以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態にかかる電動機駆動装置について説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる電動機駆動装置の一構成例を示す図である。図1に示すように、実施の形態1にかかる電動機駆動装置1は、交流電源2および電動機3に接続され、交流電源2から第1の交流電圧が供給され、電動機3を駆動する第2の交流電圧に変換して電動機3に出力する。
電動機駆動装置1は、コンバータ回路4、平滑回路5、インバータ回路6、電流検出回路7、電動機駆動制御部10、および駆動回路20a,20bを備え構成される。
コンバータ回路4は、電動機駆動制御部10からの直流電圧指令値に基づいて、交流電源2から供給される第1の交流電圧を直流電圧に変換する。平滑回路5は、コンバータ回路4の出力電圧を平滑する平滑用コンデンサ5aを備えている。
インバータ回路6は、半導体スイッチ素子6a,6bおよびダイオード6c,6dを備え、これら半導体スイッチ素子6a,6bおよびダイオード6c,6dで上下一対のアームが構成され、平滑された直流電力を所望の交流電力に変換して電動機3に出力する。なお、インバータ回路6を構成するアームの数は、電動機3の構成によって変わる。例えば、電動機3が三相交流電動機であれば、インバータ回路6は、上限三対のアームと三相の出力を持つフルブリッジ型の回路となる。また、インバータ回路6は、電動機3を駆動するものであれば、どのような構成であってもよい。
駆動回路20a,20bは、スイッチング時間制御部15を備え、電動機駆動制御部10からの駆動パルス信号、ターンオン時間指令値、およびターンオフ時間指令値に基づいて、インバータ回路6の半導体スイッチ素子6a,6bを駆動する。
電流検出回路7は、電動機3に流れる電流を検出して電動機駆動制御部10に出力する。なお、電流検出回路7は、例えば、インバータ回路6が三相の出力を持つときは、三相全ての電流を検出するものであってもよいし、三相のうちの任意の二相の電流を検出して他の一相の電流を算出するものであってもよい。もしくは、電流検出回路7を平滑回路5とインバータ回路6との間に設け、平滑回路5とインバータ回路6との間に流れる電流を検出し、インバータ回路6の半導体スイッチ素子の状態に応じて各相の電流を算出するものであってもよい。また、電流検出回路7は、電動機3に流れる電流を検出するものであれば、どのような構成であってもよい。以下、電動機3に流れる電流を「電動機電流」という。
電動機駆動制御部10は、制御要素制御部11、直流電圧指令生成部12、スイッチング周波数指令生成部13、および駆動パルス信号生成部14を備えている。
制御要素制御部11は、外部からの運転指令と、電流検出回路7から入力された電動機電流に基づいて算出したインバータ回路6および電動機3の損失量とに基づいて、コンバータ回路4が出力する出力電圧値、半導体スイッチ素子6a,6bを駆動する駆動パルス信号のスイッチング周波数、駆動パルス信号の1周期における半導体スイッチ素子6a,6bのオン期間の比率を示すスイッチングパルス変調度、スイッチングパルス変調度の周波数、半導体スイッチ素子6a,6bのターンオンおよびターンオフに要する時間であるターンオン時間およびターンオフ時間を含む各制御要素を制御し、それぞれ、出力電圧値情報、スイッチング周波数情報、スイッチングパルス変調度とその周波数とを含むスイッチングパルス変調度情報、ターンオン時間情報、およびターンオフ時間情報として出力する。なお、制御要素制御部11は、出力電圧値を制御する際には、コンバータ回路出力電圧制御手段として機能し、スイッチング周波数を制御する際には、スイッチング周波数制御手段として機能し、スイッチングパルス変調度およびスイッチングパルス変調度の周波数を制御する際には、スイッチングパルス変調度制御手段として機能し、ターンオン時間およびターンオフ時間を制御する際には、スイッチングスピード制御手段として機能する。
直流電圧指令生成部12は、制御要素制御部11から出力された出力電圧値情報に基づいて、直流電圧指令値を生成してコンバータ回路4に出力する。
スイッチング周波数指令生成部13は、制御要素制御部11から出力されたスイッチング周波数情報に基づいて、スイッチング周波数指令値を生成して駆動パルス信号生成部14に出力する。
駆動パルス信号生成部14は、制御要素制御部11から出力されたスイッチングパルス変調度情報およびスイッチング周波数指令生成部13から出力されたスイッチング周波数指令値に基づいて、駆動パルス指令値を生成すると共に、制御要素制御部11から出力されたターンオン時間情報およびターンオフ時間情報に基づいて、ターンオン時間指令値およびターンオフ時間指令値を生成して、駆動パルス指令値およびターンオフ時間指令値を駆動回路20a,20bに出力する。
つぎに、実施の形態1にかかる電動機駆動装置1の動作について説明する。上述したように、制御要素制御部11は、外部からの運転指令と、電流検出回路7から入力された電動機電流に基づいて算出したインバータ回路6および電動機3の損失量とに基づいて、コンバータ回路4が出力する出力電圧値、半導体スイッチ素子6a,6bを駆動する駆動パルス信号のスイッチング周波数、駆動パルス信号の1周期における半導体スイッチ素子6a,6bのオン期間の比率を示すスイッチングパルス変調度、半導体スイッチ素子6a,6bのターンオンおよびターンオフに要する時間であるターンオン時間およびターンオフ時間を制御する。つまり、本実施の形態では、制御要素制御部11は、インバータ回路6および電動機3の各損失量を合計した合計損失が小さくなるように、出力電圧値、スイッチング周波数、スイッチングパルス変調度、ターンオン時間およびターンオフ時間を含む各制御要素を制御する。
制御要素制御部11は、電流検出回路7から入力された電動機電流に基づいて、インバータ回路6の半導体スイッチ素子6a,6bおよびダイオード6c,6dに発生する導通損失、スイッチング損失、電動機3の巻線に発生する銅損、電動機3に発生する鉄損を計算し、それらの合計損失を求める。
まず、導通損失の計算手法について説明する。本実施の形態では、半導体スイッチ素子6a,6bおよびダイオード6c,6dの導通により生じる1秒あたりの損失量を導通損失とする。図2は、定常状態における半導体スイッチ素子およびダイオードに流れる電流と電圧との関係の一例を示す図である。図2(a)は、半導体スイッチ素子のコレクタ電流Icとコレクタ−エミッタ間飽和電圧Vce(sat)との関係を示すIc−Vce(sat)特性の一例を示し、図2(b)は、ダイオードの順方向電流Ifと順方向電圧Vfとの関係を示すIf−Vf特性の一例を示している。半導体スイッチ素子6a,6bにオン信号を与えコレクタ電流Icが流れると、Icの電流値に応じたコレクタ−エミッタ間飽和電圧Vce(sat)が発生する。半導体スイッチ素子6a,6bにはIcとVce(sat)の積が導通損失として発生する。同様に、ダイオード6c,6dに順方向電流Ifが流れると、Ifの電流値に応じた順方向電圧Vfがアノード−カソード間に発生することから、ダイオード6c,6dにはIfとVfの積が導通損失として発生する。
