッチ79を介して第二前輪駆動軸84に伝動され、第三前輪駆動軸85、第四前輪駆動軸86および前輪駆動ベベル軸87に引き継いで伝動される。
前輪駆動ベベル軸87の軸端に固着された第一前ベベルギヤ88は、前ベベルケース89の第二前ベベルギヤ115と噛み合っており、前ベベルケース89の前ベベル出力軸90、第一前ベベルギヤ組91、前縦軸116および第二前ベベルギヤ組92を介して前輪出力軸93を回転し、前輪2を駆動する。
前輪増速クラッチ79の第一増速クラッチギヤ82および第二増速クラッチギヤ80はそれぞれ、第一増速ギヤ83および第二増速ギヤ81に噛み合っており、前輪増速クラッチ79の切換によって増速率を変更する。
かくして、副変速部154は、副変速レバー(図示省略)の変速位置を読み取って、走行系ECUで自動的に第三シンクロチェンジ58および第四シンクロチェンジ71を制御し、変速を行う。
そして、第四シンクロチェンジ71が装着された第一筒軸73は、第三シンクロチェンジ58が装着された第五伝動軸60の下側に配置されている。
かくして、ミッションケース8の長さが短い構成が、実現される。
つぎに、PTO出力軸111の伝動経路について説明する。
第二入力ギヤ23にはPTOメインクラッチ97のメインクラッチギヤ96が噛み合わされており、動力の断続がPTOメインクラッチ97で行われる。
PTOメインクラッチ97は、第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25の下側に位置しており、ミッションケース8の内部に溜まる潤滑オイルで冷却および潤滑される。
PTOメインクラッチ97が装着された第一PTO軸95には、PTO変速部157が設けられている。
第一PTOギヤ98、第二PTOギヤ99、ならびに第五シンクロチェンジ151の第五シンクロ小ギヤ100および第五シンクロ大ギヤ101が、装着されている。
第二PTO軸104には第二十ギヤ102、第二十三ギヤ152、第二十一ギヤ103および第二十四ギヤ153が固着されており、カウンタ軸106にはPTO逆転ギヤ105が軸支されている。
第一PTOギヤ98がスライドされて第二十ギヤ102に噛み合わせられると、第三PTO軸107においては二速が得られる。
第一PTOギヤ98がスライドされて第二PTOギヤ99に噛合されると、第一PTO軸95の回転が第二PTOギヤ99と第二十三ギヤ152を介して第三PTO軸107に伝わり、四速が得られる。
第五シンクロチェンジ151が第五シンクロ小ギヤ100に繋がれると、回転は第五シンクロ小ギヤ100から第二十一ギヤ103に伝動し、一速が得られる。
第五シンクロチェンジ151が第五シンクロ大ギヤ101に繋がれると、回転は第五シンクロ大ギヤ101から第二十四ギヤ153に伝動し、三速が得られる。
そして、PTO逆転ギヤ105が第一PTOギヤ98と第二十ギヤ102に噛み合わせられると、第一PTO軸95の回転は第一PTOギヤ98からPTO逆転ギヤ105を経て第二十ギヤ102に伝動されて第三PTO軸107に伝わり、逆回転が得られる。
第一PTOギヤ98、第二PTOギヤ99および第五シンクロチェンジ151は、第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25と、第一シンクロチェンジ42および第二シンクロチェンジ36と、の間でこれらの下側に配置されている。
第三PTO軸107の回転は、第四PTO軸156を介して第五PTO軸108に伝動され、第一PTO出力ギヤ109および第二PTO出力ギヤ110を駆動し、さらに減速されてPTO出力軸111を駆動する。
ミッションケース8の左右中央には入力軸21および第四前輪駆動軸86が位置し、第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25が左右対称位置に配置され、高速伝動軸32および低速伝動軸34が左右対称位置に配置され、第四PTO軸156および副変速軸53が左右対称位置に配置されている。
そして、第四PTO軸156、副変速軸53および第四前輪駆動軸86は、ミッションケース8の内部下方に配置されており、正面視において略二等辺三角形の頂点を形成している。
