図1ないし図4は本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態において工具本体1は、鋼材等の金属材料により軸線Oを中心とした多段の円柱状に一体形成され、その後端部(図1において右側部分)は、シャンク部2Aおよび自動工具交換装置のアームに把持される把持部2Bが形成された取付部2とされるとともに、先端部(図1において左側部分)は、把持部2Bから先端側に向けて一旦小径円柱状の首部3Aとされた後、この首部3Aよりも大径の円柱状のヘッド部3Bとされ、さらにこのヘッド部3Bの先端には首部3Aよりも小径の円板状のパイロット部3Cが形成された切刃部3とされている。
このような穴加工工具は、上記取付部2が工作機械の主軸に取り付けられて軸線O回りに工具回転方向Tに回転されつつ該軸線O方向先端側に送り出されて、被削材に形成された下穴に切刃部3が挿入され、この切刃部3におけるヘッド部3Bの先端部外周に突設された後述する切刃により、下穴を所定の内径の加工穴に仕上げ加工してゆく。なお、工具本体1内にはシャンク部2Aからヘッド部3Bの後端部にまで軸線Oに沿って切削油剤の供給穴4が形成されており、切刃による仕上げ加工の際にはこの供給穴4から分岐した分岐穴4Aを経て切削油剤が切刃に向けて噴出させられる。
ヘッド部3Bの先端部外周には凹溝状のチップポケット5が周方向に間隔をあけて複数(本実施形態では周方向に等間隔に5つ)形成されて、上記分岐穴4Aはこれらのチップポケット5に開口させられるとともに、チップポケット5の工具回転方向T後方側には、軸線Oに直交する断面がL字状をなすやはり凹溝状のカートリッジ取付座6がそれぞれ形成されている。なお、図1に示すように、チップポケット5はヘッド部3Bの先端面から後端側に向けてヘッド部3Bの中央部辺りで凹曲面状をなして外周側に切れ上がっているのに対し、カートリッジ取付座6はチップポケット5の切れ上がり部分から断面「コ」字状をなしてさらに後端側に延び、ヘッド部3Bの後端部よりも僅かに手前にまで形成されている。
図4は、このようなカートリッジ取付座6に取り付けられるカートリッジ7を示すものであり、このカートリッジ7に形成されたインサート取付座7Aにクランプネジ10によって着脱可能に取り付けられるインサート9に上記切刃9Aが形成されている。このカートリッジ7は、工具本体1と同じく鋼材等の金属材料によって断面略台形の四角柱状に一体形成され、その先端部(図4(a)、(c)、(d)における左側部分)に上記インサート取付座7Aが形成されるとともに、後端部(図4(a)、(c)、(d)における右側部分)には、カートリッジ7をカートリッジ取付座6に取り付けるための取付ネジ8が挿通される段付き穴7Bが形成されている。
カートリッジ7は、その断面がなす台形の幅広の上底に連なる側面を工具回転方向Tに向けるとともに、幅狭の下底に連なる側面とこの下底に連なる側面に垂直な側面を、カートリッジ取付座6の工具回転方向Tを向く底面と工具本体1の外周側を向く壁面にそれぞれ密着させ、下底に鈍角に交差するとともに上底に鋭角に交差する上記台形の斜辺(ただし、本実施形態では凸曲線状とされている。)に連なる側面を工具本体1の外周側に向けてカートリッジ取付座6に着座させられる。さらに、上記段付き穴7Bに挿通された取付ネジ8がカートリッジ取付座6に形成されたネジ穴にねじ込まれることにより、この段付き穴7Bが形成された後端部が固定されて、カートリッジ7はカートリッジ取付座6に着脱可能に取り付けられる。
