以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における緩衝器1は、図1に示すように、シリンダ2と、シリンダ2内に摺動自在に挿入されてシリンダ2内を作動油等の液体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン3と、シリンダ2内に挿入されてピストン3に連結されるピストンロッド4とを備えた緩衝器本体Dと、緩衝器本体Dの伸長時のみに液体の通過を許容する流路5と、当該流路5の途中に設けられて緩衝器1の発生する減衰力を調整する減衰力調整機構Vとを備えて構成されている。
以下、緩衝器1の各部について詳細に説明する。まず、緩衝器本体Dは、この実施の形態では、ピストンロッド4を二輪車などの鞍乗車両の図示しない車体に連結される車体側チューブ10と、鞍乗車両の図示しない車軸に連結されて車体側チューブ10内へ摺動自在に挿入される車軸側チューブ11とで構成されるフロントフォークF内に収容されている。より詳しくは、緩衝器本体Dは、ピストンロッド4が後述するハウジング6を介して車体側チューブ10へ連結され、シリンダ2が車軸側チューブ11へ連結されて、車体側チューブ10と車軸側チューブ11との間に介装されつつ、車体側チューブ10と車軸側チューブ11で閉鎖されたフロントフォークF内となる空間Lに収容されている。なお、本実施の形態では、フロントフォークFは、車体側チューブ10内に車軸側チューブ11を挿入する倒立型のフロントフォークとされているが、反対に、車体側チューブ10を車軸側チューブ11へ挿入する正立型のフロントフォークとされていてもよい。
また、この緩衝器本体Dのピストンロッド4とシリンダ2との間には、懸架ばね12が介装されており、この懸架ばね12は緩衝器本体Dを介して車体側チューブ10と車軸側チューブ11を離間させる方向、つまり、緩衝器1を伸長させる方向に弾発力を発揮していて、当該懸架ばね12により図外の鞍乗車両の車体が弾性支持されるようになっている。
そして、緩衝器本体Dは、図1に示すように、車軸側チューブ11に連結されたシリンダ2と、シリンダ2内に摺動自在に挿入されシリンダ2内を2つの作動室である伸側室R1および圧側室R2に区画するピストン3と、一端がピストン3に連結されるとともに他端が車体側チューブ10に連結されたピストンロッド4と、ピストン3に設けられて伸側室R1と圧側室R2とを連通するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える減衰通路13と、シリンダ2の下端に設けられて圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れに抵抗を与える圧側減衰通路15とリザーバRから圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する吸込通路16とを有するボトム部材14とを備えて構成され、伸側室R1および圧側室R2には液体として作動油等の液体が充満され、リザーバR内には液体と気体が充填されている。
より詳しくは、シリンダ2は、下端に嵌合されたボトム部材14を介して有底筒状に形成された車軸側チューブ11の底部に固定されている。また、シリンダ2の上端には、ピストンロッド4を摺動自在に軸支するロッドガイド17が設けられている。
ピストンロッド4は、軸方向に沿って図1中上下に貫通する空孔4bを備えたピストンロッド本体4aと、ピストンロッド本体4aの図1中下端に固定されてピストン3を保持するピストン連結部4cとを備えて構成されており、その図1中上端となる先端が減衰力調整機構Vにおけるスプール弁7を収容するハウジング6を介して車体側チューブ10の上端に固定されている。ピストン連結部4cは、空孔4bと伸側室R1とを連通する連通路4dと、連通路4dの途中に設けられて伸側室R1から空孔4bへ向かう液体の流れのみを許容する逆止弁4eとを備えて構成されていて、図1中下端に環状のピストン3がピストンナット24を用いて固定されるようになっている。
そして、ロッドガイド17とハウジング6の外周に設けた筒状のばね受18との間に懸架ばね12が介装され、緩衝器本体Dが懸架ばね12により伸長方向に附勢され、これにより、緩衝器1も懸架ばね12により伸長方向に附勢されるようになっている。