(実施の形態2)
本実施の形態においては、つぎに述べるが如き作業車両の構成および動作について説明する。
なお、より具体的な本実施の形態2の作業車両の構成および動作については、後に詳述する。
(A)数段の主変速機構および副変速機構を有するユーティリティートラクターなどにおいて、メインクラッチと共用されるリバースクラッチ(以下同じであるが、後述の前後進切替機構15がこれに対応する)およびHi−Loクラッチ(以下同じであるが、後述のHi−Lo変速機構16がこれに対応する)が直列的にレイアウトされており、各々のクラッチは電磁バルブで制御可能である。
(A1)Hi−Loクラッチは、Hi−Lo切替スイッチ(以下同じであるが、後述のHi−Lo切替スイッチ244がこれに対応する)がオフのときにはLo側への出力を行い、Hi−Lo切替スイッチがオンのときにはHi側への出力を行う。
そして、リバースクラッチレバーがニュートラルであるか、またはリバースクラッチペダルが踏み込み操作されるときには、Hi−Lo切替スイッチが強制的にオフされて、Hi−LoクラッチはLo側への出力を行う。
なお、ミッション機構によるエンジンブレーキ的なブレーキの作用は、Hi側への出力が行われるときに比べて、Lo側への出力が行われるときにより効果的に発揮される。
それによって、エンジンブレーキはリバースクラッチがオフであるゆえ利用できないものの、そのようにエンジンブレーキが利用できず車両が慣性で動いてしまうときに発生しやすい突き回りの影響は低減され、同影響にともなう副変速操作荷重の増大はなく、スムーズな変速操作が可能になる。
(A2a)リバースクラッチの油圧が所定の閾値に達すると接点状態が変化してオフになる圧力センサーがリバースクラッチの前進側および後進側の各々に設けられており、リバースクラッチの油圧変化を指示するコントローラーからの出力が実行されているか否かがそれらの圧力センサーのオンオフ論理状態によって判断され、当該指示が実行されていないという異常の発生が検出される。
これによって、低コストでの異常発生の検出が廉価な圧力センサーを利用することで可能になり、安全性が確保される。
(A2b)上記の(A2a)において、油圧上昇を指示するコントローラーからの出力が実行されないで、圧力センサーがオンである無圧力状態がたとえば3秒以上継続したときには、コントローラーからの出力が一旦オフされ、ブザーの警告が同時に行われる。
すると、リバースクラッチが異常発生にもかかわらず長時間にわたって使用され磨耗してしまうという恐れを低減することが可能になるとともに、異常発生を素早く作業員に報知することが可能になる。
(A2c)上記の(A2b)において、異常発生の検出後におけるブザーの警告はエンジン停止まで継続されるものの、コントローラーからの出力はたとえば一回のみオフされる。
すると、長時間にわたって作業に使用されたリバースクラッチが焼きついて異常が発生しているときなどにも、圃場から脱出できなってしまうという恐れを低減することが可能になる。
なお、電源投入後のコントローラーからの出力が何回もオフされると、車両走行が不可能になってしまうことがある。
(B1)エンジン冷却水用のエンジン水温センサーを有するトラクターなどにおいて、油圧クラッチ(以下同じであるが、後述の油圧多板クラッチC1およびC2がこれに対応する)は、ポテンショメーターによって検出されるクラッチペダルの操作量に対応して圧力制御される。
そして、油圧クラッチの目標圧は、エンジン水温センサーの検出温度に対応して補正される。
すると、エンジン水温センサーの流用によってコストアップを回避しつつ油圧クラッチの目標圧をミッション油温に対応して補正でき、変速および発進などにともなう油圧クラッチへのショックを低減し安全性を確保することが可能になる。
なお、コモンレールエンジンでは、エンジン水温センサーは必須であり既存の構成要素である。
また、エンジン水温は油圧クラッチに係わるミッション油温と必ずしも比例的な関係にあるわけではないものの、エンジン水温が低げればミッション油温も低いという関係にある。