なお、段付き穴7Bは、図4(b)に示すようにカートリッジ7の上記斜辺に連なる側面から上記下底に連なる側面に垂直な側面に向けて上記下底に連なる側面側に向かうように傾斜して延びており、斜辺に連なる側面側が大径、下底に連なる側面に垂直な側面側が小径とされているとともに、その断面はカートリッジ7の長手方向(工具本体1の軸線O方向)に長軸を有する長円状とされている。また、カートリッジ取付座6に形成されるネジ穴は上記外周側を向く壁面に開口し、段付き穴7Bの傾斜に合わせて穴底側に向かうに従いカートリッジ取付座6の底面側(工具回転方向T後方側)に傾斜するように延びている。
さらに、上記インサート取付座7Aは、カートリッジ7の先端面と上記上底に連なる側面と上記斜辺に連なる側面とに開口する凹所として形成されており、本実施形態では菱形平板状のインサート9が装着可能なように、上記上底に連なる側面から一段凹んで工具回転方向Tに向けられる底面と、この底面から上記上底に連なる側面に向けて立ち上がる、互いに鋭角に交差する方向に配置された一対の壁面とを備えている。
また、底面にはネジ穴が形成されているとともに、インサート9には取付穴が貫通していて、この取付穴に挿通された上記クランプネジ10が底面のネジ穴にねじ込まれることにより、インサート9は、そのすくい面とされる菱形面を上底に連なる側面と同じ向きに向けて、この菱形面のコーナRが付けられた鋭角コーナ部に形成された上記切刃9Aをカートリッジ7の先端面と上記斜辺に連なる側面から僅かに突出させて、インサート取付座7Aに着脱可能に取り付けられる。
なお、工具本体1の複数のカートリッジ取付座6に取り付けられる複数のカートリッジ7のうち、1つのカートリッジ7(図1に示されているカートリッジ7)には、図4(d)に示すように切刃9Aがサライ刃とされたサライ刃付きインサートが上記インサート9として取り付けられている。このサライ刃付きインサートは、超硬合金等の硬質材料により形成された菱形平板状のインサート本体のすくい面とされる菱形面の1つの鋭角コーナ部に、ダイヤモンド焼結体やCBN(立方小窒化ホウ素)焼結体よりなる切刃部材が接合されたものであって、この鋭角コーナ部からカートリッジ7の後端側に向けて延びる切刃部材上の切刃9Aは、インサート本体上の菱形面の後端側に向けて延びる辺よりも、鋭角コーナ部からカートリッジ7の先端側に延びる菱形面の辺に対する交差角が僅かに大きくされている。
また、このサライ刃付きインサートが取り付けられる1つのカートリッジ7以外の残りのカートリッジ7には、上記切刃部材が接合されることなく、図4(a)〜(c)に示したように超硬合金等の硬質材料のみからなる菱形平板状のインサート本体を備えたインサート9が取り付けられている。上記サライ刃付きのインサート9も含めて、これらのインサート9は、すくい面とされる菱形面を軸線Oを含む平面上に位置させて、この菱形面の2つの鋭角コーナ部のうち1つを上述のように突出させ、サライ刃付きのインサート9は切刃9A(サライ刃)が軸線Oと略平行となるように、またそれ以外のインサート9は、突出した鋭角コーナ部からカートリッジ7の後端側に向けて延びる切刃9Aが後端側に向かうに従いカートリッジ7の上記斜辺に連なる側面側に後退するように傾斜させられて取り付けられる。
さらに、カートリッジ7には、カートリッジ取付座6に取り付けられた状態で工具本体1の内周側を向く面、すなわちカートリッジ取付座6の上記壁面に密着させられる上記下底に垂直な側面に、該カートリッジ7の上記先端部と上記後端部との間において、同じくカートリッジ取付座6に取り付けられた状態で工具回転方向T後方側から前方側に向けて延びる、すなわちカートリッジ7の上記下底に連なる側面から上記上底に連なる側面に向けて延びるスリット7Cが形成されている。
このスリット7Cは、カートリッジ7の長手方向略中央部において、上記下底に垂直な側面に垂直に、また上記下底に連なる側面と上底に連なる側面との双方に開口するように形成されている。そして、このスリット7Cの上記下底に垂直な側面からのスリット深さは、上記下底に連なる側面から上記上底に連なる側面に向かうに従い、すなわちカートリッジ7がカートリッジ取付座6に取り付けられた状態で工具回転方向T前方側に向かうに従い、漸次深くなるようにされており、特に本実施形態ではスリット7Cの底が、図4(b)に破線で示すようにカートリッジ7の断面がなす台形の斜辺に略平行に延びるようにされている。
