JP4097732B2 - 切削工具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特にエンジンのシリンダーヘッドにおけるバルブ穴の加工等に用いて最適な切削工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の切削工具として、本発明の発明者等は、特開平7−241710号公報において、図2ないし図5に示すようなものを提案している。
これらの図において工具本体1は略円錐状をなし、アダプタ2を介して図示しない工作機械の主軸端等に装着され、その軸線O回りに回転されて切削加工に供される。また、この工具本体1の先端には上記軸線Oに沿ってブッシュ3が装着されており、このブッシュ3には、ガンリーマ等の穴加工工具(図示略)が嵌挿されて、軸4により工具本体1に対して進退可能とされる。さらに、上記工具本体1の先端部外周には3つの切刃チップ5A,5B,5Cが設けられており、これらの切刃チップ5A,5B,5Cのうち、二つの切刃チップ5B,5Cは工具本体1に直接的に固定される一方、残りの一の切刃チップ5Aは、工具本体1がなす円錐の母線方向に沿ってスライド可能に取り付けられている。
【0003】
すなわち、工具本体1にはその円錐形状の母線の方向に沿って、つまり軸線Oに斜交する方向に、図2に示すように凹溝6が形成されており、この凹溝6にはスライダー7が該凹溝6に沿って摺動可能に装着されていて、上記切刃チップ5Aはこのスライダー7に着脱自在に固定されているのである。
ここで、この凹溝6は、互いに平行な一対の対向する壁面6a,6bと、これらの壁面6a,6bに直交する底面6cとにより画成されてなるものであって、この凹溝6内には、工具回転方向Tを向く壁面6a側にスペーサー8が、また工具回転方向Tの後方側を向く壁面6b側にはクサビ部材9が、それぞれクランプボルト10…,11…により着脱自在に取り付けられており、上記スライダー7はこれらスペーサー8とクサビ部材9との間に介装されている。
【0004】
上記スペーサー8は、工具本体1への装着状態において凹溝6の略全長に亙って延びるように形成された板状の部材であって、凹溝6の上記壁面6aおよび底面6cに密着するように取り付けられているとともに、このスペーサー8の凹溝6の内側を向く側面、すなわち工具回転方向Tを向く側面には、上記母線方向に沿って延びるように断面波型のセレーション溝8aが係合部として形成されている。
また、クサビ部材9もスペーサー8と同様、工具本体1への装着状態において凹溝6の全長に亙って延びるように形成されており、その工具回転方向T側を向く側面9aが上記壁面6bに密着するようにして取り付けられるとともに、凹溝6の内側、すなわち工具回転方向Tの後方側を向く側面9bは、凹溝6の底面6c側に向かうに従い上記側面9a側に向かう傾斜面とされている。
【0005】
さらに上記スライダー7は、図2に示すように「く」字状に曲折する角柱状部材であって、その基端側が凹溝6内に配置されるとともに、先端部には上記切刃チップ5Aが着脱自在に取り付けられている。
そして、このスライダー7の基端部には、上記壁面6a側を向く一方の側面に、スペーサー8のセレーション溝8aと密着する断面波型のセレーション溝7aが被係合部として形成される一方、反対側の壁面6b側を向く他方の側面7bは、クサビ部材9の側面9bがなす傾斜に合わせて、凹溝6の底面6c側に向かうに従い上記一方の側面側から離間する傾斜面とされている。なお、クサビ部材9に挿通されたクランプボルト11には皿バネ12が圧縮された状態で緩挿されており、この皿バネ12がクサビ部材9を凹溝6の底面6c側に付勢することにより、スライダー7が常にスペーサー8側に押し付けられて両セレーション溝7a,8aが合致した状態が維持されるようになされている。
【0006】
一方、工具本体1およびアダプタ2の内部には、それぞれ軸線Oに沿って取付穴1a,2aが形成されており、これらの穴1a,2aにはスライド軸13およびカップリング部材14が挿通されている。このカップリング部材14はキー14aを介して上記取付穴1aに嵌着されており、これによってカップリング部材14は、工具本体1と上記軸線O回りに一体的に回転可能、かつスライド軸13を進退させることによって上記取付穴1a内を進退可能とされている。