(B2)エンジン冷却水用のエンジン水温センサーを有するトラクターなどにおいて、Hi−Loクラッチは、スイッチ操作に対応して制御される。
そして、Hi−Loクラッチの接続アルゴリズムは、エンジン水温センサーの検出温度に対応して変更される。
たとえば、図16に示されているが如くに、検出温度が低いときにはHi−Loクラッチ切替え時の出力をラップさせないで二重噛みを防止し、検出温度が高いときにはHi−Loクラッチ切替え時の出力をラップさせ動力遮断をより少なくして変速および発進などにともなうHi−Loクラッチへのショックを低減する。
ここに、図16は、本発明に関連する発明における実施の形態2の作業車両の制御出力にともなう電圧波形および圧力波形の説明図である。
エンジン水温センサーの流用によってコストアップを回避しつつHi−Loクラッチの接続アルゴリズムをミッション油温に対応して変更でき、上記のHi−Loクラッチへのショックを低減し安全性を確保することが可能になる。
なお、上記の(B1)および(B2)は、前述した実施の形態1の作業車両にも実装可能である。
つぎに、図17〜19を主として参照しながら、より具体的な、上記実施の形態2における作業車両の動力伝動機構の構成および動作について詳述する。
ここに、図17は本発明に関連する発明における実施の形態2の作業車両の動力伝動機構の伝動線図であり、図18は本発明に関連する発明における実施の形態2の作業車両の動力伝動機構の模式的な平面図であり、図19は本発明に関連する発明における実施の形態2の作業車両の模式的な部分平面図である。
変速装置は、ミッションケースと、ミッションケース内に配置されエンジン4から後輪3などへ回転動力を伝達する伝動機構と、を有している。
伝動機構は、エンジン4からの回転動力を前輪2、後輪3、および機体に装着された作業機(図示省略)に伝達し、これらをエンジン4からの回転動力によって駆動するものである。
より具体的には、伝動機構は、入力軸14、前後進切替機構15、高低変速機構としてのHi−Lo変速機構16、主変速機構17、副変速機構18、2WD/4WD切替機構19およびPTO(Power Take−Off)駆動機構220などを有している。
伝動機構は、エンジン4が発生させた回転動力を、入力軸14、前後進切替機構15、Hi−Lo変速機構16、主変速機構17および副変速機構18を順に介して後輪3に伝達することができる。
また、伝動機構は、エンジン4が発生させた回転動力を、入力軸14、前後進切替機構15、Hi−Lo変速機構16、主変速機構17、副変速機構18および2WD/4WD切替機構19を順に介して前輪2に伝達することができる。
また、伝動機構は、エンジン4が発生させた回転動力を、入力軸14およびPTO駆動機構220を順に介して作業機に伝達することができる。
入力軸14は、エンジン4の出力軸に結合されており、エンジン4からの回転動力が伝達すなわち入力される。
前後進切替機構15は、エンジン4から伝達された回転動力を、前進方向回転または後進方向回転に切替え可能なものである。
前後進切替機構15は、前進側ギヤ段15a、後進側ギヤ段15b、逆転ギヤ15c、前進クラッチである油圧多板クラッチC1、および後進クラッチである油圧多板クラッチC2などを有している。
油圧多板クラッチC1およびC2は、噛合解放状態を切替えることで前後進切替機構15における動力の伝達経路を切替え可能である。
前後進切替機構15は、油圧多板クラッチC1およびC2の噛合解放状態に対応して入力軸14に伝達された回転動力を、伝達経路を変えてカウンタ軸221に伝達する。
前後進切替機構15は、油圧多板クラッチC1が噛合状態、油圧多板クラッチC2が解放状態であるときに、入力軸14に伝達された回転動力を、前進側ギヤ段15aおよび油圧多板クラッチC1を介して前進方向回転でカウンタ軸221に伝達する。
前後進切替機構15は、油圧多板クラッチC1が解放状態、油圧多板クラッチC2が噛合状態であるときに、入力軸14に伝達された回転動力を、後進側ギヤ段15b、逆転ギヤ15cおよび油圧多板クラッチC2を介して、後進方向回転でカウンタ軸221に伝達する。