一方、工具本体1においてカートリッジ取付座6よりも内周側には、カートリッジ取付座6に取り付けられたカートリッジ7の上記スリット7Cよりも先端側の上記上記先端部を工具本体1の外周側に押圧して撓ませることにより、このカートリッジ7に取り付けられたインサート9の上記切刃9Aの外周側への突出量(振れ)を調整する振れ調整機構11が備えられている。
この振れ調整機構11は、本実施形態では、両端部に雄ネジ部12A、12Bを有して一端部の雄ネジ部12Aが工具本体1に形成された雌ネジ穴に螺合させられる振れ調整ネジ12と、工具本体1のカートリッジ取付座6よりも内周側に収容されてカートリッジ7の内周側を向く面(上記下底に連なる側面に垂直な側面)の上記先端部に当接するとともに振れ調整ネジ12の中心線Cに対して傾斜した傾斜面を有して振れ調整ネジ12の他端部の雄ネジ部12Bに螺合させられる調整クサビ部材13とを備えている。
さらに、この調整クサビ部材13は、本実施形態では、カートリッジ取付座6の上記外周側を向く壁面から出没可能とされてカートリッジ7の内周側を向く面の先端部に当接する調整ピン13Aと、振れ調整ネジ12の他端部の雄ネジ部12Bに螺合させられて振れ調整ネジ12の上記中心線C方向に進退可能とされた調整クサビ13Bとを備えている。そして、本実施形態では、これら調整ピン13Aと調整クサビ13Bとが、それぞれ振れ調整ネジ12の中心線Cに対して同じ方向に傾斜した上記傾斜面13C、13D同士を互いに摺接させた構成とされている。
ここで、調整クサビ13Bは、略円筒状の部材であって、その内周部に振れ調整ネジ12の上記他端部の雄ネジ部12Bが螺合する雌ネジ部が形成されているとともに、外周部にはこの調整クサビ13Bがなす円筒の中心線すなわち振れ調整ネジ12の上記中心線Cに対して傾斜した平面状の上記傾斜面13Cが形成されている。このような調整クサビ13Bは、工具本体1の切刃部3におけるヘッド部3Bの先端面から軸線Oに平行に形成された断面円形の穴部に嵌挿されて、傾斜面13Cを外周側に向けてこの傾斜面13Cが工具本体1の後端側に向かうに従い外周側に向けて傾斜するように収容されており、振れ調整ネジ12の一端部の雄ネジ部12Aが螺合される雌ネジ穴は、この穴部の底面に該穴部と同軸に、また調整クサビ13Bの雌ネジ部とも同軸かつ小径に形成されている。
また、調整ピン13Aは、カートリッジ取付座6の工具本体1外周側を向く上記壁面から調整クサビ13Bが収容される上記穴部に向けて上記中心線Cに直交する方向に工具本体1に形成された貫通穴に挿入される略円柱状の部材であり、カートリッジ取付座6側は該調整ピン13Aがなす円柱の中心線に垂直な平面とされて、カートリッジ7先端部の内周側を向く面(カートリッジ7の断面がなす台形の下底に連なる側面に垂直な側面)のうち、インサート取付座7Aの内周側に当接させられる。一方、穴部側は、上記中心線Cに対する調整クサビ13Bの上記傾斜面13Cと等しい傾斜角および傾斜の向きで傾斜した調整ピン13A側の平面状の傾斜面13Dとされている。
さらに、振れ調整ネジ12は、上記穴部底面の雌ネジ穴に螺合する一端部の雄ネジ部12Aが、調整クサビ13Bの雌ネジ部に螺合する他端部の雄ネジ部12Bよりも小径とされており、これら両端部の雄ネジ部12A、12Bは捩れの向きが同じでネジピッチが互いに異なる大きさとされている。従って、穴部底面の雌ネジ穴と調整クサビ13Bの雌ネジ部も、これに合わせて捩れの向きが同じでネジピッチが互いに異なる大きさとされる。