半導体スイッチ素子6a,6b、ダイオード6c,6dに、それぞれ時間Tだけ電流が流れたとき、半導体スイッチ素子6a,6bに発生する損失量Ecs、ダイオード6c,6dに発生する損失量Ecdはそれぞれ下記(1),(2)式で表すことができる。
Ecs=Ic×Vce(sat)×T …(1)
Ecd=If×Vf×T …(2)
図3は、半導体スイッチ素子の状態と半導体スイッチ素子およびダイオードに電流が流れる期間とを示したタイミングチャートである。図3(a)は、電動機電流Iaが正である場合のタイミングチャートを示し、図3(b)は、電動機電流Iaが負である場合のタイミングチャートを示し、それぞれ駆動パルス信号の1周期にわたり示している。ここで、電動機電流Iaが正(Ia>0)とは、電動機3に流れる電流の方向がインバータ回路6から電動機3への向きであるときとし、電動機電流Iaが負(Ia<0)とは、電動機3に流れる電流の方向が電動機3からインバータ回路6への向きであるときとする。なお、この電動機電流Iaの符号については、以降の説明においても同様とする。また、以降の説明では、駆動パルス信号の1周期に相当する時間を、「スイッチング周期Tc」という。
通常、インバータ回路6の制御では、スイッチング周期Tcの間に、半導体スイッチ素子6aがオンとなる期間と、半導体スイッチ素子6bがオンとなる期間とを設ける。このとき、半導体スイッチ素子6a,6bの一方がオンとなり、両方が同時にオンとなる期間を設けることはない。ここで、あるスイッチング周期Tcにおける半導体スイッチ素子6aのオン期間の比率、つまり、図3(a)に示す例において、あるスイッチング周期Tcにおけるスイッチングパルス変調度Daを「Duty」とすると、半導体スイッチ素子6aのオン期間Tca、および、半導体スイッチ素子6bのオン期間Tcbは、それぞれ下記(3),(4)式で表すことができる。
Tca=Tc×Duty …(3)
Tcb=Tc×(1−Duty) …(4)
Iaが正値(Ia>0)のとき(図3(a)参照)、半導体スイッチ素子6aのオン期間では、半導体スイッチ素子6aが導通して電流が流れ、半導体スイッチ素子6bのオン期間では、ダイオード6dが導通して電流が流れる。よって、インバータ回路6でスイッチング周期Tcにわたって発生する損失量Ecc(Ia>0)は、下記(5)式で表すことができる。
Ecc(Ia>0)=Ic×Vce(sat)×Tca+If×Vf×Tcb
=Ic×Vce(sat)×Tc×Duty
+If×Vf×Tc×(1−Duty) …(5)
Iaが負値(Ia<0)のとき(図3(b)参照)、半導体スイッチ素子6aのオン期間では、ダイオード6cが導通して電流が流れ、半導体スイッチ素子6bのオン期間では、半導体スイッチ素子6bが導通して電流が流れる。よって、インバータ回路6でスイッチング周期Tcにわたって発生する損失量Ecc(Ia<0)は、下記(6)式で表すことができる。
Ecc(Ia<0)=Ic×Vce(sat)×Tcb+If×Vf×Tca
=Ic×Vce(sat)×Tc×(1−Duty)
+If×Vf×Tc×Duty …(6)
ここで、Vce(sat)は、図2(a)に示すIc−Vce(sat)特性に基づいて、Icにより決まる。また、Vfは、図2(b)に示すIf−Vf特性に基づいて、Ifにより決まる。IcおよびIfは、いずれも電動機電流Iaの瞬時値であるので、制御要素制御部11があらかじめ図2に示したIc−Vce(sat)特性およびIf−Vf特性をテーブル等によって保持しておくことにより、IaよりVce(sat)およびVfを求めることができる。つまり、制御要素制御部11は、自身が制御するスイッチングパルス変調度Daと、電流検出回路7から入力された電動機電流Iaと、あらかじめ保持したIc−Vce(sat)特性およびIf−Vf特性により、スイッチング周期Tc毎の損失量を求めることができる。
したがって、このスイッチング周期Tc毎の損失量を逐一計算し、スイッチング周期Tcに対して十分に長い任意の期間にわたって加算してその期間で除することにより、半導体スイッチ素子6a,6bおよびダイオード6c,6dの導通により生じる1秒あたりの平均的な発生損失量、すなわちインバータ回路6で発生する導通損失を得ることができる。
また、上記した導通損失の計算では、スイッチング周期Tc毎の損失量を逐一計算して1秒あたりの損失量を求めて導通損失としたが、任意の期間にわたる損失量を概算して導通損失を求めてもよい。以下の説明では、電動機電流Iaもしくはスイッチングパルス変調度Daの1周期Taにおいて半導体スイッチ素子6a,6bおよびダイオード6c,6dの導通により生じる損失量を求め、電動機電流Iaもしくはスイッチングパルス変調度Daの周波数faを乗じて導通損失を求める手法について説明する。
図4は、スイッチングパルス変調度、電動機電流、および、コレクタ−エミッタ間飽和電圧の模式図である。図4において、実線で示す線は電動機電流Iaを示し、破線で示す線はコレクタ−エミッタ間飽和電圧Vce(sat)を示し、一点鎖線で示す線は正弦波近似したスイッチングパルス変調度Daを示している。スイッチングパルス変調度Daは、(3)〜(6)式のDutyと同等であり、そのピーク値もしくは実効値を模擬的に表すものである。なお、図4では、ダイオード6c,6dの順方向電圧Vfは示していないが、コレクタ−エミッタ間飽和電圧Vceと概ね同等の傾向を示す。
電動機電流Iaの瞬時値が、例えば、正弦波の関数として表現可能であれば、電動機電流Iaの瞬時値、そのときの半導体スイッチ素子6a,6bのコレクタ−エミッタ間飽和電圧Vce(sat)の瞬時値およびダイオード6c,6dの順方向電圧Vfの瞬時値は、それぞれ時間tの関数もしくはテーブルとして表現できる。また、スイッチングパルス変調度Daは、電動機3の特性により電動機電流Iaと一定の位相差を持つ交流値であるので、電動機電流Iaの瞬時値の位相差による関数として表現することにより簡略化できる。
したがって、IA(t)を時刻tにおける電動機電流Iaの瞬時値、DA(t)を時刻tにおけるスイッチングパルス変調度Daの瞬時値、Vce(IA(t))を瞬時値IA(t)における半導体スイッチ素子6a,6bのコレクタ−エミッタ間飽和電圧Vce(sat)の瞬時値、Vf(IA(t))を瞬時値IA(t)におけるダイオード6c,6dの順方向電圧Vfの瞬時値とすると、電動機電流Iaの1周期に対し、Iaが正である半周期において、半導体スイッチ素子6a,6bおよびダイオード6c,6dの導通により生じる損失量は、下記の(7)式で表すことができ、Iaが負である半周期において、半導体スイッチ素子6a,6bおよびダイオード6c,6dの導通により生じる損失量は、下記の(8)式で表すことができる。