ピストン3は、ピストンロッド4の図1中下端に固定されており、ピストン3に設けられる減衰通路13は、伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路13aと、通路13aの途中に設けた減衰弁13bとを備えていて、通過する液体の流れに抵抗を与えるようになっている。この場合、減衰弁13bが絞り弁などとされていて、減衰通路13は、伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れと、圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れの双方向の流れを許容するようになっているが、通路を二つ以上設けて一部の通路に伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する減衰弁を設けるとともにそれ以外の通路に圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する減衰弁を設けてもよい。
リザーバRは、上記空間L内であって緩衝器本体D外に形成されており、リザーバRには、液体と気体が充填されている。ボトム部材14に形成される圧側減衰通路15は、圧側室R2とリザーバRとを連通する通路15aと、圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れのみを許容して通過する液体の流れに抵抗を与える減衰弁15bとを備えて構成されており、圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路とされている。他方、ボトム部材14に形成される吸込通路16は、リザーバRと圧側室R2とを連通する通路16aと、リザーバRから圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する逆止弁16bとを備えて構成されており、圧側減衰通路15とは逆向きにリザーバRから圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路とされている。なお、この緩衝器1にあっては、圧側減衰力を減衰弁15bにて発生することができるので、上記したように圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する通路を設ける場合、当該通路に減衰弁を設けずともよい。
つづいて、減衰力調整機構Vについて説明する。減衰力調整機構Vは、上記した流路5の途中に設けられており、中空部6aを備えたハウジング6と、ハウジング6の中空部6a内に摺動自在に挿入されるスプール弁7と、スプール弁7を可動鉄心として当該スプール弁7を中空部6a内で駆動するソレノイド8とを備えて構成されている。
ハウジング6は、図1および図2に示すように、合成樹脂材料で形成されて筒状とされており、図2中下端から開口して内部に形成される中空部6aと、中空部6aの内周に周方向に沿って設けた環状溝6bと、側方から開口して環状溝6bを介して中空部6aに通じるポート6cと、図2中上端から開口して中空部6aに通じて中空部6aより大径で上記ソレノイド8を収容する収容部6dと、上端外周に設けたフランジ6eと、下端側外周を小径にして設けた小径部6fおよび段部6gと、小径部6fの外周に軸方向に沿って設けた溝6hとを備えて構成されており、この場合、上記ポート6cの外周側端は、径方向へ伸びて上記した溝6hへ連通している。
そして、このハウジング6の中空部6aの図2中下方内周には螺子孔部6iを設けてあり、ピストンロッド4の上端の外周には螺子部4fが設けてあって、螺子孔部6i内にピストンロッド4の上端を挿入しつつ螺子締結することができるようになっている。なお、この実施の形態では、螺子部4fにナット19を螺着していて、当該ナット19の図2中上端をハウジング6の図2中下端に当接させてハウジング6に軸荷重をかけることで上記螺子孔部6iと螺子部4fとが緩まないように配慮している。
このようにハウジング6をピストンロッド4に連結すると、中空部6aがピストンロッド4の空孔4bとが同軸で且つ直列に接続されて、中空部6aは、当該空孔4bおよび連通路4dを介して緩衝器本体Dにおける伸側室R1に連通される。また、中空部6aは、ポート6cおよび溝6hを介して緩衝器本体D外に形成されたリザーバRに連通される。よって、この実施の形態の場合、流路5は、上記した連通路4d、空孔4b、中空部6a、環状溝6b、ポート6cおよび溝6iとで構成されており、伸側室R1とリザーバRとを連通している。また、流路5は、この場合、逆止弁4eによって、伸側室R1からリザーバRへ向かう液体の通過のみを許容するようになっている。流路5を一方通行に設定する逆止弁は、ピストン連結部4cに設けるのではなく、他の箇所へ設けてもよく、具体的にはたとえば、ピストンロッド本体4aの空孔4b内に設けてもよいし、ピストンロッド本体4aの図1中上端における空孔4bの開口端に設けるようにしてもよい。