これにより、前後進切替機構15は、トラクターの前後進を切替えることができる。
また、前後進切替機構15は、メインクラッチとしても機能し、油圧多板クラッチC1およびC2をともに解放状態とすることでニュートラル状態となり、前輪2側および後輪3側への動力伝達を遮断することができる。
前後進切替機構15は、たとえば、作業員によって前後進切替レバー243が操作されることで、油圧制御によって、前進と、後進と、ニュートラルと、を切替えることができる。
また、クラッチペダルを踏み込み操作することで、油圧多板クラッチC1およびC2をともに解放状態にできる。
Hi−Lo変速機構16は、エンジン4から伝達された回転動力を、高速段または低速段で変速可能なものである。
Hi−Lo変速機構16は、Hi(高速)側ギヤ段16a、Lo(低速)側ギヤ段16b、Hi(高速)側クラッチである油圧多板クラッチC3、およびLo(低速)側クラッチである油圧多板クラッチC4などを有している。
油圧多板クラッチC3およびC4は、噛合解放状態を切替えることでHi−Lo変速機構16における動力の伝達経路を切替え可能である。
Hi−Lo変速機構16は、油圧多板クラッチC3およびC4の噛合解放状態に対応して、カウンタ軸221に伝達された回転動力を、伝達経路を変えて変速軸222に伝達する。
Hi−Lo変速機構16は、油圧多板クラッチC3が噛合状態、油圧多板クラッチC4が解放状態であるときに、カウンタ軸221に伝達された回転動力を、油圧多板クラッチC3およびHi側ギヤ段16aを介して変速して変速軸222に伝達する。
Hi−Lo変速機構16は、油圧多板クラッチC3が解放状態、油圧多板クラッチC4が噛合状態であるときに、カウンタ軸221に伝達された回転動力を、油圧多板クラッチC4およびLo側ギヤ段16bを介して変速して変速軸222に伝達する。
これにより、Hi−Lo変速機構16は、エンジン4からの回転動力を、Hi側ギヤ段16aの変速比またはLo(低速)側ギヤ段16bの変速比で変速して後段に伝達することができる。
Hi−Lo変速機構16は、たとえば、作業員によって高低変速操作スイッチであるHi−Lo切替スイッチ244がオンオフされることで、油圧制御によって、Hi(高速)側と、Lo(低速)側と、を切替えることができ、高速および低速の2段のうちのいずれかで変速することができる。
また、Hi−Lo変速機構16は、上記の構成によりトラクターの走行中に変速可能である。
なお、リバースクラッチレバーがニュートラルであるか、またはリバースクラッチペダルが踏み込み操作されるときには、Hi−Lo切替スイッチ244が強制的にオフされて、Hi−LoクラッチはLo側への出力を行う。
主変速機構17は、エンジン4から伝達された回転動力を、複数の変速段のうちのいずれかで変速可能である。
主変速機構17は、シンクロメッシュ式の変速機構であり、ここでは、エンジン4から前後進切替機構15およびHi−Lo変速機構16を介して伝達される回転動力を変速可能である。
主変速機構17は、複数の変速段として、第一速ギヤ段17a、第二速ギヤ段17b、第三速ギヤ段17c、第四速ギヤ段17d、第五速ギヤ段17eおよび第六速ギヤ段17fなどを有している。
主変速機構17は、第一速ギヤ段17a、…、および第六速ギヤ段17fの変速軸222との結合状態に対応して、変速軸222に伝達された回転動力を、第一速ギヤ段17a、…、および第六速ギヤ段17fのうちのいずれかを介して変速して変速軸223に伝達する。
これにより、主変速機構17は、エンジン4からの回転動力を第一速ギヤ段17a、…、および第六速ギヤ段17fのうちのいずれかの変速比で変速して後段に伝達することができる。
主変速機構17は、たとえば、作業員によって主変速操作レバー245が操作されることで、複数の変速段のうちのいずれかを選択し切替えることができ、第一速ギヤ段17a、…、および第六速ギヤ段17fの6段のうちのいずれかで変速することができる。
また、主変速機構17は、上記の構成によりトラクターの走行中に変速可能である。
副変速機構18は、エンジン4から前後進切替機構15、Hi−Lo変速機構16および主変速機構17を順に介して伝達される回転動力を変速可能である。