(7)式および(8)式は、電動機電流Iaを基準として各半周期の損失量を計算する数式であるので、(7)式と(8)式とを合算することにより、電動機電流Iaの1周期分の損失量を得ることができる。また、スイッチングパルス変調度Daと電動機電流Iaとが一定の位相差を持つため、(7)式と(8)式との合算値をスイッチングパルス変調度Daの1周期Ta分の損失量として差し支えはない。また、電動機電流Iaが正である半周期における波形と、電動機電流Iaが負である半周期における波形とが対称である場合には、(7)式の計算結果と(8)式の計算結果とが同一となるため、いずれか一方の計算結果を2倍して電動機電流Iaもしくはスイッチングパルス変調度Daの1周期Ta分の損失量としても差し支えはない。つまり、制御要素制御部11は、自身が制御するスイッチングパルス変調度Daおよびスイッチングパルス変調度Daの周期Taと、電流検出回路7から入力された電動機電流Iaと、あらかじめ保持したIc−Vce(sat)特性およびIf−Vf特性により、スイッチングパルス変調度Daの1周期Ta分の損失量を求めることができる。
したがって、上記した(7),(8)式によりスイッチングパルス変調度Daの1周期Ta分の損失量を得た場合には、その損失量にスイッチングパルス変調度Daの周波数faを乗じることにより、半導体スイッチ素子6a,6bおよびダイオード6c,6dの導通により生じる1秒あたりの発生損失量、すなわちインバータ回路6で発生する導通損失を得ることができる。また、電動機電流Iaの位相は、電動機3に与える第2の交流電圧の位相と等しいため、(7)式と(8)式との合算値は、電動機3に与える第2の交流電圧の1周期にわたる損失量と等しい。したがって、この第2の交流電圧の1周期にわたる損失量の平均値を求め、求めた平均値を第2の交流電圧の周波数、つまり、第2の交流電圧と一定の位相差を持つスイッチングパルス変調度Daの周波数faを乗じて、インバータ回路6で発生する導通損失を得ることも可能である。
この導通損失については、スイッチングパルス変調度Daを制御することにより変動させることができる。つまり、上記した(5),(6)式あるいは(7),(8)式より、スイッチングパルス変調度Daをより小さくすれば、導通損失をより低減させることができる。
なお、上記の説明により得られる導通損失は、電動機3が図1に示す単相交流電動機であり、インバータ回路6が上下一対のアームで構成されている場合の導通損失である。電動機3が三相交流電動機である場合には、インバータ回路6は、三対のアームと三相の出力を持つフルブリッジ型の回路となるので、その出力相毎に計算した導通損失を合計してインバータ回路6全体の導通損失を計算するか、あるいは、出力相毎に発生する導通損失が全てのアームで均一であると見做して、上下一対のアームの導通損失に相数を乗じてインバータ回路6全体の導通損失を計算すればよい。
つぎに、スイッチング損失の計算手法について説明する。本実施の形態では、半導体スイッチ素子6a,6bのターンオン時およびターンオフ時のスイッチングにより生じる1秒あたりの損失量をスイッチング損失とする。図5は、駆動回路の内部構成の一例を示す図である。なお、駆動回路20a,20bの内部構成は同一であるので、図5に示す例では、駆動回路20aの内部構成を示している。
図5に示すように、駆動回路20aは、ターンオン時間設定回路21およびターンオフ時間設定回路22を含むスイッチング時間設定部15を備えている。駆動回路20aは、半導体スイッチ素子6aが例えば絶縁ゲート型バイポーラトランジスタである場合、ターンオン時のスイッチングでは、半導体スイッチ素子6aのゲート端子にゲート−エミッタ間電圧Vgeを印加してゲート電流Igを流し始めることによりコレクタ電流Icが流れ始め、ターンオフ時のスイッチングでは、ゲート−エミッタ間電圧Vgeをオフとしてゲート電流Igを流し終えることによりコレクタ電流Icが停止する。図5に示すように、半導体スイッチ素子6aは、ゲート端子とコレクタ端子との間に寄生容量CGを有しているため、ゲート電流Igを急峻に流し始めるもしくは急峻に流し終えようとすると、ゲート電流Igの高周波成分がゲート端子−コレクタ端子間の寄生インダクタンスを通過して寄生容量CGに蓄積される電荷がゲート電流Igに引き込まれて寄生容量CGの両端電圧が振動し、コレクタ−エミッタ間に過大なサージ電圧や振動電圧を発生させる虞がある。
一般に、このようなゲート電流Igの急峻な変動を制限するため、ゲート端子に直列に電流制限用の回路要素を設けている。本実施の形態では、図5に示すように、ターンオン時におけるゲート電流Igの変動量を制限する回路要素23aと、ターンオフ時におけるゲート電流Igの変動量を制限する回路要素23bとが並列に接続され構成される。また、回路要素23a,23bは、それぞれ抵抗要素を含む構成とし、ゲート電流の流し始めと流し終わりをそれぞれ区別して制限することから、抵抗要素に加えて、例えばダイオード等の整流要素を含んでいる。
図6は、半導体スイッチ素子のターンオン時およびターンオフ時の過渡状態におけるコレクタ電流およびコレクタ−エミッタ間電圧の変動の一例を示す模式図である。図6(a)は、ターンオン時におけるコレクタ電流Icおよびコレクタ−エミッタ間電圧VCEの変動を示し、図6(b)は、ターンオフ時におけるコレクタ電流Icおよびコレクタ−エミッタ間電圧VCEの変動を示している。
図6に示すように、ゲート電流Igの変動量に制限を設けることにより、コレクタ電流Icの流れ始めで0から一定の電流値に変化するまでに要する時間、つまり、半導体スイッチ素子6a,6bのターンオンに要する時間であるターンオン時間Tonと、Icの流れ終わりで一定の電流値から0に変化するまでに要する時間、つまり、半導体スイッチ素子6a,6bのターンオフに要する時間であるターンオフ時間Toffとがそれぞれ設けられる。また、半導体スイッチ素子6aがオフ状態であるときのコレクタ−エミッタ間電圧VCEは、コンバータ回路4が出力する出力電圧値VDCと同値となる。
ターンオン時間設定回路21は、駆動パルス信号生成部14から出力されたターンオン時間指令値に基づいて、回路要素23aに含まれる抵抗要素を変動させることにより、駆動パルス信号の立ち上がり時間が調整され、ターンオン時間Tonが設定される。また、ターンオフ時間設定回路22は、駆動パルス信号生成部14から出力されたターンオフ時間指令値に基づいて、回路要素23bに含まれる抵抗要素を変動させることにより、駆動パルス信号の立ち下がり時間が調整され、ターンオフ時間Toffが設定される。