ハウジング6の小径部6fの外周には、懸架ばね12の上端を支承する筒状のばね受18の上端を支持するカラー20が嵌合されていて、この実施の形態では、カラー20がポート6cを覆うように配置されているため、溝6hを設けてポート6cとリザーバRとの連通を確保しているが、ポート6cがカラー20或いはばね受18と干渉しないようであれば、溝6hを省略することも可能である。
また、ハウジング6の図2中上方の外周には、螺子部6jが設けられており、車体側チューブ10の開口端にハウジング6に螺子締結することができるようになっていて、ハウジング6を介してピストンロッド4を車体側チューブ10に連結可能とされている。
スプール弁7は、円柱状とされて、一端側を下方に向けて中空部6a内に摺動自在に挿入されており、スプール弁本体21と、スプール弁本体21の他端側に嵌合されて一体化された筒状の磁性部材22とを備えて構成されている。また、スプール弁本体21は、磁性部材22よりも比重の小さい合成樹脂材料で形成されており、ハウジング6も同一材料で形成されている。なお、合成樹脂材料としては、摺動性に富み摩耗に強い材料を用いるとよく、たとえば、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタラート、ポリフェニレンサルフィド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトンを用いることができ、作動液体が油である場合には、上記以外にもフェノール樹脂を用いることもできる。
そして、スプール弁本体21は、一端となる図2中下端に流路5内の圧力を受けるようになっており、この一端から開口する空部21aと、外周に周方向に沿って設けた外周環状溝21bと、外周に軸方向に沿って設けられて外周環状溝21bに通じる細溝でなるノッチ21cと、外周環状溝21bから開口して空部21aに連通する透孔21dと、空部21aに連通してスプール弁7の他端となる図2中上端側に流路5の圧力を導く圧力導入孔21eと、他端となる図2中上端に設けられ外周径が小径な小径部21fとを備えて構成されている。つまり、このスプール弁本体21にあっては、ノッチ21c、外周環状溝21bおよび透孔21dとでスプール弁本体21の内外を連通するスプールポートSを形成している。なお、上記したところでは、ノッチ21cは、スプール弁本体21の肉を貫通していないが、これを貫通してスプール弁本体21の内外を連通させるようにして、このノッチのみでスプールポートを構成するようにしてもよい。
また、磁性部材22は、鉄、ニッケル、コバルトやこれらを含む合金、フェライト等といった磁性材料で形成されていて筒状とされ、図2中上方側の基部22aと、基部22aから図2中下方側となるスプール弁本体21側へ伸びるとともに基部22aより薄肉筒状のソケット22bとを備え、外周径は単一径とされている。
そして、スプール弁本体21と磁性部材22との一体化に際しては、図示はしないが、スプール弁本体21はスプール弁本体21を成型する型内に合成樹脂材料を射出するようにしており、当該型内に磁性部材22を予め収容しておき、この型内に熱した合成樹脂材料を射出することで、スプール弁本体21を成型すると同時に磁性材料22のソケット22bにスプール弁本体21の小径部21fが一体化されるようにしている。すなわち、磁性材料22をスプール弁本体21へインサート成型することで一体化している。
ソケット22bの内周には、環状の凹部22cが形成されており、上記のようにスプール弁本体21の成型に際して磁性部材22を型内に収容してインサート成型すると、合成樹脂材料が凹部22c内にも入り込んで合成樹脂材料が硬化するとスプール弁本体21の小径部21fの外周に環状の凸部21gが形成され、上記凹部22cと凸部21gが係合して、スプール弁本体21と磁性部材22の分離が強固に阻止される。
なお、スプール弁本体21と磁性部材22の一体化に際して、インサート成型を用いずにおこなうことも可能であり、ソケット22bに小径部21fに接着剤を塗布して嵌合するようにしてもよい。