副変速機構18は、第一副変速機224および第二副変速機225などを有し、変速軸223に伝達された回転動力を、第一副変速機224および第二副変速機225などを介して変速して変速軸226に伝達する。
第一副変速機224は、エンジン4から伝達され主変速機構17などで変速された回転動力を、高速段または低速段で変速して駆動輪である後輪3側に伝達可能である。
第二副変速機225は、エンジン4から伝達され主変速機構17などで変速された回転動力を、第一副変速機224よりもさらに低速の極低速段で変速して駆動輪である後輪3側に伝達可能である。
副変速機構18の第一副変速機224は、第一ギヤ224a、第二ギヤ224b、第三ギヤ224c、第四ギヤ224dおよびシフター224eなどを有している。
第一ギヤ224aは、変速軸223と一体回転可能に結合され、変速軸223からの回転動力が伝達すなわち入力される。
第二ギヤ224bは、第一ギヤ224aと噛み合っている。
第三ギヤ224cは、第二ギヤ224bと一体回転可能に結合されている。
第四ギヤ224dは、第三ギヤ224cと噛み合っている。
シフター224eは、第一ギヤ224aおよび第四ギヤ224dと、変速軸226と、の結合状態を切替えるものである。
シフター224eは、第一ギヤ224aと変速軸226とを一体回転可能に結合するHi(高速)側位置と、第四ギヤ224dと変速軸226とを一体回転可能に結合するLo(低速)側位置と、第一ギヤ224aおよび第四ギヤ224dのいずれもが変速軸226と結合されず解放される中立位置(ニュートラル位置)と、に移動可能である。
第一副変速機224は、シフター224eの位置に対応して、変速軸223に伝達された回転動力を、伝達経路を切替えて変速軸226に伝達する。
第一副変速機224は、シフター224eがHi側位置にあるとき、変速軸223に伝達された回転動力を、第一ギヤ224a、第二ギヤ224b、第三ギヤ224cおよび第四ギヤ224dを介さずに、変速軸226に伝達する。すなわち、回転動力は、変速軸223、第一ギヤ224aおよび変速軸226を順に介して伝達される。
第一副変速機224は、シフター224eがLo側位置にあるとき、変速軸223に伝達された回転動力を、第一ギヤ224a、第二ギヤ224b、第三ギヤ224c、第四ギヤ224dおよびシフター224eを介して順次減速して変速軸226に伝達する。
これにより、第一副変速機224は、エンジン4からの回転動力を、第二ギヤ224b、第三ギヤ224cおよび第四ギヤ224dを介さないHi(高速)側の変速比、または第二ギヤ224b、第三ギヤ224cおよび第四ギヤ224dを介したLo(低速)側の変速比で変速して後段に伝達することができる。
また、第一副変速機224は、シフター224eが中立位置にあるとき、第一ギヤ224aおよび第四ギヤ224dのいずれもが変速軸226について空転する状態、すなわちニュートラル状態となる。
第一副変速機224は、たとえば、作業員によって第一副変速操作レバー249が操作されることで、シフター224eの位置が切替えられて、Hi(高速)側と、Lo(低速)側と、ニュートラルと、を切替えることができる。
副変速機構18の第二副変速機225は、第一ギヤ225a、第二ギヤ225b、第三ギヤ225c、第四ギヤ225dおよびシフター225eなどを有している。
第一ギヤ225aは、第四ギヤ224dと一体回転可能に結合されている。
第二ギヤ225bは、第一ギヤ225aと噛み合っている。
第三ギヤ225cは、第二ギヤ225bと一体回転可能に結合されている。
第四ギヤ225dは、第三ギヤ225cと噛み合っている。
シフター225eは、第四ギヤ225dと、変速軸226と、の結合状態を切替えるものである。
シフター225eは、第四ギヤ225dと変速軸226とを一体回転可能に結合する極Lo(極低速)側位置と、第四ギヤ225dと変速軸226とが結合されず解放される中立位置(ニュートラル位置)と、に移動可能である。
第二副変速機225は、シフター225eの位置に対応して、変速軸223に伝達された回転動力を、伝達経路を切替えて、変速軸226に伝達する。