図6に示すように、ターンオン時間Tonとなる期間(以下、「ターンオン期間」という)およびターンオフ時間Toffとなる期間(以下、「ターンオフ期間」という)におけるコレクタ電流Icおよびコレクタ−エミッタ間電圧VCEの変動は、概ね直線的に近似できる。これらのターンオン期間およびターンオフ期間の過渡状態では、コレクタ電流Icおよびコレクタ−エミッタ間電圧VCEが共にゼロではないため、半導体スイッチ素子6a,6bには、コレクタ電流Icとコレクタ−エミッタ間電圧VCEとによる電力損失が発生する。ここで、ターンオン期間における損失量をEon、ターンオフ期間における損失量をEoffとすると、1回のターンオン動作により発生する損失量Eonは、下記の(9)式で表すことができ、1回のターンオフ動作により発生する損失量Eoffは、下記の(10)式で表すことができる。
ここで、コレクタ電流Icは、電動機電流Iaの瞬時値であり、出力電圧値VDCは、直流電圧指令生成部12が出力する直流電圧指令値に基づいて、コンバータ回路4が出力する出力電圧値である。つまり、制御要素制御部11は、自身が制御する出力電圧値VDC、ターンオン時間Tonおよびターンオフ時間Toffと、電流検出回路7から入力された電動機電流Iaとにより、損失量Eon,Eoffを求めることができる。
図3に示すように、スイッチング周期Tcの期間において、電動機電流Iaが正値(Ia>0)である場合には、半導体スイッチ素子6aにおいてターンオンおよびターンオフがそれぞれ1回ずつ発生し、電動機電流Iaが負値(Ia<0)である場合には、半導体スイッチ素子6bにおいてターンオンおよびターンオフがそれぞれ1回ずつ発生する。したがって、1秒間では、スイッチング周期Tcの回数、すなわちスイッチング周波数fc回のEonとEoffとがそれぞれ発生する。一般に、電動機3を安定して制御するためには、スイッチング周波数fcは、スイッチングパルス変調度Daの周波数faに対して十分に大きい周波数とする必要がある。このように、スイッチング周波数fcがスイッチングパルス変調度の周波数faに対して十分に大きい周波数である場合には、半導体スイッチ素子6a,6bのターンオン時およびターンオフ時のスイッチングにより生じる1秒あたりの発生損失量は、スイッチング周波数fcにほぼ比例する。
したがって、上記した(9),(10)式により得たスイッチング周期Tc毎の損失量を逐一計算し、スイッチング周期Tcに対して十分に長い任意の期間にわたって加算してその期間で除することにより、半導体スイッチ素子6a,6bのターンオン時およびターンオフ時のスイッチングにより生じる1秒あたりの平均的な発生損失量、すなわちインバータ回路6で発生するスイッチング損失を得ることができる。
あるいは、スイッチング損失は、スイッチング周波数fcに比例するため、スイッチング周期Tcの1周期分の損失量にスイッチング周波数fcを乗じることにより、スイッチング損失を得ることも可能である。
このスイッチング損失は、出力電圧値VDC、スイッチング周波数fc、ターンオン時間Ton、およびターンオフ時間Toffを制御することにより変動させることができる。つまり、上記した(9),(10)式より、出力電圧値VDCをより低く、ターンオン時間Tonおよびターンオフ時間Toffをより短くすれば、スイッチング損失をより低減させることができる。あるいは、スイッチング損失は、スイッチング周波数fcに比例するため、スイッチング周波数fcをより小さくしても、スイッチング損失をより低減させることができる。
なお、上記の説明により得られるスイッチング損失は、電動機3が図1に示す単相交流電動機であり、インバータ回路6が上下一対のアームで構成されている場合のスイッチング損失である。電動機3が三相交流電動機である場合には、インバータ回路6は、三対のアームと三相の出力を持つフルブリッジ型の回路となるので、その出力相毎に計算したスイッチング損失を合計してインバータ回路6全体のスイッチング損失を計算するか、あるいは、出力相毎に発生するスイッチング損失が全てのアームで均一であると見做して、上下一対のアームのスイッチング損失に相数を乗じてインバータ回路6全体のスイッチング損失を計算すればよい。
つぎに、電動機3の銅損の計算手法について説明する。電動機3の一次巻線で発生する銅損Waは、電動機電流Iaの実効値Iaeと一次巻線の抵抗値Raとにより、下記の(11)式で表すことができる。
Wa=Iae2×Ra …(11)
電動機電流Iaの実効値Iaeは、電流検出回路7から入力された電動機電流Iaより求めることができる。また、電動機3の一次巻線の抵抗値Raは、電動機3固有の定数であり、制御要素制御部11があらかじめ保持しておく。つまり、制御要素制御部11は、電流検出回路7から入力された電動機電流Iaと、あらかじめ保持した電動機3の一次巻線の抵抗値Raにより、電動機3の一次巻線で発生する銅損Waを求めることができる。
つぎに、電動機3の鉄損の計算手法について説明する。電動機3の鉄心で発生する鉄損は、鉄心をとりまくコイル導線に交流電流を流して磁化したときに、鉄心にエネルギーとして発生して熱になり失われる損失であり、ヒステリシス損と渦電流損とがある。
ヒステリシス損とは、コイル導線の交流電流に起因して発生する交番磁界により、磁界と磁束が変動するときに描く磁化曲線がヒステリシス曲線を描き、そのヒステリシス曲線に囲まれた面積、つまり、磁界と磁束密度との積が鉄心にエネルギーとして発生して熱になり失われる損失である。交番磁界は、電動機電流Iaによる基本波成分のほかに、インバータ回路6の半導体スイッチ素子6a,6bのスイッチング動作により発生するリップル電流のスイッチング周波数成分も作用する。
このヒステリシス損は、ヒステリシス曲線に囲まれる面積の1秒あたりの累計である。ヒステリシス曲線を描く1秒あたりの回数は、電流の周波数に等しいため、電動機電流Iaの基本波成分によるヒステリシス損は、スイッチングパルス変調度Daの周波数faに比例し、リップル電流のスイッチング周波数成分によるヒステリシス損は、スイッチング周波数fcに比例する。ただし、リップル電流のスイッチング周波数成分については、そのリップル電流の波高値がスイッチング周波数に反比例し、磁界および磁束の変化量は、共にリップル電流の波高値に比例するため、1回分のヒステリシス曲線が囲む面積は、スイッチング周波数fcの2乗に反比例する。
したがって、ヒステリシス損Whは、スイッチングパルス変調度Daの周波数fa、スイッチング周波数fc、電動機3固有の定数である最大磁束密度Bm、および鉄心材料の特性により決まる係数kh,khcにより、下記の(12)式で表すことができる。
Wh=(kh×fa+khc×fc/fc2)×Bm2
=(kh×fa+khc/fc)×Bm2 …(12)
渦電流損とは、鉄心に磁束が通りそれが交流電流によって変化したときにその磁束を囲むように鉄心に流れる電流を渦電流と呼び、その渦電流によって鉄心に発生するジュール熱損失のことをいう。鉄心に流れる渦電流の1秒あたりの回数は、スイッチングパルス変調度Daの周波数faに等しいため、渦電流の1秒あたりの累計回数は、スイッチングパルス変調度Daの周波数faに比例し、渦電流損は、スイッチングパルス変調度Daの周波数faの2乗に比例する。
したがって、渦電流損Weは、スイッチングパルス変調度Daの周波数fa、電動機3固有の定数である最大磁束密度Bm、および鉄心の板厚により決まる係数keにより、下記の(13)式で表すことができる。