さらに、工具本体1の上記凹溝6と取付穴1aとは貫通穴6dを介して連通している一方、スライダー7にはこの貫通穴6aを通って取付穴1aに突出する連結ピン15が取り付けられており、この連結ピン15の先端がカップリング部材14の斜孔14bに嵌挿されることによってスライダー7はカップリング部材14に連結されていて、スライド軸13によって上述のようにカップリング部材14を進退させることにより、スライダー7が凹溝6内を摺動して切刃チップ5Aを軸線Oに斜交する方向にスライドさせるようになされている。
【0007】
このような構成の切削工具によって上述したようなバルブ穴の加工を行うには、上記ブッシュ3に穴加工工具を装着して軸4により工具本体1の基端側に引き込んだ上で、工具本体1を軸線O回りに回転しつつ該軸線O方向に送りを与え、まず固定された上記二つの切刃チップ5B,5Cによって図5に示すように穴の開口部に面取りC,Cを形成する。
そして、このように面取りC,Cが形成されたなら、工具本体1を回転させたまま一旦工具本体1を僅かに後退させ、次いで上記スライド軸13を突き出してカップリング部材14を前進させることにより、上述のように連結ピン15を介してスライダー7をスライドさせ、切刃チップ5Aを上記移動軌跡Rに沿って移動させて穴の開口部にテーパ面Pを形成する。しかる後、なお工具本体1を回転させたまま、軸4により上記穴加工工具を前進させてバルブ穴の内部に挿入し、このバルブ穴自体の仕上げ加工を行う。
【0008】
なお、上記図5は、切刃チップ5A,5B,5Cの軸線O回りの回転軌跡を示すものであり、この図5に示されるように上記二つの切刃チップ5B,5Cは、その切削に供される切刃部分5b,5cが回転軌跡において互いに鈍角に交差するように配置されている。
一方、切刃チップ5Aの切刃部分5aがスライダー7を摺動させることにより移動する移動軌跡Rは、切刃チップ5B,5Cの上記切刃部分5b,5cの間において、両切刃部分5b,5cに鈍角に交差する方向に延びるように配置されている。さらに図中符号Sで示すのは、バルブ穴等の開口部周縁に嵌装される焼結合金等の硬質部材である。
【0009】
しかるに、このように構成された切削工具では、切刃チップ5Aに作用する切削負荷は、スライダー7を介して主にスペーサー8により受けとめられることとなり、またこのスライダー7の摺動による摩耗も専らスペーサー8やクサビ部材9に生じるため、かかる切削負荷やスライダー7の摺動によって工具本体1が損傷したりすることがなく経済的であり、またスペーサー8やクサビ部材9は交換可能であるので、これらに摩耗や変形が生じた場合でも、容易かつ速やかに加工精度の回復を図ることができる。
さらに、上記切削工具では、皿バネ12によってクサビ部材9が凹溝6の底面6c側に付勢されるのに伴い、スライダー7も常にスペーサー8側に押し付けられているため、スペーサー8とスライダー7との両セレーション溝7a,8aに多少の摩耗が生じても、スライダー7のガタつきを抑えることができるという効果も奏されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記切削工具では、このように皿バネ12によってクサビ部材9が底面6c側に付勢されることにより、凹溝6の底面6c側に向かうに従い壁面6b側に向かって傾斜したクサビ部材9の側面9bがスライダー7の他方の側面7bを押圧して、スライダー7をスペーサー8側に押し付けるため、スライダー7に、スペーサー8側に向かう押付力とともに凹溝6の底面6c側に向かう押付力が作用することは避けられない。そして、この後者の押付力により、スライダー7の下面7cが凹溝6の底面6cに押し付けられて両面が摩耗するおそれが生じるとともに、互いに係合する上記セレーション溝7a,8aにおいても、セレーション溝7aの底面6c側を向く部分と、これに接触するセレーション溝8aの工具外周側(図3において上側)を向く部分との間で、他の部分よりも偏って摩耗が促進されてしまうおそれもあった。