なお、ヘッド部3Bの後端面よりも僅かに手前に位置して工具本体1先端側を向くカートリッジ取付座6の壁面からは軸線Oに平行にネジ穴が形成されてヘッド部3Bの後端面に貫通させられており、このネジ穴にはカートリッジ7の後端面に当接して切刃9Aの軸線O方向の位置を微調整する軸方向調整ネジ14がねじ込まれている。
一方、このように工具本体1の切刃部3に形成されたカートリッジ取付座6およびその内周側に設けられた振れ調整機構11に対して、このカートリッジ取付座6に取り付けられたカートリッジ7のインサート9の上記切刃9Aとは軸線Oを間にして180°反対側の切刃部3のヘッド部3B先端部には取付凹部15が形成されており、この取付凹部15には、工具本体1の外周側に球面状の凸曲部を有する押圧部材16が工具本体1の外周側に付勢されて取り付けられている。
取付凹部15は、反対側のインサート9の突出させられた切刃9Aより僅かに軸線O方向後端側に位置するように切刃部3のヘッド部3B外周面から軸線Oに垂直に穿設された断面円形の穴部15Aと、この穴部15Aの外周側開口部に穴部15Aの内径より周方向に僅かに幅広に形成されてヘッド部3B先端面から穴部15Aを越えてヘッド部の軸線O方向略中央部まで延び、外周側に「コ」字状に開口する径方向に偏平した溝部15Bとを備えている。また、穴部15Aの穴底側にはパイロット部3Cの先端面からネジ穴15Cが、穴部15Aの中心線に垂直かつ軸線Oに平行に穿設されて連通させられている。
取付凹部15の溝部15Bには、プレート17が嵌合させられて、その後端部に挿通されたクランプネジ18が工具本体1にねじ込まれることにより取り付けられている。このプレート17には、内周部が取付凹部15の穴部15Aと同径の断面円形の穴とされるとともに、外周部は外周側に向かうに従い漸次縮径するテーパ状とされてプレート17の外周面に開口する係止穴17Aが形成されて、プレート17を取り付けた状態でこの係止穴17Aが取付凹部15の穴部15Aと同軸となるようにされている。
また、プレート17の内周面には、プレート17の後端面から先端側に僅かに間隔をあけた位置から係止穴17Aに向けて延びて連通する溝17Bが形成されている。さらに、取付凹部15の溝部15Bの後端部には、上記分岐穴4Aとは別に工具本体1の供給穴4から分岐した他の分岐穴4Bが開口させられて、溝17Bに連通させられている。なお、この他の分岐穴4Bの溝部15Bへの開口部近くには、溝17Bに供給される切削油剤(潤滑油剤)の供給量調整のための小径穴が貫通したプラグ19がねじ込まれている。
こうしてプレート17が取り付けられた取付凹部15の穴部15Aとプレート17の係止穴17Aとには、工具本体1の内周側から順に、付勢力調整部材20Aと、本実施形態において押圧部材16を外周側に付勢する弾性部材としての圧縮コイルバネ21と、当接部材22と、そして上記押圧部材16とが収容されるとともに、上記ネジ穴15Cには付勢力調整ネジ20Bがねじ込まれて、これら付勢力調整部材20Aおよび付勢力調整ネジ20Bにより付勢力調整機構20が構成される。
付勢力調整部材20Aは、穴部15Aに嵌挿可能な外径の略円柱状をなし、ただしその工具本体1内周側に向けられる端部には、この付勢力調整部材20Aがなす円柱の中心線に対して傾斜した平面状の切欠面が形成されていて、この切欠面をネジ穴15C側に向けて穴部15Aに収容されている。また、付勢力調整ネジ20Bは、工具本体1の後端側に向けられる端部が円錐状に形成されており、この端部を付勢力調整部材20Aの上記切欠面に当接させてネジ穴15Cにねじ込まれている。
さらに、弾性部材としての圧縮コイルバネ21も、穴部15Aに嵌挿可能な外径を有するものであって、反対側の切刃9Aに作用する背分力の1/2〜1/5程度の弾性力で押圧部材16を押圧するように圧縮されて穴部15Aに収容されている。また、当接部材22は、これら押圧部材16と圧縮コイルバネ21との間に介装される、穴部15Aに嵌挿可能な円板である。