ソレノイド8は、内筒30aと外筒30bと内筒30aおよび外筒30bの図2中下端を接続する環状底部30cとでなり磁性体で形成されるケース30と、コイル31aをモールド樹脂31bにてモールドして形成されて上記外筒30bと内筒30aとの間に収容される筒状のモールドコイル31と、モールドコイル31の内周に挿入される筒状であって磁性体であるベース33と、ベース33とケース30の内筒30aとの間に環状のギャップを設ける非磁性リング32と、ベース33内に螺着されるアジャスタ34と、アジャスタ34とスプール弁7との間に介装される附勢ばね35とを備えて構成されている。ソレノイド8は、スプール弁7における磁性部材22を可動鉄心として、コイル31aへの通電によってスプール弁7を駆動することができるようになっている。
ケース30の内筒30aは、その内径をスプール弁7が移動自在に挿入可能な径に設定されており、外筒30bとともにハウジング6の収容部6d内に収容されても、スプール弁7の移動を妨げないようになっている。なお、当該内筒30aの内径をスプール弁7が摺動可能な径に設定されてもよく、その場合には、内筒30aの内周をハウジング6の中空部6aと面一となるようにすればよい。
また、ケース30のハウジング6に対する径方向の位置決めは、外筒30bとハウジング6の収容部6cへの嵌合によって行ってもよいし、ハウジング6の中空部6aとケース30の内筒30aの内周とにスプール弁7を摺接させる場合には、スプール弁7を利用して行うことも可能である。なお、ケース30とハウジング6との間は、ケース30の環状底部30cとハウジング6との間に介装される環状シール36によって密にシールされている。
モールドコイル31は、コイル31aへ通電するための電源端子31cを内部に収容する筒状のコネクタ31dを備えており、このコネクタ31dは、モールド樹脂31bによってコイル31aに一体化されている。上記コネクタ31d内の電源端子31cを図外の外部電源へ接続することで、外部からコイル31aへの通電ができるようになっている。
ベース33は、筒状とされてモールドコイル31の内周に挿入されており、図2中下端となるスプール弁側端の外周にスプール弁側へ突出する環状凸部33aを備えており、当該環状凸部33aは、外周がテーパ状に面取りされている。そして、この環状凸部33aとケース30の内筒30aとの間には、アルミニウム、銅、亜鉛、SUS305等の非磁性ステンレス鋼や高マンガン鋼等といった材料で形成した非磁性リング32が介装され、当該非磁性リング32は、ろう付け等によってケース30およびベース33に一体化されている。この非磁性リング32は、コイル31aの通電時に磁化されるベース33で磁性部材22を吸引できるようにベース33とケース30との間にギャップを形成するとともに、ケース30とベース33とを一体化し、ケース30とベース33との間をシールする役割も果たしている。
さらに、ベース33の外周であってモールドコイル31およびケース30の図2中上端には、コネクタ31dの通過を許容する割38aを備えた環状のエンドリング38が積層される。このエンドリング38の図2中上方からハウジング6の収容部6cの開口端となる図2中上端の内周にナット部材37を螺着し、ナット部材37とハウジング6とで、モールドコイル31およびケース30とこれに一体化された非磁性リング32とベース33とを挟持して、これら部材を当該ハウジング6に固定している。
なお、ベース33とケース30の内筒30aとの間にギャップを設けるには、非磁性リング32を介装するほか、ケース30の内筒30aの外周とベース33の外周に筒状のフィラーリングを圧入してギャップを設けつつケース30とベース33とを一体化するようにしてもよく、その場合には、非磁性リング32を省略することも可能である。フィラーリングを用いる際には、フィラーリングとの嵌合長を確保しなければならないので、ケース30の内筒30aの軸方向長さが非磁性リング32でケース30とベース33とを一体化するよりも長くなる。換言すれば、非磁性リング32でケース30とベース33とを一体化する構造を採用することで、ソレノイド8の非可動部の全長を短くすることができる点で有利となる。
転じて、アジャスタ34は、軸状であって図2中上端となる基端外周に螺子部を備えてベース33の筒部33aの内周に螺着されており、その先端となる図2中下端とスプール弁7との間に附勢ばね35が圧縮状態で介装されている。