第二副変速機225は、第一副変速機224がニュートラル状態で、シフター225eが極Lo側位置にあるとき、変速軸223に伝達された回転動力を、第一副変速機224の第一ギヤ224a、第二ギヤ224b、第三ギヤ224cおよび第四ギヤ224d、ならびに第二副変速機225の第一ギヤ225a、第二ギヤ225b、第三ギヤ225cおよび第四ギヤ225d、ならびにシフター225eを介して順次減速して変速軸226に伝達する。
これにより、第二副変速機225は、エンジン4からの回転動力を、第二ギヤ224b、第三ギヤ224c、第四ギヤ224d、第一ギヤ225a、第二ギヤ225b、第三ギヤ225cおよび第四ギヤ225dを介した極Lo(極低速)側の変速比で変速して後段に伝達することができる。
また、第二副変速機225は、シフター225eが中立位置にあるとき、第四ギヤ225dが変速軸226について空転する状態、すなわちニュートラル状態となる。
第二副変速機225は、第一副変速機224がHi(高速)側またはLo(低速)側となっているときには、ニュートラル状態とされる。
第二副変速機225は、たとえば、作業員によって第二副変速操作レバー250が操作されることで、シフター25eの位置が切替えられて、極Lo(極低速)側と、ニュートラルと、を切替えることができる。
したがって、副変速機構18は、変速軸223に伝達された回転動力を、第一副変速機224と第二副変速機225とを組み合わせることで、高速、低速および極低速の3段のうちのいずれかで変速して変速軸226に伝達することができる。
すなわち、副変速機構18は、第一副変速機224がHi(高速)側、第二副変速機225がニュートラル状態となっているときには、Hi(高速)段で変速することができ、第一副変速機224がLo(低速)側、第二副変速機225がニュートラル状態となっているときには、Lo(低速)段で変速することができ、第一副変速機224がニュートラル状態、第二副変速機225が極Lo(極低速)側となっているときには、極Lo(極低速)段で変速することができる。
副変速機構18は、トラクターが停車している状態で、高速と、低速と、極低速と、が切替えられる。
そして、変速装置の伝動機構は、変速軸226に伝達された回転動力を、後輪デフ227、ドライブシャフトである車軸228および遊星歯車機構229などを介して後輪3に伝達する。
この結果、トラクターの後輪3は、エンジン4からの回転動力により駆動輪として回転駆動する。
以上の説明を要約すると、入力軸14の回転は、まず前後進切替機構15で正転または逆転に切替えられ、Hi−Lo変速機構16で高速および低速の2段のうちのいずれかで変速され、主変速機構17で第一速ギヤ段17a、…、および第六速ギヤ段17fの6段のうちのいずれかで変速され、さらに副変速機構18で高速、低速および極低速の3段のうちのいずれかで変速されて、車軸228に伝達される。
すなわち、入力軸14の回転は、変速装置の伝動機構によって36(=2×6×3)段のうちのいずれかで変速されて車軸228へ伝動される。
2WD/4WD切替機構19は、変速軸226に伝達された回転動力を、前輪2側に伝達するか否かを切替えるものである。
2WD/4WD切替機構19は、伝達軸19a、第一ギヤ19b、第二ギヤ19c、伝達軸19dおよびシフター19eなどを有している。
伝達軸19aは、変速軸226からの回転動力が、ギヤ230、ギヤ231、伝達軸232およびカップリング233などを介して伝達すなわち入力される。
第一ギヤ19bは、伝達軸19aが挿入され、伝達軸19aについて相対回転可能に組み付けられる。
第二ギヤ19cは、第一ギヤ19bと噛み合っている。
伝達軸19dは、第二ギヤ19cと一体回転可能に結合されている。
シフター19eは、伝達軸19aと第一ギヤ19bとの結合状態を切替えるものである。
シフター19eは、伝達軸19aと第一ギヤ19bとを一体回転可能に結合する4WD位置と、伝達軸19aと第一ギヤ19bとが結合されず解放される2WD位置(ニュートラル位置)と、に移動可能である。