We=ke×fa2×Bm2 …(13)
スイッチングパルス変調度Daの周波数faは、制御要素制御部11自身が制御するスイッチングパルス変調度の周波数であり、スイッチング周波数fcも制御要素制御部11自身が制御するパラメータの1つである。また、各係数kh,khc,keおよび最大磁束密度Bmは、いずれも電動機3固有の定数であり、制御要素制御部11があらかじめ保持しておく。つまり、制御要素制御部11は、自身が制御するスイッチングパルス変調度Daの周波数faおよびスイッチング周波数fcと、あらかじめ保持した各係数kh,khc,keおよび最大磁束密度Bmとにより、電動機3の鉄心で発生するヒステリシス損Whおよび渦電流損Weを求めることができる。
この鉄損は、スイッチング周波数fcおよびスイッチングパルス変調度Daの周波数faを制御することにより変動させることができる。つまり、上記した(12)式より、スイッチング周波数fcをより大きくすれば、鉄損に含まれるヒステリシス損Whをより低減させることができ、上記した(12),(13)式より、スイッチングパルス変調度Daの周波数faをより小さくすれば、鉄損に含まれるヒステリシス損Whおよび渦電流損Weの両方をより低減させることができる。
上述したように、スイッチングパルス変調度Daを小さくすれば、導通損失をより低減させることができ、出力電圧値VDCをより低く、スイッチング周波数fcをより小さく、ターンオン時間Tonおよびターンオフ時間Toffをより短くすれば、スイッチング損失をより低減させることができ、スイッチング周波数fcをより大きくすれば、鉄損に含まれるヒステリシス損をより低減させることができ、スイッチングパルス変調度Daの周波数faをより小さくすれば、鉄損に含まれるヒステリシス損Whおよび渦電流損Weの両方をより低減させることができるが、これらの各制御要素を個々に制御すると、電動機電流Iaが増大し、銅損を含む個々の損失量あるいはこれらの損失量の合計が増大することもある。したがって、制御要素制御部11は、外部からの運転指令の沿った電動機3の運転が可能な範囲で、上述した各計算式によって計算した導通損失、スイッチング損失、銅損、および鉄損の合計損失がより小さくなるように、各制御要素を制御する。なお、スイッチング損失を制御する場合に、出力電圧値VDC、ターンオン時間Ton、ターンオフ時間Toff、およびスイッチング周波数fcを全て制御する必要はなく、これらの中から1つまたは複数の制御要素を選択して制御してもよい。
なお、制御要素制御部11は、外部からの運転指令の沿った電動機3の運転が可能な範囲で、各制御要素を制御する必要があるため、各制御要素の制御範囲には下限値が存在する。例えば、出力電圧値VDCは、スイッチングパルス変調度Daの制御要素との兼ね合いにより下限値が決まり、ターンオン時間Tonおよびターンオフ時間Toffは、半導体スイッチ素子6a,6bの特性やスイッチング周波数fcの制御要素との兼ね合いにより下限値が決まり、スイッチング周波数fcは、電動機3の制御特性により下限値が決まる。したがって、これら各制御要素の制御範囲の下限値も考慮して、それぞれの制御要素を制御する必要がある。
以上説明したように、実施の形態1の電動機駆動装置によれば、インバータ回路の半導体スイッチ素子およびダイオードの導通により生じる導通損失、インバータ回路の半導体スイッチ素子のターンオン時およびターンオフ時のスイッチングにより生じるスイッチング損失、電動機の一次巻線で発生する銅損、および電動機の鉄心で発生する鉄損を計算し、その合計損失がより小さくなるように、コンバータ回路の出力電圧値、インバータ回路のスイッチングパルス変調度、スイッチングパルス変調度の周波数、スイッチング周波数、ターンオン時間、およびターンオフ時間を制御するようにしたので、インバータ回路および電動機に発生する各電力損失の合計値をより小さくすることができる。
なお、上述した実施の形態1では、スイッチング時間設定部に含まれるターンオン時間設定回路およびターンオフ時間設定回路は、駆動回路の一部として構成したが、駆動パルス信号生成部の一部として構成することも可能である。この場合は、駆動パルス信号生成部は、制御要素制御部から出力されたスイッチングパルス変調度情報およびスイッチング周波数指令生成部から出力されたスイッチング周波数指令値に基づいて、駆動パルス指令値を生成すると共に、制御要素制御部から出力されたターンオン時間情報およびターンオフ時間情報に基づいて、ターンオン時間指令値およびターンオフ時間指令値を生成して、スイッチング時間設定部において駆動パルス信号の立ち上がり時間および立ち下がり時間を調整して、駆動回路に出力すればよい。
実施の形態2.
実施の形態2にかかる電動機駆動装置の構成は、実施の形態1において説明した図1に示す構成と同一であるので、各構成部の詳細な説明は省略する。
実施の形態1では、インバータ回路6の半導体スイッチ素子6a,6bおよびダイオード6c,6dの導通により生じる導通損失、インバータ回路6の半導体スイッチ素子6a,6bのターンオン時およびターンオフ時のスイッチングにより生じるスイッチング損失、電動機3の一次巻線で発生する銅損、および電動機3の鉄心で発生する鉄損を計算し、その合計損失がより小さくなるように、コンバータ回路4の出力電圧値VDC、インバータ回路6のスイッチングパルス変調度Da、スイッチングパルス変調度Daの周波数fa、スイッチング周波数fc、ターンオン時間Ton、およびターンオフ時間Toffの各制御要素を制御するようにしたが、例えば、電動機3の鉄損に含まれるヒステリシス損を低減させるためにスイッチング周波数fcを上げると、インバータ回路6のスイッチング損失は増大し、その結果としてインバータ回路6の温度が上昇し、過熱状態となる。
また、実施の形態1において説明したように、各制御要素にはそれぞれ下限値が存在するため、インバータ回路6のスイッチング損失にも下限値が存在する。これらの制御要素を全て下限値としたとしても、電動機3の制御特性によっては、電動機電流Iaが増大し、導通損失とスイッチング損失の合計が逆に増大する場合もある。
したがって、実施の形態2では、実施の形態1の制御に加えて、あらかじめインバータ回路6の上限温度を設定し、インバータ回路6の温度がその上限温度を超えた場合に、導通損失とスイッチング損失との合計がより小さくなるように、各制御要素を制御する。
以上説明したように、実施の形態2の電動機駆動装置によれば、実施の形態1の制御に加えて、インバータ回路の温度があらかじめ設定した上限温度を超えた場合に、導通損失とスイッチング損失の合計がより小さくなるように、コンバータ回路の出力電圧値、インバータ回路のスイッチングパルス変調度、スイッチング周波数、ターンオン時間、およびターンオフ時間を制御するようにしたので、インバータ回路の温度上昇を抑制し、インバータ回路が過熱状態となるのを防止することができる。
実施の形態3.