ここで、スプール弁7における圧力導入孔21eは、スプール弁7の他端となる図2中上端から開口して空部21aに通じ、空部21aに接続される部位が小径に設定されていて圧力導入孔21e内に段部21hが形成されており、当該段部21hとアジャスタ34との間に附勢ばね35が介装される。そして、アジャスタ34を送り螺子の要領で、ベース33に対して軸方向となる図2中上下方向へ進退させて、附勢ばね35の圧縮長さを調整することで、スプール弁7へ附勢ばね35が与える初期荷重を調整することができるようになっている。
このように構成されたソレノイド8は、コイル31aへ通電すると、ベース33が磁化されて磁性部材22を吸引する吸引力が発生し、スプール弁7を附勢ばね35の附勢力に抗して図2中上方側へ駆動することができるようになっている。なお、磁性部材22がベース33に吸着した状態、つまり、磁性部材22の基部22aの図2中上端が完全にベース33の図2中下端内周に当接した状態で、ソケット22bより肉厚の基部22aが径方向でケース30の内筒30aに対向するようになっており、また、ソケット22bがスプール弁本体21の他端外周に嵌合していて上記内筒30aに対向しているので、磁路の断面積が小さくなりすぎて磁束密度が飽和して吸引力が低下してしまうことのないように配慮されている。
そして、車両が走行中には緩衝器1には上下方向の大きな加速度が作用するが、この加速度の方向がスプール弁7の摺動方向とほぼ一致するので、この実施の形態では、スプール弁7の重量を軽量にして上記加速度によるスプール弁7の慣性力を小さくしスプール弁7の振動を抑制するため、スプール弁7を可動鉄心として機能する磁性部材22と磁性部材22よりも比重の小さい合成樹脂材料で形成したスプール弁本体21とで構成し、減衰力調整機構Vにおける可動部であるスプール弁7全体重量の軽量化を図っている。また、この実施の形態では、スプール弁本体21の重量の更なる軽減を図るため、空部21a、圧力導入孔21eの内径を大きくして肉厚を極力薄くしている。
なお、磁性部材22内に附勢ばね35を収容する構造を採用しているため、附勢ばね35の収容スペースが確保され、アジャスタ34を含めたソレノイド8の全長を短くすることができる。
戻って、上述のように、スプール弁7を附勢ばね35で附勢すると、スプール弁7は、中空部6a内で最下方位置に位置決められる。具体的には、スプール弁7の下端がピストンロッド4の上端に当接すると、スプール弁7のそれ以上のピストンロッド4側への移動が制限され、スプール弁7がこの最下方位置に位置決められる。
この最下方位置では、スプール弁7のノッチ21cが環状溝6bに対向して、スプールポートSとポート6cが連通状態におかれ、流路5は開放された状態となる。
また、この実施の形態では、コイル31aへ通電してスプール弁7をベース33側へ向けて吸引して、スプール弁7を中空部6a内で図2中上方へ後退させることで、環状溝6bとノッチ21cのラップ面積(環状溝6bとノッチ21cとの対向面積)を小さくして、流路5を絞る(流路面積を減じる)ことができるようになっている。さらに、コイル31aの通電量によってスプール弁7の移動量をコントロールすることで、環状溝6bとノッチ21cのラップ面積を調整できる。つまり、コイル31aへの通電によりスプール弁7を図2中上方向へ駆動でき、コイル31aへの通電を停止すればスプール弁7を図2中下方向へ駆動でき、コイル31aの通電量でスプール弁7の位置を調節できる。このように、ソレノイド8でスプール弁7を軸方向となる図2中上下方向へ駆動することができる。
そして、環状溝6bとノッチ21cとで流路5を絞ることで、流路5を通過しようとする液体の流れに与える抵抗を、スプール弁7が最下方位置にある場合に比較して大きくすることができる。この場合、スプール弁7の後退量が大きくなればなるほど、環状溝6bとノッチ21cとのラップ面積が減少して流路5の絞り度合が大きくなるので、スプール弁7の後退量の増加に伴って流路5を通過する液体の流れに与える抵抗が大きくなる。
上記環状溝6bは、スプール弁7が周方向に回転してもポート6cとスプールポートSにおけるノッチ21cとを連通可能とするために設けられるものである。なお、スプール弁本体21の外周に環状溝を設け、ハウジング6にノッチを設けるようにしてもよい。また、ノッチ21cによらず、透孔21dのみでスプールポートSを構成し、ハウジング6のポート6cに連通するようにしてもよい。この場合、環状溝6bの省略も可能である。さらに、スプール弁体21のノッチ21cと環状溝6bを廃止して、外周環状溝21bと透孔21dでスプールポートSを構成して、これをポート6cに連通するようにしてもよい。