2WD/4WD切替機構19は、シフター19eが4WD位置にあるとき、伝達軸19aに伝達された回転動力を、第一ギヤ19bおよび第二ギヤ19cを介して伝達軸19dに伝達する。
これにより、2WD/4WD切替機構19は、エンジン4からの回転動力を前輪2側に伝達することができる。
変速装置の伝動機構は、伝達軸19dに伝達された回転動力を、前輪デフ234、ドライブシャフトである車軸235、垂直軸236および遊星歯車機構237などを介して前輪2に伝達する。
この結果、トラクターは、前輪2および後輪3がエンジン4からの回転動力により駆動輪として回転駆動し、四輪駆動で走行することができる。
2WD/4WD切替機構19は、シフター19eが2WD位置にあるとき、伝達軸19aに伝達された回転動力の伝達軸19d側への動力伝達が遮断される。
この結果、トラクターは、二輪駆動で走行することができる。
2WD/4WD切替機構19は、たとえば、作業員によって2WD/4WD切替レバー246が操作されることで、シフター19eの位置が切替えられて、二輪駆動と、四輪駆動と、を切替えることができる。
PTO駆動機構220は、エンジン4から伝達される回転動力を変速して機体後部1RのPTO軸240から作業機に出力することで、エンジン4からの動力によって作業機を駆動するものである。
PTO駆動機構220は、PTOクラッチ機構238、PTO変速機構239およびPTO軸240などを有している。
PTOクラッチ機構238は、PTO軸240側への動力について、伝達と、遮断と、を切替えるものである。
PTOクラッチ機構238は、ギヤ238a、油圧多板クラッチC5および伝達軸238bなどを有している。
ギヤ238aは、入力軸14と一体回転可能に結合されたギヤ241と噛み合っている。
油圧多板クラッチC5は、噛合解放状態が切替わることで、ギヤ238aと伝達軸238bとの間の動力の伝達状態を切替えるものである。
PTOクラッチ機構238は、油圧多板クラッチC5が噛合状態となることでPTO軸240側へ動力を伝達するPTO駆動状態となり、入力軸14からギヤ241を介してギヤ238aに伝達された回転動力を、油圧多板クラッチC5を介して伝達軸238bに伝達する。
PTOクラッチ機構238は、油圧多板クラッチC5が解放状態となることでPTO軸240側への動力の伝達が遮断されたPTO非駆動状態(ニュートラル状態)となり、ギヤ238aに伝達された回転動力の伝達軸238b側への伝達が遮断される。
PTOクラッチ機構238は、たとえば、作業員によってPTO切替スイッチ247がオンオフされることで、油圧制御によって、PTO駆動状態と、PTO非駆動状態と、を切替えることができる。
なお、このトラクターは、ギヤ238aと噛み合うギヤ270a、およびギヤ270aと噛み合うギヤ270bなどを介して、ギヤポンプ270が設けられている。
ギヤポンプ270は、伝動機構などの油圧系統に油圧を付与するものである。
PTO変速機構239は、PTO軸240側に動力を伝達する際に変速を行うものである。
PTO変速機構239は、Hi(高速)側ギヤ段239a、Lo(低速)側ギヤ段239b、伝達軸239cおよびシフター239dなどを有している。
PTO変速機構239は、シフター239dの位置に対応して、伝達軸238bに伝達された回転動力を、Hi側ギヤ段239aまたはLo側ギヤ段239bを介して変速して、伝達軸239cに伝達する。
シフター239dは、Hi側ギヤ段239aまたはLo側ギヤ段239bと、伝達軸239cと、の結合状態を切替えるものである。
シフター239dは、Hi側ギヤ段239aと伝達軸239cとを結合するHi(高速)側位置と、Lo側ギヤ段239bと伝達軸239cとを結合するLo(低速)側位置と、Hi側ギヤ段239aおよびLo側ギヤ段239bのいずれもが伝達軸239cと結合されず解放される中立位置(ニュートラル位置)と、に移動可能である。
PTO変速機構239は、シフター239dがHi側位置にあるとき、伝達軸238bに伝達された回転動力を、Hi側ギヤ段239aを介して伝達軸239cに伝達する。