【0011】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のような切刃チップがスライド可能とされた切削工具において、スライダーに凹溝の底面側に向かう押付力を生じさせることがなく、スライダー下面と凹溝底面との摩耗やセレーション溝(係合部および被係合部)の偏摩耗を防いで、一層確実にスライダーのガタつきを抑えることが可能な切削工具を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決して、かかる目的を達成するために、本発明は、工具本体の母線方向に延びる凹溝の互いに対向する一対の壁面のうち、一方の壁面とスライダーとの間に、上記母線方向に延びる係合部を備えたスペーサーを着脱自在に介装するとともに、このスペーサーに当接せしめられる上記スライダーの一方の側面には、上記係合部に係合する被係合部が形成する一方、該スライダーの他方の側面と上記凹溝の他方の壁面との間にはプレートを介装して付勢部材としてのバネにより上記凹溝の一方の壁面側に常に付勢し、上記スライダーの他方の側面とこの他方の側面側を向く上記プレートの一方の側面とに、互いに密着可能な断面V字型の凸部と凹部とを形成し、上記V字型を形成する一対の傾斜面の断面がなすV字の二等分線は、上記凹溝の底面に密着するスライダーの下面に平行とされ、上記プレートが付勢されることにより上記スライダーに作用する押圧力のうち、このスライダーを上記凹溝の一方の壁面側に押し付ける方向の成分に直交する方向の成分が、それぞれの前記傾斜面で大きさが等しく方向が逆となるようにされていることを特徴とする。従って、上記プレートが凹溝の一方の壁面側に付勢されることにより、スライダーは、その他方の側面とプレートの一方の側面との断面V字型の凸部と凹部とを介して押し付けられることとなり、このプレートからスライダーに与えられる押付力のうち、上記凸部および凹部がなすV字型の一対の傾斜面の二等分線に垂直な方向に作用する押付力、すなわち凹溝の底面に垂直な方向の押付力は、互いに反対向きとなって相殺されることとなるため、凹溝の底面側に作用する押付力を低減することができる。
【0013】
ここで、上記プレートを凹溝の一方の壁面側に付勢するには、例えば上記凹溝の他方の側面に、上記工具本体の外周から貫通孔を穿設して開口せしめ、この貫通孔に、先端が上記プレートの他方の側面に当接して該プレートを上記凹溝の一方の壁面側に付勢する付勢部材を挿入するとともに、この付勢部材の後端には、上記貫通孔にクランプネジをねじ込んで当接せしめるようにすればよく、このような構成を採った場合、上記クランプネジのねじ込み深さによって付勢部材がプレートを付勢する力を調整することができる。
また、この場合、上記貫通孔に、上記クランプネジの先端に当接してそのねじ込み深さを調節する調節部材を装着すれば、クランプネジが必要以上にねじ込まれてスライダーが過大な押付力を受けるような事態を防止することができる。
【0014】
さらに、上記凸部および凹部のV字状をなす一対の傾斜面は、その断面においてこれら一対の傾斜面の二等分線に垂直な線に対する傾斜角が1°〜45°の範囲となるように設定するのが望ましく、この傾斜角が上記範囲を下回るほど小さいと、プレートの付勢力に対するスライダーの押付力が小さくなるため、より大きな付勢力が必要とされることとなる一方、逆に上記傾斜角が上記範囲を上回るほど大きいと、上記凸部の高さおよび凹部の深さが大きくなり、これに伴いスライダーやプレートの幅も大きくしなければならなくなってしまう。
【0015】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の一実施形態を示すものであるが、本実施形態は、基本的構成については図2ないし図5に示した従来の切削工具と同様であるので、共通する部分については同一の符号を配して説明を簡略化する。
すなわち、本実施形態では、凹溝6の底面6cに直交する断面図である上記図1に示す通り、スライダー7の工具回転方向Tを向く他方の側面に、凹溝6の工具回転方向T後方側を向く他方の壁面6b側に向けて凸となる断面V字型の凸部21が形成される一方、この他方の側面と凹溝6の上記他方の壁面6bとの間にはプレート22が付勢手段23により凹溝6の一方の壁面6a側に付勢されて介装されており、このプレート22のスライダー7側を向く一方の側面に、凹溝6の上記他方の壁面6b側に向けて凹む断面V字型の凹部24が形成されて上記凸部23と密着させられている。なお、凹溝6の上記一方の壁面6aとスライダー7の間にはスペーサー8が介装され、これらスペーサー8の他方の側面とスライダー7の一方の側面とにセレーション溝8a,7aが係合部および被係合部として形成されて互いに係合している点は、上記従来の切削工具と同様である。