そして、流路5内の圧力は、スプール弁7の一端となる下端に作用するだけでなく、圧力導入孔21eによってスプール弁7の他端となる上端にも作用するようになっており、流路5の圧力でスプール弁7を一端側から他端側へ押圧する推力(図2中上向きの推力)と流路5の圧力でスプール弁7を他端側から一端側へ押圧する推力(図2中下向きの推力)とが等しくなるように設定されている。つまり、スプール弁7を図2中上方へ押し上げるように流路内圧力が作用するスプール弁一端側の受圧面積と、スプール弁7を図2中下方へ押し下げるように流路内圧力が作用するスプール弁他端側の受圧面積とが等しくなるように設定されている。なお、スプール弁7の流路5の圧力を受けるスプール弁一端側の受圧面積とスプール弁他端側の受圧面積は、必ずしもスプール弁7の両端面でなくともよい。つまり、スプール弁7を図2中下方へ押圧するように流路5の圧力を受ける面積と、スプール弁7を図2中上方へ押圧するように流路5の圧力を受ける面積とを等しくすればよく、たとえば、スプール弁7の途中に段部を設けて、段部の上面と下面に流路5の圧力を作用させるスプール弁7を、一端側から他端側へ押圧する推力と他端側から一端側へ押圧する推力とを等しくするようにしてもよい。
続いて、このように構成された緩衝器1の作動について説明する。シリンダ2に対してピストン3が図1中上方へ移動する緩衝器1の伸長時には、ピストン3によって圧縮される伸側室R1から圧側室R2へ移動する液体の流れに減衰通路13で抵抗を与えるとともに、伸側室R1からリザーバRへ向かう液体の流れに対して減衰力調整機構Vで抵抗を与えるようになっている。つまり、緩衝器1は、この実施の形態にあっては、伸長時に減衰通路13および減衰力調整機構Vによって伸側減衰力を発揮する。なお、伸長時に拡大する圧側室R2には、ボトム部材14に設けた吸込通路16を介してリザーバRから液体が供給されて、緩衝器1の伸長時にシリンダ2内からピストンロッド4が退出することで生じるシリンダ2内の容積変化が補償される。
反対に、シリンダ2に対してピストン3が図1中下方へ移動する緩衝器1の収縮時には、ピストン3によって圧縮される圧側室R2から伸側室R1へ移動する液体の流れに減衰通路13で抵抗を与えるとともに、シリンダ2内へピストンロッド4が侵入することで生じるシリンダ2内の容積減少分の液体がボトム部材14の圧側減衰通路15を介してリザーバRへ排出されてシリンダ2内の体積変化が補償されるので、この圧側減衰通路15でも液体の流れに抵抗を与えることになる。よって、緩衝器1の収縮時には、減衰通路13および圧側減衰通路15で圧側減衰力を発揮し、この場合、流路5には、液体が流れないようになっているので、減衰力調整機構Vは圧側減衰力の発生には関与しない。
つまり、この実施の形態では、減衰力調整機構Vにおいて、スプール弁7を駆動することで流路5の流路面積を可変にすることができるので、この緩衝器1では、伸長時における伸側減衰力を調節することができるようになっている。
この減衰力調節の際、必要に応じてスプール弁7をソレノイド8で駆動して流路5の流路面積を変化させるが、スプール弁7を可動鉄心として機能する磁性部材22と磁性部材22よりも比重の小さい合成樹脂材料で形成されたスプール弁本体21とで構成し、全体が磁性部材で構成される場合に比較して、減衰力調整機構Vにおける可動部であるスプール弁7全体重量の軽量化を図っているので、車両走行中に緩衝器1に入力される上下方向となる伸縮方向の大きな加速度によってスプール弁7に作用する慣性力を軽微なものとして、スプール弁7の振動を抑制することができ、緩衝器1の発生する減衰力が狙った減衰力とならずに振動的に変化してしまうことを防止でき、安定した減衰力を発揮することが可能である。
このようにソレノイド8を利用しつつも安定した減衰力を発揮することができ、換言すれば、緩衝器1にソレノイド8の利用が可能となるから、緩衝器1の減衰力調整応答性を飛躍的に向上でき、安定した減衰力を発揮しつつ減衰力調整をスカイフック制御等といったアクティブ制御にて行うことが可能となり、本発明の緩衝器1は、特に、大きな上下加速度が作用する悪路走行に向く鞍乗車両に用いられる緩衝器に最適となる。