さらにまた、押圧部材16は、本実施形態では超硬合金等の硬質材料によって形成された球体であって取付凹部15内で転動可能とされ、その直径はやはり穴部15Aに嵌挿可能な大きさとされ、当接部材22を介して圧縮コイルバネ21により外周側に押圧されることによって付勢されて、プレート17の係止穴17Aのテーパ状に縮径した外周部に当接し、その表面の一部を上記球面状の凸曲部としてこの係止穴17Aの開口部から工具本体1の外周側に突出させている。こうして係止穴17Aの開口部から突出した凸曲部の突端までの軸線Oからの半径は、軸線Oから切刃9Aまでの半径よりも僅かに大きくされている。
このように構成された穴加工工具では、軸方向調整ネジ14でカートリッジ7の軸線O方向の位置を調整した上で、各カートリッジ7の切刃9Aの外径を振れ調整機構11によって調整して所定の内径の加工穴が形成されるように一致させる。この振れ調整機構11においては、振れ調整ネジ12を回転させて調整クサビ部材13の調整クサビ13Bを工具本体1先端側に移動させることにより、この調整クサビ13Bの傾斜面13Cが傾斜面13Dを介して調整ピン13Aを押圧して外周側に突出させ、この調整ピン13Aがカートリッジ7の先端部に当接して、この先端部を外周側に撓むように弾性変形させ、これに伴いカートリッジ7先端部に取り付けられたインサート9の切刃9Aの軸線Oからの半径が微調整される。
このとき、上記構成の穴加工工具では、上記インサート取付座7Aが形成された先端部とカートリッジ7を固定するための段付き穴7Bが形成された後端部との間の、カートリッジ7の工具本体1内周側を向く面(カートリッジ7の断面がなす台形の下底に連なる側面に垂直な側面)に、工具本体1にカートリッジ7を取り付けた状態で工具回転方向Tの後方側から前方側に向けて延びるスリット7Cが形成されており、従って切刃9Aが設けられたカートリッジ7の先端部を弾性変形によって外周側に撓ませ易くして、振れ調整を容易に行うことが可能となる。
そして、さらに上記構成の穴加工工具においては、このスリット7Cの深さが、工具回転方向T前方側に向かうに従い漸次深くなるようにされている。このため、振れ調整機構11によってカートリッジ7の先端部を外周側に向けて押圧する際に、工具本体1の周方向にはカートリッジ7先端部はスリット7Cが深くされた工具回転方向T前方側の方が浅くされた工具回転方向T後方側よりも撓み易くなり、結果的にカートリッジ7の先端部はカートリッジ取付座6の工具回転方向T側を向く底面に押し付けられるように撓ませられることになる。
従って、これとは逆に外周側に撓ませられたカートリッジ7先端部がカートリッジ取付座6の底面から離れて僅かに浮き上がったまま振れ調整が行われ、穴加工時にカートリッジ7先端部にがたつきが生じたり、この浮き上がった先端部が切刃9Aに作用する切削負荷によってカートリッジ取付座6底面に押し付けられることにより、調整された切刃9Aの振れが変化したりしてしまうのを防ぐことができるので、上記構成の穴加工工具によれば、より高精度で安定した穴加工を行うことが可能となる。
また、上記構成の穴加工工具では、カートリッジ取付座6に取り付けられたカートリッジ7の先端部を工具本体1外周側に押圧して撓ませることにより、このカートリッジ7のインサート取付座7Aに取り付けられたインサート9の切刃9Aの突出量を調整する振れ調整機構11がカートリッジ取付座6の内周側に備えられており、この切刃9Aの突出量(振れ)も比較的容易に調整することができる。