【0016】
ここで、上記凸部21は、スライダー7の上記他方の側面が、該スライダー7の厚さ方向(図1において上下方向)の両端から中央部に向かうに従い、上記一方の側面側から離間する方向に向けて互いに接近して交差する一対の傾斜面21a,21aによって形成されることにより、上述のように断面V字状の山型に画成されてなるものであり、これらの傾斜面21a,21aの断面がなすV字の二等分線は、凹溝6の底面6cに密着するスライダー7の下面7cに平行となるように、かつスライダー7の厚さの1/2の位置を通るように設定されている。また、この断面において上記二等分線に垂直な直線L、すなわちスライダー7の下面7cに直交する線に対し、上記傾斜面21a,21aがなす傾斜角θは、本実施形態では1°〜45°の範囲に設定されている。従って、傾斜面21a,21a同士がなす交差角は、本実施形態では178°〜90°の範囲に設定されることとなる。
【0017】
また、上記プレート22は、上記スペーサー8と同様に工具本体1への装着状態において凹溝6の略全長に亙って延びるように配設された板状部材であって、上記凹部とは反対側の他方の側面22aおよび下面22bは、それぞれ凹溝6の他方の壁面6bおよび底面6cに密着可能とされている。
そして、このプレート22に形成される上記凹部24は、その上記一方の側面が、該プレート22の厚さ方向(図1において上下方向)の両端から中央部に向かうに従い、上記他方の側面22a側に向けて互いに接近して交差する一対の傾斜面24a,24aにより、上述のような断面V字状の谷型に画成されてなるものであり、これらの傾斜面24a,24aの断面がなすV字の二等分線は、工具本体1への装着状態において上記凸部21の傾斜面21a,21aの二等分線と一致するように設定されるとともに、この二等分線に垂直な直線Lに対して上記傾斜面24a,24aがなす傾斜角θも傾斜面21a,21aの傾斜角θと一致させられている。
【0018】
一方、このプレート22を付勢する上記付勢手段23は、凹溝6の他方の壁面6bから工具本体1の外周面に向けて該壁面6bに垂直に貫通孔25が穿設され、この貫通孔25の工具本体1外周面側に形成された雌ねじ部25aに、該貫通孔25を閉塞するように円板状のクランプネジ26がねじ込まれるとともに、このクランプネジ26とプレート22の上記他方の側面22aとの間に、付勢部材としての皿バネ27…が圧縮された状態で介装されてなるものであり、圧縮されたこの皿バネ27…の先端がプレート22の上記側面22aに当接することにより、プレート22が凹溝6の上記一方の壁面6a側に常に一定の付勢力で付勢されるようになされている。
また、上記貫通孔25の上記雌ねじ部25aよりも凹溝6側は、雌ねじ部25a側に向けて一段拡径する多段状に形成されるとともに、この拡径した部分には円筒状の調節部材28が取り付けられており、上記皿バネ27…はこの調節部材28の内周に緩挿されるとともに、上記クランプネジ26は、その先端がこの調節部材28に当接することにより、雌ねじ部25aへの最大ねじ込み深さが決定されるようになされている。
【0019】
しかるに、このように構成された切削工具では、上記プレート22が付勢手段23によって付勢されることによりスライダー7に作用する押付力のうち、このスライダー7を凹溝6の上記一方の壁面6a側に押し付ける方向の成分に直交する方向の成分、すなわち上記直線L方向に作用する成分は、スライダー7とプレート22とが断面V字型の凸部21と凹部24とによって密着していることにより、それぞれの傾斜面21a,21aと傾斜面24a,24aとで大きさが等しく方向が逆となるため互いに相殺されることとなり、スライダー7にこれを凹溝6の底面6c側に押し付けようとする力が作用することはない。
このため、上記構成の切削工具によれば、上記一方の壁面6a側への押付力によって常にセレーション溝7a,8aを確実に噛み合わせることによりスライダー7のガタつきが防止されるのは勿論のこと、上記底面6c側への押付力によってスライダー7の下面7cと上記底面6cとの間の摩耗が促進されたり、セレーション溝7a,8aの間に偏摩耗が生じたりするのを防いで、このような摩耗によるスライダー7のガタつきをも防止することができ、従って各部材の寿命を延長せしめて当該切削工具のメインテナンスフリー化を促しつつも、高精度の切削加工を図ることができる。