さらに、スプール弁本体21が摺接するハウジング6がともに同一の合成樹脂材料で形成されているので、線膨張係数が等しい。そのため、緩衝器1内の液体の温度変化や外気温の変化でスプール弁本体21とハウジング6の温度の変化があっても、スプール弁本体21がハウジング6の中空部6aの内周で強く締め付けられることがない。これにより、スプール弁7のハウジング6に対する円滑な移動が保証される。
また、磁性部材22が筒状とされてスプール弁本体21の他端に一体化され、スプール弁本体21の他端側から開口して空部21aに連通するとともにスプール弁7の他端側に流路5の圧力を導く圧力導入孔21eとを有していて、流路5の圧力はスプール弁7の圧力導入孔7cによって両端側に作用し、双方の受圧面積が等しくしている。すなわち、スプール弁7に作用する流路5の圧力による一端側から受ける推力と他端側から受ける推力を等しくしている。これにより、流路5の圧力によってスプール弁7を一端側から他端側へ押圧する推力と他端側から一端側へ押圧する推力とが拮抗して、スプール弁7を軸方向の何れへも移動させることがないから、この緩衝器1にあっては、流路5の圧力が高圧となっても、ソレノイド8による流路5の流路面積の調整に影響しない。この結果、ソレノイド8の推力を流路5の圧力に打ち勝つように大きくしなければならないという問題を解消でき、小型のソレノイド8でスプール弁7を駆動して減衰力調整を行うことができる。
このように、流路5の圧力でスプール弁7が移動してしまうことがないので、この緩衝器1にあっては、流路5の圧力によって緩衝器1の発生減衰力が変動せず、充分な制振効果を得ることができる。
さらに、ソレノイド8の大型化を招かずに、スプール弁7の駆動が可能となるから、この緩衝器1にあっては、鞍乗車両といった小型な車両への搭載性を損なうこともなく、コスト高となって経済性も損なってしまう問題もない。
そしてさらに、スプール弁7が可動鉄心とされているので、ソレノイド8とスプール弁7とを至近に配置して別途の長尺な可動鉄心などを介さずにスプール弁7を駆動でき減衰力制御性が向上するとともに、スプール弁7といった可動部重量を軽減できるから緩衝器1に入力される振動加速度によって減衰力が変化してしまうことを抑制することができ、安定した減衰力の発生と調整が可能となる。
また、ソレノイド8は、スプール弁7の挿通を可能とする内筒30aと、当該内筒30aの外周側に配置される外筒30bと、内筒30aと外筒30bを接続する環状底部30cとを備えたケース30と、ケース30内に収容されるコイル31aと、ケース30の内筒30aと環状のギャップを介して対向してコイル31aの内周に挿入されるとともにコイル31aへの通電によりスプール弁7を吸引するベース33とを備え、磁性部材22は、ベース33に吸着した状態で少なくともケース30の内筒30aに径方向で対向する基部22aと、基部22aからスプール弁本体21側へ延長されてケース30の内筒30aに径方向で対向するとともにスプール弁本体21へ一体化される筒状のソケット22bとを備えている。これにより、常時ケース30の内筒30aに対向する基部22aの肉厚を確保することができるので、磁路の断面積が小さくなりすぎて磁束密度が飽和して吸引力が低下してしまうことがなく、スプール弁7の振動をより抑制することができ、より一層安定した減衰力の発揮に寄与できる。
また、緩衝器1は、鞍乗車両の車体に連結される車体側チューブ10と、鞍乗車両の車軸に連結される車軸側チューブ11とを備え、ピストンロッド4の先端に連結したハウジング6を介してピストンロッド4を車体側チューブ10に連結するとともにシリンダ2を車軸側チューブ11に連結して緩衝器本体Dを車体側チューブ10と車軸側チューブ11とで形成される空間L内に収容し、空間L内であって緩衝器本体D外にリザーバRを形成し、流路5がピストンロッド4を貫通してシリンダ2内の圧側室R2或いは伸側室R1とハウジング6の中空部6aとを連通し、ポート6bがリザーバRに連通される。これにより、減衰力調整機構Vを車体側チューブ10の上方へ集約することができ、ソレノイド8への通電も容易となるとともに、減衰力調整機構Vが緩衝器1にて制振される鞍乗車両の車体側へ連結されることになるから、車両走行中におけるスプール弁7の振動を抑制することができ、当該振動による減衰力変動を抑制することができる。