さらに、本実施形態におけるこの振れ調整機構11は、両端部に雄ネジ部12A、12Bを有して一端部の雄ネジ部12Aが工具本体1に形成された雌ネジ穴に螺合させられる振れ調整ネジ12と、工具本体1のカートリッジ取付座6よりも内周側に収容されてカートリッジ7の内周側を向く面の先端部に当接するとともに振れ調整ネジ12の中心線Cに対して傾斜した傾斜面13C、13Dを有して振れ調整ネジ12の他端部の雄ネジ部12Bに螺合させられる調整クサビ部材13とを備えており、振れ調整ネジ12の両端部の雄ネジ部12A、12Bは捩れの向きが同じでネジピッチが互いに異なる大きさとされている。
従って、振れ調整ネジ12を回転させて調整クサビ部材13を中心線C方向に進退させることにより、この調整クサビ部材13の傾斜面13C、13Dによって該調整クサビ部材13が当接したカートリッジ7先端部を外周側に弾性変形させて撓ませる際に、振れ調整ネジ12の回転量に対する調整クサビ部材13の進退量を雄ネジ部12A、12Bのネジピッチの差分として小さくすることができる。このため、より微少な切刃9Aの振れ調整が可能であって、さらに高精度の穴加工が可能となる。
また、上記調整クサビ部材13はさらに、本実施形態ではカートリッジ取付座6の外周側を向く壁面から出没可能とされてカートリッジ7の内周側を向く面の先端部に当接する調整ピン13Aと、振れ調整ネジ12の他端部の雄ネジ部12Bに螺合させられて上述のように振れ調整ネジ12の中心線C方向に進退可能とされた調整クサビ13Bとを備えており、これら調整ピン13Aと調整クサビ13Bとが、それぞれ振れ調整ネジ12の中心線Cに対して同じ方向に傾斜した上記傾斜面13C、13D同士を互いに摺接させて構成されている。
この点、例えばカートリッジ7の先端部に調整クサビ13Bの傾斜面13Cと同じ方向に傾斜する傾斜面を形成してこれらを互いに摺接させ、調整クサビ13Bの進退によって直接カートリッジ7先端部を押圧して外周側に撓ませることにより振れ調整を行うことも可能ではあるが、その場合にはカートリッジ7先端部と調整クサビ13Bとの当接位置も調整クサビ13Bの進退に伴って変化するのに対し、本実施形態ではカートリッジ7先端部への調整ピン13Aの当接位置は変化することがないので、より安定した切刃9Aの振れ調整を行うことが可能となる。
一方、本実施形態では、こうして振れ調整される切刃9Aに対して、軸線Oを間にして工具本体1先端部(切刃部3のヘッド部3B)の反対側には取付凹部15が形成されており、この取付凹部15には切刃9Aよりも軸線O方向後端側に、工具本体1の外周側に球面状の凸曲部を有する押圧部材16が工具本体1の外周側に付勢されて取り付けられている。ここで、本実施形態の穴加工工具により穴加工を行う際には、付勢力調整機構20により、押圧部材16に与えられる付勢力を調整する。
すなわち、付勢力調整ネジ20Bを回転させてネジ穴15C内で進退させることにより、この付勢力調整ネジ20Bの円錐状の端部に切欠面が当接した付勢力調整部材20Aも取付凹部15の穴部15A内で工具本体1の径方向に進退し、これに伴い弾性部材としての圧縮コイルバネ21の圧縮量が調節されるので、この圧縮コイルバネ21による押圧部材16の付勢力も被削材や加工条件等に応じた適正な強さに調整される。
そこで、こうして切刃9Aの外径と押圧部材16の付勢力が調整されたなら、供給穴4に切削油剤を供給しつつ、工具本体1を軸線O回りに回転させて該軸線O方向先端側に被削材に対して相対的に前進させて、被削材に予め形成された下穴に切刃部3を挿入し、切刃9Aによってこの下穴を切削して上記所定の内径の加工穴に形成する。そして、このように形成された加工穴に押圧部材16が挿入されると、外周側への付勢力に抗して押圧部材16が工具本体1内周側に押し込まれ、この押圧部材16の球面状の凸曲部が加工穴の内壁面に摺接しながら穴加工が行われる。
従って、このように加工面の内壁面に摺接した状態での押圧部材16の凸曲部の突端の外径は加工穴の内径すなわち切刃9Aの外径と等しくなり、各切刃9Aのそれぞれ反対側に位置する押圧部材16と切刃9Aとで工具本体1を支持するようにして穴加工が行われる。このため、本実施形態の穴加工工具によれば、工具本体1に撓みによる振れを生じさせることなく、工具本体1を正確に軸線O回りに回転させて穴加工を行うことができ、ビビリ振動を防止して穴加工精度の向上を図ることができる。