【0020】
また、本実施形態では、上記プレート22を付勢する付勢手段23が、凹溝6の上記他方の側面6bに穿設された貫通孔25に、先端がプレート22の他方の側面22aに当接する付勢部材としての皿バネ27…が挿入されるとともに、この皿バネ27…の後端に、上記貫通孔25の雌ねじ部25aにねじ込まれるクランプネジ26が当接せしめられた構成とされており、このクランプネジ26のねじ込み量を調整することによって皿バネ27…によるプレート22の付勢力を容易に調整することができる。従って、この付勢力によるスライダー7のスペーサー8への押付力も容易かつ適正に設定することが可能となるので、押付力が強すぎてセレーション溝7a,8a等の摩耗が促進されたり、逆に押付力が弱すぎてスライダー7にガタつきが生じたりする事態をも未然に防止することができる。
【0021】
加えて本実施形態では、上記貫通孔25に、クランプネジ26の先端に当接してそのねじ込み深さを調節する調節部材28が装着されているので、特にプレート22に過大な付勢力が作用するのを確実に防止することができる。このため、上記セレーション溝7a,8a等の摩耗をさらに抑えてスライダー7やスペーサー8の寿命の延長を図ることができるとともに、過大な付勢力によってスライダー7がスペーサー8に強く押し付けられてその円滑な摺動が阻害されるような事態をも防ぐことができる。
しかも、この調節部材28によるクランプネジ26の最大ねじ込み深さは、該調節部材28を長さの異なるものに交換することにより、容易に適当な深さに変更可能であるため、本実施形態によれば、セレーション溝7a,8aの摩耗状況や皿バネ27…の付勢力に応じた適正なねじ込み深さを、簡単にクランプネジ26に与えることが可能であるという利点も得られる。
【0022】
さらにまた、本実施形態ではスライダー7やスペーサー8、あるいはプレート22を交換する際でも、スペーサー8を固定するクランプボルト10…のみを取り外せば良く、交換作業を容易とすることができるという利点も得られる。
そして、これにも拘わらず、スライダー7はセレーション溝7a,8aによってスペーサー8に係合し、またスライダー7とプレート22も、スライダー7の凸部21にプレート22の凹部24が密着することにより、両者が互いに係止された状態となっているので、スライダー7やプレート22を工具本体1の軸線Oに対する径方向に係止する係止部材等を特に設けずとも、これらスライダー7やプレート22が切削加工時等に工具本体1の径方向にガタついたり、凹溝6から脱落したりすることがなく、安定した切削を促すことができる。
【0023】
さらに本実施形態では、上記凸部21および凹部24を画成する傾斜面21a,21aおよび傾斜面24a,24aがその二等分線に直交する直線Lに対してなす傾斜角θが1°〜45°の範囲に設定されている。これにより、例えば凸部21の突出高さや凹部24の深さが深くなり過ぎて、スライダー7やプレート22の幅(図1における左右方向の幅)が大きくなってしまうのを防ぐことができる一方、逆にこの傾斜角θが小さくなり過ぎて凸部21と凹部24とが平面に近くなり、両者の傾斜面21a,21aと傾斜面24a,24aとの接触面積が減少してスライダー7の保持が不安定となったりするような事態をも未然に防止することができる。
【0024】
なお、本実施形態では、上述のようにスライダー7の他方の側面に凸部21を形成するとともにプレート22の一方の側面に凹部24を形成したが、これら凸部21と凹部24とは逆に形成されていてもよい。また、本実施形態では付勢手段23における付勢部材として皿バネ27…を用いているが、所望の付勢力が得られるのであれば付勢部材としてコイルスプリングなどを用いることもできる。さらに、プレート22を安定的に付勢してスライダー7を全長に亙って均一な押付力でスペーサー8側に押し付けるには、複数の付勢手段23を凹溝6が延びる方向、すなわち工具本体1がなす円錐の母線の方向に間隔をおいて設けるようにしてもよい。