また、緩衝器1は、ピストンロッド4が軸方向に沿って流路5の一部を形成する空孔4bを備え、ピストンロッド4と当該ピストンロッド4の先端に連結されるハウジング6とが中空部6aと空孔4bとを同軸かつ直列となるように連結される。これにより、スプール弁7の駆動方向がピストンロッド4の軸方向に一致するからスプール弁7を駆動するソレノイド8が側方へ張り出すことがなく、スプール弁7の駆動方向をピストンロッド4の軸線に対して交差する方向とする場合に比較して、緩衝器1をスリムにすることができる。無論、当該効果と引き換えにスプール弁7の駆動方向を緩衝器1の伸縮方向とは異なった方向とする、つまり、ピストンロッド4の軸線と一致させないようにすることもできるが、この場合、車両の振動と上記駆動方向とが一致しないため、当該振動によってスプール弁7の駆動方向へ加振させることを抑制することができる。
さらに、緩衝器1は、ハウジング6が中空部6aに連なってソレノイド8を収容する収容部6dを備えて当該収容部6dを図2中外方へ臨ませて車体側チューブ10の開口端に固定され、ソレノイド8の附勢ばね35の初期荷重を調節するアジャスタ34が車体側チューブ10の開口端から緩衝器1の外方へ臨んで設けられる。これにより、アジャスタ34を外部操作することができるので、上記初期荷重の調整が容易となる。なお、附勢ばね35のばね定数にバラつきがある場合等にこの初期荷重調整を行うことで、製品毎でバラツキのない均一な減衰力調整を行うことができる。緩衝器1の減衰力調整の均一化は、ソレノイド8に与える電流量を補正することで行ってもよい。
また、緩衝器1は、スプールポートSは、スプール弁本体21の外周に軸方向に沿って設けた細溝でなるノッチ21cを備え、ハウジング6は、中空部6aの内周に周方向に沿ってポート6cに連通される環状溝6bを備え、ソレノイド8でスプール弁7を駆動してノッチ21cと環状溝6bとで流路5を絞って減衰力調整する。これにより、ポート6cとスプールポートSの周方向ずれが環状溝6bによって許容されるとともに、ノッチ21cで流路5における流路面積を小さく比例的に変化させることができる。
なお、上記したところでは、減衰力調整機構Vは、緩衝器1が伸長する際にのみ流路5が液体の通過を許容するようになっており、緩衝器1の伸側減衰力を発生する減衰力発生要素として機能しているので、緩衝器1の伸側減衰力を調整することができるが、緩衝器1が収縮する際にのみ流路5が液体の通過を許容するように設定して、緩衝器1の圧側減衰力を発生する減衰力発生要素として機能して圧側減衰力の調整をするようにしてもよい。つまり、ピストン連結部4cに設けられる連通路4dで伸側室R1の代わりに圧側室R2を中空部4bへ連通するようにすれば、減衰力調整機構Vは、圧側減衰力の調整を行うことができる。このようにすると、緩衝器1の収縮作動時にのみ流路5を液体が通過するように設定できる。
また、流路5が伸側室R1と圧側室R2とを連通するように設定される場合には、減衰力調整機構Vは、緩衝器1の伸長時と収縮時の両方で減衰力調整を行うように設定されてもよい。この場合、たとえば、ハウジングをピストンロッド若しくはピストン連結部としてスプール弁を収容し、ピストンロッド若しくはピストン連結部に伸側室R1と圧側室R2とを連通する流路を設けて、ソレノイドでスプール弁を駆動してやればよい。
さらに、上記したところでは、スプール弁7の後退時に流路5の流路面積が減少するように設定されているが、スプール弁7が最下方位置にて流路5の流路面積を最小とするように設定しておき、スプール弁7の後退で流路5の流路面積が大きくなるようにしてもよく、また、流路5を完全に遮断することができるようになっていてもよい。
さらに、上記実施の形態では、コイル31aへ通電するためのコネクタ31dをモールドコイル31に一体化しているが、コネクタ31dをモールドコイル31から分離してコイル31aと電源端子31cとをコードで接続するようにしてもよいし、コネクタおよび電源端子を廃してコイル31aをコードのみを介して外部電源に接続するようにしてもよい。
また、緩衝器本体Dは、減衰力調整機構Vが緩衝器1の伸長時に減衰力を発揮する場合には、伸長時にのみ減衰力を発揮する構成とされてもよく、また、減衰力調整機構Vが緩衝器1の収縮時に減衰力を発揮する場合には、収縮時にのみ減衰力を発揮する構成を採用しても構わず、緩衝器1が左右一対で車両に適用されて車輪を支持するような場合、左右の緩衝器1の一方が伸長時に減衰力を発揮し、他方が収縮時に減衰力を発揮するように設定されてもよい。
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。