実施の形態3にかかる電動機駆動装置の構成は、実施の形態1において説明した図1に示す構成と同一であるので、各構成部の詳細な説明は省略する。
実施の形態1では、インバータ回路の半導体スイッチ素子6a,6bおよびダイオード6c,6dの導通により生じる導通損失、インバータ回路の半導体スイッチ素子6a,6bのターンオン時およびターンオフ時のスイッチングにより生じるスイッチング損失、電動機3の一次巻線で発生する銅損、および電動機3の鉄心で発生する鉄損を計算し、その合計損失がより小さくなるように、コンバータ回路4の出力電圧値VDC、インバータ回路6のスイッチングパルス変調度Da、スイッチングパルス変調度Daの周波数fa、スイッチング周波数fc、ターンオン時間Ton、およびターンオフ時間Toffの各制御要素を制御するようにしたが、複数の制御要素を制御するために、制御要素の組み合わせ数が著しく増大し、合計損失をより小さくするために要する計算量が増大し、制御要素の制御を完了するまでの時間も長くなる。その結果として、制御要素の制御を完了するまでに発生する通算の損失量が増加する。
そこで、実施の形態3では、実施の形態1において説明した各計算手法により、導通損失、スイッチング損失、銅損および鉄損を計算し、その中でより損失量の大きいものを抽出して、その損失量が小さくなるように、各制御要素を制御する。
例えば、導通損失の合計損失に占める比率が高い場合には、スイッチングパルス変調度Daを制御する。また、例えば、スイッチング損失の合計損失に占める比率が高い場合には、出力電圧値VDC、スイッチング周波数fc、ターンオン時間Ton、およびターンオフ時間Toffを制御する。また、例えば、鉄損の合計損失に占める比率が高い場合は、スイッチングパルス変調度Daの周波数faおよびスイッチング周波数fcを制御する。また、銅損は、電動機電流Iaによってほぼ一意的に決まるため、銅損の合計損失に占める比率が高い場合には、その次に合計損失に占める比率が高い損失を変動させる制御要素を制御する。
損失量の大きい損失は、その損失を変動させる制御要素を制御することによって得られる損失低減効果が大きい。したがって、合計損失の低減効果を十分に得ることができる。
以上説明したように、実施の形態3の電動機駆動装置によれば、実施の形態1において説明した各計算手法により、導通損失、スイッチング損失、銅損および鉄損を計算し、その中でより損失量の大きいものを抽出して、その損失を変動させる制御要素を制御するようにしたので、制御要素の制御を完了するまでの時間を短縮することができる。また、合計損失に占める比率の高い損失は、その損失を変動させる制御要素を制御することによって得られる損失低減効果が大きいため、合計損失の低減効果を十分に得ることができ、制御要素の制御を完了するまでに発生する通算の損失量を低減させることができる。
なお、上述した実施の形態3では、銅損以外で損失量の大きい損失を抽出し、その損失を変動させる制御要素を制御するようにしたが、このとき抽出する損失は、銅損以外で最も損失量の大きい損失のみ抽出してもよいし、上位2つの損失を抽出してもよい。例えば、上位2つの損失が導通損失と鉄損である場合には、制御する制御要素は、スイッチングパルス変調度Da、スイッチングパルス変調度Daの周波数faおよびスイッチング周波数fcに限られるため、全ての制御要素を制御する場合と比較して、制御要素の制御を完了するまでの時間の短縮、および制御要素の制御を完了するまでに発生する通算の損失量の低減効果が期待できる。
実施の形態4.
図7は、実施の形態4にかかる電動機駆動装置の一構成例を示す図である。なお、実施の形態1乃至3と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図7に示すように、実施の形態4にかかる電動機駆動装置1では、インバータ回路61を構成するダイオードとして、図1に示す実施の形態1にかかる電動機駆動装置1のインバータ回路6のダイオード6c,6dを、ワイドバンドギャップ半導体で構成されたダイオード、例えば、炭化ケイ素(Silicon Carbide:SiC)で構成されたショットキーバリアダイオード6cw,6dwに置き換えている。
例えば、図1に示した実施の形態1乃至3にかかる電動機駆動装置1において、インバータ回路6のダイオード6cに電流が流れているときに半導体スイッチ素子6bを急峻にターンオンすると、もしくは、ダイオード6dに電流が流れているときに半導体スイッチ素子6aを急峻にターンオンすると、ダイオード6c,6dに流れていた電流が半導体スイッチ素子6a,6bに転流する際に、逆回復損失量Errが発生する。
実施の形態1では、半導体スイッチ素子6a,6bをターンオンする際に、インバータ回路6で発生するターンオン時の損失量Eonをより低減させるには、実施の形態1において説明した(9)式より、駆動パルス信号生成部14が出力するターンオン時間Tonを短くすることが望ましいとしていたが、一般に、ダイオードに流れる電流の時間変化率dI/dtが増大すると、ダイオードの逆回復電流のピーク値が大きくなり、逆回復損失量Errも増大する。つまり、ターンオン時間Tonが短くなると、逆回復損失量Errが発生してスイッチング損失に加算されるため、損失低減効果を十分に得ることができなくなる。このため、ターンオン時間Tonの制御範囲は、ダイオードの逆回復時間に制限される。また、ターンオン時間Tonを短くしすぎると、逆回復電流のピーク値が過大となるため好ましくない。
実施の形態4では、逆回復損失量Errをより小さくするため、インバータ回路61を構成するダイオード6cw,6dwとして、逆回復時間が短いワイドバンドギャップ(WBG)型の半導体(例えば、SiC)で構成されたショットキーバリアダイオードを配置する。逆回復時間が短くなることにより、ターンオン時間Tonをより短くすることができ、スイッチング損失をより低減することができる。また、相対的に逆回復損失量Errが小さくなり、スイッチング損失に与える影響をより小さくすることができる。
WBG半導体とは、一般に産業向けおよび家庭電器向けの電気機器のインバータ回路およびコンバータ回路の半導体として広く適用されているシリコン(Si)系半導体と比較して、大きなエネルギーバンド幅を持つ半導体の総称であり、パワー半導体に用いられるものとしては、窒化ガリウム(GaN)系材料や炭化ケイ素(SiC)、またはダイヤモンド等がある。WBG半導体は、Si系半導体と比較して、逆回復電荷の蓄積が極めて少ないという特性があるため、WBG半導体により構成されたダイオードを用いた場合は、半導体スイッチ素子のターンオンの際のダイオードの逆回復動作による逆回復電流や振動電流の発生も極めて小さく、これに伴う逆回復損失量Errも極めて小さい。
図8は、半導体スイッチ素子のターンオン時の過渡状態におけるコレクタ電流およびコレクタ−エミッタ間電圧の変動、ならびに、ダイオードに流れる電流および両端電圧の変動の一例を示す模式図である。図8に示す例では、ダイオードの逆回復動作も考慮に入れて模式的に示している。実施の形態1において説明した図5に示すターンオン時間設定回路21が回路要素23aを変動させることによりターンオン時間Tonが変化すると、コレクタ電流Icおよびダイオードに流れる電流Ifの時間変化率、すなわちdI/dtも変化する。