また、本実施形態では、このように切刃9Aによって形成された加工穴に押圧部材16が挿入されることによって付勢力に抗して工具本体1内周側に押し込まれて凸曲部が加工穴の内壁面に摺接するので、従来の穴加工工具に用いられているガイドパッドのように切刃9Aとの微妙なクリアラスの設定を要することがない。さらに、押圧部材16が工具本体1内周側に押し込まれていない状態での凸曲部の突端の外径(軸線Oからの半径)を切刃9Aの外径(同半径)よりもやや大きめに設定したり、付勢力調整機構20によって押圧部材16の付勢力を調整したりすることにより、被削材や加工条件が変わっても確実に凸曲部を加工穴の内壁面に適正な押圧力で押圧して摺接させ、工具本体1を支持することが可能である。
さらにまた、本実施形態では、この押圧部材16が球体とされていて、その全体が球面状の凸曲部とされており、取付凹部15の穴部15Aとプレート17の係止穴17Aに転動可能に収容されている。この点、例えば穴部15Aに嵌挿可能な円柱の工具本体1外周側に半球状部が一体に形成された押圧部材を、半球状部が係止穴17Aから突出するように圧縮コイルバネ21によって付勢して取付凹部15に取り付けてもよいが、その場合には半球状部の突端一点だけが常に加工穴の内壁面と摺接することになり、早期の摩耗を招くおそれがある。
ところが、これに対して本実施形態のように転動可能な球体を押圧部材16として用いると、一点だけが加工穴の内壁面に摺接するのを転動によって避けることができるので、押圧部材16が部分的に摩耗して短寿命となるのを防ぐことができる。特に本実施形態では、この押圧部材16がインサート9の本体と同じ超硬合金等の硬質材料によって形成されているので、摩耗をさらに抑制することができる。
さらに、穴加工時に供給穴4に供給された切削油剤は、分岐穴4Aから切刃9Aに向けて噴出させられて切刃9Aや被削材の切削部位に供給され、これらの潤滑や冷却を行うとともに、他の分岐穴4Bからプレート17の溝17Bを介して押圧部材16が収容された係止穴17Aおよび取付凹部15の穴部15Aにも供給される。そして、球体状の押圧部材16の転動に伴い、切削油剤は押圧部材16と加工穴の内壁面との間にも回り込んでこれらを潤滑するので、本実施形態によれば押圧部材16の摩耗をより一層低減することができる。しかも、この取付凹部15側への切削油剤(潤滑油剤)の供給量は、プラグ19の小径穴によって制限されているので、切刃9Aへの切削油剤の供給量が必要以上に低減するようなことはない。
さらにまた、本実施形態では、押圧部材16を外周側に付勢するのに圧縮コイルバネ21のような弾性部材が用いられているとともに、工具本体1にはこの弾性部材による付勢力を調整する付勢力調整機構20が備えられている。このため、上述のように被削材や加工条件等に応じてこの弾性部材の付勢力を調整する場合でも、圧縮コイルバネ21をバネ定数の異なるものに交換したりすることなく、容易に付勢力の調整が可能である。
さらにまた、本実施形態では、工具本体1先端部の切刃部3におけるヘッド部3B外周に突設させられた複数の切刃9Aのうち、1つの切刃9Aはサライ刃とされて後端側に向けて軸線Oに略平行に延びるようにされるとともに、残りの切刃9Aは後端側に向かうに従いカートリッジ7の上記斜辺に連なる側面側すなわち工具本体1内周側に後退するように傾斜させられている。このため、これら残りの切刃9Aによって切削された加工穴の内壁面に残る凹凸を、サライ刃とされる切刃9Aによって平滑に仕上げることができ、上述のように高精度で、しかも面精度に優れた加工穴を形成することが可能となる。