PTO変速機構239は、シフター239dがLo側位置にあるとき、伝達軸238bに伝達された回転動力を、Lo側ギヤ段239bを介して伝達軸239cに伝達する。
これにより、PTO変速機構239は、エンジン4からの回転動力を、Hi側ギヤ段239aの変速比またはLo側ギヤ段239bの変速比で変速して、後段に伝達することができる。
また、PTO変速機構239は、シフター239dが中立位置にあるとき、Hi側ギヤ段239aおよびLo側ギヤ段239bのいずれもが伝達軸239cについて空転する状態(ニュートラル状態)となる。
PTO変速機構239は、たとえば、作業員によって後述のPTO変速操作レバー248が操作されることで、シフター239dの位置が切替えられて、Hi(高速)側と、Lo(低速)側と、ニュートラルと、を切替えることができ、高速および低速の2段のうちのいずれかで変速することができる。
PTO軸240は、作業機が結合され、エンジン4からの回転動力を作業機に伝達するものである。
PTO軸240は、伝達軸239cに伝達された回転動力が第一ギヤであるギヤ241および第二ギヤであるギヤ242などを介して伝達されることで、回転駆動する。
以上の説明を要約すると、入力軸14の回転は、PTOクラッチ機構238を介してPTO変速機構239に伝達され、PTO変速機構239で高速および低速の2段のうちのいずれかで変速されて、PTO軸240に伝達され、PTO軸240を回転駆動する。
この結果、トラクターは、エンジン4から伝達される回転動力を変速してPTO軸240から作業機に出力し、作業機を駆動することができる。
トラクターは、キャビン内または機体後部1Rに各種操作レバーが配置されている。
たとえば、前後進切替レバー243、Hi−Lo切替スイッチ244、主変速操作レバー245、2WD/4WD切替レバー246およびPTO切替スイッチ247が、設けられる。
また、PTO変速操作レバー248が、機体後部1Rに設けられる。
前後進切替レバー243は、前後進切替機構15の前後進切替操作を行うものであり、作業員が前後進切替レバー243を操作することで、前後進切替機構15を前進、後進およびニュートラルのうちのいずれかに切替えることができる。
Hi−Lo切替スイッチ244は、Hi−Lo変速機構16のHi−Lo変速操作(高低変速操作)を行うものであり、作業員がHi−Lo切替スイッチ244を操作することで、Hi−Lo変速機構16を高速または低速に切替えることができる。
主変速操作レバー245は、主変速機構17の主変速操作を行うものであり、作業員が主変速操作レバー245を操作することで、主変速機構17を第一速ギヤ段17a、…、および第六速ギヤ段17fの6段のうちのいずれか、またはニュートラルに切替えることができる。
2WD/4WD切替レバー246は、2WD/4WD切替機構19の2WD/4WD切替操作を行うものであり、作業員が2WD/4WD切替レバー246を操作することで、2WD/4WD切替機構19を二輪駆動または四輪駆動に切替えることができる。
PTO切替スイッチ247は、PTOクラッチ機構238のクラッチ切替操作を行うものであり、作業員がPTO切替スイッチ247を操作することで、PTOクラッチ機構238をPTO駆動状態またはPTO非駆動状態に切替えることができる。
PTO変速操作レバー248は、PTO変速機構239のPTO変速操作を行うものであり、作業員がPTO変速操作レバー248を操作することで、PTO変速機構239を高速、低速およびニュートラルのうちのいずれかに切替えることができる。
そして、副変速機構18の第一副変速機224の第一副変速操作を行う第一副変速操作レバー249と、副変速機構18の第二副変速機225の第二副変速操作を行う第二副変速操作レバー250と、が別個に設けられることで、汎用性の向上が図られている。
たとえば、第一副変速操作レバー249および第二副変速操作レバー250をともにキャビン内に設け、副変速機構18において第一副変速機224に第二副変速機225を後付で追加することで、たとえば、極低速段などの変速段を追加可能とし、第二副変速機225の追加による変速段を操作する第二副変速操作レバー250を第一副変速操作レバー249とは別個に設ける。