一般に、半導体スイッチ素子のターンオン時間Tonを短くしてコレクタ電流Icおよびダイオードに流れる電流Ifの時間変化率dI/dtを大きくすると、ダイオードに流れる逆回復電流のピーク値も大きくなることが明らかにされている。その結果、ダイオードの逆回復損失量Errも増大するだけでなく、ターンオン時間Tonをさらに短くすると、逆回復電流のピーク値が過大となって多大なエネルギーがダイオード6dに与えられるため好ましくない。
本実施の形態では、インバータ回路61のダイオード6cw,6dwをWBG半導体で構成したことにより、ダイオード6cw,6dwで発生する逆回復損失量Errそのものを小さくしたことに加えて、ダイオード6cw,6dwの逆回復電荷の蓄積が極めて小さいため、ターンオン時間Tonを短くしてダイオードに流れる電流Ifの時間変化率dI/dtを大きくしたとしても、逆回復損失量Errが顕著に増大することはなく、また逆回復電流のピーク値が過大になることもない。このため、ターンオン時間Tonの制御範囲を、ターンオン時間Tonがより小さくなる方向へ拡大することができ、半導体スイッチ素子6a,6bのターンオン時の損失量Eonをより小さくすることができるほか、逆回復損失量Errも顕著には増大しないため、逆回復損失量Errを含むスイッチング損失を低減する効果は大きい。
なお、インバータ回路61を構成するダイオード6cw,6dwを、逆回復時間が短いファストリカバリ型のダイオードとしてもよいが、本実施の形態で説明したWBG半導体で構成するのがより好ましい。
以上説明したように、実施の形態4の電動機駆動装置によれば、インバータ回路のダイオードをワイドバンドギャップ半導体で構成するようにしたので、ダイオードで発生する逆回復損失量が小さくなることに加え、半導体スイッチ素子のターンオン時間の制御範囲を拡大することができる。その結果として、ターンオン時間を短くしてターンオン時の損失量を小さくすることができ、さらには、逆回復損失量も増大しないため、インバータ回路で発生するスイッチング損失の低減効果をより大きくすることができる。
実施の形態5.
図9は、実施の形態5にかかる電動機駆動装置の一構成例を示す図である。なお、実施の形態1乃至4と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図9に示すように、実施の形態5にかかる電動機駆動装置1では、インバータ回路62を構成する半導体スイッチ素子として、図1に示す実施の形態1にかかる電動機駆動装置1のインバータ回路6の半導体スイッチ素子6a,6bを、実施の形態4において説明したWBG半導体で構成された半導体スイッチ素子(例えば、炭化ケイ素(SiC)で構成された金属酸化半導体電界効果トランジスタ)6aw,6bwに置き換えている。
実施の形態4では、インバータ回路61のダイオード6cw,6dwで発生する逆回復損失量Errを小さくしたことに加えて、ターンオン時間Tonの制御範囲を、ターンオン時間Tonがより小さくなる方向へ拡大することにより、ターンオン時の損失量Eonも小さくしたが、実施の形態5では、インバータ回路62で発生する損失量をさらに小さくするため、インバータ回路62を構成する半導体スイッチ素子として、WBG半導体で構成された半導体スイッチ素子6aw,6bwを配置する。
WBG半導体で構成された半導体スイッチ素子6aw,6bwは、Si系半導体等のナローバンドギャップ型半導体で構成された半導体スイッチ素子と比較して、電荷蓄積が極めて少ないため、ターンオン時間Tonおよびターンオフ時間Toffの制御範囲を、ターンオン時間Tonおよびターンオフ時間Toffをより短くする方向へ拡大することができる。したがって、実施の形態1において説明した(9)式および(10)式より、半導体スイッチ素子6aw,6bwのターンオン時の損失量Eonおよびターンオフ時の損失量Eoffを共に小さくすることができる。
また、ターンオン時間Tonおよびターンオフ時間Toffを短くしてターンオン時の損失量Eonおよびターンオフ時の損失量Eoffを小さくすることにより、半導体スイッチ素子6aw,6bwのスイッチング周波数fcをより大きくしても、スイッチング周波数fcに比例するスイッチング損失が顕著に大きくなることはない。一方、スイッチング周波数fcをより大きくすることにより、実施の形態1において説明した(12)式より、電動機3の鉄損に含まれるヒステリシス損をより低減させることができる。
さらに、実施の形態1において図3を参照して説明したように、通常、インバータ回路6の制御では、上側アームの半導体スイッチ素子6aのターンオンと下側アームの半導体スイッチ素子6bのターンオフとを同時に行い、半導体スイッチ素子6aのターンオフと半導体スイッチ素子6bのターンオンとを同時に行うが、ターンオン時間Tonおよびターンオフ時間Toffを設けた場合には、一方の半導体スイッチ素子のターンオンと他方の半導体スイッチ素子のターンオフとを同時に行うと、双方の半導体スイッチ素子が同時にオンとなる期間が生じて平滑回路5の両端電圧が短絡し、双方の半導体スイッチ素子に過大な電流が流れる。この半導体スイッチのターンオンおよびターンオフに伴う過大な電流を防ぐため、通常はターンオフ期間とターンオン期間との間にデッドタイムTdを設けて、双方の半導体スイッチ素子が同時にオンとなる期間が生じないようにする。
このデッドタイムTdを設けたことにより、スイッチング周期Tcにおける半導体スイッチ素子のオン期間の実質的な比率は、電動機電流Iaの向き(Ia>0あるいはIa<0)に応じて、デッドタイムTd分だけ変動するため、インバータ回路が電動機に出力する電圧に誤差が生じる。また、スイッチング動作により発生するリップル電流がTd分だけずれるため、電動機の鉄損に含まれるヒステリシス損の増大にもつながる。なお、デッドタイムTdを設けることによるインバータ回路の出力電圧のデッドタイムTd分の誤差の補正については、さまざまな手法が開示されているが、リップル電流のデッドタイムTd分のずれの補正については、有効な手法が開示されていない。
本実施の形態では、インバータ回路62をWBG半導体で構成された半導体スイッチ素子6aw,6bwで構成してターンオン時間Tonおよびターンオフ時間Toffを短くすることにより、半導体スイッチ素子6aw,6bwのデッドタイムTdをより小さくすることができる。その結果、リップル電流に発生するデッドタイムTd分のずれも小さくなり、デッドタイムTdに起因するヒステリシス損の増大を抑制することができる。
以上説明したように、実施の形態5の電動機駆動装置によれば、インバータ回路の半導体スイッチ素子をワイドバンドギャップ半導体で構成するようにしたので、半導体スイッチ素子のターンオン時間およびターンオフ時間の制御範囲を、ターンオン時間およびターンオフ時間をより短くする方向へ拡大することができる。その結果、半導体スイッチ素子のターンオン時およびターンオフ時の損失量を共に小さくすることができ、インバータ回路で発生するスイッチング損失の低減効果をより大きくすることができる。
また、スイッチング周波数を大きくすることができるので、電動機の鉄損に含まれるヒステリシス損の低減にも寄与する。
さらに、ターンオン時間およびターンオフ時間をより短くすることができるので、半導体素子のターンオフ期間とターンオン期間との間に設けるデッドタイムを小さくすることができ、デッドタイムに起因するヒステリシス損の増大を抑制することができる。
実施の形態6.