【0025】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、スライダーと凹溝の他方の壁面とに間に、付勢部材としてのバネによって凹溝の一方の壁面側に常に付勢されるプレートを介装し、このプレートの一方の側面とこれに対向するスライダーの他方の側面とに断面V字型の凸部と凹部とを形成して互いに密着させるとともにV字型を形成する一対の傾斜面の断面がなすV字の二等分線が、上記凹溝の底面に密着するスライダーの下面に平行とされ、上記プレートが付勢されることにより上記スライダーに作用する押圧力のうち、このスライダーを上記凹溝の一方の壁面側に押し付ける方向の成分に直交する方向の成分が、それぞれの前記傾斜面で大きさが等しく方向が逆となるようにされていることにより、スライダーをスペーサー側に常に押し付けて互いの係合部と被係合部とを確実に係合させることができる一方、このスライダーを凹溝の底面側に押し付ける押付力が作用するのを抑えることができ、従ってスライダー下面と凹溝底面との摩耗や上記係合部と被係合部との偏摩耗を防いで、各部材の寿命の延長を図ることができるとともに、かかる摩耗によるスライダー等のガタつきをも防止して高精度の切削加工を促すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態を示す、図2におけるZZ断面に相当する断面図である。
【図2】 従来の切削工具を示す断面図である。
【図3】 図2に示す切削工具の正面図である。
【図4】 図2に示す切削工具のZZ断面図である。
【図5】 図2に示す切削工具の切刃チップ5A,5B,5Cの軸線O回りの回転軌跡を示す図である。
【符号の説明】
1 工具本体
5A,5B,5C 切刃チップ
6 凹溝
6a 凹溝6の工具回転方向Tを向く一方の壁面
6b 凹溝6の工具回転方向T後方側を向く他方の壁面
6c 凹溝6の底面
7 スライダー
7a セレーション溝(被係合部)
8 スペーサー
8a セレーション溝(係合部)
21 凸部
21a 凸部21の傾斜面
22 プレート
23 付勢手段
24 凹部
24a 凹部24の傾斜面
25 貫通孔
26 クランプネジ
27 皿バネ(付勢部材)
28 調節部材
T 工具回転方向
L 傾斜面21a,21aおよび24a,24aの二等分線に垂直な直線
θ 直線Lに対する傾斜面21a,21aの傾斜角
Claims (4)
- 軸線回りに回転される略円錐状の工具本体に、この円錐の母線方向に沿って凹溝が形成され、この凹溝内に、切刃チップを備えたスライダーが該凹溝に沿って摺動可能に装着されてなる切削工具において、
上記凹溝の互いに対向する一対の壁面のうち、一方の壁面と上記スライダーとの間には、上記母線方向に延びる係合部を備えたスペーサーが着脱自在に介装されるとともに、このスペーサーに当接せしめられる上記スライダーの一方の側面には、上記係合部に係合する被係合部が形成される一方、該スライダーの他方の側面と上記凹溝の他方の壁面との間にはプレートが介装されて付勢部材としてのバネにより上記凹溝の一方の壁面側に常に付勢されており、上記スライダーの他方の側面とこの他方の側面側を向く上記プレートの一方の側面とには、互いに密着可能な断面V字型の凸部と凹部とが形成され、
上記V字型を形成する一対の傾斜面の断面がなすV字の二等分線は、上記凹溝の底面に密着するスライダーの下面に平行とされ、上記プレートが付勢されることにより上記スライダーに作用する押圧力のうち、このスライダーを上記凹溝の一方の壁面側に押し付ける方向の成分に直交する方向の成分が、それぞれの前記傾斜面で大きさが等しく方向が逆となるようにされていることを特徴とする切削工具。 - 上記凹溝の他方の側面には、上記工具本体の外周から穿設された貫通孔が開口しており、この貫通孔には、先端が上記プレートの他方の側面に当接して該プレートを上記凹溝の一方の壁面側に付勢する上記付勢部材が挿入されるとともに、この付勢部材の後端には、上記貫通孔にねじ込まれるクランプネジが当接せしめられることを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
- 上記貫通孔には、上記クランプネジの先端に当接してそのねじ込み深さを調節する調節部材が装着されていることを特徴とする請求項2に記載の切削工具。
- 上記凸部および凹部のV字状をなす一対の傾斜面は、その断面においてこれら一対の傾斜面の二等分線に垂直な線に対する傾斜角が1°〜45°の範囲となるように設定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の切削工具。
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