実施の形態6では、実施の形態1乃至5の電動機駆動装置を空気調和装置に適用する例について説明する。図10は、実施の形態6にかかる空気調和装置の一構成例を示す図である。なお、電動機駆動装置1の内部構成については、実施の形態1乃至5において説明した構成と同一であるので、ここでは説明を省略する。
図10に示すように、実施の形態6にかかる空気調和装置30は、室外機31と、室内機32とを備え、室外機31と室内機32との間は、相互間で熱交換を行う熱交換媒体を循環させるための熱交換媒体配管33および34により接続されている。室外機31は、電動機駆動装置1と、圧縮機である電動機3とを備え、外部の交流電源2から交流電力が供給される。
一般に、空気調和装置では、電動機の周波数や機械出力は一定ではなく、室外機周囲の空気温度、室内機周囲の空気温度、空気調和装置の運転モードの設定、あるいは室内機が調和すべき空気温度の設定値により異なる。
つまり、外部からの運転指令に基づく電動機の周波数もしくは出力トルクの指令値の制御、室外機および室内機の空気温度の変化、あるいは熱交換媒体の温度や圧力の変化等の運転条件の変化により、電動機電流が変動し、インバータ回路の半導体スイッチ素子およびダイオードに発生する導通損失、スイッチング損失、電動機の一次巻線に発生する銅損、電動機の鉄心に発生する鉄損も変動する。
したがって、実施の形態6にかかる空気調和装置30では、実施の形態1乃至5の電動機駆動装置1を適用することにより、空気調和装置30の運転条件が変化した場合でも、電力損失が適切に低減されるようにしている。
例えば、空気調和装置30に実施の形態1にかかる電動機駆動装置1を適用した場合には、制御要素制御部11は、外部からの運転指令に基づく電動機3の周波数もしくは出力トルクの指令値の制御、室外機31および室内機32の空気温度の変化、あるいは熱交換媒体の温度や圧力の変化により、電動機電流Iaが変動した場合に、電流検出回路7が検出した電動機電流Iaに基づいて、実施の形態1において説明した各計算手法により、インバータ回路6の半導体スイッチ素子6a,6bおよびダイオード6c,6dの導通により生じる導通損失、インバータ回路6の半導体スイッチ素子6a,6bのターンオン時およびターンオフ時のスイッチングにより生じるスイッチング損失、電動機3の一次巻線で発生する銅損、および電動機3の鉄心で発生する鉄損を計算し、その合計損失がより小さくなるように、コンバータ回路6の出力電圧値VDC、インバータ回路6のスイッチングパルス変調度Da、スイッチングパルス変調度Daの周波数fa、スイッチング周波数fc、ターンオン時間Ton、およびターンオフ時間Toffを制御することにより、インバータ回路および電動機に発生する各電力損失の合計値をより小さくする。
また、例えば、空気調和装置30に実施の形態2にかかる電動機駆動装置1を適用した場合には、制御要素制御部11は、実施の形態1の制御に加えて、インバータ回路6の温度があらかじめ設定した上限温度を超えた場合に、導通損失とスイッチング損失の合計がより小さくなるように、コンバータ回路6の出力電圧値VDC、インバータ回路6のスイッチングパルス変調度Da、スイッチング周波数fc、ターンオン時間Ton、およびターンオフ時間Toffを制御することにより、インバータ回路6の温度上昇を抑制し、インバータ回路6が過熱状態となるのを防止する。
また、例えば、空気調和装置30に実施の形態3にかかる電動機駆動装置1を適用した場合には、制御要素制御部11は、実施の形態1において説明した各計算手法により、導通損失、スイッチング損失、銅損および鉄損を計算し、損失量の大きい損失を抽出して、その損失を変動させる制御要素を制御することにより、制御要素の制御を完了するまでの時間を短縮すると共に、制御要素の制御を完了するまでに発生する通算の損失量を低減させる。
また、例えば、空気調和装置30に実施の形態4にかかる電動機駆動装置1を適用した場合には、インバータ回路61のダイオード6cw,6dwをWBG半導体で構成することにより、ダイオード6cw,6dwで発生する逆回復損失量Errを小さくすると共に、半導体スイッチ素子6a,6bのターンオン時間Tonを短くしてターンオン時の損失量を小さくし、インバータ回路61で発生するスイッチング損失の低減効果をより大きくする。
また、例えば、空気調和装置30に実施の形態5にかかる電動機駆動装置1を適用した場合には、インバータ回路62の半導体スイッチ素子6aw,6bwをWBGの半導体で構成することにより、半導体スイッチ素子6aw,6bwのターンオン時間およびターンオフ時間をより短くして、ターンオン時およびターンオフ時の損失量を共に小さくし、インバータ回路62で発生するスイッチング損失の低減効果をより大きくする。また、半導体素子6aw,6bwのターンオフ期間とターンオン期間との間に設けるデッドタイムTdを小さくし、デッドタイムに起因するヒステリシス損の増大を抑制する。
以上説明したように、実施の形態6にかかる空気調和装置によれば、実施の形態1〜5の電動機駆動装置を適用することにより、外部からの運転指令に基づく電動機の周波数もしくは出力トルクの指令値の制御、室外機および室内機の周囲の空気温度の変化、あるいは熱交換媒体の温度や圧力の変化等の運転条件の変化により、電動機電流が変動した場合でも、上述した実施の形態1〜5の効果を得ることができ、電力損失を適切に低減することができる。
なお、実施の形態4あるいは実施の形態5において説明したWBG半導体で構成されたダイオードや半導体スイッチ素子を用いることによる効果は、各実施の形態において記載した効果にとどまらない。
例えば、WBG半導体によって構成されたダイオードや半導体スイッチ素子は、耐電圧性が高く、許容電流密度も高いため、ダイオードや半導体スイッチ素子の小型化が可能であり、これら小型化されたダイオードや半導体スイッチ素子を用いることにより、これらの素子を組み込んだインバータ回路の小型化が可能となる。
また、WBG半導体によって構成されたダイオードや半導体スイッチ素子は、耐熱性も高いため、実施の形態2において説明したインバータ回路の上限温度をより高い温度に設定することも可能となる。
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能であることは言うまでもない。